説明

メタノールからオレフィンへの転化において軽質オレフィンへの高い選択性を有するモレキュラーシーブ

メタノールからオレフィンへの転化において使用するための触媒が識別され、触媒の構造を識別するための方法が提供されている。高い軽質オレフィン収率を得るべく、オレフィンの選択性に関して触媒の品質を決定するのにこの方法が使用される。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
発明の背景
本発明は、オキシジェネート(oxygenates)からオレフィンへの転化において、低分子量オレフィンへの高い選択性を示す触媒に関する。
【0002】
オレフィン製造の従来法は、石油供給原料からオレフィンへのクラッキングである。石油供給原料のクラッキングは、触媒クラッキング、スチームクラッキング、またはこれら二つのプロセスの組み合わせによって行われる。得られるオレフィンは、一般にはエチレンやポリプロピレン等の軽質オレフィンである。エチレンやプロピレンという軽質オレフィン製品に対しては大きな販路が存在している。原油からの石油供給原料が価格の上昇に直面しているので、エチレンとプロピレンに対する他の供給源を提供することが有利である。周知のように、オキシジェネートからオレフィンを製造することができる。オキシジェネートからオレフィンへの最も一般的な転化は、メタノールからの軽質オレフィンの製造であり、このときメタノールは、バイオマスや天然ガスを含めた他の供給源から製造することができる。
【0003】
オキシジェネートをオレフィンに転化させるプロセスは、メタノール等のオキシジェネートを利用し、これをプラスチック用モノマーのような高付加価値製品(例えば、エチレンやプロピレン)に転化させるための重要なプロセスである。オキシジェネートをオレフィンに転化させるプロセスは触媒プロセスであり、触媒は、通常はモレキュラーシーブ触媒である。触媒プロセスに有用なモレキュラーシーブとしてはZSMタイプのモレキュラーシーブが知られているが、より具体的には、触媒プロセスに対してシリコアルミノホスフェート(SAPO)モレキュラーシーブが効果があるということが見出されている。
【0004】
SAPOは、ケイ素供給源、アルミニウム供給源、およびリン供給源を有機テンプレートと混ざり合った状態で含有する混合物を形成させ、このモレキュラーシーブを反応条件にて結晶化させることによって合成される。各種成分の相対量、混合する順序、反応条件(例えば、温度や圧力)、および有機テンプレートの選択を含めた多くのファクターが、モレキュラーシーブがとる形態に影響を及ぼす。
【0005】
オキシジェネートからの転化を向上させる方法は、コスト節減と経済的な利点をもたらす。オキシジェネートからオレフィンへの転化を向上させるための1つの態様は、触媒の結晶構造とサイズである。触媒の製造は、工程がかなり複雑で且つ費用がかかり、したがって、結晶構造または結晶サイズに重大な欠陥を有する触媒の製造は、失われるお金と時間の点から見て高コストなものとなる。触媒の品質を試験するための方法を開発するのは有利なことである。この試験を使用して製造上の操作条件を改良することができるし、またこの試験により、時間と失われる物質の費用を節減することができる。
【0006】
発明の要旨
本発明は、メタノールからオレフィンへの転化において使用するための触媒を提供する。本発明の触媒は、SAPO−34構造を有するシリコアルミノホスフェート・モレキュラーシーブを含み、30.7°2θと31.0°2θにおいてピークを有していて、30.7°2θと31.0°2θでのピーク高さ比が0.75より大きい、というX線回折パターンを有することを特徴とする。
【0007】
本発明の他の態様は、モレキュラーシーブの製造での品質管理に対して、モレキュラーシーブのX線回折パターンを使用するプロセスである。X線回折パターンを求め、30.7°2θと31.0°2θにおけるピーク高さを見出し、ピーク高さ比を算出し、0.75未満のピーク高さ比を有するモレキュラーシーブを排除する。
【0008】
本発明のさらなる目的、実施態様、および詳細は、下記の本発明の詳細な説明に記載されている。
図1は、傾斜二重6員環(tilted double six rings)の層を示している概略図である。
【0009】
図2は、異なった製造条件下でのSAPO−34のサンプルに対するX線回折パターンの比較である。
図3は、異なったレベルのAEI構造型欠陥(AEI structure type faulting)に対するX線回折パターンのシミュレーションである。
【0010】
図4は、市販品サンプルに対する実測XRDパターンと、異なったレベルの欠陥を有するシミュレーションとの比較である。
発明の詳細な説明
オキシジェネートからオレフィンへの転化率の向上は、転化プロセスにおいて使用される触媒の改良によってもたらされる。改良の一つの範囲は、好ましい触媒に対する構造の均一性の改良である。SAPO−34は、メタノールからオレフィンへの(MTO)転化プロセスにおいて使用されるこうした触媒であり、構造が改良されていることで、オレフィン収率の大幅な上昇が得られる。
【0011】
種々のプロセスに対するアルミノシリケート・モレキュラーシーブとシリコアルミノホスフェート・モレキュラーシーブの使用は、モレキュラーシーブの構造と組成に依存している。モレキュラーシーブの構造は、既知の構造に対応したX線回折パターンを生成するX線回折(XRD)によって分析される。メタノール−オレフィン転化プロセス(the methanol to olefin process)におけるエチレンとプロピレンに対する選択性は、SAPO−34物質の物理的特性(XRDによって分析することができる)に関係している、ということが見出されている。現在、メタノール−オレフィン転化プロセスは、SAPO−34を触媒の主要活性成分として使用して行われることが多い。SAPO−34のモルホロジーとSAPO−34の製造法が、2001年3月27日付け発行の米国特許第6,207,872B1号に開示されている(該特許の全開示内容を参照により本明細書に含める)。エチレンとプロピレンの高収率や高いオレフィン選択性を達成する上で、SAPO−34のモルホロジーが重要である。
【0012】
SAPO−34は、傾斜二重6員環(D6R)のフレームワーク構造層を有するシリコアルミノホスフェート・モレキュラーシーブである。D6R層は、モレキュラーシーブを構成する反復的な構築単位であり、それぞれの層が配向している。この構造は、結晶構造の<100>方向に沿ってシートが積み重なったもので、シートが傾斜二重6員環を含んでいる。層が積み重なるときに、層を同じ方向に配向させることもできるし、あるいは反対方向に配向させることもでき、このとき傾斜したシートの配向が逆になる。層が同じ方向に配向されると、層はAAAA積層配列を有し、層が反対方向に配向されると、層はABAB配列を有する。AAAA積層配列の場合は、モレキュラーシーブがCHA構造型を有し、ABAB積層配列の場合は、モレキュラーシーブがAEI構造型を有する。SAPO−34を製造するプロセスにおいては、モレキュラーシーブは通常、結晶内に構造型の混ざり合いを有し、したがって結晶は、CHA型構造の領域とAEI型構造の領域を含む。CHA構造とAEI構造を有する傾斜D6Rの層を含んだ概略図を図1に示す。
【0013】
SAPO−34製造物の多くは異なった回折パターンを示し、ピュアな(pure)CHA構造型に対して推測されるものとは異なった特徴が見られる場合が多い。例えば、図2は、市販品サンプルAに対するX線回折パターン(一番上)、単一結晶構造からシミュレートされたCHA構造型を有するサンプルに対するX線回折パターン(一番下)、およびかなりピュアな(fairly pure)CHA構造型を有するサンプルに対するX線回折パターン(真ん中)を示している。差異に対する説明は、市販品サンプルが不純物または無秩序領域(欠陥としても知られている)を含有していたというものである。欠陥構造は、D6R層の積層配列の混ざり合いが存在するときに起こる。
【0014】
欠陥物質に対する回折パターンを検討する際には、積層配列が、ある構造の出現に対して異なった可能性をもたらす、という考察を必要とする。回折パターンは、回折パターンのシミュレーション用ソフトウェアを使用して検討した。最も一般的なソフトウェアはDIFFaX(積層欠陥等の面欠陥を有する回折強度を算出するためのコンピュータ・ソフトウェア・プログラム)である。SAPO−34物質の場合、ピュアなCHA構造型を有する結晶が欠陥0%に相当し、ピュアなAEI構造型を有する結晶が欠陥100%に相当する。0%〜100%のAEI構造型欠陥を有するCHA構造型についての推測XRDパターンを表わしているDIFFaXシミュレーションを図3に示す。欠陥のレベルが増大するにつれて、回折ピークの多くは比較的不変のままであるが、他のピークは、広くなり、移動し、そしてシャープになる。さらに、幾つかのピークが消える一方で他のピークが現われ、パターンの変化が複雑であることを示している。
【0015】
SAPO−34市販物質からのXRDパターンとシミュレートされたパターンとを比較することにより、市販物質における欠陥の程度を評価することができる。しかしながら、シミュレーションの結果と実際の物質に対するパターンとを実際に比較すると、シミュレーションはあまりよく合致していない、ということが見出された。
【0016】
実際の物質に対する実測パターンとの妥当な整合を得るためには、シミュレートされたパターンのより複雑な組み合わせが必要とされる。この複雑な組み合わせはしばしば、既知レベルの欠陥を有するSAPO−34物質と、XRDパターンのより有効な分析との組み合わせを必要とした。単一のシミュレーションは実際のサンプルとよく適合しないこと、そして妥当な適合を得るには、異なったレベルの欠陥を有する少なくとも2つのシミュレーションが必要とされることがわかった。図4に示すように、市販品サンプルA(一番下)が、AEI欠陥40%のCHA構造に対するシミュレーション(真ん中)、およびAEI欠陥5%のCHA構造に対するシミュレーションと比較されている。一方のシミュレーション(40%シミュレーション)は、市販品サンプルのXRDのある部分を適合させるのに必要とされ、他方のシミュレーション(5%シミュレーション)は、市販品サンプルのXRDの他の部分を適合させるのに必要とされる、ということが図からわかる。このことは、市販品サンプルとの比較にて使用するための結果を得るために、シミュレーションにおいてどちらの欠陥レベルを使用すべきかを知る必要がある、という問題を生じる。SAPO−34が、結晶全体にわたって均一に分布した欠陥を有しているということはありえないが、低欠陥の領域と高欠陥の領域を有しており、このためシミュレーションとの比較がより一層複雑で困難となる。
【0017】
問題は、MTOプロセスにおいて使用するためのSAPO−34物質を識別し、そして使用することである。SAPO物質についての単純な検討では、直接的な手法が得られず、また欠陥の評価を得るのにDIFFaXを使用するのは複雑である。AEI欠陥(%)の決定は、品質管理手順として簡単に使用するためにはあまりにも複雑すぎる、と最初は考えられた。
【0018】
それにも関わらず、CHA構造領域の部分を多めに有するある種のSAPO−34サンプルは、30.7°2θと31.0°2θにおいてピークを有するXRDパターンを示す、ということが見出された。これらのピークをもたないサンプルは、オキシジェネートからオレフィンへの転化において使用するための良好な触媒を常にもたらすとは限らない。これらのピークと小さなピーク高さ比を有するサンプルは、オレフィンの製造に対して低い選択性が低い。しかしながら、SAPO−34構造を有するモレキュラーシーブの場合、ピーク高さの比が0.75より大きいときは、メタノールから低分子量オレフィンへの転化に対する選択性は80%より大きい。ピーク高さの比の値が大きくなるほど、ピークを示すSAPO−34サンプルに対する選択性が大きくなる、ということが見出された。ピーク高さの比は0.9より大きいのが好ましく、ピーク高さの比は1.1より大きいのがさらに好ましく、ピーク高さの比は1.3より大きいのが最も好ましい。
【0019】
たとえ差異があるとしても、多くの類似点もある。SAPO−34の製造は当業界に公知であり、例えばUOP LLCに対して1984年4月3日付け発行の米国特許第4,440,871号(該特許の全開示内容を参照により本明細書に含める)に開示されている。一般には、本明細書において言及しているSAPO−34は、シリコアルミノホスフェート物質である。SAPO−34は、POとAlOとSiOの四面体単位の三次元微孔質結晶フレームワーク構造を有しており、無水状態の基準としたときの本質的な実験式は(SiAl)Oであり、このときx、y、およびZは、それぞれケイ素、アルミニウム、およびリンのモル分率を示しており、x+y+z=1である。シリコアルミノホスフェートはさらに、そのX線粉末回折パターンが表1に示すような少なくとも6つのピークを有することを特徴とする。
【0020】
【表1】

【0021】
当業者には周知のことであるが、パラメーター2θの決定は、人為的および機械的な誤差をこうむり、これらが組み合わさって、報告されているそれぞれの2θ値に対して±0.4という不確実性を負わせる。この不確実性はさらに、距離dの値(2θの値から算出される)においても明白である。距離dの相対強度が、vs、s、m、w、およびvwという表示(それぞれ、かなり強い、強い、中程度、弱い、およびかなり弱い、を表わしている)で示されている。
【0022】
この構造のモレキュラーシーブは、ケイ素(Si)、リン(P)、およびアルミニウム(Al)に対する三角図において見られる組成を有しており、このときケイ素の量が0.01〜0.98のモル分率xを構成し、アルミニウムの量が0.01〜0.6のモル分率yを構成し、そしてリンの量が0.01〜0.52のモル分率zを構成する。
【0023】
この組成はより大きな領域を包含することができるが、ケイ素、アルミニウム、およびリンのモル分率はより小さな領域に入るのが好ましい。ケイ素のモル分率xに対する好ましい範囲は0.02〜0.25であり;アルミニウムのモル分率yに対する好ましい範囲は0.37〜0.6であり;そしてリンのモル分率zに対する好ましい範囲は0.27〜0.49である。
【0024】
SAPO−34モレキュラーシーブのサンプルの試験は、XRD分析を使用して行うことができる。DIFFaXの使用による完全な分析を行うよりむしろ、30.7°2θと31.0°2θでのピーク高さの分析を行うことができる。ピーク高さを測定し、ピーク高さ比を算出し、サンプルが予め設定された許容値に適合するかどうかについて決定を下すことができる。ピーク高さ比に対する予め設定された最小の値は0.75であり、好ましい値は0.9であり、さらに好ましい値は1.1であり、最も好ましい値は1.3である。サンプルが予め設定された値より低いピーク高さ比を有するとき、モレキュラーシーブは不合格にされる。
【0025】
予め設定されたピーク高さ比の値に適合しているか、または値を超えているサンプルの場合、サンプルがSAPO−34の基準に適合していることを確認するために、サンプルのXRDが表1に記載の範囲のピークを示していることを確認すべく速やかなチェックを行うことができる。
【0026】
サンプルのXRDからの情報を、SAPO−34の製造プロセスにおけるフィードバックに使用することができ、このとき処理温度、ケイ素とアルミニウムとリンの相対量、および有機テンプレートの相対量を変えて、SAPO−34の品質を向上させることができる。
【0027】
実施例
好ましい触媒は、エチレンとプロピレンの生成に対してできるだけ高い選択性を有するSAPO−34である。選択性は、各SAPO−34サンプルに対して算出したピーク比で比較した。
【0028】
【表2】

【0029】
表2からわかるように、82%より大きい望ましい選択値に対しては、触媒は1.06より大きいピーク比を示す。
好ましい実施態様に関して本発明を説明してきたが、理解しておかなければならないことは、本発明は、開示されている実施態様に限定されるのではなく、添付の特許請求の範囲に含まれる種々の変更態様や均等の集成体を包含するよう意図されている、という点である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1は、傾斜二重6員環の層を示している概略図である。
【図2】図2は、異なった製造条件下でのSAPO−34のサンプルに対するX線回折パターンの比較である。
【図3】図3は、異なったレベルのAEI構造型欠陥に対するX線回折パターンのシミュレーションである。
【図4】図4は、市販品サンプルに対する実測XRDパターンと、異なったレベルの欠陥を有するシミュレーションの実測XRDパターンとの比較である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線回折パターンに関して、シリコアルミノホスフェートの30.7°2θと31.0°2θでのピークに対し、0.75より大きいピーク高さ比を有することを特徴とする、SAPO−34構造を有するシリコアルミノホスフェート・モレキュラーシーブ。
【請求項2】
ピーク高さ比が0.9より大きい、請求項1に記載のモレキュラーシーブ。
【請求項3】
ピーク高さ比が1.1より大きい、請求項1または2に記載のモレキュラーシーブ。
【請求項4】
ピーク高さ比が1.3より大きい、請求項1、2または3に記載のモレキュラーシーブ。
【請求項5】
モレキュラーシーブが、少なくとも表1に示す距離dと相対強度を有するX線回折パターンを有することをさらに特徴とする、請求項1、2、3または4に記載のモレキュラーシーブ。
【表1】

【請求項6】
無水・焼成状態に基づいて(SiAl)O(式中、xはSiのモル分率であって、0.01〜0.98の値を有し;yはAlのモル分率であって、0.01〜0.6の値を有し;zはPのモル分率であって、0.01〜0.52の値を有し;そしてx+y+z=1である)の実験式で表わされるフレームワーク組成を有するシリコアルミノホスフェートをさらに含み、このときモレキュラーシーブが、AEI構造とCHA構造を有するSAPOを含んだ物質である、請求項1、2、3、4または5に記載のモレキュラーシーブ。
【請求項7】
xのモル分率が0.02〜0.25であり、yのモル分率が0.37〜0.6であり、そしてzのモル分率が0.27〜0.49である、請求項6に記載のモレキュラーシーブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2009−507754(P2009−507754A)
【公表日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−530089(P2008−530089)
【出願日】平成18年8月29日(2006.8.29)
【国際出願番号】PCT/US2006/033525
【国際公開番号】WO2007/032899
【国際公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【出願人】(598055242)ユーオーピー エルエルシー (182)
【Fターム(参考)】