説明

モーション検出装置及びモーション検出方法

【課題】使用環境に制限が少なく、簡素な構成の静電容量式モーション検出装置及びそれを用いた入力装置を提供すること。
【解決手段】駆動電圧を印加する第1の駆動電極5と第1の駆動電極5の両側に第1の駆動電極5との間にそれぞれ静電容量を形成するように配置される第1の検出電極対6、7とからなる第1センサ部3と、第1の駆動電極5と略直交して配置される第2の駆動電極8と第2の駆動電極8の両側に第2の駆動電極8との間にそれぞれ静電容量を形成するように配置される第2の検出電極対9、10からなる第2センサ部4と、第1のセンサ部3の静電容量の変化で検出される第1差分値と前記第2センサ部4の静電容量の変化で検出される第2差分値とを用いて被検出体の各種モーションを検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検出体のモーション検出を行うモーション検出装置及びモーション検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人体などの被検出体の動作を検出する装置としては、例えば、モーション検出装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。かかるモーション検出装置は、少なくとも一つのカメラを用いて構成される。被検出体のモーションを検出する際には、被検出体が視認できる程度に照度が確保された空間にカメラを設置する。また、装置の使用前には、事前にカメラのキャリブレーションを実施する。人などの被検出体を検出する際には、カメラで被検出体のモーションを撮像する。撮像した映像をPC(パーソナルコンピュータ)に送出し、被検出体の動きを認証することにより被検出体のモーションが検出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−87549号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1記載のモーション検出装置では、ハードウェアやソフトウェアのコストが高くなると共に、カメラを視認できる位置に設置する必要がある。また、被検出体が視認できる程度の照度とモーションを入力するための空間も必要となり、使用環境が制限されていた。また、装置の使用環境に応じてカメラを使用前にキャリブレーションする必要もあった。
【0005】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、使用環境に制限が少なく、簡素な構成の静電容量式のモーション検出装置及びモーション検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のモーション検出装置は、駆動電圧を印加する第1駆動電極と前記第1駆動電極の両側に前記第1駆動電極との間にそれぞれ静電容量を形成するように配置される第1検出電極対とを有する第1センサ部と、前記第1駆動電極と略直交して配置される第2駆動電極と前記第2駆動電極の両側に前記第2駆動電極との間にそれぞれ静電容量を形成するように配置される第2検出電極対とを有する第2センサ部と、前記第1検出電極対の出力信号の差分を第1差分値として検出し、前記第2検出電極対の出力信号の差分を第2差分値として検出する検出回路と、前記検出回路で検出された前記第1差分値と前記第2差分値とから被検出体のモーションを検出するモーション演算手段と、前記検出回路で検出された前記第1差分値と前記第2差分値とから前記第1センサ部および前記第2センサ部のオフセット値を更新する必要性を判定し、必要に応じてオフセット値を更新するオフセット補正手段と、を具備することを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、略直交に配置された2本の駆動電極とそれぞれの駆動電極の両側に配置される検出電極対との間に形成される静電容量の変化を出力信号として各検出電極対で検出し、各検出電極対の出力信号の差分値を基に被検出体の各種モーションを検出することにより、カメラなどを用いて被検出体を視認する必要がなく、使用環境に制限が少なく、簡素な構成で被検出体の各種モーションを検出することができる。
【0008】
上記モーション検出装置において、前記被検出体のモーションの検出と前記第1センサ部及び前記第2センサ部のオフセット値の更新の必要性の判定とを同時に並行して行うことを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、オフセット値の更新のためのオペレータの操作を伴うことなく、オフセット値の更新とモーション入力操作とを行うことができる。例えば、動作中にオペレータがモーション検出装置を移動したり、モーション検出装置の近傍に静電容量を検出する物を置いたりした場合でも、オペレータが数秒間静止した際などにモーション検出動作を停止することなくオフセットを更新することが可能になる。また、モーション入力前に一定時間静置し、オフセット値を更新した後にモーション入力動作に入るなどの方法によっても必要に応じて随時オフセット値を更新することができる。
【0010】
上記モーション検出装置において、前記オフセット補正手段は、小さい時定数の第1のフィルタと相対的に大きい時定数の第2のフィルタとを用いて前記第1差分値を処理し、前記第1のフィルタを通して処理した前記第1差分値と前記第2のフィルタを通して処理した前記第1差分値との差が予め設定した範囲に入ってから時間の計測を開始し、前記第1のフィルタを通して処理した前記第1差分値と前記第2のフィルタを通して処理した前記第1差分値とが前記範囲に入ってからの経過時間が予め設定した時間以上となった場合に前記第1センサ部のオフセット値を更新する必要があると判定することを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、X軸側センサ部のオフセット値を更新する際に、時定数の異なる第1のフィルタ及び第2のフィルタで処理されたX軸側差分値を検出してそれぞれ比較することにより、周囲環境の変化によるオフセット値の変化と被検出体の動きによる静電容量の変化とを分離して検出することが可能となり、X軸側センサ部に形成される静電容量の安定度を確認することができる。また、第1のフィルタで処理されたX軸側差分値と第2のフィルタで処理されたX軸側差分値との変化の幅を検出し、所定の範囲に入ってから一定時間経過後にオフセット値を更新することにより、オフセット値を自動的に更新することもできる。
【0012】
上記モーション検出装置において、前記モーション演算手段は、前記第1差分値についての正側の第1閾値と前記第1差分値の負側の第2閾値とを予め設定し、前記第1差分値が先に前記第1閾値より大きい値となり、その後に前記第2閾値より小さい値となった後、前記第1差分値が前記第1閾値と前記第2閾値との間に収束したか、または前記第1差分値が先に前記第2閾値より小さい値となり、その後に前記第1閾値より大きい値となった後、前記第1差分値が前記第1閾値と前記第2閾値との間に収束したか、を判定し、その判定結果に基づいて被検出体の移動方向を特定することを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、被検出体の一方向のモーションを検出して生じる第1差分値の正側と負側の連続的な変化を、第1差分値と正側の第1閾値及び負側の第2閾値との双方と比較することにより、精度よく被検出体のモーションを検出することができる。また、第1差分値の第1閾値と第2閾値との間への収束を検出することにより、被検出体のモーションの終点を検出することができる。
【0014】
上記モーション検出装置において、前記モーション演算手段は、前記第1差分値が前記第1閾値より大きくなった時点で計測を開始し、前記第1差分値が前記第2閾値より小さくなった後、前記第1差分値が前記第1閾値と前記第2閾値との間の値になるまでの時間T1を計測し、または前記第1差分値が前記第2閾値より小さくなった時点で計測を開始し、前記第1差分値が前記第1閾値より大きくなった後、前記第1差分値が前記第1閾値と前記第2閾値との間の値になるまでの時間T2を計測し、T1又はT2の何れかが予め設定された時間以内であった場合には、被検出体の移動及び移動方向を特定することを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、被検出体の一方向のモーションを検出して生じる第1差分値の正側と負側の連続的な変化を第1差分値と正側の第1閾値及び負側の第2閾値との双方と比較することにより、精度よく被検出体のモーションを検出できる。また、T1及びT2と予め設定された時間とを比較することにより、被検出体の一方向の連続移動によって生じる第1差分値の変化を検出対象にすることができるので、それ以外のモーションを移動方向の演算処理から除外することができる。
【0016】
上記モーション検出装置において、前記モーション演算手段は、被検出体の各検出点での前記第1差分値と前記第2差分値とを極座標変換し、基準点と前記各検出点との間の距離が予め設定した一定値より大きく、かつ連続する前記各検出点間のなす角度が予め設定した一定値より大きい前記各検出点が少なくとも3点連続で検出された際に被検出体の回転運動を検出することを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、被検出体の回転運動によって検出される第1差分値及び第2差分値を極座標変換することで、被検出体と基準点との間の空間内での座標を検出することができるので、被検出体の回転運動を検出することができる。また、被検出体の各検出点と基準点との間の距離及び各検出点間のなす角度が一定値以上であるか否かを検出し、検出点をカウントすることにより、被検出体のモーションが回転運動か否かを検出することができる。
【0018】
上記モーション検出装置において、前記モーション演算手段は、前記第1差分値と前記第2差分値との2乗和を算出し、前記2乗和が予め定めた一定値より大きい場合には、時間の計測を開始し、前記2乗和が前記一定値以下となるまでの時間が予め定めた一定時間より長い場合には、長時間の接触又は長時間の近接動作であると判定することを特徴とする。
【0019】
この構成によれば、被検出体の接触又は近接によって得られる正側または負側の第1差分値及び正側または負側の第2差分値の2乗和をとることにより、他のモーションと独立して演算処理できるので、被検出体の接触または接触動作を検出することができる。また、接触または近接時間と一定時間とを比較することにより、短時間の接触または近接動作か長時間の接触または近接動作かを判定することができる。
【0020】
上記モーション検出装置において、前記モーション演算手段は、前記第2差分値についての正側の第3閾値と前記第2差分値の負側の第4閾値とを予め設定し、前記第2差分値が先に第3閾値より大きい値となり、その後に第4閾値より小さい値となった後、前記第2差分値が前記第3閾値と前記第4閾値との間に収束したか、または前記第2差分値が先に前記第4閾値より小さい値となり、その後に前記第3閾値より大きい値となった後、前記第2差分値が前記第3閾値と前記第4閾値との間に収束したか、を判定し、結果に基づいて被検出体の移動方向を特定することを特徴とする。
【0021】
この構成によれば、被検出体の一方向のモーションを検出して生じる第2差分値の正側と負側の連続的な変化を、第2差分値と正側の第3閾値及び負側の第4閾値との双方と比較することにより、精度よく被検出体のモーションを検出することができる。また、第2差分値の第3閾値と第4閾値との間への収束を検出することにより、各種モーションの終点を検出することができる。
【0022】
上記モーション検出装置において、前記モーション演算手段は、前記第1差分値と前記第2差分値との2乗和を算出し、前記2乗和が予め定めた一定値より大きい場合には、時間の計測を開始し、前記2乗和が前記一定値以下となるまでの時間が予め定めた一定時間より短い場合には、短時間の接触又は短時間の近接動作であると判定することを特徴とする。
【0023】
この構成によれば、被検出体の接触又は近接によって得られる正側または負側の第1差分値及び正側または負側の第2差分値の2乗和をとることにより、他のモーショントは独立して演算処理できるので、被検出体の接触または接触動作を検出することができる。また、接触または近接時間と一定時間とを比較することにより、短時間の接触または近接動作か長時間の接触または近接動作かを判定することができる。
【0024】
上記モーション検出装置において、前記オフセット補正手段は、小さい時定数の第1のフィルタと相対的に大きい時定数の第2のフィルタとを用いて前記第2差分値を処理し、前記第1のフィルタを通して処理した前記第2差分値の処理値と前記第2のフィルタを通して処理した前記第2差分値の処理値との差が予め設定した範囲に入ってから時間の計測を開始し、前記第1のフィルタを通して処理した前記第2差分値と前記第2のフィルタを通して処理した前記第2差分値とが前記範囲に入ってからの経過時間が予め設定した時間以上となった場合に前記第2センサ部のオフセット値を前記範囲内に更新することを特徴とする。
【0025】
この構成によれば、Y軸側センサ部のオフセット値を更新する際に、時定数の異なる第1のフィルタと第2のフィルタで処理されたY軸側差分値を検出して比較することにより、周囲環境の変化によるオフセット値の変化と被検出体の動きによる静電容量の変化とを分離して検出することが可能となり、Y軸側センサ部に形成される静電容量の安定度を確認することができる。また、第1のフィルタで処理されたY軸側差分値と第2のフィルタで処理されたY軸側差分値との変化の幅を検出し、所定の範囲に入ってから一定時間経過後にオフセット値を更新することにより、オフセット値を自動的に更新することもできる。
【0026】
上記モーション検出装置において、前記モーション演算手段は、前記第2差分値が前記第3閾値より大きくなった時点で計測を開始し、前記第2差分値が前記第4閾値より小さくなった後、前記第2差分値が前記第3閾値と前記第4閾値との間の値になるまでの時間T3を計測し、または前記第2差分値が前記第4閾値より小さくなった時点で計測を開始し、前記第2差分値が前記第3閾値より大きくなった後、前記第2差分値が前記第3閾値と前記第4閾値との間の値になるまでの時間T4を計測し、T3又はT4の何れかが予め設定された時間以内であった場合には、被検出体の移動及び移動方向を特定することを特徴とする。
【0027】
この構成によれば、被検出体の一方向のモーションを検出して生じる第2差分値の正側と負側の変化を、第2差分値と正側の第3閾値と負側の第4閾値との双方と比較することにより、精度よく被検出体のモーションを検出できる。また、T3及びT4と予め設定された時間とを比較することにより、被検出体の一方向の連続移動によって生じる第2差分値の変化のみを検出対象とすることができ、それ以外のモーションを移動方向の演算処理の対象から除外することができる。
【0028】
本発明のモーション検出方法は、駆動電圧を印加する第1駆動電極と前記第1駆動電極の両側に前記第1駆動電極との間にそれぞれ静電容量を形成するように配置される第1検出電極対とを有する第1センサ部から、前記第1検出電極対の出力信号を取り込んでその差分を第1差分値として検出し、前記第1駆動電極と略直交して配置される第2駆動電極と前記第2駆動電極の両側に前記第2駆動電極との間にそれぞれ静電容量を形成するように配置される第2検出電極対とを有する前記第2センサ部から、前記第2検出電極対の出力信号を取り込んでその差分を第2差分値として検出し、前記第1差分値と前記第2差分値とから、前記第1センサ部と前記第2センサ部のオフセット値の変更の必要性の検出と被検出体のモーションの検出とを行うことを特徴とする。
【0029】
この方法によれば、略直交して配置された2本の駆動電極とそれぞれの駆動電極の両側に配置される検出電極対との間に形成される静電容量の変化を出力信号として各検出電極対で検出し、各検出電極対の出力信号の差分値を基に被検出体の各種モーションを検出することにより、カメラなどを用いて被検出体を視認する必要がなく、使用環境に制限が少なく、簡素な構成で被検出体の各種モーションを検出することができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、使用環境に制限が少なく、簡素な構成のモーション検出装置及びモーション検出方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施の形態に係るモーション検出装置の構成を示す図である。
【図2】(a)本発明の実施の形態に係るモーション検出装置のセンサ部の電極配置を示す図、(b)X軸センサ部の電極配置を示す図、(c)Y軸センサ部の電極配置を示す図、(d)同一平面内に配置したセンサ部の電極配置を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態に係るモーション検出装置の制御IC内での演算処理を示す概念図である。
【図4】本発明の実施の形態に係るモーション検出装置のキャリブレーション時のフィルタ値の変化を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態に係るモーション検出装置での被検出体の移動方向を検出する際の原理を示す図である。
【図6】本発明の実施の形態に係るモーション検出装置での被検出体の移動方向を検出する際の差分値の変化を示す図である。
【図7】本発明の実施の形態に係るモーション検出装置での被検出体の移動方向の演算処理を示すステートマシーン図である。
【図8】本発明の実施の形態に係るモーション検出装置での被検出体の回転運動を検出する際の差分値の変化を示す図である。
【図9】本発明の実施の形態に係るモーション検出装置での被検出体の回転運動を検出する際の原理を示す概念図である。
【図10】本発明の実施の形態に係るモーション検出装置での被検出体の回転運動を演算処理する際のステートマシーン図である。
【図11】本発明の実施の形態に係るモーション検出装置での短時間の近接動作と長時間の近接動作とを検出する際の原理を示す図である。
【図12】本発明の実施の形態に係るモーション検出装置での短時間の近接動作と長時間の近接動作とを演算処理する際のステートマシーン図である。
【図13】本発明の実施の形態に係るモーション検出装置の応用例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は本実施の形態に係るモーション検出装置の構成図である。本実施の形態に係るモーション検出装置は、被検出体のモーションを検出するセンサ部1と、センサ部1からの出力信号を処理する制御部2とを備えて構成される。センサ部1は、被検出体のX軸上のモーションを検出するX軸側センサ部3と、X軸と直交する方向である被検出体のY軸上のモーションを検出するY軸側センサ部4とを備えて構成される。X軸側センサ部3は、駆動電圧が印加される駆動電極5と、駆動電極5との間にそれぞれ静電容量を形成するように配置される検出電極6及び7とを備えて構成される。Y軸側センサ部4は、X軸側センサ部3と同様に構成され、駆動電圧が印加される駆動電極8と、駆動電極8との間にそれぞれ静電容量を形成するように配置される検出電極9及び10とを備えて構成される。
【0033】
X軸側センサ部3の一方の検出電極6の出力信号は、増幅回路11へ入力される。増幅回路11は、負極端子に検出電極6の出力信号が入力され、正極端子にはアナログ処理回路12から基準電圧が印加される。増幅回路11で増幅された出力信号は、正極端子と負極端子とを有する差動増幅回路13の正極端子へ入力される。他方の検出電極7の出力信号は、増幅回路14へ入力される。増幅回路14は負極端子に検出電極7の出力信号が入力され、正極端子にはアナログ処理回路12から基準電圧が印加される。増幅回路14で増幅された出力信号は、差動増幅回路13の負極端子へ入力される。
【0034】
差動増幅回路13で増幅されたX軸側センサ部3の出力信号は、アナログ処理回路12でフィルタリング処理及びA/D変換され、制御IC15へ入力される。制御IC15に入力された出力信号は、検出回路としての制御IC15でそれぞれの出力信号の差分値が検出される。尚、出力信号の差分値の検出は、アナログ処理回路12で行ってもよい。駆動電極5には、制御IC15よりタイミング回路16に指示が与えられ、増幅回路17によって増幅された駆動電圧が印加される。駆動電圧の印加は、タイミング回路16によりタイミング制御される。
【0035】
Y軸側センサ部4の検出電極9及び10の出力信号は、X軸側センサ部3の検出電極6及び7と同様に処理され、増幅回路18、19、差動増幅回路20及びアナログ処理回路21を経て制御IC15に入力される。制御IC15に入力された出力信号は、検出回路としての制御IC15でそれぞれの出力信号の差分値が検出される。尚、X軸側センサ部3と同様に出力信号の差分値の検出は、アナログ処理回路21で行ってもよい。駆動電極8には、タイミング回路22によりタイミング制御された駆動電圧が増幅回路23を介して印加される。
【0036】
制御IC15では、X軸側センサ部3によって検出されたX軸側の出力信号の差分値とY軸側センサ部4で検出されたY軸側の出力信号の差分値とを用いて、各X軸側センサ部3及びY軸側センサ部4のキャリブレーション及び被検出体の各種モーションの演算処理が行われる。演算処理された被検出体の各種モーションに関するデータは、インターフェース24を通じて外部に送出される。
【0037】
図2(a)〜(d)は、本実施の形態に係るモーション検出装置の電極配置を示す図である。図2(a)に示すようにセンサ部1は、被検出体のX軸上のモーションを検出する駆動電極5、検出電極6及び7と、被検出体のY軸上のモーションを検出する駆動電極8、検出電極9及び10と、から構成される。センサ部1は、絶縁体を挟んで一方の面には、駆動電極5、検出電極6及び7が配置され、他方の面には駆動電極8、検出電極9及び10が配置される。センサ部1の一方の面の電極群(駆動電極5、検出電極6及び7)と他方の面の電極群(駆動電極8、検出電極9及び10)とは互いに絶縁して直交して配置される。センサ部1の各電極の長さは、例えば100mmであり、電極間の間隔は、たとえば60mmである。
【0038】
図2(b)は、被検出体のX軸上のモーションを検出するX軸側センサ部3の電極配置を示す図である。駆動電圧を印加する駆動電極5は、X軸と直交して配置される。検出電極6、7は、駆動電極5を挟んで両側に駆動電極5との間にそれぞれ静電容量が形成されるように、駆動電極5と平行に配置される。このように配置することで、X軸センサ部3を一組配置するだけで被検出体のX軸方向の数mm〜数100mmの動作を検出でき、またセンサ部1のX軸側センサ部3が形成された面方向は、検出電極6と検出電極7との間隔の数倍程度まで(数100mm程度)離れた被検出体の動作を検出することができる。
【0039】
図2(c)は、被検出体のY軸上のモーションを検出するY軸側センサ部4の電極配置を示す図である。駆動電圧を印加する駆動電極8は、Y軸と直交して配置される。検出電極9、10は、駆動電極8を挟んで両側に駆動電極8との間にそれぞれ静電容量が形成されるように、駆動電極8と平行に配置される。このように配置することで、Y軸側センサ部4を一組配置するだけで被検出体のY軸方向の数mm〜数100mmの動作を検出でき、またセンサ部1のY軸側センサ部4が形成された面方向は、検出電極9と検出電極10との間隔の数倍程度まで(数100mm程度)離れた被検出体の動作を検出することができる。
【0040】
尚、電極の配置は、図2(d)のようであってもよい。図2(d)は、センサ部1の別の電極配置例を示す図である。本配置例においては、電極106、107は、X軸と略直交に配置され、電極109、110は、Y軸と略直交に配置される。また、全ての電極106、107、109及び110が同一面に形成される。各電極106、107、109及び110は、検出対象方向に応じて駆動電極または検出電極として切り換えて駆動されることにより4つの電極でX軸、Y軸それぞれのセンサ部として動作させる。X軸上のモーションを検出する際には電極109、110が駆動電極として、電極106、107が検出電極として動作する。Y軸上のモーションを検出する際には電極106、107が駆動電極として、電極109、110が検出電極として動作する。このように配置することで、4つの電極106、107、109及び110を配置するだけで被検出体のX、Y軸方向の数mm〜数100mmの動作を検出でき、またセンサ部1の電極が形成された面と検出電極106及び107の間隔の数倍程度まで(例えば電極間距離が60mmであれば数100mm程度まで)離れた被検出体の動作を検出することができる。同様に、センサ部1の電極が形成された面方向は、検出電極109と検出電極110の間隔の数倍程度まで(例えば電極間距離が60mmであれば数100mm程度まで)離れた被検出体の動作を検出することができる。
【0041】
図3は、制御IC15内でのX軸側差分値31及びY軸側差分値32の演算処理の概念図である。X軸側センサ部3で検出されたX軸側差分値31は、切替えスイッチ33を介して小さい時定数の移動平均フィルタ34で処理される差分値(以下、X軸側フィルタ値小とする)と、相対的に大きい時定数の移動平均フィルタ35で処理される差分値(以下、X軸側フィルタ値大とする)と、演算処理回路36に直接入力されるX軸側差分値31とに分配される。X軸側フィルタ値小、X軸側フィルタ値大及びX軸側差分値31は並行して演算処理回路36に入力される。
【0042】
Y軸側差分値32は、X軸側差分値31と同様に処理され、切替えスイッチ37を介して小さい時定数の移動平均フィルタ38で処理される差分値(以下、Y軸側フィルタ値小とする)と大きい時定数の移動平均フィルタ39で処理される差分値(以下、Y軸側フィルタ値大とする)と演算処理回路37に直接入力されるY軸側差分値32とに分配される。Y軸側フィルタ値小、Y軸側フィルタ値大及びY軸側差分値32は並行して演算処理回路36に入力される。
【0043】
演算処理回路36では、X軸側フィルタ値小及びX軸側フィルタ値大を用いるX軸側センサ部3のキャリブレーションと、Y軸側フィルタ値小及びY軸側フィルタ値大を用いるY軸側センサ部4のキャリブレーションとが行われる。また、被検出体の各種モーションの演算処理は、X軸側差分値31及びY軸側差分値32を用いて行われ、演算の種類によっては、X軸側フィルタ値小、X軸側フィルタ値大、Y軸側フィルタ値小及びY軸側フィルタ値大を組み合わせて演算処理が行われる。X軸側センサ部3及びY軸側センサ部4のキャリブレーションと、被検出体の各種モーションの演算処理とは並行して行われる。
【0044】
本実施の形態に係るモーション検出装置においては、センサ部1のX軸側センサ部3のX軸側差分値31及びY軸側センサ部4のY軸側差分値32に基準点(以下オフセット値とする)を設定し、このオフセット値を基準として各X軸側差分値31及びY軸側差分値32の変化を検出することにより、被検出体のモーションを検出する。被検出体のモーション検出は、微小な静電容量の変化を検出するため、例えば、センサ部1の周辺環境が変化した場合、X軸側センサ部3及びY軸側センサ部4に形成される静電容量がセンサ部1の周辺環境に応じて変化する。X軸側センサ部3及びY軸側センサ部4に形成される静電容量の変化に伴い、X軸側差分値31及びY軸側差分値32のオフセット値もセンサ部1の周辺環境に応じて変化する。本実施の形態に係るモーション検出装置では、X軸側センサ3及びY軸側センサ部のキャリブレーションを適時行い、センサ部1の周辺環境に応じたオフセット値に更新する。
【0045】
図4を参照して演算処理回路36でのX軸側センサ部3のキャリブレーションについて説明する。図4のキャリブレーション開始点P1は、X軸側センサ部3のセンサの周辺環境が変化した直後の状態を示している。キャリブレーション開始点P1では、破線41に示されるキャリブレーション前のオフセット値が既定されている。開始点P1からキャリブレーション開始後、X軸側センサ部3の駆動電極5と検出電極6及び7との間には、X軸側センサ部3の周辺環境に応じてそれぞれ一定の静電容量値が形成されるように推移する。このため、X軸側差分値31も共に現在のX軸側センサ部3の周辺環境に応じた一定の値に向かって収束する。
【0046】
図中の実線の曲線42に示されるX軸側フィルタ値小は、X軸側差分値31の変化に対して速い応答速度で変化する。一方、図中の一点鎖線の曲線43に示されるX軸側フィルタ値大は、X軸側差分値31の変化に対して遅い応答速度で変化する。X軸側差分値31が安定するにつれ、曲線42と曲線43との差が小さくなる。キャリブレーションの終点P2付近では、曲線42と曲線43との差がほぼ零となり、X軸側フィルタ値小の変化量とX軸側フィルタ値大の変化量とが共に一定の安定範囲内に収束する。
【0047】
X軸側フィルタ値小の変化量と、X軸側フィルタ値大の変化量とが共に予め定めた許容範囲(以下、安定範囲とする)内に収束してから時間のカウントを開始する。X軸側フィルタ値小の変化量とX軸側フィルタ値大の変化量とが共に安定範囲内に収束している状態でカウントされた時間と、予め定めた所定時間(以下、安定時間とする)と、を比較し、カウントされた時間が安定時間より長くなった場合に、オフセット値をX軸フィルタ値小及びX軸側フィルタ値大の安定範囲内の破線44に自動的に更新する。
【0048】
安定範囲は、任意の値に設定することができる。本実施の形態においては、X軸側センサ部3に作用するノイズの影響分と、モーション検出時に検出されるX軸側差分値31の大きさとを考量し、X軸側センサ部3に作用するノイズの影響分に被検出体のモーション検出時に検出される出力信号の差分値の1割を加算して設定する。
【0049】
安定時間は、ノイズの大きさと測定条件に応じて任意に設定することができる。本実施の形態では、安定時間をキャリブレーションの初回のみ約80ミリ秒に設定し、キャリブレーションの2回目以降は、センサ部1の周辺環境に応じて約5秒又は約10秒に設定する。1回目のキャリブレーションの安定時間を80ミリ秒とすることで、キャリブレーションを迅速に実施することができる。また、キャリブレーションの2回目以降の安定時間を約5秒以上とすることにより、被検出体がモーション検出装置の検出領域内で停止した場合、被検出体の停止時間が約5秒以内であれば、被検出体が検出領域内に停止した状態でオフセットが更新されることを防ぐことができる。また、ノイズの影響の大きい環境下では、2回目以降の安定時間を約10秒に設定することにより、ノイズによってオフセットが更新されにくくなり、モーション検出を安定して行うことができる。
【0050】
安定時間の計測は、任意のタイミングで開始することができる。例えば、X軸側フィルタ値小の振れ幅が上述した安定範囲に収束後、一定時間経過してから計測を開始してもよいし、安定範囲に入った直後に時間の計測をしてもよい。また、X軸側フィルタ値小とX軸側フィルタ値大との差分値を検出し、差分値が一定範囲に入ってから計測を開始してもよい。
【0051】
キャリブレーションの条件は、移動平均フィルタ34、35の時定数を変更することで、任意に調整できる。相対的に小さい時定数を有する移動平均フィルタ34の時定数をより小さく設定した場合、微小な出力信号の変化に対しても敏感に変化し、キャリブレーションの精度を上げることができる。一方、移動平均フィルタ34の時定数をより大きく設定した場合、ノイズなどにより瞬時に作用した差分値の変動に左右されず、安定してキャリブレーションを行うことができる。相対的に大きい時定数を有する他方の移動平均フィルタ35の時定数を大きく設定した場合、出力信号の急峻な変動に対してキャリブレーションがかかりにくくなり、キャリブレーションを確実に行うことができる。本実施の形態では、移動平均フィルタ34の時定数を約20ミリ秒、移動平均フィルタ35の時定数を約160ミリ秒に設定する。また、ノイズの大きい環境では、移動平均フィルタ34の時定数を約40ミリ毎秒に設定する。
【0052】
図5(a)〜(d)は、被検出体のX軸上のモーション検出原理を示す概念図である。図5(a)は、被検出体がセンサ部1に影響しない状態を示している。センサ部1の一方の面に配置された駆動電極5、検出電極6及び検出電極7は、背面の検出電極9と絶縁して配置される。駆動電極5と検出電極6との間には、電気力線51及び静電容量Caが形成され、駆動電極5と検出電極7との間には、電気力線52及び静電容量Cbが形成されていることを示している。
【0053】
図5(b)は、被検出体50が駆動電極5と検出電極6との間に接近した状態を示している。この状態では、被検出体6によって電気力線51の一部が吸収されるため、駆動電極5と検出電極6との間に形成される静電容量Caが低下する。一方、被検出体50ともう一方の検出電極7との間の距離は大きく、被検出体50によって吸収される電気力線52の量は少なく、静電容量Cbはほとんど低下しない。
【0054】
図5(c)は、被検出体50が駆動電極5と検出電極7との間に接近した状態を示している。この状態では、被検出体50によって駆動電極5と検出電極7との間の電気力線52の一部が吸収されるため静電容量Cbが低下する。一方、被検出体50ともう一方の検出電極6との間の距離差は大きく、被検出体50によって吸収される電気力線51の量は少なく、静電容量Caはほとんど低下しない。
【0055】
図5(d)は、被検出体50が駆動電極5の上部に接近した状態で検出電極6と検出電極7との中間付近に存在する状態を示している。この状態では、被検出体50が電気力線51及び52の双方を共に吸収するため、静電容量Ca、Cbは共に低下する。
【0056】
次に図6(a)、(b)を参照して被検出体50の一方向のモーションを検出する際のX軸側差分値31の変化について説明する。図6(a)は、被検出体50が一方向に移動する際のセンサ部1に対する被検出体50の座標を示している。図中でのA点及びE点は、被検出体50が静電容量Ca、Cbに影響を及ぼさない遠方の地点とする。またB点は静電容量Caが最も減少する点、C点は静電容量Ca、Cbが等しくなる点、D点は静電容量Cbが最も減少する点とする。また、図中のセンサ1は被検出体50が電気力線51及び52に影響しないA点またはE点でキャリブレーションしたものとする。
【0057】
図6(b)は、被検出体50の各位置に対応する静電容量Ca、CbのX軸側差分値31(Ca−Cb)の変化を実線の曲線として示している。曲線上の各A点〜E点は、被検出体50が図4(a)の各A点〜E点に位置する時のX軸側差分値31を示している。被検出体50が基準点となるA点からB点に向けて移動すると静電容量Caが減少し、X軸側差分値31(Ca−Cb)が負の方向に増大する。静電容量Caが最も減少するB点でX軸側差分値31は負側の最大値となる。
【0058】
被検出体50がB点からC点に向けて移動した場合、X軸側差分値31は正側に増大し、静電容量Ca、Cbが等しくなるC点でX軸側差分値31が零となる。被検出体50がC点からD点に向けて移動すると、静電容量Cbの値がCaの値より小さくなり、静電容量Cbが最も減少するD点でX軸側差分値31は正側の最大値となる。被検出体50がD点からE点に向けて移動すると、静電容量Cbが増大してX軸側差分値31は減少し、E点でX軸側差分値31は零となる。矢印61の方向の被検出体50のモーションを検出する場合のX軸側差分値31の正負の変化は上述したように変化するが、矢印61の逆方向となる矢印62の方向の被検出体50のモーションを検出する場合は正負の変化が逆転する。
【0059】
本実施の形態に係るモーション検出装置においては、X軸側差分値31が被検出体50の一方向のモーションによって、正側の値と負側の値とが交互にあらわれ、被検出体50の逆方向のモーションでは負側の値と正側の値とが交互にあらわれる。このため、X軸側差分値31の正側に閾値S1(以下、第1閾値とする)を設定し、負側に差分値の閾値S2(以下、第2閾値とする)を設定することにより、被検出体50のモーションの方向を検出できる。
【0060】
本実施の形態に係るモーション検出装置では、被検出体50のモーションの検出とともに、キャリブレーションも並行して実施する。このため、仮に被検出体50が矢印61の方向から進行してD点で静止し、被検出体50がD点にいる状態でX軸側差分値31が安定し、X軸側差分値31が安定した時間がキャリブレーションの安定時間以上となった場合、被検出体50がD点に存在した状態でキャリブレーションされ、オフセット値が更新される。
【0061】
本実施の形態では、X軸側差分値31が第1閾値以上または第2閾値以下の何れか一方となった時点で時間の計測を開始し、X軸側差分値31が第1閾値以上の値と第2閾値以下の値とを交互に取った後、X軸側差分値31が第1閾値以下かつ第2閾値以上となるまでの時間を計測する。計測した時間と図中の矢印S3に示されるように予め設定した一定の時間幅とを比較し、計測した時間が一定の時間幅より短い場合に、被検出体50の一方向のモーションを検出する。
【0062】
図7に示すステートマシーン図を参照して本実施の形態に係るモーション検出装置において、被検出体50が図6(a)のE点から矢印62の方向に移動する場合の演算処理の詳細を説明する。
【0063】
モーション検出装置起動後、キャリブレーションが行われ、待機状態となる(ステップS1)。待機状態のモーション検出装置の一方の検出電極7に被検出体50が接近し、第1閾値以上のX軸側差分値31が検出されることにより、被検出体のモーションの検出が開始されると共に時間の計測が開始される(ステップS2)。被検出体50が同一方向に移動し、検出電極6に接近することにより、X軸側差分値31の正負が反転し、第2閾値以下のX軸側差分値31が検出される(ステップS3)。更に被検出体50が同一方向に移動すると、検出電極6から離れ、X軸側差分値31は第1閾値以下かつ第2閾値以上となる(ステップS4)。ステップS2からステップS4までに予め定めた一定時間が経過した際には、待機状態に戻る。
【0064】
図6(a)のA点から矢印61の方向に移動する際には、下記のように演算処理される。
待機状態から第2閾値以下のX軸側差分値31が検出された場合もステップS2と同様に
待機状態のモーション検出装置の一方の検出電極6に被検出体50が接近し、第2閾値以下のX軸側差分値31を検出されることにより、被検出体のモーションの検出が開始されると共に時間の計測が開始される(ステップS5)。被検出体50が同一方向に移動し、検出電極7に接近することにより、X軸側差分値31の正負が反転し、第1閾値以上のX軸側差分値31が検出される(ステップS6)。更に被検出体50が同一方向に移動すると、検出電極7から離れ、X軸側差分値31は第1閾値以下かつ第2閾値以上となる(ステップS7)。ステップS2からステップS4までに予め定めた一定時間が経過した際には、待機状態に戻る。
【0065】
以上、X軸センサ部3のキャリブレーションと、被検出体50のX軸上の一方向の検出原理及び演算処理について説明した。Y軸センサ部4のキャリブレーションと、被検出体50のY軸上のモーション検出原理及び演算処理は、Y軸センサ部4で検出されたY軸側差分値32を用いることによりX軸側センサ部3と同様に行われる。また、Y軸上のモーション検出及び演算処理には、Y軸側差分値32の正側に閾値(第3閾値)を設定し、負側に閾値(第4閾値)を設定することによりX軸上と同様の処理で行われる。
【0066】
次に本実施の形態に係るモーション検出装置の回転運動の検出原理を説明する。図8(a)、(b)は被検出体50の回転運動の検出原理を示している。図8(a)は、基準点Oを中心に、図示されない被検出体50がH点〜K点の順に回転運動する移動順序を示している。図8(b)の実線の曲線は、図8(a)の各H〜K点におけるX軸側差分値31を示し、図8(b)の一点鎖線の曲線は、図8(a)の各H〜K点におけるY軸側差分値32を示している。
【0067】
基準点OからH点に被検出体50が移動することにより、X軸側センサ部3においては、被検出体50が駆動電極5と検出電極6との間が最も検出電極6側に接近するため、X軸側差分値31は負側の最大値Hx点をとる。一方、Y軸側センサ部4においては、被検出体50が駆動電極15の直上に位置するため、Y軸側差分値32は零に近い値Hy点をとる。被検出体50が回転運動してI点まで移動する際には、X軸側センサ部3においては、被検出体50が駆動電極5の直上点に位置するため、X軸側差分値31は零に近い値Ix点をとる。一方、Y軸側センサ部4においては、被検出体50が駆動電極8と検出電極9との間が最も検出電極9側に接近するため、Y軸側差分値32は、負側の最大値Iy点をとる。
【0068】
J点からK点にかけても同様の原理で、X軸側差分値31はJ点で正側の最大値Jx点となり、K点で零に近い値Kx点となる。一方、Y軸側差分値32はJ点で零に近い値Jy点となり、K点で正側の最大値Ky点となる。以上のように検出されたX軸側差分値31とY軸側差分値32とを下記の式(1)及び(2)に従って極座標変換し、極座標変換した座標を検出点としてカウントすることにより回転運動を検出する。
r=(X+Y1/2 (1)
θ=arctan(Y/X) (2)
【0069】
図9は、極座標変換されたr及びθを用いた回転運動の検出原理の概念図である。図中の白丸は、被検出体50の回転運動を極座標変換した検出点を示し、矢印は極座標におけるrの大きさを示している。本実施の形態に係るモーション検出装置は、rの大きさに一定の値S4、Δθの大きさに一定の値S5を設け、rがS4以下となる検出点と、ΔθがS5以下となる検出点とを回転運動の演算から除外する。また、図中の破線の矢印のように被検出体50が回転運動をした際には、白丸91〜94の順に検出点が描かれる。回転運動の検出には少なくとも3点の検出点が必要であることから、検出点数に対して一定の値を設け、一定の値以上の検出点数をカウントすることによって回転運動を検出する。
【0070】
次に図10に示すステートマシーン図を参照して本実施の形態に係るモーション検出装置において、被検出体50が図9の白丸91、92、93、94の順に回転運動する際の演算処理の詳細を説明する。
【0071】
待機状態(ステップS11)から被検出体50が白丸91に移動することにより、一定の値以上のrが検出され、演算が開始される(ステップS12)。rが一定値以上、かつΔθが正側の一定値以上の白丸92へ被検出体50が移動すると、回転運動の演算が開始され、検出点がカウントされる(ステップS13)。次に、被検出体50が一定値以上のrと一定値以上のΔθとが検出される白丸93、94の順に移動すると、検出点が連続してカウントされる。検出点数が一定値以上となることにより、一方向の回転運動として検出される(ステップS15)。
【0072】
被検出体50が図9の白丸94、93、92、91の順に回転運動する際の演算処理は以下のようになる。待機状態(ステップS11)から被検出体が白丸94に移動することにより、一定値以上のrのプロット点が検出され、演算が開始される(ステップS12)。rが一定値以上のr、かつΔθが負側の一定値以上の白丸93へ被検出体が移動すると、回転運動の演算が開始され、検出点がカウントされる(ステップS14)。次に、被検出体50が一定値以上のrと一定値以上のΔθとが検出される白丸92、91の順に移動すると、検出点が連続してカウントされる。カウントされた検出点数が一定値以上となることにより、ステップS15とは逆方向の回転運動として検出される(ステップS16)。
【0073】
ステップS12以降の演算で一定値以上のrが連続して検出されなかった場合は待機状態へ戻る。また、ステップS13において、Δθが負側の検出点が検出された場合及びステップS14において、Δθが正側の検出点が検出された場合は再度ステップS12から演算を行う。
【0074】
回転運動の演算処理においては、角度補正処理を行うことにより、演算処理を簡素にすることができる。例えば、被検出体50がX軸上近辺に存在する場合、極座標変換した後のθが0度と360度の間で大きく変動し、計算が煩雑となる。このため、rが第4閾値以上である場合に、被検出体のY軸座標が正側の領域から負側の領域に移動した際にはθに−360度を加算し、被検出体のY軸座標が負側の領域から正側の領域に移動した際には、θに360度を加算することにより回転運動の演算時の計算負荷を低減できる。
【0075】
また、回転運動の演算処理においては、移動平均フィルタを用いることで、演算処理の精度を向上させることができる。図10のステートマシーン図のステップS13及びS14では、Δθの正負を連続的に検出し、Δθの正負が反転した次点で演算処理を中止する。このため、一連の回転運動が入力されているのにもかかわらず、ノイズ等の影響で正負が反転したΔθが検出された場合、演算処理が中止される。このため、一定の時定数を有する移動平均フィルタで処理されたX軸側フィルタ値小またはY軸側フィルタ値小を用いて演算処理することにより、安定して回転運動を検出することができる。
【0076】
次に図11(a)、(b)を参照して被検出体50の近接動作を検出する検出原理を説明する。近接操作の演算処理においては、X軸側差分値31とY軸側差分値32との2乗和(以下Rとする)を下記の式(3)により算出する。Rと予め設定した一定の値とを比較し、一定の値以上のRが検出されている時間と予め設定した一定の時間とを比較することにより、短時間の接触又は短時間の近接動作か、長時間の接触又は長時間の近接動作か、を判定する。
【0077】
近接動作の演算処理では、一定値以上のRが検出されることによりキャリブレーションが停止し、オフセットが更新されることを防いでいる。図11(a)はタッピング(短時間の接触又は短時間の近接動作)を示したもので、Rが図中の一定の値S7以上検出されている時間が、一定の時間S8以内のため短時間の近接動作と判定する。図11(b)は長時間の近接動作を示したもので、一定の値S7を超えている時間が一定の時間S8以上であるため、長時間の近接動作と判別される。
R=(X+Y) (3)
【0078】
図12に示すステートマシーン図を参照して短時間の接触又は近接動作と長時間の接触又は近接動作の演算処理を説明する。待機状態(ステップS21)から被検出体50がセンサ部1に接近し、一定値以上のRを検出すると時間の計測が開始されると共にキャリブレーションが停止する(ステップS22)。Rが一定値以上検出されている時間が一定時間以上となった場合は、長時間の接触又は長時間の近接動作として判定する(ステップS23)。一方、Rが一定値以上検出されている時間が一定時間以下であった場合はタッピング(短時間の接触又は近接動作)として判定する(ステップS24)。ステップS23及びステップS24で短時間の接触または近接動作か、長時間の接触又は長時間の近接動作か、を判定した後、再び待機状態(ステップS21)に戻り、キャリブレーションが再開される。
【0079】
図13に本実施の形態に係るモーション検出装置の応用例を示す。図13の例は、ディスプレイの背面にセンサ部1を配置した例で、横方向のモーションはX軸側センサ部3で検出し、縦方向のモーションY軸側センサ部4で検出する。このように構成することにより、例えば、ディスプレイの中央からオペレータが手を任意の区域に動かすことにより、ディスプレイに4種類の異なる画面を立ち上げることができ、更に短時間の近接動作及び長時間の近接動作を組み合わせることにより、入力装置として使用することができる。
【0080】
本発明は上述した実施の形態及びその変形例に限定されるものではなく、例えば、X軸方向及び、Y軸方向に向けて配置された一対の検出電極の一方の出力信号を反転させて差分値を検出するなど、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明は、モーション検出を利用した各種入力装置に適用可能である。
【符号の説明】
【0082】
1 センサ部
2 制御部
3 X軸側センサ部
4 Y軸側センサ部
5,8 駆動電極
6,7,9,10 検出電極
11、14、18,19 増幅回路
12、21 アナログ処理回路
13、20 差動増幅回路
15 制御IC
16、22 タイミング回路
24 インターフェース
33、37 切替回路
34,35,38,39 移動平均フィルタ
36 演算処理回路
106、107、109、110 電極


【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動電圧を印加する第1駆動電極と前記第1駆動電極の両側に前記第1駆動電極との間にそれぞれ静電容量を形成するように配置される第1検出電極対とを有する第1センサ部と、
前記第1駆動電極と略直交して配置される第2駆動電極と前記第2駆動電極の両側に前記第2駆動電極との間にそれぞれ静電容量を形成するように配置される第2検出電極対とを有する第2センサ部と、
前記第1検出電極対の出力信号の差分を第1差分値として検出し、前記第2検出電極対の出力信号の差分を第2差分値として検出する検出回路と、
前記検出回路で検出された前記第1差分値と前記第2差分値とから被検出体のモーションを検出するモーション演算手段と、
前記検出回路で検出された前記第1差分値と前記第2差分値とから前記第1センサ部および前記第2センサ部のオフセット値を更新する必要性を判定し、必要に応じてオフセット値を更新するオフセット補正手段と、を具備することを特徴とするモーション検出装置。
【請求項2】
前記被検出体のモーションの検出と前記第1センサ部及び前記第2センサ部のオフセット値の更新の必要性の判定とを同時に並行して行うことを特徴とする請求項1記載のモーション検出装置。
【請求項3】
前記オフセット補正手段は、小さい時定数の第1のフィルタと相対的に大きい時定数の第2のフィルタとを用いて前記第1差分値を処理し、前記第1のフィルタを通して処理した前記第1差分値と前記第2のフィルタを通して処理した前記第1差分値との差が予め設定した範囲に入ってから時間の計測を開始し、前記第1のフィルタを通して処理した前記第1差分値と前記第2のフィルタを通して処理した前記第1差分値とが前記範囲に入ってからの経過時間が予め設定した時間以上となった場合に前記第1センサ部のオフセット値を更新する必要があると判定することを特徴とする請求項2記載のモーション検出装置。
【請求項4】
前記モーション演算手段は、前記第1差分値についての正側の第1閾値と前記第1差分値の負側の第2閾値とを予め設定し、前記第1差分値が先に前記第1閾値より大きい値となり、その後に前記第2閾値より小さい値となった後、前記第1差分値が前記第1閾値と前記第2閾値との間に収束したか、または前記第1差分値が先に前記第2閾値より小さい値となり、その後に前記第1閾値より大きい値となった後、前記第1差分値が前記第1閾値と前記第2閾値との間に収束したか、を判定し、その判定結果に基づいて被検出体の移動方向を特定することを特徴とする請求項3記載のモーション検出装置。
【請求項5】
前記モーション演算手段は、前記第1差分値が前記第1閾値より大きくなった時点で計測を開始し、前記第1差分値が前記第2閾値より小さくなった後、前記第1差分値が前記第1閾値と前記第2閾値との間の値になるまでの時間T1を計測し、または前記第1差分値が前記第2閾値より小さくなった時点で計測を開始し、前記第1差分値が前記第1閾値より大きくなった後、前記第1差分値が前記第1閾値と前記第2閾値との間の値になるまでの時間T2を計測し、T1又はT2の何れかが予め設定された時間以内であった場合には、被検出体の移動及び移動方向を特定することを特徴とする請求項4記載のモーション検出装置。
【請求項6】
前記モーション演算手段は、被検出体の各検出点での前記第1差分値と前記第2差分値とを極座標変換し、基準点と前記各検出点との間の距離が予め設定した一定値より大きく、かつ連続する前記各検出点間のなす角度が予め設定した一定値より大きい前記各検出点が少なくとも3点連続で検出された際に被検出体の回転運動を検出することを特徴とする請求項5記載のモーション検出装置。
【請求項7】
前記モーション演算手段は、前記第1差分値と前記第2差分値との2乗和を算出し、前記2乗和が予め定めた一定値より大きい場合には、時間の計測を開始し、前記2乗和が前記一定値以下となるまでの時間が予め定めた一定時間より長い場合には、長時間の接触又は長時間の近接動作であると判定することを特徴とする請求項6記載のモーション検出装置。
【請求項8】
前記モーション演算手段は、前記第2差分値についての正側の第3閾値と前記第2差分値の負側の第4閾値とを予め設定し、前記第2差分値が先に第3閾値より大きい値となり、その後に第4閾値より小さい値となった後、前記第2差分値が前記第3閾値と前記第4閾値との間に収束したか、または前記第2差分値が先に前記第4閾値より小さい値となり、その後に前記第3閾値より大きい値となった後、前記第2差分値が前記第3閾値と前記第4閾値との間に収束したか、を判定し、結果に基づいて被検出体の移動方向を特定することを特徴とする請求項1から請求項7のいずれかに記載のモーション検出装置。
【請求項9】
前記モーション演算手段は、前記第1差分値と前記第2差分値との2乗和を算出し、前記2乗和が予め定めた一定値より大きい場合には、時間の計測を開始し、前記2乗和が前記一定値以下となるまでの時間が予め定めた一定時間より短い場合には、短時間の接触又は短時間の近接動作であると判定することを特徴とする請求項1から請求項8のいずれかに記載のモーション検出装置。
【請求項10】
前記オフセット補正手段は、小さい時定数の第1のフィルタと相対的に大きい時定数の第2のフィルタとを用いて前記第2差分値を処理し、前記第1のフィルタを通して処理した前記第2差分値の処理値と前記第2のフィルタを通して処理した前記第2差分値の処理値との差が予め設定した範囲に入ってから時間の計測を開始し、前記第1のフィルタを通して処理した前記第2差分値と前記第2のフィルタを通して処理した前記第2差分値とが前記範囲に入ってからの経過時間が予め設定した時間以上となった場合に前記第2センサ部のオフセット値を前記範囲内に更新することを特徴とする請求項1から請求項9のいずれかに記載のモーション検出装置。
【請求項11】
前記モーション演算手段は、前記第2差分値が前記第3閾値より大きくなった時点で計測を開始し、前記第2差分値が前記第4閾値より小さくなった後、前記第2差分値が前記第3閾値と前記第4閾値との間の値になるまでの時間T3を計測し、または前記第2差分値が前記第4閾値より小さくなった時点で計測を開始し、前記第2差分値が前記第3閾値より大きくなった後、前記第2差分値が前記第3閾値と前記第4閾値との間の値になるまでの時間T4を計測し、T3又はT4の何れかが予め設定された時間以内であった場合には、被検出体の移動及び移動方向を特定することを特徴とする請求項1から請求項10のいずれかに記載のモーション検出装置。
【請求項12】
駆動電圧を印加する第1駆動電極と前記第1駆動電極の両側に前記第1駆動電極との間にそれぞれ静電容量を形成するように配置される第1検出電極対とを有する第1センサ部から、前記第1検出電極対の出力信号を取り込んでその差分を第1差分値として検出し、前記第1駆動電極と略直交して配置される第2駆動電極と前記第2駆動電極の両側に前記第2駆動電極との間にそれぞれ静電容量を形成するように配置される第2検出電極対とを有する前記第2センサ部から、前記第2検出電極対の出力信号を取り込んでその差分を第2差分値として検出し、前記第1差分値と前記第2差分値とから、前記第1センサ部と前記第2センサ部のオフセット値の変更の必要性の検出と被検出体のモーションの検出とを行うことを特徴とするモーション検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−164533(P2010−164533A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−9154(P2009−9154)
【出願日】平成21年1月19日(2009.1.19)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】