説明

モチーフ含有ポリペプチド化合物のDNA結合ナノ素子製造方法

【課題】 電子移動原子団、色素原子団等の機能性原子団を、2重鎖DNA基板上の特定の位置に目的の/任意の順序で複数個配列させることができ、DNA基板上のÅオーダーで所望の近接した位置に定位することができるナノ素子製造方法を提供する。
【解決手段】 2重鎖DNAの特定の標的塩基配列に特異的に結合するジンクフィンガーモチーフと機能性原子団とを含有するポリペプチド化合物2個以上を、前記2重鎖DNA上に自律凝集により近接させて配列・定位させる工程を含む、機能性原子団を所望の位置及び順序で配列したナノ素子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノメータースケールの大きさで、ナノ素子機能の中心となる電子移動性原子団、色素原子団等の機能性物質をDNAを担体として任意の配列で定位させる技術に関するものである。
【0002】
より詳しくは、本発明は、電子移動性原子団、色素原子団等の機能性錯体原子団を、2重鎖 DNA 上の標的塩基配列には結合するが、当該DNA上でも標的塩基配列以外の配列には結合しないDNA結合モチーフを含むポリペプチドに結合させたDNA結合分子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
タンパク質による核酸の認識は遺伝発現を中心とした多くの生体分子調節機能の中心となっている普通の現象であり、分子生物学者によってもっとも広範に研究されている問題の一つである。
【0004】
DNA結合モチーフあるいはDNA結合タンパク質としては、ジンクフィンガーモチーフ(以下、単にジンクフィンガー又はZFと言うときもある。)、へリックス・ターン・へリックス、ロイシンジッパーなど多種類のものが広く知られている。ジンクフィンガーには、Zn(Cys)2(His)2、[Zn(Cys)3(His)1]1-、[Zn(Cys)4]2-, [Zn2(Cys)6]2- 型あり、中でもZn(Cys)2(His)2型が最も安定であり、自然界に頻出する。
【0005】
亜鉛イオンに配位するアミノ酸残基がCys2His2型のジンクフィンガーモチーフは30残基程度のアミノ酸からなり、ββα型折れ曲がり構造を有するDNA結合モチーフであり、ジンクフィンガーモチーフ一個あたりDNAの3〜4塩基対(以下、核酸トリプレットと呼ぶ。)の認識を行う。前記Zn(Cys)2(His)2ジンクフィンガーモチーフは繰り返し構造を形成することで強固かつ配列特異的なDNA結合性を獲得することができる。
【0006】
ジンクフィンガーモチーフを利用してDNAを部位特異的に切断する人工制限酵素が開発されている。DNA切断能を有する原子団としてニッケル(例えば、非特許文献1参照。)が用いられている。
【0007】
ところで、色素原子団を、金属および半導体電極を始めとする基板に垂直方向に積み上げることによってナノ素子を製造する研究は、ラングミュアー・ブロジェット法を用いて広くおこなわれている。しかし、ラングミュアー・ブロジェット法は配列情報を積層の各段階で人為的に行うものであり、DNA配列情報に基づきながら自律凝集によりワンステップで配列と定位を行うものではない。
【0008】
STMを利用して基板上に原子レベルの大きさで文字を書く技術は既によく知られているが、この技術も配列情報を積層の各段階で人為的に与えていくものであり、DNA配列情報に基づきながら自律凝集によりワンステップで配列と定位を行うものではない。
【0009】
また、APTES (2−Aminopropyl triethoxysilane)等を介して共有結合によって電子移動原子団、色素原子団等の機能性錯体原子団を金属オキサイド基板に垂直に積み上げる技術はよく知られているが、積層の度合いは低く、現時点では数層程度である。この技術も配列情報を積層の各段階で人為的に行うものであり、DNA配列情報に基づきながら自律凝集によりワンステップで配列と定位を行うものではない。
【0010】
核酸塩基に色素原子団を直接共有結合させ、色素原子団を2重鎖DNA上に配列してフォトニック・ワイヤ(photonic wire)を形成した例がある(例えば、非特許文献2参照。)。金や硫化カドミウムの量子ドット(ナノドット)を2重鎖DNA上にイオン結合を利用して非特異的に平行に整列させた例がある(例えば、非特許文献3参照。)これらは何れもDNA塩基の配列情報を利用したものではないし、或いは、ごく一部しか利用していない。また、量子ドットを1重鎖DNAの5’or 3’−末端にチオール基を介して結合させ、ドットの集団を形成させた例がある(例えば、非特許文献4参照。)が、これらはDNA塩基配列の配列情報ではなく塩基の相補性のみを利用したものである。
【0011】
核酸塩基のかわりに平面4配位錯体を用い配位子と金属イオンの錯形成能を利用してDNAダブルストランドの中に金属イオンを整列させた例がある(例えば、非特許文献5参照。)。核酸塩基のかわりに有機性原子団を用い配位子と金属イオンの錯形成能を利用してDNAダブルストランドの中に金属イオンを整列させた例がある。核酸塩基のかわりにシアニン色素原子団を用い、DNAダブルストランドの構造形成能を用いて色素の特殊配列(J-aggregate)を実現させた例がある(例えば、非特許文献6参照。)。これらの例はDNAの塩基配列情報を利用したものではなく、利用しているのはDNAの螺旋構造形成能であり、塩基対の相補的水素結合形成能である。
【0012】
色素原子団同士(ドナーとアクセプター)および色素原子団と量子ドットを1重鎖DNAの5’又は3’−末端にチオール基を介して結合させ、塩基配列の相補性を利用して1重鎖DNAのシーケンシングを行った例がある。また、色素原子団同士(ドナーとアクセプター)および色素原子団と量子ドットをペプチド核酸(PNA)に結合させ、塩基配列の相補性を利用してシングルストランドDNAのシーケンシングを行った例がある。これらの場合、色素原子団間の蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)を用いてシーケンシングをおこなっているものであるが、DNA上の標的位置に色素を定位し配列させることを意図したものではなく、また、ナノ素子形成を意図したものではなかった。
【非特許文献1】M. Nagaoka et al., “A novel zinc finger-based DNA cutter: Biosynthetic design and highly selective DNA ckeavage. J. Am. Chem. Soc., 1994, 116, 4085-4086.
【非特許文献2】Heilemann, M.; Tinnefeld, P.; Sanchez Mosteiro, G.; Garcia Parajo, M.; Van Hulst, N. F.; Sauer, M. J. Am. Chem. Soc. 2004, 124, 6514-6515.
【非特許文献3】Niemeyer, C. M., “Nanoparticles, Proteins, and Nucleic Acids: Biotechnology meets Meterial Science”, Angew. Chem. Int. Ed.,2001, 40, 4128-4158.
【非特許文献4】G. P. Mitchell, C. A. Mirkin, R. L. Lestinger, J. Am. Chem. Soc., 1999, 121, 8122-8123. J. J. Storhoff, C. A. Mirkin, Chem. Rev., 1999, 99, 1849-1862. A. P. Alivisatos, K. O. Johnson, X. Peng, T. E. Wilson, C. J. Loweth, M. P. Bruchez Jr., P. G. Shults, Nature, 1996, 382, 609-611.
【非特許文献5】”A Discrete Self-Assembled Metal Array in Artificial DNA” K. Tanaka, A. Tengeiji, T. Kato, N. Toyama, and M. Shionoya Science 2003, 299, 1212-1213.
【非特許文献6】“DNA-Dye Conjugates for Controllable H* Aggregation.” H. Asanuma, K. Shirasuka, T. Takarada, H. Kashida, and M. Komiyama, J. Am. Chem. Soc., 2003, 125, 2217-2223.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、電子移動原子団、色素原子団等の機能性原子団を、2重鎖DNA基体上の特定の位置に所望の順序で複数個配列させることができ、これら原子団とDNA基体上にÅ(オングストローム)オーダーで所望の近接した位置に定位することができるナノ素子製造方法を提供することを目的とする。
詳細には、本発明は、2重鎖DNA上の特定の複数の標的塩基配列部位(2個以上の標的配列が異なっていても同じであってもよい。)に結合するようにアミノ酸配列が設計された機能性原子団含有DNA結合ポリペプチド化合物を複数個予め用意し、これら機能性原子団含有DNA結合ポリペプチド化合物のアミノ酸配列に対応する塩基配列を有するよう設計された二重鎖DNAと混合することにより、前記二重鎖DNAに付与された塩基配列情報に従って、電子移動性原子団、色素原子団等の機能性原子団をDNA上の標的位置に自律凝集に基づいて特異的に配列・定位させることによって、前記機能性原子団をDNA上の所望の位置及び順序で複数個、Å〜nmスケール程度の間隔で配列させたナノ素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決するために、色素、電子移動等の機能を併せ持つ錯体原子団であるルテニウムもしくはオスミウムトリスビピリリジン錯体をそれぞれアミノ酸側鎖に結合し、これらの錯体含有アミノ酸を異なった2種類のジンクフィンガーモチーフのN端又はC端にそれぞれペプチド結合させて、トリスビピリリジン錯体含有ジンクフィンガーポリペプチド化合物を2種類製造した。ついで、前記ジンクフィンガーポリペプチド化合物各々に対しての標的塩基配列を有する2重鎖DNAを用意し、これと前記2種のジンクフィンガーポリペプチド化合物とを混合することにより、該ポリペプチド化合物をÅオーダーで所望の近接した位置に2重鎖DNA上に定位し、錯体原子団の機能として、例えば電子移動機能を発揮でき、ナノ素子として機能することを見出し、この知見に基づき、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明は
(1)2重鎖DNAの特定の標的塩基配列に特異的に結合するジンクフィンガーモチーフと機能性原子団とを含有するポリペプチド化合物2個以上を、各々に対応する標的塩基配列を有する2重鎖DNA上に自律凝集により近接させて配列・定位させる工程を含む、機能性原子団を所望の位置及び順序で配列したナノ素子の製造方法、
(2)機能性原子団を含有する前記ポリペプチド化合物が、一般式Z−Rfuで表わされる、(1)記載のナノ素子製造方法、
一般式Z−Rfu
(式中、Zは、2重鎖DNAの特定の標的塩基配列には結合するが、それ以外の塩基配列には結合しないジンクフィンガーモチーフを含むポリペプチド成分を表わし、Rfuは機能性原子団成分を表わす。)
(3)前記ポリペプチド化合物に含まれる機能性原子団2個以上を、それらの中の最近接の原子団の距離が、該機能性原子団の接触する位置から0〜100Åの距離になるように配列することを特徴とする、(1)又は(2)記載のナノ素子の製造方法、
(4)機能性原子団Rfuを含有する前記ポリペプチド化合物が少なくとも2種以上の機能性原子団含有ポリペプチド化合物である、(1)〜(3)いずれか1項記載のナノ素子の製造方法、
(5)前記電子移動性原子団、色素原子団等の機能性原子団Rfuが、前記ポリペプチド成分ZのC末端、C末端を有するアミノ酸残基の側鎖、N末端、N末端を有するアミノ酸残基の側鎖又は両末端以外のアミノ酸残基の側鎖に結合していることを特徴とする、(2)〜(4)いずれか1項記載のナノ素子製造方法、
(6)機能性原子団Rfuが側鎖に結合している前記アミノ酸残基がアラニン残基であり、前記アラニン残基の側鎖の炭素原子と、前記電子移動性原子団、色素原子団等の機能性原子団Rfuとが結合していることを特徴とする、(5)記載のナノ素子製造方法、
(7)前記一般式Z−Rfuが、下記一般式1で表わされる、(6)記載のナノ素子製造方法、
一般式1
【0016】
【化1】

【0017】
(式中、Rは水素原子、tert−ブトキシカルボニル、(9−フルオレニル)メトキシカルボニル、または前記標的塩基配列に結合するCys2-His2型ジンクフィンガーモチーフを含むポリペプチドであり、Rは、水酸基、アルコキシ基、又は前記標的塩基配列に結合するCys2-His2型ジンクフィンガーモチーフを含むポリペプチドであり、Rは、水素原子又はアルキル基であり、MはRun+、Osn+、Fen+又はCon+(いずれもnは1〜3の数を示す。)である。ただし、R、Rの少なくとも一方は、前記標的塩基配列に結合するCys2-His2型ジンクフィンガーモチーフを含むポリペプチドである。)
(8)前記2個以上の機能性原子団含有ポリペプチド化合物が、前記一般式1中、MがRun+又はOsn+(いずれもnは1〜3の数を示す。)である、(7)記載のナノ素子製造方法、
(9)前記ポリペプチド成分Zの前記アミノ酸残基がシステイン残基であり、前記システイン残基の側鎖の硫黄原子と、前記電子移動性原子団、色素原子団等の機能性原子団Rfuとが配位結合を介して結合していることを特徴とする、(5)記載のナノ素子製造方法、
(10)前記一般式Z−Rfuが、下記一般式2で表わされる、(5)記載のナノ素子製造方法、
一般式2
【0018】
【化2】

【0019】
(式中、AAはアミノ酸であり、nは1から20までの整数である。Mは Ptn+、Cdn+、Hgn+、Agn+、Fen+、 Nin+、 Con+又は Znn+(nは1〜3の整数を示す)である。また、L1,L2はM1に配位する配位子を表わし、L1およびL2が配位原子団の一部であってもよい。Rは水素原子、tert−ブトキシカルボニル、(9−フルオレニル)メトキシカルボニル、グリシン、又は前記標的塩基配列に結合するCys2-His2型のジンクフィンガーのモチーフを含むポリペプチドであり、Rは、水酸基、アルコキシ基、グリシン、又は前記標的塩基配列に結合するCys2-His2型のジンクフィンガーのモチーフを含むポリペプチドである。ただし、R、Rの少なくとも一方は、前記標的塩基配列に結合するCys2-His2型のジンクフィンガーモチーフを含むポリペプチドである。)
(11)前記一般式Z−Rfuが、下記一般式3で表わされる、(5)記載のナノ素子製造方法、
一般式3
【化3】

【0020】
(式中、Rは水素原子、tert−ブトキシカルボニル、(9−フルオレニル)メトキシカルボニル、グリシン、又は前記標的塩基配列に結合するCys2-His2型のジンクフィンガーのモチーフを含むポリペプチドであり、Rは、水酸基、アルコキシ基、グリシン、又は前記標的塩基配列に結合するCys2-His2型のジンクフィンガーのモチーフを含むポリペプチドである。ただし、R、Rの少なくとも一方は、前記標的塩基配列に結合するCys2-His2型のジンクフィンガーモチーフを含むポリペプチドである。)
(12)前記電子移動性原子団、色素原子団等の機能性原子団Rfuが結合している前記アミノ酸残基に、ペプチド結合を介して隣接するアミノ酸残基が、1又は2のグリシン残基であることを特徴とする(5)〜(11)いずれか1項記載のナノ素子製造方法、
(13)前記ポリペプチド成分Zが、下記(a)又は(b)に示すポリペプチドである、(5)〜(12)記載のナノ素子製造方法、
(a)配列表の配列番号1に示すアミノ酸配列を有するポリペプチド
(b)配列表の配列番号1に示すアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列を有し、かつ前記標的塩基配列に結合するCys2-His2型ジンクフィンガーモチーフを含むポリペプチド
(14)Rが、下記(a)又は(b)に示すポリペプチドである、(8)記載のナノ素子製造方法、
(a)配列表の配列番号1に示すアミノ酸配列を有するポリペプチド
(b)配列表の配列番号1に示すアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列を有し、かつ前記標的塩基配列に結合するCys2-His2型ジンクフィンガーモチーフを含むポリペプチド
(15)前記ポリペプチドが、下記(c)又は(d)に示すポリペプチドである、(5)〜(12)記載のナノ素子製造方法、
(c)配列表の配列番号2に示すアミノ酸配列を有するポリペプチド
(d)配列表の配列番号2に示すアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列を有し、かつ前記標的塩基配列に結合するCys2-His2型ジンクフィンガーモチーフを含むポリペプチド
(16)Rが、下記(c)又は(d)に示すポリペプチドである、(8)記載のナノ素子製造方法、
(c)配列表の配列番号2に示すアミノ酸配列を有するポリペプチド
(d)配列表の配列番号2に示すアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列を有し、かつ前記標的塩基配列に結合するCys2-His2型ジンクフィンガーモチーフを含むポリペプチド
(17)前記ポリペプチド成分Zが、N末端からC末端に配置された少なくとも1つのジンクフィンガーモチーフを含むことを特徴とする(5)〜(12)のいずれか一項に記載のナノ素子製造方法、
(18)上記の各々のジンクフィンガーモチーフが一般的一次構造である。
【0021】
【化4】

【0022】
を有し、式中、X(Xa、XbおよびXcを含む)は任意のアミノ酸であることを特徴とする、(17)に記載のナノ素子製造方法、
(19)上記XaがF/Y−XまたはP−F/Y−Xであることを特徴とする(18)に記載のナノ素子製造方法、
(20)上記X2-4がS−X、E−X、K−X、T−X、P−X、R−Xのいずれかから選択されることを特徴とする(18)または(19)に記載のナノ素子製造方法、
(21)上記XbがTまたはIであることを特徴とする(18)〜(20)のいずれかに記載のナノ素子製造方法、
(22)上記X2-3がG−K−A、G−K−C、G−K−S、G−K−G、M−R−N、M−Rであることを特徴とする(18)〜(21)のいずれかに記載のナノ素子製造方法、
(23)上記の各々のジンクフィンガーモチーフが、Zif268のフィンガー2であるか、または1もしくは数個のアミノ酸を欠失、置換もしくは付加したアミノ酸配列を有することを特徴とする(18)に記載のナノ素子製造方法、
(24)2個以上の前記機能性原子団含有ポリペプチド化合物の配列が、2重鎖DNAの剛直性を利用して構造性に優れることを特徴とする、(1)〜(23)いずれか1項記載のナノ素子製造方法、
(25)前記2重鎖DNAが、直線状DNA、十字型DNA、又はスリップドDNAであることを特徴とする(1)〜(24)いずれか1項記載のナノ素子製造方法、及び
(26)前記(1)〜(25)いずれか1項記載のナノ素子製造方法によって得られたナノ素子を組合せて得られた構築物
を提供する。
本発明において、モチーフ含有ポリペプチド化合物と2重鎖DNAとの総体(構造体)が特定の機能を奏するものをナノ素子という。本発明の構築物は、上記ナノ素子を組合せて得られる2次元、3次元に拡がった形成物をいう。
【発明の効果】
【0023】
本発明のナノ素子製造方法によれば、Åオーダーで相互の位置を保ちながら2重鎖DNA基板上に電子移動原子団、色素原子団等の機能性原子団を含有するポリペプチド化合物を特定の位置に自由な順序で複数個配列させ、定位させることができる。
本発明のナノ素子製造方法によれば、2重鎖DNA配列情報に従い、自律凝集によりワンステップで前記ポリペプチド化合物を配列・定位を行うことができる。
本発明のナノ素子製造方法は、2重鎖DNA上のÅ単位で所望の位置に前記ポリペプチド化合物を配列することができ、各機能性原子団含有ポリペプチド化合物をÅ間隔で集積することができる。
本発明のナノ素子製造方法は、2重DNA鎖を用いた量子細線の形成、前記量子細線とドットもしくは素子との結合、トンネル障壁の厚み制御などの新規リソグラフィーの開発を可能とするものである。
本発明のナノ素子は全長13〜20nm程度の素子とすれば(通常の2重鎖DNAの場合)、直線性、エネルギー(光ないしは電子)移動性に優れることから、フォトニック・ワイヤ(photonic wire)及びモレキュラーワイヤーとして利用することができる。
本発明のナノ素子は、励起子相互作用を利用してその他の非線形光学素子として利用することができる。
本発明の構築物は、ナノ素子より作成するので、2次元、3次元を問わず、nmのスケールで集積回路を形成したり、色素を集積配列したシートや立体物を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明を詳細に説明する。
従来、機能性原子団含有DNA結合ポリペプチド化合物を2重鎖DNA上の所望の位置に、所望の順序で複数個、Å〜nmスケール程度の間隔で配列・定位したもの、すなわち設計する方法はなかった。
本発明の製造方法は、2重鎖DNA上の特定の標的塩基配列部位に特異的に結合するようにアミノ酸配列が設計された機能性原子団含有DNA結合ポリペプチド化合物を複数個予め用意し、これら機能性原子団含有DNA結合ポリペプチド化合物のアミノ酸配列に対応する塩基配列を有するよう設計された二重鎖DNAと水溶液中で混合する。この混合に伴い、前記二重鎖DNAに付与された塩基配列情報に従って、電子移動性原子団、色素原子団等の機能性原子団をDNA上の標的位置に自律凝集に基づいて配列・定位させることが可能になり、前記機能性錯体原子団をDNA上の所望の位置及び順序で複数個、単分子スケール〜nmスケール程度の間隔で配列させることができる。
一般に、自立凝集とは、人為を加えないでも、化合物が気相、液相、または固相で分子間力にしたがって凝集することである。自立凝集によって乱雑ではない特定の構造体(たとえば、繰り返し構造)などの我々の目的に合致した集積構造が出来る。したがって、本発明は、機能性ポリペプチドとDNAの自己組織化を自立凝集に基づいて実現する。
前記機能性原子団含有ポリペプチド化合物は、機能性原子団と二重鎖DNA結合性ポリペプチドとを共有結合等により結合させてなるものであり、2重鎖DNAの特定の標的塩基配列には結合するが、それ以外の塩基配列には結合しない2重鎖DNA結合性を有する。
本発明のナノ素子製造方法において、前記機能性原子団含有ポリペプチド化合物は、一般式Z−Rfuで表わすことができる。
一般式Z−Rfu
(式中、Zは、2重鎖DNAの特定の標的塩基配列には結合するが、それ以外の塩基配列には結合しないDNA結合性モチーフを含むポリペプチド成分を表わし、Rfuは電子移動性原子団、色素原子団等の機能性原子団成分を表わす。)
【0025】
前記機能性原子団Rfuの、その機能は特に制限はないが、電子移動(エネルギー移動)性原子団、色素原子団、2重鎖DNA折曲げ能を有する原子団、DNA切断能を有する原子団、量子ドット含有原子団等が挙げられる。
前記電子移動(エネルギー移動)性原子団又は前記色素原子団としては、[Ru(bpy)3]2+、[Os(bpy)3]2+(bpyは2,2’−ビピリジンを表わす。)等のトリスビピリジン錯体、ポルフィリン環錯体、シアニン錯体等を挙げることができる。
前記2重鎖DNA折曲げ能を有する原子団としては、[Pt(bpy)]2+錯体等を挙げることができる。
前記DNA切断能を有する原子団としては、ニッケル含有原子団等を挙げることができる(M. Nagaoka et al., “A novel zinc finger-based DNA cutter: Biosynthetic design and highly selective DNA ckeavage. J. Am. Chem. Soc., 1994, 116, 4085-4086.)。
【0026】
本発明において、前記機能性原子団含有ポリペプチド化合物が有する2重鎖DNA結合性ポリペプチドは、2重鎖DNAの特定の標的塩基配列には認識・結合するが、それ以外の塩基配列には結合しない。DNAとポリペプチドの結合能は、その乖離定数Kdによって定量的に評価することが一般的である。
Kdは、混合するDNAとポリペプドの濃度に依存するが、混合時の化合物濃度の1/100 であれば十分である。したがって、混合時のDNAとポリペプチド濃度がmMオーダーであれば十分である。また、好ましくはKd ≦μMオーダー、より好ましくは、Kd ≦nMオーダーである限り任意の配列を有するポリペプチドであってよいが、少なくともKd50nMで二本鎖DNAを認識するポリペプチドであることが好ましく、Kd20nMで二本鎖DNAを認識するポリペプチドであることがより好ましく、Kd10nMで二本鎖DNAを認識するポリペプチドであることが特に好ましい。
本発明でいう上記「ポリペプチド」とは分子量が大きい場合はタンパク質を包含する意味である。
前記認識・結合とは、前記ポリペプチドが有する2重鎖DNA結合性モチーフと2重鎖DNAとの水素結合、疎水結合等の相互作用に基づくものである。
本発明において、前記機能性原子団含有ポリペプチド化合物が有する2重鎖DNA結合性ポリペプチドは、2重鎖DNAの特定の標的塩基配列には認識・結合するが、それ以外の塩基配列には結合しない限り任意の配列であってよいが、例えば、ジンクフィンガー構造、ロイシンジッパー構造、ヘリックス−ターン−ヘリックス構造、ヘリックス−ループ−ヘリックス構造、フォークヘッドドメイン構造等のモチーフ配列を有するタンパク質又はポリペプチドを挙げることができる。中でも、N末端からC末端に配置された少なくとも1つのZnフィンガー構造を含むペプチドが好ましく、少なくとも1つのCys2His2型のジンクフィンガーモチーフを含むペプチドがより好ましい。
【0027】
以下、図面を参照して、本発明に用いられるCys2His2型のジンクフィンガーモチーフの特徴について説明する。図1は、ZFモチーフとDNAの認識相互作用の1例を示す概略図である。図1中のポリペプチドは3つのZFモチーフからなっているが本発明はこれに制限されるものではない。
図1に示すように、ジンクフィンガーモチーフはDNAへの結合に関して次のような特徴がある。(1) 単量体成分として、また非対称にDNAに結合する、(2) 各ジンクフィンガーモチーフは独立してDNAに結合する、(3)各ジンクフィンガードメインのへリックス開始点から数えて-1、2、3、6番目の残基にあるアミノ酸残基が特異的にDNAの塩基配列を認識する。(4) 一般にGリッチなDNAの塩基配列を認識して結合するものが多い。
【0028】
ジンクフィンガーの配列と、標的塩基配列との間の関係を説明するより洗練された原理は、例えば特表平10−504461号公報(メディカル・リサーチ・カウンシル)に説明されている。
特表平10−504461号公報には、特定の標的配列に結合するためのジンクフィンガーポリペプチドの設計方法、その設計方法により得られたジンクフィンガーポリペプチドを用いた、癌、疾患等の遺伝子発現制御が記載され、後述の特表2002−529067号公報(ジェンダック・リミテッド)には、所望の結合能を有するジンクフィンガーポリペプチドのスクリーニング方法が記載されているが、本発明のような、二重鎖DNAの塩基配列情報に従って、電子移動性原子団、色素原子団等の機能性原子団をDNA上の所望の位置・順序で配列・定位させるナノ素子製造については記載がない。
本発明のナノ素子製造方法において、DNA結合性モチーフを含むポリペプチド成分Zが、前記標的塩基配列内の核酸トリプレットに結合するCys2-His2型のジンクフィンガーのモチーフを含むポリペプチドである場合、下記a)〜l)の特表2002−529067号公報記載の原理に基づく。
a)トリプレット内の5’塩基がGである場合、アルファヘリックス内の+6位がArgであるか、または、+6位がSerまたはThrであり、++2がAspであるようにと、 b)トリプレット内の5’塩基がAである場合、アルファヘリックス内の+6位がGlnであり、++2がAspではないようにと、c)トリプレット内の5’塩基がTである場合、アルファヘリックス内の+6位が、SerまたはThrであり、++2位が、Aspであるようにと、 d)トリプレット内の5’塩基が、Cである場合、アルファヘリックス内の+6位が、任意のアミノ酸でよいが、その前提として、アルファヘリックス内の++2位がAspではないことであるようにと、e)トリプレットの中央塩基が、Gである場合、アルファヘリックス内の+3位が、Hisであるようにと、f)中央塩基が、Aである場合、アルファヘリックス内の+3位が、Asnであるようにと、g)トリプレット内の中央塩基が、Tである場合、アルファヘリックス内の+3位が、Ala、SerまたはValであるが、その前提として、アルファヘリックス内の+3位が、Alaである場合、-1または+6における残基のうちの1つが、小さい残基であるようにと、h)トリプレット内の中央塩基が、Cである場合、アルファヘリックス内の+3位が、Ser、Asp、Glu、Leu、ThrまたはValであるようにと、i)トリプレット内の3’塩基が、Gである場合、アルファヘリックス内の-1位が、Argであるようにと、j)トリプレット内の3’塩基が、Aである場合、アルファヘリックス内の-1が、Glnであるようにと、k)トリプレット内の3’塩基が、Tである場合、アルファヘリックス内の-1位が、AsnまたはGlnであるようにと、l)トリプレット内の3’塩基が、Cである場合、アルファヘリックス内の-1位が、Aspであるように上記トリプレットの各塩基に結合するCys2-His2型のジンクフィンガーのモチーフを含むポリペプチドである。
【0029】
本明細書及び請求の範囲において言及されるジンクフィンガーのDNA結合残基部分の全ては、フィンガーのαヘリックスにおける最初の残基から+1〜+9の番号が付される。「−1」は、Cys2His2ジンクフィンガーポリペプチドにおけるαヘリックスの直前の骨組における残基を意味する。「++」により示される残基は、隣接の(C末端)フィンガー内に存在する。フィンガーに隣接するC末端が、存在しない場合、「++」相互作用は、動作しない。
本発明において、少なくとも1つのCys2His2型のジンクフィンガーモチーフを有するポリペプチドとして、具体的には、下記式(A)で表わされるコンセンサス配列を持つ独立したモジュールの繰り返し構造を少なくとも1つ有するポリペプチドである。
【0030】
【化5】

【0031】
式中、Xはアミノ酸、下付きの数字はXにより表される残基の可能な数を示す。Cはシステインの一文字表記、Hはヒスチジンの一文字表記である。
【0032】
本発明のさらに好ましい態様において、ジンクフィンガーモチーフは、以下の一般的一次構造を有するモチーフとして表すことができる。
【0033】
【化6】

【0034】
式中、X(Xa、XbおよびXcを含む)は任意のアミノ酸である。X2-4およびX2-3は、それぞれ、2または4、2または3個のアミノ酸の存在を意味する。共同して亜鉛金属原子に配位するCysおよびHis残基は、太字で記し、αヘリックスにおける+4位置のLeu残基のように、通常不変である。
【0035】
この表現への修飾を、アミノ酸の挿入、または欠失により、ジンクフィンガー機能を必ずしも失うことなく、変化させるまたは影響することができる。例えば、第2のHis残基をCysにより置換することができる。また、ある状況において+4におけるLeuをArgで置換することができる。Xcの前のPhe残基は、Trp以外の任意の芳香族化合物により置換してよい。さらに、実験により、ジンクフィンガーのための好ましい構造および残基の配列からの逸脱が許容され、特定の核酸配列への結合においては有益であるとさえ分かることが示された。しかしながら、これを考慮に入れても、4つのCysまたはHis残基と接触する亜鉛原子により配位されたαヘリックスを含む一般的構造は変化しない。ここで用いられる前記構造(A)および(B)は、Cys2His2型の全てのジンクフィンガー構造を表す例示的構造であると見なされる。
【0036】
好ましくは、XaはF/Y−XまたはP−F/Y−Xである。この場合、Xは任意のアミノ酸である。好ましくは、この場合、XはE、K、TまたはSである。それほど好ましくないがQ、V、AおよびPも考えられる。残りのアミノ酸も可能である。
【0037】
好ましくは、X2-4は、4つというよりはむしろ2つのアミノ酸からなる。これらのアミノ酸の最初のものは、任意のアミノ酸であってよいが、S、E、K、T、PおよびRが好ましい。PまたはRが有利である。これらのアミノ酸の第2のものは好ましくはEであるが、任意のアミノ酸を用いることができる。
【0038】
好ましくはXbはTまたはIである。
【0039】
好ましくはXcはSまたはTである。
【0040】
好ましくは、X2-3は、G−K−A、G−K−C、G−K−SまたはG−K−Gである。しかしながら、好ましい残基以外も可能であり、例えば、M−R−NまたはM−Rの状態ものである。
【0041】
前述のように、大部分の結合相互作用は、アミノ酸-1,+3および+6で発生する。アミノ酸+4および+7は、不変である。残りのアミノ酸は、本質的に任意のアミノ酸であることが可能である。好ましくは、+9位は、ArgまたはLysにより占められる。好適には、+1,+5および+8位は、疎水性アミノ酸ではない、換言すれば、Phe、TrpまたはTyrではない。好ましくは、+2位は、任意のアミノ酸であり、好ましくは、その性質が、同一の核酸結合分子内のN末端ジンクフィンガーのための++2アミノ酸としてのその役割により指示されている場合以外、セリンが好ましい。
従って、前述の要素を一緒にして、本発明において、特定の核酸トリプレットに特異的に結合するジンクフィンガーモチーフ内の各残基を規定することができる。
【0042】
本発明においてペプチド配列は、完全に不変とするのではなく、適宜選択するのが好ましい。例えば、+1,+5および+8位は、任意のアミノ酸割付けを有することが可能であり、他の位置は、あるオプションを有することが可能であり、例えば、本原理は、中央T残基への結合において、Ala、SerまたはValのうちの任意の1つが、+3において使用されることが可能である。その最も広い意味において、従って、本発明において、各々特定の標的核酸トリプレットへの結合が可能である非常に多数のポリペプチドが提供される。これらのポリペプチドは、ポリソーム表示技術(特表2002−529067公報参照。)を使用して、結合能力試験のために選択して使用される。
【0043】
例えば、+1,+5および+8の重要でない残基は、それぞれ、デフォルトオプションとして、Lys、ThrまたはGln残基により占められることが可能である。他の選択の場合、例えば、第一に与えられるオプションは、デフォルトとして採用されることが可能である。このようにして、本発明において、その標的トリプレットに結合する定義された単一のポリペプチド(「デフォルト」ポリペプチド)のデザインを可能にする。
【0044】
本発明において、個々のポリペプチド中に同一の塩基配列を認識するジンクフィンガーモチーフを複数(例えば、2個以上)組合せることができ、異なる塩基配列を認識するジンクフィンガーモチーフを複数(例えば、2個以上)種類組み合わせることもできる。例えば、後述した、本発明において好ましく用いられる配列番号1で表されるポリペプチドは、異なる塩基配列を認識するZFモチーフを2種類組み合わせたものであり、配列番号2で表されたポリペプチドは同一の塩基配列を認識するジンクフィンガー結合モチーフを2つ組合せたものである。
単一のジンクフィンガーモチーフでは、通常、例えばKdとして数十mMで二本鎖DNAを認識するところを2個組合せることにより、少なくとも数十μMで認識するようになり、3個組合せることにより、少なくとも数十から数nMで二本鎖DNAを認識するようになるからである。本発明のアミノ酸配列はジンクフィンガー2個で通常のフィンガー3個の縦列とほぼ同じDNA結合効果を挙げている。
本発明において、前記ポリペプチド成分ZのRfu隣接部位はジンクフィンガーモチーフと前記機能性原子団Rfuを適切な距離と構造とで結ぶリンカーを含むことが好ましい。前記機能性原子団Rfuに結合している前記アミノ酸残基に、ペプチド結合を介して隣接するアミノ酸残基が、カノニカルリンカー(配列番号5で表わされるアミノ酸配列TGEKP)、配列TG、配列EKP等のペプチドリンカーであることがより好ましい。また、後述のように1〜3個のグリシン残基であることも好ましい。
本発明において、各ジンクフィンガーモチーフドメインは、DNAへのフィッティングを良くし、結合能を高める観点から、任意のペプチドリンカーによって連結されていることが好ましく、カノニカルリンカー(配列番号26で表わされるアミノ酸配列TGEKP)によって連結されていることがより好ましい。
【0045】
ジンクフィンガーモチーフ自体は、当業者に良く知られている物質であり、例えば、Millerら著、(1985年)EMBO J.第4巻:1609〜1614頁;Berg著,(1988年)PNAS(USA)第85巻:99〜102頁:Leeら著,(1989年)Science第245巻:635〜637頁に定義されている:USSN08/422,107に対応する国際特許出願WO96/06166およびWO96/32475等に記載されている。
【0046】
本発明に用いられる前記ポリペプチドは、少なくとも1つの天然ジンクフィンガーの1もしくは数個のアミノ酸を欠失、置換もしくは付加したアミノ酸配列を有してよい。前記天然ジンクフィンガーは、特異的DNA結合性が知られているフィンガーから選択することができる。例えば、これらは、結晶構造が決定されたフィンガーであってよい。すなわちZif268(Elrod−Ericksonら著,(1996年),Structure第4巻:1171〜1180頁、CLI(PavletichおよびPabo著,(1993年):Science第261巻:1701〜1707頁、Tramtrack(Fuirallら著,(1993年)Nature第366巻:483〜487頁)およびYYI(Houbaviyら著,(1996年)PNAS(USA)第93巻:13577より13582頁)を挙げることができる。
とりわけ、上記Zif268中の天然ジンクフィンガー2は、ジンクフィンガーを設計するのに好ましい。
【0047】
以下、Zif268中の天然ジンクフィンガー2から設計された、本発明の機能性原子団含有ポリペプチド化合物において特に好ましく用いられる前記ポリペプチド部分について説明する。
まず、本発明の機能性原子団含有ポリペプチド化合物の前記ポリペプチド部分として好ましく用いられる、下記(a)又は(b)に示すポリペプチドについて説明する。
(a)配列表の配列番号1に示すアミノ酸配列を有するポリペプチド
(b)配列表の配列番号1に示すアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列を有し、かつ前記標的塩基配列に結合するCys2-His2型ジンクフィンガーモチーフを含むポリペプチド
【0048】
【化7】

【0049】
前記配列は、本発明で前記ポリペプチド部分として用いられる配列番号1によりコードされる配列である。配列中下線部分は、ジンクフィンガーモチーフ部分であり、二重下線は、DNA認識部位である。2つのジンクフィンガーモチーフ部分(ZF1及びZF2)は、カノニカルリンカー(アミノ酸配列TGEKP)によって連結されていることが分かる(配列番号2の配列においても同様である。)。
ペプチド結合を介して、配列番号1で表わされる配列のN末端、C末端いずれに機能性原子団を有しても良い。機能性原子団を有していない末端にさらにジンクフィンガーモチーフを含むポリペプチドをペプチド結合を介して連結してよい。
次に、本発明の機能性原子団含有ポリペプチド化合物の前記ポリペプチド部分として好ましく用いられる、下記(c)又は(d)に示すポリペプチドについて説明する。
(c)配列表の配列番号2に示すアミノ酸配列を有するポリペプチド
(d)配列表の配列番号2に示すアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列を有し、かつ前記標的塩基配列に結合するCys2-His2型ジンクフィンガーモチーフを含むポリペプチド
【0050】
【化8】

【0051】
前記配列は、本発明で前記ポリペプチド部分として用いられる配列番号2によりコードされる配列である。配列中、下線部分はジンクフィンガーモチーフ部分(2つのZF1)であり、二重下線はDNA認識部位である。
ペプチド結合を介して、配列番号2で表わされる配列のN末端、C末端いずれに機能性原子団を有しても良い。機能性原子団を有していない末端にさらにジンクフィンガーモチーフを含むポリペプチドをペプチド結合を介して連結してよい。
【0052】
本発明に用いる、ジンクフィンガーを含むポリペプチドは、化学合成法、ベクターによる発現等任意のいかなる方法によって調製してもよいが、Wang樹脂(Novabiochem社製)、Pam樹脂(Novabiochem社製)等任意の樹脂(固相)を用いた、Fmoc固相合成法、Boc固相合成法等任意のペプチド固相合成法等の化学的方法により合成することが好ましい。
スキーム1に示すように、本発明の機能性原子団含有ポリペプチド化合物を製造する場合、任意のペプチド固相合成法によって得られた、C末端に樹脂が結合したままのジンクフィンガーポリペプチドを保護基を問わず、ペプチド結合反応により機能性原子団中のカルボニル基に導入し、必要により脱保護することによって得ることができる。
スキーム1は、例えば、機能性原子団が一般式1で表わせる場合で、Rが上記ポリペプチドである場合、すなわち、上記ポリペプチドのN末端が一般式1中のカルボニル基を介してペプチド結合している場合を例にして示している。
スキーム1
【0053】
【化9】

【0054】
スキーム2には、任意のペプチド固相合成法によって得られた、保護基が付いたままのジンクフィンガーポリペプチドを任意のペプチド結合反応により機能性原子団中のアミノ基に導入し、必要により脱保護する場合を示した。スキーム2は、機能性原子団が一般式1で表わせる場合で、Rが上記ポリペプチドである場合、すなわち、上記ポリペプチドのC末端が一般式1中の窒素原子を介してペプチド結合している場合を例にして示した。
スキーム2
【0055】
【化10】

【0056】
スキーム3に、前記機能性原子団含有ポリペプチド化合物の製造において、ブロック単位として合成して置いた、ジンクフィンガーモチーフを有するペプチド同士(少なくとも1つは、一般式1で表される機能性原子団含有ポリペプチド化合物のペプチド部分である。)を連結する方法を示した。
スキーム3
【0057】
【化11】

【0058】
スキーム3の方法は上記ポリペプチド部分を化学的連結反応により延長することができ、機能性原子団含有ポリペプチド化合物製造に好ましく用いられる。
スキーム3に示したケミカルライゲーション法は、保護基の無いペプチド同士をカップリングさせ、ネイティブなペプチド結合を生み出すことができる。この方法に重要なことは、一方のペプチドのC末端側はチオエステルであり、もう一方のペプチドのN末端側はシステイン残基でなくてはならないということである。
ただし、本発明は上記スキーム1〜3の方法に限定されるものではない。
【0059】
前記電子移動性原子団、色素原子団等の機能性原子団Rfuが結合している前記アミノ酸残基に、ペプチド結合を介して隣接するアミノ酸残基が、1〜3個、好ましくは1〜2個のグリシン残基であることが好ましく、グリシンの側鎖が水素原子であり嵩高さがなく、前記DNA結合性モチーフを含むポリペプチド成分Zと機能性原子団成分Rfuとの連結部分のペプチド配列に柔軟性を持たせることができる。
それにより、前記機能性原子団含有ポリペプチド化合物の合成時に前記機能性原子団がペプチド伸張反応に悪影響を及ぼすことによる反応阻害や反応収率の低下を防ぐことができる。
また、本発明のナノ素子製造時における、10〜20Åの間隔に複数の前記機能性原子団含有ポリペプチド化合物を配列させるときにも、前記機能性原子団の嵩高さによる自律凝集阻害を防ぐことができる。
【0060】
以下、本発明における前記機能性原子団含有ポリペプチド化合物を詳細に説明する。
本発明のナノ素子製造方法において、前記電子移動性原子団、色素原子団等の機能性原子団Rfuが、前記ポリペプチド成分ZのC末端、C末端を有するアミノ酸残基の側鎖、N末端、N末端を有するアミノ酸残基の側鎖又は両末端以外のアミノ酸残基の側鎖に結合させることにより前記機能性原子団含有ポリペプチド化合物を製造することができる。
前記ポリペプチド成分Zの前記アミノ酸残基がアラニン残基であり、前記アラニン残基の側鎖の炭素原子と、前記電子移動性原子団、色素原子団等の機能性原子団Rfuとが結合している機能性原子団含有ポリペプチド化合物は好ましく用いられる。
例えば、本発明の機能性原子団含有ポリペプチド化合物の好ましい一態様として、下記一般式1で表わされるものが挙げられる。
一般式1
【0061】
【化12】

【0062】
式中、Rは水素原子、tert−ブトキシカルボニル(Boc)、(9−フルオレニル)メトキシカルボニル(Fmoc)、前記標的塩基配列に結合するCys2-His2型ジンクフィンガーモチーフを含むポリペプチドであり、Rは、水酸基、炭素数1〜5のアルコキシ基(例えば、メトキシ、エトキシ、ブトキシ基等)、前記標的塩基配列に結合するCys2-His2型ジンクフィンガーモチーフを含むポリペプチドであり、Rは、水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基(例えば、メチル、エチル、イソプロピル基等)であり、MはRun+、Osn+、Fen+、Con+(いずれもnは1〜3の数を示す。)等の配位可能な任意の遷移金属イオンである。ただし、R、Rの少なくとも一方は、前記標的塩基配列に結合するCys2-His2型ジンクフィンガーモチーフを含むポリペプチドであり、R、Rの一方だけが、前記ジンクフィンガーモチーフを含むポリペプチドであることが好ましい。Rが上記ポリペプチドである場合、上記ポリペプチドのC末端が一般式1中の窒素原子を介してペプチド結合している。Rが上記ポリペプチドである場合、上記ポリペプチドのN末端が一般式1中のカルボニル基を介してペプチド結合している。
本発明のドナー機能性原子団含有ポリペプチド化合物としては、前記一般式1中、MがRun+(nは1〜3の数を示す。)であることが好ましい。
本発明のアクセプター機能性原子団含有ポリペプチド化合物としては、前記一般式1中、MがOsn+、Fen+又はCon+(いずれもnは1〜3の数を示す。)であることが好ましく、MがOsn+(nは1〜3の数を示す。)であることがさらに好ましい。
本発明において、ドナー、アクセプターとは、それぞれ電子(又は光子)供与体、電子(又は光子)受容体のことである。ドナー・アクセプター間で電子移動が行われる。
【0063】
一般式1中、結合するCys2-His2型ジンクフィンガーモチーフを含むポリペプチドは、段落[0026]〜[0059]において前述したジンクフィンガーモチーフを含むポリペプチドについての説明で挙げたものと同様である。
【0064】
ドナーである機能性原子団含有ポリペプチド化合物としては(8)記載の機能性原子団含有ポリペプチド化合物(MがRu)が特に好ましい。
アクセプターである機能性原子団含有ポリペプチド化合物としては(8)記載の機能性原子団含有ポリペプチド化合物(MがOs)が特に好ましい。
ドナーである機能性原子団含有ポリペプチド化合物及びアクセプターである機能性原子団含有ポリペプチド化合物を組合せた2本鎖DNAを担体とするナノ素子であることが好ましい。
特に好ましくは、ドナーである(8)記載の機能性原子団含有ポリペプチド化合物(MがRu)及びアクセプターである(8)記載の機能性原子団含有ポリペプチド化合物(MがOs)を組合せた2本鎖DNAを担体とするナノ素子である。その場合、2本鎖DNAとしては後述の、配列番号10及び11で表わされる2重鎖DNAが好ましく用いられる。
ドナーである機能性原子団含有ポリペプチド化合物(MがRu)及びアクセプターである機能性原子団含有ポリペプチド化合物(MがOs)を組合せた場合、2本鎖DNA上で数塩基対(例えば、3塩基対)離して近接した位置に配置する観点から、本発明のドナー機能性原子団含有ポリペプチド化合物及びアクセプター機能性原子団含有ポリペプチド化合物は互いに異なったDNAを認識することが好ましい。
【0065】
以下、本発明の機能性原子団含有ポリペプチド化合物の製造方法について説明する。
一般式1で表される本発明の機能性原子団含有ポリペプチド化合物において、錯体部分は、例えば、以下に示すスキーム4の方法によって合成できる。
スキーム4
【0066】
【化13】

【0067】
スキーム4は、金属部分がOsの場合を例として示したものである。
【0068】
本発明の機能性原子団含有ポリペプチド化合物の好ましい別の態様は、下記一般式2で表わされる。
一般式2
【0069】
【化14】

【0070】
(式中、AAはアミノ酸であり、nは1から20までの整数である。Mは Ptn+、Cdn+、Hgn+, Agn+, Fen+, Nin+, Con+又は Znn+(nは1〜3の整数を示す)である。また、L1,L2はM1に配位する配位子を表わし、L1およびL2が配位原子団の一部であってもよい。Rは水素原子、tert−ブトキシカルボニル(Boc)、(9−フルオレニル)メトキシカルボニル(Fmoc)、グリシン、又は前記標的塩基配列内の核酸トリプレットに結合するCys2-His2型のジンクフィンガーのモチーフを含むポリペプチドであり、Rは、水酸基、炭素数1〜5のアルコキシ基(例えば、メトキシ、エトキシ、ブトキシ基等)、グリシン、又は前記標的塩基配列内の核酸トリプレットに結合するCys2-His2型のジンクフィンガーのモチーフを含むポリペプチドでである。ただし、R、Rの少なくとも一方は、前記標的塩基配列内に結合するCys2-His2型のジンクフィンガーのモチーフを含むポリペプチドである。Rが、グリシン又は上記ポリペプチドである場合、グリシン又は上記ポリペプチドのC末端が一般式3中の窒素原子を介してペプチド結合している。Rがグリシン又は上記ポリペプチドである場合、グリシン又は上記ポリペプチドのN末端が一般式3中のカルボニル基を介してペプチド結合している。)
AAは、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン酸、グルタミン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン等任意のアミノ酸から構成されていてよい。
配位子L1,L2としては、グアニン等の核酸塩基(もしくはグアニンそのもの)、ピリジン、ビピリジン等の複素環類、酢酸イオン等のカルボキシレート(COO)類、オギザラート(シュウ酸イオン配位子)等のカルボン酸類、エチレンジアミン等のアミン類が挙げられる。
【0071】
本発明の機能性原子団含有ポリペプチド化合物の好ましい別の態様は、下記一般式3で表わされる。
一般式3
【0072】
【化15】

【0073】
(式中、Rは水素原子、tert−ブトキシカルボニル(Boc)、(9−フルオレニル)メトキシカルボニル(Fmoc)、グリシン、又は前記標的塩基配列内の核酸トリプレットに結合するCys2-His2型のジンクフィンガーのモチーフを含むポリペプチドであり、Rは、水酸基、炭素数1〜5のアルコキシ基(例えば、メトキシ、エトキシ、ブトキシ基等)、グリシン、又は前記標的塩基配列内の核酸トリプレットに結合するCys2-His2型のジンクフィンガーのモチーフを含むポリペプチドでである。ただし、R、Rの少なくとも一方は、前記標的塩基配列内に結合するCys2-His2型のジンクフィンガーのモチーフを含むポリペプチドである。Rが、グリシン又は上記ポリペプチドである場合、グリシン又は上記ポリペプチドのC末端が一般式3中の窒素原子を介してペプチド結合している。Rがグリシン又は上記ポリペプチドである場合、グリシン又は上記ポリペプチドのN末端が一般式3中のカルボニル基を介してペプチド結合している。)
機能性原子団が一般式3で表わせる、本発明の機能性原子団含有ポリペプチド化合物の製造において、[Pt(bpy)]2+錯体はそれ自体で2重鎖DNA折曲げ機能を有するので、該ポリペプチド化合物1個を2重鎖DNA上に自律凝集により定位させるものであってよい。
【0074】
機能性原子団が一般式3で表わせる、本発明の機能性原子団含有ポリペプチド化合物の製造において、例えば、Rが前記Cys2-His2型のジンクフィンガーのモチーフを含むポリペプチドである場合は、配列番号5で表わされるアミノ酸配列(CPLC)をC末端にペプチド結合を介して有する、ジンクフィンガーのモチーフを含むポリペプチドを任意のペプチド固相合成法等の化学的方法により合成し、必要により前述のスキーム3に示したケミカルライゲーション法によりジンクフィンガーモチーフ単位を延長後、スキーム5に従って、[Pt(bpy)]2+錯体を導入することにより製造することができる。
一方、Rが前記Cys2-His2型のジンクフィンガーのモチーフを含むポリペプチドである場合は、アミノ酸配列(CPLC)をN末端にペプチド結合を介して有する、ジンクフィンガーモチーフを含むポリペプチドを任意のペプチド固相合成法等の化学的方法により合成し、必要により前述のスキーム3に示したケミカルライゲーション法によりジンクフィンガーモチーフ単位を延長後、スキーム5に従って、[Pt(bpy)]2+錯体を導入することにより製造することができる。
スキーム5
【0075】
【化16】

【0076】
前述のように連結部分のペプチド配列に柔軟性を持たせる観点から、アミノ酸配列(CPLC)とジンクフィンガーモチーフとの連結配列に、1〜3個、好ましくは1〜2個のグリシン残基を有することが好ましい。
本発明のナノ素子製造方法において、機能性原子団Rfuが側鎖に結合している、前記ポリペプチド成分Zの前記アミノ酸残基がシステイン残基であり、前記システイン残基の側鎖の硫黄原子と、前記電子移動性原子団、色素原子団等の機能性原子団Rfuとが配位結合又はチオエーテル結合を介して結合していてもよい。
【0077】
例えば、本発明の機能性原子団含有ポリペプチド化合物の好ましい別の態様として、下記一般式4で表わされるものが挙げられる。
一般式4
【0078】
【化17】

【0079】
(式中、Rは、特定標的塩基配列を有する二本鎖DNAを認識するシステイン含有ジンクフィンガーポリペプチドであり、一方のRのみが特定標的塩基配列を有する二本鎖DNAを認識するシステイン含有ジンクフィンガーポリペプチドであることが好ましい。Mは鉄原子である。ただし、ポルフィリンのメチレン側鎖のα炭素原子が、前記システインの硫黄原子と配位結合している。)
【0080】
本発明の一般式4で表わされる機能性原子団含有ポリペプチド化合物は、下記スキームのように特開平6−172383号公報に記載の製造方法によって製造することができる。
【0081】
【化18】

【0082】
【化19】

【0083】
次に、本発明の機能性原子団含有ポリペプチド化合物が認識・結合する二重鎖DNAについて説明する。
本発明において2個以上の前記機能性原子団含有ポリペプチド化合物が認識・結合する場合、各々の前記機能性原子団含有ポリペプチド化合物が認識・結合する標的塩基配列は異なることが好ましい。
【0084】
本発明のナノ素子の製造方法において、前記ポリペプチド化合物に含まれる機能性原子団2個以上は、その素子の機能を奏する限り、特にお互いの間隔に制限はないが、例えば、それらの中から最近接の原子団を例について言えば、該機能性原子団の接触する位置から0〜100Åの距離になるように配列することが好ましく、10〜20Å離すことがさらに好ましく、10Å程度離すことが特に好ましい。しかし、この距離以上とって素子の機能を奏する場合を除くものではない。
DNA鎖について言えば、一般に、B型DNAは隣接塩基対の平面間距離が約3.4Å程度であることが知られているので、3塩基対離した場合、本発明の機能性原子団含有ポリペプチド化合物の機能性原子団同士の距離は10A程度に相当する。
上記機能性原子団同士の距離は、ポリペプチド成分Zと、機能性原子団成分Rfuとを結ぶリンカーの大きさや幾何的構造・配置に依存するものであるが、標的塩基配列同士は0〜30塩基対離すのが好ましく、3〜6塩基対離すのがより好ましく、3塩基対離すのが特に好ましい。
なお、標的塩基配列同士が近すぎると、機能性原子団が嵩高いためにジンクフィンガーモチーフがDNAに結合するのを阻害してしまうことがある。一方、標的塩基配列同士が遠すぎると、機能性原子団同士の相互作用による機能発現が起こらない。具体的には、トリスビピリジン錯体のように機能性原子団が電子移動性原子団である場合、後述のように通常、トンネルにより移動する距離が20Å以内であること、また、後述の遷移ダイポール相互作用に基づく励起子相互作用による光学素子として用いる場合、色素同士の間隔が20Å以内であることが好ましい。
機能性原子団Rfuが標的塩基配列に結合するジンクフィンガーモチーフを含むポリペプチド鎖2本を有する場合(例えば、一般式1中R、Rいずれもが標的塩基配列に結合するジンクフィンガーモチーフを含むポリペプチドである場合、一般式2または3中R、Rいずれもが標的塩基配列に結合するジンクフィンガーモチーフを含むポリペプチドである場合)、2個以上の前記機能性原子団含有ポリペプチド化合物各々がジンクフィンガーモチーフポリペプチド鎖2本の標的塩基配列を確保する必要があるため、機能性原子団同士の間隔が広がってしまい、近接し難い。したがって、機能性原子団Rfuは、標的塩基配列に結合するジンクフィンガーモチーフを含むポリペプチド鎖1本を有することが好ましい。
機能性原子団が電子移動性原子団である場合、DNAは、少なくとも1つのドナー側の標的塩基配列及び少なくとも1つのアクセプター側の標的塩基配列を有することが好ましい。
【0085】
2重鎖DNAは約50塩基対にわたって剛直性に優れること、すなわち時間的なゆらぎの小さいことが知られている(J. F. Marko and E. Siggia, Macromolecules, 1995, 28, 209.)。
本発明の機能性原子団含有ポリペプチド化合物の配列や定位に対する構造の頑丈さの確保のため、2重鎖DNA鎖長としては、50塩基以下が好ましい。
長すぎると二重らせんDNAの剛直性を維持することができなくなってしまう一方、複数の標的塩基配列を設けることができなくなってしまうからである。
本発明において、標的塩基配列は、少なくとも1個のジンクフィンガーモチーフが認識する連続した配列からなることが好ましく、少なくとも2個のジンクフィンガーモチーフ(ZF同士は異なっていてもよいし、同じでもよい。)が認識する連続した配列からなることがさらに好ましい。
機能性原子団が、電子移動性原子団である場合の、前記ドナー側の標的塩基配列、及び前記アクセプター側の標的塩基配列についても同様である。
【0086】
本発明の機能性原子団含有ポリペプチド化合物によって認識される、ジンクフィンガーモチーフ認識DNA配列は、報告されているジンクフィンガーモチーフ中のアミノ酸配列と認識DNA塩基配列の対照表(Y. Choo and A. Klug, “Selection of DNA binding sites for zinc fingers using rationally randomized DNA reveals coded interactions”, Proc. Natl., Acad., Sci., USA., 1994, 91, 11168-11172.、C. O. Pabo, E. Peisach, and R. A. Grant, “Design and selection of novel Cys2His2 zinc finger proteins”, Ann. Rev. Biochem., 2001, 70, 313-340参照。)、前述の特表平10−504461号公報又は特表2002−529067号公報記載の原理に基づいて設計することができる。例えば、ジンクフィンガーモチーフ中アミノ酸配列のDNA認識部位(-1, 3, 6)がそれぞれRDR、RHRである場合、認識されるDNA塩基配列はそれぞれ3’-GCG、3’-GGGである。
【0087】
本発明に用いる2本鎖DNAにおいて、ジンクフィンガーモチーフ認識DNA配列からなる標的塩基配列以外の配列はZif268結合DNAの塩基配列を含むものであってもよい(Pavletich, N. P, Pabo, C. O、Science, 252, 1991, 809-817)。
【0088】
本発明に用いる2本鎖DNAは、ドナーH2N-TbpRu(II)-F1F2-OH 及びアクセプターFmoc-F1F1-TbpOs(II)-OMe を定位させる場合、ドナー側標的塩基配列5’-GGGGCG-3’及びアクセプター側標的塩基配列5’-GCGGCG-3’を有することが好ましい。
図3はドナーH2N-TbpRu(II)-F1F2-OH 及びアクセプターFmoc-F1F1-TbpOs(II)-OMe を定位させた場合の位置関係を示す概略図である。配列中下線部分は標的塩基配列である。
図3から明らかなようにDNA5’末端側にはZFペプチド鎖のC末端側がくるので、本発明のアクセプターFmoc-F1F1-TbpOs(II)-OMe の標的塩基配列5’-GCGGCG-3’は、ドナー標的塩基配列5’-GGGGCG-3’の 3’側に配置するのが好ましい。すなわち、DNA 上で 5’末端から H2N-TbpRu(II)-F1F2-OH と Fmoc-F1F1-TbpOs(II)-OMe 順番で並びお互いのトリスビピリジンが近接するようになるには DNA センス側の配列は5’末端から 5’- Xn- GGGGCG -Xm- GCGGCG -Xl- 3’であることが好ましい。式中、Xは任意の塩基、下付きのn、m、lは任意の数を示す。
【0089】
ドナー側標的塩基配列とアクセプター側標的塩基配列を離しすぎるとエネルギー移動が起こらないので、ルテニウムトリスビピリジン錯体成分とオスミウムトリスビピリジン錯体成分を適度に近接した位置に配置する必要がある一方、ドナー側結合部位とアクセプター側結合部位が近すぎると、トリスビピリジン錯体部分は非常に嵩高いためにジンクフィンガーモチーフがDNAに結合するのを阻害してしまうからである。
【0090】
以下、本発明に好ましく用いられる機能性原子団含有ポリペプチド化合物それぞれに対応して好ましく認識・結合される2重鎖DNAの具体例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0091】
下線は標的塩基配列を示すが各々の配列中、下線で示した標的塩基配列以外の配列は任意の塩基配列であってよい(以下同様である。)。
【0092】
【化20】

【0093】
上述のように、ZFは、GリッチなDNAの塩基配列を認識して結合するものが多く、上記ZF1、ZF2により認識されるDNA配列もそれぞれ5’-GCG及び5’-GGGである。なお、ZFのDNA認識部位(-1, 3, 6)はそれぞれRDR、RHRである。
下線部分はF1F2結合部位である。
以下、異なる2つの本発明の機能性原子団含有ポリペプチド化合物が、認識・結合する2重鎖DNAの具体例を示す。
【0094】
【化21】

【0095】
F1F1 結合部位5’-GCGGCG-3’の 3’側に隣接する塩基はTであることが好ましい。図2は、前述のZFの認識部位の配列とDNAの塩基配列の相関性を示した図である(Annu. Rev. Biochem. 2001, 70, 313-340参照。)。図2から明らかなように、F1のへリックス部分から数えて 2 番目の位置がアスパラギン酸であるために上記Tの位置のアンチセンス側塩基配列の A 又は C を認識するためである。
【0096】
さらに、機能性原子団含有ポリペプチド化合物3個が、認識・結合する2重鎖DNAの具体例を示す。
【0097】
【化22】

【0098】
次に、機能性原子団含有ポリペプチド化合物4個が、認識・結合する2重鎖DNAの具体例を示す。
【化23】

【0099】
上述の本発明に用いる2本鎖DNAは、例えば、十字型DNA(Vologodskii, A. V. & Cozzarelli, N. R. “Confor-mational and thermodynamic properties of super-coiled DNA.” Annu. Rev. Biophys. Biomol. Struct. 1994a, 23, 609-643参照。)、スリップドDNAなどの特殊な形状のDNA、3重鎖DNAもしくは4重鎖DNAと結合した2重鎖DNA、又は錯体と超分子を形成した2重鎖DNA(Kristen M. Stewart and Larry W. McLaughlin, “Four-Arm Oligonucleotide Ni(II)-Cyclam-Centered Complexes as Precursors for the Generation of Supramolecular Periodic Assemblies” 2004, 124, 2050-2057. )を利用することにより、2次元状又は3次元状に広がった定位と配列を可能にするものであってもよい。
【0100】
本発明の構築物は、通常の2重鎖DNA、十字型DNA、スリップドDNAなどの特殊な形状のDNA、3重鎖DNAもしくは4重鎖DNAと結合した2重鎖DNA、又は錯体と超分子を形成した2重鎖DNAを任意の方法に従ってホスホジエステル結合して組合せたものから適宜選択し、2個以上の機能性原子団含有ポリペプチド化合物を自己組織化させることによって得ることができる。
そのような、本発明の構築物は、2次元、3次元を問わず、nmのスケールで集積回路を形成したり、色素等の機能性原子団を高集積度で配列したシートや立体物とすることができる。
【0101】
上記2次元状に広がった定位と配列を可能にしたものを用いた本発明の構築物の形成をマイカあるいは金(111)の平滑面で行い、原子間力顕微鏡(AFM)、走査型トンネル顕微鏡(STM)等で観察し、本発明の構築物形成の確認を行うことができる。
【0102】
以下、本発明のナノ素子のエネルギー移動を確認する方法について説明する。
蛍光エネルギー移動とは、タンパク質の特定の場所に2つの色素を導入した場合に、一方の色素(ドナー)を励起したとき他方の色素が近くにあると、励起エネルギーが他方の色素(アクセプター)に移ることである。2つの色素の種類が異なる場合、ドナーを励起したにもかかわらず、ドナーの蛍光は消光しアクセプターの蛍光が大きくなる。一方、2つの色素が遠く離れている場合、このようなエネルギー移動は起こらず、単にドナーの蛍光が観測されるだけである。エネルギー移動の効率は2つの色素間の位置関係で決定され、距離に関しては 6 乗に反比例することが知られている。したがって、DNA上での距離制御により、エネルギー移動効率を制御することができる。
上記蛍光エネルギー移動の原理によれば、ルテニウムトリスビピリジン錯体とオスミウムトリスビピリジン錯体とが近接した位置に存在するからエネルギー移動が起こっているのであって、エネルギー移動が観測できること自体、ルテニウムトリスビピリジン錯体 とオスミウムトリスビピリジン錯体とを定位できたことを示している。
ルテニウムトリスビピリジン錯体が励起光を吸収し、ある一定の量子収率に従って発光するメカニズムについてはすでに報告がある(Kenneth J. Kise, Jr. and Bruce E. Bowler, Inorg. Chem. 2002, 41, 379〜386参照。)。
本発明において、ドナー側の蛍光の消光を測定しても、アクセプター側の蛍光発光を測定してもいずれであっても、エネルギー移動を確認することができた。
【0103】
Å〜nmのスケールで半導体CPUに見られるような集積回路を形成したり、分子を配列させるには、基板に対して平行な方向(横方向)に色素原子団、電子移動原子団等の機能性錯体原子団を高集積度で配列し定位しなければならないが、本発明のナノ素子製造方法はこれを自律凝集によって可能にするものである。
【0104】
ナノ素子能の基になる電子移動は通常20オングストローム以内の距離ならトンネルにより(空間的にまた結合をとおして)移動する。光誘起された電子移動も同様である。
【0105】
フォトニックなナノ素子能の基になる色素の配列・定位は、色素分子同士を数十オングストローム以内に保ち、遷移ダイポール相互作用に基づいて励起エネルギー移動を起こさせる必要がある。この励起エネルギー移動の現象は広く知られている。
【0106】
ポルフィリンやシアニンのような遷移ダイポールの大きな色素では、約20オングストロームの距離以内に色素同士が位置すると、遷移ダイポール相互作用に基づき、色素集団全体にわたって集団励起が起こることがよく知られ、この現象は励起子相互作用と呼ばれている。
図4を参照して、フォトニック・ワイヤーについて説明する。
図4は、フォトニック・ワイヤーの模式図である。
フォトニック・ワイヤーとは、励起状態のエネルギーをインプット側から、アウトプット側へと運ぶことのできる分子デバイスである。理想的なフォトニック・ワイヤーとは、発色団間のエネルギー移動が効率的で、規則的な配置を持つものである。2重鎖 DNA1を用いることで規則的な配置が可能である。蛍光量子収率の高い色素2を用い、励起状態エネルギーが確実に一つの方向性を持って伝わるようなエネルギーの階段をつくることによって、極めて高い効率で、かつ、一方向性の多段階エネルギー移動を実現していることができる。
【0107】
本発明のナノ素子製造方法は、DNA上にあらかじめプログラミングされた配列情報を、金属錯体等の機能性原子団の定位に変換でき、その結果、DNA鎖上に複数の金属錯体等の機能性原子団をÅオーダー間隔で自在に配列することができ、ナノエレクトロニクス素子を製造することができる。本発明のナノ素子製造方法は、各機能性原子団含有ポリペプチド化合物をÅオーダー間隔で2重DNA鎖上に集積可能である。
【実施例】
【0108】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0109】
実施例1
(A)本発明の機能性原子団含有ポリペプチド化合物の製造
工程(1)4-ブロモメチル-4’-メチル-2,2’- ビピリジン の合成
4,4’-ジメチル-2,2’- ビピリジン (1.00g, 5.43 mmol), NBS(N−ブロモスクシンイミド)(1.16 g, 6.51 mmol)、AIBN(アゾビス(イソブチロニトリル))(7.9 mg, 54.3 μmol) を Ar下CCl4(20 ml) に溶解し、2時間還流した。反応が進むと無色透明の反応溶液が褐色に変化した。放冷後、反応溶液をろ過して溶媒を留去した。精製はシリカゲルフラッシュカラムクロマトグラフィー (DCM:アセトン= 98:2)により行った。溶媒を留去すると無色オイル状の目的物が得られた。純度検定は HPLC により行った。収量は 0.669 g 収率は 45.1 %
【0110】
工程(2)N-(ジフェニルメチレン)-2-アミノ-3-(4’-メチル-2,2’-ビピリジン-4-イル)プロパン酸tert-ブチルエステルの合成
上記4-ブロモメチル-4’-メチル-2,2’- ビピリジン (0.669 g, 2.45 mmol)、N-(ジフェニルメチレン)-2-アミノプロパン酸tert-ブチルエステル(0.723 g, 0.245 mmol)、 (8S,9R)-(-)-N-ベンジルシンコニジンクロリド(PTC) (0.255 g, 0.49 mmol) をジクロロメタン(DCM)(10 ml) に溶解し 50% NaOH 水溶液 (10 ml)を加えて一晩室温で撹拌した。50% NaOH 水溶液 を加えるとだんだん反応溶液は暗褐色に変化してくる。撹拌を続けると一晩後には反応溶液は茶褐色に変わる。TLC (へキサン:酢酸エチル= 7:1 TEA 7% Rf 値 = 0.15)により反応をモニタリングして原料のスポットが消失した所で撹拌終了し、水洗いでNaOH を除き、有機層の溶媒を留去した。褐色のオイル状の物質が得られた。精製はシリカゲルカラムクロマトグラフィー (へキサン:酢酸エチル= 7:1 TEA 1%)により行った。これにより無色透明のオイル状の物質が得られた。純度検定は HPLC (MeOH:H2O = 1:1 TFA 0.05% ) により行った。収量は 1.11 g 収率は 94.6 %。
【0111】
工程(3)2-アミノ-3-(4’-メチル-2,2’-ビピリジン-4-イル)プロパン酸の合成
上記N-(ジフェニルメチレン)-2-アミノ-3-(4’-メチル-2,2’-ビピリジン-4-イル)プロパン酸tert-ブチルエステル(1.11 g, 2.32 mmol) に 6N HCl (22 ml) を加えて4時間還流した。反応溶液は始終薄茶色のままであった。反応溶液を放冷後、ジエチルエーテルで洗い、水層の HCl を留去して凍結乾燥を行った。収量は 0.676 g 定量的に得られた。純度検定は HPLC ( MeOH:H2O = 1:4 TFA 0.05%) により行った。
【0112】
工程(4)2-アミノ-3-(4’-メチル-2,2’-ビピリジン-4-イル)プロパン酸メチルエステルの合成
上記2-アミノ-3-(4’-メチル-2,2’-ビピリジン-4-イル)プロパン酸(0.676 g, 2.32 mmol)を Ar下、蒸留MeOH (2.35 ml)で溶解し−15℃に冷却し、これにチオニル クロリド(0.62ml, 8.58 mmol) を加えて一晩撹拌した。反応終了は TLCにより確認した。撹拌停止後HCl・MeOH を加えそれを留去する事を5回繰り返した。得られた褐色オイル物質の純度検定は HPLC (MeOH:H2O = 1:4 TFA 0.05%) により行った。収量は 0.655 g、定量的に得られた。
【0113】
工程(5)L-2-アミノ-3-(4’-メチル-2,2’-ビピリジン-4-イル)プロパン酸の合成
上記2-アミノ-3-(4’-メチル-2,2’-ビピリジン-4-イル)プロパン酸メチルエステル(0.655 g, 2.31 mmol) 及びプロテアーゼバクテリアルタイプ8(商品名、シグマ社製)を 0.1M NaHCO3 tBuOH 10% (36 ml) 溶液に溶解して2時間撹拌した。撹拌終了後反応溶液をクロロホルムにより洗い水層を凍結乾燥し白色の個体を得た。収量は 254.9 mg, 収率は 40.6 %。純度検定は HPLC (MeOH:H2O = 1:4 TFA 0.05%) により行った。
【0114】
工程(6)L-2-アミノ-3-(4’-メチル-2,2’-ビピリジン-4-イル)プロパン酸メチルエステルの合成
上記L-2-アミノ-3-(4’-メチル-2,2’-ビピリジン-4-イル)プロパン酸(200 mg, 0.72 mmol)、をAr下MeOH (0.7ml) に溶解し、-15℃ に冷却した。チオニル クロリド (0.18 μl, 2.5 mmol) を徐々に加えた。その後、一晩撹拌して溶媒を留去した。反応が進むと、徐々に生成物の析出が始まり、反応溶液は白色のクリーム状になった。MeOH を加えて留去することを 5 回繰り返した。収量は 94.8 mg, 収率は 48.9 %。純度検定は HPLC (MeOH:H2O = 1:4 TFA 0.05%) により行った。
【0115】
工程(7)N-Boc- L-2-アミノ-3-(4’-メチル-2,2’-ビピリジン-4-イル)プロパン酸の合成
上記L-2-アミノ-3-(4’-メチル-2,2’-ビピリジン-4-イル)プロパン酸(300 mg, 1.16 mmol)、を ジオキサン / H2O (1:2, 4.2 ml) に溶解し,ジ−tert−ブチルジカーボネート((Boc)2O)(290 μl, 1.28 mmol) を加えた。この反応溶液をよく撹拌しながら 1N NaOH 水溶液 (1.4 ml) を非常にゆっくり加えた。これを4時間撹拌した。 0.2 N NaHSO4 を pH 4 になるまで加えて反応を終了し、酢酸エチルにより抽出を行った。 純度検定は HPLC により行った。
【0116】
工程(8)N-Boc- L-2-アミノ-3-(4’-メチル-2,2’-ビピリジン-4-イル)プロパン酸 メチルエステルの合成
L-2-アミノ-3-(4’-メチル-2,2’-ビピリジン-4-イル)プロパン酸メチルエステル塩酸 (95 mg, 0.31 mmol)をテトラヒドロフラン(THF)(0.2 ml) に溶解し、(Boc)2O (85 μl, 0.37 mmol) を加えてしばらく撹拌し、DIEA (96 μl, 0.06 mmol) を非常にゆっくり加えた。これを、一晩撹拌して TLC により反応終了を確認し、溶媒を留去した。これをクロロホルムに溶解して H2O で洗浄した。収量は168.9 mg、定量的に得られた。純度検定は HPLC により行った。
【0117】
工程(9)cis-ジクロロビス(2,2’-ビピリジン)ルテニウム(II) の合成
RuCl3・3H2O (1.00g, 3.82 mmol), 2,2’-ビピリジン (1.20 g, 7.68 mmol), LiCl (1.10 g, 25.9 mmol), を Ar 下フラスコに入れ蒸留 DMF (6 ml) を加えて8時間還流を行った。放冷後、アセトン (20 ml) を加え 0℃ で一晩放置した。沈殿物をろ別し、H2O 及び ジエチルエーテルで洗った。収量は 1.06 g, 収率は 57.2%。
【0118】
工程(10)(N-tert-ブトキシカルボニル-2-アミノ-3-(4’-メチル-2,2’-ビピリジン-4-イル)プロパン酸)ビス(2,2’-ビピリジン)ルテニウム-(II) (以下単に、Boc-TbpRu(II)-OHという。) の合成
【0119】
【化24】

【0120】
上記N-Boc- L-2-アミノ-3-(4’-メチル-2,2’-ビピリジン-4-イル)プロパン酸 (290 mg, 0.845 mmol)、cis-ジクロロビス(2,2’-ビピリジン)ルテニウム(II) (440 mg, 0.845 mmol) 及び AgNO3 (287.2 mg, 1.69 mmol)をAr下脱気済みのEtOH / H2O (7 : 3) に溶解し、一晩撹拌した。撹拌終了後、適量の飽和 NaCl 水溶液を加え、ろ過した。ろ液の溶媒を留去した。精製はイオン交換カラムクロマトグラフィー (0.01-1 M NH4Cl 水溶液 ステップグラジェント 目的物は 0.1 M で溶出)により行った。溶出物の入った溶液に 飽和 NH4PF6 水溶液を加え目的物を沈殿させた。沈殿物をろ過し、 MeOH、H2O、ジエチルエーテルで洗浄した。収量は 766.8 mg, 収率は 86.7%。純度検定は HPLC を用いて行った。
【0121】
工程(11)H2N-TbpRu(II)-YG-OH の合成(YGはチロシリルグリシンをいう。)
合成は、Fmoc固相合成法により行った。樹脂は 2-Cl-Trt 樹脂(25 mg, 0.025 mmol) を用いた。Tyrの縮合には、Fmoc-Tyr(tBu)-OH (34.5 mg, 0.075 mmol) 縮合剤; PyBop (39.0 mg, 0.075 mmol), 除剤; ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)(10.1 mg, 0.075 mmol), 塩基; DIEA (13 μl, 0.075 mmol) を 蒸留 DMF に溶解して 45 分 樹脂と懸濁させてアミノ酸をカップリングさせた。撹拌終了後, 蒸留 DMF により樹脂を洗浄し、 20% ピペリジン / DMF 溶液で樹脂を 5 分 及び 20 分 の計 2 回懸濁撹拌し脱 Fmoc 反応を行った。この後、蒸留 DMF により樹脂を洗浄した。このサイクルを続けていき長鎖ペプチドの合成を行った。Boc-TbpRu(II)-OH (38.6 mg, 0.075 mmol) 縮合剤; HATU (28.5 mg, 0.075 mmol), 除剤; HOAt (10.1 mg, 0.075 mmol)、塩基;DIEA (13 μl, 0.075 mmol) を 蒸留 DMF に溶解して24時間樹脂と懸濁撹拌させてカップリングを行った。樹脂からの切り出し及び側鎖脱保護は TFA / H2O / EDT / TIS (92.5:2.5:2.5:2.5) の混合溶液中で2時間撹拌して行った。撹拌終了後、溶液を ジエチルエーテルに分散して粗ペプチドの沈殿を得た。これを、H2O に溶解して凍結乾燥して粗生成物を得た。このとき、粉末には多量の TFA 及び H2O が含まれていると考えられるので収量については測定を行わなかった。純度検定には HPLCを用いた。
【0122】
工程(12)cis-ジクロロビス(2,2’-ビピリジン)オスミウム(III) クロリド H2O の合成
K[OsCl6] (500 mg, 1.12 mmol)及び 2,2’-ビピリジン (350mg, 2.23 mmol) をAr下、蒸留DMF (10.5 ml) に溶解して1時間還流した。還流停止後、室温まで放冷して反応混合液をろ過してろ液に EtOH (5 ml) を加え、さらに激しく撹拌しながら ジエチルエーテル(125 ml) を加えた。−5℃で一晩静置し、沈殿を回収した。この沈殿は、そのまま次の反応に用いた。
【0123】
工程(13)cis-ジクロロビス(2,2’-ビピリジン)オスミウム(II) の合成
工程(11)で合成した沈殿物を DMF / MeOH (2:1、 19.5 ml) に溶解した。撹拌を行いながら 30 分 かけて1.0g / ml Na2S2O4 水溶液 (128 ml) を滴下した。滴下しつつ撹拌を進めていくと、 溶液が次第に深紫色に変化していく。その後、 -5℃ で一晩静置した。析出した微結晶をろ過により回収し、 H2O、 MeOH、ジエチルエーテルで洗浄した。収量は 593.6 mg、 収率は K[OsCl6]に対し 92.5%。目的物の確認は UV可視スペクトルにより行った。
【0124】
工程(14)(N-tert-ブトキシカルボニル-2-アミノ-3-(4’-メチル-2,2’-ビピリジン-4-イル)プロパン酸) ビス(2,2’-ビピリジン) オスミウム-(II) (以下単に、Boc-TbpOs(II)-OHという。) の合成
【0125】
【化25】

【0126】
上記cis-ジクロロビス(2,2’-ビピリジン)オスミウム(II) (100 mg, 0.174 mmol) 及び N-tert-ブトキシカルボニル-2-アミノ-3-(4’-メチル-2,2’-ビピリジン-4-イル)プロパン酸 (60 mg, 0.174 mmol) をAr下脱気済みのエチレン グリコール (12 ml) に溶解し、 90℃ 程度で2時間加熱撹拌した。撹拌終了後、 出来る限り溶媒を留去した。精製はイオン交換カラムクロマトグラフィー(0.01〜1 M NH4Cl 水溶液 ステップグラジェント 目的物は 0.01 M で溶出)により行った。溶出物の入った溶液に 飽和 NH4PF6 水溶液を加え目的物を沈殿させた。沈殿物をろ過し、MeOH、 H2O、 ジエチルエーテルで洗浄した。純度検定はHPLCを用いて行った。化合物の確認はESI TOF-MSを用いた。Calcd. for C39H39N7O4OsPF6 1006.2 [M+PF6], Found 1006.0
【0127】
工程(15)(N-tert-ブトキシカルボニル-2-アミノ-3-(4’-メチル-2,2’-ビピリジン-4-イル)プロパン酸メチルエステル) ビス(2,2’-ビピリジン) オスミウム-(II) (以下単に、Boc-TbpOs(II)-OMeという。) の合成
cis-ジクロロビス(2,2’-ビピリジン)オスミウム(II) (185 mg, 0.323 mmol) 及び N-tert-ブトキシカルボニル-2-アミノ-3-(4’-メチル-2,2’-ビピリジン-4-イル)プロパン酸 メチルエステル(120 mg 0.323 mmol) をAr下脱気済みのエチレン グリコール (6 ml) を加えて2時間約90℃で撹拌した。撹拌終了後できるだけ溶媒を留去した。精製はイオン交換カラムクロマトグラフィー(0.01-1 M NH4Cl 水溶液 ステップグラジェント 目的物は 0.1 M で溶出)により行った。純度確認は HPLC を用いて行った。化合物の確認は MALDI TOF-MS を用いた。Calcd. for C40H41N7O4Os 875.0 [M-2PF6], Found 874.4。
【0128】
工程(16)(2-アミノ-3-(4’-メチル-2,2’-ビピリジン-4-イル)プロパン酸メチルエステル) ビス(2,2’-ビピリジン) オスミウム-(II) (以下単に、H2N-TbpOs(II)-OMeという。) の合成
(N-tert-ブトキシカルボニル-2-アミノ-3-(4’-メチル-2,2’-ビピリジン-4-イル)プロパン酸メチルエステル) ビス(2,2’-ビピリジン) オスミウム-(II) (50 mg, 0.0421 mmol) に TFA (2ml) を加えて2時間撹拌した。撹拌停止後、 ジエチルエーテルに反応溶液を分散して緑色沈殿を得た。収量は 52.9 mg、 定量的に得られた。純度確認は HPLC によって行った。
【0129】
工程(17)H2N-TbpRu(II)-F1-OH 及び H2N-TbpRu(II)-F1F2-OHの合成
【0130】
【化26】

【0131】
【化27】

【0132】
合成はFmoc固相合成法により行った。樹脂はWang 樹脂(100 mg, 0.065 mmol,Nova biochem社製)を用いた。通常のアミノ酸の縮合には、 Fmoc アミノ酸 (0.20 mmol) 縮合剤; PyBop (0.20 mmol)、 除剤; HOBt (0.20 mmol)、 塩基; DIEA (0.59 mmol) を 蒸留 DMF に溶解して45分樹脂と懸濁させてアミノ酸をカップリングさせた。撹拌終了後、 蒸留 DMF により樹脂を洗浄し、 20% ピペリジン / DMF 溶液で樹脂を 5 分 及び 20 分 の計 2 回懸濁撹拌し脱 Fmoc 反応を行った。この後、 蒸留 DMF により樹脂を洗浄した。このサイクルを続けていき長鎖ペプチドの合成を行った。Boc-TbpRu(II)-OH は Boc-TbpRu(II)-OH (150 mg, 0.20 mmol) 縮合剤; HATU (0.20 mmol)、 除剤; HOAt (0.20 mmol)、 塩基; DIEA (0.59 mmol) を 蒸留 DMF に溶解して24時間、樹脂と懸濁撹拌させてカップリングを行った。樹脂からの切り出し及び側鎖脱保護は TFA / H2O / EDT / TIS (92.5:2.5:2.5:2.5) の混合溶液中で 2時間 撹拌して行った。撹拌終了後、溶液を ジエチルエーテルに分散して粗ペプチド の沈殿を得た。これを、 H2O に溶解して凍結乾燥して租生成物を得た。このとき、 粉末には多量の TFA 及び H2O が含まれていると考えられるので収量については測定を行わなかった。この合成で用いたアミノ酸は Fmoc-Arg(Pbf)-OH、 Fmoc-Asn(Trt)-OH、 Fmoc-Asp(tBu)-OH、 Fmoc-Cys(Trt)-OH、 Fmoc-His(Trt)-OH、 Fmoc-Ile-OH、 Fmoc-Glu(tBu)-OH、 Fmoc-Gly-OH、 Fmoc-Leu-OH、 Fmoc-Lys(Boc)-OH、 Fmoc-Phe-OH、 Fmoc-Pro-OH、 Fmoc-Ser(tBu)-OH、 Fmoc-Thr(tBu)-OH、 Fmoc-Tyr(tBu)-OH(ノババイオケム社又はペプチド研究所いずれかから購入)、 化合物の精製は RP-HPLC によって行った。精製後の純度確認は HPLC によって行った。目的物の確認は MALDI TOF-MSを用いた。H2N-TbpRu(II)-F1-OH については Calcd. For C145H213N51O36S2Ru 3410.5 [M-2PF6], Found 3409.9, H2N-TbpRu(II)-F1F2-OH については Calcd. For C283H432N102O75S4Ru 6689.1 [M-2PF6], Found 6690.6。
【0133】
Fmoc-F1(全て保護された)-OHの合成(F1は配列番号4で表わされる配列CRICGRNFSRSDDLTRHIRTHTGEKPYG)
H−Gly−2−ClTrt 樹脂200 mg(0.180 mmol)を電子天秤で計り取った。DMF 3.0 ml をArフラッシュしながら加え、十分な時間撹拌して樹脂を膨潤させた。Fmocアミノ酸を3等量、HOBtを3等量(73.0 mg)サンプル管に計り取り、DMF 3.0 mlを加えて完全に溶かした。これにDIC 84.4μlを加えてから樹脂と混ぜ合わせ、その後90分間撹拌した。反応終了後、DMF 3.0 ml をArフラッシュしながら加え、1分間撹拌して樹脂を洗浄した。これを5回行なった。20% ピペリジン / DMF 3.0 mlを加えて5分間撹拌。続いて20% ピペリジン / DMF 3.0 mlを加えて20分間撹拌した。脱Fmoc終了後、DMF 3.0 ml をArフラッシュしながら加え、一分間撹拌して樹脂を洗浄した。これを5回行なった。10残基目までこの手順を繰り返し、それ以降はPyBOP 3等量、HOBt 3等量、DIEA 8等量で行なった。
おおよそ4分の1の樹脂を分け取り、最後に3 mlの TFA:EDT:Water:TIS=90:4:4:2で脱樹脂及び脱保護を行なった。確認はRP-HPLC、MALDI-TOF MSで行なった。
工程(18)Fmoc-CRICGRNFSRSDDLTRHIRTHTGEKPYG(全て保護された)-TbpOs(II)-OMe の合成(配列番号4)
上記Fmoc-F1(全て保護された)-OH (10 mg, 1.53 μmol), TFA・TbpOs(II)-OMe (18.0 mg, 15.3 μmol)、 HATU (1.75 mg, 4.59 μmol)、 HOAt (0.63 mg, 4.59 μmol) を蒸留 DMF に溶解した。ここに DIEA (5.3 μl、30.6 μmol)を氷冷下ゆっくり加えた。これを、一晩撹拌してHPLC によりモニタリングし反応終了を確認した。溶媒を留去してクロロホルムに溶解し、H2O により洗浄を行った。ついで、クロロホルムを留去した。これ以上の精製と確認はここでは行わなかった。
【0134】
工程(19)H2N-F1(全て保護された)-TbpOs(II)-OMe の合成(F1は配列番号4で表わされる配列CRICGRNFSRSDDLTRHIRTHTGEKPYG)
前記(18)で合成した Fmoc-CRICGRNFSRSDDLTRHIRTHTGEKPYG(全て保護された)-TbpOs(II)-OMe に 20% ピペリジン / DMF 溶液で1時間撹拌した。この溶液を ジエチルエーテル中に分散し沈殿を得た。この沈殿はこのまま次の反応に用いた。
【0135】
工程(20)H2N-F1-TbpOs(II)-OMe の合成
【0136】
【化28】

【0137】
前記(19)の H2N-F1(全て保護された)-TbpOs(II)-OMe をTFA / H2O / EDT / TIS (92.5 : 2.5 : 2.5 :2.5) の混合溶液中で 2時間 撹拌した。この溶液を ジエチルエーテル中に分散し沈殿を得た。沈殿を H2O に溶解して凍結乾燥を行い、 緑色粉末を得た。純度確認は HPLCによって行った。確認は MALDI TOF-MS によって行った。Calcd. For C171H250N56O43OsS2 4031.8 [M-2PF6], found 4029.2。
【0138】
Fmoc-F1-SC2H4COOC2H5の合成(F1は配列番号4で表わされる配列CRICGRNFSRSDDLTRHIRTHTGEKPYG)
Fmoc-F1−OH(全て保護された)をAr置換したシュレンクに移し、PyBOPを1.1等量、HOBtを1.1等量入れた。3 mlのDCMを加え、溶解する最少量のDMFを混ぜた。完全に溶けているのを確認し、氷水で冷やしながら、3-メルカプトプロピオン酸エチルエステル(HSCH2CH2COOCH2CH3)を2等量滴下。最後にゆっくりとDIEAを3等量加えて10時間撹拌した。RP-HPLCで反応が進んでいるのを確認した後、一晩真空乾燥。DCMに溶かし、水で5回洗浄の後、真空乾燥。最後に3 mlの TFA:EDT:水:TIS=90:4:4:2を加えて3時間以上撹拌して脱保護を行なった。確認はRP-HPLC、MALDI-TOF MSで行なった。
工程(21)Fmoc-F1F1-TbpOs(II)-OMe の合成
【0139】
【化29】

【0140】
前記Fmoc-CRICGRNFSRSDDLTRHIRTHTGEKPYG-SC2H4COOC2H5(5.0 mg, 1.38 μmol)、 H2N-F1-TbpOs(II)-OMe (6.0 mg, 1.38 μmol) に Ar 下脱気した6 M グアニジン 塩酸、 4% v/v チオフェノール、 4% v/v ベンジル メルカプタン、 0.1 M リン酸 バッファー (1.49 ml) をカヌラーで加えた。室温で撹拌しながら HPLC でモニタリングし一晩で反応終了を確認した。Ar 下で溶液を ジエチルエーテルにより洗浄し脱気した 1M AcOH 水溶液 を適量 pH 試験紙で確認しながら加え溶液を pH 5付近にする。Sep-pack により脱塩を行い溶媒を留去した。精製は HPLC によって行った。純度確認は HPLC によって行った。確認は MALDI TOF-MS によって行った。Calcd. For 7505 [M-2PF6], Found 7502.8。
【0141】
工程(22)H2N-F1-TbpOs(II)-Gly-OH の合成
合成は Boc 固相合成法により行った。樹脂は Pam 樹脂(100 mg, 0.075 mmol) を用いた。Boc-TbpRu(II)-OH の縮合は Boc-TbpRu(II)-OH (258 mg, 0.20 mmol)、 縮合剤; HATU (0.20 mmol)、 除剤; HOAt (0.20 mmol)、塩基; DIEA (0.59 mmol) を 蒸留 DMF / NMP (1 : 1) に溶解して24時間樹脂と懸濁撹拌させてカップリングを行った。次いで、 Gly をカップリングするが、この前後に Z(2-Cl)-Osu (85.1 mg, 0.30 mmol)、 縮合剤; HBTU (0.30 mmol)、 除剤; HOBt (0.30 mmol)、 塩基; DIEA (0.68 mmol) を DMF / NMP (1 : 1) に溶解して 30 分 懸濁撹拌しキャッピングを行った。通常のアミノ酸の縮合には、 Boc アミノ酸 (0.30 mmol) 縮合剤; HBTU (0.30 mmol)、 除剤; HOBt (0.20 mmol)、 塩基; DIEA (0.68 mmol) を 蒸留 DMF / NMP (1:1) に溶解して 45 分 樹脂と懸濁させてアミノ酸をカップリングさせた。撹拌終了後、 蒸留 DMF により樹脂を洗浄し、 ニート TFA で樹脂を 2 分 及び 5 分 の計 2 回懸濁撹拌し脱 Boc 反応を行った。この後、 蒸留 DCM 及び蒸留 DMF / NMP (1:1) により樹脂を洗浄した。このサイクルを続けていき長鎖ペプチドの合成を行った。樹脂からの切り出し及び側鎖脱保護は TFA / TFMSA / EDT / m-クレゾール / チオアニソール (20:3.33:1:1.25:1) の混合溶液中で 2時間 40 ℃ で撹拌して行った。撹拌終了後、 溶液を ジエチルエーテルに分散して粗ペプチド の沈殿を得た。これを、 H2O に溶解して凍結乾燥して租生成物を得た。このとき、粉末には多量の TFA 及び H2O が含まれていると考えられるので収量については測定を行わなかった。精製は HPLC によって行い、純度確認にも HPLC を用いた。確認には MALDI TOF-MS を用いた。Calcd. For C145H213N51O36 OsS2 3497 [M-2PF6], found 3497.28。
以上の工程により本発明の機能性原子団含有ポリペプチド化合物H2N-TbpRu(II)-F1F2-OH及びFmoc-F1F1-TbpOs(II)-OMeを製造した。
【0142】
(定量)
以下の工程において、ルテニウムトリスビピリジン錯体、又はオスミウムトリスビピリジン錯体を含む本発明の機能性原子団含有ポリペプチド化合物の定量は、ルテニウムトリスビピリジン錯体 を含むペプチドの場合、ルテニウムトリスビピリジン錯体の455 nm でのモル吸光係数 (ε:14,200 dm3 cm-1 mol-1) が一定であることを用いた。一方、オスミウムトリスビピリジン錯体を含む本発明の機能性原子団含有ポリペプチド化合物の場合 484 nm の吸収 (14,100 dm3 cm-1 mol-1) を用いた。
【0143】
(B)ジンクフィンガーモチーフ形成(Zn錯形成)
H2N-TbpRu(II)-F1-OH及びFmoc-F1F1-TbpOs(II)-OMeを用いてジンクフィンガーモチーフ形成(Zn錯形成)確認したことを示す。
(B−1)H2N-TbpRu(II)-F1-OHについて
H2N-TbpRu(II)-F1-OH がZn2+ と複合体を形成していることをMALDI TOF-MSにより確認した。10 mM HEPESバッファー,0.1M NaCl, H2N-TbpRu(II)-F1-OH / Zn2+ 115 μmol,pH 7.5の条件で測定した。その結果、複合体を形成していることが明らかとなった。
Calcd. For C145H213N49NaO36RuS2Zn 874.5 [M-2PF6+Na]4+, found 874.25
次に、Cys2His2 型のαへリックスを形成しているか確認した。
次に、Zn2+を滴定し、構造変化をCDスペクトルでモニターすることによりCys2His2 型のαへリックスを形成しているか確認した。アポの状態でもαへリックス性を有しZn2+を添加するほどαへリックス性が向上することが分かった。
(B−2)Fmoc-F1F1-TbpOs(II)-OMeについて
Fmoc-F1F1-TbpOs(II)-OMe がZn2+ と複合体を形成していることをESI TOF-MSにより確認した。25 mM HEPES,0.1 M NaCl,21.9 μM Fmoc-F1F1-TbpOs(II)-OMe,65.7 μM ZnSO4,pH 7.5の条件で測定した。その結果、複合体を形成していることが明らかとなった。
Calcd. For C322H477N105O86S4OsZn2 1277.33 [M-2PF6+Na+H] found
【0144】
(C)DNAとの結合性
(C−1)
DNAストックソリューション調製及び定量は、吸光度測定により行った。
例えば、配列番号8及び9で表わされる2重鎖F1F1DNAの場合について以下に示す。
配列番号8及び9で表わされる2重鎖F1F1DNA の認識側、 及び非認識側をそれぞれ H2O (100 μl) に溶解した。これを 1 μl とり 200 μl にメスアップした。この溶液を 1 mm セル に入れ UV-vis. スペクトルを測定した。それぞれ、 260 nm での吸光度は F1F1DNA 認識側: 0.05687, F1F1DNA 非認識側: 0.0616 となった。260 nm における吸光係数はF1F1DNA 認識側: A16C6G14T14, 584,600 (dm3 cm-1 mol-1)、 F1F1DNA 非認識側: A14C14G6T16, 537,400 (dm3 cm-1 mol-1) となる。よってそれぞれの DNA 溶液の濃度は 0.973 μM, 1.15 μM となるので元のストックソリューションの濃度は0.195 mM, 0.229 mM と決定した。
【0145】
(C−2)DNAのアニーリング(二重らせん鎖形成)
ゲルシフトアッセイに先だって、DNA の必要量はゲルシフトアッセイにおいては 66 μlの溶液中に 1 本鎖 DNA が 5 μg 程度存在すればよい。これに基づき、 定量で濃度の決定した、配列番号8及び9で表わされる2重鎖 F1F1DNA 認識側 のストックソルーション 1.65 μl とF1F1DNA 非認識側 のストックソルーション 1.40 μl を混合し(配列番号8及び9のDNA各々は、日本遺伝子研究所から入手)、 HO で 60 μl にメスアップした。10 xアニーリングバッファー(70mM Tris-HCl pH 7.5、200mM NaCl、70mM MgCl2、1mM EDTA) 6μl を加えて、90℃ 15分間、加熱し、その後ゆっくり室温まで放冷してアニーリングを行った。二本鎖化したオリゴヌクレオチド(10pmol)を10xキナーゼバッファー(500 mM Tris-HCl pH8.0、100 mM MgCl2、50 mM DTT)中、T4ポリヌクレオチドキナーゼを用いて[γ−32P] ATP (〜3000 Ci/mmol、10μCi/μl)により32Pで標識し、標識DNAとして以下のゲルシフトアッセイに用いた。
【0146】
(C−3)ゲルシフトアッセイ
図5及び6を参照して、本発明の機能性原子団含有ポリペプチド化合物の2重鎖DNA結合能Kdの評価を示す。
図5は、H2N-TbpRu(II)-F1F2-OH の電気泳動図を示し、DNA は標的配列(GGGGCG)を有する、配列番号6及び7で表わされる2重鎖F1F2DNA を用いた。
図6は、Fmoc-F1F1-TbpOs(II)-OMeの電気泳動図を示し、DNA は標的配列(GCGGCG)を有する、配列番号8及び9で表わされる2重鎖F1F1DNA を用いた。
以下に、結合能の評価手順をH2N-TbpRu(II)-F1F2-OH を例にして示すが、Fmoc-F1F1-TbpOs(II)-OMeについても濃度を0〜18nMにした以外は同様にして行った。
凍結乾燥しておいたH2N-TbpRu(II)-F1F2-OH をTFA 0.05% 入りの H2O に溶解して0.11mM溶液を得た。上記0.11mM溶液を元に H2N-TbpRu(II)-F1F2-OH が 0〜13 nM の濃度になるように配列番号6及び7で表わされる2重鎖F1F2DNAとの混合し、バインディングのため室温で静置した。
このバインディングの際の溶液条件は、10 mM Tris-HCl, 50 mM NaCl, 0.1 mM ZnSO4, 1 mM DTT, 5% グリセロール, 0.05% NP-40, <20 pM DNA (300 cpm), pH 8.0であった。
89 mM Tris-HCl, 89 mM ホウ酸、12%ポリアクリルアミドゲル、 pH 8.0の泳動溶液条件で230 V で約2時間電気泳動を行った。
【0147】
(C−3−1)H2N-TbpRu(II)-F1F2-OHについて
図4に示す電気泳動図からH2N-TbpRu(II)-F1F2-OH と配列番号6及び7で表わされる2重鎖F1F2DNA との解離定数は 3.6 nMであった。この実験結果により、ルテニウムトリスビピリジン錯体 をもたない F1F2 の解離定数 9.5 nM (不記載) と比較して同等の結合能を持っていることが明らかになった。
(C−3−2)Fmoc-F1F1-TbpOs(II)-OMeについて
図5に示す示す電気泳動図からFmoc-F1F1-TbpOs(II)-OMe と配列番号8及び9で表わされる2重鎖F1F1DNA との解離定数は 13.5 nMであった。この実験結果により、F1F2 の解離定数と同等であることが明らかになった。
【0148】
(D)本発明のナノ素子の製造(本発明の機能性原子団含有ポリペプチド化合物の電子移動性)
(D−1)Boc-TbpRu(II)-OH 及びBoc-TbpOs(II)-OH の蛍光スペクトル測定
本発明のナノ素子の蛍光スペクトル測定に先立って、蛍光スペクトル取得の確認、励起波長決定のため、Boc-TbpRu(II)-OH 及びBoc-TbpOs(II)-OH の蛍光スペクトル測定を行った。
Boc-TbpRu(II)-OH 及びBoc-TbpOs(II)-OH をそれぞれ適当量 1 mM HEPESバッファー、0.1 M NaCl、pH 7.5のバッファーに溶解し、吸光度を測定し445 nm、484 nm の吸光度が 0.1 になるように1 mM HEPES、0.1 M NaCl、pH 7.5 のバッファーで希釈した(何れの溶液も 3.6 μM)。この溶液を5mmセルに入れて、蛍光スペクトルを測定した。なお、蛍光スペクトルの測定に際して、溶液を Ar にてバブリングし脱気を行った。以後の蛍光スペクトルを測定する全てのサンプルは、同様にArバブリングし脱気を行ったものであり、励起波長は 435 nm である。
【0149】
この励起波長(435 nm)は、図8に示した紫外可視吸光スペクトルから得られたBoc-TbpRu(II)-OH と Boc−TbpOs(II)-OH の等吸収点を用いている。図8に示した紫外可視吸光の測定溶媒は、1mM HEPES、0.1M NaCl,pH 7.5であり、前述と同様の装置を用いて測定した。
【0150】
図7は、Boc-TbpRu(II)-OH、Boc-TbpOs(II)-OH 等量混合溶液の蛍光スペクトルを測定結果を示す。図7から明らかなように、Boc-TbpRu(II)-OH 由来の発光が著しく減少することはなく、 Boc-TbpOs(II)-OH へのエネルギー移動は生じていなかった。
【0151】
(D−2)DNAのアニーリング(二重らせん鎖形成)
凍結乾燥状態の、配列番号10で表わされるDNA 認識側配列及び配列番号11で表わされるDNA 非認識側配列をそれぞれ H2O 100 μl に溶解する(配列番号10及び11のDNA各々は、日本遺伝子研究所から入手)。この溶液 1 μl を H2O で 200 μl にそれぞれメスアップして 1 mmセルで 可視吸光スペクトルを測定した。それぞれ 260 nm での吸光度は0.06223、0.05603 となった。配列番号10で表わされるDNA 認識側配列は A14C6G17T13 なので 260 nm における吸光係数は 580,100 (dm3 cm-1 mol-1), 一方同様に配列番号11で表わされるDNA 非認識側配列は A13C17G6T14 なので 525,700(dm3 cm-1 mol-1) となる。よって、測定した溶液に濃度は, DNA 認識側0.973 μM、 DNA 非認識側1.07 μM となった。元のストックソリューションの濃度は 200 倍の濃度なので、DNA 認識側0.215 mM、 DNA 非認識側0.213 mM という計算結果となった。
ここで,、蛍光測定で必要な溶液の濃度は本研究の系では 1 cmセルで吸光度が 0.1 程度になる濃度であることがわかっている。この場合、濃度は 7.2 μM となる。蛍光測定の際は 5 mmセルを用いて測定するので測定の最低必要量は 250 μl である。よって DNA の必要量は 0.90 nmol となる。よって必要量の DNA のアニーリングは以下の条件で行った。DNA 認識側のストックソリューション 4.18 μl、DNA 非認識側のストックソリューション 4.22 μl、H2O 51.6 μl を混合し、10 x アニーリング(sequence)バッファー (70mM Tris-HCl pH 7.5、200mM NaCl、70mM MgCl2、1mM EDTA)6 μl を加えた。この溶液を90℃15分加熱し、ゆっくりと室温まで放冷し、調製した。
【0152】
(D−3)本発明のナノ素子の蛍光スペクトルの測定。
図9は、本発明のH2N-TbpRu(II)-F1F2-OH / Fmoc-F1F1-TbpOs(II)-OMe / Zn2+ / 配列番号10及び11で表わされる2重鎖DNA の蛍光スペクトルの測定結果を示している。
図9中、比較のため、H2N-TbpRu(II)-F1F2-OH / Zn2+ / 配列番号10及び11で表わされる2重鎖DNAの蛍光スペクトル、Fmoc-F1F1-TbpOs(II)-OMe / Zn2+ / 配列番号10及び11で表わされる2重鎖DNA の蛍光スペクトル、H2N-TbpRu(II)-F1F2-OH / Fmoc-F1F1-TbpOs(II)-OMe / Zn2+ の蛍光スペクトルも同時に示した。
【0153】
それぞれの操作を以下(a)〜(d)に示す。
(a)H2N-TbpRu(II)-F1F2-OH / Zn2+ / 配列番号10及び11で表わされる2重鎖DNAの蛍光スペクトルの測定操作
凍結乾燥したH2N-TbpRu(II)-F1F2-OH (0.5 mg) をグローブボックス中で1 mM HEPES, 0.1 M NaCl, pH 7.5 のバッファー 400 μl に溶解した。この溶液より 10 μl とり 1 mM HEPES, 0.1 M NaCl, pH 7.5 のバッファー を用いて 200 μl にメスアップし 1mm セル を用いて吸光度を測定した。455 nm の吸収を用いて定量を行い、元のストックソリューション中のH2N-TbpRu(II)-F1F2-OH の濃度が 50.6 μM であることがわかった。ZF 1ユニットに対して3当量のZn2+ 、SH一つに対して 25当量の DTT がこのストックソルーションに存在するように加えた。この結果、最終的なストックソリューションの濃度は、49.1μMと計算した。濃度依存性チェックの結果、蛍光測定の際、機能性原子団含有ペプチドの濃度は、3.6μM で問題が無いことわかったので、測定に必要なストックソリューションの量は、18.2μlという事になり、これを1 mM HEPES, 0.1 M NaCl, pH 7.5 のバッファー 179.9μl で希釈し、アニーリングした DNA 溶液 66μlと混合し室温で 30分静置し、DNA と ZF を結合させた後、蛍光スペクトルを測定した。
【0154】
(b)Fmoc-F1F1-TbpOs(II)-OMe / Zn2+ / 配列番号10及び11で表わされる2重鎖DNA の蛍光スペクトルの測定操作。
ゲル電気泳動の際に調製した元のストックソリューションをここでの蛍光測定でも使用した。このストックソリューションの濃度は219 μM である。このストックソリューションから 3.6 μM の濃度の測定溶液を調製した。ストックソリューション4.1 μl, 1mM HEPES,0.1MNaCl,pH 7.5のバッファー179.1 μl,アニーリング済みの DNA 溶液 66 μl を混合すると濃度は 3.6 μM となる。この溶液を 30 分 室温で静置して、 蛍光スペクトルを測定した。
【0155】
(c)H2N-TbpRu(II)-F1F2-OH / Fmoc-F1F1-TbpOs(II)-OMe / Zn2+ の蛍光スペクトルの測定操作。
両方のペプチドの濃度が各々 3.6 μM になるように測定溶液を調製した。H2N-TbpRu(II)-F1F2-OH のストックソリューション18.2 μl, Fmoc-F1F1-TbpOs(II)-OMe のストックソリューション 18.2 μl, 1 mM HEPES, 0.1 M NaCl, pH 7.5 の バッファー 227.7 μl を混合すると濃度は 3.6 μM となる。この溶液を測定した。
【0156】
(d)H2N-TbpRu(II)-F1F2-OH / Fmoc-F1F1-TbpOs(II)-OMe / Zn2+ /配列番号10及び11で表わされる2重鎖DNA の蛍光スペクトルの測定操作。
両方のペプチドの濃度が各々 3.6 μM になるように測定溶液を調製した。H2N-TbpRu(II)-F1F2-OH のストックソリューション18.2 μl, Fmoc-F1F1-TbpOs(II)-OMe のストックソリューション 18.2 μl、 1 mM HEPES, 0.1 M NaCl, pH 7.5 の バッファー 161.7 μl,DNA 溶液 66 μl を混合すると濃度は 3.6 μM となった。この溶液を 30分室温で静置して、蛍光スペクトルを測定した。
【0157】
図9から明らかなように、蛍光スペクトルの測定において発光強度がH2N-TbpRu(II)-F1F2-OH / Fmoc-F1F1-TbpOs(II)-OMe / Zn2+ / 配列番号10及び11で表わされる2重鎖DNAの系では H2N-TbpRu(II)-F1F2-OH / Fmoc-F1F1-TbpOs(II)-OMe / Zn2+ の系と比較すると著しく低下している。したがって、エネルギー移動が起こっていることが分かった。
さらに、前述の蛍光エネルギー移動の原理によれば、ルテニウムトリスビピリジン錯体 と オスミウムトリスビピリジン錯体 が近接した位置に配置されているからエネルギー移動が起こっているのであって、エネルギー移動が観測できること自体がルテニウムトリスビピリジン錯体とオスミウムトリスビピリジン錯体とを定位できたことを示している。
図3(配列番号10)から明らかなようにF1F2 が5’-GGGGCG-3’ に、F1F1が5’-GCGGCG-3’に3塩基対(10Å)という近接した間隔に結合することにより、本発明のナノ素子が製造できたことがわかった。
【0158】
実施例2
本発明の[Pt(bpy)]2+錯体含有ポリペプチド化合物の製造
Tris−HClバッファー中、実施例1と同様な固相合成法により得られた、配列番号28で表わされるF2−CPLCと、[Pt(bpy)(H2O)2](NO3)2水溶液を滴下し撹拌して、[Pt(bpy)(F2(Zn)−CPLC)]を得た後、上記得られた[Pt(bpy)(F2(Zn)−CPLC)]と前記Fmoc-CRICGRNFSRSDDLTRHIRTHTGEKPYG-SC2H4COOC2H5から実施例1の工程(21)と同様な化学連結反応によるポリペプチド部分の延長し、下記式の機能性原子団含有ポリペプチド化合物を製造した。精製は HPLC によって行った。純度確認は HPLC によって行った。確認は MALDI TOF-MS によって行った。
【0159】
【化30】

【0160】
上記得られた[Pt(bpy)]2+錯体含有ポリペプチド化合物について、実施例1と同様なゲルシフトアッセイにより2重鎖DNA結合能Kdを評価した結果、配列番号6及び7で表わされる2重鎖DNAに(F1F2が5’-GGGGCG-3’に)Kd102nMで結合した。
一方、[Pt(bpy)]2+錯体・CPLC複合体についてCD分光計を用いて試験したところ、2重鎖DNA折曲げることが判明した。このことから、本発明の上記の[Pt(bpy)]2+錯体含有ポリペプチド化合物も2重鎖DNA折曲げることが十分予期される。
【図面の簡単な説明】
【0161】
【図1】図1は、ZFモチーフとDNAの認識相互作用の1例を示す概略図である。
【図2】図2は、ZFの認識部位の配列とDNAの塩基配列の相関性を示す図である。
【図3】図3は、ドナーH2N-TbpRu(II)-F1F2-OH 及びアクセプターFmoc-F1F1-TbpOs(II)-OMe を定位させた場合の位置関係を示す概略図である。
【図4】図4は、2重鎖DNAを用いたナノワイヤの概略図である。
【図5】図5は、H2N-TbpRu(II)-F1F2-OH の標的配列を有する2重鎖DNAに対する親和性Kdを測定した電気泳動図を示す図である。
【図6】図6は、Fmoc-F1F1-TbpOs(II)-OMe の標的配列を有する2重鎖DNAに対する親和性Kdを測定した電気泳動図を示す図である。
【図7】図7は、Boc-TbpRu(II)-OH、Boc-TbpOs(II)-OH 等量混合溶液の蛍光スペクトルである。
【図8】図8は、Boc-TbpRu(II)-OH、Boc-TbpOs(II)-OH の紫外可視吸光スペクトルである。
【図9】図9は、本発明のH2N-TbpRu(II)-F1F2-OH、Fmoc-F1F1-TbpOs(II)-OMe、Zn2+、配列番号10及び11で表わされる2重鎖DNA の蛍光スペクトル、比較のためのH2N-TbpRu(II)-F1F2-OH、Fmoc-F1F1-TbpOs(II)-OMe及びZn2+ の系 の蛍光スペクトル、比較例のFmoc-F1F1-TbpOs(II)-OMe、Zn2+ 、配列番号10及び11で表わされる2重鎖DNA の系の蛍光スペクトル、及びH2N-TbpRu(II)-F1F2-OH、Zn2+ 、配列番号10及び11で表わされる2重鎖DNAの系の蛍光スペクトルを示す図である。
【符号の説明】
【0162】
1 2重鎖DNA
2 色素

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2重鎖DNAの特定の標的塩基配列に特異的に結合するジンクフィンガーモチーフと機能性原子団とを含有するポリペプチド化合物2個以上を、各々に対応する標的塩基配列を有する2重鎖DNA上に自律凝集により近接させて配列・定位させる工程を含む、機能性原子団を所望の位置及び順序で配列したナノ素子の製造方法。
【請求項2】
機能性原子団含有前記ポリペプチド化合物が、一般式Z−Rfuで表わされる、請求項1記載のナノ素子製造方法。
一般式Z−Rfu
(式中、Zは、2重鎖DNAの特定の標的塩基配列には結合するが、それ以外の塩基配列には結合しないジンクフィンガーモチーフを含むポリペプチド成分を表わし、Rfuは機能性原子団成分を表わす。)
【請求項3】
前記ポリペプチド化合物に含まれる機能性原子団2個以上を、それらの中の最近接の原子団の距離が、該機能性原子団の接触する位置から0〜100Åの距離になるように配列することを特徴とする、請求項1又は2記載のナノ素子の製造方法。
【請求項4】
機能性原子団Rfuを含有する前記ポリペプチド化合物が少なくとも2種以上の機能性原子団含有ポリペプチド化合物である、請求項1〜3いずれか1項記載のナノ素子の製造方法。
【請求項5】
機能性原子団Rfuが、前記ポリペプチド成分ZのC末端、C末端を有するアミノ酸残基の側鎖、N末端、N末端を有するアミノ酸残基の側鎖又は両末端以外のアミノ酸残基の側鎖に結合していることを特徴とする、請求項2〜4いずれか1項記載のナノ素子製造方法。
【請求項6】
機能性原子団Rfuが側鎖に結合している前記アミノ酸残基がアラニン残基であり、前記アラニン残基の側鎖の炭素原子と、前記機能性原子団Rfuとが結合していることを特徴とする、請求項5記載のナノ素子製造方法。
【請求項7】
前記一般式Z−Rfuが、下記一般式1で表わされる、請求項6記載のナノ素子製造方法。
一般式1
【化1】

(式中、Rは水素原子、tert−ブトキシカルボニル、(9−フルオレニル)メトキシカルボニル、又は前記標的塩基配列に結合するCys2-His2型ジンクフィンガーモチーフを含むポリペプチドであり、Rは、水酸基、アルコキシ基、又は前記標的塩基配列に結合するCys2-His2型ジンクフィンガーモチーフを含むポリペプチドであり、Rは、水素原子又はアルキル基であり、MはRun+、Osn+、Fen+又はCon+(いずれもnは1〜3の数を示す。)である。ただし、R、Rの少なくとも一方は、前記標的塩基配列に結合するCys2-His2型ジンクフィンガーモチーフを含むポリペプチドである。)
【請求項8】
前記2個以上の機能性原子団含有ポリペプチド化合物が、前記一般式1中、MがRun+又はOsn+(いずれもnは1〜3の数を示す。)である、請求項7記載のナノ素子製造方法。
【請求項9】
前記ポリペプチド成分Zの前記アミノ酸残基がシステイン残基であり、前記システイン残基の側鎖の硫黄原子と、前記機能性原子団Rfuとが配位結合を介して結合していることを特徴とする、請求項5記載のナノ素子製造方法。
【請求項10】
前記一般式Z−Rfuが、下記一般式2で表わされる、請求項5記載のナノ素子製造方法。
一般式2
【化2】

(式中、AAはアミノ酸であり、nは1から20までの整数である。M1は、Ptn+、Cdn+、Hgn+、 Agn+、 Fen+、 Nin+、 Con+又は Znn+(nは1〜3の整数を示す)である。また、L1,L2はM1に配位する配位子を表わし、L1およびL2が配位原子団の一部であってもよい。Rは水素原子、tert−ブトキシカルボニル、(9−フルオレニル)メトキシカルボニル、グリシン、又は前記標的塩基配列に結合するCys2-His2型のジンクフィンガーのモチーフを含むポリペプチドであり、Rは、水酸基、アルコキシ基、グリシン、又は前記標的塩基配列に結合するCys2-His2型のジンクフィンガーのモチーフを含むポリペプチドである。ただし、R、Rの少なくとも一方は、前記標的塩基配列に結合するCys2-His2型のジンクフィンガーモチーフを含むポリペプチドである。)
【請求項11】
前記一般式Z−Rfuが、下記一般式3で表わされる、請求項5記載のナノ素子製造方法。
一般式3
【化3】

(式中、Rは水素原子、tert−ブトキシカルボニル、(9−フルオレニル)メトキシカルボニル、グリシン、又は前記標的塩基配列に結合するCys2-His2型のジンクフィンガーのモチーフを含むポリペプチドであり、Rは、水酸基、アルコキシ基、グリシン、又は前記標的塩基配列に結合するCys2-His2型のジンクフィンガーのモチーフを含むポリペプチドである。ただし、R、Rの少なくとも一方は、前記標的塩基配列に結合するCys2-His2型のジンクフィンガーモチーフを含むポリペプチドである。)
【請求項12】
前記機能性原子団Rfuが結合している前記アミノ酸残基に、ペプチド結合を介して隣接するアミノ酸残基が、1又は2のグリシン残基であることを特徴とする請求項5〜11いずれか1項記載のナノ素子製造方法。
【請求項13】
前記ポリペプチド成分Zが、下記(a)又は(b)に示すポリペプチドである、請求項5〜12記載のナノ素子製造方法。
(a)配列表の配列番号1に示すアミノ酸配列を有するポリペプチド
(b)配列表の配列番号1に示すアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列を有し、かつ前記標的塩基配列に結合するCys2-His2型ジンクフィンガーモチーフを含むポリペプチド
【請求項14】
が、下記(a)又は(b)に示すポリペプチドである、請求項8記載のナノ素子製造方法。
(a)配列表の配列番号1に示すアミノ酸配列を有するポリペプチド
(b)配列表の配列番号1に示すアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列を有し、かつ前記標的塩基配列に結合するCys2-His2型ジンクフィンガーモチーフを含むポリペプチド
【請求項15】
前記ポリペプチドが、下記(c)又は(d)に示すポリペプチドである、請求項5〜12記載のナノ素子製造方法。
(c)配列表の配列番号2に示すアミノ酸配列を有するポリペプチド
(d)配列表の配列番号2に示すアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列を有し、かつ前記標的塩基配列に結合するCys2-His2型ジンクフィンガーモチーフを含むポリペプチド
【請求項16】
が、下記(c)又は(d)に示すポリペプチドである、請求項8記載のナノ素子製造方法。
(c)配列表の配列番号2に示すアミノ酸配列を有するポリペプチド
(d)配列表の配列番号2に示すアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列を有し、かつ前記標的塩基配列に結合するCys2-His2型ジンクフィンガーモチーフを含むポリペプチド
【請求項17】
前記ポリペプチド成分Zが、N末端からC末端に配置された少なくとも1つのジンクフィンガーモチーフを含むことを特徴とする請求項5〜12のいずれか一項に記載のナノ素子製造方法。
【請求項18】
上記の各々のジンクフィンガーモチーフが一般的一次構造である。
【化4】

を有し、式中、X(Xa、XbおよびXcを含む)は任意のアミノ酸であることを特徴とする、請求項17に記載のナノ素子製造方法。
【請求項19】
上記XaがF/Y−XまたはP−F/Y−Xであることを特徴とする請求項18に記載のナノ素子製造方法。
【請求項20】
上記X2-4がS−X、E−X、K−X、T−X、P−X、R−Xのいずれかから選択されることを特徴とする請求項18または19に記載のナノ素子製造方法。
【請求項21】
上記XbがTまたはIであることを特徴とする請求項18〜20のいずれかに記載のナノ素子製造方法。
【請求項22】
上記X2-3がG−K−A、G−K−C、G−K−S、G−K−G、M−R−N、M−Rであることを特徴とする請求項18〜21のいずれかに記載のナノ素子製造方法。
【請求項23】
上記の各々のジンクフィンガーモチーフが、Zif268のフィンガー2であるか、または1もしくは数個のアミノ酸を欠失、置換もしくは付加したアミノ酸配列を有することを特徴とする請求項18に記載のナノ素子製造方法。
【請求項24】
2個以上の前記機能性原子団含有ポリペプチド化合物の配列が、2重鎖DNAの剛直性を利用して構造性に優れることを特徴とする、請求項1〜23いずれか1項記載のナノ素子製造方法。
【請求項25】
前記2重鎖DNAが、直線状DNA、十字型DNA、又はスリップドDNAであることを特徴とする請求項1〜24いずれか1項記載のナノ素子製造方法。
【請求項26】
請求項1〜25いずれか1項記載のナノ素子製造方法によって得られたナノ素子を組合せて得られた構築物。



【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図1】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−14644(P2006−14644A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−195071(P2004−195071)
【出願日】平成16年6月30日(2004.6.30)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 東京理科大学大学院理学研究科、「平成15年度理学研究科修士研究発表会講演要旨集」、平成16年2月13日発行。 東京理科大学主催、「平成15年度理学研究科修士研究発表会」、平成16年2月20〜21日開催(平成16年2月20日発表)。
【出願人】(000125370)学校法人東京理科大学 (27)
【Fターム(参考)】