説明

モノリス状有機多孔質体、その製造方法及びモノリス状有機多孔質イオン交換体

【課題】流体透過時の圧力損失が低く、吸着容量の大きな吸着剤あるいはイオン交換容量の大きなイオン交換体として用いることのできるモノリス状有機多孔質体、その製造方法及びモノリス状有機多孔質イオン交換体を提供すること。
【解決手段】気泡状のマクロポア同士が重なり合い、この重なる部分が開口となる連続マクロポア構造の骨格部と、モノリス状有機多孔質体中に分散していると共に該骨格部と一体化していない粒子半径0.1〜50μmの球状粒子とからなり、全細孔容積が1〜5ml/g、厚みが5mm以上であるモノリス状有機多孔質体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸着剤や脱イオン水製造装置等に用いられるイオン交換体として有用なモノリス状有機多孔質体、その製造方法及びモノリス状有機多孔質イオン交換体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機多孔質体の構造として、連続気泡構造(連続マクロポア)構造、共連続構造及び粒子凝集型構造のものが知られている。連続気泡構造は、互いにつながっているマクロポアとマクロポアの壁内(開口)にメソポアを有するものであり、例えば特開2002−306976号公報、特表2000−501175号公報に開示されている。特開2002−306976号公報では、イオン交換基を含まない油溶性モノマー、界面活性剤、水及び必要に応じて重合開始剤とを混合し、油中水滴型エマルジョンを得、これを重合させて、連続マクロポア構造を有するモノリス状有機多孔質体を得ている。特表2000−501175号公報では、少なくとも75重量%の水相を含み、ソルビタンモノオレートやポリエチレングリコールポリヒドロキシステアリン酸などの乳化剤を含む油中水滴型エマルジョンを重合させて連続マクロポア構造のモノリス状有機多孔質体を得ている。
【0003】
共連続構造は、三次元的に連続した骨格相と、その骨格相間に三次元的に連続した空孔相とからなり、両相が絡み合った構造である。共連続構造は、例えば特開2007-154083号公報に、マイクロメートルサイズの平均直径を有し、三次元網目状に連続した細孔と有機物質に富む骨格相からなる共連続構造をもつ有機高分子ゲル状のアフィニティー担体であって、当該アフィニティー担体が、架橋剤としての、少なくとも二官能性以上のビニルモノマー化合物、メタクリレート化合物及びアクリレート化合物の少なくともいずれか1種と、一官能性親水性モノマーとの共重合体であり、しかも、前記アフィニティー担体における前記架橋剤と前記一官能性親水性モノマーの体積比率が100〜10:0〜90であるアフィニティー担体が開示されている。また、粒子凝集型構造は、例えば特表平7−501140号公報に開示されている。
【特許文献1】特開2002−306976号公報
【特許文献2】特表2000−501175号公報
【特許文献3】特開2007-154083号公報
【特許文献4】特表平7−501140号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特開2002−306976号公報や特表2000−501175号公報記載の有機多孔質イオン交換体は、全細孔容積を低下させて水湿潤状態での体積当りのイオン交換容量を大きくすると共通の開口となるメソポアが著しく小さくなり、更に全細孔容積を低下させていくと共通の開口が消失するといったその構造上の制約から、実用的に要求される低い圧力損失を達成しようとすると体積当りのイオン交換容量が低下する、体積当りの交換容量を増加させていくと圧力損失が増加するといった欠点を有していた。また、球状気泡の最密充填は水相部が74重量%、油相部が26重量%であることから、水相部が75重量%未満、油相部が25重量%以上の油中水滴型エマルジョンは2相分離を生じ易く、連続マクロポア構造のモノリスが得られ難いという問題がある。
【0005】
また、特開2007-154083号公報記載の共連続構造においては、実際に得られているアフィニティー担体はナノメートルサイズの細孔であるため、流体を透過させる際の圧力損失が高く、低圧力損失下で大流量の水を処理する必要のある脱イオン水製造装置に充填し、イオン交換体とすることは困難であった。また、アフィニティー担体は親水性であるため、疎水性物質の吸着剤として用いるためには、表面の疎水処理等の煩雑且つコストアップを伴う操作が必要であるという問題があった。また、エポキシ樹脂へのイオン交換基等の官能基の導入は容易ではないという問題もあった。
【0006】
このため、化学的に安定で、流体透過時の圧力損失が低く、吸着容量の大きな吸着剤あるいはイオン交換容量の大きなイオン交換体として用いることのできる全く新規な構造を有するモノリス状有機多孔質体の開発が望まれていた。
【0007】
従って、本発明の目的は、上記従来技術の問題点を解決したものであって、流体透過時の圧力損失が低く、吸着容量の大きな吸着剤あるいはイオン交換容量の大きなイオン交換体として用いることのできるモノリス状有機多孔質体、その製造方法及びモノリス状有機多孔質イオン交換体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる実情において本発明者は鋭意検討を重ねた結果、(1)油中水滴型(W/O)エマルジョンを調製する際、油溶性成分と水溶性成分の合計量に対する油溶性成分(モノマー)濃度を25%以上とすると、安定なW/O型エマルジョンを形成できたとしてもマクロポアの開口が小さくなり、流体透過時の圧力損失が大きくなること、(2)このような油溶性成分濃度が高いW/O型エマルジョンに特定の界面活性剤を使用すると、重合時にW/Oの一部が反転してW/Oの水中で油滴を形成するため、重合後は連続気泡構造と浮遊する球状粒子の混合体である全く新規な多孔質構造が得られること、(3)連続気泡構造体中に浮遊する球状粒子がマクロポアを拡張するため流路となる気泡部分が広くなり、流体透過時の圧力損失が低くなること、(4)浮遊する球状粒子が存在するため、吸着容量やイオン交換容量を大きくできること等を見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、気泡状のマクロポア同士が重なり合い、この重なる部分が開口となる連続マクロポア構造の骨格部と、モノリス状有機多孔質体中に分散していると共に該骨格部と一体化していない粒子半径0.1〜50μmの球状粒子とからなり、全細孔容積が1〜5ml/g、厚みが5mm以上であることを特徴とするモノリス状有機多孔質体を提供するものである。
【0010】
また、本発明は、ビニルモノマー、架橋剤、界面活性剤、水および必要に応じて重合開始剤とを混合して油中水滴型エマルジョンを調製し、該油中水滴型エマルジョンを静置下、重合させてモノリス状有機多孔質体を製造する方法であって、該油中水滴型エマルジョンを調製する際の油溶性成分と水溶性成分の混合比が、重量比で油溶性成分/水溶性成分=25/75〜40/60であり、該界面活性剤として数平均分子量(Mn)600〜1000の高分子量界面活性剤と分子量が500以下の低分子量界面活性剤を必須として用いることを特徴とするモノリス状有機多孔質体の製造方法を提供するものである。
【0011】
また、本発明は、気泡状のマクロポア同士が重なり合い、この重なる部分が開口となる連続マクロポア構造の骨格部と、モノリス状有機多孔質体中に分散していると共に該骨格部と一体化していない粒子半径0.2〜120μmの球状粒子とからなり、全細孔容積が1〜5ml/g、厚みが5mm以上であり、通水時の差圧係数が0.005〜0.1MPa/m・LV、水湿潤状態での体積当りのイオン交換容量が0.3mg当量/ml以上であることを特徴とするモノリス状有機多孔質イオン交換体を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明のモノリス状有機多孔質体は、連続気泡骨格の中に該骨格と一体化していない浮遊状の球状粒子が存在するという、粒子凝集型多孔質体や連続気泡構造の多孔質体や共連続構造の多孔質体とは全く異なる新規な多孔質構造である。また、本発明によれば、連続気泡構造中に存在する球状粒子がマクロポアや開口径を拡張するため、流体が流れる流路が広くなり、流体透過時の圧力損失が低くなる。また、連続気泡構造中に球状粒子が分散しているため、吸着容量やイオン交換容量を大きくできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本明細書中、「モノリス状有機多孔質体」を単に「モノリス」と、「モノリス状有機多孔質イオン交換体」を単に「モノリスイオン交換体」とも言う。
【0014】
(モノリスの説明)
本発明のモノリスは、骨格部である連続マクロポア構造体と、モノリス中に分散していると共に該骨格部と一体化していない特定の大きさを有する球状粒子とからなる。
【0015】
骨格部は、気泡状のマクロポア同士が重なり合い、この重なる部分が共通の開口(メソポア)となる連続マクロポア構造であり、開口の平均直径が0.1〜300μm、好ましくは1〜250μm、特に5〜200μmであり、該マクロポアと該開口で形成される気泡内が流路となる。マクロポアとマクロポアの重なりは、1個のマクロポアで1〜12個、多くのものは3〜10個である。連続マクロポア構造は、マクロポアの大きさや開口の径が揃った均一構造のものが好適であるが、これに限定されず、均一構造中、均一なマクロポアの大きさよりも大きく不均一なマクロポアが点在するものであってもよい。なお、ほとんどのマクロポアの大きさは、20〜200μmの範囲にある。開口の平均直径が小さ過ぎると、流体透過時の圧力損失が大きくなってしまうため好ましくなく、開口の平均直径が大き過ぎると、流体とモノリスとの接触が不十分となり、その結果、吸着特性が低下してしまうため好ましくない。上記開口(メソポア)の平均直径は、水銀圧入法により得られた細孔分布曲線の極大値を指すものである。
【0016】
球状粒子は、モノリス中に分散していると共に該骨格部と一体化していない粒子である。すなわち、球状粒子はモノリスのマクロポア内に存在するもの、あるいは骨格壁内に一部が埋没しているものなどが挙げられる。球状粒子がマクロポア内に存在する場合、球状粒子は骨格部とは一体化していないため、マクロポア内では浮遊または壁面に付着して存在する。また、球状粒子はほとんどが独立して存在するが、一部が凝集していてもよい。凝集している球状粒子はほとんどが2個又は3個の球状粒子が凝集したものである。一体化していないとは、球状粒子と骨格部とが組織的に連続していないことを意味する。
【0017】
球状粒子は粒子半径が0.1〜50μm、好ましくは1〜40μmである。また、球状粒子の90%は10〜30μmの範囲にある。球状粒子がこのような大きさであれば、マクロポアを押し広げて気泡部分を拡張することができる。また、球状粒子は連続マクロポア構造の骨格部と共存するため、流体透過時の圧力損失を低く抑えたまま、吸着容量を大きくすることができる。すなわち、球状粒子の大きさが小さ過ぎると、マクロポアの拡張効果が期待できない。また、球状粒子が大き過ぎると、逆に流体透過時の圧力損失が高くなる。また、球状粒子の粒子径は連続マクロポア構造におけるマクロポアとマクロポアの重なりの開口の大きさよりも大である。これにより、モノリスの気泡部分から球状粒子が脱落することがない。
【0018】
本発明のモノリスの連続気泡構造や球状粒子の大きさは、モノリスの切断面のSEM画像において観察することができる。
【0019】
また、本発明のモノリスは、1〜5ml/g、好適には1.5〜4ml/gの全細孔容積を有するものである。全細孔容積が小さ過ぎると、流体透過時の圧力損失が大きくなってしまうため好ましくなく、更に、単位断面積当りの透過流体量が小さくなり、処理能力が低下してしまうため好ましくない。一方、全細孔容積が大き過ぎると、体積当りの吸着容量が低下してしまうため好ましくない。本発明のモノリスは、球状粒子が連続マクロポア構造の骨格部と共存するユニークな構造を有し、且つ全細孔容積が上記範囲にあるため、これを吸着剤として用いた場合、流体との接触面積が大きく、かつ流体の円滑な流通が可能となるため、優れた性能が発揮できる。
【0020】
なお、モノリスに水を透過させた際の圧力損失は、多孔質体を1m充填したカラムに通水線速度(LV)1m/hで通水した際の圧力損失(以下、「差圧係数」と言う。)で示すと、0.005〜0.1MPa/m・LVの範囲、特に0.005〜0.05MPa/m・LVであることが好ましい。
【0021】
本発明のモノリスにおいて、連続マクロポア構造体の骨格や球状粒子を構成する材料は、架橋構造を有する有機ポリマー材料である。該ポリマー材料の架橋密度は特に限定されないが、ポリマー材料を構成する全構成単位に対して、0.5〜10モル%、好適には1〜8モル%の架橋構造単位を含んでいることが好ましい。架橋構造単位が0.5モル%未満であると、機械的強度が不足するため好ましくなく、一方、10モル%を越えると、多孔質体の脆化が進行し、柔軟性が失われるため好ましくなく、特に、イオン交換体の場合にはイオン交換基導入量が減少してしまうため好ましくない。
【0022】
該ポリマー材料の種類に特に制限はなく、例えば、ポリスチレン、ポリ(α-メチルスチレン)、ポリビニルトルエン、ポリビニルベンジルクロライド、ポリビニルビフェニル、ポリビニルナフタレン等の芳香族ビニルポリマー;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン等のポリ(ハロゲン化ポリオレフィン);ポリアクリロニトリル等のニトリル系ポリマー;ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸グリシジル、ポリアクリル酸エチル等の(メタ)アクリル系ポリマー等の架橋重合体が挙げられる。上記ポリマーは、単独のビニルモノマーと架橋剤を共重合させて得られるポリマーでも、複数のビニルモノマーと架橋剤を重合させて得られるポリマーであってもよく、また、二種類以上のポリマーがブレンドされたものであってもよい。これら有機ポリマー材料の中で、連続マクロポア構造形成の容易さ、イオン交換基導入の容易性と機械的強度の高さ、および酸・アルカリに対する安定性の高さから、芳香族ビニルポリマーの架橋重合体が好ましく、特に、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体やビニルベンジルクロライド−ジビニルベンゼン共重合体が好ましい材料として挙げられる。
【0023】
本発明のモノリスは、その厚みが5mm以上であり、膜状の多孔質体とは区別される。厚みが5mm未満であると、多孔質体一枚当りの吸着容量が極端に低下してしまうため好ましくない。該モノリスの厚みは、好適には5mm〜1000mmである。
【0024】
本発明のモノリスを吸着剤として使用する場合、例えば、円筒型カラムや角型カラムに、該モノリスを当該カラムに挿入できる形状に切り出したものを吸着剤として充填し、これにベンゼン、トルエン、フェノール、パラフィン等の疎水性物質を含有する被処理水を通水させれば、該吸着剤に前記疎水性物質が効率よく吸着される。
【0025】
(モノリスイオン交換体の説明)
次ぎに、本発明のモノリスイオン交換体について説明する。モノリスイオン交換体において、モノリスと同一構成要素については説明を省略し、異なる点について主に説明する。骨格部は、気泡状のマクロポア同士が重なり合い、この重なる部分が平均直径0.2〜750μm、好ましくは1〜500μm、特に5〜400μmの開口(メソポア)となる連続マクロポア構造体である。モノリスイオン交換体の開口の平均直径は、モノリスにイオン交換基を導入する際、モノリス全体が膨潤するため、モノリスの開口の平均直径よりも大となる。開口の平均直径が小さ過ぎると、流体透過時の圧力損失が大きくなってしまうため好ましくなく、開口の平均直径が大き過ぎると、流体とモノリスイオン交換体との接触が不十分となり、その結果、イオン交換特性が低下してしまうため好ましくない。上記開口の平均直径は、イオン交換基導入前の多孔質体の平均直径に、イオン交換基導入前後の多孔質体の膨潤率を乗じて算出した値で求めることができる。
【0026】
モノリスイオン交換体において、球状粒子の大きさは、0.2〜120μm、好ましくは1〜100μm、特に5〜80μmである。球状粒子がこのような大きさであれば、マクロポアを押し広げて気泡部分を拡張することができる。また、球状粒子は連続マクロポア構造の骨格部と共存するため、流体透過時の圧力損失を低く抑えたまま、イオン交換容量を大きくすることができる。
【0027】
また、モノリスイオン交換体の全細孔容積は、モノリスの全細孔容積と同様である。すなわち、モノリスにイオン交換基を導入することで膨潤し開口径が大きくなっても、球状粒子も膨潤し大きくなるので全細孔容積はほとんど変化しない。全細孔容積が1ml/g未満であると、流体透過時の圧力損失が大きくなってしまうため好ましくなく、更に、単位断面積当りの透過流体量が小さくなり、処理能力が低下してしまうため好ましくない。一方、全細孔容積が5ml/gを超えると、体積当りのイオン交換容量が低下してしまうため好ましくない。
【0028】
なお、モノリスイオン交換体に水を透過させた際の圧力損失は、モノリスに水を透過させた際の圧力損失と同様である。
【0029】
本発明のモノリスイオン交換体は、水湿潤状態での体積当りのイオン交換容量が0.3mg当量/ml以上、好ましくは0.3〜1.8mg当量/mlのイオン交換容量を有する。特開2002−306976号に記載されているような本発明とは異なる連続マクロポア構造を有する従来型のモノリス状有機多孔質イオン交換体では、実用的に要求される低い圧力損失を達成するために、開口径を大きくすると、全細孔容積もそれに伴って大きくなってしまうため、体積当りのイオン交換容量が低下する、体積当りの交換容量を増加させるために全細孔容積を小さくしていくと、開口径が小さくなってしまうため圧力損失が増加するといった欠点を有していた。それに対して、本発明のモノリスイオン交換体は、球状粒子によりマクロポアを大きくすると共に、連続マクロポア構造の骨格部を有するため、圧力損失を低く押さえたままで体積当りのイオン交換容量を飛躍的に大きくすることができる。体積当りのイオン交換容量が0.3mg当量/ml未満であると、破過までに処理できるイオンを含んだ水の量、即ち脱イオン水の製造能力が低下してしまうため好ましくない。なお、本発明のモノリスイオン交換体の重量当りのイオン交換容量は特に限定されないが、イオン交換基が多孔質体の表面及び骨格内部並びに球状粒子の表面及び粒子内部にまで均一に導入しているため、3〜5mg当量/gである。なお、イオン交換基が表面のみに導入された多孔質体のイオン交換容量は、多孔質体やイオン交換基の種類により一概には決定できないものの、せいぜい500μg当量/gである。
【0030】
本発明のモノリスに導入するイオン交換基としては、スルホン酸基、カルボン酸基、イミノ二酢酸基、リン酸基、リン酸エステル基等のカチオン交換基;四級アンモニウム基、三級アミノ基、二級アミノ基、一級アミノ基、ポリエチレンイミン基、第三スルホニウム基、ホスホニウム基等のアニオン交換基;アミノリン酸基、スルホベタイン等の両性イオン交換基が挙げられる。
【0031】
本発明のモノリスイオン交換体において、導入されたイオン交換基は、多孔質体や球状粒子の表面のみならず、多孔質体や球状粒子の骨格内部にまで均一に分布している。ここで言う「イオン交換基が均一に分布している」とは、イオン交換基の分布が少なくともμmオーダーで表面および骨格内部に均一に分布していることを指す。イオン交換基の分布状況は、EPMA等を用いることで、比較的簡単に確認することができる。また、イオン交換基が、モノリスの表面のみならず、多孔質体の骨格内部にまで均一に分布していると、表面と内部の物理的性質及び化学的性質を均一にできるため、膨潤及び収縮に対する耐久性が向上する。
【0032】
(モノリスの製造方法)
次に、モノリスの製造方法について説明する。すなわち、当該モノリスは、ビニルモノマー、架橋剤、界面活性剤、水および必要に応じて重合開始剤とを混合して油中水滴型エマルジョンを調製し、該油中水滴型エマルジョンを静置下、重合させて得られるが、該油中水滴型エマルジョンを調製する際の油溶性成分と水溶性成分の混合比(以下、単に、「油溶性成分濃度」とも言う。)を特定の範囲とすると共に、特定の界面活性剤を使用する。
【0033】
本発明で用いられるビニルモノマーとしては、分子中に重合可能なビニル基を含有し、水に対する溶解性が低く、親油性を示すものであれば特に制限はない。これらビニルモノマーの具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルベンジルクロライド等のスチレン系モノマー;エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン等のα−オレフィン;ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等のジエン系モノマー;塩化ビニル、臭化ビニル、塩化ビニリデン、テトラフルオロエチレン等のハロゲン化オレフィン;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル系モノマー;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸グリシジル等の(メタ)アクリル系モノマーが挙げられる。これらモノマーは、1種単独又は2種以上を組み合わせて使用することができる。本発明で好適に用いられるビニルモノマーは、スチレン、ビニルベンジルクロライド等のスチレン系モノマーである。
【0034】
本発明で用いられる架橋剤は、分子中に少なくとも2個の重合可能なビニル基を含有するものが好適に用いられる。架橋剤の具体例としては、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレン、ジビニルビフェニル、エチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ブタンジオールジアクリレート等が挙げられる。これら架橋剤は、1種単独又は2種以上を組み合わせて使用することができる。好ましい架橋剤は、機械的強度の高さと加水分解に対する安定性から、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレン、ジビニルビフェニル等の芳香族ポリビニル化合物である。架橋剤は、ビニルモノマーと架橋剤の合計量に対して1〜10%の割合で用いることが重要である。架橋剤を10%を超えて用いると、マクロポアの開口の大きさが小さくなってしまうため好ましくない。一方、架橋剤使用量が1%未満であると、多孔質体の機械的強度が不足し、通水時に大きく変形したり、多孔質体の破壊を招いたりするため好ましくない。
【0035】
本発明で用いる界面活性剤は、数平均分子量(Mn)が600〜1000の高分子量界面活性剤と、分子量が500以下、好ましくは100〜500の低分子量界面活性剤を混合して用いるもので、イオン交換基を含まない油溶性モノマーと水とを混合し、油溶性成分濃度を25%以上の高濃度にした際に、油中水滴型エマルジョンを形成できるものである。特開2002−306976号記載のモノリスは、油溶性成分濃度が10%あるいは15%であったため、低分子量界面活性剤の単独の使用でも安定した油中水滴型エマルジョンを形成することができた。しかし、油溶性成分濃度を25%以上にした場合、低分子量界面活性剤の単独の使用では油中水滴型エマルジョンが反応中に崩壊して2相分離するという問題がある。本発明においては油中水滴型エマルジョンを安定化させるために、高分子量界面活性剤と低分子量界面活性剤を併用したところ、意外にも連続気泡骨格の中に該骨格と一体化していない浮遊状の球状粒子が存在するという特異な多孔質構造を得たものである。なお、高分子量界面活性剤の単独使用では、従来と同様の連続マクロポア構造のモノリスが得られるのみである。数平均分子量はGPC測定におけるポリスチレン換算によるものである。
【0036】
高分子量界面活性剤は、ポリエチレングリコール脂肪酸エステルであり、具体的にはポリ(エチレングリコール)ビス(2−エチルヘキサノエート)、ポリ(エチレングリコール)ジオレエート、ポリ(エチレングリコール)ジステアレート、ポリ(エチレングリコール)ビス(ポリヒドロキシステアレート)等のABA型のブロック共重合体が挙げられる。これら高分子量界面活性剤は1種単独あるいは2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0037】
低分子量界面活性剤としては、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタントリオレート等の非イオン界面活性剤を用いることができる。これら低分子量界面活性剤は1種単独あるいは2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0038】
高分子量界面活性剤と低分子量界面活性剤の配合割合は、重量比で高分子量界面活性剤/低分子量界面活性剤=5/95〜95/5の範囲で使用することが、安定した油中水滴型エマルジョンを形成させ、連続気泡構造の中に球状粒子を分散させることができる点で好ましい。高分子量界面活性剤が5%未満だと安定した油中水滴型エマルジョンが得られず、95%を越えると球状粒子が形成しないので好ましくない。
【0039】
なお、油中水滴型エマルジョンとは、油相が連続相となり、その中に水滴が分散しているエマルジョンを言う。上記界面活性剤の添加量は、油溶性モノマーの種類および目的とするエマルジョン粒子(マクロポア)の大きさによって大幅に変動するため一概には言えないが、油溶性モノマーと界面活性剤の合計量に対して2〜20%の範囲で選択することができる。
【0040】
重合開始剤としては、熱及び光照射によりラジカルを発生する化合物が好適に用いられる。重合開始剤は水溶性であっても油溶性であっても良く、例えば、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、過酸化ベンゾイル、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素-塩化第一鉄、過硫酸ナトリウム-酸性亜硫酸ナトリウム、テトラメチルチウラムジスルフィド等が挙げられる。ただし、場合によっては、開始剤を添加しなくても加熱のみや光照射のみで重合が進行する系もあるため、そのような系では開始剤の添加は不要である。
【0041】
ビニルモノマー、架橋剤、界面活性剤、水および必要に応じて重合開始剤とを混合し、油中水滴型エマルジョンを形成させる際の混合方法としては、特に制限はなく、各成分を一括して一度に混合する方法;油溶性モノマー、界面活性剤および油溶性重合開始剤である油溶性成分と、水や水溶性重合開始剤である水溶性成分とを別々に均一溶解させた後、それぞれの成分を混合する方法等が使用できる。
【0042】
モノリスの製造方法において、油中水滴型エマルジョンを調製する際の油溶性成分と水溶性成分の混合比が、重量比で油溶性成分/水溶性成分=25/75〜40/60、好ましくは26/74〜36/64である。25重量%未満では、連続マクロポア構造のモノリスができるのみであり、本願発明の特有な構造のモノリスは得られない。油溶性成分は、ビニルモノマー、架橋剤及び油溶性重合開始剤を言い、水溶性成分は、水及び水溶性重合開始剤を言う。
【0043】
エマルジョンを形成させるための混合装置としては、被処理物を混合容器に入れ、該混合容器を傾斜させた状態で公転軸の周りに公転させながら自転させることで、被処理物を攪拌混合する、所謂遊星式攪拌装置と称されるものが使用できる。この遊星式攪拌装置は、例えば、特開平6−71110号公報や特開平11−104404号公報等に開示されているような装置である。本装置の原理は、混合容器を公転させながら自転させることにより、その遠心力作用を利用して該被処理物中の比重の重い成分を外側に移動させ攪拌すると共に、混入する気体をその反対方向に押し出して脱泡するものである。更に、該容器は公転しながら自転しているため、該容器内の該被処理物にらせん状に流れ(渦流)が発生し、攪拌作用を高める。該装置は大気圧下で運転しても良いが、脱泡を短時間で完全に行うためには、減圧下で運転することが好ましい。
【0044】
また、混合条件は、目的のエマルジョン粒径や分布を得ることができる公転及び自転回転数や攪拌時間を、任意に設定することができる。好ましい公転回転数は、回転させる容器の大きさや形状にもよるが、約500〜2000回転/分である。また、好ましい自転回転数は、公転回転数の1/3前後の回転数である。攪拌時間も内容物の性状や容器の形状や大きさによって大きく変動するが、一般に0.5〜30分、好ましくは1〜20分の間で設定する。更に、用いられる容器の形状は、底面直径に対し、充填物の高さが0.5〜5となるよう、充填物を収容可能な形状が好ましい。
【0045】
このようにして得られた油中水滴型エマルジョンを重合させる重合条件は、モノマーの種類、開始剤系により様々な条件が選択できる。例えば、開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル、過酸化ベンゾイル、過硫酸カリウム等を用いたときには、不活性雰囲気下の密封容器内において、30〜100℃で1〜48時間加熱重合させればよく、開始剤として過酸化水素-塩化第一鉄、過硫酸ナトリウム-酸性亜硫酸ナトリウム等を用いたときには、不活性雰囲気下の密封容器内において、0〜30℃で1〜48時間重合させればよい。重合終了後、内容物を取り出し、必要であれば、未反応モノマーと界面活性剤除去を目的に、アセトン、2−プロパノール等の溶剤で抽出して有機多孔質体を得る。
【0046】
油中水滴型エマルジョンが重合して、連続気泡構造と浮遊する球状粒子の混合体が得られる理由については不明ではあるが、油中水滴型エマルジョン中の油分が重合して骨格構造部分と球状粒子を形成し、水滴部分が気泡部を形成することから、重合時に油中水滴型エマルジョンの一部が反転して油中水滴型エマルジョンの水中で油滴を形成するためと思われる。
【0047】
(モノリスイオン交換体の製造方法)
次に、本発明のモノリスイオン交換体の製造方法について説明する。該モノリスイオン交換体の製造方法としては、特に制限はないが、上記の方法によりモノリスを製造した後、イオン交換基を導入する方法が、得られるモノリスイオン交換体の多孔構造を厳密にコントロールできる点で好ましい。
【0048】
上記モノリスにイオン交換基を導入する方法としては、特に制限はなく、高分子反応やグラフト重合等の公知の方法を用いることができる。例えば、スルホン酸基を導入する方法としては、モノリスがスチレン-ジビニルベンゼン共重合体等であればクロロ硫酸や濃硫酸、発煙硫酸を用いてスルホン化する方法;モノリスに均一にラジカル開始基や連鎖移動基を骨格表面及び骨格内部、並びに球状粒子の表面及び粒子内部に導入し、スチレンスルホン酸ナトリウムやアクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸をグラフト重合する方法;同様にグリシジルメタクリレートをグラフト重合した後、官能基変換によりスルホン酸基を導入する方法等が挙げられる。また、四級アンモニウム基を導入する方法としては、モノリスがスチレン-ジビニルベンゼン共重合体等であればクロロメチルメチルエーテル等によりクロロメチル基を導入した後、三級アミンと反応させる方法;モノリスをクロロメチルスチレンとジビニルベンゼンの共重合により製造し、三級アミンと反応させる方法;モノリスに、均一にラジカル開始基や連鎖移動基を骨格表面及び骨格内部導入し、N,N,N−トリメチルアンモニウムエチルアクリレートやN,N,N−トリメチルアンモニウムプロピルアクリルアミドをグラフト重合する方法;同様にグリシジルメタクリレートをグラフト重合した後、官能基変換により四級アンモニウム基を導入する方法等が挙げられる。また、ベタインを導入する方法としては、上記の方法によりモノリスに三級アミンを導入した後、モノヨード酢酸を反応させ導入する方法等が挙げられる。これらの方法のうち、スルホン酸基を導入する方法については、クロロ硫酸を用いてスチレン-ジビニルベンゼン共重合体にスルホン酸基を導入する方法が、四級アンモニウム基を導入する方法としては、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体にクロロメチルメチルエーテル等によりクロロメチル基を導入した後、三級アミンと反応させる方法やクロロメチルスチレンとジビニルベンゼンの共重合によりモノリスを製造し、三級アミンと反応させる方法が、イオン交換基を均一かつ定量的に導入できる点で好ましい。なお、導入するイオン交換基としては、カルボン酸基、イミノ二酢酸基、スルホン酸基、リン酸基、リン酸エステル基等のカチオン交換基;四級アンモニウム基、三級アミノ基、二級アミノ基、一級アミノ基、ポリエチレンイミン基、第三スルホニウム基、ホスホニウム基等のアニオン交換基;アミノリン酸基、ベタイン、スルホベタイン等の両性イオン交換基が挙げられる。
【0049】
本発明のモノリスイオン交換体は、モノリスにイオン交換基が導入されるため例えばモノリスの1.4〜2.5倍のように大きく膨潤する。すなわち、特開2002−306976記載の従来のモノリスにイオン交換基が導入されたものよりも膨潤度が遥かに大きい。このため、モノリスの開口径が小さいものであっても、モノリスイオン交換体の開口径は概ね、上記倍率で大きくなる。また、開口径が膨潤で大きくなっても全細孔容積は変化しない。従って、本発明のモノリスイオン交換体は、連続マクロポア構造の骨格と、該骨格中に分散する球状粒子により、水湿潤状態での体積当りのイオン交換容量を大きくでき、被処理水を低圧、大流量で長期間通水することが可能であり、2床3塔式純水製造装置や電気式脱イオン水製造装置に充填して好適に用いることができる。
【0050】
次に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これは単に例示であって、本発明を制限するものではない。
【実施例1】
【0051】
(モノリス状有機多孔質体の製造)
スチレン58.8g、ジビニルベンゼン1.2g、数平均分子量(Mn)が1000のポリ(エチレングリコール)ビス(ポリヒドロキシステアレート)(「ハイパーマー1084」、ユニケマ社製)1.86g、分子量428のソルビタンモノオレエート1.86gおよび2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)0.13gを混合し均一に溶解させた。次にポリエチレン製円筒型容器に当該混合物を入れ、純水140gを添加した。遊星式撹拌装置である真空撹拌脱泡ミキサー(「VMX−360」、イーエムイー社製)を用いて5〜20℃の温度範囲において減圧下、公転回転数1800rpm、自転回転数600rpmで5分間攪拌して、油中水滴型エマルジョンを得た。このエマルジョンを窒素で十分置換した反応容器に速やかに移し、密封後静置下で60℃、24時間重合させた。重合終了後、内容物を取り出し、アセトンで8時間ソックスレー抽出し、未反応モノマーと界面活性剤を除去した後、85℃で一昼夜減圧乾燥した。得られた円筒型モノリス状有機多孔質体の直径は59mmであった。油中水滴型エマルジョン調製の際の油溶性成分濃度は31%、水溶性成分濃度は69%である。
【0052】
このようにして得られたスチレン−ジビニルベンゼン共重合体よりなるモノリスのSEM写真を図1(150倍)及び図2(600倍)に示す。図1及び図2から明らかなように、当該モノリスは連続マクロポア構造を骨格とし、球状粒子が該骨格とは組織的に連続せず、且つ該モノリス中に分散し共存する構造を呈していた。球状粒子は大部分がマクロポア内に1個で存在し、一部はマクロポア内に3個〜5個で存在し、また、一部は骨格内に一部が埋没するように存在していた。また、一部の球状粒子は2個のマクロポアに跨るように存在し、マクロポアの径を拡張するように存在していた。また、水銀圧入法により測定した当該モノリスの開口の平均直径は16μm、全細孔容積は1.24ml/gであった。細孔分布曲線を図3に示す。また、結果を表1にまとめて示す。表1中、「PEG」はポリ(エチレングリコール)の略である。
【実施例2】
【0053】
高分子量界面活性剤をポリ(エチレングリコール)ビス(ポリヒドロキシステアレート)に代えて、Mnが949のポリ(エチレングリコール)ジステアレート(アルドリッチ製)とした以外は、実施例1と同様の方法でモノリスを製造した。モノリスのSEM写真を図4に示す。図4のSEM画像による観察結果は実施例1と同様であった。また、水銀圧入法により測定した当該モノリスの開口の平均直径は12μm、全細孔容積は1.22ml/gであった。結果を表1にまとめて示す。
【実施例3】
【0054】
高分子量界面活性剤をポリ(エチレングリコール)ビス(ポリヒドロキシステアレート)に代えて、Mnが871のポリ(エチレングリコール)ジオレエート(アルドリッチ製)とした以外は、実施例1と同様の方法でモノリスを製造した。このモノリスのSEM写真を図5に示す。図5のSEM画像による観察結果は実施例1と同様であった。また、水銀圧入法により測定した当該モノリスの開口の平均直径は13μm、全細孔容積は1.19ml/gであった。結果を表1にまとめて示す。
【実施例4】
【0055】
高分子量界面活性剤をポリ(エチレングリコール)ビス(ポリヒドロキシステアレート)に代えて、Mnが622のポリ(エチレングリコール)ビス(2−エチルヘキサノエート)(アルドリッチ製)とした以外は、実施例1と同様の方法でモノリスを製造した。このモノリスのSEM写真を図6に示す。図6のSEM画像による観察結果は実施例1と同様であった。また、水銀圧入法により測定した当該モノリスの開口の平均直径は8μm、全細孔容積は1.15ml/gであった。結果を表1にまとめて示す。
【実施例5】
【0056】
ジビニルベンゼンに代えて、ジビニルビフェニルとした以外は、実施例1と同様の方法でモノリスを製造した。すなわち、実施例5は架橋剤の種類を変更したものである。このモノリスのSEM写真を図7に示す。図7のSEM画像による観察結果は実施例1と同様であった。また、水銀圧入法により測定した当該モノリスの開口の平均直径は14μm、全細孔容積は1.20ml/gであった。結果を表1にまとめて示す。
【実施例6】
【0057】
スチレン58.8g、ジビニルベンゼン1.2g及び純水140gに代えて、スチレン49.0g、ジビニルベンゼン1.0g及び純水150gとした以外は、実施例1と同様の方法でモノリスを製造した。実施例6において、油中水滴型エマルジョン調製の際の油溶性成分濃度は26%、水溶性成分濃度は74%であった。このモノリスのSEM写真を図8に示す。図8のSEM画像による観察結果は実施例1と同様であった。また、水銀圧入法により測定した当該モノリスの開口の平均直径は10μm、全細孔容積は2.46ml/gであった。結果を表1にまとめて示す。
【実施例7】
【0058】
スチレン58.8g、ジビニルベンゼン1.2g及び純水140gに代えて、ビニルベンジルクロライド49.0g、ジビニルベンゼン1.0g及び純水150gとした以外は、実施例1と同様の方法でモノリス状有機多孔質体を製造した。実施例7において、油中水滴型エマルジョン調製の際の油溶性成分濃度は26%、水溶性成分濃度は74%であった。このモノリスのSEM写真を図9に示す。図9のSEM画像による観察結果は実施例1と同様であった。また、水銀圧入法により測定した当該モノリスの開口の平均直径は6μm、全細孔容積は1.16ml/gであった。結果を表1にまとめて示す。
【実施例8】
【0059】
スチレン58.8g、ジビニルベンゼン1.2g及び純水140gに代えて、スチレン68.6g、ジビニルベンゼン1.4g及び純水130gとした以外は、実施例1と同様の方法でモノリスを製造した。実施例8において、油中水滴型エマルジョン調製の際の油溶性成分濃度は36%、水溶性成分濃度は64%であった。このモノリスのSEM写真を図10に示す。図10のSEM画像による観察結果は実施例1と同様であった。また、水銀圧入法により測定した当該モノリスの開口の平均直径は7μm、全細孔容積は1.10ml/gであった。結果を表1にまとめて示す。
【0060】
比較例1
ポリ(エチレングリコール)ビス(ポリヒドロキシステアレート)を使用しなかったこと、ソルビタンモノオレエートの配合量1.86gに代えて3.83gとしたこと以外は、実施例1と同様の方法でモノリスを製造した。重合終了後、内容物を取り出したところ、相分離していた。この結果から、油溶性成分濃度31%の油中水滴型エマルジョンで、高分子量界面活性剤を使用しないと、例え低分子量界面活性剤の配合量を多くしても連続マクロポア構造や本発明の特異な構造の多孔質体は得られないことが判る。
【0061】
比較例2
ソルビタンモノオレエートを使用しかなったこと、ポリ(エチレングリコール)ビス(ポリヒドロキシステアレート)の配合量1.86gに代えて3.16gとしたこと、攪拌時間5分に代えて10分としたこと以外は、実施例1と同様の方法でモノリスを製造した。このようにして得られたスチレン−ジビニルベンゼン共重合体よりなるモノリスのSEM写真を図11に示す。図11から明らかなように、連続マクロポア構造を形成しているが、球状粒子の存在は認められなかった。また、水銀圧入法により測定した当該モノリスの開口の平均直径は6μm、全細孔容積は、0.57ml/gであった。細孔分布曲線を図12に示す。この結果から、油溶性成分濃度31%の油中水滴型エマルジョンで、低分子量界面活性剤を使用しないと、例え高分子量界面活性剤の配合量を多くして攪拌を長くしても連続マクロポア構造が得られるのみで、本発明の特異な構造の多孔質体は得られないことが判る。また、この連続マクロポア構造もモノリスの開口径や全細孔容積が小さく、骨格部分の占める割合が大のものであった。
【0062】
比較例3
ソルビタンモノオレエートを使用しなかったこと、ポリ(エチレングリコール)ビス(ポリヒドロキシステアレート)の配合量1.86gに代えて2.63gとしたこと以外は、実施例6と同様の方法でモノリスを製造した。このようにして得られたスチレン−ジビニルベンゼン共重合体よりなるモノリスのSEM写真を図13に示す。図13から明らかなように、連続マクロポア構造を形成しているが、球状粒子の存在は認められなかった。また、水銀圧入法により測定した当該モノリスの開口の平均直径は7μm、全細孔容積は、0.98ml/gであった。その結果を表1に示す。
【実施例9】
【0063】
(モノリスカチオン交換体の製造)
実施例6で製造したモノリスを厚み15mmの円盤状に切断し15.9gを分取した。これにジクロロメタン1000mlを加え35℃で30分加熱した後、10℃以下まで冷却し、クロロスルホン酸87.1gを徐々に加え、再び昇温し、35℃で24時間反応させた。その後、室温まで冷却し、メタノールを加え残存するクロロスルホン酸をクエンチした後、メタノールで洗浄してジクロロメタンを除き、さらに純水で洗浄してモノリス状有機多孔質カチオン交換体を得た。得られたカチオン交換体の直径は145mm、体積当りのイオン交換容量は、水湿潤状態0.47mg当量/mlであった。また、水を透過させた際の圧力損失の指標である差圧係数は0.024MPa/m・LVであり、実用上要求される圧力損失と比較して低い圧力損失であった。結果を表2にまとめて示す。
【実施例10】
【0064】
(モノリスアニオン交換体の製造)
実施例7で製造したモノリスを厚み15mm円盤状に切断し21.7gを分取した。これにテトラヒドロフラン1000mlを加え、40℃で1時間加熱した後、10℃以下まで冷却し、トリメチルアミン30%水溶液140gを徐々に加え、昇温して40℃で24時間反応させた。反応終了後、生成物を取り出し、メタノール、純水の順で洗浄し、モノリス状有機多孔質アニオン交換体を得た。得られたアニオン交換体の直径は100mm、体積当りのイオン交換容量は、水湿潤状態で0.34mg当量/mlであった。また、水を透過させた際の圧力損失の指標である差圧係数は0.042MPa/m・LVであった。結果を表2に示す。
【実施例11】
【0065】
実施例6で製造したモノリス15.9gに代えて、実施例1で製造したモノリス14.8gを分取したこと、クロロスルホン酸の使用量87.1gに代えて、81.1gとしたこと以外は、実施例9と同様の方法でモノリス状有機多孔質カチオン交換体を製造した。得られたカチオン交換体の直径は144mm、体積当りのイオン交換容量は、水湿潤状態で0.37mg当量/mlであった。また、水を透過させた際の圧力損失の指標である差圧係数は0.054MPa/m・LVであった。結果を表2に示す。
【実施例12】
【0066】
実施例6で製造したモノリス15.9gに代えて、実施例8で製造したモノリス19.8gを分取したこと、クロロスルホン酸の使用量87.1gに代えて、108.9gとしたこと以外は、実施例9と同様の方法でモノリス状有機多孔質カチオン交換体を製造した。結果を表2に示す。得られたカチオン交換体の直径は149mm、体積当りのイオン交換容量は、水湿潤状態で0.37mg当量/mlであった。また、水を透過させた際の圧力損失の指標である差圧係数は0.100MPa/m・LVであった。結果を表2に示す。
【0067】
比較例4
実施例6で製造したモノリス15.9gに代えて、比較例3で製造したモノリス10.6gを分取したこと、クロロスルホン酸の使用量87.1gに代えて、58.2gとしたこと以外は、実施例9と同様の方法でモノリス状有機多孔質カチオン交換体を製造した。得られたカチオン交換体の直径は123mm、体積当りのイオン交換容量は、水湿潤状態で0.34mg当量/mlであった。また、水を透過させた際の圧力損失の指標である差圧係数は0.175MPa/m・LVであった。結果を表2に示す。
【0068】
比較例5
実施例6で製造したモノリス15.9gに代えて、比較例2で製造した有機多孔質体16.2gを分取したこと、クロロスルホン酸の使用量87.1gに代えて、89.1gとしたこと以外は、実施例9と同様の方法で製造した。その結果、このモノリスカチオン交換体はクラックが発生し、中心部は未反応であった。
【0069】
【表1】

【0070】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明のモノリス状有機多孔質体およびモノリス状有機多孔質イオン交換体は、新規でユニークな多孔質構造であるため、吸着容量やイオン交換容量が大きい上に圧力損失が極めて低いといった特長を有している。このため、フィルターや吸着剤;2床3塔式純水製造装置や電気式脱イオン水製造装置に充填して用いられるイオン交換体;各種のクロマトグラフィー用充填剤;固体酸/塩基触媒として有用であり、広範な用途分野に応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】実施例1で得られた有機多孔質体のSEM写真(150倍)である。
【図2】実施例1で得られた有機多孔質体のSEM写真(600倍)である。
【図3】実施例1で得られた有機多孔質体の細孔分布曲線である。
【図4】実施例2で得られた有機多孔質体のSEM写真である。
【図5】実施例3で得られた有機多孔質体のSEM写真である。
【図6】実施例4で得られた有機多孔質体のSEM写真である。
【図7】実施例5で得られた有機多孔質体のSEM写真である。
【図8】実施例6で得られた有機多孔質体のSEM写真である。
【図9】実施例7で得られた有機多孔質体のSEM写真である。
【図10】実施例8で得られた有機多孔質体のSEM写真である。
【図11】比較例2で得られた有機多孔質体のSEM写真である。
【図12】比較例2で得られた有機多孔質体の細孔分布曲線である。
【図13】比較例3で得られた有機多孔質体のSEM写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気泡状のマクロポア同士が重なり合い、この重なる部分が開口となる連続マクロポア構造の骨格部と、モノリス状有機多孔質体中に分散していると共に該骨格部と一体化していない粒子半径0.1〜50μmの球状粒子とからなり、全細孔容積が1〜5ml/g、厚みが5mm以上であることを特徴とするモノリス状有機多孔質体。
【請求項2】
ビニルモノマー、架橋剤、界面活性剤、水および必要に応じて重合開始剤とを混合して油中水滴型エマルジョンを調製し、該油中水滴型エマルジョンを静置下、重合させてモノリス状有機多孔質体を製造する方法であって、該油中水滴型エマルジョンを調製する際の油溶性成分と水溶性成分の混合比が、重量比で油溶性成分/水溶性成分=25/75〜40/60であり、該界面活性剤として数平均分子量(Mn)600〜1000の高分子量界面活性剤と分子量が500以下の低分子量界面活性剤を必須として用いることを特徴とするモノリス状有機多孔質体の製造方法。
【請求項3】
該高分子量界面活性剤が、ポリエチレングリコール脂肪酸エステルであることを特徴とする請求項2記載のモノリス状有機多孔質体の製造方法。
【請求項4】
気泡状のマクロポア同士が重なり合い、この重なる部分が開口となる連続マクロポア構造の骨格部と、モノリス状有機多孔質体中に分散していると共に該骨格部と一体化していない粒子半径0.2〜120μmの球状粒子とからなり、全細孔容積が1〜5ml/g、厚みが5mm以上であり、通水時の差圧係数が0.005〜0.1MPa/m・LV、水湿潤状態での体積当りのイオン交換容量が0.3mg当量/ml以上であることを特徴とするモノリス状有機多孔質イオン交換体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−127039(P2009−127039A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−307327(P2007−307327)
【出願日】平成19年11月28日(2007.11.28)
【出願人】(000004400)オルガノ株式会社 (606)
【Fターム(参考)】