説明

メッキ繊維及びその製造方法

【課題】導体抵抗値の安定性が損なわれてしまう可能性を抑制することが可能なメッキ繊維及びその製造方法を提供する。
【解決手段】メッキ繊維1は、繊維層10の外周にメッキ層20を施してなるものであって、繊維層10とメッキ層20との間に耐摩耗性樹脂層30が介在されている。このメッキ繊維1は、繊維層10の外周に耐摩耗性樹脂層30を形成する第1工程と、第1工程において耐摩耗性樹脂層30が形成された抗張力繊維10を第1リール41から送り出すと共に第2リール42で巻き取る間に、当該繊維層10をメッキ槽43に浸すことによってメッキを施す第2工程と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メッキ繊維及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高強度化、軽量化、及び耐屈曲化等の目的で、アラミド繊維、PBO(poly(p-phenylenebenzobisoxazole)繊維、及びポリアリレート繊維などの抗張力繊維にメッキ加工を施したメッキ繊維が提案されている。また、このメッキ繊維を導体とし絶縁体を被覆した電線についても提案されている(例えば特許文献1〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−153365号公報
【特許文献2】特開2008−130241号公報
【特許文献3】特開2009−242839号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、メッキ繊維を電線の導体部材として用いるためには、導体抵抗値の安定性が絶対条件となり、電線の全長に亘って均一な膜厚のメッキを施す必要がある。このような観点から、繊維へのメッキ処理方法としてはバッチ方式よりも連続的にメッキを施せるリール・トゥ・リール方式が望ましい。
【0005】
しかし、リール・トゥ・リール方式でメッキ処理を行う場合、抗張力繊維が一般的に耐摩耗性に弱いことから、メッキ処理の工程中にガイド類と接触して羽毛立ちや切れが生じていまい、これが原因となって導体抵抗値の安定性が損なわれてしまう問題があった。
【0006】
本発明はこのような従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、導体抵抗値の安定性が損なわれてしまう可能性を抑制することが可能なメッキ繊維及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のメッキ繊維は、抗張力繊維に金属メッキを施してなるメッキ繊維であって、抗張力繊維と金属メッキとの間に耐摩耗性樹脂層が介在されていることを特徴とする。
【0008】
本発明のメッキ繊維によれば、抗張力繊維と金属メッキとの間に耐摩耗性樹脂層が介在されているため、一般的に耐摩耗性に弱い抗張力繊維が直接ガイド類に接触することが防止され、抗張力繊維の羽毛立ちや切れが抑制されることとなる。これにより、導体抵抗値の安定性が損なわれてしまう可能性を抑制することができる。
【0009】
また、本発明のメッキ繊維の製造方法は、抗張力繊維に金属メッキを施してなるメッキ繊維の製造方法であって、抗張力繊維の外周に耐摩耗性樹脂層を形成する第1工程と、前記第1工程において前記耐摩耗性樹脂層が形成された抗張力繊維を第1リールから送り出すと共に第2リールで巻き取る間に、当該抗張力繊維をメッキ槽に浸すことによってメッキを施す第2工程と、を備えることを特徴とする。
【0010】
このメッキ繊維によれば、抗張力繊維の外周に耐摩耗性樹脂層を形成するため、一般的に耐摩耗性に弱い抗張力繊維が直接ガイド類に接触することが防止され、抗張力繊維の羽毛立ちや切れが抑制されることとなる。また、耐摩耗性樹脂層が形成された抗張力繊維を両リールで送り出し及び巻き取りを行う間に、メッキ槽に浸すため、メッキ膜厚を均一にし易く導体抵抗値の安定性の面で有利とすることができる。従って、導体抵抗値の安定性が損なわれてしまう可能性を抑制することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、導体抵抗値の安定性が損なわれてしまう可能性を抑制することが可能なメッキ繊維及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態に係るメッキ繊維の構成を示す断面図である。
【図2】本実施形態に係るメッキ繊維の製造方法を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明の実施形態に係るメッキ繊維の構成を示す断面図である。同図に示すように、メッキ繊維1は、繊維層10と、メッキ層(金属メッキ)20と、耐摩耗性樹脂層30とから構成されている。
【0014】
繊維層10は、抗張力繊維によって構成されている。ここで、抗張力繊維は、例えばパラ系アラミド繊維、PBO(poly(p-phenylenebenzobisoxazole)繊維、ポリアリレート繊維、及び高分子ポリエチレン繊維が該当する。
【0015】
メッキ層20は、例えば軟銅線、銀メッキ軟銅線、錫メッキ軟銅線、及び錫メッキ銅合金により形成されている。このメッキ層が電線でいうところの導体の役割を果たす。
【0016】
このようなメッキ繊維1は、内部が抗張力繊維からなる繊維層10により構成されている。このため、メッキ繊維1は、軽量且つ高強度であり、しかも耐屈曲性に優れることとなる。
【0017】
また、メッキ繊維1を電線として用いるためには、導体抵抗値の関係からメッキ膜厚をより均一にする必要がある。このため、メッキ繊維1の製造にあたってはバッチ方式よりもリール・トゥ・リール方式が採用される。
【0018】
しかし、抗張力繊維は、一般的に耐摩耗性に弱いという特性を有する。このため、リール・トゥ・リール方式にてメッキ繊維1を製造する場合、抗張力繊維がガイド類に接触してしまい、羽毛立ちや切れが発生してしまう。そして、これが原因となってメッキ層20を形成した場合に導体抵抗値の安定性が損なわれてしまう。
【0019】
そこで、本実施形態に係るメッキ繊維1は、繊維層10とメッキ層20との間に耐摩耗性樹脂層30が介在されている。耐摩耗性樹脂層30は、例えばポリエチレンテレフタラート、ポリエチレンナフタレート、ウレタン、フッ素、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリフェニレンファルサイド、ポリイミド、ポリエーテル・エーテル・ケトン、アクリル、ABS(Acrylonitrile・Butadiene・Styrene)、ポリカーボネートの少なくとも1つにより構成されている。
【0020】
このような耐摩耗性樹脂層30が形成されているため、一般的に耐摩耗性に弱い抗張力繊維が直接ガイド類に接触することが防止され、抗張力繊維の羽毛立ちや切れが抑制されることとなる。
【0021】
次に、本実施形態に係るメッキ繊維1の製造方法について説明する。図2は、本実施形態に係るメッキ繊維1の製造方法を示す概略図である。まず、抗張力繊維である繊維層10に対して耐摩耗性樹脂層30を形成する。この際、耐摩耗性樹脂層30は、UV照射や、ディンピング等により設けることができる。
【0022】
次いで、図2に示すように、繊維層10上に耐摩耗性樹脂層30が設けられた抗張力繊維を第1リール41から送り出し、第2リール42にて巻き取る。この際、第1リール41と第2リール42との間には、メッキ槽43が設けられており、第1リール41から第2リール42に送り出される抗張力繊維は、耐摩耗性樹脂層30上にメッキ層20が施されることとなる。しかも、図2に示すリール・トゥ・リール方式であると、抗張力繊維上のメッキ層20をより均一な膜厚で形成し易い。
【0023】
また、従来では第1リール41からメッキ槽43までのガイド部材44、及び、メッキ槽43から第2リール42までのガイド部材45に、抗張力繊維が接触して羽毛立ちや切れが発生してしまう原因となっていたが、本実施形態では繊維層10上に耐摩耗性樹脂層30が形成されているため、羽毛立ちや切れが発生し難くなっている。
【0024】
このようにして、本実施形態に係るメッキ繊維1によれば、繊維層10とメッキ層20との間に耐摩耗性樹脂層30が介在されているため、一般的に耐摩耗性に弱い抗張力繊維が直接ガイド類に接触することが防止され、抗張力繊維の羽毛立ちや切れが抑制されることとなる。これにより、導体抵抗値の安定性が損なわれてしまう可能性を抑制することができる。
【0025】
また、本実施形態に係るメッキ繊維1の製造方法によれば、繊維層10の外周に耐摩耗性樹脂層30を形成するため、一般的に耐摩耗性に弱い抗張力繊維が直接ガイド類に接触することが防止され、抗張力繊維の羽毛立ちや切れが抑制されることとなる。また、耐摩耗性樹脂層30が形成された抗張力繊維を両リール41,42で送り出し及び巻き取りを行う間に、メッキ槽43に浸すため、メッキ膜厚を均一にし易く導体抵抗値の安定性の面で有利とすることができる。従って、導体抵抗値の安定性が損なわれてしまう可能性を抑制することができる。
【0026】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、変更を加えてもよい。
【0027】
例えば、上記実施形態では抗張力繊維が耐摩耗性に弱いことを強調したが、今後の技術改良によって耐摩耗性に優れた抗張力繊維が開発されたとしても、この抗張力繊維について本発明を適用可能であることはいうまでもない。この場合であっても、耐摩耗性樹脂層30によって抗張力繊維の羽毛立ちや切れの可能性を低減できる点に変わりはないからである。
【符号の説明】
【0028】
1…メッキ繊維
10…繊維層
20…メッキ層(金属メッキ)
30…耐摩耗性樹脂層
41,42…リール
43…メッキ槽
44,45…ガイド部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗張力繊維に金属メッキを施してなるメッキ繊維であって、
抗張力繊維と金属メッキとの間に耐摩耗性樹脂層が介在されている
ことを特徴とするメッキ繊維。
【請求項2】
抗張力繊維に金属メッキを施してなるメッキ繊維の製造方法であって、
抗張力繊維の外周に耐摩耗性樹脂層を形成する第1工程と、
前記第1工程において前記耐摩耗性樹脂層が形成された抗張力繊維を第1リールから送り出すと共に第2リールで巻き取る間に、当該抗張力繊維をメッキ槽に浸すことによってメッキを施す第2工程と、
を備えることを特徴とするメッキ繊維の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−108198(P2013−108198A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−255817(P2011−255817)
【出願日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】