ラジアルころ軸受用保持器
【課題】保持器端面支持部が不十分であっても、組付方向の制約を受けず、より広い面域で軸受を回転案内可能で、耐摩耗性に優れたラジアルころ軸受用保持器を提供する。
【解決手段】同心上に所定間隔を空けて対向する一対の略円環状のリム部4a,4b、これらを連結するとともにその間の空間領域を周方向に隔て、ころを回転自在に保持するポケット10を形成する複数の柱部6を備え、一対のリム部は、外径側に柱部の外周部よりも径方向に凹状に窪んでなる複数の縮径部42a,42bを有するとともに、内径側に柱部の内周部よりも径方向に凹状に窪んでなる複数の拡径部44a,44bを複数の縮径部とは周方向に対して異なる位相で有し、複数の縮径部は、各縮径部の周方向に対する位相がリム部の双方で異なるように所定間隔で配し、複数の拡径部は、各拡径部の周方向に対する位相がリム部の双方で異なるように所定間隔で配する。
【解決手段】同心上に所定間隔を空けて対向する一対の略円環状のリム部4a,4b、これらを連結するとともにその間の空間領域を周方向に隔て、ころを回転自在に保持するポケット10を形成する複数の柱部6を備え、一対のリム部は、外径側に柱部の外周部よりも径方向に凹状に窪んでなる複数の縮径部42a,42bを有するとともに、内径側に柱部の内周部よりも径方向に凹状に窪んでなる複数の拡径部44a,44bを複数の縮径部とは周方向に対して異なる位相で有し、複数の縮径部は、各縮径部の周方向に対する位相がリム部の双方で異なるように所定間隔で配し、複数の拡径部は、各拡径部の周方向に対する位相がリム部の双方で異なるように所定間隔で配する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、自動車や鉄道等の車両などに備えられた動力機構のように、大きなラジアル荷重(径方向への荷重)が負荷される回転系を軸支するためのラジアルころ軸受に用いられる保持器、具体的には、自動車のトランスミッションなどに使用されるラジアルニードル(針状ころ)軸受に組み込まれるアキシャルドロー成形保持器の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や鉄道等の車両などに備えられた動力機構における回転系にはラジアル方向(径方向)へ非常に大きな荷重が加わるため、その回転軸を回転自在に支持する軸受には、当該荷重に対する負荷能力に優れたラジアルころ軸受(以下、ころ軸受や軸受ともいう)が従来から広く用いられている。
かかる軸受は、内周面に円筒状の外方軌道を有する外方部材(例えば、常時非回転状態に維持される外輪やハウジング、あるいは、使用時に回転可能な歯車やローラなど)と、当該外方部材の内径側に配された内方部材(例えば、使用時に回転可能な内輪やシャフトなど)の外周面(内方軌道)と前記外方軌道との間へ転動可能に組み込まれる複数のころ(例えば、複数本のニードルなど)と、これらのころを周方向へ所定間隔(一例として、等間隔)で配して保持するとともに、前記外方部材及び前記内方部材へ組み付けられる保持器を備えている。そして、保持器は、所定間隔を空けて同心上に対向する一対の円環部と、これらを連結するとともに当該円環部間の領域を当該円環部の周方向に隔て、ころを挿入して回転自在に保持するためのポケットを形成する複数の柱部を備えて構成される。
【0003】
このような保持器の成形方法の一つであるアキシャルドロー成形は、ポケットのパチン部(ポケットからのころ脱落防止を図るためのかかり代に相当する部位)のボリュームが大きく無理抜きが困難となるころ径大の保持器仕様や、ころ数(ポケット数)が多く、ころ抜け力が懸念される保持器仕様などにおいて、パチン部めくれのおそれがない成形方法として用いられている。特に、保持器(端的には、軸受)が組み付けられる相手側部材(例えば、回転シャフトなど)における保持器端面の支持部(案内部)に制約があり(保持器端面支持部が十分に確保されていない場合など)、かつ射出成形ではポケットの無理抜きが難しい場合などにおける成形方法として使用されている。
【0004】
例えば、特許文献1および2には、アキシャルドロー成形技術を用いた保持器の構成例がそれぞれ開示されている。これらの構成例においては、保持器の軸方向両端面の形態(つまり、一対の円環部の形態)が一端側と他端側でそれぞれ異なったものとなっている。具体的には、軸方向の一端側の円環部は、その外径側が不連続(外径寸法がポケット部位よりも柱部部位で大寸)、内径側が連続(内径寸法が一定)となっているのに対し、他端側の円環部は、その外径側が連続(外径寸法が一定)、内径側が不連続(内径寸法がポケット部位よりも柱部部位で小寸)となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平2−89814号公報
【特許文献2】英国特許出願公開第1352909号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
軸受を相手側部材(例えば、回転シャフトなど)に組み付けた際、当該軸受(外方部材や内方部材)の端面の全領域で自身の回転を案内する軸受構成であれば、上述した特許文献1および2に開示のいずれの構成であっても特段問題はない。
しかしながら、相手側部材における軸受を回転案内するための部位が前記軸受の軸方向端面の全領域(軸受側の案内面)をカバーしないような構成となっている場合(例えば、DCT(Dual Clutch Transmission:デュアルクラッチトランスミッション)の入れ子部位など)、次のような問題を招く虞がある。
すなわち、保持器の軸方向両端面において、面積の小さい不連続部(上記軸方向一端側の円環部の外径側、もしくは、軸方向他端側の円環部の内径側)で、回転する軸受を軸方向案内した場合、ころスキューなどによる押し付け力によって前記不連続部を有する保持器端面が前記相手側部材の保持器端面支持部との間の摩擦により摩耗してしまう可能性がある。この場合、軸受の相手側部材に対する組み付け方向を制約(限定)することにより、かかる摩耗防止を図ることは可能となるが、ユニットアセンブリ(外方部材、内方部材、ころおよび保持器の組付体)における効率性が損なわれてしまう虞がある。
【0007】
本発明は、このような課題を解決するためになされており、その目的は、アキシャルドロー成形保持器でありながら、軸受が組み付けられる相手側部材における保持器端面の支持部(案内部)が十分に確保されていない場合であっても、当該相手側部材に対する軸受(端的には、保持器)の組み付け方向の制約を受けることなく、軸方向両端面(つまり、一対のリム部)をほぼ均等(等面積)の連続面で相手側部材の支持部と接触させ、従来のような不連続面と比較してより広い面域で軸受を回転案内可能で、耐摩耗性に優れたラジアルころ軸受用保持器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような目的を達成するために、本発明に係るラジアルころ軸受用保持器は、軸方向に対して同心上に所定間隔を空けて対向する一対の略円環状のリム部と、これらのリム部を連結するとともに、当該リム部間の空間領域を周方向に隔て、転動体であるころを挿入して回転自在に保持するためのポケットを形成する複数の柱部とを備えている。前記一対のリム部は、その外径側に前記柱部の外周部よりも径方向に対して凹状に窪んでなる複数の縮径部を有するとともに、その内径側に前記柱部の内周部よりも径方向に対して凹状に窪んでなる複数の拡径部を前記複数の縮径部とは周方向に対して異なる位相で有し、前記複数の縮径部は、各縮径部の周方向に対する位相が前記一対のリム部の一方と他方で異なるように、双方のリム部に対してそれぞれ所定間隔で配され、前記複数の拡径部は、各拡径部の周方向に対する位相が前記一対のリム部の一方と他方で異なるように、双方のリム部に対してそれぞれ所定間隔で配されている。
【0009】
各リム部において、前記複数の縮径部および前記複数の拡径部は、周方向に対して前記ポケットと同一の位相で、かつ、当該ポケットの一つおきもしくは複数おきに配することが可能である。
その際、前記複数の縮径部は、各縮径部が周方向に対して一定間隔で配するとともに、前記複数の拡径部は、各拡径部が周方向に対して一定間隔で配すればよい。また、前記複数の縮径部および前記複数の拡径部は、周方向に対して異なる間隔で配しても構わない。
【0010】
前記一対のリム部は、それぞれ一箇所ずつ欠損部を有する非連続の欠円環状をなし、各リム部の欠損部が周方向に対して同一の位相をなした状態、もしくは異なる位相をなした状態で、軸方向に対して同心上に所定間隔を空けて対向配置した構成とすることも可能である。
この場合、前記一対のリム部には、一方のリム部においてその欠損部を挟んで対向する周方向両端部のうちの一端部と、他方のリム部においてその欠損部を挟んで対向する周方向両端部のうち、前記一端部と周方向に対して反対側の端部とを相互に連結する伸縮自在な弾性連結部を設けてもよい。また、前記一対のリム部には、一方のリム部においてその欠損部を挟んで対向する周方向両端部のうちの一端部と、他方のリム部においてその欠損部を挟んで対向する周方向両端部のうち、前記一端部と周方向に対して同一側の端部とを相互に連結する伸縮自在な弾性連結部を設けても構わない。
なお、前記弾性連結部は、径方向に対して重畳する構造をなしていることが好ましい。
【0011】
またこの場合、前記欠損部を拡張させることで前記一対のリム部が拡径可能であるとともに、前記欠損部の拡張を防止することで前記一対のリム部を一定の径寸法に維持可能な係止機構を備えていてもよい。
なお、前記係止機構は、径方向に対して重畳する構造をなしていることが好ましい。
その際、前記係止機構としては、相互に嵌合可能な凸部および凹部を備えることが可能である。
【0012】
前記凸部および前記凹部は、前記一対のリム部およびこれらリム部の欠損部に近接して周方向に対向する二つの柱部に配設されており、前記凸部は、第1の凸部と第2の凸部からなるとともに、前記凹部は、前記第1の凸部と嵌合可能な第1の凹部と前記第2の凸部と嵌合可能な第2の凹部からなる。前記第1の凸部は、前記一対のリム部のうちの一方のリム部、および当該一方のリム部と連続する前記二つの柱部のうちの一方の柱部の軸方向に対して前記一方のリム部側の端部から前記第1の凹部へ向けて突出させ、当該第1の凹部は、前記一方のリム部、および前記二つの柱部のうちの他方の柱部の軸方向に対して前記一方のリム部側の端部に形成すればよい。一方、前記第2の凸部は、前記一対のリム部のうちの他方のリム部、および前記二つの柱部のうちの他方の柱部の軸方向に対して前記他方のリム部側の端部から前記第2の凹部へ向けて突出させ、当該第2の凹部は、前記他方のリム部、および前記一方の柱部の軸方向に対して前記他方のリム部側の端部に形成すればよい。
【0013】
あるいは、前記凸部および前記凹部は、前記一対のリム部の欠損部に近接して周方向に対向する二つの柱部のみに配設されており、前記凸部は、第1の凸部と第2の凸部からなるとともに、前記凹部は、前記第1の凸部と嵌合可能な第1の凹部と前記第2の凸部と嵌合可能な第2の凹部からなる。前記第1の凸部は、前記二つの柱部のうちの一方の柱部の軸方向の一端部から前記第1の凹部へ向けて突出させ、当該第1の凹部は、前記二つの柱部のうちの他方の柱部の軸方向に対して前記一端部と同一側の端部に形成すればよい。一方、前記第2の凸部は、前記二つの柱部のうちの他方の柱部の軸方向の他端部から前記第2の凹部へ向けて突出させ、当該第2の凹部は、前記一方の柱部の軸方向に対して前記他端部と同一側の端部に形成すればよい。
【0014】
その際、前記第1の凸部および前記第1の凹部と、前記第2の凸部および前記第2の凹部とは、軸方向に対して略同一の幅で均等配設、もしくは軸方向に対して異なる幅でオフセット配設することが可能である。
【0015】
なお、前記一対のリム部がそれぞれ一箇所ずつ欠損部を有する非連続の欠円環状をなす場合、前記一対のリム部の欠損部を挟んで対向する周方向両端部は、その軸方向端面が対向する周方向端部へ向かうに従って互いに前傾するテーパ状とすることが好ましい。
また、前記一対のリム部は、いずれも複数の略円弧状の分割体を略円環状に組み付けた構成とすることも可能である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、アキシャルドロー成形保持器でありながら、軸方向両側の端面(換言すれば、一対のリム部)、および各端面(同、リム部)における外内径両側においてほぼ均等に軸受を回転案内するための案内面を設けることで、軸受が組み付けられる相手側部材における保持器端面の支持部(案内部)が十分に確保されていない場合であっても、当該相手側部材に対する軸受(端的には、保持器)の組み付け方向の制約を受けることなく、軸方向両端面(つまり、一対のリム部)をほぼ均等(等面積)の連続面で相手側部材の支持部と接触させることができる。この結果、従来のような不連続面と比較してより広い面域で軸受を回転案内可能で、耐摩耗性に優れたラジアルころ軸受用保持器を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1実施形態に係るラジアルころ軸受用保持器の全体構成を示す斜視図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係るラジアルころ軸受用保持器の軸方向端面を示す平面図である。
【図3】本発明の第2実施形態に係るラジアルころ軸受用保持器の全体構成を示す斜視図である。
【図4】本発明の第3実施形態に係るラジアルころ軸受用保持器の全体構成を係止機構の外径側から示す斜視図である。
【図5】本発明の第3実施形態に係るラジアルころ軸受用保持器の全体構成を係止機構の内径側から示す斜視図である。
【図6】本発明の第4実施形態に係るラジアルころ軸受用保持器の全体構成を係止機構の外径側から示す斜視図である。
【図7】本発明の第4実施形態に係るラジアルころ軸受用保持器の全体構成を係止機構の内径側から示す斜視図である。
【図8】本発明の第5実施形態に係るラジアルころ軸受用保持器の全体構成を示す斜視図である。
【図9】本発明の第6実施形態に係るラジアルころ軸受用保持器の全体構成を弾性連結部の外径側から示す斜視図である。
【図10】本発明の第6実施形態に係るラジアルころ軸受用保持器の全体構成を弾性連結部の内径側から示す斜視図である。
【図11】本発明の第6実施形態に係るラジアルころ軸受用保持器を弾性連結部の外径側から示す平面図である。
【図12】本発明の第6実施形態に係るラジアルころ軸受用保持器の軸方向端面を示す平面図である。
【図13】本発明の第7実施形態に係るラジアルころ軸受用保持器の全体構成を弾性連結部の外径側から示す斜視図である。
【図14】本発明の第7実施形態に係るラジアルころ軸受用保持器の全体構成を弾性連結部の内径側から示す斜視図である。
【図15】本発明の第7実施形態に係るラジアルころ軸受用保持器を弾性連結部の外径側から示す平面図である。
【図16】本発明の第7実施形態に係るラジアルころ軸受用保持器の軸方向端面を示す平面図である。
【図17】本発明の第8実施形態に係るラジアルころ軸受用保持器の全体構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明のラジアルころ軸受用保持器について、添付図面を参照して説明する。なお、本発明に係るラジアルころ軸受用保持器が組み込まれる軸受としては、自動車や鉄道等の車両などに備えられた動力機構(一例として、自動車のトランスミッション)における回転系を軸支するための軸受などを想定することが可能であるが、これに限定されるものではない。
かかる軸受は、内周面に円筒状の外方軌道を有する外方部材(例えば、常時非回転状態に維持される外輪やハウジング、あるいは、使用時に回転可能な歯車やローラなど)と、当該外方部材の内径側に配された内方部材(例えば、使用時に回転可能な内輪やシャフトなど)の外周面(内方軌道)と前記外方軌道との間へ転動可能に組み込まれる複数のラジアルころ(一例として、複数本のニードル)を備えている。なお、軸受のサイズ、内輪の有無、ころのサイズ(径や長さ)及び個数などは、軸受の使用条件や使用目的などに応じて任意に設定することが可能であるため、ここでは特に限定しない。
そして、これらのころは、軌道間(外方軌道及び内方軌道)での転動時において、各ころが相互に接触して摩擦が生じることによる回転抵抗の増大や焼付きなどを防止すべく、軸受用保持器によってそのポケット内で回転自在に保持される。なお、このような回転抵抗の増大や焼付きなどをさらに効果的に防止すべく、軸受潤滑(油潤滑やグリース潤滑)を行っても構わない。また、軸受用保持器は、転動体案内(ころ案内)、外輪案内、及び内輪案内のいずれの案内方式としても構成可能である。
【0019】
図1および図2には、本発明の第1実施形態に係るラジアルころ軸受用保持器(以下、単に保持器ともいう)2の構成が示されている。なお、本実施形態においては、保持器2が所定の弾性材製(一例として、樹脂製)であり、当該弾性材をアキシャルドロー成形することによって全体(後述するリム部4a,4b及び柱部6)が一体成形されている場合を想定する。ただし、成型後の成形体に対して切削加工や研削加工などを別途施し、完成品としての保持器2を形成しても構わない。
【0020】
かかる保持器2は、軸方向に対して同心上に所定間隔を空けて対向する一対の略円環状のリム部4a,4bと、これらのリム部4a,4bを連結するとともに、当該リム部4a,4b間の空間領域を周方向に隔て、転動体であるころ(ニードル(図示しない))を挿入して回転自在に保持するためのポケット10を形成する複数の柱部6とを備えて構成されている。すなわち、周方向に隣り合う二つの柱部6、および一対のリム部4a,4bで囲まれた空間に一つのポケット10が形成されており、これにより、保持器2は、柱部6とポケット10が周方向へ交互に配された構造をなすとともに、各ポケット10に一つずつころが挿入され、これらのころが周方向に対して等間隔(均一ピッチ)で配される構造をなす。
【0021】
なお、柱部6により形成するポケット10の大きさは、ころの径寸法及び長さに応じ、ポケット10において当該ころを回転自在に保持可能となるように設定すればよく、ポケット10の数(別の捉え方をすれば、柱部6の数)は、保持器2の容量(保持させるころの個数)に合わせて任意に設定すればよい。また、ポケット面(ころの周面との接触面)の形態(別の捉え方をすれば、隣り合う柱部6の周方向対向面の表面形状)は、凹曲面状(例えば、ころの周面よりもわずかに曲率の小さな凹曲面状など)とすればよい。ポケット10の周縁部には、当該ポケット10へ挿入したころが脱落不能に保持されるように、ポケット開口を狭めるような突出部(例えば、ころを把持する爪状の突起など)を設けることも可能である。
【0022】
一対のリム部4a,4bは、その外径側に柱部6の外周部よりも径方向に対して凹状に窪んでなる複数の縮径部42a,42bを有するとともに、その内径側に柱部6の内周部よりも径方向に対して凹状に窪んでなる複数の拡径部44a,44bを複数の縮径部42a,42bとは周方向に対して異なる位相で有している。すなわち、一対のリム部4a,4bは、その外径側が縮径部42a,42bと柱部6の外周部により凹凸状をなして連続する(最大外径を柱部6の外周部として外径寸法が拡縮する)とともに、その内径側が拡径部44a,44bと柱部6の内周部により凹凸状をなして連続する(最小内径を柱部6の内周部として内径寸法が拡縮する)ように構成されている。その際、一対のリム部4a,4bは、外径側もしくは内径側の少なくとも一方は、必ず最大外径(柱部6の外周部)もしくは最小内径(柱部6の内周部)となっており、外径側と内径側の周方向の同一位相において縮径部42a,42bと拡径部44a,44bが重なることはない。なお、リム部4aおよびリム部4bの径寸法や軸方向に対する対向間隔は、軸受のサイズなどに応じて任意に設定すればよい。
【0023】
複数の縮径部42a,42bは、各縮径部42a,42bの周方向に対する位相が一対のリム部4a,4bの一方(一例として、リム部4a)と他方(同、リム部4b)で異なるように、双方のリム部4a,4bに対してそれぞれ所定間隔で配されている。また、複数の拡径部44a,44bは、各拡径部44a,44bの周方向に対する位相が一対のリム部4a,4bの一方(一例として、リム部4a)と他方(同、リム部4b)で異なるように、双方のリム部4a,4bに対してそれぞれ所定間隔で配されている。
各リム部4a,4bにおいて、複数の縮径部42a,42bおよび複数の拡径部44a,44bの配設間隔は特に限定されず、任意に設定することが可能である。例えば、これらの縮径部42a,42bおよび拡径部44a,44bは、周方向に対してポケット10と同一の位相で、かつ、当該ポケット10の一つおき(一つとび)もしくは複数おき(複数とび)に配すればよいが、その際、周方向に対して柱部6と同一の位相で配することや、ポケット10および柱部6の境界部分と同一の位相で配することも可能である。いずれの場合であっても、保持器2の軸方向端面の外径側および内径側の連続面域ができるだけ均等となるように、各リム部4a,4bに対して縮径部42a,42bおよび拡径部44a,44bを配すればよい。
【0024】
図1には、各リム部4a,4bにおいて、複数の縮径部42a,42bをそれぞれ周方向に対してポケット10と同一の位相で、かつ、当該ポケット10の一つおきに縮径部42a,42bが一つずつ並ぶように一定間隔で配するとともに、複数の拡径部44a,44bをそれぞれ周方向に対してポケット10と同一の位相で、かつ、当該ポケット10の一つおきに拡径部44a,44bが一つずつ並ぶように一定間隔で配した構成(図2参照)を一例として示している。この場合、周方向にそれぞれ一つずつ並ぶ縮径部42a,42bの間、および拡径部44a,44bの間(別のとらえ方をすれば、周方向に並ぶ3つのポケット10の間)には、2本の柱部6(その外周部もしくは内周部)およびこれら柱部6と連続するリム部4a,4bが介在されている。
また、図3には、各リム部4a,4bにおいて、複数の縮径部42a,42bをそれぞれ周方向に対してポケット10と同一の位相で、かつ、当該ポケット10の二つおきに縮径部42a,42bが二つずつ並ぶように一定間隔で配するとともに、複数の拡径部44a,44bをそれぞれ周方向に対してポケット10と同一の位相で、かつ、当該ポケット10の二つおきに拡径部44a,44bが二つずつ並ぶように一定間隔で配した構成の一例を本発明の第2実施形態として示している。この場合、周方向にそれぞれ二つずつ並ぶ縮径部42a,42bの間、および拡径部44a,44bの間(別のとらえ方をすれば、周方向に隣り合う二つのポケット10の間)には、1本の柱部6(その外周部もしくは内周部)が介在されている。
【0025】
なお、図1に示す第1実施形態、および図3に示す第2実施形態においては、いずれも各リム部4a,4bに対し、同数の縮径部42a,42bをポケット10の一つおき(図1)もしくは二つおき(図3)に同数ずつ一定間隔で配した構成としているが、同数の縮径部42a,42bを同数ずつ異なる間隔で配した構成、同数の縮径部42a,42bを異なる数ずつ一定間隔で配した構成、異なる数の縮径部42a,42bを同数もしくは異なる数ずつ一定間隔もしくは異なる間隔で配した構成とすることも想定可能である(拡径部44a,44bについても同様)。例えば、同数の縮径部42a,42bをポケット10の一つおきと二つおきを交互に組み合わせて同数ずつ異なる間隔で配するとともに、同数の拡径部44a,44bをポケット10の一つおきと二つおきを交互に組み合わせて同数ずつ異なる間隔で配した構成や、同数の縮径部42a,42bをポケット10の3つおきに同数ずつ一定間隔で配するとともに、同数の拡径部44a,44bをポケット10の3つおきに同数ずつ一定間隔で配した構成などであっても構わない。また、一方のリム部4aの縮径部42aの数と他方のリム部4bの縮径部42bの数、および一方のリム部4aの拡径部44aの数と他方のリム部4bの拡径部44bの数をそれぞれ相違させることも可能である。
すなわち、これらは、保持器2,20におけるポケット10の数(つまり保持可能なころの個数)に応じて任意に設定すればよい。
【0026】
また、図1に示す第1実施形態、および図3に示す第2実施形態においては、いずれも各リム部4a,4bに対し、同大および同形の縮径部42a,42bを配するとともに、同大および同形の拡径部44a,44bを配した構成としているが、縮径部42a,42bおよび拡径部44a,44bの大きさや形状は、各縮径部42a,42bごと、および各拡径部44a,44bごとに異なっていてもよいし、縮径部42a,42bと拡径部44a,44bで同一もしくは異なっていても構わない。
図1および図3には、周方向に対して同一位相となるポケット10と略同一の周方向幅で、各リム部4a,4bが径方向に対して略半分の肉厚となるように、これらのリム部4a,4bを略矩形の箱状に窪ませた縮径部42a,42bおよび拡径部44a,44bの構成を一例として示している。
【0027】
このように、上述した第1実施形態(図1)および第2実施形態(図3)に係る保持器2,20によれば、一対のリム部4a,4bに対してほぼ均等に縮径部42a,42bおよび拡径部44a,44bを配するとともに、各リム部4a,4bの外径側および内径側に対してもほぼ均等に縮径部42a,42bおよび拡径部44a,44bを配することで、保持器2の軸方向両側の端面、および各端面の外径側および内径側の連続面域をほぼ均等とすることができる。すなわち、これら軸方向両端面を案内面とすることで、保持器2,20(換言すれば、一対のリム部4a,4b)の外径側もしくは内径側のいずれにおいてもほぼ均等に軸受を回転案内させることが可能となる。
【0028】
ここで、上述した第1実施形態(図1)および第2実施形態(図3)においては、一対のリム部4a,4bをそれぞれ一連の略円環状として保持器2,20を構成しているが、一対のリム部をそれぞれ一箇所ずつ欠損部を有する非連続の欠円環状(略C字状)とした保持器構成とすることも可能であり、このような構成であっても上述した第1実施形態(図1)および第2実施形態(図3)と同様の作用効果を奏することができる。
図4から図8には、一対のリム部をそれぞれ一箇所ずつ欠損部を有する非連続の欠円環状(略C字状)とした保持器の構成例をそれぞれ示している。
以下、図4および図5に示す保持器構成を第3実施形態、図6および図7に示す保持器構成を第4実施形態、そして、図8に示す保持器構成を第5実施形態としてそれぞれ説明する。なお、これら第3実施形態(図4および図5)、第4実施形態(図6および図7)、そして第5実施形態(図8)に係る保持器は、一対のリム部がそれぞれ一箇所ずつ欠損部を有する非連続の欠円環状(略C字状)となっているが、いずれも一対のリム部に対してほぼ均等に縮径部および拡径部を配するとともに、各リム部の外径側および内径側に対してもほぼ均等に縮径部および拡径部を配した構成となっており、その基本的な保持器構成は、上述した第1実施形態(図1および図2)に係る保持器2と共通している。したがって、これと同一もしくは類似する部材については図面上で同一符号を付して説明を省略もしくは簡略化し、各実施形態(図4から図8)に特有の構成についてのみ詳述する。
【0029】
図4および図5には、第3実施形態に係る保持器30の構成が示されている。一対のリム部34a,34bは、それぞれ一箇所ずつ欠損部38a,38bを有する非連続の欠円環状(略C字状)をなし、各リム部34a,34bの欠損部38a,38bが周方向に対して同一の位相をなした状態(周方向に対する欠損部38a,38bの位置が一致している状態)で、軸方向に対して同心上に所定間隔を空けて対向配置されている。すなわち、保持器30は、周方向に対して一つの割れ部32を有する外観形状が略円筒状をなす(いわゆる一つ割れの保持器構造)。その際、リム部34aとリム部34bの径寸法や軸方向に対する対向間隔は、軸受のサイズなどに応じて任意に設定すればよい。
【0030】
なお、一対のリム部34a,34bがその外径側に柱部6の外周部よりも径方向に対して凹状に窪んでなる複数の縮径部42a,42bを有するとともに、その内径側に柱部6の内周部よりも径方向に対して凹状に窪んでなる複数の拡径部44a,44bを複数の縮径部42a,42bとは周方向に対して異なる位相で有することは、上述した第1実施形態(図1および図2)および第2実施形態(図3)と同様である。すなわち、一対のリム部34a,34bは、その外径側が縮径部42a,42bと柱部6の外周部により凹凸状をなして連続する(最大外径を柱部6の外周部として外径寸法が拡縮する)とともに、その内径側が拡径部44a,44bと柱部6の内周部により凹凸状をなして連続する(最小内径を柱部6の内周部として内径寸法が拡縮する)ように構成されている。
また、複数の縮径部42a,42bを各縮径部42a,42bの周方向に対する位相が一対のリム部34a,34bの一方(一例として、リム部34a)と他方(同、リム部34b)で異なるように、双方のリム部34a,34bに対してそれぞれ所定間隔で配し、複数の拡径部44a,44bを各拡径部44a,44bの周方向に対する位相が一対のリム部34a,34bの一方(一例として、リム部34a)と他方(同、リム部34b)で異なるように、双方のリム部34a,34bに対してそれぞれ所定間隔で配していることも、上述した第1実施形態(図1および図2)および第2実施形態(図3)と同様である。一例として、本実施形態においては、図4および図5に示すように、これらの縮径部42a,42bおよび拡径部44a,44bを上述した第1実施形態(図1および図2)と同様となるように、一対のリム部34a,34bに対して配した構成としている。すなわち、各リム部34a,34bにおいて、複数の縮径部42a,42bをそれぞれ周方向に対してポケット10と同一の位相で、かつ、当該ポケット10の一つおきに縮径部42a,42bが一つずつ並ぶように一定間隔で配するとともに、複数の拡径部44a,44bをそれぞれ周方向に対してポケット10と同一の位相で、かつ、当該ポケット10の一つおきに拡径部44a,44bが一つずつ並ぶように一定間隔で配している。
【0031】
ただし、複数の縮径部42a,42bおよび複数の拡径部44a,44bを上述した第2実施形態(図3)と同様となるように、一対のリム部34a,34bに対して配した構成、すなわち、各リム部34a,34bにおいて、複数の縮径部42a,42bをそれぞれ周方向に対してポケット10と同一の位相で、かつ、当該ポケット10の二つおきに縮径部42a,42bが二つずつ並ぶように一定間隔で配するとともに、複数の拡径部44a,44bをそれぞれ周方向に対してポケット10と同一の位相で、かつ、当該ポケット10の二つおきに拡径部44a,44bが二つずつ並ぶように一定間隔で配した構成とすることも可能である。
これらは、保持器30におけるポケット10の数(つまり保持可能なころの個数)に応じて任意に設定すればよく、同数の縮径部42a,42を同数ずつ異なる間隔で配した構成、同数の縮径部42a,42を異なる数ずつ一定間隔で配した構成、異なる数の縮径部42a,42を同数もしくは異なる数ずつ一定間隔もしくは異なる間隔で配した構成とすることも想定可能であり(拡径部44a,44bについても同様)、一方のリム部34aの縮径部42aの数と他方のリム部34bの縮径部42bの数、および一方のリム部34aの拡径部44aの数と他方のリム部34bの拡径部44bの数をそれぞれ相違させることも可能であることは、上述した第1実施形態(図1および図2)および第2実施形態(図3)と同様である。
【0032】
複数の柱部6は、一対のリム部34a,34bを軸方向に連結するとともに当該リム部34a,34b間の領域を当該リム部43a,34bの周方向に隔て、転動体であるころ(ニードル(図示しない))を挿入して回転自在に保持するためのポケット10を形成している。すなわち、保持器30は、周方向に隣り合う二つの柱部6、及び一対のリム部34a,34bで囲まれた空間に一つのポケット10が形成され、これら柱部6とポケット10が周方向へ交互に配された構造となる。ただし、各リム部34a,34bの欠損部38a,38bに対して周方向の両側に近接して配された二つの柱部6(以下、欠損部近接柱部62,64という)によって隔てられるリム部34a,34b間の領域には、割れ部32が存在し、ポケット10は形成されない。したがって、保持器30は、かかる領域(つまり割れ部32)に限ってころが欠落する構造、すなわち、当該領域以外は各ポケット10に一つずつころが挿入され、これらのころが周方向に対して等間隔(均一ピッチ)で配される構造をなす。
なお、柱部6により形成するポケット10の大きさは、ころの径寸法及び長さに応じ、ポケット10において当該ころを回転自在に保持可能となるように設定すればよく、ポケット10の数(別の捉え方をすれば、柱部6の数)は、保持器30の容量(保持させるころの個数)に合わせて任意に設定すればよい(上述した第1実施形態(図1および図2)、第2実施形態(図3)と同様)。
【0033】
このように、一対のリム部34a,34bにそれぞれ一箇所ずつ欠損部38a,38bを形成し、保持器30が周方向に対して一つの割れ部32を有する構造(いわゆる一つ割れの保持器構造)とすることで、かかる保持器30に対して割れ部32を拡張させる方向、別の捉え方をすれば、各リム部34a,34bの周方向両端面(欠損部38a,38bにおける対向面)をそれぞれ離間させる方向へ力が加わると、保持器30の全体が弾性変形される。この結果、割れ部32(欠損部38a,38b)を拡張させること、すなわち、保持器30(端的にはリム部34a,34b)を拡径させることができる。また、この状態から割れ部32を縮小させる方向、別の捉え方をすれば、各リム部34a,34bの周方向両端面(欠損部38a,38bにおける対向面)をそれぞれ近接させる方向へ力が加わると、保持器30の全体が上記割れ部32の拡張前のもとの状態に弾性変形される。この結果、割れ部32(欠損部38a,38b)を縮小させてもとの状態まで戻すこと、すなわち、保持器30(端的にはリム部34a,34b)を縮径させてもとの径寸法(拡径前の径寸法)まで戻すことができる。なお、保持器30に対して割れ部32を縮小させる方向へ力を加えることなく、割れ部32を拡張させる方向へ加えていた力を解除することによる保持器30自体の弾性復元力のみで、あるいは、当該弾性復元力に前記縮小方向への力を加えつつ、保持器30を縮径させ、もとの径寸法(拡径前の径寸法)まで戻すような保持器構成も想定可能である。
【0034】
これにより、保持器30の径寸法を自由に拡縮させることができ、各種大きさの段部や鍔部などを有する内方部材などに対して保持器30を容易に組み付けることができる。例えば、外径寸法が保持器の内径寸法よりも大寸に設定された段部やフランジ状の鍔部などがシャフト外周面域に突設されている回転シャフトの内方軌道部分へ保持器30を組み付ける場合であっても、保持器30の割れ部32を拡張させること(保持器30を拡径させること)で、保持器30をかかる段部や鍔部と干渉させることなく、回転シャフトの内方軌道部分まで軸方向へスムーズに移動させることができる。
保持器30を前記のような回転シャフトへ組み付けた後は、保持器30の割れ部32(欠損部38a,38b)が再度拡張され、当該保持器30の脱落や位置ずれなどが生ずることを防止する必要があり、保持器30にはかかる事態を防止するための係止機構が備えられている。すなわち、係止機構は、欠損部38a,38bの拡張(端的には再拡張)を防止することで、一対のリム部34a,34bを一定の径寸法に維持し、保持器30を定常径寸法に保つことを可能とする。
【0035】
図4および図5には、係止機構が径方向に対して重畳する構造をなすとともに、当該係止機構として、相互に嵌合される凸部12と凹部14を備えた保持器30の構成を例示している。
この場合、凸部12および凹部14は、一対のリム部34a,34bおよびこれらリム部34a,34bの欠損部38a,38bに近接して周方向に対向する二つの柱部6(欠損部近接柱部62,64)に配設されており、凸部12は、第1の凸部12aと第2の凸部12bからなるとともに、凹部14は、第1の凸部と嵌合可能な第1の凹部と第2の凸部と嵌合可能な第2の凹部からなっている。
なお、本実施形態においては、凸部12と凹部14からなる係止機構が径方向に対して重畳する構造をなしているため、保持器30の外径側および内径側の双方にそれぞれ凸部12(第1の凸部および第2の凸部)と凹部14(第1の凹部および第2の凹部)が配設されている。
【0036】
図4に示すように、保持器30の外径側においては、第1の凸部12aが一対のリム部34a,34bのうちの一方のリム部(一例として、リム部34a)、および当該一方のリム部34aと連続する欠損部近接柱部62,64のうちの一方(同、欠損部近接柱部62)の軸方向に対してリム部34a側の端部から第1の凹部14aへ向けて突出し、当該第1の凹部14aは、リム部34a、および欠損部近接柱部62,64のうちの他方(同、欠損部近接柱部64)の軸方向に対してリム部34a側の端部に形成されている。
また、第2の凸部12bは、一対のリム部34a,34bのうちの他方のリム部(一例として、リム部34b)、および欠損部近接柱部64の軸方向に対してリム部34b側の端部から第2の凹部14bへ向けて突出し、当該第2の凹部14bは、リム部34b、および欠損部近接柱部62の軸方向に対してリム部34b側の端部に形成されている。
【0037】
一方、図5に示すように、保持器30の内径側においては、第1の凸部12cが一対のリム部34a,34bのうちの一方のリム部(一例として、リム部34a)、および当該一方のリム部34aと連続する欠損部近接柱部62,64のうちの一方(同、欠損部近接柱部64)の軸方向に対してリム部34a側の端部から第1の凹部14cへ向けて突出し、当該第1の凹部14cは、リム部34a、および欠損部近接柱部62,64のうちの他方(同、欠損部近接柱部62)の軸方向に対してリム部34a側の端部に形成されている。
また、第2の凸部12dは、一対のリム部34a,34bのうちの他方のリム部(一例として、リム部34b)、および欠損部近接柱部62の軸方向に対してリム部34b側の端部から第2の凹部14dへ向けて突出し、当該第2の凹部14dは、リム部34b、および欠損部近接柱部64の軸方向に対してリム部34b側の端部に形成されている。
【0038】
このように、保持器30の外径側において、第1の凸部12aおよび第2の凸部12bと、第1の凹部14aおよび第2の凹部14bは、それぞれ周方向に対して凹凸方向が互い違いとなるように配設され、相互に嵌合される構造となっている。同様に、保持器30の内径側においても、第1の凸部12cおよび第2の凸部12dと、第1の凹部14cおよび第2の凹部14dは、それぞれ周方向に対して凹凸方向が互い違いとなるように配設され、相互に嵌合される構造となっている。
すなわち、係止機構は、保持器30の外径側では割れ部32(欠損部38a,38b)を挟んで周方向の一方側から第1の凸部12aが突出し、他方側の第1の凹部14aと嵌合されるとともに、当該割れ部32(欠損部38a,38b)を挟んで周方向の他方側から第2の凸部12bが突出し、一方側の第2の凹部14bと嵌合される構造をなす。また、保持器30の内径側においては、割れ部32(欠損部38a,38b)を挟んで周方向の他方側から第1の凸部12cが突出し、一方側の第1の凹部14cと嵌合されるとともに、当該割れ部32(欠損部38a,38b)を挟んで周方向の一方側から第2の凸部12dが突出し、他方側の第2の凹部14dと嵌合される構造をなす。
さらに、外径側の凸部12(第1の凸部12a、第2の凸部12b)および凹部14(第1の凹部14a、第2の凹部14b)と、内径側の凸部12(第1の凸部12c、第2の凸部12d)および凹部14(第1の凹部14c、第2の凹部14d)も周方向に対して凹凸方向が互い違い(別の捉え方をすれば、割れ部32(欠損部38a,38b)を挟んで周方向に対する凹凸が逆向き)となるように配設されている。
以上のように、係止機構は、保持器30の外径側および内径側の双方で、かつ軸方向の一方側および他方側の双方で、いずれもその凹凸構造が互い違い(非対称)となるように構成される。
【0039】
凸部12(第1の凸部12a,12c、第2の凸部12b,12d)は、一対のリム部34a,34bのうちの一方、および当該一方のリム部と連続する欠損部近接柱部62,64のいずれか一方における他方との対向面から周方向へ所定の形状および大きさ(長さ)で突出し、凹部14(第1の凹部14a,14c、第2の凹部14b,14d)は、前記凸部12を嵌合可能となるように、前記一方のリム部、および当該一方のリム部と連続する前記欠損部近接柱部62,64の他方における一方との対向部分を、所定の形状及び大きさ(周方向への深さ)で内径側から外径側まで切り欠いている。なお、凸部12及び凹部14は、相互に嵌合可能であれば、これらの形状及び大きさ(長さや深さ)などは特に限定されず、保持器30の材質、大きさ(径寸法や幅)などに応じて任意に設定すればよい。また、前記係止機構は、保持器2の割れ部20(欠損部8a,8b)の再拡張を抑止することが可能であれば、相互に嵌合可能な凸部12aと凹部12bのような機構に限定されるものではなく、既知の各種機構に適宜変更可能である。
【0040】
図4および図5には、外径側の凸部12(第1の凸部12a、第2の凸部12b)および凹部14(第1の凹部14a、第2の凹部14b)、内径側の凸部12(第1の凸部12c、第2の凸部12d)および凹部14(第1の凹部14c、第2の凹部14d)を保持器30の肉厚(外内径寸法差)のそれぞれ略半分の肉厚で等分するように重畳させた係止機構を一例として示している。ただし、外径側の凸部12および凹部14、あるいは内径側の凸部12および凹部14のいずれか一方が他方よりも厚肉となるように、保持器30の肉厚を二分して重畳させた係止機構とすることも可能である。
【0041】
また、図4および図5には、外径側の凸部12(第1の凸部12a、第2の凸部12b)および凹部14(第1の凹部14a、第2の凹部14b)、並びに内径側の凸部12(第1の凸部12c、第2の凸部12d)および凹部14(第1の凹部14c、第2の凹部14d)を軸方向に対して略同一の幅で均等配設させた(具体的には、保持器30の幅(軸方向に対する寸法)のそれぞれ略半分の幅となるように等分させた)係止機構を一例として示している。
ただし、これらの外径側および内径側の凸部12および凹部14は、図6および図7に示す本発明の第4実施形態に係る保持器40のように、軸方向に対して異なる幅でオフセット配設することも可能である。かかる第4実施形態においては、図6および図7に示すように、これらの外径側および内径側の凸部12および凹部14の軸方向に対する配設位置をそれぞれオフセットさせた係止機構、つまり、第1の凸部12a,12cと第1の凹部14a,14c、および第2の凸部12b,12dと第2の凹部14b,14dのいずれか一方が他方よりも軸方向に対して幅広となるように、これらをオフセットさせた(ずらした)係止機構としている。
【0042】
図6および図7には、外径側においては第1の凸部12aおよび第1の凹部14aを、第2の凸部12bおよび第2の凹部14bよりも軸方向に対して幅広となるように、これらをオフセットさせているのに対し、内径側においては第2の凸部12dおよび第2の凹部14dを、第1の凸部12cおよび第1の凹部14cよりも軸方向に対して幅広となるように、これらをオフセットさせた係止機構を一例として示している。すなわち、外径側においては、軸方向に対して保持器40の一方側(リム部34a側)が他方側(リム部34b側)よりも幅広となるように凸部12(第1の凸部12a、第2の凸部12b)および凹部14(第1の凹部14a、第2の凹部14b)が配設されているのに対し、内径側においては、保持器40の他方側(リム部34b側)が一方側(リム部34a側)よりも幅広となるように凸部12(第1の凸部12c、第2の凸部12d)および凹部14(第1の凹部14c、第2の凹部14d)が配設されている。
このように係止機構をオフセットさせることで、外径側において軸方向に対して幅広となる第1の凸部12aをマーキングスペースとすることができる。
なお、第4実施形態(図6および図7)においては、外径側の凸部12および凹部14、あるいは内径側の凸部12および凹部14のいずれか一方を他方よりも軸方向に対して幅広となるようにオフセットさせているが、それ以外の部材は、上述した第3実施形態(図4および図5)と同様の構成としている(これと同一もしくは類似する構成部材については、図面上で同一符号を付する)。
【0043】
また、上述した第3実施形態(図4および図5)、および第4実施形態(図6および図7)においては、凸部12および凹部14を一対のリム部34a,34bと二つの欠損部近接柱部62,64の双方に配設しているが、これらの凸部12および凹部14を二つの欠損部近接柱部62,64のみに配設した係止機構とすることも可能である。図8には、本発明の第5実施形態として、このように二つの欠損部近接柱部62,64のみに凸部12および凹部14を配設した保持器の構成を示している。この場合、凸部12および凹部14を二つの欠損部近接柱部62,64のみに配設しているが、それ以外の部材は上述した第3実施形態(図4および図5)と同様の構成としている(これと同一もしくは類似する構成部材については、図面上で同一符号を付する)。なお、本実施形態においても、上述した第4実施形態(図6および図7)のように、外径側および内径側の凸部12および凹部14の軸方向に対する配設位置をそれぞれオフセットさせた係止機構とすることが可能である。
このように、本実施形態においては、二つの欠損部近接柱部62,64のみに凸部12および凹部14を配設し、一対のリム部34a,34bには凸部12および凹部14を配設していないため、これらリム部34a,34bの欠損部38a,38bを挟んで対向する周方向両端部の対向間隔を拡張させることができるとともに、当該欠損部38a,38bを径方向内側へ窪ませた(凹ませた)構成とすることができる。
【0044】
これにより、例えば、保持器50を外方部材および内方部材へ組み付ける際(すなわち、軸受として組み立てる際)、各欠損部38a,38bへ位置決め用部材(例えば、位置決めピンなど(図示しない))を挿入することで、割れ部32(欠損部38a,38b)の拡縮を抑制させ、保持器50を拡径や縮径させることなく一定の径寸法(定常径寸法)に維持した状態とすることができる。この結果、保持器50の形態が安定し、各ポケット10へ挿入させるころの周方向への位相合わせが容易となるとともに、保持器50を外方部材および内方部材へ組み付ける際の位置決めも容易となり、軸受の組み立ての自動化を図りやすい。なお、各欠損部38a,38bへ挿入した位置決め用部材は、外方部材及び内方部材への組み付け完了後に抜き取ればよい。
また、欠損部38a,38bをこのような構成とすることで、これら欠損部38a,38bの分だけ、上述した第3実施形態(図4および図5)や第4実施形態(図6および図7)よりも保持器50の軽量化を図ることが可能となる。
【0045】
ここで、上述した第3実施形態(図4および図5)、第4実施形態(図6および図7)および第5実施形態(図8)においては、いずれも一対のリム部34a,34bの欠損部38a,38bを挟んで対向する周方向両端部は、その軸方向端面38tが対向する周方向端部へ向かうに従って互いに前傾するテーパ状をなしている。なお、これらのテーパ状をなす軸方向端面38tの周方向に対する長さや径方向に対する幅、傾斜角度などは、保持器30,40,50の大きさ(径寸法)や肉厚、軸受が組み付けられる相手側部材における軸受回転案内部位の形態などに応じて任意に設定すればよい。
このように、軸方向端面38tをテーパ状とすることで、保持器30,40,50と前記軸受回転案内部位との接触位置によらず、軸方向ずれに対する当該保持器30,40,50の回転拘束を回避することができる。
【0046】
なお、一対のリム部34a,34bには、一方のリム部においてその欠損部38a,38bを挟んで対向する周方向両端部のうちの一端部と、他方のリム部においてその欠損部38a,38bを挟んで対向する周方向両端部のうち、前記一端部と周方向に対して反対側の端部とを相互に連結する伸縮自在な弾性連結部を設けてもよい。あるいは、前記一方のリム部においてその欠損部38a,38bを挟んで対向する周方向両端部のうちの一端部と、前記他方のリム部においてその欠損部38a,38bを挟んで対向する周方向両端部のうち、前記一端部と周方向に対して同一側の端部とを相互に連結する伸縮自在な弾性連結部を設けることも可能である。この場合、かかる弾性連結部は、上述した第3実施形態(図4および図5)、第4実施形態(図6および図7)および第5実施形態(図8)における係止機構(凹部12および凸部14)に代えて、各保持器に対して設ければよい。したがって、かかる弾性連結部は、径方向に対して重畳する構造をなすように、保持器の外径側および内径側に対してそれぞれ設ければよい。
図9から図16には、このような弾性連結部を設けた保持器の構成例を示しており、図9から図12に示す構成例を本発明の第6実施形態、図13から図16に示す構成例を本発明の第7実施形態として、以下それぞれ説明する。なお、これらの第6実施形態(図9から図12)、および第7実施形態(図13から図16)においては、係止機構に代えて弾性連結部が設けられているが、それ以外の部材は、上述した第3実施形態(図4および図5)と同様の構成としている(これと同一もしくは類似する構成部材については、図面上で同一符号を付する)。
【0047】
第6実施形態においては、図9から図12に示すように、一対のリム部34a,34bには、一方のリム部(一例として、リム部34a)においてその欠損部38aを挟んで対向する周方向両端部のうちの一端部と、他方のリム部(同、リム部34b)においてその欠損部38bを挟んで対向する周方向両端部のうちの他端部とを相互に連結する伸縮自在な弾性連結部16a,16bが設けられている。
【0048】
具体的には、保持器60の外径側においては、リム部34aの欠損部38aを挟んで対向する周方向両端部のうちの一端部(図11において、欠損部38aに対して上側の周方向端部)とリム部34bの欠損部38bを挟んで対向する周方向両端部のうちの他端部(同図において、欠損部38bに対して下側の周方向端部)とを弾性連結部16aが相互に連結している(図9参照)。すなわち、弾性連結部16aは、欠損部近接柱部62とリム部34aとの連結部分(欠損部近接柱部62のリム部34a側の根元部分)から、欠損部近接柱部64とリム部34bとの連結部分(欠損部近接柱部64のリム部34b側の根元部分)までに亘って、割れ部32へたすき状に架け渡され(図11においては、左下がり(右上がり))、当該割れ部32を二分している(図9参照)。
一方、保持器60の内径側においては、リム部34aの欠損部38aを挟んで対向する周方向両端部のうちの一端部(図11において、欠損部38aに対して下側の周方向端部)とリム部34bの欠損部38bを挟んで対向する周方向両端部のうちの他端部(同図において、欠損部38bに対して上側の周方向端部)とを弾性連結部16bが相互に連結している(図10参照)。すなわち、弾性連結部16bは、欠損部近接柱部64とリム部34aとの連結部分(欠損部近接柱部64のリム部34a側の根元部分)から、欠損部近接柱部62とリム部34bとの連結部分(欠損部近接柱部62のリム部34b側の根元部分)までに亘って、割れ部32へたすき状に架け渡され(図11においては、左上がり(右下がり))、当該割れ部32を二分している(図10参照)。
【0049】
このように、弾性連結部16a,16bは、外径側の弾性連結部16aと内径側の弾性連結部16bとが交差(クロス)して重なるように、割れ部32へそれぞれたすき状に架け渡され、当該割れ部32を二分する二重構造をなす。ただし、弾性連結部16bに相当する弾性連結部を外径側に設けるとともに、弾性連結部16aに相当する弾性連結部を内径側に設けて、これらを交差して重畳させた構成とすることも可能である(本実施形態とは、外内径側における弾性連結部の交差状態が逆の構成)。
なお、図9から図12には、外径側の弾性連結部16aおよび内径側の弾性連結部16bを保持器60の肉厚(外内径寸法差)のそれぞれ略半分の肉厚で等分するように重畳させた構成を一例として示している。ただし、外径側の弾性連結部16aおよび内径側の弾性連結部16bのいずれか一方が他方よりも厚肉となるように、保持器60の肉厚を二分して重畳させた構成とすることも可能である。
【0050】
また、図9から図12に示す構成においては、割れ部32を二分するように、当該割れ部32へ弾性連結部16a,16bをそれぞれたすき状に架け渡し、外径側の弾性連結部16aと内径側の弾性連結部16bとを交差して重畳させた構成としているが、弾性連結部16a,16bの重畳構造はこれに限定されない。
例えば、図13から図16に示す第7実施形態においては、一対のリム部34a,34bには、一方のリム部(一例として、リム部34a)においてその欠損部38aを挟んで対向する周方向両端部のうちの一端部と、他方のリム部(同、リム部34b)においてその欠損部38bを挟んで対向する周方向両端部のうちの一端部(前記一端部と周方向に対して同一側の端部)とを相互に連結する伸縮自在な弾性連結部16c,16dが設けられている。
【0051】
具体的には、保持器70の外径側においては、リム部34bの欠損部38bを挟んで対向する周方向両端部のうちの一端部(図15において、欠損部38bに対して上側の周方向端部)とリム部34bの欠損部38bを挟んで対向する周方向両端部のうちの他端部(同図において、欠損部38bに対して下側の周方向端部)とを弾性連結部16cが相互に連結している(図13参照)。すなわち、弾性連結部16cは、欠損部近接柱部62とリム部34bとの連結部分(欠損部近接柱部62のリム部34b側の根元部分)から欠損部38a(リム部34a側)へ向けて延出した後に折り返し、欠損部近接柱部64とリム部34bとの連結部分(欠損部近接柱部64のリム部34b側の根元部分)までに亘って、割れ部32へ略V字状に架け渡され(図15においては、右側に90度倒れたV字状)、当該割れ部32を二分している(図13参照)。
一方、保持器70の内径側においては、リム部34aの欠損部38aを挟んで対向する周方向両端部のうちの一端部(図15において、欠損部38aに対して上側の周方向端部)とリム部34aの欠損部38aを挟んで対向する周方向両端部のうちの他端部(同図において、欠損部38aに対して下側の周方向端部)とを弾性連結部16dが相互に連結している(図14参照)。すなわち、弾性連結部16dは、欠損部近接柱部62とリム部34aとの連結部分(欠損部近接柱部62のリム部34a側の根元部分)から欠損部38b(リム部34b側)へ向けて延出した後に折り返し、欠損部近接柱部64とリム部34aとの連結部分(欠損部近接柱部64のリム部34a側の根元部分)までに亘って、割れ部32へ略V字状に架け渡され(図15においては、左側に90度倒れたV字状)、当該割れ部32を二分している(図14参照)。
【0052】
このように、弾性連結部16c,16dは、外径側の弾性連結部16cと内径側の弾性連結部16dとが交差(クロス)して重なるように、割れ部32へそれぞれ略V字状に架け渡され、当該割れ部32を二分する二重構造をなす。ただし、弾性連結部16dに相当する弾性連結部を外径側に設けるとともに、弾性連結部16cに相当する弾性連結部を内径側に設けて、これらを交差して重畳させた構成とすることも可能である(本実施形態とは、外内径側における弾性連結部の交差状態(換言すれば、V字の倒れる向き)が逆の構成)。
なお、図13から図16には、外径側の弾性連結部16cおよび内径側の弾性連結部16dを保持器70の肉厚(外内径寸法差)のそれぞれ略半分の肉厚で等分するように重畳させた構成を一例として示している。ただし、外径側の弾性連結部16cおよび内径側の弾性連結部16dのいずれか一方が他方よりも厚肉となるように、保持器70の肉厚を二分して重畳させた構成とすることも可能である。
【0053】
図9から図12に示す第6実施形態、および図13から図16に示す第7実施形態のように、リム部34a,34bの間を弾性連結部16a,16b,16c,16dで連結することで、保持器60,70に対して割れ部32(端的にはリム部34a,34bの欠損部38a,38b)を拡張させる方向へ力が加わると、弾性連結部16a,16b,16c,16dが周方向の双方(割れ部32の拡張方向)へ弾性変形し、当該弾性連結部16a,16b,16c,16dが伸長される。この結果、割れ部32(欠損部38a,38b)を拡張させること、すなわち、保持器60,70を拡径させることができる。また、割れ部32(端的にはリム部34a,34bの欠損部38a,38b)を縮小させる方向へ保持器60,70に対して力が加わると、弾性連結部16a,16b,16c,16dが上記割れ部32の拡張時とは周方向に対して逆方向へ弾性変形されて伸長し、割れ部32をつぶす。この結果、割れ部32(欠損部38a,38b)を縮小させること、すなわち、保持器60,70を縮径させることができる。
そして、保持器60,70に対して作用させていた所定の力(割れ部32(欠損部38a,38b)の拡張方向もしくは縮小方向への力)を解除すると、弾性連結部16a,16b,16c,16dが弾性復元力によりもとの状態まで戻され、保持器60,70の割れ部32(欠損部38a,38b)、換言すれば、保持器60,70の径寸法をもとの状態まで戻すことが可能となる。なお、保持器60,70は、弾性連結部16a,16b,16c,16dの伸長量の限度内において拡径され、その限度を超えて過度に拡径されることはなく、一対のリム部34a,34bの欠損部38a,38bを挟んで対向する周方向両端部が接触されるまでの範囲内において縮径され、その接触範囲を超えて過度に縮径されることはない。
【0054】
このように、弾性連結部16a,16b,16c,16dは、いわゆるバネの役目を果たして保持器60,70の径寸法を所定範囲内において自由に拡大、および縮小させている(いわゆるバネ付きの保持器構成)。これにより、例えば、保持器60,70が組み込まれた軸受がギアと一体回転し、その際に生じる遠心力によって保持器60,70を径方向へ拡げる(拡径させる)一方で、低回転時(減速時)には当該保持器60,70をもとの状態までスムーズに戻す(縮径させる)ことで、ポケット面ところの周面(転動面)との接触位置を変動調整させることができ、かかる保持器60,70に対するフレッチングなどの損傷の発生を有効に防止することが可能となる。また、保持器60,70が組み込まれた軸受に対して非常に大きな荷重(例えば、ラジアル荷重)が負荷された場合であっても、当該保持器60,70を柔軟に拡径あるいは縮径させることでポケット面ところの周面との接触位置を変動調整させ、負荷荷重を効率的に逃がすことが可能となる。したがって、保持器60,70の耐久性(一例として、耐フレッチング性)の向上を図ることが可能となる。
【0055】
なお、第6実施形態(図9から図12)においては、弾性連結部16a,16bを外径側と内径側で交差して重なる二重構造(すなわち、交差するたすき状の二重バネ構造)としているため、たすき状の単一バネ構造とした場合のように、保持器60の径寸法の拡大時や縮小時に、一対のリム部34a,34bの欠損部38a,38bを挟んで対向する周方向両端部が軸方向へずれてしまうこと(つまり、保持器60の軸方向ずれ)を有効に抑制することができる。また、保持器60の成形時における冷えムラによる軸方向端面の傾きも抑制することができる。
また、第7実施形態(図13から図16)においては、弾性連結部16c,16dを外径側と内径側で交差して重なる二重構造(すなわち、交差する略V字状の二重バネ構造)としているため、バネ弾性力によるモーメントを相殺させることができ、V字状の単一バネ構造とした場合のように、バネ弾性力によるモーメントにより保持器70の軸方向端面同士が傾くことを有効に抑制させることができ、安定した軸方向端面姿勢を確保することができる。また、保持器70の成形時における冷えムラによる軸方向端面の傾きも併せて抑制することができる。
【0056】
本発明に係る保持器において、一対のリム部は、いずれも複数の略円弧状の分割体を略円環状に組み付けた構成(非連続の欠円環状)としても構わない。
図17には、本発明の第8実施形態に係る保持器80の構成を示しており、この場合、一対のリム部80a,80bを、いずれも2つの略円弧状の分割体82a,84a,82b,84bからなる二分割構造としている。なお、本実施形態に係る保持器80は、一対のリム部80a,80b、より具体的には、その分割体82a,84a,82b,84bに対してほぼ均等に縮径部および拡径部を配するとともに、各リム部80a,80b(各分割体82a,84a,82b,84b)の外径側および内径側に対してもほぼ均等に縮径部および拡径部を配した構成となっており、その基本的な保持器構成は、上述した第1実施形態(図1および図2)および第3実施形態(図4および図5)に係る保持器2,30と共通している(これらと同一もしくは類似する部材については図面上で同一符号を付する)。
図17に示すように、一対のリム部82,84は、いずれも2つの略円弧状の分割体82a,84a,82b,84bからなる二分割構造をなし、各リム部80a,80b(各分割体82a,84a,82b,84b)の欠損部86a,88a,86b,88bが周方向に対して同一の位相をなした状態(周方向に対する欠損部86a,86bおよび欠損部88a,88bの位置が一致している状態)で、軸方向に対して同心上に所定間隔を空けて対向配置されている。すなわち、保持器80は、周方向に対して二つの割れ部32m,32nを有する外観形状が略円筒状をなす(いわゆる二つ割れの保持器構造)。その際、リム部80a(分割体82a,84a)とリム部80b(分割体82b,84b)の径寸法や軸方向に対する対向間隔は、軸受のサイズなどに応じて任意に設定すればよい。
【0057】
なお、一対のリム部80a,80b(分割体82a,84a,82b,84b)がその外径側に柱部6の外周部よりも径方向に対して凹状に窪んでなる複数の縮径部42a,42bを有するとともに、その内径側に柱部6の内周部よりも径方向に対して凹状に窪んでなる複数の拡径部44a,44bを複数の縮径部42a,42bとは周方向に対して異なる位相で有することは、上述した第1実施形態(図1および図2)および第3実施形態(図4および図5)と同様である。すなわち、一対のリム部80a,80b(分割体82a,84a,82b,84b)は、その外径側が縮径部42a,42bと柱部6の外周部により凹凸状をなして連続する(最大外径を柱部6の外周部として外径寸法が拡縮する)とともに、その内径側が拡径部44a,44bと柱部6の内周部により凹凸状をなして連続する(最小内径を柱部6の内周部として内径寸法が拡縮する)ように構成されている。
また、複数の縮径部42a,42bを各縮径部42a,42bの周方向に対する位相が一対のリム部80a,80bの一方(一例として、リム部80a(分割体82a,84a))と他方(同、リム部80b(分割体82b,84b))で異なるように、双方のリム部80a,80bに対してそれぞれ所定間隔で配し、複数の拡径部44a,44bを各拡径部44a,44bの周方向に対する位相が一対のリム部80a,80bの一方(一例として、リム部80a(分割体82a,84a))と他方(同、リム部80b(分割体82b,84b))で異なるように、双方のリム部80a,80bに対してそれぞれ所定間隔で配していることも、上述した第1実施形態(図1および図2)および第3実施形態(図4および図5)と同様である。一例として、本実施形態においては、図17に示すように、これらの縮径部42a,42bおよび拡径部44a,44bを上述した第1実施形態(図1および図2)と同様となるように、一対のリム部80a,80b(分割体82a,84a,82b,84b)に対して配した構成としている。すなわち、各リム部80a,80bにおいて、複数の縮径部42a,42bをそれぞれ周方向に対してポケット10と同一の位相で、かつ、当該ポケット10の一つおきに縮径部42a,42bが一つずつ並ぶように一定間隔で配するとともに、複数の拡径部44a,44bをそれぞれ周方向に対してポケット10と同一の位相で、かつ、当該ポケット10の一つおきに拡径部44a,44bが一つずつ並ぶように一定間隔で配している。
【0058】
ただし、複数の縮径部42a,42bおよび複数の拡径部44a,44bを上述した第2実施形態(図3)と同様となるように、一対のリム部80a,80b(分割体82a,84a,82b,84b)に対して配した構成、すなわち、各リム部80a,80bにおいて、複数の縮径部42a,42bをそれぞれ周方向に対してポケット10と同一の位相で、かつ、当該ポケット10の二つおきに縮径部42a,42bが二つずつ並ぶように一定間隔で配するとともに、複数の拡径部44a,44bをそれぞれ周方向に対してポケット10と同一の位相で、かつ、当該ポケット10の二つおきに拡径部44a,44bが二つずつ並ぶように一定間隔で配した構成とすることも可能である。
これらは、保持器80におけるポケット10の数(つまり保持可能なころの個数)に応じて任意に設定すればよく、同数の縮径部42a,42を同数ずつ異なる間隔で配した構成、同数の縮径部42a,42を異なる数ずつ一定間隔で配した構成、異なる数の縮径部42a,42を同数もしくは異なる数ずつ一定間隔もしくは異なる間隔で配した構成とすることも想定可能であり(拡径部44a,44bについても同様)、一方のリム部80a(分割体82a,84a)の縮径部42aの数と他方のリム部80b(分割体82b,84b)の縮径部42bの数、および一方のリム部80a(分割体82a,84a)の拡径部44aの数と他方のリム部80b(分割体82b,84b)の拡径部44bの数をそれぞれ相違させることも可能であることは、上述した第1実施形態(図1および図2)および第2実施形態(図3)と同様である。
【0059】
複数の柱部6は、一対のリム部80a,80b(分割体82a,84a,82b,84b)を軸方向に連結するとともに当該リム部80a,80b間の領域を当該リム部80a,80bの周方向に隔て、転動体であるころ(ニードル(図示しない))を挿入して回転自在に保持するためのポケット10を形成している。すなわち、保持器80は、周方向に隣り合う二つの柱部6、及び一対のリム部80a,80b(分割体82a,84a,82b,84b)で囲まれた空間に一つのポケット10が形成され、これら柱部6とポケット10が周方向へ交互に配された構造となる。ただし、各リム部80a,80bの欠損部86a,88a,86b,88bに対して周方向の両側に近接して配された四つの柱部6(以下、欠損部近接柱部62m,64m,62n,64nという)によって隔てられるリム部80a,80b間(分割体82a,84a間および分割体82b,84b間)の領域には、割れ部32m,32nが存在し、ポケット10は形成されない。したがって、保持器80は、かかる領域(つまり割れ部32m,32n)に限ってころが欠落する構造、すなわち、当該領域以外は各ポケット10に一つずつころが挿入され、これらのころが周方向に対して等間隔(均一ピッチ)で配される構造をなす。
なお、柱部6により形成するポケット10の大きさは、ころの径寸法及び長さに応じ、ポケット10において当該ころを回転自在に保持可能となるように設定すればよく、ポケット10の数(別の捉え方をすれば、柱部6の数)は、保持器80の容量(保持させるころの個数)に合わせて任意に設定すればよい(上述した第1実施形態(図1および図2)、第3実施形態(図4および図5)と同様)。
【0060】
このように、一対のリム部80a,80b(分割体82a,84a,82b,84b)にそれぞれ二箇所ずつ欠損部86a,88a,86b,88bを形成し、保持器80が周方向に対して二つの割れ部32m,32nを有する構造(いわゆる二つ割れの保持器構造)とすることで、保持器80の径寸法を自由に拡縮させることができ、各種大きさの段部や鍔部などを有する内方部材などに対して保持器80を容易に組み付けることができることは、上述した第3実施形態(図4および図5)と同様である。
【0061】
以上、本発明の第1実施形態から第8実施形態(図1から図17)によれば、アキシャルドロー成形保持器でありながら、軸方向両側の端面(換言すれば、一対のリム部4a,4b,34a,34b,80a,80b)、および各端面(同、リム部4a,4b,34a,34b,80a,80b)における外内径両側においてほぼ均等に軸受を回転案内するための案内面を設けることで、軸受が組み付けられる相手側部材における保持器端面の支持部(案内部)が十分に確保されていない場合であっても、当該相手側部材に対する軸受(端的には、保持器2,20,30,40,50,60,70,80)の組み付け方向の制約を受けることなく、軸方向両端面(つまり、一対のリム部4a,4b,34a,34b,80a,80b)をほぼ均等(等面積)の連続面で相手側部材の支持部と接触させることができる。この結果、従来のような不連続面と比較してより広い面域で軸受を回転案内可能で、耐摩耗性に優れたラジアルころ軸受用保持器2,20,30,40,50,60,70,80を実現することができる。
【符号の説明】
【0062】
4a,4b リム部
6 柱部
10 ポケット
42a,42b 縮径部
44a,44b 拡径部
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、自動車や鉄道等の車両などに備えられた動力機構のように、大きなラジアル荷重(径方向への荷重)が負荷される回転系を軸支するためのラジアルころ軸受に用いられる保持器、具体的には、自動車のトランスミッションなどに使用されるラジアルニードル(針状ころ)軸受に組み込まれるアキシャルドロー成形保持器の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や鉄道等の車両などに備えられた動力機構における回転系にはラジアル方向(径方向)へ非常に大きな荷重が加わるため、その回転軸を回転自在に支持する軸受には、当該荷重に対する負荷能力に優れたラジアルころ軸受(以下、ころ軸受や軸受ともいう)が従来から広く用いられている。
かかる軸受は、内周面に円筒状の外方軌道を有する外方部材(例えば、常時非回転状態に維持される外輪やハウジング、あるいは、使用時に回転可能な歯車やローラなど)と、当該外方部材の内径側に配された内方部材(例えば、使用時に回転可能な内輪やシャフトなど)の外周面(内方軌道)と前記外方軌道との間へ転動可能に組み込まれる複数のころ(例えば、複数本のニードルなど)と、これらのころを周方向へ所定間隔(一例として、等間隔)で配して保持するとともに、前記外方部材及び前記内方部材へ組み付けられる保持器を備えている。そして、保持器は、所定間隔を空けて同心上に対向する一対の円環部と、これらを連結するとともに当該円環部間の領域を当該円環部の周方向に隔て、ころを挿入して回転自在に保持するためのポケットを形成する複数の柱部を備えて構成される。
【0003】
このような保持器の成形方法の一つであるアキシャルドロー成形は、ポケットのパチン部(ポケットからのころ脱落防止を図るためのかかり代に相当する部位)のボリュームが大きく無理抜きが困難となるころ径大の保持器仕様や、ころ数(ポケット数)が多く、ころ抜け力が懸念される保持器仕様などにおいて、パチン部めくれのおそれがない成形方法として用いられている。特に、保持器(端的には、軸受)が組み付けられる相手側部材(例えば、回転シャフトなど)における保持器端面の支持部(案内部)に制約があり(保持器端面支持部が十分に確保されていない場合など)、かつ射出成形ではポケットの無理抜きが難しい場合などにおける成形方法として使用されている。
【0004】
例えば、特許文献1および2には、アキシャルドロー成形技術を用いた保持器の構成例がそれぞれ開示されている。これらの構成例においては、保持器の軸方向両端面の形態(つまり、一対の円環部の形態)が一端側と他端側でそれぞれ異なったものとなっている。具体的には、軸方向の一端側の円環部は、その外径側が不連続(外径寸法がポケット部位よりも柱部部位で大寸)、内径側が連続(内径寸法が一定)となっているのに対し、他端側の円環部は、その外径側が連続(外径寸法が一定)、内径側が不連続(内径寸法がポケット部位よりも柱部部位で小寸)となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平2−89814号公報
【特許文献2】英国特許出願公開第1352909号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
軸受を相手側部材(例えば、回転シャフトなど)に組み付けた際、当該軸受(外方部材や内方部材)の端面の全領域で自身の回転を案内する軸受構成であれば、上述した特許文献1および2に開示のいずれの構成であっても特段問題はない。
しかしながら、相手側部材における軸受を回転案内するための部位が前記軸受の軸方向端面の全領域(軸受側の案内面)をカバーしないような構成となっている場合(例えば、DCT(Dual Clutch Transmission:デュアルクラッチトランスミッション)の入れ子部位など)、次のような問題を招く虞がある。
すなわち、保持器の軸方向両端面において、面積の小さい不連続部(上記軸方向一端側の円環部の外径側、もしくは、軸方向他端側の円環部の内径側)で、回転する軸受を軸方向案内した場合、ころスキューなどによる押し付け力によって前記不連続部を有する保持器端面が前記相手側部材の保持器端面支持部との間の摩擦により摩耗してしまう可能性がある。この場合、軸受の相手側部材に対する組み付け方向を制約(限定)することにより、かかる摩耗防止を図ることは可能となるが、ユニットアセンブリ(外方部材、内方部材、ころおよび保持器の組付体)における効率性が損なわれてしまう虞がある。
【0007】
本発明は、このような課題を解決するためになされており、その目的は、アキシャルドロー成形保持器でありながら、軸受が組み付けられる相手側部材における保持器端面の支持部(案内部)が十分に確保されていない場合であっても、当該相手側部材に対する軸受(端的には、保持器)の組み付け方向の制約を受けることなく、軸方向両端面(つまり、一対のリム部)をほぼ均等(等面積)の連続面で相手側部材の支持部と接触させ、従来のような不連続面と比較してより広い面域で軸受を回転案内可能で、耐摩耗性に優れたラジアルころ軸受用保持器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような目的を達成するために、本発明に係るラジアルころ軸受用保持器は、軸方向に対して同心上に所定間隔を空けて対向する一対の略円環状のリム部と、これらのリム部を連結するとともに、当該リム部間の空間領域を周方向に隔て、転動体であるころを挿入して回転自在に保持するためのポケットを形成する複数の柱部とを備えている。前記一対のリム部は、その外径側に前記柱部の外周部よりも径方向に対して凹状に窪んでなる複数の縮径部を有するとともに、その内径側に前記柱部の内周部よりも径方向に対して凹状に窪んでなる複数の拡径部を前記複数の縮径部とは周方向に対して異なる位相で有し、前記複数の縮径部は、各縮径部の周方向に対する位相が前記一対のリム部の一方と他方で異なるように、双方のリム部に対してそれぞれ所定間隔で配され、前記複数の拡径部は、各拡径部の周方向に対する位相が前記一対のリム部の一方と他方で異なるように、双方のリム部に対してそれぞれ所定間隔で配されている。
【0009】
各リム部において、前記複数の縮径部および前記複数の拡径部は、周方向に対して前記ポケットと同一の位相で、かつ、当該ポケットの一つおきもしくは複数おきに配することが可能である。
その際、前記複数の縮径部は、各縮径部が周方向に対して一定間隔で配するとともに、前記複数の拡径部は、各拡径部が周方向に対して一定間隔で配すればよい。また、前記複数の縮径部および前記複数の拡径部は、周方向に対して異なる間隔で配しても構わない。
【0010】
前記一対のリム部は、それぞれ一箇所ずつ欠損部を有する非連続の欠円環状をなし、各リム部の欠損部が周方向に対して同一の位相をなした状態、もしくは異なる位相をなした状態で、軸方向に対して同心上に所定間隔を空けて対向配置した構成とすることも可能である。
この場合、前記一対のリム部には、一方のリム部においてその欠損部を挟んで対向する周方向両端部のうちの一端部と、他方のリム部においてその欠損部を挟んで対向する周方向両端部のうち、前記一端部と周方向に対して反対側の端部とを相互に連結する伸縮自在な弾性連結部を設けてもよい。また、前記一対のリム部には、一方のリム部においてその欠損部を挟んで対向する周方向両端部のうちの一端部と、他方のリム部においてその欠損部を挟んで対向する周方向両端部のうち、前記一端部と周方向に対して同一側の端部とを相互に連結する伸縮自在な弾性連結部を設けても構わない。
なお、前記弾性連結部は、径方向に対して重畳する構造をなしていることが好ましい。
【0011】
またこの場合、前記欠損部を拡張させることで前記一対のリム部が拡径可能であるとともに、前記欠損部の拡張を防止することで前記一対のリム部を一定の径寸法に維持可能な係止機構を備えていてもよい。
なお、前記係止機構は、径方向に対して重畳する構造をなしていることが好ましい。
その際、前記係止機構としては、相互に嵌合可能な凸部および凹部を備えることが可能である。
【0012】
前記凸部および前記凹部は、前記一対のリム部およびこれらリム部の欠損部に近接して周方向に対向する二つの柱部に配設されており、前記凸部は、第1の凸部と第2の凸部からなるとともに、前記凹部は、前記第1の凸部と嵌合可能な第1の凹部と前記第2の凸部と嵌合可能な第2の凹部からなる。前記第1の凸部は、前記一対のリム部のうちの一方のリム部、および当該一方のリム部と連続する前記二つの柱部のうちの一方の柱部の軸方向に対して前記一方のリム部側の端部から前記第1の凹部へ向けて突出させ、当該第1の凹部は、前記一方のリム部、および前記二つの柱部のうちの他方の柱部の軸方向に対して前記一方のリム部側の端部に形成すればよい。一方、前記第2の凸部は、前記一対のリム部のうちの他方のリム部、および前記二つの柱部のうちの他方の柱部の軸方向に対して前記他方のリム部側の端部から前記第2の凹部へ向けて突出させ、当該第2の凹部は、前記他方のリム部、および前記一方の柱部の軸方向に対して前記他方のリム部側の端部に形成すればよい。
【0013】
あるいは、前記凸部および前記凹部は、前記一対のリム部の欠損部に近接して周方向に対向する二つの柱部のみに配設されており、前記凸部は、第1の凸部と第2の凸部からなるとともに、前記凹部は、前記第1の凸部と嵌合可能な第1の凹部と前記第2の凸部と嵌合可能な第2の凹部からなる。前記第1の凸部は、前記二つの柱部のうちの一方の柱部の軸方向の一端部から前記第1の凹部へ向けて突出させ、当該第1の凹部は、前記二つの柱部のうちの他方の柱部の軸方向に対して前記一端部と同一側の端部に形成すればよい。一方、前記第2の凸部は、前記二つの柱部のうちの他方の柱部の軸方向の他端部から前記第2の凹部へ向けて突出させ、当該第2の凹部は、前記一方の柱部の軸方向に対して前記他端部と同一側の端部に形成すればよい。
【0014】
その際、前記第1の凸部および前記第1の凹部と、前記第2の凸部および前記第2の凹部とは、軸方向に対して略同一の幅で均等配設、もしくは軸方向に対して異なる幅でオフセット配設することが可能である。
【0015】
なお、前記一対のリム部がそれぞれ一箇所ずつ欠損部を有する非連続の欠円環状をなす場合、前記一対のリム部の欠損部を挟んで対向する周方向両端部は、その軸方向端面が対向する周方向端部へ向かうに従って互いに前傾するテーパ状とすることが好ましい。
また、前記一対のリム部は、いずれも複数の略円弧状の分割体を略円環状に組み付けた構成とすることも可能である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、アキシャルドロー成形保持器でありながら、軸方向両側の端面(換言すれば、一対のリム部)、および各端面(同、リム部)における外内径両側においてほぼ均等に軸受を回転案内するための案内面を設けることで、軸受が組み付けられる相手側部材における保持器端面の支持部(案内部)が十分に確保されていない場合であっても、当該相手側部材に対する軸受(端的には、保持器)の組み付け方向の制約を受けることなく、軸方向両端面(つまり、一対のリム部)をほぼ均等(等面積)の連続面で相手側部材の支持部と接触させることができる。この結果、従来のような不連続面と比較してより広い面域で軸受を回転案内可能で、耐摩耗性に優れたラジアルころ軸受用保持器を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1実施形態に係るラジアルころ軸受用保持器の全体構成を示す斜視図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係るラジアルころ軸受用保持器の軸方向端面を示す平面図である。
【図3】本発明の第2実施形態に係るラジアルころ軸受用保持器の全体構成を示す斜視図である。
【図4】本発明の第3実施形態に係るラジアルころ軸受用保持器の全体構成を係止機構の外径側から示す斜視図である。
【図5】本発明の第3実施形態に係るラジアルころ軸受用保持器の全体構成を係止機構の内径側から示す斜視図である。
【図6】本発明の第4実施形態に係るラジアルころ軸受用保持器の全体構成を係止機構の外径側から示す斜視図である。
【図7】本発明の第4実施形態に係るラジアルころ軸受用保持器の全体構成を係止機構の内径側から示す斜視図である。
【図8】本発明の第5実施形態に係るラジアルころ軸受用保持器の全体構成を示す斜視図である。
【図9】本発明の第6実施形態に係るラジアルころ軸受用保持器の全体構成を弾性連結部の外径側から示す斜視図である。
【図10】本発明の第6実施形態に係るラジアルころ軸受用保持器の全体構成を弾性連結部の内径側から示す斜視図である。
【図11】本発明の第6実施形態に係るラジアルころ軸受用保持器を弾性連結部の外径側から示す平面図である。
【図12】本発明の第6実施形態に係るラジアルころ軸受用保持器の軸方向端面を示す平面図である。
【図13】本発明の第7実施形態に係るラジアルころ軸受用保持器の全体構成を弾性連結部の外径側から示す斜視図である。
【図14】本発明の第7実施形態に係るラジアルころ軸受用保持器の全体構成を弾性連結部の内径側から示す斜視図である。
【図15】本発明の第7実施形態に係るラジアルころ軸受用保持器を弾性連結部の外径側から示す平面図である。
【図16】本発明の第7実施形態に係るラジアルころ軸受用保持器の軸方向端面を示す平面図である。
【図17】本発明の第8実施形態に係るラジアルころ軸受用保持器の全体構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明のラジアルころ軸受用保持器について、添付図面を参照して説明する。なお、本発明に係るラジアルころ軸受用保持器が組み込まれる軸受としては、自動車や鉄道等の車両などに備えられた動力機構(一例として、自動車のトランスミッション)における回転系を軸支するための軸受などを想定することが可能であるが、これに限定されるものではない。
かかる軸受は、内周面に円筒状の外方軌道を有する外方部材(例えば、常時非回転状態に維持される外輪やハウジング、あるいは、使用時に回転可能な歯車やローラなど)と、当該外方部材の内径側に配された内方部材(例えば、使用時に回転可能な内輪やシャフトなど)の外周面(内方軌道)と前記外方軌道との間へ転動可能に組み込まれる複数のラジアルころ(一例として、複数本のニードル)を備えている。なお、軸受のサイズ、内輪の有無、ころのサイズ(径や長さ)及び個数などは、軸受の使用条件や使用目的などに応じて任意に設定することが可能であるため、ここでは特に限定しない。
そして、これらのころは、軌道間(外方軌道及び内方軌道)での転動時において、各ころが相互に接触して摩擦が生じることによる回転抵抗の増大や焼付きなどを防止すべく、軸受用保持器によってそのポケット内で回転自在に保持される。なお、このような回転抵抗の増大や焼付きなどをさらに効果的に防止すべく、軸受潤滑(油潤滑やグリース潤滑)を行っても構わない。また、軸受用保持器は、転動体案内(ころ案内)、外輪案内、及び内輪案内のいずれの案内方式としても構成可能である。
【0019】
図1および図2には、本発明の第1実施形態に係るラジアルころ軸受用保持器(以下、単に保持器ともいう)2の構成が示されている。なお、本実施形態においては、保持器2が所定の弾性材製(一例として、樹脂製)であり、当該弾性材をアキシャルドロー成形することによって全体(後述するリム部4a,4b及び柱部6)が一体成形されている場合を想定する。ただし、成型後の成形体に対して切削加工や研削加工などを別途施し、完成品としての保持器2を形成しても構わない。
【0020】
かかる保持器2は、軸方向に対して同心上に所定間隔を空けて対向する一対の略円環状のリム部4a,4bと、これらのリム部4a,4bを連結するとともに、当該リム部4a,4b間の空間領域を周方向に隔て、転動体であるころ(ニードル(図示しない))を挿入して回転自在に保持するためのポケット10を形成する複数の柱部6とを備えて構成されている。すなわち、周方向に隣り合う二つの柱部6、および一対のリム部4a,4bで囲まれた空間に一つのポケット10が形成されており、これにより、保持器2は、柱部6とポケット10が周方向へ交互に配された構造をなすとともに、各ポケット10に一つずつころが挿入され、これらのころが周方向に対して等間隔(均一ピッチ)で配される構造をなす。
【0021】
なお、柱部6により形成するポケット10の大きさは、ころの径寸法及び長さに応じ、ポケット10において当該ころを回転自在に保持可能となるように設定すればよく、ポケット10の数(別の捉え方をすれば、柱部6の数)は、保持器2の容量(保持させるころの個数)に合わせて任意に設定すればよい。また、ポケット面(ころの周面との接触面)の形態(別の捉え方をすれば、隣り合う柱部6の周方向対向面の表面形状)は、凹曲面状(例えば、ころの周面よりもわずかに曲率の小さな凹曲面状など)とすればよい。ポケット10の周縁部には、当該ポケット10へ挿入したころが脱落不能に保持されるように、ポケット開口を狭めるような突出部(例えば、ころを把持する爪状の突起など)を設けることも可能である。
【0022】
一対のリム部4a,4bは、その外径側に柱部6の外周部よりも径方向に対して凹状に窪んでなる複数の縮径部42a,42bを有するとともに、その内径側に柱部6の内周部よりも径方向に対して凹状に窪んでなる複数の拡径部44a,44bを複数の縮径部42a,42bとは周方向に対して異なる位相で有している。すなわち、一対のリム部4a,4bは、その外径側が縮径部42a,42bと柱部6の外周部により凹凸状をなして連続する(最大外径を柱部6の外周部として外径寸法が拡縮する)とともに、その内径側が拡径部44a,44bと柱部6の内周部により凹凸状をなして連続する(最小内径を柱部6の内周部として内径寸法が拡縮する)ように構成されている。その際、一対のリム部4a,4bは、外径側もしくは内径側の少なくとも一方は、必ず最大外径(柱部6の外周部)もしくは最小内径(柱部6の内周部)となっており、外径側と内径側の周方向の同一位相において縮径部42a,42bと拡径部44a,44bが重なることはない。なお、リム部4aおよびリム部4bの径寸法や軸方向に対する対向間隔は、軸受のサイズなどに応じて任意に設定すればよい。
【0023】
複数の縮径部42a,42bは、各縮径部42a,42bの周方向に対する位相が一対のリム部4a,4bの一方(一例として、リム部4a)と他方(同、リム部4b)で異なるように、双方のリム部4a,4bに対してそれぞれ所定間隔で配されている。また、複数の拡径部44a,44bは、各拡径部44a,44bの周方向に対する位相が一対のリム部4a,4bの一方(一例として、リム部4a)と他方(同、リム部4b)で異なるように、双方のリム部4a,4bに対してそれぞれ所定間隔で配されている。
各リム部4a,4bにおいて、複数の縮径部42a,42bおよび複数の拡径部44a,44bの配設間隔は特に限定されず、任意に設定することが可能である。例えば、これらの縮径部42a,42bおよび拡径部44a,44bは、周方向に対してポケット10と同一の位相で、かつ、当該ポケット10の一つおき(一つとび)もしくは複数おき(複数とび)に配すればよいが、その際、周方向に対して柱部6と同一の位相で配することや、ポケット10および柱部6の境界部分と同一の位相で配することも可能である。いずれの場合であっても、保持器2の軸方向端面の外径側および内径側の連続面域ができるだけ均等となるように、各リム部4a,4bに対して縮径部42a,42bおよび拡径部44a,44bを配すればよい。
【0024】
図1には、各リム部4a,4bにおいて、複数の縮径部42a,42bをそれぞれ周方向に対してポケット10と同一の位相で、かつ、当該ポケット10の一つおきに縮径部42a,42bが一つずつ並ぶように一定間隔で配するとともに、複数の拡径部44a,44bをそれぞれ周方向に対してポケット10と同一の位相で、かつ、当該ポケット10の一つおきに拡径部44a,44bが一つずつ並ぶように一定間隔で配した構成(図2参照)を一例として示している。この場合、周方向にそれぞれ一つずつ並ぶ縮径部42a,42bの間、および拡径部44a,44bの間(別のとらえ方をすれば、周方向に並ぶ3つのポケット10の間)には、2本の柱部6(その外周部もしくは内周部)およびこれら柱部6と連続するリム部4a,4bが介在されている。
また、図3には、各リム部4a,4bにおいて、複数の縮径部42a,42bをそれぞれ周方向に対してポケット10と同一の位相で、かつ、当該ポケット10の二つおきに縮径部42a,42bが二つずつ並ぶように一定間隔で配するとともに、複数の拡径部44a,44bをそれぞれ周方向に対してポケット10と同一の位相で、かつ、当該ポケット10の二つおきに拡径部44a,44bが二つずつ並ぶように一定間隔で配した構成の一例を本発明の第2実施形態として示している。この場合、周方向にそれぞれ二つずつ並ぶ縮径部42a,42bの間、および拡径部44a,44bの間(別のとらえ方をすれば、周方向に隣り合う二つのポケット10の間)には、1本の柱部6(その外周部もしくは内周部)が介在されている。
【0025】
なお、図1に示す第1実施形態、および図3に示す第2実施形態においては、いずれも各リム部4a,4bに対し、同数の縮径部42a,42bをポケット10の一つおき(図1)もしくは二つおき(図3)に同数ずつ一定間隔で配した構成としているが、同数の縮径部42a,42bを同数ずつ異なる間隔で配した構成、同数の縮径部42a,42bを異なる数ずつ一定間隔で配した構成、異なる数の縮径部42a,42bを同数もしくは異なる数ずつ一定間隔もしくは異なる間隔で配した構成とすることも想定可能である(拡径部44a,44bについても同様)。例えば、同数の縮径部42a,42bをポケット10の一つおきと二つおきを交互に組み合わせて同数ずつ異なる間隔で配するとともに、同数の拡径部44a,44bをポケット10の一つおきと二つおきを交互に組み合わせて同数ずつ異なる間隔で配した構成や、同数の縮径部42a,42bをポケット10の3つおきに同数ずつ一定間隔で配するとともに、同数の拡径部44a,44bをポケット10の3つおきに同数ずつ一定間隔で配した構成などであっても構わない。また、一方のリム部4aの縮径部42aの数と他方のリム部4bの縮径部42bの数、および一方のリム部4aの拡径部44aの数と他方のリム部4bの拡径部44bの数をそれぞれ相違させることも可能である。
すなわち、これらは、保持器2,20におけるポケット10の数(つまり保持可能なころの個数)に応じて任意に設定すればよい。
【0026】
また、図1に示す第1実施形態、および図3に示す第2実施形態においては、いずれも各リム部4a,4bに対し、同大および同形の縮径部42a,42bを配するとともに、同大および同形の拡径部44a,44bを配した構成としているが、縮径部42a,42bおよび拡径部44a,44bの大きさや形状は、各縮径部42a,42bごと、および各拡径部44a,44bごとに異なっていてもよいし、縮径部42a,42bと拡径部44a,44bで同一もしくは異なっていても構わない。
図1および図3には、周方向に対して同一位相となるポケット10と略同一の周方向幅で、各リム部4a,4bが径方向に対して略半分の肉厚となるように、これらのリム部4a,4bを略矩形の箱状に窪ませた縮径部42a,42bおよび拡径部44a,44bの構成を一例として示している。
【0027】
このように、上述した第1実施形態(図1)および第2実施形態(図3)に係る保持器2,20によれば、一対のリム部4a,4bに対してほぼ均等に縮径部42a,42bおよび拡径部44a,44bを配するとともに、各リム部4a,4bの外径側および内径側に対してもほぼ均等に縮径部42a,42bおよび拡径部44a,44bを配することで、保持器2の軸方向両側の端面、および各端面の外径側および内径側の連続面域をほぼ均等とすることができる。すなわち、これら軸方向両端面を案内面とすることで、保持器2,20(換言すれば、一対のリム部4a,4b)の外径側もしくは内径側のいずれにおいてもほぼ均等に軸受を回転案内させることが可能となる。
【0028】
ここで、上述した第1実施形態(図1)および第2実施形態(図3)においては、一対のリム部4a,4bをそれぞれ一連の略円環状として保持器2,20を構成しているが、一対のリム部をそれぞれ一箇所ずつ欠損部を有する非連続の欠円環状(略C字状)とした保持器構成とすることも可能であり、このような構成であっても上述した第1実施形態(図1)および第2実施形態(図3)と同様の作用効果を奏することができる。
図4から図8には、一対のリム部をそれぞれ一箇所ずつ欠損部を有する非連続の欠円環状(略C字状)とした保持器の構成例をそれぞれ示している。
以下、図4および図5に示す保持器構成を第3実施形態、図6および図7に示す保持器構成を第4実施形態、そして、図8に示す保持器構成を第5実施形態としてそれぞれ説明する。なお、これら第3実施形態(図4および図5)、第4実施形態(図6および図7)、そして第5実施形態(図8)に係る保持器は、一対のリム部がそれぞれ一箇所ずつ欠損部を有する非連続の欠円環状(略C字状)となっているが、いずれも一対のリム部に対してほぼ均等に縮径部および拡径部を配するとともに、各リム部の外径側および内径側に対してもほぼ均等に縮径部および拡径部を配した構成となっており、その基本的な保持器構成は、上述した第1実施形態(図1および図2)に係る保持器2と共通している。したがって、これと同一もしくは類似する部材については図面上で同一符号を付して説明を省略もしくは簡略化し、各実施形態(図4から図8)に特有の構成についてのみ詳述する。
【0029】
図4および図5には、第3実施形態に係る保持器30の構成が示されている。一対のリム部34a,34bは、それぞれ一箇所ずつ欠損部38a,38bを有する非連続の欠円環状(略C字状)をなし、各リム部34a,34bの欠損部38a,38bが周方向に対して同一の位相をなした状態(周方向に対する欠損部38a,38bの位置が一致している状態)で、軸方向に対して同心上に所定間隔を空けて対向配置されている。すなわち、保持器30は、周方向に対して一つの割れ部32を有する外観形状が略円筒状をなす(いわゆる一つ割れの保持器構造)。その際、リム部34aとリム部34bの径寸法や軸方向に対する対向間隔は、軸受のサイズなどに応じて任意に設定すればよい。
【0030】
なお、一対のリム部34a,34bがその外径側に柱部6の外周部よりも径方向に対して凹状に窪んでなる複数の縮径部42a,42bを有するとともに、その内径側に柱部6の内周部よりも径方向に対して凹状に窪んでなる複数の拡径部44a,44bを複数の縮径部42a,42bとは周方向に対して異なる位相で有することは、上述した第1実施形態(図1および図2)および第2実施形態(図3)と同様である。すなわち、一対のリム部34a,34bは、その外径側が縮径部42a,42bと柱部6の外周部により凹凸状をなして連続する(最大外径を柱部6の外周部として外径寸法が拡縮する)とともに、その内径側が拡径部44a,44bと柱部6の内周部により凹凸状をなして連続する(最小内径を柱部6の内周部として内径寸法が拡縮する)ように構成されている。
また、複数の縮径部42a,42bを各縮径部42a,42bの周方向に対する位相が一対のリム部34a,34bの一方(一例として、リム部34a)と他方(同、リム部34b)で異なるように、双方のリム部34a,34bに対してそれぞれ所定間隔で配し、複数の拡径部44a,44bを各拡径部44a,44bの周方向に対する位相が一対のリム部34a,34bの一方(一例として、リム部34a)と他方(同、リム部34b)で異なるように、双方のリム部34a,34bに対してそれぞれ所定間隔で配していることも、上述した第1実施形態(図1および図2)および第2実施形態(図3)と同様である。一例として、本実施形態においては、図4および図5に示すように、これらの縮径部42a,42bおよび拡径部44a,44bを上述した第1実施形態(図1および図2)と同様となるように、一対のリム部34a,34bに対して配した構成としている。すなわち、各リム部34a,34bにおいて、複数の縮径部42a,42bをそれぞれ周方向に対してポケット10と同一の位相で、かつ、当該ポケット10の一つおきに縮径部42a,42bが一つずつ並ぶように一定間隔で配するとともに、複数の拡径部44a,44bをそれぞれ周方向に対してポケット10と同一の位相で、かつ、当該ポケット10の一つおきに拡径部44a,44bが一つずつ並ぶように一定間隔で配している。
【0031】
ただし、複数の縮径部42a,42bおよび複数の拡径部44a,44bを上述した第2実施形態(図3)と同様となるように、一対のリム部34a,34bに対して配した構成、すなわち、各リム部34a,34bにおいて、複数の縮径部42a,42bをそれぞれ周方向に対してポケット10と同一の位相で、かつ、当該ポケット10の二つおきに縮径部42a,42bが二つずつ並ぶように一定間隔で配するとともに、複数の拡径部44a,44bをそれぞれ周方向に対してポケット10と同一の位相で、かつ、当該ポケット10の二つおきに拡径部44a,44bが二つずつ並ぶように一定間隔で配した構成とすることも可能である。
これらは、保持器30におけるポケット10の数(つまり保持可能なころの個数)に応じて任意に設定すればよく、同数の縮径部42a,42を同数ずつ異なる間隔で配した構成、同数の縮径部42a,42を異なる数ずつ一定間隔で配した構成、異なる数の縮径部42a,42を同数もしくは異なる数ずつ一定間隔もしくは異なる間隔で配した構成とすることも想定可能であり(拡径部44a,44bについても同様)、一方のリム部34aの縮径部42aの数と他方のリム部34bの縮径部42bの数、および一方のリム部34aの拡径部44aの数と他方のリム部34bの拡径部44bの数をそれぞれ相違させることも可能であることは、上述した第1実施形態(図1および図2)および第2実施形態(図3)と同様である。
【0032】
複数の柱部6は、一対のリム部34a,34bを軸方向に連結するとともに当該リム部34a,34b間の領域を当該リム部43a,34bの周方向に隔て、転動体であるころ(ニードル(図示しない))を挿入して回転自在に保持するためのポケット10を形成している。すなわち、保持器30は、周方向に隣り合う二つの柱部6、及び一対のリム部34a,34bで囲まれた空間に一つのポケット10が形成され、これら柱部6とポケット10が周方向へ交互に配された構造となる。ただし、各リム部34a,34bの欠損部38a,38bに対して周方向の両側に近接して配された二つの柱部6(以下、欠損部近接柱部62,64という)によって隔てられるリム部34a,34b間の領域には、割れ部32が存在し、ポケット10は形成されない。したがって、保持器30は、かかる領域(つまり割れ部32)に限ってころが欠落する構造、すなわち、当該領域以外は各ポケット10に一つずつころが挿入され、これらのころが周方向に対して等間隔(均一ピッチ)で配される構造をなす。
なお、柱部6により形成するポケット10の大きさは、ころの径寸法及び長さに応じ、ポケット10において当該ころを回転自在に保持可能となるように設定すればよく、ポケット10の数(別の捉え方をすれば、柱部6の数)は、保持器30の容量(保持させるころの個数)に合わせて任意に設定すればよい(上述した第1実施形態(図1および図2)、第2実施形態(図3)と同様)。
【0033】
このように、一対のリム部34a,34bにそれぞれ一箇所ずつ欠損部38a,38bを形成し、保持器30が周方向に対して一つの割れ部32を有する構造(いわゆる一つ割れの保持器構造)とすることで、かかる保持器30に対して割れ部32を拡張させる方向、別の捉え方をすれば、各リム部34a,34bの周方向両端面(欠損部38a,38bにおける対向面)をそれぞれ離間させる方向へ力が加わると、保持器30の全体が弾性変形される。この結果、割れ部32(欠損部38a,38b)を拡張させること、すなわち、保持器30(端的にはリム部34a,34b)を拡径させることができる。また、この状態から割れ部32を縮小させる方向、別の捉え方をすれば、各リム部34a,34bの周方向両端面(欠損部38a,38bにおける対向面)をそれぞれ近接させる方向へ力が加わると、保持器30の全体が上記割れ部32の拡張前のもとの状態に弾性変形される。この結果、割れ部32(欠損部38a,38b)を縮小させてもとの状態まで戻すこと、すなわち、保持器30(端的にはリム部34a,34b)を縮径させてもとの径寸法(拡径前の径寸法)まで戻すことができる。なお、保持器30に対して割れ部32を縮小させる方向へ力を加えることなく、割れ部32を拡張させる方向へ加えていた力を解除することによる保持器30自体の弾性復元力のみで、あるいは、当該弾性復元力に前記縮小方向への力を加えつつ、保持器30を縮径させ、もとの径寸法(拡径前の径寸法)まで戻すような保持器構成も想定可能である。
【0034】
これにより、保持器30の径寸法を自由に拡縮させることができ、各種大きさの段部や鍔部などを有する内方部材などに対して保持器30を容易に組み付けることができる。例えば、外径寸法が保持器の内径寸法よりも大寸に設定された段部やフランジ状の鍔部などがシャフト外周面域に突設されている回転シャフトの内方軌道部分へ保持器30を組み付ける場合であっても、保持器30の割れ部32を拡張させること(保持器30を拡径させること)で、保持器30をかかる段部や鍔部と干渉させることなく、回転シャフトの内方軌道部分まで軸方向へスムーズに移動させることができる。
保持器30を前記のような回転シャフトへ組み付けた後は、保持器30の割れ部32(欠損部38a,38b)が再度拡張され、当該保持器30の脱落や位置ずれなどが生ずることを防止する必要があり、保持器30にはかかる事態を防止するための係止機構が備えられている。すなわち、係止機構は、欠損部38a,38bの拡張(端的には再拡張)を防止することで、一対のリム部34a,34bを一定の径寸法に維持し、保持器30を定常径寸法に保つことを可能とする。
【0035】
図4および図5には、係止機構が径方向に対して重畳する構造をなすとともに、当該係止機構として、相互に嵌合される凸部12と凹部14を備えた保持器30の構成を例示している。
この場合、凸部12および凹部14は、一対のリム部34a,34bおよびこれらリム部34a,34bの欠損部38a,38bに近接して周方向に対向する二つの柱部6(欠損部近接柱部62,64)に配設されており、凸部12は、第1の凸部12aと第2の凸部12bからなるとともに、凹部14は、第1の凸部と嵌合可能な第1の凹部と第2の凸部と嵌合可能な第2の凹部からなっている。
なお、本実施形態においては、凸部12と凹部14からなる係止機構が径方向に対して重畳する構造をなしているため、保持器30の外径側および内径側の双方にそれぞれ凸部12(第1の凸部および第2の凸部)と凹部14(第1の凹部および第2の凹部)が配設されている。
【0036】
図4に示すように、保持器30の外径側においては、第1の凸部12aが一対のリム部34a,34bのうちの一方のリム部(一例として、リム部34a)、および当該一方のリム部34aと連続する欠損部近接柱部62,64のうちの一方(同、欠損部近接柱部62)の軸方向に対してリム部34a側の端部から第1の凹部14aへ向けて突出し、当該第1の凹部14aは、リム部34a、および欠損部近接柱部62,64のうちの他方(同、欠損部近接柱部64)の軸方向に対してリム部34a側の端部に形成されている。
また、第2の凸部12bは、一対のリム部34a,34bのうちの他方のリム部(一例として、リム部34b)、および欠損部近接柱部64の軸方向に対してリム部34b側の端部から第2の凹部14bへ向けて突出し、当該第2の凹部14bは、リム部34b、および欠損部近接柱部62の軸方向に対してリム部34b側の端部に形成されている。
【0037】
一方、図5に示すように、保持器30の内径側においては、第1の凸部12cが一対のリム部34a,34bのうちの一方のリム部(一例として、リム部34a)、および当該一方のリム部34aと連続する欠損部近接柱部62,64のうちの一方(同、欠損部近接柱部64)の軸方向に対してリム部34a側の端部から第1の凹部14cへ向けて突出し、当該第1の凹部14cは、リム部34a、および欠損部近接柱部62,64のうちの他方(同、欠損部近接柱部62)の軸方向に対してリム部34a側の端部に形成されている。
また、第2の凸部12dは、一対のリム部34a,34bのうちの他方のリム部(一例として、リム部34b)、および欠損部近接柱部62の軸方向に対してリム部34b側の端部から第2の凹部14dへ向けて突出し、当該第2の凹部14dは、リム部34b、および欠損部近接柱部64の軸方向に対してリム部34b側の端部に形成されている。
【0038】
このように、保持器30の外径側において、第1の凸部12aおよび第2の凸部12bと、第1の凹部14aおよび第2の凹部14bは、それぞれ周方向に対して凹凸方向が互い違いとなるように配設され、相互に嵌合される構造となっている。同様に、保持器30の内径側においても、第1の凸部12cおよび第2の凸部12dと、第1の凹部14cおよび第2の凹部14dは、それぞれ周方向に対して凹凸方向が互い違いとなるように配設され、相互に嵌合される構造となっている。
すなわち、係止機構は、保持器30の外径側では割れ部32(欠損部38a,38b)を挟んで周方向の一方側から第1の凸部12aが突出し、他方側の第1の凹部14aと嵌合されるとともに、当該割れ部32(欠損部38a,38b)を挟んで周方向の他方側から第2の凸部12bが突出し、一方側の第2の凹部14bと嵌合される構造をなす。また、保持器30の内径側においては、割れ部32(欠損部38a,38b)を挟んで周方向の他方側から第1の凸部12cが突出し、一方側の第1の凹部14cと嵌合されるとともに、当該割れ部32(欠損部38a,38b)を挟んで周方向の一方側から第2の凸部12dが突出し、他方側の第2の凹部14dと嵌合される構造をなす。
さらに、外径側の凸部12(第1の凸部12a、第2の凸部12b)および凹部14(第1の凹部14a、第2の凹部14b)と、内径側の凸部12(第1の凸部12c、第2の凸部12d)および凹部14(第1の凹部14c、第2の凹部14d)も周方向に対して凹凸方向が互い違い(別の捉え方をすれば、割れ部32(欠損部38a,38b)を挟んで周方向に対する凹凸が逆向き)となるように配設されている。
以上のように、係止機構は、保持器30の外径側および内径側の双方で、かつ軸方向の一方側および他方側の双方で、いずれもその凹凸構造が互い違い(非対称)となるように構成される。
【0039】
凸部12(第1の凸部12a,12c、第2の凸部12b,12d)は、一対のリム部34a,34bのうちの一方、および当該一方のリム部と連続する欠損部近接柱部62,64のいずれか一方における他方との対向面から周方向へ所定の形状および大きさ(長さ)で突出し、凹部14(第1の凹部14a,14c、第2の凹部14b,14d)は、前記凸部12を嵌合可能となるように、前記一方のリム部、および当該一方のリム部と連続する前記欠損部近接柱部62,64の他方における一方との対向部分を、所定の形状及び大きさ(周方向への深さ)で内径側から外径側まで切り欠いている。なお、凸部12及び凹部14は、相互に嵌合可能であれば、これらの形状及び大きさ(長さや深さ)などは特に限定されず、保持器30の材質、大きさ(径寸法や幅)などに応じて任意に設定すればよい。また、前記係止機構は、保持器2の割れ部20(欠損部8a,8b)の再拡張を抑止することが可能であれば、相互に嵌合可能な凸部12aと凹部12bのような機構に限定されるものではなく、既知の各種機構に適宜変更可能である。
【0040】
図4および図5には、外径側の凸部12(第1の凸部12a、第2の凸部12b)および凹部14(第1の凹部14a、第2の凹部14b)、内径側の凸部12(第1の凸部12c、第2の凸部12d)および凹部14(第1の凹部14c、第2の凹部14d)を保持器30の肉厚(外内径寸法差)のそれぞれ略半分の肉厚で等分するように重畳させた係止機構を一例として示している。ただし、外径側の凸部12および凹部14、あるいは内径側の凸部12および凹部14のいずれか一方が他方よりも厚肉となるように、保持器30の肉厚を二分して重畳させた係止機構とすることも可能である。
【0041】
また、図4および図5には、外径側の凸部12(第1の凸部12a、第2の凸部12b)および凹部14(第1の凹部14a、第2の凹部14b)、並びに内径側の凸部12(第1の凸部12c、第2の凸部12d)および凹部14(第1の凹部14c、第2の凹部14d)を軸方向に対して略同一の幅で均等配設させた(具体的には、保持器30の幅(軸方向に対する寸法)のそれぞれ略半分の幅となるように等分させた)係止機構を一例として示している。
ただし、これらの外径側および内径側の凸部12および凹部14は、図6および図7に示す本発明の第4実施形態に係る保持器40のように、軸方向に対して異なる幅でオフセット配設することも可能である。かかる第4実施形態においては、図6および図7に示すように、これらの外径側および内径側の凸部12および凹部14の軸方向に対する配設位置をそれぞれオフセットさせた係止機構、つまり、第1の凸部12a,12cと第1の凹部14a,14c、および第2の凸部12b,12dと第2の凹部14b,14dのいずれか一方が他方よりも軸方向に対して幅広となるように、これらをオフセットさせた(ずらした)係止機構としている。
【0042】
図6および図7には、外径側においては第1の凸部12aおよび第1の凹部14aを、第2の凸部12bおよび第2の凹部14bよりも軸方向に対して幅広となるように、これらをオフセットさせているのに対し、内径側においては第2の凸部12dおよび第2の凹部14dを、第1の凸部12cおよび第1の凹部14cよりも軸方向に対して幅広となるように、これらをオフセットさせた係止機構を一例として示している。すなわち、外径側においては、軸方向に対して保持器40の一方側(リム部34a側)が他方側(リム部34b側)よりも幅広となるように凸部12(第1の凸部12a、第2の凸部12b)および凹部14(第1の凹部14a、第2の凹部14b)が配設されているのに対し、内径側においては、保持器40の他方側(リム部34b側)が一方側(リム部34a側)よりも幅広となるように凸部12(第1の凸部12c、第2の凸部12d)および凹部14(第1の凹部14c、第2の凹部14d)が配設されている。
このように係止機構をオフセットさせることで、外径側において軸方向に対して幅広となる第1の凸部12aをマーキングスペースとすることができる。
なお、第4実施形態(図6および図7)においては、外径側の凸部12および凹部14、あるいは内径側の凸部12および凹部14のいずれか一方を他方よりも軸方向に対して幅広となるようにオフセットさせているが、それ以外の部材は、上述した第3実施形態(図4および図5)と同様の構成としている(これと同一もしくは類似する構成部材については、図面上で同一符号を付する)。
【0043】
また、上述した第3実施形態(図4および図5)、および第4実施形態(図6および図7)においては、凸部12および凹部14を一対のリム部34a,34bと二つの欠損部近接柱部62,64の双方に配設しているが、これらの凸部12および凹部14を二つの欠損部近接柱部62,64のみに配設した係止機構とすることも可能である。図8には、本発明の第5実施形態として、このように二つの欠損部近接柱部62,64のみに凸部12および凹部14を配設した保持器の構成を示している。この場合、凸部12および凹部14を二つの欠損部近接柱部62,64のみに配設しているが、それ以外の部材は上述した第3実施形態(図4および図5)と同様の構成としている(これと同一もしくは類似する構成部材については、図面上で同一符号を付する)。なお、本実施形態においても、上述した第4実施形態(図6および図7)のように、外径側および内径側の凸部12および凹部14の軸方向に対する配設位置をそれぞれオフセットさせた係止機構とすることが可能である。
このように、本実施形態においては、二つの欠損部近接柱部62,64のみに凸部12および凹部14を配設し、一対のリム部34a,34bには凸部12および凹部14を配設していないため、これらリム部34a,34bの欠損部38a,38bを挟んで対向する周方向両端部の対向間隔を拡張させることができるとともに、当該欠損部38a,38bを径方向内側へ窪ませた(凹ませた)構成とすることができる。
【0044】
これにより、例えば、保持器50を外方部材および内方部材へ組み付ける際(すなわち、軸受として組み立てる際)、各欠損部38a,38bへ位置決め用部材(例えば、位置決めピンなど(図示しない))を挿入することで、割れ部32(欠損部38a,38b)の拡縮を抑制させ、保持器50を拡径や縮径させることなく一定の径寸法(定常径寸法)に維持した状態とすることができる。この結果、保持器50の形態が安定し、各ポケット10へ挿入させるころの周方向への位相合わせが容易となるとともに、保持器50を外方部材および内方部材へ組み付ける際の位置決めも容易となり、軸受の組み立ての自動化を図りやすい。なお、各欠損部38a,38bへ挿入した位置決め用部材は、外方部材及び内方部材への組み付け完了後に抜き取ればよい。
また、欠損部38a,38bをこのような構成とすることで、これら欠損部38a,38bの分だけ、上述した第3実施形態(図4および図5)や第4実施形態(図6および図7)よりも保持器50の軽量化を図ることが可能となる。
【0045】
ここで、上述した第3実施形態(図4および図5)、第4実施形態(図6および図7)および第5実施形態(図8)においては、いずれも一対のリム部34a,34bの欠損部38a,38bを挟んで対向する周方向両端部は、その軸方向端面38tが対向する周方向端部へ向かうに従って互いに前傾するテーパ状をなしている。なお、これらのテーパ状をなす軸方向端面38tの周方向に対する長さや径方向に対する幅、傾斜角度などは、保持器30,40,50の大きさ(径寸法)や肉厚、軸受が組み付けられる相手側部材における軸受回転案内部位の形態などに応じて任意に設定すればよい。
このように、軸方向端面38tをテーパ状とすることで、保持器30,40,50と前記軸受回転案内部位との接触位置によらず、軸方向ずれに対する当該保持器30,40,50の回転拘束を回避することができる。
【0046】
なお、一対のリム部34a,34bには、一方のリム部においてその欠損部38a,38bを挟んで対向する周方向両端部のうちの一端部と、他方のリム部においてその欠損部38a,38bを挟んで対向する周方向両端部のうち、前記一端部と周方向に対して反対側の端部とを相互に連結する伸縮自在な弾性連結部を設けてもよい。あるいは、前記一方のリム部においてその欠損部38a,38bを挟んで対向する周方向両端部のうちの一端部と、前記他方のリム部においてその欠損部38a,38bを挟んで対向する周方向両端部のうち、前記一端部と周方向に対して同一側の端部とを相互に連結する伸縮自在な弾性連結部を設けることも可能である。この場合、かかる弾性連結部は、上述した第3実施形態(図4および図5)、第4実施形態(図6および図7)および第5実施形態(図8)における係止機構(凹部12および凸部14)に代えて、各保持器に対して設ければよい。したがって、かかる弾性連結部は、径方向に対して重畳する構造をなすように、保持器の外径側および内径側に対してそれぞれ設ければよい。
図9から図16には、このような弾性連結部を設けた保持器の構成例を示しており、図9から図12に示す構成例を本発明の第6実施形態、図13から図16に示す構成例を本発明の第7実施形態として、以下それぞれ説明する。なお、これらの第6実施形態(図9から図12)、および第7実施形態(図13から図16)においては、係止機構に代えて弾性連結部が設けられているが、それ以外の部材は、上述した第3実施形態(図4および図5)と同様の構成としている(これと同一もしくは類似する構成部材については、図面上で同一符号を付する)。
【0047】
第6実施形態においては、図9から図12に示すように、一対のリム部34a,34bには、一方のリム部(一例として、リム部34a)においてその欠損部38aを挟んで対向する周方向両端部のうちの一端部と、他方のリム部(同、リム部34b)においてその欠損部38bを挟んで対向する周方向両端部のうちの他端部とを相互に連結する伸縮自在な弾性連結部16a,16bが設けられている。
【0048】
具体的には、保持器60の外径側においては、リム部34aの欠損部38aを挟んで対向する周方向両端部のうちの一端部(図11において、欠損部38aに対して上側の周方向端部)とリム部34bの欠損部38bを挟んで対向する周方向両端部のうちの他端部(同図において、欠損部38bに対して下側の周方向端部)とを弾性連結部16aが相互に連結している(図9参照)。すなわち、弾性連結部16aは、欠損部近接柱部62とリム部34aとの連結部分(欠損部近接柱部62のリム部34a側の根元部分)から、欠損部近接柱部64とリム部34bとの連結部分(欠損部近接柱部64のリム部34b側の根元部分)までに亘って、割れ部32へたすき状に架け渡され(図11においては、左下がり(右上がり))、当該割れ部32を二分している(図9参照)。
一方、保持器60の内径側においては、リム部34aの欠損部38aを挟んで対向する周方向両端部のうちの一端部(図11において、欠損部38aに対して下側の周方向端部)とリム部34bの欠損部38bを挟んで対向する周方向両端部のうちの他端部(同図において、欠損部38bに対して上側の周方向端部)とを弾性連結部16bが相互に連結している(図10参照)。すなわち、弾性連結部16bは、欠損部近接柱部64とリム部34aとの連結部分(欠損部近接柱部64のリム部34a側の根元部分)から、欠損部近接柱部62とリム部34bとの連結部分(欠損部近接柱部62のリム部34b側の根元部分)までに亘って、割れ部32へたすき状に架け渡され(図11においては、左上がり(右下がり))、当該割れ部32を二分している(図10参照)。
【0049】
このように、弾性連結部16a,16bは、外径側の弾性連結部16aと内径側の弾性連結部16bとが交差(クロス)して重なるように、割れ部32へそれぞれたすき状に架け渡され、当該割れ部32を二分する二重構造をなす。ただし、弾性連結部16bに相当する弾性連結部を外径側に設けるとともに、弾性連結部16aに相当する弾性連結部を内径側に設けて、これらを交差して重畳させた構成とすることも可能である(本実施形態とは、外内径側における弾性連結部の交差状態が逆の構成)。
なお、図9から図12には、外径側の弾性連結部16aおよび内径側の弾性連結部16bを保持器60の肉厚(外内径寸法差)のそれぞれ略半分の肉厚で等分するように重畳させた構成を一例として示している。ただし、外径側の弾性連結部16aおよび内径側の弾性連結部16bのいずれか一方が他方よりも厚肉となるように、保持器60の肉厚を二分して重畳させた構成とすることも可能である。
【0050】
また、図9から図12に示す構成においては、割れ部32を二分するように、当該割れ部32へ弾性連結部16a,16bをそれぞれたすき状に架け渡し、外径側の弾性連結部16aと内径側の弾性連結部16bとを交差して重畳させた構成としているが、弾性連結部16a,16bの重畳構造はこれに限定されない。
例えば、図13から図16に示す第7実施形態においては、一対のリム部34a,34bには、一方のリム部(一例として、リム部34a)においてその欠損部38aを挟んで対向する周方向両端部のうちの一端部と、他方のリム部(同、リム部34b)においてその欠損部38bを挟んで対向する周方向両端部のうちの一端部(前記一端部と周方向に対して同一側の端部)とを相互に連結する伸縮自在な弾性連結部16c,16dが設けられている。
【0051】
具体的には、保持器70の外径側においては、リム部34bの欠損部38bを挟んで対向する周方向両端部のうちの一端部(図15において、欠損部38bに対して上側の周方向端部)とリム部34bの欠損部38bを挟んで対向する周方向両端部のうちの他端部(同図において、欠損部38bに対して下側の周方向端部)とを弾性連結部16cが相互に連結している(図13参照)。すなわち、弾性連結部16cは、欠損部近接柱部62とリム部34bとの連結部分(欠損部近接柱部62のリム部34b側の根元部分)から欠損部38a(リム部34a側)へ向けて延出した後に折り返し、欠損部近接柱部64とリム部34bとの連結部分(欠損部近接柱部64のリム部34b側の根元部分)までに亘って、割れ部32へ略V字状に架け渡され(図15においては、右側に90度倒れたV字状)、当該割れ部32を二分している(図13参照)。
一方、保持器70の内径側においては、リム部34aの欠損部38aを挟んで対向する周方向両端部のうちの一端部(図15において、欠損部38aに対して上側の周方向端部)とリム部34aの欠損部38aを挟んで対向する周方向両端部のうちの他端部(同図において、欠損部38aに対して下側の周方向端部)とを弾性連結部16dが相互に連結している(図14参照)。すなわち、弾性連結部16dは、欠損部近接柱部62とリム部34aとの連結部分(欠損部近接柱部62のリム部34a側の根元部分)から欠損部38b(リム部34b側)へ向けて延出した後に折り返し、欠損部近接柱部64とリム部34aとの連結部分(欠損部近接柱部64のリム部34a側の根元部分)までに亘って、割れ部32へ略V字状に架け渡され(図15においては、左側に90度倒れたV字状)、当該割れ部32を二分している(図14参照)。
【0052】
このように、弾性連結部16c,16dは、外径側の弾性連結部16cと内径側の弾性連結部16dとが交差(クロス)して重なるように、割れ部32へそれぞれ略V字状に架け渡され、当該割れ部32を二分する二重構造をなす。ただし、弾性連結部16dに相当する弾性連結部を外径側に設けるとともに、弾性連結部16cに相当する弾性連結部を内径側に設けて、これらを交差して重畳させた構成とすることも可能である(本実施形態とは、外内径側における弾性連結部の交差状態(換言すれば、V字の倒れる向き)が逆の構成)。
なお、図13から図16には、外径側の弾性連結部16cおよび内径側の弾性連結部16dを保持器70の肉厚(外内径寸法差)のそれぞれ略半分の肉厚で等分するように重畳させた構成を一例として示している。ただし、外径側の弾性連結部16cおよび内径側の弾性連結部16dのいずれか一方が他方よりも厚肉となるように、保持器70の肉厚を二分して重畳させた構成とすることも可能である。
【0053】
図9から図12に示す第6実施形態、および図13から図16に示す第7実施形態のように、リム部34a,34bの間を弾性連結部16a,16b,16c,16dで連結することで、保持器60,70に対して割れ部32(端的にはリム部34a,34bの欠損部38a,38b)を拡張させる方向へ力が加わると、弾性連結部16a,16b,16c,16dが周方向の双方(割れ部32の拡張方向)へ弾性変形し、当該弾性連結部16a,16b,16c,16dが伸長される。この結果、割れ部32(欠損部38a,38b)を拡張させること、すなわち、保持器60,70を拡径させることができる。また、割れ部32(端的にはリム部34a,34bの欠損部38a,38b)を縮小させる方向へ保持器60,70に対して力が加わると、弾性連結部16a,16b,16c,16dが上記割れ部32の拡張時とは周方向に対して逆方向へ弾性変形されて伸長し、割れ部32をつぶす。この結果、割れ部32(欠損部38a,38b)を縮小させること、すなわち、保持器60,70を縮径させることができる。
そして、保持器60,70に対して作用させていた所定の力(割れ部32(欠損部38a,38b)の拡張方向もしくは縮小方向への力)を解除すると、弾性連結部16a,16b,16c,16dが弾性復元力によりもとの状態まで戻され、保持器60,70の割れ部32(欠損部38a,38b)、換言すれば、保持器60,70の径寸法をもとの状態まで戻すことが可能となる。なお、保持器60,70は、弾性連結部16a,16b,16c,16dの伸長量の限度内において拡径され、その限度を超えて過度に拡径されることはなく、一対のリム部34a,34bの欠損部38a,38bを挟んで対向する周方向両端部が接触されるまでの範囲内において縮径され、その接触範囲を超えて過度に縮径されることはない。
【0054】
このように、弾性連結部16a,16b,16c,16dは、いわゆるバネの役目を果たして保持器60,70の径寸法を所定範囲内において自由に拡大、および縮小させている(いわゆるバネ付きの保持器構成)。これにより、例えば、保持器60,70が組み込まれた軸受がギアと一体回転し、その際に生じる遠心力によって保持器60,70を径方向へ拡げる(拡径させる)一方で、低回転時(減速時)には当該保持器60,70をもとの状態までスムーズに戻す(縮径させる)ことで、ポケット面ところの周面(転動面)との接触位置を変動調整させることができ、かかる保持器60,70に対するフレッチングなどの損傷の発生を有効に防止することが可能となる。また、保持器60,70が組み込まれた軸受に対して非常に大きな荷重(例えば、ラジアル荷重)が負荷された場合であっても、当該保持器60,70を柔軟に拡径あるいは縮径させることでポケット面ところの周面との接触位置を変動調整させ、負荷荷重を効率的に逃がすことが可能となる。したがって、保持器60,70の耐久性(一例として、耐フレッチング性)の向上を図ることが可能となる。
【0055】
なお、第6実施形態(図9から図12)においては、弾性連結部16a,16bを外径側と内径側で交差して重なる二重構造(すなわち、交差するたすき状の二重バネ構造)としているため、たすき状の単一バネ構造とした場合のように、保持器60の径寸法の拡大時や縮小時に、一対のリム部34a,34bの欠損部38a,38bを挟んで対向する周方向両端部が軸方向へずれてしまうこと(つまり、保持器60の軸方向ずれ)を有効に抑制することができる。また、保持器60の成形時における冷えムラによる軸方向端面の傾きも抑制することができる。
また、第7実施形態(図13から図16)においては、弾性連結部16c,16dを外径側と内径側で交差して重なる二重構造(すなわち、交差する略V字状の二重バネ構造)としているため、バネ弾性力によるモーメントを相殺させることができ、V字状の単一バネ構造とした場合のように、バネ弾性力によるモーメントにより保持器70の軸方向端面同士が傾くことを有効に抑制させることができ、安定した軸方向端面姿勢を確保することができる。また、保持器70の成形時における冷えムラによる軸方向端面の傾きも併せて抑制することができる。
【0056】
本発明に係る保持器において、一対のリム部は、いずれも複数の略円弧状の分割体を略円環状に組み付けた構成(非連続の欠円環状)としても構わない。
図17には、本発明の第8実施形態に係る保持器80の構成を示しており、この場合、一対のリム部80a,80bを、いずれも2つの略円弧状の分割体82a,84a,82b,84bからなる二分割構造としている。なお、本実施形態に係る保持器80は、一対のリム部80a,80b、より具体的には、その分割体82a,84a,82b,84bに対してほぼ均等に縮径部および拡径部を配するとともに、各リム部80a,80b(各分割体82a,84a,82b,84b)の外径側および内径側に対してもほぼ均等に縮径部および拡径部を配した構成となっており、その基本的な保持器構成は、上述した第1実施形態(図1および図2)および第3実施形態(図4および図5)に係る保持器2,30と共通している(これらと同一もしくは類似する部材については図面上で同一符号を付する)。
図17に示すように、一対のリム部82,84は、いずれも2つの略円弧状の分割体82a,84a,82b,84bからなる二分割構造をなし、各リム部80a,80b(各分割体82a,84a,82b,84b)の欠損部86a,88a,86b,88bが周方向に対して同一の位相をなした状態(周方向に対する欠損部86a,86bおよび欠損部88a,88bの位置が一致している状態)で、軸方向に対して同心上に所定間隔を空けて対向配置されている。すなわち、保持器80は、周方向に対して二つの割れ部32m,32nを有する外観形状が略円筒状をなす(いわゆる二つ割れの保持器構造)。その際、リム部80a(分割体82a,84a)とリム部80b(分割体82b,84b)の径寸法や軸方向に対する対向間隔は、軸受のサイズなどに応じて任意に設定すればよい。
【0057】
なお、一対のリム部80a,80b(分割体82a,84a,82b,84b)がその外径側に柱部6の外周部よりも径方向に対して凹状に窪んでなる複数の縮径部42a,42bを有するとともに、その内径側に柱部6の内周部よりも径方向に対して凹状に窪んでなる複数の拡径部44a,44bを複数の縮径部42a,42bとは周方向に対して異なる位相で有することは、上述した第1実施形態(図1および図2)および第3実施形態(図4および図5)と同様である。すなわち、一対のリム部80a,80b(分割体82a,84a,82b,84b)は、その外径側が縮径部42a,42bと柱部6の外周部により凹凸状をなして連続する(最大外径を柱部6の外周部として外径寸法が拡縮する)とともに、その内径側が拡径部44a,44bと柱部6の内周部により凹凸状をなして連続する(最小内径を柱部6の内周部として内径寸法が拡縮する)ように構成されている。
また、複数の縮径部42a,42bを各縮径部42a,42bの周方向に対する位相が一対のリム部80a,80bの一方(一例として、リム部80a(分割体82a,84a))と他方(同、リム部80b(分割体82b,84b))で異なるように、双方のリム部80a,80bに対してそれぞれ所定間隔で配し、複数の拡径部44a,44bを各拡径部44a,44bの周方向に対する位相が一対のリム部80a,80bの一方(一例として、リム部80a(分割体82a,84a))と他方(同、リム部80b(分割体82b,84b))で異なるように、双方のリム部80a,80bに対してそれぞれ所定間隔で配していることも、上述した第1実施形態(図1および図2)および第3実施形態(図4および図5)と同様である。一例として、本実施形態においては、図17に示すように、これらの縮径部42a,42bおよび拡径部44a,44bを上述した第1実施形態(図1および図2)と同様となるように、一対のリム部80a,80b(分割体82a,84a,82b,84b)に対して配した構成としている。すなわち、各リム部80a,80bにおいて、複数の縮径部42a,42bをそれぞれ周方向に対してポケット10と同一の位相で、かつ、当該ポケット10の一つおきに縮径部42a,42bが一つずつ並ぶように一定間隔で配するとともに、複数の拡径部44a,44bをそれぞれ周方向に対してポケット10と同一の位相で、かつ、当該ポケット10の一つおきに拡径部44a,44bが一つずつ並ぶように一定間隔で配している。
【0058】
ただし、複数の縮径部42a,42bおよび複数の拡径部44a,44bを上述した第2実施形態(図3)と同様となるように、一対のリム部80a,80b(分割体82a,84a,82b,84b)に対して配した構成、すなわち、各リム部80a,80bにおいて、複数の縮径部42a,42bをそれぞれ周方向に対してポケット10と同一の位相で、かつ、当該ポケット10の二つおきに縮径部42a,42bが二つずつ並ぶように一定間隔で配するとともに、複数の拡径部44a,44bをそれぞれ周方向に対してポケット10と同一の位相で、かつ、当該ポケット10の二つおきに拡径部44a,44bが二つずつ並ぶように一定間隔で配した構成とすることも可能である。
これらは、保持器80におけるポケット10の数(つまり保持可能なころの個数)に応じて任意に設定すればよく、同数の縮径部42a,42を同数ずつ異なる間隔で配した構成、同数の縮径部42a,42を異なる数ずつ一定間隔で配した構成、異なる数の縮径部42a,42を同数もしくは異なる数ずつ一定間隔もしくは異なる間隔で配した構成とすることも想定可能であり(拡径部44a,44bについても同様)、一方のリム部80a(分割体82a,84a)の縮径部42aの数と他方のリム部80b(分割体82b,84b)の縮径部42bの数、および一方のリム部80a(分割体82a,84a)の拡径部44aの数と他方のリム部80b(分割体82b,84b)の拡径部44bの数をそれぞれ相違させることも可能であることは、上述した第1実施形態(図1および図2)および第2実施形態(図3)と同様である。
【0059】
複数の柱部6は、一対のリム部80a,80b(分割体82a,84a,82b,84b)を軸方向に連結するとともに当該リム部80a,80b間の領域を当該リム部80a,80bの周方向に隔て、転動体であるころ(ニードル(図示しない))を挿入して回転自在に保持するためのポケット10を形成している。すなわち、保持器80は、周方向に隣り合う二つの柱部6、及び一対のリム部80a,80b(分割体82a,84a,82b,84b)で囲まれた空間に一つのポケット10が形成され、これら柱部6とポケット10が周方向へ交互に配された構造となる。ただし、各リム部80a,80bの欠損部86a,88a,86b,88bに対して周方向の両側に近接して配された四つの柱部6(以下、欠損部近接柱部62m,64m,62n,64nという)によって隔てられるリム部80a,80b間(分割体82a,84a間および分割体82b,84b間)の領域には、割れ部32m,32nが存在し、ポケット10は形成されない。したがって、保持器80は、かかる領域(つまり割れ部32m,32n)に限ってころが欠落する構造、すなわち、当該領域以外は各ポケット10に一つずつころが挿入され、これらのころが周方向に対して等間隔(均一ピッチ)で配される構造をなす。
なお、柱部6により形成するポケット10の大きさは、ころの径寸法及び長さに応じ、ポケット10において当該ころを回転自在に保持可能となるように設定すればよく、ポケット10の数(別の捉え方をすれば、柱部6の数)は、保持器80の容量(保持させるころの個数)に合わせて任意に設定すればよい(上述した第1実施形態(図1および図2)、第3実施形態(図4および図5)と同様)。
【0060】
このように、一対のリム部80a,80b(分割体82a,84a,82b,84b)にそれぞれ二箇所ずつ欠損部86a,88a,86b,88bを形成し、保持器80が周方向に対して二つの割れ部32m,32nを有する構造(いわゆる二つ割れの保持器構造)とすることで、保持器80の径寸法を自由に拡縮させることができ、各種大きさの段部や鍔部などを有する内方部材などに対して保持器80を容易に組み付けることができることは、上述した第3実施形態(図4および図5)と同様である。
【0061】
以上、本発明の第1実施形態から第8実施形態(図1から図17)によれば、アキシャルドロー成形保持器でありながら、軸方向両側の端面(換言すれば、一対のリム部4a,4b,34a,34b,80a,80b)、および各端面(同、リム部4a,4b,34a,34b,80a,80b)における外内径両側においてほぼ均等に軸受を回転案内するための案内面を設けることで、軸受が組み付けられる相手側部材における保持器端面の支持部(案内部)が十分に確保されていない場合であっても、当該相手側部材に対する軸受(端的には、保持器2,20,30,40,50,60,70,80)の組み付け方向の制約を受けることなく、軸方向両端面(つまり、一対のリム部4a,4b,34a,34b,80a,80b)をほぼ均等(等面積)の連続面で相手側部材の支持部と接触させることができる。この結果、従来のような不連続面と比較してより広い面域で軸受を回転案内可能で、耐摩耗性に優れたラジアルころ軸受用保持器2,20,30,40,50,60,70,80を実現することができる。
【符号の説明】
【0062】
4a,4b リム部
6 柱部
10 ポケット
42a,42b 縮径部
44a,44b 拡径部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に対して同心上に所定間隔を空けて対向する一対の略円環状のリム部と、これらのリム部を連結するとともに、当該リム部間の空間領域を周方向に隔て、転動体であるころを挿入して回転自在に保持するためのポケットを形成する複数の柱部とを備え、
前記一対のリム部は、その外径側に前記柱部の外周部よりも径方向に対して凹状に窪んでなる複数の縮径部を有するとともに、その内径側に前記柱部の内周部よりも径方向に対して凹状に窪んでなる複数の拡径部を前記複数の縮径部とは周方向に対して異なる位相で有し、
前記複数の縮径部は、各縮径部の周方向に対する位相が前記一対のリム部の一方と他方で異なるように、双方のリム部に対してそれぞれ所定間隔で配され、
前記複数の拡径部は、各拡径部の周方向に対する位相が前記一対のリム部の一方と他方で異なるように、双方のリム部に対してそれぞれ所定間隔で配されていることを特徴とするラジアルころ軸受用保持器。
【請求項2】
各リム部において、前記複数の縮径部および前記複数の拡径部は、周方向に対して前記ポケットと同一の位相で、かつ、当該ポケットの一つおきもしくは複数おきに配されていることを特徴とする請求項1に記載のラジアルころ軸受用保持器。
【請求項3】
前記複数の縮径部は、各縮径部が周方向に対して一定間隔で配されているとともに、
前記複数の拡径部は、各拡径部が周方向に対して一定間隔で配されていることを特徴とする請求項2に記載のラジアルころ軸受用保持器。
【請求項4】
前記複数の縮径部および前記複数の拡径部は、周方向に対して異なる間隔で配されていることを特徴とする請求項2に記載のラジアルころ軸受用保持器。
【請求項5】
前記一対のリム部は、それぞれ一箇所ずつ欠損部を有する非連続の欠円環状をなし、各リム部の欠損部が周方向に対して同一の位相をなした状態、もしくは異なる位相をなした状態で、軸方向に対して同心上に所定間隔を空けて対向配置されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のラジアルころ軸受用保持器。
【請求項6】
前記一対のリム部には、一方のリム部においてその欠損部を挟んで対向する周方向両端部のうちの一端部と、他方のリム部においてその欠損部を挟んで対向する周方向両端部のうち、前記一端部と周方向に対して反対側の端部とを相互に連結する伸縮自在な弾性連結部が設けられていることを特徴とする請求項5に記載のラジアルころ軸受用保持器。
【請求項7】
前記一対のリム部には、一方のリム部においてその欠損部を挟んで対向する周方向両端部のうちの一端部と、他方のリム部においてその欠損部を挟んで対向する周方向両端部のうち、前記一端部と周方向に対して同一側の端部とを相互に連結する伸縮自在な弾性連結部が設けられていることを特徴とする請求項5に記載のラジアルころ軸受用保持器。
【請求項8】
前記弾性連結部は、径方向に対して重畳する構造をなしていることを特徴とする請求項6または7に記載のラジアルころ軸受用保持器。
【請求項9】
前記欠損部を拡張させることで前記一対のリム部が拡径可能であるとともに、前記欠損部の拡張を防止することで前記一対のリム部を一定の径寸法に維持可能な係止機構が備えられていることを特徴とする請求項5から8のいずれかに記載のラジアルころ軸受用保持器。
【請求項10】
前記係止機構は、径方向に対して重畳する構造をなしていることを特徴とする請求項9に記載のラジアルころ軸受用保持器。
【請求項11】
前記係止機構として、相互に嵌合可能な凸部および凹部が備えられていることを特徴とする請求項9また10に記載のラジアルころ軸受用保持器。
【請求項12】
前記凸部および前記凹部は、前記一対のリム部およびこれらリム部の欠損部に近接して周方向に対向する二つの柱部に配設されており、
前記凸部は、第1の凸部と第2の凸部からなるとともに、前記凹部は、前記第1の凸部と嵌合可能な第1の凹部と前記第2の凸部と嵌合可能な第2の凹部からなり、
前記第1の凸部は、前記一対のリム部のうちの一方のリム部、および当該一方のリム部と連続する前記二つの柱部のうちの一方の柱部の軸方向に対して前記一方のリム部側の端部から前記第1の凹部へ向けて突出し、当該第1の凹部は、前記一方のリム部、および前記二つの柱部のうちの他方の柱部の軸方向に対して前記一方のリム部側の端部に形成され、
前記第2の凸部は、前記一対のリム部のうちの他方のリム部、および前記二つの柱部のうちの他方の柱部の軸方向に対して前記他方のリム部側の端部から前記第2の凹部へ向けて突出し、当該第2の凹部は、前記他方のリム部、および前記一方の柱部の軸方向に対して前記他方のリム部側の端部に形成されていることを特徴とする請求項11に記載のラジアルころ軸受用保持器。
【請求項13】
前記凸部および前記凹部は、前記一対のリム部の欠損部に近接して周方向に対向する二つの柱部のみに配設されており、
前記凸部は、第1の凸部と第2の凸部からなるとともに、前記凹部は、前記第1の凸部と嵌合可能な第1の凹部と前記第2の凸部と嵌合可能な第2の凹部からなり、
前記第1の凸部は、前記二つの柱部のうちの一方の柱部の軸方向の一端部から前記第1の凹部へ向けて突出し、当該第1の凹部は、前記二つの柱部のうちの他方の柱部の軸方向に対して前記一端部と同一側の端部に形成され、
前記第2の凸部は、前記二つの柱部のうちの他方の柱部の軸方向の他端部から前記第2の凹部へ向けて突出し、当該第2の凹部は、前記一方の柱部の軸方向に対して前記他端部と同一側の端部に形成されていることを特徴とする請求項11に記載のラジアルころ軸受用保持器。
【請求項14】
前記第1の凸部および前記第1の凹部と、前記第2の凸部および前記第2の凹部とは、軸方向に対して略同一の幅で均等配設、もしくは軸方向に対して異なる幅でオフセット配設されていることを特徴とする請求項12または13に記載のラジアルころ軸受用保持器。
【請求項15】
前記一対のリム部の欠損部を挟んで対向する周方向両端部は、その軸方向端面が対向する周方向端部へ向かうに従って互いに前傾するテーパ状をなしていることを特徴とする請求項5から14のいずれかに記載のラジアルころ軸受用保持器。
【請求項16】
前記一対のリム部は、いずれも複数の略円弧状の分割体を略円環状に組み付けてなることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のラジアルころ軸受用保持器。
【請求項1】
軸方向に対して同心上に所定間隔を空けて対向する一対の略円環状のリム部と、これらのリム部を連結するとともに、当該リム部間の空間領域を周方向に隔て、転動体であるころを挿入して回転自在に保持するためのポケットを形成する複数の柱部とを備え、
前記一対のリム部は、その外径側に前記柱部の外周部よりも径方向に対して凹状に窪んでなる複数の縮径部を有するとともに、その内径側に前記柱部の内周部よりも径方向に対して凹状に窪んでなる複数の拡径部を前記複数の縮径部とは周方向に対して異なる位相で有し、
前記複数の縮径部は、各縮径部の周方向に対する位相が前記一対のリム部の一方と他方で異なるように、双方のリム部に対してそれぞれ所定間隔で配され、
前記複数の拡径部は、各拡径部の周方向に対する位相が前記一対のリム部の一方と他方で異なるように、双方のリム部に対してそれぞれ所定間隔で配されていることを特徴とするラジアルころ軸受用保持器。
【請求項2】
各リム部において、前記複数の縮径部および前記複数の拡径部は、周方向に対して前記ポケットと同一の位相で、かつ、当該ポケットの一つおきもしくは複数おきに配されていることを特徴とする請求項1に記載のラジアルころ軸受用保持器。
【請求項3】
前記複数の縮径部は、各縮径部が周方向に対して一定間隔で配されているとともに、
前記複数の拡径部は、各拡径部が周方向に対して一定間隔で配されていることを特徴とする請求項2に記載のラジアルころ軸受用保持器。
【請求項4】
前記複数の縮径部および前記複数の拡径部は、周方向に対して異なる間隔で配されていることを特徴とする請求項2に記載のラジアルころ軸受用保持器。
【請求項5】
前記一対のリム部は、それぞれ一箇所ずつ欠損部を有する非連続の欠円環状をなし、各リム部の欠損部が周方向に対して同一の位相をなした状態、もしくは異なる位相をなした状態で、軸方向に対して同心上に所定間隔を空けて対向配置されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のラジアルころ軸受用保持器。
【請求項6】
前記一対のリム部には、一方のリム部においてその欠損部を挟んで対向する周方向両端部のうちの一端部と、他方のリム部においてその欠損部を挟んで対向する周方向両端部のうち、前記一端部と周方向に対して反対側の端部とを相互に連結する伸縮自在な弾性連結部が設けられていることを特徴とする請求項5に記載のラジアルころ軸受用保持器。
【請求項7】
前記一対のリム部には、一方のリム部においてその欠損部を挟んで対向する周方向両端部のうちの一端部と、他方のリム部においてその欠損部を挟んで対向する周方向両端部のうち、前記一端部と周方向に対して同一側の端部とを相互に連結する伸縮自在な弾性連結部が設けられていることを特徴とする請求項5に記載のラジアルころ軸受用保持器。
【請求項8】
前記弾性連結部は、径方向に対して重畳する構造をなしていることを特徴とする請求項6または7に記載のラジアルころ軸受用保持器。
【請求項9】
前記欠損部を拡張させることで前記一対のリム部が拡径可能であるとともに、前記欠損部の拡張を防止することで前記一対のリム部を一定の径寸法に維持可能な係止機構が備えられていることを特徴とする請求項5から8のいずれかに記載のラジアルころ軸受用保持器。
【請求項10】
前記係止機構は、径方向に対して重畳する構造をなしていることを特徴とする請求項9に記載のラジアルころ軸受用保持器。
【請求項11】
前記係止機構として、相互に嵌合可能な凸部および凹部が備えられていることを特徴とする請求項9また10に記載のラジアルころ軸受用保持器。
【請求項12】
前記凸部および前記凹部は、前記一対のリム部およびこれらリム部の欠損部に近接して周方向に対向する二つの柱部に配設されており、
前記凸部は、第1の凸部と第2の凸部からなるとともに、前記凹部は、前記第1の凸部と嵌合可能な第1の凹部と前記第2の凸部と嵌合可能な第2の凹部からなり、
前記第1の凸部は、前記一対のリム部のうちの一方のリム部、および当該一方のリム部と連続する前記二つの柱部のうちの一方の柱部の軸方向に対して前記一方のリム部側の端部から前記第1の凹部へ向けて突出し、当該第1の凹部は、前記一方のリム部、および前記二つの柱部のうちの他方の柱部の軸方向に対して前記一方のリム部側の端部に形成され、
前記第2の凸部は、前記一対のリム部のうちの他方のリム部、および前記二つの柱部のうちの他方の柱部の軸方向に対して前記他方のリム部側の端部から前記第2の凹部へ向けて突出し、当該第2の凹部は、前記他方のリム部、および前記一方の柱部の軸方向に対して前記他方のリム部側の端部に形成されていることを特徴とする請求項11に記載のラジアルころ軸受用保持器。
【請求項13】
前記凸部および前記凹部は、前記一対のリム部の欠損部に近接して周方向に対向する二つの柱部のみに配設されており、
前記凸部は、第1の凸部と第2の凸部からなるとともに、前記凹部は、前記第1の凸部と嵌合可能な第1の凹部と前記第2の凸部と嵌合可能な第2の凹部からなり、
前記第1の凸部は、前記二つの柱部のうちの一方の柱部の軸方向の一端部から前記第1の凹部へ向けて突出し、当該第1の凹部は、前記二つの柱部のうちの他方の柱部の軸方向に対して前記一端部と同一側の端部に形成され、
前記第2の凸部は、前記二つの柱部のうちの他方の柱部の軸方向の他端部から前記第2の凹部へ向けて突出し、当該第2の凹部は、前記一方の柱部の軸方向に対して前記他端部と同一側の端部に形成されていることを特徴とする請求項11に記載のラジアルころ軸受用保持器。
【請求項14】
前記第1の凸部および前記第1の凹部と、前記第2の凸部および前記第2の凹部とは、軸方向に対して略同一の幅で均等配設、もしくは軸方向に対して異なる幅でオフセット配設されていることを特徴とする請求項12または13に記載のラジアルころ軸受用保持器。
【請求項15】
前記一対のリム部の欠損部を挟んで対向する周方向両端部は、その軸方向端面が対向する周方向端部へ向かうに従って互いに前傾するテーパ状をなしていることを特徴とする請求項5から14のいずれかに記載のラジアルころ軸受用保持器。
【請求項16】
前記一対のリム部は、いずれも複数の略円弧状の分割体を略円環状に組み付けてなることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のラジアルころ軸受用保持器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2013−87833(P2013−87833A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−227776(P2011−227776)
【出願日】平成23年10月17日(2011.10.17)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月17日(2011.10.17)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】
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