説明

メタボリックシンドロームの診断方法

【課題】動脈硬化性疾患の原因となるメタボリックシンドロームの有効な検出・診断方法の提供。
【解決手段】被験者から採取した被検試料中のsmall,dense LDLコレステロール濃度を測定することを含む、メタボリックシンドロームを検出する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象におけるメタボリックシンドロームの診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、動脈硬化性疾患の危険因子として高LDLコレステロールや高中性脂肪、低HDLコレステロール等の脂質代謝異常が注目されてきた。しかしながら、実際には動脈硬化性疾患を発症したヒトの中でも上記脂質測定値が正常を示す場合が多いのも事実であった。現在では、高脂血症の他、高血圧、高血糖、肥満といった異常が軽度でも、これらが複数集積することによって動脈硬化性疾患のリスクが上昇するメタボリックシンドロームという概念が注目されている(非特許文献1〜3を参照)。
【0003】
メタボリックシンドロームの診断基準は欧米では米国高脂血症治療ガイドライン:National Cholesterol Education Program(NCEP)のAdult Treatment Panel III(ATPIII)およびWHOより提唱されている(非特許文献4、5を参照)。NCEPのATPIIIでは肥満(胴囲測定)、高中性脂肪、低HDLコレステロール、高血圧、高血糖のうち以下の条件を3つ以上該当する場合と定義されている。
1)ウエスト(腹囲)が男性で102cm以上(日本人では85cm以上)、女性で88cm以上(日本人では90cm以上)
2)中性脂肪が150mg/dl以上
3)HDLコレステロールが男性で40mg/dl未満、女性で50mg/dl未満
4)血圧が最大血圧で130mmHg以上または最小血圧で85mmHg以上
5)空腹時血糖値が110mg/dl以上
【0004】
WHOの診断基準では高インスリン血症(非糖尿病患者の上位25%)または空腹時血糖110mg/dl以上に加え、内臓肥満、脂質代謝異常(高中性脂肪または低HDLコレステロール)、高血圧、ミクロアルブミン尿症のうち以下の条件を2つ以上該当する場合と定義されている。
1)内臓肥満:ウエスト/ヒップ比>0.9(男性)、>0.85 (女性)またはBMI30以上または腹囲94cm以上
2)脂質代謝異常:中性脂肪150mg/dl以上またはHDLコレステロール35mg/dl未満(男性)、39mg/dl未満(女性)
3)高血圧(最大血圧140/最小血圧90mmHg以上)か降圧剤内服中
4)マイクロアルブミン尿症(尿中アルブミン排泄率20μg/min以上か尿中アルブミン/クレアチニン比30mg/g.Cr以上)
【0005】
日本では、2005年に日本内科学会など8学会の委員で構成されたメタボリックシンドローム診断基準検討委員会によってメタボリックシンドロームの診断基準が制定されており、腹腔内臓脂肪蓄積を表すウエストサイズ異常(男性 85cm以上、女性 90cm以上)に加え、脂質代謝異常(中性脂肪150mg/dL以上、HDLコレステロール値40mg/dL未満のいずれか、又は両方、高血圧(最高(収縮期)血圧130mmHg以上、最低(拡張期)血圧85mmHg以上のいずれか、又は両方)、高血糖(空腹時血糖値110mg/dL以上)のうち2つ以上を有する場合と定義されている(非特許文献6を参照)。
【0006】
【非特許文献1】Nakamura T. et al., Jpn Circ J,65:11-17,2001
【非特許文献2】Reaven GM, Diabetes,37:1595-1607,1988
【非特許文献3】Norman M.Kaplan,MD et al., Arch Intern Med.149:1514-1520,1989
【非特許文献4】JAMA 2001; 285: 2486-97
【非特許文献5】Diabet Med 1998; 15: 539-553
【非特許文献6】J Jpn Soc Int Med 2005; 94:188-203
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、動脈硬化性疾患の原因となるメタボリックシンドロームの有効な検出・診断方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討した結果、small,dense LDL中に存在するコレステロールの測定値がメタボリックシンドロームと関連性が高いことを見いだした。メタボリックシンドロームでは、内臓脂肪の蓄積や高血圧、高中性脂肪または低HDLコレステロール等の脂質代謝異常を引き起こすが、この場合small,dense LDLコレステロール値の上昇がおこるものである。
【0009】
すなわち、本発明は被検体試料中のsmall,dense LDLコレステロールを定量することによりメタボリックシンドロームを診断する方法を提供するものである。
【0010】
本発明は具体的には以下の方法およびキットを提供する。
[1] 被験者から採取した被検試料中のsmall,dense LDLコレステロール濃度を測定することを含む、メタボリックシンドロームを検出する方法。
[2] 被験者から採取した被検試料中のsmall,dense LDLコレステロール濃度を測定することを含む、メタボリックシンドロームにおいて動脈硬化性疾患を起こす危険性を判定する方法。
[3] 被験者から採取した被検試料中のsmall,dense LDLコレステロール濃度の増加が、前記被験者の動脈硬化性疾患を起こす危険性の増加を示す、[2]のメタボリックシンドロームにおいて動脈硬化性疾患を起こす危険性を判定する方法。
[4] small,dense LDLコレステロール濃度の測定が、被検試料中のsmall,dense LDLをそれ以外のLDLと分離する、またはそれ以外のLDLを反応させコレステロールを消去する第1工程、およびsmall,dense LDL以外のLDLを分離または消去した後でsmall,dense LDL中のコレステロールを測定する第2工程からなる[1]のメタボリックシンドロームを検出する方法。
[5] small,dense LDLコレステロール濃度の測定が、被検試料中のsmall,dense LDLをそれ以外のLDLと分離する、またはそれ以外のLDLを反応させコレステロールを消去する第1工程、およびsmall,dense LDL以外のLDLを分離または消去した後でsmall,dense LDL中のコレステロールを測定する第2工程からなる[2]または[3]のメタボリックシンドロームにおいて動脈硬化性疾患を起こす危険性を判定する方法。
[6] small,dense LDLコレステロールの測定用試薬を含む、メタボリックシンドローム検出用キット。
【発明の効果】
【0011】
実施例1に示すように、内臓脂肪の蓄積を示すウエストサイズの増加に伴い、small,dense LDLコレステロール値は上昇する。また、実施例2に示すようにメタボリックシンドロームの診断基準である高中性脂肪または低HDLコレステロールでは、small,dense LDLコレステロール値が上昇し、中性脂肪およびHDLコレステロール値の両方が異常となる場合では特にsmall,dense LDLコレステロール値が高値となる。さらに実施例3および4に示すように高血圧の場合や高血糖の場合でもsmall,dense LDLコレステロールは上昇する。従って、現在の診断基準となる項目の異常は全てsmall,dense LDLコレステロール測定値と関連しており、small,dense LDLコレステロール測定値がメタボリックシンドロームのリスクを統括的に示す基準となり得ることを示すものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明では、メタボリックシンドロームに羅患しているかどうかを診断するためにsmall,dense LDLコレステロール測定値を使用する。
【0013】
本発明では血清または血漿を被検試料として用いる。
Small,dense LDLとは一般的にはLDL画分のうち直径が約22.0〜約25.5nmの亜分画、比重1.040〜1.063の亜分画を指す。LDLを大きさにより亜分画に分けているのは、LDLのうち粒子径が小さいものが動脈硬化惹起性が高く、LDLの中でもより悪性度が高いので、LDLの中でも小さいものを分別測定する必要があったからである。LDL内で直径分布や比重分布は連続しており、比重がどの程度のものが特に悪性度が高いというように明確に区別できるものではない。従って、上記の比重1.040〜1.063という値もsmall,dense LDLの特性として確立したものではなく、広く用いられており確立した値といえるLDLの比重範囲1.019〜1.063を中央点で分けたものである。例えば、別の報告では1.044〜1.060に分画される(Atherosclerosis:106 241-253 1994)。Small,dense LDLの比重をどの範囲にするかは、報告者により若干の違いがあるが、いずれもその範囲で分別した場合のsmall,dense LDLの存在が臨床的な悪性度と関連している。
【0014】
Small,dense LDLの測定法として古くから用いられてきた方法として電気泳動法がある。これはポリアクリルアミドゲルを用いてLDLの移動度や粒子直径を測る方法であり、small,dense LDLの存在は確認できるが、特定成分の定量を行うものではない(JAMA, 260, p.1917-21, 1988 動脈硬化, 25, p.67-70, 1997)。また、NMRを用いてLDL粒子数を測定する方法がある(Handbook of lipoprotein Testing, 2nd ed, Rifai N, Warnick GR, Dominiczak MH, eds p.609-623, AACC Press ,Washington, DC, 2000.)。これはLDL総重量が同じでもLDLが小型化していれば粒子数が増加するとの考えのもと間接的にsmall,dense LDLを行うものであるがsmall,dense LDLの一成分を直接測定するものではない。
【0015】
small,dense LDLコレステロールの測定方法としては、超遠心法(Atherosclerosis, 48 p.33-49, 1993: Atherosclerosis,106, p.241-253, 1994等)、電気泳動後デンシトメーターを用いてピーク面積を定量する方法(Atherosclerosis, 125, p.231-42 1996)、HPLCを用いてLDLを細分化し、small,dense LDL分画のコレステロールを定量する方法(Handbook of lipoprotein Testing, 2nd ed, Rifai N, Warnick GR, Dominiczak MH, eds p.647-669, AACC Press ,Washington, DC, 2000.)がある。さらに、アガロース電気泳動において泳動後のゲルを脂質染色し、その染色パターンをコンピューター解析しリポ蛋白を定量する方法がある(特開2000-356641号公報)。また、本発明者らもポリアニオンと二価陽イオンからなる分離剤を用いてLDLを通常サイズのLDLとsmall,dense LDLに分離し、その後LDLコレステロール測定用試薬を用いてsmall,dense LDLコレステロールを定量する方法を提供している(臨床病理,52(5),p.406-413,2004)。本発明では上記small,dense LDLコレステロールの測定法を好適に用いることができる。
【0016】
例えば、臨床病理,52(5),p.406-413,2004の記載に従って、以下のようにしてsd LDL中コレステロールの測定を行うことができる。血清または血漿を試料とし、ポリアニオンと二価陽イオンからなる分離剤と混合した場合、通常サイズのLDLの他、VLDL、カイロミクロンなどは凝集物を形成し、遠心分離やフィルター等により反応系から除去される。反応液中には凝集物を形成しないsd LDLおよびHDLが残る。この反応液にLDLコレステロール直接測定法の原理を利用した2試薬系の自動分析装置対応の試薬を作用させる。第1反応ではLDL以外のリポタンパク質に作用する界面活性剤の存在下でコレステロールエステラーゼ及びコレステロールオキシダーゼを作用させ、生じた過酸化水素を消去することにより、反応液中のHDLコレステロールのみが消去される。続く第2反応では試料中のsd LDL中コレステロールの測定を行う。これは、例えば、少なくともLDLに作用する界面活性剤を加え、第1工程で加えたコレステロールエステラーゼ及びコレステロールオキシダーゼの作用により生じた過酸化水素を定量することにより行うことができる。
【0017】
本発明の方法は、メタボリックシンドロームを検出・診断する方法であるが、該方法は、メタボリックシンドロームをスクリーニングする方法でもある。また該方法は、メタボリックシンドロームが原因となる心筋梗塞や不安定狭心症等の心血管イベントの発生確率、すなわち心血管イベントが起こる危険性を判定・評価する方法でもあり、例えば、検体試料中のsmall,dense LDLコレステロールの濃度に応じて、心血管イベントの発生の確率が低い、中程度、または高いと判断できる。また、測定値とイベントが発生する頻度を関連付けることにより、確率を数値で示すことも可能である。
【0018】
また、本発明の方法により、メタボリックシンドロームにおける動脈硬化性疾患等のイベントが起こる危険性を評価・判定することができ、さらにメタボリックシンドロームにおける動脈硬化性疾患が重症か否かを評価・判定することができる。
【0019】
small,dense LDLコレステロールの定量値がメタボリックシンドロームに罹患していない健常人よりも増加している場合、例えば、ATPIIIの診断基準による非メタボリックシンドローム群のsmall,dense LDLコレステロールの平均値は25〜30mg/dLであり、血清中のsmall,dense LDLコレステロールの定量値が25〜40mg/dL、好ましくは30〜36mg/dLを超える場合、メタボリックシンドロームに羅患しており動脈硬化性疾患の危険性が高くなるか、またはメタボリックシンドロームに罹患するリスクが高いものと判断される。例えば、血清中のsmall,dense LDLコレステロールの定量値が25mg/dl〜34mg/dlを超える場合、メタボリックシンドロームに罹患するリスクが高いものと判断される。また、血清中のsmall,dense LDLコレステロールの定量値が30mg/dl〜36mg/dlを超える場合、メタボリックシンドロームに羅患しており動脈硬化性疾患の危険性が高いものと判断される。ただし、メタボリック診断の基準値については民族、性別により異なるためこの限りではない。また、メタボリックシンドロームと診断されたヒトの中でもsmall,dense LDLコレステロール測定値が35mg/dL、40mg/dLと高くなるに従い、動脈硬化が重症化していると考えられ、心筋梗塞等の動脈硬化性疾患を発症する危険性が高いと判定し得る。
【実施例】
【0020】
以下、本発明の詳細について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0021】
[実施例1]
動脈硬化性疾患を発症していない男性健常人184名の腹腔内脂肪蓄積量およびsmall,dense LDLコレステロールの測定を行った。腹腔内脂肪蓄積量としてはウエスト周囲径の測定を行った。small,dense LDLコレステロール測定はデンカ生研社製small,dense LDLコレステロール測定用試薬であるsd LDL-C「生研」を使用した。結果を表1および図1に示す。表1および図1に示すようにウエスト<85cm群でのsmall,dense LDLコレステロール値に対し、メタボリックシンドローム診断基準であるウエスト≧85cm群ではsmall,dense LDLコレステロール値が有意に高値となった。以上の記載はsmall,dense LDLコレステロール値がメタボリックシンドローム診断基準の判定に有用であることを示すものである。本実施例の結果から、ウエスト<85cm群の平均値26.2mg/dLと、ウエスト≧85cm群の平均値35.1mg/dLの中間値約31mg/dLをsmall,dense LDLコレステロール値によるメタボリックシンドローム診断基準とすることができる。つまり、small,dense LDLコレステロール値が31mg/dL以上の場合、メタボリックシンドロームの可能性が高いと判断することができる。
【0022】
【表1】

【0023】
[実施例2]
動脈硬化性疾患を発症していない健常人481名の収縮期血圧、拡張期血圧およびsmall,dense LDLコレステロールの測定を行った。Small,dense LDLコレステロール測定は実施例1と同様の試薬を用いた。メタボリックシンドローム診断基準では血圧は収縮期血圧≧130mmHgかつ/または拡張期血圧≧85mmHgと定義されているため、対象を収縮期血圧<130mmHgかつ拡張期血圧<85mmHg、収縮期血圧≧130mmHgまたは拡張期血圧≧85mmHg、収縮期血圧≧130mmHgかつ拡張期血圧≧85mmHgの3群に分けてsmall,dense LDLコレステロール値を比較した。結果を表2および図2に示す。表2および図2に示すようにsmall,dense LDLコレステロールは血圧正常群に対し高血圧群では有意に測定値が高値となった。また、高血圧群の中でも収縮期血圧、拡張期血圧ともに異常の場合、最も測定値が高値となった。以上の記載はsmall,dense LDLコレステロール値がメタボリックシンドローム診断基準の判定に有用であることを示すものである。本実施例の結果から、収縮期血圧<130mmHgかつ拡張期血圧<85mmHg群の平均値22.5mg/dLと、収縮期血圧≧130mmHgまたは拡張期血圧≧85mmHg群の平均値28mg/dLの中間値約25mg/dLをsmall,dense LDLコレステロール値によるメタボリックシンドローム診断基準とすることができる。つまり、small,dense LDLコレステロール値が25mg/dL以上の場合、メタボリックシンドロームの可能性が高いと判断することができる。
【0024】
【表2】

【0025】
[実施例3]
動脈硬化性疾患を発症していない健常人388名のHDLコレステロール、中性脂肪およびsmall,dense LDLコレステロールの測定を行った。HDLコレステロール、および中性脂肪の測定はそれぞれデンカ生研社製のHDL-EX、FG-TG(S)を使用し、small,dense LDLコレステロール測定は実施例1と同様の試薬を用いた。メタボリックシンドローム診断基準では脂質代謝異常は中性脂肪≧150mg/dLかつ/またはHDL-C<40mg/dLと定義されているため、対象を中性脂肪<150mg/dLかつHDL-C≧40mg/dL、中性脂肪≧150mg/dLまたはHDL-C<40mg/dL、中性脂肪≧150mg/dLかつHDL-C<40mg/dLの3群に分けてsmall,dense LDLコレステロール値を比較した。結果を表3および図3に示す。表3および図3に示すように正常群に比べ脂質代謝異常群ではsmall,dense LDLコレステロールが有意に高値となり、中性脂肪、HDL-Cともに異常な群では測定値が最も高値となった。以上の記載はsmall,dense LDLコレステロール値がメタボリックシンドローム診断基準の判定に有用であることを示すものである。本実施例の結果から、中性脂肪<150mg/dLかつHDL-C≧40mg/dL群の平均値24.2mg/dLと、中性脂肪≧150mg/dLまたはHDL-C<40mg/dL群の平均値43.4mg/dLの中間値約34mg/dLをsmall,dense LDLコレステロール値によるメタボリックシンドローム診断基準とすることができる。つまり、small,dense LDLコレステロール値が34mg/dL以上の場合、メタボリックシンドロームの可能性が高いと判断することができる。
【0026】
【表3】

【0027】
[実施例4]
動脈硬化性疾患を発症していない健常人455名の空腹時血糖およびsmall,dense LDLコレステロールの測定を行った。血糖の測定はデンカ生研社製のGLU-Sを使用し、small,dense LDLコレステロール測定は実施例1と同様の試薬を用いた。結果を表4および図4に示す。表4および図4に示すようにメタボリックシンドローム診断基準である血糖値≧110mg/dLの高血糖群ではsmall,dense LDLコレステロール値が有意に高値となった。以上の記載はsmall,dense LDLコレステロール値がメタボリックシンドローム診断基準の判定に有用であることを示すものである。本実施例の結果から、血糖値≧110mg/dL群の平均値32.8mg/dLと、血糖値<110mg/dL群の平均値23.7mg/dLの中間値約28mg/dLをsmall,dense LDLコレステロール値によるメタボリックシンドローム診断基準とすることができる。つまり、small,dense LDLコレステロール値が28mg/dL以上の場合、メタボリックシンドロームの可能性が高いと判断することができる。
【0028】
【表4】

【0029】
上記実施例1から実施例4で得られたsmall,dense LDLコレステロール値31mg/dL、25mg/dL、34mg/dLおよび28mg/dLはいずれもメタボリックシンドローム診断基準として用いることができる。これら診断基準値は中性脂肪値、HDLコレステロール値、血圧値、空腹時血糖値、ウエストサイズ、ウエスト/ヒップ比、BMI値、腹囲、尿中アルブミン排泄率または尿中アルブミン/クレアチニン比の診断基準値の代替とすることが可能であり、また、それら診断基準値に加わる新たな診断基準値として用いることが可能である。
【0030】
メタボリックシンドロームの診断基準はATPIIIの診断基準、WHOの診断基準および日本のメタボリックシンドローム診断基準検討委員会による診断基準で異なるが、いずれも各診断基準に示す基準値を3つ以上該当する場合にメタボリックシンドロームに該当する場合としており、これから判断し上記small,dense LDLコレステロール値31mg/dL、25mg/dL、34mg/dLおよび28mg/dLの値の下から3つめ31mg/dLを診断基準値として用いることができる。さらに、最大値34mg/dLを診断基準値として用いればより確実にメタボリックシンドロームと診断することが可能である。
【0031】
[実施例5]
動脈硬化性疾患を発症していない男性の健常人184名をATPIIIの診断基準に基づいてメタボリックシンドローム群と非メタボリックシンドローム群に分け、small,dense LDLの測定を行った。small,dense LDLコレステロール測定は実施例1と同様の試薬を用いた。結果を表5および図5に示す。表5および図5に示すようにメタボリックシンドローム群ではsmall,dense LDLコレステロール値が有意に高値となった。以上の記載はsmall,dense LDLコレステロール値がメタボリックシンドローム診断基準の判定に有用であることを示すものである。本実施例の結果に従いsmall,dense LDLコレステロール値によるメタボリックシンドローム診断基準の判定値を定めるなら、非メタボリックシンドローム群の平均値28mg/dLと、メタボリックシンドローム群の平均値44.3mg/dLの中間値約36mg/dLを判定値とすることができる。つまり、small,dense LDLコレステロール値が36mg/dL以上の場合、メタボリックシンドロームと判断することができる。
【0032】
【表5】

【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】small,dense LDLコレステロール定量値とウエストサイズとの相関を示す図である。
【図2】small,dense LDLコレステロール定量値と血圧との相関を示す図である。
【図3】small,dense LDLコレステロール定量値とHDLコレステロールおよび中性脂肪との相関を示す図である。
【図4】small,dense LDLコレステロール定量値と血糖値との相関を示す図である。
【図5】メタボリックシンドローム群と非メタボリックシンドローム群におけるsmall,dense LDLコレステロール定量値を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者から採取した被検試料中のsmall,dense LDLコレステロール濃度を測定することを含む、メタボリックシンドロームを検出する方法。
【請求項2】
被験者から採取した被検試料中のsmall,dense LDLコレステロール濃度を測定することを含む、メタボリックシンドロームにおいて動脈硬化性疾患を起こす危険性を判定する方法。
【請求項3】
被験者から採取した被検試料中のsmall,dense LDLコレステロール濃度の増加が、前記被験者の動脈硬化性疾患を起こす危険性の増加を示す、請求項2記載のメタボリックシンドロームにおいて動脈硬化性疾患を起こす危険性を判定する方法。
【請求項4】
small,dense LDLコレステロール濃度の測定が、被検試料中のsmall,dense LDLをそれ以外のLDLと分離する、またはそれ以外のLDLを反応させコレステロールを消去する第1工程、およびsmall,dense LDL以外のLDLを分離または消去した後でsmall,dense LDL中のコレステロールを測定する第2工程からなる請求項1記載のメタボリックシンドロームを検出する方法。
【請求項5】
small,dense LDLコレステロール濃度の測定が、被検試料中のsmall,dense LDLをそれ以外のLDLと分離する、またはそれ以外のLDLを反応させコレステロールを消去する第1工程、およびsmall,dense LDL以外のLDLを分離または消去した後でsmall,dense LDL中のコレステロールを測定する第2工程からなる請求項2または3に記載のメタボリックシンドロームにおいて動脈硬化性疾患を起こす危険性を判定する方法。
【請求項6】
small,dense LDLコレステロールの測定用試薬を含む、メタボリックシンドローム検出用キット。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2007−304012(P2007−304012A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−134280(P2006−134280)
【出願日】平成18年5月12日(2006.5.12)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 第70回記念日本循環器学会総会・学術集会 主催者 :日本循環器学会 会長 藤原 久義 開催期間:平成18年3月24日〜26日 開催場所:名古屋国際会議場 ホテルグランコート名古屋 講演要旨集発行日:平成18年3月1日発行
【出願人】(591125371)デンカ生研株式会社 (72)
【Fターム(参考)】