説明

メタライズ基板、接合体、および接合体の作製方法

【課題】比較的高温で熱処理した後であっても、熱処理前の接合強度に対する劣化が比較的小さいメタライズ基板、およびアルミニウムとセラミックとの接合体を提供する。
【解決手段】
セラミック基板の主面に、Agと、Tiと、Alと、を少なくとも含む金属膜が設けられており、前記金属膜と前記セラミック基板との境界部分に、AlとOとをそれぞれ10質量%以上、かつAlとOとを合計50質量%以上含む接合層が形成されていることを特徴とするメタライズ基板を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタライズ基板、接合体、および接合体の作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミック基板と金属製構造体(例えば金属基板など)とを接合する方法としては、例えば、高融点金属法や活性金属法が従来から利用されている。また、近年、接合強度の向上や、高温での使用に際する接合強度の劣化の抑制等を目的とした新たな接合方法が、種々検討されている。例えば下記特許文献1では、安定化ジルコニアのリングとフェライト系ステンレス鋼の円筒の間に、Ag−1重量%TiAl−0.6重量%Crロウを設置し、大気中970℃でロウ付けをおこなっている。
【特許文献1】特開2007−331026号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、かかる方法で接合された接合体を、例えば300℃以上の高温雰囲気化に配置すると、セラミックと金属製構造体との接合強度が低下してしまうといった問題点があった。例えば、高融点金属法で接合した接合体では、接合に用いたMoなどの金属膜が酸化し、金属製構造体とセラミック基板との接合強度が低下してしまう場合があった。また、活性金属法で接合した接合体では、例えばTiが酸化して、金属とセラミックとの接合強度が低下してしまう場合があった。また、下記特許文献1に記載された、金属製構造体とセラミックとの接合体においても、接合に寄与するCrが酸化し、高温に配置しておくことで接合強度が低減していく場合があった。本願発明は、かかる課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
かかる課題を解決するため、本願発明では、セラミック基板の主面に、Agと、Tiと、Alと、を少なくとも含む金属膜が設けられており、前記金属膜と前記セラミック基板との境界部分に、AlとOとをそれぞれ10質量%以上、かつAlとOとを合計50質量%以上含む接合層が形成されていることを特徴とするメタライズ基板を提供する。
【0005】
なお、前記セラミック基板はジルコニアを主成分とすることが好ましい。
【0006】
また、前記金属膜に、TiとAlとを含む結晶相が含まれることが好ましい。
【0007】
また、前記金属膜におけるAlの含有率が、5質量%以上かつ20質量%以下であることが好ましい。
【0008】
本発明は、また、メタライズ基板の前記金属膜の側に、金属ロウを介して金属体が接合されていることを特徴とする接合体を、併せて提供する。
【0009】
なお、前記金属ロウは、Au−Cuを主成分とすることが好ましい。
【0010】
また、前記メタライズ基板の前記金属膜の表面に、Niメッキ層が設けられており、前記金属ロウは前記Niメッキ層の表面に配されていることが好ましい。
【0011】
本発明は、また、セラミック基板の主面に、Agと、Tiと、Alと、を少なくとも含む金属膜を形成する工程と、前記金属膜の表面に、金属ロウを介して金属体を接合する工程と、を有することを特徴とする接合体の作製方法を、併せて提供する。
【0012】
なお、前記金属膜を形成する工程では、Ag粉末とCu粉末とTi粉末とAl粉末とが少なくとも混合されてなるペーストを焼成して前記金属膜を形成し、
前記ペーストにおけるAlの割合が、5質量%以上かつ40質量%未満であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明のメタライズ基板および接合体は、熱処理した場合の劣化が少ない。例えば、比較的高温で熱処理した後であっても、熱処理前の接合強度に対する劣化が比較的小さい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明のメタライズ基板および接合体、および接合方法について詳細に説明する。
【0015】
図1(a)は、本発明のメタライズ基板の一実施形態であるメタライズ基板10の概略斜視図、図1(b)はメタライズ基板10の一主面に垂直な方向に切断した断面を拡大して表す概略図である。
【0016】
本実施形態のメタライズ基板10は、例えばZrOを主成分とするセラミック基板12の表面に、Ag、Cu、Ti、Al、を主成分とする金属膜14が形成されている。なお、図1(a)では、セラミック基板12の表面の所望領域に限定して、金属膜14が被着されている。本実施形態のセラミック基板12は、例えばZrOを主成分とするセラミックである。ZrOは、例えばアルミナからなるセラミック基板と比較して、例えば靭性が強いといった利点を有している。なお、本実施形態において、Ag、Cu、Ti、Al、を主成分とするとは、、Agと、Cuと、Tiと、Alと、がそれぞれ5質量%以上含まれ、かつ、Agと、Cuと、Tiと、Alとの合計の含有割合が30質量%以上であることをいう。
【0017】
金属膜14は、例えば、従来周知の厚膜ペースト法を用い、セラミック基板12の表面に被着させた状態に形成すればよい。具体的には、例えば、Agの粉末とCuの粉末とTiの粉末とAlの粉末とを所定量計量し、エチルセルロースなどのバインダーをテルピネオールなどの有機溶剤で溶剤したビヒクルと、上記の各粉末とをミキサーで混合し、ペーストを作成する。作成したこのペーストを、スクリーン印刷などでセラミック表面のろう付けする箇所に塗布し、真空雰囲気で焼成して金属膜14を形成すればよい。これら、Ag粉末とCu粉末とTi粉末とAl粉末の配合割合、ひいては金属膜14における含有割合は、(40〜70)質量%Ag−(15〜25)質量%Cu−(5〜10)質量%Ti−(5〜40)質量%Alが望ましい。
【0018】
金属膜14には、セラミック基板12との境界部分に、主にAlとOとからなる接合層18が形成されている。主にAlとOとからなる層とは、AlおよびOがそれぞれ10質量%以上で、かつAlとOとを合計50質量%以上含むことをいう。Alの含有割合(質量%)は、例えば走査型電子顕微鏡装置を用いて行う、従来公知のEDS(エネルギー分散型X線分析法)によって求めることができる。例えば、EDAX社製PHOENIXを用い、加速電圧15kVで各原子に対応するスペクトルを求め、各原子に対応するスペクトル強度から算出することができる。
【0019】
本実施形態のメタライズ基板10では、接合層18に、Alが30質量%以上かつOが30質量%以上含まれており、接合層18はアルミナ(Al)を主成分とする層となっている。
【0020】
メタライズ基板10では、金属膜14とセラミック基板12とが、この接合層18によって比較的強固に接合されている。また、アルミナ(Al)は比較的安定であり、熱処理や雰囲気中の元素による変質が比較的少ない。
【0021】
本実施形態のメタライズ基板10では、金属膜14の端部19において、接合層18が露出している。本実施形態のメタライズ基板10では、メタライズ基板10を比較的高温雰囲気中に配置した場合でも、接合層18の露出部分(端部19部分)からの反応(酸化や還元など)の進行が抑制されている。
【0022】
従来広く用いられている、Ag−Cu―Tiメタライズでは、接合に寄与する活性金属であるTiが、金属膜とセラミック基板との接合部分に集中し、この接合部分にTiを主成分とする金属層が形成される。このAg−Cu−Tiメタライズによれば、金属膜の端部において、Tiを主成分とする接合層が露出している。このため、従来のAg−Cu−Tiメタライズ層を高温雰囲気中に配置した場合など、端面におけるTiの露出部分から、内部に向けて例えば酸化反応が進行する。従来のAg−Cu−Tiメタライズでは、高温雰囲気中に配置した場合、この酸化反応の進行によって接合強度が比較的大きく低減する。
【0023】
例えば従来のAg−Cu−Tiメタライズに対して、本実施形態のメタライズ基板10では、接合層18が、主にAlおよびOを含んで構成されている。このため、接合層18が端部19において露出していても、この露出部分からの反応(酸化や還元など)の進行が比較的少なく、高温雰囲気中で使用した場合であっても、比較的強い接合強度で比較的長時間使用し続けることができる。
【0024】
本実施形態のメタライズ基板10は、金属膜14表面におけるTiおよびCuの含有率が、10質量%程度と比較的少なくなっている。
【0025】
TiやCuは、金属膜14とセラミック基板12との濡れ性の向上に寄与する一方、比較的酸化し易い。メタライズ基板において、金属膜の表面にTiやCuが露出していると、この露出部分からも内部に向けて酸化が進行し、金属膜14が変質する。また、酸化が進行して金属膜14とセラミック基板12との接合部分が酸化すると、金属膜14とセラミック基板12との接合強度が低減してしまう。本実施形態のメタライズ基板10は、金属膜14表面におけるTiおよびCuの含有率が、10質量%程度と比較的少なくなっている。このため、本実施形態のメタライズ基板10では、金属膜14の表面における酸化が比較的少なく、内部に向けた酸化の進行も抑制されている。
【0026】
また、メタライズ基板10は、金属膜14の内部において、CuまたはTiの少なくともいずれか一方とAlとを含む結晶相16が分散している。結晶相16は、金属膜14において同一組成が粒状に分布(凝集)した相であって、CuまたはTiの少なくともいずれか一方とAlとが少なくとも30質量%以上含まれた相である。金属膜14の断面では、例えばAgを主成分とした周辺の合金相の面積に対する、結晶相16の面積の割合が、30%〜80%となっている。この結晶相16は、例えば金属膜14の断面を走査型電子顕微鏡で観察することで確認できる。例えば、この電子顕微鏡撮影層を画像処理することで、Agを主成分とした上記周辺の合金相の面積に対する結晶相16の面積の割合を、比較的容易に算出することもできる。
【0027】
図1(b)の断面図において、金属膜14の最高点を通りセラミック基板12の主面に平行な直線L1と、セラミック基板12の主面から金属膜14の最高点までの80%の高さ位置を通る、セラミック基板12の主面に平行な直線L2とに挟まれた領域Sにおいて、この結晶相16の占める面積は例えば20%未満となっている。この結晶相16は、金属膜14が形成される際、溶融状態の粉末混合体内において、Alが、TiおよびCuと反応して生成された相である。この結晶相16が生成されることで、TiおよびCuは、この結晶相16に集中的に分布する。結果、本実施形態のメタライズ基板10では、金属膜14表面におけるTiおよびCuの含有率が、10質量%程度と比較的少なくなっている。
【0028】
TiおよびCuは、金属膜14とセラミック基板12との接合に寄与するが、本実施形態では、更にAlもかかる接合に寄与している。すなわち、金属膜14を形成する際、特にAlが、セラミック基板12との接合部分における含有割合が大きくなるよう分布する。一方、Al、Ti、およびCuの、接合に寄与しなかった分はお互いに反応し、金属相14内に結晶相16が生成される。このため、メタライズ基板10では、セラミック基板12と金属膜14とが比較的強固に接合するとともに、金属膜14の表面部分からの酸化も比較的少ない。
【0029】
図2は、本発明の接合体の一実施形態である接合体20の概略断面図である。本実施形態の接合体20は、上述のメタライズ基板10に、例えばFe―Ni―Co合金からなる金属基板26が接合されて形成されている。メタライズ基板10の表面には、Niメッキ層22が設けられており、金属基板26は、例えばAu―Cuロウ材層24を介して、Niメッキ層22と接合されている。
【0030】
Au−Cuロウ材は、融点が約990℃と比較的高く、セラミック基板12と金属膜14とがAu−Cuロウ材層24を介して接合された接合体20は、比較的高温で使用してもロウ材層24の溶融は比較的少ない。ただし、セラミック基板12と金属膜14とがAu―Cuロウ材層24を介して接合された接合体20を作製するには、ロウ付けの際に、Au−Cuロウ材が溶融する比較的高い温度まで加熱する必要がある。上述のように、金属膜14は比較的酸化し難く、Au−Cuロウ材による接合の際、比較的高い温度に加熱した場合であっても、金属膜14とセラミック基板12との接合強度は、比較的高い強度に維持される。また、Au−Cuロウ材の耐熱性が高いとともに、金属膜14は比較的酸化され難いので、接合体20を比較的高い温度で使用した場合であっても、セラミック基板12と金属膜14との接合強度は比較的高く維持される。
【0031】
また、Au−Cuロウ材は、Niメッキ層22に対する濡れ性、ひいては接合強度が比較的高い。またNiは、CuやTiなどの活性金属と反応し、Niメッキ層22は金属膜14とも比較的高い強度で接合している。
【0032】
このように、本実施形態の接合体20では、セラミック基板12と金属基板26とが、比較的高い接合強度で接合されている。
【0033】
本実施形態の接合体20は、例えば以下に示す方法で作製すればよい。
【0034】
まず、例えばZrOを主成分とするセラミック基板12を準備し、このセラミック基板12に金属膜14を形成する。なお、セラミックス基板の材質については特に限定されないが、例えば高温大気中で使用する場合など、アルミナ、ジルコニア、窒化珪素、炭化珪素等が好ましい。
【0035】
このセラミック基板12に金属膜14を形成して、メタライズ基板10を作製する。金属膜14の形成(メタライズ処理)には、従来周知の厚膜ペースト法を利用することができる。
【0036】
このメタライズ処理では、例えば、Agの粉末とCuの粉末とTiの粉末とAlの粉末を所定量計量し、エチルセルロースなどのバインダーをテルピネオールなどの有機溶剤で溶解したビヒクルと上記粉体をミキサーで混合し、ペーストを作成する。次に、スクリーン印刷法など公知の方法をもって、このペーストをセラミック基板12表面の所定箇所に塗布する。その後、真空雰囲気で焼成して、金属膜14を形成する。より具体的には、約1.0×10−5Paの真空雰囲気で、900〜1000℃で30分熱処理を行い、メタライズ基板10を得る。AgとCuとTiの比率は従来公知のAg−Cu−Ti系の比率、例えば、70質量%Ag−20質量%Cu−10%Tiを用いればよい。
【0037】
金属膜14を形成する際にペーストに含有させるAl粉末の質量%は、上記各粉末の全重量に対し、例えば5.0質量%以上であることが好ましい。Alの粉末が5.0質量%以上であれば、接合体20を高温雰囲気中に配置して使用した場合においても、セラミック基板12と金属膜14とが接合されたメタライズ基板10を、比較的長い時間、比較的高い接合強度で維持しておくことができる。
【0038】
また、Al粉末の質量%は、粉末の全重量に対し、例えば40質量%未満であることが好ましい。粉末の全重量に対するAl粉末の割合を、40質量%未満とすると、熱処理前および熱処理後の双方において、接合強度の大きさを比較的大きくすることができる。
【0039】
また、金属膜14の厚みは、10〜100μmであることが好ましい。金属膜14の厚みが10μmであれば、セラミック基板12と金属膜14との境界部分に、充分な量および密度の接合層18が形成され、セラミック基板12と金属膜14との接合強度を比較的高いものとすることができる。また、金属膜14の厚みを100μm未満とすることで、金属膜14とセラミック基板12との接合強度を比較的高くすることができる。
【0040】
次に、メタライズ基板10の金属膜14表面に、従来公知の方法によってNiメッキを施す。その後、Au−Cuロウ材を用いて、金属基板26をメタライズ基板10に接合し、接合体20を得る。例えば、厚みが50〜100μm程度のAu−Cu箔を金属膜14の上に配置し、その上に金属基板26を配置して例えばカーボンからなる治具で固定する。このように治具で固定した状態で、例えば約1.0×10−5Paの真空雰囲気で、900〜1100℃で30分熱処理を行い、金属ロウ材層24を介して金属基板26が接合された接合体20を得る。
【0041】
本実施形態の接合体20は、セラミック基板12と金属膜14とが比較的強固に接合されているとともに、比較的高温雰囲気中で使用した場合であっても、接合強度は、比較的長い時間、比較的高い接合強度のまま維持される。本実施形態のメタライズ基板10、および本実施形態の接合体20は、例えば、比較的長い時間、比較的高温雰囲気で使用されるデバイスや装置、例えば焼成炉中の温度を計測する温度センサなどに好適である。
【0042】
以上、本発明のメタライズ基板、接合体、接合体の作製方法について説明したが、本発明は上記各実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良および変更を行ってもよいのはもちろんである。
【実施例】
【0043】
以下、本発明の実施例を示すとともに、本発明の効果の一例について説明しておく。
【0044】
まず、上記実施形態のメタライズド基板の一例の断面を観察した結果を示しておく。図3(a)は、上記工程を経て作製されたメタライズ基板の断面を、走査型電子顕微鏡で観察して得られた写真(断面SEM写真)である。また、図3(b)は、図3(a)に示す断面SEM写真を取得する際に測定した、当該断面におけるAg元素の分布状態を示す図である。また、図3(c)は、図3(a)に示す断面SEM写真を取得する際に測定した、当該断面におけるAl元素の分布状態を示す図である。また、図3(d)は、図3(a)に示す断面SEM写真を取得する際に測定した、当該断面におけるTi元素の分布状態を示す図である。また、図3(e)は、図3(a)に示す断面SEM写真を取得する際に測定した、当該断面におけるCu元素の分布状態を示す図である。図3(f)は、図3(a)に示す断面SEM写真を取得する際に測定した、当該断面におけるO元素の分布状態を示す図である。走査型電子顕微鏡は、例えば日立製S−800を用い、加速電圧15kVで撮影した。
【0045】
図3(a)〜(e)を比較して明らかなように、セラミック基板32と金属膜34とが、アルミニウムと酸素を主成分とする接合層38を介して接合されている。また、金属膜34内には、CuまたはTiの少なくともいずれか一方とAlとを含む結晶相36が分散している。このため、金属膜14の表面部分では、TiおよびCuの含有率が比較的少なくなっている。
【0046】
図4は、図3に示す観察像を撮影する際、同じ電子顕微鏡装置を用いて行ったEDS分析(エネルギー分散型X線分光分析)の結果である。図4は、図3(a)の点Aに電子線を照射して得られたスペクトルである。すなわち、図4に示すスペクトルは、図3(a)においてセラミック基板32と金属膜34との接合部分に表れている接合層38の構成元素に対応したものである。また、図4に示すEDS分析結果から計算された各元素の含有割合は、それぞれ、Oが35.75%、Cuが1.06%、Alが37.41%、Zrが9.19%、Agが16.59%、となっていた。このEDS分析の結果から、上記実施形態のメタライズ基板では、セラミック基板32と金属膜34との接合部分の接合層38が、AlおよびOを主成分としていることがわかる。
【0047】
図5(a)および(b)は、図4と同様、EDS分析の結果を示すグラフである。図5(a)は、図3(a)の点Bに電子線を照射して得られたスペクトルである。また、図5(b)は、図3(a)の点Cに電子線を照射して得られたスペクトルである。すなわち、図5(a)および(b)は、いずれも、金属層34内に表れた複数の結晶相それぞれの構元素に対応したものとなっている。なお、図5(a)に示すEDS分析結果から計算された各元素の含有割合は、それぞれ、Cuが71.87%、Alが21.92%、Agが6.21%、となっていた。また、図5(b)に示すEDS分析結果から計算された、各元素の含有割合は、それぞれ、Cuが28.79%、Alが18.88%、Agが5.93%、Tiが46.41%、となっていた。このEDS分析の結果から、上記実施形態のメタライズ基板では、金属層の内部に、AlとCuとを主成分とする結晶相と、CuとAlとTiとを主成分とする結晶相と、が含まれている。
【0048】
次に、本発明の接合体の一例の、セラミック基板と金属基板との接合強度を調べた結果を以下に示す。
【0049】
調査手順および条件については、以下の通りとした。まず、セラミック基板として、30mm×30mm×1.5mmの8mol%Y部分安定化ZrO基板を用意し、また、金属基板として2mm×40mm×0.3mmのFe−Ni−Co合金板を用意した。更に、表1に示すような4種類のペーストを作成した。
【0050】
例えばNo.2に示したペーストの場合、粒径10μmのAg粉末66gと、粒径5μmのCu粉末25gと、粒径20μmのTi粉末7gと、粒径20μmのAl粉末2gとを乳鉢に計り取り、エチルセルロース5質量%をテルピネオールに溶解したビヒクル20gを混合撹拌しペーストとした。
【0051】
作成した各種ペーストは、スクリーン印刷法を用いて、3mm×25mmの長方形形状で厚み40μmとなるようにセラミック基板上に配置した。これを10−5Paの真空雰囲気で1000℃で焼成し、メタライズ基板を得た。この金属膜に3mm×25mm×0.07mmのAg−Cu箔を置き、さらにその上に上記Fe−Ni−Co金属板をのせ、10−5Paの真空雰囲気で1000℃まで昇温させて、セラミック基板と金属基板とを接合した。その際、Fe−Ni−Co合金板の長さ方向40mmの端が金属膜の端と一致するようにし、他方の端から15mmはロウ付けされないようにした。
【0052】
なお、Ag−Cuロウは、通常850℃程度でロウ付けされるものであるが、本実験では1000℃程度まで昇温させ、通常の状態に比べて、熱による接合強度の劣化を促進している。
【0053】
まず、熱処理前の接合強度として、得られた接合体の、ロウ付けされなかった金属部分を基板に対して垂直方向に折り曲げて引張り、ロウ付けされている部分のピール強度(接合強度)を測定した。表1には、各サンプルの接合強度の測定結果も、併せて示している。また、図6には、表1に示す各サンプルの接合強度の測定結果を、それぞれ示している。
【0054】
【表1】

【0055】
表1および図6に示す実験結果から分かるように、金属膜(メタライズ層)を形成する際のペーストにおけるAlの含有率を5.0質量%以上とすると、高温でロウ付け処理を行う場合であっても、接合強度を比較的高くすることができる。
【0056】
また、表1とは異なるペースト成分を有する、セラミック基板と金属基板との接合強度を調べた結果を以下に示す。サンプルの作製条件は、金属ロウとしてAu−Cuロウを用いた以外、上記サンプルNo.1〜4と同様の作製条件とした。表1には、各サンプルの接合強度の測定結果も、併せて示している。また、図7には、表2に示す各サンプルの接合強度の測定結果を、それぞれ示している。
【0057】
【表2】

【0058】
表2および図7に示す実験結果から分かるように、金属膜(メタライズ層)を形成する際のペーストにおけるAlの含有率を40質量%以下とすると、高温でロウ付け処理を行った後であっても、接合強度を比較的高くすることが可能となっている。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明のメタライズ基板の一実施形態について説明する図であり、(a)は概略斜視図、(b)は断面拡大図の概略である。
【図2】本発明の接合体の一実施形態の概略断面図である。
【図3】本発明の接合体を走査型電子顕微鏡を用いて観察した像であり、(a)は断面SEM写真、(b)はAg元素の分布状態を示す撮影像、(c)はAl元素の分布状態を示す撮影像、(d)はTi元素の分布状態を示す撮影像、(e)はCu元素の分布状態を示す撮影像、(f)はO元素の分布状態を示す撮影像である。
【図4】図3に示す観察像を撮影する際に行ったEDS分析(エネルギー分散型X線分光分析)の結果であり、図3(a)の点Aに電子線を照射して得られたスペクトルである。
【図5】図4と同様の観察条件で得られたEDS分析の結果を示すグラフであり、(a)は図3(a)の点Bに電子線を照射して得られたスペクトル、(b)は図3(a)の点Cに電子線を照射して得られたスペクトルである。
【図6】本発明の効果を確認するために行った実験の結果を示し、表1に示す各サンプルの接合強度の測定結果をそれぞれ示している。
【図7】本発明の効果を確認するために行った実験の結果を示し、表2に示す各サンプルの接合強度の測定結果をそれぞれ示している。
【符号の説明】
【0060】
10 メタライズ基板
12、32 セラミック基板
14、34 金属膜
16、36 結晶相
18、38 接合層
19 端部
20 接合体
22 Niメッキ層
24 Au―Cuロウ材層
26 金属基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック基板の主面に、Agと、Tiと、Alと、を少なくとも含む金属膜が設けられており、
前記金属膜と前記セラミック基板との境界部分に、AlとOとをそれぞれ10質量%以上、かつAlとOとを合計50質量%以上含む接合層が形成されていることを特徴とするメタライズ基板。
【請求項2】
前記セラミック基板はジルコニアを主成分とすることを特徴とする請求項1記載のメタライズ基板。
【請求項3】
前記金属膜に、TiとAlとを含む結晶相が含まれることを特徴とする請求項1または2記載のメタライズ基板。
【請求項4】
前記金属膜におけるAlの含有率が、5質量%以上かつ20質量%以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のメタライズ基板。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のメタライズ基板の前記金属膜の側に、
金属ロウを介して金属体が接合されていることを特徴とする接合体。
【請求項6】
前記金属ロウは、
Au−Cuを主成分とすることを特徴とする請求項5記載の接合体。
【請求項7】
前記メタライズ基板の前記金属膜の表面に、Niメッキ層が設けられており、前記金属ロウは前記Niメッキ層の表面に配されていることを特とする請求項5または6記載の接合体。
【請求項8】
セラミック基板の主面に、Agと、Tiと、Alと、を少なくとも含む金属膜を形成する工程と、
前記金属膜の表面に、金属ロウを介して金属体を接合する工程と、
を有することを特徴とする接合体の作製方法。
【請求項9】
前記金属膜を形成する工程では、Ag粉末とCu粉末とTi粉末とAl粉末とが少なくとも混合されてなるペーストを焼成して前記金属膜を形成し、
前記ペーストにおけるAlの割合が、5質量%以上かつ40質量%未満であることを特徴とする請求項8記載の接合体の作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−203097(P2009−203097A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−45122(P2008−45122)
【出願日】平成20年2月26日(2008.2.26)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】