説明

メッキ端子圧着方法

【課題】圧着による凝着を促進させ、電気接続性能の向上を図ること。
【解決手段】端子母材の表面に電気接続性能の向上のためのスズメッキが施された圧着端子10の導体圧着部13にアルミニウム電線Wのアルミニウム製の導体Waを圧着するに際し、圧着前に、メッキしたスズが軟化しアルミニウム製の導体Waが軟化しない温度(具体的には、100〜150℃)まで圧着端子の導体圧着部13を予熱し、メッキしたスズが軟化した状態で、アルミニウム電線Wのアルミニウム製の導体Waに導体圧着部13を圧着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、銅製の端子母材の表面にスズをメッキした圧着端子にアルミニウム電線を圧着するような場合に適用するのに好適なメッキ端子圧着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
端子と電線を接続する方法として、広く圧着という方法が用いられている。圧着は、端子に設けたU字状の導体圧着部に電線の導体露出部を挿入し、その導体露出部を包み込むように導体圧着部を圧着治具等で加締めることにより、導体圧着部に電線を接続するものである。
【0003】
図2は特許文献1等において一般に知られている電線への端子の圧着方法の説明図、そして図3は端子の電線に圧着した部分の断面図である。図中10は圧着端子、100は電線、131、132は圧着治具の下型と上型である。
【0004】
圧着端子10は、その長手方向(以下、この方向を「前後方向」、これと直交する方向を「左右方向」と呼ぶ。)の一端側に相手方端子等に対する電気接続部12を備え、他端側に電線100の先端の露出導体100aに加締められる導体圧着部13と、電線の被覆100bを有する部分に加締められる被覆加締部14とを備えており、これら電気接続部12と導体圧着部13と被覆加締部14は、共通の底板部11を含むものとして構成されている。
【0005】
導体圧着部13は、電気接続部12から連続する底板部11の左右方向両側縁に、一対の導体加締片13aを起立形成した断面U字状の部分であり、その内面には、圧着端子10の左右方向に延びる複数本のセレーション(即ち、プレスにより線打ちした浅い溝)13bが設けられている。また、被覆加締部14は、底板部11の左右方向両側縁に、一対の被覆加締片14aを起立形成した断面U字状の部分であり、導体圧着部13と被覆加締部14は、前後方向に適当な間隔をおいて配置されている。
【0006】
この圧着端子10の導体圧着部13を電線100の先端の露出導体100aに圧着するには、下型131の載置面131a上に圧着端子10を載せると共に、電線100の先端の露出導体100aを導体圧着部13の導体加締片13a間に挿入し且つ底板部11上に載せる。そして、上型132を下降させることにより、上型132の案内斜面132aで導体加締片13aの先端側を徐々に内側に倒し、さらに最終的には、案内斜面132aから中央の山形部132bに連なる湾曲面で、導体加締片13aの先端を導体100a側に折り返すように丸めて、図3に示すように、それら先端同士を擦り合わせながら導体100aに食い込ませることにより、導体100aを包むように導体加締片13aを加締める。被覆加締部14については、導体圧着部13の加締めに先だって、予め前述と同様に電線100の被覆100bを有する部分に加締められる。
【0007】
このように導体加締片13aを加締めることによって導体圧着部13を電線100の導体100aに圧着した場合、圧着端子10を構成する導電性金属と電線100の導体100aとが凝着(分子や原子レベルで結合)することになり、端子10と電線100とを電気的および機械的に強く結合することができる。
【0008】
従来、圧着による接続性能の向上のために、特許文献2に示すように、圧着しようとする素線部分に、素線の材料よりも柔らかい金属粉(スズ、鉛等)を塗布しておき、その上で圧着することにより、圧着時の衝撃により金属粉を変形させて、素線の表面に凝着させながら素線間の隙間を金属粉で埋めるようにした方法が知られている。
【0009】
また、このような金属粉の塗布といった面倒な手法を用いずに、端子にメッキを施しておき、これにより圧着性能の向上を図ることも行なわれている。このようなメッキ端子を電線に圧着した場合、メッキした金属が電線の導体と端子母材とを仲介することで、より接続性能の向上が図れることが知られている。
【0010】
ところで、自動車等の車両の内部に配索されるワイヤーハーネスには、銅電線を使用するのが一般的であって、導電性や強度等の特性(物性)に劣るアルミニウム電線は使用が困難であるために、従来ではあまり使われたことがなかった。しかしながら、近年、車両の軽量化およびそれによる低燃費化と、リサイクル性に鑑みて、アルミニウム電線の使用に関する要望が高まっている。
【0011】
アルミニウム電線を使用する場合、その導体を構成するアルミニウムまたはアルミニウム合金が銅よりも機械強度や電気伝導度が劣ることから、圧着部の接続性能をより高めることが必要となる。また、アルミニウム製またはアルミニウム合金製の導体の表面には、通常、固有抵抗値の高い酸化被膜が生成されているので、圧着に際しては、酸化被膜を破りながら、導体同士(端子とアルミニウム製またはアルミニウム合金製の導体と)の十分な接触導通を図らなければならない。しかし、従来では、アルミニウム電線の使用が少ないために、それらの点の十分な検討がなされていないのが現状である。
【特許文献1】特開平7−135031号公報(図8)
【特許文献2】特開平8−321330号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
アルミニウム電線を端子に圧着する場合にも、上述した金属粉の塗布やメッキ端子の使用は、接続性能の向上に寄与するが、それだけではまだ十分な性能向上は期待できない。
【0013】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、アルミニウム電線を使用する場合に特に、圧着による凝着を促進させ、電気接続性能の向上が期待できるメッキ端子圧着方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前述した目的を達成するために、本発明に係るメッキ端子圧着方法は、下記(1)〜(6)を特徴としている。
(1) 導電性金属製の端子母材の表面に電気接続性能の向上のための金属のメッキが施された圧着端子を電線の導体に圧着するメッキ端子圧着方法であって、
前記電線の導体への前記圧着端子の圧着前に、前記端子母材にメッキした前記金属が軟化する温度まで前記圧着端子の導体圧着部を予熱し、前記金属が軟化した状態で、前記電線の導体に前記導体圧着部を圧着すること。
(2) 上記(1)のメッキ端子圧着方法において、
前記端子母材にメッキした前記金属が、前記電線の導体よりも軟化温度が低い金属であること。
(3) 上記(2)のメッキ端子圧着方法において、
前記端子母材が銅または銅合金、そして当該端子母材にメッキした前記金属がスズまたはスズ合金であり、前記導体圧着部の予熱温度を100〜150℃の範囲に設定したこと。
(4) 上記(3)のメッキ端子圧着方法において、
前記電線がアルミニウム製またはアルミニウム合金製の導体を有するアルミニウム電線であり、100〜150℃の範囲内で予熱された状態の前記導体圧着部を前記アルミニウム電線の前記導体に圧着すること。
(5) 上記(4)のメッキ端子圧着方法において、
前記アルミニウム電線の前記導体を、前記圧着端子の導体圧着部と共に同じ温度まで予熱した状態で、前記導体圧着部に前記アルミニウム電線の前記導体を圧着すること。
(6) 上記(1)〜(5)のいずれかのメッキ端子圧着方法において、
前記圧着端子が、底板部と、該底板部の両側縁から上方に延長し且つ、接続すべき電線の導体を包み込むように内側に曲げられることで前記導体を前記底板部の上面に密着した状態となるように加締める一対の導体加締片と、を有する断面U字状の前記導体圧着部を備えた端子であり、
前記電線の導体を前記底板部上に載せ、その状態で、前記一対の導体加締片を前記導体を包み込むように内側に曲げて加締めることにより、前記導体圧着部を前記電線の導体に圧着すること。
【0015】
上記(1)のメッキ端子圧着方法によれば、導電性金属製の端子母材にメッキした金属を軟化させた上で、圧着端子の導体圧着部を電線の導体に圧着することにより、端子母材にメッキした金属と電線の導体との凝着性を高めることができ、電気接続の安定を図ることができる。また、端子母材にメッキした金属が、圧着により、導体を構成する素線の表面に凝着しながら各素線間の隙間を埋めることになるため、素線間および素線と端子間の接触面積を大きくすることができて、接触抵抗の低減を図ることができる。また、圧着時の塑性変形により、端子母材にメッキした金属の新たな金属表面が導体と凝着することになるため、ガスタイト構造が得られ、接触信頼性が向上する。
上記(2)のメッキ端子圧着方法によれば、端子母材にメッキした金属が電線の導体よりも軟化温度が低い金属であるため、圧着端子と電線の導体を、端子母材にメッキした金属だけが軟化する温度に、同じ温度条件にて加熱することができる。従って、電線の導体は軟化せず、端子母材にメッキした金属だけが軟化する条件で、電線の導体と端子を圧着により接続することができ、導体圧着部の機械的強度を落とさずに、電気接続性能を高めることができる。
上記(3)のメッキ端子圧着方法によれば、銅または銅合金の端子母材にスズまたはスズ合金をメッキした端子を用い、端子の導体圧着部の予熱温度を100〜150℃の範囲に設定するので、機械的強度を確保しながら、電気接続性能の向上が図れる。
上記(4)のメッキ端子圧着方法によれば、アルミニウム電線のアルミニウム製またはアルミニウム合金製の導体に、スズメッキされた端子の導体圧着部を圧着するので、アルミニウム製またはアルミニウム合金製の導体の表面へのスズの凝着を促進させることができ、電気接続性能の向上が図れる。
上記(5)のメッキ端子圧着方法によれば、アルミニウム電線の導体と圧着端子の導体圧着部を同じ温度まで予熱し、圧着端子にメッキしたスズだけが軟化する条件下で圧着端子のアルミニウム電線への圧着を行なうので、予熱条件の安定を図ることができ、処理しやすくなる。
上記(6)のメッキ端子圧着方法によれば、電線の導体を底板部上に載せ、その状態で、一対の導体加締片を導体を包み込むように内側に曲げて加締めることにより、導体圧着部を電線の導体に圧着するので、信頼性の高い安定した圧着接続部を得ることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、端子と電線の導体の凝着を促進させることができ、端子と電線の電気接続の信頼性の向上を図れる。
【0017】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための最良の形態を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細は更に明確化されるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明に係る好適な実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0019】
図1(a)〜(c)は実施形態のメッキ端子圧着方法の工程説明図である。本実施形態では、銅または銅合金製の端子母材の表面に電気接続性能の向上のためのスズメッキが施された圧着端子10を使用する。圧着端子10の構造は、図2に示したものと同様に、前端側に相手方端子等に対する電気接続部12を有し、後端側に導体圧着部13と被覆加締部14とを有するもので、底板部11が電気接続部12から被覆加締部14まで共通している。スズメッキのメッキ厚さは、一般的な厚さの1.5μm程度である。端子母材にメッキした金属は、スズまたはスズ合金である。
【0020】
また、電線としては、アルミニウム電線Wを使用する。アルミニウム電線Wは、絶縁被覆Wbの中心にアルミニウム製の導体Waを有する。その導体Waは、撚線等の形態の複数の素線の束からなるものである。
【0021】
まず、図1(a)に示すように、アルミニウム電線Wの絶縁被覆Wbを除去して、アルミニウム製の導体Waを必要長さだけ露出させ、アルミニウム電線Wの露出した導体Wa部分を導体圧着部13の底板部11の上、そしてアルミニウム電線Wの絶縁被覆Wbを有する部分を被覆加締部14の底板部11の上に載せる。
【0022】
次に、図1(b)に示すように、端子母材にメッキした金属(スズ)が軟化する温度まで、圧着端子10の導体圧着部13を加熱手段20により予熱する。加熱手段20としては、レーザー溶着機、ヒータ、等を利用する。端子母材にメッキした金属であるスズは、アルミニウム電線Wのアルミニウム製の導体Waよりも軟化温度が低いため、予熱温度は100〜150℃の範囲に設定される。そうすると、アルミニウム製の導体Waを圧着端子10と一緒に加熱しながらも、アルミニウム製の導体Waは軟化せず、端子母材にメッキしたスズのみ軟化させることができる。
【0023】
そして、端子母材にメッキした金属であるスズが軟化した状態で、図1(c)に示すように、下型31と上型32を用いることで、アルミニウム電線Wのアルミニウム製の導体Waに導体圧着部13を圧着する。即ち、一対の導体加締片13a(図2参照。)をアルミニウム製の導体Waを包み込むように内側に曲げて加締めることにより、導体圧着部13をアルミニウム製の導体Waに圧着する。
【0024】
このように、端子母材にメッキしたスズを軟化させた上で、アルミニウム電線Wのアルミニウム製の導体Waに圧着端子10の導体圧着部13を圧着することにより、端子母材にメッキしたスズとアルミニウム製の導体Waとの凝着性を高めることができ、電気接続の安定を図ることができる。また、端子母材にメッキしたスズが、圧着により、アルミニウム製の導体Waを構成する素線の表面に凝着しながら各素線間の隙間を埋めることになるため、素線間および素線と圧着端子10間の接触面積を大きくすることができて、接触抵抗の低減を図ることができる。また、圧着時の塑性変形により、端子母材にメッキしたスズの新たな金属表面がアルミニウム製の導体Waと凝着することになるため、ガスタイト構造が得られ、接触信頼性が向上する。
【0025】
また、本実施形態では、端子母材にメッキしたスズだけが軟化する温度(即ち、100〜150℃)に予熱するので、アルミニウム電線Wのアルミニウム製の導体Waは軟化せず、メッキしたスズだけを軟化させることができ、導体圧着部の機械的強度を落とさずに、電気接続性能を高めることができる。また、圧着端子10の端子母材にメッキしたスズだけが軟化する条件下で圧着端子10のアルミニウム電線Wへの圧着を行なうので、予熱条件の安定を図ることができ処理しやすくなる。
【0026】
尚、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【0027】
例えば、アルミニウム電線Wの導体Waをアルミニウム合金製としてもよい。当該アルミニウム合金の具体例としては、アルミニウムと鉄との合金を挙げることができる。この合金を採用した場合、アルミニウム製の導体に比べて、延び易く、強度(特に引っ張り強度)を増すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施形態の工程説明図である。
【図2】一般的な圧着端子の電線への圧着方法の説明図である。
【図3】圧着部の断面図である。
【符号の説明】
【0029】
10:圧着端子
13:導体圧着部
13a:導体加締片
W:アルミニウム電線
Wa:アルミニウム製の導体
Wb:絶縁被覆

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性金属製の端子母材の表面に電気接続性能の向上のための金属のメッキが施された圧着端子を電線の導体に圧着するメッキ端子圧着方法であって、
前記電線の導体への前記圧着端子の圧着前に、前記端子母材にメッキした前記金属が軟化する温度まで前記圧着端子の導体圧着部を予熱し、前記金属が軟化した状態で、前記電線の導体に前記導体圧着部を圧着することを特徴とするメッキ端子圧着方法。
【請求項2】
前記端子母材にメッキした前記金属が、前記電線の導体よりも軟化温度が低い金属であることを特徴とする請求項1に記載したメッキ端子圧着方法。
【請求項3】
前記端子母材が銅または銅合金、そして当該端子母材にメッキした前記金属がスズまたはスズ合金であり、前記導体圧着部の予熱温度を100〜150℃の範囲に設定したことを特徴とする請求項2に記載したメッキ端子圧着方法。
【請求項4】
前記電線がアルミニウム製またはアルミニウム合金製の導体を有するアルミニウム電線であり、100〜150℃の範囲内で予熱された状態の前記導体圧着部を前記アルミニウム電線の前記導体に圧着することを特徴とする請求項3に記載したメッキ端子圧着方法。
【請求項5】
前記アルミニウム電線の前記導体を、前記圧着端子の導体圧着部と共に同じ温度まで予熱した状態で、前記導体圧着部に前記アルミニウム電線の前記導体を圧着することを特徴とする請求項4に記載したメッキ端子圧着方法。
【請求項6】
前記圧着端子が、底板部と、該底板部の両側縁から上方に延長し且つ、接続すべき電線の導体を包み込むように内側に曲げられることで前記導体を前記底板部の上面に密着した状態となるように加締める一対の導体加締片と、を有する断面U字状の前記導体圧着部を備えた端子であり、
前記電線の導体を前記底板部上に載せ、その状態で、前記一対の導体加締片を前記導体を包み込むように内側に曲げて加締めることにより、前記導体圧着部を前記電線の導体に圧着することを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載したメッキ端子圧着方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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