説明

メディア攪拌型湿式分散機

【課題】 ナノメーターオーダーの分散が可能であり、大容量で分級性能に優れたメディア攪拌型湿式分散機を提供する。
【解決手段】 円筒状の分散タンク2と、中空の回転軸3と、筒状に配列された複数のブレードを備え遠心力を発生する外側ロータ4と、外側ロータ4の内側に位置して、筒状に配列されたブレードを備え遠心力を発生する内側ロータ5とを有している。処理物は外側ロータ4の内外を循環する循環流を形成し、分散機能と分級機能とが調和して作用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メディア攪拌型湿式分散機に関し、特に、連続的な分散処理によりナノメーターオーダーの微粒子からなる分散液を得ることができるメディア攪拌型湿式分散機に関する。
【背景技術】
【0002】
微粒子の分散は、インクや塗料、セラミックス微粒子、金属や無機物、医薬品など、広い分野においてよく行われている。これらの処理に使用される分散機の一つとしてメディア攪拌型湿式粉砕機があり、この粉砕機は粉砕容器内に設けた攪拌部材によって処理液とメディアを一緒に攪拌し、メディアの剪断力によって粒子を粉砕するとともに分散するものである。
分散処理された処理液は、粉砕容器内に設けられたセパレータによりメディアと分離された後、容器外に排出される。セパレータとしては、ギャップタイプやスクリーンタイプ等のように篩式のものが多く使用されている。
【0003】
このような分散処理において、処理後の粒子径はメディア径にほぼ比例するので、細かい粒子の分散液とするためには、直径の小さいメディアを使用する必要がある。従来、メディアとしては、直径が0.3mm以上のものが多く使用されているが、通常得られる処理後の平均粒子径は100nm(ナノメートル)以上である。100nm未満の微粒子は調製が困難であり、調製することができたとしても非常に長時間を要する。
【0004】
そこで、メディア攪拌型湿式分散機において、直径が0.2mm以下のメディアを使用することにより、平均粒子径が100nm未満に微粒子化された分散液を得る方法が研究されている。例えば、特許文献1には、メディアがセラミックス、硬質ガラス、硬質プラスチック、金属または金属化合物からなり、直径が0.2mm以下の微小ビーズを用いる分散液の製法が記載されている。
【0005】
しかしながら、メディアの直径が小さくなると、分散液とメディアとを分離するセパレータが問題となる。従来の、ギャップタイプやスクリーンタイプ等の篩式のものでは、篩目の隙間をメディア径の1/3以下とする必要があり、セパレータの製作が困難となる上に、噛み込み、目詰まり等のトラブルが付きまとい、安定して連続運転を行うことができない。
【0006】
また、昨今では各分野において、粒子径をナノメーターオーダーとする分散処理のニーズが高まっており、メディア攪拌型湿式分散機においては、メディアの直径をさらに0.1mm以下とすることが求められている。しかし、このようにメディアの直径が小さくなると、もはやギャップタイプやスクリーンタイプ等の篩式を使用することは不可能であり、これらとは違ったタイプのセパレータが求められている。
【0007】
このような問題を解決するセパレータとして、遠心力によりメディアと分散液とを分離する遠心セパレータが提案されている(例えば、特許文献2)。この遠心セパレータは、回転軸に二枚の円板を一定の間隔で併設し、両円板の間に複数のブレードを筒状に配列したものである。しかしながら、この粉砕機においては、粉砕用の攪拌部材が分離用の回転部材を兼ねているために、粉砕機能と分級機能とのバランスを調整することが難しく、両方の性能を十分に発揮させることが難しいという問題を残している。
【特許文献1】特開平11−33377号公報
【特許文献2】特開2003−144950号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、連続式のメディア攪拌型湿式分散機の性能を改善することであり、直径が0.1mm以下のメディアを使用することによりナノメーターオーダーの分散処理が大容量で可能であるとともに、メディアの分離が確実であり、微粒子の分級性能に優れて、安定して連続運転が可能な分散機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記のような課題を解決するために、本発明の請求項1に係るメディア攪拌型湿式分散機は、一端が閉塞された円筒状の分散タンクと、前記分散タンクの他端側を挿通して回転自在に設けられる中空の回転軸と、筒状に配列された複数のブレードを備え前記回転軸に固定されて回転することにより遠心力を発生する外側ロータと、前記外側ロータの内側に位置して筒状に配列された複数のブレードを備え前記回転軸に固定されて回転することにより遠心力を発生する内側ロータとを有し、前記分散タンクが該分散タンク内外を連通する供給口を備え、前記回転軸の中空部が前記内側ロータの内側に連通して排出口を形成している手段を採用している。
【0010】
また、本発明の請求項2に係るメディア攪拌型湿式分散機は、請求項1に記載のメディア攪拌型湿式分散機において、前記外側ロータの複数のブレードが、前記内側ロータの複数のブレードよりも前記分散タンクの前記一端に近い位置に設けられている手段を採用している。
【0011】
さらに、本発明の請求項3に係るメディア攪拌型湿式分散機は、請求項1又は2に記載のメディア攪拌型湿式分散機において、前記供給口が、前記分散タンクの前記他端に設けられている手段を採用している。
【0012】
また、本発明の請求項4に係るメディア攪拌型湿式分散機は、請求項1乃至3の何れかに記載のメディア攪拌型湿式分散機において、前記分散タンクが、その外側に冷却用ジャケットを備えている手段を採用している。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、前記のような構成としたことにより、外側ロータは処理物を粉砕及び分散する機能を備え、内側ロータはメディアの分離機能及び微粒子の分級機能を備えることになる。処理物は、メディアとともに外側ロータの内外を循環する循環流を形成し、この循環過程で粉砕・分散される。また、処理物は、内側ロータで分級され、細かい粒子の分散液が内側ロータを通過して排出され、メディア及び大きな粒子は、再び上記の循環流に戻される。
【0014】
この結果、本発明の分散機は、外側ロータの粉砕・分散機能と、内側ロータの分離・分級機能とが調和して作用することになり、直径が0.1mm以下のメディアを使用してナノメーターオーダーの分散処理を大容量で行うことが可能である。また、安定して連続運転を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面に示す本発明の実施の形態について説明する。
図1及び図2には、本発明によるメディア攪拌型湿式分散機の一実施の形態が示されていて、図1はメディア攪拌型湿式分散機の概略断面図、図2は図1に示すA―A線に沿って見た概略断面図である。このメディア攪拌型湿式分散機1は、分散タンク2、回転軸3、外側ロータ4及び内側ロータ5等により構成されている。
【0016】
分散タンク2は、一端が閉塞した円筒状の容器であり、他端にはフランジ21を介して蓋部材22が取り付けられ、他端部が実質的に閉塞されるようになっている。また、分散タンク2に設ける供給口23の取り付け位置は、後述する循環流や排出口との位置関係などから分散タンク2の他端近傍とすることが好ましく、図に示すように、蓋部材22に設けることが特に好ましい。
【0017】
蓋部材22は、内部が空洞の略円筒状に形成されており、この空洞部の軸心に中空の回転軸3が回転自在に設けられている。回転軸3の外周面と蓋部材22の内周面との間には軸シール34が介装され、粉砕タンク2を密閉することが可能になっている。
【0018】
回転軸3は、その軸心に中空部31が形成されており、分散タンク2の他端を挿通してこれと同軸に設けられている。分散タンク2内において、回転軸3の一端には外側ロータ4及び内側ロータ5が取り付けられている。また、回転軸3の他端は分散タンク2の外部に位置して、駆動装置が取り付けられている(図示せず)。
【0019】
外側ロータ4は、円板状の保持部41の一面に、一定の間隔で筒状に配列された複数のブレード43を備えている。そして、筒状部42の開放された一端側は分散タンク2の一端側に位置し、保持部41で閉塞された他端は分散タンク2の他端側でキー45により回転軸3に取り付けられている。
【0020】
したがって、外側ロータ4を図の矢印の方向に回転すると、ブレード43により遠心力を発生して、処理物はブレード43間の開口44を通って内側から外側に向かって流れを生じる。この結果、分散タンク2内の処理物及びメディアは、ブレード43の外側では他端側から一端側に向かって流れ、開放された一端では外側から内側に向かって流れ、ブレード43の内側では一端側から他端側に向かって流れる循環流を形成することになる。
【0021】
また、外側ロータ4の回転により、分散タンク2内の処理物はメディアとともに攪拌され、分散タンク2の内壁とブレード43との間に発生する剪断力によって粉砕・分散処理を受けることになる。これと同時に、処理物は外側ロータ4の内外を循環することによって全体が良好に攪拌され、処理物全体が均一に処理されることになる。
【0022】
内側ロータ5は、外側ロータ4の内側に位置し、円板状の保持部51の一面に一定の間隔で筒状に配列された複数のブレード53を備えている。そして、筒状部52の開放された一端を外側ロータ4の保持部41の一面に密接させた状態でボルト55によって回転軸3に固定されている。
【0023】
ブレード53の外周面は、外側ロータ4のブレード43の内周面から少し離れて位置している。そして、ブレード53の外周面とブレード43の内周面との間隙は、上記の外側ロータ4の内外に形成される循環流の流路となり、分散タンク2の一端側から他端側に向かう流れが形成される。
【0024】
また、ブレード53の内周面は、回転軸3の外表面から少し離れて位置しており、ブレード53の内側に空間部56が形成されている。そして、空間部56に位置する回転軸3には開口32が設けられており、回転軸3の中空部31が空間部56と連通することにより、排出口33を形成するようになっている。
したがって、供給口23から流入した処理物は、最終的にはブレード53間の開口54を経由して空間部56に流入し、排出口33から排出される。
【0025】
内側ロータ5は、外側ロータ4の場合と同様に、図に示す矢印の方向に回転すると、ブレード53によって遠心力を発生するようになっている。したがって、開口54を通過する粒子に対して分離機能及び分級機能を発揮することになる。すなわち、粒径の大きい粒子やメディアは空間部56に流入することができず、細かい微粒子のみが空間部56を経て排出されることになる。
【0026】
また、空間部56に流入することができなかった大きい粒子及びメディアは、直ちに外側ロータ4の内外に形成される循環流に戻され、再び粉砕・分散処理をされることになるので、分散処理及び分級処理が確実に行われることになる。
【0027】
内側ロータ5は外側ロータ4の内側に位置するので、ブレード53とブレード43とは軸線方向に対してほぼ同じ位置となる。これによって、内側ロータ5で分離された大きな粒子を素早く外側ロータ4の循環流に戻すことができる。
【0028】
また、ブレード43は、ブレード53よりも分散タンクの一端に近い位置に設けることが好ましい。ブレード53の外周面とブレード43の内周面との間隙は循環流の流路であり、分散タンク2の一端側から他端側に向かう流れとなっている。したがって、ブレード43がブレード53よりも上流側に位置することにより、ブレード43が予め大きな粒子を分離した後に、ブレード53が最終的な分離・分級を行うことになるからである。
【0029】
分散タンク2、外側ロータ4、及び内側ロータ5などの処理物と直接接触する部材は耐磨耗性の材質とすることが好ましく、アルミナ、アルミナジルコニア、炭化珪素などのセラミックを使用することが好ましい。これにより、製品に不純物が混入することを防止することができる。
【0030】
本発明のメディア攪拌型湿式分散機1は、比較的狭い分散タンク2内で強力な攪拌操作を行うことができる。したがって、分散タンク2は強制的に冷却することが好ましく、図に示すように、分散タンク2の外側に冷却用ジャケット6を設けることが好ましい。冷却用ジャケット6は、できる限り分散タンク2の全体を覆うとともに、偏流しないように配慮して給水口61及び排水口62を設ける。ジャケット6により処理物の温度管理が可能となり、また、処理の初めなどに加熱用として用いることもできる。
【実施例1】
【0031】
本発明のメディア攪拌型湿式分散機を用いて、二次凝集している酸化チタンを以下に示す条件で分散する試験を行い、その性能を確認した。
ホールディングタンクに調製したスラリーを入れ、定量ポンプで分散機の供給口に導入し、粉砕機の排出口から排出されたスラリーを再びホールディングタンクに戻す循環系を形成し、この状態で分散機を起動して試験を行った。
分散機を起動後、所定の時間ごとに分散機の排出口からサンプルを採取した。粒径の測定には、日機装(株)のマイクロトラックMKIIDRAを用い、レーザ回折、光散乱法により計測した。
【0032】
処理条件
分散機: 図1及び2に示す分散機、外側ロータ外径120mm
モーター: 3.7kw、最大回転数3600rpm
メディア: ジルコニア、直径0.03mm
使用量0.84kg
処理物: 酸化チタンMT−150W(テイカ製)
一次粒子径15nm、二次凝集体径2.3μm
処理物量: 300g
溶媒: 水
溶媒量: 2700g
濃度: 10wt%
分散剤: ノプコスパース44−c、7g
処理量: 1リットル/分
【0033】
両ロータの回転数を2070rpmとして運転し、運転開始後90分で、平均粒子径35.8nmの分散液が得られた。分散液中にメディアの混入は見られなかった。
【実施例2】
【0034】
両ロータの回転数を1600rpmに変更し、他の条件は実施例1と同様にして運転し、運転開始後90分で、平均粒子径24.1nmの分散液が得られた。分散液中にメディアの混入は見られなかった。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明のメディア攪拌型湿式分散機の実施の一例を示す概略断面図である。
【図2】図1に示すA―A線に沿って見た概略断面図である。
【符号の説明】
【0036】
1 メディア攪拌型湿式分散機
2 分散タンク
3 回転軸
4 外側ロータ
5 内側ロータ
6 ジャケット
7 メディア
21 フランジ
22 蓋部材
23 供給口
31 中空部
32 開口
33 排出口
34 軸シール
41 保持部
42 筒状部
43 ブレード
44 開口
45 キー
51 保持部
52 筒状部
53 ブレード
54 開口
55 ボルト
56 空間部
61 給水口
62 排水口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端が閉塞された円筒状の分散タンクと、
前記分散タンクの他端側を挿通して回転自在に設けられる中空の回転軸と、
筒状に配列された複数のブレードを備え、前記回転軸に固定されて回転することにより遠心力を発生する外側ロータと、
前記外側ロータの内側に位置して筒状に配列された複数のブレードを備え、前記回転軸に固定されて回転することにより遠心力を発生する内側ロータとを有し、
前記分散タンクが、該分散タンク内外を連通する供給口を備え、
前記回転軸の中空部が、前記内側ロータの内側に連通して排出口を形成していることを特徴とするメディア攪拌型湿式分散機。
【請求項2】
前記外側ロータの複数のブレードが、前記内側ロータの複数のブレードよりも前記分散タンクの前記一端に近い位置に設けられていることを特徴とする請求項1に記載のメディア攪拌型湿式分散機。
【請求項3】
前記供給口が、前記分散タンクの前記他端に設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載のメディア攪拌型湿式分散機。
【請求項4】
前記分散タンクが、その外側に冷却用ジャケットを備えていることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載のメディア攪拌型湿式分散機。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−247557(P2006−247557A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−69280(P2005−69280)
【出願日】平成17年3月11日(2005.3.11)
【出願人】(000174965)三井鉱山株式会社 (42)
【Fターム(参考)】