説明

ラクトフェリン・ポリペプチドの測定による歯周病リスク診断法

本発明は、唾液を検体とし、短時間で歯周病のリスク診断を行う有効な歯周病リスク診断法を提供すること。唾液を検体とした被験者に苦痛を与えることのない、歯周病患者唾液中に出現する催炎作用を持つラクトフェリン・ポリペプチドを測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
歯周病患者より採取した耳下腺唾液中の低分子に切断されたラクトフェリン中には、抗菌活性を失い炎症性サイトカインならびにケモカイン誘導活性を発揮する、フェニルアラニン(F)、リシン(K)、アスパラギン酸(D)のアミノ酸配列(FKD)を含むラクトフェリン・ポリペプチドの出現することを見出した。そして、このラクトフェリン・ポリペプチド群の量と歯周病の重症度とは相関があることを見出した。そして、本発明者らは鋭意研究の結果、今まで複数の診断法により行っていた歯周病の診断を、単一の歯周病診断法によって行うことを確立し、本発明を完成するに至った。さらに、急性の歯周病である、若年性歯周病患者の耳下腺唾液中に、重症な歯周病患者の耳下腺唾液中の濃度とほぼ同程度含まれることを見出し、新規の個人の歯周病のリスク診断方法を発明するに至った。
【背景技術】
[特許文献]特開平10−002899号公報
[非特許文献1]Annu Rev Nutr,15,93−110,1995
[非特許文献2]J Pharm Pharmacol,53,1303−1310,2001
[非特許文献3]J Dent Res,66,623−627,1987;Infect Immun,71,5598−5604,2003
[非特許文献4]Crit Rev Oral Biol Med,2,177−281,1991
[非特許文献5]Periodontology 2000,29,177−206,2002
[非特許文献6]Periodontology 2000,31,167−180,2003
ラクトフェリンは鉄結合性タンパクとして乳汁中に発見された。その後、唾液など多くの体外分泌液中に含まれることが明らかになった(非特許文献1:Annu Rev Nutr,15,93−110,1995)。活性化好中球からも産生される。多くの細菌の生育に必要な鉄イオンと結合し、環境中の鉄を消費することにより抗菌作用を発揮する。また、ラクトフェリシンと呼ばれる鉄結合性のないN末端部分も強い抗菌活性を示すことが明らかになった(非特許文献2:J Pharm Pharmacol,53,1303−1310,2001)。さらに、ラクトフェリンおよびラクトフェリシンは抗ウイルス作用、抗腫瘍作用、免疫を調節する作用など多彩な活性を発揮する。
唾液は口腔粘膜を被覆して粘膜を機械的に防御し、燕下、発音など口腔機能を円滑に発揮させる上で必要不可欠な体液である。歯の硬組織の保護も行っている。また、唾液にはラクトフェリンや分泌型IgAなど多くの抗菌物質が含まれ、口腔細菌叢をコントロールしている(非特許文献3:J Dent Res,66,623−627,1987;Infect Immun,71,5598−5604,203)。
歯周病は口腔内に生息する複数の偏性嫌気性グラム陰性桿菌が原因とされている(非特許文献4:Crit Rev Oral Biol Med,2,177−281,1991)。歯周病は現代の「コモン・ディジーズ」でありながら、最新の歯科治療をもってしても失われた歯周組織の完全な回復は望めない。また、歯周病に罹患しやすい人としにくい人がいること(歯周病感受性の個人差)は臨床的に知られているが、その理論的根拠はいまだに確立されていない。従って、歯周病のリスクを罹患する前から予見し、リスクの大きい個人に対して適切な予防処置を講ずることは21世紀の歯科医療の最重要課題の一つである。これまで、国内外で報告されているリスクファクターとしては、口腔清掃の程度、喫煙、糖尿病、エイズ、年齢、性差、人種、遺伝的要因(IL−1遺伝子の多型性など)、ストレスなどの心理的要因、歯の形態や歯列不正などが挙げられているが、個人のリスクを予見する決め手にはなっていない(非特許文献5:Periodontology 2000,29,177−206,2002)。また、歯周病患者と健康人の好中球や単球などの免疫機能を比較検討した研究はあるが、個人の歯周病リスクの予見には至っていないのが現状である(非特許文献6:Periodontology 2000,31,167−180,2003)。
これまで報告のあるリスクファクターとしては、口腔清掃の程度、喫煙、糖尿病、エイズ、年齢、性差、人種、遺伝的要因(IL−1遺伝子の多型性など)、ストレスなどの心理的要因、歯の形態や歯列不正などが挙げられているが、個人のリスク(歯周病感受性の個人差)を予見する決め手にはなっていない。
これまでの歯周病の診断は歯周ポケットの深さ、炎症・出血の程度を指標としている。さらに、歯周病の細菌学的診断として、顕微鏡による検査、細菌培養検査、抗体を応用した検査、核酸を利用した検査、細菌に特異的な酵素の検出がある。免疫・生化学的診断としては、コラゲナーゼ活性や歯周病原菌に対する特異的抗体の検出などがある。現在、これら検査を単一ではなく、複数用いることにより診断を確実にしている。
特許文献には、ラクトフェリンを測定対象とすることを特徴とする歯周病の診断キットが開示されている。しかし、この技術は、ラクトフェリンを測定対象とするものである。より精度の高い測定技術が求められている。
このように、現在まで、歯周病のリスク診断法は全くなく、単一の歯周病診断法も確立されていない。
これまでの歯周病の診断は歯周ポケットの深さ、炎症・出血の程度を指標としている。さらに、歯周病の細菌学的診断として、顕微鏡による検査、細菌培養検査、抗体を応用した検査、核酸を利用した検査、細菌に特異的な酵素の検出がある。免疫・生化学的診断としては、コラゲナーゼ活性や歯周病原菌に対する特異的抗体の検出などがある。これら検査を単一ではなく、複数用いることにより診断を確実にしているのが現状である。本発明は、単一で確実な歯周病診断方法を提供するものである。さらに、本発明は新規の歯周病感染のリスク診断方法を提供するものである。
【発明の開示】
本発明の歯周病リスク診断法は、唾液中のラクトフェリン・ポリペプチドを測定することを特徴とする。
本発明の歯周病リスク診断法は、唾液中のラクトフェリン・ポリペプチド量を測定することを特徴とする。
上記において、抗原抗体反応を利用して前記測定を行うことを特徴とする。
上記において、コンカナバリンA(Con A)二次元免疫電気泳動法を用いて測定することを特徴とする。
上記において、ヒト・ラクトフェリン・ポリペプチドと同様のアミノ酸配列(フェニルアラニン(F)、リシン(K)、アスパラギン酸(D)(FKD))を含むウシ・ラクトフェリンを利用して作成したモノクローナル抗体を用いて測定することを特徴とする。
上記において、分子量25kDa未満であることを特徴とする。
歯周病患者の耳下腺唾液を採取し、その検体中のラクトフェリン濃度を、ヒト・ラクトフェリン抗体(ICN Pharmaceuticals,Inc.,USA)を用いた一元放射免疫拡散(SRID)法により測定した後、コンカナバリンA(Con A)二次元免疫電気泳動法によりその泳動像を観察し、各ピークの高さから、Con A親和性の弱い画分に含まれる催炎作用を有する、ラクトフェリン・ペプチドの濃度を算出した。さらに、エラスターゼ処理したウシ・ラクトフェリンを抗原にし、作成したモノクローナル抗体のうち、ウシ・ラクトフェリン中に存在し、ヒト・ラクトフェリン中の催炎作用を示す催炎性ヒト・ラクトフェリン・ポリペプチド(GQKRDLLFKDSAI、FKDCHLA)と同様のアミノ酸配列(フェニルアラニン(F)、リシン(K)、アスパラギン酸(D)(FKD))を含むウシ・ラクトフェリン・ポリペプチド(GQRDLLFKDSAL)を、ウェスタンブロッティング法によりこの催炎作用を持つヒト・ラクトフェリン・ポリペプチドに反応することを確認した、モノクローナル抗体を用いたサンドイッチ酵素抗体(EIA、ELISA)法により定量を行った。
本発明によると、歯周病の診断は勿論のこと、個人の感受性差を診断する歯周病のリスク診断が可能となる。また、抗生物質などの薬剤による治療の予後経過の診断にも応用できる。さらに、本発明により、従来、複数の診断法により行っていた歯周病診断を単一の本診断法により行うことができる。そして、本発明によるリスク診断によって、歯周病の感受性が高い個人に、早期にその予防ならびに治療対策を立てることができる。唾液中の催炎性ラクトフェリン・ポリペプチドの測定は、ヒト以外の動物、例えばイヌなどにおいても応用が可能である。
【図面の簡単な説明】
第1図は、各種歯周病患者耳下腺唾液中ラクトフェリンのCon A二次元免疫電気泳動像
第2図は、各種歯周病患者耳下腺唾液中の弱Con A親和性ラクトフェリン濃度
第3図は、エラスターゼ処理ウシ・ラクトフェリンを抗原として作成したモノクローナル抗体の催炎性ヒト・ラクトフェリン・ポリペプチドに対する反応性
第4図は、モノクローナル抗体を用いたELISA法による歯周病患者耳下腺唾液中の催炎性ヒト・ラクトフェリン・ポリペプチドの測定
【発明を実施するための最良の形態】
本発明における歯周病のリスク診断方法は、Con A親和性の弱い画分に多く含まれる、催炎性ヒト・ラクトフェリン・ポリペプチドを測定するものである。
本発明における催炎性ヒト・ラクトフェリン・ポリペプチドの測定は、あらかじめ唾液中のラクトフェリン濃度をSRID法、EIA法もしくはELISA法などの方法で測定しておくことで、Con A二次元免疫電気泳動法によるCon A親和性の異なるラクトフェリンのピーク高、もしくは、ピーク面積を算出することで、含有比率を求め、催炎性ラクトフェリンの含有量も測定できる。
また、催炎性ヒト・ラクトフェリン・ポリペプチドの特異抗体、もしくは、モノクローナル抗体を作成することで、SRID法、EIA法、ELISA法、免疫比濁法および免疫比朧法(ネフェロメトリー法)などの、抗原抗体反応を利用した各種測定法での応用と、さらに迅速な測定が可能である。
これら抗原抗体反応による測定は、基本的には催炎性ヒト・ラクトフェリン・ポリペプチドに対する特異抗体もしくはモノクローナル抗体と、検量線作成に用いる催炎性ヒト・ラクトフェリン標準品により構成される。また、EIA法及びELISA法では、これら抗体を固相化したマイクロプレートなどの器材、ホースラディッシュペルオキシダーゼやアルカリホスファターゼなどの酵素を標識した抗体と、o−フェニレンジアミン等の基質、過酸化水素水、及び、反応停止用の希硫酸等の試薬が加わる。他の方法としては、高速液体クロマトグラフィーやガスクロマトグラフィーなどによるアミノ酸解析でも可能である。
さらに、歯周病のリスク診断ばかりでなく、治療後の予後の経過観察や、歯周病発症時の診断への応用が可能である。
以下に測定例を示し説明するが、本発明は、これらの測定方法に限定されるものではない。
はじめに、歯周病の臨床症状が重症、中等度、軽症、若年性歯周病そして正常の5段階に分類し、これらの耳下腺唾液検体についてCon A二次元免疫電気泳動法を行い、その泳動像を観察した。その結果、症状の激しい重症例と若年性歯周病患者で、催炎性・ヒト・ラクトフェリン・ポリペプチドを多く含むCon A親和性の弱い画分が増加していた。そして、症状の悪化に伴いCon A親和性の弱い画分の増加することが判明した。
その結果を第1図に示す。
次に、SRID法によりラクトフェリン濃度測定した後、Con A二次元免疫泳動法を行い、Con A親和性の異なる各ピークの高さもしくは面積からCon A親和性の弱い画分の濃度を算出した。その結果、歯周病の症状が軽度(4例)の検体では正常例(9例)と大きな差は認められなかった。しかしながら、症状が悪化するのに伴い、正常例と比べ、重症例(15例、P<0.01)、中等度(7例、P<0.1)そして若年性歯周病(9例、P<0.01)と有意に増加し、歯周病の病態をよく反映することが判明した
その結果を第2図に示す。
上記の測定法により、催炎性ヒト・ラクトフェリン・ポリペプチドを多く含むCon A親和性の弱い画分の検体中濃度を測定することは可能であったが、測定に時間が掛かることと、催炎性ヒト・ラクトフェリン・ポリペプチドを直接測定することは出来なかった。そのため、催炎性ヒト・ラクトフェリン・ポリペプチドと同様のアミノ酸配列(フェニルアラニン(F)、リシン(K)、アスパラギン酸(D)(FKD))を含み、大量に入手が可能なウシ・ラクトフェリンをエラスターゼにより処理し、Con Aセファロース(Amersham Bioscience Co.,NJ)によりCon A親和性の弱い画分を集め、これを抗原としモノクローナル抗体を作成した。作成したモノクローナル抗体の内、催炎性ヒトラクトフェリン・ポリペプチド(GQKRDLLFKDSAI、FKDCHLA)と特異的に反応するモノクローナル抗体を得ることが出来た。
その結果を第3図に示す。
前述のモノクローナル抗体を用い、サンドイッチELISA法により、各種歯周病検体中の催炎性ヒト・ラクトフェリン・ポリペプチド濃度の測定を行った。固相化抗体(一次抗体)にはモノクローナル抗体を用い、適当なELISA用96穴マイクロプレートに固相化した。二次抗体はホースラディッシュペルオキシダーゼ(SIGMA、USA)を標識したモノクローナル抗体をそれぞれ用いた。一次抗体および二次抗体との反応時間はそれぞれ45分室温で行った。反応終了後、オルソフェニレンジアミン(和光純薬)を基質とし5分間暗所・室温で反応し、2規定の硫酸溶液で反応を停止した後、492nmの吸光度を測定した。
その結果、前述のCon A二次元免疫電気泳動による測定結果とよく相関(r=0.9072)することが判明し、より短時間で、精度の高い測定法を確立することが出来た。
その結果を第4図に示す。
【産業上の利用可能性】
本発明によると、歯周病の診断は勿論のこと、個人の感受性差を診断する歯周病のリスク診断が可能となる。また、抗生物質などの薬剤による治療の予後経過の診断にも応用できる。さらに、本発明により、従来、複数の診断法により行っていた歯周病診断を単一の本診断法により行うことができる。そして、本発明によるリスク診断によって、歯周病の感受性が高い個人に、早期にその予防ならびに治療対策を立てることができる。唾液中の催炎性ラクトフェリン・ポリペプチドの測定は、ヒト以外の動物、例えばイヌなどにおいても応用が可能である。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
唾液中のラクトフェリン・ポリペプチドを測定することを特徴とする歯周病リスク診断法。
【請求項2】
唾液中のラクトフェリン・ポリペプチド量を測定することを特徴とする歯周病リスク診断法。
【請求項3】
抗原抗体反応を利用して前記測定を行うことを特徴とする請求項1又は2記載の歯周病リスク診断法。
【請求項4】
コンカナバリンA(Con A)二次元免疫電気泳動法を用いて測定することを特徴とする請求項3記載の歯周病リスク診断法。
【請求項5】
ヒト・ラクトフェリン・ポリペプチドと同様のアミノ酸配列(フェニルアラニン(F)、リシン(K)、アスパラギン酸(D)(FKD))を含むウシ・ラクトフェリンを利用して作成したモノクローナル抗体を用いて測定することを特徴とする請求項3記載の歯周病リスク診断法。
【請求項6】
分子量25kDa未満であることを特徴とする請求項5記載の歯周病リスク診断法。

【国際公開番号】WO2005/050204
【国際公開日】平成17年6月2日(2005.6.2)
【発行日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−515537(P2005−515537)
【国際出願番号】PCT/JP2004/001610
【国際出願日】平成16年2月16日(2004.2.16)
【出願人】(304006218)
【出願人】(304006207)
【出願人】(503066952)株式会社インテリジェント・コスモス研究機構 (9)
【Fターム(参考)】