説明

モノニトロ化法とその製造反応装置

【課題】無触媒条件下、芳香族類からモノニトロ化合物を短時間、連続的にエネルギー消費量、廃棄物量を低減しつつ、高収率・高選択率で、危険性を回避して、安全に合成する方法、その反応組成物及びマイクロ反応装置を提供する。
【解決手段】温度10〜100℃、圧力0.1〜40MPaの高圧水を反応溶媒として使用し、常圧水又は高圧水の大きな比熱による冷却効果、及びマイクロ反応システムにおけるマイクロ反応空間による、大きなS/V比に由来する効率的な冷却により、急激な発熱、更には爆発を回避しつつ、モノノニトロ化合物を無触媒条件で、エネルギー消費量、廃棄物量を低減しつつ、高収率、高選択率、高速・連続的、かつ安全に合成するモノニトロ化合物の製造方法、その反応組成物、及びその装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モノニトロ化法とその製造反応装置に関するものであり、更に詳しくは、水、酢酸、有機溶媒、それらの混合溶媒を反応溶媒とし、無触媒かつ一段階で、ニトロ化剤と芳香族類から、急激な発熱と、爆発を回避しつつ、安全にモノニトロ化合物を製造する方法及びその製造反応装置に関するものである。
【0002】
本発明は、無触媒で、水を用いるプロセスのみで、ニトロ化剤と芳香族類から、モノニトロ化合物を合成する方法とそのニトロ化合物合成装置を提供するものであり、火薬類、香料、医薬品のみならず、化成品合成にも応用可能であるモノニトロ化合物を、良好な収率で、短時間に、環境に影響を与えることなく、安全に、大量に生産し、提供することを可能とするものである。
【背景技術】
【0003】
従来、芳香族類とニトロ化剤から、求電子的にモノニトロ化合物を合成する方法が、種々報告されている(例えば、非特許文献1参照)。ここで、置換ベンゼン類とニトロ化剤から、モノニトロ化合物を求電子的に合成するニトロ化合成技術を完成すれば、芳香族類のモノニトロ化は可能となることから、置換ベンゼン類とニトロ化剤から、モノニトロ化合物を合成する技術の報告例は、非常に多い(図1)。
【0004】
先行文献によれば、ニトロ化剤としては、例えば、硝酸、硝酸−グラファイト、硝酸―硫酸、硝酸−りん酸、硝酸―酢酸、硝酸−過塩素酸、硝酸−フッ化水素、硝酸−フッ化水素−三塩化ホウ素、硝酸―トリフルオロ酢酸、硝酸−メタンスルホン酸、硝酸―フルオロ硫酸、硝酸―マジック酸、硝酸―固体酸、硝酸―担持酸、一配位金属硝酸塩、硝酸アルキル、硝酸アセトンシアノヒドリン、硝酸アシル、ニトリルハライド、窒素酸化物、硝酸塩、転位硝化試薬、ニトロソ塩等の各種ニトロ化試剤が用いられている(非特許文献1)。
【0005】
硝酸単独でニトロ化を実施可能なプロセスとしては、硝酸のみをニトロ化剤とし、反応媒体を、温度300℃以上、圧力20MPaの高温高圧水とする高温高圧水プロセスが提案されている。このプロセスを開示した先行文献には、多種類の基質のニトロ化を実施し、生成したニトロ置換体の相対比は記載されているものの、防食のためのチタンライニングのステンレス反応管を必要とし、収率等が明確ではない(特許文献1)。
【0006】
一般に、ニトロ化は、発熱反応であり、急激に反応熱を生じるため、冷媒による冷却を伴うプロセスであることが多い。その一方で、発生する反応熱の大部分を利用する断熱反応器も開発されている。例えば、先行文献には、反応熱、混合熱を、ニトロ化や、使用済み酸のフラッシュ蒸留に利用する、カストナー法という断熱ニトロ化プロセスが開示されており(特許文献2)、また、このカストナー法を改良した強力撹拌型の断熱反応器を用いるプロセスが提案されている(特許文献3,4)。
【0007】
また、他の先行文献には、圧力降下を行う多数の隔壁により断熱的にニトロ化を行う、管型断熱ニトロ化反応器も開示されている(特許文献5)。また、他の先行文献には、混合と反応効率を高める反応器も開示されている。例えば、ジェット衝突型反応器(特許文献6)や、反応混合物を分散するための内部構造、例えば、多孔金属板、を内包する反応器が開示されている(特許文献7,8)。
【0008】
更に、他の先行文献には、管型反応器内部に、ねじれた板状部品を、ねじれた板状部品の前端がその前の部品の後端と実質的に直角をなすように、直列に配置した管を内包する反応器も開示されている(特許文献9,10)。
【0009】
上記のように、ニトロ化の場合、冷却、断熱及び混合の問題を解決して、安全性と反応性を向上させることが重要な課題であることから、反応装置は、特殊な装置とならざるを得ない。一方、これまで、常圧水又は高圧水を、反応溶媒とするだけでなく、冷媒として利用するようなニトロ化法や、更には、流通式高圧マイクロ反応装置のマイクロ反応空間における、大きなS/V比に由来する冷却効果を利用するようなニトロ化法については、報告例はない。
【0010】
ここで、ニトロ化剤が、硝酸アシルの場合、主生成物である硝酸アセチルは、他のニトロ化剤とは異なり、オルト体が優先的に得られるという反応性がある一方、ニトロ化反応中の急激な発熱と、爆発の危険性が指摘されている(非特許文献2)。例えば、硝酸―無水酢酸からの硝酸アセチル合成では、硝酸が55wt%から80wt%含有される場合には、高い爆発性が指摘されている(非特許文献3)。
【0011】
この原因として、バッチ型反応器中での硝酸アセチルの調製時及び基質添加時における急激な発熱による温度上昇や、バッチ型反応器中での不均一撹拌によるホットスポットの形成や、更には、時間経過後に生成する、更に爆発性の高いテトラニトロメタンの生成、が推定されている(非特許文献4,5)。
【0012】
これらの危険性の問題から、硝酸アシルをニトロ化剤とするニトロ化反応では、バッチ装置の十分な冷却・撹拌、硝酸アセチルの即時使用等の、危険性を回避する方策を十分に行う必要がある(非特許文献3)。なお、国内外の特許文献では、ニトロ化剤として、硝酸アシルの記載があるものの、実際に、硝酸アセチルにより、ニトロ化を行った実例は、極めて少ないのが実情である(特許文献11,12,13)。
【0013】
ニトロ化におけるニトロ基の配向性に関しては、Cram−Brown−Gibson則が知られている。これは、置換ベンゼン類が電子供与性置換体の場合、オルト体・パラ体が優先的に生成し、電子吸引性置換体の場合、メタ体を優先的に生成することを示唆するものである。
【0014】
この経験則に加えて、ベンゼンに対する相対反応性を組み合わせた、置換ベンゼン類のニトロ化の傾向も報告されている(非特許文献6)。しかし、この場合の配向性は、硝酸−硫酸系をニトロ化剤とする場合であり、一般に、硝酸アシルをニトロ化剤とする場合には、硝酸−硫酸をニトロ化剤とする場合よりも、パラ体よりもオルト体を優先的に与えるとされている(非特許文献3)。
【0015】
通常、触媒・有機溶媒中でのニトロ化では、硝酸アシルをニトロ化剤とすると、使用硝酸量が大量であること(硝酸−無水カルボン酸中の硝酸重量は、55wt%〜80wt%)は、爆発性の危険性を増加させるため、回避される。一方、使用硝酸量が少量である場合、反応後における後処理は、反応混合物に中和剤を添加して中和後、抽出溶媒と水あるいは飽和食塩水を加え、分液し、溶媒層は、その後、乾燥、溶媒除去、蒸留あるいは精留のプロセスを得て目的物を得るが、水層には、水の他に、触媒、有機溶媒、基質、生成物、副生成物、無機物の複雑な混合物が含有される。
【0016】
ここで、水層からの触媒の分離が容易である場合には、回収再生され、再使用されるが、分離が困難である場合には、そのまま廃棄・処分される(図3)。無触媒・高圧水中でのニトロ化のように、水層に、触媒、有機溶媒が含有されず、水、生成物のみが含有される場合は、生成物をデカンテーションだけで分離することが可能である。このことは、水の再生を可能にし、通常法に比べて、環境負荷低減型のプロセスであることを意味する(図4)。
【0017】
このように、従来法では、ニトロ化の場合、特殊な反応場や、触媒及び有機溶媒が必要であるため、製品の品質上、反応後の分離操作において、触媒、あるいは、有機溶媒や触媒の除去が必要であり、分離操作後の水層は、廃棄物となりやすく、廃液の問題を生じる。更に、環境に対する影響や、生体への有害性への配慮から、より高度の分離が要求される。触媒や有機溶媒の、高度の分離に必要なコストやエネルギーは、合成操作と同程度であるとされ、望ましくは触媒と有機溶媒を使用しない方が良い。
【0018】
以上のことから、当該技術分野においては、簡単、低コスト、省エネ、環境負荷低減型の合成プロセスで、分離操作が容易で、かつ高度分離が可能で、触媒や有機溶媒の残存しない、ニトロ化合物の連続的合成を可能とする安全な合成手法の開発が強く要請されていた。
【0019】
【特許文献1】特開2007−145800号公報
【特許文献2】米国特許第2,256,999号明細書
【特許文献3】特公昭61−20534号公報
【特許文献4】特開昭54−32424号公報
【特許文献5】特開2003−160543号公報
【特許文献6】欧州特許第0489211号明細書
【特許文献7】独特許第4410417A1号明細書
【特許文献8】独特許第4411064A1号明細書
【特許文献9】特開平9−2352539号公報
【特許文献10】欧州特許第0779270B1号明細書
【特許文献11】特開2001−19671号公報
【特許文献12】特開平5−255339号公報
【特許文献13】米国特許第6,861,527号明細書
【非特許文献1】A.G.Olah,R.Malhotra,S.C.Narang,Nitration,Methods and Mechanisms,VCH Publishers Inc.,1989,p.1−103
【非特許文献2】R.Andreozzi,R.Marotta,R.Sanchirico,Journal of Hazardous Materials,2002,A90,,p.111−121
【非特許文献3】日本プロセス化学会,プロセスケミストリーの新展開,シーエムシー出版,2003年1月,p.187
【非特許文献4】ギュンター・ホンメル著,新居 六郎訳,ブレスリック著,危険物ハンドブック,シュプリンガー・ジャパン,1996,p.97,p.430
【非特許文献5】Poe Liang,Organic Syntheses,1955,Coll.Vol.3,.803;1941,Vol.21,p.105
【非特許文献6】東郷秀夫,有機反応のしくみと考え方,講談社サイエンティフィック,2007,p.102
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、低コストで、省エネルギーで、かつ環境に優しい簡単な高速合成プロセスで、上記モノニトロ化合物を、連続的かつ選択的に、安全に合成することができる新しいニトロ化合物の合成方法及び合成装置を開発することを目標として鋭意研究を積み重ねた結果、常圧水又は高圧水を反応溶媒とすることで、芳香族類からモノニトロ化合物を、常圧水又は高圧水の大きな比熱による冷却効果、及び流通式高圧マイクロ反応装置におけるマイクロ反応空間による、大きなS/V比に由来する効率的な冷却により、急激な発熱、更には爆発を回避しつつ、安全に、無触媒で、選択的に、モノニトロ化を合成できることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明は、芳香族類からモノニトロ化合物を、無触媒で、短時間の反応条件下で、安全に、連続的に合成する方法及びその反応装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記課題を解決するための本発明は、
(1)ニトロ化剤と芳香族類から合成されたモノニトロ化反応組成物において、触媒及び有機溶媒の残存がないことを特徴とするモノニトロ化組成物。
(2)モノニトロ化合物を合成する方法において、常圧流体又は高圧流体を反応溶媒として使用し、触媒を用いることなく、ニトロ化剤と芳香族類から、これらを含む反応系で、マイクロ反応空間における一段階の合成反応により、モノニトロ化合物を選択的に合成することを特徴とするモノニトロ化合物の製造方法。
(3)ニトロ化剤として、硝酸及び無水カルボン酸から合成した硝酸アシルを使用する、前記(2)記載の方法。
(4)ニトロ化剤として、硝酸、又は酢酸もしくは酢酸誘導体を使用する、前記(2)記載の方法。
(5)流体として、温度5〜250℃、圧力0.1〜40MPaの常圧水又は高圧水を反応溶媒として使用する、前記(2)から(4)のいずれかに記載の方法。
(6)流体として、酢酸、無機溶媒、有機溶媒、又は無機溶媒と有機溶媒の混合溶媒を使用する、前記(2)から(4)のいずれかに記載の方法。
(7)流通式高圧マイクロ反応装置に、基質及び反応溶媒を導入し、反応時間を0.1秒〜10分の範囲で変化させることで、合成反応を実施する、前記(2)から(6)のいずれかに記載の方法。
(8)常圧水又は高圧水の、大きな比熱による冷却効果、及び流通式高圧マイクロ反応装置におけるマイクロ反応空間による、大きなS/V比に由来する効率的な冷却により、急激な発熱と、爆発を回避しつつ、安全にモノニトロ化を実施する、前記(2)から(7)のいずれかに記載の方法。
(9)常圧流体又は高圧流体を反応溶媒として、ニトロ化剤と芳香族類から、これらを含む反応系で、マイクロ反応空間における一段階の合成反応で、モノニトロ化合物を合成する方法に使用する流通式マイクロ反応装置であって、水を送液する水送ポンプと、ニトロ化剤を送液する送液ポンプと、基質を送液する基質送液ポンプとを有し、送液された水、ニトロ化剤、及び/又は基質を混合する混合手段と、これらを加熱する加熱用手段と、反応物を反応容器に導入する反応物導入ラインと、これらを反応させる反応容器と、反応生成物を排出する排出液ライン、冷却フランジ、及び圧力を設定する背圧弁とを、これらの順序で具備していることを特徴とするニトロ化合物合成用流通式マイクロ反応装置。
(10)ニトロ化反応後、回収水溶液に水を注入して、デカンテーションし、油/水二層溶液に分離後、ニトロ化合物を含む油層を分液回収する簡易な連続分離手段を有する、前記(9)に記載のマイクロ反応装置。
【0022】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、ニトロ化剤と芳香族類から合成されたモノニトロ化反応組成物であって、触媒及び有機溶媒の残存がないことを特徴とするものである。また、本発明は、モノニトロ化合物を合成する方法において、常圧流体又は高圧流体を反応溶媒として使用し、触媒を用いることなく、ニトロ化剤と芳香族類から、これらを含む反応系で、マイクロ反応空間における一段階の合成反応により、モノニトロ化合物を選択的に合成することを特徴とするものである。
【0023】
更に、本発明は、常圧流体又は高圧流体を反応溶媒として、ニトロ化剤と芳香族類から、これらを含む反応系で、マイクロ反応空間における一段階の合成反応で、モノニトロ化合物を合成する方法に使用するニトロ化合物合成用流通式マイクロ反応装置であって、水を送液する水送ポンプと、ニトロ化剤を送液する送液ポンプと、基質を送液する基質送液ポンプとを有し、送液された水、ニトロ化剤、及び/又は基質を混合する混合手段と、これらを加熱する加熱用手段と、反応物を反応容器に導入する反応物導入ラインと、これらを反応させる反応容器と、反応生成物を排出する排出液ライン、冷却フランジ、及び圧力を設定する背圧弁とを、これらの順序で具備していることを特徴とするものである。
【0024】
本発明は、硝酸と化1の無水カルボン酸から、化2の硝酸アシルを合成し、化3の芳香族置換体から、化4、化5又は化6のモノニトロ化合物を、触媒無添加、短時間の反応条件下で、選択的かつ連続的に、一段階の反応プロセスで、常圧水又は高圧水の大きな比熱による冷却効果及び流通式高圧マイクロ反応装置におけるマイクロ反応空間による、大きなS/V比に由来する効率的な冷却により、急激な発熱、更には爆発を回避しつつ、安全に、モノニトロ化を実施することを特徴とするものである。
【0025】
本発明では、上記反応溶媒として、常圧流体、あるいは温度5〜250℃、圧力0.1〜40MPaの高圧流体が用いられ、好適には、高圧水が用いられる。また、反応条件は、好適には、温度40℃程度、圧力0.1〜7.5MPa、反応時間1.8秒〜10分程度の範囲に調整される。ここで、化1、化2の式中、Rは、アルキル基又はヘテロ原子を含む置換基、化3、化4、化5、化6の式中Xは、水素又はアルキル基、又はヘテロ原子を含む置換基を表す。
【0026】
【化1】

【0027】
【化2】

【0028】
【化3】

【0029】
【化4】

【0030】
【化5】

【0031】
【化6】

【0032】
本発明においては、上記基質及び反応溶媒を、反応容器に導入して、所定の反応時間で合成反応を実施する。したがって、上記反応器としては、マイクロ反応空間を有する反応器、例えば、バッチ式の常温常圧反応装置、常温高圧反応装置又は高温高圧反応容器、連続型の流通式常温常圧反応装置、流通式常温高圧反応装置、又は流通式高温高圧反応装置、を使用することができる。本発明において、マイクロ反応空間とは、マイクロ反応器における、流体が通過する、単一の領域又は規則的に配列された領域の内部構造がマイクロレンジで規定される特徴的次元を有する反応空間として定義される。
【0033】
本発明の方法では、反応溶媒として、上記常圧又は高圧流体が用いられるが、具体的には、例えば、亜臨界二酸化炭素(常温以上、0.1MPa以上)、亜臨界水(100℃以上、0.1MPa以上)、亜臨界メタノール(100℃以上、0.1MPa以上)、亜臨界エタノール(100℃以上、0.1MPa以上)、超臨界二酸化炭素(34℃以上、7.38MPa以上)、同じ状態の混合溶媒、が例示され、好適には、常圧水又は高圧水(10−100℃、0.1MPa以上)、が用いられる。
【0034】
反応溶媒としては、上記以外の有機溶媒や無機溶媒を任意の割合で含むことができ、具体的には、例えば、有機溶媒として、アセトン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン等を含む反応溶液や、無機溶媒として、酢酸、アンモニア等を含む反応溶液に代替することも可能である。
【0035】
本発明では、上記流体の組成、温度及び圧力条件、基質の種類及びその使用量、反応時間を調整することにより、短時間で、効率良く、安全に、反応生成物を合成することができる。また、本発明では、例えば、基質及び反応溶媒を、流通式高圧マイクロ反応装置に導入し、それらの反応時間を1.8秒〜10分の範囲で変えることにより、所定の反応生成物を合成することができる。上記反応条件は、使用する出発原料、目的とする反応生成物の種類等により適宜設定することができる。
【0036】
本発明の方法では、従来、触媒の存在下で行われていた、硝酸アシルによるモノニトロ化合物の合成を、高速で連続的に、しかも、無触媒で実施できるため、長時間を要するプロセスを、効率的に実施し、しかも、常圧水又は高圧水の大きな比熱による冷却効果、及び流通式高圧マイクロ反応装置におけるマイクロ反応空間による、大きなS/V比に由来する効率的な冷却により、急激な発熱、更には爆発を回避しつつ、安全にモノニトロ化を実施することができる。
【0037】
本発明では、ニトロ化剤として、硝酸及び無水カルボン酸から合成した硝酸アシルを、連続的に反応系に供給すること、ニトロ化剤として、硝酸、又は酢酸もしくは酢酸誘導体を用いること、流体として、温度5〜250℃、圧力0.1〜40MPaの常圧水又は高圧水を反応溶媒として使用すること、流体として、酢酸、無機溶媒、有機溶媒、又は無機溶媒と有機溶媒の混合溶媒を用いること、を好ましい実施の態様としている。
【0038】
また、本発明では、流通式高圧マイクロ反応装置に、基質及び反応溶媒を導入し、反応時間を0.1秒〜10分の範囲で変化させることで、合成反応を実施すること、常圧水又は高圧水の、大きな比熱による冷却効果及び流通式高圧マイクロ反応装置におけるマイクロ反応空間による、大きなS/V比に由来する効率的な冷却により、急激な発熱と、爆発を回避しつつ、安全にモノニトロ化を実施すること、を好ましい実施の態様としている。
【0039】
また、本発明では、上記流通式マイクロ反応装置において、ニトロ化反応後、回収水溶液に水を注入して、デカンテーションし、油/水二層溶液に分離後、ニトロ化合物を含む油層を分液回収する簡易な連続分離手段を有すること、を好ましい実施の態様としている。
【0040】
また、本発明の方法では、従来用いられた触媒を全く使用しないことから、反応後の溶液の中和処理、無害化処理等の後処理や、処分の必要がなく、環境負荷低減を達成することが可能である。更に、反応後は、静置分離操作のみで足りるため、触媒や有機溶媒の分離回収の必要性はなく、生成物の分離が容易である。
【0041】
本発明によれば、触媒無添加で、1.8秒〜10分秒程度の短時間で、モノニトロ化合物の総収率90%以上で行い、対応するモノニトロ化合物を合成可能である。本発明の合成方法は、例えば、香料、医薬品に利用可能な、ニトロ化合物を、効率良く、大量に、高速で、連続的に生産することを可能にするものとして有用である。
【0042】
従来、モノニトロ化合物を、常圧水又は高圧水の大きな比熱による冷却効果、及び流通式高圧マイクロ反応装置におけるマイクロ反応空間による、大きなS/V比に由来する効率的な冷却により、急激な発熱、更には爆発を回避しつつ、安全にモノニトロ化を実施する選択的に合成することを実証した例はない。
【0043】
本発明の対象とするモノニトロ化合物の安全な合成法は、本発明者らによって初めてその有効性が実証されたものであり、しかも、従来法では、モノニトロ化合物は、触媒及び有機溶媒の残存が問題とされていたが、本発明で、芳香族類から合成される反応組成物は、触媒及び有機溶媒の残存がなく、本発明のモノニトロ化合物組成物は、従来製品にない利点を有している。
【0044】
本発明では、硝酸アシルによるモノニトロ化合物の合成を実現するために、硝酸と無水カルボン酸を混合して、硝酸アシルを、その場で生成した後、その硝酸アシルと基質とを混合した溶液を得た後、更に、常温水又は高圧水と混合し、反応を実施する。なお、この場合における反応の観察は、排出後の水溶液を採取し、GC−FIDにより、生成物の純品を用いた検量線から定量を実施し、GC/MSにより定性分析を実施して行われる。また、NMRにより、定量・定性分析を実施する。
【0045】
本発明のマイクロ反応装置について、一例として、図5に示される、流通式高圧マイクロ反応装置と、その動作について詳しく説明する。マイクロ反応器は、混合ティー8、混合ティー9、反応ティー10、混合コイル11、反応コイル12、及び排出配管14から構成され、該マイクロ反応装置を、温度を一定に設定した水浴13に浸し、背圧弁15で圧力を調整する。これらは、マイクロ反応器として機能する所定の構成を有するものであれば良く、その具体的構成は、その実施状況に応じて、任意に設計することができる。その後、送液ポンプ1から無水酢酸、送液ポンプ2から硝酸が送液され、温度センサ5を装着した混合ティー8を通過後、混合コイル11により発熱を抑制しつつ反応を行い、安全に、硝酸アシルを連続的に生成する。
【0046】
この硝酸アシルの流れに対して、基質送液ポンプ3から基質が送液され、温度センサ6を装着した混合ティー9を通過後、反応コイル12で反応が行われる。その後、この混合物の流れは、温度センサ7を装着した反応ティー10で高圧水と混合され、硝酸アシルを加水分解しつつ、水の効果により反応が促進され、排出配管14、背圧弁15を通過後、回収容器16に回収される。本発明は、これらの反応装置に限らず、これらと同効の反応装置であれば、上記装置と同様の手段から構成される装置を適宜設計して使用することができる。
【0047】
本発明は、温度5〜250℃、圧力0.1〜40MPaの常圧水、高圧水、又は混合溶媒を反応溶媒として、触媒無添加で、ニトロ化剤と芳香族類から、モノニトロ化合物を、短時間の反応条件下で、選択的かつ連続的に、一段階の反応プロセスで、常圧水又は高圧水の大きな比熱による冷却効果、及び流通式高圧マイクロ反応装置におけるマイクロ反応空間による、大きなS/V比に由来する効率的な冷却により、急激な発熱、更には爆発を回避しつつ、安全にニトロ化を実施する方法、その反応組成物及び流通式マイクロ反応装置を提供するものである。
【0048】
モノニトロ化は、基質・原料に対して、生成物の機能性向上とともに、付加価値を向上させるため、火薬、爆薬等の火薬類や、香料、医薬品分野において有用である。通常、ニトロ化合物を合成する場合、従来法では、強酸性触媒が必要であり、装置の耐食性の問題、急激な発熱、及び爆発等の安全性の問題、更には製品に残存する触媒の除去の問題等、大きな労力とエネルギーを必要とし、環境に影響を与えるのみならず、生体に有害である等の問題点を有していた。
【0049】
本発明は、例えば、無触媒で、水を用いるプロセスのみで、ニトロ化剤と芳香族類から、モノニトロ化合物を合成する方法、その反応組成物及び流通式マイクロ反応装置を提供するものであり、例えば、火薬類、香料、医薬品のみならず、化成品合成にも応用可能であり、モノニトロ化合物を良好な収率で、短時間に、環境に影響を与えることなく、安全に大量に生産し、提供することを可能にするものとして有用である。
【発明の効果】
【0050】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)芳香族類から、高速で、連続的に、モノニトロ化合物を、爆発等の危険性を回避して、安全に合成することができる。
(2)モノニトロ化合物を、エネルギー消費量、廃棄物量を低減しつつ、高効率で、選択的に合成することができる。
(3)触媒及び有機溶媒を用いないニトロ化合物の合成プロセスを実現できる。
(4)そのため、触媒及び有機溶媒の残存がなく、有害性がなく、安全性の高いモノニトロ化合物組成物を提供することができる。
(5)生成物が水に溶解しない場合には、排出された油水分散水溶液に対して、更に水を注入することで、洗浄しつつ油水二層に分液し、高純度の生成物を容易に回収できる。
(6)火薬類、香料、医薬品として有用な、ニトロ化合物の新しい大量生産プロセスとして、既存の生産プロセスに代替し得る新しい生産技術を提供することができる。
(7)従来法と異なるニトロ基の位置選択性を与えるニトロ化技術を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0051】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0052】
以下に、まず、実施の方法を示した後、具体的な実施例を示す。以下の実施例では、図5の流通式高圧マイクロ反応装置を用いて、無触媒、温度5〜250℃、圧力0.1〜40MPa、滞留時間1.8秒〜10分の条件で、芳香族化合物からモノニトロ化合物の合成を実施した。図5に示されるように、所定の手段から構成される、マイクロ反応器(混合ティー8、混合ティー9、反応ティー10、混合コイル11、反応コイル12、及び排出配管14)を具備した、流通式高圧マイクロ反応装置を用いて、まず、水浴13を、50℃に設定し、混合ティー8、9、反応ティー10を、温度40℃程度、圧力0.1MPaに設定した。その後、純水を、水送液ポンプ4により、流量5.0ml/minで、反応ティー10へ送液した。
【0053】
その後、トルエンを内標準(基質の5mol%)として添加したアニソールを、基質送液ポンプ2より、0.225ml/minで、混合ティー9に送液し、無水酢酸0.681ml/min(3.61モル当量)と硝酸(65wt%)0.138ml/min(1.0モル当量)を、送液ポンプ1及び2より、混合ティー8に送液した。
【0054】
基質送液後、背圧弁15からの生成物を含む黄色水溶液が排出されてから、15分後の水溶液0.5mlを、採取した。混合ティー9の混合位置から、背圧弁出口までの配管内容積を、反応体積として、反応時間を決定した。回収された0.5mlの水溶液に、1.5mlのアセトンを加え、振とうし、組成を、GC/MS分析計(Hewlett Packard社製HP6890、カラム HP−5)で、注入口温度150℃、初期カラム温度60℃(保持時間2分)、昇温速度10℃/分、最終カラム温度250℃(保持時間2分)の条件で、分析した。
【0055】
得られたマススペクトルは、Willey データベースで、一致度90%以上で確認した。また、定量及び市販試薬がある場合の定性分析は、プロピオン酸を内標準として、GC−FID(Agilent社製GC6890、カラムHP―5)で、注入口温度220℃、スプリット比5.61、初期カラム温度50℃(保持時間0.5分)、昇温速度20℃/分、最終カラム温度220℃(保持時間3分)の条件で、実施した。
【0056】
また、得られた生成物水溶液が、油水分散状態で白濁している場合には、水を20ml/minで3分注入し、デカンテ−ションすると、油水2層溶液となり、下(上)層の油層に、モノニトロ化合物を、上(下)層の水相に、水を得た(GCにより確認)。このことは、生成物が水に溶解しない場合、反応終了後の油水分散水溶液に、水を更に注入することで、油水二層に変化して、モノニトロ化合物と酢酸水溶液とを分液することができることを示す。したがって、分離精製に、高度な手法や、膨大なエネルギーを必要とする精留は、必要ないことが分かった。
【0057】
実施例1
フェノール(化1の式中、X=OH)を、1.0モル当量の酢酸に溶解し、内標準として、フェノールの0.05モル当量のプロピオン酸を添加した溶液を、基質送液ポンプ3から、流通式高圧マイクロ反応装置の反応コイルに送液した。
【0058】
フェノール(化3の式中、X=OH)を基質とし、硝酸1.16モル当量、無水酢酸(化1の式中、R=Me)1.2モル当量で、温度40℃、圧力7.5MPa、滞留時間2.5秒(反応コイル12は4cm)でニトロ化反応を行った。その結果、モノニトロフェノール(化4、化6の式中、X=OH)を、オルト体56%、パラ体38%の総収率95%で得た。なお、発熱による温度の上昇は、最大でも2℃程度であった。
【0059】
実施例2
温度センサを挿入した30mlガラスバイヤル(すなわち、バッチ型反応装置)を、電子天秤に載せ、硝酸アセチルによるアニソール(化3の式中、X=OMe)のモノニトロ化を、無溶媒条件及び水溶媒で行った。
【0060】
無水酢酸(化1の式中、R=Me)1.17g(基質の5.7モル当量)を、バイヤルに滴下し、その後、硝酸0.48g(基質の2.2モル当量)をピペットにて1滴ずつ滴下した。温度は、60〜65℃付近まで急激に上昇するため、その都度、温度低下を確認しつつ、硝酸を滴下した。その際、NO生成によるものと思われる褐色の気体が生成していた。
【0061】
その後、アニソール(化3の式中、X=OMe)0.22gを、ピペットにて1滴ずつ滴下した。この場合も、温度は60〜65℃付近まで急激に上昇するため、その都度、温度低下を確認しつつ、アニソールを滴下した。
【0062】
この時点で、反応時間8.5分で、モノニトロアニソール(化4、化6の式中、X=OMe)を、オルト体57%、パラ体31%の総収率88%で得た。温度上昇は、硝酸アセチル生成、ニトロ化ともに、42℃以上であった。この反応混合物に、水4.97gを添加したところ、温度は、23℃に低下し、反応時間7.1分後に、モノニトロアニソール(化4、化6の式中、X=OMe)を、オルト体60%、パラ体30%の総収率90%で得た。
【0063】
実施例3
アニソール(化3の式中、X=OMe)に、内標準として、0.05モル当量のプロピオン酸を添加した溶液を、流通式高圧マイクロ反応装置の反応コイルに、基質送液ポンプ3から送液した。
【0064】
アニソール(化3の式中、X=OMe)を基質とし、硝酸1.1モル当量、無水酢酸(化1の式中、R=Me)1.2モル当量で、温度37℃、圧力7.5MPa、滞留時間2.6秒(反応コイル12は4cm)でニトロ化反応を行ったところ、モノニトロアニソール(化4、化6の式中、X=OMe)を、オルト体0.1%、パラ体0.2%の総収率0.3%で得た。
【0065】
実施例4〜10
アニソール(化3の式中、X=OMe)に対して、硝酸を、過剰モル当量の2.2モル当量とし、無水酢酸(化1の式中、R=Me)は、硝酸アセチル生成相モル当量に硝酸中の水分を除去するために必要な相モル当量以上の5.7モル当量で、温度、圧力、滞留時間、硝酸量の好適な条件を検討した。
【0066】
アニソール(化3の式中、X=OMe)を基質とし、硝酸2.2モル当量、無水酢酸(化1の式中、R=Me)5.7モル当量で、滞留時間31秒(反応コイル12は40cm)、圧力0.1MPaで、温度を5℃〜46℃で、温度依存性を検討した。その結果は、図6のようになり、モノニトロアニソール(化4、化6の式中、X=OMe)を、温度42℃で、オルト体69%、パラ体31%の総収率100%で得た。このことから、42℃を、最も好適な温度とした。なお、発熱による温度の上昇は、最大でも0.5℃程度であった。
【0067】
実施例11〜15
アニソール(化3の式中、X=OMe)を基質とし、硝酸2.2モル当量、無水酢酸(化1の式中、R=Me)5.7モル当量で、滞留時間31秒(反応コイル12は40cm)、温度42℃で、圧力を0.1〜30MPaで、圧力依存性を検討したところ、図7のようになり、圧力依存性は、観察されなかった。したがって、0.1MPaを最も好適な圧力として、モノニトロアニソール(化4、化6の式中、X=OMe)を、オルト体69%、パラ体31%の総収率100%で得た。
【0068】
実施例16〜19
アニソール(化3の式中、X=OMe)を基質とし、硝酸2.2モル当量、無水酢酸(化1の式中、R=Me)5.7モル当量で、温度42℃、圧力0.1MPaで、滞留時間を2.1秒(反応コイル12は4cm)から46秒(反応コイル12は60cm)まで変化させ、滞留時間依存性を検討した。その結果は、図8のようになり、モノニトロアニソール(化4、化6の式中、X=OMe)を、31秒以上の滞留時間で、オルト体69%、パラ体31%の総収率100%で得た。このことから、31秒(反応コイル12はが40cm)を、最も好適な滞留時間とした。
【0069】
実施例20〜25
アニソール(化3の式中、X=OMe)を基質とし、無水酢酸(化1の式中、R=Me)5.7モル当量で、温度42℃、圧力0.1MPa、滞留時間を31秒(反応コイル12が40cm)で、硝酸を1モル当量〜2.5モル当量まで変化させた。その結果は、図9のようになり、モノニトロアニソール(化4、化6の式中、X=OMe)を、硝酸2.2モル当量で、オルト体69%、パラ体31%の総収率100%で得た。このことから、硝酸2.5モル当量を、最も好適な量とした。
【0070】
実施例26〜31
以下では、過剰の硝酸が残存しないように、硝酸を1.0モル当量として、硝酸アセチルの生成に必要な相当量に加えて、硝酸中の水分を除去するために必要な相当量以上を含む無水酢酸の最も好適な量を求めた。
【0071】
アニソール(化3の式中、X=OMe)を基質とし、硝酸1モル当量とし、温度42℃、圧力0.1MPa、滞留時間を34〜87秒(反応コイル12は40cm)で、無水酢酸(化1の式中、R=Me)を、1モル当量〜5.8モル当量まで変化させた。その結果は、図10のようになり、モノニトロアニソール(化4、化6の式中、X=OMe)を、無水酢酸3.61モル当量で、オルト体67.2%、パラ体31.4%の総収率98.6%で得た。また、無水酢酸4.33モル当量では、オルト体67.0%、パラ体32.1%の総収率99.1%で得た。このことから、無水酢酸4.33モル当量を最も好適な量とした。
【0072】
実施例32
トルエン(化3の式中、X=Me)に、内標準として、0.05モル当量のプロピオン酸を添加した溶液を、基質送液ポンプ3から、流通式高圧マイクロ反応装置の反応コイルに送液した。
【0073】
トルエン(化3の式中、X=Me)を基質とし、硝酸1.0モル当量、無水酢酸(化1の式中、R=Me)4.3モル当量で、温度42℃、圧力0.1MPa、滞留時間42秒(反応コイル12は40cm)で行った。その結果、モノニトロトルエン(化4、化5、化6の式中、X=Me)を、オルト体36%、メタ体2%、パラ体23%の総収率61%で得た。
【0074】
実施例33
トルエン(化3の式中、X=Me)を基質とし、硝酸1.0モル当量、無水酢酸(化1の式中、R=Me)4.3モル当量で、温度42℃、圧力0.1MPa、滞留時間5.1分(反応コイル12は40m)で行った。その結果、モノニトロトルエン(化4、化5、化6の式中、X=Me)を、オルト体54%、メタ体3%、パラ体34%の総収率91%で得た。
【0075】
実施例34
アセトアニリド(化3の式中、X=NHAc)を、2.5モル当量の硝酸に溶解し、送液ポンプ(硝酸)2を停止させ、基質送液ポンプ3から、図5の流通式高圧マイクロ反応装置の反応コイルに送液した。
【0076】
アセトアニリド(化3の式中、X=NHAc)を基質とした場合、無水酢酸(化1の式中、R=Me)5.7モル当量で、温度42℃、圧力0.1MPa、滞留時間9.0分(反応コイル12は40m)で行ったところ、モノニトロアセトアニリド(化4、化5の式中、X=Me)を、オルト体78%、メタ体20%の総収率98%で得た。
【0077】
以上の実施例から、常圧水、高圧水、又は混合溶媒を反応溶媒として、ニトロ化剤と芳香族類から、モノニトロ化合物を、触媒無添加で、短時間の反応条件下で、選択的かつ連続的に、一段階の反応プロセスで、常圧水又は高圧水の大きな比熱による冷却効果、及び流通型高圧マイクロ反応装置におけるマイクロ反応空間による、大きなS/V比に由来する効率的な冷却により、急激な発熱、更には爆発を回避しつつ、安全に、ニトロ化を、高収率で実施可能であることが明らかとなった。また、モノニトロ化後、回収水溶液に水を注入して、デカンテーションし、油/水二層溶液に分離後、モノニトロ化合物を含む油層を分液回収する一方、水層からは、水を分離し、回収する簡易な連続分離法も構築できることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0078】
以上詳述したように、本発明は、芳香族類から、有機溶媒を用いることなく、常温水又は高圧水を反応溶媒として、無触媒で、モノニトロ化合物を合成する方法及びその反応装置に係るものである。
【0079】
従来法では、芳香族類からモノニトロ化合物の合成は、無溶媒条件下では、冷却操作又は断熱操作が必要不可欠であり、有機溶媒中の反応では、有機溶媒を除去した環境負荷低減プロセスの実現ができず、有機溶媒に触媒を添加した数時間の反応でも、有機溶媒・触媒を除去した環境低減型プロセスを実現することは困難であったが、本発明では、常圧水又は高圧水、及び流通式高圧マイクロ反応装置を用いることにより、触媒無添加で、有機溶媒を使用することなく、冷却に必要なエネルギーや、廃棄物量を低減しつつ、高速で、連続的に、選択的にモノニトロ化合物を合成することが可能である。
【0080】
本発明は、例えば、香料、医薬品として有用なモノニトロ化合物を、短時間で、大量に連続的に生産できるというメリットを有し、また、モノニトロ化後、回収水溶液に水を注入して、デカンテーションし、油/水二層溶液に分離後、モノニトロ化合物を含む油層を分液回収する一方、水層からは水を回収し、水をリサイクルすることを可能とする特徴を有する。
【0081】
本発明では、合成・分離プロセスを単純化させることが可能であり、それにより、プロセスの初期コスト及びランニングコストを大幅に圧縮することが可能である。更に、本発明では、中和処理の後処理も必要がなく、環境調和型生産のプロセスの構築が可能である。本発明は、例えば、香料、医薬品として有用なモノニトロ化合物の新しい大量生産プロセスとして、そして、既存の生産プロセスに代替し得る新技術を提供するものとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】従来型のモノニトロ化を示す。
【図2】本発明のモノニトロ化を示す。
【図3】触媒・有機溶媒を用いるモノニトロ化の後処理フローチャートを示す。
【図4】無触媒・水溶媒を用いるモノニトロ化の後処理フローチャートを示す。
【図5】実施例で用いた流通式高圧マイクロ反応装置を示す。
【図6】アニソールのモノニトロ化の温度依存性を示す。
【図7】アニソールのモノニトロ化の圧力依存性を示す。
【図8】アニソールのモノニトロ化の滞留時間依存性を示す。
【図9】アニソールのモノニトロ化の硝酸量依存性を示す。
【図10】アニソールのモノニトロ化の無水酢酸量依存性を示す。
【符号の説明】
【0083】
1 送液ポンプ(無水酢酸)
2 送液ポンプ(硝酸)
3 基質送液ポンプ
4 水送液ポンプ
5 温度センサ
6 温度センサ
7 温度センサ
8 混合ティー
9 混合ティー
10 反応ティー
11 混合コイル
12 反応コイル
13 水浴
14 排出配管
15 背圧弁
16 回収容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニトロ化剤と芳香族類から合成されたモノニトロ化反応組成物において、触媒及び有機溶媒の残存がないことを特徴とするモノニトロ化組成物。
【請求項2】
モノニトロ化合物を合成する方法において、常圧流体又は高圧流体を反応溶媒として使用し、触媒を用いることなく、ニトロ化剤と芳香族類から、これらを含む反応系で、マイクロ反応空間における一段階の合成反応により、モノニトロ化合物を選択的に合成することを特徴とするモノニトロ化合物の製造方法。
【請求項3】
ニトロ化剤として、硝酸及び無水カルボン酸から合成した硝酸アシルを使用する、請求項2記載の方法。
【請求項4】
ニトロ化剤として、硝酸、又は酢酸もしくは酢酸誘導体を使用する、請求項2記載の方法。
【請求項5】
流体として、温度5〜250℃、圧力0.1〜40MPaの常圧水又は高圧水を反応溶媒として使用する、請求項2から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
流体として、酢酸、無機溶媒、有機溶媒、又は無機溶媒と有機溶媒の混合溶媒を使用する、請求項2から4のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
流通式高圧マイクロ反応装置に、基質及び反応溶媒を導入し、反応時間を0.1秒〜10分の範囲で変化させることで、合成反応を実施する、請求項2から6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
常圧水又は高圧水の、大きな比熱による冷却効果、及び流通式高圧マイクロ反応装置におけるマイクロ反応空間による、大きなS/V比に由来する効率的な冷却により、急激な発熱と、爆発を回避しつつ、安全にモノニトロ化を実施する、請求項2から7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
常圧流体又は高圧流体を反応溶媒として、ニトロ化剤と芳香族類から、これらを含む反応系で、マイクロ反応空間における一段階の合成反応で、モノニトロ化合物を合成する方法に使用する流通式マイクロ反応装置であって、水を送液する水送ポンプと、ニトロ化剤を送液する送液ポンプと、基質を送液する基質送液ポンプとを有し、送液された水、ニトロ化剤、及び/又は基質を混合する混合手段と、これらを加熱する加熱用手段と、反応物を反応容器に導入する反応物導入ラインと、これらを反応させる反応容器と、反応生成物を排出する排出液ライン、冷却フランジ、及び圧力を設定する背圧弁とを、これらの順序で具備していることを特徴とするニトロ化合物合成用流通式マイクロ反応装置。
【請求項10】
ニトロ化反応後、回収水溶液に水を注入して、デカンテーションし、油/水二層溶液に分離後、ニトロ化合物を含む油層を分液回収する簡易な連続分離手段を有する、請求項9に記載のマイクロ反応装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−13398(P2010−13398A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−175116(P2008−175116)
【出願日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願[平成20年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(革新的部材産業創出プログラム/新産業創造高度部材基盤技術開発・省エネルギー技術開発プログラム)/「革新的マイクロ反応場利用部材技術開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願]
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】