説明

ラックキャビネットおよび空調制御方法

【課題】 本発明は、電子機器を搭載するラックキャビネットの構造と、ラックキャビネットを用いた空調制御方法に関するものである。
【解決手段】 本発明のラックキャビネットは、複数の電子機器を搭載し、少なくとも外部から冷気の吸い込みが可能な前面を有する筐体と、電子機器の搭載位置に対して筐体の前面の側に配置され、前面から電子機器に向かう第1の方向に吸気された冷気に押されて開放し、第1の方向とは逆の第2の方向に対して閉鎖する逆流防止弁とを備える、よう構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器を搭載するラックキャビネットの構造と、ラックキャビネットを用いた空調制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
データセンター等において消費される電力の内、空調システムで消費される電力は3割を占めると言われており、空調の効率化を図ることが求められている。空調の効率化を図る方法として、例えばデータセンターの建屋を、電子機器搭載のラックを設置した機器設置空間と、空調機から冷気が送出される床下空間とに区画し、さらに機器設置空間を複数のラックで構成するラック列で区画してコールドアイルとホットアイルとを形成することが知られている。
【0003】
コールドアイルは床下空間と機器設置空間とを連通するグリルを介して床下空間からラック列前面に冷気を吹き出すエリアであり、ホットアイルはラック列によって取り込まれた冷気が電子機器の発熱で暖められ、暖気となってラック列背面から排気されるエリアである。排気される暖気は機器設置空間の上部に配置した排気グリルを経て空調機にリターンするようになっている。即ち、空調機から送出された冷気は床下空間に送出され、グリルを介して機器設置空間のコールドアイルに吹き出し、ラック前面から吸気されてラック内の電子機器を冷却し、暖気となってラック背面からホットアイルに排気され、排気グリルを介して空調機に戻る循環を形成している。
【0004】
近時では、さらに冷却効率を上げるため、ホットアイルからコールドアイルへ暖気が流れ込むことを防止するためにラック列の上部と天井との間にアイルを隔てるキャッピングを設け、コールドアイルとホットアイルとを確実に分断することが行なわれている。キャッピングを設けることで、冷気と暖気の流れる通路が明確に区分されることになり、それらの混合による熱損失を減少させるものである。
【0005】
冷却効率を高める関連技術として、複数の電子機器を段状に搭載するラックの前面に羽根の角度を変えられるルーバーを設け、電子機器が排気する温度を計測してルーバーの角度を調整し、冷気の電子機器への流入量を変更することが知られている。この方法を用いることで、ラック内の電子機器の発熱量の違いに応じて適切な冷気流入量とすることができので、無駄な冷却を抑制し冷却効率を高めることができるとするものである。
【0006】
また、光ファイバをラック内に敷設し、ファイバ内に所定の波長の光パルスを伝播させ、光パルスの伝播に伴って生じる後方散乱光(ラマン散乱光)を時系列的に観測し、後方錯乱光の経時的変化から、光パルス能力伝播方法に沿った温度分布を求めることが知られている。この方法を用いて、ラック内に搭載した電子機器の排気温度を知ることができ、この排気温度を用いて冷却の最適化を図るものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−50220号公報
【特許文献2】特開2009−265077号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記したように、データセンター等においては冷却効率を高めることが求められ、種々の提案がなされている。しかしながら、近年ではサーバの仮想化やクラウド化の技術が進み、複数のシステムを複数のサーバで構成するようになってきた。さらに、それらのサーバも時間帯におけるユーザアクセスの多寡に応じてシステム構成を変えて運用することも行なわれるようになってきている。例えば、昼間のユーザアクセスの多い時間帯ではシステムを運用する全てのサーバを稼動させてユーザビリティを確保し、深夜のアクセス数が減少する時間帯ではシステムの再構成を行いサーバ台数を減らして運用するものである。サーバ台数を減らすことで、サーバおよび空調機の消費電力削減を図ることができる。このため、従来ではサーバの常時稼動が一般的であったが、近年ではサーバのON/OFFが頻繁に起こるようになった。
【0009】
ラック内には複数のサーバを搭載しているが、ラック内でサーバのON/OFFが行なわれると冷却効率の観点から問題が生じることになる。ラック内の全てのサーバがONの状態にある場合は各サーバが内蔵するファンによりサーバ前面から冷気を吸気し、サーバの中を通って背面から暖気を排気するが、ラック内にOFFのサーバ(OFFサーバということにする)が発生した場合、そのOFFサーバの近傍のONのサーバ(ONサーバと言うことにする)の内蔵ファンの影響でOFFサーバの前面は引圧となり、OFFサーバの背面からONサーバが排気した暖気を吸込み、OFFサーバ内を通ってサーバ前面に吹き出す現象が生ずる。即ち、OFFサーバ内では通常とは逆に暖気が背面から前面へと流れることになる。OFFサーバの前面はコールドアイルであるので、ここに暖気が吹き出して冷気と混合し、熱損失が起こる。
【0010】
このような状態でONサーバは、OFFサーバの前面から吹き出した暖気を吸気することになり、これを検知したONサーバは内蔵ファンの回転数を上昇させて冷却しようとする。すると、OFFサーバの前面はより引圧になるためOFFサーバ内を流れる暖気が増大し、悪循環となる。
【0011】
また、サーバのON/OFFがなされた場合でも、空調機はサーバがフルに稼動している状態に合わせた風量や温度で運転しているので、負荷が変動して軽くなった場合に無駄なエネルギーが使われていることになり、ここにも問題がある。
【0012】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたもので、ラック内にOFFサーバがあっても暖気の逆流を防止して冷却効率を高めるラックキャビネット、およびそのラックキャビネットを用いてデータセンター等の機器収容ルーム全体の冷却効率を高めた空調制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明の一観点によれば、本発明のラックキャビネットは、複数の電子機器を搭載し、少なくとも外部から冷気の吸い込みが可能な前面を有する筐体と、電子機器の搭載位置に対して筐体の前面の側に配置され、前面から電子機器に向かう第1の方向に吸気された冷気に押されて開放し、第1の方向とは逆の第2の方向に対して閉鎖する逆流防止弁と、を備えるラックキャビネットが提供される。
【0014】
発明の他の一観点によれば、本発明の空調制御方法は、ラックキャビネットが搭載する電子機器の前面に配置され、電子機器が内蔵するファンの吸気量に応じて開閉する逆流防止弁の開き角度を計測し、開き角度から電子機器毎の吸気量を求める電子機器吸気量取得手順と、電子機器の吸気温度と排気温度とを計測し、吸気温度と排気温度と吸気量とに基づいて排熱量を電子機器毎に求め、ラックキャビネットに搭載している電子機器の排熱量を集計してラックキャビネット毎の排熱量を求めるラック排熱量算出手順と、ラックキャビネット毎に算出した排熱量を集計して全排熱量を算出し、算出した全排熱量に基づいて空調機の出力を制御する空調機制御手順と、を有する空調制御方法が提供される。
【発明の効果】
【0015】
ラックキャビネットに搭載された電子機器の前面に逆流防止弁を設け、停止している電子機器がある場合に電子機器内を逆流する暖気を遮断でき、暖気が冷気に混ざることがない冷却効率の高いラックキャビネットを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】一般的なデータセンターの空調例を示す図である。
【図2】OFFサーバの暖気還流例を示す図である。
【図3】本発明のサーバラックの構造例を示す図である。
【図4】本発明の逆流防止弁とダクトの構造例を示す図である。
【図5】逆流防止弁の構造例を示す図である。
【図6】逆流防止弁の設置例を示す図である。
【図7】歪ゲージによる逆流防止弁の開き角度センシング例を示す図である。
【図8】角度センサ付き逆流防止弁を備えたサーバラック例を示す図である。
【図9】空調制御装置の構成例を示す図である。
【図10】記憶部のデータ例を示す図である。
【図11】サーバラックとグリルの対応例を示す図である。
【図12】空調制御装置の制御フロー例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施例の説明の前に、前述したデータセンター等における空調の一般的な方法を説明する。図1は、データセンター等に配置したサーバラックに対する冷気と暖気の流れを示した図である。データセンター10の建屋は、サーバラック50を配置する機器設置空間20と空調機(不図示)から冷気が送り込まれる床下空間30、およびサーバラック50が排気する暖気を吸込み、空調機に還流する排気空間40の3つの空間に区画されている。床下空間30と機器設置空間20との間はグリル31で連通し、機器設置空間20と排気空間40との間は排気グリル41で連通している。このため、床下空間30の冷気は機器設置空間20に流れ込み、機器設置空間20の空気は排気空間40に流れ込む。
【0018】
1台のサーバラック50は複数台のサーバを搭載するが、それぞれのサーバは内部にファンを備え、前面から冷気を吸気して背面から暖気を排気する。これらのサーバラック50は複数台を連結してラック列51を構成し、機器設置空間20においては数列のラック列51が配置される。このとき、例えば2列のラック列を配置する場合は、図1に示すように2列のラック列51の前面同士が向かい合うように配置する。このように配置することで、床下空間30からの冷気はグリル31を通ってラック列51の前面のエリアに吹き出すので、それぞれのラック列51はこれらの冷気を前面から吸気することができる。吸気された冷気はラック列51内部を通り、そこで熱交換が行なわれて暖気となって背面から排気され、さらに排気グリル41を通って排気空間40に吸い込まれることになる(図1の白抜きの矢印は冷気の流れを示し、黒の矢印は暖気の流れを示している)。
【0019】
ラック列51の上部の空間で冷気と暖気が混じり合うことによる混合損失を防止するため、ラック列51の上面と機器設置空間20の天井との間を仕切るキャッピング23を設けることも行なわれている。ラック列51の前面が向き合うエリアをコールドアイル21、背面のエリアをホットアイル22と称している。
【0020】
次に、前述したOFFサーバの暖気還流について図2を用いて説明する。図2は、サーバラック50に搭載しているサーバ60に対する冷気と暖気の流れを示した図で、図1と同様に冷気は白抜きの矢印、暖気は黒の矢印で示している。また、図に示すサーバラック50の右側が前面でコールドアイル21に面しており、サーバラック50の左側が背面でホットアイル22に面している。サーバラック50はサーバ1〜サーバ5まで5台のサーバを搭載しており、サーバ1、2、4、5は稼動状態にある(即ち、ONサーバ)が、サーバ3はOFFの状態(即ち、OFFサーバ)にある。このような状態で、ONサーバは冷気を前面から吸気し、暖気を背面に排気している。OFFサーバであるサーバ3の内蔵するファンは停止しており、冷気を吸気することを行なっていない。サーバ3の上下に位置するサーバ2とサーバ4が前面からの冷気の吸込みに伴ってサーバ3の前面は引圧となり、サーバ3は背面から暖気を吸込み前面に暖気を排気する現象が起こる。このため、サーバ3前面から排気された暖気の一部は冷気と共にサーバ2、およびサーバ4に吸い込まれ、サーバ2とサーバ4が吸い込んだ冷気の温度が上昇することになる。サーバは吸気の温度を検出してファンの回転数を変える機構を備えているため、サーバ2とサーバ4はファンの回転数を上げて吸気量をより増大させようとする。これに伴ってサーバ3からの暖気をより多く吸込むことになり、悪循環となる。
【0021】
次に、本発明の実施例を説明する。実施例では「サーバラック」内に「サーバ」を搭載する例で説明するが、これらはそれぞれ前述した「ラックキャビネット」および「電子機器」に相当する。
【0022】
(実施例1)
実施例1は、サーバの前面に逆流防止弁を設け、OFFとなったサーバの前面から暖気が排気されること(即ち、暖気の還流)を抑制するものである。図3は、図2と同様にサーバラック100内の冷気と暖気の流れを示した図で、冷気は白抜きの矢印、暖気は黒の矢印で示している。サーバラック100は、図2と同様にサーバ1〜サーバ5まで5台のサーバを搭載し、サーバ1、2、4、5はONサーバで、サーバ3はOFFサーバである。なお、サーバ1〜3の高さは2U(ユニット)であり、サーバ4、5は1Uで、サーバラック100は更に2ユニット分のサーバを搭載可能であるが、ここでは未搭載(ブランク)である。
【0023】
サーバラック100の前面(図3の右側)には逆流防止弁200を備えている。逆流防止弁200は左方には開くが右方には開かない構造になっている(詳細は後述する)。また、その逆流防止弁200とサーバ400との間はダクト300で連結している。さらに、ダクト300と接続するサーバ400の前面は隙間が生じないようにダクト接続部材301をユニットの大きさに合わせて備えている。なお、ここでサーバラックの前面とは、サーバラックに搭載される電子機器の前面に対応する面で、電子機器は内蔵するファンで電子機器の前面から冷気を吸気し背面に排気するので、サーバラックも前面から冷気を吸気し背面に排気することになる。
【0024】
逆流防止弁200は、サーバ400が内蔵するファンによってサーバラック100外の冷気が逆流防止弁200を押し開き(左方に開くことになる)、ダクト300を介してサーバ400内に冷気が流れ込むようになっている。図3のONサーバの逆流防止弁200は開いた状態を示している。これに対し、OFFサーバであるサーバ3の前面の逆流防止弁200は閉じている。サーバ3の前面にはサーバ2とサーバ4の冷気吸込みに伴う引圧が働き、サーバ3の内部を介して前面に向かう暖気を吸い込もうとするが、逆流防止弁200は右方向に開かないため閉じた状態となり、サーバ3の背面から暖気を吸い込むことはない。従って、暖気がサーバ3から吹き出すことがないので、従来見られたサーバ2とサーバ4が暖気を吸い込んで冷却効率が下がることはなくなる。
【0025】
次に、逆流防止弁200とダクト300の構造例について図4を用いて説明する。図4(a)の左方の図は1Uのサイズのサーバ400の外観を示し、サーバ400の前面はダクト300と接続するダクト接続部材301を取り付けた状態を示している。図4(a)の右方の図は、ダクト300とそのダクト300に取り付けた逆流防止弁200を示している。図に示されるように、逆流防止弁200はダクト300前方の開口する側に2段に渡って複数個を取り付けている。図4(a)では隠れているが、2段の逆流防止弁200の配置に対応して、ダクト300の内部を上下2段に区画する水平な仕切り板を設けている。その仕切り板とダクト300の下部の板の前面に、逆流防止弁200が右方に開かないように図4(a)に示すストッパー210を設けている。
【0026】
逆流防止弁200の形状は図5に示され、平板部201と湾曲部202とからなる形状をしている。湾曲部202には、ダクト300の長手方向に張り渡したビーム203が通るようにしている。ビーム203に取り付けた逆流防止弁200は、ビーム203に吊るされた状態となり、ビーム203を軸として回転自由である。逆流防止弁200は冷気に押されて回転して開くものであるため、軽量であることが必要である。このため、0.1〜0.5mm厚のプラスチックやアルミニュウムを用いている。
【0027】
図4に戻って、サーバ400に逆流防止弁200を取り付けた状態を図4(b)と(c)に示す。図4(b)は、サーバ400がONサーバであるときの例を示し、サーバ400が内蔵するファンによって冷気が吸気され、逆流防止弁200はこの冷気に押されてダクト300の内側に開いている状態を示している。これに対し、図4(c)はサーバ400がOFFサーバであるときの例を示し、前述したように逆流防止弁200が閉じた状態にある。
【0028】
次に、逆流防止弁200を備えたサーバラック100の外観を図6に示す。サーバラック100は前扉120を有し、逆流防止弁200を備えたダクト300はこの前扉120に取り付けられている。前扉120は筐体本体110とヒンジ130を介して連結しており、開くことができる。図6(a)は前扉120を閉じた状態を正面から見た図で示している。前扉120の中央部分は逆流防止弁200である。図6(b)は、前扉120を開いた状態の図であり、右側がダクト300と逆流防止弁200とを備えた前扉120を、左側がサーバ400を搭載した筐体本体110を示している。サーバ400が未搭載の部分はブランクパネル500を取り付けている。
【0029】
(実施例2)
実施例1は、逆流防止弁を取り付けたサーバラックの例を示したが、実施例2では、このサーバラックの逆流防止弁に角度センサを取付けて、データセンターの空調制御を行なう方法を説明する。
【0030】
本発明の空調制御は、サーバラック毎の排熱量を逆流防止弁の角度センサに基づいて算出し、サーバラック全体の排熱量に見合った出力に空調機を制御すると共に、グリルの開口量を制御して各サーバラックにサーバラックの排熱量に応じた冷気を供給するものである。
【0031】
まず、角度センサ630を備えた逆流防止弁600を図7により説明する。角度センサ630は逆流防止弁600の開き角度を計測し、計測した角度を基にサーバの吸気量を求めるためのものである。逆流防止弁600は実施例1と異なり、逆流防止弁600自体がビーム621を備えたユニットとなっており、図7(a)の左の図に示すように平板部610とビーム支持部620、および角度センサ630とを含んで構成される。平板部610の上部はビーム621を通す湾曲部611に連なり、ビーム621を介してビーム支持部620に支持される。角度センサ630は、図7(a)の左右の図(なお、右図は左図のA−A’断面を示した図である)に示されるように、下方の端部を平板部610に係止して平板部610に添い、押さえ部材622を経て上方に伸びるように配置している。角度センサ630の上方の端部は図示しない支持部材に固定されている。
【0032】
角度センサ630は、歪ゲージ631と牽引帯632とを含んで構成される。歪ゲージ631は薄いプラスチック上に形成され、牽引帯632と連結している。牽引帯632も薄いプラスチックで形成され、帯状を成している。開き角度のセンシングは、図7(b)に示すように逆流防止弁600が閉じている状態(左図)から冷気に押されて角度θに開いている状態(右図)になったとき、牽引帯632は歪ゲージ631を引っ張る方向に作用し、歪ゲージ631の電気抵抗の変化を測定することで開き角度θを求めることができる。
【0033】
次に、逆流防止弁600をサーバラックの前扉120に取り付けた例を図8に示す。全ての逆流防止弁600の角度センサ630は角度計測回路700と接続し、角度計測回路700は後述する空調制御装置の入出力制御部に接続している。角度センサ630と角度計測回路700と接続する配線の状態を示すために、図8では逆流防止弁600を小さく描いているが、正面から見たとき配線は逆流防止弁600に隠れて見えない。
【0034】
次に、角度センサ630から逆流防止弁600の開き角度のデータを取得し、空調機やグリルを制御する空調制御装置800の構成例を、図9を用いて説明する。空調制御装置800は、全体の制御を行なう主制御部810、逆流防止弁の開き角度データ等のデータ取得やグリル等に制御情報を送出する入力制御部820、空調制御プログラム840の実行を行なう主メモリ830、サーバラック毎の排熱量を記憶するラック排熱量記憶部850、およびグリルの開口量を制御するルーバーの角度を記憶するグリルルーバー角度記憶部860を含んで構成する。
【0035】
空調制御プログラム840は、さらにサーバ吸気量取得部841、ラック排熱量算出部842、空調機制御部843およびグリル制御部844を含んで構成する。これらの個々の機能概要について次に説明する。
【0036】
サーバ吸気量取得部841は、入出力制御部820を介して全ての逆流防止弁600に設置した角度センサ630の角度データを角度計測回路700から取得する(図8参照)。取得した角度データを吸気量に換算し、サーバ毎の吸気量を求める(開き角度に対する冷気流量を予め求めておき、逆流防止弁の間口面積と1サーバ当たりの逆流防止弁数とから、1サーバの吸気量を求めることができる)。
【0037】
ラック排熱量算出部842は、サーバ毎の吸気温度と排気温度のデータを取得する。サーバの吸気温度はサーバが温度センサを備え、ファンの回転数の制御を行なっているのでそのデータを入出力制御部820を介して取得する。また、サーバの排気温度は前述したファイバを用いて後方散乱光を観測する方法で排気温度を求める。即ち、各サーバラックの背面にファイバを敷設し、このファイバに光パルスを伝播させて生じる後方散乱光を時系列的に観測して各サーバの排気温度を求める。排気温度のデータも入出力制御部820を介して取得する。このようにして得られた吸気温度と排気温度、および吸気量とに基づいてサーバ毎の排熱量を求める。さらに、サーバラックに搭載しているサーバの排熱量を集計してサーバラック毎の排熱量を求める。
【0038】
空調機制御部843は、ラック排熱量算出部842で算出したサーバラック毎の排熱量を集計してサーバラック全体の全排熱量を算出する。空調機に対しこの全排熱量を含む情報を入出力制御820を介して送出する。
【0039】
グリル制御部844は、空調機制御部843で求めたサーバラック全体の全排熱量に対するサーバラック毎の排熱量比率を算出する。この排熱量比率に基づいてサーバラックに対応するグリルの開口量を制御するルーバーの角度を求め、この角度情報を入出力制御820を介してグリルに送出する。
【0040】
なお、空調機およびグリルは、例えばBACnet(Building Automation and Control Networking protocol )に対応しており、空調制御装置800はBACnetを介して空調機とグリルに制御情報を送出するものとする。
【0041】
次に、ラック排熱量記憶部850とグリルルーバー角度記憶部860のデータ例について説明する。図10(a)は、ラック排熱量記憶部850のデータ例を示し、ラック排熱量記憶部850は「ラックNo.」、「サーバNo.」、「サーバ排熱量」、「サーバ吸気量」、「サーバ吸気温度」、および「サーバ排気温度」の各フィールドを含んで構成される。「ラックNo.」はサーバラック100を識別するための番号(符号)であり、「サーバNo.」はそのサーバラック100に搭載されるサーバ400を識別する番号である。例えば、“R01”のサーバラック100は、“S0101”、“S0102”・・・のサーバ400を搭載する。「サーバ排熱量」は、「サーバ吸気量」と「サーバ吸気温度」、「サーバ排気温度」の値に基づいて計算される(計算方法は後述する)。「サーバ吸気量」は、入出力制御部820を介して取得した逆流防止弁600の角度センサ630の角度データを吸気量に変換した値である。1台のサーバ400は複数の逆流防止弁600を備えるので、それらの角度から求まる吸気量の合計値である。「サーバ吸気温度」および「サーバ排気温度」も前述した方法で入出力制御部820を介して取得したデータである。
【0042】
図10(b)は、グリルルーバー角度記憶部860のデータ例を示し、グリルルーバー角度記憶部860は「グリルNo.」、「ラックNo.」、「ルーバー角度」、「ラック排熱量」、および「ラック排熱量比率」の各フィールドを含んで構成される。
【0043】
「グリルNo.」はグリル32を識別するための番号であり、「ラックNo.」に対応している。グリル32とサーバラック100の対応例を図11を用いて説明する。図11において、データセンターに配置されたサーバラック100は5台のサーバラック100で1列のラック列を形成し、ここでは2列のラック列を示している。ラック列の前面が向かい合うエリアがコールドアイル21で、背面のエリアはホットアイル22である。なお、前述したように、コールドアイル21とホットアイル22の間はキャッピング23で仕切られている。コールドアイル21にはグリル32が配置されるが、図に示すようにサーバラック100に対応している。例えば、“R01”のサーバラック100には“G01”のグリル32が対応し、“R02”のサーバラック100には“G02”のグリル32が対応する。各グリル32は、開口量を変える角度制御可能なルーバを備え、空調機制御装置800により制御される。グリル32の開口量を変えることとは、グリル32から吹き出す風量を変えることでもある。
【0044】
図10(b)に戻って、「ルーバー角度」には制御するグリル32のルーバー角度のデータを格納し、このデータの値は「ラック排熱量比率」の値によって定まる。即ち、各グリル32が分担する風量は、空調機から送出される全風量をラック排熱量比率で案分した風量とする。このようにすることで、高い排熱量のサーバラック100に対しては多くの風量を供給することができる。制御する角度は、最も排熱量比率の大きな値に対してルーバの角度を90°とし、他の排熱量比率はこれに比例した角度とすればよい(ルーバ角度0°がグリルの開口率0%であり、90°が100%としている)。
【0045】
「ラック排熱量」は、ラック排熱量記憶部850で求めたサーバラック100が搭載する各サーバ400の排熱量を合計した値が格納される。また、「ラック排熱量比率」は、サーバラック100の全排熱量に対する個々のサーバラック100の排熱量の比率である。
【0046】
次に空調制御装置800の処理フロー例を図12を用いて説明する。
【0047】
図12において、まず空調制御装置800は全ての逆流防止弁600の角度センサ630から開き角度のデータを入出力制御部820を介して取得する。逆流防止弁600の吸気量に対する開き角度は、逆流防止弁600の大きさや重量によって異なるため、予め開き角度と吸気量の関係を求めておくものとする。それに基づいて、取得した角度データから吸気量を換算する。1台のサーバ400には複数の逆流防止弁600を有しているので、サーバ400の吸気量はそれら逆流防止弁600の角度センサ600から得られた吸気量を合計することになる(S1)。
【0048】
続いて空調制御装置800は、各サーバ400が内蔵する温度センサから吸気温度のデータを取得する。また、サーバラック100背面に敷設したファイバから各サーバ400の排気温度データを取得する(S2、S3)。
【0049】
S1で求めた吸気量と、S2とS3で求めた吸気温度と排気温度とに基づいてサーバ400の排熱量を算出する。サーバ1台当たりの排熱量P[W]は、空気の熱容量C[J/m3・℃]に吸気量Q[m3/s]と、吸/排気の温度差ΔT[℃]を乗じればよい。即ち、次式で求まる。
【0050】
P=C×Q×ΔT
次いで、サーバラック100に搭載しているサーバ400の排熱量を合計してサーバラック100毎の排熱量を求める。なお、空気の熱容量Cは空気密度×空気比熱で、空気密度は1,205[kg/m3](at20℃)、空気比熱は1,006[J/kg・℃](at30℃)である(S4、S5)。
【0051】
さらに、サーバラック毎の排熱量の合計(全排熱量)を求める。空調機は最低限この全排熱量を回収する出力で運転すればよいことになる。サーバラック100からの排熱量以外の排熱量(例えばデータセンターの照明)を考慮してデータセンターの総排熱量をPtotalとすれば、空調機の送風量Aairは次式で求まる。
【0052】
Qair=Ptotal/(C×(T2−T1))
ここで、T1は空調機の設定温度、T2は空調機の回収空気温度である。空調制御装置800はこのPtotalの情報を制御情報として空調機に送信する。制御情報を受信した空調機は、制御情報で指定された総排熱量を基に上記の送風量で運転することになる(S6)。
【0053】
続いて、全排熱量に対するサーバラック100毎の排熱量比率を求め、サーバラック100に対応するグリル32のルーバー角度を排熱量比率に基づいて算出する。この角度の情報を制御情報としてグリル32に送信する。制御情報を受信したグリル32は、制御情報で指定された角度でルーバー角度を制御することになる(S7、S8)。
【0054】
これまで説明した角度センサ630は歪ゲージを用いたものであったが、角度センサとしてローターエンコーダを用いてもよい。
【0055】
上記したように、逆流防止弁に開き角度を検知する角度センサを設け、開き角度を計測することは、サーバ毎の吸気量を求めることにある。また、サーバ内とサーバ背面に温度センサを設けて吸気と排気の温度を計測することは、この計測温度と先に求めたサーバの吸気量とに基づいてサーバ毎の排熱量を求めることにある。サーバ毎の排熱量が求まれば、それらを合計してサーバラック毎の排熱量を求め、サーバラック毎の排熱量に比例した冷気をルーバ角度の制御により供給できる。このようにすることで、OFFサーバからの暖気の逆流を防止しながら、それぞれのサーバラックの排熱量の大きさに見合った冷気の供給ができ、冷却効率を高めた空調制御方法の提供ができる。
【0056】
以上、本発明のラックキャビネットとこのラックキャビネットを用いた空調制御方法の実施例を説明したが、これらは上記した内容に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる態様で実施し得るものである。
【符号の説明】
【0057】
10 データセンター
20 機器設置空間
21 コールドアイル
22 ホットアイル
23 キャッピング
30 床下空間
31 グリル
32 グリル
40 排気空間
41 排気グリル
50 サーバラック
51 ラック列
60 サーバ
100 サーバラック
110 筐体本体
120 前扉
130 ヒンジ
200 逆流防止弁
201 平板部
202 湾曲部
203 ビーム
210 ストッパー
300 ダクト
301 ダクト接続部材
400 サーバ
500 ブランクパネル
600 逆流防止弁
610 平板部
611 湾曲部
620 ビーム支持部
621 ビーム
622 押さえ部材
630 角度センサ
631 歪ゲージ
632 牽引帯
700 角計測回路
800 空調制御装置
810 主制御部
820 入出力制御部
830 主メモリ
840 空調制御プログラム
841 サーバ吸気量取得部
842 ラック排熱量算出部
843 空調機制御部
844 グリル制御部
850 ラック排熱量記憶部
860 グリルルーバー角度記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電子機器を搭載し、少なくとも外部から冷気の吸い込みが可能な前面を有する筐体と、
前記電子機器の搭載位置に対して前記筐体の前面の側に配置され、該前面から該電子機器に向かう第1の方向に吸気された冷気に押されて開放し、該第1の方向とは逆の第2の方向に対して閉鎖する逆流防止弁と、
を備えることを特徴とするラックキャビネット。
【請求項2】
前記ラックキャビネットは、さらに、
前記逆流防止弁と前記電子機器との間を接続するダクト
を備えることを特徴とする請求項1に記載のラックキャビネット。
【請求項3】
ラックキャビネットが搭載する電子機器の前面に配置され、該電子機器が内蔵するファンの吸気量に応じて開閉する逆流防止弁の開き角度を計測し、該開き角度から該電子機器毎の吸気量を求める電子機器吸気量取得手順と、
前記電子機器の吸気温度と排気温度を計測し、該吸気温度と該排気温度と前記吸気量とに基づいて排熱量を該電子機器毎に求め、前記ラックキャビネットに搭載している電子機器の排熱量を集計して該ラックキャビネット毎の排熱量を求めるラック排熱量算出手順と、
前記ラックキャビネット毎に算出した排熱量を集計して全排熱量を算出し、算出した該全排熱量に基づいて空調機の出力を制御する空調機制御手順と
を有することを特徴とする空調制御方法。
【請求項4】
前記空調制御法は、さらに
前記ラックキャビネット毎に、前記全排熱量に対する該ラックキャビネットの排熱量の排熱量比率を算出し、算出した該排熱量比率に基づいて該ラックキャビネットに対応して冷気を供給するグリルの開口角度を制御するグリル制御手順と
を有することを特徴とする請求項3に記載の空調制御方法。
【請求項5】
前記電子機器吸気量取得手順における逆流防止弁の開き角度の計測は、該逆流防止弁に設置した歪ゲージ、またはロータリーエンコーダにより計測する
ことを特徴とする請求項3と請求項4のいずれか1項に記載の空調制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−190222(P2012−190222A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−52708(P2011−52708)
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】