説明

モノヒドロキシモノエーテル化合物の製造方法

【課題】モノヒドロキシモノエーテル化合物を高い生産性で製造する方法を提供。
【解決手段】脱離基Xを有するR−CH−X(1)なる炭化水素化合物(1)と、式(2)


(式中、R2は置換基を有していてもよい2価の炭化水素基、又は2価の炭化水素基の2以上がエーテル結合を介して連結された連結基を示す)で表されるジオールとをアルカリ金属を含む塩基の存在下、溶液中で反応させることにより、式(3)


(式中、R2は前記に同じ)で表されるモノヒドロキシモノエーテル化合物を生成させる方法であって、式(2)で表されるジオールを含む溶液に対し、アルカリ金属を含む塩基を逐次添加し、生成させたモノアルコキシドを化合物(1)と逐次的に反応させることを特徴とするモノヒドロキシモノエーテル化合物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジオールの一方のヒドロキシル基をエーテル化することによって得られるモノヒドロキシモノエーテル化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2つのヒドロキシル基(水酸基)を有するジオールの、一方のヒドロキシル基のみをエーテル化して得られるモノヒドロキシモノエーテル化合物は、各種化合物や材料(例えば、樹脂材料)及びこれらの原料(中間体)等として広く利用されている。具体的には、例えば、光カチオン硬化型樹脂のモノマー成分として、アルキレングリコールの一方のヒドロキシル基のみをオキセタン環を有するアルキル基によりエーテル化した構造を有する化合物(オキセタン環含有アルコール)が知られている(特許文献1、2参照)。
【0003】
上記モノヒドロキシモノエーテル化合物の製造方法としては、例えば、アルキレングリコール、水酸化ナトリウム、及びテトラブチルアンモニウムブロマイドのトルエン溶液を調製し、次いで、該溶液に対して、エーテル化剤としての3−エチル−3−メタンスルホニルオキシメチルオキセタンを滴下することによって、オキセタン環含有アルコールを合成する方法が知られている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−163961号公報
【特許文献2】国際公開第2007/145309号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記製造方法においては、副生成物として、ジオール(アルキレングリコール)の2つのヒドロキシル基がともにエーテル化されたビスオキセタンエーテル化合物が比較的多く生成し、目的物であるモノヒドロキシモノエーテル化合物(オキセタン環含有アルコール)の選択性及び単離収率を向上させることが難しいという問題があった。
【0006】
また、上記製造方法においては、上記原料を含む溶液がゲル化して、反応中に攪拌が困難となる問題が生じることが判明した。このため、溶液中で効率的に反応を進行させることができず、モノヒドロキシモノエーテル化合物(オキセタン環含有アルコール)の選択性及び単離収率が低下する問題が生じていた。一方で、このようなゲル化の問題に対しては、大量の溶媒の使用により対応することが可能であったが、このような解決策はコスト面で好ましいものではなかった。
【0007】
さらに、上記製造方法においては、ジオールと反応させるエーテル化剤(3−エチル−3−メタンスルホニルオキシメチルオキセタン)が、溶液中に存在する水によって加水分解することによっても、モノヒドロキシモノエーテル化合物の選択性及び単離収率が低下する問題が生じていた。
【0008】
従って、本発明の目的は、ジオールの一方のヒドロキシル基のみをエーテル化したモノヒドロキシモノエーテル化合物を高選択率かつ高収率で(即ち、高い生産性で)製造する方法(モノヒドロキシモノエーテル化合物の製造方法)を提供することにある。
本発明の他の目的は、カチオン重合部位であるオキセタン環とラジカル重合部位である(メタ)アクリロイル基をともに有する異種反応性モノマーの前駆体として特に有用な、オキセタン環含有アルコールを高選択率かつ高収率で(即ち、高い生産性で)製造する方法(オキセタン環含有アルコールの製造方法)を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、脱離性基を有する特定構造の化合物と特定構造のジオールとをアルカリ金属を含む塩基の存在下で反応させる際に、上記ジオールを含む溶液に対して上記アルカリ金属を含む塩基を逐次添加し、生成させたモノアルコキシドを上記脱離性基を有する化合物と逐次的に反応させることによって、目的物としてのモノヒドロキシモノエーテル化合物を高選択率かつ高収率で製造できることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は、下記式(1)
【化1】

(式中、R1は置換基を有していてもよい炭化水素基を示し、Xは脱離性基を示す)で表される化合物と、下記式(2)
【化2】

(式中、R2は置換基を有していてもよい2価の炭化水素基、又は前記2価の炭化水素基の2以上がエーテル結合を介して連結された連結基を示す)で表されるジオールとをアルカリ金属を含む塩基の存在下で反応させることにより、
下記式(3)
【化3】

(式中、R1、R2は前記に同じ)で表されるモノヒドロキシモノエーテル化合物を生成させる方法であって、前記式(2)で表されるジオールを含む溶液に対し、前記アルカリ金属を含む塩基を逐次添加し、生成させたモノアルコキシドを前記式(1)で表される化合物と逐次的に反応させることを特徴とするモノヒドロキシモノエーテル化合物の製造方法を提供する。
【0011】
さらに、式(1)におけるR1が、オキセタニル基を有する炭化水素基である前記のモノヒドロキシモノエーテル化合物の製造方法を提供する。
【0012】
さらに、式(1)で表される化合物が、下記式(4)
【化4】

(式中、R4は置換基を有していてもよい炭化水素基を示し、Xは前記に同じ)で表されるオキセタン誘導体であり、下記式(5)
【化5】

(式中、R2、R4は、前記に同じ)で表されるモノヒドロキシモノエーテル化合物を生成させる前記のモノヒドロキシモノエーテル化合物の製造方法を提供する。
【0013】
さらに、式(1)における脱離性基Xが、メタンスルホニルオキシ基である前記のモノヒドロキシモノエーテル化合物の製造方法を提供する。
【0014】
さらに、前記アルカリ金属を含む塩基が、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムである前記のモノヒドロキシモノエーテル化合物の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明のモノヒドロキシモノエーテル化合物の製造方法は上記構成を有するため、ジオールの一方のヒドロキシル基のみをエーテル化したモノヒドロキシモノエーテル化合物を高選択率かつ高収率で(即ち、高い生産性で)製造できる。さらに、特定構造の原料を使用することにより、特に、異種反応性モノマーの前駆体として有用なオキセタン環含有アルコールを、高選択率かつ高収率で(即ち、高い生産性で)製造できる。また、反応溶液がゲル化しにくいため、使用する溶媒の量を低減することができ、コスト面で有利である。このため、本発明のモノヒドロキシモノエーテル化合物の製造方法は生産性に優れ、工業的に適した方法である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のモノヒドロキシモノエーテル化合物の製造方法は、下記式(1)
【化6】

(式中、R1は置換基を有していてもよい炭化水素基を示し、Xは脱離性基を示す)で表される化合物と、下記式(2)
【化7】

(式中、R2は置換基を有していてもよい2価の炭化水素基、又は前記2価の炭化水素基の2以上がエーテル結合を介して連結された連結基を示す)で表されるジオールとをアルカリ金属を含む塩基の存在下、溶液中で反応させることにより、下記式(3)
【化8】

(式中、R1、R2は前記に同じ)で表されるモノヒドロキシモノエーテル化合物を生成させる方法である。なお、上記「アルカリ金属を含む塩基の存在下」とは、反応のいずれかの時点でアルカリ金属を含む塩基が存在することを意味し、上記反応中、アルカリ金属を含む塩基が常に存在している必要はない。
【0017】
[式(1)で表される化合物]
式(1)で表される化合物は、本発明のモノヒドロキシモノエーテル化合物の製造方法における原料(反応物)として使用される。
【0018】
式(1)で表される化合物におけるR1は、置換基を有していてもよい炭化水素基である。上記R1における炭化水素基としては、特に限定されないが、例えば、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、これらが2以上結合した炭化水素基などが挙げられる。上記脂肪族炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基等の炭素数1〜20のアルキル基(好ましくは、炭素数1〜10のアルキル基);ビニル基、1−プロペニル基等の炭素数2〜20のアルケニル基(好ましくは、炭素数2〜10のアルケニル基)などが挙げられる。上記脂環式炭化水素基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;シクロヘキセニル基等のシクロアルケニル基;アダマンチル基、ノルボルニル基等の橋かけ環式基などが挙げられる。上記芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基などが挙げられる。また、これらの炭化水素基が2以上結合した基としては、例えば、ベンジル基、2−フェニルエチル基等のアラルキル基;メチルフェニル基等のアルキル基置換フェニル基などが挙げられる。
【0019】
上記R1における置換基(上記炭化水素基が有していてもよい置換基)としては、特に限定されないが、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、ブチルオキシ基等の炭素数1〜4のアルコキシ基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等の炭素数2〜5のアルコキシカルボニル基;アセチル基、プロピオニル基、ベンゾイル基等の炭素数1〜10のアシル基;シアノ基;ニトロ基;エポキシ基(オキシラニル基)、オキセタニル基、オキソラニル基などの複素環基などが挙げられる。なお、上記複素環基の環構造は、上記炭化水素基を構成する1又は2以上の炭素原子を含んで(共有して)形成されていてもよい。中でも、上記R1としては、カチオン重合性を少なくとも有するモノマー(又は該モノマーの前駆体)として使用できる点で、エポキシ基を有する炭化水素基、オキセタニル基を有する炭化水素基が好ましく、より好ましくはオキセタニル基を有する炭化水素基である。
【0020】
式(1)で表される化合物におけるXは、脱離性基である。上記脱離性基Xとしては、特に限定されないが、例えば、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;メタンスルホニルオキシ基、トルエンスルホニルオキシ基、トリフルオロメタンスルホニルオキシ基等のスルホニルオキシ基;アセチルオキシ基等のアシルオキシ基などの脱離性の高い基が挙げられる。上記の中でも、反応収率及び反応時間の観点で、塩素原子、メタンスルホニルオキシ基が好ましく、より好ましくはメタンスルホニルオキシ基である。
【0021】
特に、式(1)で表される化合物としては、少なくともカチオン重合性を有するモノマー(又は該モノマーの前駆体)として使用できる点で、下記式(4)で表される化合物(オキセタン誘導体)が好ましい。
【化9】

(式(4)中、R4は置換基を有していてもよい炭化水素基を示し、Xは前記に同じ)
【0022】
式(4)で表される化合物におけるR4としては、特に限定されないが、例えば、R1で例示したものと同様の炭化水素基(置換基を有していてもよい炭化水素基)を例示することができる。中でも、原料入手の観点で、メチル基、エチル基、ヒドロキシメチル基が好ましい。
【0023】
上記式(4)で表される化合物の代表的な例としては、例えば、以下の化合物を挙げることができる。
【化10】

【0024】
式(4)で表される化合物は、周知慣用の方法で製造することができ、例えば、トリエチルアミン及びトルエンの存在下、3−アルキル−3−オキセタンメタノールとハロゲン化メタンスルホニルとを反応させたり、3−アルキル−3−オキセタンメタノールをハロゲン化することにより合成することができる。
【0025】
[式(2)で表されるジオール]
式(2)で表されるジオールは、本発明のモノヒドロキシモノエーテル化合物の製造方法における原料(反応物)として使用される。
【0026】
式(2)で表されるジオールにおけるR2は、1つ以上(2つ以上でも良い)置換基を有していてもよい2価の炭化水素基、又は上記2価の炭化水素基の2以上がエーテル結合を介して連結された連結基である。
【0027】
上記R2における2価の炭化水素基としては、特に限定されないが、例えば、2価の脂肪族炭化水素基、2価の脂環式炭化水素基、2価の芳香族炭化水素基、これらが2以上結合した2価の炭化水素基などが挙げられる。上記2価の脂肪族炭化水素基としては、例えば、メチレン基、メチルメチレン基、ジメチルメチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、ブチレン基、ペンチレン基等の炭素数が1〜18の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基などが挙げられる。上記2価の脂環式炭化水素基としては、例えば、1,2−シクロペンチレン、1,3−シクロペンチレン、シクロペンチリデン、1,2−シクロヘキシレン、1,3−シクロヘキシレン、1,4−シクロヘキシレン、シクロヘキシリデン基等の2価のシクロアルキレン基(シクロアルキリデン基を含む)などが挙げられる。上記2価の芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニレン基などが挙げられる。
【0028】
上記R2における置換基(上記2価の炭化水素基が有していてもよい置換基)としては、特に限定されないが、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、ブチルオキシ基等の炭素数1〜4のアルコキシ基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等の炭素数2〜5のアルコキシカルボニル基;アセチル基、プロピオニル基、ベンゾイル基等の炭素数1〜10のアシル基;シアノ基;ニトロ基;エポキシ基(オキシラニル基)、オキセタニル基、オキソラニル基などの複素環基などが挙げられる。
【0029】
上記R2における連結基(上記2価の炭化水素基の2以上がエーテル結合を介して連結された連結基)としては、特に限定されないが、上記2価の炭化水素基の2つが1つのエーテル結合を介して連結された連結基(例えば、エチレンオキシエチレン基[−CH2CH2OCH2CH2−]等のアルキレンオキシアルキレン基、フェニレンオキシフェニレン基など);上記2価の炭化水素基の3以上が2以上のエーテル結合を介して連結された連結基(例えば、アルキレンポリ(オキシアルキレン)基など)が挙げられる。なお、上記連結基における2価の炭化水素基は、上記置換基を有していてもよい。
【0030】
上記式(2)で表されるジオールの代表的な例としては、入手容易の観点から、以下の化合物(2a)(=ネオペンチルグリコール)、化合物(2b)(=1,3−プロパンジオール)、化合物(2c)(=1,4−ブタンジオール)等を挙げることができる。
【化11】

【0031】
[アルカリ金属を含む塩基]
アルカリ金属を含む塩基は、本発明のモノヒドロキシモノエーテル化合物の製造方法における原料(反応物)として使用される。
【0032】
上記アルカリ金属を含む塩基(アルカリ金属塩基)は、アルカリ金属を含み、かつ塩基性を示す物質(化合物)であればよく、特に限定されないが、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物;水素化ナトリウム、水素化カリウムなどのアルカリ金属の水素化物;炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウムなどのアルカリ金属の炭酸塩;メチルリチウム、エチルリチウム、n−ブチルリチウム、s−ブチルリチウム、t−ブチルリチウム等のアルキルリチウム化合物などの有機リチウム化合物等が挙げられる。アルカリ金属を含む塩基は単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。上記の中でも、アルカリ金属を含む塩基としては、溶媒への溶解性に優れる点で、アルカリ金属の水酸化物が好ましく、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが特に好ましい。
【0033】
本発明のモノヒドロキシモノエーテル化合物の製造方法においては、上述の式(1)で表される化合物、式(2)で表される化合物、アルカリ金属を含む塩基以外にも、溶解性向上、反応収率向上を目的として、各種添加剤を用いてもよい。上記添加剤としては、例えば、相間移動触媒、界面活性剤等が挙げられる。上記添加剤は単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0034】
[本発明のモノヒドロキシモノエーテル化合物の製造方法]
本発明のモノヒドロキシモノエーテル化合物の製造方法は、式(1)で表される化合物と、式(2)で表されるジオールとをアルカリ金属を含む塩基の存在下、溶液中で反応させることにより、式(3)で表されるモノヒドロキシモノエーテル化合物を生成させる方法である。上記反応は、溶液中で行われるものであれば特に限定されず、液相一相系(液相が一相のみの系)であってもよいし、液相が二相以上存在する系であってもよい。なお、上記反応における溶液中には、固体が含まれていてもよい。
【0035】
本発明のモノヒドロキシモノエーテル化合物の製造方法においては、特に限定されないが、上記反応を溶液中で実施するために、通常、溶媒を使用することが好ましい。上記溶媒としては、式(1)で表される化合物と、式(2)で表されるジオールの両方を溶解することができるものであればよく、具体的には、例えば、ヘキサン、オクタン等の脂肪族炭化水素;シクロヘキサン、シクロオクタン等の脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素;テトラヒドロフラン(THF)、イソプロピルエーテル(IPE)等のエーテル;ジメチルスルホキシド(DMSO)等の含硫黄系溶媒;ジメチルホルムアミド等の含窒素系溶媒などが挙げられる。中でも、水を共沸して留去しやすい点で、トルエン、ベンゼン等の芳香族炭化水素が好ましく、又は、水溶性が低く精製時の分液性を向上させやすい点で、イソプロピルエーテル等のエーテルが好ましい。
【0036】
式(1)で表される化合物と式(2)で表されるジオールとのアルカリ金属を含む塩基の存在下での反応は、例えば、これらの化合物を上記溶媒中で共存させることにより行うことができる。より具体的には、例えば、式(2)で表されるジオールを上記溶媒に溶解させた溶液中に、アルカリ金属を含む塩基、及び式(1)で表される化合物をそれぞれ滴下することにより上記反応を行うことができる。なお、式(2)で表されるジオールは、特に限定されないが、アルカリ金属を含む塩基、式(1)で表される化合物を滴下する前の溶液に対してあらかじめ全使用量を仕込んでおいてもよいし、全使用量の一部を上記溶液に仕込み、残りを適切な時期に適宜分割して溶液中に追加してもよい。
【0037】
式(2)で表されるジオールの使用量(全使用量)は、特に限定されないが、例えば、上記式(1)で表される化合物に対して、1.8〜10モル倍が好ましく、より好ましくは2〜6モル倍、さらに好ましくは2.5〜4モル倍である。上記使用量が1.8モル倍未満であると、ジアルコキシドの生成量が増加することによって、ジエーテル体が多く生成する傾向がある。一方、上記使用量が10モル倍を超えると、精製時に原料のジオール残存量が増加する。また、ジオールの残存量の増加により、除去工程が増えるためにモノヒドロキシモノエーテル化合物の収率が低下する傾向がある。
【0038】
上記アルカリ金属を含む塩基の使用量(全使用量)は、該アルカリ金属を含む塩基の塩基強度によっても異なり、特に限定されないが、例えば、上記式(1)で表される化合物に対して、1.0〜1.8モル倍が好ましく、より好ましくは1.0〜1.4モル倍、さらに好ましくは1.1〜1.3モル倍である。上記使用量が1.0モル倍未満であると、未反応原料が多くなる傾向がある。一方、上記使用量が1.8モル倍を超えると、副生成物である式(2)で表されるジオールの2つのヒドロキシル基がともにエーテル化された化合物(ジエーテル体)が多く生成する傾向がある。また、反応溶液中の残存アルコキシド量も増加するので、ゲル化を起こす可能性が高くなる。
【0039】
上記溶媒の使用量(全使用量)は、溶媒の粘度や反応物の溶解度等によっても異なり、特に限定されないが、例えば、上記(1)で表される化合物(100重量部)に対して、400〜2000重量部が好ましく、より好ましくは500〜1800重量部、さらに好ましくは600〜1500重量部である。溶媒の使用量が400重量部未満であると、反応溶液がゲル化しやすく、攪拌が困難となってモノヒドロキシモノエーテル化合物の生産性(反応収率)が低下する場合がある。一方、溶媒の使用量が2000重量部を超えると、コスト面で不利となったり、生産性が低下する場合がある。
【0040】
本発明のモノヒドロキシモノエーテル化合物の製造方法における反応温度は、上記式(1)で表される化合物の滴下速度等により適宜調整することができ、特に限定されないが、例えば、30〜150℃が好ましく、より好ましくは40〜120℃である。反応温度が30℃未満であると、未反応原料が多くなる傾向がある。一方、反応温度が150℃を超えると、副生成物である式(2)で表されるジオールの2つのヒドロキシル基がともにエーテル化された化合物(ジエーテル体)が多く生成する傾向がある。
【0041】
本発明のモノヒドロキシモノエーテル化合物の製造方法は、上記反応(式(1)で表される化合物と式(2)で表されるジオールのアルカリ金属を含む塩基の存在下での反応)に際し、上記ジオールを少なくとも含む溶液に対し、上記アルカリ金属を含む塩基を逐次添加し、生成させたモノアルコキシドを上記式(1)で表される化合物と逐次的に(順次)反応させることを特徴としている。なお、本明細書において、「逐次添加」とは、連続的に添加、又は、間欠的に添加することを意味し、一括添加ではないという意味である。
【0042】
上記モノアルコキシドとは、式(2)で表されるジオールの一方のヒドロキシル基のみがアルカリ金属を含む塩基と反応した金属アルコキシド(モノ金属アルコキシド)を意味する。また、本明細書においては、式(2)で表されるジオールの両方のヒドロキシル基がともにアルカリ金属を含む塩基と反応した金属アルコキシドを、「ジアルコキシド」と称する場合がある。
【0043】
本発明のモノヒドロキシモノエーテル化合物の製造方法においては、式(2)で表されるジオールを含む溶液に対し、上記アルカリ金属を含む塩基を逐次添加することによって、上記モノアルコキシドを逐次的に生成させ、該モノアルコキシドを逐次的に(順次)上記式(1)で表される化合物と反応させる。即ち、本発明の要点は、上記ジオールにアルカリ金属を含む塩基を反応させてモノアルコキシドを生成させるたびに、該モノアルコキシドを式(1)で表される化合物と順次反応させ、これを連続的又は間欠的に繰り返すことにある。
【0044】
式(2)で表されるジオールを含む溶液に対して上記アルカリ金属を含む塩基を逐次添加するに際しては、アルカリ金属を含む塩基の最初の添加を開始してから、アルカリ金属を含む塩基の全使用量の添加が完了するまでの時間(全使用量の添加時間)を、30分以上(例えば、60〜360分)とすることが好ましく、より好ましくは120〜240分である。上記全使用量の添加時間が30分未満であると、アルカリ金属を含む塩基を逐次添加することによる効果が得られにくい。
【0045】
モノアルコキシドを逐次的に(順次)式(1)で表される化合物と反応させる方法としては、特に限定されないが、モノアルコキシドを生成させた溶液に対し、式(1)で表される化合物を逐次添加する方法が挙げられる。即ち、本発明のモノヒドロキシモノエーテル化合物の製造方法は、式(2)で表されるジオールを含む溶液に対し、アルカリ金属を含む塩基と、式(1)で表される化合物をそれぞれ逐次添加する方法であることが好ましい。なお、アルカリ金属を含む塩基と式(1)で表される化合物のそれぞれの添加回数の上限は、特に限定されないが、式(1)で表される化合物、式(2)で表されるジオール、及びアルカリ金属を含む塩基のそれぞれの使用量(全使用量)が上述の範囲内となるように適宜調整することが好ましい。
【0046】
式(2)で表されるジオールを少なくとも含む溶液に対する、上記アルカリ金属を含む塩基の1回の添加量は、特に限定されないが、仕込みのジオール(溶液中に仕込んだ式(2)で表されるジオールの量)に対して、0.001〜0.2モル倍が好ましく、より好ましくは0.002〜0.19モル倍、さらに好ましくは0.003〜0.18モル倍である。上記添加量(1回の添加量)が仕込みのジオールに対して0.2モル倍を超えると、ジエーテル体が生成しやすく、モノヒドロキシモノエーテル化合物の選択率や収率が低下する場合がある。なお、上記アルカリ金属を含む塩基を添加する際には、該塩基を適当な溶媒に溶解又は分散させた溶液又は分散液を使用してもよい。
【0047】
また、式(2)で表されるジオールを少なくとも含む溶液に対する、上記アルカリ金属を含む塩基の1回の添加量は、特に限定されないが、溶液中に存在する上記ジオールの量に対して、0.001〜0.2モル倍が好ましく、より好ましくは0.002〜0.19モル倍、さらに好ましくは0.003〜0.18モル倍である。上記添加量(1回の添加量)が溶液に存在する上記ジオールに対して0.2モル倍を超えると、ジエーテル体が生成しやすく、モノヒドロキシモノエーテル化合物の選択率や収率が低下する場合がある。
【0048】
式(2)で表されるジオールを少なくとも含む溶液に対する、式(1)で表される化合物の1回の添加量は、特に限定されないが、仕込みのジオール(溶液中に仕込んだ式(2)で表されるジオールの量)に対して、0.001〜0.2モル倍が好ましく、より好ましくは0.002〜0.19モル倍、さらに好ましくは0.003〜0.18モル倍である。また、式(2)で表されるジオールを少なくとも含む溶液に対する、式(1)で表される化合物の1回の添加量は、上記アルカリ金属を含む塩基の1回の添加量に対して、0.55〜1.0モル倍が好ましく、より好ましくは0.66〜1.0モル倍、さらに好ましくは0.77〜1.0モル倍である。上記添加量(式(1)で表される化合物の1回の添加量)が仕込みのジオールに対して0.2モル倍(又は、アルカリ金属を含む塩基の1回の添加量に対して1.0モル倍)を超えると、式(1)で表される化合物の加水分解物が生成しやすくなる場合がある。一方、上記添加量(式(1)で表される化合物の1回の添加量)がアルカリ金属を含む塩基の1回の添加量に対して0.55モル倍未満であると、ジエーテル体が生成しやすく、モノヒドロキシモノエーテル化合物の選択率や収率が低下する場合がある。また、反応溶液のゲル化が起こりやすくなる場合がある。なお、上記式(1)で表される化合物を添加する際には、該化合物を適当な溶媒に溶解又は分散させた溶液又は分散液を使用してもよい。
【0049】
本発明のモノヒドロキシモノエーテル化合物の製造方法においては、アルカリ金属を含む塩基を添加する際に、式(1)で表される化合物と式(2)で表されるジオールとを反応させる溶液中の、ジオールに対するモノアルコキシドの割合(「モノアルコキシド(mol)/ジオール(mol)」)が、アルカリ金属を含む塩基の全添加回数の少なくとも半数において、0.2モル倍以下となるように制御することが好ましく、より好ましくは0.19モル倍以下、さらに好ましくは0.18モル倍以下である。上記ジオールに対するモノアルコキシドの割合が0.2モル倍を超えると、ジアルコキシドの生成が促進されたり、溶液がゲル化することによって、式(3)で表されるモノヒドロキシモノエーテル化合物の選択率及び収率が低下する場合がある。
【0050】
上記ジオールに対するモノアルコキシドの割合は、式(1)で表される化合物と式(2)で表されるジオールとを反応させる溶液中に存在するモノアルコキシドの量(存在量)を、上記溶液中に存在する上記ジオールの量(存在量)で除することによって算出される。上記ジオール及びモノアルコキシドの存在量としては、上記ジオールとアルカリ金属を含む塩基とが定量的に反応してモノアルコキシドのみが生成するとの仮定の下、下記式により算出される理論値を採用するものとする。
・[モノアルコキシドの存在量(mol)]=[溶液に添加されたアルカリ金属を含む塩基の総量(mol)]−[溶液に添加された式(1)で表される化合物の総量(mol)]
・[式(2)で表されるジオールの存在量(mol)]=[溶液に仕込んだジオールの総量(mol)]−[溶液に添加されたアルカリ金属を含む塩基の総量(mol)]
【0051】
中でも、本発明のモノヒドロキシモノエーテル化合物の製造方法においては、式(2)で表されるジオールを含む溶液に対して、アルカリ金属を含む塩基を上記添加量(1回の添加量)の範囲で添加し、次いで、式(1)で表される化合物を上記添加量(1回の添加量)の範囲で添加し、その後さらに、これらの添加を少なくとも1回以上繰り返すことが好ましい。即ち、アルカリ金属を含む塩基の添加と式(1)で表される化合物の添加は、交互にそれぞれ2回以上繰り返すことが好ましい。これにより、溶液中に存在する上記モノアルコキシドの割合を上記範囲に制御しやすく、式(3)で表されるモノヒドロキシモノエーテル化合物の選択率及び収率を向上させることができる。
【0052】
本発明のモノヒドロキシモノエーテル化合物の製造方法においては、上記のように、式(2)で表されるジオールを含む溶液に対して上記アルカリ金属を含む塩基を逐次添加し、生成させたモノアルコキシドを式(1)で表される化合物と逐次的に反応させることによって、式(3)で表されるモノヒドロキシモノエーテル化合物を高選択率かつ高収率(高単離収率)で得ることができる。このような効果は、式(2)で表されるジオールとアルカリ金属を含む塩基とを反応させて得られるモノアルコキシドを逐次的に生成させ、なおかつ該モノアルコキシドを逐次的に式(1)で表される化合物と反応させて順次消滅させ、反応溶液中に存在するモノアルコキシドの量を上記ジオールに対して低いレベルに維持することによって、モノアルコキシドによる溶液のゲル化、及びジアルコキシドの生成によるジエーテル体の副生が抑制されたことによるものと推測される。
【0053】
本発明のモノヒドロキシモノエーテル化合物の製造方法においては、式(2)で表されるジオールを含む溶液に対して、アルカリ金属を含む塩基と式(1)で表される化合物をそれぞれ逐次添加すること、並びに、アルカリ金属を含む塩基の1回の添加量、式(1)で表される化合物の1回の添加量、及び溶液中に存在する式(2)で表されるジオールに対するモノアルコキシドの割合を上述の範囲に制御すること等によって、式(3)で表されるモノヒドロキシモノエーテル化合物の選択率及び収率を特に高くすることができる。
【0054】
これに対して、従来のモノヒドロキシモノエーテル化合物の製造方法は、ジオールに対して反応させるアルカリ金属を含む塩基(水酸化ナトリウム)の全使用量を、反応前にジオールとともに反応容器に仕込むか、反応初期にジオールを含む溶液に一括で添加するものである(即ち、逐次添加するものではない)。このため、ジアルコキシドの大量の生成によるジエーテル体の副生、及び、溶液のゲル化が顕著であり、目的物であるモノヒドロキシモノエーテルを生産性良く製造することができなかった。
【0055】
さらに、本発明のモノヒドロキシモノエーテル化合物の製造方法においては、主に、式(2)で表されるジオールとアルカリ金属を含む塩基の反応により生成する水を随時取り除く(脱水する)ことが好ましい。溶液(反応溶液)中の水を取り除くことにより、式(1)で表される化合物の加水分解が抑制される(即ち、式(1)で表される化合物におけるXがヒドロキシル基に置き換わった加水分解物の生成が抑制される)ため、モノヒドロキシモノエーテル化合物をより効率よく(高選択率かつ高収率で)得ることができる。上記脱水の方法としては、周知慣用の方法を利用することができ、特に限定されないが、例えば、反応の溶媒としてトルエンを使用し、該トルエンが還流する反応温度(例えば、100〜115℃)で反応させる方法等を利用できる。また、減圧して反応温度を下げることによって脱水することも可能である。
【0056】
本発明のモノヒドロキシモノエーテル化合物の製造方法により、上記式(3)で表されるモノヒドロキシモノエーテル化合物が得られる。
【0057】
特に、式(1)で表される化合物として、式(4)で表されるオキセタン誘導体を用いた場合には、本発明のモノヒドロキシモノエーテル化合物の製造方法により、下記式(5)で表されるモノヒドロキシモノエーテル化合物(オキセタン環含有アルコール)が得られる。
【化12】

(式(5)中、R2、R4は前記に同じ)
【0058】
式(5)で表されるオキセタン環含有アルコールは、カチオン重合部位であるオキセタン環を有するため、樹脂のモノマー又は該モノマーの前駆体として好ましく利用できる。具体的には、例えば、式(5)で表されるオキセタン環含有アルコールのヒドロキシル基を公知乃至慣用の方法により(メタ)アクリル化することによって、カチオン重合部位であるオキセタン環とラジカル重合部位である(メタ)アクリロイル基を有する化合物(異種反応性モノマー)を得ることができる。このような化合物を重合(カチオン重合及び/又はラジカル重合)させることにより得られる硬化物は、優れた耐熱性を発揮することができる。
【0059】
本発明のモノヒドロキシモノエーテル化合物の製造方法によると、副生成物であるジエーテル体の生成率を2.5%未満(好ましくは2.0%以下、特に好ましくは1.5%以下)に抑制することができる。これにより、式(3)で表されるモノヒドロキシモノエーテル化合物(特に、式(5)で表されるオキセタン含有アルコール)を選択的に合成することができ、これを高い収率(単離収率)(例えば、70%以上、好ましくは75%以上、特に好ましくは80%以上)で得ることができる。なお、上記生成率は、例えば、ガスクロマトグラフィーにより算出することができる。
【0060】
なお、本発明のモノヒドロキシモノエーテル化合物の製造方法により生成した式(1)で表されるモノヒドロキシモノエーテル化合物(特に、式(5)で表されるオキセタン環含有アルコール)は、慣用の分離精製手段、例えば、濃縮、抽出、晶析、再結晶、蒸留、カラムクロマトグラフィーなど、又はこれらの組み合わせにより分離精製することができる。
【実施例】
【0061】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0062】
製造例[3−エチル−3−メタンスルホニルオキシメチルオキセタンの合成]
攪拌装置、温度計、滴下漏斗を備えた内容量2000mLのガラス製セパラブルフラスコに、3−エチル−3−オキセタンメタノール100g(0.85mol)、トリエチルアミン113.2g(1.12mol)、及びトルエン400gを加えて攪拌した後、氷浴にて液温を5℃まで冷却した。次いで、メタンスルホニルクロライド108.5g(0.95mol)を2時間かけて滴下し、滴下の間は液温を5〜15℃に保持した。その後、液温15℃でさらに2時間保持して熟成を行った。熟成後、水を400mL加えて反応をクエンチし、分液させて有機層(トルエン層)を分取し、3−エチル−3−メタンスルホニルオキシメチルオキセタンの濃度が25重量%のトルエン溶液565g(3−エチル−3−メタンスルホニルオキシメチルオキセタンが150g(0.8mol)含まれる)を得た。なお、上記反応における3−エチル−3−メタンスルホニルオキシメチルオキセタンの収率は、原料の3−エチル−3−オキセタンメタノール基準で90%であった。
【0063】
実施例1
攪拌装置、温度計、滴下漏斗、還流冷却器、及び脱水器を備えた内容量3000mLのガラス製セパラブルフラスコに、ネオペンチルグリコール230.3g(2.21mol)及びトルエン466gを加え、設定温度90℃にて加熱しながら攪拌した。
トルエンの温度が80℃付近でネオペンチルグリコールがトルエンに溶解したことを確認後、加熱を停止し、純度96%の水酸化ナトリウムを5.15g(0.13mol)加えた。再度加熱して、溶液の温度が110℃付近に到達してトルエンの還流が開始したところで、3−エチル−3−メタンスルホニルオキシメチルオキセタンのトルエン溶液(濃度:25%)79.3g(3−エチル−3−メタンスルホニルオキシメチルオキセタンが0.10mol)を20分かけてゆっくり滴下した。次いで、冷却(放冷)して還流を停止させた後、先ほどと同量の水酸化ナトリウム(0.13mol)を加え、再度110℃付近まで加熱してトルエンの還流が開始したところで、3−エチル−3−メタンスルホニルオキシメチルオキセタンのトルエン溶液(濃度:25%)79.3g(3−エチル−3−メタンスルホニルオキシメチルオキセタンが0.10mol)を20分かけてゆっくり滴下した。この作業を繰り返し合計3時間30分かけて7回行い、水酸化ナトリウム及び3−エチル−3−メタンスルホニルオキシメチルオキセタンの逐次添加(添加回数:それぞれ7回)を行った。
また、反応系中で生成した水は、脱水器にて随時抜き取った。水酸化ナトリウムの全量(0.91mol)及び3−エチル−3−メタンスルホニルオキシメチルオキセタンの全量を仕込んだ後、さらに2時間トルエンを還流させて反応溶液を熟成させた。反応溶液の熟成の終了後、加熱を停止し、自然冷却を行った。
熟成の終了時点(反応開始(3−エチル−3−メタンスルホニルオキシメチルオキセタン滴下開始)から5時間30分後)の加熱状態で、反応溶液のGC分析を行ったところ、転化率は100%、目的物である3−エチル−3−(3−ヒドロキシ−2,2−ジメチルプロピルオキシメチル)オキセタンの収率(反応収率)は94%(3−エチル−3−メタンスルホニルオキシメチルオキセタン基準)であった。また、生成した2量体(ビスオキセタンエーテル化合物)は1.1%(対3−エチル−3−(3−ヒドロキシ−2,2−ジメチルプロピルオキシメチル)オキセタンのGC面積%)であった。
反応溶液の液温が80℃となった時点で、水を322g加えて攪拌抽出し、水浴にて液温が室温(30℃以下)となるまで冷却した後、n−ヘキサンを393.8g加え、15分間攪拌抽出を行った。その後、分液した有機層に水を999g加えて15分間攪拌抽出し、分液した有機層に再度水を同量加えて、攪拌抽出を行った。分液した有機層から、エバポレーターを用いて80℃、300mmHgの条件でトルエンを留去し、さらに3時間フルバキューム(80℃)して脱トルエンを行い、3−エチル−3−(3−ヒドロキシ−2,2−ジメチルプロピルオキシメチル)オキセタンを118g得た(純度:97%、2量体濃度:1.1%)。なお、3−エチル−3−(3−ヒドロキシ−2,2−ジメチルプロピルオキシメチル)オキセタンの収率(単離収率)は、3−エチル−3−メタンスルホニルオキシメチルオキセタン基準で80%であった。表1に結果を示した。
【0064】
実施例2
トルエンの仕込み量を466gから1665gに変更した以外は、実施例1と同様にして、3−エチル−3−(3−ヒドロキシ−2,2−ジメチルプロピルオキシメチル)オキセタンを合成した。なお、熟成終了後の反応溶液のGC分析によると、目的物である3−エチル−3−(3−ヒドロキシ−2,2−ジメチルプロピルオキシメチル)オキセタンの収率(反応収率)は95%(3−エチル−3−メタンスルホニルオキシメチルオキセタン基準)であった。また、生成した2量体(ビスオキセタンエーテル化合物)は1.0%(対3−エチル−3−(3−ヒドロキシ−2,2−ジメチルプロピルオキシメチル)オキセタンのGC面積%)とごく微量であった。
また、実施例1と同様の単離作業を行った結果、3−エチル−3−(3−ヒドロキシ−2,2−ジメチルプロピルオキシメチル)オキセタンの収率(単離収率)は、3−エチル−3−メタンスルホニルオキシメチルオキセタン基準で80%であった。表1に結果を示した。
【0065】
比較例1
攪拌装置、温度計、滴下漏斗、還流冷却器、及び脱水器を備えた内容量3000mLのガラス製セパラブルフラスコに、ネオペンチルグリコール460.3g(4.42mol)、トルエン850g、及び純度96%の水酸化ナトリウム36.10g(0.90mol)を加え、常圧でトルエンの還流が開始するまで攪拌しながら加熱した。
水酸化ナトリウムが溶解してしばらくすると、反応溶液が液状からゲル状になり、中心部のみが攪拌された状態となった。この状態で、3−エチル−3−メタンスルホニルオキシメチルオキセタンのトルエン溶液(濃度:90%)159g(3−エチル−3−メタンスルホニルオキシメチルオキセタン0.73mol)の滴下を開始した。
3−エチル−3−メタンスルホニルオキシメチルオキセタンの滴下開始から5時間30分間、トルエン還流状態で加熱して反応させた後、反応溶液にトルエンとほぼ同量の水850gを加えてゲルを溶解し、分離した2層(トルエン層、水層)の分析を行った結果、転化率98%、目的物である3−エチル−3−(3−ヒドロキシ−2,2−ジメチルプロピルオキシメチル)オキセタンの収率(反応収率)は、3−エチル−3−メタンスルホニルオキシメチルオキセタン基準で70.8%であった。表1に結果を示した。
【0066】
比較例2
攪拌装置、温度計、滴下漏斗、及び還流冷却器を備えた内容積3000mLのガラス製フラスコに、ネオペンチルグリコール720.3g(6.92mol)、及びトルエン280gを加え、攪拌しながら60℃まで加温した後、テトラブチルアンモニウムブロマイド38.7g(0.21mol)、及び96%水酸化ナトリウム184g(4.4mol)を加え、攪拌しながら75℃まで加温した。
次いで、純度95%の3−エチル−3−メタンスルホニルオキシメチルオキセタン777g(3.8mol)を、液温を75〜85℃に保ちながらゆるやかに滴下した。
しかしながら、ネオペンチルグリコールが固体のまま完全に溶解せず、さらに、一部溶解した反応溶液もゲル化したため、生成物の収率等のデータを取得できなかった。
【0067】
比較例3
攪拌装置、温度計、滴下漏斗、還流冷却器、及び脱水器を備えた内容量3000mLのセパラブルフラスコに、ネオペンチルグリコールを129g(1.24mol)、トルエン472g、及び純度96%の水酸化ナトリウム20.63g(0.52mol)を加えて常圧でトルエンの還流が開始するまで加熱した。トルエンの還流開始後、3−エチル−3−メタンスルホニルオキシメチルオキセタンのトルエン溶液(濃度:90%)88.9g(0.41mol)の滴下を開始した。
3−エチル−3−メタンスルホニルオキシメチルオキセタン滴下開始から5時間30分間、トルエン還流状態で加熱して反応させた後、比較例1と同様にして反応溶液の分析を行った。表1に結果を示した。
比較例3では反応溶液のゲル化は抑制されたが、表1に示すように、反応収率が68.6%と低く、3−エチル−3−メタンスルホニルオキシメチルオキセタンの加水分解物である3−エチル−3−オキセタンメタノールの収率が22.3%と高くなった。
【0068】
比較例4
表1に示すように、原料の仕込み量を変えたこと以外は、比較例3と同様に反応を行った。表1に結果を示した。
【0069】
比較例5
攪拌装置、温度計、滴下漏斗、及び還流冷却器を備えた内容積2000mLのガラス製フラスコに、1,4−ブタンジオール(BD)721g(8.0mol)、及びトルエン350mLを加え、攪拌しながら60℃まで加温した後、テトラブチルアンモニウムブロマイド38.7g(0.21mol)、及び96%水酸化ナトリウム184g(4.4mol)を加え、攪拌しながら75℃まで加温した。次いで、純度95%の3−エチル−3−メタンスルホニルオキシメチルオキセタン777g(3.8mol)を、液温を75〜85℃に保ちながらゆるやかに滴下し、同温度で2時間反応させた。反応終了後、反応溶液に水800mLを加え、有機層を分液した。得られた有機層にトルエン800mL及び水400mLを加え、攪拌しながら酢酸を加えてpHを9.5に調整した。分液後、水層をトルエン400mLで2回抽出した。抽出液(トルエン層)と有機層を混合し、減圧下で濃縮した。得られた濃縮物を減圧下で蒸留(157〜159℃、1.9kPa)し、無色液体として、純度96%(ガスクロマトグラフィーによる分析値)の3−エチル−(4−ヒドロキシブチルオキシメチル)オキセタンを497g得た(3−エチル−3−メタンスルホニルオキシメチルオキセタン基準の単離収率:67%)。表1に結果を示した。
【0070】
【表1】

【0071】
表1に示すように、本発明のモノヒドロキシモノエーテル化合物の製造方法によると、目的物であるモノヒドロキシモノエーテル化合物を高選択率かつ高収率で得ることができた(実施例)。
一方、本発明の規定を満たさない製造方法による場合(比較例)には、副生成物であるジエーテル体の生成が多かったり、反応中に溶液のゲル化が生じる等により、目的物であるモノヒドロキシモノエーテル化合物を高い収率で得ることはできなかった。
【符号の説明】
【0072】
NPG : ネオペンチルグリコール
BD : 1,4−ブタンジオール
NaOH : 水酸化ナトリウム
Ms体 : 3−エチル−3−メタンスルホニルオキシメチルオキセタン
NPOH体 : 3−エチル−3−(3−ヒドロキシ−2,2−ジメチルプロピルオキシメチル)オキセタン(但し、比較例5の場合は、3−エチル−3−(4−ヒドロキシブチルオキシメチル)オキセタンである)
MeOH体 : 3−エチル−3−オキセタンメタノール
2量体(ジエーテル体) : ビスオキセタンエーテル化合物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】

(式中、R1は置換基を有していてもよい炭化水素基を示し、Xは脱離性基を示す)
で表される化合物と、下記式(2)
【化2】

(式中、R2は置換基を有していてもよい2価の炭化水素基、又は前記2価の炭化水素基の2以上がエーテル結合を介して連結された連結基を示す)
で表されるジオールとをアルカリ金属を含む塩基の存在下、溶液中で反応させることにより、
下記式(3)
【化3】

(式中、R1、R2は前記に同じ)
で表されるモノヒドロキシモノエーテル化合物を生成させる方法であって、
前記式(2)で表されるジオールを含む溶液に対し、前記アルカリ金属を含む塩基を逐次添加し、生成させたモノアルコキシドを前記式(1)で表される化合物と逐次的に反応させることを特徴とするモノヒドロキシモノエーテル化合物の製造方法。
【請求項2】
式(1)におけるR1が、オキセタニル基を有する炭化水素基である請求項1に記載のモノヒドロキシモノエーテル化合物の製造方法。
【請求項3】
式(1)で表される化合物が、下記式(4)
【化4】

(式中、R4は置換基を有していてもよい炭化水素基を示し、Xは前記に同じ)
で表されるオキセタン誘導体であり、下記式(5)
【化5】

(式中、R2、R4は、前記に同じ)
で表されるモノヒドロキシモノエーテル化合物を生成させる請求項1又は2に記載のモノヒドロキシモノエーテル化合物の製造方法。
【請求項4】
式(1)における脱離性基Xが、メタンスルホニルオキシ基である請求項1〜3のいずれか1項に記載のモノヒドロキシモノエーテル化合物の製造方法。
【請求項5】
前記アルカリ金属を含む塩基が、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムである請求項1〜4のいずれか1項に記載のモノヒドロキシモノエーテル化合物の製造方法。

【公開番号】特開2012−214424(P2012−214424A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−82214(P2011−82214)
【出願日】平成23年4月1日(2011.4.1)
【出願人】(000002901)株式会社ダイセル (1,236)
【Fターム(参考)】