説明

ラック・ピニオン式ステアリング装置のラックブッシュ

【課題】 ラックブッシュの突起がラックハウジングの係止溝から外れにくいラック・ピニオン式のステアリング装置のラックブッシュを提供する。
【解決手段】 略円筒状の本体11aは、スリット11c1〜11c3で3個のセグメント11a1〜11a3が形成され、隣接するセグメント11a1と11a2、11a1と11a3、11a2と11a3はそれぞれスリット底面に形成された薄肉部分11cx、11cy、11czで相互に連結される。セグメント相互を連結するリング部13dと反対側に、突起12b1〜12b3が形成され、ラックハウジングの係止溝に嵌合する。ラックブッシュ10のセグメントをスリットの底面に形成された薄肉部分で相互に連結することで、ブッシュ10の剛性が高まり、突起と係止溝の嵌合を確実にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両用のラック・ピニオン式ステアリング装置に関し、特にラック軸をラックハウジングに保持するラックブッシュに関する。
【背景技術】
【0002】
車両用のステアリング装置として、ステアリングホイールから伝達される回転運動をラック・ピニオン機構によってラック軸の軸方向運動に変換するラック・ピニオン式ステアリング装置が広く使用されている。
【0003】
このようなラック・ピニオン式ステアリング装置では、ラック軸はラックハウジングに収容され、図示しない車体フレームに保持されるように構成されており、ラック軸をラックハウジングに保持するため、合成樹脂製のラックブッシュが使用されている。
【0004】
ラックブッシュは、内周部に複数の隆起部が形成されており、形成された複数の隆起部によりラック軸を軸方向に摺動自在に保持する。そして、ラックブッシュにはラックハウジングへ装着するための突起部が設けられており、ラックブッシュは突起部をラックハウジングの端部近くに設けられた係止溝に係合させてラックハウジングに装着され、ラックブッシュをラックハウジングに装着した後、ラック軸をラックブッシュに挿入してラックハウジングに取り付けるように構成されている。
【0005】
ラックブッシュのラックハウジングへの装着を容易にするため、またラックブッシュが合成樹脂製であるため熱の影響を受けて生じる「へたり」(変形)を防止するため、ラックブッシュには軸方向に伸びた複数のスリットが形成されたものが提案されている(特許文献1参照)。
【0006】
図10は、従来のラック軸102を収容したラック・ピニオン式ステアリング装置100の外観を説明する図、図11は従来のラック軸102を収容したラックハウジング101のラックブッシュ103附近の断面図、図12は従来のラックハウジング101の構成を説明する断面図である。
【0007】
図13は従来のラックブッシュ103の構成を説明する図で、図13(a)はラックブッシュ103の正面図、図13(b)は図13(a)のA−A線に沿った断面図、図13(c)は図13(b)のB−B線に沿った断面図である。
【0008】
図10において、101はラックハウジング、102はラックハウジング101の内部に収納されたラック軸で、ラック軸102はラックブッシュ103によりラックハウジングの内部に軸方向に摺保自在に収納されている。
【0009】
図13を参照してラックブッシュ103の構成を説明する。ラックブッシュ103は、全体が略円筒状に形成され、略円筒状の本体103aは、120°間隔で形成されて円筒軸方向に十分に長く伸びた3個のスリット103c1、103c2、103c3により3個のセグメント103a1、103a2、103a3に分割されている。分割されたセグメント103a1〜103a3の先端にはリング部103dが形成され、セグメント相互が連結されている。
【0010】
そして、略円筒状の本体103aの3個のセグメント103a1、103a2、103a3には、セグメント相互を連結するリング部103dと反対側に、それぞれ3個の突起104a1、104a2、104a3が120°間隔で形成されている。3個のスリット103c1〜103c3と3個の突起104a1〜104a3とは、それぞれ60°間隔で隣接している。
【0011】
一方、図12を参照すると明らかなように、ラックハウジング101のラックブッシュ103が装着される附近には、ラックブッシュの突起104a1〜104a3が嵌合する係止溝101aが形成されている。
【0012】
図11を参照してラックブッシュ103のラックハウジング101への固定方法を説明する。まず、ラックハウジング101にラックブッシュ103を装着し、ラックブッシュの突起104a1〜104a3をハウジング101の溝101aに嵌合させる。ラック軸102をラックブッシュ103に挿入すると、ラック軸102によりセグメント103a1〜103a3が半径方向に押し拡げられ、セグメント103a1〜103a3上の突起104a1〜104a3がラックハウジング101の溝101aにしっかりと嵌合して固定される。
【特許文献1】特開2004−314853号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、上記した軸方向に伸びた複数のスリットを形成した合成樹脂製のラックブッシュでは、単体剛性が低い場合があり、ラックブッシュにラック軸を装着する前の状態では、前記した突起がラックハウジングに設けられた係止溝に十分に係合せず、極く低い力が作用しても突起部がラックハウジングに設けられた係止溝から外れ、本来の装着位置からずれてしまうおそれがあった。
【0014】
また、ラックハウジング内径とラックブッシュ外径との間に若干の締め代があるため、ラックブッシュをラックハウジングに装着すると、ラックブッシュが変形し、前記した係止溝に対する突起の嵌合代が減少し、ラックブッシュの軸方向位置が定まらない、即ち前記した突起部が係止溝から外れ易いという不都合があった。この発明は上記課題を解決することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この発明は上記課題を解決するもので、請求項1の発明は、ラック・ピニオン式ステアリング装置のラック軸をラックハウジングに保持するラックブッシュにおいて、前記ラックブッシュは、略円筒状のラックブッシュ本体の軸方向に沿って伸びた複数のスリットにより基部を構成するリング部を除いて複数のセグメントに分割され、当該セグメントの自由端にはラックハウジングの係止部に嵌合する突起部が形成され、隣接するセグメント相互はスリットに形成された薄肉部により連結されていることを特徴とするラック・ピニオン式ステアリング装置のラックブッシュ。
【0016】
そして、前記ラックブッシュ本体は、その円筒軸方向両端部から中央部に向けて内径が次第に小さく形成されているものとする。
【0017】
そして、前記スリットは、前記リング部を除いたラックブッシュ本体の全長にわたり軸方向に沿って伸びたスリットである。
【0018】
そして、前記薄肉部は、前記ラックブッシュ本体の全長にわたり伸びたスリットの全長にわたり形成されている。
【0019】
また、前記薄肉部は、前記ラックブッシュ本体の全長にわたり伸びたスリットの全長の一部に形成されていてもよい。
【0020】
請求項6の発明は、ラック・ピニオン式ステアリング装置のラック軸をラックハウジングに保持するラックブッシュにおいて、前記ラックブッシュは、略円筒状のラックブッシュ本体の軸方向に沿って伸びた複数のスリットにより基部を構成するリング部を除いて複数のセグメントに分割され、当該セグメントの自由端にはラックハウジングの係止部に嵌合する突起部が形成され、前記複数のセグメントに分割されたラックブッシュ本体の突起部形成部の内側には、セグメントを半径方向外側に向け付勢する弾性を有する環状部材が装着されていることを特徴とするラック・ピニオン式ステアリング装置のラックブッシュである。
【0021】
そして、前記環状部材は、合成樹脂製の環状部材である。
【0022】
また、前記環状部材は、金属製のコイルばねであってもよい。
【0023】
そして、前記環状部材は、ラックブッシュ本体に挿入されるラック軸との間に、非接触状態を維持できるクリアランスが形成されているものとする。
【発明の効果】
【0024】
請求項1の発明によれば、ラックブッシュに形成された複数のスリットに薄肉部を形成し、複数に分割されたセグメントの隣接セグメント相互を薄肉部により連結したので、ラックブッシュの剛性が高まって変形しにくくなり、ラックブッシュの突起がラックハウジングの係止溝にしっかり係合するから、ラックブッシュが装着位置からずれることがない。
【0025】
また、請求項6の発明によれば、ラックブッシュ本体の突起部形成部の内側に、セグメントを半径方向外側に向け付勢する弾性を有する環状部材を装着したので、ラックブッシュの突起はラックハウジングの係止溝に押圧されて強く係合するから、ラックブッシュが装着位置からずれることがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、この発明の実施の形態について説明する。
【0027】
ラック軸を収容したラックハウジングの構成、及びラック軸を収容したラックハウジングにラックブッシュを装着し、ラックブッシュにラック軸を保持する構成は、先に図10、図11、図12を参照して説明した従来の構成と変らないので、ここでは説明を省略し、この発明に係るラックブッシュの構成について説明する。ラックブッシュには複数の実施の形態があるので、以下、順次説明する。
【0028】
[第1の実施の形態]
図1は、第1の実施の形態のラックブッシュの構成を説明する図で、図1(a)はラックブッシュ10の外観正面図、図1(b)は図1(a)のA−A線に沿った断面図、図1(c)は図1(b)のB−B線に沿った断面図、図1(d)はスリット部分の拡大図である。
【0029】
第1の実施の形態のラックブッシュ10は、全体が略円筒状に形成され、略円筒状の本体11aは、その円筒軸方向の中央部の内径が、挿入されるラック軸の外径よりも僅かに細径に形成されている。
【0030】
また、略円筒状の本体11aには、120°間隔で形成された円筒軸方向に長く伸びた長さSの3個のスリット11c1、11c2、11c3により3個のセグメント11a1、11a2、11a3が形成され、隣接するセグメント11a1と11a2、11a2と11a3、11a3と11a1は、それぞれスリットの底面に形成された薄肉部分11cx、11cy、11czで相互に連結されている。
【0031】
スリット11c1〜11c3の円筒軸方向の長さSと、スリットの底面に形成された薄肉部分11cx〜11czの円筒軸方向の長さF1とは等しい。
【0032】
このほか、セグメント11a1〜11a3の先端にはリング部13dが形成され、セグメント相互が連結されている。
【0033】
そして、略円筒状の本体11aの3個のセグメント11a1、11a2、11a3には、セグメント相互を連結するリング部13dと反対側に、それぞれ3個の突起12b1、12b2、12b3が120°間隔で形成されている。3個のスリット11c1〜11c3と3個の突起12b1〜12b3とは、それぞれ60°間隔で隣接している。
【0034】
一方、図示しないラックハウジングのラックブッシュが装着される附近には、ラックブッシュの突起12b1〜12b3が嵌合する係止溝が形成されている。この構成は先に図12を参照して説明した構成と同じである。
【0035】
ラックブッシュ10のラックハウジングへの固定方法を説明する。まず、図示しないラックハウジングにラックブッシュ10を挿入し、ラックブッシュ10の突起12b1〜12b3をラックハウジングの係止溝に仮嵌合させる。ラック軸をラックブッシュ10に挿入すると、ラックブッシュ10の円筒軸方向の中央部の内径が、ラック軸の外径よりも僅かに細径に形成されているから、ラックブッシュ10のセグメント11a1〜11a3が半径方向に押し拡げられ、セグメント11a1〜11a3上の突起12b1〜12b3がラックハウジングの係止溝にしっかりと本嵌合して固定される。
【0036】
ラックブッシュ10のセグメント11a1〜11a3をリング部13dのほか、スリット11c1〜11c3の底面に形成された薄肉部分11cx、11cy、11czで相互に連結することで、ラックブッシュ10の剛性が高まり、セグメント11a1〜11a3上の突起12b1〜12b3の位置も確実に保持されるから、突起12b1〜12b3のラックハウジングの係止溝への嵌合を確実に行うことができる。
【0037】
[第2の実施の形態]
図2は、第2の実施の形態のラックブッシュの構成を説明する図で、図2(a)はラックブッシュ20の外観正面図、図2(b)は図1(a)のA−A線に沿った断面図、図2(c)は図2(b)のB−B線に沿った断面図、図2(d)はスリット部分の拡大図である。
【0038】
第2の実施の形態のラックブッシュ20は、上記した第1の実施の形態のラックブッシュ10と類似した構成を備えている。即ち、ラックブッシュ20は全体が略円筒状に形成され、略円筒状の本体21aは、その円筒軸方向の中央部の内径が、挿入されるラック軸の外径よりも僅かに細径に形成されている。
【0039】
また、略円筒状の本体21aには、120°間隔で形成された円筒軸方向に長く伸びた長さSの3個のスリット21c1、21c2、21c3により3個のセグメント21a1、21a2、21a3が形成されている点、セグメント21a1〜21a3の先端にリング部23dが形成され、セグメント相互が連結されている点では類似しているが、隣接するセグメント21a1と21a2、21a2と21a3、21a3と21a1は、それぞれスリットの底面の一部に形成された円筒軸方向の長さF2(F2<F1)の薄肉部分21cx、21cy、21czで相互に連結されている点で相違する。
【0040】
即ち、第2の実施の形態のラックブッシュ20は、円筒軸方向に伸びたスリットの一部が円筒軸方向の長さF2(F2<F1)の薄肉部分21cx、21cy、21czで相互に連結されている点で相違するが、その他の部分は第1の実施の形態のラックブッシュと変らないから、その構成及び装着方法の詳細な説明は省略する。
【0041】
ラックブッシュ20のセグメント21a1〜21a3をリング部23dのほか、スリット21c1〜21c3の底面に形成された薄肉部分21cx、21cy、21czで相互に連結することで、ラックブッシュ20の剛性が高まり、セグメント21a1〜21a3上の突起22b1〜22b3の位置も確実に保持されるから、ラックハウジングの溝への嵌合を確実にすることができる。
【0042】
[第3の実施の形態]
図3は第3の実施の形態のラックブッシュ30の構成を説明する図で、図3(a)はラックブッシュ30の平面図、図3(b)はその断面図、図4はラックブッシュ30をラックハウジング50に装着した状態を示す断面図、図5はラックブッシュ30にラック軸60を挿入し、ラックハウジング50に装着した状態を示す断面図である。
【0043】
第3の実施の形態のラックブッシュ30は、全体が略円筒状に形成され、略円筒状の本体31aは、その円筒軸方向の中央部の内径が、挿入されるラック軸の外径よりも僅かに細径に形成されている。
【0044】
また、略円筒状の本体31aには、120°間隔で形成された円筒軸方向に長く伸びた長さSの3個のスリット31c1、31c2、31c3により3個のセグメント31a1、31a2、31a3が形成されており、3個のセグメント31a1、31a2、31a3には、セグメント相互を連結するリング部33dと反対側に、それぞれ3個の突起32b1、32b2、32b3が120°間隔で形成され。3個のスリット31c1〜31c3と3個の突起32b1〜32b3とは、それぞれ60°間隔で隣接している点では、第1及び第2の実施の形態のラックブッシュと類似した構成を備えている。
【0045】
ラックブッシュ30には、略円筒状の本体31aの外周面に形成された突起32b1〜32b3に対応する内周面に樹脂リング34が嵌装され、突起32b1〜32b3を備えたセグメント31a1〜31a3が半径方向外側に押し広げるように付勢されている。樹脂リング34には、円周方向に切れ目34aが入っていてもよく、切れ目無しでもよい。円周方向の切れ目34aを設けると、樹脂リング34をラックハウジング50に装着するときや、ラックブッシュ30の内周面に装着するとき、樹脂リング34の縮径が容易となり装着しやすくなる。
【0046】
また、樹脂リング34は、ラックブッシュ30に予め装着しておいてもよく、また、ラックハウジング50に樹脂リングなしのラックブッシュ30を装着した後、樹脂リング34を所定位置に装着してもよい。
【0047】
ラックブッシュ30の樹脂リング装着部の内径d1とラック軸60の外径d2との間のクリアランスCを、樹脂リング34の半径方向の厚みTよりも小さく設定し、樹脂リング34の脱落を防止するものとする。
【0048】
一方、ラックハウジング50のラックブッシュが装着される附近には、ラックブッシュ30の突起32b1〜32b3が嵌合する係止溝51が形成されている。この構成は先に図12を参照して説明した構成と同じである。
【0049】
ラックブッシュ30のラックハウジング50への固定方法を説明する。まず、ラックハウジング50に樹脂リング34が装着されたラックブッシュ30を挿入すると、樹脂リング34の弾性反撥力によりラックブッシュ30の突起32b1〜32b3がラックハウジング50の係止溝51に嵌合し、ラックブッシュ30は仮嵌合される(図4参照)。
【0050】
或いは、ラックハウジング50に樹脂リングなしのラックブッシュ30を挿入し、ラックブッシュ30の突起32b1〜32b3をラックハウジング50の係止溝51に係止してから樹脂リング34をラックブッシュ30に装着すると、樹脂リング34の弾性反撥力によりラックブッシュ30の突起32b1〜32b3がラックハウジング50の係止溝51に嵌合し、ラックブッシュ30は仮嵌合される(図4参照)。
【0051】
ラック軸60をラックブッシュ30に挿入すると、ラックブッシュ30の円筒軸方向の中央部の内径が、ラック軸の外径よりも僅かに細径に形成されているから、ラックブッシュ30のセグメント31a1〜31a3が半径方向に押し拡げられ、セグメント31a1〜31a3上の突起32b1〜32b3がラックハウジング50の係止溝51にしっかりと本嵌合して固定される(図5参照)。
【0052】
[第4の実施の形態]
図6は第4の実施の形態のラックブッシュ40の構成を説明する図で、図6(a)はラックブッシュ40の平面図、図6(b)はその断面図、図7はラックブッシュ40をラックハウジング50に装着した状態を示す断面図、図8はラックブッシュ40にラック軸60を挿入し、ラックハウジング50に装着した状態を示す断面図である。
【0053】
第4の実施の形態のラックブッシュは、前記した第3の実施の形態のラックブッシュ30の樹脂リング34を金属製コイルばね44の置き換えたもので、その他の構成は第3の実施の形態のラックブッシュと変らない。
【0054】
第4の実施の形態のラックブッシュ40は、全体が略円筒状に形成され、略円筒状の本体41aは、その円筒軸方向の中央部の内径が、挿入されるラック軸の外径よりも僅かに細径に形成されている。
【0055】
また、略円筒状の本体41aには、120°間隔で形成された円筒軸方向に長く伸びた長さSの3個のスリット41c1、41c2、41c3により3個のセグメント41a1、41a2、41a3が形成されており、3個のセグメント41a1、41a2、41a3には、セグメント相互を連結するリング部43dと反対側に、それぞれ3個の突起42b1、42b2、42b3が120°間隔で形成され。3個のスリット41c1〜41c3と3個の突起42b1〜42b3とは、それぞれ60°間隔で隣接している。
【0056】
ラックブッシュ40には、略円筒状の本体41aの外周面に形成された突起42b1〜42b3に対応する外周面に、金属製コイルばね44が嵌装され、突起42b1〜42b3を備えたセグメント41a1〜41a3を半径方向外側に押し広げるように付勢されている。金属製コイルばね44の捲回数は任意である。
【0057】
金属製コイルばね44は、ラックブッシュ40に予め装着しておいてもよく、また、ラックハウジング50に金属製コイルばねなしのラックブッシュ40を装着した後、金属製コイルばね44を所定位置に装着してもよい。
【0058】
金属製コイルばね44は決してラック軸60に接触しないように、金属製コイルばね44の内径とラック軸60との間には十分なクリアランスを設けるものとする。
【0059】
一方、ラックハウジング50のラックブッシュが装着される附近には、ラックブッシュ40の突起42b1〜42b3が嵌合する係止溝51が形成されている。この構成は先に図12を参照して説明した構成と同じである。
【0060】
ラックブッシュ40のラックハウジング50への固定方法を説明する。まず、ラックハウジング50に金属製コイルばね44が装着されたラックブッシュ40を挿入すると、金属製コイルばね44の弾性反撥力によりラックブッシュ40の突起42b1〜42b3がラックハウジング50の係止溝51に嵌合し、ラックブッシュ40は仮嵌合される(図7参照)。
【0061】
或いは、ラックハウジング50に金属製コイルばねなしのラックブッシュ40を挿入し、ラックブッシュ40の突起42b1〜42b3をラックハウジング50の係止溝51に係止してから金属製コイルばね44をラックブッシュ40に装着すると、金属製コイルばね44の弾性反撥力によりラックブッシュ40の突起42b1〜42b3がラックハウジング50の係止溝51に嵌合し、ラックブッシュ40は仮嵌合される(図7参照)。
【0062】
ラック軸55をラックブッシュ40に挿入すると、ラックブッシュ40の円筒軸方向の中央部の内径が、ラック軸の外径よりも僅かに細径に形成されているから、ラックブッシュ40のセグメント41a1〜41a3が半径方向に押し拡げられ、セグメント41a1〜41a3上の突起42b1〜42b3がラックハウジング50の係止溝51にしっかりと本嵌合して固定される(図8参照)。
【0063】
上記第3及び第4の実施の形態では、ラックブッシュのセグメント相互を連結する薄肉部分はないものとして説明したが、必要に応じて薄肉部分を設けてもよい。
【0064】
以上この発明の複数の実施の形態について説明したが、いずれの実施の形態もラックハウジングに係止溝が形成されており、この係止溝にラックブッシュの突起が嵌合して固定される例で説明した。しかし、図9に示すように、ラックコラム70に複数、例えば3個の係止孔71を設け、この係止孔71にラックブッシュの突起が嵌合して固定する構成にも適用することができることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0065】
ラック・ピニオン式のステアリング装置のラック軸をラックハウジングの保持するラックブッシュであって、ラックブッシュの突起がラックハウジングの係止溝から外れにくく、本来の装着位置からずれないラックブッシュを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】第1の実施の形態のラックブッシュの構成を説明する図。
【図2】第2の実施の形態のラックブッシュの構成を説明する図。
【図3】第3の実施の形態のラックブッシュの構成を説明する図。
【図4】図4に示すラックブッシュをラックハウジングに装着した状態を示す断面図。
【図5】図4に示すラックブッシュにラック軸を挿入し、ラックハウジングに装着した状態を示す断面図。
【図6】第4の実施の形態のラックブッシュの構成を説明する図。
【図7】図6に示すラックブッシュをラックハウジングに装着した状態を示す断面図。
【図8】図6に示すラックブッシュにラック軸を挿入し、ラックハウジングに装着した状態を示す断面図。
【図9】複数の係止孔を設けたラックコラムを説明する図。
【図10】従来のラック軸を収容したラック・ピニオン式ステアリング装置の外観図。
【図11】従来のラック軸を収容したラックハウジングのラックブッシュ附近の断面図。
【図12】従来のラックハウジングの構成を説明する断面図。
【図13】従来のラックブッシュの構成を説明する図。
【符号の説明】
【0067】
10 第1の実施の形態のラックブッシュ
11a 本体(略円筒状の本体)
11a1、11a2、11a3 セグメント
11c1、11c2、11c3 スリット
11cx、11cy、11cz 薄肉部分
12b1、12b2、12b3 突起
13d リング部
20 第2の実施の形態のラックブッシュ
21a 本体(略円筒状の本体)
21a1、21a2、21a3 セグメント
21c1、21c2、21c3 スリット
21cx、21cy、21cz 薄肉部分
22b1、22b2、22b3 突起
23d リング部
30 第3の実施の形態のラックブッシュ
31a 本体(略円筒状の本体)
31a1、31a2、31a3 セグメント
31c1、31c2、31c3 スリット
32b1、32b2、32b3 突起
33d リング部
34 樹脂リング
34a 切れ目(樹脂リングの切れ目)
40 第4の実施の形態のラックブッシュ
41a 本体(略円筒状の本体)
41a1、41a2、41a3 セグメント
41c1、41c2、41c3 スリット
42b1、42b2、42b3 突起
43d リング部
44 金属製コイルばね
50 ラックハウジング
51 係止溝
60 ラック軸
70 ラックコラム
71 係止孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラック・ピニオン式ステアリング装置のラック軸をラックハウジングに保持するラックブッシュにおいて、
前記ラックブッシュは、略円筒状のラックブッシュ本体の軸方向に沿って伸びた複数のスリットにより基部を構成するリング部を除いて複数のセグメントに分割され、当該セグメントの自由端にはラックハウジングの係止部に嵌合する突起部が形成され、隣接するセグメント相互はスリットに形成された薄肉部により連結されていること
を特徴とするラック・ピニオン式ステアリング装置のラックブッシュ。
【請求項2】
前記ラックブッシュ本体は、その円筒軸方向両端部から中央部に向けて内径が次第に小さく形成されていること
を特徴とする請求項1に記載のラック・ピニオン式ステアリング装置のラックブッシュ。
【請求項3】
前記スリットは、前記リング部を除いたラックブッシュ本体の全長にわたり軸方向に沿って伸びたスリットであること
を特徴とする請求項1に記載のラック・ピニオン式ステアリング装置のラックブッシュ。
【請求項4】
前記薄肉部は、前記ラックブッシュ本体の全長にわたり伸びたスリットの全長にわたり形成されていること
を特徴とする請求項3に記載のラック・ピニオン式ステアリング装置のラックブッシュ。
【請求項5】
前記薄肉部は、前記ラックブッシュ本体の全長にわたり伸びたスリットの全長の一部に形成されていること
を特徴とする請求項3に記載のラック・ピニオン式ステアリング装置のラックブッシュ。
【請求項6】
ラック・ピニオン式ステアリング装置のラック軸をラックハウジングに保持するラックブッシュにおいて、
前記ラックブッシュは、略円筒状のラックブッシュ本体の軸方向に沿って伸びた複数のスリットにより基部を構成するリング部を除いて複数のセグメントに分割され、当該セグメントの自由端にはラックハウジングの係止部に嵌合する突起部が形成され、
前記複数のセグメントに分割されたラックブッシュ本体の突起部形成部の内側には、セグメントを半径方向外側に向け付勢する弾性を有する環状部材が装着されていること
を特徴とするラック・ピニオン式ステアリング装置のラックブッシュ。
【請求項7】
前記環状部材は、合成樹脂製の環状部材であること
を特徴とする請求項6に記載のラック・ピニオン式ステアリング装置のラックブッシュ。
【請求項8】
前記環状部材は、金属製のコイルばねであること
を特徴とする請求項6に記載のラック・ピニオン式ステアリング装置のラックブッシュ。
【請求項9】
前記環状部材は、ラックブッシュ本体に挿入されるラック軸との間に、非接触状態を維持できるクリアランスが形成されていること
を特徴とする請求項6に記載のラック・ピニオン式ステアリング装置のラックブッシュ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−126715(P2008−126715A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−310960(P2006−310960)
【出願日】平成18年11月17日(2006.11.17)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】