説明

モータ機構付転動体ねじ装置

【課題】発熱問題を解決するとともに、コンパクトな外形を有し、部品点数の少ないモータ機構付転動体ねじ装置を実現する。
【解決手段】転動体ねじ機構20とモータ機構40とが、一体的に組み合わされて構成されるモータ機構付転動体ねじ装置10では、ナット部材31の外周面に対して永久磁石42が設置されることで、ナット部材31と永久磁石42とが協働して回転子41を構成している。また、ナット部材31の内周面に形成される負荷転動体転走面32は、所定の距離を隔てて形成される第1の負荷転動体転走面32aと第2の負荷転動体転走面32bとにより構成され、さらに、ナット部材31には、これら第1の負荷転動体転走面32aと第2の負荷転動体転走面32bとが形成される間の位置に対して、ナット部材31の軸方向と平行方向に弾性力を及ぼす弾性部33が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転動体ねじ機構とモータ機構とが一体的に組み合わされて構成されるモータ機構付転動体ねじ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、回転運動と往復運動とを相互に変換することが可能な装置として、ねじ軸の回転軸線に沿ってナット部材が往復運動する転動体ねじ装置が知られている。一般的な転動体ねじ装置は、外周面に転動体が転走する螺旋状の転動体転走面を有するねじ軸と、内周面に転動体転走面に対向する螺旋状の負荷転動体転走面を有するナット部材と、ねじ軸の転動体転走面とナット部材の負荷転動体転走面との間に介在される複数の転動体と、を備えて構成される装置であり、ねじ軸に対してナット部材を相対的に回転させると、ナット部材がねじ軸に対して直線的な運動を行うことができるようになっている。
【0003】
このような従来の転動体ねじ装置を駆動させるためには、何らかの駆動力源と組み合わせる必要がある。従来から実施されている転動体ねじ装置と駆動力源との組み合わせ手法としては、例えば、ナット部材の周りに中空モータを配置してナット部材を回転させる手法や、モータとねじ軸を並列に配置し、タイミングベルト等の動力伝達部材を介してモータの回転駆動力をねじ軸に伝達する手法などが存在していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭64−65360号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、中空モータを利用する手法については、中空モータの発熱がナット部材とねじ軸との間に膨張量の差を生じさせるので、転動体ねじ装置の駆動精度を下げてしまうという問題を発生させていた。また、中空モータとナット部材とが別部品の場合には、取り付けのための加工や回転止め等の機構が新たに必要となるため、装置自体の外形寸法が大きくなってしまい、全体重量が増加してしまうという問題も存在していた。
【0006】
全体重量の増加に対する対応策として、例えば上掲した特許文献1には、中空モータの回転子とナット部材とを一体化し、装置全体のコンパクト化を実現させるための技術が提案されている。しかしながら、特許文献1に開示された技術では、中空モータの発熱に対する対策が取られていないので、中空モータの発熱によってナット部材が膨張してしまう。そして、この膨張によって転動体ねじ装置(ボールねじ)には大きな予圧が加わることになるので、特許文献1に開示された技術では、早期寿命といった不具合を発生させる原因が未解決のままとなっていた。
【0007】
一方、モータとねじ軸を並列に配置し、タイミングベルト等の動力伝達部材を介してモータの回転駆動力をねじ軸に伝達する手法については、モータとねじ軸が離れているので、発熱の問題は存在しない。しかしながら、この手法では、モータとねじ軸を並列に配置するので、装置全体の外形寸法が大きくなり、広い配置スペースを必要とするという問題が存在していた。さらに、この手法では、タイミングベルト等の動力伝達部材を設置する必要があるので、部品点数が増加し、多くの製造コストを要してしまうという問題も存在していた。
【0008】
本発明は、上述した種々の問題の存在に鑑みて成されたものであって、その目的は、転動体ねじ機構とモータ機構とが一体的に組み合わされて構成されるモータ機構付転動体ねじ装置において、発熱問題を解決することで転動体ねじ装置としての性能を維持しながらも、コンパクトな外形を有し、部品点数の少ない構成を有する新たなモータ機構付転動体ねじ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るモータ機構付転動体ねじ装置は、外周面に転動体が転走する螺旋状の転動体転走面を有するねじ軸と、内周面に前記転動体転走面に対向する螺旋状の負荷転動体転走面を有するナット部材と、前記ねじ軸の転動体転走面と前記ナット部材の前記負荷転動体転走面との間に介在される複数の転動体と、を備える転動体ねじ機構と、界磁束発生源となる永久磁石を有する回転子と、前記回転子を回転させる回転磁界を発生する複数相の固定子コイルが複数組固定子鉄心に巻回されて構成される固定子と、を備えるモータ機構と、を備え、前記転動体ねじ機構と前記モータ機構とが、一体的に組み合わされて構成されるモータ機構付転動体ねじ装置であって、前記ナット部材の外周面に対して前記永久磁石が設置されることで、前記ナット部材と前記永久磁石とが協働して前記回転子を構成し、前記ナット部材の内周面に形成される前記負荷転動体転走面は、所定の距離を隔てて形成される第1の負荷転動体転走面と第2の負荷転動体転走面とにより構成され、さらに、前記ナット部材には、これら第1の負荷転動体転走面と第2の負荷転動体転走面とが形成される間の位置に対して、ナット部材の軸方向と平行方向に弾性力を及ぼす弾性部が形成されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、転動体ねじ機構とモータ機構とが一体的に組み合わされて構成されるモータ機構付転動体ねじ装置において、発熱問題を解決することで転動体ねじ装置としての性能を維持しながらも、コンパクトな外形を有し、さらに、部品点数の少ない構成を有する新たなモータ機構付転動体ねじ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本実施形態に係るモータ機構付転動体ねじ装置の外観斜視図である。
【図2】本実施形態に係る転動体ねじ機構の取り得る構成例を示すものであり、特に、外観側面視を示している。
【図3】本実施形態に係る転動体ねじ機構の取り得る構成例を示すものであり、特に、正面視を示している。
【図4】本実施形態に係る転動体ねじ機構の取り得る構成例を示すものであり、特に、部分縦断面側面視を示している。
【図5】本実施形態に係る転動体ねじ機構の基本構成を説明するための図である。
【図6】本実施形態に係る転動体ねじ機構の駆動原理を説明するための模式図である。
【図7】本実施形態に係るモータ機構付転動体ねじ装置の内部構造を例示するための部分縦断面図であり、ねじ軸の軸方向に沿った方向で見た場合の断面を示している。
【図8】図4で例示した本実施形態に係る転動体ねじ機構とは別の構成例を示す部分縦断面側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための好適な実施形態について、図面を用いて説明する。なお、以下の実施形態は、各請求項に係る発明を限定するものではなく、また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0013】
図1は、本実施形態に係るモータ機構付転動体ねじ装置10の外観斜視図である。本実施形態に係るモータ機構付転動体ねじ装置10は、内方側に設置された転動体ねじ機構20と、外方側に設置されたモータ機構40とを有して構成されており、これら転動体ねじ機構20とモータ機構40とが、一体的に組み合わされて構成される装置である。
【0014】
まず、本実施形態に係る転動体ねじ機構20の具体的な構成について、図2〜図4を用いて説明する。ここで、図2〜図4は、本実施形態に係る転動体ねじ機構20の取り得る構成例を示すものであり、特に、図2は外観側面視を、図3は正面視を、図4は部分縦断面側面視を示している。
【0015】
本実施形態に係る転動体ねじ機構20は、外周面にボール24が転走する螺旋状のボール転走溝22を有するねじ軸21と、内周面にねじ軸21のボール転走溝22に対向する螺旋状の負荷ボール転走溝32を有するナット部材31と、ねじ軸21のボール転走溝22とナット部材31の負荷ボール転走溝32との間に介在される複数のボール24と、を備えて構成されている。
【0016】
図4にて示されるように、ねじ軸21のボール転走溝22は、所定のリードLを有して構成されている。一方、ナット部材31の内周面に形成される負荷ボール転走溝32は、所定の距離を隔てて形成される第1の負荷ボール転走溝32aと第2の負荷ボール転走溝32bとにより構成されている。なお、以下の説明においては、第1の負荷ボール転走溝32aが形成されたナット部材31の箇所を第1ナット部31aと呼び、第2の負荷ボール転走溝32bが形成されたナット部材31の箇所を第2ナット部31bと呼ぶこととする。そして、これら第1の負荷ボール転走溝32aと第2の負荷ボール転走溝32bとが形成される間の位置に対して、すなわち、ナット部材31における第1ナット部31aと第2ナット部31bとの間の位置には、ナット部材31の軸方向と平行方向に弾性を及ぼすための弾性部33が形成されている。
【0017】
第1ナット部31aと第2ナット部31bのそれぞれには、円周方向に等間隔で3個のデフレクタ35が嵌め込まれており(ただし、図4では、それぞれ1個のデフレクタ35のみが図示されている。)、負荷ボール転走溝32(32a,32b)を転走してきたボール24は、このデフレクタ35の戻し溝を通って一巻き前の負荷ボール転走溝32(32a,32b)に戻され、同一の転走経路を無限循環するようになっている。したがって、第1ナット部31aと第2ナット部31bは、それぞれに無限循環する3条のボール列を具備したものとなっている。
【0018】
また、ナット部材31の軸方向の両端部にはシール部材26が設置されており、このシール部材26は、ナット部材31の軸方向端部とねじ軸21との間に存在する隙間からナット部材31の内部へと塵芥等の異物が侵入するのを防止する役目を担っている。さらに、ナット部材31における第1ナット部31aの軸端部側には、フランジ部27が形成されている。このフランジ部27には、不図示のボルトを貫通させるための取付孔28が形成されており、この取付孔28を利用することで、駆動対象物とナット部材31とを取り付けることが可能となっている。
【0019】
次に、第1ナット部31aと第2ナット部31bとの間に形成される弾性部33について説明を行う。図4にて詳細に示されているように、この弾性部33は、ナット部材31の周方向の全周にわたって溝として形成されるものである。その具体的な形成方法としては、ナット部材31の内周面に対して負荷ボール転走溝32(32a,32b)を研削加工した後に、ナット部材31の内周面における第1ナット部31aと第2ナット部31bとの間の位置に溝33aを旋削形成し、続いて、弾性部33の形成予定箇所の外周面側に防炭処理を施した上でナット部材31の全体に浸炭焼入れを実施し、その後、防炭処理を剥がしてナット部材31の外周面に溝33bを旋削形成する。
【0020】
このように、1つの円筒状部材からなるナット部材31を旋削加工して弾性部33を形成することで、弾性部33を構成することとなる溝33a,33bの旋削量及び角度を任意に設定できるので、弾性部33のバネ常数を容易に調整することが可能となる。また、第1ナット部31aと第2ナット部31bとの同軸度が、弾性部33の形成前後で変化しないので、高品質のナット部材31を形成できる点で好ましい。さらに、1部材からなるナット部材31から弾性部33を旋削加工して形成しているので、弾性部33の強度が強く、衝撃荷重の作用時にナット部材31が割れる危険性を極小化できるという利点を有している。
【0021】
本実施形態に係るナット部材31は、上述したような弾性部33を有して構成されているので、好適な予圧荷重を付与することが可能となっている。すなわち、図4にて示されるように、第1及び第2の負荷ボール転走溝32(32a,32b)のリードは、ねじ軸21に形成されたボール転走溝22のリードLと同一であるが、弾性部33を介した第1の負荷ボール転走溝32aと第2の負荷ボール転走溝32bとの間隔は、リードLの整数n倍よりαだけ小さく設定されている(nL−α)。したがって、ナット部材31をねじ軸21に組み込むと、ナット部材31に対して何ら外力が作用していない状態においても、第1の負荷ボール転走溝32aを転走するボール24と第2の負荷ボール転走溝32bを転走するボール24には、それぞれ弾性部33の方向へ引っ張る荷重が作用するので、ナット部材31にはαの値に応じた大きさの予圧が付与されることとなる。なお、本実施形態では、第1の負荷ボール転走溝32aと第2の負荷ボール転走溝32bとの間隔を(nL−α)としたが、リードLの整数n倍よりαだけ大きく、すなわち(nL+α)としても差し支えない。その場合、第1の負荷ボール転走溝32aを転走するボール24と第2の負荷ボール転走溝32bを転走するボール24には、それぞれ軸端方向へ圧縮する荷重が作用するので、やはりナット部材31にはαの値に応じた大きさの予圧が付与されることとなる。
【0022】
そして、このように構成され予圧が付与される本実施形態のナット部材31は、第1ナット部31aの外周面に突設された鍔状のフランジ部27を介してテーブル等の駆動対象物にボルト(不図示)で固定され使用されるのであるが、このとき上記弾性部33は、以下のように機能する。すなわち、ねじ軸21のリード誤差や軸径の誤差によってボール24と負荷ボール転走溝32(32a,32b)との間に隙間が発生したり、ボール24に過度の圧縮力が作用した場合には、この弾性部33が伸縮して上記隙間を吸収し、あるいは上記圧縮力を緩和するように働く。また、その一方で、弾性部33の弾性力に応じてナット部材31に予圧が付与されるので、そのバネ常数に応じた予圧量をナット部材31に付与する働きが得られる。したがって、本実施形態に係る転動体ねじ機構20にあっては、ねじ軸21にリード誤差や軸径の誤差が存在する場合にも、弾性部33の働きによって常に略一定の予圧がナット部材31に付与され、安定した運動精度が発揮されるのである。
【0023】
以上、本実施形態に係る転動体ねじ機構20の具体的な構成について説明を行った。次に、本実施形態に係るモータ機構40について、図5及び図6を参照図面に加えて説明することとする。ここで、図5は、本実施形態に係る転動体ねじ機構20の基本構成を説明するための図である。また、図6は、本実施形態に係る転動体ねじ機構20の駆動原理を説明するための模式図である。
【0024】
本実施形態に係るモータ機構40は、界磁束発生源となる複数の永久磁石42を有する回転子41と、回転子41を回転させる回転磁界を発生する複数相の固定子コイル52が複数組固定子鉄心53に巻回されて構成される固定子51と、を備えて構成されている。このモータ機構40は、永久磁石42を複数有する中空円筒状の回転子41と、鉄心材料(固定子鉄心)53に固定子コイル52が巻回された複数の極を持つ固定子51とを同軸で配置するものである。
【0025】
回転子41は、ナット部材31と永久磁石42とが協働することで構成されており、具体的には、ナット部材31の外周面に対して接着剤を用いて複数個の永久磁石42を貼り付けることで構成されている。永久磁石42は、ナット部材31の外周面の周方向で磁極の極性が交互に入れ替わるように、すなわち、図5中の分図(b)にて示されるように、N極とS極とが交互に入れ替わるように配置されている。また、永久磁石42については、溝として構成される弾性部33を避けて設置されており、弾性部33が発揮する弾性力の作用を阻害しないようになっている。すなわち、本実施形態の永久磁石42は、ナット部材31の外周面の軸方向では、弾性部33を挟んで磁極の極性の同じものが配置されるように構成されている。このような構成を有する回転子41は、永久磁石42によって界磁束発生源となり、固定子51から発生する回転磁界に従って回転可能となっている。
【0026】
一方、固定子51は、固定子鉄心53が有するティース53a部分に固定子コイル52が巻回されたものであり、図5及び図6で例示するモータ機構40の場合には、固定子51の極対数が4極対として構成されている。そして、固定子51は、回転子41を回転させるための回転磁界を発生する複数相の固定子コイル52が複数組固定子鉄心53のティース53a部分に巻回されることによって構成されている。
【0027】
本実施形態に係る固定子51のより具体的な構成を説明すると、固定子51は、固定子鉄心53と、固定子鉄心53に配設された複数相(より具体的には奇数相で例えば3相)の固定子コイル52u,52v,52wとを含んで構成されている。固定子鉄心53には、径方向内側へ向けて、すなわち回転子41側へ向けて突出した複数のティース53aが互いに周方向で間隔をおいて配列されており、さらに、各ティース53a間には、スロット55が形成されている。つまり、固定子鉄心53には、複数のスロット55が周方向に互いに間隔をおいて形成されている。各相の固定子コイル52u,52v,52wは、スロット55を通ってティース53aに短節集中巻で巻装されている。このように、ティース53aに固定子コイル52u,52v,52wが巻装されることで、磁極が構成されることとなる。そして、複数相(3相もしくは奇数相)の固定子コイル52u,52v,52wに複数相(3相もしくは奇数相)の交流電流を流すことで、周方向に並べられたティース53aが順次磁化し、周方向に回転する回転磁界をティース53aに形成することができる。ティース53aに形成された回転磁界は、その先端面から回転子41に作用する。例えば、図6に示す例では、3相(u相、v相、w相)の固定子コイル52u,52v,52wがそれぞれ巻装された3つのティース53aにより1つの極対が構成され、4極3相の固定子コイル52u,52v,52wが各ティース53aに巻装されている。
【0028】
なお、上述した固定子鉄心53については、極全体が単一の固定子鉄心53として構成されてもよいし、一極ごとに分割された鉄心を構成し、この分割鉄心の集合体として固定子鉄心53を形成することとしてもよい。
【0029】
以上説明した本実施形態に係るモータ機構40において、3相の固定子コイル52u,52v,52wに3相の交流電流を流すことで、ティース53aに形成された回転磁界が回転子41に作用することとなる。この回転磁界の作用に応じて、回転子41の磁気抵抗が小さくなるように、永久磁石42がティース53aの回転磁界に吸引される。これによって、回転子41にトルク(リラクタンストルク)が作用して、回転子41が固定子51で形成される回転磁界に同期して回転駆動することとなる。
【0030】
以上説明した転動体ねじ機構20とモータ機構40との一体化技術により、本実施形態に係るモータ機構付転動体ねじ装置10が実現されている。すなわち、モータ機構40が有する発熱源である固定子コイル52からの熱がナット部材31に伝わってナット部材31とねじ軸21との間に膨張量の差が生じたとしても、本実施形態では、ナット部材31に形成された弾性部33が伸縮して過度の膨張量を吸収するので、モータ機構付転動体ねじ装置10には常に略一定の予圧が付与されることとなり、常時好適な運動精度を維持することが可能となっている。
【0031】
また、本実施形態に係るモータ機構付転動体ねじ装置10では、ナット部材31の外周面に対して接着剤を用いて複数個の永久磁石42を貼り付けることで回転子41が構成されているので、装置全体としての外形寸法の増大を招くことがなく、非常にコンパクトな装置構成が実現されている。かかる構成は、部品点数の増加を招くこともないので、製造コストの面でも優位な構成となっている。
【0032】
さらに、ナット部材31の外周面に対して貼り付けられた複数個の永久磁石42は、溝として形成された弾性部33を避けて設置されているので、弾性部33が発揮する予圧調整機能を阻害することなく転動体ねじ機構20とモータ機構40との一体化が実現しており、これによって従来にはない全く新しいモータ機構付転動体ねじ装置10を提供することが可能となっている。
【0033】
またさらに、ナット部材31は、金属材料によって構成されているので、本来的に磁性体であるから、永久磁石42のヨークとして見立てることができる。したがって、ナット部材31の外周面に対して複数個の永久磁石42を直接貼り付けることにより、従来用いられてきた中空モータを使用する場合に比べてモータとして機能するモータ機構40の箇所の径が小さくなるので、イナーシャが小さくなるという好適な作用効果を発揮することが可能となる。
【0034】
なお、転動体ねじ機構20とモータ機構40とを一体化するに際して採用される構成、具体的には、本実施形態に係る回転子41と固定子51との接続機構については、例えば、図7にて例示するような構成を採用することができる。ここで、図7は、本実施形態に係るモータ機構付転動体ねじ装置の内部構造を例示するための部分縦断面図であり、ねじ軸21の軸方向に沿った方向で見た場合の断面を示している。
【0035】
本実施形態に係るモータ機構付転動体ねじ装置10については、ねじ軸21と固定子51に対してナット部材31と一体化された回転子41が相対的に回転運動自在に構成される必要がある。この際、ねじ軸21と回転子41とは、転動体ねじ機構20が本来有する構成によって相対的に回転運動自在となっているが、一方、固定子51と回転子41とは、転動体ねじ装置としての機能を発揮させるために、両部材間での相対的な回転運動を実現しながらも、ねじ軸21の軸方向での往復直線運動を両部材が実現できるようにする必要がある。そこで、図7にて例示する実施例では、回転子41として構成されるナット部材31と、固定子51として構成される固定子鉄心53を含む部材との間に、一対のボールベアリング61,62を設置する構成を採用することとした。かかる構成によって、ねじ軸21と固定子51に対してナット部材31と一体化された回転子41が相対的に回転運動自在となるので、転動体ねじ機構20とモータ機構40という2つの機構が有する機能を好適に発揮することが可能となる。
【0036】
なお、テーブル等の駆動対象物と接続するためのフランジ部については、図7にて示すように、固定子51に対して新たなフランジ部57を形成するようにしてもよいし、あるいは、上述したナット部材31が有する第1ナット部31aの外周面に突設された鍔状のフランジ部27をそのまま利用できるように、固定子51がフランジ部27を避けて形成される構成を採用してもよい。
【0037】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されない。上記実施形態には、多様な変更又は改良を加えることが可能である。
【0038】
例えば、上述した実施形態では、転動体としてボール24を採用した場合を例示して説明を行ったが、転動体には、ローラやコロなどといったあらゆる形態のものを採用することが可能である。なお、転動体の種類によって、ねじ軸が有する転動体転走面やナット部材が有する負荷転動体転走面を、溝形状としたり面形状としたりすることが可能である。
【0039】
また、上述した転動体ねじ機構20とモータ機構40の構成については、上述した実施形態が発揮し得る作用効果を実現できる範囲において、種々の変形形態を採用することが可能である。
【0040】
例えば、上述した実施形態の回転子41では、ナット部材31の外周面に対して複数個の永久磁石42が接着剤を用いて貼り付けられていたが、永久磁石の設置手法については種々の手法を採用することが可能であり、ナット部材31の外周面に溝付け加工を行うことで取付溝を形成し、この取付溝に対して永久磁石42を嵌め込んで設置するようにしてもよい。
【0041】
また、モータ機構40が有する永久磁石42の数や固定子51の極数などについては、適宜変更形態を採用することが可能である。
【0042】
さらに、上述した実施形態の弾性部33は、ナット部材31の内周面に形成された溝33aと、ナット部材31の外周面に形成された溝33bによって形成されていたが、本発明に係る弾性部の形状については、上述した弾性部33と同様の作用効果を発揮する範囲において、あらゆる変形形態を採用することが可能である。
【0043】
例えば、ナット部材の内周面又は外周面の一方のみに溝を形成することで、本発明の弾性部を形成するようにしてもよい。また、ナット部材の内周面又は外周面の一方側に、その周面よりも外方側に飛び出す凸部形状を形成し、その凸部形状に対応するナット部材の外周面又は内周面のもう一方側に溝を形成することで、凸部形状と溝との組み合わせによる弾性部を形成するようにしてもよい。さらに、上述した実施形態の弾性部33は、ナット部材31の内周面と外周面に対してそれぞれ1つずつの溝を形成したものであったが、溝の数については任意に増やすことが可能である。
【0044】
また、本発明の弾性部は、1つ以上の溝や、溝と凸部形状との組み合わせによってのみ構成されるものではない。例えば、1部材として構成されるナット部材の中央部分に対して螺旋状の穴を開けることで、ナット部材の中央部分にコイル形状を形成し、このコイル形状によって作用する弾性力を利用することで、本発明に係る別の弾性部を構成させるようにしてもよい。
【0045】
以上、本発明に係る弾性部が取り得る多様な構成例を説明したが、上述した弾性部は、1部材として構成されるナット部材に対して適用されるものであった。しかしながら、本発明に係るナット部材については、別体で構成される複数の部材を組み合わせることで構成してもよい。かかる構成例として、図8を示す。
【0046】
ここで、図8は、図4で例示した本実施形態に係る転動体ねじ機構とは別の構成例を示す部分縦断面側面図であるが、この図8にて示される転動体ねじ機構20’のように、第1ナット部31a’と第2ナット部31b’とを2つの分割された部材として構成し、これら第1ナット部31a’と第2ナット部31b’との間に弾性体である2枚の皿バネ83a,83bを挟み込み、これらをプロジェクション溶接にて一体化することで、ナット部材31’の軸方向と平行方向に弾性力を及ぼす弾性部83を構成するようにしてもよい。2分割部材である第1ナット部31a’と第2ナット部31b’、そして、これらの部材を接続する2枚の皿バネ83a,83bからなる弾性部83によって構成されるナット部材31’に対して、弾性部83を避けて永久磁石42を設置することにより、上述した実施形態と同様の作用効果を発揮することのできる回転子と一体化した転動体ねじ機構20’を実現することが可能となる。なお、弾性部83のバネ常数については、2枚の皿バネ83a,83bの弾性力を適宜に変更することにより、自在に調整することができる。
【0047】
またさらに、図8にて示した構成例では、2つに分割された第1ナット部31a’と第2ナット部31b’との間に設置される弾性部83を、2枚の皿バネ83a,83bによって構成した場合を例示して説明を行ったが、弾性部83に採用できる弾性体については、皿バネ83a,83bに限られるものではない。本発明の弾性部については、弾性力を発揮することのできるその他のあらゆる弾性体を採用することが可能である。
【0048】
その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0049】
10 モータ機構付転動体ねじ装置、20,20’ 転動体ねじ機構、21 ねじ軸、22 ボール転走溝、24 ボール、26 シール部材、27 フランジ部、28 取付孔、31,31’ ナット部材、31a,31a’ 第1ナット部、31b,31b’ 第2ナット部、32 負荷ボール転走溝、32a 第1の負荷ボール転走溝、32b 第2の負荷ボール転走溝、33 弾性部、33a,33b 溝、35 デフレクタ、40 モータ機構、41 回転子、42 永久磁石、51 固定子、52,52u,52v,52w 固定子コイル、53 固定子鉄心、53a ティース、55 スロット、57 フランジ部、61,62 ボールベアリング、83 弾性部、83a,83b 皿バネ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に転動体が転走する螺旋状の転動体転走面を有するねじ軸と、内周面に前記転動体転走面に対向する螺旋状の負荷転動体転走面を有するナット部材と、前記ねじ軸の転動体転走面と前記ナット部材の前記負荷転動体転走面との間に介在される複数の転動体と、を備える転動体ねじ機構と、
界磁束発生源となる永久磁石を有する回転子と、前記回転子を回転させる回転磁界を発生する複数相の固定子コイルが複数組固定子鉄心に巻回されて構成される固定子と、を備えるモータ機構と、
を備え、
前記転動体ねじ機構と前記モータ機構とが、一体的に組み合わされて構成されるモータ機構付転動体ねじ装置において、
前記ナット部材の外周面に対して前記永久磁石が設置されることで、前記ナット部材と前記永久磁石とが協働して前記回転子を構成し、
前記ナット部材の内周面に形成される前記負荷転動体転走面は、所定の距離を隔てて形成される第1の負荷転動体転走面と第2の負荷転動体転走面とにより構成され、さらに、
前記ナット部材には、これら第1の負荷転動体転走面と第2の負荷転動体転走面とが形成される間の位置に対して、ナット部材の軸方向と平行方向に弾性力を及ぼす弾性部が形成されていることを特徴とするモータ機構付転動体ねじ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のモータ機構付転動体ねじ装置において、
前記弾性部の形成される前記ナット部材が、1部材で構成されていることを特徴とするモータ機構付転動体ねじ装置。
【請求項3】
請求項1に記載のモータ機構付転動体ねじ装置において、
前記ナット部材は、
前記第1の負荷転動体転走面が形成される第1ナット部と、
前記第1ナット部とは別体にて構成される前記第2の負荷転動体転走面が形成される第2ナット部と、
これら第1ナット部と第2ナット部との間に挟み込まれる弾性体からなる弾性部と、
を有して構成されることを特徴とするモータ機構付転動体ねじ装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のモータ機構付転動体ねじ装置において、
前記永久磁石は、前記弾性部を避けて設置されることを特徴とするモータ機構付転動体ねじ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−72881(P2012−72881A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−219784(P2010−219784)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(390029805)THK株式会社 (420)
【Fターム(参考)】