説明

メタルボンドホイール

【課題】整形性を良好に維持しつつ、研削時における砥粒保持力を確保することが可能なメタルボンドホイールを提供する。
【解決手段】メタルボンドホイールの砥粒層3おいて、砥粒6及び固体潤滑剤粒子7とは、第1金属合金9と第2金属粒子10とから構成されるメタルボンド8bによって結合されている。第1金属合金9はCu−Sn系合金であって、第2金属粒子10は第1金属合金9を介してそれぞれの粒子の接点近傍で接合している。また、固体潤滑剤粒子7は、メタルボンド8b内に適度に分散し、その周囲を第2金属粒子10が取り囲むように配置されている。第2金属粒子10として、Coなどの耐熱性が高い金属あるいはその合金、固体潤滑剤7として、MoS2、WS2等を用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、整形を簡単に行うことが可能なメタルボンドホイールに関する。
【背景技術】
【0002】
超硬金属、セラミック、焼き入れ鋼、ガラス等の加工を、ネジ研削、総型研削、溝研削、平面研削、円筒研削等で行うために、ダイヤモンド等の砥粒を結合剤で結合した砥粒層を有する研削ホイールが用いられている。このような用途の研削ホイールに使用する結合剤として、レジンボンドやビトリファイドボンドを使用した場合、これらのボンド材の形状維持性が低いため、硬質材料の研削を行った場合には砥粒が砥粒層から脱落しやすいという欠点がある。これに対し、メタルボンドを使用すると、レジンボンドやビトリファイドボンドと比較して、形状維持性が良いため砥粒保持力が強く、寿命が長いという利点がある。
【0003】
一般に整形とは、所定の形状を形作ることである。使用中に研削ホイールの形状が崩れた場合にはGC(グリーンカーボン)砥石などの整形砥石や鉄系材料を研削し、形状修正である整形を定期的に行う必要がある。この工程が潤滑に行われないと、研削ホイールの形状をもとに戻すことができず正常な研削ができない。このように整形の行いやすさ(以下、「整形性」と称す。)は、研削ホイールの性能に大きく影響する。
【0004】
レジンボンドやビトリファイドボンド使用した研削ホイールでは、GC砥石等を用いて簡単に整形を行うことができるのに対し、メタルボンドを使用した研削ホイール(以下、「メタルボンドホイール」と称す。)を整形するためには放電加工や、GC砥粒を多量に使用するため、コストと時間がかかり、整形を簡単に行うことができないという欠点がある。メタルボンドホイールの整形性の向上を目的とした技術が特許文献1〜3に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2762661号公報
【特許文献2】特許第2641438号公報
【特許文献3】特許第2651831号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載のメタルボンドホイールは、砥粒層中に多孔質ケイ酸カルシウム粒子を分散させた多孔質メタルボンドホイールであるが、多孔質体を含有しているため強度が低下し、欠けが発生しやすくなる。特許文献2に記載のメタルボンドホイールは、砥粒と、耐熱性があり且つ研削液に溶解する溶解性物質と、金属粉末とからなる混合充填物から、溶解性物質を溶解させることで砥粒層表面に多孔質部を形成したメタルボンドホイールであるが、多孔質体であるため欠けやすいことに加え、溶解性物質が溶解したときに砥粒の脱落が起こりやすい。特許文献3に記載のメタルボンドホイールは、ダイヤモンド砥粒を含有する多孔質のビトリファイド顆粒をメタルボンドやレジンボンドに内在させた超砥粒ホイールであるが、砥粒がビトリファイド顆粒の中にのみ存在し、これを覆うメタルボンドやレジンボンドには砥粒が存在しないため、砥粒の分散性が悪く、被削材の仕上げ面の加工精度にばらつきが生じる。また、ビトリファイド顆粒自体が欠けたり、ビトリファイド顆粒がボンドから脱落したりして欠けが発生しやすい。
【0007】
すなわち、良好な整形性と研削時における研削性能の両方を満足させるためには、使用されるメタルボンドは十分な砥粒保持力を有し、且つ、整形の際には摩耗が起こりやすい、という相反する条件を両立させることが必要となり、従来使用されてきたメタルボンドでは、この要求を満たすことができなかった。
【0008】
本発明は、以上の問題点を解決するためになされたもので、整形性を良好に維持しつつ、研削時における適度な砥粒保持力を有するメタルボンドを使用したメタルボンドホイールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のメタルボンドホイールは、砥粒と、粒子状の固体潤滑剤とをメタルボンドによって結合して形成された砥粒層を有するメタルボンドホイールにおいて、前記メタルボンドは、CuとSnを含む合金からなる第1金属と、前記第1金属より高融点である金属あるいは合金からなる粒子状の第2金属から構成され、前記固体潤滑剤粒子は、前記メタルボンド内に分散し、その平均粒径が前記粒子状の第2金属よりも大きいことを特徴とする。
【0010】
このような構成とすれば、砥粒と、粒子状の固体潤滑剤とを結合するメタルボンドにおいて、CuとSnを含む合金からなる第1金属(以下、「第1金属合金」と称す)を介して、粒子状の第2金属(以下、「第2金属粒子」と称す)のそれぞれの粒子が接合することで砥粒を保持することができる。一方で、このようなメタルボンドでは、第2金属粒子同士の接合部分はそれぞれの粒子の接点近傍のみであるため、整形を行うと、第2金属粒子はその接合部分から容易に脱落する。また、第2金属粒子の周囲には第1金属合金が存在するため、第2金属粒子同士が凝集することを抑制することができる。
【0011】
さらに粒子状の固体潤滑剤(以下、「固体潤滑剤粒子」と称す)はこのメタルボンド内に分散し、その平均粒径が第2金属粒子よりも大きいため、固体潤滑剤粒子の周囲を第2金属粒子が取り囲むように配置され、固体潤滑剤粒子の表面近傍に空隙が形成される。そのため、整形を行うと固体潤滑剤が適度に脱落することができ、さらに、固体潤滑剤の脱落痕がチップポケットとして機能することで、第2金属粒子の脱落効果が高まり、整形性が向上する。
【0012】
ここで、固体潤滑剤粒子の平均粒径が、第2金属粒子の平均粒径の2倍以上15倍以下であることが望ましく、この数値範囲であると整形の際に固体潤滑剤粒子を好適に脱落させることができる。前記固体潤滑剤の平均粒径が、第2金属粒子の平均粒径の2倍未満であると、固体潤滑剤は脱落しにくいため、整形性が著しく低下する。一方、前記固体潤滑剤の平均粒径が、第2金属粒子の平均粒径の15倍を超えると、固体潤滑剤は脱落しやすいが、研削時におけるメタルボンドの摩耗速度が大きすぎ、砥粒層の形状保持性が著しく低下する。
【0013】
また、本発明において、前記粒子状の固体潤滑剤の含有量が、前記粒子状の第2金属の含有量の15体積%以上30体積%以下であることが望ましい。粒子状の固体潤滑剤の含有量が、第2金属の含有量の15体積%未満であると、整形時に固体潤滑剤が脱落しても、その脱落痕の間隔が広すぎるため、第2金属粒子の脱落が促進されにくく整形性が悪くなる。また、固体潤滑剤の含有量が、第2金属の含有量の30体積%を超えると、研削時における砥粒層の形状保持性が著しく低下するため好ましくない。
【0014】
本発明においては、固体潤滑剤は、MoS2、WS2のいずれかであることが望ましい。固体潤滑剤として一般的によく用いられているグラファイトは、研削圧力が高い部分で潤滑性が劣るのに対し、MoS2、WS2は潤滑性が高いため、特に研削圧力が高い場合において、砥材層の欠けが発生しづらい。
【発明の効果】
【0015】
本発明のメタルボンドホイールは、整形性を良好に維持しつつ、研削時における砥粒保持力を確保することができるため、従来のメタルボンドホイールのように放電加工等の時間を要する整形を必要とせず、GC砥石などの整形砥石を用いて研削盤上で容易に整形を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】メタルボンドホイールに対する整形の説明図である。
【図2】従来のメタルボンドホイールの砥粒層の拡大図である。
【図3】本発明の実施形態に係るメタルボンドホイールの砥粒層の拡大図である。
【図4】本発明の実施形態に係るメタルボンドホイールにおける整形の状況を示す模式図である。
【図5】本発明の実施例におけるメタルボンドホイールの砥材層表面の電子顕微鏡像である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明に係る実施形態を、図面を参照しながら説明する。
図1はメタルボンドホイールに対する整形の説明図である。図1に示すメタルボンドホイール1においては、円盤状の台金2の外周側に、ダイヤモンド等の砥粒をメタルボンドで結合して形成された砥粒層3が設けられており、台金2の中心には取り付け穴4が設けられている。このメタルボンドホイール1に対して、例えばGC砥石からなる整形砥石5を接触させ、メタルボンドホイール1を回転させることによって整形が行われる。
【0018】
図2に従来のメタルボンドホイールの砥粒層の拡大図、図3に本発明の実施形態に係るメタルボンドホイールの砥粒層の拡大図を示す。
従来のメタルボンドホイール砥粒層3において、砥粒6と固体潤滑剤粒子7は合金状のメタルボンド8aによって結合されている。メタルボンド8aとしては例えば、Cu−Sn−Co系合金、Cu−Sn−Co−Fe系合金、Cu−Sn−Ni系合金などがある。この中でも砥粒保持力が高い、Cu−Sn−Co系合金やCu−Sn−Co−Fe系合金が使用されることが多いが、これらの合金は硬度が高く摩耗性が低いため整形性が低い。
【0019】
一方、図3に示すように本発明の実施形態に係るメタルボンドホイールの砥粒層3において、砥粒6及び固体潤滑剤粒子7は、第1金属合金9及び第2金属粒子10から構成されるメタルボンド8bによって結合されている。このうち、第1金属合金9は第2金属より低融点で軟質であるCuとSnを含む合金(Cu−Sn系合金)であり、さらにP,Ag,Feなどの成分を添加することもできる。
【0020】
第2金属粒子10は、耐熱性が高い金属種であるCo,Fe,Niのいずれか、あるいはこれらを主成分とする合金からなる粒子である。なお、粒子の凝集や熱融合を抑制するためには、第2金属粒子10としてはCo、あるいはCoを主成分とする合金が好適に使用される。メタルボンド8bにおいて、第2金属粒子10は、第1金属合金9を介してそれぞれの粒子の接点近傍で接合している。そのため、外部から強い力を加えると粒子間の接合部分が破壊され、第2金属粒子10が脱落する。
【0021】
なお、第2金属粒子10の好適な平均粒径は0.5〜3.0μmである。第2金属粒子10の平均粒径が0.5μm未満であると、メタルボンド8bが緻密になり砥粒保持力が大きくなりすぎて整形性が低下し、平均粒径が3.0μmを超えると、それぞれの第2金属粒子10の接合力が小さくなりすぎて、砥粒層3の形状保持性が低下し、砥粒層3が崩壊しやすくなるため好ましくない。
【0022】
砥粒層3において、固体潤滑剤粒子7は、第2金属粒子10より大径の粒子であり、メタルボンド8b内に適度に分散している。そのため、固体潤滑剤粒子7の周囲には、第1金属合金9を介して接合した第2金属粒子10が取り囲むように配置している。このように固体潤滑剤粒子7の周囲に第2金属粒子10が配置されると、固体潤滑剤粒子7の表面近傍に適度に空隙が形成される。この空隙はそれ自身がチップポケットとしての機能を有すると共に、固体潤滑剤粒子7が砥粒層3から脱落することを容易にする作用がある。
【0023】
ここで、固体潤滑剤粒子7の平均粒径は、第2金属粒子10の平均粒径の2倍以上15倍以下、特に2倍以上6倍以下が好適である。固体潤滑剤粒子7の平均粒径がこの範囲であれば、適度な脱落性と砥粒層の形成保持性を両立することができる。固体潤滑剤粒子7の平均粒径が第2金属粒子10の平均粒径の2倍未満であると、固体潤滑剤粒子7の保持力が大きすぎて固体潤滑剤粒子7の脱落が起こりづらく、15倍以上であると逆に固体潤滑剤粒子7の保持力が小さすぎて砥粒層3が簡単に崩壊してしまうため好ましくない。なお、前記固体潤滑剤の含有量が、第2金属の含有量の15体積%以上30体積%以下とすると前記固体潤滑剤粒子7の脱落が起こりやすく、整形性が特に向上する。
【0024】
なお、固体潤滑剤としては従来のグラファイトなどの炭素系材料も使用できるが、特に研削圧力が高い加工に使用されるメタルボンドホイールの場合、研削圧力が高い状態においても潤滑性がよいMoS2、WS2が好適に使用される。
【0025】
本発明の実施形態に係るメタルボンドホイールの砥粒層構造を実現する方法として、以下の製造方法が挙げられる。メタルボンドを構成する第1金属の原材料となるCu及びSnを含む粉末を30〜45重量%、第2金属粒子の原材料となるCo等の金属粉末を含む粉末を50〜70重量%、MoS2などの固体潤滑剤の粉末を5〜20重量%として混合し、この混合物に適量の砥粒を加えて撹拌し、必要量を型に投入してプレス機にて圧力と温度を加える。なお、好適なプレス圧は30〜500kg/cm2の範囲である。次に、焼結機に圧粉体を入れ、第1金属の原材料が合金化する温度まで温度上昇させ、この温度を一定時間維持した後冷却する。なお、温度が上がり過ぎると、金属粉末の表面だけでなくその内部まで反応してしまい、第2金属粒子が接点近傍だけでなく面で接合するようになるため好ましくない。なお、第1金属が合金化し、且つ、第2金属粒子が接点近傍で接合するために好適な焼成温度は500〜700℃であり、特に550℃〜650℃が望ましい。
【0026】
本発明の実施形態に係るメタルボンドホイールに対する整形の状況を、図4に基づいて説明する。
整形前において、メタルボンドホイール1の砥粒層3の切刃となる砥粒6は、第1金属合金9と第2金属粒子10と固体潤滑剤粒子7からなるメタルボンド8bによって固定されており、表面近傍の砥粒6はほとんど露出していない(図4(a))。メタルボンドホイール1を回転させ、整形砥石5の砥粒11を砥粒層3に接触させると、砥粒層3の表面の第2金属粒子10が脱落する(図4(b))。これは上述したように第2金属粒子10は軟質金属である第1金属合金9によって被覆され、接点近傍のみで接合しており、それぞれの粒子の接合力はそれほど強くないためである。
【0027】
表面近傍の第2金属粒子10の脱落が進行すると、第2金属粒子10に取り囲まれることでメタルボンド8b中に保持されていた固体潤滑剤粒子7が周辺の第2金属粒子10と共に脱落し、比較的大きな脱落痕が形成される(図4(c))。このような脱落痕が多数形成されると、メタルボンド8bの砥粒保持力が低下し、表面近傍の砥粒6が脱落し(図4(d))する。また、このような脱落痕は第2金属粒子10などの排出のためのチップポケットとしても機能し、結果として砥粒層3の整形性が向上する。このような工程を繰り返すことで、メタルボンドホイールの砥粒層形状が修正できる。(図4(e))。
【実施例】
【0028】
以下に、具体的な実施例を示す。
【0029】
使用したメタルボンドホイールの詳細は以下の通りである。
台金寸法:150D×6U×50.8H×3X
台金材質:Fe
砥粒:ダイヤモンド、#600(平均粒径:30μm)
第1金属合金:Cu−Sn系合金
:メタルボンド中の体積比率:他成分の残り
第2金属粒子:Co(平均粒径:1.4μm)
:メタルボンド中の体積比率:50〜65体積%
固体潤滑剤粒子:MoS2(平均粒径:0.8〜22.5μm)
:メタルボンド中の体積比率:10〜40体積%
焼結条件:550℃、5分
圧力:50kg/cm2
【0030】
整形試験条件及び研削試験条件は以下の通りである。
(整形試験条件)
整形砥石:GC600V
研削盤:平面研削盤
砥石周速:360m/min以下
ホイール周速:360m/min
(研削試験条件)
加工方式:トラバース研削
砥石周速:1800m/min
被研削材:超硬材
切込み:6μm/pass
送り速度:10m/min
【0031】
SEM/EPMA分析装置((株)島津製作所製、EPMA−C1)を使用して、実施例におけるメタルボンドホイールの砥粒層部分についての電子顕微鏡観察及びEPMAによる元素分析を行った。EPMA分析においては、ダイヤモンド砥粒を構成する炭素、第1金属を構成するCu及びSn、第2金属を構成するCo、固体潤滑剤を構成するMo及びSについての元素分布状態を評価した。図5は本発明の代表的な実施例におけるメタルボンドホイールの砥材層表面の電子顕微鏡像である。なお、図5において、EPMA分析により炭素が検出された領域を、ダイヤモンド砥粒として点線で示している。
【0032】
図5からダイヤモンド砥粒が砥粒層に適度に分散されていることがわかる。EPMA分析によるとCu,Snはこのダイヤモンド砥粒が検出された部分以外からは同程度のシグナル強度で一様に検出された。一方、Coは、Cu,Snと同様にダイヤモンド砥粒が検出された部分以外から一様に検出されたが、Cu,Snの場合と異なり、その分布形状は島状であり、粒子であることが確認された。また、Mo,Sも粒子状でありその周囲にはCoが検出された。
【0033】
次に固体潤滑剤の含有量を変化させて整形性を評価した結果を表1に示す。なお、使用した固体潤滑剤の平均粒径3μmである。ここで、研削比とは、研削による被削材の削除量を砥石の磨耗量で割った値として定義されるものであり、固体潤滑材の含有量が20体積%のときの研削比を100、整形時間を100とした指数で表示している。
【0034】
【表1】

【0035】
固体潤滑剤の含有量が、Coの含有量の15体積%まで、整形砥石に実施例のメタルボンドホイールを接触させても整形を良好に行うことができなかった。これは固体潤滑剤の含有量が少なすぎて、整形時に固体潤滑剤が脱落しても、十分な量のチップポケットが形成されないためと考えられる。なお、整形時間は固体潤滑剤の含有量が増えるほど短くなっていき、固体潤滑剤の含有量15体積%から特に整形時間が短縮し、特に20体積%になると容易に整形を行うことができた。整形性の指標である研削比も固体潤滑剤の含有量15体積%から向上し、15〜30体積%の範囲で整形後のメタルボンドホイールを使用すると好適に研削を行うことができた。その一方、固体潤滑剤の含有量が、Coの含有量の30体積%を超えると、整形時間はさらに短くなったが、研削比が大きく低下した。これは固体潤滑剤が多すぎて、メタルボンドの結合力が著しく低下し、砥粒層自体の摩耗が大きくなったためと考えられる。
【0036】
固体潤滑剤の含有量はすべて20体積%に固定し、固体潤滑剤の平均粒径を変化させて整形を行った結果を表2に示す。なお、上記の通り、Co粒子の平均粒径は1.4μmである。また、表2においては、固体潤滑剤の平均粒径が3μm、すなわち、固体潤滑剤とCo粒子の粒径比(以下、単に「粒径比」と称す。)が2.1のときの研削比、整形時間を100とした指数で表示している。
【0037】
【表2】

【0038】
固体潤滑剤の平均粒径が1.5μm(粒径比:1.1)までは、整形砥石に実施例のメタルボンドホイールを接触させてもメタルボンドがほとんど摩耗せず、整形を行うことができなかったが、固体潤滑剤の大きさがCo粒子と同程度であると、固体潤滑剤粒子の脱落が起こりづらく、メタルボンドの摩耗が進行しづらいためと考えられる。固体潤滑剤粒子の平均粒径2.3μm(粒径比:1.6)になるとメタルボンドの摩耗が確認され、整形を行うことができた。さらに固体潤滑剤粒子の平均粒径3μm(粒径比:2.1)になると、整形時間が短縮される。固体潤滑剤粒子の平均粒径21μm(粒径比:15)を超えると、著しく固体潤滑剤粒子が脱落しやすくなり、整形時間は短くなったが、研削比も大きく低下した。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明のメタルボンドホイールは研削時に適度な砥粒保持力を確保しつつ、GC砥石など一般的な整形砥石を使用して整形を行うことができるので、常に切味が高い研削ホイールとして、高精度金型加工などの用途に好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0040】
1 メタルボンドホイール
2 台金
3 砥粒層
4 取り付け穴
5 整形砥石
6,11 砥粒
7 固体潤滑剤粒子
8a,8b メタルボンド
9 第1金属合金
10 第2金属粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
砥粒と、粒子状の固体潤滑剤とをメタルボンドによって結合して形成された砥粒層を有するメタルボンドホイールにおいて、
前記メタルボンドは、CuとSnを含む合金からなる第1金属と、前記第1金属より高融点である金属あるいは合金からなる粒子状の第2金属から構成され、
前記固体潤滑剤粒子は、前記メタルボンド内に分散し、その平均粒径が前記粒子状の第2金属よりも大きいことを特徴とするメタルボンドホイール。
【請求項2】
前記粒子状の固体潤滑剤の平均粒径は、前記粒子状の第2金属の平均粒径の2倍以上15倍以下であることを特徴とする請求項1記載のメタルボンドホイール。
【請求項3】
前記粒子状の固体潤滑剤の含有量が、前記粒子状の第2金属の含有量の15体積%以上30体積%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のメタルボンドホイール。
【請求項4】
前記固体潤滑剤は、MoS2、WS2のいずれかであることを特徴とする請求項1から3のいずれかの項に記載のメタルボンドホイール。

【図4】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−188447(P2010−188447A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−33182(P2009−33182)
【出願日】平成21年2月16日(2009.2.16)
【出願人】(000111410)株式会社ノリタケスーパーアブレーシブ (73)
【出願人】(000004293)株式会社ノリタケカンパニーリミテド (449)
【Fターム(参考)】