説明

モーター用コイルモールド組成物およびコイルの製造方法

【課題】コアレスモーターのコイル製造において、製造中にテープを貼らなくても製造でき、固体成分を含有しない組成物の分離が発生しないモーター用コイルモールド組成物およびコイルの製造方法およびこれを用いたコアレスモーターを提供すること。
【解決手段】(A)1分子中に(メタ)アクリル基とエポキシ基とを含有するモノマーと(B)エポキシモノマーと(C)(メタ)アクリルモノマーと(D)光ラジカル重合開始剤と(E)融点が25℃以下もしくはモノマーに可溶な酸無水物とを含有し、更に(F)メチルトリブチルフォスフォニウム ジメチルフォスフェートまたはテトラブチルフォスフォニウムジメチルフォスフォロジチオエートと含有するモーター用コイルモールド組成物を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はモーター用コイルモールド組成物とこれを用いたコイルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
小型モーターとして活用されるモーターの1つにコアレスモーターが知られている。コアレスモーターは応答性が優れるなど利点もあり、近年ますます小型化が進み精度良く部品を製造することが望まれている。
【0003】
この様なコアレスモーターの作り方としては例えば特許文献1に示されているような方法がある。特許文献1では自己融着層が形成された銅線を巻き線したコイルを、扁平につぶし、扁平した巻き線の片面に接着剤の浸透防止用テープを貼り、テープを貼った面が内側となるように巻き、接着剤を用いて接合する方法がある。
【0004】
また、この様なコイルを製造する方法としては例えば特許文献2に記載されている方法がある。この方法によれば、銅線を固定化する接着剤として、軟化点以上の温度になると体積膨張して微小中空球体を形成する発泡剤を内包した微細カプセルと、光重合する(メタ)アクリレート樹脂と、光開始剤とエポキシ硬化剤とエポキシモノマーからなる組成物を用いることを特徴としている。
【0005】
この特徴ある接着剤を巻き上げた銅線に塗布して、まず光硬化させた後、これを熱した金型中に入れ、エポキシの熱硬化と、微細カプセルを発泡させ所定の形状に整形しようというものである。
【0006】
また、特許文献3には、光熱硬化併用型樹脂組成物として、アクリレートの様なラジカル重合性をもつモノマーと、分子内にエポキシ基を1個以上有するエポキシモノマーと、酸無水物硬化剤と、光開始剤と、有機過酸化物のような熱ラジカル発生剤とマイクロカプセル化されたアミン系硬化剤が紹介されている。
【0007】
この樹脂は、アクリル部分(光重合性の成分)が紫外線を照射することにより重合し、その後加熱することで残るエポキシが熱硬化する性質を有している。この組成物では、カプセル化した硬化剤を含有させることで、ポットライフを伸ばして使用に耐えるようにしているのが特徴である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−54470号公報
【特許文献2】特公平2−58854号公報
【特許文献3】特開平2−235917号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1の製造方法によれば、巻き線した銅線の裏側に接着剤を浸透させるので、内側に浸透防止用のテープが必要となり、結果としてひとつずつ手作業でコイルを巻き、扁平させたものに浸透防止テープを貼付する手間がかかり、効率よく量産をすることが難しくなるといった課題がある。
【0010】
特許文献2の方法によれば、思う形に整形することは良いが、樹脂中に発泡性の微細カプセルを有しているため、巻き線した銅線中を浸透する際に、微小カプセルが狭い線材と線材との間に詰まり線材の中まで浸透できないといった課題がある。
【0011】
特許文献3によれば、硬化剤にマイクロ化カプセル化したエポキシ樹脂用硬化剤を有しているため、巻き線した銅線中を浸透する際に、微小カプセルが狭い線材と線材との間に詰まり線材の中まで浸透できないといった課題がある。
【0012】
樹脂中に固体と液状の成分が混在した状態で、コイルの巻き線中を浸透させようとすると、線間が狭い場合には当然詰まって、固体成分は移動出来なくなり、液体だけが浸透するので硬化剤を失った樹脂は硬化が不十分となる。また、毛細管現象により、コイルの空隙を流れてゆく場合においても、固体の移動速度は、液体の移動速度よりも非常に遅いため、いわゆるクロマトグラフィーのような固体と液体の分離が起こり成分比が変わり、良好な硬化ができなくなる。
【0013】
この現象は、発泡性の微小カプセルを混合している特許文献2についても同じ現象が発生し、特徴である微小カプセルを樹脂全体に均一に分散することができない課題がある。
【0014】
以上のように本発明は、製造中にテープを貼らなくても製造でき、固体成分を含有しない組成物の分離が発生しないモーター用コイルモールド組成物およびコイルの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、(A)1分子中に(メタ)アクリル基とエポキシ基とを含有するモノマーと(B)エポキシモノマーと(C)(メタ)アクリルモノマーと(D)光ラジカル重合開始剤と(E)融点が25℃以下もしくはモノマーに可溶な酸無水物とを含有することを特徴とする。
【0016】
または更に(F)メチルトリブチルフォスフォニウム ジメチルフォスフェートまたはテトラブチルフォスフォニウムジメチルフォスフォロジチオエートを含有することを特徴とする。
【0017】
または(A)1分子中に(メタ)アクリル基とエポキシ基とを含有するモノマーと(B)エポキシモノマーと(E)融点が25℃以下またはモノマーに可溶な酸無水物との合計の重量と、(A)1分子中に(メタ)アクリル基とエポキシ基とを含有するモノマーと(C)(メタ)アクリルモノマーとの合計の重量との混合比が4:5以上8:2以下の範囲にあることを特徴とする。
【0018】
または、(C)(メタ)アクリルモノマーとしてヒドロキシアルキレン(メタ)アクリレート(アルキレン基は炭素数2から5の飽和アルキレン基を指す)を含有することを特徴とする。
【0019】
またはヒドロキシアルキレン(メタ)アクリレート(アルキレン基は炭素数2から5の飽和アルキレン基を指す)が4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートであることを特徴とする。
【0020】
または(A)1分子中に(メタ)アクリル基とエポキシ基とを含有するモノマーがα付加型ビスフェノールAグリシジルエーテルモノ(メタ)アクリレートまたは、α付加型ビスフェノールFグリシジルエーテルモノ(メタ)アクリレート、ヒドロキシアルキレン(メタ)アクリレートグリシジルエーテル(アルキレン基は炭素数2から5の飽和アルキレン基を指す)から選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とする。
【0021】
またはヒドロキシアルキレン(メタ)アクリレートグリシジルエーテル(アルキレン基は炭素数2から5の飽和アルキレン基を指す)が、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリ
レートグリシジルエーテルであることを特徴とする。
【0022】
または(B)エポキシモノマーとして、少なくともビスフェノールA型ジグリシジルエーテル、ビスフェノールF型ジグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテルから選ばれる1種を含有することを特徴とする。
【0023】
または(D)光ラジカル重合開始剤として2−ヒドロキシー2−メチルー1−フェニルプロパンおよび/またはフェニルグリオキシックアシッドメチルエステルおよび/または1-ヒドロキシヘキシルフェニルケトンおよび/またはベンゾインから選ばれることを特徴とする。
【0024】
または(D)光ラジカル重合開始剤は、総重量に対し0.7wt%以上8wt%以下であることを特徴とする。
【0025】
または(F)メチルトリブチルフォスフォニウム ジメチルフォスフェートまたはテトラブチルフォスフォニウムジメチルフォスフォロジチオエートの含有量が0.1wt%以上8wt%以下であることを特徴とする。
【0026】
そして、これらのモーター用コイルモールド組成物を用いて、自己融着層が形成された銅線を巻き線したコイルの外側または内側の一方にこれらのモーター用コイルモールド組成物を塗布し組成物を浸透させ、紫外線を照射して1次硬化させた後、扁平につぶして巻き、加熱してコイルを整形することを特徴とする。
【0027】
または自己融着層が形成された銅線を巻き線したコイルを、扁平につぶし、扁平した巻き線の片面に接着剤の分離防止用テープを貼り、テープを貼った面が内側となるように巻き、これらのモーター用コイルモールド組成物を塗布し、紫外線を照射して一次硬化させた後、加熱してコイルを整形することを特徴とするコイルの製造方法によってコアレスモーターを製造することで解決できる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、製造中にテープを貼らなくても製造でき、固体成分を含有しない組成物の分離が発生しないモーター用コイルモールド組成物およびコイルの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明のモーター用コイルモールド剤は(A)1分子中に(メタ)アクリル基とエポキシ基とを含有するモノマーと(B)エポキシモノマーと(C)(メタ)アクリルモノマーと(D)光ラジカル重合開始剤と(E)融点が25℃以下もしくはモノマーに可溶な酸無水物とを含有する。また、これに(F)メチルトリブチルフォスフォニウム ジメチルフォスフェートまたはテトラブチルフォスフォニウムジメチルフォスフォロジチオエートと含有する。
本発明のモーター用コイルモールド剤は全て液体でモールドする温度で液体でできている。加熱硬化して硬化させるので、室温(約25℃において全て液体であることが好ましい。このため、硬化剤の融点は室温よりも低い25℃以下であることが好ましい。全てが液体であることにより、細い銅線を巻いたコイルに塗布したときに、狭い空隙に成分が分離することなく均一に流れ込むことができる。
この様な組成物を作成して熱硬化させるとき、モールド組成物の粘度が下がる。また、酸無水物とエポキシの反応は高温(例えば120から150℃以上)で、長時間(例えば3時間から5時間程度)を要するので光で1次硬化できていない成分が流れ出すことがある
。このため、(F)メチルトリブチルフォスフォニウム ジメチルフォスフェートまたはテトラブチルフォスフォニウムジメチルフォスフォロジチオエートと含有させることで120℃以下で30分以内という短時間で硬化させることができるようになる。この成分を添加することで、例え光が当たらない未硬化の樹脂も流れ出すことなく適切に硬化させることができる。一般に、酸無水物硬化の促進剤にはイミダゾール誘導体を用いるが、これを用いると保存性が低下して、使用中あるいは保存中に粘度が上昇したり硬化してしまうことがある。この様な現象が起こると、コイルを形成する銅線の隙間にモールド剤が流れ込みにくくなり使用に耐えなくなる。しかし、前記2種のフォスフォニウム系化合物を用いた場合に限っては、液体で完全に相溶しているにもかかわらず、粘度が急激に上昇しないといった利点がある。また、反応時には短時間で低温で硬化が進むため、反応により粘度が早く上がり、加えて低温のためもともとの液体の粘度も高い状態で反応を行えるので流れ出しが効果的に防止できる。
本モーター用コイルモールド組成物は、光と熱で硬化することができる。光を照射して反応するときは、光ラジカル重合開始剤がラジカル(活性種)を発生し、本組成物中の(メタ)アクリル基が連鎖反応によって、ラジカル重合反応し硬化する。熱を加えて硬化するときには、エポキシ基を有する成分が、酸無水物と反応し、硬化体を得ることができる。成分(F)を混合した場合にはこれが触媒となり反応を進め、反応温度や時間を早く反応させることができると考えられる。
本モーター用コイルモールド組成物は、自己融着層が形成された銅線を巻き線したコイルの外側または内側の一方にモーター用コイルモールド組成物を塗布し組成物を浸透させ、紫外線を照射して1次硬化させた後、扁平につぶして巻き、加熱してコイルを整形してコイルを製造することができる。従来のように流れ出し防止用のテープは不要で、紫外線を照射させたときに内周も外周もまとめて硬化することができる。このため、成形するときに冶具などに流れ出して接着することがないため、製造上有利になる。
本モーター用コイルモールド組成物は、自己融着層が形成された銅線を巻き線したコイルを、扁平につぶし、扁平した巻き線の片面に接着剤の分離防止のテープを貼り、テープを貼った面が内側となるように巻き、モーター用コイルモールド組成物を塗布し、紫外線を照射して一次硬化させた後、加熱してコイルを整形することでコイルの製造ができる。従来は流れ防止用の全面に貼付する大きなサイズのテープを貼付していたが、本発明のモーター用コイルモールド組成物を使用することで、巻き線した銅線を扁平するときに分離しないように抑える程度の簡単な仮止めを行うだけで製造できるようになる。
本発明のモーター用コイルモールド組成物を塗布して紫外線で1次硬化させた後に扁平する場合には、1次硬化させたときに樹脂が柔軟性を有する必要がある。柔軟性を有するようにするには、1つ目の方法として、エポキシ樹脂と硬化剤をアクリルモノマーの含有量に対して4:5以上にすることが好ましい。初めの1次硬化では組成物成分中のアクリルモノマーと光ラジカル重合開始剤との反応だけが起こるため、エポキシの熱硬化反応は進行しない。未反応のエポキシ材料は全体の柔軟性に寄与することになる。
一方エポキシが多すぎると、紫外線による1次硬化を行っても固体化せず液状のままとなってしまったので、エポキシの含有量はアクリルモノマーに対して8:2以下に抑える必要がある。
また、1次硬化後に柔軟性を付与する方法としては、硬化後に柔軟性を有するアクリルモノマーを添加する方法がある。柔軟性を付与することができるモノマーとしては、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートが好適である。また、1分子中にエポキシ基と(メタ)アクリレートのある樹脂を加えることもでも達成できこの場合は、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートグリシジルエーテルを用いることでできる。前記化合物は1分子中にエポキシ基とアクリル基を有するため、熱的にも、光ラジカル的にも反応できるため硬化後の諸物性の幅を広げることができ非常に有用である。4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートを加えて柔軟性を出す場合には、添加量が多すぎると加熱硬化後も柔軟性を有してしまうため、全体のエポキシ量に対してアクリル樹脂の量は4:5以上にしておく必要がある。
本発明のモーター用コイルモールド組成物の(A)1分子中に(メタ)アクリル基とエポキシ基とを含有するモノマーの具体的化合物としては、α付加型ビスフェノールAグリシジルエーテルモノ(メタ)アクリレートまたは、α付加型ビスフェノールFグリシジルエーテルモノ(メタ)アクリレートを使用することができる。また、4-ヒドロキシアルキレン(メタ)アクリレートグリシジルエーテル(アルキレン基は炭素数2から5の飽和アルキレン基を指す)を併用して用いることができる。特に4-ヒドロキシアルキレン(メタ)アクリレートグリシジルエーテルとしては4−ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテルが好ましい。
本発明のモーター用コイルモールド組成物の(B)エポキシモノマーとしては、ビスフェノールA型ジグリシジルエーテル、ビスフェノールF型ジグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテルなどが使用できる。
本発明のモーター用コイルモールド組成物の(C)(メタ)アクリルモノマーとしては、α、α’付加型ビスフェノールAグリシジルエーテルジメタクリレート、α、α’付加型ビスフェノールFグリシジルエーテルジメタクリレート、α、β、α’付加型ビスフェノールAグリシジルエーテルジメタクリレート、ジシクロペンテニルオキシメタクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレート、4-ヒドロキシブチルメタクリレートなどがあげられる。
本発明のモーター用コイルモールド組成物の(D)光ラジカル重合開始剤としては、公知の開始剤を使用することができる。本発明のシール剤に使用できる光開始剤としては、ジエトキシアセトフェノン、2-ヒドロキシ−2−メチル1−フェニルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンなどのアセトフェノン系光開始剤、ベンゾイン、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンジルメチルケタールなどのベンゾイン系光開始剤、ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸、ベンゾイン安息香酸メチル、4−フェニルベンゾフェノンなどのベンゾフェノン系光開始剤などが使用できる。またこの他、メチルフェニルグリオキシレート、アシルホスフィンオキサイド、ベンジルなども使用できる。
本発明のモーター用コイルモールド組成物の(E)融点が25℃以下もしくはモノマーに可溶な酸無水物としては、単独あるいは混合した時点で完全に液状である必要がある。このため、本発明の硬化剤である酸無水物は融点が25℃以下の液体、もしくはこの成分以外の本発明を構成する要素に溶解可能で全体として25℃以上で液体である酸無水物に限られる。
(E)融点が25℃以下もしくはモノマーに可溶な酸無水物としては、メチル−1,2,3,6−テトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、メチル−3,6エンドメチレン−1,2,3,6−テトラヒドロ無水フタル酸、メチルナジック酸無水物、水素化メチルナジック酸無水物、トリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸から選ばれる少なくとも1種の酸無水物であることが好ましい。また、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、無水フタル酸、無水ピロメリット酸、無水トリメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸2無水物、エチレングリコールビスアンヒドロトリメリテートなども、共に使う酸無水物や他の成分と相溶し液体として組成物中に存在できる範囲で使用することができる。
本発明のコイル用モールド組成物の(D)光ラジカル重合開始剤は、総重量に対し0.7wt%から8wt%の割合で添加することが好ましい。少ないと含有している(メタ)アクリル基の重合を行えず光を当てても硬化しなくなったり、硬化時間を長く要するので最低でも0.7wt%以上の添加量が必要となる。一方、添加量が多すぎると開始剤が光を吸収するため深部の硬化できなくなる。このため、光開始剤の添加量は最大でも8wt%以下にする必要がある。
【0030】
また、光ラジカル重合開始剤は光によって(メタ)アクリル基の重合を開始させるが熱によって重合を開始させることができない。生産時に光量が減ったり、光があたらない部
位が存在すると(メタ)アクリル基が反応しない場合がある。これを解決するために、光ラジカル重合開始剤の助剤として有機過酸化物を添加することができる。有機過酸化物としてはジアシルパーオキサイド、パーオキシエステル、パーオキシケタール、ハイドロパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイドが助剤として使用できる。具体的には、ジアシルパーオキサイドとしては、ジラウロイルパーオキサイド、ジベンジルパーオキサイドが使用でき、パーオキシエステルとしては、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシ−3−メチルベンゾエート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシベンゾエートが使用でき、パーオキシケタールとしては1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)−2−メチルシクロヘキサンが使用でき、ハイドロパーオキサイドとしては、クメンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイドが使用でき、アルキルパーオキサイドとしては、ジ−t−ヘキシルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイドが使用できる。
また、(F)メチルトリブチルフォスフォニウム ジメチルフォスフェートまたはテトラブチルフォスフォニウムジメチルフォスフォロジチオエートの含有量は、総重量に対し0.1wt%から8wt%の割合で添加することが好ましい。少なすぎると硬化速度が十分に上がらず溶出を発生する場合がある。しかし、多すぎると保存性が失われ数日で粘度が上昇する現象が起こり、使用に耐えなくなる。このため、添加量は全体の0.1wt%以上8wt%以下が好ましい。
(実施例)
以下実施例を基に更に詳しく本発明を説明するが、本発明は実施例だけに限定されるものではない。
(A)1分子中に(メタ)アクリル基とエポキシ基とを有するモノマーとして、(A-1)α付加型ビスフェノールAグリシジルエーテルモノメタクリレート、(A-2)α付加型ビスフェノールFグリシジルエーテルモノアクリレート、(A-3)α付加型ビスフェノールAグリシジルエーテルモノメタクリレート、(A-4)α付加型ビスフェノールFグリシジルエーテルモノアクリレート、(A-5)4−ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテルを用意した。
(B)エポキシモノマーとして(B-1)ビスフェノールA型ジグリシジルエーテル、(B-2)ビスフェノールF型ジグリシジルエーテル、(B-3)フェニルグリシジルエーテル、(B-4)2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、(B-5)1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテルを用意した。
(C)(メタ)アクリルモノマーとして、(C-1)α、α’付加型ビスフェノールAグリシジルエーテルジメタクリレート、(C-2)α、α’付加型ビスフェノールFグリシジルエーテルジメタクリレート、(C-3)α、β、α’付加型ビスフェノールAグリシジルエーテルジメタクリレート、(C-4)ジシクロペンテニルオキシメタクリレート、(C-5)4-ヒドロキシブチルアクリレート、(C-6)4-ヒドロキシブチルメタクリレートを用意した。
(D)光ラジカル重合開始剤として、(D-1)ジエトキシアセトフェノン、(D-2)2-ヒドロキシ−2−メチル1−フェニルプロパン−1−オン、(D-3)1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、(D-4)ベンゾイン、(D-5)ベンゾインイソプロピルエーテル、(D-6)ベンジルメチルケタール、(D-7)ベンゾフェノン、(D-8)ベンゾイル安息香酸、(D-9)ベンゾイン安息香酸メチル、(D-10)4−フェニルベンゾフェノン、(D-11)メチルフェニルグリオキシレート、(D-12)アシルホスフィンオキサイド、(D-13)ベンジルを用意した。
(E)融点が25℃以下もしくはモノマーに可溶な酸無水物として、(E-1)メチル−1,2,3,6−テトラヒドロ無水フタル酸、(E-2)メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、(E-3)メチル−3,6エンドメチレン−1,2,3,6−テトラヒドロ無水フタル酸、(E-4)メチルナジック酸無水物、(E-5)水素化メチルナジック酸無水物、(E-6)トリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸、(E-7)テトラヒドロ無水フタル酸、(E-8)ヘキ
サヒドロ無水フタル酸、(E-9)無水フタル酸、(E-10)無水ピロメリット酸、(E-11)無水トリメリット酸、(E-12)ベンゾフェノンテトラカルボン酸2無水物、(E-13)エチレングリコールビスアンヒドロトリメリテートを用意した。
(F)成分として、(F-1)メチルトリブチルフォスフォニウム ジメチルフォスフェート、(F-2)テトラブチルフォスフォニウムジメチルフォスフォロジチオエートを用意した。
【0031】
(D)光ラジカル重合開始剤が反応しない条件で、AからFの成分をそれぞれ計量して、遊星型攪拌混合機で攪拌し、5ミクロン以下のフィルターを通して目的のモーター用コイルモールド組成物を得た。
コアレスモータを作成するに当たっては、自己融着層が形成された銅線を巻き線したコイルの外側または内側の一方にモーター用コイルモールド組成物を塗布し前記組成物を浸透させ、紫外線を照射して1次硬化させた後、扁平につぶして巻き、加熱してコイルを整形し、コアレスモータを作成する方法と、自己融着層が形成された銅線を巻き線したコイルを、扁平につぶし、扁平した巻き線の片面に接着剤の分離防止用テープを貼り、テープを貼った面が内側となるように巻き、そこへモーター用コイルモールド組成物を塗布し、紫外線を照射して一次硬化させた後、加熱してコイルを整形することでコアレスモーターを作成した。
【0032】
(A-1)を20g、(B-1)を28g、(C-6)を55g、(E-1)を14g(合計117g)に対して、(D-1)、(D-2)、(D-3)、(D-4)をそれぞれ0.5wt%、0.7wt%、1.0wt%、3.0wt%、5.0wt%、8.0wt%、10.0wt%添加してモーター用コイルモールド組成物を作成した。
【0033】
次にこれを用いてコアレスモーター用コイルを作成した。この工程で、この樹脂を紫外線を照射したときの硬化の様子を観察したところ0.7wt%のものから8.0wt%のものは良好に硬化し、コイル部品を作成することができた。しかし、0.5wt%のものは、0.7wt%から8.0wt%と同様の結果を得るためには、これらの紫外線照射時間に比較して3倍の時間を要した。また、10.0wt%の場合は底部に未硬化部分があり、0.7wt%から8.0wt%と同様の結果を得るためには、これらの紫外線照射時間に比較して2倍の時間を要した。この結果、(D)の最適量は総重量に対し0.7wt%から8wt%の割合で添加することが好ましい。これを用いてコアレスモーターを作成したところはいづれも良好に動作した。
【0034】
また、光ラジカル重合開始剤濃度が、0.7wt%から8.0wt%のコイルモールド剤対してに、光ラジカル重合開始剤の助剤として、ジアシルパーオキサイドとしては、ジラウロイルパーオキサイド、ジベンジルパーオキサイドが使用できる。
【0035】
パーオキシエステルとしては、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシ−3−メチルベンゾエート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシベンゾエートが使用できる。パーオキシケタールとしては、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)−2−メチルシクロヘキサン、ハイドロパーオキサイドとしては、クメンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイドが使用できる。ジアルキルパーオキサイドとしては、ジ−t−ヘキシルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイドを用いて、それぞれ総重量の5%から6%加えたコイルモールド剤を得た。これを用いて一部紫外線を照射ない部位を設けた他は同様にコアレスモーターを作成したところ、未硬化も無く良好にコアレスモーターは動作した。
【0036】
この結果、光ラジカル重合開始剤の助剤として有機過酸化物を含有させると予期しない光の照射不良があった場合にも良好にコアレスモーターを製造できることが判った。
【0037】
(A-1)を20g、(B-1)を28g、(C-6)を55g、(E-1)を14g(F−1)を1g(合計118g)に対して、(D-1)、(D-2)、(D-3)、(D-4)をそれぞれ0.5wt%、0.7wt%、1.0wt%、3.0wt%、5.0wt%、8.0wt%、10.0wt%添加してモーター用コイルモールド組成物を作成した。
【0038】
次にこれを用いてコアレスモーター用コイルを作成した。この工程で、この樹脂を紫外線を照射したときの硬化の様子を観察したところ0.7wt%のものから8.0wt%のものは良好に硬化し、コイル部品を作成することができた。しかし、0.5wt%のものは、0.7wt%から8.0wt%と同様の結果を得るためには、これらの紫外線照射時間に比較して3倍の時間を要した。また、10.0wt%の場合は底部に未硬化部分があり、0.7wt%から8.0wt%と同様の結果を得るためには、これらの紫外線照射時間に比較して2倍の時間を要した。この結果、(D)の最適量は総重量に対し0.7wt%から8wt%の割合で添加することが好ましい。これを用いてコアレスモーターを作成したところはいづれも良好に動作した。
【0039】
(A-1)を65g、(B-1)を28g、(C-6)を10g、(D-1)を7g、(E-1)を14g(合計124g)に対して、(F-1)、(F-2)をそれぞれ0.07wt%、0.1wt%、0.5wt%、1.0wt%、3.0wt%、5.0wt%、8.0wt%、10.0wt%添加してモーター用コイルモールド組成物を作成した。
【0040】
この樹脂を用いてコアレスモーターを製造したところ、0.1wt%から8.0wt%は良好にコアレスモーターを製造できた。0.07wt%の場合には、硬化が不十分であったため、硬化時間が4倍かかった。10.0wt%の場合には、保管中(室温1ヶ月)に粘度が上昇したので、作りたての材料を用いて製造を行った。コアレスモーターはいづれも良好に動作した。
【0041】
この結果、(F)の全体に対しての添加量として0.1wt%以上8.0wt%以下がもっとも好ましいことが判った。
(A-1)から(A-5)、(B-1)から(B-5)、(C-1)から(C-6)、(D-1)から(D-13)、(E-1)から(E-13)を任意に取り分け、(A+B+C)と(A+C)との重量比が4:5以上、8:2以下となるよう混合してモーター用コイルモールド組成物を作成した。
【0042】
また、前記モーター用コイルモールド組成物に更に(F-1)と(F-2)を3wt%加えたモーター用コイルモールド組成物を作成した。
【0043】
この樹脂を用いてコアレスモーターを製造したところ、(A+B+C)と(A+C)との重量比が4:5以上、8:2以下の場合は良好にコアレスモーターを製造できた。
【0044】
また、同様に(A-1)から(A-5)、(B-1)から(B-5)、(C-1)から(C-6)、(D-1)から(D-13)、(E-1)から(E-13)を任意に取り分け、(A+B+C)と(A+C)との重量比4:7以下、または10:2以上となるよう混合した組成物を作成した。
【0045】
また、前記モーター用コイルモールド組成物に更に(F-1)と(F-2)を3wt%加えた組成物を作成した。
【0046】
この樹脂を用いてコアレスモーターを製造しようとしたところ、いずれの場合も、樹脂が硬化せず目的のコアレスモーターは作成できなかった。
【0047】
この結果、(A+B+C)と(A+C)との重量比は4:5以上、8:2以下が好ましいことが判った。
【0048】
(C)の(メタ)アクリルモノマーに、2−ヒドロキシエチルアクリレート、3−ヒドロキシプロピルアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、5−ヒドロキシペンチルアクリレート、また、(A)1分子中に(メタ)アクリル基とエポキシ基とを含有するモノマーとして2−ヒドロキシエチルアクリレートグリシジルエーテル、3−ヒドロキシプロピルアクリレートグリシジルエーテル、4−ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテル、5−ヒドロキシペンチルアクリレートグリシジルエーテルを用いたモーター用コイルモールド組成物を紫外線を照射して1次硬化させたところ、柔軟な樹脂を得ることができ、特にコイルを扁平する作業がスムーズにできた。
【0049】
(B)のエポキシモノマーとして、フェニルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテルを用いたモーター用コイルモールド組成物は粘度が低下して、巻き線した銅線の隙間に特に浸透が早く進み短時間でコアレスモーターを作成することができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)1分子中に(メタ)アクリル基とエポキシ基とを含有するモノマーと(B)エポキシモノマーと(C)(メタ)アクリルモノマーと(D)光ラジカル重合開始剤と(E)融点が25℃以下またはモノマーに可溶な酸無水物とを含有するモーター用コイルモールド組成物。
【請求項2】
さらに(F)メチルトリブチルフォスフォニウム ジメチルフォスフェートまたはテトラブチルフォスフォニウムジメチルフォスフォロジチオエートを含有することを特徴とする請求項1に記載のモーター用コイルモールド組成物。
【請求項3】
前記(A)1分子中に(メタ)アクリル基とエポキシ基とを含有するモノマーと前記(B)エポキシモノマーと前記(E)融点が25℃以下またはモノマーに可溶な酸無水物との合計の重量と、前記(A)1分子中に(メタ)アクリル基とエポキシ基とを含有するモノマーと前記(C)(メタ)アクリルモノマーとの合計の重量との混合比が4:5以上8:2以下の範囲にあることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のモーター用コイルモールド組成物。
【請求項4】
前記(C)(メタ)アクリルモノマーとしてヒドロキシアルキレン(メタ)アクリレート(アルキレン基は炭素数2から5の飽和アルキレン基を指す)を含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のモーター用コイルモールド組成物。
【請求項5】
前記ヒドロキシアルキレン(メタ)アクリレート(アルキレン基は炭素数2から5の飽和アルキレン基を指す)が4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートであることを特徴とする請求項4に記載のモーター用コイルモールド組成物。
【請求項6】
前記(A)1分子中に(メタ)アクリル基とエポキシ基とを含有するモノマーがα付加型ビスフェノールAグリシジルエーテルモノ(メタ)アクリレートまたは、α付加型ビスフェノールFグリシジルエーテルモノ(メタ)アクリレート、ヒドロキシアルキレン(メタ)アクリレートグリシジルエーテル(アルキレン基は炭素数2から5の飽和アルキレン基を指す)から選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のモーター用コイルモールド組成物。
【請求項7】
前記ヒドロキシアルキレン(メタ)アクリレートグリシジルエーテル(アルキレン基は炭素数2から5の飽和アルキレン基を指す)が、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートグリシジルエーテルであることを特徴とする請求項6に記載のモーター用コイルモールド組成物。
【請求項8】
前記(B)エポキシモノマーとして、少なくともビスフェノールA型ジグリシジルエーテル、ビスフェノールF型ジグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテルから選ばれる1種を含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のモーター用コイルモールド組成物。
【請求項9】
前記(D)光ラジカル重合開始剤として2−ヒドロキシー2−メチルー1−フェニルプロパンおよび/またはフェニルグリオキシックアシッドメチルエステルおよび/または1-ヒドロキシヘキシルフェニルケトンおよび/またはベンゾインから選ばれることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のモーター用コイルモールド組成物。
【請求項10】
前記(D)光ラジカル重合開始剤は、全成分の合計の0.7wt%以上8wt%以下の範
囲にあることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のモーター用コイルモールド組成物。
【請求項11】
前記(F)メチルトリブチルフォスフォニウム ジメチルフォスフェートまたはテトラブチルフォスフォニウムジメチルフォスフォロジチオエートの含有量が0.1wt%以上8wt%以下であることを特徴とする請求項2に記載のモーター用コイルモールド組成物。
【請求項12】
自己融着層が形成された銅線を巻き線したコイルの外側または内側の一方に請求項1から請求項11のいずれか一項に記載のモーター用コイルモールド組成物を塗布し、前記組成物を浸透させ、紫外線を照射して1次硬化させた後、扁平につぶして巻き、加熱してコイルを整形するコイルの製造方法。
【請求項13】
自己融着層が形成された銅線を巻き線したコイルを、扁平につぶし、扁平した巻き線の片面に接着剤の分離防止用テープを貼り、テープを貼った面が内側となるように巻き、請求項1から請求項11のいずれか一項に記載のモーター用コイルモールド組成物を塗布し、前記組成物を浸透させ、紫外線を照射して1次硬化させた後、扁平につぶして巻き、加熱してコイルを整形するコイルの製造方法。

【公開番号】特開2013−28702(P2013−28702A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−165228(P2011−165228)
【出願日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(000001960)シチズンホールディングス株式会社 (1,939)
【出願人】(307023373)シチズン時計株式会社 (227)
【Fターム(参考)】