説明

メチオニン由来グルコシノレート生合成抑制遺伝子を利用した植物の作出方法

【課題】硫黄欠乏下にある植物体において発現の変化する遺伝子群のなかに、メチオニン由来グルコシノレート(mGSL)生合成の新たな制御因子を見出し、当該制御因子を利用してmGSL量が調節された植物を提供する。
【解決手段】以下の(a)〜(c)のいずれかのタンパク質をコードする遺伝子を用いて、メチオニン由来グルコシノレート(mGSL)量が制御された植物を得る方法、および得られた植物。(a)特定な配列のアミノ酸配列からなるタンパク質(b)特定な配列からなるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつメチオニン由来グルコシノレート生合成抑制活性を有するタンパク質(c)特定な配列からなるアミノ酸配列に対して80%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつメチオニン由来グルコシノレート生合成抑制活性を有するタンパク質

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メチオニン由来グルコシノレート生合成抑制遺伝子を利用した植物の作出方法、および該方法により作出された植物に関する。
【背景技術】
【0002】
グルコシノレート(GSL)はアブラナ科植物の生産する含硫二次代謝産物であり、研究用のモデル植物であるシロイヌナズナをはじめ、食用作物であるブロッコリー、キャベツ、ダイコン、ケール、カラシナ、ワサビなどに含まれる。GSLは、その分解産物であるイソチオシアネート(ITC)とともに、病害虫に対する忌避物質として知られる。
【0003】
GSLは、その構造によってアリファティック系GSL、インドール系GSL、およびアロマティック系GSLに大別され、これらはそれぞれ、メチオニン、トリプトファン、フェニルアラニンを前駆体として生合成され、その前駆体の種類によって側鎖の化学構造が大きく異なっている(非特許文献1,2)。このうち、メチオニン由来GSL(mGSL)及びその分解で生じるイソチオシアネート(ITC)は、発がん抑制効果を示すことが実証され、注目を集めている(非特許文献3)。特にブロッコリースプラウトに含まれるITCであるスルフォラファンはグルコラファニン(4-メチルスルフィニルブチルGSL、略称4MSB(4MSOB))より生じ、生体内のNrf2を活性化し、抗酸化や解毒作用によりガン、高血圧、加齢性疾患の予防に有効であることがわかっている(非特許文献4)。
【0004】
一方、硫黄欠乏(-S)下におかれたシロイヌナズナでは、硫黄同化系、GSL分解系酵素群の発現が増加し、mGSL生合成系酵素群の発現が減少することが知られている。従って、-S依存的に発現の変化する遺伝子群の中にはGSL分解、mGSL生合成それぞれの制御因子が存在することが予想され、これらを見出すことにより、植物におけるmGSL量の調節が可能となると考えられる。これまでmGSL生合成の制御因子については、生合成を促進する転写因子PMG1およびPMG2(非特許文献5)、硫黄欠乏に応じて生合成を抑制する転写因子SLIM1(非特許文献6)が報告されている。
【0005】
【非特許文献1】Grubb and Abel, Trends Plant Sci. 11: 89-100 (2006)
【非特許文献2】Halkier and Gershenzon, Annu. Rev. Plant Biol. 57: 303-333 (2006)
【非特許文献3】Talalay and Fahey, J. Nutr. 131: 3027S-3033S (2001)
【非特許文献4】Keum YS et al, Cancer Res. 66: 8804-8813 (2006)
【非特許文献5】Hirai et al. Proc. Natl. Acad. Sci. 104: 6478-6483 (2007)
【非特許文献6】Maruyama-Nakashita, A., et al. Plant Cell 18: 3235-3251 (2006)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の課題は、硫黄欠乏(-S)下にある植物体において発現の変化する遺伝子群のなかに、メチオニン由来グルコシノレート(mGSL)生合成の新たな制御因子を見出し、当該制御因子を利用してmGSL量が調節された植物を作出することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、硫黄欠乏(-S)依存的に発現の上昇する遺伝子に着目し、中でも遺伝子ファミリーとして同じ挙動を示す機能未知遺伝子に焦点を絞った逆遺伝学的解析を行った結果、メチオニン由来グルコシノレート(mGSL)生合成の抑制遺伝子(RMG遺伝子)を見出した。RMG遺伝子はシロイヌナズナにおいて5つの分子種からなるファミリーを形成し、このうち2つの遺伝子(RMG1、RMG2)発現がSLIM1(sulfur limitation 1)依存的に-Sに応じて増加することを確認した。本発明者らはさらに、RMG遺伝子破壊株では、-S条件においてもmGSL生合成遺伝子の発現抑制が起こらず、mGSL蓄積量が増加し、逆に、RMG遺伝子過剰発現株では、mGSL生合成遺伝子の発現が抑制され、mGSL蓄積量が減少することを確認した。本発明はかかる知見により完成されたものである。
【0008】
即ち、本発明は以下の発明を包含する。
【0009】
(1) 以下の(a)〜(c)のいずれかのタンパク質をコードする遺伝子が導入された形質転換植物。
(a) 配列番号2または4に示すアミノ酸配列からなるタンパク質
(b) 配列番号2または4に示すアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつメチオニン由来グルコシノレート生合成抑制活性を有するタンパク質
(c) 配列番号2または4に示すアミノ酸配列に対して80%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつメチオニン由来グルコシノレート生合成抑制活性を有するタンパク質
【0010】
(2) 以下の(d)〜(f)のいずれかの遺伝子が導入された形質転換植物。
【0011】
(d) 配列番号1または3に示す塩基配列からなるDNAを含む遺伝子
(e) 配列番号1または3に示す塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつメチオニン由来グルコシノレート生合成抑制活性を有するタンパク質をコードするDNAを含む遺伝子
(f) 配列番号1または3に示す塩基配列に対して80%以上の相同性を有する塩基配列からなり、かつメチオニン由来グルコシノレート生合成抑制活性を有するタンパク質をコードするDNAを含む遺伝子
【0012】
(3) 形質転換植物がメチオニン由来グルコシノレート低蓄積植物である、(1)または(2)記載の形質転換植物。
【0013】
(4) 植物が、植物体、植物器官、植物組織、または植物培養細胞である(1)から(3)のいずれかに記載の形質転換植物。
【0014】
(5) 以下の(a)〜(c)のいずれかのタンパク質をコードする遺伝子を含む組み換えベクター。
(a) 配列番号2または4に示すアミノ酸配列からなるタンパク質
(b) 配列番号2または4に示すアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつメチオニン由来グルコシノレート生合成抑制活性を有するタンパク質
(c) 配列番号2または4に示すアミノ酸配列に対して80%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつメチオニン由来グルコシノレート生合成抑制活性を有するタンパク質
【0015】
(6) 以下の(d)〜(f)のいずれかの遺伝子を含む組み換えベクター。
(d) 配列番号1または3に示す塩基配列からなるDNAを含む遺伝子
(e) 配列番号1または3に示す塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつメチオニン由来グルコシノレート生合成抑制活性を有するタンパク質をコードするDNAを含む遺伝子
(f) 配列番号1または3に示す塩基配列に対して80%以上の相同性を有する塩基配列からなり、かつメチオニン由来グルコシノレート生合成抑制活性を有するタンパク質をコードするDNAを含む遺伝子
【0016】
(7) (5)に記載の組換えベクターを植物に導入し、該植物体で以下の(a)〜(c)のいずれかのタンパク質をコードする遺伝子を過剰発現させることを特徴とする、形質転換植物の作出方法。
(a) 配列番号2または4に示すアミノ酸配列からなるタンパク質
(b) 配列番号2または4に示すアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつメチオニン由来グルコシノレート生合成抑制活性を有するタンパク質
(c) 配列番号2または4に示すアミノ酸配列に対して80%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつメチオニン由来グルコシノレート生合成抑制活性を有するタンパク質
【0017】
(8) (6)に記載の組換えベクターを植物に導入し、該植物体で以下の(d)〜(f)のいずれかの遺伝子を過剰発現させることを特徴とする、形質転換植物の作出方法。
(d) 配列番号1または3に示す塩基配列からなるDNAを含む遺伝子
(e) 配列番号1または3に示す塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつメチオニン由来グルコシノレート生合成抑制活性を有するタンパク質をコードするDNAを含む遺伝子
(f) 配列番号1または3に示す塩基配列に対して80%以上の相同性を有する塩基配列からなり、かつメチオニン由来グルコシノレート生合成抑制活性を有するタンパク質をコードするDNAを含む遺伝子
【0018】
(9) 形質転換植物がメチオニン由来グルコシノレート低蓄積植物である、(7)または(8)に記載の形質転換植物の作出方法。
【0019】
(10) 植物が、植物体、植物器官、植物組織、または植物培養細胞である(7)から(9)のいずれかに記載の形質転換植物の作出方法。
【0020】
(11) 植物体に存在する以下の(a)〜(c)のいずれかのタンパク質をコードする遺伝子が破壊または発現抑制された変異植物。
(a) 配列番号2または4に示すアミノ酸配列からなるタンパク質
(b) 配列番号2または4に示すアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつメチオニン由来グルコシノレート生合成抑制活性を有するタンパク質
(c) 配列番号2または4に示すアミノ酸配列に対して80%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつメチオニン由来グルコシノレート生合成抑制活性を有するタンパク質
【0021】
(12) 前記遺伝子の破壊または発現抑制が二重遺伝子破壊または二重遺伝子発現抑制である、(11)に記載の変異植物。
【0022】
(13) 植物体に存在する以下の(d)〜(f)のいずれかの遺伝子が破壊または発現抑制された変異植物。
(d) 配列番号1または3に示す塩基配列からなるDNAを含む遺伝子
(e) 配列番号1または3に示す塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつメチオニン由来グルコシノレート生合成抑制活性を有するタンパク質をコードするDNAを含む遺伝子
(f) 配列番号1または3に示す塩基配列に対して80%以上の相同性を有する塩基配列からなり、かつメチオニン由来グルコシノレート生合成抑制活性を有するタンパク質をコードするDNAを含む遺伝子
【0023】
(14) 前記遺伝子の破壊または発現抑制が二重遺伝子破壊または二重遺伝子発現抑制である、(13)に記載の変異植物。
【0024】
(15) 変異植物がメチオニン由来グルコシノレート高蓄積植物である、(11)から(14)のいずれかに記載の変異植物。
【0025】
(16) 植物が、植物体、植物器官、植物組織、または植物培養細胞である(11)から(15)のいずれかに記載の変異植物。
【0026】
(17) 植物体に存在する以下の(a)〜(c)のいずれかのタンパク質をコードする遺伝子を破壊または発現抑制させることを特徴とする、変異植物の作出方法。
(a) 配列番号2または4に示すアミノ酸配列からなるタンパク質
(b) 配列番号2または4に示すアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつメチオニン由来グルコシノレート生合成抑制活性を有するタンパク質
(c) 配列番号2または4に示すアミノ酸配列に対して80%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつメチオニン由来グルコシノレート生合成抑制活性を有するタンパク質
【0027】
(18) 前記遺伝子の破壊または発現抑制が二重遺伝子破壊または二重遺伝子発現抑制である、(17)に記載の変異植物の作出方法。
【0028】
(19) 植物体に存在する以下の(d)〜(f)のいずれかの遺伝子を破壊または発現抑制させることを特徴とする、変異植物の作出方法。
(d) 配列番号1または3に示す塩基配列からなるDNAを含む遺伝子
(e) 配列番号1または3に示す塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつメチオニン由来グルコシノレート生合成抑制活性を有するタンパク質をコードするDNAを含む遺伝子
(f) 配列番号1または3に示す塩基配列に対して80%以上の相同性を有する塩基配列からなり、かつメチオニン由来グルコシノレート生合成抑制活性を有するタンパク質をコードするDNAを含む遺伝子
【0029】
(20) 前記遺伝子の破壊または発現抑制が二重遺伝子破壊または二重遺伝子発現抑制である、(19)に記載の変異植物の作出方法。
【0030】
(21) 変異植物がメチオニン由来グルコシノレート高蓄積植物である、(17)から(20)のいずれかに記載の変異植物の作出方法。
【0031】
(22) 植物が、植物体、植物器官、植物組織、または植物培養細胞である(17)から(21)のいずれかに記載の変異植物の作出方法。
【0032】
(23) 以下の(a)〜(c)のいずれかのタンパク質、または以下の(d)〜(f)のいずれかの遺伝子の発現量を測定することを含む、グルコシノレート含有量が増加または減少した植物体を選抜する方法。
(a) 配列番号2または4に示すアミノ酸配列からなるタンパク質
(b) 配列番号2または4に示すアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつメチオニン由来グルコシノレート生合成抑制活性を有するタンパク質
(c) 配列番号2または4に示すアミノ酸配列に対して80%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつメチオニン由来グルコシノレート生合成抑制活性を有するタンパク質
(d) 配列番号1または3に示す塩基配列からなるDNAを含む遺伝子
(e) 配列番号1または3に示す塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつメチオニン由来グルコシノレート生合成抑制活性を有するタンパク質をコードするDNAを含む遺伝子
(f) 配列番号1または3に示す塩基配列に対して80%以上の相同性を有する塩基配列からなり、かつメチオニン由来グルコシノレート生合成抑制活性を有するタンパク質をコードするDNAを含む遺伝子
【0033】
(24) 以下の(a)〜(c)のいずれかのタンパク質をコードする遺伝子の発現を抑制するDNAを含む組み換えベクター。
(a) 配列番号2または4に示すアミノ酸配列からなるタンパク質
(b) 配列番号2または4に示すアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつメチオニン由来グルコシノレート生合成抑制活性を有するタンパク質
(c) 配列番号2または4に示すアミノ酸配列に対して80%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつメチオニン由来グルコシノレート生合成抑制活性を有するタンパク質
【0034】
(25) 以下の(d)〜(f)のいずれかの遺伝子の発現を抑制するDNAを含む組み換えベクター。
(d) 配列番号1または3に示す塩基配列からなるDNAを含む遺伝子
(e) 配列番号1または3に示す塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつメチオニン由来グルコシノレート生合成抑制活性を有するタンパク質をコードするDNAを含む遺伝子
(f) 配列番号1または3に示す塩基配列に対して80%以上の相同性を有する塩基配列からなり、かつメチオニン由来グルコシノレート生合成抑制活性を有するタンパク質をコードするDNAを含む遺伝子
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、シロイヌナズナに含まれる遺伝子の中に、その遺伝子発現レベルの変化によりメチオニン由来グルコシノレート(mGSL)生合成を抑制することができる遺伝子が初めて明らかにされた。本遺伝子は他のアブラナ科植物で利用することにより、植物体内のmGSL量を正逆両方に制御することが可能である。例えば、本遺伝子の欠損変異体を作出することによりmGSL量を増加させることができるため、マーカー育種などの手法により遺伝子組み換えに寄らず新品種を効率的に選抜することが可能となる。また、mGSL量を増加させた植物は、高い病虫害抵抗性や発がん抑制効果などの付加価値を備えた農作物として提供することができる。反対に、本遺伝子を高発現させることによりmGSL量を減少させることもでき、このようなmGSL量を減少させた植物は、毒性が軽減された飼料作物や硫黄発生のないクリーンなバイオ燃料製造のための原料として利用できる。mGSLの他にも植物体内で生成される含硫化合物には、薬用効果のあるもの、また、味や臭いの基となるもの(タマネギ、ニンニクの臭い成分であるアリシンなど)が多数報告されている。従って、本遺伝子を遺伝子操作することにより、農作物におけるこれらの含硫化合物量の調節できる可能性がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
1.メチオニン由来グルコシノレート生合成抑制遺伝子
本発明は、シロイヌナズナに含まれる遺伝子の中に新たに見出された植物のメチオニン由来グルコシノレート(mGSL)生合成を抑制する遺伝子の利用に関する。本遺伝子は、そのメチオニン由来グルコシノレート(mGSL)の生合成の抑制(Repression of methionine-derived glucosinolate biosynthesis)という機能に基づき、「RMG遺伝子」と命名された。
【0037】
上記のRMG遺伝子としては、MIPSコードが「At5g48850」であるシロイヌナズナ由来の遺伝子(以下、「RMG1遺伝子」という)、MIPSコードが「At1g04770」であるシロイヌナズナ由来の遺伝子(以下、「RMG2遺伝子」が挙げられる。RMG1遺伝子は、配列番号1に示す塩基配列を有し、配列番号2に示すアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする。また、RMG2遺伝子は、配列番号3に示す塩基配列を有し、配列番号4に示すアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする。
【0038】
RMG1遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列(配列番号2)に対するRMG2遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列(配列番号4)の相同性は、類似性(Similarity)にして52.6%、同一性(Identity)にして61.9%である(図2参照)。従って、配列番号2のアミノ酸配列に対して50%以上の類似性、60%以上の同一性を有するタンパク質は、RMG1遺伝子がコードするタンパク質と同様に、メチオニン由来グルコシノレート生合成抑制活性を持つ可能性が高いといえる。なお、上記の「類似性」とは、数学的アルゴリズムを用いて2つのアミノ酸配列をアラインさせた場合の、最適なアラインメントにおける、オーバーラップする全アミノ酸残基に対する同一アミノ酸および類似アミノ酸(物理化学的性質において類似したアミノ酸)の割合(%)を意味し、「同一性」とは、同じアラインメントにおける同一アミノ酸の割合(%)を意味する。
【0039】
本発明に使用するRMG遺伝子には、以下の(a)〜(c)のいずれかのタンパク質をコードする遺伝子、または(d)〜(f)のいずれかの遺伝子(以下、これらの遺伝子を総称して「RMG遺伝子」という場合がある。)が含まれる。
(a) 配列番号2または4に示すアミノ酸配列からなるタンパク質
(b) 配列番号2または4に示すアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつメチオニン由来グルコシノレート生合成抑制活性を有するタンパク質
(c) 配列番号2または4に示すアミノ酸配列に対して80%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつメチオニン由来グルコシノレート生合成抑制活性を有するタンパク質
(d) 配列番号1または3に示す塩基配列からなるDNAを含む遺伝子
(e) 配列番号1または3に示す塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつメチオニン由来グルコシノレート生合成抑制活性を有するタンパク質をコードするDNAを含む遺伝子
(f) 配列番号1または3に示す塩基配列に対して80%以上の相同性を有する塩基配列からなり、かつメチオニン由来グルコシノレート生合成抑制活性を有するタンパク質をコードするDNAを含む遺伝子
【0040】
上記の「メチオニン由来グルコシノレート生合成抑制活性」とは、硫黄欠乏(−)下で負に制御されるメチオニンを前駆体とするグルコシノレートの生合成反応を抑制し、植物体中のメチオニン由来グルコシノレートの蓄積量を低下させる活性をいう。
【0041】
上記の「1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列」について、欠失、置換若しくは付加されてもよいアミノ酸の数としては、部位特異的突然変異誘発法等の公知の変異タンパク質作製法により欠失、置換、若しくは付加できる程度の数をいい、前記した活性を保持する限り、その個数は制限されないが、通常は、たとえば、1〜20個、好ましくは1〜10個、より好ましくは1〜5個をいう。また、ここにいう「変異」は、主には公知の変異タンパク質作製法により人為的に導入された変異を意味するが、天然に存在する同様の変異であってもよい。
【0042】
また、上記の「80%以上の相同性」とは、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の相同性をいう。配列(アミノ酸配列、塩基配列)の同一性は、FASTA検索やBLAST検索により決定することができる。
【0043】
上記の「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。例えば、相同性が高い核酸、すなわち配列番号1または3に示す塩基配列と80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましく95%以上の相同性を有する核酸の相補鎖がハイブリダイズし、それより相同性が低い核酸の相補鎖がハイブリダイズしない条件が挙げられる。より具体的には、ナトリウム塩濃度が15〜750mM、好ましくは50〜750mM、より好ましくは300〜750mM、温度が25〜70℃、好ましくは50〜70℃、より好ましくは55〜65℃、ホルムアミド濃度が0〜50%、好ましくは20〜50%、より好ましくは35〜45%での条件をいう。さらに、ストリンジェントな条件では、ハイブリダイゼーション後のフィルターの洗浄条件が、通常はナトリウム塩濃度が15〜600mM、好ましくは50〜600mM、より好ましくは300〜600mM、温度が50〜70℃、好ましくは55〜70℃、より好ましくは60〜65℃である。上記のハイブリダイゼーションは、Sambrookら、Molecular Cloning,A Laboratory Manual,3rd Ed,, Cold Spring Harbor Laboratory(2001)に記載されている方法のような周知の方法で行うことができる。なお、温度が高いほど、塩濃度が低いほどストリンジェンシーは高くなり、より相同性の高いポリヌクレオチドを単離できる。
【0044】
RMG1遺伝子、RMG2遺伝子は、それぞれ配列番号1、3に基づいて設計したプライマーを用いて、cDNAライブラリーまたはゲノムDNAライブラリー等由来の核酸を鋳型としたPCR増幅を行うことにより、核酸断片として得ることができる。また当該遺伝子は、上記ライブラリー等由来の核酸を鋳型とし、当該遺伝子の一部であるDNA断片をプローブとしてハイブリダイゼーションを行うことにより、核酸断片として得ることができる。あるいは当該遺伝子は、化学合成法等の当技術分野で公知の各種の核酸配列合成法によって、核酸断片として合成してもよい。
【0045】
また、当業者であれば、Molecular Cloning(Sambrook, J. et al., Molecular Cloning :a Laboratory Manual 2nd ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, 10 Skyline Drive Plainview, NY (1989))等を参照することにより、RMG1遺伝子、RMG2遺伝子のホモログ遺伝子を容易に取得することができる。
【0046】
たとえば、アミノ酸の欠失、付加、及び置換は、上記タンパク質をコードする遺伝子に、当該技術分野で公知の手法によって変異を導入することによって行うことができる。遺伝子に変異を導入するには、Kunkel法または Gapped duplex法等の公知手法またはこれに準ずる方法により行うことができ、例えば部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット(例えばMutant-K(TAKARA社製)やMutant-G(TAKARA社製))、TAKARA社のLA PCR in vitro Mutagenesis シリーズキットを利用することができる。
【0047】
変異を導入したタンパク質がメチオニン由来グルコシノレート生合成抑制活性を持つかどうかは、配列番号2または4に示すアミノ酸配列を有するタンパク質の機能を失わせ、表現型を変化させた植物に、変異を導入したタンパク質をコードする遺伝子を導入し、それにより表現型が回復するかどうかを調べることにより判断できる。
【0048】
2. 組換えベクター
本発明における組換えベクターには、RMG遺伝子を植物細胞内で発現させるためのベクターとRMG遺伝子の植物細胞内での発現を抑制させるためのベクターが含まれ、植物体内のメチオニン由来グルコシノレート量を調節(増減)する上で、目的に応じて使用すればよい。
【0049】
植物形質転換に用いる本発明の組換えベクターは、上記1.のRMG遺伝子(以下、「目的遺伝子」ともいう)を適当なベクターに導入することにより構築することができる。本発明の組換えベクターは、目的遺伝子を含むが、必ずしも目的遺伝子の全長を含む必要はなく、目的遺伝子の一部だけを含むものであってもよい。ここで、「目的遺伝子の一部」とは、目的遺伝子のメチオニン由来グルコシノレート生合成抑制活性を持つDNA断片をいう。
【0050】
上記ベクターとしては、例えば、アグロバクテリウムを介して植物に目的遺伝子を導入することができる、pBI系、pPZP系、pSMA系のベクターなどが好適に用いられる。特にpBI系のバイナリーベクターまたは中間ベクター系が好適に用いられ、例えば、pBI121、pBI101、pBI101.2、pBI101.3等が挙げられる。バイナリーベクターとは大腸菌(Escherichia coli)及びアグロバクテリウムにおいて複製可能なシャトルベクターで、バイナリーベクターを保持するアグロバクテリムを植物に感染させると、ベクター上にあるLB配列とRB配列より成るボーダー配列で囲まれた部分のDNAを植物核DNAに組み込むことが可能である。一方、pUC系のベクターは、植物に遺伝子を直接導入することができ、例えば、pUC18、pUC19、pUC9等が挙げられる。また、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)、インゲンマメモザイクウイルス(BGMV)、タバコモザイクウイルス(TMV)等の植物ウイルスベクターも用いることができる。
【0051】
バイナリーベクター系プラスミドを用いる場合、上記のバイナリーベクターの境界配列(LB,RB)間に、目的遺伝子を挿入し、この組換えベクターを大腸菌中で増幅する。次いで、増幅した組換えベクターをAgrobacterium tumefaciens GV3101、C58、LBA4404、EHA101、EHA105あるいはAgrobacterium rhizogenes LBA1334等に、エレクトロポレーション法等により導入し、該アグロバクテリウムを植物の形質導入に用いる。
【0052】
ベクターに目的遺伝子を挿入するには、まず、精製されたDNAを適当な制限酵素で切断し、適当なベクター DNAの制限酵素部位またはマルチクローニングサイトに挿入してベクターに連結する方法などが採用される。
【0053】
また、本発明の組換えベクターには、目的遺伝子の上流、内部、あるいは下流に、プロモーター、エンハンサー、ターミネーター、バイナリーベクター系を使用するための複製開始点(TiまたはRiプラスミド由来の複製開始点など)、選抜マーカー遺伝子などを含めることができる。
【0054】
「プロモーター」としては、植物細胞において機能し、植物の特定の組織内あるいは特定の発育段階において発現を導くことのできるDNAであれば、植物由来のものでなくてもよい。具体例としては、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)35Sプロモーター、ノパリン合成酵素遺伝子のプロモーター(Pnos)、トウモロコシ由来ユビキチンプロモーター、イネ由来のアクチンプロモーター、タバコ由来PRタンパク質プロモーター、タバコ由来のリブロースビスリン酸カルボキシラーゼ(RuBisCO)プロモーター等が挙げられる。
【0055】
エンハンサーとしては、例えば、目的遺伝子の発現効率を高めるために用いられ、CaMV35Sプロモーター内の上流側の配列を含むエンハンサー領域などが挙げられる。
【0056】
ターミネーターとしては、プロモーターにより転写された遺伝子の転写を終結できる配列であればよく、例えば、ノパリン合成酵素(NOS)遺伝子のターミネーター、オクトピン合成酵素(OCS)遺伝子のターミネーター、CaMV 35S RNA遺伝子のターミネーター等が挙げられる。
【0057】
選抜マーカー遺伝子としては、例えば、アンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、ビアラホス耐性遺伝子、クロラムフェニコール耐性遺伝子などが挙げられる。これらの選抜マーカー遺伝子を利用して例えば、アンピシリン、ネオマイシン、ハイグロマイシ、ビアラホス、クロラムフェニコール等の選抜薬剤を含む培地上で目的遺伝子が導入された組換え体を簡単に選抜できるようになる。
【0058】
また、選抜マーカー遺伝子は、上記のように目的遺伝子とともに同一のプラスミドに連結させて組換えベクターを調製してもよいが、あるいは、選抜マーカー遺伝子をプラスミドに連結して得られる組換えベクターと、目的遺伝子をプラスミドに連結して得られる組換えベクターとを別々に調製してもよい。別々に調製した場合は、各ベクターを宿主にコトランスフェクト(共導入)する。
【0059】
また本発明において、RMG遺伝子の発現を抑制させるためのベクターは、RMG遺伝子の発現を抑制するDNAを適当なベクターに挿入したものである。「RMG遺伝子の発現抑制」には、RMG遺伝子の転写物量の減少およびRMG遺伝子がコードするタンパク質(翻訳産物)の減少が含まれる。RMG遺伝子発現抑制用ベクターは、目的遺伝子がRMG遺伝子の発現抑制を引き起こすDNAである以外、基本的に、プロモーター配列等のその他の要素は上記のRMG遺伝子発現ベクターと同じである。
【0060】
上記のRMG遺伝子の発現を抑制するDNAとして、該遺伝子から転写されるmRNAの全部又はその一部に対して相補的な配列を有するRNA(アンチセンスRNA)をコードするアンチセンスDNAを用いることできる。アンチセンスDNAの転写産物であるアンチセンスRNAは、宿主内に存在した場合に、その相補鎖であるRMG遺伝子のmRNAと結合し、それによってRMG遺伝子の翻訳を阻害し、発現を抑制できる。アンチセンスRNAをコードするアンチセンスDNAの塩基配列の長さは、対象となるRMG遺伝子の発現を抑制することのできる長さであれば、必ずしもRMG遺伝子mRNAの塩基配列の全長である必要はなく、一部であってもよい。一部とは、RMG遺伝子mRNAの塩基配列全長の30%、好ましくは50%、より好ましくは80%、さらに好ましくは90%に該当する長さである。
【0061】
アンチセンスDNAは、ベクターにおいてアンチセンスの方向に連結する。連結は、直接でも、またはリンカーを介した連結でもよい。アンチセンスDNAは、宿主内で転写されたときに、RMG遺伝子の転写産物であるmRNAに対してハイブリダイズするアンチセンスRNAが生成するようにベクターに連結し、該ベクターを宿主に導入する。アンチセンスRNAが生成するようにベクターに連結するには、プロモーター配列を有するDNA断片の下流にアンチセンスの方向(逆向き方向)にアンチセンスDNAを連結し、プロモーターの作動によりRNAに転写されるようにする。
【0062】
上記のRMG遺伝子の発現を抑制するDNAとして、触媒活性を有するRNA分子であるリボザイムをコードするDNAを用いることもできる。標的のRMG遺伝子mRNAを切断できるよう設計されたリボザイムコードするDNAは、植物細胞中で転写されるように前述の組換えベクター内のプロモーター及び転写終結配列に連結して用いればよい。
【0063】
上記のRMG遺伝子の発現を抑制するDNAとして、共抑制によりRMG遺伝子の発現を抑制するRNAをコードするDNA、すなわち、標的遺伝子配列と同一もしくは類似した配列を有するDNAを用いることもできる。共抑制とは、宿主に標的遺伝子と同一もしくは類似した配列を有するDNAを形質転換により導入すると、導入した外来遺伝子及び標的遺伝子の両方の発現が抑制される現象のことをいう。共抑制に用いる遺伝子は、標的遺伝子と完全に同一である必要はないが、少なくとも70%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上の配列の同一性を有する。
【0064】
上記のRMG遺伝子の発現を抑制するDNAとして、RNA干渉(RNAi)によりRMG遺伝子の発現を抑制するRNAをコードするDNA、すなわち、標的遺伝子配列と同一もしくは類似した配列を逆位反復に配置したDNAを用いることもできる。RNA干渉とは、宿主にRMG遺伝子と同一もしくは類似した配列を逆位反復に配置したDNAを形質転換により導入すると、導入DNAに由来する二本鎖RNAが発現し、標的遺伝子の発現が抑制される現象のことをいう。RNA干渉は、(1)標的遺伝子のmRNAと導入配列由来の二本鎖RNA(double-strand RNA、dsRNA)がRNA-induced silencing complex(RISC)と呼ばれる複合体を形成し、会合した配列をプライマーとして相補的なRNAが合成されるステップ、(2)内在性RNase によってこの複合体が断片化されるステップ、(3)20〜30塩基対に断片化した二本鎖RNAが二次的なRNA干渉のシグナルとして機能することによって再び標的遺伝子のmRNAを分解するステップによって進行すると考えられている(Curr. Biol., 7:R793, 1997; Curr. Biol., 6:810, 1996)。RNA干渉に用いるDNAの長さとしては、標的遺伝子の全長を使用してもよいが、少なくとも20塩基、好ましくは30塩基以上、より好ましくは50塩基以上であればよい。
【0065】
植物のRNA干渉(RNAi)にはRNAiを引き起こすdsRNAをヘアピン型dsRNAとして発現するベクターが好適に利用される。これは数塩基以上のリンカー(スペーサー)配列の両端にIR(inverted repeat:逆位反復)となるようにdsRNA形成部分に対応したDNA配列を配置し、植物体内で高発現するプロモーターによりヘアピン型dsRNAを転写し、細胞内でsiRNAを産生するシステムである。また、siRNA発現システムには上記のようなヘアピンタイプのほか、タンデムタイプもある。タンデムタイプでは、2つのプロモーターからセンスRNAとアンチセンスRNAが転写され、細胞内でハイブリダイズしてsiRNAを産生する。このようなRNAiベクターは、当該分野で周知の方法に従い、あるいは市販のRNAi用ベクターやシステム(例えば、psiRNA(Invitrogen)、pSUPER RNAi SystemTM(OligoEngine)等)を利用して容易に構築することができる。
【0066】
3.形質転換植物及びその作出方法
本発明の形質転換植物は、上記組換えベクターを対象植物に導入することによって作出することができる。本発明において「遺伝子の導入」とは、例えば公知の遺伝子工学的手法により、目的遺伝子を上記宿主植物の細胞内に発現可能な形で導入することを意味する。ここで導入された遺伝子は、宿主植物のゲノムDNA中に組み込まれてもよいし、外来ベクターに含有されたままで存在していてもよい。
【0067】
上記組換えベクターを植物中に導入する方法としては、既に報告され、確立されている種々の方法を適宜利用することができ、例えば、アグロバクテリウム法、PEG−リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法、リポソーム法、パーティクルガン法、マイクロインジェクション法等が挙げられる。アグロバクテリウム法を用いる場合は、プロトプラストを用いる場合、組織片を用いる場合、及び植物体そのものを用いる場合(in planta法)がある。プロトプラストを用いる場合は、TiプラスミドないしはRiプラスミドをもつアグロバクテリウム(それぞれAgrobacterium tumefaciensまたはAgrobacterium rhizogenes)と共存培養する方法、スフェロプラスト化したアグロバクテリウムと融合する方法(スフェロプラスト法)、組織片を用いる場合は、対象植物の無菌培養葉片(リーフディスク)に感染させる方法やカルス(未分化培養細胞)に感染させる等により行うことができる。また種子あるいは植物体を用いるin planta法を適用する場合、すなわち植物ホルモン添加の組織培養を介さない系では、吸水種子、幼植物(芽生え)、鉢植え植物などへのアグロバクテリウムの直接処理等にて実施可能である。これらの植物形質転換法は、「島本功、岡田清孝 監修、新版 モデル植物の実験プロトコール 遺伝学的手法からゲノム解析まで(2001)、秀潤社」などの一般的な教科書の記載に従って行うことができる。
【0068】
遺伝子が植物体に組み込まれたか否かの確認は、PCR法、サザンハイブリダイゼーション法、ノーザンハイブリダイゼーション法、ウェスタンブロッティング法等により行うことができる。例えば、形質転換植物からDNAを調製し、RMG遺伝子特異的プライマーを設計してPCRを行う。PCRを行った後は、増幅産物についてアガロースゲル電気泳動、ポリアクリルアミドゲル電気泳動またはキャピラリー電気泳動等を行い、臭化エチジウム、SYBR Green液等により染色し、そして増幅産物を1本のバンドとして検出することにより、形質転換されたことを確認することができる。また、予め蛍光色素等により標識したプライマーを用いてPCRを行い、増幅産物を検出することもできる。さらに、マイクロプレート等の固相に増幅産物を結合させ、蛍光または酵素反応等により増幅産物を確認する方法でもよい。
【0069】
あるいは、種々のレポーター遺伝子、例えばベータグルクロニダーゼ(GUS)、ルシフェラーゼ(LUC)、グリーンフルオレッセントプロテイン(GFP)、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)、ベータガラクトシダーゼ(LacZ)等の遺伝子をRMG遺伝子の下流域に連結したベクターを作製し、該ベクター導入したアグロバクテリムを用いて上記と同様にして植物を形質転換させ、該レポーター遺伝子の発現を測定することによっても確認できる。
【0070】
メチオニン由来グルコシノレート生合成系は、シロイヌナズナだけでなく、広くアブラナ科植物において存在が確認されている。従って、それらの植物においてRMG遺伝子は、シロイヌナズナの場合と同様に、メチオニン由来グルコシノレート生合成の抑制因子として機能すると考えられる。従って、本発明において形質転換に用いられる好適な植物としては、アブラナ科植物、たとえば、シロイヌナズナ、キャベツ、アブラナ、セイヨウアブラナ、ナタネ、カリフラワー、ハボタン、ブロッコリー、ハクサイ、コマツナ、カブ、ミズナ、チンゲンサイ、コールラビ、ハゴロモカンラン(ケール)、ダイコン、ナズナ、ワサビ等が挙げられるが、これらの植物に限定されるものではない。
【0071】
本発明において、形質転換の対象とする植物材料としては、茎、葉、種子、胚、胚珠、子房、茎頂等の植物器官、葯、花粉等の植物組織やその切片、未分化のカルス、それを酵素処置して細胞壁を除いたプロプラスト等の植物培養細胞のいずれであってもよい。またin planta法適用の場合、吸水種子や植物体全体を利用できる。
【0072】
本発明において、形質転換植物とは、植物体全体、植物器官(例えば葉、花弁、茎、根、穀実、種子等)、植物組織(例えば表皮、師部、柔組織、木部、維管束等)、または植物培養細胞(例えばカルス)のいずれをも意味するものである。
【0073】
植物培養細胞を対象とする場合において、得られた形質転換細胞から形質転換体を再生させるためには既知の組織培養法により器官または個体を再生させればよい。このような操作は、植物細胞から植物体への再生方法として一般的に知られている方法により、当業者であれば容易に行うことができる。植物細胞から植物体への再生については、例えば、以下のように行うことができる。
【0074】
まず、形質転換の対象とする植物材料として植物組織またはプロトプラストを用いた場合、これらを無機要素、ビタミン、炭素源、エネルギー源としての糖類、植物生長調節物質(オーキシン、サイトカイニン、ジベレリン、アブシジン酸、エチレン、ブラシノステロイド等の植物ホルモン)等を加えて滅菌したカルス形成用培地中で培養し、不定形に増殖する脱分化したカルスを形成させる(以下「カルス誘導」という)。このように形成されたカルスをオーキシン等の植物生長調節物質を含む新しい培地に移しかえて更に増殖(継代培養)させる。
【0075】
カルス誘導は寒天等の固型培地で行い、継代培養は例えば液体培養で行うと、それぞれの培養を効率良くかつ大量に行うことができる。次に、上記の継代培養により増殖したカルスを適当な条件下で培養することにより器官の再分化を誘導し(以下、「再分化誘導」という)、最終的に完全な植物体を再生させる。再分化誘導は、培地におけるオーキシン等の植物生長調節物質、炭素源等の各種成分の種類や量、光、温度等を適切に設定することにより行うことができる。かかる再分化誘導により、不定胚、不定根、不定芽、不定茎葉等が形成され、更に完全な植物体へと育成させる。あるいは、完全な植物体になる前の状態(例えばカプセル化された人工種子、乾燥胚、凍結乾燥細胞及び組織等)で貯蔵等を行ってもよい。
【0076】
本発明の形質転換植物は、RMG遺伝子を導入した植物体(形質転換された細胞やカルスから再生された植物体を含む)の有性生殖または無性生殖により得られる子孫の植物体、及びその子孫植物体の組織や器官等の一部(種子、プロトプラストなど)も包含するものとする。
【0077】
上記のようにして得られる形質転換植物は、RMG遺伝子が過剰発現される結果、野生型の植物よりも植物体中のメチオニン由来グルコシノレート量が減少するので、たとえば、硫黄化合物の発生のないバイオ燃料の採取植物として利用できる。
【0078】
4.変異植物及びその作出方法
本発明の変異植物は、植物中に存在するRMG遺伝子を破壊または発現抑制することにより作出できる。RMG遺伝子を破壊する方法としては、例えば、T-DNAの挿入、トランスポゾンの挿入、速中性子線照射、イオンビーム照射、EMSなどの化学変異剤処理などによりによりRMG遺伝子に変異又は欠失を導入し、ノックアウト変異体を作製する方法が挙げられる。なお、例えばNottingham Arabidopsis Stock Center (http://nasc.nott.ac.uk/)より入手可能なT-DNAが挿入されたシロイヌナズナRMG遺伝子ノックアウト変異体など、入手可能なRMG遺伝子ノックアウト変異体を使用してもよい。ここで、RMG遺伝子の破壊には、たとえば前記RMG1遺伝子またはRMG2遺伝子のいずれかの遺伝子の破壊(一重遺伝子破壊)のみならず、RMG1遺伝子とRMG2遺伝子の双方の遺伝子の破壊(二重遺伝子破壊)をも含む。
【0079】
また、RMG遺伝子を発現抑制(転写レベル又は翻訳レベルで低下)する方法としては、例えば、アンチセンス法、RNAi (RNA interference)法、共抑制法、リボザイム法等が挙げられる。ここで、RMG遺伝子の発現抑制には、たとえば前記RMG1遺伝子またはRMG2遺伝子のいずれかの遺伝子の発現抑制(一重遺伝子発現抑制)のみならず、RMG1遺伝子とRMG2遺伝子の双方の遺伝子の発現抑制(二重遺伝子発現抑制)をも含む。
【0080】
アンチセンス法、RNAi (RNA interference)法、共抑制法、リボザイム法は、それぞれ前項に記載した組み換えベクターを対象植物細胞に導入することにより行うことができる。対象植物へのベクターの導入は、前述したとおり、アグロバクテリウム法、ポリエチレングリコール法、エレクトロポレーション法等を用いることができ、形質転換された植物は、ベクター内に連結されたレポーター遺伝子や選抜マーカー遺伝子により容易に選抜される。
【0081】
変異植物の作出対象とする植物は、前記形質転換植物の作出対象植物と同様の植物を対象とすることができる。
【0082】
上記のようにして得られる変異植物は、RMG遺伝子の発現が抑制される結果、野生型の植物よりも植物体中のメチオニン由来グルコシノレート量が増加するので、たとえば、発がん抑制効果のある植物として利用できる。
【0083】
5.グルコシノレート含有量が増加または減少した植物体の選抜方法
上記RMG遺伝子は、植物体におけるグルコシノレート含有量の指標遺伝子として利用できる。従って、本発明によれば、上記RMG遺伝子の発現量を測定することを含む、グルコシノレート含有量が増加または減少した植物体を選抜する方法もまた提供される。
【0084】
遺伝子の発現量は、遺伝子の転写物であるmRNAの量、該mRNAから逆転写したcDNAの量のいずれを測定してもよい。植物組織又は細胞からのRNAの抽出は、当該技術分野において通常用いられる手法、例えば、グリオキザール法、グアニジン チオシナネート-塩化セシウム法、塩化リチウム−尿素法、プロテイナーゼK-デオキシリボヌクレアーゼ法、AGPC法(アシッドグアニジウム−フェノール−クロロホルム法)などにより、粗RNA 画分を抽出調製する。RNA の抽出は、市販のキット(Total RNA Extraction Kit;Amersham製)を用い、当該キットに添付される抽出プロトコルを改良した独自のプロトコルに従って行ってもよい。次いで、この粗RNA 画分から、オリゴdT-セルロースやセファロース2Bを担体とするポリ U-セファロースなどを用いたアフィニティーカラム法、あるいはバッチ法によりポリ(A)+RNA (mRNA )を得ることができる。さらに、ショ糖密度勾配遠心法などによりmRNA をさらに分画してもよい。このようにして得られたmRNA を鋳型として、市販のキット(例えば、ZAP-cDNASynthesis Kit(STRATAGENE社製))を用い、オリゴdT20及び逆転写酵素によって一本鎖cDNAを合成した後、該一本鎖cDNAからDNA合成酵素I、DNAリガーゼ及びRnaseH等を用いて二本鎖cDNAを合成する。
【0085】
本発明において、遺伝子の発現量の測定は、公知の遺伝子発現解析方法に従って行うこができる。例えば、上記の指標遺伝子にハイブリダイズするオリゴ(ポリ)ヌクレオチドをプローブとしたハイブリダイゼーション法、又は指標遺伝子にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドをプライマーとした遺伝子増幅法等を利用することができる。具体的には、ドットブロット法、ノーザンブロット法、RNアーゼプロテクションアッセイ法、RT-PCR法、DNAマイクロアレイ法などが挙げられる。
【0086】
上記測定に用いられるプライマー(セット)は、指標遺伝子であるRMG遺伝子の各塩基配列に基づき設計し、合成・精製の各工程を経て調製することができる。プライマーのサイズ(塩基数)は、鋳型DNAとの間の特異的なアニーリングが可能とするために、15〜40塩基、好ましくは20〜30塩基である。プライマーの設計は、センス鎖(5'末端側)とアンチセンス鎖(3'末端側)からなる1組あるいは1対(2本)のプライマーが互いにアニールしないよう、両プライマー間の相補的配列を避けると共に、プライマー内のヘアピン構造の形成を防止するため自己相補配列をも避けるようにする。さらに、鋳型DNAとの安定な結合を確保するため、GC含量を約50%にし、プライマー内においてGC-richあるいはAT-richが偏在しないようにする。アニーリング温度はTm(melting temperature)に依存するので、特異性の高いPCR産物を得るため、Tm値が55〜65℃で互いに近似したプライマーを選定する。また、PCRにおけるプライマー使用の最終濃度が約0.1〜1μMになるよう調整する等を留意することも必要である。また、プライマー設計用の市販のソフトウェア、例えばOligoTM[National Bioscience Inc.(米国)製]、GENETYX[ソフトウェア開発(株)(日本)製]等を用いることもできる。また、プローブとしては、指標遺伝子の塩基配列の連続する部分配列からなるポリ(オリゴ)ヌクレオチド、あるいは、指標遺伝子の塩基配列に対する相補配列の連続する部分配列からなるポリ(オリゴ)ヌクレオチド断片が用いられる。プローブの長さは特に限定されないが、例えば15塩基以上、好ましくは20塩基以上であれば目的とする遺伝子の間で特異的なハイブリッドを形成できる。上記ヌクレオチド断片は、例えば、各塩基配列を有するポリヌクレオチド(cDNA)を適当な制限酵素で切断するか、あるいは、周知の化学合成技術により、in vitroにおいて合成することができる。
【0087】
上記ヌクレオチド断片をプローブとして使用する場合、標識物質により標識化する。標識物質は、特に限定はされないが、例えば、蛍光物質、放射性同位体、酵素、アビジン若しくはビオチンなどを用いることができる。蛍光物質としては、フルオレッセンスイソチオシアネート(FITC)、テトラメチルローダミンイソチオシアネート(TRIC)、シアニン色素(例えば、Cy DyeTMシリーズのCy3、Cy5等)などが挙げられ、酵素としては、ペルオキシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、アルカリホスファターゼなどが挙げられ、放射性同位体としては、125IやHなどが挙げられる。
【0088】
また本発明スクリーニング方法の別の態様として、指標遺伝子によりコードされるタンパク質(指標タンパク質)の発現量を測定することにより行うこともできる。
【0089】
本発明において、指標タンパク質の発現量の測定は、公知のタンパク質発現解析方法に従って行うことができる。例えば、SDSポリアクリルアミド電気泳動法、2次元電気泳動法、ウェスタンブロッティング法、ドットブロッティング法、免疫沈降法、酵素免疫測定法(ELISA; enzyme-linked immunosorbent assay)、蛍光抗体法等が挙げられる。
【実施例】
【0090】
以下、実施例によって本発明を更に具体的に説明するが、これらの実施例は本発明を限定するものでない。
【0091】
〔材料及び方法〕
後記各実施例において用いた材料及び方法は以下のとおりである。
【0092】
(1) 植物の育成
実験にはシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana; 特に表記のない場合、コロンビア株Col)を用いた。植物の育成はMGRL寒天培地上(M.Y. Hirai, T. Fujiwara, M. Chino and S. Naito (1995) Effects of sulfate concentrations on the expression of a soybean seed storage protein gene and its reversibility in transgenic Arabidopsis thaliana. Plant Cell Physiol. 36: 1331-1339.)、22℃下で16時間/8時間の明暗サイクルのもとに行った。硫黄欠乏培地は、MGRL培地中に含まれる硫酸塩を塩化物塩に置き換えることにより作製した。硫黄十分、硫黄欠乏培地として硫酸イオンをそれぞれ1500μM、15μM含む培地を用いた。特に表記のない場合、実験には播種後10日目の植物の根を用いた。
【0093】
(2) RMG遺伝子欠損変異株の取得
RMG1(At5g48850)の遺伝子欠損変異株としてSALK_145035(RMG1KO-1)、SALK_099766(RMG1KO-2)を、RMG2(At1g04770)の遺伝子欠損変異株としてSALK_091618(RMG2KO-1)、SALK_110128(RMG2KO-2)を、Arabidopsis Biological Resource Centerより入手した。各植物系統よりゲノムDNAを抽出し、PCR法によりRMG1、RMG2のコード領域内にT-DNAが挿入されていることを確認した。T-DNAがホモで挿入されている植物について次世代の種子を取得後、植物体においてRMG1mRNA、RMG2mRNAが発現していないことを確認し、遺伝子欠損変異株として使用した。RMG1、RMG2の遺伝子欠損変異株を掛け合わせ、F2世代の植物においてT-DNAの挿入およびmRNAの発現がないことを確認することにより、二重遺伝子欠損変異株を取得した。掛け合わせに用いた植物系統の組み合わせにより、各二重遺伝子欠損変異株をWKO-1 (RMG1KO-1、RMG2KO-1の掛け合わせによる)、WKO-2 (RMG1KO-1、RMG2KO-2の掛け合わせによる)、WKO-3 (RMG1KO-2、RMG2KO-1の掛け合わせによる)、WKO-4 (RMG1KO-2、RMG2KO-2の掛け合わせによる)と名付けた。
【0094】
(3) RMG過剰発現株の作製
RMG1またはRMG2のコード領域をPCRにより増幅し、In-FusionTM2.0 PCR Cloning Kits (Clontech, Palo Alto, CA, USA)を用いてpSMAHに導入し、35Sプロモーターの制御下でRMG1またはRMG2を過剰発現する植物形質転換用ベクターを作製した。実験に用いたプライマーの配列を以下に示す。
RMG1oxF: 5’-gagagaacacgggggactctagATGGAGAGAAGCTTGAAGAAGACGA-3’(配列番号5)
RMG1oxR: 5’-aacgatcggggaaattcgagctCTAGCAAACTAATGTATTTCTAAAAGACGAGATCTGT-3’(配列番号6)
RMG2oxF: 5’-gagagaacacgggggactctagATGATGATGATGATTCAGAGAAGAGGA-3’(配列番号7)
RMG2oxR: 5’-aacgatcggggaaattcgagctcTCAACAAGCCAATTGATCTCTCAGTGGT-3’(配列番号8)
【0095】
作製した植物形質転換用ベクターを迅速凍結融解法によりアグロバクテリウムAgrobacterium tumefaciens GV3101 (pMP90) に導入した(C. Koncz and J. Schell (1986) The promoter of T-DNA gene 5 controls the tissue-specific expression of chimaeric genes carried by a novel types of Agrobacterium binary vector. Mol. Gen. Genet. 204: 383-396.)。シロイヌナズナの形質転換はフローラルディップ法により行った(S.J. Clough and A.F. Bent (1998) Floral dip: a simplified method for Agrobacterium-mediated transformation of Arabidopsis thaliana. Plant J. 16: 735-743.)。形質転換植物の選抜を25 mg/lのハイグロマイシンを含むGM培地上で行い(D. Valvekens, M. Van Montagu and M. Van Lijsebettens (1988) Agrobacterium-mediated transformation of Arabidopsis thaliana root explants by using kanamycin selection. Proc. Natl Acad. Sci. USA 85: 5536-5540.)、得られたT3 世代の形質転換植物を用いて実験を行った。
【0096】
(4) Real Time RT-PCRによるmRNAレベルの定量
トータルRNAの抽出にはRNeasy Plant Mini Kit (Qiagen, Hilden, Germany)を用いた。トータルRNAをDNase (Invitrogen, Groningen, Netherland)処理後、逆転写反応をOmniscript RT Kit (Qiagen)とoligo-d(T)12-18 (Invitrogen)を用いて行い、cDNAを作製した。cDNAを鋳型に、SYBRTMPremix Ex TaqTM II (Perfect Real Time) (Takara-Bio, Tokyo, Japan)を用いてPCR反応液を作製し、Applied Biosystems 7500 リアルタイム PCR System (Applied Biosystems, Warrington, UK)を用いて定量的PCRを行い、各遺伝子の相対的なmRNA量を定量した。実験に用いた遺伝子特異的プライマーは以下の通りである。
(RMG1特異的プライマー)
RMG1-122F: 5’- TCAGAGCCAAACATGCTCAGTT-3’ (配列番号9)
RMG1-239R: 5’- ACAACAGCCATGTCCTTGAGG-3’ (配列番号10)
(RMG2特異的プライマー)
RMG2-103F:5’- CGAGCGAAGCATGTTCAGTTG-3’ (配列番号11)
RMG2-256R:5’- CGTCAATGGCTTCTTCAGCTCT-3’ (配列番号12)
(BCAT特異的プライマー)
BCAT-742F:5’- CAGAAGATGGTCGGATTCTGCTA-3’ (配列番号13)
BCAT-995R:5’- GGCAAAAGCTGTGAAGGTGGT-3’ (配列番号14)
(MAML特異的プライマー)
MAML-1563F:5’- ACACGCCAAATCATGGCTACC-3’ (配列番号15)
MAML-1800R:5’- CTTTCACAGCGTGACGTCCA-3’ (配列番号16)
(CYP79F2特異的プライマー)
CYP79F2-1326F:5’- CCCATAATAGACGAGAGGGTCGAAA-3’ (配列番号17)
CYP79F2-1491R:5’- CGATCGCTGCTATACAAAATTCG-3’ (配列番号18)
(UBQ2特異的プライマー)
UBQ2-144F:5’-CCAAGATCCAGGACAAAGAAGGA-3’ (配列番号19)
UBQ2-372R:5’-TGGAGACGAGCATAACACTTGC-3’ (配列番号20)
【0097】
(5)グルコシノレートの測定
植物サンプルを取得し、2mLのエッペンドルフチューブに入れ秤量した後、液体窒素で凍らせた。各エッペンドルフチューブに10倍量の(100mg 生重量あたり500μL)抽出液(80% メタノール:20% milliQ水)を加え、mixer mill MM300 (Retsch)を用いて4℃で破砕した。3分間の破砕の後、遠心により細胞残渣を取り除いた。抽出液250μLを真空乾燥後、125μL milliQ水に溶解し、NANOSEP MF GHP 0.45μm (PALL Life Sciences) を用いて限外濾過を行い、濾過後の標品を代謝物の測定に用いた。
【0098】
グルコシノレートの測定は、Mellonらの方法(Mellon, F.A., Bennett, R.N., Holst, B., and Williamson, G. (2002) Intact glucosinolate analysis in plant extracts by programmed cone voltage electrospray LC/MS: performance and comparison with LC/MS/MS methods. Anal. Biochem. 306, 83-91.)を改良し、液体クロマトグラフィー-マススペクトロメトリーを用いて行った。標品10μLをAcquity UPLC システム (Waters) に添加し、SunFire C18カラム (2.1 x 150-mm 直径;Waters)を用いて分離した。分離は溶液A (0.1% trifluoroacetic acid in H2O)と 溶液B (0.1% trifluoroacetic acid in methanol)を用いて、0から2% 溶液B (8分), 2から30% 溶液 B (12分), 30から100% 溶液B (18分), 100% 溶液B (7分), 100% 溶液A (5分)の直線的濃度勾配により行った。溶出は、毎分0.2 mL、30℃で行った。代謝物は、紫外線吸収(210-400 nm)により検出し、グルコシノレート特異的な[M-H]-イオンは Q-Tof Premier time-of-flight (TOF) mass analyzer (Micromass)を用いて検出した。電子スプレイによる検出は2.8 kVで行った。
【0099】
4-メチルスルフィニルブチルグルコシノレート(4MSOB)及び4-メチルチオブチルグルコシノレート(4MTB)のピークは、標準標品の溶出時間、紫外線吸収、m/z 値及びマスのフラグメンテーションパターンにより決定した。他のメチルスルフィニルアルキルグルコシノレート(MSOX)、メチルチオアルキルグルコシノレート(MTX)は、紫外線吸収、m/z 値及びマスのフラグメンテーションパターンにより決定した。グルコシノレートの定量は、シニグリンの[M-H]- イオンの値を標準値として計算した。
【0100】
〔実験結果〕
(実施例1)硫黄欠乏に応じて発現の上昇する機能未知遺伝子RMG1、RMG2
本発明者は、硫黄十分条件で育てた植物を硫黄十分、硫黄欠乏の条件に移した際に、硫黄欠乏により発現の上昇する遺伝子群を見出している(A. Maruyama-Nakashita, Y. Nakamura, A. Watanabe-Takahashi, E. Inoue, T. Yamaya and H. Takahashi (2005) Identification of a novel cis-acting element conferring sulfur deficiency response in Arabidopsis roots. - The Plant J. 42: 305-314.)。この中には硫酸イオントランスポーターやAPS還元酵素など、特定の機能を持つ遺伝子が複数ずつ含まれる。また、この遺伝子群の約半数が機能の分からない遺伝子であった。
【0101】
そこで、この機能未知遺伝子の中にも遺伝子族として硫黄欠乏に応じて発現の上昇するものがあれば、硫黄同化系の促進やグルコシノレート(GSL)生合成の抑制など、硫黄欠乏に対する適応に重要な役割を果たすのではないかと予測した。そこで、硫黄欠乏により発現の上昇する機能未知遺伝子群についてBLASTサーチを行った結果、構造の似た遺伝子RMG1(At5g48850)とRMG2(At1g04770)がともに硫黄欠乏により発現が上昇することを見出した(図1B)。RMG1と相同な遺伝子は、シロイヌナズナのゲノム中にRMG2を含めて4つ存在している(図1A)。このうち、RMG1、RMG2、RMG1-like(At3g51280)は、Male Sterility 5 (MS5, At5g44330)、MS5-like (At4g20900)とは相同性が低く(図2)、系統樹上においても異なる枝に存在する(図1A)。RMG1とRMG2、RMG1-like、MS5、MS5-likeのアミノ酸レベルの相同性は、Similarityにしてそれぞれ52.6%、34.4%、32.2%、37.4%、Identityにしてそれぞれ61.9%、42.6%、24.2%、29.0%であった。MS5はその遺伝子欠損により雄性不稔を引き起こす遺伝子としてすでに報告されている(J. Glover, M. Grelon, S. Craig, A. Claudhury and E. Dennis. (1998) Cloning and characterization of MS5 from Arabidopsis: a gene critical in male meiosis. - The Plant J. 15: 345-356.)。
【0102】
(実施例2)RMG1、RMG2の遺伝子欠損変異株におけるメチオニン由来グルコシノレートの蓄積
RMG1、RMG2の植物における機能を解明する目的でこれらの遺伝子について遺伝子欠損変異体を各2系統ずつ選抜した(RMG1-1, RMG1-2, RMG2-1, RMG2-2)。また、各遺伝子欠損変異体を掛け合わせることにより、二重遺伝子欠損変異体(WKO1,WKO2,WKO3,WKO4)を取得した。RMG1、RMG2が硫黄欠乏に対する適応に重要な役割を果たす遺伝子であれば、これらの遺伝子欠損変異株において、硫黄同化系遺伝子の発現促進やGSL生合成遺伝子の発現抑制などの硫黄欠乏時に起きる遺伝子発現変化が阻害される可能性がある。そこで、硫黄同化系遺伝子、GSL生合成遺伝子のうち、硫黄欠乏によって発現が変化する代表的なものについてReal Time PCR法により硫黄十分(+S)、硫黄欠乏(-S)条件下でのmRNA量を解析した(図3)。その結果、硫黄同化系遺伝子については大きな差が認められなかった(データは示していない)。これに対し、メチオニン由来グルコシノレート(mGSL)生合成で働く酵素遺伝子の代表的なもの、BCAT (Branched chain amino acid aminotransferase, At3g19710)、MAML (Methyl-thio-alkylmalate synthase, At5g23010)、CYP79F2 (chytochrome P450 79F2, At1g16400)については、野生株で認められる-S条件下での発現抑制がRMG1、RMG2およびWKOで阻害されるばかりか、逆に-S条件下での発現促進が認められた。RMG1、RMG2では顕著な変化が認められなかったが、RMG1、RMG2よりもWKOでこの傾向が著しいことから、RMG2についてもRMG1と同様の機能を持つと考えられる。
【0103】
上記の遺伝子発現レベルの解析結果は、-S条件下で起きるmGSL生合成の抑制がRMG1、RMG2により制御されることを示唆している。そこで、実際に-S条件下におけるmGSL量の減少がこれらの遺伝子欠損変異体においては起こらなくなっていることを検証するため、+S、-S条件下におけるGSLの蓄積量を測定した(図4、図5)。その結果、RMG1、RMG2およびWKOでは、-S条件下で起きるmGSL量の減少が抑制されるという、遺伝子発現レベルの解析結果と一致する結果が得られた。この傾向はトリプトファン由来のGSLと比べ、mGSLにおいて特に顕著であった。このことから、RMG1、RMG2がmGSL生合成の抑制因子として機能していると結論した。また、特に地上部においては、+S条件下においてもWKOで顕著なmGSL量の増加が認められた。mGSLを多く含むアブラナ科野菜では、可食部として地上部を利用するものが多いことから、この発見はmGSLを多く含む野菜の育種を行う上で非常に意義深い。
【0104】
(実施例3)RMG1、RMG2の過剰発現株におけるメチオニン由来グルコシノレートの蓄積
RMG1、RMG2の植物における機能をさらに明らかにする目的で、これらの遺伝子の過剰発現株を作出した(ORMG1-RMG1, ORMG1-RMG2)。各過剰発現株について、導入遺伝子をホモに持つT3世代3系統を得、実験に用いた。各過剰発現系統において、+S条件下におけるBCAT、MAML、CYP79F2の発現量を解析したところ、遺伝子欠損変異体について得られた結果とは逆に、これらの遺伝子発現が抑制されることが分かった(図6B)。この傾向は、ORMG1-RMG2よりもORMG1-RMG1においてより顕著であった。さらに同条件においてGSLの蓄積量を測定したところ、地上部、地下部ともにGSL量の減少が認められた(図7、8)。遺伝子欠損変異株の場合と同様に、この傾向はトリプトファン由来のGSLと比べ、mGSLにおいて特に顕著であった。このことからも、RMG1、RMG2がmGSL生合成の抑制因子として機能していることが支持され、この遺伝子の発現を制御することによりmGSL量を正逆両方に制御することが可能であることが証明された。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1A】図1Aは、シロイヌナズナゲノム上に存在するRMG1相同遺伝子の分子系統樹を示す。
【図1B】図1Bは、硫黄十分(S1500)、硫黄欠乏(S15)条件下におけるRMG1、RMG2および相同遺伝子の発現を示す。
【図2−1】図2−1は、RMG1相同遺伝子により予測されるアミノ酸配列のClustal Wによるアライメントを示す(60%以上で保存されているアミノ酸を黒地に白い文字で示す)。
【図2−2】図2−2は、RMG1相同遺伝子により予測されるアミノ酸配列のClustal Wによるアライメント(続き)を示す(60%以上で保存されているアミノ酸を黒地に白い文字で示す)。
【図3】図3は、RMG1およびRMG2遺伝子欠損変異株におけるmGSL生合成酵素(BCAT, MAML, C97F2)の遺伝子発現を示す。
【図4】図4の上段は、RMG1およびRMG2遺伝子欠損変異株の地上部におけるGSL(MTX:メチルチオアルキルグルコシノレート)の蓄積を示す(上から順に8MTO: 8-メチルチオオクチルグルコシノレート、7MTH: 7-メチルチオヘプチルグルコシノレート、6MTH: 6-メチルチオヘキシルグルコシノレート、5MTP: 5-メチルチオペンチルグルコシノレート、4MTB: 4-メチルチオブチルグルコシノレート)。図4の中段は、RMG1およびRMG2遺伝子欠損変異株の地上部におけるGSL(MSOX:メチルスルフィニルアルキルグルコシノレート)の蓄積を示す(上から順に、8MSOO: 8-メチルスルフィニルオクチルグルコシノレート、7MSOH: 7-メチルスルフィニルヘプチルグルコシノレート、6MSOH: 6-メチルスルフィニルヘキシルグルコシノレート、5MSOP: 5-メチルスルフィニルペンチルグルコシノレート、4MSOB: 4-メチルスルフィニルブチルグルコシノレート、3MSOP: 3-メチルスルフィニルオクチルペンチルグルコシノレート)。図4の下段は、RMG1およびRMG2遺伝子欠損変異株の地上部におけるGSL(Trp-derived GS:Trp-由来インドールグルコシノレート)の蓄積を示す(上から順に、4MOI3M: 4-メトキシインドール-3-イルメチルグルコシノレート、1MOI3M: 1-メトキシインドール-3-イルメチルグルコシノレート、I3M: インドール-3-イルメチルグルコシノレート)。
【図5】図5の上段は、RMG1およびRMG2遺伝子欠損変異株の地下部におけるGSL(MTX:メチルチオアルキルグルコシノレート)の蓄積を示す(上から順に8MTO: 8-メチルチオオクチルグルコシノレート、7MTH: 7-メチルチオヘプチルグルコシノレート、6MTH: 6-メチルチオヘキシルグルコシノレート、5MTP: 5-メチルチオペンチルグルコシノレート、4MTB: 4-メチルチオブチルグルコシノレート)。図5の中段は、RMG1およびRMG2遺伝子欠損変異株の地下部におけるGSL(MSOX:メチルスルフィニルアルキルグルコシノレート)の蓄積を示す(上から順に、8MSOO: 8-メチルスルフィニルオクチルグルコシノレート、7MSOH: 7-メチルスルフィニルヘプチルグルコシノレート、6MSOH: 6-メチルスルフィニルヘキシルグルコシノレート、5MSOP: 5-メチルスルフィニルペンチルグルコシノレート、4MSOB: 4-メチルスルフィニルブチルグルコシノレート、3MSOP: 3-メチルスルフィニルオクチルペンチルグルコシノレート)。図5の下段は、RMG1およびRMG2遺伝子欠損変異株の地下部におけるGSL(Trp-derived GS:Trp-由来インドールグルコシノレート)の蓄積を示す(上から順に、4MOI3M: 4-メトキシインドール-3-イルメチルグルコシノレート、1MOI3M: 1-メトキシインドール-3-イルメチルグルコシノレート、I3M: インドール-3-イルメチルグルコシノレート)。
【図6A】図6Aは、RMG1およびRMG2遺伝子過剰発現株におけるRMG1およびRMG2遺伝子発現を示す。
【図6B】図6Bは、RMG1およびRMG2遺伝子過剰発現株におけるmGSL生合成酵素(BCAT, MAML, C97F2)の遺伝子発現を示す。
【図7】図7の上段は、RMG1およびRMG2遺伝子過剰発現株の地上部におけるGSL(MTX:メチルチオアルキルグルコシノレート)の蓄積を示す(上から順に8MTO: 8-メチルチオオクチルグルコシノレート、7MTH: 7-メチルチオヘプチルグルコシノレート、6MTH: 6-メチルチオヘキシルグルコシノレート、5MTP: 5-メチルチオペンチルグルコシノレート、4MTB: 4-メチルチオブチルグルコシノレート)。図7の中段は、RMG1およびRMG2遺伝子過剰発現株の地上部におけるGSL(MSOX:メチルスルフィニルアルキルグルコシノレート)の蓄積を示す(上から順に、8MSOO: 8-メチルスルフィニルオクチルグルコシノレート、7MSOH: 7-メチルスルフィニルヘプチルグルコシノレート、6MSOH: 6-メチルスルフィニルヘキシルグルコシノレート、5MSOP: 5-メチルスルフィニルペンチルグルコシノレート、4MSOB: 4-メチルスルフィニルブチルグルコシノレート、3MSOP: 3-メチルスルフィニルオクチルペンチルグルコシノレート)。図8の下段は、RMG1およびRMG2遺伝子過剰発現株の地上部におけるGSL(Trp-derived GS:Trp-由来インドールグルコシノレート)の蓄積を示す(上から順に、4MOI3M: 4-メトキシインドール-3-イルメチルグルコシノレート、1MOI3M: 1-メトキシインドール-3-イルメチルグルコシノレート、I3M: インドール-3-イルメチルグルコシノレート)。
【図8】図8の上段は、RMG1およびRMG2遺伝子過剰発現株の地下部におけるGSL(MTX:メチルチオアルキルグルコシノレート)の蓄積を示す(上から順に8MTO: 8-メチルチオオクチルグルコシノレート、7MTH: 7-メチルチオヘプチルグルコシノレート、6MTH: 6-メチルチオヘキシルグルコシノレート、5MTP: 5-メチルチオペンチルグルコシノレート、4MTB: 4-メチルチオブチルグルコシノレート)。図8の中段は、RMG1およびRMG2遺伝子過剰発現株の地下部におけるGSL(MSOX:メチルスルフィニルアルキルグルコシノレート)の蓄積を示す(上から順に、8MSOO: 8-メチルスルフィニルオクチルグルコシノレート、7MSOH: 7-メチルスルフィニルヘプチルグルコシノレート、6MSOH: 6-メチルスルフィニルヘキシルグルコシノレート、5MSOP: 5-メチルスルフィニルペンチルグルコシノレート、4MSOB: 4-メチルスルフィニルブチルグルコシノレート、3MSOP: 3-メチルスルフィニルオクチルペンチルグルコシノレート)。図8の下段は、RMG1およびRMG2遺伝子過剰発現株の地下部におけるGSL(Trp-derived GS:Trp-由来インドールグルコシノレート)の蓄積を示す(上から順に、4MOI3M: 4-メトキシインドール-3-イルメチルグルコシノレート、1MOI3M: 1-メトキシインドール-3-イルメチルグルコシノレート、I3M: インドール-3-イルメチルグルコシノレート)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)〜(c)のいずれかのタンパク質をコードする遺伝子が導入された形質転換植物。
(a) 配列番号2または4に示すアミノ酸配列からなるタンパク質
(b) 配列番号2または4に示すアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつメチオニン由来グルコシノレート生合成抑制活性を有するタンパク質
(c) 配列番号2または4に示すアミノ酸配列に対して80%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつメチオニン由来グルコシノレート生合成抑制活性を有するタンパク質
【請求項2】
以下の(d)〜(f)のいずれかの遺伝子が導入された形質転換植物。
(d) 配列番号1または3に示す塩基配列からなるDNAを含む遺伝子
(e) 配列番号1または3に示す塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつメチオニン由来グルコシノレート生合成抑制活性を有するタンパク質をコードするDNAを含む遺伝子
(f) 配列番号1または3に示す塩基配列に対して80%以上の相同性を有する塩基配列からなり、かつメチオニン由来グルコシノレート生合成抑制活性を有するタンパク質をコードするDNAを含む遺伝子
【請求項3】
形質転換植物がメチオニン由来グルコシノレート低蓄積植物である、請求項1または2に記載の形質転換植物。
【請求項4】
植物が、植物体、植物器官、植物組織、または植物培養細胞である請求項1から3のいずれかに記載の形質転換植物。
【請求項5】
以下の(a)〜(c)のいずれかのタンパク質をコードする遺伝子を含む組み換えベクター。
(a) 配列番号2または4に示すアミノ酸配列からなるタンパク質
(b) 配列番号2または4に示すアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつメチオニン由来グルコシノレート生合成抑制活性を有するタンパク質
(c) 配列番号2または4に示すアミノ酸配列に対して80%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつメチオニン由来グルコシノレート生合成抑制活性を有するタンパク質
【請求項6】
以下の(d)〜(f)のいずれかの遺伝子を含む組み換えベクター。
(d) 配列番号1または3に示す塩基配列からなるDNAを含む遺伝子
(e) 配列番号1または3に示す塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつメチオニン由来グルコシノレート生合成抑制活性を有するタンパク質をコードするDNAを含む遺伝子
(f) 配列番号1または3に示す塩基配列に対して80%以上の相同性を有する塩基配列からなり、かつメチオニン由来グルコシノレート生合成抑制活性を有するタンパク質をコードするDNAを含む遺伝子
【請求項7】
請求項5に記載の組換えベクターを植物に導入し、該植物体で以下の(a)〜(c)のいずれかのタンパク質をコードする遺伝子を過剰発現させることを特徴とする、形質転換植物の作出方法。
(a) 配列番号2または4に示すアミノ酸配列からなるタンパク質
(b) 配列番号2または4に示すアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつメチオニン由来グルコシノレート生合成抑制活性を有するタンパク質
(c) 配列番号2または4に示すアミノ酸配列に対して80%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつメチオニン由来グルコシノレート生合成抑制活性を有するタンパク質
【請求項8】
請求項6に記載の組換えベクターを植物に導入し、該植物体で以下の(d)〜(f)のいずれかの遺伝子を過剰発現させることを特徴とする、形質転換植物の作出方法。
(d) 配列番号1または3に示す塩基配列からなるDNAを含む遺伝子
(e) 配列番号1または3に示す塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつメチオニン由来グルコシノレート生合成抑制活性を有するタンパク質をコードするDNAを含む遺伝子
(f) 配列番号1または3に示す塩基配列に対して80%以上の相同性を有する塩基配列からなり、かつメチオニン由来グルコシノレート生合成抑制活性を有するタンパク質をコードするDNAを含む遺伝子
【請求項9】
形質転換植物がメチオニン由来グルコシノレート低蓄積植物である、請求項7または8に記載の形質転換植物の作出方法。
【請求項10】
植物が、植物体、植物器官、植物組織、または植物培養細胞である請求項7から9のいずれかに記載の形質転換植物の作出方法。
【請求項11】
植物体に存在する以下の(a)〜(c)のいずれかのタンパク質をコードする遺伝子が破壊または発現抑制された変異植物。
(a) 配列番号2または4に示すアミノ酸配列からなるタンパク質
(b) 配列番号2または4に示すアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつメチオニン由来グルコシノレート生合成抑制活性を有するタンパク質
(c) 配列番号2または4に示すアミノ酸配列に対して80%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつメチオニン由来グルコシノレート生合成抑制活性を有するタンパク質
【請求項12】
前記遺伝子の破壊または発現抑制が二重遺伝子破壊または二重遺伝子発現抑制である、請求項11に記載の変異植物。
【請求項13】
植物体に存在する以下の(d)〜(f)のいずれかの遺伝子が破壊または発現抑制された変異植物。
(d) 配列番号1または3に示す塩基配列からなるDNAを含む遺伝子
(e) 配列番号1または3に示す塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつメチオニン由来グルコシノレート生合成抑制活性を有するタンパク質をコードするDNAを含む遺伝子
(f) 配列番号1または3に示す塩基配列に対して80%以上の相同性を有する塩基配列からなり、かつメチオニン由来グルコシノレート生合成抑制活性を有するタンパク質をコードするDNAを含む遺伝子
【請求項14】
前記遺伝子の破壊または発現抑制が二重遺伝子破壊または二重遺伝子発現抑制である、請求項13に記載の変異植物。
【請求項15】
変異植物がメチオニン由来グルコシノレート高蓄積植物である、請求項11から14のいずれかに記載の変異植物。
【請求項16】
植物が、植物体、植物器官、植物組織、または植物培養細胞である請求項11から15のいずれかに記載の変異植物。
【請求項17】
植物体に存在する以下の(a)〜(c)のいずれかのタンパク質をコードする遺伝子を破壊または発現抑制させることを特徴とする、変異植物の作出方法。
(a) 配列番号2または4に示すアミノ酸配列からなるタンパク質
(b) 配列番号2または4に示すアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつメチオニン由来グルコシノレート生合成抑制活性を有するタンパク質
(c) 配列番号2または4に示すアミノ酸配列に対して80%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつメチオニン由来グルコシノレート生合成抑制活性を有するタンパク質
【請求項18】
前記遺伝子の破壊または発現抑制が二重遺伝子破壊または二重遺伝子発現抑制である、請求項17に記載の変異植物の作出方法。
【請求項19】
植物体に存在する以下の(d)〜(f)のいずれかの遺伝子を破壊または発現抑制させることを特徴とする、変異植物の作出方法。
(d) 配列番号1または3に示す塩基配列からなるDNAを含む遺伝子
(e) 配列番号1または3に示す塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつメチオニン由来グルコシノレート生合成抑制活性を有するタンパク質をコードするDNAを含む遺伝子
(f) 配列番号1または3に示す塩基配列に対して80%以上の相同性を有する塩基配列からなり、かつメチオニン由来グルコシノレート生合成抑制活性を有するタンパク質をコードするDNAを含む遺伝子
【請求項20】
前記遺伝子の破壊または発現抑制が二重遺伝子破壊または二重遺伝子発現抑制である、請求項19に記載の変異植物の作出方法。
【請求項21】
変異植物がメチオニン由来グルコシノレート高蓄積植物である、請求項17から20のいずれかに記載の変異植物の作出方法。
【請求項22】
植物が、植物体、植物器官、植物組織、または植物培養細胞である請求項17から21のいずれかに記載の変異植物の作出方法。
【請求項23】
以下の(a)〜(c)のいずれかのタンパク質、または以下の(d)〜(f)のいずれかの遺伝子の発現量を測定することを含む、グルコシノレート含有量が増加または減少した植物体を選抜する方法。
(a) 配列番号2または4に示すアミノ酸配列からなるタンパク質
(b) 配列番号2または4に示すアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつメチオニン由来グルコシノレート生合成抑制活性を有するタンパク質
(c) 配列番号2または4に示すアミノ酸配列に対して80%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつメチオニン由来グルコシノレート生合成抑制活性を有するタンパク質
(d) 配列番号1または3に示す塩基配列からなるDNAを含む遺伝子
(e) 配列番号1または3に示す塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつメチオニン由来グルコシノレート生合成抑制活性を有するタンパク質をコードするDNAを含む遺伝子
(f) 配列番号1または3に示す塩基配列に対して80%以上の相同性を有する塩基配列からなり、かつメチオニン由来グルコシノレート生合成抑制活性を有するタンパク質をコードするDNAを含む遺伝子

【図1A】
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【図1B】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−284799(P2009−284799A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−140020(P2008−140020)
【出願日】平成20年5月28日(2008.5.28)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】