説明

ラジカル硬化型接着剤組成物

【課題】空気による硬化不良を起こし難く、硬化後にアクリル臭が残りがたい、種々被着体を強靱な接着力で接合するラジカル硬化型接着剤組成物を提供する。
【解決手段】クロロスルホン化ポリエチレン5〜30重量%、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート60〜95重量%(ただし、クロロスルホン化ポリエチレンとジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレートの合計は、100重量%である)を含むラジカル硬化型接着剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラジカル硬化型接着剤組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
“にかわ”等で知られているとおり、接着剤は、太古の昔から身近な存在である。接着剤は、ポリ酢酸ビニル接着剤やゴム糊などのように、溶媒が蒸発することで接着機能を発揮するものから、エポキシ樹脂接着剤のように主剤と硬化剤を混合し、加熱等により三次元架橋を起こさせてより強靱な接着力や耐熱性、耐薬品性を発揮するものもある。
【0003】
近年、接着をより低温短時間で行おうとする試みがなされている。この接着剤は、レドックス系の重合開始剤を用いるラジカル硬化型接着剤であり、第二世代接着剤(SGA)として広く知られる。
【0004】
SGAは、通常、塩素化ポリエチレンなどのゴム高分子をメタクリル酸メチルなどのアクリル単量体に分散または溶解し、さらにエチレングリコールジメタクリレートなどの架橋性モノマーを加え、レドックス重合開始剤で硬化される。レドックス重合開始剤は、例えば、過酸化ベンゾイル/N,N−ジメチル−p−トルイジンなどの有機過酸化物(酸化剤)とアミン化合物(還元剤)との組み合わせ、クメンヒドロペルオキシド/オクチル酸コバルトなどのヒドロペルオキシド化合物(酸化剤)と金属石鹸(還元剤)との組み合わせなどがよく知られており、一般に室温〜100℃でラジカル硬化反応を開始する硬化系として知られている。
【0005】
SGAは、低温短時間硬化で、比較的良好な接着強度を示すことから航空機などに使用する構造接着剤として広く認知されている。欠点としては、アクリル単量体特有の悪臭が強いこと、硬化時の収縮が大きいこと、発熱量が大きくプラスチックなどに適用した場合ひけ等の影響で表面に欠陥が出やすいこと、酸素による硬化阻害の影響を受けやすく時として硬化が不十分となり接着不良を起こす場合があることなど、および炭素繊維複合材料、アルミニウム合金、チタン合金などの構造物の軽量化を図る主要材料の接着が弱く、界面剥離を起こしやすいことが挙げられる。
【0006】
分子中に、−OC(O)C(R)=CHを有するアクリルポリマーとレドックス系重合開始剤とからなる接着剤組成物が示されている(特許文献1参照)。特許文献1で提案されている技術は、アクリル単量体の原子移動ラジカル重合に関するものであり、その応用として接着剤組成物が示されている。
【0007】
特許文献1で提案されている技術に示されているような柔軟なアクリルポリマーはポリエチレン、ポリブタジエン、ポリイソプレン等のゴム弾性を有する高分子に比しポリマーの凝集力が小さい。したがって、柔軟なアクリルポリマーを主成分とする接着剤は、例えば、引張り試験でだらだらと伸張するだけで、応力は小さい。すなわち、接着剤の機械的強度が不足する。
【0008】
特許文献1で提案されている技術の実施例には、接着剤の接着力評価としてよく実施されるアルミニウム合金−アルミニウム合金のシングルラップ接着性試験結果が示されている。実施例に見られるとおり剪断接着力が10MPa(剪断接着力の最大値は6.65MPa)を超えるものはなく、構造接着剤としては、剪断接着力が小さい。
【0009】
過酸化ベンゾイル/アミン系に代わるレドックス硬化系の紹介がなされている(非特許文献1参照)。紹介されている技術は、酸化剤として塩化第一銅(Cu(I)Cl)を用い、還元剤として1,3,5−トリメチルバルビツール酸を用いるものである。この組み合わせでは、酸素による重合阻害を大きく受け、硬化不良を起こしやすい。また、本開始系は硬化性が悪い。
【特許文献1】特開2006−299257号公報
【非特許文献1】平林茂、奈須郁代、原嶋郁郎、平澤忠、「歯科用メタクリルレジンに関する研究;(第9報)加熱重合レジン、ヒートショックレジン、流し込みレジンおよび常温重合レジンの組成について」、歯科材料・器械(Journal of the Japanese Society for Dental Materials and Devices)、Vol13.No.3(19840525),pp338-349
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明のラジカル硬化型接着剤組成物は、低温(80℃以下)、短時間(60分以内)で硬化し、酸素による影響が小さく、硬化物にアクリル特有の悪臭を有さず、アルミニウム合金、チタン合金、鉄、炭素繊維複合材料(CFRP)などの高強度、軽量化をになう次世代素材を、十分な接着力で接合することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、クロロスルホン化ポリエチレン5〜40重量%、下記構造式のジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレートアクリル単量体(A)60〜95重量%(ただし、クロロスルホン化ポリエチレンとジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレートの合計は、100重量%である)
【0012】
【化1】

【0013】
(ここで、R1は、水素原子、または、メチル基を表す。)
を含むラジカル硬化型接着剤組成物。
【発明の効果】
【0014】
本発明のラジカル硬化型接着剤組成物は、アクリル特有の悪臭を有さず、種々被着体を強靱な接着力で接合するものである。
【0015】
本発明のラジカル硬化型接着剤組成物は、鉄−鉄、鉄−アルミニウム、アルミニウム−アルミニウム、鉄−銅、銅−銅、チタン合金−チタン合金、鉄−プラスチック、アルミニウム−プラスチック等の金属−金属間の接着、金属−プラスチック類間の接着、金属−熱硬化性樹脂間の接着、プラスチック−プラスチック間の接着剤として好適である。特に、プラスチックとして難接着性とされるポリフェニレンオキサイド(PPS)、ポリプロピレン(PP)、芳香族系ナイロン(NY)などに好適な接着剤として、強靱な接着力を発揮する。
【0016】
さらに、本発明のラジカル硬化型接着剤組成物は、高張力鋼(High Tensile Steel)間の接着、高張力鋼と炭素繊維やガラス繊維で強化したプラスチック(CFRP、GFRP)間の接着、アルミニウム合金と炭素繊維やガラス繊維で強化したプラスチック(CFRP、GFRP)間の接着でも好適な接着剤として強靱な接着力を発揮する。
【0017】
本発明の接着剤組成物は、機械的強度にも優れ、構造接着剤として必要十分な性能を持つ。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明は、クロロスルホン化ポリエチレン5〜40重量%、下記構造式のジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート60〜95重量%(ただし、クロロスルホン化ポリエチレンとジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレートの合計は、100重量%である)
【0019】
【化2】

【0020】
(ここで、R1は水素原子またはメチル基を表す。)
を含むラジカル硬化型接着剤組成物である。
【0021】
本発明のラジカル硬化型接着剤組成物で使用されるクロロスルホン化ポリエチレンとしては、「TOSO−CSM TS−430」、「TOSO−CSM TS−530」、「TOSO−CSM TS−830」、「TOSO−CSM TS−930」、「TOSO−CSM TS−320」、「TOSO−CSM TS−340」、「TOSO−CSM TS−1500」、「extos ET−8010」、「extos ET−8510」(以上、東ソー(株)の製品)、「Hypalon 20」、「Hypalon 30」、「Hypalon 40s」、「Hypalon 40」、「Hypalon 4085」、「Hypalon 45」、「Hypalon 48」(以上、デュポン・エラストマー(株)の製品)などが例示される。
これらのクロロスルホン化ポリエチレンは単独で使用しても、2種類以上の混合物として使用してもよい。
【0022】
本発明のラジカル硬化型接着剤組成物では、クロロスルホン化ポリエチレンとして、好ましくは、23℃における25重量%トルエン溶液粘度が200〜2000mPa・sのクロロスルホン化ポリエチレンが推奨される。
【0023】
本発明では、23℃における25重量%トルエン溶液粘度は、クロロスルホン化ポリエチレンをトルエン中にクロロスルホン化ポリエチレンの濃度が25重量%となるよう溶解した後、ブルックフィールド型粘度計を用いて、23〜25℃で測定した。
【0024】
本発明のラジカル硬化型接着剤組成物では、クロロスルホン化ポリエチレンの23℃における25重量%トルエン溶液粘度が、好ましくは、200〜2000mPa・s、より好ましくは、300〜2000mPa・s、さらに好ましくは300〜1800mPa・sであることが望ましい。クロロスルホン化ポリエチレンの23℃における25重量%トルエン溶液粘度が200mPa・s未満の場合には、クロロスルホン化ポリエチレンの重合度が小さく、接着剤の強靱性が失われ、脆くなる傾向が見られる。クロロスルホン化ポリエチレンの23℃における25重量%トルエン溶液粘度が2000mPa・sを超える場合には、接着剤の粘度が高くなって貯蔵安定性が悪化する場合が見られる。
【0025】
本発明で好ましく使用される23℃における25重量%トルエン溶液粘度が200〜2000mPa・sのクロロスルホン化ポリエチレンとしては、「TOSO−CSM TS−340」(23℃における25重量%トルエン溶液粘度350mPa・s)、「TOSO−CSM CN−1500」(23℃における25重量%トルエン溶液粘度1400mPa・s)(以上、東ソー(株)の製品)、「Hypalon 20」(23℃における25重量%トルエン溶液粘度1300mPa・s)、「Hypalon 30」(23℃における25重量%トルエン溶液粘度400mPa・s)(以上、デュポン・エラストマー(株)の製品)などが例示される。
【0026】
本発明のラジカル硬化型接着剤組成物では、23℃における25重量%トルエン溶液粘度が200〜2000mPa・sのクロロスルホン化ポリエチレンは、単独で使用しても、2種類以上の混合物として使用してもよい。
【0027】
本発明では、これらのクロロスルホン化ポリエチレンの中では、塩素濃度、引張強さの観点から「TOSO−CSM TS−340」が望ましい。
【0028】
本発明のラジカル硬化型接着剤組成物では、クロロスルホン化ポリエチレンは、クロロスルホン化ポリエチレンとジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレートの合計を、100重量%であるとしたとき、5〜40重量%、好ましくは、5〜35重量%、より好ましくは、8〜35重量%使用される。本発明のラジカル硬化型接着剤組成物では、クロロスルホン化ポリエチレンの使用量が5重量%未満の場合には、接着剤が硬く脆くなって十分な接着力を発揮しなくなる。クロロスルホン化ポリエチレンの使用量が40重量%を超える場合には、接着剤の耐熱性が悪化し、80℃程度の耐熱接着試験でも接着力が半減する場合がある。
【0029】
本発明では、下記構造式のジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレートが
【0030】
【化3】

【0031】
(ここで、R1は水素原子またはメチル基を表す。)
60〜95重量%使用される(ただし、クロロスルホン化ポリエチレンとジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレートの合計は、100重量%である)。
【0032】
ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレートは、例えば、「FANCRYL FA−512A」(ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート)、「FANCRYL FA−512M」(ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレート)(以上、日立化成工業(株)の製品)等が上市されている。これらのジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレートは単独で使用しても、2種類以上の混合物として使用してもよい。本発明のラジカル硬化型接着剤組成物では、メタクリル酸エステルであるジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレートが好適に使用され、酸素による重合阻害の抑制、アクリル臭を低減する上で優れている。
【0033】
本発明のラジカル硬化型接着剤組成物では、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレートは、クロロスルホン化ポリエチレンとジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレートの合計を、100重量%であるとしたとき、60〜95重量%、好ましくは、70〜95重量%、より好ましくは72〜92重量%使用される。本発明では、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレートの使用量が60重量%未満の場合には、接着剤の貯蔵安定性が悪化する。ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレートの使用量が95重量%を超える場合には、接着剤が硬く脆く、接着力が低下する。
【0034】
本発明のラジカル硬化型接着剤組成物では、さらに水酸基含有アクリル単量体をラジカル硬化型接着剤全体の3〜16重量%含むことが好ましい。
【0035】
本発明のラジカル硬化型接着剤組成物で好ましく使用される水酸基含有アクリル単量体としては、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシプロピル、アクリル酸4−ヒドロキシブチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、メタクリル酸4−ヒドロキシブチル等の分子中に水酸基を有するアクリル単量体が例示される。本発明のラジカル硬化型接着剤組成物では、これらの水酸基含有アクリル単量体は単独で使用しても、2種類以上の混合物で使用してもよい。
【0036】
本発明のラジカル硬化型接着剤組成物では、水酸基含有アクリル単量体として、メタクリル酸エステル単量体が好ましく使用され、接着剤の耐薬品性が向上する傾向が見られ、また接着剤が硬化する際の酸素による重合阻害を抑制できる傾向が見られる。
【0037】
本発明のラジカル硬化型接着剤組成物では、水酸基含有アクリル単量体は、金属、ガラス、セラミックスなどの無機物の接着力を向上する傾向が見られる。
【0038】
本発明のラジカル硬化型接着剤組成物では、水酸基含有アクリル単量体は、好ましくは、ラジカル硬化型接着剤全体の3〜16重量%、より好ましくは5〜13重量%、さらにより好ましくは、5〜10重量%使用されるのが望ましい。水酸基含有アクリル単量体の使用量が3〜16重量%のとき接着力と耐水性などの耐薬品性とが良好な性能でバランスがとれ、望ましい。
【0039】
本発明のラジカル硬化型接着剤組成物では、さらにカルボキシル基含有アクリル単量体をラジカル硬化型接着剤全体の0.2〜5重量%含むことが好ましい。
【0040】
本発明のラジカル硬化型接着剤組成物で好ましく使用されるカルボキシル基含有アクリル単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸などが例示される。本発明のラジカル硬化型接着剤組成物では、これらのカルボキシル基含有アクリル単量体は単独で使用しても、2種類以上の混合物として使用してもよい。
【0041】
本発明のラジカル硬化型接着剤組成物では、好ましく使用されるカルボキシル基含有アクリル単量体は接着状態を界面剥離から凝集破壊に改善し、接着力を向上する傾向がある。
【0042】
本発明のラジカル硬化型接着剤組成物で好ましく使用されるカルボキシル基含有アクリル単量体は、好ましくは、ラジカル硬化型接着剤全体の0.2〜5重量%、より好ましくは0.2〜3重量%、さらにより好ましくは0.3〜1.8重量%使用される。本発明のラジカル硬化型接着剤組成物では、カルボキシル基含有アクリル単量体の使用量が0.2〜5重量%のとき接着力と耐水性などの耐薬品性とが良好な性能でバランスがとれ、望ましい。
【0043】
本発明のラジカル硬化型接着剤組成物では、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、水酸基含有アクリル単量体、カルボキシル基含有アクリル単量体以外にも、接着剤のアクリル臭が気にならないレベルで、その他のアクリル単量体、多官能アクリル単量体を使用することができる。
【0044】
本発明で好ましく使用されるアクリル単量体、多官能アクリル単量体としては、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサメタクリレート、アクリル酸イソボルニル、メタクリル酸イソボルニル、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、メタクリル酸N,N−ジメチルアミノエチル、メタクリル酸N,N−ジエチルアミノエチル、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン等が例示される。本発明のラジカル硬化型接着剤組成物では、これらのアクリル単量体、多官能アクリル単量体は単独で使用しても、2種類以上の混合物として使用してもよい。
【0045】
本発明のラジカル硬化型接着剤組成物は、接着剤の貯蔵安定性を向上し、また同時に硬化性を改善するために、好ましくは下記構造式で示されるヒンダードアミン化合物が使用される。
【0046】
【化4】

【0047】
(ここで、R2は、水素原子、または、炭素原子数1〜4個のアルキル基を表す。)
本発明のラジカル硬化型接着剤組成物で好ましく使用される下記構造式のヒンダードアミン化合物としては、
【0048】
【化5】

【0049】
(ここで、R2は、水素原子、または、炭素原子数1〜4個のアルキル基を表す。)
4−ベンゾイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−ベンゾイルオキシ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジンなどが例示される。本発明のラジカル硬化型接着剤組成物では、これらのヒンダードアミン化合物は単独で使用しても、2種類以上の混合物として使用してもよい。
【0050】
本発明のラジカル硬化型接着剤組成物では、ヒンダードアミン化合物は、好ましくは、ラジカル硬化型接着剤組成物全体の0.01〜10重量%、より好ましくは、0.01〜8重量%、さらにより好ましくは、0.02〜5重量%使用されるのが望ましい。ヒンダードアミン化合物の使用量が0.01〜10重量%のとき、本発明のラジカル硬化型接着剤組成物の貯蔵安定性と硬化性にもっともバランスがとれ、良好な接着力を発揮するようになる。
【0051】
本発明のラジカル硬化型接着剤組成物では、接着剤を硬化させるためにラジカル重合開始剤として、好ましくはメチルエチルケトンパーオキサイド、アセチルアセトンパーオキサイド、ジベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物、ラジカル重合促進剤として、好ましくはN,N−ジメチルアニリン、N,N−ジメチルパラトルイジン等の3級アミン、オクチル酸コバルト、オクチル酸鉛、ナフテン酸コバルト、ナフテン酸鉛、ナフテン酸亜鉛などの金属石鹸が使用される。本発明のラジカル硬化型接着剤組成物では、これらの有機過酸化物、3級アミン、金属石鹸等はそれぞれ単独で使用しても、2種類以上の混合物で使用してもよい。
【0052】
本発明のラジカル硬化型接着剤組成物では、接着剤の硬化性、貯蔵安定性の観点から、特に、ジベンゾイルパーオキサイドとN,N−ジメチルパラトルイジンの組み合わせ、クメンハイドロパーオキサイドとナフテン酸コバルトやオクチル酸コバルト等の金属石鹸の組み合わせが推奨される。
【0053】
本発明のラジカル硬化型接着剤組成物では、本発明で好ましく使用される有機過酸化物は、接着剤全体の好ましくは、0.2〜10重量%、より好ましくは、0.5〜5重量%、さらに好ましくは、1.0〜3重量%使用されるのが望ましい。本発明のラジカル硬化型接着剤組成物では、有機過酸化物の使用量が0.2〜10重量%使用されるとき、接着剤の貯蔵安定性と硬化性にバランスがとれ、接着力を含めた接着剤物性がもっとも向上する傾向が見られる。
【0054】
本発明のラジカル硬化型接着剤組成物では、本発明で好ましく使用される3級アミン、または金属石鹸は、接着剤全体の好ましくは、0.05〜10重量%、より好ましくは、0.1〜5重量%、さらに好ましくは、0.5〜3重量%使用されるのが望ましい。本発明のラジカル硬化型接着剤組成物では、3級アミンまたは金属石鹸の使用量が0.05〜10重量%使用されるとき、接着剤の貯蔵安定性と硬化性にバランスがとれ、接着力を含めた接着剤物性がもっとも向上する傾向が見られる。また、耐水性、耐塩水性などの耐薬品性が向上する傾向が見られる。
【0055】
さらに、本発明のラジカル硬化型接着剤組成物では、重合開始剤ではあるが本発明では重合開始剤としての能力が低いα,α−アゾビスイソブチロニトリル、α,α−アゾビスイソバレロニトリル等の有機アゾ化合物も好ましく使用することができる。有機アゾ化合物はラジカル分解により窒素ガスを発生する。本発明のラジカル硬化型接着剤組成物では発生する窒素ガスにより接着剤が硬化する際の収縮が抑制される傾向が見られ、接着剤が界面剥離せず好ましい状態である凝集破壊となる傾向が強く見られる。本発明のラジカル硬化型接着剤組成物では、有機アゾ化合物は、接着剤全体の好ましくは、0.02〜5重量%、より好ましくは、0.5〜3重量%、さらに好ましくは、0.5〜2.5重量%使用されるのが推奨される。本発明のラジカル硬化型接着剤組成物では、有機アゾ化合物の使用量が0.02〜5重量%のとき、接着力がもっとも強くなる傾向が見られ、望ましい。
【0056】
本発明のラジカル硬化型接着剤組成物は、好ましくは、クロロスルホン化ポリエチレン5〜30重量%、下記構造式のジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート70〜95重量%を
【0057】
【化6】

【0058】
(ここで、R1は、水素原子、または、メチル基を表す。)
混合することで製造される。一般に、クロロスルホン化ポリエチレンは小石状の固まりとして供給されているため、本発明では、攪拌可能な容器中でジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレートに溶解した後使用するのが推奨される。
【0059】
本発明のラジカル硬化型接着剤組成物では、好ましい接着剤製造方法、好ましい接着剤の形態を次のように例示できる。ただし、以下は好ましい一例であって、本発明のラジカル硬化型接着剤組成物が下記の製造方法、形態に限られるものではない。
【0060】
〔接着剤製造方法の例〕
1.攪拌機、加熱冷却能を有する容器にするクロロスルホン化ポリエチレン5〜30重量%、下記構造式のジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート70〜95重量%、
【0061】
【化7】

【0062】
(ここで、R1は、水素原子、または、メチル基を表す。)
例えば、p−メトキシフェノール、フェノチアジン等の重合禁止剤をクロロスルホン化ポリエチレンとジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレートの合計量に対し0.005〜1重量%を仕込み、好ましくは、50〜100℃で攪拌しながらジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレートにクロロスルホン化ポリエチレンを溶解する。以後、これを接着剤ベースとも言う。
【0063】
2.接着剤ベースに、ラジカル重合開始剤として有機過酸化物の所定量、下記構造式のヒンダードアミン化合物
【0064】
【化8】

【0065】
(ここで、R2は、水素原子、または、炭素原子数1〜4個のアルキル基を表す。)
の所定量を仕込み、均一に溶解する。以後、これを接着剤主剤ともいう。
【0066】
3.接着剤ベースに、3級アミン化合物の所定量を仕込み、均一に溶解する。以後、これを接着剤硬化剤ともいう。
【0067】
4.接着剤主剤、接着剤硬化剤をもって本発明のラジカル硬化型接着剤組成物とする。
【0068】
〔接着剤適用方法の例〕
1.例えば、被着体としてアルミニウム合金(JIS A−2017P)の一方に接着剤主剤を所定膜厚で塗布する。
【0069】
2.接着するもう一方の被着体(例えば、炭素繊維複合材料(CFRP))に接着剤硬化剤を所定膜厚で塗布する。
【0070】
3.アルミニウム合金、CFRPの接着剤が塗布された面を圧着した後、所定の硬化温度(例えば60℃)で所定時間(例えば10分間)加熱、接着剤を硬化させ、アルミニウム合金とCFRPが接着された接着部材を製造する。
【0071】
本発明のラジカル硬化型接着剤組成物は、以上で説明した各種原材料の他にも、例えば、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシランなどのシランカップリング剤、シリカ微粒子、ガラス繊維、炭酸カルシウムなどの有機、無機充填材、顔料分散剤、増粘・チキソトロピー付与剤、タッキファイヤーなど、一般に接着剤や塗料に配合される原材料を配合することができる。
【0072】
本発明では、ことさら、シランカップリング剤、さらに分子中にアミノ基とアルコキシシリル基を有するシランカップリング剤は接着力を改善、向上するために有用であり、ガラス繊維などの繊維状フィラーは接着剤の強度、耐熱性を改善するために有用である。
【実施例】
【0073】
以下に、本発明の一例を実施例によって説明する。なお、以下で説明する実施例中、接着剤の引張強度試験は、JIS K 7113:1995にしたがい23℃で破断強度、破断伸度を求めた。また、引張剪断強度試験は、JIS K 6850:1999にしたがい、接着剤の厚みを200μmとして23℃と80℃(耐熱接着試験)で行った。被着体としてアルミニウム合金(JIS A−2017P:1999)を使用した。また、いずれの試験でも、接着剤の硬化条件は、硬化温度60℃、硬化時間30分とした。
【0074】
なお、本試験では、破断強度≧10MPa、破断伸度≧50%、引張剪断強度(23℃)≧10MPa、引張剪断強度(80℃)≧5MPaで合格とした。
【0075】
「接着剤の製造方法」
1.接着剤1〜接着剤8の製造方法
攪拌機、還流冷却管を有するステンレス製2L四つ口フラスコに表1、表2に示す(1)〜(7)を仕込み、フラスコ内の酸素濃度が8〜12%となるよう空気/酸素の混合気体を吹き込みながら、80℃で均一な溶液になるまで攪拌、混合、溶解を行った。
【0076】
室温まで冷却した後、(8)〜(12)の原料を加え、さらに「マゼルスター KK−100」(クラボウ(株)の攪拌、脱泡装置)で攪拌、脱泡を行い、接着剤1〜接着剤8を製造した。接着剤1〜接着剤8の組成を表3に示した。
【0077】
【表1】

【0078】
【表2】

【0079】
【表3】

【0080】
2.接着剤9〜接着剤12の製造方法
攪拌機、還流冷却管を有するステンレス製2L四つ口フラスコに表4、表5に示す(1)〜(6)を仕込み、フラスコ内の酸素濃度が8〜12%となるよう空気/酸素の混合気体を吹き込みながら、80℃で均一な溶液になるまで攪拌、混合、溶解を行った。
【0081】
室温まで冷却した後、(7)〜(9)の原料を加え、さらに「マゼルスター KK−100」(クラボウ(株)の攪拌、脱泡装置)で攪拌、脱泡を行い、接着剤9〜接着剤12を製造した。
【0082】
なお、表中「DP308」は楠本化成(株)製の増粘剤「ディスパロン308」(水添ひまし油化合物)、「20MH2−20」は旭ファイバーグラス製ガラス繊維「MF 20MH2−20」を表す。接着剤9〜接着剤12の組成を表6に示した。
【0083】
【表4】

【0084】
【表5】

【0085】
【表6】

【0086】
3.接着剤1〜接着剤8の試験結果
表7に、接着剤1〜接着剤8の機械的性質試験結果を示した。
【0087】
【表7】

【0088】
全般的に高いレベルの構造用接着剤となった。特に、水酸基含有アクリル単量体、カルボキシル基含有アクリル単量体が使用されている接着剤3〜接着剤8は接着力が高く、優れた接着剤であった。また、硬化剤としてメチルエチルケトンパーオキサイド(有機過酸化物)−オクチル酸コバルト(金属石鹸)が使用されている接着剤4〜接着剤8は酸素の影響を受けがたく、より大きい機械強度と接着力を示した。ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレートの存在下にホモポリマーのガラス転移温度の高いモノマー(ジシクロペンタニルメタクリレート;ガラス転移温度175℃)の使用(接着剤6,7,8)、およびガラス繊維による補強(接着剤8)では、一段と優れた機械的性質、接着力、耐熱接着性を示した。
【0089】
表8に、接着剤1〜接着剤8の貯蔵安定性試験結果を示した。
【0090】
【表8】

【0091】
4−ベンゾイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンが使用されている接着剤2,3,5,6,7,8は優れた貯蔵安定性を有していた。
【0092】
4.接着剤1〜接着剤8の試験結果
表9、表10に、接着剤9〜接着剤12の試験結果を示した。
【0093】
【表9】

【0094】
接着剤9〜接着剤12は接着力が低く、特に、耐熱接着力が不十分であった。
【0095】
【表10】

【0096】
4−ベンゾイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンが使用されている接着剤10,11は優れた貯蔵安定性を有していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロロスルホン化ポリエチレン5〜40重量%、下記構造式のジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート60〜95重量%(ただし、クロロスルホン化ポリエチレンとジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレートの合計は、100重量%である)
【化1】

(ここで、R1は、水素原子、または、メチル基を表す。)
を含むラジカル硬化型接着剤組成物。
【請求項2】
クロロスルホン化ポリエチレンが、23℃における25重量%トルエン溶液粘度が200〜2000mPa・sを有するものである請求項1に記載のラジカル硬化型接着剤組成物。
【請求項3】
ラジカル硬化型接着剤組成物が、さらに、下記構造式のヒンダードアミン化合物を
【化2】

(ここで、R2は、水素原子、または、炭素原子数1〜4個のアルキル基を表す。)
ラジカル硬化型接着剤全体の0.01〜10重量%含むものである請求項1または2のいずれかに記載のラジカル硬化型接着剤組成物。
【請求項4】
ラジカル硬化型接着剤組成物が、さらに、水酸基含有アクリル単量体をラジカル硬化型接着剤全体の3〜16重量%含むものである請求項1〜3のいずれかに記載のラジカル硬化型接着剤組成物。
【請求項5】
ラジカル硬化型接着剤組成物が、さらにカルボキシル基含有アクリル単量体をラジカル硬化型接着剤全体の0.2〜5重量%含むものである請求項1〜4のいずれかに記載のラジカル硬化型接着剤組成物。

【公開番号】特開2009−167365(P2009−167365A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−10176(P2008−10176)
【出願日】平成20年1月21日(2008.1.21)
【出願人】(000187046)東レ・ファインケミカル株式会社 (153)
【Fターム(参考)】