説明

モルタル組成物、塗材及び吹付け材

【課題】 下水道処理施設のような酸性雰囲気下だけでなく高度浄水処理施設のようなオゾン雰囲気下でも使用可能なように耐酸性と耐オゾン性を有するとともに、鏝あるいは吹付けを用いて少なくとも2cm程度の被膜厚が確保でき、ひび割れが発生し難いモルタル組成物と、それによる左官用塗材及び吹付け材を提供する。
【解決手段】 セメントと、シリカヒュームと、高炉水砕スラグと、フライアッシュと、膨張材からなり、必要に応じて無水石膏をも含む結合材組成物(B)に、3号〜8号珪砂からなる細骨材(S)を配合してなるモルタル組成物で、前記結合材組成物(B)中には前記セメントを40〜50重量%含み、前記結合材組成物(B)と前記細骨材(S)との重量比S/Bが2.05〜2.15であるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐酸性・耐オゾン性を有し、上下水道管の被覆材や高度浄水処理施設における処理槽の被覆材として好適なモルタル組成物、及び該モルタル組成物からなる塗材並びに吹付け材に関する。
【背景技術】
【0002】
下水道処理施設や化成品工場における酸性排水処理施設で用いられているコンクリート部材の表面は常に酸性雰囲気に曝されているため劣化が激しい。そのため、従来から劣化の抑制について検討されており、その一つに耐酸性モルタルの被覆による方法がある。
【0003】
例えば、特許文献1には、アルミナセメント、アルミナセメントクリンカー骨材及び製鋼ダストからなる耐酸性モルタル組成物をコンクリート成形体の表面に塗着する方法が記載されている。
【0004】
また、劣化したコンクリートを補修するのに適した耐酸性モルタルも種々知られている。
例えば、特許文献2には、(A)CaO/SiO2のモル比が0.10〜1.20の溶融スラグ粉末、(B)水ガラス、(C)アルミナセメント、(D)高炉スラグと転炉スラグと脱リンスラグと脱ケイスラグと脱硫スラグから選ばれる結合材を含有する耐酸性モルタルが記載されている。
【0005】
さらに、特許文献3には、アルミナセメント、化学成分としてCaOとAl23を主成分とする球状粒体を含有する耐酸性モルタル組成物が記載されている。
一方、近年、水道水の水質を向上させるために、オゾン処理工程や生物活性炭吸着処理工程といった工程を新たに加えた工程での高度浄水処理が行われている。このような高度浄水処理は、通常の浄水処理(沈殿、ろ過、消毒)では、十分に対応できないかび臭の原因となる物質やカルキ臭のもととなるアンモニア性窒素などを取り除き、トリハロメタンのもととなる物質などを減少させるために行われる。
【0006】
そして、前記各処理の多くは、普通コンクリートで造られたコンクリート槽内で行われている。しかし、前記のようなオゾン処理や生物活性炭吸着処理をコンクリート製の処理槽内で行うと、これまでの浄水処理による処理でのコンクリートの劣化に比べ、処理槽のコンクリートが早く劣化してしまうといったことが問題となってきている。
一方、上記処理槽に有機物を含む材料を使用すると、オゾン処理や生物活性炭吸着処理の過程で有機物が分解され、水質安全性が確保できないという問題もある。
【0007】
この劣化を抑制するための対策について鋭意検討した結果、本発明者らは、耐オゾン性、耐炭酸・耐重炭酸性、耐磨耗性を有する水硬性無機材料及びそれを用いた高度浄水処理施設用のコンクリートを開発し、特願2005−179924号として出願している。
この他、前記水硬性無機材料と同様の材料からなるモルタルで被覆して劣化を抑制する方法が考えられる。具体的には、耐酸性と耐オゾン性を有するモルタルを、劣化を抑制したいコンクリート表面に塗布あるいは吹き付けて被覆処理する方法である。
【0008】
しかし、この水硬性無機材料を塗材(左官材)として用いるには、コテ仕上げ性が良好かどうか、厚塗りができるかどうか、厚塗りした際のひび割れに対する対策が十分であるかなど、未解決の課題を残していた。また、吹付け材として用いる場合も、上記同様厚みの確保やひび割れに対する未解決の問題を残していた。
【特許文献1】特開2004−292245号公報
【特許文献2】特開2001−240456号公報
【特許文献3】特開2002−97055号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたもので、下水道処理施設のような酸性雰囲気下だけでなく高度浄水処理施設のようなオゾン雰囲気下でも使用可能なように耐酸性と耐オゾン性を有するとともに、高度浄水処理においても水質安全性が確保でき、鏝を用いてあるいは吹き付けにより少なくとも2cm程度の厚みが確保でき、ひび割れが発生し難いモルタル組成物と、それによる左官用の塗材及び吹付け材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題について鋭意検討した結果、セメントと、シリカヒュームと、高炉水砕スラグと、フライアッシュと、膨張材を少なくとも含み、更に必要に応じて無水石膏をも含む結合材組成物に特定の細骨材を配合した水硬性無機材料のみからなるモルタル組成物を用いれば、前記目的が達成できることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、前記目的を達成するために、本発明は、セメントと、シリカヒュームと、高炉水砕スラグと、フライアッシュと、膨張材からなり、必要に応じて無水石膏をも含む結合材組成物(B)に、3号〜8号珪砂からなる細骨材(S)を配合してなるモルタル組成物であって、前記結合材組成物(B)中にはセメントを40〜50重量%含み、前記結合材組成物(B)と前記細骨材(S)との重量比S/Bが2.05〜2.15であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る前記モルタル組成物は、実用的観点からの態様では、20〜30重量%の普通ポルトランドセメントと、シリカヒュームと、高炉水砕スラグと、フライアッシュとからなり、必要に応じて無水石膏をも含む無機組成物(N)100重量部に対し、さらに、早強型ポルトランドセメント又はエコセメント35〜45重量部と、膨張材2.5〜3.5重量部を配合してなる前記結合材組成物(B)、及び3号〜8号珪砂からなる細骨材(S)250〜350重量部を含むことを特徴とする。この実施態様のモルタル組成物では、前記無機組成物(N)が、20〜30重量%の普通ポルトランドセメントと、15〜25重量%のシリカヒュームと、25〜35重量%の高炉水砕スラグと、20〜35重量%のフライアッシュとからなり、必要に応じて無水石膏をも含むことが好ましい。
【0013】
また、前記結合材組成物(B)は、前記無機組成物(N)100重量部に対し、さらに粘土鉱物を2〜20重量部含むことが好ましい。
【0014】
本発明に係るモルタル組成物は、前記細骨材(S)の粒度構成で、各ふるいの通過率として、1.2mmふるいが80〜95重量%、0.6mmふるいが45〜60重量%、0.3mmふるいが25〜35重量%、0.15mmふるいが10〜30重量%であることが好ましい。
【0015】
曲げ強度の向上、ひび割れ防止効果の更なる向上を図る場合は、本発明に係るモルタル組成物に対し、さらに繊維(F)を0.05〜2体積%含ませることが好ましい。
【0016】
本発明は、別の側面で左官用の塗材であり、前記モルタル組成物からなることを特徴とする。同様に、本発明は、別の側面で吹付け材であり、前記モルタル組成物からなることを特徴とする。なお、本明細書中で、高度浄水処理施設とは、オゾンを用いて水の処理を行なう工程を含む処理施設をいう。
【発明の効果】
【0017】
本発明のモルタル組成物は、耐酸性を維持しつつ、作業性、強度、塗厚、ひび割れ発生等の面から左官用の塗材や吹付け材として好適である。したがって、下水処理施設のような酸性雰囲気下では優れた左官や吹付け等によるコンクリート躯体等のモルタル被覆材として広範な適用範囲を持つ。また、本発明のモルタル組成物は、有機材料を含まず、水硬性無機材料のみからできているので、人体や環境に対する安全性が高く、上水道処理施設や高度浄水処理施設における被覆材へも適用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に、本発明に係るモルタル組成物、塗材、吹付け材について、その実施の形態を参照しながらさらに詳細に説明する。
【0019】
本発明に係るモルタル組成物は、大別して結合材組成物(B)と細骨材(S)とからなる。そして、必要に応じて、繊維(F)を含む。
結合材組成物(B)
結合材組成物(B)は、セメントと、シリカヒュームと、高炉水砕スラグと、フライアッシュと、膨張材を少なくとも含む。そして、必要に応じて無水石膏が加えられる。
【0020】
セメントは、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメントもしくは超早強ポルトランドセメント等の早強型ポルトランドセメント、あるいはエコセメント、又はこれらを混合したものが使われる。
前記セメント中、早強ポルトランドセメントもしくは超早強ポルトランドセメント等の早強型ポルトランドセメント、又はエコセメントは、主として、初期強度の確保、ひび割れ防止といった観点から必要量用いられる。使用しすぎると、配合によっては耐酸性・耐オゾン性が悪くなる。これら早強型ポルトランドセメント又はエコセメントは、結合材組成物(B)中、後述の無機組成物(N)100重量部に対し、35〜45重量部含むのが好ましい。また、これらセメントと無機組成物(N)中の普通ポルトランドセメントと合わせたセメントの全量は、結合材組成物(B)中に40〜50重量%含まれるのが好ましい。40重量%未満では、十分な強度が得られなくなる場合がある。50重量%を超えると耐酸性・耐オゾン性が不十分となる場合がある。
【0021】
シリカヒュームは、必要強度の確保、耐酸性及び耐オゾン性の向上といった観点から必要量用いられる。シリカヒュームの粒度及び粉末度は、特に限定しないが、JIS A 6207に規定される範囲が好ましい。シリカフュームは後述の無機組成物(N)中に15〜25重量%含まれるのが好ましい。使用しすぎると流動性が低下する場合がある。少なすぎると必要強度の確保、耐酸性及び耐オゾン性が不十分となる場合がある。
【0022】
高炉水砕スラグは、流動性の確保、化学耐久性及び耐酸性・耐オゾン性の向上といった観点から必要量用いられる。高炉水砕スラグの粉末度は、特には限定しないが、ブレーン値で4000cm2/gから10000cm2/gが好ましい。高炉水砕スラグは後述の無機組成物(N)中に25〜35重量%含まれるのが好ましい。25重量%に満たない場合は、流動性の確保、化学耐久性及び耐酸性・耐オゾン性の向上ができない場合がある。35重量%を超えると、高炉水砕スラグの粉末度が高い場合にひび割れが発生する場合がある。
【0023】
フライアッシュは、流動性(作業性)の確保、被覆厚の確保、ひび割れ防止、耐酸性・耐オゾン性の向上といった種々の観点から必要量用いられる。フライアッシュの種類は、特に限定しないがJIS A 6201に規定されるものが好ましい。フライアッシュは後述の無機組成物(N)中に25〜35重量%含まれるのが好ましい。25重量%を満たない場合は流動性(作業性)の確保、被覆厚の確保、ひび割れ防止、耐酸性・耐オゾン性の向上ができない場合がある。35重量%を超えると、十分な強度が得られなくなる場合がある。
【0024】
膨張材は、ひび割れ防止、乾燥収縮の低減といった観点から必要量用いられる。膨張材は無機系粉末膨張材であり、生石灰系膨張材(例えば、太平洋マテリアル社製ニューエクスパン)、カルシウムスルホアルミネート系膨張材(例えば、電気化学工業社製デンカCSA)を挙げることができる。使用する膨張材の種類は特に限定しない。結合材組成物(B)中、膨張材は後述の無機組成物(N)100重量部に対して2.5〜3.5重量部含むことが好ましい。膨張材の使用量が2.5重量部に満たない場合は、ひび割れ防止、乾燥収縮の低減が不十分となる場合がある。膨張材の使用量が3.5重量部を超えると、耐酸性・耐オゾン性が不十分となる場合があり、ポップアウト現象やおくれ膨張をおこしたりするので好ましくない。
【0025】
結合材組成物(B)には、必要に応じて無水石膏を加える。無水石膏を加えることにより初期強度の増加、流動性の向上が得られる。無水石膏は後述の無機組成物(N)中に5重量%以下含むことが好ましい。添加することによって、初期強度の増加、流動性の向上を図ることができる。5重量%を超えると遅れ膨張を生じる場合があるので好ましくない。
【0026】
細骨材(S)
本発明では、前記目的を達成するために、特定の粒度範囲の珪砂を用いる。このような珪砂を採用するのは、塗材や吹き付け材として用いた場合の作業性や、厚みの確保、ひび割れ防止の観点から良好な特性を獲得するためである。具体的には、細骨材は、3号〜8号、好適には3号〜6号及び8号珪砂を配合してなる細骨材を用いる。3号珪砂は、粒度が1.2〜2.4mm程度の範囲のものである。4号珪砂は、粒度が0.6〜1.2mm程度の範囲のものである。5号珪砂は、粒度が0.3〜0.8mm程度の範囲のものである。6号珪砂は、粒度が0.2〜0.4mm程度の範囲のものである。8号珪砂は、粒度が0.05〜0.2mm程度の範囲のものである。なお、7号珪砂は、0.1〜0.3mm程度の範囲である。7号珪砂は、必要に応じ、6号珪砂又は8号珪砂の一部に代替して用いることができる。
【0027】
なお、前記細骨材(S)の好適な粒度構成は、各ふるいの通過率として、1.2mmふるいが80〜95重量%、0.6mmふるいが45〜60重量%、0.3mmふるいが25〜35重量%、0.15mmふるいが10〜30重量%である。この範囲の粒度構成にすることにより、塗材や吹き付け材として用いた場合、作業性が良好であるとともに、厚みの確保やひび割れ防止が容易となる。例えば、細骨材(S)中、3号珪砂を30〜40重量%、4号珪砂を5〜25重量%、5号珪砂を5〜25重量%、6号珪砂を15〜25重量%、8号珪砂を10〜20重量%とすれば、前記ふるいの通過率の範囲をほぼ満たすことができる。
【0028】
したがって、細骨材(S)中の各号珪砂のより好ましい割合は、例えば、細骨材中、3号珪砂は35重量%程度、4号珪砂は15重量%程度、5号珪砂は15重量%程度、6号珪砂は20重量%程度、8号珪砂は15重量%程度である。
【0029】
細骨材(S)は、前記結合材組成物(B)に対し重量比S/Bが2.05〜2.15となるように配合する必要がある。2.05未満では単位容積あたりのセメント量が多くなり、乾燥収縮等によるひび割れが生じやすくなる場合がある。また、2.15を超えると単位容積あたりのセメント量が少なくなり、十分な強度が得られない場合がある。十分な強度が得られなくなると、壁等の下地の拘束によってひび割れが発生する場合がある。
【0030】
モルタル組成物のより実用的な配合
前記の通り、本発明のモルタル組成物は、基本的には結合材組成物(B)と細骨材(S)からなるものである。
一方、前記したように、主としてコンクリート躯体に用いる耐酸性・耐オソン性を備えた水硬性無機材料として、特願2005−179924号に係るものを開発している。本発明のモルタル組成物の発明は該水硬性無機材料を塗材(左官材)や吹付け材へも適用できるように検討した結果なされたものである。したがって、本願明細書では、該水硬性無機材料の関係、モルタル組成物の位置づけを明確にするために無機組成物(N)という概念を導入し説明を行った。また、本発明のモルタル組成物を調合する場合は、係る水硬性無機材料を無機組成物(N)として調製し、該無機組成物に、さらに早強ポルトランドセメント等の早強型ポルトランドセメント又はエコセメントと膨張材と細骨材(S)等を外割で配合することが実用面から好適である。無機組成物(N)を調製しておけば、コンクリートだけではなくこれをベースに別配合したものを塗材や吹付け材等の用途にも用いることもできるからである。
【0031】
本発明のモルタル組成物を製造する上では、例えば、20〜30重量%の普通ポルトランドセメントを含み、シリカヒュームと、高炉水砕スラグと、フライアッシュとからなり、必要に応じて無水石膏を含むものを無機組成物(N)とし、この無機組成物(N)100重量部に対し、さらに、早強型ポルトランドセメント又はエコセメント35〜45重量部、膨張材2.5〜3.5重量部、3号〜6号及び8号珪砂からなる細骨材(S)を250〜350重量部含んでなるものとして配合することが、より実用的な手法である。細骨材(S)が250重量部未満であると施工方法によってはひび割れが発生しやすくなる。また、350重量部を超えると施工方法によっては作業性が悪くなる。
【0032】
無機組成物(N)の内訳は前述の通り、好適にはシリカヒュームは15〜25重量%、高炉水砕スラグは25〜35重量%、フライアッシュは25〜35重量%であり、必要に応じて添加される無水石膏は5重量%以下である。この範囲のものであれば耐酸性・耐オゾン性を有する塗材や吹付け材が得られやすい。
【0033】
また、前記結合材組成物(B)中には、前記無機組成物(N)100重量部に対し粘土鉱物を2〜20重量部含ませることが好ましい。2重量部未満では十分な効果が得られない。20重量部を超えると混練水量を高くしないと作業性が悪くなる。好ましい粘土鉱物としては、セピオライト、メタカオリン(焼成カオリン)、アロフェン、ベントナイト等を挙げることができる。
【0034】
セピオライトは保水性に優れる性質を有するので、セピオライトを添加することによって、ひび割れがより発生し難くなる。メタカオリン(焼成カオリン)やアロフェンを添加することによって、硫酸イオンや塩化物イオン等の浸透に対する抵抗性が増加されるので耐酸性が向上する。ベントナイトは膨潤性を持つので、ベントナイトを添加することによって、ダレが生じることがなく、より厚塗りが可能となる。
【0035】
曲げ強度の向上、ひび割れ防止効果の更なる向上を図る場合は、前記モルタル組成物に対して0.05〜2体積%の繊維(F)を含ませることが好ましい。0.05体積%を満たないと十分な効果が得られない。2体積%を超えると混練水量を多くしないと作業性が悪くなる。繊維の種類は、ビニロン、ポリプロピレン、ナイロン等の有機繊維やガラスなどの無機繊維が挙げられる。曲げ強度の向上、ひび割れ防止等の効果が得られれば、繊維の種類は、特に限定されない。繊維長は、3〜30mmが好ましい。3mm未満では十分な曲げ強度の向上、ひび割れ防止効果の更なる向上を得ることができない。30mmを超えると、混練水量を多くしないと作業性が悪くなる。また、高度浄水処理施設に使用する場合はガラスなどの無機繊維が好ましいが、有機繊維でも厚生省令第15号に基づく45項目の溶出試験における溶出量が、いずれも基準値以下であれば使用できる。
【0036】
モルタル組成物の製造
本発明のモルタル組成物は、プレミックスモルタルとして製造されることが好ましい。この場合は、従来のプレミックスモルタルを製造するのと同様の方法で、前記構成材料が混合され製造される。また、前記無機組成物(N)のみをプレミックス材として製造しておき、後でこのプレミックス材と早強型ポルトランドセメント又はエコセメントと膨張材と細骨材を混合することがより好ましい。これらの他、早強型ポルトランドセメントと膨張材と細骨材を別のプレミックス材としておき、現場でこのプレミックス材と前記無機組成物(N)のプレミックス材とを混合しても良い。また、結合材組成物(B)をプレミックス材としておき、現場でこのプレミックス材と所定の配合割合の細骨材(S)とを混合して良い。
【0037】
繊維を含む本発明のモルタル組成物は、従来の繊維モルタル製造と同様の方法で行えば良い。繊維を混合する場合は、事前にカットした繊維をプレミックス材に混合しても良く、混練時にモルタル組成物と繊維と水とを混合しても良い。
【0038】
塗材
本発明のモルタル組成物は、下水道処理施設、上水道処理施設、高度浄水処理施設等におけるコンクリート劣化防止用モルタル被覆材、劣化したコンクリートを補修する際の断面修復材として好適に用いることができるが、使い方は、一つとして左官用塗材として用いるのが良い。本発明のモルタル組成物を用いることによって、ひび割れが発生したりダレが生ずることなく良好な作業性で2cmの厚塗りができる。また、施工した塗材は、耐酸性・耐オゾン性を有するものとなる。なお、塗材を製造する際の混練水量は、モルタル組成物に対し13〜15重量%が良い。本発明の塗材は、例えば、施工現場で前記プレミックス材等に混練水を添加し、混練することによって得ることができる。
施工は、例えば、メッシュ状に織り上げたネットを施工箇所に設置してから本発明の塗材を所定厚に左官ゴテを用いて塗っても良い。
【0039】
吹付け材
本発明のモルタル組成物は、前記塗材の他に吹付け材としても用いることができる。本発明のモルタル組成物を用いることによって、ひび割れが発生したり吹付けた際にダレが生ずることなく2cmの吹付厚が確保できる。また、施工した吹付け材は、耐酸性・耐オゾン性を有するものとなる。なお、吹付け材を製造する際の混練水量は、塗材と同様、モルタル組成物に対し13〜15重量%が良い。本発明の吹付け材は、例えば、施工現場で前記プレミックス材等に混練水を添加し、混練することによって得ることができる。吹付け方法は、常法に従って行えば良い。吹付け機も通常のものを用いれば良い。
施工は、上記同様、メッシュ状に織り上げたネットを施工箇所に設置してから本発明の吹き付け材を吹き付け機を用いて吹き付けても良い。
【実施例】
【0040】
以下に本発明に係る実施例及び比較例を示す。
実施例1〜11及び比較例1〜7として、表1のモルタル組成物を調製した。これらの実施例1〜11及び比較例1〜7のモルタル組成物を用いて試験体を作製し、以下の各種試験を行った。なお、表2に各実施例及び比較例における細骨材(S)の粒度分布を示す。
【0041】
【表1】

【0042】
なお、表1中、比以外の単位は、重量部である。
また、表中の記号は、以下の原料を示す。
記号NC: 普通ポルトランドセメント(太平洋セメント社製)
記号BS: 高炉水砕スラグ(デイ・シイ社製ブレーン4000級)
記号FA: フライアッシュ(電源開発社製、II種相当品)
記号SF: シリカヒューム(ノルウェー産)
記号AG: 無水石膏(タイ産天然無水石膏)
記号HC: 早強ポルトランドセメント(太平洋セメント社製)
記号EC: エコセメント(太平洋セメント社製)
記号EX: 膨張材(太平洋マテリアル社製ニューエクスパン)
記号3Q: 3号珪砂(ニッチツ社製珪砂N30)
記号4Q: 4・5号珪砂の混合砂(前田建材工業社製山形珪砂ミックス)
記号6Q: 6号珪砂(東海サンド社製遠州珪砂)
記号8Q: 8号珪砂(ニッチツ社製ニッチツ秩父珪砂8号)
記号SE: セピオライト(商品名:セピオライト粗目)
記号ME: メタカオリン(バーゲス社製イスバーグ)
記号GF: ガラス繊維(日本電気硝子社製チョップドスラストACS6H−103)
記号W: 水道水
記号C: セメント
記号B: 結合材組成物
記号N: 無機組成物
記号S: 細骨材
【0043】
【表2】

【0044】
さらに、前記実施例1〜11及び比較例1〜7に係るモルタル組成物を用いた塗材に水道水(W)を配合して塗材を調製した。同様に吹付け材も調整した。これらにおける結合材組成物(B)と細骨材(S)の合計に対する水道水(W)の比を、以下の表3に示す。
【0045】
【表3】

【0046】
A.基本的性能の確認試験
前記実施例1〜11及び比較例1〜7に係るモルタル組成物を用いて、まず、耐酸性の試験、耐オゾン性の試験、及び溶出試験を行った。
【0047】
A−1.耐酸性試験
JISR5201で規定される供試体に成形し、材齢28日まで水中養生した後5%硫酸溶液に30日間浸漬し、供試体の質量変化率を測定した。
【0048】
耐酸性試験の結果を、以下の表4に示す。
【0049】
【表4】

【0050】
実施例1〜11、比較例1、3〜6に係るモルタル組成物においては、硫酸溶液浸漬による質量の減少がなく耐酸性に優れた結果となった。早強ポルトランドセメントを無機組成物(N)100重量部に対して55重量部使用し、C/Bが0.54(結合材組成物中のセメント量が54重量%)である比較例2においては硫酸溶液浸漬後の供試体の質量減少が大きくなり、耐酸性に劣る結果となった。結合材組成物(B)が普通セメントのみである比較例7では、硫酸溶液浸漬後の供試体の質量減少が著しい結果となった。優れた耐酸性を持つためには無機組成物(N)が必要不可欠である。比較例7については以降の試験を行わないことにした。
【0051】
A−2.硫酸浸透深さ
上記A−1.耐酸性試験で、質量変化率を測定した供試体を曲げ強さ試験装置で切断し、現れた断面にフェノールフタレイン溶液を塗布し、非呈色部分の表面からの深さを測定した。結果を以下の表5に示す。
実施例1〜11の供試体は、いずれも硫酸浸透深さが5mm程度であり、良好な特性を示した。特に、メタカオリンを添加した実施例5から実施例7は2mm程度と更に良好な結果となった。
【0052】
【表5】

【0053】
A−3.耐オゾン性試験
モルタル供試体を材齢28日まで水中養生後に、水道水に溶存オゾンガス濃度2ppm、温度20℃に保った試験槽に2、4、10週間浸漬後の質量変化率を測定した。
【0054】
耐オゾン性試験の結果を、以下の表6に示す。
【0055】
【表6】

【0056】
実施例1〜11、比較例1、3〜6に係るモルタル組成物において、耐オゾン性の安定性試験ですべて良好な結果が得られた。耐酸性の結果と同様に、早強ポルトランドセメントを無機組成物(N)100重量部に対して55重量部使用し、C/Bが0.54(結合材組成物中のセメント量が54重量%)である比較例2においては酸浸漬後の供試体の質量減少が大きくなり、耐オゾン性に劣る結果となった。
【0057】
A−4.溶出試験
平成12年厚生省令第15号(改正 平成12年厚生省令第127号、平成14年厚生労働省令第139号、平成16年厚生労働省令第5号)に基づく、平成12年厚生省告示第45号(資機材等の材質に関する試験)による45項目の溶出試験を行った。
【0058】
実施例1〜11、比較例1〜6に係るモルタル組成物において、45項目の溶出試験における溶出量が、いずれも基準値以下であったため、人体や環境に対する安全性に優れ、上水施設への適用に有効であることが確認された。
【0059】
B.塗材としての性能確認試験
次いで、前記実施例1〜11及び比較例1〜6に係るモルタル組成物を用いて、圧縮強さ、接着強度、長さ変化率、及び塗材として用いた場合のひび割れ発生状況の確認、作業性・ダレの有無について試験を行った。
【0060】
B−1.圧縮強さ
JIS R 5201で規定される方法で行った。材齢は1、3、7、28日で行った。
圧縮強さ試験の結果を以下の表7に示す。
【0061】
【表7】

【0062】
C/Bの低い比較例1,6及びS/Bの高い比較例4では、圧縮強さが低い結果となった。早強ポルトランドセメント又はエコセメントを無機組成物100重量部に対して35重量部以上を用いた実施例1〜11では初期の段階から良好な強度発現を得られた。
【0063】
B−2.接着強度
ハンドミキサーで10リットルのモルタル組成物から調製した塗材を練り混ぜた後、壁にモルタルを塗布したあと、材齢7日で接着強度を測定した。接着試験方法は、JSCE−K 531−1999に従って実施した。
塗厚2.0cmでの測定結果を以下の表8に示す。
【0064】
【表8】

【0065】
C/Bの低い比較例1,6及びS/Bの高い比較例4では、接着強度の発現が低い結果となった。早強ポルトランドセメント又はエコセメントを無機組成物100重量部に対して35重量部以上を用いた実施例1〜11では良好な接着強度の発現が得られた。
【0066】
B−3.長さ変化率
JIS A 1129で規定される方法で行った。材齢7日まで水中養生後7、14、28日で行った。
長さ変化率を測定した結果を以下の表9に示す。
【0067】
【表9】

【0068】
比較例2以外の比較例では、長さ変化率が大きい結果となった。早強ポルトランドセメント又はエコセメントを無機組成物100重量部に対して35重量部以上を用いた実施例1〜11では比較例に対して小さい長さ変化率が得られた。
【0069】
B−4.ひび割れ発生状況の確認
壁にモルタル組成物を用いて調製した塗材を塗厚0.5cm、1cm、2cm、2.5cmで鏝を用いて塗布したあと目視にてひび割れ発生状況を観察した。
結果を以下の表10に示す。
【0070】
【表10】

【0071】
C/Bの低い比較例1では、塗厚0.5cmのとき3日後、それ以外のときは10日後にひび割れが発生した。S/Bの低い比較例3では、塗厚0.5cmのとき1日後、それ以外のときは3日後、S/Bの高い比較例4では3日後ひび割れが発生した。膨張材を用いない比較例5では、10日後、ひび割れが発生した。早強ポルトランドセメント、エコセメント、膨張材のいずれも用いない比較例6では、1日後ひび割れが発生した。一方、早強ポルトランドセメント又はエコセメントと膨張材を用い、かつC/Bが0.40〜0.50、S/Bの値を2.05〜2.15である実施例1〜11ではいずれもひび割れの発生が認められなかった。特にセピオライト、実施例1、実施例4、実施例9、ガラス繊維を用いた実施例10、実施例11では良好であった。
【0072】
B−5.作業性、ダレの有無
B−4の試験と同様に壁にモルタルを塗厚0.5cm、1cm、2cm、2.5cmで鏝を用いて塗布したときの作業性、ダレの有無を目視にて評価した。
結果を以下の表11に示す。
【0073】
【表11】

【0074】
3号珪砂を用いない比較例6では、モルタルに粘りがあり作業性が悪くなり、ダレが生じた。その他のモルタルはいずれも作業性が良く、ダレが生じなかった。
【0075】
C.吹付け材としての性能確認試験
以下に説明するような吹付け試験機を用い、実施例1〜11のモルタル組成物を吹付け材として用いた場合の性能確認試験を行った。
0.75KW、容量0.08m3のモルタルミキサで混練を行い、3.7KW、吐出量70リットル/分のスクイズポンプで吸い上げ、及び直径50mm、40mmのテーパ管を用い吹き付け、さらにインバータを使用して、吐出量を調節した。
【0076】
壁に実施例1〜11のモルタルを塗厚0.5cm、1cm、2cm、2.5cmで吹付けしたときのひび割れ、作業性、ダレの有無を目視にて評価した。付着厚さ2.0cmにおいて材齢7日で接着強度を測定した。接着試験方法は、JSCE−K 531−1999に従って実施した。
結果を表12に示す。
【0077】
【表12】

【0078】
実施例1〜11に係るモルタル組成物を用いた吹付け材はいずれも接着強度及び作業性が良く、ダレが生じなかった。また、材齢28日においていずれのモルタルもひび割れが発生しなかった。
【0079】
以上の実施例1〜11及び比較例1〜7の結果から了解されるように、耐酸性、耐オゾン性及び塗材及び吹付け材として要求される圧縮強さ、接着強度、長さ変化率、ひび割れの発生、作業性、ダレ等に関して、すべて満足できる特性を得られたのは、本発明の範囲に入る実施例1〜11であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントと、シリカヒュームと、高炉水砕スラグと、フライアッシュと、膨張材からなり、必要に応じて無水石膏をも含む結合材組成物(B)に、3号〜8号珪砂からなる細骨材(S)を配合してなるモルタル組成物であって、前記結合材組成物(B)中には前記セメントを40〜50重量%含み、前記結合材組成物(B)と前記細骨材(S)との重量比S/Bが2.05〜2.15であることを特徴とするモルタル組成物。
【請求項2】
20〜30重量%の普通ポルトランドセメントと、シリカヒュームと、高炉水砕スラグと、フライアッシュとからなり、必要に応じて無水石膏をも含む無機組成物(N)100重量部に対し、さらに早強型ポルトランドセメント又はエコセメント35〜45重量部と、膨張材2.5〜3.5重量部を配合してなる前記結合材組成物(B)、及び3号〜8号珪砂からなる細骨材(S)250〜350重量部を含むことを特徴とする請求項1に記載のモルタル組成物。
【請求項3】
前記無機組成物(N)が、20〜30重量%の普通ポルトランドセメントと、15〜25重量%のシリカヒュームと、25〜35重量%の高炉水砕スラグと、20〜35重量%のフライアッシュとからなり、必要に応じて無水石膏をも含むことを特徴とする請求項2に記載のモルタル組成物。
【請求項4】
前記結合材組成物(B)は、前記無機組成物(N)100重量部に対し、さらに粘土鉱物を2〜20重量部含むことを特徴とする請求項2又は3に記載のモルタル組成物。
【請求項5】
前記細骨材(S)の粒度構成で、各ふるいの通過率として、1.2mmふるいが80〜95重量%、0.6mmふるいが45〜60重量%、0.3mmふるいが25〜35重量%、0.15mmふるいが10〜30重量%であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のモルタル組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のモルタル組成物に対して0.05〜2体積%の繊維(F)を含むことを特徴とするモルタル組成物
【請求項7】
前記請求項1〜6のいずれかに記載のモルタル組成物からなる塗材。
【請求項8】
前記請求項1〜6のいずれかに記載のモルタル組成物からなる吹付け材。

【公開番号】特開2007−84420(P2007−84420A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−191330(P2006−191330)
【出願日】平成18年7月12日(2006.7.12)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【出願人】(592037907)株式会社デイ・シイ (36)
【Fターム(参考)】