ヤーンの製造方法及びグランドパッキン
【課題】繊維材を編む又は組むことによって成る筒状部材内に基材としての膨張黒鉛を充填して成るヤーンを、廉価に実使用できるようにすべく、生産性に優れる状態で作成できるようにするためのヤーンの製造方法を実現して提供する。
【解決手段】繊維材2を編む又は組むことによって成る筒状部材3内に膨張黒鉛を充填して成るヤーンの製造方法において、所定の幅を有した状態で連続供給されて来る膨張黒鉛シート9を、その幅方向に沿って小幅に連続して切断する細断工程sと、この細断工程sによって作成される短冊状の膨張黒鉛材4を前記筒状部材3内に案内供給して充填させる供給充填工程kと、を有することを特徴とする。
【解決手段】繊維材2を編む又は組むことによって成る筒状部材3内に膨張黒鉛を充填して成るヤーンの製造方法において、所定の幅を有した状態で連続供給されて来る膨張黒鉛シート9を、その幅方向に沿って小幅に連続して切断する細断工程sと、この細断工程sによって作成される短冊状の膨張黒鉛材4を前記筒状部材3内に案内供給して充填させる供給充填工程kと、を有することを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヤーンの製造方法及びグランドパッキンに係り、詳しくは、編組タイプのグランドパッキンや紐状ガスケット、耐火クロス等に用いられるヤーンの製造方法、並びにその製造方法によって作成されるヤーンを用いたグランドパッキンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
流体機器の軸封部などに用いるグランドパッキンや、それに用いるヤーン(編み糸)に関する従来技術としては、特許文献1や特許文献2に示されたもののように、基材として膨張黒鉛を用いたものが知られている。これら特許文献1,2においては、グランドパッキン用としてのヤーンを、繊維材の編組(ニット編みや袋編等)によって成る筒状部材内に長尺状の膨張黒鉛シートを充填することで形成することが開示されている。そして、上記のようにして形成されるヤーンを複数本用いてのひねり加工又は編組(例:8本の編み糸による8打角編)により、グランドパッキンが作成される。
【0003】
このような構成の膨張黒鉛製ヤーンを用いる従来技術は、膨張黒鉛基材の外周を補強線材でニット編み等して被覆してあるので、これら複数のヤーンを編組してグランドパッキンを製造する際に各ヤーンに生じる引っ張り力やねじり力に対して、補強線材の編組で成る筒状部材がこれに対抗し、その筒状部材内にある膨張黒鉛基材の破断が防止されることを企図して為されたものである。
【0004】
ところで、上記のヤーンの作り方としては、特許文献3(図1参照)に示されたように、上下向きに配された筒状部材内に短冊状の膨張黒鉛を投入してゆく、という製作方法又は手段としての考え方が開示されているに過ぎないものであり、実際にどのようにして効率良く生産させるか、については触れられていなかった。
【特許文献1】特開昭63−1863号公報
【特許文献2】特公平6−27546号公報
【特許文献3】特許第2562603号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、繊維材を編む又は組むことによって成る筒状部材内に基材としての膨張黒鉛を充填して成るヤーンを、廉価に実使用できるようにすべく、生産性に優れる状態で作成できるようにするための製造方法、即ちヤーンの製造方法を実現して提供する点にある。また、その改善されたヤーンの製造方法によるヤーンを用いた生産性の良いグランドパッキンを得ることも目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る発明は、繊維材2を編む又は組むことによって成る筒状部材3内に膨張黒鉛を充填して成るヤーンの製造方法において、
所定の幅を有した状態で連続供給されて来る膨張黒鉛シート9を、その幅方向に沿って小幅に切断する細断工程sと、この細断工程sによって作成される短冊状の膨張黒鉛材4を前記筒状部材3内に案内供給して充填させる供給充填工程kと、を有することを特徴とするものである。
【0007】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載のヤーンの製造方法において、前記細断工程sにおいては、前記幅方向に延びる切断刃14を前記膨張黒鉛シート9のシート面9aに対する上下方向に往復移動させることにより、前記膨張黒鉛シート9を連続的に切断して前記短冊状の膨張黒鉛材4を作成することを特徴とするものである。
【0008】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に記載のヤーンの製造方法において、前記供給充填工程kにおいては、前記細断工程sを経て供給されてくる短冊状の膨張黒鉛材4を、漏斗17を用いて前記筒状部材3内に落下案内供給させることを特徴とするものである。
【0009】
請求項4に係る発明は、請求項1〜3の何れか一項に記載のヤーンの製造方法において、前記供給充填工程kにおいては、前記細断工程sを経て供給されて来る前記膨張黒鉛材4をその供給順に前記筒状部材3内に落下案内供給させることにより、複数の前記膨張黒鉛材4を、互いの端部位置を筒状部材3の長手方向に所定量位置ずれさせた状態で前記筒状部材3内に供給することを特徴とするものである。
【0010】
請求項5に係る発明は、請求項4に記載のヤーンの製造方法において、前記細断工程sへの前記膨張黒鉛シート9の供給速度Vと、前記膨張黒鉛シート9の切断作動から次の切断作動迄の間の待機時間Tとの少なくとも一方を可変調節することにより、前記膨張黒鉛材4の幅寸法、並びに前記端部位置のずれ量の少なくとも一方を可変調節設定することを特徴とするものである。
【0011】
請求項6に係る発明は、グランドパッキンにおいて、請求項1〜5の何れか一項に記載のヤーンの製造方法によって製造されたヤーン1の複数本を集束してひねり加工又は編組して紐状に構成されることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明によれば、所定の幅を有する膨張黒鉛シートをその幅方向に沿って切断することによって小幅の膨張黒鉛材を形成させる工程を有しているから、その細断工程を続けることによって短冊状の膨張黒鉛材を連続的に作成することが可能であるとともに、その膨張黒鉛材を筒状部材内に供給する供給充填工程が為されることによってヤーンを連続的に製造することが可能となる。つまり、多量生産に好適なヤーンの製造方法とすることができる。長尺状の膨張黒鉛シートにおいては、その長手方向よりも幅方向の方が引張り強度に優れている性質があるから、例えば膨張黒鉛シートをその長手方向に沿って切断することでさらに長尺状の膨張黒鉛材を作成して筒状部材に供給する方法よりも、ヤーンとしての機械的強度に勝るものが得られる利点がある。
【0013】
加えて、編組する等のヤーンを曲げることを考えた場合、膨張黒鉛は伸びが殆ど期待できないことから、前記のさらに長尺状の膨張黒鉛材を用いる場合には、膨張黒鉛材が切れることでしか対応できないが、本発明による膨張黒鉛細は短冊状なので、隣合うものどうしがずれ動くことで曲がり変形に追従でき、切れてしまう不都合はまず生じない点で有利である。その結果、繊維材を編む又は組むことによって成る筒状部材内に基材としての膨張黒鉛を充填して成るヤーンをその機械的特性に有利なものとしながら、廉価に実使用できて生産性に優れる状態で作成可能なヤーンの製造方法を実現して提供することができる。
【0014】
請求項2のように、細断工程においては、膨張黒鉛シートをその幅方向に延びる切断刃のシート面に対する上下移動によって細断するようにすれば、切断刃の単純な往復移動でありながら、膨張黒鉛シートから短冊状の膨張黒鉛材を切断して作成する動作を連続して行うことができ、量産に適した細断工程を得ることができる。
【0015】
請求項3の発明によれば、作成された短冊状の膨張黒鉛材を漏斗を用いて筒状部材内に供給する供給充填工程とすれば、細断されて成る膨張黒鉛材が落下する挙動のみを利用して効率良く筒状部材内に充填することができる高効率で廉価な製造方法として提供することができる。
【0016】
請求項4の発明によれば、細断工程における切断順に膨張黒鉛材が筒状部材内に供給されるようになるから、細断工程における切断作動とその次の切断作動とのインターバルを利用して、筒状部材に供給される際における相隣る膨張黒鉛材どうしの端部の位置ずれ長さ、即ちずれ量を設定することかできる。これにより、専用のずれ量設定工程を別途設ける大掛かりな手段が不要となり、簡単で廉価な案内充填工程としながら膨張黒鉛材を所定量位置ずれさせながら筒状部材内に供給することができる。
【0017】
請求項5の発明によれば、細断工程への膨張黒鉛シートの供給速度、及び/又は膨張黒鉛シートの切断作動から次の切断作動迄の間の待機時間を調節することにより、膨張黒鉛材の幅寸法や相隣る膨張黒鉛材どうしの端部位置のずれ量を任意に設定することが可能になる。これにより、専用のずれ量調節設定工程を別途設ける大掛かりな設備が不要であり、簡単で廉価な案内充填工程としながら、筒状部材内に供給される膨張黒鉛材のずれ量を任意に調節設定できる便利で使い易いヤーンの製造方法を提供することができる。
【0018】
請求項6の発明によれば、上述した請求項1〜5の発明によるいずれかの作用効果を奏するヤーンにより、シール性に優れるグランドパッキンを作成して得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に、本発明によるヤーンの製造方法、そのための設備であるヤーンの製造装置、前記製造方法によって製造されたヤーン、並びにそのヤーンを用いて作成されるグランドパッキンの実施の形態を、図面を参照しながら説明する。図1〜図4はヤーンの製造装置とそれによる製造方法を示す各図、図5はヤーンにおける膨張黒鉛材の配列状態を示す模式図、図6は、図5のヤーンを用いて作成されたグランドパッキンを示す図、図7は膨張黒鉛材の断面寸法を示す拡大図、図8,9は膨張黒鉛材の縦横比と曲げ半径との関係データを示す図、図10はグランドパッキンの使用例を示す図、図11は種々のヤーンの伸びに関するデータ表を示す図、図12は切断作動等に関するタイムチャート図である。
【0020】
図1に本発明によるヤーンの製造方法を実施するための製造装置Aの概略構成が示されている。この製造装置Aは、繊維材2を編む又は組むことによって成る筒状部材3内に膨張黒鉛を充填して成るヤーン1を製造するものであって、所定の幅を有する膨張黒鉛シート9を連続供給可能な膨張黒鉛供給機構aと、膨張黒鉛供給機構aから供給されてくる膨張黒鉛シート9を細断機構cに向けて搬送する搬送機構bと、搬送機構bによって搬送されてくる膨張黒鉛シート9を、その幅方向に沿って連続的に小幅に切断自在な細断機構cと、細断機構cによって作成された短冊状の膨張黒鉛材(膨張黒鉛繊維)4を筒状部材3内に案内供給する案内供給機構dと、複数の繊維材2を編組して筒状部材3を作成して行く編み機eと、を有して構成されている。
【0021】
膨張黒鉛供給機構aは、帯状の膨張黒鉛シート9を巻回装備自在なリール10を、軸心P周りに正逆いずれの方向にも回転自在に設けて構成されている。これにより、図1に示す矢印イ方向へのリール10の回転により、これに巻回される膨張黒鉛シート9を巻き解して取出して連続供給することが自在となっている。
【0022】
搬送機構bは、膨張黒鉛供給機構aから供給されてくる膨張黒鉛シート9を上下一対のローラ11,12で挟持するとともに、それら両ローラ11,12のうちの少なくとも一方11を搬送駆動部13によって駆動回転させる構造によって構成されている。つまり、膨張黒鉛シート9を水平方向に横移送させるものであって、リール10は、搬送機構bによる膨張黒鉛シート9の強制搬送によって追従回転し、膨張黒鉛シート9を巻き解すようになっている。
【0023】
細断機構cは、水平方向に搬送されて来る膨張黒鉛シート9の幅方向に延びる切断刃14と、これを膨張黒鉛シート9のシート面9aに対する上下方向に往復移動させる細断駆動部15と、切断刃14と対を為す受台16とを設けて構成されている。図3や図4における21,22は、膨張黒鉛シート9や膨張黒鉛材4をガイドするために受台16と対を為す押え片である。代切断刃14は、シート面9aに対して角度が付いた刃先14aを有するもの(所謂ギロチンカッター)に形成されており、下降移動することによって膨張黒鉛シート9をその幅方向の一端から他端に架けて順次切断するように構成されている。尚、切断刃14を上下方向に往復移動させる細断駆動部15は公知の種々の構造が選択設定されるものであり、その詳細は割愛する。
【0024】
案内供給機構dは、細断機構cの終端部に大径の上端開口部17aが配置され、かつ、上下向き姿勢に配される筒状部材の上端部に小径の下端開口部17bが配置される上下向き姿勢の漏斗17を設けて構成されている。つまり、案内供給機構dは、細断機構cによって作成された小幅で短冊状の膨張黒鉛材4が、すり鉢状に傾斜した漏斗内面17cに落下して当接することで、横臥姿勢から上下向き姿勢に姿勢変更されながら、その切断順に筒状部材3内に案内供給されるように作用するものであり、複数の膨張黒鉛材4が、互いの端部位置が筒状部材3の長手方向、即ち上下方向に所定量位置ずれされた状態で筒状部材3内に供給されるように構成されている。
【0025】
筒状部材3は、編み機eによって編組されて下方に延びるように作成されるものであり、その編み機eに下端開口部17bが挿入配備されることにより、順次作成される筒状部材3内に膨張黒鉛材4が充填されてヤーン1が作成されるように構成されている。また、搬送機構b、細断機構c、及び編み機eの駆動状態を制御する制御装置18、並びに、膨張黒鉛材4の幅寸法を設定する幅設定手段(調節設定手段の一例)19、膨張黒鉛材4どうしの端部のずれ量を設定するずれ量設定手段(調節設定手段の一例)20が制御装置18を設けて駆動制御部Lが構成されている。
【0026】
ここで、製造装置Aによるヤーンの製造方法は、搬送工程hと細断工程sと供給充填工程kとを経てヤーン1が製造されるものとなっている。搬送工程hは、搬送駆動部13を駆動させて膨張黒鉛シート9を挟持している一対のローラ11,12を駆動回転させ、それに伴ってリール10が追従回転して巻回されている膨張黒鉛シート9が巻き解されるものであり、ローラ11,12の回転速度を制御することによって細断機構cへの膨張黒鉛シート9の搬送速度V(図3等を参照)を任意に制御することが可能である。
【0027】
細断工程sは、所定の幅を有した状態で連続供給されて来る膨張黒鉛シート9を、その幅方向に沿って小幅に連続して切断する工程である。具体的には、細断駆動部15を駆動して切断刃14を下降切断移動及び上昇復帰移動を繰返し行うこと(切断刃14を膨張黒鉛シート9のシート面9aに対する上下方向に往復移動させること)により、搬送されてくる膨張黒鉛シート9を所定の小幅wを有した短冊状の膨張黒鉛材4に細断する機能を担っている。切断された膨張黒鉛材4は直下に配備されている漏斗17内に落下して行くこととなる。なお、「連続的に小幅に切断」とは、細断機構cが停止することなく動き続けることによって切断刃14で順次膨張黒鉛シート9を細断することの意であり、その駆動速度を増減変更することによって前記小幅wを任意に増減することができる。これは、細断機構cの構造上、切断される側である膨張黒鉛シート9を基準にすると、「断続的に小幅に切断」という言い方で定義することも可能である。
【0028】
供給充填工程kは、細断工程sによって作成される短冊状の膨張黒鉛材4を筒状部材3内に案内供給して充填させる工程である。具体的には、図1,図2に示すように、細断工程sを経て落下供給されて来る膨張黒鉛材4を、漏斗内面17cで受止めて下端開口部17bに案内することにより、横臥姿勢を上下向き姿勢に変えてから筒状部材3に供給する機能を発揮する工程であり、その供給順に筒状部材3内に落下案内供給させることにより、隣合う膨張黒鉛材4,4どうしには、互いの端部位置が上下方向に(筒状部材3の長手方向に)所定量Dだけ位置ずれさせた状態で筒状部材3内に供給するようになっている。
【0029】
ヤーンの製造装置A(製造方法)による以上の工程により、リール10に巻回されている膨張黒鉛シート9を小幅で短冊状の膨張黒鉛材4に細断し、その細断によって作成される多数の膨張黒鉛材4を、編み機eで作成されつつある筒状部材3内に漏斗17を用いて充填することにより、繊維材2の編組によって成る筒状部材3内に膨張黒鉛を充填して成るヤーン1を製造することができるのである。次に、ヤーン1の実施例、並びに製造装置Aの制御について説明する。
【0030】
まず、図3(a)に示すように、切断刃14が上昇するとともに搬送機構bの駆動が再開され、それまで停止していた膨張黒鉛シート9が速度V(単位:mm/秒)で搬送され始める。そして、図3(b)に示すように、黒鉛幅設定手段20によって設定された距離wだけ搬送されると、搬送機構bが停止される。このとき、既に細断されて膨張黒鉛シート9の先端に存在する膨張黒鉛材4aは、速度Vでもって水平方向に押し出されて飛び始める。尚、ここでは説明の便宜上、この最初に切断された膨張黒鉛材4を第1膨張黒鉛材4aから順次、第2,第3膨張黒鉛材4b,4cと呼ぶものとし、また、第1膨張黒鉛材4aの前に既に作成されているものは第0膨張黒鉛材4zと呼ぶものとする。また、図3,4において、ローラ11,12の軸部11a,12aが白抜きで描かれているのは回転している状態を、そして黒塗りの状態で描かれているのは回転が停止している状態をそれぞれ示すものとする。
【0031】
次いで、図3(c)に示すように、切断機構cが駆動され、上昇待機位置にある切断刃14が下降移動して膨張黒鉛シート9の先端部を幅wでもって細断(切断)し、次の膨張黒鉛材4bを作成する。このとき、速度Vで飛び出した膨張黒鉛材4aは、重力加速度Gによってやや下降しながらも水平距離W分は飛散した状態にある。つまり、切断刃14による切断から次の切断までの待機時間(タイムラグ)をT(単位:秒)とすれば、その間における膨張黒鉛材4aの飛散距離W=VTであり、これが膨張黒鉛材の製造工程において隣合う膨張黒鉛材4a,4bどうしの水平方向の間隔である。但し、切断刃14による切断作用は一瞬(時間0)のうちに行われるものと仮定して検討してある。
【0032】
図4(a)は、第2膨張黒鉛材4bの膨張黒鉛シート9による押し出しが完了して単独で飛び出ようとするときの状態を示している。この状態では、第1膨張黒鉛材4aは図3(c)に示す状態から若干移動しており、第2膨張黒鉛材4bとの水平方向の間隔は、前述の飛散距離Wである。そして、次に細断作用されて第3膨張黒鉛材4cが作成されたときには、図4(b)に示すように、第2膨張黒鉛材4bと第3膨張黒鉛材4cとの水平方向の間隔はWであり、そのとき漏斗17の内面17cに沿って滑落移動する第1膨張黒鉛材4aと、その前に既に作成されている第0膨張黒鉛材4zとの端部どうしの「ずれ量」はDであり、D=αW(=αVT)である。
【0033】
αは係数であり、この係数αは、水平方向の間隔Wを筒状部材3内における上下方向のずれ量に換算するためのものであり、案内供給機構d等のシステムの仕様によって決定される要素である。この場合のように水平方向の距離Wは、切断位置と筒状部材3との高さに応じた重力加速度による間隔の増幅作用や、漏斗内面17cを滑落する摩擦抵抗等の種々の要因によって係数αが決まるのであるが、その詳細については割愛する。実際のずれ量Dは、後述するように20〜30mmや、それ以外の値に設定される。
【0034】
隣合う膨張黒鉛材どうしの水平方向の間隔Wは、即ち、ずれ量Dは、膨張黒鉛シート9の搬送速度V、及び切断刃14の待機時間T[およそ図3(b)の状態から図4(a)の状態までの時間であり、正確には図12を参照]によって定まるものであり、例えば、搬送速度Vが速く、かつ、待機時間Tが長い場合は「ずれ量D」は大きくなり、搬送速度Vが遅く、かつ、待機時間Tが短い場合は「ずれ量D」は小さくなる。また、搬送速度Vが速く、かつ、待機時間Tが短い場合や、搬送速度Vが遅く、かつ、待機時間Tが長い場合も考えられ、これら両者の調節如何によって、即ち、ずれ量設定手段20によってずれ量Dを任意に可変設定することが可能である。
【0035】
待機時間Tの開始直前の時間帯である送り時間Th[図3(a)の状態から、図3(b)の状態に移行するに要する時間であり、正確には図12を参照]に、搬送速度Vを乗じたもの(VTh)が膨張黒鉛材4の幅wであり、この送り時間Th及び、搬送速度Vが幅設定手段19によって設定され、それによって膨張黒鉛材4の幅wが決まるのである。但し、搬送速度Vは、幅設定手段19とずれ量設定手段20との双方で設定可能であるため、例えば、いずれか先に操作された方の設定速度が優先設定される、といった具合に条件設定しておくと良い。
【0036】
参考として、図12に細断機構cによる細断作用の概略のタイムチャートを示しておく。図12においては、ある切断時を基点として搬送機構bと切断機構cの駆動及び停止に関する作動順序を経時的に表したものであり、前述したように切断作用は時間を要せず瞬間的に作動するものとして描いてある。このタイムチャートから分るように、搬送速度Vを固定した場合、膨張黒鉛材4の幅wは送り時間Thに、そしてずれ量Dは待機時間Tによって決定される。
【0037】
次に、上述したヤーンの製造方法によって製造されるヤーン1の形状や特性、及び幾つかの実施例、並びにそのヤーン1を用いて作成されるグランドパッキン5(G)について説明する。
【0038】
上述の製造装置Aによる製造方法によって製造されたグランドパッキン用のヤーン(編み糸)1は、図1,2,5に示すように、繊維材2を編む又は組むことによって成る筒状部材3内に、短冊状の膨張黒鉛材4の多数が、互いの端部位置を膨張黒鉛材長手方向に所定量Dでもって位置ずれさせた状態で充填されて形成されている。そして、膨張黒鉛材4の断面形状は、幅を厚みで除した値である縦横比hが1〜5(1≦h≦5)に設定されているのが望ましい。この縦横比hは、図7に示すように、膨張黒鉛材4の断面寸法における幅wを厚みtで除した(割った)値(h=w/t)である。尚、膨張黒鉛材4の断面形状は、例えば、円形、長円形や楕円径等、矩形以外の形状でも良い。
【0039】
例えば、図2に示すように、上下向きに配された筒状部材3の内部に、端部位置がDだけ上下方向にずらした状態で膨張黒鉛材4を投入してゆくことにより、図5にも示すように、筒状部材3内において、互いの端部位置がDずれた状態で多数の膨張黒鉛材4が、充填される状態のヤーン1が形成される。この場合、図5に示すように、ヤーン長手方向で隣合う膨張黒鉛材4どうしの間である途切れ部fは、互いにDずつ位置ずれすることになり、ヤーン長手方向におけるある箇所に多数の途切れ部fが集中して、その部分のヤーン1の機械的強度が落ちるということが生じ難い又は生じないという利点がある。尚、便宜上、図5においては途切れ部fを誇張して描いてある。
【0040】
図8及び図9においては、膨張黒鉛材4の厚みtが、0.25mm、0.38mm、0.50mmの3種類について、縦横比hが1.5,2,3,4,5の5種類の計15通りのサンプル(ヤーン1)について、横方向の曲げ可能半径を測定してデータを取ったものである。この場合の「曲げ可能半径」とは、膨張黒鉛材4の切断、割れ、外装繊維材2の間からの食み出しが生じない正常な状態で曲げうる最小径のことである。膨張黒鉛材4の厚みtが0.25mmのものは小径グランドパッキン用のヤーンに、0.38mmのものは普及型のグランドパッキン用ヤーンに、そして0.50mmのものは大径グランドパッキン用のヤーンにそれぞれ適している、という使用形態が考えられる。
【0041】
しかして図8の表や図9のグラフから分るように、膨張黒鉛材4の縦横比hが5以下になると実用に耐え得る最小曲げ半径値が得られるものであり、縦横比hが3以下になると、最小曲げ半径が極端に小さくなることが伺える。従って、縦横比hの範囲は、好ましくは1.0〜3.0の範囲(1.0≦h≦3.0)に設定されるのが望ましい。hが1であるとは、厚さが0.25mmの場合には幅も0.25mmとなり、物理的に切断するのが困難になるから、切断作業の実情から、縦横比hの下限を1に設定するのが現実的であると思われる。尚、図8,9の実験データからは、縦横比hが1.5〜3.0の範囲のヤーン1が良い。
【0042】
図6に示すグランドパッキン5は、上述のヤーン1の8本(複数本の一例)を芯材Sの周りに(芯材Sが無くても良い)集束してひねり加工又は編組(8打角編等)して紐状に構成されたものであり、これを連続して丸めて圧縮成形することにより、断面が矩形で全体形状がドーナツ型のリング形のグランドパッキンGとすることができる。例えば、図10に示すように、グランドパッキンGは、回転軸6の軸方向に複数個並ぶ状態でパッキンボックス7に装備され、かつ、パッキン蓋8によって軸方向に押圧されることにより、回転軸6の外周面6aに対してシール作用するように用いられる。
【0043】
〔ヤーンの実施例1〕
実施例1によるヤーンは、前述の製造方法を用いて次のように作成される。繊維材2として直径0.1mm程度のインコネル線(又はステンレス線等)を用いて編組(ニット編)によって成る筒状部材3内に、厚さ(t)0.38mm×幅(w)1.0mmの矩形断面形状を為し、かつ、長さが200mm前後の膨張黒鉛材4の多数を、それらの端部の位置を20mmずらしながら入れ込んで充填させ、断面形状が円形(丸型)のヤーン1とした。つまり、膨張黒鉛材4,4どうしの端部のずれ量D=20mmに設定した例である。この実施例1による第1ヤーン1における膨張黒鉛材4の縦横比hは、h=1.0/0.38≒2.63であり、また、重量は5g/mであった。
【0044】
図3に、実施例1のヤーン1を用いて成るグランドパッキン5が示されている。このグランドパッキン5は、実施例1のヤーン1を8本用いて編組(8打角編等)した後に、表面に膨張黒鉛を塗布し、断面が縦8mmで横8mmの正方形を呈するグランドパッキン5を製作した。
【0045】
〔ヤーンの実施例2〕
実施例2によるヤーンは、前述の製造方法を用いて次のようにして作成される。断面サイズが厚さ0.38mmで、幅1.0mm、長さ200mmの膨張黒鉛材4を、その端部を30mmずつずらしながら収束させて長尺品とし、その外周を線径0.1mmのインコネル線による繊維材2を用いてニット編みして成る筒状部材3で被覆し、断面形状が円形(丸型)のヤーン1を製作した。つまり、膨張黒鉛材4,4どうしの端部のずれ量D=30mmに設定した例である。この実施例2による第2ヤーン1における膨張黒鉛材4の縦横比hは、h=1.0/0.38≒2.63であり、また、重量は4g/mであった。
【0046】
この実施例2によるヤーン1を8本用いて編組してから、表面に膨張黒鉛を塗布し、断面が縦6.5mmで横6.5mmの正方形を呈するグランドパッキン5を製作した(図3参照)。
【0047】
図11に、上記実施例1,2のヤーンと、従来構造による従来品1〜5のヤーンとの特性比較表を示す。従来品の概略構成は次の通りである。従来品1のヤーンは、細幅の膨張黒鉛シートの複数枚を積層して、その外周を繊維で補強する構造のものである。従来品2のヤーンは、広幅の膨張黒鉛テープを折畳んで成る紐状体の外周を繊維で補強する構造のものである。従来品3のヤーンは、繊維で補強された広幅の膨張黒鉛テープを折畳み又は加熱する構造のものである。従来品4のヤーンは、従来品3のヤーンの外周をさらに繊維で補強する構造のものである。従来品5のヤーンは、繊維で形成した筒状部材内に短冊状の膨張黒鉛シートを充填する構造のものである。
【0048】
図11の特性比較表から、実施例1,2のヤーン1の伸びは、従来品1〜5のいずれのものよりも明確に優れており、レベルの高いものとなっていることが理解できる。この伸びの大幅な改善により、グランドパッキンを作成すべく複数のヤーン1による編組時に、膨張黒鉛材4が曲り具合に追従できずに切れてしまう不都合が解消されるので、グランドパッキンとしてのシール性低下が生ぜず、良好なシール性能を長期に亘って発揮することが可能となるのである。
【0049】
即ち、従来品のヤーンでは、膨張黒鉛(膨張黒鉛シート、膨張黒鉛テープ)が筒状部材内にランダムに投入されて充填されているので、ヤーン長手方向で隣合う膨張黒鉛どうしの間である途切れ部(図5の途切れ部fを参照)が偏って存在することとなり、中には1箇所に途切れ部が集中配置されてしまう等、膨張黒鉛のヤーンの長手方向位置における密度が不均一になり易く、それによって機械的な伸びも不均一になり易い。従って、ヤーンを捩ったり曲げたりした場合には、伸びが劣る部位において比較的容易く膨張黒鉛が切れてしまう不都合が生じて胃いたと考えられる。
【0050】
これに対して実施例1,2によるヤーン1においては、筒状部材3内に充填される多数の短冊状の膨張黒鉛材を均等的に端部位置をヤーン長手方向にずらす構成としてあるので、前述のように途切れ部fの箇所がヤーン1としての長手方向に(横方向にも)均等的に分散配置されることになり、筒状部材3内における膨張黒鉛材4の密度がより一層均一化することができる。その結果、膨張黒鉛どうしの滑りによる伸びへの対応がヤーン長手方向の位置如何に拘らずに均一化されて実質的に改善されることとなり(図11参照)、膨張黒鉛が切れてしまうことなくヤーン1のひねり加工や編組を行うことが可能になる。
【0051】
以上より、実施例1,2によるヤーン1、及びそれによるグランドパッキン5には次のような利点もある。1.膨張黒鉛材の収束本数を変更することで、任意の太さのヤーンを製作することが可能である。2.膨張黒鉛材どうしの滑りが良く、そのために膨張黒鉛が切れることがないと共に伸びも大きい。3.繊維束は容易に断面が変形して丸形になるので、補強材との密着性が良く、かつ、曲げ易い。4.長尺の材料を使用しないので、生産が容易である。5.接着剤無しでヤーンを製作することが可能である。
【0052】
〔別実施例〕
細断工程sを行うための細断機構cは、要は膨張黒鉛シート9をその幅方向に沿って切断する構造のものなら良く、従って切断刃14を用いる図示の構造以外のものでも良い。また、搬送工程hを行うための搬送機構bや、供給充填工程kを行うための案内供給機構dは、図示以外の構造によるものでも良い。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】ヤーンの製造方法を示す概略の模式図
【図2】案内供給機構による「ずれ量」の形成状況の全体を示す作用図
【図3】(a)〜(c)は、ずれ量の形成状況の前半部を示す作用図
【図4】(a),(b)は、ずれ量の形成状況の後半部を示す作用図
【図5】ヤーン内部における膨張黒鉛材の配列状況示す模式図
【図6】図2のヤーンの編組によるグランドパッキンを示す斜視図
【図7】膨張黒鉛材の断面形状及び寸法比率を示す説明図
【図8】膨張黒鉛材の幅/厚みの比率と最小曲げ半径との対比表を示す図
【図9】膨張黒鉛材の幅/厚みの比率と最小曲げ半径との関係グラフを示す図
【図10】グランドパッキンの使用例を示す要部の断面図
【図11】ヤーンの従来品と本発明品との伸びに関する特性比較表を示す図
【図12】搬送機構及び細断機構の概略の作動タイムチャートを示す図
【符号の説明】
【0054】
1 ヤーン
2 繊維材
3 筒状部材
4 膨張黒鉛材
5 グランドパッキン
9 膨張黒鉛シート
9a シート面
14 切断刃
17 漏斗
k 供給充填工程
s 細断工程
A ヤーンの製造装置
T 待機時間
V 膨張黒鉛シートの供給速度
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヤーンの製造方法及びグランドパッキンに係り、詳しくは、編組タイプのグランドパッキンや紐状ガスケット、耐火クロス等に用いられるヤーンの製造方法、並びにその製造方法によって作成されるヤーンを用いたグランドパッキンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
流体機器の軸封部などに用いるグランドパッキンや、それに用いるヤーン(編み糸)に関する従来技術としては、特許文献1や特許文献2に示されたもののように、基材として膨張黒鉛を用いたものが知られている。これら特許文献1,2においては、グランドパッキン用としてのヤーンを、繊維材の編組(ニット編みや袋編等)によって成る筒状部材内に長尺状の膨張黒鉛シートを充填することで形成することが開示されている。そして、上記のようにして形成されるヤーンを複数本用いてのひねり加工又は編組(例:8本の編み糸による8打角編)により、グランドパッキンが作成される。
【0003】
このような構成の膨張黒鉛製ヤーンを用いる従来技術は、膨張黒鉛基材の外周を補強線材でニット編み等して被覆してあるので、これら複数のヤーンを編組してグランドパッキンを製造する際に各ヤーンに生じる引っ張り力やねじり力に対して、補強線材の編組で成る筒状部材がこれに対抗し、その筒状部材内にある膨張黒鉛基材の破断が防止されることを企図して為されたものである。
【0004】
ところで、上記のヤーンの作り方としては、特許文献3(図1参照)に示されたように、上下向きに配された筒状部材内に短冊状の膨張黒鉛を投入してゆく、という製作方法又は手段としての考え方が開示されているに過ぎないものであり、実際にどのようにして効率良く生産させるか、については触れられていなかった。
【特許文献1】特開昭63−1863号公報
【特許文献2】特公平6−27546号公報
【特許文献3】特許第2562603号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、繊維材を編む又は組むことによって成る筒状部材内に基材としての膨張黒鉛を充填して成るヤーンを、廉価に実使用できるようにすべく、生産性に優れる状態で作成できるようにするための製造方法、即ちヤーンの製造方法を実現して提供する点にある。また、その改善されたヤーンの製造方法によるヤーンを用いた生産性の良いグランドパッキンを得ることも目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る発明は、繊維材2を編む又は組むことによって成る筒状部材3内に膨張黒鉛を充填して成るヤーンの製造方法において、
所定の幅を有した状態で連続供給されて来る膨張黒鉛シート9を、その幅方向に沿って小幅に切断する細断工程sと、この細断工程sによって作成される短冊状の膨張黒鉛材4を前記筒状部材3内に案内供給して充填させる供給充填工程kと、を有することを特徴とするものである。
【0007】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載のヤーンの製造方法において、前記細断工程sにおいては、前記幅方向に延びる切断刃14を前記膨張黒鉛シート9のシート面9aに対する上下方向に往復移動させることにより、前記膨張黒鉛シート9を連続的に切断して前記短冊状の膨張黒鉛材4を作成することを特徴とするものである。
【0008】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に記載のヤーンの製造方法において、前記供給充填工程kにおいては、前記細断工程sを経て供給されてくる短冊状の膨張黒鉛材4を、漏斗17を用いて前記筒状部材3内に落下案内供給させることを特徴とするものである。
【0009】
請求項4に係る発明は、請求項1〜3の何れか一項に記載のヤーンの製造方法において、前記供給充填工程kにおいては、前記細断工程sを経て供給されて来る前記膨張黒鉛材4をその供給順に前記筒状部材3内に落下案内供給させることにより、複数の前記膨張黒鉛材4を、互いの端部位置を筒状部材3の長手方向に所定量位置ずれさせた状態で前記筒状部材3内に供給することを特徴とするものである。
【0010】
請求項5に係る発明は、請求項4に記載のヤーンの製造方法において、前記細断工程sへの前記膨張黒鉛シート9の供給速度Vと、前記膨張黒鉛シート9の切断作動から次の切断作動迄の間の待機時間Tとの少なくとも一方を可変調節することにより、前記膨張黒鉛材4の幅寸法、並びに前記端部位置のずれ量の少なくとも一方を可変調節設定することを特徴とするものである。
【0011】
請求項6に係る発明は、グランドパッキンにおいて、請求項1〜5の何れか一項に記載のヤーンの製造方法によって製造されたヤーン1の複数本を集束してひねり加工又は編組して紐状に構成されることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明によれば、所定の幅を有する膨張黒鉛シートをその幅方向に沿って切断することによって小幅の膨張黒鉛材を形成させる工程を有しているから、その細断工程を続けることによって短冊状の膨張黒鉛材を連続的に作成することが可能であるとともに、その膨張黒鉛材を筒状部材内に供給する供給充填工程が為されることによってヤーンを連続的に製造することが可能となる。つまり、多量生産に好適なヤーンの製造方法とすることができる。長尺状の膨張黒鉛シートにおいては、その長手方向よりも幅方向の方が引張り強度に優れている性質があるから、例えば膨張黒鉛シートをその長手方向に沿って切断することでさらに長尺状の膨張黒鉛材を作成して筒状部材に供給する方法よりも、ヤーンとしての機械的強度に勝るものが得られる利点がある。
【0013】
加えて、編組する等のヤーンを曲げることを考えた場合、膨張黒鉛は伸びが殆ど期待できないことから、前記のさらに長尺状の膨張黒鉛材を用いる場合には、膨張黒鉛材が切れることでしか対応できないが、本発明による膨張黒鉛細は短冊状なので、隣合うものどうしがずれ動くことで曲がり変形に追従でき、切れてしまう不都合はまず生じない点で有利である。その結果、繊維材を編む又は組むことによって成る筒状部材内に基材としての膨張黒鉛を充填して成るヤーンをその機械的特性に有利なものとしながら、廉価に実使用できて生産性に優れる状態で作成可能なヤーンの製造方法を実現して提供することができる。
【0014】
請求項2のように、細断工程においては、膨張黒鉛シートをその幅方向に延びる切断刃のシート面に対する上下移動によって細断するようにすれば、切断刃の単純な往復移動でありながら、膨張黒鉛シートから短冊状の膨張黒鉛材を切断して作成する動作を連続して行うことができ、量産に適した細断工程を得ることができる。
【0015】
請求項3の発明によれば、作成された短冊状の膨張黒鉛材を漏斗を用いて筒状部材内に供給する供給充填工程とすれば、細断されて成る膨張黒鉛材が落下する挙動のみを利用して効率良く筒状部材内に充填することができる高効率で廉価な製造方法として提供することができる。
【0016】
請求項4の発明によれば、細断工程における切断順に膨張黒鉛材が筒状部材内に供給されるようになるから、細断工程における切断作動とその次の切断作動とのインターバルを利用して、筒状部材に供給される際における相隣る膨張黒鉛材どうしの端部の位置ずれ長さ、即ちずれ量を設定することかできる。これにより、専用のずれ量設定工程を別途設ける大掛かりな手段が不要となり、簡単で廉価な案内充填工程としながら膨張黒鉛材を所定量位置ずれさせながら筒状部材内に供給することができる。
【0017】
請求項5の発明によれば、細断工程への膨張黒鉛シートの供給速度、及び/又は膨張黒鉛シートの切断作動から次の切断作動迄の間の待機時間を調節することにより、膨張黒鉛材の幅寸法や相隣る膨張黒鉛材どうしの端部位置のずれ量を任意に設定することが可能になる。これにより、専用のずれ量調節設定工程を別途設ける大掛かりな設備が不要であり、簡単で廉価な案内充填工程としながら、筒状部材内に供給される膨張黒鉛材のずれ量を任意に調節設定できる便利で使い易いヤーンの製造方法を提供することができる。
【0018】
請求項6の発明によれば、上述した請求項1〜5の発明によるいずれかの作用効果を奏するヤーンにより、シール性に優れるグランドパッキンを作成して得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に、本発明によるヤーンの製造方法、そのための設備であるヤーンの製造装置、前記製造方法によって製造されたヤーン、並びにそのヤーンを用いて作成されるグランドパッキンの実施の形態を、図面を参照しながら説明する。図1〜図4はヤーンの製造装置とそれによる製造方法を示す各図、図5はヤーンにおける膨張黒鉛材の配列状態を示す模式図、図6は、図5のヤーンを用いて作成されたグランドパッキンを示す図、図7は膨張黒鉛材の断面寸法を示す拡大図、図8,9は膨張黒鉛材の縦横比と曲げ半径との関係データを示す図、図10はグランドパッキンの使用例を示す図、図11は種々のヤーンの伸びに関するデータ表を示す図、図12は切断作動等に関するタイムチャート図である。
【0020】
図1に本発明によるヤーンの製造方法を実施するための製造装置Aの概略構成が示されている。この製造装置Aは、繊維材2を編む又は組むことによって成る筒状部材3内に膨張黒鉛を充填して成るヤーン1を製造するものであって、所定の幅を有する膨張黒鉛シート9を連続供給可能な膨張黒鉛供給機構aと、膨張黒鉛供給機構aから供給されてくる膨張黒鉛シート9を細断機構cに向けて搬送する搬送機構bと、搬送機構bによって搬送されてくる膨張黒鉛シート9を、その幅方向に沿って連続的に小幅に切断自在な細断機構cと、細断機構cによって作成された短冊状の膨張黒鉛材(膨張黒鉛繊維)4を筒状部材3内に案内供給する案内供給機構dと、複数の繊維材2を編組して筒状部材3を作成して行く編み機eと、を有して構成されている。
【0021】
膨張黒鉛供給機構aは、帯状の膨張黒鉛シート9を巻回装備自在なリール10を、軸心P周りに正逆いずれの方向にも回転自在に設けて構成されている。これにより、図1に示す矢印イ方向へのリール10の回転により、これに巻回される膨張黒鉛シート9を巻き解して取出して連続供給することが自在となっている。
【0022】
搬送機構bは、膨張黒鉛供給機構aから供給されてくる膨張黒鉛シート9を上下一対のローラ11,12で挟持するとともに、それら両ローラ11,12のうちの少なくとも一方11を搬送駆動部13によって駆動回転させる構造によって構成されている。つまり、膨張黒鉛シート9を水平方向に横移送させるものであって、リール10は、搬送機構bによる膨張黒鉛シート9の強制搬送によって追従回転し、膨張黒鉛シート9を巻き解すようになっている。
【0023】
細断機構cは、水平方向に搬送されて来る膨張黒鉛シート9の幅方向に延びる切断刃14と、これを膨張黒鉛シート9のシート面9aに対する上下方向に往復移動させる細断駆動部15と、切断刃14と対を為す受台16とを設けて構成されている。図3や図4における21,22は、膨張黒鉛シート9や膨張黒鉛材4をガイドするために受台16と対を為す押え片である。代切断刃14は、シート面9aに対して角度が付いた刃先14aを有するもの(所謂ギロチンカッター)に形成されており、下降移動することによって膨張黒鉛シート9をその幅方向の一端から他端に架けて順次切断するように構成されている。尚、切断刃14を上下方向に往復移動させる細断駆動部15は公知の種々の構造が選択設定されるものであり、その詳細は割愛する。
【0024】
案内供給機構dは、細断機構cの終端部に大径の上端開口部17aが配置され、かつ、上下向き姿勢に配される筒状部材の上端部に小径の下端開口部17bが配置される上下向き姿勢の漏斗17を設けて構成されている。つまり、案内供給機構dは、細断機構cによって作成された小幅で短冊状の膨張黒鉛材4が、すり鉢状に傾斜した漏斗内面17cに落下して当接することで、横臥姿勢から上下向き姿勢に姿勢変更されながら、その切断順に筒状部材3内に案内供給されるように作用するものであり、複数の膨張黒鉛材4が、互いの端部位置が筒状部材3の長手方向、即ち上下方向に所定量位置ずれされた状態で筒状部材3内に供給されるように構成されている。
【0025】
筒状部材3は、編み機eによって編組されて下方に延びるように作成されるものであり、その編み機eに下端開口部17bが挿入配備されることにより、順次作成される筒状部材3内に膨張黒鉛材4が充填されてヤーン1が作成されるように構成されている。また、搬送機構b、細断機構c、及び編み機eの駆動状態を制御する制御装置18、並びに、膨張黒鉛材4の幅寸法を設定する幅設定手段(調節設定手段の一例)19、膨張黒鉛材4どうしの端部のずれ量を設定するずれ量設定手段(調節設定手段の一例)20が制御装置18を設けて駆動制御部Lが構成されている。
【0026】
ここで、製造装置Aによるヤーンの製造方法は、搬送工程hと細断工程sと供給充填工程kとを経てヤーン1が製造されるものとなっている。搬送工程hは、搬送駆動部13を駆動させて膨張黒鉛シート9を挟持している一対のローラ11,12を駆動回転させ、それに伴ってリール10が追従回転して巻回されている膨張黒鉛シート9が巻き解されるものであり、ローラ11,12の回転速度を制御することによって細断機構cへの膨張黒鉛シート9の搬送速度V(図3等を参照)を任意に制御することが可能である。
【0027】
細断工程sは、所定の幅を有した状態で連続供給されて来る膨張黒鉛シート9を、その幅方向に沿って小幅に連続して切断する工程である。具体的には、細断駆動部15を駆動して切断刃14を下降切断移動及び上昇復帰移動を繰返し行うこと(切断刃14を膨張黒鉛シート9のシート面9aに対する上下方向に往復移動させること)により、搬送されてくる膨張黒鉛シート9を所定の小幅wを有した短冊状の膨張黒鉛材4に細断する機能を担っている。切断された膨張黒鉛材4は直下に配備されている漏斗17内に落下して行くこととなる。なお、「連続的に小幅に切断」とは、細断機構cが停止することなく動き続けることによって切断刃14で順次膨張黒鉛シート9を細断することの意であり、その駆動速度を増減変更することによって前記小幅wを任意に増減することができる。これは、細断機構cの構造上、切断される側である膨張黒鉛シート9を基準にすると、「断続的に小幅に切断」という言い方で定義することも可能である。
【0028】
供給充填工程kは、細断工程sによって作成される短冊状の膨張黒鉛材4を筒状部材3内に案内供給して充填させる工程である。具体的には、図1,図2に示すように、細断工程sを経て落下供給されて来る膨張黒鉛材4を、漏斗内面17cで受止めて下端開口部17bに案内することにより、横臥姿勢を上下向き姿勢に変えてから筒状部材3に供給する機能を発揮する工程であり、その供給順に筒状部材3内に落下案内供給させることにより、隣合う膨張黒鉛材4,4どうしには、互いの端部位置が上下方向に(筒状部材3の長手方向に)所定量Dだけ位置ずれさせた状態で筒状部材3内に供給するようになっている。
【0029】
ヤーンの製造装置A(製造方法)による以上の工程により、リール10に巻回されている膨張黒鉛シート9を小幅で短冊状の膨張黒鉛材4に細断し、その細断によって作成される多数の膨張黒鉛材4を、編み機eで作成されつつある筒状部材3内に漏斗17を用いて充填することにより、繊維材2の編組によって成る筒状部材3内に膨張黒鉛を充填して成るヤーン1を製造することができるのである。次に、ヤーン1の実施例、並びに製造装置Aの制御について説明する。
【0030】
まず、図3(a)に示すように、切断刃14が上昇するとともに搬送機構bの駆動が再開され、それまで停止していた膨張黒鉛シート9が速度V(単位:mm/秒)で搬送され始める。そして、図3(b)に示すように、黒鉛幅設定手段20によって設定された距離wだけ搬送されると、搬送機構bが停止される。このとき、既に細断されて膨張黒鉛シート9の先端に存在する膨張黒鉛材4aは、速度Vでもって水平方向に押し出されて飛び始める。尚、ここでは説明の便宜上、この最初に切断された膨張黒鉛材4を第1膨張黒鉛材4aから順次、第2,第3膨張黒鉛材4b,4cと呼ぶものとし、また、第1膨張黒鉛材4aの前に既に作成されているものは第0膨張黒鉛材4zと呼ぶものとする。また、図3,4において、ローラ11,12の軸部11a,12aが白抜きで描かれているのは回転している状態を、そして黒塗りの状態で描かれているのは回転が停止している状態をそれぞれ示すものとする。
【0031】
次いで、図3(c)に示すように、切断機構cが駆動され、上昇待機位置にある切断刃14が下降移動して膨張黒鉛シート9の先端部を幅wでもって細断(切断)し、次の膨張黒鉛材4bを作成する。このとき、速度Vで飛び出した膨張黒鉛材4aは、重力加速度Gによってやや下降しながらも水平距離W分は飛散した状態にある。つまり、切断刃14による切断から次の切断までの待機時間(タイムラグ)をT(単位:秒)とすれば、その間における膨張黒鉛材4aの飛散距離W=VTであり、これが膨張黒鉛材の製造工程において隣合う膨張黒鉛材4a,4bどうしの水平方向の間隔である。但し、切断刃14による切断作用は一瞬(時間0)のうちに行われるものと仮定して検討してある。
【0032】
図4(a)は、第2膨張黒鉛材4bの膨張黒鉛シート9による押し出しが完了して単独で飛び出ようとするときの状態を示している。この状態では、第1膨張黒鉛材4aは図3(c)に示す状態から若干移動しており、第2膨張黒鉛材4bとの水平方向の間隔は、前述の飛散距離Wである。そして、次に細断作用されて第3膨張黒鉛材4cが作成されたときには、図4(b)に示すように、第2膨張黒鉛材4bと第3膨張黒鉛材4cとの水平方向の間隔はWであり、そのとき漏斗17の内面17cに沿って滑落移動する第1膨張黒鉛材4aと、その前に既に作成されている第0膨張黒鉛材4zとの端部どうしの「ずれ量」はDであり、D=αW(=αVT)である。
【0033】
αは係数であり、この係数αは、水平方向の間隔Wを筒状部材3内における上下方向のずれ量に換算するためのものであり、案内供給機構d等のシステムの仕様によって決定される要素である。この場合のように水平方向の距離Wは、切断位置と筒状部材3との高さに応じた重力加速度による間隔の増幅作用や、漏斗内面17cを滑落する摩擦抵抗等の種々の要因によって係数αが決まるのであるが、その詳細については割愛する。実際のずれ量Dは、後述するように20〜30mmや、それ以外の値に設定される。
【0034】
隣合う膨張黒鉛材どうしの水平方向の間隔Wは、即ち、ずれ量Dは、膨張黒鉛シート9の搬送速度V、及び切断刃14の待機時間T[およそ図3(b)の状態から図4(a)の状態までの時間であり、正確には図12を参照]によって定まるものであり、例えば、搬送速度Vが速く、かつ、待機時間Tが長い場合は「ずれ量D」は大きくなり、搬送速度Vが遅く、かつ、待機時間Tが短い場合は「ずれ量D」は小さくなる。また、搬送速度Vが速く、かつ、待機時間Tが短い場合や、搬送速度Vが遅く、かつ、待機時間Tが長い場合も考えられ、これら両者の調節如何によって、即ち、ずれ量設定手段20によってずれ量Dを任意に可変設定することが可能である。
【0035】
待機時間Tの開始直前の時間帯である送り時間Th[図3(a)の状態から、図3(b)の状態に移行するに要する時間であり、正確には図12を参照]に、搬送速度Vを乗じたもの(VTh)が膨張黒鉛材4の幅wであり、この送り時間Th及び、搬送速度Vが幅設定手段19によって設定され、それによって膨張黒鉛材4の幅wが決まるのである。但し、搬送速度Vは、幅設定手段19とずれ量設定手段20との双方で設定可能であるため、例えば、いずれか先に操作された方の設定速度が優先設定される、といった具合に条件設定しておくと良い。
【0036】
参考として、図12に細断機構cによる細断作用の概略のタイムチャートを示しておく。図12においては、ある切断時を基点として搬送機構bと切断機構cの駆動及び停止に関する作動順序を経時的に表したものであり、前述したように切断作用は時間を要せず瞬間的に作動するものとして描いてある。このタイムチャートから分るように、搬送速度Vを固定した場合、膨張黒鉛材4の幅wは送り時間Thに、そしてずれ量Dは待機時間Tによって決定される。
【0037】
次に、上述したヤーンの製造方法によって製造されるヤーン1の形状や特性、及び幾つかの実施例、並びにそのヤーン1を用いて作成されるグランドパッキン5(G)について説明する。
【0038】
上述の製造装置Aによる製造方法によって製造されたグランドパッキン用のヤーン(編み糸)1は、図1,2,5に示すように、繊維材2を編む又は組むことによって成る筒状部材3内に、短冊状の膨張黒鉛材4の多数が、互いの端部位置を膨張黒鉛材長手方向に所定量Dでもって位置ずれさせた状態で充填されて形成されている。そして、膨張黒鉛材4の断面形状は、幅を厚みで除した値である縦横比hが1〜5(1≦h≦5)に設定されているのが望ましい。この縦横比hは、図7に示すように、膨張黒鉛材4の断面寸法における幅wを厚みtで除した(割った)値(h=w/t)である。尚、膨張黒鉛材4の断面形状は、例えば、円形、長円形や楕円径等、矩形以外の形状でも良い。
【0039】
例えば、図2に示すように、上下向きに配された筒状部材3の内部に、端部位置がDだけ上下方向にずらした状態で膨張黒鉛材4を投入してゆくことにより、図5にも示すように、筒状部材3内において、互いの端部位置がDずれた状態で多数の膨張黒鉛材4が、充填される状態のヤーン1が形成される。この場合、図5に示すように、ヤーン長手方向で隣合う膨張黒鉛材4どうしの間である途切れ部fは、互いにDずつ位置ずれすることになり、ヤーン長手方向におけるある箇所に多数の途切れ部fが集中して、その部分のヤーン1の機械的強度が落ちるということが生じ難い又は生じないという利点がある。尚、便宜上、図5においては途切れ部fを誇張して描いてある。
【0040】
図8及び図9においては、膨張黒鉛材4の厚みtが、0.25mm、0.38mm、0.50mmの3種類について、縦横比hが1.5,2,3,4,5の5種類の計15通りのサンプル(ヤーン1)について、横方向の曲げ可能半径を測定してデータを取ったものである。この場合の「曲げ可能半径」とは、膨張黒鉛材4の切断、割れ、外装繊維材2の間からの食み出しが生じない正常な状態で曲げうる最小径のことである。膨張黒鉛材4の厚みtが0.25mmのものは小径グランドパッキン用のヤーンに、0.38mmのものは普及型のグランドパッキン用ヤーンに、そして0.50mmのものは大径グランドパッキン用のヤーンにそれぞれ適している、という使用形態が考えられる。
【0041】
しかして図8の表や図9のグラフから分るように、膨張黒鉛材4の縦横比hが5以下になると実用に耐え得る最小曲げ半径値が得られるものであり、縦横比hが3以下になると、最小曲げ半径が極端に小さくなることが伺える。従って、縦横比hの範囲は、好ましくは1.0〜3.0の範囲(1.0≦h≦3.0)に設定されるのが望ましい。hが1であるとは、厚さが0.25mmの場合には幅も0.25mmとなり、物理的に切断するのが困難になるから、切断作業の実情から、縦横比hの下限を1に設定するのが現実的であると思われる。尚、図8,9の実験データからは、縦横比hが1.5〜3.0の範囲のヤーン1が良い。
【0042】
図6に示すグランドパッキン5は、上述のヤーン1の8本(複数本の一例)を芯材Sの周りに(芯材Sが無くても良い)集束してひねり加工又は編組(8打角編等)して紐状に構成されたものであり、これを連続して丸めて圧縮成形することにより、断面が矩形で全体形状がドーナツ型のリング形のグランドパッキンGとすることができる。例えば、図10に示すように、グランドパッキンGは、回転軸6の軸方向に複数個並ぶ状態でパッキンボックス7に装備され、かつ、パッキン蓋8によって軸方向に押圧されることにより、回転軸6の外周面6aに対してシール作用するように用いられる。
【0043】
〔ヤーンの実施例1〕
実施例1によるヤーンは、前述の製造方法を用いて次のように作成される。繊維材2として直径0.1mm程度のインコネル線(又はステンレス線等)を用いて編組(ニット編)によって成る筒状部材3内に、厚さ(t)0.38mm×幅(w)1.0mmの矩形断面形状を為し、かつ、長さが200mm前後の膨張黒鉛材4の多数を、それらの端部の位置を20mmずらしながら入れ込んで充填させ、断面形状が円形(丸型)のヤーン1とした。つまり、膨張黒鉛材4,4どうしの端部のずれ量D=20mmに設定した例である。この実施例1による第1ヤーン1における膨張黒鉛材4の縦横比hは、h=1.0/0.38≒2.63であり、また、重量は5g/mであった。
【0044】
図3に、実施例1のヤーン1を用いて成るグランドパッキン5が示されている。このグランドパッキン5は、実施例1のヤーン1を8本用いて編組(8打角編等)した後に、表面に膨張黒鉛を塗布し、断面が縦8mmで横8mmの正方形を呈するグランドパッキン5を製作した。
【0045】
〔ヤーンの実施例2〕
実施例2によるヤーンは、前述の製造方法を用いて次のようにして作成される。断面サイズが厚さ0.38mmで、幅1.0mm、長さ200mmの膨張黒鉛材4を、その端部を30mmずつずらしながら収束させて長尺品とし、その外周を線径0.1mmのインコネル線による繊維材2を用いてニット編みして成る筒状部材3で被覆し、断面形状が円形(丸型)のヤーン1を製作した。つまり、膨張黒鉛材4,4どうしの端部のずれ量D=30mmに設定した例である。この実施例2による第2ヤーン1における膨張黒鉛材4の縦横比hは、h=1.0/0.38≒2.63であり、また、重量は4g/mであった。
【0046】
この実施例2によるヤーン1を8本用いて編組してから、表面に膨張黒鉛を塗布し、断面が縦6.5mmで横6.5mmの正方形を呈するグランドパッキン5を製作した(図3参照)。
【0047】
図11に、上記実施例1,2のヤーンと、従来構造による従来品1〜5のヤーンとの特性比較表を示す。従来品の概略構成は次の通りである。従来品1のヤーンは、細幅の膨張黒鉛シートの複数枚を積層して、その外周を繊維で補強する構造のものである。従来品2のヤーンは、広幅の膨張黒鉛テープを折畳んで成る紐状体の外周を繊維で補強する構造のものである。従来品3のヤーンは、繊維で補強された広幅の膨張黒鉛テープを折畳み又は加熱する構造のものである。従来品4のヤーンは、従来品3のヤーンの外周をさらに繊維で補強する構造のものである。従来品5のヤーンは、繊維で形成した筒状部材内に短冊状の膨張黒鉛シートを充填する構造のものである。
【0048】
図11の特性比較表から、実施例1,2のヤーン1の伸びは、従来品1〜5のいずれのものよりも明確に優れており、レベルの高いものとなっていることが理解できる。この伸びの大幅な改善により、グランドパッキンを作成すべく複数のヤーン1による編組時に、膨張黒鉛材4が曲り具合に追従できずに切れてしまう不都合が解消されるので、グランドパッキンとしてのシール性低下が生ぜず、良好なシール性能を長期に亘って発揮することが可能となるのである。
【0049】
即ち、従来品のヤーンでは、膨張黒鉛(膨張黒鉛シート、膨張黒鉛テープ)が筒状部材内にランダムに投入されて充填されているので、ヤーン長手方向で隣合う膨張黒鉛どうしの間である途切れ部(図5の途切れ部fを参照)が偏って存在することとなり、中には1箇所に途切れ部が集中配置されてしまう等、膨張黒鉛のヤーンの長手方向位置における密度が不均一になり易く、それによって機械的な伸びも不均一になり易い。従って、ヤーンを捩ったり曲げたりした場合には、伸びが劣る部位において比較的容易く膨張黒鉛が切れてしまう不都合が生じて胃いたと考えられる。
【0050】
これに対して実施例1,2によるヤーン1においては、筒状部材3内に充填される多数の短冊状の膨張黒鉛材を均等的に端部位置をヤーン長手方向にずらす構成としてあるので、前述のように途切れ部fの箇所がヤーン1としての長手方向に(横方向にも)均等的に分散配置されることになり、筒状部材3内における膨張黒鉛材4の密度がより一層均一化することができる。その結果、膨張黒鉛どうしの滑りによる伸びへの対応がヤーン長手方向の位置如何に拘らずに均一化されて実質的に改善されることとなり(図11参照)、膨張黒鉛が切れてしまうことなくヤーン1のひねり加工や編組を行うことが可能になる。
【0051】
以上より、実施例1,2によるヤーン1、及びそれによるグランドパッキン5には次のような利点もある。1.膨張黒鉛材の収束本数を変更することで、任意の太さのヤーンを製作することが可能である。2.膨張黒鉛材どうしの滑りが良く、そのために膨張黒鉛が切れることがないと共に伸びも大きい。3.繊維束は容易に断面が変形して丸形になるので、補強材との密着性が良く、かつ、曲げ易い。4.長尺の材料を使用しないので、生産が容易である。5.接着剤無しでヤーンを製作することが可能である。
【0052】
〔別実施例〕
細断工程sを行うための細断機構cは、要は膨張黒鉛シート9をその幅方向に沿って切断する構造のものなら良く、従って切断刃14を用いる図示の構造以外のものでも良い。また、搬送工程hを行うための搬送機構bや、供給充填工程kを行うための案内供給機構dは、図示以外の構造によるものでも良い。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】ヤーンの製造方法を示す概略の模式図
【図2】案内供給機構による「ずれ量」の形成状況の全体を示す作用図
【図3】(a)〜(c)は、ずれ量の形成状況の前半部を示す作用図
【図4】(a),(b)は、ずれ量の形成状況の後半部を示す作用図
【図5】ヤーン内部における膨張黒鉛材の配列状況示す模式図
【図6】図2のヤーンの編組によるグランドパッキンを示す斜視図
【図7】膨張黒鉛材の断面形状及び寸法比率を示す説明図
【図8】膨張黒鉛材の幅/厚みの比率と最小曲げ半径との対比表を示す図
【図9】膨張黒鉛材の幅/厚みの比率と最小曲げ半径との関係グラフを示す図
【図10】グランドパッキンの使用例を示す要部の断面図
【図11】ヤーンの従来品と本発明品との伸びに関する特性比較表を示す図
【図12】搬送機構及び細断機構の概略の作動タイムチャートを示す図
【符号の説明】
【0054】
1 ヤーン
2 繊維材
3 筒状部材
4 膨張黒鉛材
5 グランドパッキン
9 膨張黒鉛シート
9a シート面
14 切断刃
17 漏斗
k 供給充填工程
s 細断工程
A ヤーンの製造装置
T 待機時間
V 膨張黒鉛シートの供給速度
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維材を編む又は組むことによって成る筒状部材内に膨張黒鉛を充填して成るヤーンの製造方法であって、
所定の幅を有した状態で連続供給されて来る膨張黒鉛シートを、その幅方向に沿って小幅に切断する細断工程と、この細断工程によって作成される短冊状の膨張黒鉛材を前記筒状部材内に案内供給して充填させる供給充填工程と、を有するヤーンの製造方法。
【請求項2】
前記細断工程においては、前記幅方向に延びる切断刃を前記膨張黒鉛シートのシート面に対する上下方向に往復移動させることにより、前記膨張黒鉛シートを連続的に切断して前記短冊状の膨張黒鉛材を作成する請求項1に記載のヤーンの製造方法。
【請求項3】
前記供給充填工程においては、前記細断工程を経て供給されてくる短冊状の膨張黒鉛材を、漏斗を用いて前記筒状部材内に落下案内供給させる請求項1又は2に記載のヤーンの製造方法。
【請求項4】
前記供給充填工程においては、前記細断工程を経て供給されて来る前記膨張黒鉛材をその供給順に前記筒状部材内に落下案内供給させることにより、複数の前記膨張黒鉛材を、互いの端部位置を筒状部材の長手方向に所定量位置ずれさせた状態で前記筒状部材内に供給する請求項1〜3の何れか一項に記載のヤーンの製造方法。
【請求項5】
前記細断工程への前記膨張黒鉛シートの供給速度と、前記膨張黒鉛シートの切断作動から次の切断作動迄の間の待機時間との少なくとも一方を可変調節することにより、前記膨張黒鉛材の幅寸法、並びに前記端部位置のずれ量の少なくとも一方を可変調節設定する請求項4に記載のヤーンの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか一項に記載のヤーンの製造方法によって製造されたヤーンの複数本を集束してひねり加工又は編組して紐状に構成されるグランドパッキン。
【請求項1】
繊維材を編む又は組むことによって成る筒状部材内に膨張黒鉛を充填して成るヤーンの製造方法であって、
所定の幅を有した状態で連続供給されて来る膨張黒鉛シートを、その幅方向に沿って小幅に切断する細断工程と、この細断工程によって作成される短冊状の膨張黒鉛材を前記筒状部材内に案内供給して充填させる供給充填工程と、を有するヤーンの製造方法。
【請求項2】
前記細断工程においては、前記幅方向に延びる切断刃を前記膨張黒鉛シートのシート面に対する上下方向に往復移動させることにより、前記膨張黒鉛シートを連続的に切断して前記短冊状の膨張黒鉛材を作成する請求項1に記載のヤーンの製造方法。
【請求項3】
前記供給充填工程においては、前記細断工程を経て供給されてくる短冊状の膨張黒鉛材を、漏斗を用いて前記筒状部材内に落下案内供給させる請求項1又は2に記載のヤーンの製造方法。
【請求項4】
前記供給充填工程においては、前記細断工程を経て供給されて来る前記膨張黒鉛材をその供給順に前記筒状部材内に落下案内供給させることにより、複数の前記膨張黒鉛材を、互いの端部位置を筒状部材の長手方向に所定量位置ずれさせた状態で前記筒状部材内に供給する請求項1〜3の何れか一項に記載のヤーンの製造方法。
【請求項5】
前記細断工程への前記膨張黒鉛シートの供給速度と、前記膨張黒鉛シートの切断作動から次の切断作動迄の間の待機時間との少なくとも一方を可変調節することにより、前記膨張黒鉛材の幅寸法、並びに前記端部位置のずれ量の少なくとも一方を可変調節設定する請求項4に記載のヤーンの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか一項に記載のヤーンの製造方法によって製造されたヤーンの複数本を集束してひねり加工又は編組して紐状に構成されるグランドパッキン。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2007−191803(P2007−191803A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−8564(P2006−8564)
【出願日】平成18年1月17日(2006.1.17)
【出願人】(000229737)日本ピラー工業株式会社 (337)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年1月17日(2006.1.17)
【出願人】(000229737)日本ピラー工業株式会社 (337)
【Fターム(参考)】
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