説明

ヨーグルト様飲食品の製造法

【課題】
米を乳酸菌で発酵させ、牛乳のヨーグルトのようにように爽やかな発酵風味と米のほのかな甘みとのバランスが非常に調和し、美味なヨーグルト様飲食品を得る。
【解決手段】
α化米及び澱粉加水分解酵素を水に分散させた原料液を75℃未満に制御し澱粉加水分解酵素を作用させる澱粉加水分解工程と、前記澱粉加水分解工程において生成する糖に乳酸菌を作用させる発酵工程を含むことを特徴とするヨーグルト様飲食品の製造法。
なし。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物性原料である米を主体とし、牛乳のヨーグルトの様な良好な発酵風味を有するヨーグルト様飲食品の製造法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、健康ブームを背景に、栄養価が高く、且つ低脂肪・低カロリーである飲食品へのニーズが高まっている。そして近年、大豆や穀物を植物性原料を乳酸菌で発酵させてヨーグルト様の発酵飲食品が開発されている。そのような中、米はエネルギー源となる炭水化物をはじめ、たん白質、ビタミン、ミネラルなどの栄養価に富み、低脂肪・低カロリー飲食品であることから、その飲食品としての価値が再び見直されてきている。一方、米は日本人の主食であるにも関わらず、その消費量は近年減少を続けており、米飯による摂取以外にも、手軽に摂取できるような米加工飲食品の開発が期待されている。このような目的のために、従来にも幾つかの試みがなされている。
【0003】
特許文献1、2には、米に水を加えて加熱処理することにより澱粉をα化させ、得られた澱粉溶液にアミラーゼ(糖化酵素)と乳酸菌を作用させることにより、ヨーグルト風のさわやかな酸味を有する乳酸菌飲料が得られることが記載されている。
【0004】
特許文献3には、α化処理した玄米粉末に水を加え、糊液を調製し、これにα−アミラーゼを添加し、80℃前後に約30分間加熱し、最後に軽く沸騰させて殺菌し、冷却後に乳酸菌を作用させることにより、優れた飲食適性と体内吸収適性を有する玄米乳酸発酵飲食物が得られることが記載されている。
【0005】
(参考文献)
【特許文献1】特公昭61−53008号公報
【特許文献2】特開昭56−11783号公報
【特許文献3】特開昭56−148237号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1〜3で得られる米の発酵飲食品はある程度ヨーグルト的な風味を呈するものの、牛乳のヨーグルトのように爽やかな発酵風味と米のほのかな甘みとのバランスが十分に調和されているとは言えず、舌になじみにくいものであった。
そこで、本発明者らはかかる欠点を改良し、優れた品質のヨーグルト様飲食品を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は前記課題を解決すべく鋭意研究するなかで、米として予めα化処理された米を使用すること、そしてα化米と澱粉加水分解酵素の反応を75℃未満に制御しつつ行うことにより、前記課題を解決できる知見を得た。
【0008】
すなわち本発明は、
1.α化米及び澱粉加水分解酵素を水に分散させた原料液を75℃未満に制御しつつ澱粉加水分解酵素を作用させる澱粉加水分解工程と、前記澱粉加水分解工程において生成する糖に乳酸菌を作用させる発酵工程を含むことを特徴とするヨーグルト様飲食品の製造法、
2.澱粉加水分解酵素がα−アミラーゼである前記1.記載のヨーグルト様飲食品の製造法、
3.澱粉加水分解酵素として、非耐熱性アミラーゼを使用する前記1.記載のヨーグルト様飲食品の製造法、
4.原料として黒米、赤米、玄米、きび、小豆、黒大豆、あわ、とうもろこし、はと麦、大麦、アマランサス、黒ごま、白ごま、そば及びひえからなる群より選択される1以上を使用する前記1.記載のヨーグルト様飲食品の製造法、
5.原料として豆乳を使用する前記1.記載のヨーグルト様飲食品の製造法、である。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、牛乳のヨーグルトのように爽やかな発酵風味と米由来のほのかな甘みとのバランスが上手く調和した、美味なヨーグルト様飲食品を得ることが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の発酵飲食品の製造法は、α化米及び澱粉加水分解酵素を水に分散させた原料液を75℃未満に制御し澱粉加水分解酵素を作用させる澱粉加水分解工程と、前記澱粉加水分解工程において生成する糖に乳酸菌を作用させる発酵工程を含むことを特徴とするものである。以下、具体的に説明する。
【0011】
(澱粉加水分解工程)
本発明はまず乳酸菌が発酵するのに必要な糖を生成させるため、米に澱粉加水分解酵素を作用させる澱粉加水分解工程を経ることが必要である。そして本発明における澱粉加水分解工程は、α化米及び澱粉加水分解酵素を水に分散させた原料液を75℃未満に制御し澱粉加水分解酵素を作用させることを骨子とする。
【0012】
本発明において使用する米は産地や種類、精製度は特に限定されるものではない。例えば精製度については白米から胚芽米、あるいは玄米までいかなる程度のものも使用できる。また種類も既存の全ての白米を使用することができ、さらには黒米や赤米などの有色米も使用することができる。このように乳酸菌の発酵原料として米を使用した場合、癖がなく爽やかなヨーグルト様の発酵風味と米のほのかな甘味によって風味のバランスが非常に良好なヨーグルト様飲食品を得ることができる。
【0013】
本発明は、上記に例示される米を予めα化処理したα化米を発酵原料として使用することが重要である。α化米は例えば、未糊化の米又は米粉に加水し、米の澱粉がα化するに十分な温度と時間で加熱してα化した後、これを必要により乾燥・粉砕することによって得ることができる。かかるα化米は市販品を利用することもできる。α化米の形状は米粒をそのままα化した米飯の粒状であっても良いが、これを乾燥し、粉砕した粉状のものが好ましい。
仮に予めα化していない未糊化の米を直接発酵原料として使用した場合、第一段階としてある程度の高温で時間をかけて加熱処理を行わなければα化しないため、澱粉分解酵素を作用させるには必ず原料液を高温でα化するに十分な時間加熱する工程が必須となる。この場合、原料液の加熱履歴が大きくなってしまうためか、レトルト加熱を行ったときのようなムレ臭を生じやすく、牛乳のヨーグルトのような爽やかな発酵風味に悪影響を与え、米由来の甘味とのバランスも崩れ、美味しいヨーグルト様飲食品を得難くなる。
【0014】
上記α化米のヨーグルト様飲食品への配合量は特に限定されず、製造者の規定する品質に応じて適宜設定すればよいが、米由来の甘味と風味を十分に付与されたより風味バランスの良好な品質を得るには、食品中10重量%以上、好ましくは15重量%以上配合することが適当である。ちなみに未糊化の米を食品中にこの程度使用するとα化させる際に非常に粘度が上昇して製造効率が極端に低下し、もはや大量生産ラインでの製造が極めて困難となる。この点においても最初からα化処理した米を使用することは有意義である。
ただし、α化米を使用しても配合量が高くなりすぎるとやはり発酵原料の粘度が高くなり製造時の作業性が悪化してしまったり、澱粉を加水分解するのに長時間を要してしまうなど、製造効率に影響が出る場合があるため、通常は上限を50重量%以下としておくのが望ましい。
【0015】
本発明の原料としてはα化米以外に種々の植物性原料を使用することができる。例えば、穀類、芋類、豆類、種実類などを使用できる。具体的には、穀類としてはあわ、えん麦、大麦、きび、小麦、そば、とうもろこし、はと麦、ひえ、もろこし、アマランサス、ライ麦などが挙げられ、α化米以外に別途未糊化の米を使用してもよい。芋類としては里芋、やまのいも、菊芋、サツマイモ、ジャガイモなどが挙げられ、豆類としては小豆、大豆、黒大豆、いんげん豆、えんどう豆、ささげ、空豆、たけあずき、ひよこ豆、紅花いんげん、ライ豆、緑豆、レンズ豆などが挙げられ、種実類としては栗、黒ごま、白ごま、カボチャなどが挙げられる。これらを1種又は2種以上使用することにより、米単独で発酵するよりもより厚味のある豊かな風味をヨーグルト様飲食品に付与することがでる。
特に、黒米、赤米、玄米、きび、小豆、黒豆、あわ、とうもろこし、はと麦、大麦、アマランス、黒ごま、白ごま、そば及びひえからなる群より選択される1以上の原料を併用することがより好ましく、15穀原料としてこれら全てを併用することもできる。
【0016】
本発明の澱粉加水分解酵素として、種々の澱粉液化酵素及び/又は澱粉糖化酵素を使用することができる。澱粉液化酵素とは、通常α−アミラーゼ(α−1,4-Glucan-4-Glucanohydrase)のことであり、液化型アミラーゼ又は糊精化アミラーゼと呼ばれ、糊化澱粉(アミロース及びアミロペクチン)やグリコーゲン等のα−1,4グルコシド結合を任意の位置で加水分解する。分解生成物として可溶性デキストリン、β−リミットデキストリン及びオリゴ糖と少量のマルトース及びグルコースを生じると共に、溶液の粘度を急激に低下させる。又、澱粉糖化酵素とは、エキソ−1,4−α−グルコシダーゼ、即ち、グルコアミラーゼであり、澱粉やオリゴ糖のα−1,4結合に作用し、非還元末端からグルコース単位に切断する。また、分岐点α−1,6結合にも作用し、澱粉、デキストリンを殆ど完全にグルコースに分解する。例えば、澱粉液化酵素としては、「アミラーゼAD『アマノ』1」、「ビオザイムA」、「ビオザイムF10SD」(天野エンザイム社製)、「クライスターゼL1」、「クライスターゼP8」、「クライスターゼT10S」(大和化成社製)等を挙げることが出来る。
一方、澱粉糖化酵素とは、通常グルコアミラーゼのことであり、「グルクザイムAF−6」、「グルクザイムNL4.2」(天野エンザイム社製)、ダイザイム(大和化成社製)等を挙げることが出来る。
また、上記のような酵素剤の代わりに澱粉加水分解酵素を有する麹菌などの微生物を配合することもできる。
【0017】
本発明で使用する澱粉加水分解酵素の夫々の添加量及びそれらの割合は、目的とする澱粉の加水分解が十分に行うことができる程度に調整することができ、使用する実際の各酵素製品の種類や、他の製造工程条件等に応じて当業者が適宜選択することができるが、例えばα化米100g当たり、好ましくは500〜50,000ユニット、より好ましくは2,000〜2,0000ユニットとすることができる。
【0018】
上記のα化米及び澱粉加水分解酵素を水に分散させた原料液の調製方法は特に限定されず、これらの原料をいずれの順序で水に分散させても良い。特に本発明ではα化米が水に溶解して粘度の高い糊液状となる前に澱粉加水分解酵素による反応が開始されるよう添加することが好ましい。すなわち、澱粉加水分解酵素を予め水に溶解させた溶液中にα化米を分散させるか、あるいは、澱粉分解酵素とα化米を略同時に分散させる方法が好ましい。これによってα化された澱粉が糊状となって粘度が上昇し、製造効率が下がるのを防止することができる。略同時とは文字通りα化米と酵素を同時に添加する場合だけでなく、多少の時間差があっても前述の通り原料液が粘度の高い糊状とならない程度に酵素の添加が後になってもよいことを意味する。そのような粘度は特段規定されるものではないが、通常は1000mPa・s以下であれば良好な製造効率を維持することができる。α化米を添加し、澱粉加水分解酵素を添加するまでにあまりに時間を置きすぎると原料液の粘度が上昇し、製造効率が低下する。
【0019】
本発明の澱粉加水分解工程においては、原料液を75℃以下、好ましくは35〜65℃の温度に制御しつつ作用させることが重要である。そして、澱粉加水分解工程において常にこの温度域を超えないことが望ましい。こうして原料液の加熱履歴を少なくすることによって発酵工程後に生ずる牛乳のヨーグルトのような爽やかな発酵風味を引き出すことが可能である。
【0020】
上記の温度域を超える温度にて澱粉分解酵素を作用させると、原料液の加熱履歴が大きくなるためか、ムレ臭が発生して牛乳のヨーグルトのような爽やかな発酵風味を得にくくなり、米粉質原料の甘みとのバランスも崩れる傾向となる。また製造タンク内の原料液の粘度がα化した澱粉により急激に上昇し、次の製造ラインへの送液が困難となる上、製造タンクの壁面や底面への原料液の付着量が多くなって収量のロスが多くなってしまう。また、特に限定はされないが原料液の温度が低すぎると澱粉の加水分解が遅れる傾向にあるため、効率的な反応をさせたい場合には35℃以上に温度を制御することが好ましい。
【0021】
さらに、本発明に使用する澱粉加水分解酵素はまた至適温度が80℃以下の非耐熱性酵素であることが好ましく、特に至適温度が65℃以下の非耐熱性酵素を使用することが好ましい。ここで「至適温度」は酵素活性が最も高くなる温度をいう。使用する酵素の至適温度が80℃以下であるか否かの判定は、各温度における当該酵素の活性値を測定することにより容易に行うことができる。このとき測定時のpHは使用する酵素の至適pHに一定に調整しておくと良い。また市販酵素であれば当該メーカーが測定した値を参考にすることもできる。
【0022】
本発明では至適温度が80℃を超える耐熱性酵素を使用することを除外するものではないが、この場合は反応後に酵素を失活させるために原料液をより高温で、好ましくは100℃を超える温度で強度に加熱することが必要となる。そのため原料液の加熱履歴がさらに大きくなるためか、牛乳のヨーグルトのような爽やかな発酵風味を得にくくなり、米の甘みとのバランスも崩れる傾向となる。逆に上記の非耐熱性酵素を使用することで酵素の失活を100℃以下の比較的低温で行うことができ、製品の風味の変化を抑えることが可能となる。
【0023】
(発酵工程)
本発明における発酵工程は、前記糖化工程において生成する糖に乳酸菌を作用させる工程を含むものである。
発酵温度は使用する乳酸菌の至摘温度によるので特に限定はされないが、発酵の効率性も考慮すると、通常15〜45℃の範囲で行うことが好ましく、発酵時間は特に制限はないがpHが所定の値、例えばpH5.5以下となるまで行う。発酵後のpHが5.5よりも高いと乳酸菌による発酵風味の付与が不十分であり、また爽やかな酸味にも欠くものとなってしまう。
【0024】
使用する乳酸菌は特に限定されることはなく、通常の発酵乳、漬け物、味噌、パン等の発酵飲食品の発酵に利用される乳酸菌(ビフィズス菌も含む。)を使用することができる。
例えば、ラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・プランタラム、ラクトバチルス・ヘルベティカス、ラクトバチルス・ブルガリカス、ラクトバチルス・ガッセリ、ラクトバチルス・アシドフィルス、ラクトバチルス・ラクチス、ラクトバチルス・サリバリウス・サリバリウス、ラクトバチルス・ガリナラム、ラクトバチルス・アミロボラス、ラクトバチルス・ブレビス・ブレビス、ラクトバチルス・ファーメンタム、ラクトバチルス・マリ、ラクトバチルス・デルブルッキィ、ラクトバチルス・サンフランシスエンシス、ラクトバチルス・パネックス、ラクトバチルス・コモエンシス、ラクトバチルス・イタリカス、ラクトバチルス・ライキマニ、ラクトバチルス・カルバタス、ラクトバチルス・ヒルガルディ、ラクトバチルス・ルテリ、ラクトバチルス・パストリアヌス、ラクトバチルス・ブクネリ、ラクトバチルス・セロビオサス、ラクトバチルス・フルクティボランス等のラクトバチルス属、ストレプトコッカス・サーモフィルス、ストレプトコッカス・ラクチス、ストレプトコッカス・ジアセチルラクチス等のストレプトコッカス属、ラクトコッカス・ラクチス・ラクチス、ラクトコッカス・ラクチス・クレモリス等のラクトコッカス属、ロイコノストック・メセンテロイデス・クレモリス、ロイコノストック・ラクチス等のロイコノストック属、ビフィドバクテリウム・ビフィダム、ビフィドバクテリウム・ロンガム、ビフィドバクテリウム・インファンティス、ビフィドバクテリウム・ブレーベ、ビフィドバクテリウム・アドレセンティス、ビフィドバクテリウム・アンギュラータム、ビフィドバクテリウム・カテニュラータム、ビフィドバクテリウム・シュードカテニュラータム、ビフィドバクテリウム・デンティウム、ビフィドバクテリウム・グロボズム、ビフィドバクテリウム・シュードロンガム、ビフィドバクテリウム・クニキュリ、ビフィドバクテリウム・コエリナム、ビフィドバクテリウム・アニマリス、ビフィドバクテリウム・サーモフィラム、ビフィドバクテリウム・ボウム、ビフィドバクテリウム・マグナム、ビフィドバクテリウム・アステロイデス、ビフィドバクテリウム・インディカム、ビフィドバクテリウム・ガリカム、ビフィドバクテリウム・ラクチス、ビフィドバクテリウム・イノピナータム、ビフィドバクテリウム・デンティコレンス、ビフィドバクテリウム・プローラム、ビフィドバクテリウム・スイス、ビフィドバクテリウム・ガリナーラム、ビフィドバクテリウム・ルミナンティウム、ビフィドバクテリウム・メリシカム、ビフィドバクテリウム・サーキュラーレ、ビフィドバクテリウム・ミニマム、ビフィドバクテリウム・サブチル、ビフィドバクテリウム・コリネフォルメ等のビフィドバクテリウム属を使用することができる。
【0025】
以上の澱粉加水分解工程及び発酵工程はそれぞれを別々に行ってもよいし、各工程を重複させて行うことができる。通常は澱粉加水分解工程を経た後、酵素を失活させるために加熱処理を行い、冷却後に発酵工程を行う。酵素を失活させておくことにより、得られたヨーグルト様飲食品の品質が保存中に変化することを防止できるためである。
【0026】
(その他の原料)
本発明においては、α化米の他に、適当な原料を併せて配合することができる。例えば、豆乳や分離大豆蛋白などの大豆蛋白素材、米油などの油脂類、その他の穀粉類、野菜、果実、ビタミン・ミネラル・イソフラボン等の機能性成分などを配合することができる。特に豆乳などの大豆蛋白素材の配合は植物性である上に乳酸菌生育の窒素源となる蛋白質を豊富に含むため好ましい。また、豆乳と合わせて発酵させることにより、豆乳のみを単独で乳酸発酵させた発酵豆乳よりも、豆乳の有する独特の青臭さや渋みがマスキングされて飲みやすdcいものとなる。
配合するタイミングは特に限定されることはなく、α化米と共に澱粉加水分解工程において配合しても良いし、発酵工程において配合しても良いし、澱粉加水分解工程及び発酵工程の後に配合しても良い。
【0027】
以上により得られたヨーグルト様飲食品は乳酸菌の生菌タイプとして提供することができ、また加熱殺菌を行って殺菌タイプとして提供することができる。そしてこれらはそのままヨーグルトやヨーグルトドリンク様の製品とすることもでき、牛乳のヨーグルトのようにように爽やかな発酵風味と米由来のほのかな甘みとのバランスが非常に調和した風味を楽しむことができる。さらに清涼飲料,ゼリー・プリン・ケーキ等の洋菓子,和菓子等の原料としたり、パンの練り込み用原料やフラワーペーストやカスタードクリーム等の各種フィリング材としても利用することができ、これらに牛乳のヨーグルトのように爽やかな発酵風味と米由来のほのかな甘みとのバランスが非常に調和した独特の風味を付与することが可能となる。
【実施例】
【0028】
以下、実施例及び比較例により本発明の実施態様を具体的に例示する。
【0029】
■実施例1
製造タンクに3.5kgの水を貯め、α化米粉「ライスミール」(たかい飲食品(株)製)1.5kg、α−アミラーゼ「ビオザイムF10SD」(アマノエンザイム製、至適温度55℃)3gを同時に分散させて原料液(pH6・2)を調製した。このα化米を含む原料液の調製はすぐに行うことができた。
次にタンク内の品温を50℃に制御しつつ、30分間撹拌した。反応終了後、品温を85℃まで昇温し、α−アミラーゼを失活させた。反応後の原料液のpHは6.0であった。次いで製造タンク内の原料液をプレート式熱交換機に送液し、原料液の品温を35℃まで冷却した後、発酵タンクへ送液した。次いで発酵タンクにラクトバシルス・アシドフィラスとストレプトコッカス・サーモフィラスを含む乳酸菌スターター0.5gを投入し、品温を35℃に制御しつつ、pHが約4.0になるまで乳酸発酵させた。得られたヨーグルト様飲食品の性状は粘度(35℃)が250mPa・sの液状であり、米のほのかな甘みと爽やかな酸味の発酵風味が調和しており美味であった。
【0030】
■比較例1
実施例1のα化米粉の代わりに、通常の未糊化の米粉を使用し、実施例1と同様の方法によりヨーグルト様飲食品の製造を試みた。
ところが、未糊化の米粉にα−アミラーゼを作用させるには一旦米粉をα化する必要があるため、製造タンク内の品温を90℃に昇温し、この温度で米粉が十分にα化し、澱粉分解反応が終了するまで制御した。この時間は約30分を要した。この際は実施例1に使用した酵素を使用すると90℃という高温では大部分が失活してしまうため、耐熱性のα−アミラーゼ「クライスターゼT10S」(大和化成(株)製、至適温度90℃)を使用した。
また、耐熱性のα−アミラーゼを使用しているため、高温で失活させる必要があり、直接蒸気吹き込み式殺菌装置を用いて、140℃まで昇温して酵素の失活を行った。反応後の原料液のpHは6.0であった。次いで、実施例1と同様の方法によって、pHが約4.0になるまで乳酸発酵させた。
得られたヨーグルト様飲食品の性状は液状であり、米のほのかな甘みと爽やかな酸味、発酵風味はあるものの、レトルト加熱時のムレ臭のような加熱劣化風味が感じられ、全体としての風味のバランスに欠けるものであった。これは未糊化の米粉を使用したことによってα化のための加熱や高温での酵素反応によって原料液の加熱履歴が大きくなり、その結果風味が変化したためと考えられる。
【0031】
■比較例2
実施例1において、原料液の温度を80℃に制御し、糖化酵素を耐熱性のα−アミラーゼ「クライスターゼT10S」(大和化成(株)製、至適温度90℃)を使用し、失活温度を140℃とする以外は、同様にヨーグルト様飲食品を製造した。
得られたヨーグルト様飲食品の性状は液状であり、米のほのかな甘みと爽やかな酸味、発酵風味を有しており、比較例1と比べればやや優れていた。しかし実施例1と比較した場合では、ムレ臭のような劣化風味を感じた。これも耐熱性のアミラーゼを至適温度で反応させるべく原料液の温度が高温に保たれた結果、原料液の加熱履歴が大きくなったことが原因と考えられる。
【0032】
■比較例3
製品タンクに3.5kgの水を貯め、未糊化の米粉1.5kgを分散させた。次にタンク内の品温を90℃に昇温し、この温度で米粉が十分にα化するまで制御した。次に、原料液の品温を50℃まで冷却した後、α−アミラーゼ「ビオザイムF10SD」(アマノエンザイム製、至適温度55℃)3gを分散させ、この温度に制御しつつ30分間撹拌し酵素反応させた。反応終了後、再度品温を85℃まで昇温し、α−アミラーゼを失活させた。以後の工程は実施例1と同様に行い、ヨーグルト様飲食品を製造した。
得られたヨーグルト様飲食品の性状は液状であり、比較例1と同様に米のほのかな甘みと爽やかな酸味、発酵風味はあるものの、レトルト加熱時のムレ臭のような加熱劣化風味が感じられ、全体としての風味のバランスに欠けるものであった。これは未糊化の米粉を使用したことによってα化のための90℃での加熱(約30分)とその後50℃に冷却するまでに30分程度も時間を要したことにより、原料液の加熱履歴が大きくなったためと考えられる。また、この製法は原料の投入から酵素反応終了までに約90分も要し、製造効率の低いものであった。
【0033】
■実施例2
実施例1において、原料液の温度を70℃に制御し、澱粉加水分解酵素としてα−アミラーゼ「クライスターゼL1」(大和化成(株)製、至適温度70℃)を使用し、失活温度を95℃とする以外は、同様にヨーグルト様飲食品を製造した。
得られたヨーグルト様飲食品の性状は液状であり、米のほのかな甘みと爽やかな酸味、発酵風味を有しており、比較例よりも優れていた。ただし実施例1と比較した場合では、ややムレ臭のような劣化風味を感じた。
【0034】
(表1)

【0035】
■実施例3(α化米粉+豆乳)
製造タンクに3.5kgの水と5kgの豆乳(固形分9重量%)を貯め、α化米粉1.5kgと、α−アミラーゼ「ビオザイムF10SD」3gを同時に分散させて原料液(pH6・2)を調製した。次にタンク内の品温を50℃に制御しつつ、30分間撹拌した。
反応終了後、品温を85℃まで昇温し、澱粉加水分解酵素を失活させた。反応後の原料液のpHは6.0であった。次いで製造タンク内の原料液をプレート式熱交換機に送液し、原料液の品温を35℃まで冷却した後、発酵タンクへ送液した。次いで発酵タンクにラクトバシルス・アシドフィラスとストレプトコッカス・サーモフィラスを含む乳酸菌スターター0.5gを投入し、品温を35℃に制御しつつ、pHが約4.0になるまで乳酸発酵させた。得られたヨーグルト様飲食品は豆乳の含有量が50重量%で性状は粘度(35℃)が420mPa・sの液状であった。
【0036】
■比較例4
製造タンクに5kgの豆乳(固形分9重量%)を貯め、60℃に加熱し、砂糖0.5kgを水4.5kgに溶解し、混合して原料液(pH6.9)を調製した。これを品温が85℃となるまで昇温し、次いで製造タンク内の原料液をプレート式熱交換機に送液し、原料液の品温を35℃まで冷却した後、実施例3と同様にして乳酸菌発酵させ、ヨーグルト様飲食品を得た。得られたヨーグルト様飲食品は豆乳の含有量が50重量%で性状は粘度(35℃)が320mPa・sの液状であった。
【0037】
実施例3と比較例4のヨーグルト様飲食品の風味を比較したところ、比較例4の発酵豆乳で感じられる豆乳の独特の青臭みや渋みが、実施例3の発酵飲食品ではマスキングされており、非常に飲みやすいものであった。
【0038】
■実施例4
製造タンクに3.5kgの水を貯め、α化米粉「ライスミール」1.2kg、十五穀ミックス(ハウス食品(株)製、黒米・もち米・発芽玄米・もちきび・小豆・黒大豆・もちあわ・とうもろこし・はと麦・アマランサス・黒ごま・白ごま・大麦・そば・うるちひえ配合)を粉砕したもの(0.7mmパス)を0.3kg、α−アミラーゼ「ビオザイムF10SD」3gを同時に分散させて原料液(pH6・2)を調製した。これ以後は実施例1と同様にしてヨーグルト様飲食品を製造した。澱粉加水分解の反応後の原料液のpHは6.1であった。得られた発酵物の性状は粘度(35℃)が260mPa・sの液状であり、米のほのかな甘みの上に十五穀の豊かな風味がミックスされることによって、α化米を単独で配合する場合よりも全体的に風味に厚みが付与され、更に発酵風味が調和していて非常に美味しかった。また、ミネラル類やビタミン類、食物繊維などが強化されるため、栄養学的にも好ましいものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
α化米及び澱粉加水分解酵素を水に分散させた原料液を75℃未満に制御しつつ澱粉加水分解酵素を作用させる澱粉加水分解工程と、前記澱粉加水分解工程において生成する糖に乳酸菌を作用させる発酵工程を含むことを特徴とするヨーグルト様飲食品の製造法。
【請求項2】
澱粉加水分解酵素がα−アミラーゼである請求項1記載のヨーグルト様飲食品の製造法。
【請求項3】
澱粉加水分解酵素として、非耐熱性アミラーゼを使用する請求項1記載のヨーグルト様飲食品の製造法。
【請求項4】
原料として黒米、赤米、玄米、きび、小豆、黒大豆、あわ、とうもろこし、はと麦、大麦、アマランサス、黒ごま、白ごま、そば及びひえからなる群より選択される1以上を使用する請求項1記載のヨーグルト様飲食品の製造法。
【請求項5】
原料として豆乳を使用する請求項1記載のヨーグルト様飲食品の製造法。

【公開番号】特開2008−283922(P2008−283922A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−133467(P2007−133467)
【出願日】平成19年5月18日(2007.5.18)
【出願人】(000236768)不二製油株式会社 (386)
【Fターム(参考)】