説明

モジュール式エネルギー回収水処理装置

事前水処理およびエネルギー生成のために最適化されたモジュール式装置、およびこれを動作させる方法が、開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2010年1月14日出願の米国特許仮出願第61/294,841号明細書の優先権の恩典を主張し、当該明細書は、参照によりその全内容が本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
スラッジは、一次処理中に未処理下水から採取された高密度物質と、従来の廃水処理プラントにおける二次および三次処理ステップの間に急速に成長する二次バイオマスとの混合物である。米国環境保護庁(EPA)によって制定された規制によれば、いずれの単一の廃水プラントから発生したスラッジも、結果的に総揮発性浮遊固形物(VSS)の38%の減少および2×10未満の糞便性大腸菌の最終濃度となる処理方式を受けなければならない。これらの基準に適合した後、処理済みスラッジはクラスBバイオソリッドと見なされ、埋め立て地に廃棄されてもよく、あるいは連邦規則集第40巻パート503の水質汚染防止法によって定義されるように、規制された場所に埋め立てられてもよい。
【0003】
スラッジ処理方式は、排液流から有機汚染物質を除去するために、しばしば微生物の活動を利用する。方式は、廃水およびスラッジ処理の好気性および嫌気性方法を含む。しかしながらこのような従来の方式は、多数の不都合を被る。たとえば好気性方法は、リアクタ内容物を混合および通気するために、相当量のエネルギー入力を必要とする。このようなスラッジ処理方法はまた、処理されなければならない大量の二次バイオマスも発生し、処理および廃棄のためにさらなるエネルギーコストを必要とする。
【0004】
嫌気性スラッジ消化プロセスは、たとえばメタン生成および熱電併給を通じて、限られた量のエネルギー回収を可能にする。しかしながら、このようなプロセスを通じたエネルギー生産は非効率的であり、過剰なメタンが排ガスとして燃焼されなければならない場合が多い。嫌気性消化装置は長い滞留時間も必要とし、都市で発生する大量のスラッジを処理するために、多数のリアクタが採用されなければならない。結果的に、このような消化装置は、これらが発生することができるよりもはるかに高いレベルのエネルギー、ならびに稼動用の広い土地を必要とする。嫌気性スラッジ消化はまた、大量の二次バイオマスおよび扱いにくい固形廃棄物も生成し、さらなる処理および廃棄コストを必要とする。
【0005】
微生物燃料電池(MFC)は、有機炭素化合物(廃棄物)に蓄積されたエネルギーを電気に変換するために微生物を採用する可能性を提供する。MFCシステムを通る電子の流れは、一次スラッジ還元を加速させ、二次スラッジの量を減少させ、直接発電を生じる。MFCの触媒活性は、電極の導電面に付着して電気化学的に活性な生物膜を形成する微生物、一般的には細菌によって、生じる。アノードの生物膜に含まれる微生物は、スラッジ、廃水、またはその他の液体投入物に含まれる有機成分から電子を酵素的に抽出し、電極に電子を移動させる。微生物は生物学的機能を維持するために電極表面への電子移動を実行しなくてはならず、言い換えると、微生物は生きるために電極表面で「呼吸」する。MFCシステムは電流発生を通じて微生物から電気エネルギーをただちに移動させるように設計されているので、微生物は、成長およびバイオマス生成のためにエネルギーを使用することができない。さらに、微生物からエネルギーを移動させることはまた、微生物代謝を加速し、一次スラッジ還元速度を増加させる。
【0006】
既存のMFC装置における反応の完了は、物理的に分離しているが電気的に結合している、異なる細菌生物膜を備えるコンパートメント内で行われる。カソードは、酸素、あるいは亜硝酸塩、硫酸塩、または重金属などのその他の酸化剤の還元中に、エネルギー源として使用される。カソードは液中に沈められるので、カソード上での細菌の成長は回路を通じて送達されるエネルギー源によって制限され、したがって伝統的な好気性処理システムと比較して、バイオマス生産量が減少する。加えて、新しい水の生産は、カソードとの生物学的に触媒された酸素還元反応に起因する。たとえば、酸素が酸化剤であるとき、MFC動作中にアノードコンパートメントからカソードコンパートメントまで横断する4つの電子および2つの陽子ごとに、1つの新しい水分子が生成されることが可能である。水の生成は生物学的に触媒されており、MFCシステムがどのように操作されるかに基づいて最適化されることが可能である。
【0007】
MFCシステムの生成物は:1)アノードからの処理済みの非飲料水(二次レベルへ)または飲料水および二酸化炭素;2)たとえば酸素が酸化剤として含まれるとき、カソードから発生する新たな水源;および3)両方のコンパートメント内の生物電気化学反応の結果としての電気、を含む。
【0008】
研究は、燃料源としてスラッジを用いて動作するMFCシステムが、12時間の滞留時間内で当初の有機含有量の40%から80%を分解することができることを示している(Logan,B.E.(2005)Waste Science and Technology 152:31−37;Scott,K.およびC.Murano(2007)Journal of Chemical Technology&Biotechnology 82:92−100;Mohan,S.V.ら(2008)Biosensors and Bioelectronics 23: 1326−1332)。しかしながら、この研究は、30から500ミリリットルの廃水を保持するリアクタを用いて、研究室内で行われた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Logan,B.E.(2005)Waste Science and Technology 152:31−37
【非特許文献2】Scott,K.およびC.Murano(2007)Journal of Chemical Technology&Biotechnology 82:92−100
【非特許文献3】Mohan,S.V.ら(2008)Biosensors and Bioelectronics 23: 1326−1332
【非特許文献4】Ishiiら、Biosci.Biotech.Biochem.72,286,2008
【非特許文献5】Badgerら、Int.J.Syst.Evol.Microbiol.55,1021,2005
【非特許文献6】Federovaら Genomics 6,177,2005
【非特許文献7】Palenikら、PNAS 103,13555,2006
【非特許文献8】Nordstromら、Biotech.Appl.Biochem.31,107,2000
【非特許文献9】Gharizadehら、Anal.Biochem.301,82,2002
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
工業規模で廃水を効率的に処理することができるMFCベースのシステムが、必要とされる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本明細書は、大量の廃水を処理するための複数の微生物燃料電池(MFC)を含むモジュール式システムを取り上げる。システム内のMFCは直列に配置されても並列に配置されてもよく、特定のMFCは特定の目的のために最適化されてもよい(たとえば、流入液の特定の成分を分解するため、特定の量に適合させるためなど)。たとえば、1つ以上のMFCのアノードは、特定の有機物質を分解し、電子を移動させ、および/または嫌気性環境中に存在する有機体のために富化された生物膜を、包含することができる。1つ以上のMFCのカソードは、好気性環境中に存在し、および/または酸化剤を還元するために富化された生物膜を、包含することができる。
【0012】
MFCのアノードは、アノードコンパートメント内に嫌気性環境を発生させ、カソードコンパートメント内に好気性環境を発生させるように、カソードの内部に位置決めされることが可能である。特定の実施形態において、カソードはアノードよりも広い表面積を有する。さらなる実施形態において、アノードとカソードとの間の距離は、約2cm未満である。
【0013】
特定の有機体のために富化された生物膜を形成する方法も、取り上げられる。特定の方法は廃水源のみを使用し、選択的な炭素源の追加を必要としない。
【0014】
(a)リアクタから発生する電流を監視するステップと;(b)電流の低下が観察されたときにシステムに新鮮な流入液を追加するステップと、を含む、MFC包含システム内の廃水の処理を強化する方法が、さらに取り上げられる。
【0015】
本明細書に記載されるシステムは、アノードから処理済み非飲料水(つまり、部分的に浄化されたもの)または飲料水および二酸化炭素;カソードから新しい水;および両方のコンパートメント内の生物電気化学反応の結果としての電気、を生成する。バイオマス生産量の減少および直接発電は総コストを減少させ(嫌気性または好気性消化装置の維持と比較して)、その一方で同等またはより優れた有機酸化速度および効率的なエネルギー回収を実現する。システムはまた、微生物から電気としてエネルギーを取り出し、二酸化炭素のメタンへの還元よりも細胞外呼吸の方がエネルギー的により好ましいような環境を定義することによって、排ガスメタン、著しい温室ガスの生成も低減する。システムから発生した二酸化炭素は、たとえば光合成池の燃料として利用されることが可能であり、これはたとえば、肥料用のバイオマスとして、または生物燃料を生成するために、使用されることが可能である。加えて、システムは、処理される廃水および消費されるエネルギーに関する多様性を提供する。たとえば、システムは、低ピーク需要でスラッジ還元のために(たとえば64mgL−1−1)、高ピーク需要で発電のために(たとえば1kW/m)、最適化されてもよい。
【0016】
その他の特徴および利点は、以下の詳細な説明および請求項から明らかになるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】例示的なモジュール式廃水処理システムを示す図である。
【図2】a)表1、第一列に記載される水質値の初期スラッジサンプル;およびb)表1、第二列に記載される水質値の処理済み排出液の、写真である。
【図3−1】サンガー法での16s rRNAシーケンシングに基づく未処理スラッジサンプルの系統発生的多様性を示す図である。200個のクローンがシーケンシング用に選択された。結果は、未処理サンプルにおけるa)優占な細菌門;b)優占な細菌綱;およびc)優占な細菌の属を示す。
【図3−2】サンガー法での16s rRNAシーケンシングに基づく未処理スラッジサンプルの系統発生的多様性を示す図である。200個のクローンがシーケンシング用に選択された。結果は、未処理サンプルにおけるa)優占な細菌門;b)優占な細菌綱;およびc)優占な細菌の属を示す。
【図4−1】MFCカラム1のa)門、b)綱、およびc)属におけるアノード黒鉛顆粒関連バイオマスの系統発生的多様性;およびMFCカラム3のa)門、b)綱、およびc)属におけるアノード黒鉛顆粒関連バイオマスの系統発生的多様性を示す図である。アノード関連物質からDNAが抽出され、非プライマ固有454シーケンシング法を用いて配列決定された。「その他」という項目は、存在する個体数の0.1%未満しかない細菌門、綱、および/または属を指す。「不明」という項目は、APIS解析ソフトウェアを用いる曖昧なまたは重複するタンパク質の適合を指す。
【図4−2】MFCカラム1のa)門、b)綱、およびc)属におけるアノード黒鉛顆粒関連バイオマスの系統発生的多様性;およびMFCカラム3のa)門、b)綱、およびc)属におけるアノード黒鉛顆粒関連バイオマスの系統発生的多様性を示す図である。アノード関連物質からDNAが抽出され、非プライマ固有454シーケンシング法を用いて配列決定された。「その他」という項目は、存在する個体数の0.1%未満しかない細菌門、綱、および/または属を指す。「不明」という項目は、APIS解析ソフトウェアを用いる曖昧なまたは重複するタンパク質の適合を指す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本明細書に記載されるモジュール式MFCシステムの例示的実施形態が、図1に描写される。各カラムは1つのMFCモジュールを表し、すべてのカラムはスラッジ分解のために並列で操作される。
【0019】
一次スラッジは、MFCの上部にあるスラッジ流入手段を通じて流入し、カラムの底部にある処理済み流出手段を通じて出て行く。特定の実施形態において、流入手段および流出手段の機能は、詰まりを解消および/または防止するために、逆転されることが可能である。カラムは、内部アノードおよび外部カソードを含む。アノードは、チタンメッシュで囲まれた黒鉛顆粒を含む。カソードは、黒鉛顆粒が充填されたチタンメッシュの二重層である。最適な物質移動を容易にするため、アノードとカソードとの間の最小間隔(≦1cm)が用いられる。アノードの外層は、ナイロンメッシュに包まれている(約30μm孔径)。システムは、カソード表面における二次バイオマスの成長を最小化するために、水またはその他の液状排出物(たとえば、一次または二次除濁装置排出液)に沈められる。
【0020】
処理すべき流入液は、たとえば飲料水、雑排水、またはその他の飲料水に近い形態を生成するためにMFC内で処理されるいずれかの水ベースの組成物を含む、いずれの源から来てもよい。流入液の例は、スラッジ;廃水;流出液;製紙または製粉の副産物などの工業廃水;醸造廃水などの食品産業廃水;農業廃水;住宅廃水;自治体廃水;動物または農業廃水;下水;水域からの水;および嫌気性消化装置の排出液を含む。
【0021】
「処理」とは、排水中の有機物の分解を指す。有効な処理は、a)総浮遊固形物(たとえば、10日間で22000mg/Lから6600mg/L);(b)生物学的酸素要求量(たとえば、5日間の滞留時間で4500mg/Lから2250mg/L);(c)メタン生成(たとえば、10日間にわたって1.4ppmから0.7ppm);および(d)臭気(たとえば、5日間にわたって21から11ppmのHS)の減少として、実証されてもよい。
【0022】
一般的に、MFCの触媒活性は、電極の導電面と物理的に結びついている微生物個体群によって生じる。微生物個体群は、微生物個体群の少なくとも一部が生物膜として電極表面上で成長している場合に、電極と「物理的に結びついて」いる。
【0023】
「微生物(microbe)」または「微生物(microorganism)」は、たとえば細菌、真菌、藻類、古菌類、原生生物、プランクトンなどを含む、いずれの顕微鏡的サイズの有機体であってもよい。微生物は、単細胞であっても多細胞であってもよい。
【0024】
アノードと物理的に結びついている微生物は、流入液の有機成分から電子を酵素によって抽出して、アノード電極に電子を移動させる。微生物から離れる、電子の形態でのエネルギーの移動は、結果的に微生物代謝の加速、および流入液のさらなる改善をもたらす。カソード電極に輸送された電子は、カソードと物理的に結びついている明確な微生物個体群のためのエネルギー源として、使用されることが可能である。カソード上での細菌増殖は、回路を通じて送達されるこのエネルギー源によって制限されることが可能である。
【0025】
電極は、適切な微生物群で充填または装填されてもよい。開始群、たとえば野生型(親)群(すなわち流入液中に自然に存在する)または微生物の人工的集まりが、使用されることが可能である。局所群を選択および確立するために一定期間使用および維持されるべき流入液を用いてリアクタに植菌することによって、滞留群が得られる。アノードにおいて、微生物は、アノード電極に移動させられる電子を発生する。カソードは、適切な酸化剤の還元中に陽子を含むカチオンおよび電子が利用される、微生物個体群を含むことができる。したがって、カソードは、好ましくは水などの利用可能な最終製品として、リアクタからの陽子およびその他のカチオンの除去を容易にするために、カチオンおよび/または金属(たとえば、白金、炭化タングステン、酸化コバルト)または炭素または黒鉛ベースの媒質などの非生物触媒を消費するための微生物個体群と、結びつけられることが可能である。非生物触媒は、たとえば、炭化タングステン−コバルト、チタン、酸化マンガン(IV)、モリブデン、タングステン、またはこれらの組み合わせの薄層を備える被覆基材材料を含む。異なる被覆技術もまた、酸素の非生物還元のためのより大きい触媒表面積を容易にする。
【0026】
たとえば、アノード結合微生物個体群は、嫌気性環境中で成長し、エネルギーのために多様な炭素源を使用し、電極上で生物膜として成長し、および/または電極に電子を移動させることが可能な微生物のために富化されてもよい。カソードと物理的に結びついている微生物個体群は、MFC内でカソード結合微生物個体群として機能する能力を改善する特性を有する微生物のために、富化されてもよい。たとえば、カソード結合微生物個体群は、好気性環境中で成長することができ、エネルギーのためにカソードから獲得された電子を使用し、および/または電極上で生物膜として成長することが可能な、微生物のために、富化されてもよい。
【0027】
「電極」とは、それを通じて電流が金属媒質に出入りする導体を指す。MFCで使用される電極は、微生物の付着を許容する、いずれの導電性材料を含んでもよい。電極は、電子を伝導する材料で完全に作られることが可能であるか、または陽子を伝導する材料を含むことができる。適切な材料の例は、金属、金属化合物、非金属、またはそれらの組み合わせを含む。金属の例は、チタン、白金、および金を含む;金属化合物の例は、酸化コバルト、酸化ルテニウム、炭化タングステン、炭化タングステンコバルト;ステンレス鋼;またはそれらの組み合わせを含む。非金属の例は、黒鉛、黒鉛ドープセラミック、およびポリアニリンなどの導電性ポリマーを含む。電極は、固体、複合体、またはたとえば接着剤、糊、結合剤、接合剤など、粒子を凝集および固定するのに役立つ材料を用いて、目的の形状に圧縮または成形される微粒子の集合などの混合物であってもよい。微粒子は、紙、膜、メッシュ、スクリーン、格子などの保持材(たとえば拘束手段)によって、対象の形状または形態に保持されることが可能である。保持材は、たとえばチタンなどの金属を含むことができ、電極材料は、たとえば黒鉛顆粒、大孔径エアロゲル、黒鉛繊維ブラシ、黒鉛有孔板、黒鉛多孔質球、黒鉛織り繊維、黒鉛フェルト、黒鉛布、または異なる導電性高表面積微粒子の組み合わせなどであってもよい。微粒子が使用されるとき、微粒子は、球体、楕円体、または結晶などの規則的な形状であっても不規則な形状であってもよい、たとえばクリンカ、団塊、繊維またはペレットなど、いずれの形状およびいずれのサイズであってもよく、また多様なサイズであってもよい。保持材として適切なその他の材料は、たとえばステンレス鋼、チタン、または高密度ポリエチレンなどの金属または金属複合材を含むスクリーンまたは布である。
【0028】
保持材は、処理中の流入液に、電極材料へのアクセスを提供してもよい。したがって、保持材には空隙が存在してもよい。存在する場合には、空隙は、同時にカチオンおよびその他の物質の電極または電極材料に出入りする流れを許容しながら、電極材料の通過を許容しないサイズとなることができる。
【0029】
電極は、導電性材料が充填または挟み込まれた金属メッシュなどの保持材の複数層を含んでもよい。電極は、複数層または複数葉の保持材を備える層を含むように設計されてもよく、保持手段の隣り合う層の間には、顆粒などの導電性材料の交互の層が閉じ込められて、結果的に保持手段および導電性材料の交互の層となる。このような構成は、電極サイズおよび表面積を強化する。このような構成はまた、電極中の生化学的勾配の展開も容易にする。電極は、たとえば少なくとも2つの層、葉、枚の保持材を備える円筒形状を有することができる。保持材の個々の層は、たとえば約0.5cm、約0.75cm、約1cm、約1.25cmなどの固定距離だけ分離することが可能である。保持材の隣り合う層の間の空隙は、表面積を強化するために、複数の顆粒または多孔質顆粒などの導電性材料など、電極材料が充填されることが可能であり、これはたとえば、直径がある軸または長軸に沿って約2mmから、長軸に沿って約5mmまでの範囲の、長円形、円形、または楕円の形状であってもよい。保持材は、たとえば、導電性シート、フィルム、グリッドまたはメッシュで構成されてもよく、これはたとえば、チタンまたはステンレス鋼などの非導電性プラスチック、金属、またはその他の導電性材料を含むことができる。カソードでは、層または多層が陽子流を強化し、ひいてはこれが還元反応を強化する。
【0030】
アノードは、たとえばその最長軸に沿って約2mmから約5mmの範囲の直径を備える、たとえば多孔質黒鉛顆粒からなり、糊、接着剤、結合材、または接合剤などの凝集手段または固定手段を用いて、あるいはグリッドまたはメッシュなどの保持材によって、構造的に保持および成形された構造を有する、充填層リアクタと類似しているかも知れない。保持材は、プラスチックなどの非導電性材料、またはチタンなどの金属またはその他の導電性材料で作られることが可能である。たとえば、チタンは導電性で、耐腐食性で、耐久性があり、微生物作用を補完する固有の触媒特性を有する。このため、たとえば保持材は、アノードおよびカソードコンパートメント間のイオン交換の半径方向物質移動を容易にする、織りチタン材料であってもよい。ステンレス鋼またはその他の複合金属メッシュが、充填層型電極構造に使用されることも可能である。炭化タングステンまたは酸化コバルトは、アノード用の、費用効果の高い非生物触媒手段として使用される。
【0031】
カソード対アノード表面積比は、同じにまたは異なるように構成されることが可能である。たとえば、カソードは、アノードよりも大きくなるように、または大きい表面積を有するように、構成されることが可能である。たとえば、カソード対アノード表面積比は、少なくとも約1:1、約1.25:1、約1.5:1、約1.75:1、約2:1、約2.25:1、約2.5:1、約2.75:1、約3:1、約3.25:1、約3.5:1、約3.75:1、約4:1、約4.25:1、約4.5:1、約4.75:1、または約5:1であってもよい。
【0032】
電極サイズおよび形状は、動作パラメータによって決定されることが可能である。たとえば、電極は、たとえば有孔率を増加させること、表面粗さを増加させること、または所定の導電性材料のトポグラフィを修正することによって、表面積対容積比を強化させるためのサイズおよび形状となることが可能である。これは、たとえば被覆を適用すること、製造手順を定義すること、粒径を減少すること、および/またはメッシュサイズを調整することによって、達成されることが可能である。
【0033】
表面積は、部分的に、所望の滞留時間、流入排液流、および流動力学に依存してもよい。たとえば、微粒子電極材料は、滞留時間を延長して効率を低下させるので、あまり詰め込みすぎるべきではない。加えて、電極は良好な伝導率を促進するように設計されるべきである。
【0034】
適切な空隙容積(充填層構造または電極の複合構造と結びつけられた接触する導電性粒子の間の空間)は材料、固体粒子、および液体の通過を許容するように、ならびに電極交換/保守の必要性を低減するように、選択されることが可能である。導電性粒子間の空隙容積が大きい場合には、システムの内部抵抗が増加して、結果的に電極における酸化還元を低下させる。
【0035】
同様に、アノードは、嫌気性条件を維持しながら本明細書に記載される材料を用いる、多層構成であってもよい。このため、アノードは、最内部または最外部層が保持材を含む、上述のような保持材、および導電性材料の、交互の層を含むことができる。
【0036】
電極の構成は、反応条件を最適化するための設計上の選択である。MFCは、電極の交互の板、シート、および/または葉;各々がたとえばロッド、柱、円筒、バー、および/またはシートなど、いずれの形状であってもよい、単一のアノードおよび単一のカソード;同じ数の複数のアノードおよび複数のカソード;異なる数の複数のアノードおよび複数のカソード;リアクタの内部側壁を含むか、または内部側壁と平行に続く層として付着されたカソード(「周囲」電極)を備える中心アノード;リアクタの側壁を含むかまたは側壁と平行に続く層として付着されたアノードを備える中心カソード;周囲カソードを備える複数の中心アノード;または周囲アノードを備える複数の中心カソード、を含むことができる。電極は、たとえば水平、垂直、または半径方向など、いずれの方向に配向されることも可能である。本明細書において使用される際に、文脈でそのように記載されない限り、1つのアノードは単一のアノードまたは複数のアノードを表すことができ、1つのカソードは単一のカソードまたは複数のカソードを表すことができる。
【0037】
アノードとカソードとの間の間隔は、たとえば陽子移動などの動作パラメータを最適化するために選択される。アノードへの酸素のいかなる漏れも、アノードまたはアノードコンパートメント内の電子移動を妨害し;アノードにおけるバイオマス成長を増加させ;発電量を減少させ;および/またはエネルギー回収を減少させる。このため、間隔は、陽子移動を維持しながら酸素移動を最小化するように最適化されることが可能である。
【0038】
間隔は、たとえば、アノードおよびカソードはイオン的に接触するが電気的接続は排除されるように、なされることが可能である。このような構成は、短絡回路を防止し、物質輸送が律速にならないようにイオン(たとえば陽子)伝導率を最適化する。アノードとカソードとの間の間隔を最適化することにより、電流が最適化され、結果的に酸化および還元速度が強化される。カチオン移動を最適化する特徴は、カソードおよびアノード電極の間の最短距離、溶液伝導率、および濃度勾配である。溶液伝導率(イオン伝導率)および濃度勾配(pHおよび/または気相)は、アノードからカソードへの陽子の移動にも影響を及ぼす。アノード環境が陽子豊富であってカソード環境が陽子に乏しい場合には、陽子は平衡に到達するまでアノードからカソードへ移動することになる。陽子が移動しなければならない距離が短いほど、還元反応は高速で発生することができる。アノードは嫌気性(酸化剤がほとんどまたはまったくない)、およびカソードは好気性(エネルギー豊富な酸化剤有り)となることができる。このような条件の下で、陽子は還元反応を完了するために、勾配に沿って移動することになる。アノードとカソードとの間の距離は、たとえば、3cm未満、2.75cm未満、2.5cm未満、2.25cm未満、2cm未満、1.75cm未満、1.5cm未満、1.25cm未満、または1cm未満であってもよい。
【0039】
電極間の障壁が使用されてもよい(たとえば、分離手段)。この障壁は、たとえばプラスチック、セラミック、および/またはポリマー(たとえばナイロン)など、いずれの非導電性材料から作られることも可能であり、電極または電極コンパートメントの間に障壁手段を提供するために、たとえばシート、布、および/またはメッシュとして提示されることが可能である。この障壁は、流体および/または微生物の通過を許容することができる。このような障壁は、陽子選択的材料であるとは見なされない。このような障壁は、陽子移動を最大化し、および/または交差する流入液、酸化剤、および/またはその他の反応剤を減少されるかも知れない。分離手段は、微生物および流体を透過させる、多孔質シートまたはメッシュであってもよい。しかしながら、いくつかの実施形態において、カチオン交換膜などの陽子選択的材料が使用されることも可能であるが、ただし高額である。
【0040】
いくつかの実施形態において、電極間の障壁は、陽子、微生物、および/または流体移動を許容しながらMFCの回路短絡を防止する、多孔質の絶縁材料を含む。たとえば、0.2から40μmの間の孔径を有する微小孔メッシュが使用されることが可能である。いくつかの実施形態において、孔径は約30μm以下である。このような微小孔メッシュは、ナイロン、PTFE、またはPVDFなど、いずれの絶縁材料で作られることも可能である。いくつかの実施形態において、絶縁障壁は親水性である。
【0041】
物理的障壁は、アノードとカソードとの間の距離が最小化されて、本明細書に記載されるように回路短絡を回避するように制御される場合には、必要ではないかも知れない。
【0042】
特定の実施形態において、本明細書に記載されるMFCは生物学的勾配(嫌気性から好気性代謝へ)を確立することが可能であり、これは、たとえば3cmより大きい、電極間の大きい分離を有するか、またはカソードからアノードへの酸素交差を最小化するためにカチオン交換膜を採用するシステムにおいて利用可能なよりも、大きい代謝および呼吸多様性を活用することができる。
【0043】
このような生物学的および化学的勾配は、生物学的およびシステム動作パラメータの結果として発生し、適切な微小環境を提供することによってMFC効率を強化する。したがって、異なる微生物コンソーシアの混合は、効率およびエネルギー回収を最大化する。コンソーシアは、アノードの中心またはアノードコンパートメント内での嫌気性条件、アノードとカソードとの間の空隙または空間内の好気性条件、およびカソードの層の間で変化する好気性条件など、リアクタおよびその各部分で条件が維持されるときに、富化される。カソードコンパートメント内に、たとえば硝酸塩など、異なる酸化剤濃度を有することによって、類似の条件が得られる。炭素勾配は、リアクタの上部から底部に向かって、およびこのような電極構成での中心アノードから周囲カソードに向かって半径方向外向きの両方で、MFC内に存在してもよい。
【0044】
特定の実施形態において、微生物個体群は、浄化すべき廃水に常在する親微生物個体群から、富化される。このような実施形態において、浄化すべき廃水はMFCのアノード電極と接触する。リアクタ富化の間、MFCは、アノード電極表面でバイオマスを実現するために、まず高抵抗(たとえば1000〜5000Ω)にわたって動作される。数回のフローサイクル(またはバッチサイクル)にわたって安定した電流生成が達成された後、回路にかかる抵抗は、代謝の最適化を開始するために、次に中抵抗(たとえば100〜500Ω)まで低下される。電流再現性が再び達成されるべきであり、化合物の分解のための最大生物膜活動を可能にするために、抵抗は最終的に低抵抗(たとえば、10〜50Ω)まで低下されることになる。この富化プロセスは、廃水の性質およびMFC動作パラメータに応じて、10から30日でどこでも行うことができる。生物膜活動が安定した後、リアクタは最大有機分解速度(回路短絡に近い)または最大出力(細胞極性化測定によって定義される)で動作されてもよい。
【0045】
MFCの動作中、アノードにまたはその付近にある流体は、嫌気性条件を維持しながら、沈殿および腐敗条件を防ぐために、たとえばフロー条件下でMFCを動作することによって、静かに撹拌されることが可能である。カソードにまたはその付近にある流体は、たとえば添加酸化剤によって撹拌されることが可能である。水処理プロセスは、アノードコンパートメントを通る一定流量の流入液、およびカソードを横切るかまたはそこからの、たとえば水などの一定流量の生成物を伴って、継続することができる。流入液の流入は、飲用または準飲用レベルまでの処理に、アノードでたとえば約1日、約2日、約3日、約4日、約5日、約6日、または約7日の平均流体保持時間を許容するように、構成されることが可能である。飲用可能性に近づく水を獲得するために、より長い滞留時間が用いられることも可能である。しかしながら、リアクタの単位容積あたりの電極活性表面積を増加させることで、酸化速度を向上し、ひいては滞留時間を低減することができる。閉回路状態またはそれに近い状態でリアクタを動作させることもまた、滞留時間を低減し、酸化反応を加速することができる。
【0046】
栄養素分解速度は、監視および最適化されることが可能である。たとえば、リアクタからのサンプルは、流入液および排出液の化学的および生物学的分析のために採取されることが可能である。MFCからの排出液中の許容可能な有機物、微粒子、およびその他の要素のレベルは、設計上の選択である。たとえば、リアクタを通る一回のパスの後に容認される量を超過した場合には、排出液はリアクタ内により長い時間保持されるか、または同じリアクタ内を再循環するか、または別のリアクタに通されることが可能である。再循環システムは、同じMFC内で再び処理するためにMFC収容手段の入力手段に戻るように排出液を輸送する、排出液連通手段を含むことができ、あるいは排出液は、連通手段によって第二MFCまで輸送されることが可能である。所望の終点を達成するためのMFCを通るパスの数は、設計上の選択である。
【0047】
生産および反応パラメータは、たとえば自動デジタル装置(たとえ高インピーダンス・デジタル・マルチメータ)を用いて、リアクタの動作中、定期的または連続的に監視および記録されることが可能である。アノードまたはカソードで発生する可能性のあるいずれかの律速反応を同定するために、動電位分極および細胞極性化を含む、追加の電気化学的評価が実行されることが可能である。システム動作の結果か、生物学的限界か、および/または二次的な化学反応かを判断するために、いずれの律速反応もさらに評価される。たとえば活性生物膜の生物増強など、全体的なリアクタ効率に対して律速反応または因子が及ぼす可能性のある影響を解消するために、これらのデータに基づいて、システム修正が採用されてもよく、および/またはシステム流量の変更がなされることも可能である。
【0048】
本明細書に記載されるシステムは、様々な競合する生物学的プロセスのうちの1つ以上を優先させるように、すなわち発電のために、特定の発酵反応、メタン生成、微生物バイオマス蓄積(すなわち生物付着)、および/または物質移動を最大化するために、最適化されてもよい。
【0049】
たとえば、メタン生成および生物付着を低減するために、非常に小さい負荷でMFCを動作すること、すなわち、回路全体にたとえば200Ω以下の低抵抗を適用することによって最大電流を容易にすることは、有利であろう。しかしながら、動作電池電圧が低くなる可能性があるので、最大電流でMFCシステムを動作することは、最大出力発電を可能にしない。スラッジ還元の間に最大出力でシステムを動作させることは、電子が微生物コンソーシアの内部に蓄積することができ、成長または二酸化炭素の分解に使用されることが可能なので、結果的に二次バイオマスのより迅速な蓄積、およびメタン生産量の増加をもたらす可能性がある。さらに、発酵プロセスがすでに行われた後にエネルギー回収がより効率的に行われるので、最大出力発電の間、より長い滞留時間が必要とされる可能性がある。これは、MFC内の処理に先立って流入液の発酵を可能にするインライン収容手段を設計することによって、緩和されることが可能であろう。
【0050】
あるいは、メタン生産量は、二酸化炭素還元において加速された発電代謝を優先させる有機体を選択することによって、最小化されることが可能である(Ishiiら、Biosci.Biotech.Biochem.72,286,2008)。また、より低温で動作し、そのためリアクタ加熱のためにより少ないエネルギーを必要とする微生物が選択されることも可能である。
【0051】
MFCのリアルタイム監視は、エネルギーを電気として直接的に回収するために、たとえば最大電力を獲得するように動作する柔軟性を提供する。したがって、たとえば日中など、エネルギー需要が高いかまたは望まれるとき、システムはより高い負荷で動作することができ、したがって流入液分解プロセスを減速するが、しかしエネルギー回収および発電を強化する。あるいは、MFCは、たとえば夜間に、流入液分解を加速してバイオマス生産量を減少するために、小さい負荷で動作することが可能である。
【0052】
特定の実施形態において、本明細書に記載されるMFCのアノードは、エネルギー用に単一の炭素源のみを使用するように限定されない、微生物の多様な個体群と物理的に結びついている。このため、電極に滞留する生物膜群のわかりやすい系統発生的な記述を得ることが、可能である。このような分析は、エネルギー生成などの所望の目的を達成するために対象のアノードまたは対象のカソード内で使用するように最適化された個体群の生成および同定、あるいはパラメータの特定のマイルストーンを実現するための滞留時間を可能にし、すなわちコンソーシアは、対象の生成物の獲得を最大化するように、特性評価および定量化される。このコンソーシアは、その用途または使用法に合わせて最適化される。
【0053】
メタゲノム法は、群の中に存在する遺伝子の集合体全体を反映するゲノムデータを生成し、これはその後、たとえばスラッジ酸化、エネルギー回収、および水生成に関連する代謝プロセスに関わる、特定の遺伝子クラスタ、または有機体を同定するために、使用されることが可能である。
【0054】
系統発生的プロファイリングは、後に対象の表現形質の分布と比較される、異なる遺伝子に存在する、および存在しない遺伝子ファミリ、またはタンパク質のパターンを分析するために、使用される。特定の表現型を共有する有機体のゲノムにおいて選択的に見いだされる遺伝子(または遺伝子の組み合わせ)は、機能的候補と見なされる。系統発生的プロファイリングは、たとえば、J・クレイグ・ベンター研究所(J.Craig Venter Institute)で開発された、Automated Phylogenetic Inference System(自動表現型推論システム)(APIS)を用いて実行されることが可能であり、Badgerら、Int.J.Syst.Evol.Microbiol.55,1021,2005;Federovaら Genomics 6,177,2005;およびPalenikら、PNAS 103,13555,2006を参照されたい。
【0055】
次に多様な微生物群内で発生し、所定のシステム内の系統発生的および遺伝子発現動態を監視するための様々な条件の下でメタゲノムおよびメタトランスクリプトームシーケンシングを実行することによって拡張されることが可能な、特定の機能プロセスを解明するために、情報が適用される。微生物群動態を理解することは、工業、農業、および自治体用となど、様々な流入液を用いる様々な条件の下で、制御された研究室条件の外部の多くの環境で、安定した連続的な動作を実証することが可能な、最適化された再生可能エネルギーおよび/または水処理システムを開発するための、一部分である。
【0056】
微生物個体群を評価するために、アノードおよびカソードのサンプルは、システム流入液および排出液と共に、たとえば454DNAシーケンシングなどのゲノム解析、およびメタゲノム解析によって、処理される。454およびSolexaシーケンシング技術の商業的利用可能性は、大規模DNAシーケンシング計画のためのサンガーシーケンシングの代替を提供する。454技術は、ピロシーケンシングに基づく(Nordstromら、Biotech.Appl.Biochem.31,107,2000;およびGharizadehら、Anal.Biochem.301,82,2002)。454およびSolexaシーケンシングの周知の利点は:1)cDNAをクローニングしてベクタにする必要性を伴わずに、ゲノムライブラリを構築する能力;2)ベクタレスライブラリは、伝統的なクローニング手法、および特定のcDNA断片の表現バイアスおよびクローニング可能性/安定性など、これに関連する問題の回避を、可能にする;3)現在の技術と比較して、大量の配列データ(1回の動作で400Mbから1Gb)、および対象範囲を、迅速に生成する能力、を含む。
【0057】
MFCは、収容手段を含むことができる。このような収容手段は、たとえば、MFC全体を収容することができ、MFCの構成要素、または複数のMFCを収容することができる。一般的に、収容手段は、円筒形、反角柱、多面体、立方体、錐台、角柱、直方体、正四角柱、板、またはこれらの組み合わせを含む、いずれの形状を有してもよい。全体的な形状は、設計上の選択である。本明細書に記載されるMFCの形状の選択に寄与する因子は、たとえば積層可能性、空間内で経済的にまとめられて燃料電池動作の効率を最大化する能力を含む。
【0058】
収容手段は、流入液容積およびMFC内に収容されるその他の材料の圧力および重さに耐えられる、いずれの材料で作られることも可能である。いくつかの実施形態において、収容手段は、微生物作用および/または流入液中に見いだされる成分に対して不活性である。適切な材料の例は、ステンレス鋼、アルミニウム、アノード酸化アルミニウム、チタン、およびアノード酸化チタンなどの金属;ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアクリルアミド、またはポリメタクリレートなどのプラスチック;ガラス;一般的に防水性または耐水性の層またはライニングを含んでもよい、セルロース製品;セラミック;またはこれらの組み合わせを含む。
【0059】
収容手段のサイズは、たとえばMFCの意図される使用法に基づいて、異なってもよい。このため、たとえばリアクタサイズは、特定用途向けに拡大縮小されることが可能である。たとえば、約100から約500ガロンの流入液の作用容積(特定の時点におけるリアクタ内の流体の最大容積)を容易にするリアクタは、1戸建て住宅の需要をまかなうだろう。約1000から約9000ガロンの流入液の作用容積を備えるリアクタは、小企業または動物生産設備の処理需要を支援するだろう。より大容量のリアクタ(数千から数百万ガロンの流入液)は、地域にサービスを提供する自治体水処理施設用に使用されてもよい。このような容量は、協調して動作する複数のMFCモジュールの総容積と適合することが可能である。
【0060】
本明細書に記載されるMFCによって発生する電力は、導電性金属からなってもよい、ワイヤまたはポストなどの電極連絡手段によって獲得されてもよく、電池を充電するため、またはたとえばオフグリッド環境などその他の用途のために、使用されてもよい。したがって、対象とする燃料電池によって発生した電力は、流入液またはその他の材料を対象の燃料電池内に移動させるためのポンプ手段を駆動するなど、対象の燃料電池またはモジュール式システムに結合された様々なエネルギー要求手段を動作させるために、使用されることが可能である。
【0061】
収容手段は、たとえばポート、蓋、ドア、カバー、底、または窓など、その内部にアクセスするための手段を含むことができる。収容手段の前記アクセス手段の数および位置は、設計上の選択である。たとえば、収容手段の内部へのアクセスを保証するために、収容手段の側壁の特定の箇所が使用されることが可能である。アクセス手段は、たとえばワッシャまたはガスケットなど、液体または気体がアクセス手段を通じてリアクタから消失しないかまたはリアクタ内に導入されないことを保証するための手段を含むことができ、これはゴムまたはプラスチックなど、適切な材料で作られることが可能である。これらアクセス手段の各々は、前記手段を収容手段上に可逆的に固定する手段を含むことができる。適切なこのような固定手段は、たとえばネジ、ブラケット、またはクランプを含む。
【0062】
アクセス手段はまた、たとえば弁、スイッチ、またはリアクタの内部へのアクセスを制御するその他の操作可能手段も、含むことができる。アクセス手段の例は、たとえば、流入液アクセス手段、排ガス排出手段、廃液流入手段、生成物流出手段、電気伝導手段、回路接続手段、液体流入手段、液体流出手段、流入液監視手段、流入液侵入手段、ガス監視手段、水排出手段、排出液アクセス手段、酸化剤流入手段、酸素または空気流入手段、およびエネルギー伝導手段を含む。様々な手段は、リアクタおよび/または収容手段を構成する材料と同じ、類似の、または互換性の材料を含むことができる。
【0063】
特定の実施形態において、収容手段は、たとえば、複数のMFCモジュールが単一のシステムまたは装置として直列または並列に動作するモジュール式システムまたは装置のユニット、モジュール、またはセルを、収容することができる。装置内の個々のモジュールのサイズは、たとえばその意図される使用法によって、決められることが可能である。装置上の様々なモジュールは、同じサイズであってもよく、異なるサイズを有してもよい。モジュールは、連絡手段によって蓄積および接続されることが可能であり、および/または協働収容手段内にまとめられることが可能である。連絡手段は、たとえば、チューブ、チュービング、パイプ、パイピング、ホース、または導管などの、流体伝導手段であってもよい。前記流体伝導手段は、たとえば金属、ゴム、プラスチック、ガラス、またはこれらの組み合わせなど、いずれの適切な材料であってもよい。
【0064】
収容手段はまた、たとえば、条件が微生物成長および/または代謝を促すことを保証するために、リアクタ内容物の環境的条件の情報を監視および/または提供するための、適切な制御も備えることができる。たとえば、前記アクセス手段の1つは、たとえば温度計または熱電対などの温度検知手段によって温度を判定するために、培地、すなわちたとえば微生物によって影響を受ける水ベースの流入液への、アクセスを提供することができる。温度検知手段は、防液封止がワッシャまたはガスケットなどのアクセス手段に存在することを保証する手段とともに収容されることが可能である。温度手段は、温度等のリアクタ環境パラメータを変更する手段の制御を可能にする、調整手段を含むことができ、調整手段は、処理中の流入液を所望の温度にするための温度制御または調整手段に結合された、マイクロプロセッサ手段、コンピュータ処理手段、またはデータ処理手段などのリアクタに結合された加熱手段、冷却手段、または両方などの、パラメータを調節する手段と相互作用および/または通信する。このような温度の管理は、リアクタ内の恒常的環境を保持することができ、あるいは所定期間にわたって適切な変動するおよび/または時間設定された温度変化のスケジュールを提供することができる。
【0065】
酸素含有量用、pH用、圧力用、その他いずれかの反応剤または対象の生成物の測定用のセンサなど、環境、培地、培養条件を監視するためのその他の制御が、使用可能である。たとえば、アノードの動作は嫌気性条件の下で強化されるので、低レベルの酸素が内部で維持されることを保証するために、アノードコンパートメントに酸素検知手段が設けられることが可能である。アノードコンパートメントにおけるその他のアクセス手段は、真空手段等のガス除去手段、またはたとえば嫌気性雰囲気または環境を生成または保持するために、対象のリアクタのアノードコンパートメント内に窒素などの不活性ガスを導入するための、ガス流入手段を含むことができる。カソードコンパートメントにおいて、酸素、あるいは硝酸塩、硫酸塩、フマル酸塩、および/または重金属などのその他の酸化剤は、たとえば水を生成するために、その内部または上で発生する還元作用を促進してもよい。したがって、酸化剤または酸化検知手段もまた、カソードコンパートメントに設けられてもよい。加えて、カソードコンパートメントは、酸化剤または酸素をカソードコンパートメントに導入するための手段を備えるアクセス手段を有することができる。
【0066】
本発明はここで、以下の非限定例において実証される。
【0067】
例1:例示的モジュール式水処理システム
20ガロン容量の微生物燃料電池リアクタが、直列に動作する4つの独立したMFCカラムで構築された。各カラムは、ナイロンの薄い絶縁層で外側を包まれた内部アノードで構築された。ナイロンメッシュ(孔サイズ28μm)は、アノードとカソードとの間の電気的接触を防止するための絶縁障壁の役割を果たしたが、しかしまだコンパートメント間のイオン輸送を促進していた。アノードは、円柱状であって、チタンメッシュによって所定位置に保持された炭素顆粒を収容していた。カソードは、アノードと最も近いカソード円筒との間に約1cmの距離を置いて、アノードの周りに巻き付けられた2つの円筒で構成された。アノードおよびカソードの両方が充填層構成であった。チタンメッシュは、アノードおよびカソード円筒枠に用いられ、各コンパートメントのリード線の役割を果たした。アノードおよびカソードは、活性表面積を増加させるために、各々が非対称合成黒鉛顆粒(最大径1/4インチまで)で充填された。各内部アノードコンパートメントは、2.8Lの総容積を有していた。
【0068】
流入液は、カラムの上部に位置する流入手段を通じてアノードに浸入し、カラムの底部に位置する流出手段を通じてアノードを出た。
【0069】
システムは、周囲温度で動作した。データ収集の間中、リアクタは、リアクタ内でサイクルあたり6.5分のサンプル滞留時間で、100mL/分の流量の一定フローに保たれた。アノードおよびカソードは、閉回路操作の間中、1050Ω抵抗を通じて接続された。
【0070】
フロー操作に対して水質およびエネルギー回収における何らかの差が見られるか否かを観察するために、バッチ(フローなし)での試験も行われた。
【0071】
各未処理スラッジサンプルは、システムへの投入に先立って分析された。処理済み排出液は、操作の15および5日目に分析された。表1〜3は、CRG Marine Laboratories,Inc.においてEPA標準方法によって分析された水質結果(処理前および処理後)を示す。表1は、スラッジ流入液、および15日間動作後の処理済み排出液の水質分析の結果を提供する。BOD=生化学的酸素要求量である。表2は、15日間動作後のカソードを包囲する水の水質分析の結果を提供する。動作中、システムは酸素飽和水に沈められていた。動作中にカソード水が汚染されていないことを確実にするために、カソード排出液のサンプルが定期的に分析された。表3は、スラッジ流入液、および5日間動作後の処理済み排出液の水質分析の結果を提供する。
【0072】
【表1】

【0073】
【表2】

【0074】
【表3】

【0075】
システムがフローの下で動作されたとき、電力密度としてのエネルギー回収は0.5W/m(リアクタ容積)であった。しかしながら、システムがおよそ24時間の流入液滞留時間を伴ってバッチで動作されたときは、電力密度。これらのデータは、スラッジ分解の大部分が動作開始後2日間で発生し、その一方で最大エネルギー回収はスラッジ投入からおおむね5〜10日後に始まったことを示している。図2に見られるように、改善された水質は、目視検査によっても容易に確認できる。
【0076】
システムがフローの下で動作されたとき、電力密度としてのエネルギー回収は0.5W/m(リアクタ容積)であった。しかしながら、システムがおよそ24時間の流入液滞留時間を伴ってバッチで動作されたときは、電力密度は1.5W/m(リアクタ容積)まで3倍近くになった。これらのデータは、システム動作が異なる要求に応じて最適化され得ることを示している。たとえば、電力需要が高いときには、システムはより多くの電力を発生するためにバッチで動作することができ、需要が低いときには、システムは、水質を改善して処理を加速するために、フローの下で動作することができる。システム性能も同様に、回路全体に異なる負荷を適用してより多くのまたは少ない電流を流すことによって、変化させられることが可能である。
【0077】
電極結合微生物個体群の系統発生的分析は、本明細書に記載されるように実行された。初期スラッジサンプル(図3)ならびにカラム1および3からの電極付着バイオマス(図4)の系統発生的分析は、カラムと初期サンプルとの間で、優占個体群における顕著な差を示し、微生物選択が、MFC動作を通じて発生し、ナイセリア、エンテロバクタ、およびディスゴノモナス(Dysgonomonas)などの病原性個体群の量を減少させるのに役立つ。
【0078】
本明細書に引用されるすべての参考文献は、その全体が、参照によって本明細書に組み込まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の微生物燃料電池(MFC)を含み、複数のMFCの各々が導電性材料によってカソードに接続されたアノードを含む、モジュール式水処理システムであって、
アノードは、第一微生物個体群と物理的に結びついており、
カソードは、第二微生物個体群または非生物触媒と物理的に結びついている、水処理システム。
【請求項2】
アノードとカソードとの間に陽子選択的材料が存在しない、請求項1に記載の水処理システム。
【請求項3】
アノードとカソードとの間に多孔質絶縁材料をさらに含む、請求項2に記載の水処理システム。
【請求項4】
多孔質絶縁材料が、約30μm以下の孔径を有する、請求項3に記載の水処理システム。
【請求項5】
第一微生物個体群が、エネルギーのために多様な炭素源を用いて嫌気性環境中で成長することが可能な微生物のために富化されている、請求項1に記載の水処理システム。
【請求項6】
第二微生物個体群が、エネルギーのためにカソードからの電子を用いて好気性環境中で成長することが可能な微生物のために富化されている、請求項5に記載の水処理システム。
【請求項7】
第一微生物個体群および第二微生物個体群が同じ親微生物個体群に由来する、請求項6に記載の水処理システム。
【請求項8】
親微生物個体群が、下水廃水またはスラッジ中に自然に発生する微生物個体群である、請求項7に記載の水処理システム。
【請求項9】
アノードがカソードの内部に位置している、請求項1に記載の水処理システム。
【請求項10】
アノードおよびカソードが2cm以下の距離だけ離れている、請求項1に記載の水処理システム。
【請求項11】
カソードの表面積がアノードの表面積の少なくとも2倍である、請求項1に記載の水処理システム。
【請求項12】
アノードが、保持材によって所定位置に保持されている複数の導電性粒子を含む、請求項1に記載の水処理システム。
【請求項13】
複数の導電性粒子が、黒鉛顆粒、黒鉛フェルト、黒鉛布、黒鉛ブラシ、またはこれらの組み合わせを含む、請求項12に記載の水処理システム。
【請求項14】
保持材が、チタンメッシュ、ステンレス鋼メッシュ、プラスチックメッシュ、またはこれらの組み合わせを含む、請求項12に記載の水処理システム。
【請求項15】
カソードもまた、保持材によって所定位置に保持されている複数の導電性粒子を含む、請求項12に記載の水処理システム。
【請求項16】
カソードまたはアノードが、円筒形または円柱形である、請求項1に記載の水処理システム。
【請求項17】
アノードの第一末端に位置する液体流入手段、およびアノードの第二末端に位置する液体流出手段をさらに含む、請求項9に記載の水処理システム。
【請求項18】
少なくともMFCのサブセットが直列で動作する、請求項1に記載の水処理システム。
【請求項19】
少なくともMFCのサブセットが並列で動作する、請求項1に記載の水処理システム。
【請求項20】
廃水処理のために微生物燃料電池(MFC)のアノードの微生物個体群を最適化する方法にであって、
(a)アノードを、親微生物個体群および廃水と接触させるステップと、
(b)アノードの微生物個体群のバイオマスを増加させるために、十分な時間にわたって比較的高抵抗でMFCを動作させるステップと、
(c)アノードの微生物個体群の代謝を最適化するために、十分な時間にわたって中抵抗でMFCを動作させるステップと、
(d)廃水の微生物分解を最適化するために、十分な時間にわたって低抵抗でMFCを動作させるステップと、を含む方法。
【請求項21】
親微生物個体群が、廃水中に自然に発生する微生物個体群である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
高抵抗が約1000から5000Ωの範囲内である、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
中抵抗が約100〜500Ωの範囲内である、請求項20に記載の方法。
【請求項24】
低抵抗が約10〜500Ωの範囲である、請求項20に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図4−1】
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【図4−2】
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【公表番号】特表2013−517129(P2013−517129A)
【公表日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−549123(P2012−549123)
【出願日】平成23年1月14日(2011.1.14)
【国際出願番号】PCT/US2011/021338
【国際公開番号】WO2011/088348
【国際公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【出願人】(512185017)ジエイ・クレイグ・ベンター・インステイテユート (1)
【Fターム(参考)】