説明

モールドプレス成形用光学ガラス

【課題】モールドプレス成形用光学ガラスとして要求される特性を満足し、特に、屈折率(nd)が1.585〜1.595、アッベ数(νd)が59以上であり、耐侯性に優れ、しかも、鉛及びフッ化物を含まないモールドプレス成形用光学ガラスを提供することである。
【解決手段】本発明のモールドプレス成形用光学ガラスは、SiO2−B23−R"23(R"はLa、Gdの一種以上)−RO(RはMg、Ca、Sr、Baの一種以上)系ガラスからなり、質量%で、SiO2 39〜60%、B23 19〜35%、SiO2+B23 59〜75%、R"23 0.1〜25%、Al23 1.5〜4.8%、RO 12〜23%、RO+R"23 15〜27%含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はモールドプレス成形用光学ガラスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
CD、MD、DVD、その他各種光ディスクシステムの光ピックアップレンズ、ビデオカメラや一般のカメラの撮影用レンズ等の光学レンズ用に、屈折率(nd)が1.585〜1.595、アッベ数(νd)が59以上の光学ガラスが使用されている。従来、このようなガラスとしてSiO2−PbO−R'2O(R'2Oはアルカリ金属酸化物)を基本とした鉛含有ガラスやフッ化物を含有したガラスが広く使用されていたが、近年では環境上の問題から、SiO2−B23−RO(ROはアルカリ土類金属酸化物)−R'2O系ガラス等の非鉛系ガラスに切り替えられつつある。(例えば特許文献1〜3参照)
【特許文献1】特開平6−107425号公報
【特許文献2】特開2000−302479号公報
【特許文献3】特開2002−249341号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
これらの光ピックアップレンズや撮影用レンズは、次のようにして作製される。
【0004】
まず溶融ガラスをノズルの先端から滴下し一旦液滴状ガラスを作製し、研削、研磨、洗浄してプリフォームガラスを得る。または溶融ガラスを急冷鋳造し一旦ガラスブロックを作製し、同じく研削、研磨、洗浄してプリフォームガラスを得る。次に、精密加工を施した金型中で、プリフォームガラスを軟化状態となるまで加熱するとともに、加圧成形し、金型の表面形状をガラスに転写させる。この成形方法はモールドプレス成形法と呼ばれ、広く用いられている。このようにして光ピックアップレンズや撮影用レンズが作製される。
【0005】
それ故、モールドプレス成形用光学ガラスには、求められる光学定数(屈折率、アッベ数)を満足することは勿論のこと、金型を劣化させないようにガラスの軟化点が低いこと、金型との融着が起こりにくいこと、耐侯性が高いこと等が要求される。
【0006】
しかしながら、特許文献に示すような従来の非鉛系のガラスは、十分な耐侯性を有していない。そのため、ガラスの切削、研磨、洗浄工程におけるガラス成分の研磨洗浄水や各種洗浄溶液中への溶出によって表面が変質したり、最終製品においても、高温多湿状態に長時間晒されるとガラスの表面が変質し、信頼性が損なわれるという問題が発生する。
【0007】
特に、屈折率(nd)が1.585〜1.595、アッベ数(νd)が59以上のガラスにおいて、良好な耐候性を有するものはなかった。
【0008】
本発明の目的は、モールドプレス成形用光学ガラスとして要求される特性を満足し、特に、屈折率(nd)が1.585〜1.595、アッベ数(νd)が59以上であり、耐侯性に優れ、しかも、鉛及びフッ化物を含まないモールドプレス成形用光学ガラスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のモールドプレス成形用光学ガラスは、SiO2−B23−R"23(R"はLa、Gdの一種以上)−RO(RはMg、Ca、Sr、Baの一種以上)系ガラスからなり、質量%で、SiO2 39〜60%、B23 19〜35%、SiO2+B23 59〜75%、R"23 0.1〜25%、Al23 1.5〜4.8%、RO 12〜23%、RO+R"23 15〜27%含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明のモールドプレス成形用光学ガラスは、CD、MD、DVD、その他各種光ディスクシステムの光ピックアップレンズ、ビデオカメラや一般のカメラの撮影用レンズ等の光学レンズに使用される1.585〜1.595の屈折率(nd)、59以上のアッベ数(νd)を有している。また、耐候性が良好であるため、製造工程や製品の使用中に物性の劣化や表面の変質を起こすことがない。しかも、軟化点が低くガラス成分が揮発し難いため、成形精度の低下および金型の劣化や汚染が生じない。それ故、モールドプレス成形用光学ガラスとして好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のモールドプレス成形用光学ガラスは、SiO2−B23−R"23(R"はLa、Gdの一種以上)−RO(RはMg、Ca、Sr、Baの一種以上)系ガラスを基本組成とし、鉛及びフッ化物を含まないガラスである。より具体的には、SiO2 39〜60%、B23 19〜35%、SiO2+B23 59〜75%、R"23 0.1〜25%、Al23 1.5〜4.8%、RO 12〜23%(RはMg、Ca、Sr、Baの一種以上)、RO+R"23 15〜27%の基本組成を有するガラスである。一般に、非鉛系のガラスでは、高い屈折率を得るために、アルカリ土類金属酸化物であるROを多量に含有させており、この系のガラスの耐候性を低下させる原因となっている。そこで、本発明のガラスでは、屈折率を高める成分であるR"23と、耐侯性を向上させる成分であるAl23含有させて、ROの含有量を抑えることで、屈折率を維持しながら、ガラスの耐候性を改善している。また、R"23を含有させると、アッベ数が低下する傾向にあるが、B23を含有させることで、アッベ数の低下を防止している。
【0012】
このようにすることで、優れた耐侯性と、1.585〜1.595の屈折率(nd)、59以上のアッベ数(νd)を有するモールドプレス成形用光学ガラスを得ることができ、色分散が少なく、高機能で小型の光学素子用の光学レンズとして使用することができる。
【0013】
尚、屈折率(nd)が1.585より低くなると、光学レンズを大きくする必要があり、小型の光学素子用の光学レンズとして使用し難くなる。一方、1.595より高くなると光軸調整が難しくなる。また、アッベ数59より小さくなると、光学レンズの色分散が大きくなり、光学レンズとして使用し難くなる。
【0014】
また、本発明のモールドプレス成形用光学ガラスは、ガラスの軟化点が650℃以下(好ましくは640℃以下、更に好ましくは630℃以下)であることが好ましい。ガラスの軟化点が低くなると、低温でのプレス成形が可能となり、金型の酸化、ガラス成分の揮発による金型の汚染やガラスと金型との融着を抑えることができる。
【0015】
更に、モールドプレス成形時におけるガラスと金型の融着をより効果的に防止するには、上記特徴に加えて、ガラスの塩基性度を11以下(好ましくは9.5以下)にすることが望ましい。
【0016】
尚、本発明において、塩基性度とは、(酸素原子のモル数の総和/陽イオンのField Strengthの総和)×100として定義され、Field Strength(以下F.S.と表記する)は次式により求められる。
【0017】
F.S.=Z/r2
Zはイオン価数、rはイオン半径を示している。尚、本発明におけるZ、rの数値は表1の値(『科学便覧基礎偏 改訂2版(1975年 丸善株式会社発行)』に記載された値)を用いた。本発明者の知見によれば、塩基性度が低いほど、金型と融着しにくくなる。以下にガラスの塩基性度が融着を支配する機構について説明する。
【0018】
【表1】

【0019】
ここでSiO2を例に挙げて、ガラスの塩基性度の求め方を示す。
【0020】
まず、酸素原子のモル数を求める。1molのSiO2中には、2molの酸素原子が含まれる。よって、この酸素の原子数2molに、ガラス組成中のSiO2のモル%を掛けることで、ガラス中のSiO2が持つ酸素原子のモル数が求められる。同様に各成分の酸素原子のモル数を求め、その合計を「酸素原子のモル数の総和」とする。
【0021】
次にF.S.を求める。陽イオンSi4+はZ=4、r=0.4であるため、F.S.=25となる。Si4+はSiO2に1mol含まれているのでガラス中のF.S.は、25×1(mol)×(組成中のSiO2のモル%)として求められる。
【0022】
これを各成分について求め、その合計を「陽イオンのF.S.の総和」とする。
【0023】
そして「酸素原子のモル数の総和」を「陽イオンのF.S.の総和」で割った値に100をかけたものを「ガラスの塩基性度」とする。
【0024】
次にガラスの塩基性度が融着を支配する機構について説明する。
【0025】
ガラスの塩基性度はガラス中の酸素の電子がガラス中の陽イオンにどのくらい引きつけられているかを示す指標になる。塩基性度の高いガラスではガラス中の陽イオンによる酸素の電子の引きつけが弱い。したがって、塩基性度の高いガラスは、電子を求める傾向の強い陽イオン(金型成分)と接した際、塩基性度の低いガラスに比べガラス中に金型からの陽イオンの侵入が起きやすい。金型成分である陽イオンがガラス中へ侵入(拡散)すると、界面付近のガラス相中の金型成分濃度が増加する。これによりガラス相と金型相の組成差が減少するため、両者の間の親和性が増し、ガラスが金型に濡れやすくなる。このような機構により、ガラスと金型が融着すると考えられる。従って塩基性度が低くなるにしたがって、ガラス中に金型成分が侵入しにくくなり、ガラスと金型は融着しなくなる。
【0026】
具体的にはガラスの塩基性度が11以下、好ましくは9.5以下であれば融着が起こらなくなると考えられる。ガラスの塩基性度が9.5を超えると金型と融着する傾向が現れ、11を超えるとガラスと金型が融着して製品の面精度が損なわれ、量産性が顕著に悪化する傾向にある。
【0027】
尚、各成分の範囲を上記のように限定した理由は以下の通りである。
【0028】
SiO2はガラスの骨格を構成する成分であり、耐候性を向上させる効果がある。その含有量が60%より多くなると、屈折率が著しく低下したり、軟化点が高くなる傾向にある。また、溶融性が悪化して脈理や泡がガラス中に残り、レンズ用ガラスとしての要求品位を満たさなくなる。一方、39%より少なくなると耐候性が悪化しやすくなる。SiO2の好ましい範囲は40〜55%であり、より好ましくは41〜48%である。
【0029】
23はガラスの骨格成分であり、耐失透性の向上に効果がある。また、アッベ数を高めたり、軟化点を低下させる成分である。また、ガラスの塩基性度を下げる効果もあり、モールドプレス成形におけるガラスと金型の融着防止にも効果がある。その含有量が35%より多くなると、ガラスの化学的耐久性が低下し、耐候性が著しく悪化する。一方、19%より少なくなると、耐失透性が低下し作業温度範囲を十分に確保できなくなる。また、所望のアッベ数が得難くなる。B23の好ましい範囲は19〜29%であり、より好ましくは19〜25%である。
【0030】
また、ガラスの耐失透性、耐侯性、溶融性を悪化させることなく、所望の屈折率とアッベ数を得るには、SiO2とB23は合量で59〜75%にする必要がある。その合量が75%より多くなると、屈折率が低下する。また、耐失透性や溶融性が悪化する虞がある。一方、59%より少なくなると、アッベ数や耐侯性が低下する虞がある。SiO2+B23の好ましい範囲は59〜72%であり、より好ましくは59〜68%である。
【0031】
R"23(R"はLa、Gdの一種以上)は、SiO2−B23−R"23−RO系ガラスにおいて、屈折率を高める成分であるため、多量のROを含有させる必要がなくなり、耐候性の向上に効果がある。また、R"23にも耐候性を向上させる効果がある。R"23が25%を超えると、アッベ数が著しく低下する傾向にある。一方、0.1%より少なくなると、耐候性が低下したり、所望の屈折率が得難くなる。R"23の好ましい範囲は0.5〜20%であり、より好ましくは0.5〜15%である。
【0032】
La23は、R"23の中でもアッベ数を低下させずに屈折率を高める効果が大きい成分である。また、軟化点の上昇を抑え、また耐候性を向上させる効果もある。但し、高い屈折率を得るために多量に添加すると分相しやすくなるため、Gd23によりその一部を置換することが好ましい。その含有量は0.1〜20%である。La23が20%より多くなると、分相しやすく、液相温度が高くなって作業性を悪化させる傾向がある。一方、0.1%より少なくなると、屈折率が低下したり、耐候性が悪化する。La23の好ましい範囲は0.5〜15%であり、より好ましくは4〜9%である。
【0033】
Gd23は、屈折率を高める成分である。また、耐候性を向上させたり、ガラスの失透を抑制し、作業温度範囲を広げる効果もある。但し、その含有量が6%より多くなるとアッベ数が著しく低下する傾向にある。Gd23の好ましい範囲は0〜4%であり、より好ましくは0〜3%である。
【0034】
Al23は骨格を構成する成分であり、耐候性を向上させる効果がある。また、ガラス中のアルカリ成分の水への選択的溶出を抑制する効果が顕著である。その含有量が4.8%より多くなると、耐失透性が低下し作業温度範囲を十分に確保できなくなる。また、溶融性が悪化して脈理や泡がガラス中に残り、レンズ用ガラスとしての要求品位を満たさなくなる。一方、1.5%より少なくなると、アルカリ成分溶出量が多くなり、耐侯性が悪化する傾向にある。Al23の好ましい範囲は1.7〜4.8%であり、より好ましくは2〜4.8%である。
【0035】
RO(RはMg、Ca、Ba、Sr)は融剤として作用するとともに、SiO2−B23−R"23−RO系ガラスにおいて、アッベ数を低下させずに屈折率を高める効果がある。ROが23%を越えると、プリフォームガラスの溶融、成形工程中に失透ブツが析出し易く、液相温度が上がって作業温度範囲が狭くなり量産化し難くなる。さらにガラスから研磨洗浄水や各種洗浄溶液中への溶出が激しくなり、また高温多湿状態でのガラス表面の変質が顕著となり、耐候性が著しく悪化する。一方、12%より少なくなると、ガラスの屈折率が低下したり、ガラスの軟化点が上昇し易くなる。ROの好ましい範囲は13〜22%であり、より好ましくは13〜20%である。
【0036】
MgOは屈折率を高める成分であり、また、このガラス系においては軟化点を低下させる効果もある。しかし、その含有量が10%より多くなると、分相性が強くなり、液相温度が著しく高くなって作業性を悪化させる傾向がある。MgOの好ましい範囲は0〜5%であり、より好ましくは0〜3%である。
【0037】
CaOは、屈折率を高める成分であり、また、このガラス系においては軟化点を低下させる効果もある。しかし、その含有量が10%より多くなると、分相性しやすくなり、液相温度が高くなって作業性を悪化させる虞がある。CaOの好ましく範囲は0〜7%であり、より好ましくは3〜7%である。
【0038】
BaOは屈折率を高める成分であり、また、このガラス系においては液相温度を低下させ、作業温度範囲を広げる効果もある。しかし、その含有量が10%より多くなると、高温多湿状態でガラス表面からの析出が他のRO成分に比べ著しく多くなり、最終製品の耐候性を著しく損なうことになる。BaOの好ましい範囲は0〜9%であり、より好ましくは6〜9%であり、特に好ましくは7〜9%である。
【0039】
SrOは屈折率を高める成分である。また、BaOに比べガラス表面からの析出量が少ないためSrOを積極的に使用することにより、耐侯性に優れたガラスを得ることができる。但し、その含有量が14%より多くなると、液相温度が高くなって作業性が悪化し易くなる。SrOの好ましい範囲は0.1〜10%であり、より好ましくは0.1〜7%である。
【0040】
また、所望の屈折率とアッベ数を得るために、ROとR"23は合量で15〜27%にする必要がある。その合量が27%より多くなると、アッベ数が低下したり、プリフォームガラスの溶融、成形工程中に失透ブツが析出する虞がある。一方、15%より少なくなると、屈折率が著しく低下する。RO+R"23の好ましい範囲は16〜27%であり、より好ましくは17〜26%である。
【0041】
本発明のガラスは、軟化点を低下させるために、R’2O(R’はLi、Na、Kの一種以上)を含有させることができる。本発明においては、R"23の導入により、ROの含有量を抑えることが可能となり、耐候性が改善されているため、耐侯性を低下させる成分であるR’2Oを含有しても実用上使用可能な耐候性を維持することができる。
【0042】
R’2Oは軟化点を低下させるための成分である。R’2Oが14%より多くなると、耐候性が著しく悪化したり、モールドプレス成形時にガラスからR’2Oが揮発してガラスと金型が融着しやすくなる。また、液相温度が著しく上昇して作業温度範囲が狭くなり、量産性に悪影響を与える。一方、3%より少なくなると、ガラスの軟化点を低下させる効果が得難くなる。R’2Oの好ましい範囲は5〜14%であり、より好ましくは5〜9%である。
【0043】
R’2Oの中でもLi2Oが最も軟化点を低下させる効果が大きい。その含有量が9%より多くなると、溶融時にB23‐R’2Oで形成される揮発物が多くなり、脈理が発生しやすくなる。また、モールド成形時にも揮発が生じて金型を汚染し、金型の寿命を大きく縮めてしまう。また、分相しやすく、液相温度が高くなって作業性を悪化させる傾向がある。さらに、F.S.が低く、ガラスの塩基性度大きくする成分であるため、プレス成形時に金型との融着を引き起こす原因となる。一方、3%より少なくなると、ガラスの軟化点を低下させる効果が得難くなる。Li2Oの好ましい範囲は4〜9%であり、より好ましくは5〜9%である。
【0044】
Na2Oは軟化点を低下させる成分である。その含有量が9%より多くなると、溶融時にB23‐R’2Oで形成される揮発物が多くなり、脈理が発生しやすくなる。また、モールド成形時にも揮発が生じて金型を汚染し、金型の寿命を大きく縮めてしまう。Na2Oの好ましい範囲は0〜7%であり、より好ましくは0〜3.5%である。
【0045】
2Oは軟化点を低下させる成分である。その含有量が5%より多くなると、溶融時にB23‐R’2Oで形成される揮発物が多くなり、脈理が発生しやすくなる。また、モールド成形時にも揮発が生じて金型を汚染し、金型の寿命を大きく縮めてしまう。K2Oの好ましい範囲は0〜4%であり、より好ましくは0〜2.5%である。
【0046】
ZnOは屈折率を高め、耐候性を向上させる成分である。また、ガラスの失透を抑制し、作業温度範囲を広げる効果もある。但し、その含有量が10%より多くなるとアッベ数が低下する傾向にある。ZnOの好ましい範囲は0〜5%であり、より好ましくは0〜2%である。
【0047】
Ta25は屈折率を高め、耐候性を向上させる成分である。また、ガラスの失透を抑制し、作業温度範囲を広げる効果もある。但し、その含有量が7%より多くなるとアッベ数が著しく低下する傾向にある。Ta25の好ましい範囲は0〜5%であり、より好ましくは0〜3%である。
【0048】
TiO2は化学耐久性を大きく向上させ、耐候性を向上させる効果がある。その含有量が0.2より多くなるとアッベ数が低下しやすくなる。TiO2の好ましい範囲は0〜0.1%であり、より好ましくは0〜0.05%である。
【0049】
ZrO2は耐水性を向上させ、耐候性を向上させる効果がある。その含有量が5%より多くなるとアッベ数が低下しやすくなる。ZrO2の好ましい範囲は0〜3%であり、より好ましくは0〜0.5%である。
【0050】
清澄剤としてSb23を添加することもできる。尚、ガラスに対する過度の着色を避けるため、Sb23の含有量は1%以下とする。
【0051】
上記以外にも、本発明の特徴を損ねない範囲でP25、WO3等の他成分を添加することができる。尚、P25は、モールドプレス成形においてガラスと金型の融着防止や液相温度の低下に効果があるが、分相性が強く耐水性が低下する傾向があるため、5%以下、特に2%以下に制限することが望ましい。WO3は屈折率を高める効果あるが、多量に添加すると、アッベ数が低下する傾向があるため、5%以下、特に2%以下に制限することが望ましい。
【0052】
尚、PbO、フッ化物及びAs23は環境上及び人体への悪影響の理由から、また、Ag及びハロゲン類は光可逆変色キャリヤーとなるため、含有量はそれぞれ0.1%以下に抑えることが望ましい。
【0053】
次に、本発明のガラスを用いて光ピックアップレンズや撮影用レンズ等を製造する方法を述べる。
【0054】
まず、所望の組成になるようにガラス原料を調合した後、ガラス溶融炉中で溶融する。続けて、ガラス融液をプリフォームガラスに成形し、その後、プリフォームガラスを精密加工を施した金型中に入れて軟化状態となるまで加熱しながら加圧成形(モールドプレス成形)し、金型の表面形状をガラスに転写させる。このようにして光ピックアップレンズや撮影用レンズを得ることができる。尚、プリフォームガラスの成形法としては、特に制限はないが、溶融ガラスをノズルの先端から滴下し液滴状ガラスを作製する液滴成形法を採用することが好ましい。その理由は、液滴成形法で得られるガラスは、球形状を有しているため、研削、研磨、洗浄工程がほとんど不要となるためである。
【実施例】
【0055】
以下、本発明のモールドプレス成形用光学ガラスを実施例に基づいて詳細に説明する。
【0056】
表2〜4は、本発明の実施例(試料No.1〜9)及び比較例(試料No.10〜12)を示している。
【0057】
【表2】

【0058】
【表3】

【0059】
【表4】

【0060】
各試料は次のようにして調製した。まず表に示す組成になるようにガラス原料を調合し、白金ルツボを用いて1350℃で3時間溶融した。溶融後、融液をカーボン板上に流しだし、更にアニール後、各測定に適した試料を作製した。
【0061】
得られた試料について、屈折率(nd)、アッベ数(νd)、耐侯性及び軟化点(Ts)を評価した。また塩基性度を算出した。それらの結果を各表に示す。
【0062】
表から明らかなように、本発明の実施例であるNo.1〜9の各試料は、屈折率が1.5850〜1.5894、アッベ数が59.9〜62.4であった。また、高温多湿状態の曝露試験前後での透過率の変化は1.8%以下と小さく、耐候性も良好であった。しかも、軟化点が644℃以下、塩基性度が7.8以下であり、低温でのプレス成形が可能となり、金型の酸化、ガラス成分の揮発による金型の汚染やガラスと金型との融着を抑えることができると考えられる。
【0063】
これに対して、比較例であるNo.10及び12の各試料は、曝露試験前後での透過率の変化が2.5%以上と大きく、耐候性が低かった。また、試料No.11は、アッベ数が57.5と低かった。
【0064】
尚、屈折率(nd)は、ヘリウムランプのd線(587.6nm)に対する測定値で示した。
【0065】
アッベ数(νd)は、上記したd線の屈折率と水素ランプのF線(486.1nm)、同じく水素ランプのC線(656.3nm)の屈折率の値を用い、アッベ数(νd)=[(nd−1)/(nF−nC)]式から算出した。
【0066】
耐侯性の評価は、高温多湿状態の曝露試験前後のガラスの透過率を分光光度計で測定し、可視の波長域で差が大きくなる波長400nmにおけるガラスの透過率の差で評価した。透過率の差が2%以下であるものを「○」、2%より大きいものを「×」とした。尚、曝露試験は、温度60℃、湿度90%、168時間の条件で行い、ガラス試料は、大きさ30×25mmで、両面を光学研磨し5mmの肉厚にしたものを用いた。
【0067】
軟化点(Ts)は、日本工業規格R−3104に基づいたファイバーエロンゲーション法によって測定した。
【0068】
塩基性度は、(酸素原子のモル数の総和/陽イオンのField Strengthの総和)×100の式に基づいて算出したものである。尚、式中のField Strength(以下F.S.と表記する)は次式により求めた。
【0069】
F.S.=Z/r2
尚、Zはイオン価数、rはイオン半径を示しおり、Z、rの数値は表1の値を用いた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiO2−B23−R"23(R"はLa、Gdの一種以上)−RO(RはMg、Ca、Sr、Baの一種以上)系ガラスからなり、質量%で、SiO2 39〜60%、B23 19〜35%、SiO2+B23 59〜75%、R"23 0.1〜25%、Al23 1.5〜4.8%、RO 12〜23%、RO+R"23 15〜27%含有することを特徴とするモールドプレス成形用ガラス。
【請求項2】
質量%で、La23 0.1〜20%、Gd23 0〜6%含有することを特徴とする請求項1のモールドプレス成形用光学ガラス。
【請求項3】
質量%で、MgO 0〜10%、CaO 0〜10%、BaO 0〜10%、SrO 0〜14%含有することを特徴とする請求項1または2に記載のモールドプレス成形用光学ガラス。
【請求項4】
質量%で、R’2O(R’はLi、Na、Kの一種以上)を3〜14%含有することを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のモールドプレス成形用光学ガラス。
【請求項5】
質量%で、Li2O 3〜9%、Na2O 0〜9%、K2O 0〜5%含有することを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載のモールドプレス成形用光学ガラス。
【請求項6】
質量%で、ZnO 0〜10%、Ta25 0〜7%含有することを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載のモールドプレス成形用光学ガラス。
【請求項7】
質量%で、TiO2 0〜0.2%、ZrO2 0〜5%含有することを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載のモールドプレス成形用光学ガラス。
【請求項8】
650℃以下の軟化点を有することを特徴とする請求項1〜7の何れかに記載のモールドプレス成形用光学ガラス。

【公開番号】特開2007−169086(P2007−169086A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−365744(P2005−365744)
【出願日】平成17年12月20日(2005.12.20)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】