説明

ラクトン系単量体精製物、その重合体及び光ファイバ、並びにそれらの製造方法

【課題】無色透明性および熱安定性に優れたラクトン系重合体の形成用のラクトン系単量体精製物を提供する。
【解決手段】一般式(1)で示されるラクトン系単量体と、当該ラクトン系単量体よりも高い沸点をもつ硫黄化合物を不純物として含有し、当該硫黄化合物に由来する硫黄濃度が50ppm以下であるラクトン系単量体精製物。


(式(1)中、R1はメチル基、エチル基またはプロピル基を示し、R2、R3は独立して水素原子、無置換もしくはフッ素原子で置換されていてもよい炭素数1〜12のアルキル基、無置換もしくは炭素数1〜12のアルキル基で置換されていてもよいフェニル基等を示し、R2、R3は相互に一体となってこれらが結合する炭素原子を含めて5または6員環を形成していてもよく、該5または6員環はフッ素原子で置換されていてもよい。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無色透明性および熱安定性に優れ、光学部品に好適なラクトン系重合体、及びこのラクトン系重合体を形成するラクトン系単量体精製物、並びにこのラクトン系重合体を芯材に用いた光ファイバに関する。
【背景技術】
【0002】
光学デバイスや半導体レーザーなどの電子機器や、光通信システムの急激な進歩に伴い、種々の光学部品が開発されている。特に光通信システムを担う光ファイバや、屈折率分布型レンズや光デバイスなどの光学部品の研究が活発に行われており、オプトエレクトロニクス分野において、これらの光学部品は将来ますます重要な役割を担うものと予想される。
【0003】
近年、このような光学部品に用いられる材料として、耐熱性に優れた透明素材の開発が期待されている。
【0004】
ポリメチルメタクリレート(PMMA)等のメタクリル酸メチル(MMA)を主成分とするメタクリル系樹脂は、光学的性質および耐候性に極めて優れ、かつ機械的強度や熱的性質、成形加工性などにおいても優れ、比較的バランスの取れた性質を有している。そのため、光ファイバや、屈折率分布型レンズなどの多くの用途に使用されてきた。しかし、このようなメタクリル系樹脂はガラス転移点がそれほど高くないため、耐熱性が不十分であり、高温環境下での使用には適していなかった。
【0005】
従来、耐熱透明材料として、メタクリル酸メチルに、無水マレイン酸、α−メチルスチレン、N置換マレイミド等を共重合させた耐熱メタクリル樹脂が開発されている(特公昭49−10156号公報、特公昭43−9753号公報、特公平2−46605号公報)。しかし、このような共重合により得られた樹脂は、その光学的性質や、機械的性質、耐候性等が低く、しかも十分な耐熱性は得られていない。
【0006】
また、透明耐熱性樹脂として、α−メチレン−γ−ブチロラクトンの誘導体の単独重合体、及びこれらの単量体と(メタ)アクリル酸エステル等の単量体との共重合体が提案されている(特開平09−12632号公報、特開平09−12644号公報、特開平08−231648号公報)。特に、特開平8−231648号公報には、α−メチレン−β−メチル−γ−ブチロラクトンやα−メチレン−β−エチル−γ−ブチロラクトンの単独重合体、及びそれらの単量体とその(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体についての記載があり、これらはPMMAよりも高いガラス転移温度を有し、透明性にも優れ、さらに高屈折率であることから、光導波路への適用の可能性が記載されている。
【0007】
また、特開平9−33735号公報、特開平9−33736号公報には、α−メチレン−γ−ブチロラクトン又はその誘導体の単独重合体、及びこれらの単量体とメタクリル酸エステルとの共重合体を芯材に用いた耐熱性プラスチック光ファイバが記載されている。
【特許文献1】特公昭49−10156号公報
【特許文献2】特公昭43−9753号公報
【特許文献3】特公平2−46605号公報
【特許文献4】特開平09−12632号公報
【特許文献5】特開平09−12644号公報
【特許文献6】特開平08−231648号公報
【特許文献7】特開平09−33735号公報
【特許文献8】特開平09−33736号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、本発明者らの検討によれば、α−メチレン−γ−ブチロラクトン及びその誘導体、特にβ位置にアルキル基が導入されたα−メチレン−β−アルキル−γ−ブチロラクトンは、酸素存在下で加熱した場合に不純物により着色したり、重合中及び/又は成形中に重合体が着色してしまうという問題があった。このような着色した重合体を光学部品の材料に用いると、色調や光線透過率などの光学特性の低下の要因となる。
【0009】
本発明の目的は、無色透明性および熱安定性に優れたラクトン系重合体の形成用のラクトン系単量体精製物、これを用いて形成されたラクトン系重合体、及びこのラクトン系重合体を芯材に用いた伝送性能および熱安定性に優れた光ファイバを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、以下のラクトン系単量体精製物、ラクトン系重合体及び光ファイバ、ならびにラクトン系重合体及び光ファイバの製造方法が提供される。
【0011】
(1)一般式(1)で示されるラクトン系単量体と、当該ラクトン系単量体よりも高い沸点をもつ硫黄化合物を不純物として含有し、当該硫黄化合物に由来する硫黄濃度が50ppm以下であるラクトン系単量体精製物。
【0012】
【化1】

【0013】
(式(1)中、R1はメチル基、エチル基またはプロピル基を示し、R2、R3は独立して水素原子、無置換もしくはフッ素原子で置換されていてもよい炭素数1〜12のアルキル基、無置換もしくは炭素数1〜12のアルキル基で置換されていてもよいフェニル基、または無置換もしくはフッ素原子で置換されていてもよいシクロヘキシル基を示し、R2、R3は相互に一体となってこれらが結合する炭素原子を含めて5または6員環を形成していてもよく、該5または6員環はフッ素原子で置換されていてもよい。)
(2)前記ラクトン系単量体は、硫黄原子含有有機溶剤存在下のシアノ化反応を経由して得られたものである、上記のラクトン系単量体精製物。
【0014】
(3)上記1項又は2項に記載のラクトン系単量体精製物5〜100質量%と(メタ)アクリル酸エステル95〜0質量%を重合してなるラクトン系重合体。
【0015】
(4)上記3項に記載のラクトン系重合体を芯材に用いて形成された光ファイバ。
【0016】
(5)上記1項又は2項に記載のラクトン系単量体精製物5〜100質量%と(メタ)アクリル酸エステル95〜0質量%を重合することを特徴とするラクトン系重合体の製造方法。
【0017】
(6)上記5項に記載の製造方法によりラクトン系重合体を製造する工程と、前記ラクトン系重合体を芯材として用い、該芯材より屈折率が低い他の重合体を鞘材として用いて複合紡糸する工程を有する光ファイバの製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、無色透明性および熱安定性に優れたラクトン系重合体を形成可能なラクトン系単量体精製物を提供できる。また、このラクトン系単量体精製物を用いることにより、無色透明性および熱安定性に優れたラクトン系重合体を提供でき、さらに、このラクトン系重合体を芯材に用いることにより、伝送性能および熱安定性に優れた光ファイバを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
【0020】
本発明のラクトン系単量体は、硫黄原子含有有機溶剤存在下のシアノ化反応を経由する製造方法により得ることができる。硫黄原子含有有機溶剤存在下のシアノ化反応とは、硫黄原子含有溶剤存在下、シアン化アルカリを用いて有機シアン化化合物を得るものである。有機塩素化物等の有機ハロゲン化物や環状亜硫酸エステル等にシアン化アルカリを反応させて、1,2−置換(又は2−置換)3−シアノプロパノール等の有機シアン化化合物を得ることができる。硫黄原子含有有機溶剤とは、構成元素として硫黄元素を含む有機溶剤であり、反応時に副反応や収率低下などの悪影響を及ぼさないものであれば特に限定されるものではない。例えば、ジメチルスルホキシドやスルホランなどが挙げられ、ジメチルスルホキシドが好ましい。
【0021】
硫黄原子含有有機溶剤存在下のシアノ化反応を経由するラクトン系単量体の製造方法としては、次の工程を有するものを用いることができる。
(a)1,2−置換(又は2−置換)3−クロロ―プロパノール(あるいは1,2−置換(又は2−置換)1,3−プロパンジオールとチオニルクロリド由来の環状亜硫酸エステル)に対し、硫黄含有有機溶剤存在下、シアン化ナトリウム等のシアン化アルカリを作用させて1,2−置換(又は2−置換)3−シアノプロパノールを形成する。
(b)その形成物にアルカリ加水分解処理とそれに引き続いて酸処理を施して(あるいはその形成物に酸加水分解を施して、あるいはその形成物に熱水処理を施して)β、γ−置換(又はβ−置換)γ−ブチロラクトンを得る。酸性物質としては、塩酸、硫酸、有機スルホン酸類等を用いることができる。
(c)この置換γ−ブチロラクトンにシュウ酸エステルとアルコラートを作用させてアルキルオキシオキサリル化して、β、γ−置換(又はβ−置換)α−アルキルオキシオキサリル−γ−ブチロラクトンのエノール塩を得る。
(d)得られたエノール塩をホルムアルデヒド(あるいはホルムアルデヒド前駆体)と第2級アミンの塩(あるいはアルカリ金属炭酸塩)と反応させ、所望のラクトン系単量体を得る。
【0022】
このような硫黄原子含有有機溶剤存在下のシアノ化反応を経由する製造方法の他にも、メタリルアセテートやアルキリデンマロン酸を原料とする方法など、様々な製造方法が提案されているが、これらは使用する試薬が高価なものであったり、収率が不十分であったり、安全性の低い物質を扱わなければならないなど、工業的に問題を抱えている。そのため、硫黄原子含有有機溶剤存在下のシアノ化反応を経由する製造方法が最も好ましい。
【0023】
ラクトン系単量体の製造方法に関連する技術は、例えば、特開平10−147581号公報、特開2001−247560号公報、特開平8−81410号公報、特開平10−147581号公報、特開2006−312616号公報に記載され、特に特開2006−312616号公報には上記製造プロセスに関連する詳細な記載がある。
【0024】
本発明によるラクトン系単量体精製物は、主成分として含まれるラクトン系単量体よりも高い沸点をもつ硫黄化合物を不純物として含有し、この硫黄化合物に由来する硫黄濃度が50ppm以下である。この硫黄濃度が50ppmを超えると、そのラクトン系単量体を用いて形成された重合体が黄帯色し、その重合体を用いた光ファイバの伝送損失が高くなる。ラクトン系単量体精製物の硫黄濃度が50ppm以下であると、無色透明性に優れた光学材料に好適な重合体が得られる。この硫黄濃度は低い方が好ましく、40ppm以下が好ましく、35ppm以下がより好ましく、10ppm以下が特に好ましい。
【0025】
一般に、重合体の黄帯色には発色団といわれる原子団が関係し、さらに助色団と呼ばれる原子団が含まれる場合には、その帯色の強度が増すことが知られている。含硫黄原子団であるチオカルボニル基は発色団であり、また、メルカプト基およびスルホ基は助色団である。ラクトン系単量体の調製物は、このような原子団を持つ高い沸点をもつ硫黄化合物を含むと考えられる。
【0026】
本発明における無色透明性とは、酸素存在下、高温加熱後のラクトン系重合体の透明性である。この無色透明性の評価は、ラクトン系重合体を光ファイバ化して伝送損失を測定する方法や、ラクトン系単量体を加熱してその紫外可視吸収スペクトル強度を測定する方法により行うことができる。
【0027】
硫黄濃度の測定は、ICPや蛍光X線分析、硫黄化学発光検出機付ガスクロマトグラフィ等により行うことができるが、測定対象成分を分離でき、高い測定精度が得られる点から、硫黄化学発光検出機付ガスクロマトグラフィが好ましい。本発明では、ラクトン系単量体に内部標準を添加した試料を調製し、硫黄化学発光検出機付ガスクロマトグラフィにより測定し、内部標準由来のピークと硫黄化合物由来のピークの面積比率に基づいて硫黄濃度を求めた。
【0028】
本発明において、ラクトン系単量体よりも高い沸点をもつ硫黄化合物(以下、適宜「高沸点硫黄化合物」という)とは、硫黄化学発光検出器付ガスクロマトグラフィにおいて検出される硫黄化合物のうち、当該ラクトン系単量体よりも高い沸点をもつ硫黄化合物を指す。
【0029】
硫黄化学発光検出器付ガスクロマトグラフィの硫黄化学発光検出器(SCD)は、有機ハロゲン化合物や有機金属化合物に高感度を示す原子発光検出器(AED)の一種であり、SIEVERS社製のSIEVERS Model 355を用いることができる。
【0030】
本発明において、硫黄化合物がラクトン系単量体よりも高い沸点をもつとは、微極性のカラムを用いたガスクロマトグラフィにおいて、硫黄化合物の保持時間がラクトン系単量体よりも長いことに相応する。この微極性カラムとしては、Hawlett Packard社のHP−5や、J&W SCIENTIFIC社のDB−5を用いることができる。ただし、ラクトン系単量体は、硫黄化学検出機付ガスクロマトグラフィでは検出されないため、この硫黄化学発光検出器(SCD)付ガスクロマトグラフィと同条件の水素炎イオン化検出器(FID)付ガスクロマトグラフィで測定し、この水素炎イオン化検出器付ガスクロマトグラフィにより得られたラクトン化合物の保持時間と、硫黄化学発光検出器付ガスクロマトグラフィにより得られた硫黄化合物の保持時間を比較することにより、硫黄化合物とラクトン系単量体の沸点の大小関係を判断する。
【0031】
ラクトン系単量体の調製物を精製し、高沸点硫黄化合物を取り除く方法としては、再結晶法や多段蒸留法、各種カラムクロマトグラフィ法等が挙げられる。特に多段蒸留法は効率よく高沸点硫黄化合物を取り除くことができるため、好ましい。
【0032】
本発明におけるラクトン系単量体としては、α−メチレン−β−メチル−γ−ブチロラクトン(βMMBL)、α−メチレン−β−エチル−γ−ブチロラクトン(βEMBL)、α−メチレン−β−プロピル−γ−ブチロラクトン(βPMBL)が好ましい。
【0033】
以上に説明したラクトン系単量体精製物を用いて、当該ラクトン系単量体を単独で重合して、あるいは当該ラクトン系単量体と(メタ)アクリル酸エステルを共重合して、無色透明性に優れたラクトン系重合体を得ることができる。このラクトン系重合体は、PMMA)等のMMAを主成分とするメタクリル系樹脂に比較してガラス転移温度が高く、耐熱性に優れている。
【0034】
本発明のラクトン系重合体の製造は、特に限定されず、例えば塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合等の通常の重合様式に従って行うことができる。
【0035】
使用される重合開始剤は、重合時に副反応や着色等の悪影響を及ぼさないものであれば特に限定されるものではなく、重合様式、重合温度、重合率、重合時間に応じて適宜に選択でき、1種で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。例えば、2,2−アゾビスイソブチロニトリル、2,2−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル等のアゾ系開始剤、ベンゾイルパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシラウレート、tert−ブチルパーオキシイソブチレート、tert−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサネート、tert−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサネート等の有機過酸化物等の重合開始剤を用いることができる。得られた重合体の着色性の観点から、金属錯体等からなる重合触媒に比較して、これらのアゾ系開始剤や有機過酸化物が好ましい。
【0036】
重合において分子量を調節するために、必要に応じて連鎖移動剤を用いてもよい。重合時に副反応や着色等の悪影響を及ぼさないものであれば、特に限定されず、目的の分子量に応じて適宜選択でき、1種で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。例えば、n−ブチルメルカプタン、イソブチルメルカプタン、t−ブチルメルカプタン、オクチルメルカプタン等の第一級、第二級、第三級アルキルメルカプタン、チオグリコール酸、及びそのエステルなどが挙げられる。
【0037】
ラクトン系単量体と共重合させる(メタ)アクリル酸エステルは、共重合しうるものであれば特に限定されないが、例えばメタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチルなどが挙げられる。
【0038】
共重合比としては、ラクトン系単量体(A)単位5〜100質量%、(メタ)アクリル酸エステル(B)単位95〜0質量%に設定することができる。重合体の耐熱性の向上の観点から、重合体中のラクトン系単量体単位の含有量は5質量%以上に設定され、10質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましく、(メタ)アクリル酸エステル単位を含有させて機械的特性等の他の特性を付与する観点から、90質量%以下が好ましく、70質量%以下が好ましく、50質量%以下がさらに好ましい。すなわち、この共重合比(A単位/B単位(質量比))は、5/95〜100/0の範囲に設定することができ、例えば、5/95〜50/50の範囲、10/90〜50/50の範囲、20/80〜40/60の範囲に設定することができる。
【0039】
目的の共重合比に応じて、ラクトン系単量体精製物5〜100質量%と(メタ)アクリル酸エステル95〜0質量%とを重合して上記範囲の共重合比を持つ重合体を製造することができる。すなわち、ラクトン系単量体精製物(A1)と(メタ)アクリル酸エステル(B)の混合比(A1/B(質量比))は5/95〜100/0に設定することができ、例えば、5/95〜50/50の範囲、10/90〜50/50の範囲、20/80〜40/60の範囲に設定することができる。
【0040】
ラクトン系重合体の分子量は、その重合体の使用用途に応じて設定することができ、特に限定されるものではないが、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)で測定したポリスチレン換算分子量が10,000〜300,000の範囲が好ましく、50,000〜150,000の範囲がより好ましく、70,000〜125,000の範囲がさらに好ましい。分子量が低すぎると、重合体の成形物や光ファイバに用いた際の屈曲時の破断耐性が低下し、分子量が高すぎると、重合体の成形安定性や光ファイバに用いた際の紡糸安定性が低下する。
【0041】
本発明によるラクトン系重合体は無色透明性に優れることから、光学部品に好適である。光学部品としては、映像系レンズ等の光学レンズ、光ディスク、光ファイバ、各種導光体、導光板などが挙げられ、特に光ファイバの芯材に好適である。
【0042】
上述のラクトン系重合体を光ファイバの芯材に用いることにより、伝送性能および耐熱性に優れたプラスチック光ファイバ(POF)を得ることができる。
【0043】
本発明によるPOFは、上述のラクトン系重合体を芯材として用い、この芯材より屈折率が低い他の重合体を鞘材として用いて複合紡糸して製造することができる。例えば、上述のラクトン系重合体を、POFの芯材として複合紡糸ノズルに供給し、この共重合体より屈折率が低い他の熱可塑性重合体を鞘材としてこの複合紡糸ノズルに供給して、芯−鞘構造を有するPOFを得ることができる。
【0044】
本発明におけるPOFの鞘は1層に限定されず、2層以上の複数層から形成されてもよいが、所望の特性および製造コストの観点からは、第1鞘の外周に第2鞘を同心円状に設けた2層構造を有することが好ましい。
【0045】
本発明のPOFに用いられる鞘材は、特に限定されるものではないが、フッ素化メタクリレート系重合体や含フッ素オレフィン系樹脂等の鞘材として提案されている公知のフッ素系重合体から、耐着色性や耐熱性等を考慮しながら適宜選択することができる。
【0046】
含フッ素オレフィン系樹脂としては、テトラフルオロエチレン(TFE)単位を含むものが好ましく、より具体的には、ビニリデンフルオライド(VdF)単位10〜60質量%とTFE単位20〜70質量%とヘキサフルオロプロピレン(HFP)単位5〜35質量%からなる3元共重合体、VdF単位5〜25質量%とTFE単位50〜80質量%とパーフルオロ(フルオロ)アルキルビニルエーテル単位5〜25質量%からなる3元共重合体、VdF単位10〜30質量%、TFE単位40〜80質量%、HFP単位5〜40質量%、パーフルオロ(フルオロ)アルキルビニルエーテル単位0.1〜15質量%からなる4元共重合体、TFE単位40〜90質量%とパーフルオロ(フルオロ)アルキルビニルエーテル単位10〜60質量%からなる2元共重合体、TFE単位30〜75質量%とHFP単位25〜70質量%からなる2元共重合体を挙げることができる。
【0047】
一方、フッ素化メタクリレート系重合体としては、フルオロアルキル(メタ)アクリレートと、他の共重合可能な単量体との共重合体を用いることができる。
【0048】
このフルオロアルキル(メタ)アクリレートとしては、(メタ)アクリル酸−2,2,2−トリフルオロエチル(3FM)、(メタ)アクリル酸−2,2,3,3−テトラフルオロプロピル(4FM)、(メタ)アクリル酸−2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル(5FM)、(メタ)アクリル酸−2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロブチル(6FM)、(メタ)アクリル酸−1H,1H,5H−オクタフルオロペンチル(8FM)、(メタ)アクリル酸−2−(パーフルオロブチル)エチル(9FM)、(メタ)アクリル酸−2−(パーフルオロヘキシル)エチル(13FM)、(メタ)アクリル酸−1H,1H,9H−ヘキサデカフルオロノニル(16FM)、(メタ)アクリル酸−2−(パーフルオロオクチル)エチル(17FM)、(メタ)アクリル酸−1H,1H,11H−(イコサフルオロウンデシル)(20FM)、(メタ)アクリル酸−2−(パーフルオロデシル)エチル(21FM)等の、直鎖状フッ素化アルキル基を側鎖に有する(メタ)アクリル酸フッ素化エステルや、(メタ)アクリル酸ヘキサフルオロネオペンチルや(メタ)アクリル酸ヘキサフルオロイソブチル等の、分岐状フッ素化アルキル基を側鎖に有する(メタ)アクリル酸フッ素化エステルを例示することができる。
【0049】
またフルオロアルキル(メタ)アクリレートと共重合可能な他の単量体としては、ラクトン化合物系の単量体を挙げることができる。ラクトン化合物系単量体としては、α−メチレン−β−メチル−γ−ブチロラクトン(βMMBL)、α−メチレン−β−エチル−γ−ブチロラクトン(βEMBL)、α−メチレン−β−プロピル−γ−ブチロラクトン(βPMBL)を挙げることができる。
【0050】
本発明におけるPOFは、耐屈曲性および耐湿熱性を向上させるために、鞘の外周あるいは保護層の外周に被覆層を配設してPOFケーブルとすることができる。
【0051】
この被覆層の材料としては、POFの被覆材として一般的に用いられている種々の熱可塑性樹脂を用いることができる。例えば、POFケーブルが使用される環境に応じて、ポリアミド系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、水架橋ポリエチレン樹脂、水架橋ポリプロピレン樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、塩素化ポリエチレン樹脂、ポリウレタン系樹脂、フッ化ビニリデン系樹脂、各種UV・紫外線硬化樹脂からなる群から選ばれる樹脂、あるいは2種以上の樹脂混合物を用いることができる。なお、この被覆層は、芯と直接接しないので、結晶化により透明性が低下しても特に問題は生じない。
【0052】
これらの中でも、ポリアミド系樹脂、水架橋ポリエチレン樹脂は、耐熱性、耐屈曲性、耐溶剤特性に優れることから、自動車等の耐熱性および耐環境特性を要求される用途向けのPOFの被覆材として好適である。また、これらの樹脂は加工性が良く、適度な融点を有しているため、POFの伝送性能を低下させることなく容易にPOFを被覆することができる。
【0053】
なお、本発明におけるPOFの芯及び鞘の形態としては、1本の中心軸状の芯を被覆してその周囲に芯より低屈折率な鞘を設けた芯/鞘構造からなるSI型や、複数の芯あるいは芯/鞘構造を含む海島型のPOFであってもよい。また、以上に例示した形態に限定されず、芯/鞘構造を有する種々の形態であってもよい。
【実施例】
【0054】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。なお、各実施例、比較例中、特にことわりのない限り「ppm」は「(質量)ppm」を示す。
【0055】
[ラクトン系単量体の調製]
以下の実施例および比較例では、下記方法により得た調製物を用いた。
【0056】
3−クロロ−2−メチルプロパノールに対し、ジメチルスルホキシド存在下シアン化ナトリウムを作用させて3−シアノ−2−メチルプロパノールを得、3−シアノ−2−メチルプロパノールに対し、アルカリ加水分解処理とそれに引き続いて酸処理を施してβ−メチル−γ−ブチロラクトンを得た。このβ−メチル−γ−ブチロラクトンにシュウ酸エステルとアルコラートを作用させてα−アルキルオキシオキサリル−β―メチル―γ−ブチロラクトンのエノール塩を得た後、得られたエノール塩をホルムアルデヒドと反応させ、この反応混合物を、蒸留温度120℃、減圧度20Torr(2.67kPa)で単蒸留精製し、α−メチレン−β−メチル−γ−ブチロラクトン(βMMBL)の調製物を得た。
【0057】
このラクトン系単量体の調製物中に含まれる高沸点硫黄化合物に由来する硫黄濃度は後述の測定により57ppmであり、後述の評価方法によるラクトン系単量体調製物の着色度合いは5であった。
【0058】
以下の実施例および比較例中の各種物性の測定および性能評価は以下の方法により行った。
【0059】
[硫黄化学発光検出器付ガスクロマトグラフィ(GC/SCD)および水素炎イオン化検出機付ガスクロマトグラフィ(GC/FID)による測定]
Agilent Technologies製のガスクロマトグラフィHP−6890を用いて以下の条件で測定した。
【0060】
分離カラム:Hawlett Packard製のHP−5(0.32mm径、30m長、0.25μm膜厚)、
注入量:1μl、
カラム測定温度プログラム:60℃で1分間保持し、昇温速度10℃/minで250℃へ昇温し、250℃で5分間保持し、昇温速度10℃/minで300℃へ昇温し、300℃で2分間保持、
キャリヤーガス:He(1.2ml/min、線速度40cm/sec)。
【0061】
検出ピークをフルスケール200μVで表示し、検出されたピークの中で、ピーク面積20[μV/S]以上をピークと見なした。
【0062】
[ラクトン系単量体調製物中に含まれる高沸点硫黄化合物に由来する硫黄濃度の測定]
ラクトン系単量体調製物またはその精製物1gをアセトン10mlに溶解し、内部標準物質として、ジエチルジスルフィド希釈液(ジエチルジスルフィド0.25mlをアセトンで希釈し全量を100mlとし、更にその1mlをアセトンで希釈し全量を100mlとする。)0.50ml(硫黄として0.0066mg含有)を添加した試料を、上記の条件で、硫黄化学発光検出器付ガスクロマトグラフィ(GC/SCD)により測定した。
【0063】
硫黄濃度の決定は、(高沸点硫黄化合物のピーク面積)/(内部標準物質のピーク面積)=ピーク面積比(A)とし、下記式に従って行った。
【0064】
高沸点硫黄化合物に由来する硫黄濃度(ppm)=A×0.0066×1000/1(樹脂採取量[g])。
【0065】
[ラクトン系単量体調製物の無色透明性の評価(着色度合い)]
ラクトン系単量体調製物または精製物250mgを空気下250℃で1時間加熱した後、アセトニトリル3mlに溶解し、日立分光光度計U−3300を用いて紫外可視吸収スペクトルを測定した。
【0066】
波長420nmにおける吸収強度(Absorbance)を濃度(加熱後のサンプルの重量(mg)をアセトニトリルの量(ml)で割った値)で割った値を1000倍し、この値をラクトン系単量体調製物または精製物の着色度合いとした。
【0067】
例えば、高沸点硫黄化合物由来の硫黄濃度が50ppmであるラクトン系単量体調整物の着色度合いは4となる。着色度合いが4以下の重合体は無色透明性に優れ、光学材料に好適である。高沸点硫黄化合物由来の硫黄濃度と着色度合いには相関があり、硫黄濃度が低くなれば、着色度合いも低い値となる。
【0068】
[実施例1]
α−メチレン−β−メチル−γ−ブチロラクトン(βMMBL)の調製物を、蒸留塔に充填材を詰めて理論段数を向上させた精密蒸留法で蒸留した。蒸留温度は54℃〜65℃、減圧度0.3Torr(40Pa)で行い、2つの留分(留分1、2)に分取した。
【0069】
得られたβMMBL精製物を上記の方法で評価した結果、高沸点硫黄化合物に由来する硫黄濃度は、留分1が1.6ppm、留分2が1.7ppmとなり、着色度合いは、留分1が「2」、留分2が「2」といずれも低い値であった。
【0070】
[実施例2]
α−メチレン−β−メチル−γ−ブチロラクトン(βMMBL)の調製物を、−20℃で冷却後、結晶化した成分のみを分離し、この処理を3回繰り返した。得られたβMMBL精製物を、蒸留温度120℃、減圧度20Torr(2.67kPa)で単蒸留し、得られた留分からβMMBLの種結晶を得た。
【0071】
次に、βMMBLの調製物を−20℃で冷却後、この種結晶を加え、結晶化した成分のみを分離した。
【0072】
得られたβMMBLの精製物を上記の方法で評価した結果、高沸点硫黄化合物に由来する硫黄濃度は33ppmであり、着色度合いは「3」と低い値であった。
【0073】
[実施例3]
α−メチレン−β−メチル−γ−ブチロラクトン(βMMBL)の調製物を、−25℃で冷却後、実施例2と同様の種結晶を加え、結晶化した成分のみを分離した。
【0074】
得られたβMMBLの精製物を上記の方法で評価した結果、高沸点硫黄化合物に由来する硫黄濃度は30ppmであり、着色度合いは「3」と低い値であった。
【0075】
[比較例1]
α−メチレン−β−メチル−γ−ブチロラクトン(βMMBL)の調製物を単蒸留法で蒸留して、初留を除いた後、2つの留分(留分1、留分2)に分取した。減圧度は2Torr(267Pa)、蒸留温度は留分1が97℃〜100℃、留分2が100℃〜105℃とした。
【0076】
得られたβMMBLの精製物を上記の方法で評価した結果、高沸点硫黄化合物に由来する硫黄濃度は、留分1が83ppm、留分2が112ppmであり、着色度合いは、留分1が「6」、留分2が「6」といずれも高い値であった。
【0077】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で示されるラクトン系単量体と、当該ラクトン系単量体よりも高い沸点をもつ硫黄化合物を不純物として含有し、当該硫黄化合物に由来する硫黄濃度が50ppm以下であるラクトン系単量体精製物。
【化1】

(式(1)中、R1はメチル基、エチル基またはプロピル基を示し、R2、R3は独立して水素原子、無置換もしくはフッ素原子で置換されていてもよい炭素数1〜12のアルキル基、無置換もしくは炭素数1〜12のアルキル基で置換されていてもよいフェニル基、または無置換もしくはフッ素原子で置換されていてもよいシクロヘキシル基を示し、R2、R3は相互に一体となってこれらが結合する炭素原子を含めて5または6員環を形成していてもよく、該5または6員環はフッ素原子で置換されていてもよい。)
【請求項2】
前記ラクトン系単量体は、硫黄原子含有有機溶剤存在下のシアノ化反応を経由して得られたものである、請求項1に記載のラクトン系単量体精製物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のラクトン系単量体精製物5〜100質量%と(メタ)アクリル酸エステル95〜0質量%を重合してなるラクトン系重合体。
【請求項4】
請求項3に記載のラクトン系重合体を芯材に用いて形成された光ファイバ。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のラクトン系単量体精製物5〜100質量%と(メタ)アクリル酸エステル95〜0質量%を重合することを特徴とするラクトン系重合体の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の製造方法によりラクトン系重合体を製造する工程と、前記ラクトン系重合体を芯材として用い、該芯材より屈折率が低い他の重合体を鞘材として用いて複合紡糸する工程を有する光ファイバの製造方法。

【公開番号】特開2009−249352(P2009−249352A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−100447(P2008−100447)
【出願日】平成20年4月8日(2008.4.8)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】