説明

メタン発酵装置

【課題】耐腐食性に優れ、より製造コストが安価となるメタン発酵装置を提供する。
【解決手段】有機性廃棄物が投入され、該有機性廃棄物を発酵させてメタンを発生させるメタン発酵槽2を有するメタン発酵装置1であって、メタン発酵槽2の筐体をFRPパイプ3Aから構成した。さらに、FRPパイプ3Aの層断面を、少なくとも、黒色のシート層と、このシート層を挟む透明或いは半透明のFRP層とを有する多層断面構造とした。シート層の材料としては農業用マルチシートが好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家畜のふん尿や家庭の生ゴミ等の有機性廃棄物をメタン発酵させるメタン発酵装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、多くの酪農家では、家畜のふん尿に関してそのまま野積みにしたり、素掘りの溜め池に貯蔵するなどしている。これらは堆肥として利用されることもあるが、その使用量は排出量に比べると少ない場合が多く、大部分のふん尿は野ざらしとして放置されたままというのが実情である。しかし、土壌汚染や臭気の問題など環境保全の観点からすればこのような簡便な処置は好ましいことではない。
【0003】
一方、近年では、家畜のふん尿や生ゴミ等の有機性廃棄物に関する処理技術として、これらを槽内に投入してメタン発酵させ、発酵後の有機性廃棄物は脱水して水と汚泥に分離処理し、発生したメタンはガス発電機等のエネルギー源として有効利用する、いわゆるバイオガスプラントが注目されている。この技術を用いたものとして、本出願人は、コンパクト化が図れるメタン発酵装置を特許文献1で提案している。
【特許文献1】特開2005−198618号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本出願人は、特許文献1の技術をさらに発展させ、耐腐食性に優れ、より製造コストが安価となるメタン発酵装置を提供することを目的として本発明をなし得たものである。
また、メタンを効率良く発酵させるためには、発酵槽内の温度を高温に維持する必要があり、特許文献1では、熱交換パイプを発酵槽内に設け、循環式太陽熱温水器やボイラで温水を循環させる方式を提案している。
【0005】
そこで、さらに本発明は、より経済的に発酵槽内の温度を加温し得るメタン発酵装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、前記課題を解決するため、有機性廃棄物が投入され、該有機性廃棄物を発酵させてメタンを発生させるメタン発酵槽を有するメタン発酵装置であって、前記メタン発酵槽の筐体をFRPパイプから構成したことを特徴とするメタン発酵装置とした。
【0007】
このメタン発酵装置によれば、高強度な筐体で、耐腐食性に優れ、また安価なメタン発酵装置とすることができる。また、メタン発酵槽の内面がFRP面(樹脂面)として形成されるので、有機性廃棄物がこびり付きにくくなり、清掃が容易となる。
【0008】
また本発明では、前記FRPパイプの層断面を、黒色のシート層と、このシート層を挟む透明或いは半透明のFRP層とを有する多層断面構造としたことを特徴とするメタン発酵装置とした。
【0009】
このメタン発酵装置によれば、FRP層を透明或いは半透明としたことにより、シート層まで日光の紫外線が届き、シート層は黒色であることから、このシート層が紫外線を多量に吸収する。これにより、メタン発酵槽内の密閉空間の温度を効果的に上昇させることができる。また、紫外線はFRP層ではさほど吸収されずに通過することになるので、FRP層での日焼けが起きにくくなり、その分、筐体を構成するFRP層の劣化を低減させることができる。
【0010】
また本発明では、前記シート層を農業用マルチシートから構成したことを特徴とするメタン発酵装置とした。
【0011】
このメタン発酵装置によれば、シート層を安価で入手しやすい農業用マルチシートから構成したので、より経済的なメタン発酵装置とすることができる。
【0012】
また本発明では、前記FRPパイプの層断面を、透明或いは半透明のFRP層からなり、槽外側に臨む外層と、黒色のFRP層からなり、槽内側に臨む内層とを有する多層断面構造としたことを特徴とするメタン発酵装置とした。
【0013】
このメタン発酵装置によれば、外層を透明或いは半透明とし、内層を黒色としたので、紫外線は外層を通過し、内層にて多量に吸収される。これにより、メタン発酵槽内の密閉空間の温度を効果的に上昇させることができる。紫外線は外層ではさほど吸収されずに通過することになるので、メタン発酵槽の外表面層の日焼けが起きにくくなり、この外表面層の劣化が防止される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高強度な筐体で、耐腐食性に優れ、また安価なメタン発酵装置とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。図1、図2はそれぞれ本発明に係るメタン発酵装置の外観斜視図、平断面図、図3、図4、図5はそれぞれ図2におけるA−A断面図、B−B断面図、C−C断面図である。
【0016】
メタン発酵装置1は、有機性廃棄物が投入され、該有機性廃棄物を発酵させてメタンを発生させるメタン発酵槽2を有する。メタン発酵槽2に投入される有機性廃棄物としては、例えば家畜のふん尿、家庭で廃棄される生ゴミ等であり、液状体である。
【0017】
メタン発酵槽2の筐体は、円筒形状のFRP(繊維強化プラスチック)パイプ3Aから構成され、例えばパイプ軸方向を横方向として、図3〜図5に示すようにFRPパイプ3Aの下半分を地中に埋設して屋外に設置する。FRPパイプ3Aの両端開口部は、別部材である円板状の側板3Bにより閉塞される。側板3Bの材質もFRPである。FRPパイプ3Aの大きさは例えば、外径2.5メートル、長さ6メートル程度である。FRPパイプ3Aの製造コストやトラックの荷台搬送性などを考慮すると、外径寸法に関しては3メートル以内であることが好ましい。長さについては連結するなどの方法を採ることで10メートル程度以上に形成することも可能である。
【0018】
FRPパイプ3Aとしては、金型に半硬化状態のFRPシートを巻きつけてパイプ状に成形する、いわゆるシートワインディング製法、ガラスロービングに樹脂を含浸させながら型に巻きつけて成形する、いわゆるフィラメントワインディング製法等で製造したものを用いることができる。
【0019】
筐体をFRPパイプ3Aから構成することで、高強度な筐体となり、かつ安価に製作できる。また、樹脂材としたことで、金属材料とした場合に比して耐腐食性に優れることになる。
【0020】
横置きされたFRPパイプ3Aの一端側上部には、有機性廃棄物を投入するための投入口が形成されており、通常は蓋4により閉じられている。この方式では、人が蓋4を手動であけて有機性廃棄物を投入するのであるが、このような投入口を設けることなく、例えば別途に有機性廃棄物を一時的に貯留する貯留槽を設け、この貯留槽からポンプにより自動的に有機性廃棄物をメタン発酵槽2内に送り込む方式にしてもよい。
【0021】
また、FRPパイプ3Aの上部には、人がメンテナンス時などに内部に入るための点検口が形成されており、通常は点検蓋5により閉じられている。このように、清掃や点検時に人が内部に入ることを考慮すると、FRPパイプ3Aを横置きする態様の場合、FRPパイプ3Aの内径寸法は1.8メートル以上であることが好ましい。
【0022】
FRPパイプ3Aの内部において、一端寄りおよび他端寄りにはFRPパイプ3A内の上部空間をパイプ軸方向に3つの空間8A〜8Cに仕切る仕切り板6、7が設けられている。仕切り板6、7の下端はFRPパイプ3Aの底面から距離を隔てている。つまり、3つの空間8A〜8CはFRPパイプ3Aの下部空間にて連通している。仕切り板6、7の材質もFRPである。なお、仕切り板6の空間8B側の側面には、前記点検口の下方に位置する箇所に昇降用の梯子9が取り付けられている。
【0023】
前記投入口の下方に空間8Aが位置しており、投入口から投入された有機性廃棄物は空間8Aにしばらく滞留した後、仕切り板6の下方から空間8Bに移動する。空間8Bはメタン発酵の主室となる空間であり、他の空間8A、8Cよりも広く形成されている。FRPパイプ3Aの他端寄りに位置する空間8Cにおいては、メタン発酵後の廃液を排出する排出管10が側板3Bに取り付けられている。排出管10は図示しない管路を経由して所定の処理装置(廃液槽等)に連結している。FRPパイプ3A内において、排出管10はL字状に屈曲しており、その先端開口面は上向きとなっている。したがって、この排出管10の先端開口面のレベルが、ほぼFRPパイプ3A内における有機性廃棄物の液面レベルとなり、発酵後の有機性廃棄物がオーバーフローするかたちで排出管10の開口面に流入する。
【0024】
なお、排出管10から排出される廃液は、脱水処理を施すことにより処理水と汚泥とに分離させることができる。処理水は浄化装置(図示せず)を介して浄化処理水にすることも可能であるが、浄化処理を施すことなく、そのまま液肥として利用することもできる。そして、メタン発酵槽2内で生じたメタンは、例えば槽上部に設けたガス取り出し管19を介して外部に取り出され、発動機やガス灯、ガス冷蔵庫、ガス給湯器、ガスコンロ等の燃料として有効利用される。特に、畜舎の照明や暖房などに利用することができる。また、後記するボイラ13の燃料として利用することもできる。ガス取り出し管19の途中には、例えば硫化水素等を除去する目的でガス濾過器18が設けられる。
【0025】
メタン発酵槽2の底部には、ガスをさほど含まない比重の大きい泥状の有機性廃棄物(消化汚泥)が沈澱しやすい。そこで、本実施形態では、FRPパイプ3の底部に沈澱したこれらの有機性廃棄物を外部に排出するための吸引管11が設けられている。吸引管11は例えば空間8Bにおいてパイプ軸方向に間隔を空けて複数取り付けられるものであって、吸引口をFRPパイプ3Aの底面に臨ませたうえで、管体を斜めに延設してFRPパイプ3Aの周壁を貫通させて排出口側を外部に位置させた構造からなる。図示しない駆動源(エアリフトポンプ等)で管内に負圧をかけることにより、FRPパイプ3Aの底部に沈澱した有機性廃棄物が吸引管11に吸い上げられ、外部に排出される。図では、吸引管11を3本設けた場合を示しているが、その本数は限られるものではなく、場合によっては1本のみ設けてもよい。吸引した有機性廃棄物は堆肥として利用することができる。
【0026】
また、メタン発酵槽2の内部には、温水が循環する熱交換管12が配設されている。熱交換管12はボイラ13や太陽熱温水器等に接続しており、ポンプで温水が循環する。符号17は水を補給するための水タンクである。メタン発酵槽2内で熱交換管12はU字状に形成され、水平状に配設されている。熱交換管12を介して、循環する温水と有機性廃棄物との間で熱交換がなされ、有機性廃棄物が加温される。熱交換管12の材質としては、耐腐食性を考慮して、銅管、アルミニウム管、ステンレス管等が適用される。熱交換管12による加温は、例えば曇りや雨の日など日光量が少ないときにのみ行うようにしてもよい。
【0027】
FRPパイプ3Aとしては、紫外線を吸収するべく黒色の単層からなるFRPパイプとすることもできるが、本実施形態において、FRPパイプ3Aは、図6に示すように、黒色のシート層14と、このシート層14を挟む透明或いは半透明のFRP層15とを有する多層断面構造となっている。シート層14としては農業用マルチシートが好適である。農業用マルチシートは、保温、保湿の目的で畑に貼られる薄膜のシートであり、厚さは通常、数十ミクロン程度である。シート層14を構成するにおいては、農業用マルチシート1枚としてもよいし、農業用マルチシートを複数枚重ねた態様としてもよい。なお、農業用マルチシートの材質はポリエチレンや塩化ビニルなどが主流であったが、近年では環境保全の観点から生分解型のものが多く開発されている。FRP層15単層の厚みは例えば数ミリ程度である。
【0028】
本発明によれば、FRP層15を透明或いは半透明としたことにより、シート層14まで日光の紫外線が届き、シート層14は黒色であることから、このシート層14が紫外線を多量に吸収する。これにより、メタン発酵槽2内の密閉空間の温度を効果的に上昇させることができ、その分、前記熱交換管12のような加温手段における加温機能の負担を軽減させることができ、場合によっては熱交換管12のような加温手段を省略することもできる。
【0029】
また、黒色のシート層14と、このシート層14を挟む透明或いは半透明のFRP層15とを有する多層断面構造としたことで、FRPパイプ3Aを例えば黒色に着色したFRPの単層から構成した場合に比して、日焼けによる筐体の劣化低減の点で有利となる。すなわち、FRPパイプ3Aを黒色のFRP単層から構成した場合には、パイプ表面が直接紫外線を吸収するので、パイプ表面の日焼けの程度が激しくなり、FRP層の劣化が進みやすいのに対し、黒色のシート層14の外側に透明或いは半透明のFRP層15を配する構成とすれば、紫外線はFRP層15ではさほど吸収されずに通過することになるので、FRP層15での日焼けが起きにくくなり、その分、筐体を構成するFRP層15の劣化を低減させることができる。
【0030】
FRP層15、特にシート層14よりも外側のFRP層15における透明度としては、例えばJIS−K7105規格における全光線透過率が20%以上の数値とするのがよい。全光線透過率が20%未満の場合には透明度がさほどなくなり、紫外線がシート層14まで届きにくくなるからである。
【0031】
前記多層断面構造は、パイプ状に形成した内側のFRP層15に対して農業用マルチシート等を螺旋状に全体に巻きつけ、その後、外側のFRP層15を形成する等の製造工程を採用することで容易に製作が可能である。勿論、場合によっては、農業用マルチシートを平板状のFRP層で挟んだ後に、全体をパイプ状に加工する製造工程であっても差し支えない。なお、FRP層15とシート層14との間には、厳密には例えば両者を接着させる接着剤層が介在する場合があるが、本発明ではこの接着剤層の形成については省略したものとしている。
【0032】
FRPパイプ3Aの層構造としては、図7に示すように、透明或いは半透明のFRP層15からなり、槽外側に臨む外層と、黒色のFRP層16からなり、槽内側に臨む内層とを有する多層断面構造とすることもできる。この場合も、FRP層15の透明度としては、例えばJIS−K7105規格における全光線透過率が20%以上の数値とするのがよい。また、外層と内層とを接着させる接着剤層が介在する場合があるが、本発明ではこの接着剤層の形成については省略したものとしている。
【0033】
これによれば、外層を透明或いは半透明とし、内層を黒色としたので、紫外線は外層を通過し、内層にて多量に吸収される。これにより、メタン発酵槽2内の密閉空間の温度を効果的に上昇させることができる。紫外線は外層ではさほど吸収されずに通過することになるので、メタン発酵槽2の外表面層の日焼けが起きにくくなり、この外表面層の劣化が防止される。また、熱交換管12のような加温手段における加温機能の負担を軽減させることができ、場合によっては熱交換管12のような加温手段を省略することもできる。
【0034】
ただし、この層構成では、透明或いは半透明のFRPと黒色のFRPとの2種類を用意する必要がある。これに対して、黒色のシート層14と、このシート層14を挟む透明或いは半透明のFRP層15とを有する層構成の場合には、一対のFRP層15を同じ仕様のFRPで賄えるので経済的である。シート層14の介在は安価なシートを使用することでさほどコストアップとならずに済む。
【0035】
以上、本発明について好適な実施形態を説明した。本発明は、説明した形態に限られることなくその趣旨を逸脱しない範囲で適宜に設計変更が可能である。シート層14としては、黒色のシート形状を有したものであれば、農業用マルチシートに限られるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明に係るメタン発酵装置の外観斜視図である。
【図2】本発明に係るメタン発酵装置の平断面図である。
【図3】図2におけるA−A断面図である。
【図4】図2におけるB−B断面図である。
【図5】図2におけるC−C断面図である。
【図6】FRPパイプの層断面構造図である。
【図7】FRPパイプの層断面構造図の変形例である。
【符号の説明】
【0037】
1 メタン発酵装置
2 メタン発酵槽
3A FRPパイプ
3B 側板
11 吸引管
12 熱交換管
14 シート層
15 FRP層
19 ガス取り出し管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機性廃棄物が投入され、該有機性廃棄物を発酵させてメタンを発生させるメタン発酵槽を有するメタン発酵装置であって、
前記メタン発酵槽の筐体をFRPパイプから構成したことを特徴とするメタン発酵装置。
【請求項2】
前記FRPパイプの層断面を、黒色のシート層と、このシート層を挟む透明或いは半透明のFRP層とを有する多層断面構造としたことを特徴とする請求項1に記載のメタン発酵装置。
【請求項3】
前記シート層を農業用マルチシートから構成したことを特徴とする請求項2に記載のメタン発酵装置。
【請求項4】
前記FRPパイプの層断面を、透明或いは半透明のFRP層からなり、槽外側に臨む外層と、黒色のFRP層からなり、槽内側に臨む内層とを有する多層断面構造としたことを特徴とする請求項1に記載のメタン発酵装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−302305(P2008−302305A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−151830(P2007−151830)
【出願日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【出願人】(598132026)関越技研株式会社 (4)
【Fターム(参考)】