説明

ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリスFC株検出用プライマーセット、及び該プライマーセットを用いるラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリスFC株の分子識別法

【課題】ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリス(Lactococcus lactis subsp. cremoris)FC株に特異的なプライマーと、該プライマーセットを用いるラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリスFC株の検出方法及び定量方法の提供を目的とする。
【解決手段】配列番号:1に示す塩基配列のうち少なくとも5’末端から6番目〜24番目の連続した19部分を含み、5’末端及び/又は3’末端からそれぞれ最大5塩基欠失した第1プライマーと、
配列番号:2に示す塩基配列のうち少なくとも5’末端から6番目〜26番目の連続した21塩基を含み、5’末端及び/又は3’末端からそれぞれ最大5塩基欠失した第2プライマーと、
からなるプライマーセットを用い、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリスFC株のDNAの特定部分をPCRによって増幅し、その増幅断片を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳酸菌の一種であるラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリス(Lactococcus lactis subsp. cremoris)FC株(以下、「クレモリスFC株」という)を検出又は定量するためのプライマーセットに関する。また、本発明は、その様なプライマーセットを用いて、被験試料中のクレモリスFC株を検出及び定量する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Lactococcus lactis subsp. cremoris は、チーズや発酵乳のスターターによく用いられる乳酸菌である。このうち、クレモリスFC株(独立行政法人・産業技術総合研究所特許生物寄託センターに寄託されている寄託番号FERM AP-20185の菌株)は、我が国では「カスピ海ヨーグルト」と一般的に称される発酵乳から分離された乳酸菌株で、非常に高い粘性物質を産生することを特徴としている(特許文献1参照)。
【0003】
ここで、菌株を同定する手法として、非特許文献1では、細胞の形態学的性質、糖類の発酵性、酵素活性等の生理学的性質、さらにゲノムDNAの塩基組成の遺伝学的性質等、多くの菌株の性質を調べている。これらの性質を調べる際には、菌株を大量に培養し精製度の高い大量のDNAを必要とするなど、非常に労力がかかるが、この文献では、菌株の菌種を同定するまでにとどまっており、特定の菌株を特異的に識別することはできていない。
【0004】
一方、RAPD(Randomly amplified polymorphic DNA)法はPCR法の一種で、菌種レベル又は菌株レベルでの識別を行うために用いられる手法である。このRAPD法では、通常のPCR法と異なり、特定のDNA領域を標的にせず、ランダムに設定された短いプライマーを1種類使用する。そして、特異性が低くなるような条件でPCR反応を行い、増幅されてくる複数のバンドを一つのパターンとしてとらえ、その違いにより菌種又は菌株を識別する。例えば、非特許文献2には、RAPD法を用いてLactobacillus rhamnosus生菌の菌株を識別する方法が開示されている
しかし、特異性を低くするため、PCR用の試薬や機器が異なると結果も異なることがしばしば起こり、再現性に乏しい。また、遺伝的にかなり近い菌株では同じRAPDパターンを示すなど、菌株レベルでの識別に用いることは、一般的には困難である。
【0005】
また、PFGE(Pulsed-field gel electrophoresis)法は、現在、菌株レベルでの識別法として最も感度と精度が高いと考えられている手法であり、院内感染の感染経路を特定する際によく用いられる。通常の電気泳動では50kb以上の巨大なDNA断片を分離することはできないが、PFGE法は電気泳動中に電場の向きを変化させることにより、2Mbに及ぶ直鎖状のDNA分子等でも分離することが可能である。非常に感度で精度も高い反面、実験ごとの条件設定が必要であり、多検体を同時に比較することには不向きである。
【特許文献1】特許第3715640号明細書
【非特許文献1】T. Ishida, A. Yokota, Y. Umezawa, T. Toda and K. Yamada; Journal of Nutritional Science and Vitaminology, 51, 187-193 (2005).
【非特許文献2】A. Tilsala-Timisjarvi, T. Alatossava; Applied and Environmental Microbiology, 64, 4816-4819(1998).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、菌種又は菌株を識別する一般的な手法はあるものの、産業上有用な菌株であるクレモリスFC株を特異的に識別し、検出又は定量する方法はなかった。このため、ヨーグルト生産における品質管理や、ヨーグルト摂取後の腸内生残性を確認することは、著しく困難であった。
【0007】
本発明者らは、RAPD法を用いて、クレモリスFC株に特異的なDNAマーカーの検索を行った。その結果、クレモリスFC株に特異的なRAPDマーカーを見出し、このバンドの塩基配列情報からL. lactis subsp. cremoris FC株に特異的なPCRプライマーを設計した。
【0008】
そして、設計したプライマーを用いたPCR法により、23株のLactococcus lactis subsp. cremoris 菌株の中からクレモリスFC株のみを検出することができる分子生物学的検出方法を開発した。
【0009】
さらに、上記プライマーとリアルタイムPCR法とを組み合わせることにより、感度よく検出できるだけでなく、糞便などの環境中サンプルに含まれるクレモリスFC株を定量できることも確認した。
【0010】
このように、本発明は、クレモリスFC株に特異的な検出用プライマーセットと、該プライマーセットを用いて被験試料中のクレモリスFC株を検出及び定量する方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、配列番号:1に示す塩基配列のうち少なくとも5’末端から6番目〜24番目の連続した19塩基を含み、5’末端及び/又は3’末端からそれぞれ最大5塩基欠失した第1プライマーと、
配列番号:2に示す塩基配列のうち少なくとも5’末端から6番目〜26番目の連続した21塩基を含み、5’末端及び/又は3’末端からそれぞれ最大5塩基欠失した第2プライマーと、
からなるラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリス(Lactococcus lactis subsp. cremoris)FC株検出用プライマーセットに関する(請求項1)。
【0012】
前記第1プライマーは配列番号:3に示す塩基配列であり、前記第2プライマーは配列番号:4に示す塩基配列であることが好ましい(請求項2)。
【0013】
また、本発明は、請求項1又は2に記載のプライマーセットを用いて、被験試料中のクレモリスFC株のDNA断片をPCR法によって増幅する増幅工程と、
増幅工程におけるPCR産物を検出する検出工程と、
を含むことを特徴とするクレモリスFC株の検出方法に関する(請求項3)。
【0014】
また、本発明は、請求項1又は2に記載のプライマーセットを用いて、被験試料中のラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリス(Lactococcus lactis subsp. cremoris)FC株のDNA断片をリアルタイムPCR法によって増幅し、PCR産物の蛍光強度を測定することによって、被験試料中のラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリス(Lactococcus lactis subsp. cremoris)FC株を検出することを特徴とするクレモリスFC株の検出方法に関する(請求項4)。
【0015】
また、本発明は、請求項1又は2に記載のプライマーセットを用いて、被験試料中のラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリス(Lactococcus lactis subsp. cremoris)FC株のDNA断片をリアルタイムPCR法によって増幅し、PCR産物の蛍光強度の測定結果に基づき、被験試料中のラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリス(Lactococcus lactis subsp. cremoris)FC株を定量するクレモリスFC株の定量方法に関する(請求項5)。
【発明の効果】
【0016】
本発明のクレモリスFC株の検出方法及び定量方法は、特定のDNA配列を標的にした通常のPCR法を用いるため、使用する実験機器や試薬による結果のばらつきが小さく、精度及び再現性ともに高い。
【0017】
また、RAPD法では菌株間のバンドパターンの違いによりそれぞれの菌株を識別するため、比較対照株が多く必要であるが、本発明のクレモリスFC株の検出方法及び定量方法は、PCR増幅断片の有無により結果を判定するため、実験ごとに多くの比較対照株を必要としない。
【0018】
また、本発明のクレモリスFC株の定量方法は、プライマーとリアルタイムPCRを組み合わせることで、様々な環境サンプル中のクレモリスFC株の菌数を、菌株の分離及び培養作業を行うことなく定量可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、適宜図面を参照しながら説明する。なお、本発明は、これらに限定されない。
<クレモリスFC株に特異的なプライマーの設計>
(1.菌株及び培養)
まず、クレモリスFC株に特異的なプライマーの設計手順について説明する。表1に示すLactococcus lactis subsp. cremoris菌株23種類を選択し、3mLのMRS液体培地を用いて30℃で一晩静置培養した。
【0020】
【表1】

【0021】
ここで、菌株名のATCC、LMG及びDSMは菌株分譲機関を示している。すなわち、ATCCはAmerican Type Culture Collection、LMGはLaboratorium voor Microbiologie, Universiteit Gent、DSMはDeutsche Sammlung von Mikroorganismenである。また、2番目の菌株名「ATCC 19257T」の上付き文字の「T」は、Type Strain(標準株)であることを示している。
(2.ゲノムDNAの調製)
培養後、表1に示した菌株の培養液を遠心して集菌し、70 mLのsaline-EDTA(0.15M 塩化ナトリウム, 0.1Mエチレンジアミン四酢酸 [pH 8.0])に懸濁させた。次に、リゾチーム溶液(20 mg/mL)20mL加えて、37℃で15〜30分間保持し、粘度が増加し始めたら直ちに−80℃で凍結させた。凍結チューブにTris-SDS(0.1 M Tris-HCl [pH 9.0], 1 % SDS)100mLを加え、60℃の湯浴内で10分間保持した後、直ちに氷冷した。フェノールクロロホルム処理によりタンパク質を変性除去した後、エタノール沈殿によりゲノムDNAを沈殿させた。ゲノムDNAは乾燥後、100 mlのTE(Tris-HCl(pH8.0)10mM, EDTA(pH8.0)1mM)に溶解させた。
(3.RAPD-PCR)
市販のPCR用試薬(タカラバイオ(株)製)とTaKaRa PCR Thermal Cycler Dice TP600(タカラバイオ(株)製)を用いて、23種類のゲノムDNAについてRAPD-PCR法を行った。10 ×Ex Taq バッファ2.0 mL、 dNTP溶液(原液2.5 mM)1.6 mL、25mM MgCl2 0.8 mL、抽出したゲノムDNA 20ng、DNApolymerase(TaKaRa Ex Taq)1.0Uを混合し、RAPDプライマー(5’-GCGGTTGAGG-3’、配列番号:5)を0.5mMの濃度となるように添加し、滅菌蒸留水を用いて総反応量20 mLに調製した。なお、PCR反応条件は、表2に示す通りである。
【0022】
【表2】

【0023】
上記PCR増幅により得られたDNA断片は、サブマリン型電気泳動(mupid-2、(株)アドバンス製)を用いて、アガロースゲル電気泳動によって分離した(1.5%アガロース、100 V定電圧条件において40分間泳動)。その後、エチジウムブロマイドを用いて30分間ゲルを染色した後、UVランプ照射下、泳動像を撮影した。その結果、図1に示すように、クレモリスFC株に特異的な約1.2 kbの増幅断片が認められた。
【0024】
なお、図1及び後述する図3では、ゲル上部にレーン番号を付しているが、図中の「M」という記号は、分子量マーカーを示している。
(4.クレモリスFC株に特異的なRAPDマーカー)
クレモリスFC株に特異的な約1.2 kbのRAPD増幅断片を電気泳動した後、UltraClean GelSpin DNA Purification Kit (MO BIO製)を用いて精製した。精製したRAPD増幅断片は、pCR2.1ベクターにライゲーションした後、Original TA Cloning Kit(Invitrogen製)を用いてOne Shot INVαF’コンピテント細胞を形質転換した。
【0025】
得られたDNAクローンは、Big Dye Terminator cycle sequencing kit(Applied Biosystems製)とABI PRISM 3100 Genetic Analyzer(Applied Biosystems製)とを用いて、その塩基配列を解読した。クローニングしたRAPD増幅断片の塩基配列(1164bp)は、3つのクローンから決定した。その配列を、図2に示す。
【0026】
図2中のTCGTGGTCACAAGCAGTAG(細い下線を付した部分)は、本発明のForwardプライマー(配列番号:3)であり、GGAATGACGGTTTCAATCGTG(太い下線を付した部分)は、本発明のReverseプライマー(配列番号:4)を示している。また、マーカーの端のGCGGTTGAGGとCCTCAACCGC (□で囲んだ部分)は、RAPDで用いたプライマーを示している(どちらも同じ塩基配列である)。
【0027】
そして、1164bpのRAPDマーカーのうち、上記配列番号:3及び配列番号:4の塩基配列を、クレモリスFC株に特異的なプライマーセットとして以下の実施例で使用した。
【0028】
なお、配列番号:3のプライマーより前後それぞれ5塩基まで長いプライマー(配列番号:1)と、配列番号:4のプライマーより前後それぞれ5塩基まで長いプライマー(配列番号:2)とから構成されるプライマーセットも、本発明のプライマーセットに該当する。すなわち、配列番号:1に示す塩基配列のうち少なくとも5’末端から6番目〜24番目の連続した19塩基を含み、5’末端及び/又は3’末端からそれぞれ最大5塩基欠失したプライマーは配列番号:3のプライマーと同じ機能を有し、配列番号:2に示す塩基配列のうち少なくとも5’末端から6番目〜26番目の連続した21塩基を含み、5’末端及び/又は3’末端からそれぞれ最大5塩基欠失したプライマーは配列番号:4のプライマーと同じ機能を有する。
【0029】
また、配列番号:1〜配列番号:4に示す塩基配列には、それら塩基配列のうち1又は複数個の塩基が欠失、置換又は付加した塩基配列であって、図2に記載の塩基配列のうち、配列番号:1又は配列番号:2に示す塩基配列と同一又は相補的な塩基配列からなる部分にハイブリダイズし得る塩基配列も含まれる。
[実施例1]
本発明の実施例1として、配列番号:3及び配列番号:4のプライマーセットを用い、表1に示したLactococcus lactis subsp. cremoris菌株23種類から抽出したゲノムDNAにPCRを行い、クレモリスFC株を検出できるか確認を試みた。
(増幅工程)
ゲノムDNAは、上記(2.ゲノムDNAの調製)で調製したものを使用した。また、使用したPCR用機器及びPCR用試薬も上記(3.RAPD-PCR)と同じである。10 ×Ex Taq バッファ2.0 mL、dNTP溶液(原液2.5 mM)1.6 mL、25mM MgCl2 0.8 mL、抽出したゲノムDNA 0.2ng、DNApolymerase(TaKaRa Ex Taq)1.0Uを混合し、配列番号:1及び配列番号:2のプライマーを、それぞれ50nMの濃度となるように添加し、滅菌蒸留水を用いて総反応量20 mLに調製した。なお、PCR反応条件は、表3に示す通りである。
【0030】
【表3】

【0031】
(検出工程)
PCR増幅により得られたDNA断片は、上記(3.RAPD-PCR)と同様に、サブマリン型電気泳動アガロースゲル電気泳動によって分離し、ゲルをエチジウムブロマイドによって30分間染色した後、UVランプ照射下、泳動像を撮影した。その結果、図3に示すように、クレモリスFC株(レーンNo.2)のみ特異的なPCR断片が認められ、他の菌株にはPCR断片が全く検出されなかった。
【0032】
このように、本発明のクレモリスFC株の検出方法は、クレモリスFC株と、遺伝学的に非常に近い他のLactococcus lactis subsp. cremoris菌株とを容易に識別することが可能であった。
[実施例2]
本発明の実施例2として、配列番号:3及び配列番号:4のプライマーセットを用い、表1に示したLactococcus lactis subsp. cremoris菌株23種類から抽出したゲノムDNAにリアルタイムPCRを行い、クレモリスFC株を検出できるか確認を試みた。
【0033】
ゲノムDNAは、実施例1と同じであり、リアルタイムPCR用機器として、Light Cycler system、Roche Molecular Biochemicals製)を使用した。また、PCR用試薬として、市販のリアルタイムPCR用試薬(SYBR Premix Ex Taq、タカラバイオ(株)製)を使用した。
【0034】
2×SYBR Premix Ex Taqバッファ10.0mL、抽出したゲノムDNAをクレモリスFC株の場合は0.2ng、その他の菌株の場合は10倍量の2.0ngを混合し、配列番号:3及び配列番号:4のプライマーを、それぞれ50nMの濃度となるように添加し、滅菌蒸留水を用いて総反応量20mLに調製した。なお、PCR反応条件は、表4に示す通りであり、各サイクルの終わりに、80℃における蛍光強度(波長530 nm)を測定した。蛍光強度の測定結果を、図4に示す。
【0035】
【表4】

【0036】
図4から明らかなように、実施例1と同様、クレモリスFC株のみ蛍光強度の大幅な増大が認められ、その他の菌株には蛍光強度の増大がほとんど認められなかった。すなわち、クレモリスFC株のみに特異的なPCR断片が認められ、他の菌株には認められなかった。
[実施例3]
次に、本発明の実施例3として、実施例1及び実施例2と同じ条件で、使用するクレモリスFC株から抽出したゲノムDNA量を変化させ、通常のPCR法とリアルタイムPCR法における検出限界及び定量性を確認した。
(検出限度)
使用するゲノムDNA量を0 pg〜10 ngの範囲で変化させた通常PCR法(実施例1と同じ条件、試薬)におけるエチジウムブロマイド染色後の泳動像(UVランプ照射下)を、図5に示す。ゲノムDNA量が10 ng、1 ng、0.1 ng及び10 pgの場合には、0.3 kb付近にDNA断片を検出することができたが、1 pg以下では検出できなかった。
【0037】
使用するゲノムDNA量を0 pg〜10 ngの範囲で変化させたリアルタイムPCR法(実施例2と同じ条件、試薬)における蛍光強度の測定結果を、図6に示す。PCRサイクルを40以上とすれば、ゲノムDNA量が0.1 pgでもDNA断片を検出可能であった。
(定量性)
上記リアルタイムPCR法(実施例2と同じ条件、試薬)において、蛍光強度の指数関数的な増幅が検出されるサイクル数(Threshold Cycle)と鋳型として用いたクレモリスFC株のDNA量(対数値)との間には、図7に示すような高い正の相関性が認められた(R2=0.999)。このように、本発明のプライマーセットとリアルタイムPCR法とを組み合わせることにより、定量性と感度の両面に優れたクレモリスFC株の検出及び定量が可能となることが確認された。
[実施例4]
次に、本発明の実施例4として、ヒト糞便中からクレモリスFC株を抽出し、リアルタイムPCR法を用いて検出可能であることの確認を試みた。
(クレモリスFC株の抽出)
ヒト糞便からのクレモリスFC株の抽出は、ガラスビーズを用いるフェノール抽出法により行った。すなわち、FastPrep FP120 (BIO101, Vista, Calif.)の条件をレベル4とし、時間を30秒に変更した以外は、Matsuki等の方法(T. Matsuki, K. Watanabe, J. Fujimoto, Y. Kado, T. Takeda, K. Matsumoto and R. Tanaka; Applied and Environmental Microbiology, 70, 167-173 (2004).)に従い、サンプルを調製した。
【0038】
また、リアルタイムPCRにおいて、菌数の定量の際に用いるスタンダードサンプルには、菌数をPetroff-Hausserの計算盤によって算出したクレモリスFC株の培養液をヒト糞便に混合し、同じ方法でDNAを抽出したものをサンプルとして用いた。
(ヒト糞便中クレモリスFC株の定量)
スタンダードサンプルの稀釈系列を、TE(Tris-HCl(pH8.0)10mM, EDTA(pH8.0)1mM)を用いて作製した。この稀釈系列をそれぞれ2.0mL用いて、実施例2と同様にリアルタイムPCRを行った。
【0039】
その結果、図8に示すように、蛍光強度の指数関数的な増幅が検出されるサイクル数(Threshold Cycle)と、鋳型として用いたヒト糞便中のクレモリスFC株の菌数(対数値)との間に高い正の相関性が認められた(R2 = 0.9962)。
【0040】
次に、クレモリスFC株が5.0×108 cfu/mLの濃度で含まれる発酵乳を、被験者に1日あたり150 mL、7日間摂取させ、被験者の糞便中に含まれるクレモリスFC株の菌数を、実施例2と同様に、リアルタイムPCRにより定量した。その結果、6名の被験者全員について、発酵乳摂取前にはクレモリスFC株が検出されなかったのに対し、発酵乳摂取後(摂取期間7日)にはクレモリスFC株が検出された。
【0041】
【表5】

【0042】
このように、本発明のプライマーとリアルタイムPCR法とを組み合わせることにより、培養を介さずに、精度よくヒト糞便中のクレモリスFC株を定量できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明のプライマーセットと、それを用いる検出方法及び定量方法は、ヨーグルト等の発酵乳の製造業において、産業上有用な菌株であるクレモリスFC株の検出及び定量に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】配列番号:5のプライマーを用いてRAPD-PCRを行い、PCR断片を電器泳動した後のアガロースゲルの写真である。
【図2】配列番号:5のプライマーを用いてRAPD-PCRを行った結果得られるRAPD増幅断片の塩基配列を示す図である。
【図3】実施例1のアガロースゲルの写真である。
【図4】実施例2のPCRサイクル数と蛍光強度との関係を示すグラフである。
【図5】実施例3の通常PCRにおけるアガロースゲルの写真である。
【図6】実施例3のリアルタイムPCRにおけるPCRサイクル数と蛍光強度との関係を示すグラフである。
【図7】実施例3のリアルタイムPCRにおけるDNA断片数(対数値)とサイクル数との相関性を示す片対数グラフである。
【図8】実施例4のリアルタイムPCRにおけるクレモリスFC株の菌数(対数値)とサイクル数との相関性を示す片対数グラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号:1に示す塩基配列のうち少なくとも5’末端から6番目〜24番目の連続した19塩基を含み、5’末端及び/又は3’末端からそれぞれ最大5塩基欠失した第1プライマーと、
配列番号:2に示す塩基配列のうち少なくとも5’末端から6番目〜26番目の連続した21塩基を含み、5’末端及び/又は3’末端からそれぞれ最大5塩基欠失した第2プライマーと、
からなるラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリス(Lactococcus lactis subsp. cremoris)FC株検出用プライマーセット。
【請求項2】
前記第1プライマーが配列番号:3に示す塩基配列であり、前記第2プライマーが配列番号:4に示す塩基配列である請求項1に記載のラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリス(Lactococcus lactis subsp. cremoris)FC株検出用プライマーセット。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のプライマーセットを用いて、被験試料中のラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリス(Lactococcus lactis subsp. cremoris)FC株のDNA断片をPCR法によって増幅する増幅工程と、
増幅工程におけるPCR産物を検出する検出工程と、
を含むことを特徴とするラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリス(Lactococcus lactis subsp. cremoris)FC株の検出方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のプライマーセットを用いて、被験試料中のラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリス(Lactococcus lactis subsp. cremoris)FC株のDNA断片をリアルタイムPCR法によって増幅し、PCR産物の蛍光強度を測定することによって、被験試料中のラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリス(Lactococcus lactis subsp. cremoris)FC株を検出することを特徴とするラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリス(Lactococcus lactis subsp. cremoris)FC株の検出方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のプライマーセットを用いて、被験試料中のラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリス(Lactococcus lactis subsp. cremoris)FC株のDNA断片をリアルタイムPCR法によって増幅し、PCR産物の蛍光強度の測定結果に基づき、被験試料中のラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリス(Lactococcus lactis subsp. cremoris)FC株を定量することを特徴とするラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリス(Lactococcus lactis subsp. cremoris)FC株の定量方法。

【図2】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図1】
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【図3】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−244348(P2007−244348A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−76185(P2006−76185)
【出願日】平成18年3月20日(2006.3.20)
【出願人】(591183625)フジッコ株式会社 (15)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】