ラクトバシルスGG由来プロバイオティック化合物及びそれらの使用
本発明は、炎症性疾患(例えば炎症性腸疾患(IBD))を治療する方法及び組成物を提供する。生きた細菌の代わりに、細菌を含まない、プロバイオティック由来の化合物の使用は、生細菌の使用を超える安全性の利点を提供する。さらにまた、単離された化合物の臨床的有効性は、プロバイオティクスによる有効性(前記は細菌の集落形成の確立及び維持能力に左右される)よりもはるかに一貫性があることが示された。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
技術分野
国立衛生研究所グラント番号DK47722、DK42086及びK08 DK064840-01にしたがい、政府は本発明において権利を有する。
本発明は、一般的には炎症性疾患の分野に関する。より具体的には、本発明は、炎症性の腸の異常又は疾患、例えば潰瘍性大腸炎及びクローン病に関する。本発明の実施は、ラクトバシルス(Lactobacillus)GG(LGG)に由来する、新規な生物活性を有する化合物の同定及び性状決定、並びに炎症性腸疾患治療のためにこれら化合物を使用することに関する。
【0002】
背景技術
炎症性腸疾患(IBD)は、鋭敏な個体の消化管に影響を及ぼす、一群の慢性的異常である。IBDにおける粘膜損傷の程度及び重篤度は、炎症誘発損傷と代償性及び細胞保護プロセスとの間の不均衡によって決定される。例示的IBD、例えば潰瘍性大腸炎及びクローン病は、消化管の炎症及び潰瘍を惹起する。遺伝的背景、環境因子への暴露、又はある種の刺激性共生細菌の集落形成の不運な合併によって、鋭敏な個体でIBDが発生する。
プロバイオティック物質(probiotic agent)によるIBD患者の腸内細菌叢の改変は、治療法としていくらかの注目を得た。最近のin vitro及びin vivo実験では、種々のプロバイオティック製剤が、実験的大腸炎に付随する腸粘膜の炎症の予防又は軽減に有効であることが示された(Madsen et al. 2001;Gionchetti et al. 2000b;Campierei et al. 2000;完全な引用は参考文献リストで提供される)。さらにまた、プロバイオティクス(probiotics)は、大腸粘膜の慢性炎症への悪性転換率を低下させるようである(Wollowski et al. 2001)。多くの前臨床試験によって、プロバイオティクスはポーチティス(pouchitis)及びIBDの治療に有効であることが示された。これらの生物因子の有効性を決定するため、及びIBD患者での投与量の最適化のために、いくつかの多拠点臨床試験もまた進行中である。これらの有望な結果にもかかわらず、プロバイオティック作用メカニズムは依然として明らかではなく、さらに、生のプロバイオティック生物の使用は感染のリスク及び他の不適切な結果を招く。
【0003】
例示的IBDである潰瘍性大腸炎は、結腸及び直腸の内部基底層の炎症及び潰瘍形成をもたらす。前記は稀に、結腸に連結する末端(回腸末端と称される)を除く小腸にも影響を及ぼす。潰瘍性大腸炎はまた結腸炎又は直腸炎とも称される。潰瘍性大腸炎はいずれの年齢の人々にも起こりうるが、15歳から30歳の間で非常に頻繁に発生するようである。何が潰瘍性大腸炎の原因であるかについての学説は多数存在するが、いずれも立証には至っていない。よく知られている学説は、身体の免疫系がウイルス又は細菌と反応し、腸壁での炎症の進行を引き起こすというものである。
潰瘍性大腸炎のもっとも一般的な症状は腹痛及び出血性下痢である。患者はまた、疲労、体重減少、食欲低下、直腸出血並びに体液及び栄養素の減少を被りうる。約半数の患者が軽度の症状を示す。残りの患者は頻繁な発熱、出血性下痢、吐き気、及び重度の腹部の疼痛性痙攣を示す。潰瘍性大腸炎はまた、関節炎、眼の炎症、肝臓疾患(肝炎、肝硬変、及び原発性硬化性胆管炎)、骨粗しょう症、皮疹及び貧血のような問題も引き起こしうる。大腸以外の場所で問題が発生する理由ははっきりとは分かっていない。研究者らは、身体の他の部分で免疫系が炎症の引き金となったときに、これらの合併症が生じうると考えている。これらの問題のいくつかは大腸炎が治療されたときに消失する。
潰瘍性大腸炎のための治療は前記疾患の重篤度に左右される。ほとんどの人々は投薬により治療される。重篤な事例では、患者は外科手術が必要とされ症状を示す結腸が除去される。その症状がある種の食品によって引き起こされた幾人かの人々は、彼らの腸の状態を狂わせる食品、例えば香辛料の多い食品、生の果実及び野菜、又は乳糖(ラクトース)を避けることによって症状を制御することができる。幾人かの人々は、数ヶ月続く又は数年に及ぶ緩解を示す。しかしながら、ほとんどの患者の症状は最終的には元に戻る。
【0004】
約25−40%の潰瘍性大腸炎患者は、結腸の大量出血、重度の病状、破壊又は癌のおそれのために最終的には結腸を摘出しなければならない。医療的処置が成功しない場合、又はコルチコステロイド若しくは他の薬剤の副作用が患者の健康を害する場合、医師は時に結腸の摘出を推奨するであろう。
クローン病は、消化管のいずれの部分も冒しうるという点で潰瘍性大腸炎とは異なる。クローン病は、消化管の最深部の基底層を冒しうる炎症及び潰瘍を引き起こす。抗炎症薬、例えば5-アミノサリチレート(例えばメサラミン)又はコルチコステロイドが典型的には処方されるが、いつも有効であるとは限らない。シクロスポリンによる免疫抑制は、コルチコステロイドが効かないか、又は不耐性である患者について時に有益である。
【0005】
にもかかわらず、外科手術による矯正は、最終的には90%の患者で要求され、50%が結腸切除を受ける(Leiper et al. 1998;Makowiec et al. 1998)。外科手術後の再発率は高く、50%が5年以内に更なる外科手術を必要とする(Leiper et al. 1998;Besnard et al. 1998)。
IBDの病理発生に関する従来の考えは、細胞保護及び創傷治癒プロセスと前炎症性経路との間に不均衡が存在し、その正味の結果は最終的には前炎症の過活性状態及びその結果としての腸粘膜の損傷に至ると提唱する。バリアー機能の障害をもたらす接着結合の構造変化が後遺症の一因となるという事実によって立証されるように、粘膜完全性の維持の中心は上皮のバリアー機能の維持である(Schmitz et al. 1999)。
緩解を誘発しこれを維持するため、及び炎症性疾患又は異常(例えば潰瘍性大腸炎)を示す人々の生活の質を向上させるための治療を用いることができる。いくつかのタイプの薬剤が現在利用可能である。
アミノサリチレート薬(例えば5-アミノサリチル酸(5-ASA)のような薬剤)は炎症の制御に役立つ。サルファサラジンはサルファピリジン及び5-ASAの組合せであり、緩解の誘発及び維持のために用いられる。サルファピリジン成分は抗炎症性5-ASAを腸へ運搬する。しかしながら、サルファピリジンは、副作用(例えば吐き気、嘔吐、胸焼け、下痢及び頭痛)をもたらしうる。他の5-ASA薬剤(例えばオルサラジン、メサラミン及びバルサラジド)は異なる担体を有し、副作用が少なく、サルファサラジンを服用できない人々に用いることができる。結腸内の炎症の場所により、5-ASAは、経口的に、浣腸により、又は座薬として投与される。軽度又は中等度の潰瘍性大腸炎をもつ大半の人々は先ず初めにこの薬剤群で治療される。
【0006】
コルチコステロイド(例えばプレドニソン及びヒドロコーチゾン)もまた炎症を減少させる。前記は、中等度又は重度の潰瘍性大腸炎を罹患する人々、又は5-ASA薬剤に応答しない人々に使用される。コルチコステロイドは、経口的、静脈内、浣腸により、又は座薬で投与することができる。これらの薬剤は、副作用(例えば体重増加、にきび、顔面発毛(facial hair)、高血圧、気分変動及び感染リスクの増加)を引き起こしうる。この理由から、前記は長期使用には推奨されない。
免疫調節剤(例えばアザチオプリン及び6-メルカプト-プリン(6-MP))は、免疫系に影響を与えることによって炎症を低下させる。前記は、5-ASA又はコルチコステロイドに応答しなかった患者、又はコルチコステロイド依存症の患者に用いられる。しかしながら、免疫調節剤は作用に時間を要し、完全な利益が観察されるまで6ヶ月を要しうる。これらの薬剤を服用する患者は、合併症(膵炎及び肝炎、白血球数の減少並びに感染リスクの増加を含む)についてモニターされる。シクロスポリンAは、静脈内コルチコステロイドに応答しない患者で、活発で重度の潰瘍性大腸炎の治療のために6-MP又はアザチオプリンと併用される。上記に加えて、他の薬剤を患者のストレスの緩和、又は痛み、下痢若しくは感染の軽減のために投与することができる。
ラクトバシルスGGは、幼児及び小児の急性及びロタウイルス下痢の治療、さらにはまた正常な共生細菌叢の変化から生じる抗生物質関連下痢の治療で用いられ成功している(22,40及び43)。最終的には、ラクトバシルスGGはネズミの大腸癌モデルで腫瘍負荷レベルを低下させることが示され、このプロバイオティック株は抗癌活性もまた示す可能性が示唆されている。
【0007】
細胞の熱ショックタンパク質(Hsp)発現の誘発(温度ストレス(例えば発熱)の後で生じる)は、それによって細胞が更なる損傷に対して自分自身を防御することができる詳細に記述されたメカニズムである。前記の現象(“ストレス寛容”として知られている)は、進化の全過程にわたって及び全ての種の間で高度に保存されている。誘導性熱ショックタンパク質は、温度ストレスから浸透圧ストレスに及ぶ多様な別個のタイプのストレスに直面する細胞に、酸化性及び炎症性ストレス物質に対する防護を付与する。小腸上皮細胞におけるHsp72の過剰発現は、モノクロロアミンに由来する酸化性損傷に対し生存活性及び防護を高めることが示された(モノクロロアミンは、生来の細胞及び炎症性細胞によって放出される次亜塩素酸がアンモニアと反応するときに炎症時に大量に産生される病理生理学的関連の反応性酸素代謝産物である)。腸の上皮細胞では、報告によれば、誘導性熱ショックタンパク質Hsp72及びHsp25は、多様な有害な傷害による損傷に対し上皮バリアーを強化し、したがって接着結合及びバリアー機能を維持する。Hsp25はまたアクチン細胞骨格を安定化させると報告された。
センス及びアンチセンストランスフェクション実験の利用により、酸化性ストレス条件下で上皮バリアー機能を防護する熱ショックタンパク質の能力によって明らかなように、熱ショックタンパク質は、上皮細胞に細胞保護を提供する上で中心的な役割を果たすことが示された(Ropeleski et al. 2003;Urayama et al. 1998)。誘導性熱ショックタンパク質(Hsp)は、環境中の生理的及び病的ストレスから細胞を保護する上で重要な役割を果たす高度に保存されたタンパク質に属する。例えば熱、重金属及び毒素への暴露、虚血/再灌流損傷、又は炎症による酸化性ストレスのような条件下では、Hsp誘発は迅速であり、かつ強烈である。軽度の“ストレス”による熱ショックタンパク質の誘発は、前記タンパク質の誘発がなければ細胞死をもたらしうるような、その後に続く傷害又は損傷に対し防護を付与する。この詳細に記述された現象は“ストレス寛容”として知られている(Parsell et al. 1993)。
【0008】
腸の上皮細胞では、誘導性熱ショックタンパク質は、ストレス因子(例えば炎症細胞由来酸化体及び温度ストレス(例えば発熱))に対し何らかの細胞保護を伝達する。誘導性Hspはまた、敵対条件下で腸上皮細胞のバリアー機能の完全性を維持する(Chang, 1999;Musch et al. 1996;Musch et al. 1999)。熱ショックタンパク質の腸上皮細胞での誘発は、ストレス条件下での生存活性を延長させ(Musch et al. 1996)、さらに上皮貫通抵抗で測定したとき接着結合を維持する(Musch et al. 1999)。
生きたLGG細菌もまたp38MAPキナーゼを活性化すると報告されたが、ただし条件付け培養液(conditioned media)のみではいずれのMAPキナーゼについても影響は見られない(Yan et al. 2002)。使用された条件付け培養液は、MRSブロスで前記細菌を増殖させ、続いて沈殿、洗浄し、さらに細菌を組織培養液に再懸濁してさらに2時間増殖させ、続いて使用前にろ過することによって調製された。
プロバイオティクスの使用には関心が高まりつつある。プロバイオティクスとは、多様な胃腸病(炎症性腸疾患(Gionchetti et al. 2000a)、過敏性腸症候群(Niedzielin et al. 2001)、ポーチティス(Gionchetti et al. 2000b;Gionchetti et al. 2003)の他にロタウイルス関連及び抗生物質関連下痢(Isolauri et al. 1991;Majamaa et al. 1995;Arvola et al. 1999)を含む)の治療において、摂取可能な微生物であって、それらの固有の栄養価を超える健康上の利益を有するものと定義される。それらの作用メカニズムはほとんど分かっていないが、プロバイオティクスは、腸粘膜に対して保護的、栄養的及び抗炎症性作用を有するようである。
【0009】
プロバイオティック生物、ラクトバシルスGGは、幼児及び小児の急性及びロタウイルス下痢(Isolauri et al. 1991;Majamaa et al. 1995)の治療に、さらにまた抗生物質関連下痢(Arvola et al. 1999;Kalliomaki et al. 2003)の治療に使用され成功した。ロタウイルス感染には上皮細胞表面とVP4スパイクタンパク質との最初の相互作用が必要であり、C-末端フラグメント、VP5*は細胞の膜透過性獲得(ウイルスの侵入に必要である)のために必要であると考えられる(Zarate et al. 2000)。
プロバイオティクスはまたアトピー性疾患の治療及び予防にも有用であることが証明されうる。いくつかの動物モデルでは、プロバイオティクスの使用は、C.パルブム(parvum)、H.ピロリ(pylori)及びカンジダ(Candida)感染に対して防護的であるようである。さらにまた、ラクトバシルスGGは、ネズミの大腸癌モデルで腫瘍負荷レベルを低下させることが示され、このプロバイオティック株はまた抗癌活性を有する可能性が示唆された(Goldin et al. 1996)。
プロバイオティクスは多くの疾病の経過を改善するように思われるが、プロバイオティック作用メカニズムほとんど理解されておらず、これがこの分野において認識されている弱点である。それらの作用及び宿主細胞との相互作用の背後にあるメカニズムを知ろうとする試みがほんのここ数年為されてきた。多くの可能な種々のメカニズムが提唱された。前記には粘液産生のアップレギュレーション、上皮バリアー機能の改善、IgA産生の増加、及び腸上皮での粘着部位の競合の増加の他に、有機酸、アンモニア、過酸化水素及びバクテリオシン(前記は病原性細菌の増殖を抑制する)の産生が含まれる。
IBD患者の腸内細菌叢のプロバイオティック物質による改変が治療方法として研究されつつあるが、プロバイオティック作用のメカニズムは不明のままである。さらにまた、プロバイオティクスの臨床的有効性は、細菌の集落形成の確立及び維持能力に大きく左右され、活性物質の信頼できる定常的産生に依存し、さらに、前記は統制不能の製剤組成及び前記活性物質のホメオパシーデリバリーによって制限される。さらにまた、生の細菌の使用は感染及び疾患の回避不能のリスクを与える。したがって、炎症性異常(例えば炎症性腸疾患)を予防又は治療するために、単離された、生物活性を有するプロバイオティック因子及びより効果的な治療法に対する要求が存在する。
【0010】
発明の要旨
本発明は、ラクトバシルスGGによって分泌され、さらに熱ショックタンパク質の発現を誘発する生物活性を有する細胞保護化合物を提供することによって、当業界における前述の少なくとも1つの要求を満たす。熱ショックタンパク質の細胞保護作用は炎症に対する細胞の防護を高めることができる。したがって、本発明の化合物はIBD及び他の炎症性疾患を治療する方法及び組成物を提供する。
理論に拘束されることは望まないが、腸上皮細胞機能に対するプロバイオティクスの保護的及び有益な作用は、プロバイオティック作用のメカニズムの1つには細胞保護性熱ショックタンパク質の誘発が含まれうることを示しているということは注目される。本明細書は、プロバイオティックLGGによって合成されるペプチドは、転写因子HSF-1による転写調節を必要としながら時間依存性及び濃度依存性態様で細胞保護性熱ショックタンパク質をネズミの腸上皮細胞で誘発する能力を有することを明らかにする。さらに興味深いことに、本発見は、LGG由来の条件付け培養液は酸化体ストレスに対する防護を提供し上皮細胞の熱ショックタンパク質をアップレギュレートするだけでなく、それらはまたシグナルトランスダクション経路も調節することを示す。
【0011】
ある特徴では、本発明は、ラクトバシルスGG由来の単離された細胞保護化合物、例えばラクトバシルスGG-条件付け培養液を含む組成物を提供する。本明細書で用いられる、“由来する”とは、直接的単離によるか、又は例えば本明細書に開示されるか若しくは本明細書の開示を考慮して日常的な方法を用いて決定されるような特徴に基づいて、最終的に前記ラクトバシルスGGから得られることを意味する。本化合物は当業界で公知の任意の技術、例えば組換え発現、化学合成などを用いて得られる。ある種の実施態様では、前記細胞保護化合物は、少なくとも1つの熱ショックタンパク質の発現を誘発する。好ましい実施態様では、前記細胞保護化合物はHsp25及びHsp72の少なくとも1つの発現を誘発する。本発明のいくつかの実施態様では、前記細胞保護化合物はタンパク質である。さらに、前記タンパク質が熱安定性である実施態様も存在する。本明細書で用いられる、“熱安定性”は、水で20分煮沸後に検出可能な活性を保持することができるタンパク質をいう。本発明の細胞保護タンパク質の活性は、少なくとも1つの熱ショックタンパク質、例えばHsp25又はHsp72の発現を誘発するその能力をアッセイすることによって決定することができる。いくつかの実施態様では、前記タンパク質は酸安定性である。本明細書で用いられる、“酸安定性”は、7.0より低いpHでもっとも活性が強いタンパク質をいう(この場合、活性はHsp25の発現を誘発するタンパク質の能力によって決定される)。いくつかの実施態様では、前記タンパク質は10kDa未満の分子量を有する。好ましい実施態様では、前記細胞保護化合物は、熱安定性、酸安定性であり、10kDa未満の分子量を有するタンパク質である。いくつかの実施態様では、前記細胞保護化合物は、熱及び酸化から成る群から選択されるストレスから上皮細胞を保護する。また別の好ましい実施態様では、前記単離された細胞保護化合物は、ラクトバシルスGGから単離されうる性能、上皮細胞(例えば腸上皮細胞)でHsp25及びHsp72の発現を誘発する性能、10kDa未満の分子量を有し、さらに酸安定性及び熱安定性の両安定性を有するタンパク質である。
【0012】
本発明のまた別の特徴は、炎症性疾患をもつ対象者(例えば人間の患者)を治療する方法を提供する。前記方法は、ラクトバシルスGG-条件付け培養液に由来する単離された細胞保護化合物の治療的に有効な量又は用量を前記患者に投与することを含む。本明細書で用いられる、“治療的に有効な量”は、炎症性疾患の発症の抑制又はその速度を遅らせることによって、そのような疾患の経過を予防、緩和するか又は前記に影響を及ぼす検出可能な有益な作用を示す量である。この方法にしたがって治療するために適した例示的炎症性疾患は、炎症性腸疾患、例えばクローン病及び潰瘍性大腸炎である。いくつかの実施態様では、細胞保護化合物は、少なくとも1つの熱ショックタンパク質(例えばHsp25及び/又はHsp72)の発現を誘発する。
本発明の関連する特徴は、炎症性疾患の症状又は炎症疾患に付随する症状を緩和する方法である。前記方法は、ラクトバシルスGG(例えばラクトバシルスGG培養液)に由来する単離された細胞保護化合物の治療的に有効な用量を、対象者(例えば人間の患者)に投与することを含む。本発明のこの特徴の例示的な実施態様は、炎症性腸疾患、例えばクローン病又は潰瘍性大腸炎の症状を緩和する方法である。前記に関連する本発明の特徴は、炎症性疾患を予防する方法を提供し、前記方法は、ラクトバシルスGGに由来する単離された細胞保護化合物、例えばラクトバシルスGG-条件付け培養液に存在する単離された細胞保護化合物を対象者、例えば人間の患者に投与することを含む。
【0013】
炎症性疾患は自己免疫疾患でもよい。本発明にしたがって治療することができる自己免疫疾患の例には、慢性関節リウマチ、若年性関節リウマチ、変形性関節症、乾癬性関節炎、アトピー性皮膚炎、湿疹性皮膚炎、乾癬、シェーグレン症候群、クローン病、アフタ性潰瘍、虹彩炎、結膜炎、角結膜炎、潰瘍性大腸炎、喘息、アレルギー性喘息、皮膚エリテマトーデス、皮膚硬化症、膣炎、回帰反応性癩(leprosy reversal reactions)、癩性結節性紅斑、自己免疫性ブドウ膜炎、多発性軟骨炎、スティーヴェンズ-ジョンソン症候群、扁平苔癬、サルコイドーシス、原発性胆汁性肝硬変、後部ブドウ膜炎、間質性膀胱炎、又は間質性肺線維症が含まれる。
好ましい実施態様では、前記炎症性疾患は炎症性腸疾患である。例示的な実施態様では、前記炎症性腸疾患はクローン病である。また別の本発明の例示的な実施態様では、前記炎症性腸疾患は潰瘍性大腸炎である。さらに他の実施態様では、投与される化合物は少なくとも1つの熱ショックタンパク質(例えばHsp25及び/又はHsp72)の発現を誘発する。
炎症性疾患に付随する症状を治療、緩和する方法又は炎症性疾患を予防する方法では、本発明は、本明細書に開示する細胞保護化合物を含む医薬組成物の有効量又は用量を対象者(例えば人間の患者)に投与することを含む。そのような医薬組成物は下記に記載される。
【0014】
本発明のまた別の特徴は、少なくとも1つの熱ショックタンパク質(例えばHsp25及び/又はHsp72)の細胞内発現を誘発する方法を提供する。前記方法は、ラクトバシルスGGに由来する単離された細胞保護化合物(例えばラクトバシルスGG-条件付け培養液に存在する細胞保護化合物)と前記細胞を接触させることを含む。ある種の実施態様では、本発明は、Hsp25及びHsp72の一方又はその両方の細胞内発現を誘発する方法を提供する。前記方法は、ラクトバシルスGG又はラクトバシルスGG-条件付け培養液から単離された細胞保護化合物と前記細胞を接触させることを含む。ある種の実施態様では、上皮細胞(例えば腸上皮細胞)を前記単離された細胞保護化合物と接触させる。他の実施態様では、前記細胞は免疫細胞(例えば樹状突起細胞)である。
本発明のまた別の特徴は、ラクトバシルスGGに由来する単離された細胞保護化合物(例えばラクトバシルスGG-条件付け培養液で見出されるか又は前記から精製されるもの)、及び少なくとも1つの医薬的に許容できる賦形剤を含む医薬組成物を提供する。ある種の実施態様では、前記医薬的に許容できる賦形剤はポリエチレングリコールである。前記細胞保護化合物又は生物活性物質は“単離された形態”として存在し、前記単離された形態とは、前記化合物がラクトバシルスGG細胞又は培養液中で天然の状態では一緒に見出される少なくとも1つのタンパク質から、前記化合物が分離されてあることを意味する。本発明のこの特徴のいくつかの実施態様では、前記化合物は少なくとも1つの熱ショックタンパク質(例えばHsp25及び/又はHsp72)の発現を誘発する。
【0015】
また別の特徴では、本発明は単離された細胞保護化合物を製造する方法を提供する。前記方法は、ラクトバシルスGGを入手し、ラクトバシルスGGから細胞保護化合物を単離する工程を含む。上記に特筆したように、細胞保護化合物の単離された形態とは、前記化合物がラクトバシルスGG細胞又は培養液中で天然の状態では一緒に見出される少なくとも1つのタンパク質から、前記化合物が分離されてあることを意味する。ラクトバシルスGGを入手する工程では、そのような細胞集塊を得るか、又はそのような細胞を適切な培養液(例えばMRS)で増殖若しくは培養し、それによって条件付け培養液中の細胞を入手してもよい。ある実施態様では、細胞保護化合物の産生を担保するために少なくとも8時間の培養時間が意図される。ある種の実施態様では、前記細胞保護化合物はタンパク質である。いくつかの実施態様では、前記細胞保護化合物は、熱安定性及び/又は酸安定性であり、及び/又は10キロダルトン(kDa)未満の分子量を有する。さらに別に特徴では、本発明はさらに前記細胞保護化合物の性状を決定する工程及び/又は前記を同定する工程を含む。
当業者はタンパク質を単離する方法については熟知しているであろう。例えば、本発明の細胞保護タンパク質は、HPLC、FPLC、疎水性LC、イオン交換LC、リガンド/アフィニティーLC、サイズ排除LC、薄層クロマトグラフィー、膜ろ過、等電点分離(isoelectric focusing)、ポリアクリルアミドゲル電気泳動又は前記方法の任意の組合せによって単離することができる。
【0016】
本発明の化合物の細胞保護特性の性状を決定する方法は当業者には周知であろう。細胞保護活性の指標には、例えば熱ショックタンパク質の発現を誘発する能力、及び炎症性疾患をもつ対象者で細胞損傷を低下させる及び/又は創傷治癒を促進する能力が含まれる。したがって、本発明の化合物の性状を決定するあるアプローチは、熱ショックタンパク質の誘発をアッセイすることである。本発明の化合物の性状を決定するまた別のアプローチは、対象者で細胞損傷を低下させる及び/又は創傷治癒を促進する化合物の能力をアッセイすることであろう。
タンパク質を同定する方法は当業者には公知である。例えば、細胞保護タンパク質は、サンプルを6Nの加水分解に付し、続いて問題のペプチドを構成する全ての個々のアミノ酸を同定するためにHPLC-マスシークェンシングを実施することによって同定することができる。さらにまた、分子内アミノ酸配列は、容易に識別されるトリプシンフラグメントから決定することができる。これらのフラグメントのアミノ酸配列は、フライト質量分析のマトリックス補助レーザー脱着イオン化時間(matrix-assisted laser desorption ionization-time of flight mass spectrometry;MALDI-TOF)によって決定することができる。続いてアミノ酸配列を関連するデータベース(例えばSwissProt、GenBank)と比較し、問題のタンパク質又はペプチドを同定する。
また別の特徴では、本発明の方法はさらに多くの細胞保護化合物を入手する工程を含む。さらに多くの細胞保護化合物は当業者に公知の任意の方法によって入手することができる。例えば、さらに多くの細胞保護化合物は、ラクトバシルスGG又はラクトバシルスGG-条件付け培養液から単離することによって入手することができる。また別には、さらに多くの細胞保護化合物は、前記細胞保護化合物をコードする組換えDNAの発現によって入手することができる。
【0017】
また別の特徴では、本発明の方法は、前記さらに多くの細胞保護化合物を医薬組成物に加える工程をさらに含む。ある種の特徴では、本発明の方法はさらに、炎症性疾患を持つ対象者に前記医薬組成物を投与する工程を含む。前記対象者は哺乳動物でありうる。前記対象者は好ましくは人間である。
本発明のまた別の特徴では、細胞保護ポリペプチド化合物をコードする単離ポリヌクレオチドが提供される。前記コードされるポリペプチドは以下の特性を特徴とする:ラクトバシルスGGから単離することができる;腸上皮細胞でHsp25及びHsp72の発現を誘発することができる;10kDa未満の分子量;及び酸安定性及び熱安定性特性。
本発明の更なる特徴は、上記記載の単離された細胞保護化合物を含む組成物を目的とし、ここで前記化合物は、上皮細胞内のシグナルトランスダクション経路を活性化し、Hsp25及びHsp72から成る群から選択される熱ショックタンパク質の発現をもたらす。特段の指摘がなければ、当業界で公知のようにHsp70はHsp72の同義語であるが、ただしHsp72はタンパク質のより正確な質量概算を含む。いくつかの実施態様では、活性化は、熱ショック因子-1(HSF-1)によって仲介される。いくつかの実施態様では、前記シグナルトランスダクション経路は、MAPキナーゼ、SAPキナーゼ、ERK1及びERK2から成る群から選択されるキナーゼを含む。ある種の実施態様では、前記経路の活性化は、MAPキナーゼ、SAPキナーゼ、ERK1及びERK2から選択されるキナーゼの活性化を含む。
関連する特徴では、本発明は、上皮細胞でシグナルトランスダクション経路を活性化する方法を提供する。前記方法は、本明細書に開示した単離された細胞保護化合物の有効量と前記細胞を接触させることを含む。いくつかの実施態様では、前記シグナルトランスダクション経路は、MAPキナーゼ、SAPキナーゼ、ERK1及びERK2から成る群から選択されるキナーゼを含む。いくつかの実施態様では、前記単離された細胞保護化合物は医薬組成物の形態で投与される。
【0018】
本発明のさらに別の特徴は酸化体損傷を防ぐ方法を目的とし、前記方法は、本明細書に開示する単離された細胞保護化合物、又はそのような化合物を含む医薬組成物の有効量を細胞(例えば上皮細胞)に投与することを含む。
本発明のさらに別の特徴は細胞骨格を安定化させる方法であり、前記方法は、本明細書に開示する単離された細胞保護化合物、又はそのような化合物を含む医薬組成物の有効量を細胞(例えば上皮細胞)に投与することを含む。
本発明のまた別の特徴は炎症性疾患を予防する方法であり、前記方法は、本明細書に開示する医薬組成物の有効用量を対象者に投与することを含む。好ましい対象者は人間の患者である。
本発明のさらに別の特徴は、本明細書に開示する医薬組成物及び前記組成物の対象者への投与のためのプロトコルを含むキットである。意図される目的に適切した、当業界で公知のいずれの投与プロトコルも本発明によって想定される。好ましい対象者は人間の患者である。
本明細書に記載されるいずれの方法又は組成物も、本明細書に記載されるその他のいずれの方法又は組成物に対しても提供しうることが予想される。
特許請求の範囲の“又は”という用語の使用は、選択されたもののみを指すか、又は選択されたものが相互に排除されることが明快に指摘されないかぎり“及び/又は”を意味するために用いられるが、ただし明細書では、選択されたもののみ及び“及び/又は”を指す定義が支持される
本出願の全体を通して、“約”という用語は、ある値が前記値を決定するために用いられた装置又は方法による誤差の標準偏差を含むことを示すために用いられる。
“a”及び“an”は、特許請求の範囲又は明細書中で“含む”という単語と一緒に用いられるときは、特段の規定がなければ1つ又は2つ以上を示す。
本発明の他の特色及び利点は後続の詳細な説明から明白となるであろう。しかしながら、後続の詳細な記載及び具体的な実施例は、本発明の特定の実施態様を示す一方で、単に例示として提供されることは理解されよう。なぜならば、当業者には本発明の範囲内において多様な変更及び改変がこの詳細な記載から明白になりうるからである。
【0019】
発明の詳細な説明
A.概論
プロバイオティクスは生きた生物であり、フードサプリメントにもっとも多く見出され、それらの栄養的価値を超える健康上の利点を提供する。本発明のプロバイオティック化合物は、宿主に対して多くの有益な作用を有すると期待される。一般的なプロバイオティックであるラクトバシルスGGによって産生される可溶性因子は上皮細胞に作用して、細胞保護性熱ショックタンパク質Hsp25及びHsp72の時間依存性及び濃度依存性誘発をもたらす。LGGによって産生される可溶性因子がHsp産生のために十分であり、生きた細菌は要求されない。Hspタンパク質の実際の出現には数時間を要するが、細胞がほんの数分間LGG-CMに暴露される除去実験では、上皮細胞に熱ショックタンパク質をアップレギュレートさせるシグナルを開始させるために必要な時間は非常に短いことが示され、LGG-CMから上皮細胞へ開始シグナルが伝達される際に、シグナルトランスダクション経路が役割を果たすことが示唆された。多くのタンパク質キナーゼがストレス応答時に活性化されることが知られており、LGG-CM暴露は多数のMAPキナーゼを活性化することが確認された。我々のYAMC細胞では基準レベルの活性化ERK1/2が存在するが、LGG-CM前処理は、フォルボルエステルと同様に効果的にERK1/2を活性化し、さらにp38及びJNKもまた活性化する。LGG-CM暴露前のp38及びJNKの阻害剤による細胞処理は、LGG-CMによるHsp72の誘発を阻害したが、Hsc73発現には影響はなかった。このことは、これら2つのMAPキナーゼは、LGG-CMに暴露されることによって引き起こされる誘導性Hspの発現開始に要求される細胞シグナルの伝達に役割を有することを示している。他の実験によって、p38及びJNKは、ERK1/2とは別個の共通経路を通じて作用することが明らかにされた(Liu et al. Free Radic. Biol. Med. 21:771-781, 1996)。これらの結果は、LGG-CMは上皮細胞のシグナルトランスダクションに影響を及ぼすことを明らかにし、したがって、Hsp産生のための少なくとも1つの迅速なシグナリングが少なくとも1つのシグナルトランスダクション経路を介して開始されることを示している。
【0020】
プロバイオティックラクトバシルスGGから得られる条件付け培養液(LGG-CM)(本明細書の全体を通して“medium”及び“media”は互換的に用いられ、文脈から明白な単数又は複数として用いることができる)は、腸上皮細胞で熱ショックタンパク質の発現を誘発する。Hsp25及びHsp72の両方が、時間依存性及び濃度依存性態様でLGG-CMによって誘発される。さらにまた、これらの作用は、酸及び熱安定性の両安定性を示す低分子量ペプチドによって仲介される。DNAマイクロアレー実験によって、上皮細胞では、Hsp72(Hsp70)は、LGG-CM処理に対する応答でもっとも強くアップレギュレートされる遺伝子の1つであることが示された。リアルタイムPCR及び電気泳動移動度シフトアッセイによって、Hsp誘発の調節は少なくとも部分的に転写性であり、転写因子HSF-1を必要とすることが確認される。Hspは暴露後数時間誘発されないとしても、LGG-CMへの一過性の暴露がHsp誘発のためのシグナルを開始させるために十分であり、さらに応答の迅速性が仮定されるならば、そのような迅速な時間は、シグナルトランスダクション経路が中心的に関与する可能性を示唆する。LGG-CMは、MAPキナーゼを活性化することによって腸の上皮細胞においてある種のシグナリング経路の活性化を調節することが実験によって確認される。p38及びJNKの阻害物質は、LGG-CMによって通常誘発されるHsp72の発現を阻止する。機能実験によって、腸上皮細胞のLGG-CM処理は、それら細胞を酸化体ストレスから保護し、さらに細胞骨格の完全性を保存することが示される。腸上皮細胞で細胞保護性Hspの発現を誘発することによって、及び/又はシグナルトランスダクション経路を活性化させることによって、LGG-CMによって分泌される単離ペプチド生成物は、このペプチドの有益な臨床作用に貢献する。
【0021】
本発明は、生物活性化合物がラクトバシルスGG(LGG)(プロバイオティック細菌)から単離されうることを示す。生きた細菌に代わって、細菌を含まないプロバイオティック由来化合物は、生きた細菌の使用を超える安全性という利点を提供する。さらにまた、単離された化合物の臨床的有効性は、プロバイオティクスの有効性(前記は細菌の集落形成の確立及び維持に左右される)よりも高い一貫性を有するであろう。
熱ショックタンパク質の誘発をもたらす、LGG-CMに存在する因子は低分子量ペプチドであり、前記は驚くべきことに酸安定性及び熱安定性である。これらの特性は、それらがGI管を通過する際に腸の敵対的環境で生存するためにそのような分泌因子について要求される復元力を提供することができる。腸管腔の中央部の物理化学的環境は上皮表面で見出される環境とは非常に異なっているということを特筆することはまた重要であろう(上皮表面はより酸性傾向が強い(Rechkemmer et al. 1986))。この酸性のミクロ環境は、例えば膜輸送、薬剤摂取及び栄養吸収のような機能において重要な役割を果たすと考えられる(Sanderson, 1999)。前記酸性ミクロ環境は、ある種のジペプチドの腸上皮細胞内への輸送に対し直接的な影響を示す(Lister et al. 1995)。LGG-CM中の生物活性を有するペプチドがレセプター仲介経路を介して作用するならば、その独特の酸安定特性は、上皮細胞表面のレセプターと結合し、細胞保護性Hspの誘発を開始させるその能力において重要な役割を果たしうる。
したがって、本発明の化合物は、炎症性疾患(例えばIBD)の治療のために、当業界でこれまでに利用可能であった治療方法より優れた新規な治療方法を提供するであろう。ある特徴では、本発明は、ラクトバシルスGGから単離可能又は誘導可能な単離された細胞保護化合物を含む組成物を提供する。さらにまた、本発明は、炎症性疾患をもつ患者の少なくとも1つの公知の症状を予防、治療又は緩和する方法を提供する。前記方法は、ラクトバシルスGGに由来する細胞保護化合物の有効な用量又は量を前記患者に投与することを含む。他の特徴では、本発明は、ラクトバシルスGG-条件付け培養液に由来する、細胞保護特性を有する化合物を単離及び性状決定する方法を提供する。
【0022】
B.細胞保護化合物の同定及び性状決定
本発明は、細菌培養に由来する、細胞保護特性を有する化合物を同定及び性状決定する方法を提供する。本発明はまた、プロバイオティック生物から単離することができる細胞保護化合物を、細胞保護組成物及び炎症性疾患の少なくとも1つの症状の治療、予防若しくは緩和に有用な方法と同様に提供する。
1.細胞保護化合物の単離
いずれの細菌株又はプロバイオティック製剤も、細胞保護化合物のスクリーニングに適している。好ましくは、前記細菌は非病原性の腸内細菌である。本明細書に開示される例示的な実施態様では、前記細菌はラクトバシルスGGである。細菌の培養方法は当業者には周知である。MRSブロスが、ラクトバシルス種の単離及び培養に一般的に用いられる。例えば、ラクトバシルスGGは、37℃で5%CO2の微好気性条件下でMRSブロスで容易に増殖する。ラクトバシルス種の培養のためのまた別の培養液の例はトマトジュースブロスである。
前記細胞保護化合物は、ラクトバシルスGG-条件付け培養液中に見出される可溶性因子であると決定した。これら化合物の同定及び性状決定を容易にするために、培養液から細菌細胞を除去することが好ましい。当業者は、培養液中の可溶性因子から細胞を分離する方法を熟知しているであろう。例えば、前記細胞は、遠心、ろ過又は両技術の組合せによって除去することができる。細菌細胞の除去に続いて、単離された細胞保護化合物をさらに精製及び性状決定しうる供給源として、前記“条件付け培養液”が用いられる。
【0023】
(a)他の分離技術:
当業者に公知の他の分離技術もまた、条件付け培養液の分画に有用で、それによってプロバイオティック因子(すなわち生物活性物質)の単離に有用であろうと予想される。高速液体クロマトグラフィー(HPLC)は、比類のないピーク分析をもたらす非常に迅速な分離を特徴とする。これは、非常に微細な粒子及び高圧を使用して適切な流速を維持することによって達成される。分離は、分の次元で、たいていの場合は1時間で達成されうる。さらにまた、空隙容積がベッド容積の極めて小さな部分を占めるように粒子は非常に小さく、さらに緊密に充填されているので、非常にわずかな容積のサンプルが要求されるだけである。さらに、バンドが非常に細くサンプルがほとんど希釈されないので、要求されるサンプル濃度はそれほど高くない。
高速タンパク質液体クロマトグラフィー(fast protein liquid chromatography;FPLC)は、タンパク質分離に一般的に用いられる技術である。FPLCは、低圧下で実施される基本的にはHPLC形であり、セルロース又はデキストランのような不活性な物質から製造された“樹脂”に特異的な結合特性を与えるために化学的側鎖基が結合されてあるものが用いられる。前記側鎖はクロマトグラフィーのタイプを決定する。例えば、疎水性LCはタンパク質が含有する疎水性アミノ酸の量によってそれらを分離し、イオン交換LCは荷電アミノ酸の数及びタイプによってタンパク質を分離し、リガンド/アフィニティーLCは一定の基質、染料又は抗体に対するタンパク質の特異性によってタンパク質を分離し、サイズ排除LC(又はゲルろ過)はそれらのサイズによってタンパク質を分離する。
【0024】
ゲルろ過クロマトグラフィー(又は分子篩クロマトグラフィー)は、分子のサイズを基準にする特殊なタイプの分配クロマトグラフィーである。ゲルクロマトグラフィーを支える理論は、小孔を有する不活性物質の微粒子を用いて調製されたカラムは、小分子から大分子を、それら分子がサイズに応じて前記孔の中を通過するか又は孔の周りを通るために分離することができるということである。前記粒子を製造した物質が分子を吸着しないかぎり、流速を決定する唯一の因子はサイズである。したがって、分子は、形状が比較的一定であるかぎり、サイズの減少順にカラムから溶出する。ゲルクロマトグラフィーは、他の全ての因子(例えばpH、イオン強度、温度など)に分離が左右されないので、種々のサイズの分子の分離のために卓越している。さらにまた、実質的に吸着が存在せず、ゾーン拡散が少なく、溶出容積は単純な態様で分子量に相関する。
さらにまた、条件付け培養液は、特定の分子量カットオフをもつフィルターを通してもよい。例えば、本発明のいくつかの分画は、特定の分子量カットオフをもつセントリコンフィルターを通して調製された。
荷電を基準にする分離技術もまた意図される。そのような技術の1つはイオン交換クロマトグラフィーである。イオン交換クロマトグラフィーを用いれば、サンプルは荷電マトリックスに可逆的に結合する。ジエチルアミノエチル(DEAE)及びカルボキシメチル(CM)セルロースが一般的に用いられる。続いて、脱着が、移動相の塩濃度の増加によって又はpHの変更によって生じる。本明細書に開示されるクロマトグラフィーのデータによれば、LGG-CM中の細胞保護因子は低pHで安定であり、その等電点は低いと予想され、したがって前記タンパク質は陰性に荷電されているはずで、荷電による分離技術のための良好な候補物質であることが確認される。したがって、単離のための1つのアプローチは、前記条件付け培養液を当業界で公知のように、適切に誘導した(例えば陽性荷電をもつ官能基を所望のpHで導入した)モノSカラムで、陰イオン交換クロマトグラフィーに付すことを必要とする。単離を迅速に行うために、これらのカラムはFPLC系で用いることができよう。
【0025】
電荷を基準に化合物を分離するための当業者に公知のまた別の技術はIEF(等電点分離)である。典型的にIEFを利用する1つのアプローチは二次元電気泳動である。二次元電気泳動は当業界で公知の方法を用いて実施することができる(例えば米国特許第5,534,121号及び6,398,933号を参照されたい)。典型的には、サンプル中のタンパク質は先ず初めに等電点分離によって分離され、その間にサンプル中のタンパク質は、それらの正味の荷電がゼロ(すなわち等電点又はpI)のスポットに達するまで、pHグラディエント中でpIによって分離される。この最初の分離工程はタンパク質の一次元アレイをもたらす。前記一次元アレイのタンパク質は、最初の分離工程で用いられた技術と全般的に別個の技術を用いて二次元でさらに分離される。例えば、等電点分離で分離されたタンパク質は、二次元ではポリアクリルアミドゲルを用いて、例えばドデシル硫酸ナトリウムの存在下でポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)を用いてさらに分離される。SDS-PAGEゲルはタンパク質の分子質量を基準にして更なる分離を可能にする。
二次元アレイのタンパク質は、当業界で公知の任意の適切な方法を用いて検出することができる。タンパク質の染色は、比色染料(例えばクマシーブルー)、銀染色及び蛍光染色(例えばルビーレッド)を用いて実施することができる。当業者には公知のように、タンパク質スポットをゲルから切り出し、気相イオン分光分析法(gas-phase ion spectrometry)によって分析することができる。また別には、タンパク質はゲルから不活性なメンブレンに(例えば電場を利用して)移し、気相イオン分光分析法によって分析することができる。
上記に記載したタンパク質分離技術は、単独で又は任意の組合せで用いることができる。精製又は単離過程で、細胞保護活性を保持する分画を追跡するために分画をアッセイすることが望ましい。例えば、培養液又は分画を、少なくとも1つの細胞保護性熱ショックタンパク質の発現を誘発する能力についてスクリーニングすることができる。これらのアッセイは下記でさらに詳細に記載する。生物学的活性を有する調製物はアリコットとして凍結し、抗炎症性及び細胞保護性化合物の同定、精製及び将来の製造のために後日用いることができる。
【0026】
2.細胞保護化合物の同定
本発明の細胞保護化合物は、当業界で公知のタンパク質の同定方法によって同定される。
例えば、条件付け培養液は先ず初めに分画され、前記分画は生物活性(例えば熱ショックタンパク質発現の誘発能力)について検査されよう。活性を保持する分画の純度は、例えばPAGEとそれに続く銀染色分析によって決定される。活性成分が均一になるまで分解したら、タンパク質は少なくとも2つの方法で分析することができる。第一に、サンプルを真空の試験管で24時間HClを用いて6Nの加水分解及び前記に続くHPLCマスシークェンシングに付すことによってアミノ酸分析を実施して、問題のペプチドを構成する個々のアミノ酸の全てを同定することができる。第二に、容易に識別できるトリプシンフラグメントから分子内アミノ酸配列を決定することができる。単離されたタンパク質は典型的には濃縮され、続いてトリプシンで処理される。フラグメントを乾燥させ、続いてC18逆相HPLCで分解し、ピークのアミノ酸配列をフライト質量分析のマトリックス補助レーザー脱着イオン化時間(matrix-assisted laser desorption ionization-time of flight mass spectrometry;MALDI-TOF)によって決定することができる。続いてアミノ酸配列を公知の1つ又は2つ以上の配列(例えば任意の公知のデータベース(SwissProt、GenBank)で見出される配列)と比較し、問題のタンパク質又はペプチドを同定する。
【0027】
3.細胞保護化合物の性状決定
LGG-条件付け培養液中で見出される化合物を、本明細書に記載した方法又は当業界で公知の方法を用いて細胞保護特性についてアッセイすることができる。細胞保護活性についての指標には、例えば熱ショックタンパク質の発現を誘発する能力及び炎症性疾患をもつ対象者で炎症を低下させる能力が含まれる。
(a)熱ショックタンパク質:
本明細書に開示するデータは、LGG-条件付け培養液が熱ショックタンパク質、特に少なくともHsp72及びHsp25の発現を誘発することを示す。熱ショックタンパク質は、環境的ストレス因子から細胞を保護するタンパク質ファミリーである。Hsp72は、極めて重要な細胞性タンパク質と結合して安定化させ、それらの変性を防ぐ。前記はまた、ミトコンドリアの完全性の維持、チトクロームCの漏出の阻害及びカスパーゼ8活性の封鎖により抗アポトーシス作用を有する(Liu et al. 2003)。Hsp25/27はアクチン安定化物質であり、細胞骨格及び接着結合の機能を保存する。熱ショックタンパク質の発現を誘導する能力は、LGG-条件付け培養液中の活性な化合物が細胞保護性であることを示している。
熱ショックタンパク質の誘発を分析する方法は当業者には公知である。例えば、Hsp72及びHsp25の誘発は、特異的なアイソフォームに対するモノクローナル抗体(Stressgen)を用いる標準的なウェスタンブロット分析によって実施することができる。構成的熱ショック同族体、Hsp60及びHsc73の免疫ブロットを実施して、応答の特異性を確認し、さらにレーンの等しいローディングを担保することができる(これらのタンパク質の発現は通常は一定である)。さらにまた、抗体を用いる免疫蛍光及びELISAによって熱ショックタンパク質の発現を検出することができる。
熱ショックタンパク質の誘発を分析する他の方法には、例えばRT-PCR、ゲノムマイクロアッセイ及びリアルタイムPCRを用いるHspのmRNAレベルのアッセイが含まれる。熱ショックタンパク質の誘発を分析するまた別のアプローチは、転写因子HSF-1の結合を見る電気泳動移動度シフトアッセイの使用である。さらにまた、HSE-ルシフェラーゼレポーターアッセイを用いて転写因子HSF-1の活性を測定することができる。
【0028】
(b)動物モデル:
本発明の化合物の性状決定は、多様な動物モデルの使用を含むことができる。前記動物モデルには、特定の欠損を有するように、又はマーカーを含むように操作されたトランスジェニック動物が含まれ、前記動物は、体内の種々の細胞に到達し、前記細胞に影響を与える候補物質の能力を測定するために用いることができる。それらの大きさ、扱い易さ、それらの生理学及び遺伝的構成に関する情報、及びヒトの炎症モデルとして技術的に認知された有効性から、マウスが、特に遺伝子導入研究のために好ましい動物モデルである。しかしながら、他の動物も同様に適切であり、前記には例えばラット、ウサギ、ハムスター、モルモット、アレチネズミ、ウッドチャック、ネコ、イヌ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ウシ、ウマ及びサル(チンパンジー、テナガザル及びヒヒを含む)が含まれる。アッセイは、これらの種のいずれかに由来する動物モデルを用いて実施することができる。
大腸炎のマウスモデルのいくつかの例には、DSS-誘発大腸炎モデル、IL-10ノックアウトマウス、A20ノックアウトマウス、TNBS-誘発大腸炎モデル、IL-2ノックアウトマウス、TCRアルファレセプターノックアウトマウス及びE-カドヘリンノックアウトマウスが含まれる。
動物のテスト化合物(又は候補化合物)による処理は、適切な形態の化合物の動物への投与を必要とする。当業者に公知の任意の炎症疾患モデル動物が用いられる。投与は、臨床的又は非臨床的目的のために用いることができる任意のルートによって実施される。例えば、化合物は、胃管強制給餌又は直腸投与によってデリバーされる。さらにまた、化合物の保護作用は、動物モデルで例えば大腸炎を誘発する前に化合物を投与することによってアッセイされる。
また別には、化合物の治療効果は、動物モデルで例えば大腸炎を誘発した後で化合物を投与することによってアッセイされる。
化合物のin vivoでの有効性の決定は多様な異なる基準を必要とする。当業者は、対象者(前記が動物であれ人間であれ)で炎症をアッセイするために利用可能な広範囲の技術を熟知していよう。例えば、炎症は、組織学的評価及び大腸炎の重篤度の等級付けによって測定される。対象者で炎症をアッセイする他の方法には、例えばミエロペルオキシダーゼ(MPO)活性、輸送活性、ヴィリン発現又は経皮電気抵抗(TER)の測定が含まれる。
化合物の有効性はまた、細胞増殖を判定する検査を用いてアッセイすることができる。例えば、細胞増殖は、5-ブロモ-2'-デオキシウリジン(BrdU)の取り込みを測定することによってアッセイすることができる。化合物の有効性を決定するまた別のアプローチはアポトーシスの程度の判定である。アポトーシスを調べる方法は当業界で公知であり、例えばTUNELアッセイが含まれる。
さらにまた、毒性及びドースレスポンスの測定は、in vitro又はin cytoアッセイよりも意義のある態様で、動物で実施することができ、当業界では日常的な方法である。
【0029】
C.医薬組成物
本発明の組成物は有効量の細胞保護化合物を含み、前記は医薬的に許容できる担体及び/又は水性媒体に溶解及び/又は分散することができる。
本発明の細胞保護化合物は、当業者に公知の任意の方法によってデリバーされる(例えば“Remington's Pharmaceutical Sciences”(15th Edition)を参照されたい)。例えば、前記医薬組成物は経口的、直腸的、非経口的又は局所的にデリバーすることができる。
本発明の化合物を含む溶液は、界面活性剤(例えばポリエチレングリコール(PEG)又はヒドロキシプロピルセルロース)と適切に混合された水で調製することができる。通常の保存及び使用条件下では、これらの調製物は微生物の増殖を防ぐために保存料を含む。注射に使用できる適切な剤形は、無菌的な注射可能溶液又は分散液を即席に調製するために、無菌的水溶液又は分散液及び無菌的粉末を含む。前記剤形は通常無菌的であるべきであり、さらに操作可能な注入性が存在しうる程度に流動性でなければならない。前記は製造及び保存条件下で安定でなければならず、さらに微生物(例えば細菌及び菌類)の汚染作用から防御されねばならない。
例えば水溶液での非経口投与のために、必要な場合は溶液を適切に緩衝化し、さらに希釈液は先ず初めに十分な塩類又はグルコースで等張にされる。これら特定の水溶液は、特に静脈内、筋肉内、皮下、腫瘍内及び腹腔内投与に適切である。この関連において使用できる無菌的水性媒体は、本開示を考慮すれば当業者には明らかであろう。
【0030】
座薬もまた用いることができる。座薬は、多様な重量及び/又は形状をもつ固体(ゲルを含む)剤形であり、通常は直腸、膣及び/又は尿道への挿入のために投薬される。挿入後、座薬は軟化、溶融及び/又は体腔液中で溶解する。一般的には、座薬のために慣例的な結合剤及び/又は担体(例えばポリアルキレングリコール及び/又はグリコール及び/又はトリグリセリド)が含まれうる。そのような座薬は、例えば0.5%から10%、好ましくは1%から2%の範囲の活性成分を含む混合物から形成することができる。本発明の医薬組成物はまた浣腸によってデリバーすることもできる。
経口製剤は、通常用いられる賦形剤、例えば医薬等級のマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウムなどを含む。前記組成物は、溶液、懸濁液、錠剤、ピル、カプセル、徐放製剤及び/又は散剤の形態をもつ。ある種の限定的態様では、経口医薬組成物は不活性な希釈剤及び/又は同化吸収性食用担体を含んでいてもよく、及び/又はそれらは硬質シェル-及び/又は軟質シェル-ゼラチンカプセル中に封入されてあってもよく、及び/又はそれらは錠剤に打錠されてもよく、及び/又はそれらは食事療法の食品中に直接取り込まれてもよい。経口用治療薬の投与のためには、活性化合物は賦形剤とともに取り込ませるか、及び/又は摂取可能な錠剤、頬内錠剤、トローチ、カプセル、エリキシル、懸濁液、シロップ、ウェファースなどの形で用いることができる。そのような組成物及び/又は調製物は少なくとも0.1%の活性化合物を含むべきである。組成物及び/又は調製物のパーセンテージはもちろん変動させることができ、及び/又は便利にはユニットの約2から約75%、好ましくは25から60%の間であろう。そのような治療的に有用な組成物中の活性化合物の量は、適切な服用量が得られるような量である(そのような量は当業界で公知であるか又は決定可能である)。
【0031】
錠剤、トローチ、ピル、カプセルなどはまた以下を含むことができる:結合剤、例えばトラガカントゴム、アラビアゴム、トウモロコシデンプン;賦形剤、例えばリン酸二カルシウム;崩壊剤、例えばトウモロコシデンプン、ジャガイモデンプン、アルギン酸など;滑沢剤、例えばステアリン酸マグネシウム;及び/又は甘味剤(例えばシュクロース、ラクトース及び/又はサッカリンを添加することができる);及び/又は香料、例えばペパーミント、冬緑油、及び/又はサクランボ香料。ユニット剤形がカプセルの場合、前記は上記のタイプの材料の他に液体担体を含むことができる。他の種々の材料も、コーティングとして及び/又は剤形の物理的形態の改変のために存在することができる。例えば、錠剤、ピル及び/又はカプセルは、シェラック、糖及び/又はその両方で被覆することができる。エリキシルのシロップは、活性化合物、甘味剤としてのシュクロース、保存料としてメチル及び/又はプロピルパラベン、色素及び/又は香料(例えばサクランボ及び/又はオレンジ香料)を含むことができる。
局所製剤には、活性化合物を含むクリーム、軟膏、ジェリー、ゲル、上皮溶液又は懸濁液などが含まれる。
人体への投与のためには、調製物は、FDAの生物製剤基準によって要求される無菌性、発熱源性、一般的安全性及び純度基準を満たさなければならない。
“医薬的に許容できる”及び“薬理学的に許容できる”という語句は、人体に投与されたときアレルギー反応又は同様な望ましくない反応を生じない分子物質及び組成物を指す。
細胞保護化合物の投与量及び投薬スケジュールは、対象者間で、例えば対象者の体重及び年齢、治療される疾患のタイプ、症状の重篤度、以前の又は併用される治療的介入、投与態様などを考慮して変動させることができ、前記は当業者には容易に決定しうる。
投与は、剤形に適合しうるいずれかの態様で、治療的に有効な量で実施される。投与されるべき量は治療される対象者に左右される。投与に要求される活性成分の正確な量は、医師の判断に左右される。
【0032】
D.実施例
以下の実施例は、本発明の好ましい実施態様を示すために含まれる。以下の実施例に開示される技術は、本発明を良好に実施するために本明細書に開示した技術を反映していることは当業者には理解されよう。しかしながら、本発明の開示を考慮すれば、本明細書に開示された具体的な実施態様において多くの改変を実施することが可能であり、さらに前記改変によりなお同様な結果が本発明の範囲を逸脱することなく得られることは当業者には理解されよう。
以下の実施例で報告される全ての実験は、それぞれ最低限3から6回くり返された。全ての数値は平均±前記平均の標準誤差として表される。複数の比較が実施されるときは、ボンフェローニ(Bonferroni)の修正を用いるANOVA分析を、群間の相違の有意性の判定に用いた。P<0.05は統計的に有意であると考えた。
【0033】
実施例1
培養
組織培養:YAMC(young adult mouse colon:若年成獣マウス結腸)細胞は、インモーティマウス(Immortimouse)に由来する、条件付き不朽化マウス結腸上皮細胞株である。これらの細胞は、温度感受性SV40大型T抗原(tsA58)のトランスジーンをMHCクラスIIプロモーターのインターフェロン-ガンマ感受性部分の制御下で発現する(Whitehead et al. 1993(前記文献は参照により本明細書に含まれる))。この特殊な特性によって、YAMC細胞は、インターフェロン-ガンマ(IFN-γ)の非存在下、37℃のノンパーミッシブ(非形質転換性)条件下で培養することができる。YAMC細胞は、5%(vol/vol)のウシ胎児血清、5U/mLのネズミIFN-γ(GibcoBRL, Grand Island, NY)、50μg/mLのストレプトマイシン及び50U/mLのペニシリンを含み、ITS-Xプレミックス(Collaborative Biomedical Products, Bedford, MA)を補充したRPMI1640培養液で、パーミッシブ(33℃)条件下で維持した。
インターフェロン-ガンマ(IFN-γ)の非存在下、37℃のノンパーミッシブ(非形質転換性)条件下で、これらの細胞は分化を開始し、成熟上皮細胞の機能及び特性(接着結合の形成、極性、微小絨毛性先端を有する膜及び輸送機能を含む)を発達させる。
各実験の前に、60mmの組織培養皿につき2x105細胞の密度で細胞を播種した。RNAの調製のためには、100mmの組織培養皿につき7.5x105細胞の密度で細胞を播種した。33℃で24時間増殖させた後、前記培養液をIFN-非含有培養液と交換し、細胞を37℃(ノンパーミッシブ条件)に移して24時間、分化した結腸細胞表現型を獲得させた。細胞をLGG-条件付け培養液(1:10希釈又は600μL)で一晩処理し、続いて次の日に採集した。熱ショックコントロールは、42℃で23分熱ショックを与え、続いて採集前に37℃で2時間維持した。
細菌培養:プロバイオティック細菌、ラクトバシルスGG(ATCC53103)は、MRSブロスで16時間ほぼ3x109CFU/mL(コロニー計測によって決定される)の濃度に増殖させ、続いて卓上ソーバル(Sorvall)遠心機(3000xg)で4℃、10分の低速で遠心した。MRSブロスは、ブロス1リットル当たり以下を含む:10gのバクトプロテオースペプトン(Bacto Proteose Peptone)#3、10gのバクトビーフエキストラクト、5gのバクトイーストエキストラクト、20gのバクトデキストロース、1.0gのポリソルベート80、2.0gのクエン酸アンモニウム、5.0gの酢酸ナトリウム、0.1gの硫酸マグネシウム、0.05gの硫酸マンガン、2.0gのリン酸二カリウム。上清(条件付け培養液)を0.22ミクロンのタンパク質低結合性ミレックス(Millex)フィルター(Millipore, Billerica, MA)でろ過して滅菌し、全ての細菌細胞を除去した。LGG-条件付け培養液のアリコットを無菌的な微量遠心管に-80℃で更なる使用まで保存した。
【0034】
実施例2
LGG-CMは腸上皮細胞でHsp25及びHsp72の発現を誘発する(ウェスタン分析)
腸上皮細胞をプロバイオティックLGG由来の条件付け培養液で処理し、続いて誘導性熱ショックタンパク質発現についてアッセイした。発現をウェスタンブロット分析するために、細胞を2回洗浄し、続いて氷冷PBS(137mMのNaCl、2.7mMのKCl、8mMのNa2HPO4, pH7.4)中に掻き取った。細胞を沈殿させ(14000xgで20秒、室温)、続いて氷冷溶解緩衝液(10mMトリス(pH7.4)、5mMのMgCl2、それぞれ50U/mLのDNAse及びRNAse、及び完全なプロテアーゼ阻害剤カクテル(Roche Molecular Biochemicals, Indianapolis, IN))に再懸濁した。タンパク質濃度をビシンコニン酸法(Smith et al. 1985)を用いて決定した。3Xのレムリ(Laemmli)停止緩衝液の添加後にサンプルを75℃で5分加熱し、続いて使用まで-80℃で保存した。
レーン当たり20マイクログラムのタンパク質を12.5%のSDS-PAGEで分析した。以前に記載されたように(Kojima et al. 2003)、サンプルを1Xのトウビン(Towbin)緩衝液(25mMトリス、192mMグリシン(pH8.8)、15%vol/volメタノール)中でPVDFメンブレン(Perkin-Elmer NEN, Boston, MA)に移した。メンブレンは、TBS-トゥイーン(0.01%(vol/vol)のトゥイーン20添加トリス緩衝食塩水(150mMのNaCl、5mMのKCl、10mMトリス(pH7.4))中の5%(wt/vol)脱脂乳で1時間室温で封鎖した。一次抗体(すなわち特異的な抗Hsp25抗体(SPA801, Stressgen, Victoria, BC, Canada)、抗Hsp72抗体(SPA810, Stressgen)、又は抗Hsc73抗体(SPA815, Stressgen))をTBS-トゥイーンに添加し、一晩4℃でインキュベートした。二次抗体とともにインキュベートする前にブロットをTBS-トゥイーンで5回洗浄した。メンブレンをセイヨウワサビペルオキシダーゼに結合させた二次抗体(Jackson Immunoresearch Labs, Inc., Fort Washington, PA)とともに室温で1時間インキュベートし、続いてTBS-トゥイーンで5回洗浄し、その後TBS(トゥイーン無し)で最後の洗浄を実施した。続いてメンブレンを強化化学発光系ECL試薬(Supersignal, Pierce, Rockford, IL)で処理し、製造元の指示にしたがって現像した。
プロバイオティックLGG由来の条件付け培養液は、培養されたネズミ結腸YAMC細胞で熱ショックタンパク質Hsp25及びHsp72の発現を時間依存性態様で誘発し、Hsp25の発現は18−20時間後に開始し、Hsp72はいくぶん早く発現された(先ず初めに6−8時間で出現した)(図1A)。この処理過程の間に、構成的に発現されるハウスキーピング遺伝子hsc73は変化せず、LGG-CMの作用は、熱ショックタンパク質の誘導型に特異的であることが示された。さらにまた、上皮細胞はLGG-CMに濃度依存的態様で応答し、もっとも激烈な応答は1:10希釈で観察された(図1B)。熱ショック応答は未処理細胞(NOTX)(図1B、最初のレーン)又は非条件付けMRSブロスと接触させた細胞(図1B、二番目のレーン)では観察されなかった。
温度ストレスで観察された迅速な応答とは異なり(温度ストレスはほぼ2時間以内にYAMC細胞で熱ショックタンパク質を誘発する)、LGG-CMに対する応答ははるかに長い時間を要した。したがって、LGG-CMによるHsp誘発と温度ストレスを引き起こすメカニズムは異なる。
Hsp誘発がLGG-CMへの一過性暴露後に開始されうるか否かもまた決定された。換言すれば、LGG-CMが処理過程の初期に洗い流されたならば、この一過性暴露はHspを誘発させるために十分であるのか、又はHsp誘発はもっと長いLGG-CMへの暴露を必要とするのかが質問である。細胞をLGG-CMに短時間暴露し、前記LGG-CMを洗い流し、続いて細胞を通常のように採集し、Hsp産生について分析した(図10A)。数分の暴露時間でも激烈なHsp誘発応答を誘発するために十分であり、上皮細胞で熱ショックタンパク質の誘発のためのシグナルの開始に要求される時間は非常に短いことが示された。
【0035】
実施例3
MAPキナーゼアッセイ
シグナルトランスダクション経路のLGG-CM誘発Hsp発現への関与を判定するために、MAPキナーゼアッセイを実施した。これらのアッセイのために、TBS-トゥイーン中の3%(w/v)ウシ血清アルブミンでPVDFメンブレンを1時間室温で封鎖した。一次抗体をTBS-トゥイーンに添加し、一晩4℃でインキュベートした。前記一次抗体はMAPキナーゼ又は関連分子の形態の1つに特異的であり、抗38MAPキナーゼ(MAPK)抗体(#9212, Cell Signaling, Beverly, MA)、抗ホスホ-p38MAPK抗体(#9211S, Cell Signaling)、抗-p44/42MAPK抗体(#9102, Cell Signaling)、抗-ホスホ-p44/42MAPK抗体(#9101S)、抗-SAPK/JNK抗体(#9252, Cell Signaling)、及び抗-ホスホ-SAPK/JNK抗体(#9251S, Cell Signaling)が含まれる。キナーゼのリン酸化形は活性化された形態を示す。陽性コントロールとして、37.7μMのアニソマイシン(Alexis, San Diego, CA)をp38及びSAPK/JNK活性化のために用い、さらに100nMのホルボル12-ミリステート13-アセテート(PMA)(Sigma, St. Louis, MO)をERK1/2活性化のために用いた。
MAPキナーゼ阻害剤を用いた実験によって、MAPキナーゼアッセイで得られた結果が確認された。MAPキナーゼ阻害剤実験で、YAMC細胞をいくつかの公知のMAPキナーゼ阻害剤の1つ、すなわちp38阻害剤SB203580(20μM;Alexis Biochemicals, Carlsbad, CA)、JNK阻害剤SP600125(20μM;Alexis Biochemicals)、又はERK阻害剤PD98059(50μM;Alexis Biochemicals)にLGG-CMの添加前に2時間暴露した。LGG-CMの添加後15分間細胞をインキュベートした。培養液を続いて新しいRPMIと交換し、さらにYAMC細胞を4時間後にウェスタンブロット分析のために採集した。
LGG-CMに対する応答の迅速性を所与のものと仮定すれば、データは、上皮細胞内での応答の成立にシグナルトランスダクションが必要であるということと一致する。この可能性を究明するために、細胞を15分間LGG-CMで処理し、続いてキナーゼアッセイを実施した。
【0036】
多くのタンパク質キナーゼが、ストレス(例えばLPS、TNFα、熱、紫外線照射、化学物質及び浸透圧ショック)によって活性化されことが知られており、これらのキナーゼのいくつかはMAPキナーゼファミリーに属する(Keyse, Stress Response:methods and protocols, Totowa:Humana Press, 2000)。したがって、この群のキナーゼに対する作用がシグナルトランスダクションの活性化についての情報読出しとして選択された。短時間暴露の後でさえ、処理細胞と未処理細胞との間のキナーゼ活性化における相違は極めて明瞭であった(図10B)。LGG-CMのみによる細胞の前処理によって調べた3つのMAPキナーゼの全てが活性化された。YAMC細胞では基準値レベルの活性化ERK1/2が存在するが、LGG-CMによるERK1/2の活性化はホルボルエステルPMAによる活性化とほぼ同じように激烈であった。一方、LGG-CM処理は明瞭ではあるが、アニソマイシン(p38及びSAP/JNK活性化の公知の強力な刺激物質)で観察されるほど劇的ではない活性化をもたらした。調べた3つ全てのMAPキナーゼの阻害剤を用いて、MAPキナーゼ経路の活性化がLGG-CMによるHsp誘発のために要求されるか否かを決定した。LGG-CM処理の前に、YAMC細胞をp38及びJNKの阻害剤に暴露することによってHsp72発現が阻止され、したがって、上皮細胞でのLGG-CMによるHspの誘発におけるMAPキナーゼシグナリング経路の役割が確認された。
ストレス条件下でHsp72(Hsp70)によって付与される細胞保護は、部分的には、p38及びJNK(前記はストレス誘発細胞死に対する抵抗性を付与する)の阻害を介して作動すると報告された(Gabai et al. J. Biol. Chem. 272:18033-18037, 1997;Mosser et al. Mol. Cell Biol. 17:5317-5327, 1997)。しかしながら、本明細書に開示したデータは、LGG-CM処理後に観察されるp38及びJNK活性化の阻害はおそらくHsp72(Hsp70)のためではありえないことが確立された。なぜならば、前記作用はそのような短時間内に生じ、さらにLGG-CM処理後のHspの出現には数時間を要するからである。JNKの活性化は、化学的及び物理的ストレス条件下における細胞死の仲介に重要な役割を果たすことが示され、JNKを封鎖することによって、種々の形態のストレスにより誘発される細胞死に対する抵抗性が付与される(Zanke et al. Curr. Biol. 6:606-613, 1996)。同様な観察がキナーゼp38についても得られ(Gabai et al. 1997)、p38及びJNKは両者とも、ERK1/2とは別個の共通経路を介して作動することが実験により示された(Liu et al. Free Radic Biol. Med. 21:771-781, 1996)。したがって、LGG-CM中の可溶性因子がそれら自身の細胞保護特性をもち、前記因子はそれら自身の細胞保護性Hspの誘発能力に加えて、さらに他のメカニズムを介して作動すると予想される。
Yanら(J. Biol. Chem. 277:50959-50965, 2002)の報告とは対照的に、ラクトバシルスGGは、条件付け培養液から回収することができる少なくとも1つの生物活性因子を確かに生成する。増殖実験は、MRS培養液で増殖させたとき、細菌がこれら生物活性因子を産生するには少なくとも18時間を要すること、及び前記細菌は組織培養液で増殖させたときはこれら生物活性因子を産生しないことを明らかにした。
【0037】
実施例4
RNAの単離及び逆転写
細胞を2回氷冷HBSで洗浄し、上記に記載したように採集し、続いて1.0mLのTRIzol(商標)(Invitrogen, Carlsbad, CA)を製造元の指示にしたがって添加し、さらに均一化に使用したTRIzolの1mLにつき200μLのクロロホルム(Fisher, Fair Lawn, NJ)を加え、材料を14000Xgで4℃15分遠心した。水相を取り出し、イソプロパノールを用いてRNAを沈殿させ、続いて75%エタノールで2回洗浄した。RNAペレットを乾燥させ、RNaseを含まない水に溶解させ、続いてRNeasyスピンカラム(QIAGEN, Valencia, CA)を製造元の指示にしたがって用いてさらに精製した。サンプルの完全性を1%アガロースゲル及び280nmと260nmでの吸収によって分析した。cDNAはスーパースクリプト(SuperScript)IIRT(Invitrogen, Carlsbad, CA)を用いて合成した。逆転写酵素反応は、総容積20μL中に全RNA 3μgを用いて実施した(前記20μL中には以下が含まれている:1Xの第一鎖緩衝液、250ngランダムヘキサヌクレオチドプライマー、3μgのRNA、500μMのdNTP、10mMのDTT、40ユニットのRNase outリボヌクレアーゼ阻害剤、及び200ユニットのスーパースクリプトIIRT)。前記反応混合物を25℃で10分、続いて42℃で50分インキュベートし、その後、逆転写酵素を70℃で15分加熱して不活化した。前記cDNAをPCRによる増幅のための鋳型として用いた。cDNAサンプルを1:5に希釈し、更なる実験のために-20℃で保存した。イソプロパノールを用いてRNAを沈殿させ、続いて75%エタノール/DEPC処理水で2回洗浄した。サンプルの完全性は1%アガロースゲル及び280nmと260nmでのUV波長吸収分析によって分析した。続いて、当業界で公知のようにこの吸収比をRNA純度の立証に用いた。
【0038】
実施例5
リアルタイムPCR
リアルタイムPCRを用いてHsp発現のタイムコースを決定した。マウスHsp25及びHsp72コード領域のためのプライマーは、GenBankからダウンロードした配列を用いて設計した。プライマーはプライマーエクスプレスソフトウェア(Applied Biosystems, Foster City, CA)を用いて設計した。マウスHsp25のセンス及びアンチセンスプライマーは以下のとおりである:5'-CCA TGT TCG TCC TGC CTT TC-3'(配列番号:1)及び5'-GAG GGC TGC TTC TGA CCT TCT-3'(配列番号:2);マウスHsp72のセンス及びアンチセンスプライマーは以下のとおりである:5'-GGC TGA TCG GAC GGA AGT T-3'(配列番号:3)及び5'-GGA ACG GCC AGT GCT TCA T-3'(配列番号:4);マウスGAPDHのセンス及びアンチセンスプライマーは以下のとおりである:5'-GGC AAA TTC AAC GGC ACA GT-3'(配列番号:5)及び5'-AGA TGG TGA TGG GCT TCC C-3'(配列番号:6)。リアルタイムPCRは、iQSYBRグリーンPCRスーパーミックス(Bio-Rad, Hercules, CA)を用いてiCycler(Bio-Rad, Hercules, CA)でトリプリケートとして実施した。PCR生成物の直接検出は、SYBRグリーン色素の二本鎖(ds)DNAへの結合によって生じる蛍光の増加を測定することによってモニターした。25μLの最終容積は1XのSYBRグリーンPCRスーパーミックス及び最終濃度300nMのプライマーを含んでいた。3μLの希釈(1:5)cDNAを23μLのPCRマスター混合物に添加した。以下の定量化サイクリングプロトコルを用いた:Taq DNAポリメラーゼの活性化に95℃4分、続いて95℃で15秒の変性と60℃で15秒のアニーリング-伸長の45サイクル。閾値サイクルパラメータ(Ct)は、蛍光が基準値より高い固定閾値を超えたサイクル部分の数と定義される。ΔCt値は、平均Hsp25又はHsp72 Ct値から平均GAPDH Ctを差し引くことによって決定された。ΔΔCt計算は、サンプルプレートで標準曲線を実施せずに標的の相対的定量のために用いられた。これには、ΔΔCtの標準偏差がΔCt値の標準偏差と同じであるように、任意の定数を差し引くことが必要である。GAPDH内在性コントロールに対してYAMC RNA(標的遺伝子)での変化が何倍かは、以下の等式を用いて決定した:
変化(倍)=2-ΔΔCt
リアルタイムPCRを用いて、Hsp25及びHsp72の両mRNAレベルはLGG-CM処理後増加することが見出され、これら2つのHspのLGG-CMによる誘発は転写性であることが示された(図12)。
【0039】
実施例6
電気泳動移動度シフトアッセイ
LGG-CMによるHsp誘発の特性をさらに解明するために、電気泳動移動度シフトアッセイ(EMSA)を実施した(図8)。上記に記載したように、細胞をLGG-条件付け培養液(LGG-CM)又は熱ショックのいずれかで処理した。全細胞抽出物をドライアイス/アルコール浴で1回凍結し、ピペットの先端で穏やかに切り裂き、さらに50000Xg、4℃で5分遠心することによって溶解緩衝液中で調製した(例えばMosser et al.(1988)を参照されたい:前記文献は参照により本明細書に含まれる)。溶解緩衝液:完全プロテアーゼ阻害剤カクテルを含む、25%(v/v)グリセロール、420mMのNaCl、1.5mMのMgCl2、0.2mMのEDTA、0.5mMのDTT、20mMのHEPES(pH7.4)。全細胞抽出物の10μgを、γ-32P-ATP標識HSEオリゴヌクレオチド(熱ショックエレメント(nGAAn)の4つのタンデム挿入リピートを含む:5'-CTAGAAGCTTCTAGAAGCTTCTAG-3';配列番号:7)及び0.5μgのポリ(dI-dC)、及び20ユニットのT4ポリヌクレオチドキナーゼ(New England Biolabs, Beverly, MA)と、1Xの結合反応緩衝液中で混合した。結合反応緩衝液:最終濃度20mMのトリス(pH7.4)、100mMのNaCl、1mMのEDTA、10%(v/v)グリセロール。前記の結合反応物を37℃で60分インキュベートし、標識されたオリゴヌクレオチドは、製造元の指示にしたがいG50スピンカラム(Amersham Biosciences, Piscataway, NJ)を用いて遊離プローブから分離した。標識オリゴヌクレオチドと非標識オリゴヌクレオチド鎖のアニーリングは95℃で5分実施し、続いてゆっくりと一晩冷却させた。続いてサンプルを、0.5XのTBE緩衝液中で4%の非変性ポリアクリルアミドゲル上で泳動して分析した。ゲルを乾燥させ、オートラジオグラフィを実施してDNA-タンパク質複合体を検出した。スーパーシフト実験のために、YAMC細胞をLGG-CMとともにインキュベートし、続いて1μgの抗HSF-1ラットモノクローナル抗体(SPA950、Stressgen, Victoria, BC, Canada)、1μgの抗HSF-2ラットモノクローナル抗体(SPA960, Stressgen)、又は1μLのウサギ免疫前血清を、HSE-結合反応の前に細胞抽出物とともに25℃で30分プレ-インキュベートした。このプレインキュベーションの後、当業界で公知の方法又は本明細書に記載する方法を用いて結合反応及び分析を実施した。
結果から、LGG-CMに対する応答では、HSF-1の結合はLGG-CMに暴露後最初の1時間以内に生じることが明らかになり、誘発は少なくとも部分的には転写性であることが示された(図7)。HSF-1及びHSF-2に対する抗体を用いるスーパーシフト分析は、HSF-1は必要とされる主要な転写因子であることを示した(図8)。
【0040】
実施例7
マイクロアレー分析
Hspは、LGG-CM暴露に応答してもっとも強くアップレギュレートされる遺伝子である。LGG-CM処理は激烈な熱ショックタンパク質誘発を生じること、及びLGG-CMによる上皮のHsp誘発をもたらすメカニズムが少なくとも大半が転写性であるということが確認された後、他の上皮細胞の遺伝子と比較してHspのアップレギュレーションの規模をDNAマイクロアレー分析によって決定した。LGG-CM処理及びMRS処理(擬似処理)細胞を2つの異なるマイクロアレー(1つは19000のネズミ遺伝子プローブを含み、他方は12000のネズミ遺伝子プローブを含んでいた)を用いて比較した。
RNAを上記に記載したように調製し、続いてRNeasyミニキット(QIAGEN, Valencia, CA)を製造元の指示にしたがって用い、前記をさらにもう1回の精製工程に付した。RNAの完全性は1%アガロースゲルでの分画によってチェックした。280nm/260nm比が1.8から2.0の間のRNAのみを用いた。
19000のネズミ遺伝子を含むアフィメトリックス(Affymetrix)マイクロアレーチップ430Aをデュープリケートで使用し、12000ネズミ遺伝子を含むが異なるプローブセットを使用しているU74Av2チップを用いて、チップ430Aで得られた結果を確認した。データは、アフィメトリックスマイクロアレーシュートバージョン5.0(MAS5.0)を用いて分析した。各事例で、LGG処理を擬似処理コントロールと比較した。結果は、GENESPRINGソフト(バージョン4.2.1, Silicon Genetics, Mountain View, CA)を用いて計算したとき、コントロールと比較して処理細胞の変化が何倍であるかで表わした。統計分析はDチップソフトウェアを用いて実施した(以下の文献を参照されたい:Tusher et al. 2001;及びLi et al. 2001)。弁別的発現遺伝子は以下の閾値を基準に選別した:1.5倍を越える相対的相違、100シグナル強度ユニットを超える絶対的相違、及びp<0.05の統計的相違。アフィメトリックス430Aマイクロアレーチップのデータは、インターネットでアクセス可能なジーンエクスプレッションオムニバスデータ集積所(シリーズエントリー、GSE1940参照)に寄託した。
LGG-CM処理に応答してもっとも劇的にアップレギュレートされる遺伝子は熱ショックタンパク質遺伝子であることは、スキャタープロットから観察することができる(図9)。これらの発見を確認するために、12000のネズミ遺伝子を含み、異なるプローブを用いるさらに別の遺伝子チップを用いたところ、HspがLGG-CM処理に応答してもっともアップレギュレートすることが再度見出された。上位10のアップレギュレート遺伝子は下記の表6に提示される。
チップ430A及びチップU74Av2の両方において、LGG-CM処理細胞とコントロールとの間で2倍を超える変化を示した24の遺伝子が表1に挙げられている。表1及び先行するパラグラフに挙げたGenBankアクセッション番号に対応する配列の全てが参照により本明細書に含まれる。
【0041】
表1.
【0042】
チップ430AとチップU74Av2間で共通の4つの遺伝子オントロジー群が表2から5に示されている。LGG-CM処理細胞とコントロール細胞との間で2倍を超える相違を示した遺伝子のみが表示されている。表2から5に挙げたGenBank番号に対応する全ての配列が参照により本明細書に含まれる。
表2.細胞周期遺伝子の調節:430Aチップについては、14の遺伝子オントロジー“細胞周期調節”遺伝子が125群で見出された(全体:212/13281、p値:0.000000)。U74Av2チップについては、10の遺伝子オントロジー“細胞周期調節”遺伝子が96群で見出された(全体:146/6741、p値:0.000038)。
【0043】
表3.細胞周期遺伝子:430Aチップについては、18の遺伝子オントロジー“細胞周期”遺伝子が125群で見出された(全体:465/13281、p値:0.000000)。U74Av2チップについては、14の遺伝子オントロジー“細胞周期”遺伝子が96群で見出された(全体:326/6741、p値:0.000188)。
【0044】
表4.細胞周期拘束遺伝子:430Aチップについては、7つの遺伝子オントロジー“細胞周期拘束”遺伝子が125群で見出された(全体:26/13281、p値:0.000000)。U74Av2チップについては、5つの遺伝子オントロジー“細胞周期拘束”遺伝子が96群で見出された(全体:22/6741、p値:0.000011)。
【0045】
表5.リボソームタンパク質L7Ae/L30e/Gadd45遺伝子:430Aチップについては、3つの遺伝子オントロジー“リボソームタンパク質L7Ae/L30e/S12e/Gadd45”遺伝子が118群で見出された(全体:14/13714、p値:0.000211)。U74Av2チップについては、3つの遺伝子オントロジー“リボソームタンパク質L7Ae/L30e/S12e/Gadd45”遺伝子が99群で見出された(全体:7/7501、p値:0.000075)。
【0046】
これらのマイクロアレー実験のために、統計的分析は、文献(Tusher et al. 2001;及びLi et al. 2001:前記両文献は参照により本明細書に含まれる)に記載されたように、“Dチップ”及び“Sam”ソフトウェアを用いて実施した。
表6.
【0047】
実施例8
51クロム放出アッセイ
LGG-CMはまた上皮細胞を酸化体損傷から保護する。LGG-CMが誘導性Hspをアップレギュレートすると仮定して、機能アッセイを実施して、熱ショック誘発が酸化体損傷に対する保護に貢献するか否かを決定した。生来の免疫細胞から放出される次亜塩素酸がアンモニアと反応するときに通常的に産生される酸化体モノクロロアミンは、細胞骨格の崩壊、膜輸送障害、接着結合バリアー機能の低下、及び最終的な細胞死を引き起こすことによって上皮細胞に影響を与える(Grisham et al., Inflammation14:531-542, 1990;Musch et al. Am. J. Physiol. 270:C429-436, 1996;Musch et al. Gastroenterology 117:115-122, 1999)。誘導性Hspは、腸上皮細胞でモノクロロアミンによって引き起こされる酸化体ストレスに対して細胞保護を提供することが実験で示された(。Musch et al. 1996;Musch et al. 1999)。
YAMC細胞を24-ウェルプレートで増殖させ、未処理のままにするか(コントロール)又はLGG-CMで1時間処理し、続いて培養液を交換し、細胞を5%CO2インキュベーターで一晩37℃で維持した。続いて細胞に51Cr(50μCi/mL;Sigma Chemical Co.)を60分ロードし、洗浄し、さらに0.6mMの酸化体モノクロロアミンを含む培養液でインキュベートして細胞損傷を誘発した。60分後に培養液を採集し、細胞内に残留する51Crを1NのHNO3で4時間抽出した。放出分画及び細胞分画中の51Crを液体シンチレーション分光計で計測した。放出51Crは、放出された量+細胞内残留量の合計で割った放出量として算出した。データを編集し、Instatソフトウェア(Graphpad, San Diego, CA)を用いて分析し、比較はペアードスチューデントt検定を用いて実施した。
上皮細胞のLGG-CMによる前処理は、モノクロロアミンの酸化体損傷にもかかわらず、クロム放出アッセイによって示されるように、上皮細胞の生存活性を改善することによって酸化体による障害に対して統計的に有意な保護を提供する(図11A)。
【0048】
実施例9
G/Fアクチンアッセイ
上皮細胞で細胞保護作用を誘発するLGG-CMの能力をF/Gアクチンアッセイを用いてさらに究明した。前記アッセイは、細胞骨格損傷に対する保護をより特異的に判定する(図11B)、酸化体ストレスに対して上皮細胞を保護するLGG-CM処理の能力のまた別の機能情報の読出しである。
コンフルエントなYAMC単層細胞をIFN-γを含まない培養液中で37℃に切り換え、LGG-CMで1時間処理しその後培養液を交換するか、又は未処理のままにした(コントロール)。細胞を一晩維持し、続いて酸化体モノクロロアミン(0.6mMで30分)で処理して細胞損傷を誘発した(Musch et al. 1996;Musch et al. 1999)。細胞をPBSで水洗し、採集し、遠心し(室温で14000Xg、20秒)、ペレットを30℃の溶解緩衝液(200μL)に再懸濁させた。溶解緩衝液:1mMのATP、50mMのPIPES(pH6.9)、50mMのNaCl、5mMのMgCl2、5mMのEGTA、5%(v/v)グリセロール、0.1%(v/v)ノニデットP-40、トゥイーン20トリトンX-100(完全プロテアーゼ阻害剤カクテルを含む)。細胞をピペットで穏やかに10回上下させて均質化し、続いて30℃で10分インキュベートし、さらに100,000Xgで60分(30℃)遠心した。Gアクチンの測定のために上清を取り出し、さらに1μMサイトカラシンDを含む200μLの水(4℃)にペレット(F-アクチンを含む)を再懸濁し氷上に60分放置した。この処理は、その後のウェスタンブロットで45kDa型モノマーのみが観察されるように、F-アクチン分画を脱ポリマー化した。その後、各抽出物の20μLを取り出し、レムリ(Laemmli)の停止溶液を添加し、サンプルを65℃10分加熱した。サンプルを12.5%のポリアクリルアミドゲルでSDS-PAGEによって構成要素に分解し、直ちにPVDFメンブレンに移した(更なる詳細についてはウェスタンブロット分析の節を参照されたい)。メンブレンに移した後、抗アクチンポリクローナル抗体(Cytoskeleton, Denver, CO)を用いてアクチンの免疫ブロット分析を実施した。
期待したとおり、未処理コントロールはGアクチンより多くのFを示し、LGGのみによる前処理はこの比率を変えなかった。モノクロロアミン(NH2Cl)による細胞の処理は、モノクロロアミンがアクチンの細胞骨格の完全性を破壊するために、フィラメント状(F)から球状(G)形へとアクチンをシフトさせた。モノクロロアミンに暴露する前にLGG-CMで処理することによって、F-アクチンの保存及びモノクロロアミン誘発アクチン細胞骨格損傷に対する部分的保護がもたらされた(NH2Cl処理レーンに対して最後の2つのレーン)。
【0049】
実施例10
生物活性を有するプロバイオティック物質の特性
LGG-CMの生物活性の大半は、10kDa未満の化合物に存在するように思われる。図3に示したように、活性の大半は、Hsp25を誘発する能力によって測定したとき、10kDa分子量をカットオフするセントリコン(Centricon)フィルターを通して調製したろ液中に存在する(図12Bもまた参照されたい)。細胞と残渣(retentate)(R)との接触はHsp25発現を誘発しなかった。さらにまた、ろ液と残渣(R+F)の再結合は活性を強化しなかった。しかしながら、より大きな分子量のマルチマーが活性のために要求されるという可能性もありうる。
LGG-CMの生物活性の他の特性は、熱及び酸の存在下でのその安定性である。図4に示されるように(二番目のレーン)、LGG-CMは20分間煮沸後にその活性を維持した。さらにまた図4に示されるように(第三番目のレーン)、LGG-CMは酸性pHでもっとも活性が強い。図4で示されたpH(pH4)は条件付け培養液のpHであることに留意されたい。YAMC細胞の洗浄培養液(bathing media)に添加したとき、1:10希釈が得られ、最終pHは6.5から6.9であり、腸上皮細胞の先端膜の酸性ミクロ環境で見出されるpHに近い。条件付け培養液のpHを7.0に調整したとき、生物活性は失われた(四番目のレーン)。pHを4.0に再調整したとき、活性は回復せず(五番目のレーン)、活性化合物は中性pH付近で不安定であることを示した。ただし、中性pHでの活性の低下は完全には不可逆性というわけではなかった。条件付け培養液を2日間pH4.0で“回復”させた場合、活性は部分的に回復し、前記作用は完全には不可逆性ではなく、中性付近のpHへの暴露は、活性化合物の可逆的な部分的展開又は変性を含むことを示している。
LGG生物活性化合物はタンパク分解酵素ペプシンによって不活化される。標準的なプロトコルを用いたペプシンによる処理の後で、10kDaサイジングカラムから混合物をろ過して一切の残留ペプシンを除去した。この事例ではペプシンを使用した。なぜならば他のプロテアーゼとは対照的にペプシンの活性は酸性pHで至適だからである。図5に示したようにHsp25及びHsp72の誘発によって判定されるとおり(レーン2及び3を比較されたい)、LGG-条件付け培養液のペプシン処理は生物活性を顕著に低下させた(さらにまた図12Aを参照のこと)。平行して実施したろ過を行わないコントロール実験によって、ペプシン自体はHsp発現に直接的に影響を与えないことが確認された(図12Aのレーン5、6及び7を参照されたい)。構成的Hsp同族体、Hsc73では変化は観察されなかったので、前記の作用は特異的であった。
続いて、LGG-CMを選択性限外ろ過に付して、活性因子の分子質量を決定した。続いて、ろ液(10kDa未満の分子を含む)及び残渣(10kDaより大きい分子を含む)又は両者を一緒に用いてYAMC細胞を処理し、Hsp25及びHsp72の免疫ブロットを調製した。ろ液(レーン3)又は一緒に投与された両分画(レーン4、R+F)のみがYAMC細胞でHsp発現を誘発し、生物活性因子は、小さな分子質量(すなわち10kDA未満)のタンパク質又はペプチドであることを示した。活性ペプチドの更なる性状決定によって、前記は熱安定性であり、煮沸後でさえもなお活性を維持することが明らかにされた(図12C、レーン2及び3と比較されたい)。
還元剤ジチオスレイトール(DTT)によるLGG-CMの処理は、誘導性Hsp25及びHsp72発現の低下がウェスタンブロット分析によって示されるとおり活性の低下をもたらした(図6)。これらのデータは、活性化合物はタンパク質であり、おそらくシステイン残基を含み、ジスルフィド結合が前記活性因子の二次構造の維持に決定的な役割を果たしていることを示している。
活性ペプチドの性状決定によって、前記はまた低pHで安定であることが明らかになった。種々のpHでの安定性を決定するために、LGG-CMのpHを変化させた(図13)。7.0の中性pHでは、LGG-CMの活性は直ちに細胞処理に用いた場合は停止(図13A)するが、pH4.0に戻し一晩平衡化させた場合はHsp誘発能力を再樹立することができた(図13B)。このことは、前記ペプチドはpH7.0で不安定であるが、LGG-CMをpH4.0に戻すことによって前記活性の少なくとも部分的な回復がもたらされるので(図13B)、この不安定性はペプチドの不可逆的な変性の結果ではないことを示している。
本明細書に開示し特許請求の範囲に示した全ての組成物及び方法は、本開示を考慮すれば煩雑な実験を実施することなく達成することができる。本発明の組成物及び方法は好ましい実施態様の関連で記載されているが、一方、本明細書に記載した組成物及び方法並びに前記方法の工程又は連続工程で、変形が本発明の範囲から外れることなく利用できることは当業者には明白であろう。より具体的には、化学的及び物理的に関連するある種の物質で本明細書に記載した物質を代用し、同じ又は類似の結果を達成することができることは明白であろう。当業者に明白な全てのそのような代用及び改変は、添付の特許請求の範囲に定義されているとおり、本発明の範囲内であると考えられる。
【0050】
参考文献
以下の参考文献は、明細書に示される例示的な手続又はその他の詳細を補足する手順又はその他の詳細を該文献が提供する程度に、参照することにより具体的に明細書中に組み込まれる。
【0051】
【0052】
以下の図面は本明細書の部分を構成し、本発明のある特徴をさらに明らかにするために提供される。ここに提供される具体的な実施態様の詳細な説明とともに本図面の1つ又は2つ以上を参考にして、本発明はさらによりよく理解されうるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1A】LGG-条件付け培養液は、結腸上皮細胞において時間依存性及び濃度依存性態様でHsp25及びHsp72を誘発する。図1Aは、LGG-CMの誘発タイムコースを示す(600μL/ウェル)。
【図1B】LGG-条件付け培養液は、結腸上皮細胞において時間依存性及び濃度依存性態様でHsp25及びHsp72を誘発する。図1Bは、16時間処理によるLGG-CM用量-応答関係を表す。
【図2】LGG-条件付け培養液による熱ショックタンパク質の誘発はHSF-1を必要とする。
【図3】LGG-条件付け培養液中の生物活性因子は低分子量であるようである。
【図4】LGG-条件付け培養液中の生物活性因子は、熱安定性で、さらに酸性pHでもっとも活性が高いようである。
【図5】LGG-条件付け培養液中の生物活性因子はペプシンによって不活化される。
【図6】LGG-条件付け培養液中の生物活性因子はDTTによって不活化される。
【図7A】リアルタイムPCRによって示される、熱ショックタンパク質のLGG-CM誘発発現のタイムコースを表す柱状図。図7A:Hsp72の誘発。
【図7B】リアルタイムPCRによって示される、熱ショックタンパク質のLGG-CM誘発発現のタイムコースを表す柱状図。図7B:Hsp25の誘発。
【図8】プローブ/結合剤として抗HSF-1及び抗HSF-2抗体を用いた電気泳動移動度シフトアッセイである。前記アッセイは、LGG-CMによる熱ショックタンパク質の誘発は少なくとも部分的には転写性であることを示している。
【図9A】熱ショックタンパク質は、LGG-CM暴露後にもっとも劇的にアップレギュレートされる上皮細胞遺伝子であることを示すスキャタープロットである。
【図9B】熱ショックタンパク質は、LGG-CM暴露後にもっとも劇的にアップレギュレートされる上皮細胞遺伝子であることを示すスキャタープロットである。
【図10A】熱ショックタンパク質誘発シグナルは、LGG-CMの上皮細胞暴露に際して迅速に伝達され(図10A)、少なくとも1つのシグナルトランスダクション経路によって仲介される(図10B)ことを示す、洗い流し実験の結果の電気泳動図である。
【図10B】熱ショックタンパク質誘発シグナルは、LGG-CMの上皮細胞暴露に際して迅速に伝達され(図10A)、少なくとも1つのシグナルトランスダクション経路によって仲介される(図10B)ことを示す、洗い流し実験の結果の電気泳動図である。
【図10C】熱ショックタンパク質誘発シグナルは、LGG-CMの上皮細胞暴露に際して迅速に伝達され(図10A)、少なくとも1つのシグナルトランスダクション経路によって仲介される(図10B)ことを示す、洗い流し実験の結果の電気泳動図である。
【図11A】酸化体ストレスによって攻撃された上皮細胞に対するLGG-CMの保護作用を示す柱状図である。保護作用は、51Crによる生存活性検査によって(図11A)、又は細胞骨格完全性のG/Fアクチンアッセイ(図11B)によって示される。
【図11B】酸化体ストレスによって攻撃された上皮細胞に対するLGG-CMの保護作用を示す柱状図である。保護作用は、51Crによる生存活性検査によって(図11A)、又は細胞骨格完全性のG/Fアクチンアッセイ(図11B)によって示される。
【図12A】ラクトバシルスGGに由来する細胞保護因子の物理的特性を示す。ペプシンに対する前記因子の感受性を示す電気泳動図(図12A)、因子の電気泳動によるサイズ決定(図12B)及び因子の熱安定性の電気泳動による証明である。
【図12B】ラクトバシルスGGに由来する細胞保護因子の物理的特性を示す。ペプシンに対する前記因子の感受性を示す電気泳動図(図12A)、因子の電気泳動によるサイズ決定(図12B)及び因子の熱安定性の電気泳動による証明である。
【図12C】ラクトバシルスGGに由来する細胞保護因子の物理的特性を示す。ペプシンに対する前記因子の感受性を示す電気泳動図(図12A)、因子の電気泳動によるサイズ決定(図12B)及び因子の熱安定性の電気泳動による証明である。
【図13A】LGG-CMの細胞保護因子の安定性をpHの関数として示す電気泳動図(図13A)、及び再酸性化時の因子の部分的復元を示す電気泳動図(図13B)である。
【図13B】LGG-CMの細胞保護因子の安定性をpHの関数として示す電気泳動図(図13A)、及び再酸性化時の因子の部分的復元を示す電気泳動図(図13B)である。
【発明の詳細な説明】
【0001】
技術分野
国立衛生研究所グラント番号DK47722、DK42086及びK08 DK064840-01にしたがい、政府は本発明において権利を有する。
本発明は、一般的には炎症性疾患の分野に関する。より具体的には、本発明は、炎症性の腸の異常又は疾患、例えば潰瘍性大腸炎及びクローン病に関する。本発明の実施は、ラクトバシルス(Lactobacillus)GG(LGG)に由来する、新規な生物活性を有する化合物の同定及び性状決定、並びに炎症性腸疾患治療のためにこれら化合物を使用することに関する。
【0002】
背景技術
炎症性腸疾患(IBD)は、鋭敏な個体の消化管に影響を及ぼす、一群の慢性的異常である。IBDにおける粘膜損傷の程度及び重篤度は、炎症誘発損傷と代償性及び細胞保護プロセスとの間の不均衡によって決定される。例示的IBD、例えば潰瘍性大腸炎及びクローン病は、消化管の炎症及び潰瘍を惹起する。遺伝的背景、環境因子への暴露、又はある種の刺激性共生細菌の集落形成の不運な合併によって、鋭敏な個体でIBDが発生する。
プロバイオティック物質(probiotic agent)によるIBD患者の腸内細菌叢の改変は、治療法としていくらかの注目を得た。最近のin vitro及びin vivo実験では、種々のプロバイオティック製剤が、実験的大腸炎に付随する腸粘膜の炎症の予防又は軽減に有効であることが示された(Madsen et al. 2001;Gionchetti et al. 2000b;Campierei et al. 2000;完全な引用は参考文献リストで提供される)。さらにまた、プロバイオティクス(probiotics)は、大腸粘膜の慢性炎症への悪性転換率を低下させるようである(Wollowski et al. 2001)。多くの前臨床試験によって、プロバイオティクスはポーチティス(pouchitis)及びIBDの治療に有効であることが示された。これらの生物因子の有効性を決定するため、及びIBD患者での投与量の最適化のために、いくつかの多拠点臨床試験もまた進行中である。これらの有望な結果にもかかわらず、プロバイオティック作用メカニズムは依然として明らかではなく、さらに、生のプロバイオティック生物の使用は感染のリスク及び他の不適切な結果を招く。
【0003】
例示的IBDである潰瘍性大腸炎は、結腸及び直腸の内部基底層の炎症及び潰瘍形成をもたらす。前記は稀に、結腸に連結する末端(回腸末端と称される)を除く小腸にも影響を及ぼす。潰瘍性大腸炎はまた結腸炎又は直腸炎とも称される。潰瘍性大腸炎はいずれの年齢の人々にも起こりうるが、15歳から30歳の間で非常に頻繁に発生するようである。何が潰瘍性大腸炎の原因であるかについての学説は多数存在するが、いずれも立証には至っていない。よく知られている学説は、身体の免疫系がウイルス又は細菌と反応し、腸壁での炎症の進行を引き起こすというものである。
潰瘍性大腸炎のもっとも一般的な症状は腹痛及び出血性下痢である。患者はまた、疲労、体重減少、食欲低下、直腸出血並びに体液及び栄養素の減少を被りうる。約半数の患者が軽度の症状を示す。残りの患者は頻繁な発熱、出血性下痢、吐き気、及び重度の腹部の疼痛性痙攣を示す。潰瘍性大腸炎はまた、関節炎、眼の炎症、肝臓疾患(肝炎、肝硬変、及び原発性硬化性胆管炎)、骨粗しょう症、皮疹及び貧血のような問題も引き起こしうる。大腸以外の場所で問題が発生する理由ははっきりとは分かっていない。研究者らは、身体の他の部分で免疫系が炎症の引き金となったときに、これらの合併症が生じうると考えている。これらの問題のいくつかは大腸炎が治療されたときに消失する。
潰瘍性大腸炎のための治療は前記疾患の重篤度に左右される。ほとんどの人々は投薬により治療される。重篤な事例では、患者は外科手術が必要とされ症状を示す結腸が除去される。その症状がある種の食品によって引き起こされた幾人かの人々は、彼らの腸の状態を狂わせる食品、例えば香辛料の多い食品、生の果実及び野菜、又は乳糖(ラクトース)を避けることによって症状を制御することができる。幾人かの人々は、数ヶ月続く又は数年に及ぶ緩解を示す。しかしながら、ほとんどの患者の症状は最終的には元に戻る。
【0004】
約25−40%の潰瘍性大腸炎患者は、結腸の大量出血、重度の病状、破壊又は癌のおそれのために最終的には結腸を摘出しなければならない。医療的処置が成功しない場合、又はコルチコステロイド若しくは他の薬剤の副作用が患者の健康を害する場合、医師は時に結腸の摘出を推奨するであろう。
クローン病は、消化管のいずれの部分も冒しうるという点で潰瘍性大腸炎とは異なる。クローン病は、消化管の最深部の基底層を冒しうる炎症及び潰瘍を引き起こす。抗炎症薬、例えば5-アミノサリチレート(例えばメサラミン)又はコルチコステロイドが典型的には処方されるが、いつも有効であるとは限らない。シクロスポリンによる免疫抑制は、コルチコステロイドが効かないか、又は不耐性である患者について時に有益である。
【0005】
にもかかわらず、外科手術による矯正は、最終的には90%の患者で要求され、50%が結腸切除を受ける(Leiper et al. 1998;Makowiec et al. 1998)。外科手術後の再発率は高く、50%が5年以内に更なる外科手術を必要とする(Leiper et al. 1998;Besnard et al. 1998)。
IBDの病理発生に関する従来の考えは、細胞保護及び創傷治癒プロセスと前炎症性経路との間に不均衡が存在し、その正味の結果は最終的には前炎症の過活性状態及びその結果としての腸粘膜の損傷に至ると提唱する。バリアー機能の障害をもたらす接着結合の構造変化が後遺症の一因となるという事実によって立証されるように、粘膜完全性の維持の中心は上皮のバリアー機能の維持である(Schmitz et al. 1999)。
緩解を誘発しこれを維持するため、及び炎症性疾患又は異常(例えば潰瘍性大腸炎)を示す人々の生活の質を向上させるための治療を用いることができる。いくつかのタイプの薬剤が現在利用可能である。
アミノサリチレート薬(例えば5-アミノサリチル酸(5-ASA)のような薬剤)は炎症の制御に役立つ。サルファサラジンはサルファピリジン及び5-ASAの組合せであり、緩解の誘発及び維持のために用いられる。サルファピリジン成分は抗炎症性5-ASAを腸へ運搬する。しかしながら、サルファピリジンは、副作用(例えば吐き気、嘔吐、胸焼け、下痢及び頭痛)をもたらしうる。他の5-ASA薬剤(例えばオルサラジン、メサラミン及びバルサラジド)は異なる担体を有し、副作用が少なく、サルファサラジンを服用できない人々に用いることができる。結腸内の炎症の場所により、5-ASAは、経口的に、浣腸により、又は座薬として投与される。軽度又は中等度の潰瘍性大腸炎をもつ大半の人々は先ず初めにこの薬剤群で治療される。
【0006】
コルチコステロイド(例えばプレドニソン及びヒドロコーチゾン)もまた炎症を減少させる。前記は、中等度又は重度の潰瘍性大腸炎を罹患する人々、又は5-ASA薬剤に応答しない人々に使用される。コルチコステロイドは、経口的、静脈内、浣腸により、又は座薬で投与することができる。これらの薬剤は、副作用(例えば体重増加、にきび、顔面発毛(facial hair)、高血圧、気分変動及び感染リスクの増加)を引き起こしうる。この理由から、前記は長期使用には推奨されない。
免疫調節剤(例えばアザチオプリン及び6-メルカプト-プリン(6-MP))は、免疫系に影響を与えることによって炎症を低下させる。前記は、5-ASA又はコルチコステロイドに応答しなかった患者、又はコルチコステロイド依存症の患者に用いられる。しかしながら、免疫調節剤は作用に時間を要し、完全な利益が観察されるまで6ヶ月を要しうる。これらの薬剤を服用する患者は、合併症(膵炎及び肝炎、白血球数の減少並びに感染リスクの増加を含む)についてモニターされる。シクロスポリンAは、静脈内コルチコステロイドに応答しない患者で、活発で重度の潰瘍性大腸炎の治療のために6-MP又はアザチオプリンと併用される。上記に加えて、他の薬剤を患者のストレスの緩和、又は痛み、下痢若しくは感染の軽減のために投与することができる。
ラクトバシルスGGは、幼児及び小児の急性及びロタウイルス下痢の治療、さらにはまた正常な共生細菌叢の変化から生じる抗生物質関連下痢の治療で用いられ成功している(22,40及び43)。最終的には、ラクトバシルスGGはネズミの大腸癌モデルで腫瘍負荷レベルを低下させることが示され、このプロバイオティック株は抗癌活性もまた示す可能性が示唆されている。
【0007】
細胞の熱ショックタンパク質(Hsp)発現の誘発(温度ストレス(例えば発熱)の後で生じる)は、それによって細胞が更なる損傷に対して自分自身を防御することができる詳細に記述されたメカニズムである。前記の現象(“ストレス寛容”として知られている)は、進化の全過程にわたって及び全ての種の間で高度に保存されている。誘導性熱ショックタンパク質は、温度ストレスから浸透圧ストレスに及ぶ多様な別個のタイプのストレスに直面する細胞に、酸化性及び炎症性ストレス物質に対する防護を付与する。小腸上皮細胞におけるHsp72の過剰発現は、モノクロロアミンに由来する酸化性損傷に対し生存活性及び防護を高めることが示された(モノクロロアミンは、生来の細胞及び炎症性細胞によって放出される次亜塩素酸がアンモニアと反応するときに炎症時に大量に産生される病理生理学的関連の反応性酸素代謝産物である)。腸の上皮細胞では、報告によれば、誘導性熱ショックタンパク質Hsp72及びHsp25は、多様な有害な傷害による損傷に対し上皮バリアーを強化し、したがって接着結合及びバリアー機能を維持する。Hsp25はまたアクチン細胞骨格を安定化させると報告された。
センス及びアンチセンストランスフェクション実験の利用により、酸化性ストレス条件下で上皮バリアー機能を防護する熱ショックタンパク質の能力によって明らかなように、熱ショックタンパク質は、上皮細胞に細胞保護を提供する上で中心的な役割を果たすことが示された(Ropeleski et al. 2003;Urayama et al. 1998)。誘導性熱ショックタンパク質(Hsp)は、環境中の生理的及び病的ストレスから細胞を保護する上で重要な役割を果たす高度に保存されたタンパク質に属する。例えば熱、重金属及び毒素への暴露、虚血/再灌流損傷、又は炎症による酸化性ストレスのような条件下では、Hsp誘発は迅速であり、かつ強烈である。軽度の“ストレス”による熱ショックタンパク質の誘発は、前記タンパク質の誘発がなければ細胞死をもたらしうるような、その後に続く傷害又は損傷に対し防護を付与する。この詳細に記述された現象は“ストレス寛容”として知られている(Parsell et al. 1993)。
【0008】
腸の上皮細胞では、誘導性熱ショックタンパク質は、ストレス因子(例えば炎症細胞由来酸化体及び温度ストレス(例えば発熱))に対し何らかの細胞保護を伝達する。誘導性Hspはまた、敵対条件下で腸上皮細胞のバリアー機能の完全性を維持する(Chang, 1999;Musch et al. 1996;Musch et al. 1999)。熱ショックタンパク質の腸上皮細胞での誘発は、ストレス条件下での生存活性を延長させ(Musch et al. 1996)、さらに上皮貫通抵抗で測定したとき接着結合を維持する(Musch et al. 1999)。
生きたLGG細菌もまたp38MAPキナーゼを活性化すると報告されたが、ただし条件付け培養液(conditioned media)のみではいずれのMAPキナーゼについても影響は見られない(Yan et al. 2002)。使用された条件付け培養液は、MRSブロスで前記細菌を増殖させ、続いて沈殿、洗浄し、さらに細菌を組織培養液に再懸濁してさらに2時間増殖させ、続いて使用前にろ過することによって調製された。
プロバイオティクスの使用には関心が高まりつつある。プロバイオティクスとは、多様な胃腸病(炎症性腸疾患(Gionchetti et al. 2000a)、過敏性腸症候群(Niedzielin et al. 2001)、ポーチティス(Gionchetti et al. 2000b;Gionchetti et al. 2003)の他にロタウイルス関連及び抗生物質関連下痢(Isolauri et al. 1991;Majamaa et al. 1995;Arvola et al. 1999)を含む)の治療において、摂取可能な微生物であって、それらの固有の栄養価を超える健康上の利益を有するものと定義される。それらの作用メカニズムはほとんど分かっていないが、プロバイオティクスは、腸粘膜に対して保護的、栄養的及び抗炎症性作用を有するようである。
【0009】
プロバイオティック生物、ラクトバシルスGGは、幼児及び小児の急性及びロタウイルス下痢(Isolauri et al. 1991;Majamaa et al. 1995)の治療に、さらにまた抗生物質関連下痢(Arvola et al. 1999;Kalliomaki et al. 2003)の治療に使用され成功した。ロタウイルス感染には上皮細胞表面とVP4スパイクタンパク質との最初の相互作用が必要であり、C-末端フラグメント、VP5*は細胞の膜透過性獲得(ウイルスの侵入に必要である)のために必要であると考えられる(Zarate et al. 2000)。
プロバイオティクスはまたアトピー性疾患の治療及び予防にも有用であることが証明されうる。いくつかの動物モデルでは、プロバイオティクスの使用は、C.パルブム(parvum)、H.ピロリ(pylori)及びカンジダ(Candida)感染に対して防護的であるようである。さらにまた、ラクトバシルスGGは、ネズミの大腸癌モデルで腫瘍負荷レベルを低下させることが示され、このプロバイオティック株はまた抗癌活性を有する可能性が示唆された(Goldin et al. 1996)。
プロバイオティクスは多くの疾病の経過を改善するように思われるが、プロバイオティック作用メカニズムほとんど理解されておらず、これがこの分野において認識されている弱点である。それらの作用及び宿主細胞との相互作用の背後にあるメカニズムを知ろうとする試みがほんのここ数年為されてきた。多くの可能な種々のメカニズムが提唱された。前記には粘液産生のアップレギュレーション、上皮バリアー機能の改善、IgA産生の増加、及び腸上皮での粘着部位の競合の増加の他に、有機酸、アンモニア、過酸化水素及びバクテリオシン(前記は病原性細菌の増殖を抑制する)の産生が含まれる。
IBD患者の腸内細菌叢のプロバイオティック物質による改変が治療方法として研究されつつあるが、プロバイオティック作用のメカニズムは不明のままである。さらにまた、プロバイオティクスの臨床的有効性は、細菌の集落形成の確立及び維持能力に大きく左右され、活性物質の信頼できる定常的産生に依存し、さらに、前記は統制不能の製剤組成及び前記活性物質のホメオパシーデリバリーによって制限される。さらにまた、生の細菌の使用は感染及び疾患の回避不能のリスクを与える。したがって、炎症性異常(例えば炎症性腸疾患)を予防又は治療するために、単離された、生物活性を有するプロバイオティック因子及びより効果的な治療法に対する要求が存在する。
【0010】
発明の要旨
本発明は、ラクトバシルスGGによって分泌され、さらに熱ショックタンパク質の発現を誘発する生物活性を有する細胞保護化合物を提供することによって、当業界における前述の少なくとも1つの要求を満たす。熱ショックタンパク質の細胞保護作用は炎症に対する細胞の防護を高めることができる。したがって、本発明の化合物はIBD及び他の炎症性疾患を治療する方法及び組成物を提供する。
理論に拘束されることは望まないが、腸上皮細胞機能に対するプロバイオティクスの保護的及び有益な作用は、プロバイオティック作用のメカニズムの1つには細胞保護性熱ショックタンパク質の誘発が含まれうることを示しているということは注目される。本明細書は、プロバイオティックLGGによって合成されるペプチドは、転写因子HSF-1による転写調節を必要としながら時間依存性及び濃度依存性態様で細胞保護性熱ショックタンパク質をネズミの腸上皮細胞で誘発する能力を有することを明らかにする。さらに興味深いことに、本発見は、LGG由来の条件付け培養液は酸化体ストレスに対する防護を提供し上皮細胞の熱ショックタンパク質をアップレギュレートするだけでなく、それらはまたシグナルトランスダクション経路も調節することを示す。
【0011】
ある特徴では、本発明は、ラクトバシルスGG由来の単離された細胞保護化合物、例えばラクトバシルスGG-条件付け培養液を含む組成物を提供する。本明細書で用いられる、“由来する”とは、直接的単離によるか、又は例えば本明細書に開示されるか若しくは本明細書の開示を考慮して日常的な方法を用いて決定されるような特徴に基づいて、最終的に前記ラクトバシルスGGから得られることを意味する。本化合物は当業界で公知の任意の技術、例えば組換え発現、化学合成などを用いて得られる。ある種の実施態様では、前記細胞保護化合物は、少なくとも1つの熱ショックタンパク質の発現を誘発する。好ましい実施態様では、前記細胞保護化合物はHsp25及びHsp72の少なくとも1つの発現を誘発する。本発明のいくつかの実施態様では、前記細胞保護化合物はタンパク質である。さらに、前記タンパク質が熱安定性である実施態様も存在する。本明細書で用いられる、“熱安定性”は、水で20分煮沸後に検出可能な活性を保持することができるタンパク質をいう。本発明の細胞保護タンパク質の活性は、少なくとも1つの熱ショックタンパク質、例えばHsp25又はHsp72の発現を誘発するその能力をアッセイすることによって決定することができる。いくつかの実施態様では、前記タンパク質は酸安定性である。本明細書で用いられる、“酸安定性”は、7.0より低いpHでもっとも活性が強いタンパク質をいう(この場合、活性はHsp25の発現を誘発するタンパク質の能力によって決定される)。いくつかの実施態様では、前記タンパク質は10kDa未満の分子量を有する。好ましい実施態様では、前記細胞保護化合物は、熱安定性、酸安定性であり、10kDa未満の分子量を有するタンパク質である。いくつかの実施態様では、前記細胞保護化合物は、熱及び酸化から成る群から選択されるストレスから上皮細胞を保護する。また別の好ましい実施態様では、前記単離された細胞保護化合物は、ラクトバシルスGGから単離されうる性能、上皮細胞(例えば腸上皮細胞)でHsp25及びHsp72の発現を誘発する性能、10kDa未満の分子量を有し、さらに酸安定性及び熱安定性の両安定性を有するタンパク質である。
【0012】
本発明のまた別の特徴は、炎症性疾患をもつ対象者(例えば人間の患者)を治療する方法を提供する。前記方法は、ラクトバシルスGG-条件付け培養液に由来する単離された細胞保護化合物の治療的に有効な量又は用量を前記患者に投与することを含む。本明細書で用いられる、“治療的に有効な量”は、炎症性疾患の発症の抑制又はその速度を遅らせることによって、そのような疾患の経過を予防、緩和するか又は前記に影響を及ぼす検出可能な有益な作用を示す量である。この方法にしたがって治療するために適した例示的炎症性疾患は、炎症性腸疾患、例えばクローン病及び潰瘍性大腸炎である。いくつかの実施態様では、細胞保護化合物は、少なくとも1つの熱ショックタンパク質(例えばHsp25及び/又はHsp72)の発現を誘発する。
本発明の関連する特徴は、炎症性疾患の症状又は炎症疾患に付随する症状を緩和する方法である。前記方法は、ラクトバシルスGG(例えばラクトバシルスGG培養液)に由来する単離された細胞保護化合物の治療的に有効な用量を、対象者(例えば人間の患者)に投与することを含む。本発明のこの特徴の例示的な実施態様は、炎症性腸疾患、例えばクローン病又は潰瘍性大腸炎の症状を緩和する方法である。前記に関連する本発明の特徴は、炎症性疾患を予防する方法を提供し、前記方法は、ラクトバシルスGGに由来する単離された細胞保護化合物、例えばラクトバシルスGG-条件付け培養液に存在する単離された細胞保護化合物を対象者、例えば人間の患者に投与することを含む。
【0013】
炎症性疾患は自己免疫疾患でもよい。本発明にしたがって治療することができる自己免疫疾患の例には、慢性関節リウマチ、若年性関節リウマチ、変形性関節症、乾癬性関節炎、アトピー性皮膚炎、湿疹性皮膚炎、乾癬、シェーグレン症候群、クローン病、アフタ性潰瘍、虹彩炎、結膜炎、角結膜炎、潰瘍性大腸炎、喘息、アレルギー性喘息、皮膚エリテマトーデス、皮膚硬化症、膣炎、回帰反応性癩(leprosy reversal reactions)、癩性結節性紅斑、自己免疫性ブドウ膜炎、多発性軟骨炎、スティーヴェンズ-ジョンソン症候群、扁平苔癬、サルコイドーシス、原発性胆汁性肝硬変、後部ブドウ膜炎、間質性膀胱炎、又は間質性肺線維症が含まれる。
好ましい実施態様では、前記炎症性疾患は炎症性腸疾患である。例示的な実施態様では、前記炎症性腸疾患はクローン病である。また別の本発明の例示的な実施態様では、前記炎症性腸疾患は潰瘍性大腸炎である。さらに他の実施態様では、投与される化合物は少なくとも1つの熱ショックタンパク質(例えばHsp25及び/又はHsp72)の発現を誘発する。
炎症性疾患に付随する症状を治療、緩和する方法又は炎症性疾患を予防する方法では、本発明は、本明細書に開示する細胞保護化合物を含む医薬組成物の有効量又は用量を対象者(例えば人間の患者)に投与することを含む。そのような医薬組成物は下記に記載される。
【0014】
本発明のまた別の特徴は、少なくとも1つの熱ショックタンパク質(例えばHsp25及び/又はHsp72)の細胞内発現を誘発する方法を提供する。前記方法は、ラクトバシルスGGに由来する単離された細胞保護化合物(例えばラクトバシルスGG-条件付け培養液に存在する細胞保護化合物)と前記細胞を接触させることを含む。ある種の実施態様では、本発明は、Hsp25及びHsp72の一方又はその両方の細胞内発現を誘発する方法を提供する。前記方法は、ラクトバシルスGG又はラクトバシルスGG-条件付け培養液から単離された細胞保護化合物と前記細胞を接触させることを含む。ある種の実施態様では、上皮細胞(例えば腸上皮細胞)を前記単離された細胞保護化合物と接触させる。他の実施態様では、前記細胞は免疫細胞(例えば樹状突起細胞)である。
本発明のまた別の特徴は、ラクトバシルスGGに由来する単離された細胞保護化合物(例えばラクトバシルスGG-条件付け培養液で見出されるか又は前記から精製されるもの)、及び少なくとも1つの医薬的に許容できる賦形剤を含む医薬組成物を提供する。ある種の実施態様では、前記医薬的に許容できる賦形剤はポリエチレングリコールである。前記細胞保護化合物又は生物活性物質は“単離された形態”として存在し、前記単離された形態とは、前記化合物がラクトバシルスGG細胞又は培養液中で天然の状態では一緒に見出される少なくとも1つのタンパク質から、前記化合物が分離されてあることを意味する。本発明のこの特徴のいくつかの実施態様では、前記化合物は少なくとも1つの熱ショックタンパク質(例えばHsp25及び/又はHsp72)の発現を誘発する。
【0015】
また別の特徴では、本発明は単離された細胞保護化合物を製造する方法を提供する。前記方法は、ラクトバシルスGGを入手し、ラクトバシルスGGから細胞保護化合物を単離する工程を含む。上記に特筆したように、細胞保護化合物の単離された形態とは、前記化合物がラクトバシルスGG細胞又は培養液中で天然の状態では一緒に見出される少なくとも1つのタンパク質から、前記化合物が分離されてあることを意味する。ラクトバシルスGGを入手する工程では、そのような細胞集塊を得るか、又はそのような細胞を適切な培養液(例えばMRS)で増殖若しくは培養し、それによって条件付け培養液中の細胞を入手してもよい。ある実施態様では、細胞保護化合物の産生を担保するために少なくとも8時間の培養時間が意図される。ある種の実施態様では、前記細胞保護化合物はタンパク質である。いくつかの実施態様では、前記細胞保護化合物は、熱安定性及び/又は酸安定性であり、及び/又は10キロダルトン(kDa)未満の分子量を有する。さらに別に特徴では、本発明はさらに前記細胞保護化合物の性状を決定する工程及び/又は前記を同定する工程を含む。
当業者はタンパク質を単離する方法については熟知しているであろう。例えば、本発明の細胞保護タンパク質は、HPLC、FPLC、疎水性LC、イオン交換LC、リガンド/アフィニティーLC、サイズ排除LC、薄層クロマトグラフィー、膜ろ過、等電点分離(isoelectric focusing)、ポリアクリルアミドゲル電気泳動又は前記方法の任意の組合せによって単離することができる。
【0016】
本発明の化合物の細胞保護特性の性状を決定する方法は当業者には周知であろう。細胞保護活性の指標には、例えば熱ショックタンパク質の発現を誘発する能力、及び炎症性疾患をもつ対象者で細胞損傷を低下させる及び/又は創傷治癒を促進する能力が含まれる。したがって、本発明の化合物の性状を決定するあるアプローチは、熱ショックタンパク質の誘発をアッセイすることである。本発明の化合物の性状を決定するまた別のアプローチは、対象者で細胞損傷を低下させる及び/又は創傷治癒を促進する化合物の能力をアッセイすることであろう。
タンパク質を同定する方法は当業者には公知である。例えば、細胞保護タンパク質は、サンプルを6Nの加水分解に付し、続いて問題のペプチドを構成する全ての個々のアミノ酸を同定するためにHPLC-マスシークェンシングを実施することによって同定することができる。さらにまた、分子内アミノ酸配列は、容易に識別されるトリプシンフラグメントから決定することができる。これらのフラグメントのアミノ酸配列は、フライト質量分析のマトリックス補助レーザー脱着イオン化時間(matrix-assisted laser desorption ionization-time of flight mass spectrometry;MALDI-TOF)によって決定することができる。続いてアミノ酸配列を関連するデータベース(例えばSwissProt、GenBank)と比較し、問題のタンパク質又はペプチドを同定する。
また別の特徴では、本発明の方法はさらに多くの細胞保護化合物を入手する工程を含む。さらに多くの細胞保護化合物は当業者に公知の任意の方法によって入手することができる。例えば、さらに多くの細胞保護化合物は、ラクトバシルスGG又はラクトバシルスGG-条件付け培養液から単離することによって入手することができる。また別には、さらに多くの細胞保護化合物は、前記細胞保護化合物をコードする組換えDNAの発現によって入手することができる。
【0017】
また別の特徴では、本発明の方法は、前記さらに多くの細胞保護化合物を医薬組成物に加える工程をさらに含む。ある種の特徴では、本発明の方法はさらに、炎症性疾患を持つ対象者に前記医薬組成物を投与する工程を含む。前記対象者は哺乳動物でありうる。前記対象者は好ましくは人間である。
本発明のまた別の特徴では、細胞保護ポリペプチド化合物をコードする単離ポリヌクレオチドが提供される。前記コードされるポリペプチドは以下の特性を特徴とする:ラクトバシルスGGから単離することができる;腸上皮細胞でHsp25及びHsp72の発現を誘発することができる;10kDa未満の分子量;及び酸安定性及び熱安定性特性。
本発明の更なる特徴は、上記記載の単離された細胞保護化合物を含む組成物を目的とし、ここで前記化合物は、上皮細胞内のシグナルトランスダクション経路を活性化し、Hsp25及びHsp72から成る群から選択される熱ショックタンパク質の発現をもたらす。特段の指摘がなければ、当業界で公知のようにHsp70はHsp72の同義語であるが、ただしHsp72はタンパク質のより正確な質量概算を含む。いくつかの実施態様では、活性化は、熱ショック因子-1(HSF-1)によって仲介される。いくつかの実施態様では、前記シグナルトランスダクション経路は、MAPキナーゼ、SAPキナーゼ、ERK1及びERK2から成る群から選択されるキナーゼを含む。ある種の実施態様では、前記経路の活性化は、MAPキナーゼ、SAPキナーゼ、ERK1及びERK2から選択されるキナーゼの活性化を含む。
関連する特徴では、本発明は、上皮細胞でシグナルトランスダクション経路を活性化する方法を提供する。前記方法は、本明細書に開示した単離された細胞保護化合物の有効量と前記細胞を接触させることを含む。いくつかの実施態様では、前記シグナルトランスダクション経路は、MAPキナーゼ、SAPキナーゼ、ERK1及びERK2から成る群から選択されるキナーゼを含む。いくつかの実施態様では、前記単離された細胞保護化合物は医薬組成物の形態で投与される。
【0018】
本発明のさらに別の特徴は酸化体損傷を防ぐ方法を目的とし、前記方法は、本明細書に開示する単離された細胞保護化合物、又はそのような化合物を含む医薬組成物の有効量を細胞(例えば上皮細胞)に投与することを含む。
本発明のさらに別の特徴は細胞骨格を安定化させる方法であり、前記方法は、本明細書に開示する単離された細胞保護化合物、又はそのような化合物を含む医薬組成物の有効量を細胞(例えば上皮細胞)に投与することを含む。
本発明のまた別の特徴は炎症性疾患を予防する方法であり、前記方法は、本明細書に開示する医薬組成物の有効用量を対象者に投与することを含む。好ましい対象者は人間の患者である。
本発明のさらに別の特徴は、本明細書に開示する医薬組成物及び前記組成物の対象者への投与のためのプロトコルを含むキットである。意図される目的に適切した、当業界で公知のいずれの投与プロトコルも本発明によって想定される。好ましい対象者は人間の患者である。
本明細書に記載されるいずれの方法又は組成物も、本明細書に記載されるその他のいずれの方法又は組成物に対しても提供しうることが予想される。
特許請求の範囲の“又は”という用語の使用は、選択されたもののみを指すか、又は選択されたものが相互に排除されることが明快に指摘されないかぎり“及び/又は”を意味するために用いられるが、ただし明細書では、選択されたもののみ及び“及び/又は”を指す定義が支持される
本出願の全体を通して、“約”という用語は、ある値が前記値を決定するために用いられた装置又は方法による誤差の標準偏差を含むことを示すために用いられる。
“a”及び“an”は、特許請求の範囲又は明細書中で“含む”という単語と一緒に用いられるときは、特段の規定がなければ1つ又は2つ以上を示す。
本発明の他の特色及び利点は後続の詳細な説明から明白となるであろう。しかしながら、後続の詳細な記載及び具体的な実施例は、本発明の特定の実施態様を示す一方で、単に例示として提供されることは理解されよう。なぜならば、当業者には本発明の範囲内において多様な変更及び改変がこの詳細な記載から明白になりうるからである。
【0019】
発明の詳細な説明
A.概論
プロバイオティクスは生きた生物であり、フードサプリメントにもっとも多く見出され、それらの栄養的価値を超える健康上の利点を提供する。本発明のプロバイオティック化合物は、宿主に対して多くの有益な作用を有すると期待される。一般的なプロバイオティックであるラクトバシルスGGによって産生される可溶性因子は上皮細胞に作用して、細胞保護性熱ショックタンパク質Hsp25及びHsp72の時間依存性及び濃度依存性誘発をもたらす。LGGによって産生される可溶性因子がHsp産生のために十分であり、生きた細菌は要求されない。Hspタンパク質の実際の出現には数時間を要するが、細胞がほんの数分間LGG-CMに暴露される除去実験では、上皮細胞に熱ショックタンパク質をアップレギュレートさせるシグナルを開始させるために必要な時間は非常に短いことが示され、LGG-CMから上皮細胞へ開始シグナルが伝達される際に、シグナルトランスダクション経路が役割を果たすことが示唆された。多くのタンパク質キナーゼがストレス応答時に活性化されることが知られており、LGG-CM暴露は多数のMAPキナーゼを活性化することが確認された。我々のYAMC細胞では基準レベルの活性化ERK1/2が存在するが、LGG-CM前処理は、フォルボルエステルと同様に効果的にERK1/2を活性化し、さらにp38及びJNKもまた活性化する。LGG-CM暴露前のp38及びJNKの阻害剤による細胞処理は、LGG-CMによるHsp72の誘発を阻害したが、Hsc73発現には影響はなかった。このことは、これら2つのMAPキナーゼは、LGG-CMに暴露されることによって引き起こされる誘導性Hspの発現開始に要求される細胞シグナルの伝達に役割を有することを示している。他の実験によって、p38及びJNKは、ERK1/2とは別個の共通経路を通じて作用することが明らかにされた(Liu et al. Free Radic. Biol. Med. 21:771-781, 1996)。これらの結果は、LGG-CMは上皮細胞のシグナルトランスダクションに影響を及ぼすことを明らかにし、したがって、Hsp産生のための少なくとも1つの迅速なシグナリングが少なくとも1つのシグナルトランスダクション経路を介して開始されることを示している。
【0020】
プロバイオティックラクトバシルスGGから得られる条件付け培養液(LGG-CM)(本明細書の全体を通して“medium”及び“media”は互換的に用いられ、文脈から明白な単数又は複数として用いることができる)は、腸上皮細胞で熱ショックタンパク質の発現を誘発する。Hsp25及びHsp72の両方が、時間依存性及び濃度依存性態様でLGG-CMによって誘発される。さらにまた、これらの作用は、酸及び熱安定性の両安定性を示す低分子量ペプチドによって仲介される。DNAマイクロアレー実験によって、上皮細胞では、Hsp72(Hsp70)は、LGG-CM処理に対する応答でもっとも強くアップレギュレートされる遺伝子の1つであることが示された。リアルタイムPCR及び電気泳動移動度シフトアッセイによって、Hsp誘発の調節は少なくとも部分的に転写性であり、転写因子HSF-1を必要とすることが確認される。Hspは暴露後数時間誘発されないとしても、LGG-CMへの一過性の暴露がHsp誘発のためのシグナルを開始させるために十分であり、さらに応答の迅速性が仮定されるならば、そのような迅速な時間は、シグナルトランスダクション経路が中心的に関与する可能性を示唆する。LGG-CMは、MAPキナーゼを活性化することによって腸の上皮細胞においてある種のシグナリング経路の活性化を調節することが実験によって確認される。p38及びJNKの阻害物質は、LGG-CMによって通常誘発されるHsp72の発現を阻止する。機能実験によって、腸上皮細胞のLGG-CM処理は、それら細胞を酸化体ストレスから保護し、さらに細胞骨格の完全性を保存することが示される。腸上皮細胞で細胞保護性Hspの発現を誘発することによって、及び/又はシグナルトランスダクション経路を活性化させることによって、LGG-CMによって分泌される単離ペプチド生成物は、このペプチドの有益な臨床作用に貢献する。
【0021】
本発明は、生物活性化合物がラクトバシルスGG(LGG)(プロバイオティック細菌)から単離されうることを示す。生きた細菌に代わって、細菌を含まないプロバイオティック由来化合物は、生きた細菌の使用を超える安全性という利点を提供する。さらにまた、単離された化合物の臨床的有効性は、プロバイオティクスの有効性(前記は細菌の集落形成の確立及び維持に左右される)よりも高い一貫性を有するであろう。
熱ショックタンパク質の誘発をもたらす、LGG-CMに存在する因子は低分子量ペプチドであり、前記は驚くべきことに酸安定性及び熱安定性である。これらの特性は、それらがGI管を通過する際に腸の敵対的環境で生存するためにそのような分泌因子について要求される復元力を提供することができる。腸管腔の中央部の物理化学的環境は上皮表面で見出される環境とは非常に異なっているということを特筆することはまた重要であろう(上皮表面はより酸性傾向が強い(Rechkemmer et al. 1986))。この酸性のミクロ環境は、例えば膜輸送、薬剤摂取及び栄養吸収のような機能において重要な役割を果たすと考えられる(Sanderson, 1999)。前記酸性ミクロ環境は、ある種のジペプチドの腸上皮細胞内への輸送に対し直接的な影響を示す(Lister et al. 1995)。LGG-CM中の生物活性を有するペプチドがレセプター仲介経路を介して作用するならば、その独特の酸安定特性は、上皮細胞表面のレセプターと結合し、細胞保護性Hspの誘発を開始させるその能力において重要な役割を果たしうる。
したがって、本発明の化合物は、炎症性疾患(例えばIBD)の治療のために、当業界でこれまでに利用可能であった治療方法より優れた新規な治療方法を提供するであろう。ある特徴では、本発明は、ラクトバシルスGGから単離可能又は誘導可能な単離された細胞保護化合物を含む組成物を提供する。さらにまた、本発明は、炎症性疾患をもつ患者の少なくとも1つの公知の症状を予防、治療又は緩和する方法を提供する。前記方法は、ラクトバシルスGGに由来する細胞保護化合物の有効な用量又は量を前記患者に投与することを含む。他の特徴では、本発明は、ラクトバシルスGG-条件付け培養液に由来する、細胞保護特性を有する化合物を単離及び性状決定する方法を提供する。
【0022】
B.細胞保護化合物の同定及び性状決定
本発明は、細菌培養に由来する、細胞保護特性を有する化合物を同定及び性状決定する方法を提供する。本発明はまた、プロバイオティック生物から単離することができる細胞保護化合物を、細胞保護組成物及び炎症性疾患の少なくとも1つの症状の治療、予防若しくは緩和に有用な方法と同様に提供する。
1.細胞保護化合物の単離
いずれの細菌株又はプロバイオティック製剤も、細胞保護化合物のスクリーニングに適している。好ましくは、前記細菌は非病原性の腸内細菌である。本明細書に開示される例示的な実施態様では、前記細菌はラクトバシルスGGである。細菌の培養方法は当業者には周知である。MRSブロスが、ラクトバシルス種の単離及び培養に一般的に用いられる。例えば、ラクトバシルスGGは、37℃で5%CO2の微好気性条件下でMRSブロスで容易に増殖する。ラクトバシルス種の培養のためのまた別の培養液の例はトマトジュースブロスである。
前記細胞保護化合物は、ラクトバシルスGG-条件付け培養液中に見出される可溶性因子であると決定した。これら化合物の同定及び性状決定を容易にするために、培養液から細菌細胞を除去することが好ましい。当業者は、培養液中の可溶性因子から細胞を分離する方法を熟知しているであろう。例えば、前記細胞は、遠心、ろ過又は両技術の組合せによって除去することができる。細菌細胞の除去に続いて、単離された細胞保護化合物をさらに精製及び性状決定しうる供給源として、前記“条件付け培養液”が用いられる。
【0023】
(a)他の分離技術:
当業者に公知の他の分離技術もまた、条件付け培養液の分画に有用で、それによってプロバイオティック因子(すなわち生物活性物質)の単離に有用であろうと予想される。高速液体クロマトグラフィー(HPLC)は、比類のないピーク分析をもたらす非常に迅速な分離を特徴とする。これは、非常に微細な粒子及び高圧を使用して適切な流速を維持することによって達成される。分離は、分の次元で、たいていの場合は1時間で達成されうる。さらにまた、空隙容積がベッド容積の極めて小さな部分を占めるように粒子は非常に小さく、さらに緊密に充填されているので、非常にわずかな容積のサンプルが要求されるだけである。さらに、バンドが非常に細くサンプルがほとんど希釈されないので、要求されるサンプル濃度はそれほど高くない。
高速タンパク質液体クロマトグラフィー(fast protein liquid chromatography;FPLC)は、タンパク質分離に一般的に用いられる技術である。FPLCは、低圧下で実施される基本的にはHPLC形であり、セルロース又はデキストランのような不活性な物質から製造された“樹脂”に特異的な結合特性を与えるために化学的側鎖基が結合されてあるものが用いられる。前記側鎖はクロマトグラフィーのタイプを決定する。例えば、疎水性LCはタンパク質が含有する疎水性アミノ酸の量によってそれらを分離し、イオン交換LCは荷電アミノ酸の数及びタイプによってタンパク質を分離し、リガンド/アフィニティーLCは一定の基質、染料又は抗体に対するタンパク質の特異性によってタンパク質を分離し、サイズ排除LC(又はゲルろ過)はそれらのサイズによってタンパク質を分離する。
【0024】
ゲルろ過クロマトグラフィー(又は分子篩クロマトグラフィー)は、分子のサイズを基準にする特殊なタイプの分配クロマトグラフィーである。ゲルクロマトグラフィーを支える理論は、小孔を有する不活性物質の微粒子を用いて調製されたカラムは、小分子から大分子を、それら分子がサイズに応じて前記孔の中を通過するか又は孔の周りを通るために分離することができるということである。前記粒子を製造した物質が分子を吸着しないかぎり、流速を決定する唯一の因子はサイズである。したがって、分子は、形状が比較的一定であるかぎり、サイズの減少順にカラムから溶出する。ゲルクロマトグラフィーは、他の全ての因子(例えばpH、イオン強度、温度など)に分離が左右されないので、種々のサイズの分子の分離のために卓越している。さらにまた、実質的に吸着が存在せず、ゾーン拡散が少なく、溶出容積は単純な態様で分子量に相関する。
さらにまた、条件付け培養液は、特定の分子量カットオフをもつフィルターを通してもよい。例えば、本発明のいくつかの分画は、特定の分子量カットオフをもつセントリコンフィルターを通して調製された。
荷電を基準にする分離技術もまた意図される。そのような技術の1つはイオン交換クロマトグラフィーである。イオン交換クロマトグラフィーを用いれば、サンプルは荷電マトリックスに可逆的に結合する。ジエチルアミノエチル(DEAE)及びカルボキシメチル(CM)セルロースが一般的に用いられる。続いて、脱着が、移動相の塩濃度の増加によって又はpHの変更によって生じる。本明細書に開示されるクロマトグラフィーのデータによれば、LGG-CM中の細胞保護因子は低pHで安定であり、その等電点は低いと予想され、したがって前記タンパク質は陰性に荷電されているはずで、荷電による分離技術のための良好な候補物質であることが確認される。したがって、単離のための1つのアプローチは、前記条件付け培養液を当業界で公知のように、適切に誘導した(例えば陽性荷電をもつ官能基を所望のpHで導入した)モノSカラムで、陰イオン交換クロマトグラフィーに付すことを必要とする。単離を迅速に行うために、これらのカラムはFPLC系で用いることができよう。
【0025】
電荷を基準に化合物を分離するための当業者に公知のまた別の技術はIEF(等電点分離)である。典型的にIEFを利用する1つのアプローチは二次元電気泳動である。二次元電気泳動は当業界で公知の方法を用いて実施することができる(例えば米国特許第5,534,121号及び6,398,933号を参照されたい)。典型的には、サンプル中のタンパク質は先ず初めに等電点分離によって分離され、その間にサンプル中のタンパク質は、それらの正味の荷電がゼロ(すなわち等電点又はpI)のスポットに達するまで、pHグラディエント中でpIによって分離される。この最初の分離工程はタンパク質の一次元アレイをもたらす。前記一次元アレイのタンパク質は、最初の分離工程で用いられた技術と全般的に別個の技術を用いて二次元でさらに分離される。例えば、等電点分離で分離されたタンパク質は、二次元ではポリアクリルアミドゲルを用いて、例えばドデシル硫酸ナトリウムの存在下でポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)を用いてさらに分離される。SDS-PAGEゲルはタンパク質の分子質量を基準にして更なる分離を可能にする。
二次元アレイのタンパク質は、当業界で公知の任意の適切な方法を用いて検出することができる。タンパク質の染色は、比色染料(例えばクマシーブルー)、銀染色及び蛍光染色(例えばルビーレッド)を用いて実施することができる。当業者には公知のように、タンパク質スポットをゲルから切り出し、気相イオン分光分析法(gas-phase ion spectrometry)によって分析することができる。また別には、タンパク質はゲルから不活性なメンブレンに(例えば電場を利用して)移し、気相イオン分光分析法によって分析することができる。
上記に記載したタンパク質分離技術は、単独で又は任意の組合せで用いることができる。精製又は単離過程で、細胞保護活性を保持する分画を追跡するために分画をアッセイすることが望ましい。例えば、培養液又は分画を、少なくとも1つの細胞保護性熱ショックタンパク質の発現を誘発する能力についてスクリーニングすることができる。これらのアッセイは下記でさらに詳細に記載する。生物学的活性を有する調製物はアリコットとして凍結し、抗炎症性及び細胞保護性化合物の同定、精製及び将来の製造のために後日用いることができる。
【0026】
2.細胞保護化合物の同定
本発明の細胞保護化合物は、当業界で公知のタンパク質の同定方法によって同定される。
例えば、条件付け培養液は先ず初めに分画され、前記分画は生物活性(例えば熱ショックタンパク質発現の誘発能力)について検査されよう。活性を保持する分画の純度は、例えばPAGEとそれに続く銀染色分析によって決定される。活性成分が均一になるまで分解したら、タンパク質は少なくとも2つの方法で分析することができる。第一に、サンプルを真空の試験管で24時間HClを用いて6Nの加水分解及び前記に続くHPLCマスシークェンシングに付すことによってアミノ酸分析を実施して、問題のペプチドを構成する個々のアミノ酸の全てを同定することができる。第二に、容易に識別できるトリプシンフラグメントから分子内アミノ酸配列を決定することができる。単離されたタンパク質は典型的には濃縮され、続いてトリプシンで処理される。フラグメントを乾燥させ、続いてC18逆相HPLCで分解し、ピークのアミノ酸配列をフライト質量分析のマトリックス補助レーザー脱着イオン化時間(matrix-assisted laser desorption ionization-time of flight mass spectrometry;MALDI-TOF)によって決定することができる。続いてアミノ酸配列を公知の1つ又は2つ以上の配列(例えば任意の公知のデータベース(SwissProt、GenBank)で見出される配列)と比較し、問題のタンパク質又はペプチドを同定する。
【0027】
3.細胞保護化合物の性状決定
LGG-条件付け培養液中で見出される化合物を、本明細書に記載した方法又は当業界で公知の方法を用いて細胞保護特性についてアッセイすることができる。細胞保護活性についての指標には、例えば熱ショックタンパク質の発現を誘発する能力及び炎症性疾患をもつ対象者で炎症を低下させる能力が含まれる。
(a)熱ショックタンパク質:
本明細書に開示するデータは、LGG-条件付け培養液が熱ショックタンパク質、特に少なくともHsp72及びHsp25の発現を誘発することを示す。熱ショックタンパク質は、環境的ストレス因子から細胞を保護するタンパク質ファミリーである。Hsp72は、極めて重要な細胞性タンパク質と結合して安定化させ、それらの変性を防ぐ。前記はまた、ミトコンドリアの完全性の維持、チトクロームCの漏出の阻害及びカスパーゼ8活性の封鎖により抗アポトーシス作用を有する(Liu et al. 2003)。Hsp25/27はアクチン安定化物質であり、細胞骨格及び接着結合の機能を保存する。熱ショックタンパク質の発現を誘導する能力は、LGG-条件付け培養液中の活性な化合物が細胞保護性であることを示している。
熱ショックタンパク質の誘発を分析する方法は当業者には公知である。例えば、Hsp72及びHsp25の誘発は、特異的なアイソフォームに対するモノクローナル抗体(Stressgen)を用いる標準的なウェスタンブロット分析によって実施することができる。構成的熱ショック同族体、Hsp60及びHsc73の免疫ブロットを実施して、応答の特異性を確認し、さらにレーンの等しいローディングを担保することができる(これらのタンパク質の発現は通常は一定である)。さらにまた、抗体を用いる免疫蛍光及びELISAによって熱ショックタンパク質の発現を検出することができる。
熱ショックタンパク質の誘発を分析する他の方法には、例えばRT-PCR、ゲノムマイクロアッセイ及びリアルタイムPCRを用いるHspのmRNAレベルのアッセイが含まれる。熱ショックタンパク質の誘発を分析するまた別のアプローチは、転写因子HSF-1の結合を見る電気泳動移動度シフトアッセイの使用である。さらにまた、HSE-ルシフェラーゼレポーターアッセイを用いて転写因子HSF-1の活性を測定することができる。
【0028】
(b)動物モデル:
本発明の化合物の性状決定は、多様な動物モデルの使用を含むことができる。前記動物モデルには、特定の欠損を有するように、又はマーカーを含むように操作されたトランスジェニック動物が含まれ、前記動物は、体内の種々の細胞に到達し、前記細胞に影響を与える候補物質の能力を測定するために用いることができる。それらの大きさ、扱い易さ、それらの生理学及び遺伝的構成に関する情報、及びヒトの炎症モデルとして技術的に認知された有効性から、マウスが、特に遺伝子導入研究のために好ましい動物モデルである。しかしながら、他の動物も同様に適切であり、前記には例えばラット、ウサギ、ハムスター、モルモット、アレチネズミ、ウッドチャック、ネコ、イヌ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ウシ、ウマ及びサル(チンパンジー、テナガザル及びヒヒを含む)が含まれる。アッセイは、これらの種のいずれかに由来する動物モデルを用いて実施することができる。
大腸炎のマウスモデルのいくつかの例には、DSS-誘発大腸炎モデル、IL-10ノックアウトマウス、A20ノックアウトマウス、TNBS-誘発大腸炎モデル、IL-2ノックアウトマウス、TCRアルファレセプターノックアウトマウス及びE-カドヘリンノックアウトマウスが含まれる。
動物のテスト化合物(又は候補化合物)による処理は、適切な形態の化合物の動物への投与を必要とする。当業者に公知の任意の炎症疾患モデル動物が用いられる。投与は、臨床的又は非臨床的目的のために用いることができる任意のルートによって実施される。例えば、化合物は、胃管強制給餌又は直腸投与によってデリバーされる。さらにまた、化合物の保護作用は、動物モデルで例えば大腸炎を誘発する前に化合物を投与することによってアッセイされる。
また別には、化合物の治療効果は、動物モデルで例えば大腸炎を誘発した後で化合物を投与することによってアッセイされる。
化合物のin vivoでの有効性の決定は多様な異なる基準を必要とする。当業者は、対象者(前記が動物であれ人間であれ)で炎症をアッセイするために利用可能な広範囲の技術を熟知していよう。例えば、炎症は、組織学的評価及び大腸炎の重篤度の等級付けによって測定される。対象者で炎症をアッセイする他の方法には、例えばミエロペルオキシダーゼ(MPO)活性、輸送活性、ヴィリン発現又は経皮電気抵抗(TER)の測定が含まれる。
化合物の有効性はまた、細胞増殖を判定する検査を用いてアッセイすることができる。例えば、細胞増殖は、5-ブロモ-2'-デオキシウリジン(BrdU)の取り込みを測定することによってアッセイすることができる。化合物の有効性を決定するまた別のアプローチはアポトーシスの程度の判定である。アポトーシスを調べる方法は当業界で公知であり、例えばTUNELアッセイが含まれる。
さらにまた、毒性及びドースレスポンスの測定は、in vitro又はin cytoアッセイよりも意義のある態様で、動物で実施することができ、当業界では日常的な方法である。
【0029】
C.医薬組成物
本発明の組成物は有効量の細胞保護化合物を含み、前記は医薬的に許容できる担体及び/又は水性媒体に溶解及び/又は分散することができる。
本発明の細胞保護化合物は、当業者に公知の任意の方法によってデリバーされる(例えば“Remington's Pharmaceutical Sciences”(15th Edition)を参照されたい)。例えば、前記医薬組成物は経口的、直腸的、非経口的又は局所的にデリバーすることができる。
本発明の化合物を含む溶液は、界面活性剤(例えばポリエチレングリコール(PEG)又はヒドロキシプロピルセルロース)と適切に混合された水で調製することができる。通常の保存及び使用条件下では、これらの調製物は微生物の増殖を防ぐために保存料を含む。注射に使用できる適切な剤形は、無菌的な注射可能溶液又は分散液を即席に調製するために、無菌的水溶液又は分散液及び無菌的粉末を含む。前記剤形は通常無菌的であるべきであり、さらに操作可能な注入性が存在しうる程度に流動性でなければならない。前記は製造及び保存条件下で安定でなければならず、さらに微生物(例えば細菌及び菌類)の汚染作用から防御されねばならない。
例えば水溶液での非経口投与のために、必要な場合は溶液を適切に緩衝化し、さらに希釈液は先ず初めに十分な塩類又はグルコースで等張にされる。これら特定の水溶液は、特に静脈内、筋肉内、皮下、腫瘍内及び腹腔内投与に適切である。この関連において使用できる無菌的水性媒体は、本開示を考慮すれば当業者には明らかであろう。
【0030】
座薬もまた用いることができる。座薬は、多様な重量及び/又は形状をもつ固体(ゲルを含む)剤形であり、通常は直腸、膣及び/又は尿道への挿入のために投薬される。挿入後、座薬は軟化、溶融及び/又は体腔液中で溶解する。一般的には、座薬のために慣例的な結合剤及び/又は担体(例えばポリアルキレングリコール及び/又はグリコール及び/又はトリグリセリド)が含まれうる。そのような座薬は、例えば0.5%から10%、好ましくは1%から2%の範囲の活性成分を含む混合物から形成することができる。本発明の医薬組成物はまた浣腸によってデリバーすることもできる。
経口製剤は、通常用いられる賦形剤、例えば医薬等級のマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウムなどを含む。前記組成物は、溶液、懸濁液、錠剤、ピル、カプセル、徐放製剤及び/又は散剤の形態をもつ。ある種の限定的態様では、経口医薬組成物は不活性な希釈剤及び/又は同化吸収性食用担体を含んでいてもよく、及び/又はそれらは硬質シェル-及び/又は軟質シェル-ゼラチンカプセル中に封入されてあってもよく、及び/又はそれらは錠剤に打錠されてもよく、及び/又はそれらは食事療法の食品中に直接取り込まれてもよい。経口用治療薬の投与のためには、活性化合物は賦形剤とともに取り込ませるか、及び/又は摂取可能な錠剤、頬内錠剤、トローチ、カプセル、エリキシル、懸濁液、シロップ、ウェファースなどの形で用いることができる。そのような組成物及び/又は調製物は少なくとも0.1%の活性化合物を含むべきである。組成物及び/又は調製物のパーセンテージはもちろん変動させることができ、及び/又は便利にはユニットの約2から約75%、好ましくは25から60%の間であろう。そのような治療的に有用な組成物中の活性化合物の量は、適切な服用量が得られるような量である(そのような量は当業界で公知であるか又は決定可能である)。
【0031】
錠剤、トローチ、ピル、カプセルなどはまた以下を含むことができる:結合剤、例えばトラガカントゴム、アラビアゴム、トウモロコシデンプン;賦形剤、例えばリン酸二カルシウム;崩壊剤、例えばトウモロコシデンプン、ジャガイモデンプン、アルギン酸など;滑沢剤、例えばステアリン酸マグネシウム;及び/又は甘味剤(例えばシュクロース、ラクトース及び/又はサッカリンを添加することができる);及び/又は香料、例えばペパーミント、冬緑油、及び/又はサクランボ香料。ユニット剤形がカプセルの場合、前記は上記のタイプの材料の他に液体担体を含むことができる。他の種々の材料も、コーティングとして及び/又は剤形の物理的形態の改変のために存在することができる。例えば、錠剤、ピル及び/又はカプセルは、シェラック、糖及び/又はその両方で被覆することができる。エリキシルのシロップは、活性化合物、甘味剤としてのシュクロース、保存料としてメチル及び/又はプロピルパラベン、色素及び/又は香料(例えばサクランボ及び/又はオレンジ香料)を含むことができる。
局所製剤には、活性化合物を含むクリーム、軟膏、ジェリー、ゲル、上皮溶液又は懸濁液などが含まれる。
人体への投与のためには、調製物は、FDAの生物製剤基準によって要求される無菌性、発熱源性、一般的安全性及び純度基準を満たさなければならない。
“医薬的に許容できる”及び“薬理学的に許容できる”という語句は、人体に投与されたときアレルギー反応又は同様な望ましくない反応を生じない分子物質及び組成物を指す。
細胞保護化合物の投与量及び投薬スケジュールは、対象者間で、例えば対象者の体重及び年齢、治療される疾患のタイプ、症状の重篤度、以前の又は併用される治療的介入、投与態様などを考慮して変動させることができ、前記は当業者には容易に決定しうる。
投与は、剤形に適合しうるいずれかの態様で、治療的に有効な量で実施される。投与されるべき量は治療される対象者に左右される。投与に要求される活性成分の正確な量は、医師の判断に左右される。
【0032】
D.実施例
以下の実施例は、本発明の好ましい実施態様を示すために含まれる。以下の実施例に開示される技術は、本発明を良好に実施するために本明細書に開示した技術を反映していることは当業者には理解されよう。しかしながら、本発明の開示を考慮すれば、本明細書に開示された具体的な実施態様において多くの改変を実施することが可能であり、さらに前記改変によりなお同様な結果が本発明の範囲を逸脱することなく得られることは当業者には理解されよう。
以下の実施例で報告される全ての実験は、それぞれ最低限3から6回くり返された。全ての数値は平均±前記平均の標準誤差として表される。複数の比較が実施されるときは、ボンフェローニ(Bonferroni)の修正を用いるANOVA分析を、群間の相違の有意性の判定に用いた。P<0.05は統計的に有意であると考えた。
【0033】
実施例1
培養
組織培養:YAMC(young adult mouse colon:若年成獣マウス結腸)細胞は、インモーティマウス(Immortimouse)に由来する、条件付き不朽化マウス結腸上皮細胞株である。これらの細胞は、温度感受性SV40大型T抗原(tsA58)のトランスジーンをMHCクラスIIプロモーターのインターフェロン-ガンマ感受性部分の制御下で発現する(Whitehead et al. 1993(前記文献は参照により本明細書に含まれる))。この特殊な特性によって、YAMC細胞は、インターフェロン-ガンマ(IFN-γ)の非存在下、37℃のノンパーミッシブ(非形質転換性)条件下で培養することができる。YAMC細胞は、5%(vol/vol)のウシ胎児血清、5U/mLのネズミIFN-γ(GibcoBRL, Grand Island, NY)、50μg/mLのストレプトマイシン及び50U/mLのペニシリンを含み、ITS-Xプレミックス(Collaborative Biomedical Products, Bedford, MA)を補充したRPMI1640培養液で、パーミッシブ(33℃)条件下で維持した。
インターフェロン-ガンマ(IFN-γ)の非存在下、37℃のノンパーミッシブ(非形質転換性)条件下で、これらの細胞は分化を開始し、成熟上皮細胞の機能及び特性(接着結合の形成、極性、微小絨毛性先端を有する膜及び輸送機能を含む)を発達させる。
各実験の前に、60mmの組織培養皿につき2x105細胞の密度で細胞を播種した。RNAの調製のためには、100mmの組織培養皿につき7.5x105細胞の密度で細胞を播種した。33℃で24時間増殖させた後、前記培養液をIFN-非含有培養液と交換し、細胞を37℃(ノンパーミッシブ条件)に移して24時間、分化した結腸細胞表現型を獲得させた。細胞をLGG-条件付け培養液(1:10希釈又は600μL)で一晩処理し、続いて次の日に採集した。熱ショックコントロールは、42℃で23分熱ショックを与え、続いて採集前に37℃で2時間維持した。
細菌培養:プロバイオティック細菌、ラクトバシルスGG(ATCC53103)は、MRSブロスで16時間ほぼ3x109CFU/mL(コロニー計測によって決定される)の濃度に増殖させ、続いて卓上ソーバル(Sorvall)遠心機(3000xg)で4℃、10分の低速で遠心した。MRSブロスは、ブロス1リットル当たり以下を含む:10gのバクトプロテオースペプトン(Bacto Proteose Peptone)#3、10gのバクトビーフエキストラクト、5gのバクトイーストエキストラクト、20gのバクトデキストロース、1.0gのポリソルベート80、2.0gのクエン酸アンモニウム、5.0gの酢酸ナトリウム、0.1gの硫酸マグネシウム、0.05gの硫酸マンガン、2.0gのリン酸二カリウム。上清(条件付け培養液)を0.22ミクロンのタンパク質低結合性ミレックス(Millex)フィルター(Millipore, Billerica, MA)でろ過して滅菌し、全ての細菌細胞を除去した。LGG-条件付け培養液のアリコットを無菌的な微量遠心管に-80℃で更なる使用まで保存した。
【0034】
実施例2
LGG-CMは腸上皮細胞でHsp25及びHsp72の発現を誘発する(ウェスタン分析)
腸上皮細胞をプロバイオティックLGG由来の条件付け培養液で処理し、続いて誘導性熱ショックタンパク質発現についてアッセイした。発現をウェスタンブロット分析するために、細胞を2回洗浄し、続いて氷冷PBS(137mMのNaCl、2.7mMのKCl、8mMのNa2HPO4, pH7.4)中に掻き取った。細胞を沈殿させ(14000xgで20秒、室温)、続いて氷冷溶解緩衝液(10mMトリス(pH7.4)、5mMのMgCl2、それぞれ50U/mLのDNAse及びRNAse、及び完全なプロテアーゼ阻害剤カクテル(Roche Molecular Biochemicals, Indianapolis, IN))に再懸濁した。タンパク質濃度をビシンコニン酸法(Smith et al. 1985)を用いて決定した。3Xのレムリ(Laemmli)停止緩衝液の添加後にサンプルを75℃で5分加熱し、続いて使用まで-80℃で保存した。
レーン当たり20マイクログラムのタンパク質を12.5%のSDS-PAGEで分析した。以前に記載されたように(Kojima et al. 2003)、サンプルを1Xのトウビン(Towbin)緩衝液(25mMトリス、192mMグリシン(pH8.8)、15%vol/volメタノール)中でPVDFメンブレン(Perkin-Elmer NEN, Boston, MA)に移した。メンブレンは、TBS-トゥイーン(0.01%(vol/vol)のトゥイーン20添加トリス緩衝食塩水(150mMのNaCl、5mMのKCl、10mMトリス(pH7.4))中の5%(wt/vol)脱脂乳で1時間室温で封鎖した。一次抗体(すなわち特異的な抗Hsp25抗体(SPA801, Stressgen, Victoria, BC, Canada)、抗Hsp72抗体(SPA810, Stressgen)、又は抗Hsc73抗体(SPA815, Stressgen))をTBS-トゥイーンに添加し、一晩4℃でインキュベートした。二次抗体とともにインキュベートする前にブロットをTBS-トゥイーンで5回洗浄した。メンブレンをセイヨウワサビペルオキシダーゼに結合させた二次抗体(Jackson Immunoresearch Labs, Inc., Fort Washington, PA)とともに室温で1時間インキュベートし、続いてTBS-トゥイーンで5回洗浄し、その後TBS(トゥイーン無し)で最後の洗浄を実施した。続いてメンブレンを強化化学発光系ECL試薬(Supersignal, Pierce, Rockford, IL)で処理し、製造元の指示にしたがって現像した。
プロバイオティックLGG由来の条件付け培養液は、培養されたネズミ結腸YAMC細胞で熱ショックタンパク質Hsp25及びHsp72の発現を時間依存性態様で誘発し、Hsp25の発現は18−20時間後に開始し、Hsp72はいくぶん早く発現された(先ず初めに6−8時間で出現した)(図1A)。この処理過程の間に、構成的に発現されるハウスキーピング遺伝子hsc73は変化せず、LGG-CMの作用は、熱ショックタンパク質の誘導型に特異的であることが示された。さらにまた、上皮細胞はLGG-CMに濃度依存的態様で応答し、もっとも激烈な応答は1:10希釈で観察された(図1B)。熱ショック応答は未処理細胞(NOTX)(図1B、最初のレーン)又は非条件付けMRSブロスと接触させた細胞(図1B、二番目のレーン)では観察されなかった。
温度ストレスで観察された迅速な応答とは異なり(温度ストレスはほぼ2時間以内にYAMC細胞で熱ショックタンパク質を誘発する)、LGG-CMに対する応答ははるかに長い時間を要した。したがって、LGG-CMによるHsp誘発と温度ストレスを引き起こすメカニズムは異なる。
Hsp誘発がLGG-CMへの一過性暴露後に開始されうるか否かもまた決定された。換言すれば、LGG-CMが処理過程の初期に洗い流されたならば、この一過性暴露はHspを誘発させるために十分であるのか、又はHsp誘発はもっと長いLGG-CMへの暴露を必要とするのかが質問である。細胞をLGG-CMに短時間暴露し、前記LGG-CMを洗い流し、続いて細胞を通常のように採集し、Hsp産生について分析した(図10A)。数分の暴露時間でも激烈なHsp誘発応答を誘発するために十分であり、上皮細胞で熱ショックタンパク質の誘発のためのシグナルの開始に要求される時間は非常に短いことが示された。
【0035】
実施例3
MAPキナーゼアッセイ
シグナルトランスダクション経路のLGG-CM誘発Hsp発現への関与を判定するために、MAPキナーゼアッセイを実施した。これらのアッセイのために、TBS-トゥイーン中の3%(w/v)ウシ血清アルブミンでPVDFメンブレンを1時間室温で封鎖した。一次抗体をTBS-トゥイーンに添加し、一晩4℃でインキュベートした。前記一次抗体はMAPキナーゼ又は関連分子の形態の1つに特異的であり、抗38MAPキナーゼ(MAPK)抗体(#9212, Cell Signaling, Beverly, MA)、抗ホスホ-p38MAPK抗体(#9211S, Cell Signaling)、抗-p44/42MAPK抗体(#9102, Cell Signaling)、抗-ホスホ-p44/42MAPK抗体(#9101S)、抗-SAPK/JNK抗体(#9252, Cell Signaling)、及び抗-ホスホ-SAPK/JNK抗体(#9251S, Cell Signaling)が含まれる。キナーゼのリン酸化形は活性化された形態を示す。陽性コントロールとして、37.7μMのアニソマイシン(Alexis, San Diego, CA)をp38及びSAPK/JNK活性化のために用い、さらに100nMのホルボル12-ミリステート13-アセテート(PMA)(Sigma, St. Louis, MO)をERK1/2活性化のために用いた。
MAPキナーゼ阻害剤を用いた実験によって、MAPキナーゼアッセイで得られた結果が確認された。MAPキナーゼ阻害剤実験で、YAMC細胞をいくつかの公知のMAPキナーゼ阻害剤の1つ、すなわちp38阻害剤SB203580(20μM;Alexis Biochemicals, Carlsbad, CA)、JNK阻害剤SP600125(20μM;Alexis Biochemicals)、又はERK阻害剤PD98059(50μM;Alexis Biochemicals)にLGG-CMの添加前に2時間暴露した。LGG-CMの添加後15分間細胞をインキュベートした。培養液を続いて新しいRPMIと交換し、さらにYAMC細胞を4時間後にウェスタンブロット分析のために採集した。
LGG-CMに対する応答の迅速性を所与のものと仮定すれば、データは、上皮細胞内での応答の成立にシグナルトランスダクションが必要であるということと一致する。この可能性を究明するために、細胞を15分間LGG-CMで処理し、続いてキナーゼアッセイを実施した。
【0036】
多くのタンパク質キナーゼが、ストレス(例えばLPS、TNFα、熱、紫外線照射、化学物質及び浸透圧ショック)によって活性化されことが知られており、これらのキナーゼのいくつかはMAPキナーゼファミリーに属する(Keyse, Stress Response:methods and protocols, Totowa:Humana Press, 2000)。したがって、この群のキナーゼに対する作用がシグナルトランスダクションの活性化についての情報読出しとして選択された。短時間暴露の後でさえ、処理細胞と未処理細胞との間のキナーゼ活性化における相違は極めて明瞭であった(図10B)。LGG-CMのみによる細胞の前処理によって調べた3つのMAPキナーゼの全てが活性化された。YAMC細胞では基準値レベルの活性化ERK1/2が存在するが、LGG-CMによるERK1/2の活性化はホルボルエステルPMAによる活性化とほぼ同じように激烈であった。一方、LGG-CM処理は明瞭ではあるが、アニソマイシン(p38及びSAP/JNK活性化の公知の強力な刺激物質)で観察されるほど劇的ではない活性化をもたらした。調べた3つ全てのMAPキナーゼの阻害剤を用いて、MAPキナーゼ経路の活性化がLGG-CMによるHsp誘発のために要求されるか否かを決定した。LGG-CM処理の前に、YAMC細胞をp38及びJNKの阻害剤に暴露することによってHsp72発現が阻止され、したがって、上皮細胞でのLGG-CMによるHspの誘発におけるMAPキナーゼシグナリング経路の役割が確認された。
ストレス条件下でHsp72(Hsp70)によって付与される細胞保護は、部分的には、p38及びJNK(前記はストレス誘発細胞死に対する抵抗性を付与する)の阻害を介して作動すると報告された(Gabai et al. J. Biol. Chem. 272:18033-18037, 1997;Mosser et al. Mol. Cell Biol. 17:5317-5327, 1997)。しかしながら、本明細書に開示したデータは、LGG-CM処理後に観察されるp38及びJNK活性化の阻害はおそらくHsp72(Hsp70)のためではありえないことが確立された。なぜならば、前記作用はそのような短時間内に生じ、さらにLGG-CM処理後のHspの出現には数時間を要するからである。JNKの活性化は、化学的及び物理的ストレス条件下における細胞死の仲介に重要な役割を果たすことが示され、JNKを封鎖することによって、種々の形態のストレスにより誘発される細胞死に対する抵抗性が付与される(Zanke et al. Curr. Biol. 6:606-613, 1996)。同様な観察がキナーゼp38についても得られ(Gabai et al. 1997)、p38及びJNKは両者とも、ERK1/2とは別個の共通経路を介して作動することが実験により示された(Liu et al. Free Radic Biol. Med. 21:771-781, 1996)。したがって、LGG-CM中の可溶性因子がそれら自身の細胞保護特性をもち、前記因子はそれら自身の細胞保護性Hspの誘発能力に加えて、さらに他のメカニズムを介して作動すると予想される。
Yanら(J. Biol. Chem. 277:50959-50965, 2002)の報告とは対照的に、ラクトバシルスGGは、条件付け培養液から回収することができる少なくとも1つの生物活性因子を確かに生成する。増殖実験は、MRS培養液で増殖させたとき、細菌がこれら生物活性因子を産生するには少なくとも18時間を要すること、及び前記細菌は組織培養液で増殖させたときはこれら生物活性因子を産生しないことを明らかにした。
【0037】
実施例4
RNAの単離及び逆転写
細胞を2回氷冷HBSで洗浄し、上記に記載したように採集し、続いて1.0mLのTRIzol(商標)(Invitrogen, Carlsbad, CA)を製造元の指示にしたがって添加し、さらに均一化に使用したTRIzolの1mLにつき200μLのクロロホルム(Fisher, Fair Lawn, NJ)を加え、材料を14000Xgで4℃15分遠心した。水相を取り出し、イソプロパノールを用いてRNAを沈殿させ、続いて75%エタノールで2回洗浄した。RNAペレットを乾燥させ、RNaseを含まない水に溶解させ、続いてRNeasyスピンカラム(QIAGEN, Valencia, CA)を製造元の指示にしたがって用いてさらに精製した。サンプルの完全性を1%アガロースゲル及び280nmと260nmでの吸収によって分析した。cDNAはスーパースクリプト(SuperScript)IIRT(Invitrogen, Carlsbad, CA)を用いて合成した。逆転写酵素反応は、総容積20μL中に全RNA 3μgを用いて実施した(前記20μL中には以下が含まれている:1Xの第一鎖緩衝液、250ngランダムヘキサヌクレオチドプライマー、3μgのRNA、500μMのdNTP、10mMのDTT、40ユニットのRNase outリボヌクレアーゼ阻害剤、及び200ユニットのスーパースクリプトIIRT)。前記反応混合物を25℃で10分、続いて42℃で50分インキュベートし、その後、逆転写酵素を70℃で15分加熱して不活化した。前記cDNAをPCRによる増幅のための鋳型として用いた。cDNAサンプルを1:5に希釈し、更なる実験のために-20℃で保存した。イソプロパノールを用いてRNAを沈殿させ、続いて75%エタノール/DEPC処理水で2回洗浄した。サンプルの完全性は1%アガロースゲル及び280nmと260nmでのUV波長吸収分析によって分析した。続いて、当業界で公知のようにこの吸収比をRNA純度の立証に用いた。
【0038】
実施例5
リアルタイムPCR
リアルタイムPCRを用いてHsp発現のタイムコースを決定した。マウスHsp25及びHsp72コード領域のためのプライマーは、GenBankからダウンロードした配列を用いて設計した。プライマーはプライマーエクスプレスソフトウェア(Applied Biosystems, Foster City, CA)を用いて設計した。マウスHsp25のセンス及びアンチセンスプライマーは以下のとおりである:5'-CCA TGT TCG TCC TGC CTT TC-3'(配列番号:1)及び5'-GAG GGC TGC TTC TGA CCT TCT-3'(配列番号:2);マウスHsp72のセンス及びアンチセンスプライマーは以下のとおりである:5'-GGC TGA TCG GAC GGA AGT T-3'(配列番号:3)及び5'-GGA ACG GCC AGT GCT TCA T-3'(配列番号:4);マウスGAPDHのセンス及びアンチセンスプライマーは以下のとおりである:5'-GGC AAA TTC AAC GGC ACA GT-3'(配列番号:5)及び5'-AGA TGG TGA TGG GCT TCC C-3'(配列番号:6)。リアルタイムPCRは、iQSYBRグリーンPCRスーパーミックス(Bio-Rad, Hercules, CA)を用いてiCycler(Bio-Rad, Hercules, CA)でトリプリケートとして実施した。PCR生成物の直接検出は、SYBRグリーン色素の二本鎖(ds)DNAへの結合によって生じる蛍光の増加を測定することによってモニターした。25μLの最終容積は1XのSYBRグリーンPCRスーパーミックス及び最終濃度300nMのプライマーを含んでいた。3μLの希釈(1:5)cDNAを23μLのPCRマスター混合物に添加した。以下の定量化サイクリングプロトコルを用いた:Taq DNAポリメラーゼの活性化に95℃4分、続いて95℃で15秒の変性と60℃で15秒のアニーリング-伸長の45サイクル。閾値サイクルパラメータ(Ct)は、蛍光が基準値より高い固定閾値を超えたサイクル部分の数と定義される。ΔCt値は、平均Hsp25又はHsp72 Ct値から平均GAPDH Ctを差し引くことによって決定された。ΔΔCt計算は、サンプルプレートで標準曲線を実施せずに標的の相対的定量のために用いられた。これには、ΔΔCtの標準偏差がΔCt値の標準偏差と同じであるように、任意の定数を差し引くことが必要である。GAPDH内在性コントロールに対してYAMC RNA(標的遺伝子)での変化が何倍かは、以下の等式を用いて決定した:
変化(倍)=2-ΔΔCt
リアルタイムPCRを用いて、Hsp25及びHsp72の両mRNAレベルはLGG-CM処理後増加することが見出され、これら2つのHspのLGG-CMによる誘発は転写性であることが示された(図12)。
【0039】
実施例6
電気泳動移動度シフトアッセイ
LGG-CMによるHsp誘発の特性をさらに解明するために、電気泳動移動度シフトアッセイ(EMSA)を実施した(図8)。上記に記載したように、細胞をLGG-条件付け培養液(LGG-CM)又は熱ショックのいずれかで処理した。全細胞抽出物をドライアイス/アルコール浴で1回凍結し、ピペットの先端で穏やかに切り裂き、さらに50000Xg、4℃で5分遠心することによって溶解緩衝液中で調製した(例えばMosser et al.(1988)を参照されたい:前記文献は参照により本明細書に含まれる)。溶解緩衝液:完全プロテアーゼ阻害剤カクテルを含む、25%(v/v)グリセロール、420mMのNaCl、1.5mMのMgCl2、0.2mMのEDTA、0.5mMのDTT、20mMのHEPES(pH7.4)。全細胞抽出物の10μgを、γ-32P-ATP標識HSEオリゴヌクレオチド(熱ショックエレメント(nGAAn)の4つのタンデム挿入リピートを含む:5'-CTAGAAGCTTCTAGAAGCTTCTAG-3';配列番号:7)及び0.5μgのポリ(dI-dC)、及び20ユニットのT4ポリヌクレオチドキナーゼ(New England Biolabs, Beverly, MA)と、1Xの結合反応緩衝液中で混合した。結合反応緩衝液:最終濃度20mMのトリス(pH7.4)、100mMのNaCl、1mMのEDTA、10%(v/v)グリセロール。前記の結合反応物を37℃で60分インキュベートし、標識されたオリゴヌクレオチドは、製造元の指示にしたがいG50スピンカラム(Amersham Biosciences, Piscataway, NJ)を用いて遊離プローブから分離した。標識オリゴヌクレオチドと非標識オリゴヌクレオチド鎖のアニーリングは95℃で5分実施し、続いてゆっくりと一晩冷却させた。続いてサンプルを、0.5XのTBE緩衝液中で4%の非変性ポリアクリルアミドゲル上で泳動して分析した。ゲルを乾燥させ、オートラジオグラフィを実施してDNA-タンパク質複合体を検出した。スーパーシフト実験のために、YAMC細胞をLGG-CMとともにインキュベートし、続いて1μgの抗HSF-1ラットモノクローナル抗体(SPA950、Stressgen, Victoria, BC, Canada)、1μgの抗HSF-2ラットモノクローナル抗体(SPA960, Stressgen)、又は1μLのウサギ免疫前血清を、HSE-結合反応の前に細胞抽出物とともに25℃で30分プレ-インキュベートした。このプレインキュベーションの後、当業界で公知の方法又は本明細書に記載する方法を用いて結合反応及び分析を実施した。
結果から、LGG-CMに対する応答では、HSF-1の結合はLGG-CMに暴露後最初の1時間以内に生じることが明らかになり、誘発は少なくとも部分的には転写性であることが示された(図7)。HSF-1及びHSF-2に対する抗体を用いるスーパーシフト分析は、HSF-1は必要とされる主要な転写因子であることを示した(図8)。
【0040】
実施例7
マイクロアレー分析
Hspは、LGG-CM暴露に応答してもっとも強くアップレギュレートされる遺伝子である。LGG-CM処理は激烈な熱ショックタンパク質誘発を生じること、及びLGG-CMによる上皮のHsp誘発をもたらすメカニズムが少なくとも大半が転写性であるということが確認された後、他の上皮細胞の遺伝子と比較してHspのアップレギュレーションの規模をDNAマイクロアレー分析によって決定した。LGG-CM処理及びMRS処理(擬似処理)細胞を2つの異なるマイクロアレー(1つは19000のネズミ遺伝子プローブを含み、他方は12000のネズミ遺伝子プローブを含んでいた)を用いて比較した。
RNAを上記に記載したように調製し、続いてRNeasyミニキット(QIAGEN, Valencia, CA)を製造元の指示にしたがって用い、前記をさらにもう1回の精製工程に付した。RNAの完全性は1%アガロースゲルでの分画によってチェックした。280nm/260nm比が1.8から2.0の間のRNAのみを用いた。
19000のネズミ遺伝子を含むアフィメトリックス(Affymetrix)マイクロアレーチップ430Aをデュープリケートで使用し、12000ネズミ遺伝子を含むが異なるプローブセットを使用しているU74Av2チップを用いて、チップ430Aで得られた結果を確認した。データは、アフィメトリックスマイクロアレーシュートバージョン5.0(MAS5.0)を用いて分析した。各事例で、LGG処理を擬似処理コントロールと比較した。結果は、GENESPRINGソフト(バージョン4.2.1, Silicon Genetics, Mountain View, CA)を用いて計算したとき、コントロールと比較して処理細胞の変化が何倍であるかで表わした。統計分析はDチップソフトウェアを用いて実施した(以下の文献を参照されたい:Tusher et al. 2001;及びLi et al. 2001)。弁別的発現遺伝子は以下の閾値を基準に選別した:1.5倍を越える相対的相違、100シグナル強度ユニットを超える絶対的相違、及びp<0.05の統計的相違。アフィメトリックス430Aマイクロアレーチップのデータは、インターネットでアクセス可能なジーンエクスプレッションオムニバスデータ集積所(シリーズエントリー、GSE1940参照)に寄託した。
LGG-CM処理に応答してもっとも劇的にアップレギュレートされる遺伝子は熱ショックタンパク質遺伝子であることは、スキャタープロットから観察することができる(図9)。これらの発見を確認するために、12000のネズミ遺伝子を含み、異なるプローブを用いるさらに別の遺伝子チップを用いたところ、HspがLGG-CM処理に応答してもっともアップレギュレートすることが再度見出された。上位10のアップレギュレート遺伝子は下記の表6に提示される。
チップ430A及びチップU74Av2の両方において、LGG-CM処理細胞とコントロールとの間で2倍を超える変化を示した24の遺伝子が表1に挙げられている。表1及び先行するパラグラフに挙げたGenBankアクセッション番号に対応する配列の全てが参照により本明細書に含まれる。
【0041】
表1.
【0042】
チップ430AとチップU74Av2間で共通の4つの遺伝子オントロジー群が表2から5に示されている。LGG-CM処理細胞とコントロール細胞との間で2倍を超える相違を示した遺伝子のみが表示されている。表2から5に挙げたGenBank番号に対応する全ての配列が参照により本明細書に含まれる。
表2.細胞周期遺伝子の調節:430Aチップについては、14の遺伝子オントロジー“細胞周期調節”遺伝子が125群で見出された(全体:212/13281、p値:0.000000)。U74Av2チップについては、10の遺伝子オントロジー“細胞周期調節”遺伝子が96群で見出された(全体:146/6741、p値:0.000038)。
【0043】
表3.細胞周期遺伝子:430Aチップについては、18の遺伝子オントロジー“細胞周期”遺伝子が125群で見出された(全体:465/13281、p値:0.000000)。U74Av2チップについては、14の遺伝子オントロジー“細胞周期”遺伝子が96群で見出された(全体:326/6741、p値:0.000188)。
【0044】
表4.細胞周期拘束遺伝子:430Aチップについては、7つの遺伝子オントロジー“細胞周期拘束”遺伝子が125群で見出された(全体:26/13281、p値:0.000000)。U74Av2チップについては、5つの遺伝子オントロジー“細胞周期拘束”遺伝子が96群で見出された(全体:22/6741、p値:0.000011)。
【0045】
表5.リボソームタンパク質L7Ae/L30e/Gadd45遺伝子:430Aチップについては、3つの遺伝子オントロジー“リボソームタンパク質L7Ae/L30e/S12e/Gadd45”遺伝子が118群で見出された(全体:14/13714、p値:0.000211)。U74Av2チップについては、3つの遺伝子オントロジー“リボソームタンパク質L7Ae/L30e/S12e/Gadd45”遺伝子が99群で見出された(全体:7/7501、p値:0.000075)。
【0046】
これらのマイクロアレー実験のために、統計的分析は、文献(Tusher et al. 2001;及びLi et al. 2001:前記両文献は参照により本明細書に含まれる)に記載されたように、“Dチップ”及び“Sam”ソフトウェアを用いて実施した。
表6.
【0047】
実施例8
51クロム放出アッセイ
LGG-CMはまた上皮細胞を酸化体損傷から保護する。LGG-CMが誘導性Hspをアップレギュレートすると仮定して、機能アッセイを実施して、熱ショック誘発が酸化体損傷に対する保護に貢献するか否かを決定した。生来の免疫細胞から放出される次亜塩素酸がアンモニアと反応するときに通常的に産生される酸化体モノクロロアミンは、細胞骨格の崩壊、膜輸送障害、接着結合バリアー機能の低下、及び最終的な細胞死を引き起こすことによって上皮細胞に影響を与える(Grisham et al., Inflammation14:531-542, 1990;Musch et al. Am. J. Physiol. 270:C429-436, 1996;Musch et al. Gastroenterology 117:115-122, 1999)。誘導性Hspは、腸上皮細胞でモノクロロアミンによって引き起こされる酸化体ストレスに対して細胞保護を提供することが実験で示された(。Musch et al. 1996;Musch et al. 1999)。
YAMC細胞を24-ウェルプレートで増殖させ、未処理のままにするか(コントロール)又はLGG-CMで1時間処理し、続いて培養液を交換し、細胞を5%CO2インキュベーターで一晩37℃で維持した。続いて細胞に51Cr(50μCi/mL;Sigma Chemical Co.)を60分ロードし、洗浄し、さらに0.6mMの酸化体モノクロロアミンを含む培養液でインキュベートして細胞損傷を誘発した。60分後に培養液を採集し、細胞内に残留する51Crを1NのHNO3で4時間抽出した。放出分画及び細胞分画中の51Crを液体シンチレーション分光計で計測した。放出51Crは、放出された量+細胞内残留量の合計で割った放出量として算出した。データを編集し、Instatソフトウェア(Graphpad, San Diego, CA)を用いて分析し、比較はペアードスチューデントt検定を用いて実施した。
上皮細胞のLGG-CMによる前処理は、モノクロロアミンの酸化体損傷にもかかわらず、クロム放出アッセイによって示されるように、上皮細胞の生存活性を改善することによって酸化体による障害に対して統計的に有意な保護を提供する(図11A)。
【0048】
実施例9
G/Fアクチンアッセイ
上皮細胞で細胞保護作用を誘発するLGG-CMの能力をF/Gアクチンアッセイを用いてさらに究明した。前記アッセイは、細胞骨格損傷に対する保護をより特異的に判定する(図11B)、酸化体ストレスに対して上皮細胞を保護するLGG-CM処理の能力のまた別の機能情報の読出しである。
コンフルエントなYAMC単層細胞をIFN-γを含まない培養液中で37℃に切り換え、LGG-CMで1時間処理しその後培養液を交換するか、又は未処理のままにした(コントロール)。細胞を一晩維持し、続いて酸化体モノクロロアミン(0.6mMで30分)で処理して細胞損傷を誘発した(Musch et al. 1996;Musch et al. 1999)。細胞をPBSで水洗し、採集し、遠心し(室温で14000Xg、20秒)、ペレットを30℃の溶解緩衝液(200μL)に再懸濁させた。溶解緩衝液:1mMのATP、50mMのPIPES(pH6.9)、50mMのNaCl、5mMのMgCl2、5mMのEGTA、5%(v/v)グリセロール、0.1%(v/v)ノニデットP-40、トゥイーン20トリトンX-100(完全プロテアーゼ阻害剤カクテルを含む)。細胞をピペットで穏やかに10回上下させて均質化し、続いて30℃で10分インキュベートし、さらに100,000Xgで60分(30℃)遠心した。Gアクチンの測定のために上清を取り出し、さらに1μMサイトカラシンDを含む200μLの水(4℃)にペレット(F-アクチンを含む)を再懸濁し氷上に60分放置した。この処理は、その後のウェスタンブロットで45kDa型モノマーのみが観察されるように、F-アクチン分画を脱ポリマー化した。その後、各抽出物の20μLを取り出し、レムリ(Laemmli)の停止溶液を添加し、サンプルを65℃10分加熱した。サンプルを12.5%のポリアクリルアミドゲルでSDS-PAGEによって構成要素に分解し、直ちにPVDFメンブレンに移した(更なる詳細についてはウェスタンブロット分析の節を参照されたい)。メンブレンに移した後、抗アクチンポリクローナル抗体(Cytoskeleton, Denver, CO)を用いてアクチンの免疫ブロット分析を実施した。
期待したとおり、未処理コントロールはGアクチンより多くのFを示し、LGGのみによる前処理はこの比率を変えなかった。モノクロロアミン(NH2Cl)による細胞の処理は、モノクロロアミンがアクチンの細胞骨格の完全性を破壊するために、フィラメント状(F)から球状(G)形へとアクチンをシフトさせた。モノクロロアミンに暴露する前にLGG-CMで処理することによって、F-アクチンの保存及びモノクロロアミン誘発アクチン細胞骨格損傷に対する部分的保護がもたらされた(NH2Cl処理レーンに対して最後の2つのレーン)。
【0049】
実施例10
生物活性を有するプロバイオティック物質の特性
LGG-CMの生物活性の大半は、10kDa未満の化合物に存在するように思われる。図3に示したように、活性の大半は、Hsp25を誘発する能力によって測定したとき、10kDa分子量をカットオフするセントリコン(Centricon)フィルターを通して調製したろ液中に存在する(図12Bもまた参照されたい)。細胞と残渣(retentate)(R)との接触はHsp25発現を誘発しなかった。さらにまた、ろ液と残渣(R+F)の再結合は活性を強化しなかった。しかしながら、より大きな分子量のマルチマーが活性のために要求されるという可能性もありうる。
LGG-CMの生物活性の他の特性は、熱及び酸の存在下でのその安定性である。図4に示されるように(二番目のレーン)、LGG-CMは20分間煮沸後にその活性を維持した。さらにまた図4に示されるように(第三番目のレーン)、LGG-CMは酸性pHでもっとも活性が強い。図4で示されたpH(pH4)は条件付け培養液のpHであることに留意されたい。YAMC細胞の洗浄培養液(bathing media)に添加したとき、1:10希釈が得られ、最終pHは6.5から6.9であり、腸上皮細胞の先端膜の酸性ミクロ環境で見出されるpHに近い。条件付け培養液のpHを7.0に調整したとき、生物活性は失われた(四番目のレーン)。pHを4.0に再調整したとき、活性は回復せず(五番目のレーン)、活性化合物は中性pH付近で不安定であることを示した。ただし、中性pHでの活性の低下は完全には不可逆性というわけではなかった。条件付け培養液を2日間pH4.0で“回復”させた場合、活性は部分的に回復し、前記作用は完全には不可逆性ではなく、中性付近のpHへの暴露は、活性化合物の可逆的な部分的展開又は変性を含むことを示している。
LGG生物活性化合物はタンパク分解酵素ペプシンによって不活化される。標準的なプロトコルを用いたペプシンによる処理の後で、10kDaサイジングカラムから混合物をろ過して一切の残留ペプシンを除去した。この事例ではペプシンを使用した。なぜならば他のプロテアーゼとは対照的にペプシンの活性は酸性pHで至適だからである。図5に示したようにHsp25及びHsp72の誘発によって判定されるとおり(レーン2及び3を比較されたい)、LGG-条件付け培養液のペプシン処理は生物活性を顕著に低下させた(さらにまた図12Aを参照のこと)。平行して実施したろ過を行わないコントロール実験によって、ペプシン自体はHsp発現に直接的に影響を与えないことが確認された(図12Aのレーン5、6及び7を参照されたい)。構成的Hsp同族体、Hsc73では変化は観察されなかったので、前記の作用は特異的であった。
続いて、LGG-CMを選択性限外ろ過に付して、活性因子の分子質量を決定した。続いて、ろ液(10kDa未満の分子を含む)及び残渣(10kDaより大きい分子を含む)又は両者を一緒に用いてYAMC細胞を処理し、Hsp25及びHsp72の免疫ブロットを調製した。ろ液(レーン3)又は一緒に投与された両分画(レーン4、R+F)のみがYAMC細胞でHsp発現を誘発し、生物活性因子は、小さな分子質量(すなわち10kDA未満)のタンパク質又はペプチドであることを示した。活性ペプチドの更なる性状決定によって、前記は熱安定性であり、煮沸後でさえもなお活性を維持することが明らかにされた(図12C、レーン2及び3と比較されたい)。
還元剤ジチオスレイトール(DTT)によるLGG-CMの処理は、誘導性Hsp25及びHsp72発現の低下がウェスタンブロット分析によって示されるとおり活性の低下をもたらした(図6)。これらのデータは、活性化合物はタンパク質であり、おそらくシステイン残基を含み、ジスルフィド結合が前記活性因子の二次構造の維持に決定的な役割を果たしていることを示している。
活性ペプチドの性状決定によって、前記はまた低pHで安定であることが明らかになった。種々のpHでの安定性を決定するために、LGG-CMのpHを変化させた(図13)。7.0の中性pHでは、LGG-CMの活性は直ちに細胞処理に用いた場合は停止(図13A)するが、pH4.0に戻し一晩平衡化させた場合はHsp誘発能力を再樹立することができた(図13B)。このことは、前記ペプチドはpH7.0で不安定であるが、LGG-CMをpH4.0に戻すことによって前記活性の少なくとも部分的な回復がもたらされるので(図13B)、この不安定性はペプチドの不可逆的な変性の結果ではないことを示している。
本明細書に開示し特許請求の範囲に示した全ての組成物及び方法は、本開示を考慮すれば煩雑な実験を実施することなく達成することができる。本発明の組成物及び方法は好ましい実施態様の関連で記載されているが、一方、本明細書に記載した組成物及び方法並びに前記方法の工程又は連続工程で、変形が本発明の範囲から外れることなく利用できることは当業者には明白であろう。より具体的には、化学的及び物理的に関連するある種の物質で本明細書に記載した物質を代用し、同じ又は類似の結果を達成することができることは明白であろう。当業者に明白な全てのそのような代用及び改変は、添付の特許請求の範囲に定義されているとおり、本発明の範囲内であると考えられる。
【0050】
参考文献
以下の参考文献は、明細書に示される例示的な手続又はその他の詳細を補足する手順又はその他の詳細を該文献が提供する程度に、参照することにより具体的に明細書中に組み込まれる。
【0051】
【0052】
以下の図面は本明細書の部分を構成し、本発明のある特徴をさらに明らかにするために提供される。ここに提供される具体的な実施態様の詳細な説明とともに本図面の1つ又は2つ以上を参考にして、本発明はさらによりよく理解されうるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1A】LGG-条件付け培養液は、結腸上皮細胞において時間依存性及び濃度依存性態様でHsp25及びHsp72を誘発する。図1Aは、LGG-CMの誘発タイムコースを示す(600μL/ウェル)。
【図1B】LGG-条件付け培養液は、結腸上皮細胞において時間依存性及び濃度依存性態様でHsp25及びHsp72を誘発する。図1Bは、16時間処理によるLGG-CM用量-応答関係を表す。
【図2】LGG-条件付け培養液による熱ショックタンパク質の誘発はHSF-1を必要とする。
【図3】LGG-条件付け培養液中の生物活性因子は低分子量であるようである。
【図4】LGG-条件付け培養液中の生物活性因子は、熱安定性で、さらに酸性pHでもっとも活性が高いようである。
【図5】LGG-条件付け培養液中の生物活性因子はペプシンによって不活化される。
【図6】LGG-条件付け培養液中の生物活性因子はDTTによって不活化される。
【図7A】リアルタイムPCRによって示される、熱ショックタンパク質のLGG-CM誘発発現のタイムコースを表す柱状図。図7A:Hsp72の誘発。
【図7B】リアルタイムPCRによって示される、熱ショックタンパク質のLGG-CM誘発発現のタイムコースを表す柱状図。図7B:Hsp25の誘発。
【図8】プローブ/結合剤として抗HSF-1及び抗HSF-2抗体を用いた電気泳動移動度シフトアッセイである。前記アッセイは、LGG-CMによる熱ショックタンパク質の誘発は少なくとも部分的には転写性であることを示している。
【図9A】熱ショックタンパク質は、LGG-CM暴露後にもっとも劇的にアップレギュレートされる上皮細胞遺伝子であることを示すスキャタープロットである。
【図9B】熱ショックタンパク質は、LGG-CM暴露後にもっとも劇的にアップレギュレートされる上皮細胞遺伝子であることを示すスキャタープロットである。
【図10A】熱ショックタンパク質誘発シグナルは、LGG-CMの上皮細胞暴露に際して迅速に伝達され(図10A)、少なくとも1つのシグナルトランスダクション経路によって仲介される(図10B)ことを示す、洗い流し実験の結果の電気泳動図である。
【図10B】熱ショックタンパク質誘発シグナルは、LGG-CMの上皮細胞暴露に際して迅速に伝達され(図10A)、少なくとも1つのシグナルトランスダクション経路によって仲介される(図10B)ことを示す、洗い流し実験の結果の電気泳動図である。
【図10C】熱ショックタンパク質誘発シグナルは、LGG-CMの上皮細胞暴露に際して迅速に伝達され(図10A)、少なくとも1つのシグナルトランスダクション経路によって仲介される(図10B)ことを示す、洗い流し実験の結果の電気泳動図である。
【図11A】酸化体ストレスによって攻撃された上皮細胞に対するLGG-CMの保護作用を示す柱状図である。保護作用は、51Crによる生存活性検査によって(図11A)、又は細胞骨格完全性のG/Fアクチンアッセイ(図11B)によって示される。
【図11B】酸化体ストレスによって攻撃された上皮細胞に対するLGG-CMの保護作用を示す柱状図である。保護作用は、51Crによる生存活性検査によって(図11A)、又は細胞骨格完全性のG/Fアクチンアッセイ(図11B)によって示される。
【図12A】ラクトバシルスGGに由来する細胞保護因子の物理的特性を示す。ペプシンに対する前記因子の感受性を示す電気泳動図(図12A)、因子の電気泳動によるサイズ決定(図12B)及び因子の熱安定性の電気泳動による証明である。
【図12B】ラクトバシルスGGに由来する細胞保護因子の物理的特性を示す。ペプシンに対する前記因子の感受性を示す電気泳動図(図12A)、因子の電気泳動によるサイズ決定(図12B)及び因子の熱安定性の電気泳動による証明である。
【図12C】ラクトバシルスGGに由来する細胞保護因子の物理的特性を示す。ペプシンに対する前記因子の感受性を示す電気泳動図(図12A)、因子の電気泳動によるサイズ決定(図12B)及び因子の熱安定性の電気泳動による証明である。
【図13A】LGG-CMの細胞保護因子の安定性をpHの関数として示す電気泳動図(図13A)、及び再酸性化時の因子の部分的復元を示す電気泳動図(図13B)である。
【図13B】LGG-CMの細胞保護因子の安定性をpHの関数として示す電気泳動図(図13A)、及び再酸性化時の因子の部分的復元を示す電気泳動図(図13B)である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトバシルスGGに由来する単離された細胞保護化合物を含む組成物。
【請求項2】
前記細胞保護化合物がラクトバシルスGG-条件付け培養液に由来する、請求項1の組成物。
【請求項3】
前記細胞保護化合物が、熱及び酸化からなる群から選択されるストレスから上皮細胞を保護する、請求項1の組成物。
【請求項4】
前記化合物が少なくとも1つの熱ショックタンパク質の発現を誘発する、請求項1の組成物。
【請求項5】
前記熱ショックタンパク質がHsp25及びHsp72から成る群から選択される、請求項4の組成物。
【請求項6】
前記細胞保護化合物がタンパク質である、請求項1の組成物。
【請求項7】
前記タンパク質が熱安定性、酸安定性であるか、又は10kDa未満の分子量を有する、請求項6の組成物。
【請求項8】
下記の特性を特徴とするタンパク質を含む、単離された細胞保護化合物:
(a)ラクトバシルスGGから単離することができる;
(b)腸上皮細胞でHsp25及びHsp72の発現を誘発することができる;
(c)10kDa未満の分子量;
(d)酸安定性;及び
(e)熱安定性。
【請求項9】
炎症性疾患をもつ対象者を治療する方法であって、前記方法が、ラクトバシルスGG-条件付け培養液に由来する単離された細胞保護化合物の治療的に有効な用量を前記患者に投与することを含む、前記治療方法。
【請求項10】
前記対象者が人間の患者である、請求項9の方法。
【請求項11】
前記炎症性疾患が炎症性腸疾患である、請求項9の方法。
【請求項12】
前記炎症性腸疾患が、クローン病及び潰瘍性大腸炎から成る群から選択される、請求項11の方法。
【請求項13】
前記化合物が少なくとも1つの熱ショックタンパク質の発現を誘発する、請求項10の方法。
【請求項14】
前記熱ショックタンパク質がHsp25及びHsp72から成る群から選択される、請求項13の方法。
【請求項15】
Hsp25及びHsp72の少なくとも1つの発現を細胞で誘発する方法であって、前記方法が、ラクトバシルスGGに由来する単離された細胞保護化合物と前記細胞を接触させることを含む、前記誘発方法。
【請求項16】
前記細胞保護化合物が、ラクトバシルスGG-条件付け培養液に存在する、請求項15の方法。
【請求項17】
前記細胞が腸上皮細胞である、請求項15の方法。
【請求項18】
ラクトバシルスGG-条件付け培養液に由来する単離された細胞保護化合物及び少なくとも1つの医薬的に許容できる賦形剤を含む医薬組成物。
【請求項19】
前記化合物が少なくとも1つの熱ショックタンパク質の発現を誘発する、請求項18の医薬組成物。
【請求項20】
前記熱ショックタンパク質がHsp25及びHsp72から成る群から選択される、請求項18の医薬組成物。
【請求項21】
以下の工程を含む、単離された細胞保護化合物を製造する方法:
(a)ラクトバシルスGGを入手する工程;及び
(b)ラクトバシルスGGから細胞保護化合物を単離する工程。
【請求項22】
ラクトバシルスGGを少なくとも8時間培養する工程をさらに含む、請求項21の方法。
【請求項23】
前記細胞保護化合物がタンパク質である、請求項21の方法。
【請求項24】
前記タンパク質が熱安定性、酸安定性であるか、又は10kDa未満の分子量を有する、請求項23の方法。
【請求項25】
炎症性疾患の症状を緩和する方法であって、前記方法が請求項18の医薬組成物の治療的に有効な用量を投与することを含む、前記症状を緩和する方法。
【請求項26】
前記対象者が人間である、請求項25の方法。
【請求項27】
前記炎症性疾患が炎症性腸疾患である、請求項25の方法。
【請求項28】
前記炎症性腸疾患が、クローン病及び潰瘍性大腸炎から成る群から選択される、請求項27の方法。
【請求項29】
前記化合物が、上皮細胞でシグナルトランスダクション経路を活性化させ、Hsp25及びHsp72から成る群から選択される熱ショックタンパク質の発現をもたらす、請求項1の組成物。
【請求項30】
前記活性化が熱ショック因子-1(HSF-1)によって仲介される、請求項29の組成物。
【請求項31】
前記シグナルトランスダクション経路が、MAPキナーゼ、SAPキナーゼ、ERK1及びERK2から成る群から選択されるキナーゼを含む、請求項29の組成物。
【請求項32】
前記経路の活性化が、MAPキナーゼ、SAPキナーゼ、ERK1及びERK2から選択されるキナーゼの活性化を含む、請求項31の組成物。
【請求項33】
上皮細胞でシグナルトランスダクション経路を活性化する方法であって、前記方法が、請求項29に記載の化合物の有効量と前記細胞を接触させることを含む、前記活性化方法。
【請求項34】
前記シグナルトランスダクション経路が、MAPキナーゼ、SAPキナーゼ、ERK1及びERK2から成る群から選択されるキナーゼを含む、請求項33の方法。
【請求項35】
請求項1に記載の化合物の有効量を上皮細胞に投与することを含む、酸化体損傷を防ぐ方法。
【請求項36】
請求項1に記載の化合物の有効量を上皮細胞に投与することを含む、細胞骨格を安定化させる方法。
【請求項37】
請求項18の医薬組成物の治療的に有効な用量を対象者に投与することを含む、炎症性疾患を予防する方法。
【請求項38】
請求項18の医薬組成物及び前記組成物の対象者への投与のためのプロトコルを含むキット。
【請求項1】
ラクトバシルスGGに由来する単離された細胞保護化合物を含む組成物。
【請求項2】
前記細胞保護化合物がラクトバシルスGG-条件付け培養液に由来する、請求項1の組成物。
【請求項3】
前記細胞保護化合物が、熱及び酸化からなる群から選択されるストレスから上皮細胞を保護する、請求項1の組成物。
【請求項4】
前記化合物が少なくとも1つの熱ショックタンパク質の発現を誘発する、請求項1の組成物。
【請求項5】
前記熱ショックタンパク質がHsp25及びHsp72から成る群から選択される、請求項4の組成物。
【請求項6】
前記細胞保護化合物がタンパク質である、請求項1の組成物。
【請求項7】
前記タンパク質が熱安定性、酸安定性であるか、又は10kDa未満の分子量を有する、請求項6の組成物。
【請求項8】
下記の特性を特徴とするタンパク質を含む、単離された細胞保護化合物:
(a)ラクトバシルスGGから単離することができる;
(b)腸上皮細胞でHsp25及びHsp72の発現を誘発することができる;
(c)10kDa未満の分子量;
(d)酸安定性;及び
(e)熱安定性。
【請求項9】
炎症性疾患をもつ対象者を治療する方法であって、前記方法が、ラクトバシルスGG-条件付け培養液に由来する単離された細胞保護化合物の治療的に有効な用量を前記患者に投与することを含む、前記治療方法。
【請求項10】
前記対象者が人間の患者である、請求項9の方法。
【請求項11】
前記炎症性疾患が炎症性腸疾患である、請求項9の方法。
【請求項12】
前記炎症性腸疾患が、クローン病及び潰瘍性大腸炎から成る群から選択される、請求項11の方法。
【請求項13】
前記化合物が少なくとも1つの熱ショックタンパク質の発現を誘発する、請求項10の方法。
【請求項14】
前記熱ショックタンパク質がHsp25及びHsp72から成る群から選択される、請求項13の方法。
【請求項15】
Hsp25及びHsp72の少なくとも1つの発現を細胞で誘発する方法であって、前記方法が、ラクトバシルスGGに由来する単離された細胞保護化合物と前記細胞を接触させることを含む、前記誘発方法。
【請求項16】
前記細胞保護化合物が、ラクトバシルスGG-条件付け培養液に存在する、請求項15の方法。
【請求項17】
前記細胞が腸上皮細胞である、請求項15の方法。
【請求項18】
ラクトバシルスGG-条件付け培養液に由来する単離された細胞保護化合物及び少なくとも1つの医薬的に許容できる賦形剤を含む医薬組成物。
【請求項19】
前記化合物が少なくとも1つの熱ショックタンパク質の発現を誘発する、請求項18の医薬組成物。
【請求項20】
前記熱ショックタンパク質がHsp25及びHsp72から成る群から選択される、請求項18の医薬組成物。
【請求項21】
以下の工程を含む、単離された細胞保護化合物を製造する方法:
(a)ラクトバシルスGGを入手する工程;及び
(b)ラクトバシルスGGから細胞保護化合物を単離する工程。
【請求項22】
ラクトバシルスGGを少なくとも8時間培養する工程をさらに含む、請求項21の方法。
【請求項23】
前記細胞保護化合物がタンパク質である、請求項21の方法。
【請求項24】
前記タンパク質が熱安定性、酸安定性であるか、又は10kDa未満の分子量を有する、請求項23の方法。
【請求項25】
炎症性疾患の症状を緩和する方法であって、前記方法が請求項18の医薬組成物の治療的に有効な用量を投与することを含む、前記症状を緩和する方法。
【請求項26】
前記対象者が人間である、請求項25の方法。
【請求項27】
前記炎症性疾患が炎症性腸疾患である、請求項25の方法。
【請求項28】
前記炎症性腸疾患が、クローン病及び潰瘍性大腸炎から成る群から選択される、請求項27の方法。
【請求項29】
前記化合物が、上皮細胞でシグナルトランスダクション経路を活性化させ、Hsp25及びHsp72から成る群から選択される熱ショックタンパク質の発現をもたらす、請求項1の組成物。
【請求項30】
前記活性化が熱ショック因子-1(HSF-1)によって仲介される、請求項29の組成物。
【請求項31】
前記シグナルトランスダクション経路が、MAPキナーゼ、SAPキナーゼ、ERK1及びERK2から成る群から選択されるキナーゼを含む、請求項29の組成物。
【請求項32】
前記経路の活性化が、MAPキナーゼ、SAPキナーゼ、ERK1及びERK2から選択されるキナーゼの活性化を含む、請求項31の組成物。
【請求項33】
上皮細胞でシグナルトランスダクション経路を活性化する方法であって、前記方法が、請求項29に記載の化合物の有効量と前記細胞を接触させることを含む、前記活性化方法。
【請求項34】
前記シグナルトランスダクション経路が、MAPキナーゼ、SAPキナーゼ、ERK1及びERK2から成る群から選択されるキナーゼを含む、請求項33の方法。
【請求項35】
請求項1に記載の化合物の有効量を上皮細胞に投与することを含む、酸化体損傷を防ぐ方法。
【請求項36】
請求項1に記載の化合物の有効量を上皮細胞に投与することを含む、細胞骨格を安定化させる方法。
【請求項37】
請求項18の医薬組成物の治療的に有効な用量を対象者に投与することを含む、炎症性疾患を予防する方法。
【請求項38】
請求項18の医薬組成物及び前記組成物の対象者への投与のためのプロトコルを含むキット。
【図1A】
【図1B】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図10A】
【図10B】
【図10C】
【図11A】
【図11B】
【図12A】
【図12B】
【図12C】
【図13A】
【図13B】
【図1B】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図10A】
【図10B】
【図10C】
【図11A】
【図11B】
【図12A】
【図12B】
【図12C】
【図13A】
【図13B】
【公表番号】特表2008−501316(P2008−501316A)
【公表日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−509640(P2007−509640)
【出願日】平成17年4月20日(2005.4.20)
【国際出願番号】PCT/US2005/013646
【国際公開番号】WO2005/112976
【国際公開日】平成17年12月1日(2005.12.1)
【出願人】(501242712)ザ ユニヴァーシティー オヴ シカゴ (19)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年4月20日(2005.4.20)
【国際出願番号】PCT/US2005/013646
【国際公開番号】WO2005/112976
【国際公開日】平成17年12月1日(2005.12.1)
【出願人】(501242712)ザ ユニヴァーシティー オヴ シカゴ (19)
【Fターム(参考)】
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