説明

メンブレンリフレクタ

【課題】 人工衛星搭載用のメンブレンアンテナにおいて、メンブレンリフレクタ3とメンブレンリフレクタの背面に接着された閉じた形状である結合部品2を接着する際、接着時の硬化収縮による鏡面精度劣化を低減する人工衛星搭載用メンブレンリフレクタを提供する。
【解決手段】 人工衛星搭載用のメンブレンアンテナにおいて、メンブレンリフレクタ3の成形時に、メンブレンリフレクタ背面に対して、結合部品2が接着される接着領域部に、メンブレンリフレクタと同一材料の補強部材5を一体成形する。一体成形をすることにより、結合部品2が接着される部位のメンブレンリフレクタの面外剛性を高くし、結合部品とメンブレンリフレクタの接着時の硬化収縮による鏡面精度劣化を低減する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は人工衛星に搭載するメンブレンリフレクタに関するものである。特に、メンブレンリフレクタと、メンブレンリフレクタを背面側から支持する背面構造体とを結合する結合領域に補強部材を備えた人工衛星搭載用のメンブレンリフレクタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、人工衛星に搭載されるリフレクタとして各種の種類があるが、その中でリフレクタの軽量化を目的としてリフレクタの鏡面部に強化繊維による2軸または3軸織物を強化材とした複合材料からなる薄板(メンブレン)状の膜面を用い、この膜面を背面側から支持して反射鏡面を維持させる構造を有したメンブレンリフレクタがある。メンブレンリフレクタの鏡面部(薄板状の膜面)と背面構造体とを結合するための結合部品としては、T字型の断面をした袋状の結合部品などが提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−270922号公報
【特許文献2】特開2005−217696号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
メンブレンリフレクタは、鏡面部が強化繊維による2軸または3軸織物を強化材とする複合材料からなる薄板(メンブレン)状膜面であるため面外剛性が非常に小さい。従来のメンブレンリフレクタでは、安価なL字型の部品か、または高価な箱型や円筒状部品と板の組合せ部品を用いて背面構造と鏡面部とを結合している。特許文献1記載のように積層複合材料製のL字型部品はその面内方向と面外方向の熱膨張係数が異なるため、温度変化によってその角度が変化し、リフレクタの鏡面精度を劣化させる懸念があり、箱型や円筒状部品と板の組合せ部品による結合は部品点数が増えるという問題があった。また、特許文献2に記載のように、バネ性を有する閉じた形状の結合部品を用いることで歪を吸収することができるが、この場合であっても結合部品と薄板(メンブレン)との接着部では接着剤の硬化収縮による薄板(メンブレン)の変形によりリフレクタの鏡面精度を劣化させる懸念があり、通信精度を確保する点で課題となっていた。
【0005】
この発明の目的は上述の課題に鑑みなされたもので、メンブレンリフレクタの鏡面精度の劣化の原因であるメンブレンリフレクタの背面側の接着部位の剛性を高くすることにより、鏡面精度の劣化を防止し、通信の安定性を向上させることのできるメンブレンリフレクタを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係るメンブレンリフレクタは、鏡面を有する鏡面部を構成する薄板状の膜面と、前記膜面の成す形状が所定の鏡面形状となるように、前記鏡面部における鏡面の背面側から前記膜面を支持する背面構造体とを備え、前記膜面は前記背面側に補強用のダブラを備え、前記ダブラと前記背面構造体とが固定されている
【発明の効果】
【0007】
この発明に係るメンブレンリフレクタによれば、結合部品が接着される部位のメンブレンリフレクタの面外剛性を高くすることができ、鏡面精度の劣化を防止して通信精度の安定性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施の形態1に係るメンブレンリフレクタを説明する図であり、(a)メンブレンリフレクタ1の鏡面と背面構造の結合部を示す斜視図、(b)結合部の断面を示す断面図である。
【図2】実施の形態1に係るメンブレンリフレクタ100の背面側の全体図である。
【図3】実施の形態1に係るメンブレンリフレクタの他の例を説明する図であり、(a)メンブレンリフレクタ1の鏡面と背面構造の結合部を示す斜視図、(b)結合部の断面を示す断面図である。
【図4】実施の形態2に係るダブラの形状と結合部を示す図である。
【図5】実施の形態2に係るメンブレンリフレクタ100の背面側の全体図である。
【図6】実施の形態3に係るダブラの形状と結合部を示す図である。
【図7】実施の形態3に係るダブラの形状と結合部品2を省いた結合部を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施の形態1
図1、図2はこの発明の実施の形態1のメンブレンリフレクタ100を説明するための図であり、図1(a)はメンブレンリフレクタ100の鏡面部と背面構造体の結合部を示す斜視図、図1(b)は結合部の断面図を示すものである。図2は、メンブレンリフレクタ100の背面側の全体図である。
図1(a)、(b)において、メンブレンリフレクタ100は、リフレクタ鏡面部を構成する薄板(メンブレン)状の膜面であるディッシュ3と、ディッシュ3を補強する補強部材であるダブラ5と、ディッシュ3の背面側に設けられディッシュ3を支持する背面構造体1と、リフレクタの鏡面部と背面構造体とを結合する結合部品2とからなる。
【0010】
ディッシュ3は予め準備されているメンブレンリフレクタ鏡面用の成形型を用いて、薄板材料を加熱と加圧の処理等を行うことで所定の形状に成形される。
実施の形態1に係るメンブレンリフレクタ100では、ディッシュ3を成形するにあたり、ディッシュ3の成形と同時に、ダブラ5を鏡面部の背面側の所定の位置に一体成形する。ディッシュ3とダブラ5は同じ材料であり、例えば炭素繊維強化プラスチック(CFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics)等が用いられる。
ダブラ5を鏡面部の凸面側である背面側にディッシュ3と一体成形により設けることにより、面外剛性が非常に小さいディッシュ3の面内で局所的に剛性を高くすることができる。
【0011】
背面構造体1は、鏡面部が所定の反射鏡として作用するように薄板状の膜面(ディッシュ3)の背面側から支持する構造体であって、ディッシュ3の背面側全体に配置されている。背面構造体1はメンブレンリフレクタ100の軸方向に幅方向をもつ複数の矩形の板状補強片から成り、これら複数の板状補強片を格子状に配置して剛性を高め、ディッシュ3の形状が所定の形状となるように支持している。
【0012】
結合部品2は、図1(b)に示すような閉曲面形状を成す樹脂または金属板等で形成されており、閉曲面形状の底面にあたる幅広部分が膜面(ディッシュ3)の背面側に固定される。また、図1(b)に示すように結合部品2の上端部が背面構造体1と固定されて、鏡面部と背面構造体1とが結合される。
図1(b)に示すような閉曲面形状を有することで、結合部品2がバネ性を有するために、温度変化により鏡面と背面構造体1との相対位置関係が歪むような場合でもこの歪を吸収することができる。
しかしながらこのような閉曲面形状を有する結合部品2を、幅広の底面部でディッシュ3に直接接着剤を用いて固定しようとすると、接着剤の硬化収縮により接着剤を塗布した領域でディッシュ3の形状も変形してしまう。ディッシュ3の形状が変形することで結果として焦点ズレなどリフレクタの特性が劣化する。
【0013】
この対策として、実施の形態1では図1(b)に示すように、ディッシュ3の背面側で結合部品1が接着剤で固定される位置に、予め、補強部材であるダブラ5を一体成形しておき、このダブラ5に結合部品2を接着剤4で固定するようにした。ダブラ5のある箇所では鏡面に厚みがあるため、結合部品2とディッシュ3とを固定する接着剤の硬化収縮の影響を抑制することができる。
【0014】
このように、実施の形態1のメンブレンリフレクタでは、鏡面を成すディッシュ3の背面側に補強部材であるダブラ5を一体成形し、ディッシュと一体成形されたこのダブラ5と背面構造体1とを結合部品2を用いて接着剤により結合するようにした。
結合部品2をダブラ5に接着剤で接着するようにしたことで、従来、結合部品をディッシュ3に接着剤で接着する際に生じていた接着時のディッシュ3の硬化収縮による鏡面精度低下を抑制することができる。
【0015】
なお、上記では結合部品2を用いてダブラ5と背面構造体1とを固定するようにしたが、結合部品2を省いて、ダブラ5と背面構造体1とを直接、接着剤などで固定するようにしてもよい。
図3は、実施の形態1に係るメンブレンリフレクタの他の実施例を示したもので、鏡面部と背面構造体を結合する他の一例を示したものである。このように、温度変化による歪の影響が小さい場合はを吸収する結合部品2を用いず、直接、ダブラ5と背面構造体1とを接着剤などで固定するようにしてもよい。
【0016】
実施の形態2
実施の形態1では補強部材のダブラ5をディッシュ3の背面側の全体に帯状に一体形成するようにしたが、実施の形態2では、鏡面部と背面構造体1を結合する結合部品2の固定箇所だけに補強部材を設ける。
【0017】
図4は実施の形態2に係るメンブレンリフレクタ100のダブラ形状を示す図である。図5はメンブレンリフレクタ100の背面側の全体を示す図である。図4において、ダブラ51はディッシュ3の背面側に形成され、結合部品2を間に介してディッシュ3を支持する背面構造体1と結合される。結合部品2とダブラ51とは接着剤4で接着される。
ここで、ダブラ51は結合部品2がディッシュ3と結合する箇所だけに形成され、ディッシュ3の背面側全体では複数のダブラ51がそれぞれ島状に分離して形成される。ダブラ51はディッシュ3と一体成形により形成される。このようにダブラ51を結合部品2とディッシュ3とが結合する箇所にそれぞれ分離するように設けることで、面外剛性が非常に小さいディッシュ3の面内で結合部品2との結合箇所だけ局所的に剛性を高くすることができる。ダブラ間が分離して分散配置されていることで、ダブラが連なって配置されていることによる薄板(メンブレン)の特定方向の変形を抑えることができる。
【0018】
このように実施の形態2では、ダブラ51をディッシュ3の背面側の面内で分散配置することで、メンブレンリフレクタ鏡面精度の劣化に起因する結合部品が接着されるディッシュ背面側の接着部位の剛性を高くすることができ、さらに、ダブラ51が分散配置されることでダブラを設けるによる特定方向の薄板(メンブレン)の変形を抑えることができる。
【0019】
なお、ダブラ51とディッシュ3とは一体成形でなくてもよく、ダブラ51とディッシュ3を各々別工程で形成し、後でディッシュ3とダブラ51とを接着剤で接着するようにしてもよい。
【0020】
また、上記では、結合部品2を用いてダブラ51と背面構造体1とを固定するようにしたが、結合部品2を省いて、ダブラ51と背面構造体1とを直接、接着剤などで固定するようにしてもよい。
【0021】
実施の形態3
実施の形態1、2では、ダブラとディッシュとを一体成形するか、あるいは、ダブラの面全体でディッシュの背面側と接着剤で接着しダブラとディッシュとを一体のものとして使用としていたが、実施の形態3では凸状のダブラを用意し、凸状のダブラとディッシュ3の背面側とを部分的に接着剤で接着する。
【0022】
図6は、実施の形態3に係るダブラ52の形状を示したものである。図6のように凸状のダブラ52を用意し、ダブラ52の端の部分でディッシュ3と接着剤で固定する。結合部品2は凸状をしたダブラ52の中央箇所に接着剤等で固定する。
【0023】
このようにしても、結合部品2が接着される部位のメンブレンリフレクタの面外剛性を高くすることができ、鏡面精度の劣化を防止して通信精度の安定性を向上させることができる。
【0024】
なお、図6ではダブラ52と背面構造体1との結合の際に結合部品2を用いていたが、この結合部品2を省いて、図7に示すように背面構造体1とダブラ52とを直接接着剤4で接着するようにしてもよい。凸状のダブラ52が温度変化による歪を吸収して結合部品2の緩衝機能を有するようにすることもできる。
【符号の説明】
【0025】
1 背面構造体、2 結合部品、3 ディッシュ、4 接着剤、5 ダブラ(補強部材)、51 ダブラ(補強部材)、52 ダブラ(補強部材)、100 メンブレンリフレクタ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鏡面を有する鏡面部を構成する薄板状の膜面と、
前記膜面の成す形状が所定の鏡面形状となるように、前記鏡面部における鏡面の背面側から前記膜面を支持する背面構造体と、
を備え、
前記膜面は前記背面側に補強用のダブラを備え、前記ダブラと前記背面構造体とが固定されていることを特徴とするメンブレンリフレクタ。
【請求項2】
鏡面を有する鏡面部を構成する薄板状の膜面と、
前記膜面の成す形状が所定の鏡面となるように、前記鏡面部における鏡面の背面側から前記膜面を支持する背面構造体と、
前記膜面と前記背面構造体との間にあって、前記膜面を前記背面構造体に固定する結合部品と、
を備え、
前記膜面は前記背面側に補強用のダブラを備え、前記ダブラと前記結合部品とが固定材で固定され、かつ、前記結合部品と前記背面構造体とが固定されていることを特徴とするメンブレンリフレクタ。
【請求項3】
人工衛星に搭載するメンブレンリフレクタであって、前記膜面と前記ダブラは炭素繊維強化プラスチック(CFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics)からなり、前記膜面と前記ダブラは一体成形されることを特徴とする請求項1、2いずれか記載のメンブレンリフレクタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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