説明

モノオレフィン性不飽和化合物の水素化方法

【課題】簡単で経済的なモノオレフィン性不飽和化合物の水素化方法を提供する。
【解決手段】本発明は、ニトリル基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、およびカルボキサミド基からなる群から互いに独立に選択される少なくとも2個の官能基を有するモノオレフィン性不飽和化合物を、反応混合物に対して均一なロジウム含有化合物を触媒として存在させて、上記官能基と同一の少なくとも2個の官能基を有する飽和化合物に水素化する方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニトリル基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、およびカルボキサミド基からなる群から互いに独立に選択された少なくとも2個の官能基を有するモノオレフィン性不飽和化合物を、反応混合物に対して均一なロジウム含有化合物を触媒として存在させて、上記官能基と同一の少なくとも2個の官能基を有する飽和化合物に水素化する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニトリル基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、およびカルボキサミド基からなる群から互いに独立に選択された2個の官能基を有する多くの飽和化合物は、工業的にきわめて重要である。例えば、アジピン酸またはその誘導体は、ナイロン−6またはナイロン−6,6のような工業的に重要なポリマーを製造するための重要な出発物質である。
【0003】
このような化合物は、例えば、上述の少なくとも2個の官能基を有するモノオレフィン性不飽和化合物を製造するために必要な官能基を有する2分子の末端オレフィンを付加することによって製造することができる。
【0004】
例えば、ヘキセン二酸ジエステルは、例えば、“J.Organomet.Chem.1987,320,C56”、US4451665号公報、FR2524341号公報、US4889949号公報、“Organometallics,1986,5,1752”、“J.Mol.Catal.1993,85,149”、US4594447号公報、“Angew.Chem.Int.Ed.Engl.,1988,27.185”、US3013066号公報、US4638084号公報、EP−A−475386号公報、“JACS 1991,113,2777−2779”、“JACS 1994,116,8038−8060”に記載されているように、適当な触媒組成物の存在下でアクリル酸エステルを付加することによって製造することができる。
【0005】
このような少なくとも2個の官能基を有するモノオレフィン性不飽和化合物を製造するために必要な官能基を有する2分子の末端オレフィンの付加において、ニトリル基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、およびカルボキサミド基からなる群から互いに独立に選択された少なくとも2個の官能基を有するモノオレフィン性不飽和化合物が得られる。
【0006】
【特許文献1】US4451665号公報
【特許文献2】FR2524341号公報
【特許文献3】US4889949号公報
【特許文献4】US4594447号公報
【特許文献5】US3013066号公報
【特許文献6】US4638084号公報
【特許文献7】EP−A−475386号公報
【非特許文献1】J.Organomet.Chem.1987,320,C56
【非特許文献2】Organometallics,1986,5,1752
【非特許文献3】J.Mol.Catal.1993,85,149
【非特許文献4】Angew.Chem.Int.Ed.Engl.,1988,27.185
【非特許文献5】JACS 1991,113,2777−2779
【非特許文献6】JACS 1994,116,8038−8060
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、技術的に簡単で経済的な方法により、ニトリル基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、およびカルボキサミド基からなる群から互いに独立に選択された少なくとも2個の官能基を有するモノオレフィン性不飽和化合物から上記官能基と同一の少なくとも2個の官能基を有する飽和化合物へと水素化できる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは、上述の目的が、ニトリル基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、およびカルボキサミド基からなる群から互いに独立に選択された少なくとも2個の官能基を有するモノオレフィン性不飽和化合物を、反応混合物に対して均一なロジウム含有化合物を触媒として存在させて、上記官能基と同一の少なくとも2個の官能基を有する飽和化合物に水素化する方法によって達成されることを発見した。
【0009】
本発明に関する限り、触媒として表わされる構造は、触媒として使用される化合物を指している。特別な反応条件下において触媒的に活性な化学種の構造は、表記された構造とは異なることもありうるが、これもまた表記された“触媒”に含まれる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明により、ニトリル基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、およびカルボキサミド基からなる群から互いに独立に選択された少なくとも2個の官能基を有するモノオレフィン性不飽和化合物が水素化される。
【0011】
好ましい形態では、ニトリル基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、およびカルボキサミド基からなる群から互いに独立に選択された少なくとも2個の官能基を有するモノオレフィン性不飽和化合物として有用な化合物は、少なくとも2個の官能基を有するモノオレフィン性不飽和化合物を製造するために必要な官能基を有する2分子の末端オレフィンを付加することによって得ることができる化合物である。
【0012】
使用される2分子の末端オレフィンは、それぞれ同一でも異なっていてもよいが、同一であるのが好ましく、互いに独立に式H2C=CHR1(式中、R1がニトリル基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、またはカルボキサミド基を表わし、好ましくはカルボン酸エステル基またはニトリル基を表わす。)で表わされるオレフィンであることができる。
【0013】
カルボン酸エステル基の場合には、好ましい化合物として、脂肪族、芳香族、または複素芳香族のアルコール、特に脂肪族のアルコールのエステルが挙げられる。使用可能な脂肪族アルコールとしては、C1−C10−アルカノール、特にC1−C4−アルカノール、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、n−プロパノール、n−ブタノール、i−ブタノール、s−ブタノール、t−ブタノールが好ましく、中でもメタノールが好ましい。
【0014】
カルボキサミド基は、N−置換基であっても、N,N−置換基であってもよく、N,N−置換は同一であっても異なっていてもよいが、同一であるのが好ましい。有用な置換基としては、脂肪族、芳香族または複素芳香族の置換基、特に脂肪族の置換基が好ましく、より好ましくはC1−C4−アルキル基、例えばメチル、エチル、i−プロピル、n−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、s−ブチル、t−ブチルであり、特に好ましくはメチルである。
【0015】
好ましい形態において、使用される官能基を有する末端オレフィンは、アクリル酸またはそのエステルであることができる。例えば不均一触媒の存在下でのプロペンまたはプロパンの気相酸化によるアクリル酸の製造、および、例えばp−トルエンスルホン酸のような均一触媒の存在下でのアクリル酸の適当なアルコールでのエステル化によるアクリル酸エステルの製造については、製造自体は公知である。
【0016】
アクリル酸が貯蔵されまたは処理される場合には、例えばアクリル酸の重合または分解を防止したり減速化させるp−メトキシフェノール、または4−ヒドロキシ−2,2,4,4−ピペリジンN−オキシド(“4−ヒドロキシ−TEMPO”)のような安定化剤を1種以上添加するのが一般的である。
【0017】
このような安定化剤は、アクリル酸またはそのエステルを付加工程で使用する前に、部分的にまたは完全に除去することができる。安定化剤は、蒸留、抽出、または結晶化のようなそれ自体は公知の方法で除去することができる。
【0018】
このような安定化剤は、事前に使用された量のまま、アクリル酸中に残留させることもできる。
【0019】
異なるオレフィンが使用される場合には、付加の結果、典型的には、想定される異なる付加生成物の混合物が得られる。
【0020】
1種のオレフィンが使用される場合には、付加はこの場合には典型的には二量化と言われるが、1種の付加生成物が得られる。経済的な理由から、この形態の方が通常好ましい。
【0021】
好ましい形態では、ニトリル基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、およびカルボキサミド基からなる群から互いに独立に選択された少なくとも2個の官能基を有するモノオレフィン性不飽和化合物は、水素化によりアジピン酸ジエステルを与えるヘキセン二酸ジエステル、特にアジピン酸ジメチルを与えるヘキセン二酸ジメチルである。アジピン酸は、アジピン酸ジエステル、特にアジピン酸ジメチルから、エステル基の開裂により得ることができる。このためには、エステルを開裂するための公知の方法が有用である。
【0022】
さらに好ましい形態では、ニトリル基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、およびカルボキサミド基からなる群から互いに独立に選択された少なくとも2個の官能基を有するモノオレフィン性不飽和化合物は、水素化によりアジポジニトリルを与えるブテンジニトリルである。
【0023】
さらに好ましい形態では、ニトリル基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、およびカルボキサミド基からなる群から互いに独立に選択された少なくとも2個の官能基を有するモノオレフィン性不飽和化合物は、水素化により5−シアノバレリアン酸エステルを与える5−シアノペンテン酸エステルである。特に、5−シアノバレリアン酸メチルを与える5−シアノペンテン酸メチルである。
【0024】
上述した2分子の末端オレフィンの付加は、例えば、“J.Organomet.Chem.1987,320,C56”、US4451665号公報、FR2524341号公報、US4889949号公報、“Organometallics,1986,5,1752”、“J.Mol.Catal.1993,85,149”、US4594447号公報、“Angew.Chem.Int.Ed.Engl.,1988,27.185”、US3013066号公報、US4638084号公報、EP−A−475386号公報、“JACS 1991,113,2777−2779”、“JACS 1994,116,8038−8060”に記載されているような、方法自体は公知の方法によって実施することができる。
【0025】
この付加は、反応混合物に対して均一でかつロジウム、ルテニウム、パラジウムまたはニッケル、好ましくはロジウムを含む化合物を触媒として存在させて、好ましく実施することができる。
【0026】
好ましくは、付加、特に二量化は、本発明の付加によって得られたモノオレフィン性不飽和化合物の水素化方法において触媒として使用されるロジウム含有化合物と同一の化合物の存在下で実施することができる。
【0027】
特に好ましい形態において、上述のオレフィンの付加、特に二量化において触媒として使用された均一なロジウム含有化合物を除去または減少させることなく、本発明の付加によって得られたモノオレフィン性不飽和化合物の水素化方法を実施することができる。
【0028】
この方法は、先行技術と比較して極めて有利である。というのは、上述の付加反応において得られた反応流出物の精製が不必要だからである。特に好ましい形態では、付加反応、特に二量化反応において得られた反応流出物を、精製工程を経ることなく、本発明の水素化に移すことができる。
【0029】
この工程は、例えば、付加反応において得られた反応流出物を付加装置から水素化のための別の装置に移送することによって、すなわち、付加反応と水素化との空間的な分離により実施することができる。例えば、付加反応は攪拌槽のような反応器、攪拌タンクバッテリーのようなタンクバッテリー、または流通管、または水素化に適した別の反応器とこれらの反応器の1種を組み合わせて実施することができる。
【0030】
この工程は、例えば付加反応と水素化を同一の装置内で連続的に実施することによって、すなわち付加反応と水素化との時間的な分離により実施することができる。
【0031】
本発明の水素化を、反応混合物に対して均一でありかつ式
[L1RhL23R]+-
(式中、L1が、アニオン性ペンタハプト配位子、好ましくはペンタメチルシクロペンタジエニルを表わし、
2が、非電荷の2電子ドナーを表わし、
3が、非電荷の2電子ドナーを表わし、
Rが、H、C1−C10−アルキル、C6−C10−アリール、およびC7−C10−アリールアルキル配位子からなる群から選択された基を表わし、
-が、非配位アニオン、好ましくは、BF4-、B(ペルフルオロフェニル)4-、B(3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル)4-、Al(ORF4-(式中、RFは同一のまたは異なるペルフルオロ脂肪族基またはペルフルオロ芳香族基、特にペルフルオロイソプロピルまたはペルフルオロ−t−ブチルを表わす。)からなる群から選択される非配位アニオンを表わし、
2、L3およびRのうちの2個または3個が結合していてもよい。)、
で表わされるロジウム含有化合物を触媒として存在させて実施するのが好ましい。
【0032】
好ましい形態において、L2およびL3が、互いに独立に、C24、CH2=CHCO2Me、P(OMe)3、およびMeO2C−(C46)−CO2Meからなる群から選択される基を表わすことができる。
【0033】
別の好ましい形態では、L2およびL3が互いに結合していてもよい。この場合には、L2およびL3が合体して特にアクリロニトリルまたは5−シアノペンテン酸エステルを表わすことができる。
【0034】
また別の好ましい形態では、L2およびRが互いに結合していてもよい。この場合には、L2およびRが合体して特に−CH2−CH2CO2Meを表わすことができる。
【0035】
さらに別の好ましい形態では、L2、L3およびRが互いに結合していてもよい。この場合には、L2、L3およびRが合体して特にMeO2C(CH22−(CH)−(CH2)CO2Meを表わすことができる。
【0036】
特に好ましい形態では、水素化は、反応混合物に対して均一でありかつ
[Cp*Rh(C242H]+BF4-
[Cp*Rh(P(OMe)3)(CH2=CHCO2Me)(Me)]+BF4-
[Cp*Rh(−CH2−CH2CO2Me)(P(OMe)3)]+BF4-
[Cp*Rh(MeO2C(CH22−(CH)−(CH2)CO2Me)]+BF4-
[Cp*Rh(C242H]+B(3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル)4-
[Cp*Rh(P(OMe)3)(CH2=CHCO2Me)(Me)]+B(3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル)4-
[Cp*Rh(−CH2−CH2CO2Me)(P(OMe)3)]+B(3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル)4-
[Cp*Rh(MeO2C(CH22−(CH)−(CH2)CO2Me)]+B(3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル)4-
[Cp*Rh(C242H]+B(ペルフルオロフェニル)4-
[Cp*Rh(P(OMe)3)(CH2=CHCO2Me)(Me)]+B(ペルフルオロフェニル)4-
[Cp*Rh(−CH2−CH2CO2Me)(P(OMe)3)]+B(ペルフルオロフェニル)4-
[Cp*Rh(MeO2C(CH22−(CH)−(CH2)CO2Me)]+B(ペルフルオロフェニル)4-
[Cp*Rh(C242H]+Al(ORF4-
[Cp*Rh(P(OMe)3)(CH2=CHCO2Me)(Me)]+Al(ORF4-
[Cp*Rh(−CH2−CH2CO2Me)(P(OMe)3)]+Al(ORF4-、および、
[Cp*Rh(MeO2C(CH22−(CH)−(CH2)CO2Me)]+Al(ORF4-
(式中、RFは同一のまたは異なるペルフルオロ脂肪族基またはペルフルオロ芳香族基、特にペルフルオロイソプロピルまたはペルフルオロ−t−ブチルを表わす。)、
からなる群から選択されたロジウム含有化合物を触媒として存在させて実施することができる。
【0037】
このような触媒およびその製造方法は、例えば、EP−A−475386号公報、“JACS 1991,113,2777−2779”、“JACS 1994,116,8038−8060”に記載されているような、方法自体は公知の方法によって実施することができる。
【0038】
本発明の水素化は、0.1〜200barの範囲の水素分圧下で好ましく実施することができる。水素化において、ニトリル基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、およびカルボキサミド基からなる群から互いに独立に選択された少なくとも2個の官能基を有するモノオレフィン性不飽和化合物の平均滞留時間は、0.1〜100時間の範囲が好ましいことがわかっている。さらに、水素化のための有用な温度は、好ましくは30〜160℃の温度である。
【0039】
本発明の方法の有利な効果は、ニトリル基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、およびカルボキサミド基からなる群から互いに独立に選択された少なくとも2個の官能基を有するモノオレフィン性不飽和化合物の少なくとも5%が、上記官能基と同一の少なくとも2個の官能基を有する飽和化合物に水素化されたときに、特に明らかになる。
【実施例】
【0040】
Cp*は、ペンタメチルシクロペンタジエニルアニオン=C5(CH35アニオンを表わし、BArF4は、テトラキス[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ホウ酸イオン=B(C63(CF324アニオンを表わす。
【0041】
実験は、再精製された乾燥アルゴンの雰囲気下で、標準的なシュレンク法によって行った。塩化メチレンは、P25上で乾燥し、アクリル酸メチル(アルドリッチ社製、メトキシフェノールで安定化)は、4Aモレキュラーシーブ上で貯蔵し、それ以上処理せずに使用した。Cp*Rh(C242錯体は、[Cp*RhCl22から出発して、K.Moseley、J.W.Kang、およびP.M.Maitlisによる“J.Chem.Soc.(A)1970,2875−2883”に記載されている方法により製造した。出発物質の[Cp*RhCl22は、B.L.Booth、R.N.Hazeldine、およびM.Hillによる“J.Chem.Soc.(A)1969,1299−1303”に記載されている方法により製造した。
【0042】
触媒を活性化するために必要な酸であるHBArF4は、M.Brookhart、B.Grant、A.F.Volpeによる“Organometallics 1992,11,3920−3922”に記載されている方法により製造した。この明細書において、HBArF4はテトラキス[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ホウ酸のビスエーテルを表わす。
【0043】
反応流出物は、GC(装置:Hewlett Packard 5820;カラム:HP−5;長さ:30m;直径:0.25mm;膜厚:1.0μm)により分析し、生成物の構造はGC−MS分析により予め解析した。全てのデータは面積%で表わしている。
【0044】
例1
EP475386の例14と同様な方法により、まず適当な反応容器中で20mg(0.068mmol)のCp*Rh(C242を40mLのアクリル酸メチルと混合し、次いで0℃で、10mLのジクロロメタンに酸のHBArF4(Rhに対して化学量論の量)を溶解した溶液と混合した。混合物を55℃に加熱し、所定の時間が経過した後、GCの分析のためのサンプルを採取した(表1参照)。
【0045】
水素を添加しなかったところ、反応が2時間後にはもう停止した。22時間後に、水素供給源への水素ラインを開放して、保護雰囲気ガスを水素(1bar)に交換し、その後は必要なだけ水素を流通させた。次いで、二量化の進行が観測された(24時間)。この時間まで、アジピン酸ジメチルは観測されなかった。90時間後、直鎖状二量体エステルはほとんど完全にアジピン酸ジメチルに水素化された。この時間に、さらに40mLのアクリル酸メチルを添加した。この添加の直後(時間=90時間)に採取されたサンプルにより、反応流出物がアクリル酸メチルで希釈されたことが確認できた。さらに2時間後、式MeOOC−(n−C46)−COOMeで表わされる不飽和二量体生成物が再び観測できた。
【0046】
100%に不足している部分は、塩化メチレンおよび少量のプロピオン酸メチル、分枝状の二量体および三量体であった。
【0047】
この実施例から、触媒が水素化の後でさえ、アクリル酸メチルの二量化に関して依然として活性であることが確認された。
【0048】
【表1】

【0049】
最初から水素ラインを開放して操作を行った比較実験の結果、水素供給なしでの実験段階は不必要であることがわかった。
【0050】
例2
例1と同様に、適当な反応容器中で60mg(0.204mmol)のCp*Rh(C242を120mLのアクリル酸メチルと混合し、次いで室温で、酸のHBArF4(Rhに対して化学量論の量)と混合した。重合阻害剤として500ppmのフェノチアジンを混合物に添加した。混合物を80℃に加熱し、水素圧1barの条件下で、スパージャー型攪拌器で攪拌した。53時間後、水素圧を1barから5barに上昇させた。所定の時間後、GCの分析のためのサンプルを採取した(表2参照)。
【0051】
100%に不足している部分は、プロピオン酸メチルと少量の分枝状の二量体および三量体であった。
【0052】
この実施例から、溶媒なしでも他の重合阻害剤(この実施例ではフェノチアジン)の存在下で反応を80℃で実施することができることがわかった。
【0053】
【表2】

【0054】
実施例3
例1と同様に、適当な反応容器中で60mg(0.204mmol)のCp*Rh(C242を120mLのアクリル酸メチルと混合し、次いで室温で、酸のHBArF4(Rhに対して化学量論の量)と混合した。混合物を80℃に加熱し、水素圧1barの条件下で、スパージャー型攪拌器で攪拌した。所定の時間後、GCの分析のためのサンプルを採取した(表3参照)。
【0055】
100%に不足している部分は、プロピオン酸メチルと少量の分枝状の二量体および三量体であった。
【0056】
この実施例から、重合阻害剤なしでも反応を80℃で実施することができることがわかった。
【0057】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニトリル基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、およびカルボキサミド基からなる群から互いに独立に選択された少なくとも2個の官能基を有するモノオレフィン性不飽和化合物を、反応混合物に対して均一なロジウム含有化合物を触媒として存在させて、前記官能基と同一の少なくとも2個の官能基を有する飽和化合物に水素化する方法。
【請求項2】
使用されるモノオレフィン性不飽和化合物が、少なくとも2個の官能基を有するモノオレフィン性不飽和化合物を製造するために必要な官能基を有する2分子の末端オレフィンを付加させることによって得ることができる化合物であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
使用される2分子の末端オレフィンが、互いに独立に式H2C=CHR1(式中、R1がニトリル基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、またはカルボキサミド基を表わす。)で表わされるオレフィンであることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
付加を反応混合物に対して均一でかつロジウム、ルテニウム、パラジウムまたはニッケルを含む化合物を触媒として存在させて実施することを特徴とする、請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
付加を反応混合物に対して均一でかつロジウムを含む化合物を触媒として存在させて実施することを特徴とする、請求項2または3に記載の方法。
【請求項6】
前記ロジウム含有化合物と同一の化合物を付加反応において触媒として使用することを特徴とする、請求項1または5に記載の方法。
【請求項7】
ニトリル基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、およびカルボキサミド基からなる群から互いに独立に選択された少なくとも2個の官能基を有するモノオレフィン性不飽和化合物が、水素化においてアジピン酸ジエステルを与えるヘキセン二酸ジエステルであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
ニトリル基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、およびカルボキサミド基からなる群から互いに独立に選択された少なくとも2個の官能基を有するモノオレフィン性不飽和化合物が、水素化においてアジポジニトリルを与えるブテンジニトリルであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
ニトリル基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、およびカルボキサミド基からなる群から互いに独立に選択された少なくとも2個の官能基を有するモノオレフィン性不飽和化合物が、水素化において5−シアノバレリアン酸エステルを与える5−シアノペンテン酸エステルであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
水素化を、反応混合物に対して均一でありかつ式
[L1RhL23R]+-
(式中、L1が、アニオン性ペンタハプト配位子を表わし、
2が、非電荷の2電子ドナーを表わし、
3が、非電荷の2電子ドナーを表わし、
Rが、H、C1−C10−アルキル、C6−C10−アリール、およびC7−C10−アリールアルキル配位子からなる群から選択される基を表わし、
-が、非配位アニオンを表わし、
2、L3およびRのうちの2個または3個が結合していてもよい。)、
で表わされるロジウム含有化合物を触媒として存在させて実施することを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
1が、ペンタメチルシクロペンタジエニルを表わすことを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
-が、BF4-、B(ペルフルオロフェニル)4-、B(3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル)4-、Al(ORF4-(式中、RFは同一のまたは異なるペルフルオロ脂肪族基またはペルフルオロ芳香族基を表わす。)からなる群から選択された基を表わすことを特徴とする、請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
2およびL3が、互いに独立に、C24、CH2=CHCO2Me、P(OMe)3、およびMeO2C−(C46)−CO2Meからなる群から選択された基を表わすことを特徴とする、請求項10〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
2およびL3が合体してアクリロニトリルおよび5−シアノペンテン酸エステルからなる群から選択された基を表わすことを特徴とする、請求項10〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
2およびRが合体してCH2−CH2CO2Meを表わすことを特徴とする、請求項10〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
2、L3およびRが合体してMeO2C(CH22−(CH)−(CH2)CO2Meを表わすことを特徴とする、請求項10〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
水素化を、反応混合物に対して均一でありかつ
[Cp*Rh(C242H]+BF4-
[Cp*Rh(P(OMe)3)(CH2=CHCO2Me)(Me)]+BF4-
[Cp*Rh(−CH2−CH2CO2Me)(P(OMe)3)]+BF4-
[Cp*Rh(MeO2C(CH22−(CH)−(CH2)CO2Me)]+BF4-
[Cp*Rh(C242H]+B(3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル)4-
[Cp*Rh(P(OMe)3)(CH2=CHCO2Me)(Me)]+B(3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル)4-
[Cp*Rh(−CH2−CH2CO2Me)(P(OMe)3)]+B(3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル)4-
[Cp*Rh(MeO2C(CH22−(CH)−(CH2)CO2Me)]+B(3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル)4-
[Cp*Rh(C242H]+B(ペルフルオロフェニル)4-
[Cp*Rh(P(OMe)3)(CH2=CHCO2Me)(Me)]+B(ペルフルオロフェニル)4-
[Cp*Rh(−CH2−CH2CO2Me)(P(OMe)3)]+B(ペルフルオロフェニル)4-
[Cp*Rh(MeO2C(CH22−(CH)−(CH2)CO2Me)]+B(ペルフルオロフェニル)4-
[Cp*Rh(C242H]+Al(ORF4-
[Cp*Rh(P(OMe)3)(CH2=CHCO2Me)(Me)]+Al(ORF4-
[Cp*Rh(−CH2−CH2CO2Me)(P(OMe)3)]+Al(ORF4-、および、
[Cp*Rh(MeO2C(CH22−(CH)−(CH2)CO2Me)]+Al(ORF4-
(式中、RFは同一のまたは異なるペルフルオロ脂肪族基またはペルフルオロ芳香族基を表わす。)、
からなる群から選択されたロジウム含有化合物を触媒として存在させて実施することを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項18】
水素化を0.1〜200barの範囲の水素分圧下で実施することを特徴とする、請求項1〜17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
水素化を、ニトリル基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、およびカルボキサミド基からなる群から互いに独立に選択された少なくとも2個の官能基を有するモノオレフィン性不飽和化合物の平均滞留時間が0.1〜100時間である条件下で実施することを特徴とする、請求項1〜18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
水素化を30〜160℃の温度で実施することを特徴とする、請求項1〜19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
ニトリル基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、およびカルボキサミド基からなる群から互いに独立に選択された少なくとも2個の官能基を有するモノオレフィン性不飽和化合物の少なくとも5%が、前記官能基と同一の少なくとも2個の官能基を有する飽和化合物に水素化されることを特徴とする、請求項1〜20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
末端オレフィンの付加において得られた混合物を、触媒として使用されたロジウム含有化合物を除去しないで、請求項1〜21のいずれか1項に記載の水素化に供給することを特徴とする、請求項5に記載の方法。

【公表番号】特表2006−524205(P2006−524205A)
【公表日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−505206(P2006−505206)
【出願日】平成16年4月21日(2004.4.21)
【国際出願番号】PCT/EP2004/004205
【国際公開番号】WO2004/094360
【国際公開日】平成16年11月4日(2004.11.4)
【出願人】(595123069)ビーエーエスエフ アクチェンゲゼルシャフト (847)
【氏名又は名称原語表記】BASF Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】