説明

モータの制御方法

【課題】モータを駆動するためのエネルギを低減しつつ、トルク脈動の増大を回避又は抑制する技術を提供する。
【解決手段】モータの回転数Nの変動値が第1の規定値よりも小さいか否かを判断する第1の工程S102と、第1の工程で肯定的結果Yが得られたときにモータに供給される測定電流Idcが第2の規定値Iaよりも小さいか否かを判断する第2の工程S104と、第2の工程で肯定的結果Yが得られたときにモータに供給される電流を間欠的に低減させてモータを運転する間欠運転を実行する第3の工程S106と、第2の工程で否定的結果Nが得られたときに測定電流Idcが第3の規定値Ibよりも大きいか否かを判断する第4の工程S108と、第4の工程で肯定的結果Yが得られたときか又は第1の工程で否定的結果Nが得られたときに間欠運転を実施しない第5の工程S110,S112とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータの制御方法に関し、特にインバータ制御されるモータの制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば空気調和機において、従来から冷暖房時のエネルギ消費効率を示すCOP(Coefficient Of Performance;成績係数)の向上を図るべく、空気調和機に搭載されるモータをインバータ駆動する技術が実用化されている。さらに近年は、COPよりも実際の使用時のデータに近いAFP(Annual Performance Factor;通年エネルギ消費効率)の向上を図るべく、インバータ駆動する機器に対して、電力を間欠的に供給する技術が提案されている。こうした技術については、下掲の特許文献1−3等に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−057890号公報
【特許文献2】特開2000−324875号公報
【特許文献3】特開2002−272126号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、単に電力を間欠的に供給するだけでは、電力が供給されるモータに要請される負荷の大きさによってはトルク脈動の増大を招来する。また、空気調和機の運転時に求められる快適性を阻害するおそれもある。そこで、本発明は、モータを駆動するためのエネルギを低減しつつ、トルク脈動の増大を回避又は抑制する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決すべく、本発明に係るモータの制御方法の第1の態様は、インバータ(2)により制御されるモータ(4)の制御方法であって、前記モータの回転数の変動値が予め定められた第1の値よりも小さいか否かを判断する第1の工程(S102)と、前記第1の工程で肯定的結果が得られたときに前記モータに供給される電流の値(j)が第2の値(Ia)よりも小さいか否かを判断する第2の工程(S104)と、前記第2の工程で肯定的結果が得られたときに前記モータに供給される電流を間欠的に低減させて前記モータを運転する間欠運転を実行する第3の工程(S106)と、前記第2の工程で否定的結果が得られたときに前記電流の値が第3の値(Ib)よりも大きいか否かを判断する第4の工程(S108)と、前記第4の工程で肯定的結果が得られたときか又は前記第1の工程で否定的結果が得られたときに前記間欠運転を実施しない第5の工程(S110,S112)とを備える。
【0006】
本発明に係るモータの制御方法の第2の態様は、インバータ(2)により制御されるモータ(4)の制御方法であって、前記モータの回転数の変動値が予め定められた第1の値よりも小さいか否かを判断する第1の工程(S302)と、前記第1の工程で肯定的結果が得られたときに前記モータに供給される電力(W)が予め定められた第2の値(Wa)よりも小さいか否かを判断する第2の工程(S304)と、前記第2の工程で肯定的結果が得られたときに前記モータに供給される電流を間欠的に低減させて前記モータを運転する間欠運転を実行する第3の工程(S306)と、前記第2の工程で否定的結果が得られたときに前記電流の値が第3の値(Wb)よりも大きいか否かを判断する第4の工程(S308)と、前記第4の工程で肯定的結果が得られたときか又は前記第1の工程で否定的結果が得られたときに前記間欠運転を実施しない第5の工程(S310,S312)とを備える。
【0007】
本発明に係るモータの制御方法の第3の態様は、その第1の態様であって、前記第1の工程(S102)で肯定的結果が得られたときに前記第2の工程(S104)に先んじて、前記モータ(4)に要請されているモータトルクの大きさを検出する第6の工程(S202)と、前記モータトルクの大きさに基づいて前記第2の値(Ia)を設定する第7の工程(S204,S206)とを更に備え、当該モータトルクの大きさが予め定められた範囲内で相対的に大きいときは前記第2の値を当該モータトルクを得るときに流れると想定された前記電流の値(j)よりも第4の値(d1)だけ大きい値に設定し、当該モータトルクの大きさが前記範囲内で相対的に小さいときは前記第2の値を当該モータトルクを得るときに流れると想定された前記電流の値よりも第5の値(d2)だけ大きい値に設定し、前記第4の値は前記第5の値よりも小さい。
【0008】
本発明に係るモータの制御方法の第4の態様は、その第3の態様であって、前記モータトルクは、前記モータ(4)に供給される直流電圧(Vdc)と、前記モータに供給される電流の実効値と、当該直流電圧及び当該電流の実効値が供給されているときの前記モータの回転数(N)とに基づいて決定される。
【0009】
本発明に係るモータの制御方法の第5の態様は、その第1ないし第4の態様のいずれかであって、前記間欠運転においては前記電流を間欠的にゼロにする。
【0010】
本発明に係るモータの制御方法の第6の態様は、その第1ないし第4の態様のいずれかであって、前記第2の値(Ia)は、前記モータに許容されるトルク脈動の大きさが相対的に大きいときは相対的に小さく設定され、前記許容されるトルク脈動の大きさが相対的に小さいときは相対的に大きく設定される。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るモータの制御方法の第1の態様によれば、モータの回転数が安定してからモータに供給される電流を間欠的に低減するので、モータを駆動するためのエネルギを低減できる。また、過負荷状態(電流の値が大きいとき)では電流の間欠的な低減を停止することによってトルク脈動の増大を回避又は抑制できる。
【0012】
本発明に係るモータの制御方法の第2の態様によれば、モータの回転数が安定してからモータに供給される電流を間欠的に低減するので、モータを駆動するためのエネルギを低減できる。また、過負荷状態(電流の値が大きいとき)では電流の間欠的な低減を停止することによってトルク脈動の増大を回避又は抑制できる。
【0013】
第2の値から電流の値を引いた差が大きければ大きいほど間欠運転に切り替わりやすい。本発明に係るモータの制御方法の第3の態様によれば、大きなモータトルクが必要とされる場合には想定外の電流が流れても間欠運転を行いにくく、当該大きなモータトルクが不要である場合に間欠運転を行いやすいので、利便性を損なうことなくモータを駆動するためのエネルギを低減できる。
【0014】
本発明に係るモータの制御方法の第4の態様によれば、モータトルクの大きさに基づいて変動する第2の値を設定することに資する。
【0015】
本発明に係るモータの制御方法の第5の態様によれば、モータを駆動するためのエネルギを更に低減できる。
【0016】
快適性を損ねない程度であればトルク脈動が生じても供給電流を低減できる。本発明に係るモータの制御方法の第6の態様によれば、モータを駆動するためのエネルギを更に低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】モータをインバータ駆動するための回路を例示する図である。
【図2】モータに供給される電流の波形を例示する図である。
【図3】本発明の実施形態1に係るモータの制御方法を示すフローチャートである。
【図4】電流の間欠供給を判断するための図である。
【図5】モータに供給される電流の波形を例示する図である。
【図6】本発明の実施形態2に係る第2の既定値の決定手順を示すフローチャートである。
【図7】電流の間欠供給実施を判断するための図である。
【図8】電流の間欠供給実施を判断するための図である。
【図9】本発明の他の実施形態に係るモータの制御方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、図1を初めとする以下の図には、本発明に関係する要素のみを示す。
【0019】
〈装置構成の概要〉
図1に示すように、モータ4を駆動するための装置たるモータ駆動装置10は例えば、三相交流電源1、インバータ2及び、インバータ2を制御する制御部6を備えている。
【0020】
インバータ2は、コンバータ部21と、チョークコイル22と、平滑コンデンサ23と、インバータ部24とを有している。三相交流電源1が出力する交流電流はコンバータ部21に入力されて全波整流され、直流電流に変換される。当該直流電流はチョークコイル22及び平滑コンデンサ23が構成するローパスフィルタで濾波される。当該ローパスフィルタの出力は平滑コンデンサ23の両端の電圧として得られる。インバータ部24は、例えばIGBT等の半導体スイッチング素子241−246を含む。これらのスイッチング素子241−246が、処理部33に制御されて、当該ローパスフィルタの出力に対して図2に示すように、所望の周波数でスイッチングを行い、直流電流を交流電流に逆変換する。ここで、図2はキャリアの5/4周期に対応するスイッチング素子241−246のオン・オフを示している。そして、インバータ部24は、当該交流電流をモータ4に供給する。なお、インバータ部24は必ずしも半導体スイッチング素子241−246によって構成される必要はなく、MOS−FET、サイリスタ、IGCT素子等が採用されても良い。
【0021】
制御部6は、分圧抵抗31a,31bと、シャント抵抗32rを含む電流検出部32と、処理部33とを有している。分圧抵抗31a,31bは平滑コンデンサ23の両端の間で直列に接続され、平滑コンデンサ23の両端の直流電圧Vdcを分圧して電圧V1を得て、当該電圧1を処理部33に与える。シャント抵抗32rは平滑コンデンサ23とインバータ部24との間の電流経路上の位置P1,P2間に直列に接続される。電流検出部32はシャント抵抗32rの両端の電位差に基づいて測定電流(課題を解決するための手段における「電流の値」に相当する)Idcを得て、これを処理部33に与える。
【0022】
また、制御部6は、モータ4の回転数Nを検出するセンサ(図示省略)を有しており、当該センサが検出する回転数Nも処理部33に与えられる。処理部33は回転数Nを継続して得ることで回転数Nの変動値を算出する。さらにまた、制御部6は、モータ4の運転効率eを監視している。具体的には例えば、測定電流Idcを関数とする運転効率eを記憶部(図示省略)に予め記憶しておき、測定電流Idcを得ることで効率eをも得る。
【0023】
また、モータ4に要請されているモータトルクの大きさTを算出して処理部33に与える。ここで、モータ4に要請されているモータトルクの大きさTは次のようにして算出する。すなわち、モータ4に供給される直流電圧Vdc(処理部33に与えられる電圧V1から算出する電圧)と、モータ4に供給される電流の実効値Ie(実効値Ieを検出するセンサは図示省略)とに基づいてまずモータ4に供給される電力Wを算出する。当該電力Wが供給されているときのモータ4の回転数N及びそのときのモータ4の効率e(=仕事率/消費電力)を考慮すれば、モータトルクの大きさTは、e(Vdc・Ie)/Nを計算することによって得ることができる。
【0024】
処理部33は、処理部33に与えられる種々のデータ(直流電圧Vdc、測定電流Idc、回転数Nとその変動率、効率e及び、トルクの大きさT等)に基づいて、インバータ部24が生成する三相交流を制御する。
【0025】
〈処理部33の動作〉
上述のような構成を備えたモータ駆動装置10において、処理部33はモータ4に供給する電流を間欠的に低減させることで、モータ4の間欠運転を制御する。具体的には処理部33は、以下のフローチャートに示すような動作を行う。なお、以下に示すフローチャートでは、モータ4の制御方法に係る動作のみを示し、その他の処理動作については図示及び説明を省略している。また、特に記載のない場合は、モータ駆動装置10における一連の処理動作は、処理部33の制御下で自動的に行われる。
【0026】
〈実施形態1〉
図3に示すように、処理部33は、電源がONのとき(ステップS101での判断結果がYとなるとき)に、モータ4の回転数Nの変動値が予め定められた第1の規定値(課題を解決するための手段における「第1の値」に相当する)よりも小さいか否かを判断する(ステップS102)。当該変動値が当該規定値以上である場合(ステップS102において否定的結果Nが得られた場合)には、図2に示すようにスイッチング素子241−246を動作させることで、モータ4の間欠運転を実施せずに、当該変動値が当該第1の規定値未満になるまでの間は通常の運転をさせる(ステップS112)。つまり、モータ4の回転数Nが安定するまでは間欠運転を実施しない。
【0027】
回転数Nの変動値が当該第1の規定値よりも小さい場合(ステップS102において肯定的結果Yが得られた場合)には、モータ4に供給される測定電流Idcが予め定められた第2の規定値(課題を解決するための手段における「第2の値」に相当する)Iaよりも小さいか否かを判断する(ステップS104)。ここでモータ4が所望の大きさTのトルクを発生させるのに必要なモータ4の回転数N及びモータ4に供給される電流たるモータ電流の値(以下、「基準電流値」と称する)jは、トルクの大きさTに対して、理論的には図4に示すような関係にある。すなわち理論的には、発生させるトルクの大きさTが大きくなればなるほど、モータ4の回転数Nは減少しかつ基準電流値jは増加する。第2の規定値Iaは、当該基準電流値jよりも大きな値でかつトルク脈動が許容される値に設定されている。具体的には例えば、第2の既定値Iaは基準電流値jよりも10%程度大きい値に設定される。
【0028】
ここで、モータ4に許容されるトルク脈動の大きさの大小に応じて、第2の既定値Iaの大小を変更するようにしても良い。具体的には、モータ4に許容されるトルク脈動の大きさが相対的に大きいときは、第2の既定値Iaは相対的に小さく設定される。一方、モータ4に許容されるトルク脈動の大きさが相対的に小さいときは、第2の既定値Iaは相対的に大きく設定される。より具体的には例えば、第2の既定値Iaは、モータ4に許容されるトルク脈動の大きさが相対的に大きいときは、理論的なモータ電流の値よりも10%程度大きい値に設定される。一方、モータ4に許容されるトルク脈動の大きさが相対的に小さいときは、第2の既定値Iaは理論的なモータ電流の値よりも15%程度大きい値に設定される。
【0029】
測定電流Idcが第2の規定値Iaよりも小さい場合(ステップS104において肯定的結果Yが得られた場合)には、スイッチング素子241−246を図5において一点鎖線で囲む領域に示すように、モータ4に供給する電流を間欠的に例えばゼロにする動作をさせることで間欠運転を実施し(ステップS106)、ステップS102に戻る。このように、第2の既定値Iaを基準電流値jよりも大きい値に設定し、測定電流Idcが第2の既定値Iaよりも小さい場合に間欠運転を実施することにより、モータ4に供給する電流を低減できる。なお、図5はキャリアの5/4周期に対応するスイッチング素子241−246のオン・オフを示している。
【0030】
間欠運転を実施中にも回転数Nの変動値及び測定電流Idcを監視し(ステップS102,S104)、当該変動値が当該第1の規定値よりも小さくかつ測定電流Idcが当該第2の規定値Iaよりも小さいか又は、当該変動値が当該第1の既定値よりも小さくかつ測定電流Idcが第3の既定値Ib以下である場合(ステップS108において否定的結果Nが得られた場合)には、間欠運転を実施する。一方、間欠運転を実施中に回転数Nの変動値が第1の既定値以上となった場合(ステップS102において否定的結果Nが得られた場合)及び、当該変動値が第1の既定値未満であっても測定電流Idcが第3の規定値Ib以上である場合(ステップS108において肯定的結果Yが得られた場合)には、間欠運転を実施しない。すなわち、間欠運転を停止する(ステップS112又はS110)。ここで、第3の既定値Ibは、第2の既定値Ia以上の値に設定されている。例えば、第3の既定値Ibは、第2の既定値Iaよりも10%程度大きい値に設定されている。第3の既定値Ibは例えば、モータ4が過負荷状態にあるときの測定電流Idcに相当する。モータ4が過負荷状態にあるときに間欠運転を実施すると、トルク脈動が増大するので、測定電流Idcが第3の既定値Ibより大きい場合には間欠運転をしない。
【0031】
一方、間欠運転を実施していない状態で測定電流Idcが第2の規定値Ia以上の場合(ステップS104において否定的結果Nが得られた場合)には、ステップS108での判断結果にかかわらず、引き続いて間欠運転を実施せずにステップS102に戻る。
【0032】
以上のように、モータ4の回転数Nが安定してからモータ4に供給される電流を間欠的に低減するので、モータ4を駆動するためのエネルギを低減できる。また、過負荷状態では電流の間欠的な低減を停止することによってトルク脈動の増大を回避又は抑制できる。
【0033】
また、間欠運転においてモータ4に供給する電流を間欠的にゼロにするので、モータ4を駆動するためのエネルギ低減に資する。
【0034】
また、快適性を損ねない程度であればトルク脈動が生じても供給電流を低減するので、モータ4を駆動するためのエネルギをさらに低減できる。
【0035】
〈実施形態2〉
上記実施形態1では、電流の間欠供給を判断する指標として、第2の既定値Iaを基準電流値よりも一律に10%程度大きい値に設定した態様について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。ここでは、本発明の実施形態2として、第2の既定値Iaをモータ4に要請されているモータトルクの大きさTに基づいて決定する態様について説明する。なお、本実施形態2は、上記実施形態1で示したモータ駆動装置10と略同様の構成を有して、処理部33の処理内容が異なるのみである。そこで、上記実施形態1と同様の機能を有する構成については同一符号を付してその説明を省略する。
【0036】
第2の既定値Iaは次のようにして決定する。すなわち、図6に示すように、モータ4の回転数Nの変動値が第1の既定値よりも小さい場合(上述したステップS102において肯定的結果Yが得られた場合)に、モータ4に供給される測定電流Idcが第2の既定値Iaよりも小さいか否かを判断するステップS104に先んじて、モータ4に要請されているモータトルクの大きさTを検出し、当該モータトルク(図6にいう「必要なトルク」)の大きさTが基準トルクT0(図7参照)よりも大きいか否かを判断する(ステップS202)。
【0037】
必要なトルクの大きさTが基準トルクT0よりも大きい場合(ステップS202において肯定的結果Yが得られた場合)には第2の規定値Iaを当該トルクの大きさTを得るときにモータ4に供給されると想定される電流の値jよりも値d1(課題を解決するための手段における「第4の値」に相当する)だけ小さい値Ia1に設定する(ステップS204)。一方、必要なトルクの大きさTが基準トルクT0よりも小さい場合(ステップS202において否定的結果Nが得られた場合)には第2の既定値Iaを当該電流の値jよりも値d2(課題を解決するための手段における「第5の値」に相当する)だけ大きい値Ia2(ただし、値Ia1<Ia2)に設定する(ステップS206)。つまり、第2の既定値Iaから当該電流の値jを引いた差が大きければ大きいほど間欠運転に切り替わりやすい。換言すれば、大きなモータトルクが必要とされる場合には想定外の電流が流れても間欠運転を行いにくく、当該大きなモータトルクが不要である場合に間欠運転を行いやすい。もって利便性を損なうことなくモータ4を駆動するためのエネルギを低減できる。
【0038】
なお、図7では値Ia1,Ia2を結ぶ直線と、電流の値jを示す直線とが交叉する態様を示しているが、相対的に間欠運転に入りやすい領域(低トルク領域)と、相対的に間欠運転に入りにくい領域(高トルク領域)とがあれば、必ずしも交叉する必要はない。
【0039】
〈変形例1〉
以上、本発明の好適な態様について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、上記実施形態においては、第2の既定値Iaを基準として、モータ4に供給される測定電流Idcを電流の間欠供給を判断する指標としていたが、モータトルクの大きさTを電流の間欠供給を判断する指標としても良い。
【0040】
具体的には例えば、図8に示すように、基準トルクT1を設定し、モータトルクの大きさTが基準トルクT1以下の場合には電流の間欠供給を実施し、モータトルクの大きさTが基準トルクT1を上回る場合には電流の間欠供給を実施しないようにしても良い。
【0041】
〈変形例2〉
また、モータ4に供給される電力Wに基づいて電流の間欠供給を制御するようにしても良い。具体的には図9に示すように、処理部は、電源がONのとき(ステップS301での判断結果がYとなるとき)に、モータ4の回転数Nの変動値が第1の規定値よりも小さいか否かを判断する(ステップS302)。当該変動値が当該規定値以上である場合(ステップS302において否定的結果Nが得られた場合)には、図2に示すようにスイッチング素子241−246を動作させることで、モータ4の間欠運転を実施せずに、当該変動値が当該第1の規定値未満になるまでの間は通常の運転をさせる(ステップS312)。つまり、モータ4の回転数Nが安定するまでは間欠運転を実施しない。
【0042】
回転数Nの変動値が当該第1の規定値よりも小さい場合(ステップS302において肯定的結果Yが得られた場合)には、モータ4に供給される電力Wが予め定められた第2の規定値(課題を解決するための手段における「第2の値」に相当する)Waよりも小さいか否かを判断する(ステップS304)。
【0043】
電力Wが第2の規定値Waよりも小さい場合(ステップS304において肯定的結果Yが得られた場合)には、スイッチング素子241−246を図5において一点鎖線で囲む領域に示すように、モータ4に供給する電流を間欠的に例えばゼロにする動作をさせることで間欠運転を実施し(ステップS306)、ステップS302に戻る。
【0044】
間欠運転を実施中にも回転数Nの変動値及び電力Wを監視し、当該変動値が当該第1の規定値よりも小さくかつ電力Wが当該第2の規定値Waよりも小さいか又は、当該変動値が当該第1の既定値よりも小さくかつ電力Wが第3の既定値Wb以下である場合(ステップS308において否定的結果Nが得られた場合)には、間欠運転を実施する。一方、間欠運転を実施中に回転数Nの変動値が第1の既定値以上となった場合(ステップS302において否定的結果Nが得られた場合)及び、当該変動値が第1の既定値未満であっても電力Wが第3の規定値Wb以上である場合(ステップS308において肯定的結果Yが得られた場合)には、間欠運転を実施しない。すなわち、間欠運転を停止する(ステップS312又はS310)。ここで、第3の既定値Wbは、第2の既定値Wa以上の値に設定されている。例えば、第3の既定値Wbは、第2の既定値Waよりも10%程度大きい値に設定されている。第3の既定値Wbは、モータ4が過負荷状態にあるときの電力Wに相当する。モータ4が過負荷状態にあるときに間欠運転を実施すると、トルク脈動が増大するので、電力Wが第3の既定値Wbより大きい場合には間欠運転をしない。
【0045】
一方、間欠運転を実施していない状態で電力Wが第2の既定値Wa以上の場合(ステップS304において否定的結果Nが得られた場合)には、ステップS308での判断結果にかかわらず、引き続いて間欠運転を実施せずにステップS302に戻る。
【0046】
以上のように、モータ4の回転数Nが安定してからモータ4に供給される電流を間欠的に低減するので、モータ4を駆動するためのエネルギを低減できる。また、過負荷状態では電流の間欠的な低減を停止することによってトルク脈動の増大を回避又は抑制できる。
【符号の説明】
【0047】
Ia 第2の値
Ib 第3の値
W 電力
Wa 第2の値
Wb 第3の値
Idc 値
d1 第4の値
d2 第5の値
N 回転数
2 インバータ
4 モータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インバータ(2)により制御されるモータ(4)の制御方法であって、
前記モータの回転数の変動値が予め定められた第1の値よりも小さいか否かを判断する第1の工程(S102)と、
前記第1の工程で肯定的結果が得られたときに前記モータに供給される電流の値(Idc)が第2の値(Ia)よりも小さいか否かを判断する第2の工程(S104)と、
前記第2の工程で肯定的結果が得られたときに前記モータに供給される電流を間欠的に低減させて前記モータを運転する間欠運転を実行する第3の工程(S106)と、
前記第2の工程で否定的結果が得られたときに前記電流の値が第3の値(Ib)よりも大きいか否かを判断する第4の工程(S108)と、
前記第4の工程で肯定的結果が得られたときか又は前記第1の工程で否定的結果が得られたときに前記間欠運転を実施しない第5の工程(S110,S112)と
を備える、モータの制御方法。
【請求項2】
インバータ(2)により制御されるモータ(4)の制御方法であって、
前記モータの回転数の変動値が予め定められた第1の値よりも小さいか否かを判断する第1の工程(S302)と、
前記第1の工程で肯定的結果が得られたときに前記モータに供給される電力(W)が予め定められた第2の値(Wa)よりも小さいか否かを判断する第2の工程(S304)と、
前記第2の工程で肯定的結果が得られたときに前記モータに供給される電流を間欠的に低減させて前記モータを運転する間欠運転を実行する第3の工程(S306)と、
前記第2の工程で否定的結果が得られたときに前記電流の値が第3の値(Wb)よりも大きいか否かを判断する第4の工程(S308)と、
前記第4の工程で肯定的結果が得られたときか又は前記第1の工程で否定的結果が得られたときに前記間欠運転を実施しない第5の工程(S310,S312)と
を備える、モータの制御方法。
【請求項3】
前記第1の工程(S102)で肯定的結果が得られたときに前記第2の工程(S104)に先んじて、
前記モータ(4)に要請されているモータトルクの大きさを検出する第6の工程(S202)と、
前記モータトルクの大きさに基づいて前記第2の値(Ia)を設定する第7の工程(S204,S206)と
を更に備え、
当該モータトルクの大きさが予め定められた範囲内で相対的に大きいときは前記第2の値を当該モータトルクを得るときに流れると想定された前記電流の値(j)よりも第4の値(d1)だけ大きい値(Ia1)に設定し、
当該モータトルクの大きさが前記範囲内で相対的に小さいときは前記第2の値を当該モータトルクを得るときに流れると想定された前記電流の値よりも第5の値(d2)だけ大きい値(Ia2)に設定し、
前記第4の値は前記第5の値よりも小さい、
請求項1記載のモータ(4)の制御方法。
【請求項4】
前記モータトルクは、前記モータ(4)に供給される直流電圧(Vdc)と、前記モータに供給される電流の実効値と、当該直流電圧及び当該電流の実効値が供給されているときの前記モータの回転数(N)とに基づいて決定される、
請求項3記載のモータ(4)の制御方法。
【請求項5】
前記間欠運転においては前記電流を間欠的にゼロにする、
請求項1ないし請求項4のいずれか一つに記載のモータ(4)の制御方法。
【請求項6】
前記第2の値(Ia)は、
前記モータに許容されるトルク脈動の大きさが相対的に大きいときは相対的に小さく設定され、
前記許容されるトルク脈動の大きさが相対的に小さいときは相対的に大きく設定される、
請求項1ないし請求項4のいずれか一つに記載のモータ(4)の制御方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2012−85437(P2012−85437A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−229475(P2010−229475)
【出願日】平成22年10月12日(2010.10.12)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】