説明

モータ用電圧変換制御装置

【課題】モータの入力直流電圧に脈動がある場合でも安定した電圧変換制御を行うモータ用電圧変換制御装置を提供することを課題とする。
【解決手段】モータ15を制御するモータ制御回路14と電源10との間で電源10の直流電圧をモータ15の入力直流電圧に変換する電圧変換回路12を制御するモータ用電圧変換制御装置16であって、コンデンサ13の両端電圧を検出して電圧変換後の入力直流電圧をサンプリングするサンプリング手段13,16iと、モータ制御のキャリア信号SCに基づいて入力直流電圧のサンプリングタイミングTSを発生するサンプリングタイミング発生手段16gと、電圧変換制御のサンプリングタイミング要求DS毎にサンプリングタイミングTSに応じてサンプリング手段13,16iでサンプリングされた入力直流電圧を用いて電圧変換制御を行う制御手段16d,16hを備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータを制御するモータ制御回路と電源との間で電源の直流電圧をモータの駆動に必要となる入力直流電圧に変換する電圧変換回路に対する電圧変換制御を行うモータ用電圧変換制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境に配慮した車両としてハイブリッド車両や電気自動車等が開発されており、これらの車両は駆動源としてモータを備えている。このモータとしては交流モータが用いられ、インバータによって直流電力を三相交流電力に変換して、三相交流電力によってモータを駆動している。さらに、モータで高回転や高トルクを出力するためには高電圧が必要となるので、昇圧コンバータによってバッテリの直流電圧を直流高電圧に昇圧して、その直流高電圧をインバータに供給している。そのため、車両では、モータを制御するために、インバータのスイッチング素子をスイッチング制御するためのインバータ制御と昇圧コンバータのスイッチング素子をスイッチング制御するための昇圧制御を行っている。昇圧コンバータとインバータとの間には平滑コンデンサが設けられ、この平滑コンデンサの両端間の電圧(昇圧コンバータによる昇圧後の直流高電圧)が電圧センサで検出される。昇圧制御では、この電圧センサで検出された直流高電圧を用いて、モータの駆動に必要となる目標電圧になるように制御を行っている。
【0003】
特許文献1には、駆動源として1個のモータを備える車両のモータ駆動装置において、直流電源の電圧のセンサ値、平滑コンデンサの両端電圧のセンサ値、モータトルク指令値及びモータ回転数に基づいて昇圧コンバータのスイッチング素子を制御するためのゲート信号を生成するとともに、平滑コンデンサの両端電圧のセンサ値、モータトルク指令値及びモータ電流のセンサ値に基づいてインバータのスイッチング素子を制御するためのゲート信号を生成することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−341698号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
車両開発では低コスト化や小型化が求められるので、昇圧コンバータとインバータとの間の平滑コンデンサの容量の低減が求められている。平滑コンデンサの容量を小さくするほど、インバータのスイッチング素子のスイッチングに応じた平滑コンデンサへの電荷の出し入れの比率が大きくなるので、平滑コンデンサの平滑能力を超えると平滑コンデンサの両端電圧が大きく変動し、昇圧後の直流高電圧に脈動が発生する。
【0006】
具体的には、走行状態の制約(例えば、インバータのスイッチング素子の温度が高い場合)等により一時的にインバータ制御のキャリア周波数(インバータのスイッチング素子をON/OFFするためのスイッチング周波数)を低くすると、スイッチング素子をON/OFFする周期が長くなり、インバータ制御のスイッチングノイズが平滑コンデンサの両端電圧(昇圧後の直流高電圧)に大きな変動分(脈動成分)として重畳される。図6には、キャリア周波数が2.5kHzの場合の直流高電圧の時間変化VH2.5とキャリア周波数が1.25kHzの場合の直流高電圧の時間変化VH1.25を示している。また、符号VHで示す曲線は、直流高電圧の時間変化VH2.5,VH1.25を所定の時定数でフィルタリングしたフィルタ値の時間変化である。この図6からも判るように、昇圧後の直流高電圧は、キャリア周波数が高い場合より低い場合に大きな脈度成分が重畳し、大きく変動する。ちなみに、キャリア周波数が高いほど、モータが回転し易くなるが、スイッチング素子の発熱が大きくなる等によりシステム損失が大きくなる。
【0007】
また、モータの回転数やトルクによって、モータの駆動に必要となる目標電圧が変わる。この目標電圧が高く、昇圧後の直流高電圧がモータ誘起電圧に対して高くなると、その電圧差に応じて直流高電圧に大きな脈動成分が重畳される。
【0008】
例えば、図7(a)には、直流高電圧が高い場合の電圧VH及び低い場合の電圧VHとモータ誘起電圧Vemfとの関係を示している。高い場合の直流高電圧VHとモータ誘起電圧Vemfとの電圧差VdefH1,VdefH2と、低い場合の直流高電圧VHとモータ誘起電圧Vemfとの電圧差VdefL1,VdefL2とを比較すると、電圧差Vdefは、高い場合の直流高電圧VHのときの方が大きくなる。この電圧差Vdefが大きくなるほど、モータ電流に重畳される変動分が大きくなる。
【0009】
図7(b)には、インバータ制御でのキャリア信号SCとデューティ信号SDを示しており、このキャリア信号SCとデューティ信号SDの交点に応じてインバータのスイッチング素子をON/OFFするためのゲート信号を生成している。また、図7(c)には、モータの目標電流MIと、大きい電圧差Vdefの場合のモータの実電流MIと、小さい電圧差Vdefの場合のモータの実電流MIを示している。モータの実電流MI,MIは、目標電流MIに対して変動しており、インバータのスイッチング素子のスイッチングの影響による脈動成分が重畳しており、図7(b)、(c)から判るようにキャリア信号SCとデューティ信号SDの交点で脈動成分の増減が変化している。この図7(c)から判るように、電圧差Vdefが大きいほど、モータ電流に重畳される脈動成分が大きくなる。さらに、図7(d)には、大きい電圧差Vdefの場合のモータの実電流MIのときの昇圧後の直流高電圧VHを示している。直流高電圧VHは、モータの実電流の脈動に応じて脈動し、大きく変動している。
【0010】
つまり、インバータ制御でのスイッチングの影響によってモータ電流に重畳される脈動成分は、直流高電圧VHとモータ誘起電圧Vemfとの電圧差Vdef及びインバータ制御のキャリア周波数によって決まる。そのため、電圧差Vdefが大きいときにインバータ周波数が低くなると、モータ電流に重畳される脈動成分が大きくなる。平滑コンデンサの容量が小さい場合、モータ電流に重畳される脈動成分が大きくなると、平滑コンデンサの平滑能力を超え、平滑コンデンサの両端電圧が大きく変動し、昇圧後の直流高電圧に脈動が発生する。
【0011】
図7(d)には、実際の直流高電圧VHとともに直流高電圧の期待値(直流高電圧VHの山と谷との中間値であり、脈動成分が含まれない直流高電圧である)VH及び昇圧制御における直流高電圧のサンプリングタイミング要求信号DS,DS,DSを示している。サンプリングタイミング要求信号DS,DS,DSは、サンプリングタイミング周期PS毎に出力される。従来の昇圧制御では、サンプリングタイミング要求信号DS,DS,DSが出力されると電圧センサによって平滑コンデンサの両端電圧を検出し、その検出した直流高電圧VH,VH,VHを用いて目標電圧になるように制御を行う。しかし、例えば、サンプリングタイミング要求信号DSで検出した直流高電圧VHの場合、インバータ制御側のスイッチングノイズによるモータ電流の脈動成分の影響により大きな脈動成分が重畳されており、直流高電圧の期待値VHE1から大きく乖離している。このような直流高電圧VHを用いて昇圧制御を行った場合、昇圧制御が不安定になる。
【0012】
特許文献1に記載の制御では、昇圧コンバータのスイッチング素子を制御するためのゲート信号とインバータのスイッチング素子を制御するためのゲート信号を別々に生成しており、昇圧制御とインバータ制御が連携していない。そのため、昇圧コンバータで昇圧後の直流高電圧に脈動が発生している場合には、昇圧制御に用いられる平滑コンデンサの両端電圧のセンサ値にはその脈動成分が含まれ、昇圧制御が不安定になる。
【0013】
そこで、本発明は、モータシステムにおいてモータ電流の脈動によって引き起こされるモータの入力直流電圧に脈動がある場合でも安定した電圧変換制御を行うモータ用電圧変換制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係るモータ用電圧変換制御装置は、モータを制御するモータ制御回路と電源との間で電源の直流電圧をモータの駆動に必要となる入力直流電圧に変換する電圧変換回路に対する電圧変換制御を行うモータ用電圧変換制御装置であって、モータ制御回路と電圧変換回路との間に設けられたコンデンサの両端電圧を検出し、電圧変換回路で変換された入力直流電圧をサンプリングするサンプリング手段と、モータに対するモータ制御のキャリア信号に基づいて電圧変換回路で変換された入力直流電圧をサンプリングするサンプリングタイミングを発生するサンプリングタイミング発生手段と、電圧変換制御のサンプリングタイミング要求毎にサンプリングタイミング発生手段で発生したサンプリングタイミングに応じてサンプリング手段でサンプリングされた入力直流電圧を用いて電圧変換制御を行う制御手段とを備えることを特徴とする。
【0015】
このモータ用電圧変換制御装置は、モータ、モータ制御回路、電圧変換回路、電源等を備えるモータシステムにおいて、電圧変換回路に対する電圧変換制御を行う装置である。モータ制御回路と電圧変換回路との間にはコンデンサが設けられており、サンプリング手段によってそのコンデンサの両端電圧を検出することにより電圧変換回路で電圧変換された入力直流電圧をサンプリングしている。モータ用電圧変換制御装置では、このサンプリング手段でサンプリングされた入力直流電圧を用いて、入力直流電圧がモータの駆動に必要となる目標電圧になるように制御を行っている。なお、モータは、駆動機能を有するモータだけでなく、発電機能を有するモータジェネレータやジェネレータも含む。
【0016】
モータの入力直流電圧の脈動は、モータ電流の脈動によって引き起こされる。モータ電流に重畳される脈動成分は、モータ制御のスイッチングによる影響であり、モータ制御側のキャリア信号(モータ制御側で生成される信号であり、モータ制御回路のスイッチング素子をスイッチング制御するためのキャリア信号)等によって決まる。そのため、脈動成分が重畳されているモータ電流の山と谷との中間値は、キャリア信号の山や谷(頂点部)のあたりとなる。したがって、脈動成分が重畳された入力直流電圧の山と谷との中間値(すなわち、脈動成分が除かれた入力直流電圧であり、電圧変換制御を安定に行うための入力直流電圧の期待値)も、キャリア信号の山や谷のあたりのタイミングで得られる。
【0017】
そこで、このモータ用電圧変換制御装置では、サンプリングタイミング発生手段によって、モータ制御のキャリア信号に基づいて入力直流電圧をサンプリングするためのサンプリングタイミングを発生する。そして、モータ用電圧変換制御装置では、制御手段によって、電圧変換制御における入力直流電圧に対するサンプリングタイミング要求(電圧変換制御において入力直流電圧が必要なタイミングで出力されるタイミングであり、モータ制御側のキャリア信号とは同期していない)毎に、サンプリングタイミング発生手段で発生したサンプリングタイミングに応じてサンプリング手段でサンプリングされた入力直流電圧(実電圧)を用いて目標電圧になるように制御を行う。このように、このモータ用電圧変換制御装置は、モータ制御のキャリア信号を考慮して電圧変換制御に用いる入力直流電圧をサンプリングすることにより、モータの入力直流電圧に脈動がある場合でも、サンプリングタイミング要求のときの入力直流電圧の期待値に近い入力直流電圧をサンプリングできるので、入力直流電圧の期待値と電圧変換制御において実際に用いるサンプリング値との差が小さくなり、安定した電圧変換制御を行うことができる。これによって、コンデンサの容量を低減することができ、モータシステムの低コスト及び小型化を図ることができる。
【0018】
本発明の上記モータ用電圧変換制御装置では、サンプリングタイミング発生手段ではキャリア信号の山及び谷に対応してサンプリングタイミングを発生し、該サンプリングタイミングを発生する毎に電圧変換回路で変換された入力直流電圧をサンプリング手段でサンプリングしておき、制御手段ではサンプリングタイミング要求毎に該サンプリングタイミング要求直前のサンプリングタイミングに応じてサンプリングされている入力直流電圧を用いて電圧変換制御を行う構成としてもよい。
【0019】
このモータ用電圧変換制御装置では、サンプリングタイミング発生手段によって、キャリア信号の山及び谷のタイミングに対応してサンプリングタイミングを発生し、そのサンプリングタイミング毎に電圧変換回路で変換された入力直流電圧をサンプリング手段でサンプリングしておく。このキャリア信号の山及び谷のタイミングでサンプリングされた入力直流電圧は入力直流電圧の山と谷との中間値あるいは略中間値である。そして、モータ用電圧変換制御装置では、制御手段によって、サンプリングタイミング要求毎に、サンプリングタイミング要求直前のサンプリングタイミングに応じてサンプリング手段でサンプリングされた入力直流電圧(実電圧)を用いて目標電圧になるように制御を行う。このサンプリングタイミング要求直前のキャリア信号の山又は谷のタイミングでサンプリングされた入力直流電圧は、サンプリングタイミング要求のときの入力直流電圧の期待値に近い電圧である。このように、このモータ用電圧変換制御装置は、モータ制御のキャリア信号の山及び谷のタイミングで入力直流電圧をサンプリングしておくことにより、モータの入力直流電圧に脈動がある場合でも、サンプリングタイミング要求のときの入力直流電圧の期待値に近い入力直流電圧を用いて電圧変換制御ができ、安定した電圧変換制御を行うことができる。
【0020】
本発明の上記モータ用電圧変換制御装置では、サンプリングタイミング発生手段ではサンプリングタイミング要求毎に該サンプリングタイミング要求直後のキャリア信号の山又は谷に対応してサンプリングタイミングを発生し、該サンプリングタイミングに応じて電圧変換回路で変換された入力直流電圧をサンプリング手段でサンプリングし、制御手段ではサンプリングタイミング要求毎にサンプリングタイミングに応じてサンプリングされた入力直流電圧を用いて電圧変換制御を行う構成としてもよい。
【0021】
このモータ用電圧変換制御装置では、サンプリングタイミング発生手段によってサンプリングタイミング要求毎にそのサンプリングタイミング要求直後のキャリア信号の山又は谷のタイミングに対応してサンプリングタイミングを発生し、そのサンプリングタイミングに応じて電圧変換回路で変換された入力直流電圧をサンプリング手段でサンプリングする。このサンプリングタイミング要求直後のキャリア信号の山又は谷のタイミングでサンプリングされた入力直流電圧は、サンプリングタイミング要求のときの入力直流電圧の期待値に近い電圧である。そこで、モータ用電圧変換制御装置では、制御手段によって、サンプリングタイミング要求毎に、そのサンプリングタイミングに応じてサンプリング手段でサンプリングされた入力直流電圧(実電圧)を用いて目標電圧になるように制御を行う。このように、このモータ用電圧変換制御装置は、サンプリングタイミング要求直後のモータ制御のキャリア信号の山又は谷のタイミングで入力直流電圧をサンプリングすることにより、モータの入力直流電圧に脈動がある場合でも、サンプリングタイミング要求のときの入力直流電圧の期待値に近い入力直流電圧を用いて電圧変換制御ができ、安定した電圧変換制御を行うことができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、モータ制御のキャリア信号を考慮して電圧変換制御に用いる入力直流電圧をサンプリングすることにより、モータの入力直流電圧に脈動がある場合でも、サンプリングタイミング要求のときの入力直流電圧の期待値に近い入力直流電圧をサンプリングできるので、入力直流電圧の期待値と電圧変換制御において実際に用いるサンプリング値との差が小さくなり、安定した電圧変換制御を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】第1の実施の形態に係る1モータシステムの構成を示すブロック図である。
【図2】目標電圧の算出方法の説明図である。
【図3】第1の実施の形態に係る直流高電圧のサンプリングタイミングの説明図であり、(a)が直流高電圧が高い場合及び低い場合とモータ誘起電圧との関係図であり、(b)がインバータ制御でのキャリア信号とデューティ信号であり、(c)がモータ目標電流とモータ実電流であり、(d)が直流高電圧とサンプリングタイミング要求信号である。
【図4】第2の実施の形態に係る1モータシステムの構成を示すブロック図である。
【図5】第2の実施の形態に係る直流高電圧のサンプリングタイミングの説明図であり、(a)が直流高電圧が高い場合及び低い場合とモータ誘起電圧との関係図であり、(b)がインバータ制御でのキャリア信号とデューティ信号であり、(c)がモータ目標電流とモータ実電流であり、(d)が直流高電圧とサンプリングタイミング要求信号である。
【図6】キャリア周波数が高い場合と低い場合の直流高電圧の変化を示す図である。
【図7】直流高電圧の脈動の発生の説明図であり、(a)が直流高電圧が高い場合及び低い場合とモータ誘起電圧との関係図であり、(b)がインバータ制御でのキャリア信号とデューティ信号であり、(c)がモータ目標電流とモータ実電流であり、(d)が直流高電圧とサンプリングタイミング要求信号である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して、本発明に係るモータ用電圧変換制御装置の実施の形態を説明する。なお、各図において同一又は相当する要素については同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0025】
本実施の形態では、本発明に係るモータ用電圧変換制御装置を、1個のモータを駆動源として有する1モータシステムの車両(例えば、ハイブリッド車両、電気自動車、燃料電池車両)のモータECU[Electronic Control Unit]における昇圧制御機能に適用する。本実施の形態に係る1モータシステムでは、昇圧コンバータによってバッテリの直流電圧を昇圧してモータの駆動に必要となる直流高電圧に変換し、その直流高電圧が供給されるインバータによって直流電力を三相交流電力に変換して、三相交流電力によってモータを駆動する。本実施の形態には、昇圧後の直流高電圧をサンプリングするタイミングの設定方法が異なる2つの形態がある。
【0026】
図1〜図3を参照して、第1の実施の形態に係る1モータシステム1について説明する。図1は、第1の実施の形態に係る1モータシステムの構成を示すブロック図である。図2は、目標電圧の算出方法の説明図である。図3は、第1の実施の形態に係る直流高電圧のサンプリングタイミングの説明図であり、(a)が直流高電圧が高い場合及び低い場合とモータ誘起電圧との関係図であり、(b)がインバータ制御でのキャリア信号とデューティ信号であり、(c)がモータ目標電流とモータ実電流であり、(d)が直流高電圧とサンプリングタイミング要求信号である。
【0027】
1モータシステム1は、バッテリ10、フィルタコンデンサ11、昇圧コンバータ12、平滑コンデンサ13、インバータ14、モータ15及びモータECU16を備えている。なお、本実施の形態では、バッテリ10が特許請求の範囲に記載する電源に相当し、昇圧コンバータ12が特許請求の範囲に記載する電圧変換回路に相当し、平滑コンデンサ13が特許請求の範囲に記載するコンデンサに相当し、インバータ14が特許請求の範囲に記載するモータ制御回路に相当し、モータ15が特許請求の範囲に記載するモータに相当する。
【0028】
1モータシステム1では、走行制御ECU17からのモータトルク指令DTに応じて、バッテリ10の直流電力を三相交流電力に変換し、その三相交流電力をモータ15に供給する。そのために、モータECU16では、バッテリ10の直流低電圧VLからモータ15の駆動に必要となる目標電圧(直流高電圧VH)まで昇圧するために昇圧コンバータ12に対する昇圧制御を行うとともに、直流電力からモータトルク指令DTを発生させるために必要な三相交流電力に変換するためにインバータ14に対するインバータ制御を行う。特に、モータECU16では、インバータ制御側でのスイッチングノイズの影響によるモータ電流の脈動によって引き起こされる直流高電圧VHの脈動がある場合でも安定した昇圧制御を行うために、直流高電圧(平滑コンデンサ13の両端電圧)VHをインバータ制御のキャリア信号SCの山及び谷のタイミングでサンプリングしておき、VHセンササンプリングタイミング要求信号DS毎にその要求信号DS直前のキャリア信号SCの山又は谷のタイミングでサンプリングされた直流高電圧を用いて昇圧制御を行う。
【0029】
なお、走行制御ECU17は、車両の走行を制御するためのECUである。走行制御ECU17では、運転者あるいは自動運転によるアクセル要求やブレーキ要求に応じて、そのときの車両の走行状態に基づいてモータ15で必要となる目標となるモータトルクを算出し、その目標となるモータトルクをモータトルク指令DTとしてモータECU16に出力している。
【0030】
バッテリ10は、直流電源であり、二次電池である。フィルタコンデンサ11は、バッテリ10と昇圧コンバータ12との間に設けられ、バッテリ10に並列に接続される。フィルタコンデンサ11では、バッテリ10の直流電圧を平滑化し、その直流電圧の電荷を蓄電する。このフィルタコンデンサ11の両端電圧が、直流低電圧VLである。なお、フィルタコンデンサ11は、スイッチングによる脈動電流をバッテリ10側に流さないようにするためのコンデンサである。
【0031】
昇圧コンバータ12は、リアクトル12a、スイッチング素子12b,12c、還流ダイオード12d,12eからなる。リアクトル12aの一端には、フィルタコンデンサ11の高電圧側が接続される。リアクトル12aの他端には、スイッチング素子12bとスイッチング素子12cの接続点が接続される。ILセンサ12fでは、このリアクトル12aに流れる電流IL(アナログ値)を検出し、その検出した電流ILをモータECU16に出力する。スイッチング素子12bとスイッチング素子12cとは直列に接続され、スイッチング素子12bのコレクタに平滑コンデンサ13の高電圧側が接続され、スイッチング素子12cのエミッタに平滑コンデンサ13の低電圧側が接続される。スイッチング素子12b,12cには、還流ダイオード12d,12eがそれぞれ逆並列接続される。このような回路構成によって、昇圧コンバータ12では、モータECU16から出力されるスイッチング素子12b,12cに対する各ゲート信号に基づいてスイッチング素子12b,12cがそれぞれスイッチング制御され、フィルタコンデンサ11の直流低電圧VLを直流高電圧VHに変換する。
【0032】
平滑コンデンサ13は、昇圧コンバータ12とインバータ14との間に設けられる。平滑コンデンサ13は、昇圧コンバータ12で昇圧された直流電圧を平滑化し、その直流電圧の電荷を蓄電する。この平滑コンデンサ13の両端電圧が、直流高電圧VHである。VHセンサ13aでは、この平滑コンデンサ13の両端電圧(アナログ値)VHを検出し、その検出した電圧をモータECU16に出力する。
【0033】
インバータ14は、1モータシステムにおける1個のモータに対応して直流電力を三相交流電力に変換する従来の一般的なインバータ回路であるので、詳細な回路構成については説明を省略する。インバータ14では、平滑コンデンサ13の直流高電圧VHが供給され、モータECU16から出力されるモータ15の各相(U相、V相、W相)に対応したスイッチング素子に対する各ゲート信号に基づいて各相のスイッチング素子がそれぞれスイッチング制御され、直流電力を三相交流電力に変換し、モータ15に供給する。
【0034】
モータ15は、交流モータであり、車両の駆動源の一つである。モータ15は、インバータ14からの三相交流電力が各相のコイル(図示せず)に供給され、回転駆動する。
【0035】
モータECU16は、マイクロコンピュータや各種メモリ等からなる電子制御ユニットであり、モータ制御を行う。特に、モータECU16は、インバータ14に対する制御を行うインバータ制御機能(モータ制御16a、ゲート生成16b)と昇圧コンバータ12に対する制御を行う昇圧制御機能(モータ目標電圧算出16c、電圧制御16d、電流制御16e、ゲート生成16f、VHセンササンプリングタイミング発生器16g、VHセンサデータ更新16h)を有している。なお、第1の実施の形態では、VHセンササンプリングタイミング発生器16gが特許請求の範囲に記載するサンプリングタイミング発生手段に相当し、電圧制御16d及びVHセンサデータ更新16hが特許請求の範囲に記載する制御手段に相当し、VHセンサ13a及びAD変換器16iが特許請求の範囲に記載するサンプリング手段に相当する。
【0036】
インバータ制御機能について説明する。モータ制御16aでは、走行制御ECU17からモータトルク指令DTが入力され、モータ15から角度センサで検出されたモータ角度及び電流センサで検出されたモータ電流を用いて、モータトルク指令DTの目標となるモータトルクを発生させるためのキャリア信号SCとデューティ信号SDを生成し、ゲート生成16bに出力する。また、モータ制御16aでは、モータ回転数MRとモータトルク指令DTを昇圧制御機能のモータ目標電圧算出16cに出力する。また、モータ制御16aでは、キャリア信号SCを昇圧制御機能のVHセンササンプリングタイミング発生器16gに出力する。
【0037】
ゲート生成16bでは、モータ制御16aからキャリア信号SCとデューティ信号SDが入力され、キャリア信号SCとデューティ信号SDに基づいてインバータ14の各相のスイッチング素子のゲート信号(例えば、PWM信号)をそれぞれ生成し、インバータ14に出力する。図3(b)には、キャリア信号SCとデューティ信号SDの一例を示しており、キャリア信号SCとデューティ信号SDとの交点のタイミングでインバータ14のスイッチング素子がON/OFFするゲート信号が生成される。
【0038】
キャリア信号SCは、キャリア周波数であり、インバータ14のスイッチング素子のスイッチング周波数である。キャリア信号SCは、図3(b)に示すように、例えば、山と谷を頂点とする三角波である。モータ15を高回転や高トルクにするためには、キャリア周波数を高くする必要がある。しかし、インバータ14のスイッチング素子が高温度になる等によってシステム損失が大きくなると、キャリア周波数を低くする必要がある。デューティ信号SDは、インバータ14のスイッチング素子のONとOFFのデューティ比を決めるための信号である。デューティ信号SDは、図3(b)に示すように、例えば、正弦波である。
【0039】
キャリア信号SCとデューティ信号SDとの交点のタイミングでインバータ14のスイッチング素子がスイッチングし、そのスイッチングの影響によってモータ電流には脈動成分が重畳する。図3(c)には、モータ15の目標電流MIと、大きな脈動成分が重畳された場合のモータ15の実電流MIと、小さい脈動成分が重畳された場合のモータ15の実電流MIを示している。図3(c)から判るように、モータ15の実電流MI,MIでは、キャリア信号SCとデューティ信号SDとの交点で山又は谷となり、脈動成分の増減の変化点となっている。
【0040】
昇圧制御機能について説明する。モータ目標電圧算出16cでは、インバータ制御機能からモータ回転数MRとモータトルク指令DTが入力され、図2に示すように、モータ回転数とモータトルクとのマップM1からモータ回転数MRとモータトルク指令DTのモータトルクとの交点P1を抽出する。このマップM1には、弱め界磁制御領域A1(斜線で示す領域)とPWM制御領域A2があり、1モータシステム1のシステム電圧(直流高電圧VH)の高低によりその制御領域の範囲が変わる。図2に示す例では、交点P1が弱め界磁制御領域A1内に入っているので、弱め界磁制御となる。さらに、モータ目標電圧算出16cでは、図2に示すように、その交点P1に応じて変わるシステム電圧とシステム損失とのマップM2から、システム損失が最小点となるシステム電圧(直流高電圧VHの目標電圧VH)を算出し、電圧制御16dに出力する。システム損失は、1モータシステム1におけるスイッチング素子等における損失である。システム電圧が高電圧になると、モータ15が回転し易くなるが、システム損失が大きくなる。なお、昇圧制御の目標電圧の求める方法については、上記のようにマップを利用した方法を説明したが、他の方法でもよい。
【0041】
電圧制御16dでは、図3(d)に示すように、サンプリングタイミング周期PS毎にVHセンササンプリングタイミング要求信号DSをVHセンサデータ更新16hに出力し、VHセンササンプリングタイミング要求信号DSに応じてVHセンサデータ更新16hから昇圧制御で用いるためにサンプリングされた直流高電圧VH(デジタル値)が入力される。サンプリングタイミング周期PSは、予め決められた固定値でもよいしあるいは可変値でもよい。サンプリングタイミング周期PSはインバータ制御とは関係なく設定されているので、VHセンササンプリングタイミング要求信号DSはインバータ制御のキャリア信号SCとは同期していない。電圧制御16dでは、モータ目標電圧算出16cから目標電圧VHが入力され、VHセンサデータ更新16hからの直流高電圧VH(デジタル値)を用いて、平滑コンデンサ13の両端電圧(直流高電圧)が目標電圧VHになるための制御を行う。この際、電圧制御16dでは、その制御に必要な目標電流ILを算出し、電流制御16eに出力する。
【0042】
電流制御16eでは、電圧制御16dから目標電流ILが入力され、リアクトル12aに流れる電流IL(デジタル値)を用いて、リアクトル12aに流れる電流が目標電流ILになるための制御を行う。制御に用いる電流IL(デジタル値)は、ILセンサ12fによって検出された電流(アナログ値)をモータECU16内のAD変換器16jでAD変換された電流(デジタル値)である。
【0043】
ゲート生成16fでは、電圧制御16dでの目標電圧VHになるための制御と電流制御16eでの目標電流ILになるための制御に基づいて、昇圧コンバータ12のスイッチング素子12b,12cの各ゲート信号(例えば、PWM信号)をそれぞれ生成し、昇圧コンバータ12に出力する。
【0044】
VHセンササンプリングタイミング発生器16gでは、インバータ制御機能のモータ制御16aからキャリア信号SCが入力され、キャリア信号SCの山(三角波の高い側の頂点)のタイミング及び谷(三角波の低い側の頂点)のタイミングをVHセンササンプリングタイミングTSとしてAD変換器16iに出力する。AD変換器16iでは、VHセンササンプリングタイミング発生器16gからVHセンササンプリングタイミングTSが入力される毎に、VHセンサ13aで検出されている直流高電圧(アナログ値)VHをAD変換し、AD変換後の直流高電圧(デジタル値)VHをVHセンサデータ更新16hに出力する。
【0045】
VHセンサデータ更新16hでは、AD変換器16iから直流高電圧(デジタル値)VHが入力される毎に、その直流高電圧(デジタル値)VHを時系列で記憶しておく。ここでは、入力された最新の直流高電圧(デジタル値)VHだけを記憶しておいてもよい。そして、VHセンサデータ更新16hでは、電圧制御16dからVHセンササンプリングタイミング要求信号DSが入力される毎に、そのVHセンササンプリングタイミング要求信号DSの直前にAD変換器16iから入力された直流高電圧(デジタル値)VHを昇圧制御に用いるVHセンサ値として電圧制御16dに出力する。
【0046】
ここで、図3を参照して、上記のような昇圧制御機能における処理より、インバータ制御側でのスイッチングの影響によるモータ電流の脈動によって引き起こされる直流高電圧VHの脈動がある場合でも安定した昇圧制御を行うことができる理由について説明する。システム損失を抑えるためにインバータ制御におけるキャリア周波数を低くすると、インバータ制御のスイッチングノイズにより、平滑コンデンサの両端電圧(昇圧後の直流高電圧)に脈動成分が重畳される。また、モータの回転数やトルクによってモータの駆動に必要となる目標電圧が変わるが、目標電圧が高くなり、直流高電圧VHがモータ誘起電圧Vemfに対して高くなるほど、その電圧差Vdefが大きくなり、直流高電圧の脈動成分も大きくなる。図3(a)には、直流高電圧VHが高い場合の電圧VH及び低い場合の電圧VHとモータ誘起電圧Vemfとの関係を示している。高い直流高電圧VHとモータ誘起電圧Vemfとの電圧差VdefH1,VdefH2と、低い直流高電圧VHとモータ誘起電圧Vemfとの電圧差VdefL1,VdefL2とを比較すると、電圧差Vdefは高い直流高電圧VHのときの方が大きくなる。この電圧差Vdefが大きくなるほど、モータ電流に重畳される脈動成分が大きくなる。図3(c)には、モータ15の目標電流MIと、大きい電圧差Vdefの場合のモータ15の実電流MIと、小さい電圧差Vdefの場合のモータ15の実電流MIを示している。モータ15の実電流MI,MIには、インバータ14のスイッチング素子のスイッチングに応じて脈動成分が重畳しており、図3(b)に示すキャリア信号SCとデューティ信号SDとの交点で脈動成分の増減が切り替わる。この図3(c)から判るように、電圧差Vdefが大きいほど、モータ電流MIに重畳される脈動成分が大きくなる。さらに、図3(d)には、大きい電圧差Vdefの場合のモータ電流MIのときの直流高電圧VHを示している。直流高電圧VHは、モータ電流MIの脈動成分に応じて脈動成分が重畳され、図3(b)に示すキャリア信号SCとデューティ信号SDとの交点で脈動成分の増減が切り替わる。このように、インバータ側のスイッチングの影響によってモータ電流に脈動が発生すると、昇圧後の直流高電圧にも脈動成分が重畳される。
【0047】
つまり、インバータ制御によるスイッチングによってモータ電流MIに重畳される脈動成分(変動分)は、直流高電圧VHとモータ誘起電圧Vemfとの電圧差Vdef及びインバータ制御のキャリア周波数(キャリア信号SC)によって決まる。そのため、電圧差Vdefが大きいときにインバータ周波数が低くなると、モータ電流MIに重畳される脈動成分が大きくなる。平滑コンデンサ13の容量が小さい場合、モータ電流MIに重畳される脈動成分が大きくなると、平滑コンデンサ13の平滑能力を超え、平滑コンデンサ13の両端電圧(直流高電圧)VHにも脈動成分が重畳され、昇圧後の直流高電圧VHが大きく変動する。なお、1モータシステム1の低コスト化や小型化を進める上、容量の大きい平滑コンデンサ13の容量を出来る限り小さくすることが求められている。したがって、その要求に応じて平滑コンデンサ13の容量を小さくすると、上記のように、直流高電圧VHに脈動が発生することになる。
【0048】
上記したように、インバータ制御によるスイッチングによる脈動成分は、キャリア信号SCとデューティ信号SDとの交点で脈動成分の増減が切り替わる。したがって、図3(b)、(c)からも判るように、キャリア信号SCの山や谷はキャリア信号SCとデューティ信号SDとの交点間の略中間点となるので、脈動成分が重畳されているモータ電流MIの山と谷との中間値はキャリア信号SCの山や谷のタイミングあたりで得られる。したがって、図3(b)、(d)からも判るように、脈動成分が重畳されている直流高電圧VHの山と谷との中間値(すなわち、昇圧制御を安定に行うための直流高電圧の期待値VH)も、キャリア信号SCの山や谷のあたりのタイミングで得られる。図3(d)に示す例からも判るように、白丸印で示すキャリア信号SCの山及び谷のタイミングのときの直流高電圧VHは、直流高電圧の期待値VHと略一致している。直流高電圧の期待値VHは、直流高電圧VHの山と谷との中間値であり、脈動成分が略除去された直流高電圧である。
【0049】
そこで、モータECU16の昇圧制御機能では、VHセンササンプリングタイミング発生器16gにおいて、キャリア信号SCの山及び谷のタイミング毎にVHセンササンプリングタイミングTSを発生し、VHセンササンプリングタイミングTS毎にAD変換器16iにおいてVHセンサ13aで検出されている直流高電圧(アナログ値)VHをAD変換し、直流高電圧(デジタル値)VHを取得している。
【0050】
さらに、図3(d)に示す例からも判るように、VHセンササンプリングタイミング要求信号DS、DS,DSのタイミングでの直流高電圧の期待値VHE1、VHE2,VHE3と、VHセンササンプリングタイミング要求信号DS、DS,DS直前のキャリア信号SCの山あるいは谷のタイミングのときの直流高電圧VHC1,VHC2,VHC3とを比較すると、その差は非常に小さい。したがって、VHセンササンプリングタイミング要求信号DS直前のキャリア信号SCの山あるいは谷のタイミングのときの直流高電圧VH(VHセンサ値)を取得することにより、VHセンササンプリングタイミング要求信号DSのタイミングのときの直流高電圧の期待値VHに非常に近い値を得ることができる。
【0051】
そこで、モータECU16の昇圧制御機能では、VHセンサデータ更新16hにおいて、電圧制御16dからVHセンササンプリングタイミング要求信号DSが入力される毎に、VHセンササンプリングタイミング要求信号DS直前にAD変換器16iから入力されたキャリア信号SCの山あるいは谷のタイミングでの直流高電圧(デジタル値)VHを電圧制御16dに出力している。電圧制御16dでは、このVHセンササンプリングタイミング要求信号DS直前のキャリア信号SCの山あるいは谷のタイミングのときの直流高電圧(VHセンサ値)VHを用いて昇圧制御を行うことにより、VHセンササンプリングタイミング要求信号DSのときの直流高電圧の期待値VHに近い直流高電圧VH(VHセンサ値)を用いて制御を行うことができる。
【0052】
この1モータシステム1(特に、モータECU16での昇圧制御)によれば、インバータ制御のキャリア信号SCに基づいて昇圧制御に用いる直流高電圧VHをサンプリングすることにより(インバータ制御と昇圧制御とを連携させている)、直流高電圧VHに脈動成分が重畳されている場合でも、VHセンササンプリングタイミング要求信号DSのときの直流高電圧の期待値VHに近い直流高電圧VHをサンプリングでき、VHセンササンプリングタイミング要求信号DSのときの直流高電圧の期待値VHと昇圧制御において実際に用いるVHセンサ値との差が小さくなり、安定した昇圧制御を行うことができる。これによって、平滑コンデンサ13の容量を限界まで低減することができ、1モータシステム1の低コスト及び小型化を図ることができる。
【0053】
特に、第1の実施の形態に係る1モータシステム1では、インバータ制御のキャリア信号SCの山及び谷のタイミングで直流高電圧VHをサンプリングしておき、VHセンササンプリングタイミング要求信号DS直前のキャリア信号SCの山あるいは谷のタイミングでサンプリングされた直流高電圧VHを昇圧制御に用いることにより、VHセンササンプリングタイミング要求信号DSのときの直流高電圧の期待値VHに近い直流高電圧VHのセンサ値を用いて昇圧制御ができ、安定した昇圧制御を行うことができる。
【0054】
次に、図4及び図5を参照して、第2の実施の形態に係る1モータシステム2について説明する。図4は、第2の実施の形態に係る1モータシステムの構成を示すブロック図である。図5は、第2の実施の形態に係る直流高電圧のサンプリングタイミングの説明図であり、(a)が直流高電圧が高い場合及び低い場合とモータ誘起電圧との関係図であり、(b)がインバータ制御でのキャリア信号とデューティ信号であり、(c)がモータ目標電流とモータ実電流であり、(d)が直流高電圧とサンプリングタイミング要求信号である。
【0055】
1モータシステム2は、バッテリ10、フィルタコンデンサ11、昇圧コンバータ12、平滑コンデンサ13、インバータ14、モータ15及びモータECU26を備えている。1モータシステム2は、第1の実施の形態に係る1モータシステム1と比較すると、モータECU26での制御(特に、昇圧制御で用いるVHセンサ値のサンプリングタイミング)だけが異なる。モータECU26では、インバータ制御側でのスイッチングノイズの影響によるモータ電流の脈動によって引き起こされる直流高電圧VHの脈動がある場合でも安定した昇圧制御を行うために、VHセンササンプリングタイミング要求信号DS毎にその要求信号DS直後のインバータ制御のキャリア信号SCの山あるいは谷のタイミングで直流高電圧(平滑コンデンサ13の両端電圧)VHをサンプリングして、そのサンプリングされた直流高電圧VHを用いて昇圧制御を行う。ここでは、モータECU26についてのみ詳細に説明する。
【0056】
モータECU26は、マイクロコンピュータや各種メモリ等からなる電子制御ユニットであり、モータ制御を行う。特に、モータECU26は、インバータ14に対する制御を行うインバータ制御機能(モータ制御26a、ゲート生成26b)と昇圧コンバータ12に対する制御を行う昇圧制御機能(モータ目標電圧算出26c、電圧制御26d、電流制御26e、ゲート生成26f、VHセンササンプリングタイミング発生器26g、VHセンサデータ更新26h)を有している。なお、第2の実施の形態では、VHセンササンプリングタイミング発生器26gが特許請求の範囲に記載するサンプリングタイミング発生手段に相当し、電圧制御26d及びVHセンサデータ更新26hが特許請求の範囲に記載する制御手段に相当し、VHセンサ13a及びAD変換器26iが特許請求の範囲に記載するサンプリング手段に相当する。
【0057】
なお、モータ制御26a、ゲート生成26b、モータ目標電圧算出26c、電圧制御26d、電流制御26e、ゲート生成26fについては、第1の実施の形態に係るモータ制御16a、ゲート生成16b、モータ目標電圧算出16c、電圧制御16d、電流制御16e、ゲート生成16fと同様の処理を行うので、説明を省略する。但し、電圧制御26dでは、VHセンササンプリングタイミング要求信号DSをVHセンササンプリングタイミング発生器26gに出力している。
【0058】
VHセンササンプリングタイミング発生器26gでは、インバータ制御機能のモータ制御16aからキャリア信号SCが入力されており、電圧制御26dからVHセンササンプリングタイミング要求信号DSが入力される毎に、そのVHセンササンプリングタイミング要求信号DS直後のキャリア信号SCの山のタイミングあるいは谷のタイミングをVHセンササンプリングタイミングTSとしてAD変換器26iに出力する。AD変換器26iでは、VHセンササンプリングタイミング発生器26gからVHセンササンプリングタイミングTSが入力される毎に、VHセンサ13aで検出されている直流高電圧(アナログ値)VHをAD変換し、AD変換後の直流高電圧(デジタル値)VHをVHセンサデータ更新26hに出力する。
【0059】
VHセンサデータ更新26hでは、AD変換器26iから直流高電圧(デジタル値)VHが入力される毎に、その直流高電圧(デジタル値)VHを昇圧制御に用いるVHセンサ値として電圧制御26dに出力する。
【0060】
ここで、図5を参照して、上記のような昇圧制御機能における処理より、インバータ制御側でのスイッチングの影響によるモータ電流の脈動によって引き起こされる直流高電圧VHの脈動がある場合でも安定した昇圧制御を行うことができる理由について説明する。インバータ制御でのスイッチングの影響によるモータ電流の脈動によって直流高電圧VHに脈動が発生する理由については、第1の実施の形態で説明したので省略する。
【0061】
図5(d)に示す例からも判るように、VHセンササンプリングタイミング要求信号DS、DS,DSのタイミングでの直流高電圧の期待値VHE1、VHE2,VHE3と、VHセンササンプリングタイミング要求信号DS、DS,DS直後のキャリア信号SCの山あるいは谷のタイミングのときの直流高電圧VHC4,VHC5,VHC6とを比較すると、その差は非常に小さい。したがって、VHセンササンプリングタイミング要求信号DS直後のキャリア信号SCの山あるいは谷のタイミングのときの直流高電圧VH(VHセンサ値)を取得することにより、VHセンササンプリングタイミング要求信号DSのタイミングのときの直流高電圧の期待値VHと非常に近い値を得ることができる。
【0062】
そこで、モータECU26の昇圧制御機能では、VHセンササンプリングタイミング発生器26gにおいて、電圧制御26dからVHセンササンプリングタイミング要求信号DSが入力される毎に、その要求信号DS直後のキャリア信号SCの山あるいは谷のタイミングでVHセンササンプリングタイミングTSを発生し、VHセンササンプリングタイミングTS毎にAD変換器26iにおいてVHセンサ13aで検出されている直流高電圧(アナログ値)VHをAD変換し、直流高電圧(デジタル値)VHを取得している。電圧制御26dでは、このVHセンササンプリングタイミング要求信号DS直後のキャリア信号SCの山あるいは谷のタイミングのときの直流高電圧VH(VHセンサ値)を用いて昇圧制御を行うことにより、VHセンササンプリングタイミング要求信号DSのときの直流高電圧の期待値VHに近い直流高電圧VH(VHセンサ値)を用いて制御を行うことができる。
【0063】
この1モータシステム2(特に、モータECU26での昇圧制御)によれば、第1の実施の形態に係る1モータシステム1と同様の効果を有する。特に、第2の実施の形態に係る1モータシステム2では、VHセンササンプリングタイミング要求信号DS直後のキャリア信号SCの山あるいは谷のタイミングでサンプリングされた直流高電圧VHを昇圧制御に用いることにより、VHセンササンプリングタイミング要求信号DSのときの直流高電圧の期待値VHに近い直流高電圧VHのセンサ値を用いて昇圧制御ができ、安定した昇圧制御を行うことができる。また、1モータシステム2では、VHセンササンプリングタイミング要求信号DS毎にしかAD変換器26iでAD変換を行わないので、モータECU26のマイクロコンピュータでの処理負荷を軽減できる。
【0064】
以上、本発明に係る実施の形態について説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されることなく様々な形態で実施される。
【0065】
例えば、本実施の形態では1モータシステムの車両に適用したが、1モータシステムの装置や移動体等の様々なものに適用できる。また、モータとしたが、モータジェネレータやジェネレータにも適用できる。
【0066】
また、本実施の形態では昇圧コンバータに対する昇圧制御に適用したが、降圧コンバータに対する降圧制御、昇降圧コンバータに対する昇降圧制御にも適用可能である。
【0067】
また、本実施の形態では昇圧制御に用いる直流高電圧のサンプリングのタイミングについてインバータ制御のキャリア信号を利用した2つの設定方法を示したが、インバータ制御のキャリア信号を利用した他の設定方法でもよい。なお、キャリア信号の変わりに、キャリア信号から生成されるインバータ制御のゲート信号(例えば、PWM信号)を利用してもよい。
【符号の説明】
【0068】
1,2…1モータシステム、10…バッテリ、11…フィルタコンデンサ、12…昇圧コンバータ、12a…リアクトル、12b,12c…スイッチング素子、12d,12e…還流ダイオード、12f…ILセンサ、13…平滑コンデンサ、13a…VHセンサ、14…インバータ、15…モータ、16,26…モータECU、16a,26a…モータ制御、16b,26b…ゲート生成、16c,26c…モータ目標電圧算出、16d,26d…電圧制御、16e,26e…電流制御、16f,26f…ゲート生成、16g,26g…VHセンササンプリングタイミング発生器、16h,26h…VHセンサデータ更新、16i,16j,26i,26j…AD変換器、17…走行制御ECU。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータを制御するモータ制御回路と電源との間で前記電源の直流電圧を前記モータの駆動に必要となる入力直流電圧に変換する電圧変換回路に対する電圧変換制御を行うモータ用電圧変換制御装置であって、
前記モータ制御回路と前記電圧変換回路との間に設けられたコンデンサの両端電圧を検出し、前記電圧変換回路で変換された入力直流電圧をサンプリングするサンプリング手段と、
前記モータに対するモータ制御のキャリア信号に基づいて前記電圧変換回路で変換された入力直流電圧をサンプリングするサンプリングタイミングを発生するサンプリングタイミング発生手段と、
電圧変換制御のサンプリングタイミング要求毎に前記サンプリングタイミング発生手段で発生したサンプリングタイミングに応じて前記サンプリング手段でサンプリングされた入力直流電圧を用いて電圧変換制御を行う制御手段と、
を備えることを特徴とするモータ用電圧変換制御装置。
【請求項2】
前記サンプリングタイミング発生手段では前記キャリア信号の山及び谷に対応してサンプリングタイミングを発生し、該サンプリングタイミングを発生する毎に前記電圧変換回路で変換された入力直流電圧を前記サンプリング手段でサンプリングしておき、前記制御手段ではサンプリングタイミング要求毎に該サンプリングタイミング要求直前のサンプリングタイミングに応じてサンプリングされている入力直流電圧を用いて電圧変換制御を行うことを特徴とする請求項1に記載のモータ用電圧変換制御装置。
【請求項3】
前記サンプリングタイミング発生手段ではサンプリングタイミング要求毎に該サンプリングタイミング要求直後の前記キャリア信号の山又は谷に対応してサンプリングタイミングを発生し、該サンプリングタイミングに応じて前記電圧変換回路で変換された入力直流電圧を前記サンプリング手段でサンプリングし、前記制御手段ではサンプリングタイミング要求毎に前記サンプリングタイミングに応じてサンプリングされた入力直流電圧を用いて電圧変換制御を行うことを特徴とする請求項1に記載のモータ用電圧変換制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−114993(P2012−114993A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−260053(P2010−260053)
【出願日】平成22年11月22日(2010.11.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】