説明

モータ用磁石、モータ及びモータの製造方法

【課題】モータの信頼性を向上させるとともに、製造コストを低減することが可能なモータ用磁石を提供すること。
【解決手段】接着剤によってモータ部品に接着されるモータ用磁石10であって、モータ部品との接着面12に、接着面12の外縁14から延在する溝16を有するモータ用磁石10。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ用磁石、モータ及びモータの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モータには、種々の形状を有する永久磁石が用いられている。このようなモータ用磁石は、通常ロータやステータなどのモータ部品に固定されている。モータ用磁石をモータ部品に固定するために、接着剤が用いられる。この場合、接着不良の発生を抑制するために、モータ用磁石をモータ部品に十分な強度で接着することが必要である。
【0003】
接着不良を防止するためには、十分な量の接着剤を使用する必要があるものの、接着剤を過剰に使用すると、接着剤が接着面からはみ出して、モータの回転部分等に接触することが懸念される。このような現象を回避するために、特許文献1では、ステータケースの内周面に環状の溝を形成することが提案されている。また、特許文献2でも、筒状のモータケースに接着剤充填用の環状溝を形成することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−238375号公報
【特許文献2】実開昭62−188960号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1及び2のように、ステータケースなどのモータ部品に溝を形成することはモータ部品の製造コストが上昇することとなり、量産化に不向きである。また、特許文献1,2のように、モータ部品に環状の溝を形成すると、溝を伝って接着剤が流延してモータ用磁石との接着部分以外の箇所に接着剤が付着し易くなり、モータ作動時に不具合を引き起こす可能性がある。また、その場合、モータ磁石の接着性が不十分となってしまうことが懸念される。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、モータの信頼性を向上させるとともに、製造コストを低減することが可能なモータ用磁石を提供することを目的とする。また、優れた信頼性を有し、製造コストが低減されたモータ及びそのようなモータの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明では、接着剤によってモータ部品に接着されるモータ用磁石であって、モータ部品との接着面に、該接着面の外縁から延在する溝を有するモータ用磁石を提供する。
【0008】
本発明のモータ用磁石は、モータ部品との接着面に、該接着面の外縁から延在する溝を有する。このようなモータ用磁石は、接着剤を用いてモータ部品とモータ用磁石とを接着する際に、接着剤が溝に沿って流延するため、接着面の広い領域に接着剤を行き渡らせることができる。したがって、モータ用磁石とモータ部品との接着性が良好となり、モータの信頼性を向上させることができる。また、モータ部品に溝を設ける必要がないために、モータの製造コストを低減することができる。
【0009】
本発明のモータ用磁石の接着面における溝は、接着面を横断又は縦断するように形成されていることが好ましい。これによって、モータ用磁石とモータ部品との接着性を一層良好にして、一層信頼性の高いモータを製造することができる。
【0010】
本発明のモータ用磁石の接着面における溝は、横断面形状がU字型であることが好ましい。これによって、接着剤を用いてモータ部品とモータ用磁石とを接着する際に、接着剤が溝に沿って一層流延し易くなり、接着面の一層広い領域に接着剤を容易に行き渡らせることができる。したがって、モータの信頼性を一層向上させることができる。
【0011】
また、本発明は、モータ部品と、接着剤によって当該モータ部品に接着された上述のモータ用磁石と、を備えるモータを提供する。本発明のモータは、上述の特徴を有するモータ用磁石を備えているため、モータ部品とモータ用磁石との接着性が良好であり、優れた信頼性を有する。また、モータ部品に溝を形成する必要がないことから、モータの製造コストを低減することができる。
【0012】
また、本発明は、モータ部品と、該モータ部品に接着されたモータ用磁石とを備えるモータの製造方法であって、モータ用磁石の溝を有する接着面とモータ部品とが対向するように、モータ用磁石をモータ部品上に配置する工程と、鉛直方向に延在する溝に沿って接着剤を流延し、接着剤によってモータ部品とモータ用磁石とを接着する工程を有する、モータの製造方法を提供する。
【0013】
本発明のモータの製造方法では、鉛直方向に延在する、モータ用磁石の接着面の溝に沿って接着剤を流延する。このため、接着面の広い領域に接着剤を容易に行き渡らせることが可能となり、モータ部品とモータ用磁石との接着性を良好にすることができる。したがって、優れた信頼性を有するモータを製造することができる。また、モータ部品に溝を形成する必要がないことから、モータの製造コストを低減することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、モータの信頼性を向上させるとともに、製造コストを低減することが可能なモータ用磁石を提供することができる。また、優れた信頼性を有し、製造コストが低減されたモータ及びそのようなモータの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明のモータ用磁石の好適な実施形態を示す斜視図である。
【図2】図1に示すモータ用磁石の正面図である。
【図3】図2に示すモータ用磁石のIII−III線断面図である。
【図4】図3に示すモータ用磁石の一部を拡大して示す拡大断面図である。
【図5】本発明のモータ用磁石の別の実施形態を示す正面図である。
【図6】本発明のモータの好適な実施形態を模式的に示す断面図である。
【図7】図6に示すモータのVII−VII線断面図である。
【図8】本発明の実施例でモータ用磁石の製造に用いた磁場射出成形装置の要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、場合により図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。なお、各図面において、同一または同等の要素には同一の符号を付与し、重複する説明を省略する。
【0017】
図1は、本実施形態のモータ用磁石の斜視図である。モータ用磁石10は、C型形状の磁石であり、モータに組み込まれて使用される。モータ用磁石10は、外周面がモータ部品との接着面12となる。モータ用磁石10は、接着剤によって、接着面12がモータ部品に接着されて、モータ内に実装される。モータ用磁石10は、接着面12に、接着面12の外縁14から延在する2つの溝16を有する。
【0018】
図2は、モータ用磁石10の正面図である。図2に示すように、モータ用磁石10の接着面12には、2つの溝16が外縁14から延びるように平行に形成されている。溝16は、接着面12を横断又は縦断するように形成されている。すなわち、溝16は、モータ用磁石10の両端を連通するように形成されている。接着面12は、2つの溝16によって、3つの領域(接着面12a,12b,12c)に区分されている。
【0019】
モータ用磁石10の接着面12とモータ部品との接着は、接着面12とモータ部品とが対向するように配置した状態で、モータ用磁石10とモータ部品との間に接着剤を流延させて行うことができる。モータ用磁石10は、接着面12に溝16を有するため、モータ用磁石10の接着面12とモータ部品とを接着剤を用いて接着する際に、接着剤を接着面12上の広い領域に容易に行き渡らせることができる。これによって、モータ用磁石10とモータ部品との接着が強固になり、モータの信頼性を十分に向上させることができる。
【0020】
図3は、図2に示すモータ用磁石10のIII−III線断面図である。図3に示すような接着面12に垂直で且つ溝16の長手方向に垂直な断面において、溝16は、U字型の断面形状を有する。このようにU字型の断面形状を有する溝16は、モータ用磁石10とモータ部品との接着時に、接着剤が流延し易くなるため、接着剤を接着面12上の一層広い領域に容易に行き渡らせることができる。これによって、モータ用磁石10とモータ部品との接着が一層強固になり、モータの信頼性を一層向上させることができる。
【0021】
図4は、図3に示す断面図において、溝16近傍を拡大して示す拡大図である。接着剤を流延する際に、接着面12上の一層広い領域に接着剤を行き渡らせる観点から、溝16の深さdはモータ用磁石10の表面(接着面12)から好ましくは5μm以上であり、より好ましくは10μm以上であり、さらに好ましくは20μm以上である。一方、溝16の深さdが過大であると、モータ用磁石10の強度が損なわれる傾向にある。このような観点から、モータ用磁石10の厚さをtとしたときに、溝16の深さdは、好ましくは(t−20)μm以下であり、より好ましくは(t−50)μm以下であり、さらに好ましくは(t−100)μm以下である。
【0022】
図3及び図4に示すような断面において、溝16の横断面における曲率半径rは、好ましくは0.5〜5mmであり、より好ましくは1〜4mmである。このような曲率半径rを有するU字型の断面形状とすることによって、接着剤がより一層広い領域に流延し易くなり、一層良好な接着性を有するモータ用磁石とすることができる。
【0023】
溝16の数や、複数ある溝16の間隔は特に制限されない。ただし、製造コストの低減と良好な接着性を高水準で両立させる観点から、溝の数を2〜3本とすることが好ましい。また、同様の観点から、溝によって区分される各領域の面積が同程度となるように溝を形成することが好ましい。
【0024】
モータ用磁石10の材質は特に制限されず、例えばフェライト焼結磁石や希土類焼結磁石であってもよい。
【0025】
モータ用磁石10の製造方法について以下に説明する。モータ用磁石10は、複数の原料粉末を、乾式及び/又は湿式で所定の比率で混合し、得られた混合粉末を所定の形状に成形し焼結することによって製造することができる。成形は、通常の加圧成形であってもよく、射出成形であってもよい。モータ用磁石10は、モータ用磁石10と同様の形状を有する成形体を作製し、焼成して製造してもよく、一旦焼結体を得た後に、加工により溝16を形成して製造してもよい。モータ用磁石10を量産する場合、モータ用磁石10と同様の形状を有する成形体を射出成形で形成し、焼成することが好ましい。これによって、製造コストを十分に低減することができる。
【0026】
モータ用磁石10がフェライト焼結磁石の場合、以下に説明する射出成形によってモータ用磁石10を製造することができる。まず、フェライト組成物の原料の酸化物、または焼成により酸化物となる化合物を混合し、仮焼して仮焼粉を得る。仮焼は、大気中で、例えば1000〜1350°Cで、1秒間〜10時間程度行えばよい。
【0027】
次に、得られた仮焼粉の乾式粗粉砕及び湿式粉砕を行って磁性粉末を得る。乾式粉砕には、例えば乾式振動ミル、乾式アトライター(媒体撹拌型ミル)、乾式ボールミル等を使用することができる。乾式粗粉砕の後、仮焼粉と水と界面活性剤を含む粉砕用スラリーを調製し、これを用いて湿式粉砕を行う。湿式粉砕には、ボールミル、アトライター、振動ミル等を使用することができる。界面活性剤としては、好ましくは、一般式C(OH)n+2で表される多価アルコールが用いられる。多価アルコールは、炭素数nが4以上、好ましくは4〜100、より好ましくは4〜30、さらに好ましくは4〜20、最も好ましくは4〜12である。
【0028】
湿式粉砕後、磁性粉末を乾燥させる。乾燥温度は、好ましくは80〜150℃、さらに好ましくは100〜120℃である。また、乾燥時間は、好ましくは60〜600分間、さらに好ましくは300〜600分間である。
【0029】
乾燥後、磁性粉末を、バインダ樹脂、ワックス類、滑剤、可塑剤、昇華性化合物などと共に混練し、ペレタイザなどで、ペレットに成形する。混練は、たとえばニーダーなどで行う。ペレタイザとしては、例えば2軸1軸押出機を用いることができる。
【0030】
バインダ樹脂としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、アタクチックポリプロピレン、アクリルポリマー、ポリスチレン、ポリアセタールなどの熱可塑性樹脂を用いることができる。ワックス類としては、カルナバワックス、モンタンワックス、蜜蝋などの天然ワックスや、パラフィンワックス、ウレタン化ワックス、ポリエチレングリコールなどの合成ワックスを用いることができる。滑剤としては、例えば脂肪酸エステルを、可塑剤としては、例えばフタル酸エステルを用いることができる。
【0031】
次に、ペレットを、通常の磁場射出成形装置に投入する。ペレットは押出機の内部で、例えば160〜230℃に加熱される。これによって、ペレットは溶融し、スクリューにより磁場が印加された金型のキャビティ内に射出される。金型の温度は20〜80℃、金型8への印加磁場は5〜15kOe程度とすることができる。このように、磁場中で射出成形を行うことによって、所望の形状の成形体を得ることができる。
【0032】
得られた成形体を、大気中又は窒素中、300〜600℃に加熱して、脱バインダ処理を行う。その後、成形体を、大気中で好ましくは1100〜1250℃、より好ましくは1160〜1220℃で0.2〜3時間焼成して、異方性のフェライト焼結磁石(モータ用磁石10)を得ることができる。磁場射出成形装置の金型に突起を設けることによって、接着面となる表面に金型の突起と相補的な溝を有するフェライト焼結磁石を得ることができる。
【0033】
図5は、本発明のモータ用磁石の別の実施形態を示す正面図である。図5に示すモータ用磁石20は、上記実施形態のモータ用磁石10と同様のC型形状を有する磁石であり、外周面がモータ部品との接着面22となる。モータ用磁石20は、接着面22に、外縁24から延在する接着剤流延用の溝26を有している。モータ用磁石20は、溝26が一本である点、及び溝26が接着面22を横断も縦断もしておらず、溝26の一端が外縁24から延在していない点で、モータ用磁石10と相違する。
【0034】
モータ用磁石20も、モータ部品との接着時において、接着剤が溝26に沿って流延し、接着面22の広い領域に接着剤を行き渡らせることができる。このため、モータ用磁石20とモータ部品との接着が強固になり、モータの信頼性を向上させることができる。ただし、モータ用磁石20では、溝26が接着面22を横断(縦断)していないため、接着時にモータ用磁石20の上端側に溝26の穴が配置されるように確認する必要がある。一方、モータ用磁石10は、溝が接着面を横断(縦断)しているため、上下方向の確認する必要がない。したがって、モータ用磁石10の方がモータ用磁石20よりも製造工程を簡素化できる点で好ましい。
【0035】
次に、本発明のモータの好適な実施形態を説明する。図6は、本実施形態のモータを模式的に示す断面図である。本実施形態のモータ30は、ブラシ付き直流モータであり、有底筒状のハウジング31(ステータ)と、ハウジング31の内周側に同心に配置された回転可能なロータ32と、を備える。ロータ32は、ロータ軸36とロータ軸36上に固定されたロータコア37とを備える。ハウジング31の筒部分の内周面には、C型のモータ用磁石10が互いに対向するように2個固定されている。
【0036】
図7は、図6のモータ30のVII−VII線断面図である。モータ用磁石10は、その外周面を接着面として、ハウジング31の内周面上に接着剤で接着されている。モータ用磁石10は、モータ部品であるハウジング31との接着面に溝16を有しているため、接着面の大部分が接着剤によってハウジング31と接着されている。溝16の内部及びモータ用磁石10とハウジング31との界面には接着剤50が充填されている。ハウジング31とモータ用磁石10との接着性は良好であり、モータ30は優れた信頼性を有する。また、ハウジング31に溝を形成する必要がないことから、モータ30を低い製造コストで製造することができる。
【0037】
次に、本発明のモータの製造方法の好適な一実施形態を、モータ30を例にして説明する。モータ30の製造方法は、ハウジング31及びロータ32等の各モータ部品と外周面に溝16を有するC型のモータ用磁石10とを準備する準備工程と、モータ用磁石10の外周面とハウジング31の内周面とが対向するように、モータ用磁石10をハウジング31上の所定の位置に配置する位置決め工程と、位置決めしたモータ用磁石10の溝16が鉛直方向になるようにして、モータ用磁石10の上端に溝16によって形成されたU字状の穴に接着剤を注入し、溝16に沿って接着剤を流延する流延工程と、ハウジング31とモータ用磁石10とを接着剤で接着する接着工程を有する。以下、各工程の詳細を説明する。
【0038】
準備工程では、ハウジング31及びロータ32等の各モータ部品と、外周面に溝16を有するC型のモータ用磁石10とを準備する。各モータ部品は市販のものを用いることができる。モータ用磁石10は、後の工程でハウジング31と接着される接着面に、溝16を有する。このようなモータ用磁石10は、上述の製造方法によって製造することができる。
【0039】
位置決め工程では、図7に示すように、モータ用磁石10の外周面とハウジング31の内周面とが対向するように、モータ用磁石10をハウジング31の内周面上に配置する。この際、モータ用磁石10の接着面の一部がハウジング31の内周面と接触するように配置することが好ましい。
【0040】
流延工程では、位置決めしたモータ用磁石10の溝16が鉛直方向になるようにして、モータ用磁石10の上端に溝16によって形成されたU字状の穴に接着剤を注入する。穴から注入された接着剤は、溝16に沿って下方に向かって流れ、ハウジング31の内周面とモータ用磁石10との間に拡がる。モータ用磁石10は、鉛直方向に延在する溝16を有しているため、ハウジング31の内周面とモータ用磁石10との間に接着剤を円滑に行き渡らせることができる。これによって、モータ用磁石10のハウジング31との接着面の大部分が接着剤によってハウジング31と接着されることとなる。
【0041】
接着剤としては、エポキシ系接着剤などの熱硬化性樹脂系の接着剤を用いることができる。このような接着剤を60〜100℃に加熱したハウジング31とモータ用磁石10との間に注入すれば、溝16に沿って接着剤を流延させて接着することができる。
【0042】
接着工程では、モータ用磁石10の溝16に沿って流延し、ハウジング31の内周面とモータ用磁石10との間に拡げられた接着剤が固化する。これによって、固化した接着剤を介してモータ用磁石10がハウジング31の内周面の所定の位置に接着される。その後、ハウジング31の内部にロータコア37とロータコア37の中心を貫通するロータ軸36とを有するロータ32を配置する。この際、ロータ32のロータ軸36の一端側をハウジング31の底面の中心部に設けられた軸受34の穴に貫通させる。そして、ロータ軸36の他端側に装着されたブラケット33をハウジング31の開口部に嵌め込むことによって、モータ30を得ることができる。
【0043】
以上の工程によって得られるモータ30は、鉛直方向に延びる溝16に接着剤を注入して接着剤を拡げているため、ハウジング31の内周面とモータ用磁石10との間の接着面の広い領域に接着剤を行き渡らせることができる。このため、モータ用磁石10をハウジング31に強固に接着することができる。したがって、モータ30は、十分に優れた信頼性を有する。また、本実施形態の製造方法は、ハウジング31に溝を形成する必要がないため、製造コストを低減することができる。すなわち、本実施形態のモータの製造方法は大量生産に適した方法であるといえる。
【0044】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではない。例えば、上記実施形態では、ブラシ付き直流モータを挙げて説明したが、本発明のモータ及びモータの製造方法は、ブラシ付き直流モータに限定されるものではなく、例えば、ステータと、ステータに同心に回転可能に配置されたロータと、を備え、ステータに対向するようにロータ(モータ部品)の内周面側にモータ用磁石が固定されたブラシレスモーターであってもよい。
【実施例】
【0045】
以下に実施例及び比較例を挙げて、本発明の内容をより詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0046】
(実施例1)
[モータ用磁石の作製]
出発原料として、市販のFe粉末、SrCO粉末、La(OH)粉末、CaCO粉末及びCo粉末を準備した。これらを所定量秤量し、添加物とともに、湿式アトライターで粉砕後、乾燥・整粒し、空気中、1230℃で3時間焼成して、顆粒状の仮焼体を得た。
【0047】
得られた仮焼体を振動ミルにより乾式粗粉砕した。次いで、分散剤としてソルビトールを用い、仮焼体100質量部に対し、ソルビトールを0.5質量部、SiOを0.6質量部、CaCOを1.4質量部それぞれ添加した後、水とともに混合して粉砕用スラリーを調製した。ボールミルを用いて、この粉砕用スラリーの湿式粉砕を40時間行った。湿式粉砕後、仮焼体(磁性粉末)を100℃で10時間乾燥した。乾燥後の磁性粉末の平均粒子径は0.3μmであった。
【0048】
乾燥後の磁性粉末を、バインダ樹脂(ポリアセタール)、ワックス類(パラフィンワックスる)、滑剤(脂肪酸エステル)及び可塑剤(フタル酸エステル)と共に、ニーダーで150℃、2時間の条件で混練し混練物を得た。磁性粉末100質量部に対して、バインダ樹脂を7.5質量部、ワックス類を7.5質量部、滑剤を0.5質量部配合した。また、バインダ樹脂100質量部に対して、可塑剤を1質量部配合した。得られた混練物をペレタイザで成形してバインダ樹脂中に磁性粉末が分散したペレットを作製した。
【0049】
図8は、ペレットを射出成形してC型形状の成形体を作製する磁場射出成形装置の要部断面図である。本実施例で用いた磁場射出成形装置2は、ペレット7の投入口4と投入口4が連結された、スクリューを有する押出機6と押出機6の下流側に配置された金型8とを有していた。金型8は、押出機6からの射出時にC型形状のキャビティ9を形成するような構造を有するものを用いた。この金型8は、キャビティ9内に突き出るように、C型の成形体の外周面に断面形状がU字型である溝を形成するための、該溝とは相補的な形状であるU字型の突起を有していた。
【0050】
作製したペレット7を、磁場射出成形装置2の投入口4から投入して、ペレット7を160℃に加熱された押出機6内に導入した。ペレット7は押出機6の内部で加熱溶融し、スクリューによって、磁場が印加された金型8のキャビティ9内に射出された。これによって、厚みが2mmで外周面を横断(縦断)するU字型の溝を有する、C型の成形体を得た。この成形体は、図1に示すモータ用磁石10と同様の形状を有していた。
【0051】
この成形体に、大気中、500℃で48時間加熱する脱バインダ処理を施した。その後、成形体を、大気中、1160℃で0.4時間焼成し、La0.4Ca0.2Sr0.4Co0.3Fe11.319の組成を有し、図1に示すようなモータ用磁石10であるフェライト焼結磁石(厚み:1100μm)を得た。これを実施例1のモータ用磁石とした。
【0052】
モータ用磁石のモータ部品との接着面に形成された溝の深さd(図4)をマイクロスコープで100倍に拡大して計測した。その結果は表1に示す通りであった。なお、横断面がU字型である溝の底部の曲率半径rは2mmであった。
【0053】
[評価用サンプルの作製]
市販のエポキシ系樹脂接着剤と図6に示すようなモータ用のハウジングを準備した。このハウジングの内周面上に、モータ用磁石の溝が鉛直方向になるようにして、モータ用磁石の外周面を重ね合わせた。そして、モータ用磁石とハウジングとを80℃に加熱し、モータ用磁石をハウジングに向けて押し付けた状態で、モータ用磁石の上端においてモータ用磁石の溝によって形成された穴に、一液性エポキシ系接着剤を所定量注入した。モータ用磁石とハウジングとを80℃で30分間保持した後、室温になるまで放冷して、ハウジングの内周面上にモータ用磁石を固着させて、評価用サンプルを作製した。このような評価用サンプルを100個作製した。
【0054】
[接着性評価]
評価用サンプルのモータ用磁石をハウジングから引き剥がして、接着剤が十分に流延しているか否かを目視で評価した。この評価は、モータ用磁石の溝の長手方向に沿った長さに対する接着剤の流延長さの比率として表した。すなわち、モータ用磁石の上端から注入された接着剤が、モータ用磁石の下端まで到達している場合を「100%」、モータ用磁石の上端と下端との中間点まで到達している場合を「50%」とした。このような方法によって、100個の評価用サンプルの流延長さの平均値を求めた、その結果は表1に示す通りであった。
【0055】
[割れ発生の評価]
評価用サンプル作製時において、モータ用磁石をハウジングに固着させる際に、モータ用磁石の割れが発生した比率[割れ発生比率=(割れが発生した個数/100個)×100]を求めた。その結果は、表1に示す通りであった。
【0056】
(実施例2〜6)
金型8の突起のサイズを変えることによって、モータ用磁石の接着面における溝の深さdを表1に示す通りに変えたこと以外は、実施例1と同様にしてモータ用磁石及び評価表サンプルを作製し、実施例1と同様にして評価を行った。実施例2〜6のモータ用磁石の溝の深さd及び評価結果は表1に示す通りであった。
【0057】
(比較例1)
突起を有する金型8に代えて突起を有しない金型を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、接着面に溝を有しないモータ用磁石及び評価用サンプルを作製し、実施例1と同様にして評価を行った。比較例1のモータ用磁石の評価結果は表1に示す通りであった。
【0058】
【表1】

【0059】
表1に示す結果から明らかなように、接着面に接着面を縦断する溝を有するモータ用磁石を用いた実施例1〜6では、接着剤がモータ用磁石とハウジングの界面の奥深くにまで流延していることが確認された。そして、溝の深さを10〜1000μmの範囲とすることによって、割れの発生を十分に低減できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明によれば、モータの信頼性を向上させるとともに、製造コストを低減することが可能なモータ用磁石を提供することができる。また、優れた信頼性を有し、製造コストが低減されたモータ及びそのようなモータの製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0061】
2…磁場射出成形装置、4…投入口、6…押出機、7…ペレット、8…金型、9…キャビティ、10,20…モータ用磁石、12,12a,12b,12c,22…接着面、14,24…外縁、16,26…溝、22…接着面、30…モータ、31…ハウジング、32…ロータ、33…ブラケット、34…軸受、36…ロータ軸、37…ロータコア、50…接着剤。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
接着剤によってモータ部品に接着されるモータ用磁石であって、
前記モータ部品との接着面に、該接着面の外縁から延在する溝を有するモータ用磁石。
【請求項2】
前記溝は、前記接着面を横断又は縦断するように形成されている請求項1に記載のモータ用磁石。
【請求項3】
前記溝の横断面形状がU字型である請求項1又は2に記載のモータ用磁石。
【請求項4】
モータ部品と、接着剤によって当該モータ部品に接着された請求項1〜3のいずれか一項のモータ用磁石と、を備えるモータ。
【請求項5】
モータ部品と、該モータ部品に接着されたモータ用磁石とを備えるモータの製造方法であって、
前記モータ用磁石の溝を有する接着面と前記モータ部品とが対向するように、前記モータ用磁石を前記モータ部品上に配置する工程と、
鉛直方向に延在する前記溝に沿って接着剤を流延し、前記接着剤によって前記モータ部品と前記モータ用磁石とを接着する工程を有する、モータの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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