説明

モルタル充填装置及び該装置を用いた既成窓の耐火補修工法

【課題】合成樹脂製の既成窓枠の内部空間への耐熱性モルタルの充填を容易にすることができ、現場にて既成窓枠の耐火補修作業を円滑に行えるようにする。
【解決手段】既成窓枠3内の内部空間5に連通するように開口させた充填口24に取り付けられ、かつ吐出口12が設けられた前端部を前記内部空間5に向けて挿入する外筒8を備えるとともに、前記吐出口12を、モルタル供給手段に接続された前記外筒8と離脱可能に係着されるノズル10によって、開閉操作しうるようにし、かつ前記吐出口12の開状態において、前記モルタル供給手段からの耐熱性モルタル6を、吐出口12を介して、前記内部空間5内に向けて圧送することにより充填し、モルタル充填後に、吐出口12を閉状態にして、前記外筒6とノズル10との係着状態を開放して離脱しうるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、住宅や事務所等の建物における躯体の開口部に組み付けられた、合成樹脂からなる中空な窓枠(以下、既成窓枠という)の耐火補修に用いられるモルタル充填装置及び該装置を用いた既成窓の耐火補修工法に関する。
【背景技術】
【0002】
建物は、防災上の観点から不燃化が進められており、特に、火災時における窓からの類焼を避けるために、窓の外部から迫る火炎または輻射熱による着火等による類焼を防止することが重要な課題となっている。
【0003】
建物の窓、たとえば引違い戸式または開き戸式の開閉窓あるいは嵌殺し窓等においては、断熱性、防音性および耐腐食性にすぐれた中空構造を有する合成樹脂からなる窓枠が、特に寒冷地や防音対策を必要とする建物などに多く使用されている。
【0004】
従来、窓に防火対策を施す場合、建築基準法および同施工令等によって、火炎に対する防火性能が規定されている。
たとえば木造三階建などの住宅では、ガラス窓の防火試験を行う際に、ガスバーナ等を用い、放射される火炎が窓ガラス面に直接触れないように所定の距離を隔てるとともに、加熱温度が、ISO(国際標準化機構)に規定されている標準加熱温度曲線(該標準加熱温度曲線に従えば、20分後には781℃に達する)となるように、室内又は室外の方向から加熱したときに、それぞれ加熱を開始してから20分間、非加熱側に延焼しないという条件、具体的には、
(1)非加熱側へ10秒を超えて継続する火炎の噴出がない
(2)非加熱面で10秒を超えて継続する発炎がない
(3)火炎が通る亀裂等の損傷および隙間が生じない
という3条件を同時に満たす必要がある。
【0005】
このような要求を満たすためには、窓を構成するサッシ材自体が防火性を有するだけでなく、火災時においてガラスあるいはガラスと一体化された障子が脱落し難いことが重要である。
また、火災時におけるガラス又は障子の脱落は、樹脂製の窓枠が加熱によって軟化して変形することにより、ガラス又は障子を支持できなくなることに起因するものであり、このような加熱時における変形が起こり難い防火性樹脂サッシとして、樹脂サッシの空洞部に特定組成のセメント組成物からなる耐火性モルタルを充填し硬化させたものが公知である(特許文献1)。
【0006】
新規に構築される建物の窓では、躯体の開口部に組み付けられる窓枠または窓框を構成する部材の内部空間に、予め工場においてセメント組成物からなる耐熱性モルタルを充填して、耐火処理を施した後、現場において組み付けることにより、防火対策を講じることができる。
【0007】
しかし、特許文献1に記載のセメント組成物によって、既に構築された建物の窓、特に、既成窓枠を防火構造に補修しようとする場合、窓枠が躯体の開口部に固定されており、破壊すること以外には、取外すことができないため、現場にて既成窓枠に耐火補修を施すことが困難であるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第2774897号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前記の現状に鑑み、合成樹脂製の既成窓枠の内部空間への耐熱性モルタルの充填を容易にすることができ、現場にて既成窓枠の耐火補修作業を円滑に行うことができるようにしたモルタル充填装置及び該装置を用いた既成窓の耐火補修工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題は、「特許請求の範囲」の欄における各請求項に記載するように、次のような構成からなる発明によって解決される。
(1) 建物躯体の開口部に固定された合成樹脂からなる中空な既成窓枠内の内部空間に、耐熱性モルタルを充填するモルタル充填装置であって、前記既成窓枠内の内部空間に連通するように開口させた充填口に取り付けられ、かつ吐出口が設けられた前端部を前記内部空間に向けて挿入する外筒を備えるとともに、前記吐出口を、モルタル供給手段に接続され前記外筒と離脱可能に係着されるノズルによって、開閉操作しうるようにし、かつ前記吐出口の開状態において、前記モルタル供給手段からの耐熱性モルタルを、吐出口を介して、前記内部空間内に向けて圧送することにより充填し、モルタル充填後に、吐出口を閉状態にして、前記外筒とノズルとの係着状態を開放して離脱しうるようにする。
【0011】
(2) 上記(1)項において、既成窓枠内の内部空間に連通するように開口させた充填口に取り付けられ、かつその前端部を前記内部空間に向けて挿入する外筒と、この外筒内に同軸的に回動可能に挿嵌された内筒と、この内筒の後端部内に互いに係合しうるように挿入される挿入筒部を有し、かつこの挿入筒部に前記外筒の後端部に設けた係合部に離脱可能に係着しうる係止部を設けたノズルとを備えるとともに、前記外筒と内筒とに、前記ノズルの回動操作に連動する内筒の回動によって、互いに開閉可能に連通する吐出口からなるシャッター開閉機構を設け、かつこのシャッター開閉機構の開状態において、前記ノズルに接続されるモルタル供給手段からの耐熱性モルタルを、前記吐出口を介して、前記内部空間に向けて圧送することにより充填し、モルタル充填後に、前記シャッター開閉機構を閉状態にして、前記外筒とノズルとの係着状態を開放することにより、前記ノズルの挿入筒部を内筒内から離脱しうるようにする。
【0012】
(3) 上記(2)項において、外筒の後端部外周に、既成窓枠における充填口の周囲に固定される取付部を張出し形成するとともに、この取付部に、内筒内に挿入されるノズルの挿入筒部に設けた係止部が係脱可能に係合される係合部を形成する。
【0013】
(4) 上記(2)項または(3)項において、内筒の後端部に、係合溝を形成するとともに、この係合溝に、ノズルの挿入筒部に形成した係止突起を係合させる。
【0014】
(5) 上記(2)〜(3)項のいずれかにおいて、外筒と内筒との間に、互いに凹凸係合可能なストッパーを設けることにより、シャッター開閉機構の開位置および閉塞位置を保持するようにする。
【0015】
(6) 上記(1)〜(5)項のいずれかに記載のモルタル充填装置を用いた既成窓の耐火補修工法であって、既成窓枠に、この既成窓枠内の内部空間に連通する充填口を孔開け加工するとともに、この充填口を通して、前記内部空間にモルタル供給手段から圧送される耐熱性モルタルを圧送し充填する。
【0016】
(7) 上記(6)項において、既成窓枠に、この既成窓枠内の内部空間に連通する充填口を孔開け加工する工程と、この充填口に、外筒の前端部を挿入するとともに、その後端部に張出し形成した取付部を前記既成窓枠における充填口の周囲に固定する工程と、前記外筒内に同軸的に回動可能に挿嵌した内筒の後端部内に、モルタル供給手段に供給ホースを介して接続したノズルの挿入筒部を互いに係合させて挿入するとともに、前記ノズルの係止部を、前記外筒の係合部に離脱可能に係着させる工程と、前記ノズルの回動操作をもってシャッター開閉機構を開状態にするとともに、前記モルタル供給手段から圧送される耐熱性モルタルを、前記内部空間に向けて圧送し充填する工程と、モルタル充填後に、前記シャッター開閉機構をノズルの回動操作をもって閉塞して、前記外筒とノズルとの係着状態を開放し、前記ノズルを内筒内から離脱させる工程とを備える。
【0017】
(8) 上記(7)項において、モルタル充填後の内筒からのノズルの離脱状態において、既成窓枠の内周面に外装材を外装するか、または外筒の取付部に、カバーを嵌着することにより、既成窓枠における充填口に被覆処理を施すようにする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によると、次のような効果を奏することができる。
請求項1記載の発明によれば、既成窓枠内の内部空間に連通するように開口させた充填口に、吐出口を設けた前端部が内部空間に向けて挿入される外筒を取り付けるとともに、前記吐出口を、モルタル供給手段に接続され前記外筒と離脱可能に係着されるノズルによって、開閉操作しうるようにし、かつ前記吐出口の開状態において、前記モルタル供給手段からの耐熱性モルタルを、吐出口を介して、前記内部空間内に向けて圧送することにより充填し、モルタル充填後に、吐出口を閉状態にして、前記外筒とノズルとの係着状態を開放して離脱しうるようにしてあるため、既成窓枠内の内部空間に耐熱性モルタルを容易に充填することができるとともに、耐熱性モルタルの逆流を防止することができ、作業者の着衣や周囲を汚すことなく、耐火補修作業を円滑に行うことができる。
【0019】
請求項2記載の発明によれば、既成窓枠内の内部空間に連通する充填口に、外筒を挿入し、この外筒内に同軸的に回動可能に挿嵌した内筒に、ノズルを係合させて挿入し、このノズルに設けた係止部を、外筒に設けた係合部に離脱可能に係着するとともに、外筒と内筒とに、ノズルの回動操作に連動する内筒の回動により、互いに開閉可能に設けたシャッター開閉機構の開状態において、モルタル供給手段からの耐熱性モルタルを、内部空間に向けて圧送して充填しているため、既成窓枠内の内部空間に耐熱性モルタルを容易に充填することができる。
また、モルタル充填後に、シャッター開閉機構をノズルの回動操作により閉塞して、ノズルと外筒との係着状態から開放し、ノズルを内筒内から離脱しうるようにしているため、耐熱性モルタルの逆流を防止することができ、作業者の着衣や周囲を汚すことなく、耐火補修作業を円滑に行うことができる。
【0020】
請求項3記載の発明によれば、外筒の後端部外周に、既成窓枠における充填口の周囲に固定される取付部を張出し形成するとともに、この取付部に、内筒内に挿入されるノズルの挿入筒部に設けた係止部が係脱可能に係合される係合部を形成してあるため、外筒を既成窓枠における充填口の周囲に安定して取り付けることができるとともに、外筒に対する内筒の係着によって、ノズルの回動操作に連動する内筒の回動、すなわちシャッター開閉機構の開閉を円滑に行うことができる。
【0021】
請求項4記載の発明によれば、内筒の後端部に、係合溝を形成するとともに、この係合溝に、ノズルの挿入筒部に形成した係止突起を係合させてあるため、ノズルの回動操作による内筒の回動を円滑に行うことができる。
【0022】
請求項5記載の発明によれば、外筒と内筒との間に、互いに凹凸係合可能なストッパーを設けることにより、シャッター開閉機構の開位置および閉塞位置を保持するようにしてあるため、シャッター開閉機構の不用意な開閉を防止することができる。
【0023】
請求項6記載の発明によれば、既成窓枠の耐火補修作業を容易に行うことができる。
【0024】
請求項7記載の発明によれば、既成窓枠の耐火補修作業を円滑に行うことができる。
【0025】
請求項8記載の発明によれば、モルタル充填後の内筒からのノズルの離脱状態において、既成窓枠の内周面に外装材を外装するか、または外筒の取付部に、カバーを嵌着することにより、既成窓枠における充填口に被覆処理を施すようにしてあるため、耐火補修後に、既成窓枠の充填口を有効に目隠しすることができる。
発明の具体的な内容は、次のとおりである。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明のモルタル充填装置を用いた耐火補修後の既成窓の一実施形態を一部破断して示す斜視図である。
【図2】図1におけるII−II線の要部拡大横断面図である。
【図3】本発明におけるモルタル充填装置の一実施形態を示し、シャッター開閉機構の閉塞状態における斜視図である。
【図4】図3におけるIV−IV線の要部拡大縦断面図である。
【図5】モルタル充填装置の分解斜視図である。
【図6】モルタル充填装置におけるシャッター開閉機構の開状態を示す要部拡大縦断面図である。
【図7】既成窓枠へのノズルを除くモルタル充填装置の装着状態を示す分解斜視図である。
【図8】モルタル供給手段に連結した供給ホースに接続されたノズルの装着状態を示す分解斜視図である。
【図9】モルタル充填装置におけるシャッター開閉機構の開操作状態を示す斜視図である。
【図10】既成窓枠へのモルタル充填状態を示す斜視図である。
【図11】既成窓枠へのモルタル充填後のカバーの嵌着状態を示す分解斜視図である。
【図12】モルタル充填後の既成窓枠における充填口の閉塞状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明のモルタル充填装置を用いた耐火補修後の既成窓の一実施形態を一部破断して示す斜視図、図2は、図1におけるII−II線の要部拡大横断面図である。
【実施例】
【0028】
本発明における耐火補修後の窓、例えば複層ガラス窓は、図1および図2に示すように、建物の躯体1の開口部2に組付けられた、合成樹脂からなる中空構造を有する既成窓枠3を備えるとともに、この既成窓枠3には、複層ガラスWが嵌め殺し状態をもって装着されている。
【0029】
既成窓枠3の内周には、枠本体3Aと押縁3Bとより、前記複層ガラスWの外周端を嵌合状態をもって保持しうる内周溝部4が形成されている。
【0030】
枠本体3Aは、合成樹脂からなる中空のものであればよく、例えば図2に示されるような断面プロファイルを有している。
図2に示される枠本体3Aは、長手方向に沿って貫通する空洞を有しており、この空洞は、耐熱性モルタル6が充填される1つの主要空洞と、この主要空洞に隣接する、断面矩形の3つの小空洞と、この小空洞の一つに隣接する断面が台形の1つの空洞とからなっており、以下の説明では、前記主要空洞を内部空間5という。
【0031】
なお、図示しないが、前記内部空間5の内部には、枠本体3Aを補強する目的で、ステンレススチールなどの金属で構成される横断面がL字形の長尺の補強材がビスによって螺設されていることもある。
また、枠本体3Aは、硬質塩化ビニル等の合成樹脂を押出し成型した長尺の形材を切断して形成した中空枠部材を、上下2つの横枠部材および左右2つの縦枠部材として用い、これらを正面視矩形状に枠組みすることにより形成することができる。
【0032】
枠本体3Aを構成する中空枠部材としては、たとえば特開平9−137675号公報に開示されているような、塩化ビニル樹脂に、木材の粉砕物から調製したセルロース系微粉末を配合した樹脂組成物をもって形成した枠部材、特開平2000−303743号公報に開示されているような、表面が透明あるいは着色されたアクリル樹脂で被覆された枠部材等が使用される。
このような中空枠部材の枠組は、各枠部材の両端部を斜め45度に切断し、断面を突合せ溶着することにより行われるので、枠本体3Aにおいて上下左右の各中空枠部材内を長手方向に沿って貫通する各空洞は、夫々が互いに連通することになる。
【0033】
枠本体3Aの内部空間5には、上記したように、後記するモルタル充填装置7でもって、耐熱性モルタル6が充填されているとともに、この耐熱性モルタル6の充填によって、既成窓枠3に耐火構造を付与しうるようになっている。
このとき、火災時における複層ガラスWの脱落を遅延もしくは防止するためには、枠本体3Aにおいて、複層ガラスWの外周端の端面と対向する面の位置を、枠設置時と同じ位置に保つことが重要である。
そのため、枠本体3Aの内部に存在する複数の空洞の内、上記面と枠本体3Aの外周端面と間に存在する全ての空洞(別言すれば、変形することによって複層ガラスWの保持状態に悪影響を及ぼす全ての空洞、図2に示す態様では、内部空間5としての主要空洞のみがそれに該当する)に耐熱性モルタル6を密実になるように充填することが好ましい。
【0034】
なお、前記した耐熱性モルタル6としては、たとえば前記特許文献1(特許第2774897号公報)に開示されているように、セメント(100重量部)に、カ焼ミョウバン(3〜15重量部)、超微粉末シリカ(3〜15重量部)およびセメント分散剤(1〜5重量部)を配合したセメント組成物が好適に使用される。
【0035】
図3は、本発明におけるモルタル充填装置の一実施形態を示し、シャッター開閉機構の閉塞状態における斜視図、図4は、図3におけるIV−IV線の要部拡大縦断面図、図5は、モルタル充填装置の分解斜視図、図6は、モルタル充填装置におけるシャッター開閉機構の開状態を示す要部拡大縦断面図である。
【0036】
前記モルタル充填装置7は、図3〜図5に示すように、前端部が閉塞された合成樹脂製の外筒8と、この外筒8内に同軸的に回動可能に挿嵌された合成樹脂製の内筒9と、この内筒9内の後端部に挿入される合成樹脂製のノズル10とを備えているとともに、このノズル10には、図示しないモルタル供給手段に連結された供給ホース11が接続されるようになっている。
【0037】
外筒8の外周面には、それぞれ互いに径方向に対称的に対向させた1対の吐出口12,12が開口されているとともに、その後端開口部8aの外周には、正面視縦長小判状をなす取付部13が一体に張出し形成されているとともに、この取付部13の上下には、1対のビス孔14,14が穿設されている。
【0038】
内筒9は、外筒8内に挿入される前端部を閉塞してなるとともに、その外周面が外筒8の内周面に摺接しうるように、外筒8に対して同軸的に回動可能となっている。
内筒9の外周面には、前記外筒8の吐出口12,12にそれぞれ対応可能な1対の吐出口15,15が互いに径方向に対称的に対向させて開口されている。
【0039】
外筒8の吐出口12と内筒9の吐出口15とは、前記ノズル10の回動操作に連動する内筒9の、例えば時計回り方向の90度の回動でもって互いに連通しうるようにするとともに(図6参照)、この連通状態から反時計周り方向の回動でもって、内筒9の外周壁面により前記吐出口12を遮断しうるように(図4参照)開閉するシャッター開閉機構を構成している。
【0040】
内筒9の後端開口部9aの外周には、周方向に沿って部分的に係合溝16,16が形成されているとともに、これらの係合溝16には、後記するノズル10に形成した係止突起18が係合されるようになっている。
【0041】
ノズル10の前端部には、前記内筒9の後端開口部9aから挿入される挿入筒部17が形成されているとともに、この挿入筒部17の外周には、周方向に沿って部分的に係止突起18,18が形成されている。
これら係止突起18は、前記内筒9の各係合溝16に係合するようになっており、これにより、前記ノズル10の回動操作に、前記内筒9が連動して回動するようになっている。
【0042】
ノズル10における挿入筒部17の外周には、円形の張出部19が形成されているとともに、この張出部19の外径は、外筒8における後端開口部8aの径よりも大きくすることにより、前記挿入筒部17を内筒9内に挿入した際に、外筒8の後端開口部8aおよび内筒9の後端開口部9aを閉塞するようになっている。
【0043】
前記張出部19の外周には、外方に向けて延設した1対の係止杆20,20が、互いに径方向に対称的に対向させて形成されているとともに、これら係止杆20の前端部には、鉤型状の係止爪20aが形成されている。
【0044】
前記外筒8の取付部13には、1対の半円弧状の係合長孔21,21が、前記後端開口部8aを間に、互いに径方向に対称的に対向させて形成されている。
これら各係合長孔21の一端には、幅広の挿入口部21aがそれぞれ形成され、これら各挿入口部21aには、前記各係止杆20の前端部に形成した係止爪20aが挿入されるとともに、ノズル10の回動により、前記係止爪20aが係合長孔21に係着されるようになっている。
【0045】
前記係合長孔21は、前記係止杆20の回動範囲、すなわち前記内筒9の時計回り方向または反時計回り方向の回動範囲を規制するようになっているものであり、これにより、ノズル10の回動操作に伴う内筒9の回動による前記シャッター開閉機構の閉塞位置および開位置が位置決めされるようになっている。
【0046】
外筒8の内周面には、周方向に部分的に凹条部22、22が軸方向に沿って形成されている。
一方、内筒9の外周面には、周方向に部分的に凸条部23、23が軸方向に沿って形成されている。
これらの凹条部22と凸条部23とは、前記シャッター開閉機構の開位置および閉塞位置において、互いに凹凸係合可能にすることにより、内筒9が、外筒8に対してシャッター開閉機構の所定の開閉位置でそれぞれ保持されるように、ストッパーの作用をなしている。
【0047】
図7〜図12は、本発明における既成窓枠の耐火補修工法による各工程順を要部断面にして示し、図7は、既成窓枠へのノズルを除くモルタル充填装置の装着状態を示す分解斜視図、図8は、モルタル供給手段に連結した供給ホースに接続されたノズルの装着状態を示す分解斜視図、図9は、モルタル充填装置におけるシャッター開閉機構の開操作状態を示す斜視図、図10は、既成窓枠へのモルタル充填状態を示す斜視図、図11は、既成窓枠へのモルタル充填後のカバーの嵌着状態を示す分解斜視図、図12は、モルタル充填後の既成窓枠における充填口の閉塞状態を示す斜視図である。
【0048】
既成窓枠3の耐火補修を施す場合には、図7に示すように、枠本体3Aの内周面に、予め内部空間5に連通する充填口24を孔開け加工する。
前記したように、既成窓枠3において、上下左右の枠材内の内部空間5は連通しているので、充填口24は1つ設ければよい。
また、充填口24を設ける位置は、作業性及び耐熱性モルタル6を内部空間5内に密実になるように充填し易くするという観点から、左右何れかの縦枠部材の内周面の下端コーナー部近傍に設けることが好ましい。
【0049】
充填口24には、次のようにして本発明のモルタル充填装置7が取付けられる。
すなわち、先ず、充填口24に、内筒9が挿嵌された外筒8の前端部を挿入するとともに、外筒8の後端開口部8aの外周に張出し形成した取付部13を、ビス孔14を通して、ビス25をもって枠本体3Aの内周面に開口した充填口24の周囲にビス止めすることにより、枠本体3Aに外筒8を固定する。
このとき、外筒8の吐出口12と内筒9の吐出口15とで構成されるシャッター開閉機構は、閉塞状態を維持している。
【0050】
次いで、図8に示すように、モルタル供給手段(図示せず)に連結した供給ホース11が締付具クリップ26をもって接続されたノズル10の挿入筒部17を、外筒8内に挿嵌した内筒9の後端開口部9a内に挿入して、内筒9の係合溝16に、ノズル10の係止突起18を係合させるとともに、ノズル10の張出部19に延設した係止杆20の係止爪20aを、外筒8の取付部13に形成した係合長孔21の挿入口部21aに挿入する。
【0051】
次いで、図9に示すように、供給ホース11が接続されたノズル10を、時計回り方向(図9に実線矢印で示す)に回動操作し、外筒8の取付部13にノズル10の係止杆20を回動可能に係着させながら、これと連動する内筒9を、時計回り方向に回動させることにより、図10に示すように、外筒8の吐出口12と内筒9の吐出口15とを連通させ、シャッター開閉機構を開状態にする。
【0052】
この状態で、モルタル供給手段から供給ホース11を通して圧送される液状の耐熱性モルタル6を、枠本体3Aの内部空間5内に向けて充填する。
この場合、耐熱性モルタル6は液状であるので、内部空間5内に補強材等が設置されており、流路が複雑化されていても、最終的には内部全体に行渡り、内部空間5を密実することができる。
【0053】
モルタル充填後に、ノズル10の反時計回り方向(図10に点線矢印で示す)の回動操作をもって、シャッター開閉機構を、図6,図10に示す開状態から図4,図9に示す閉塞状態にして、前記係止杆20と係合長孔21との係着状態を開放し、ノズル10を内筒9内から離脱させる。
この場合、外筒8と内筒9とは、枠本体3Aにそのまま取り付けた状態で残留させてあり、それらの後端開口部8a,9aが外部に露出する充填口24は、耐火補修後に既成窓枠3の内周面に外装される外装材によって被覆処理されるようになっている。
【0054】
なお、モルタル充填後における内筒9からのノズル10の離脱状態において、耐火補修後に、既成窓枠3に外装を施さない場合には、図11に示すように、外筒8の取付部13に、カバー27を嵌着することにより、図12に示すように、前記充填口24を被覆し、目隠しするようになっている。
【0055】
また、耐熱モルタル6の充填に際しては、図示しないが、耐熱モルタル6の充填をスムースに行うためには、既成窓枠3の上枠部材の内面であって、充填口24の近傍のコーナーの対角線上に位置するコーナーの近傍に空気抜き孔を設けることが好ましく、この空気抜き孔にも本発明のモルタル充填装置7と同じ構造を有する充填装置を空気抜き装置として転用することが可能である。
【0056】
このような空気抜き装置を設置した場合には、耐熱性モルタル6の充填操作中に、該装置のシャッター開閉機構を開状態とすることにより、空気抜きが可能となり、スムースに耐熱性モルタル6の充填(注入)が行えるようになるばかりでなく、耐熱性モルタル6のオーバーフローの状態を確認することにより、充填の終了を確認することが可能になる。
耐熱性モルタル6が空気抜き孔まで達すると、空気抜き装置のノズルから耐熱性モルタル6が流出し始めるが、この耐熱性モルタル6を充填する予定の内部空間5内に空気が残っていると、流出するモルタルは気泡をかんだものとなり、その流れも脈動するが、内部空間5内の空気が抜け、内部空間5内が耐熱性モルタル6で密実されるようになると、流出する耐熱性モルタル6中に気泡は見られなくなり、流れも一定する。
したがって、耐熱性モルタル6のオーバーフロー状態(流出状態)を確認することにより、モルタル充填の終了を確認することができる。
【0057】
上記空気抜き装置を使用した場合には、ノズルに接続されたホースによってオーバーフローした耐熱性モルタル6を容器に誘導して回収し、必要に応じてリサイクルすることができるばかりでなく、作業者の衣類や周囲を汚すことなく、耐火補修作業を円滑に行うことができる。
また、ホースの一部を既成窓枠3の最高位よりも高い位置に置くことによって、モルタル充填終了時において耐熱性モルタル6の供給を停止した場合でも、ホース内に溜まった耐熱性モルタル6が空気の逆流を防止して、耐熱性モルタル6の密実を保つことができる。
したがって、密実状態を破ることなく、時間的余裕をもってシャッター開閉機構を閉状態とすることができる。
【符号の説明】
【0058】
1 建物の躯体
2 開口部
3 既成窓枠
3A 枠本体
3B 押縁
4 内周溝部
5 内部空間(主要空洞)
6 耐熱性モルタル
7 モルタル充填装置
8 外筒
8a 後端開口部
9 内筒
9a 後端開口部
10 ノズル
11 供給ホース
12 吐出口
13 取付部
14 ビス孔
15 吐出口
16 係合溝
17 挿入筒部
18 係止突起
19 張出部
20 係止杆(係止部)
20a 係止爪
21 係合長孔(係合部)
21a 挿入口部
22 凹条部
23 凸条部
24 充填口
25 ビス
26 締付具
27 カバー
W 複層ガラス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物躯体の開口部に固定された合成樹脂からなる中空な既成窓枠内の内部空間に、耐熱性モルタルを充填するモルタル充填装置であって、
前記既成窓枠内の内部空間に連通するように開口させた充填口に取り付けられ、かつ吐出口が設けられた前端部を前記内部空間に向けて挿入する外筒を備えるとともに、前記吐出口を、モルタル供給手段に接続され前記外筒と離脱可能に係着されるノズルによって、開閉操作しうるようにし、かつ前記吐出口の開状態において、前記モルタル供給手段からの耐熱性モルタルを、吐出口を介して、前記内部空間内に向けて圧送することにより充填し、モルタル充填後に、吐出口を閉状態にして、前記外筒とノズルとの係着状態を開放して離脱しうるようにしたことを特徴とするモルタル充填装置。
【請求項2】
既成窓枠内の内部空間に連通するように開口させた充填口に取り付けられ、かつその前端部を前記内部空間に向けて挿入する外筒と、この外筒内に同軸的に回動可能に挿嵌した内筒と、この内筒の後端部内に互いに係合しうるように挿入される挿入筒部を有し、かつこの挿入筒部に前記外筒の後端部に設けた係合部に離脱可能に係着しうる係止部を設けたノズルとを備えるとともに、前記外筒と内筒とに、前記ノズルの回動操作に連動する内筒の回動によって、互いに開閉可能に連通する吐出口からなるシャッター開閉機構を設け、かつこのシャッター開閉機構の開状態において、前記ノズルに接続されるモルタル供給手段からの耐熱性モルタルを、前記吐出口を介して、前記内部空間に向けて圧送することにより充填し、モルタル充填後に、前記シャッター開閉機構を閉状態にして、前記外筒とノズルとの係着状態を開放することにより、前記ノズルの挿入筒部を内筒内から離脱しうるようにした請求項1記載のモルタル充填装置。
【請求項3】
外筒の後端部外周に、既成窓枠における充填口の周囲に固定される取付部を張出し形成するとともに、この取付部に、内筒内に挿入されるノズルの挿入筒部に設けた係止部が係脱可能に係合される係合部を形成した請求項2記載のモルタル充填装置。
【請求項4】
内筒の後端部に、係合溝を形成するとともに、この係合溝に、ノズルの挿入筒部に形成した係止突起を係合させた請求項2または3記載のモルタル充填装置。
【請求項5】
外筒と内筒との間に、互いに凹凸係合可能なストッパーを設けることにより、シャッター開閉機構の開位置および閉塞位置を保持するようにした請求項2〜4のいずれかに記載のモルタル充填装置。
【請求項6】
上記(1)〜(5)項のいずれかに記載のモルタル充填装置を用いた既成窓の耐火補修工法であって、
既成窓枠に、この既成窓枠内の内部空間に連通する充填口を孔開け加工するとともに、この充填口を通して、前記内部空間にモルタル供給手段から圧送される耐熱性モルタルを圧送し充填することを特徴とする既成窓の耐火補修工法。
【請求項7】
既成窓枠に、この既成窓枠内の内部空間に連通する充填口を孔開け加工する工程と、この充填口に、外筒の前端部を挿入するとともに、その後端部に張出し形成した取付部を前記既成窓枠における充填口の周囲に固定する工程と、前記外筒内に同軸的に回動可能に挿嵌した内筒の後端部内に、モルタル供給手段に供給ホースを介して接続したノズルの挿入筒部を互いに係合させて挿入するとともに、前記ノズルの係止部を、前記外筒の係合部に離脱可能に係着させる工程と、前記ノズルの回動操作をもってシャッター開閉機構を開状態にするとともに、前記モルタル供給手段から圧送される耐熱性モルタルを、前記内部空間に向けて圧送し充填する工程と、モルタル充填後に、前記シャッター開閉機構をノズルの回動操作をもって閉塞して、前記外筒とノズルとの係着状態を開放し、前記ノズルを内筒内から離脱させる工程とを備える請求項6記載の既成窓の耐火補修工法。
【請求項8】
モルタル充填後の内筒からのノズルの離脱状態において、既成窓枠の内周面に外装材を外装するか、または外筒の取付部に、カバーを嵌着することにより、既成窓枠における充填口に被覆処理を施すようにする請求項7記載の既成窓の耐火補修工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−12496(P2011−12496A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−158946(P2009−158946)
【出願日】平成21年7月3日(2009.7.3)
【出願人】(300088186)株式会社エクセルシャノン (30)
【Fターム(参考)】