説明

メンチルラクテートの製造方法

【課題】
冷感剤として有用なメンチルラクテートを高収率、高純度で簡便に製造する方法を提供すること。
【解決手段】
メンチルラクテートおよびメンチルラクテートのより高度にラクトイルエステル化されたラクトイルエステル類を含有する反応粗精製物を、下記式(1)
【化1】


[式中、Xはリチウム、ナトリウム、カリウムまたはアルミニウムを示し、Rはメチル基、エチル基、i−プロピル基、s−ブチル基またはt−ブチル基を示す。]
で表される金属アルコキシドの存在下に選択的加アルコール分解することを特徴とするメンチルラクテートの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトの皮膚や粘膜に対し優れた冷感または清涼感を与える冷感剤として有用なメンチルラクテートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ヒトの皮膚や口腔、鼻、のどに対して清涼感(冷感)を与える冷感剤は、歯磨き、菓子(チューインガム、キャンディー等)、たばこ、ハップ剤、化粧料などに使用されている。l−メントールは清涼感又は冷涼感を与えるフレーバー物質として広く使用されているが、その冷感効果は持続性に欠け、また、使用量を多くすると冷感効果が増強される反面、苦味を伴うことがあるという欠点がある。これらのl−メントールの欠点を補う冷感剤の1つとしてメンチルラクテートが知られている。
【0003】
特許文献1には、メンチルラクテートの製造方法として、l−乳酸をl−メントールでエステル化する方法が記載され、好適な触媒として、硫酸、燐酸、酸性土類、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、酸性イオン交換体などが挙げられ、反応混合物を中和して洗浄した後、蒸留で精製することにより純度97〜98%のメンチルラクテートが得られるとしているが、収率については記載されておらず、また、このようにして得られるメンチルラクテートは、数週間にわたって貯蔵することにより刺激臭を発するようになると記載されている。
【0004】
メンチルラクテートを高収率で得る方法として、特許文献2は、メントールと乳酸をエステル化して得られるメンチルラクテートおよびメンチルラクテートのより高度にラクトイルエステル化されたラクトイルエステル類の混合物を、塩基の水溶液中でメンチルラクテートのラクトイルエステル類を選択的に加水分解することにより高収率でメンチルラクテートが得られることを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−227455号公報
【特許文献2】米国特許第7,173,146号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2に記載された方法は、メンチルラクテートを高収率で得る方法として優れているが、該特許の実施例に記載されているように、加水分解時にpH、反応温度に注意しながら50%水酸化ナトリウム水溶液を滴下させねばならず、反応時間が長時間となり効率的な方法とは言い難い。
【0007】
したがって、本発明の目的は、高収率、高純度でかつ簡便な操作によりメンチルラクテートを工業的な規模で製造することができる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、メンチルラクテートの工業的な規模での製造方法として、特許文献2に記載された上記の欠点を改善する方法について鋭意検討した結果、今回、メンチルラクテートおよびメンチルラクテートのより高度にラクトイルエステル化されたラクトイルエステル類の混合物を金属アルコキシドの存在下に、反応系内温度、反応系内pHに注意を払うことなく簡便に選択的加アルコール分解することにより、メンチルラクテートを高収率かつ高純度で簡便に製造することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
かくして、本発明は、メンチルラクテートおよびメンチルラクテートのより高度にラクトイルエステル化されたラクトイルエステル類を含有する反応粗精製物を、下記式(1)
【0010】
【化1】

[式中、Xはリチウム、ナトリウム、カリウムまたはアルミニウムを示し、Rはメチル基、エチル基、i−プロピル基、s−ブチル基またはt−ブチル基を示す。]
で表される金属アルコキシドの存在下に選択的加アルコール分解することを特徴とするメンチルラクテートの製造方法を提供することができる。
【0011】
また本発明は、金属アルコキシドがナトリウムメトキシドである前記のメンチルラクテートの製造方法を提供することができる。
【0012】
さらに本発明は、メントールと乳酸をエステル化して得られるメンチルラクテートおよびメンチルラクテートのより高度にラクトイルエステル化されたラクトイルエステル類を含有する反応粗精製物を、下記式(1)
【0013】
【化2】

[式中、Xはリチウム、ナトリウム、カリウムまたはアルミニウムを示し、Rはメチル基、エチル基、i−プロピル基、s−ブチル基またはt−ブチル基を示す。]
で表される金属アルコキシドの存在下に選択的加アルコール分解することを特徴とするメンチルラクテートの製造方法を提供することができる。
【0014】
またさらに本発明は、金属アルコキシドがナトリウムメトキシドである前記のメンチルラクテートの製造方法を提供することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ヒトの皮膚や粘膜に対し優れた冷感または清涼感を与える冷感剤として有用なメンチルラクテートを高収率、高純度でかつ簡便な操作により工業的な規模で製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明のメンチルラクテートの製造方法を、下記の反応経路1に沿ってさらに詳細に説明する。
【0017】
【化3】

【0018】
本発明で使用されるメントールは、d−メントール、l−メントール、それらの光学活性体の適宜な比率の混合物およびラセミ体のいずれも使用することができるが、l−メントールを好ましく例示することができ、市販のものを使用することができる。
【0019】
メントールと反応させる乳酸は、(S)−乳酸、(R)−乳酸、それらの光学活性体の適宜な比率の混合物およびラセミ体のいずれも使用することができるが、(S)−乳酸を好ましく例示することができ、市販のものを使用することができる。
【0020】
上記反応経路1に従って式(3)のl−メントール(M)と、式(4)の(S)−乳酸(L)を酸触媒の存在下、溶媒中もしくは無溶媒でエステル化することにより式(2)のメンチルラクテート(ML)および式(5)、(6)および(7)のメンチルラクテートのラクトイルエステル類(MLL、MLLLおよびMLLLL)の粗精製物を得ることができる。
【0021】
使用する酸触媒としては、例えば、無機酸(例:硫酸、燐酸、酸性土類など)、有機酸(例:メタスルホン酸、p−トルエンスルホン酸など)および酸性イオン交換体などを挙げることができ、特に硫酸、p−トルエンスルホン酸が好適である。これらの酸性触媒の使用量は、特に制限されないが、通常、乳酸1モル当たり0.0001〜0.1モル、好ましくは0.001〜0.01モルの範囲が好適である。
【0022】
上記反応に使用し得る溶媒としては、例えば、炭化水素(例:ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサンなど)、芳香族炭化水素(例:ベンゼン、トルエン、キシレンなど)などが挙げられ、特に、ヘプタン、シクロヘキサンが好適である。
【0023】
上記反応は通常、50〜200℃、好ましくは120〜140℃の温度で、2〜24時間、好ましくは4〜12時間程度行うことができる。
【0024】
かくして、用いる反応条件に依存して、式(2)のメンチルラクテート(ML)およびメンチルラクテートのより高度にラクトイルエステル化されたラクトイルエステル類、すなわち、式(5)のメンチルラクトイルラクテート(MLL)、式(6)のメンチルラクトイルラクトイルラクテート(MLLL)および式(7)のメンチルラクトイルラクトイルラクトイルラクテート(MLLLL)の特定の混合比率の反応粗精製物の形態で得られる。これらの反応粗精製物はそのまま次の反応に用いることができる。
【0025】
上記の反応粗精製物を反応経路1に従って、下記式(1)
【0026】
【化4】

で表される金属アルコキシドの存在下に選択的加アルコール分解することにより式(2)のメンチルラクテートを高収率で得ることができる。
【0027】
前記式(1)の金属アルコキシドのRはメチル基、エチル基、i−プロピル基、s−ブチル基またはt−ブチル基を示し、Xはリチウム、ナトリウム、カリウムまたはアルミニウムを示し、ナトリウムメトキシドを好ましく例示することができる。これらの金属アルコキシドは、単独または混合して使用しても良く、対応するアルコール溶液として使用することもできる。
【0028】
前記の金属アルコキシドの使用量は、加アルコール分解の反応系の重量を基準として、1.5〜6.5%、好ましくは2.5〜4.5%、さらに好ましくは3.0〜3.5%の範囲内とすることができる。1.5%未満では、前記反応経路1のエステル化(第1工程)で生成する副生成物であるメンチルラクテートのラクトイルエステル類(MLL、MLLLおよびMLLLL)の残存量が増え、結果的にメンチルラクテートの収率が低くなり、また、6.5%を超えた範囲では、メントール−乳酸間のエステル結合が切断されてしまい好ましくない。
【0029】
上記反応は通常、0〜100℃、好ましくは20〜40℃の温度で、1〜20時間、好ましくは0.5〜3時間程度行うことができる。
【0030】
かくして、本発明においては反応系内温度、反応系内pHに関わらず、添加する塩基量にのみ依存して式(2)のメンチルラクテート(ML)を主生成物として得ることができる。その後、常法により溶媒留去し、蒸留することにより高純度の式(2)のメンチルラクテート(ML)を得ることができる。
【0031】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。
【実施例】
【0032】
実施例1
下記の一連の反応式に従って式(2)のメンチルラクテートを合成した。
【0033】
【化5】

【0034】
第1工程:エステル化
温度計、アゼオ(Azeo)装置付2L4口フラスコにl−メントール(415g,2.66mol)、(S)−乳酸(415g,4.61mol)、硫酸(2.5g) 及びヘプタン(200ml)を加え、4.5時間アゼオ(Azeo)撹拌した。水の留去がなくなった時点で加熱を停止して放冷して室温近辺まで冷却した後に10%NaCO水溶液(276ml)を加えて10分間撹拌した。分液操作により、水層を除去した後に得られた反応粗精製物(754g)をこれ以上精製することなく次反応に用いた。
【0035】
第2工程:選択的加アルコール分解
エステル化により得られた粗精製物(754g)に室温撹拌しながら28%ナトリウムメトキシド(NaOMe)メタノール溶液(83g、粗精製物に対して3.08%相当のナトリウムメトキシド)を0.5時間かけて滴下した。(系内温度は45℃まで、系内pHは14.6まで上昇した。)
滴下終了後10分間撹拌した後に5%AcOH水溶液(100ml)、水(100ml)、10%NaCl水溶液(100ml)で順次洗浄した。分液操作後に得られた粗精製物(681.9g)を得た。下記表1に第1工程で得られた反応粗精製物および第2工程で得られた粗精製物中のメントール(M)、メンチルラクテート(ML)およびメンチルラクテートのラクトイルエステル類(MLL、MLLL、MLLLL)の組成比を示す。
【0036】
【表1】

【0037】
第2工程で得られた粗精製物を減圧蒸留にて精製することで目的化合物(516g)を得た(収率:85%、純度:99.8%)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メンチルラクテートおよびメンチルラクテートのより高度にラクトイルエステル化されたラクトイルエステル類を含有する反応粗精製物を、下記式(1)
【化1】

[式中、Xはリチウム、ナトリウム、カリウムまたはアルミニウムを示し、Rはメチル基、エチル基、i−プロピル基、s−ブチル基またはt−ブチル基を示す。]
で表される金属アルコキシドの存在下に選択的加アルコール分解することを特徴とするメンチルラクテートの製造方法。
【請求項2】
金属アルコキシドがナトリウムメトキシドである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
メントールと乳酸をエステル化して得られるメンチルラクテートおよびメンチルラクテートのより高度にラクトイルエステル化されたラクトイルエステル類を含有する反応粗精製物を、下記式(1)
【化2】

[式中、Xはリチウム、ナトリウム、カリウムまたはアルミニウムを示し、Rはメチル基、エチル基、i−プロピル基、s−ブチル基またはt−ブチル基を示す。]
で表される金属アルコキシドの存在下に選択的加アルコール分解することを特徴とするメンチルラクテートの製造方法。
【請求項4】
金属アルコキシドがナトリウムメトキシドである請求項3に記載の方法。

【公開番号】特開2011−102246(P2011−102246A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−256708(P2009−256708)
【出願日】平成21年11月10日(2009.11.10)
【出願人】(000214537)長谷川香料株式会社 (176)
【Fターム(参考)】