説明

メッシュ織物およびスクリーン印刷版

【課題】スクリーン印刷において微細なパターンでもにじみなく、また寸法精度高く行えるようにするメッシュ織物の提供。
【解決手段】経線12…と緯線13…との織成により形成されるメッシュ織物11であって、経線12…および緯線13…が、引っ張り強度2500N/mm以上で、線径が14μm〜20μmである高強度ステンレス線で構成されるとともに、綾織によって形成され、空間率が50%以下に設定されたメッシュ織物11。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、スクリーン印刷に用いられるメッシュ織物に関し、より詳しくは、微細なパターンをにじみなく精密に印刷することを可能とするようなメッシュ織物とスクリーン印刷版に関する。
【背景技術】
【0002】
スクリーン印刷は、たとえばチップコンデンサーやカラーPDPの製造において低コストで高精度にパターン印刷する方法としても広く利用されるようになってきている。
【0003】
このスクリーン印刷に用いられるスクリーン印刷版のメッシュ織物には、合成繊維製のものと金属線材製のものとがあるが、いずれも平織で形成されている。平織とは、経線と緯線が一目ごとに上下に織られる織り方である。
【0004】
ところで、スクリーン印刷は製版、印刷の順に行われる。製版では、枠体内に張られたメッシュ織物に感光性乳剤をコーティングして乾燥させた後、フォトマスクである印刷用パターンを密着露光し現像してネガ画像を形成する。そして、メッシュが露出した部分にペーストを通過させてマスク部分と同じポジ画像として印刷をする。
【0005】
このため、メッシュ織物の構造が、スクリーン印刷の精密度、寸法精度、にじみ、印刷厚などに大きな影響を及ぼす。
【0006】
所望の印刷が行えるようにするため、メッシュ織物に対して、たとえば下記特許文献1〜4に開示されているような様々な工夫がなされている。
【0007】
特許文献1に開示されているメッシュ織物は、より大きな印刷膜厚を得るためもので、平織される経線と緯線の強度を違えて、メッシュ織物の厚みが厚くなるようにしたものである。
【0008】
特許文献2に開示されているメッシュ織物は、高い粘度のペーストを用いることができるようにすべく、オープニング率(空間率)を高くしたものである。具体的には、メッシュ織物のメッシュ数を70本/インチ以上200本/インチ以下と少なくし、かつ線径を16μm以上30μm以下と小さくしている。
【0009】
特許文献3に開示されているメッシュ織物は、印刷カスレをなくすためにオープニング率(空間率)を高くしたものである。
【0010】
【特許文献1】特開2003−268649号公報
【特許文献2】特開平8−238862号公報
【特許文献3】特開2005−125547号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、にじみやカスレをなくすだけではなく、微細なパターンを精密に印刷するためには、高密度に織り込んだメッシュ織物が必要である。高密度にするには、経線と緯線の両方の線を細くしなければならない。
【0012】
これまでの一般的な高密度のメッシュ織物としては、引っ張り強度600〜1500N/mmのステンレス線材が用いられ、メッシュ数が500メッシュの場合には19μmの線径の線材が、640メッシュの場合には15μmの線径の線材が、840メッシュの場合には11μmの線径の線材が利用される。
【0013】
しかしながら、この線材には、上記のごとく引っ張り強度600〜1500N/mm程度の強度の線材しか使用できない。これは、平織の構造に起因する。
【0014】
すなわち、平織では、図3((a)は平面図、(b)は(a)におけるB−B部分切断端面図である。)に示したように、隣接する線の周期の2倍の周期pで同じメッシュパターンが繰り返される。このため、緯線101はこの周期を正弦波の一周期と類似した形状で上下に曲がり、緯線101の上下の各頂点部101aが最も曲率の大きな部分となる。経線102においても同様である。
【0015】
しかし、強度の高い線材は硬いため、図3に示したように細かく織ると、経線102と緯線101の上下の各頂点部101a,102aの曲率が大きくなってクラックが入ってしまう。このため、現状の平織では、線径20μmの場合で290メッシュ、線径16μmの場合で360メッシュというように、空間率(メッシュに占める空間の割合)が60%ほどの大きな開口となってしまう。このため、微細なパターンを印刷しようとするとにじみが多くなるなどの問題があった。
【0016】
一方で、線径を細くした上に線材の引っ張り強度が低いものを使用すると、当然のことながら強度が落ち、パターンの寸法制度も低下する。このことを防ぐには、可能な限り高い強度の線材を使用しなければならない。
【0017】
そこで、この発明は、寸法精度が高い印刷が行え、強度も高いメッシュ織物とスクリーン印刷版を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
そのための手段は、経線と緯線との織成により形成されるメッシュ織物であって、上記経線および緯線が、引っ張り強度2500N/mm以上の高強度ステンレス線で構成されるとともに、綾織によって形成されたメッシュ織物である。
【0019】
空間率は50%以下のものであるとよい。好ましくは、38%〜50%であるとよい。
【0020】
また、織成後に圧延加工されて、経線または緯線の線径の2倍以下の厚みに設定されたメッシュ織物であるもよい。圧延加工によってメッシュ織物の厚みが均一化され、寸法精度が向上する。特に、織成は綾織で行っているので、経線や緯線の繰り返しパターンの周期が長いので、寸法精度の向上の点で効果が大きい。
【0021】
さらに、上記経線および緯線が、14μm〜20μmの同一径の線径に設定されたメッシュ織物であるもよい。
【0022】
別の手段は、上記のメッシュ織物が枠体内に張設されたスクリーン印刷版である。
【発明の効果】
【0023】
以上のように、この発明によれば、経線と緯線の上下に波打つ周期が平織りの場合よりも大きいため、同じメッシュ数であっても各線の曲率が小さくなる。この結果、平織の場合よりもより多くのメッシュ数にして、空間率の低い細かな目を有するメッシュ織物を形成することができる。
【0024】
このため、微細なパターンを精密に印刷することが可能となる。また、空間率の下限を適正にすることによってにじみなども防止できる。
【0025】
また、強度の高い線材を使用しているので、メッシュ織物の強度は確保できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
この発明を実施するための一形態を、以下図面を用いて説明する。
図1は、スクリーン印刷版(周知の構造ゆえ図示を省略)に張設されて使用されるメッシュ織物11の平面図と断面図を示している。断面図は、図1(a)のA−A部切断端面図である。
【0027】
この図に示すようにメッシュ織物11は、経線12…(図面上下方向)と緯線13…(図面左右方向)が綾織されて形成されている。図示例では、2×2の綾織を示したが、その他の種類の綾織であるもよい。図1中pは、メッシュパターンの繰り返し単位を示すものである。
【0028】
上記の経線12…と緯線13…には同一の高強度ステンレス線が使用される。使用するステンレス線は、引っ張り強度が2500N/mm以上のものである。また、線径Dは、14μm〜20μmのものを使用し、空間率が50%以下となるメッシュ織物11とする。
【0029】
ここで、空間率は下記の式で得られる。
【0030】
【数1】

【実施例1】
【0031】
引っ張り強度が3000N/mmで線径Dが19μmの高強度ステンレス線を用いて、図1に示したような2×2の綾織にて500メッシュのメッシュ織物11を製造した。
このメッシュ織物11の空間率は約39%である。
【実施例2】
【0032】
引っ張り強度が3000N/mmで線径Dが20μmの高強度ステンレス線を用いて、図1に示したような2×2の綾織にて400メッシュのメッシュ織物11を製造した。
このメッシュ織物11の空間率は約47%である。
【実施例3】
【0033】
上記の実施例1および実施例2に示したメッシュ織物11を、織成後、カレンダー加工によって圧延し、厚さtが線径Dの2倍以下となるように後加工して圧延メッシュ織物11aを得た。図2(a)に示したように、圧延前のメッシュ織物11では、線径Dの2.1倍〜2.9倍の厚さt1があったが、程度の異なる2種類の圧延をした結果、図2(b),(c)に示したような線径Dの2倍以下の厚さtになった。厚さtは線径Dの1倍〜2倍の範囲である。
【0034】
このような各実施例のメッシュ織物では綾織によって織成しているため、経線12…と緯線13…の上下に波打つ周期が平織の場合よりも大きいため、同じメッシュ数であっても各線12…,13…における上下の各頂点部12a,13a
の曲率が小さくなる。この結果、平織の場合よりもより多くのメッシュ数にして、空間率の低い細かな目を有するメッシュ織物11や圧延メッシュ織物11aを形成することができる。
【0035】
以上の各実施例に示したメッシュ織物11、圧延メッシュ織物11aをそれぞれ、スクリーン印刷版に用いて印刷を行ったところ、微細なパターンであってもにじみなく、寸法精度が高い印刷が行えた。
【0036】
しかも、これまでにない高強度のステンレス線を使用しているので、メッシュ織物11、圧延メッシュ織物11aの強度が高く、良好な耐久性を得られるとともに、この点からも寸法精度を高めることができる。
【0037】
また、通常の強度のステンレス線を織成して得たメッシュ織物を用いるスクリーン印刷版では、版と被印刷物との間の距離であるクリアランスは、スクリーン印刷版の枠体の内寸のおよそ1/300程度、つまり1m×1mのスクリーン印刷版の場合には3mm程度に設定することになるが、上記各実施例のメッシュ織物を用いた場合には、メッシュ織物が塑性変形しないので、クリアランスを6mm程度とって印刷することもできる。このため、何回印刷を行っても同一の位置精度できれいに印刷できる。この結果、比較的粘度の高いファインパターン用のペーストを大きなクリアランスで版離れよく印刷可能となる。
【0038】
さらに、実施例3のように圧延加工を付加した圧延メッシュ織物11aの場合には、圧延メッシュ織物11aの厚さが均一になる上に、圧延メッシュ織物11a自体の寸法精度が向上する。綾織であるので浮糸があるが、この浮糸がより一層安定するので、寸法精度の向上は格別である。
【0039】
この発明の構成と上記の一実施例の構成との対応において、
この発明のメッシュ織物は、上記のメッシュ織物11及び圧延メッシュ織物11aに対応するも、
この発明は上記の構成のみに限定されるものではなく、その他の形態を採用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】メッシュ織物の平面図と断面図。
【図2】メッシュ織物の断面図。
【図3】従来のメッシュ織物の断面図。
【符号の説明】
【0041】
11…メッシュ織物
11a…圧延メッシュ織物
12…経線
12a…頂点部
13…緯線
13a…頂点部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
経線と緯線との織成により形成されるメッシュ織物であって、
上記経線および緯線が、引っ張り強度2500N/mm以上の高強度ステンレス線で構成されるとともに、
綾織によって形成された
メッシュ織物。
【請求項2】
空間率が50%以下である
請求項1に記載のメッシュ織物。
【請求項3】
織成後に圧延加工されて、経線または緯線の線径の2倍以下の厚みに設定された
請求項1または請求項2に記載のメッシュ織物。
【請求項4】
前記経線および緯線が、14μm〜20μmの同一径の線径に設定された
請求項1から請求項3のうちのいずれか一項に記載のメッシュ織物。
【請求項5】
前記請求項1から請求項4のうちのいずれか一項に記載のメッシュ織物が枠体内に張設された
スクリーン印刷版。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−149024(P2009−149024A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−330485(P2007−330485)
【出願日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【出願人】(502090482)アサダメッシュ株式会社 (4)
【Fターム(参考)】