説明

ラノスタ−8,24−ジエン−3−オールの薬学的使用

本発明は、概して、セリン−トレオニンプロテインキナーゼ、具体的には、PKCの混乱した活性化の阻害による抗炎症薬、抗発癌性薬および鎮痛薬としての、四環式テルペノールファミリーであるラノスタ−8,24−ジエン−3−オールの薬学的使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、特定のタイプの癌の増殖にその活性が関連している特定の酵素の阻害による抗炎症薬、抗発癌性薬および/または鎮痛薬としての、四環式テルペノールファミリーであるラノスタ−8,24−ジエン−3−オールの薬学的使用に関する。
【0002】
以下の文中において、ラノスタ−8,24−ジエン−3−オールファミリーのメンバーであるユーホル(euphol)という化合物が、しばしば挙げられるであろうが、これは、単に言及を容易にするために行われていると理解されるはずであり、この理由で、他のラノスタ−8,24−ジエン−3−オール化合物で、本発明から除外されるものはない。
【背景技術】
【0003】
癌は、組織および器官に侵入する細胞の無秩序な成長を共通して有する100を超える疾患の群に与えられた名称であり、そしてそれは、転移として知られるが、他の身体領域へ広がることがありうる。
【0004】
異なったタイプの癌は、体細胞のいろいろなタイプに対応する。例えば、皮膚は、二つ以上のタイプの細胞によって形成されているので、いくつかのタイプの皮膚癌が存在する。癌が、皮膚または粘膜などの上皮組織において始まる場合、それを癌腫と称する。それが、骨、筋肉または軟骨などの結合組織で始まる場合、それを肉腫と称する。一つの癌を他と区別する他の特性は、細胞増加速度、およびその起原の近くのまたはそこから遠い他の組織および器官に侵入するそれらの能力である。
【0005】
C型プロテインキナーゼ(PKC)は、その機能および調節が極めて保存的である一群のプロテインキナーゼを含む。キナーゼは、ホスホトランスフェラーゼとも称され、それらは、それらの基質からセリン残基およびトレオニン残基をリン酸化し(phosphorilate)、そして遺伝子発現、有糸分裂、細胞運動、代謝およびプログラムされた細胞死(アポトーシス)を含めたいろいろな細胞活性を調節する。PKCは、活性化される前にリン酸化(phosphorilation)されるが、このような過程は、原形質膜へのサイトゾルのトランスロケーション中に起こる。それらの活性化および原形質膜へのサイトゾルトランスロケーションは、ジアシルグリセロール(DAG)の一時的増加に応答して、または植物中に典型的に存在するホルボールエステルとして知られる外因性物質に応答して起こる。
【0006】
PKCファミリーは、次の三つの下位区分に分けられる12種類のイソ型を含む。通常型(カルシウム依存性で且つDAGおよびホスファチジルセリンによって活性化されるcPKC)、原型(カルシウム非依存性であるが、DAGおよびホスファチジルセリンによって活性化されるnPKC)および非定型(カルシウム非依存性で且つホスファチジルセリンによって活性化されるが、DAGによって活性化されないaPKC)。単細胞中では、それらイソ型は、細胞膜へのトランスロケーション前と後で、それらの分布に相違を示すので、参考文献は、特定の細胞に関連した各々のイソ型の機能が、膜および核の細胞質(citoplasmatic)区画中のPKCの細胞下場所の相違によって与えられるかもしれないということを示唆している。
【0007】
近年、いくつかの研究は、関節リウマチ、多発性硬化症、大腸炎および異なったタイプの癌を含めた病的過程の発生と、PKCの混乱した活性化との間の関係を示してきた。癌へのPKC関与についての仮説は、特に、それら酵素が、腫瘍の天然プロモーターであるホルボールエステルの基質であるという知見に基づいて、最近大いに注目されてきた。PKCを含めたセリン−トレオニンプロテインキナーゼのまたはそれらによってモジュレーションされる転写因子の増加したまたは減少した活性化は、細胞の無秩序な成長を引き起こして、癌過程を誘発することがありうる。その意味で、多くの研究は、PKCの活性化後に、転写因子、特に、核内因子 Kappa B(NF−κB)およびアクチベータータンパク質1(AP−1)のリン酸化の増加が起こり、それが、順次、シクロオキシゲナーゼ(ciclooxigenase)−2(COX−2)を含めた腫瘍の進行に重要ないくつかのタンパク質の発現をモジュレーションするということを示した。このようにして、このような細胞内経路、天然化合物の活性化または遮断は、異常な細胞の成長および増殖を妨げることができる。
【0008】
ホルボールエステルは、四環式ジテルペンから誘導されるが、トウダイグサ科(Euphorbiaceae)およびジンチョウゲ科(Thymelaceae)植物科に限られていると考えられる。このような化合物は、それらの特別な腫瘍促進性誘因および炎症誘発作用ゆえに、しばしば研究されている。ホルボールエステルの腫瘍促進性誘因を調節する分子機構は、炎症活性の引き金を引く機構とは異なる。その腫瘍促進性誘因は、PKCの活性化においてDAGを置き換えるそれらの能力に関連していると考えられるし、そして更に、RNAおよびDNAタンパク質の合成を刺激して、マイトジェン物質として挙動し且つ細胞成長を刺激するそれらの能力にも関連していると考えられる。炎症誘発活性について、ホルボールエステルは、リン脂質を動態化し、アラキドン酸を遊離し、そしてプロスタグランジン分泌を引き起こして、組織の炎症応答をもたらす。ホルボールエステル、特に、TPA(テトラデカノイルホルボール−13−アセテート)の局所適用は、炎症過程および癌に関係した分子機構を理解することに貢献した。
【0009】
いくつかのPKC阻害剤を、異なった相の前臨床試験における癌の処置について調べた。それらの内の一つは、エンザスタウリン(enzastaurin)(LY317615)であり、それは、経口投与された時の重要な活性と、in vitro および in vivo の異なった癌モデルにおける効力を示す(Journal of Investigative Dermatology (2006) 126, 1641-1647; Cancer Res (2005) 65:7462-7469; Mol Cancer Ther. (2006) 5:1783-1789)。
【0010】
NSAID(非ステロイド性抗炎症薬)およびステロイド性薬(コルチコイド)での抗炎症性疾患の処置における主な問題は、それらによる副作用およびそれらの全くの無効力である。最も頻繁に報告される副作用は、頭痛、胃痛、嘔吐、下痢、胃潰瘍および十二指腸潰瘍などの胃疾患である。コルチコイドは、血圧を上昇させ、無力症(asteny)およびミオパシー、消化性潰瘍、点状出血(petechies)、紅斑、■瘡、慢性頭痛、多毛症、小児の成長抑制(長期にわたる処置の場合)、無月経、白内障および緑内障、食欲および体重増加、悪心を引き起こすことがありうる。COX−2の選択肢であるNSAIDも、重症の血栓性心臓血管イベント、冠状動脈血栓症および脳卒中のリスクを増加させることがありうる。
【0011】
癌に有効な処置について、難しいことは、悪性体細胞と正常体細胞との区別を決定することである。それらは、同じ起原を共有し且つ極めて似ていて、脅威に直面した免疫系の側に認識の欠如をもたらす。今まで、癌は、外科手術、化学療法、放射線療法および免疫療法(単クローン性抗体療法)によって処置されてきた。処置の選択は、腫瘍の場所、程度、および病期、並びに患者の全身状態に依存する。残りの生体への損傷を伴わない腫瘍の完全な除去が、その処置の主要目的であり、それは、時々、外科手術によって得ることができるが、隣接した組織に侵入するまたは遠隔部位へ伝播する(転移)疾患の傾向は、しばしば、その効力を制限する。化学療法の効力は、しばしば、生体の他の細胞への毒性によって制限されるし、放射線療法は、正常組織を損傷することがありうる。免疫療法の場合、癌細胞は、処置耐性として知られる現象である、免疫応答を免れる機構を生じる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Journal of Investigative Dermatology (2006) 126, 1641-1647
【非特許文献2】Cancer Res (2005) 65:7462-7469
【非特許文献3】Mol Cancer Ther. (2006) 5:1783-1789
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0013】
先行技術を考慮して、本発明は、癌細胞の増殖にその活性が関連している酵素、具体的には、PKCの阻害のための、ラノスタ−8,24−ジエン−3−オールの使用を提供する。したがって、本発明は、更に、今まで知られている欠点を有意に伴うことなく、腫瘍、炎症および/または疼痛の有効な処置に用いるためのラノスタ−8,24−ジエン−3−オールに関する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、被験化合物の適用前と後との耳厚みの相違を時間に沿って示す。
【図2】図2は、3種類の被験組成物の吸光度を示す。白枠:正対照、すなわち、3:1のアセトン:エタノールの混合物を含むビヒクル中に2,5μg/耳のTPA(テトラデカノイルホルボール−13−アセテート);黒枠:負対照、すなわち、3:1のアセトン:エタノールの混合物であるビヒクル;および灰色枠:3:1のアセトン:エタノールの混合物を含むビヒクル中に100μg/耳のユーホルおよび2,5μg/耳のTPAの混合物。
【図3A】図3Aは、各々の被験化合物の応答の時間対頻度のグラフである。
【図3B】図3Bは、各々の被験化合物の間の比較百分率を与える図3Aの曲線下面積の表示である。
【図4A】図4Aは、各々の被験化合物の応答の時間対頻度のグラフである。
【図4B】図4Bは、各々の被験化合物の間の比較百分率を与える図4Aの曲線下面積の表示である。
【図4C】図4Cは、各々の被験化合物の間の比較百分率を与える図4Aの曲線下面積の表示である。
【図5A】図5Aは、各々の被験化合物の応答の時間対頻度のグラフである。
【図5B】図5Bは、各々の被験化合物の間の比較百分率を与える図4Aの曲線下面積の表示である。
【図5C】図5Cは、各々の被験化合物の間の比較百分率を与える図4Aの曲線下面積の表示である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
適当なラノスタ−8,24−ジエン−3−オールは、他をいずれも除外することなく、ユーホル、チルカロル(tirucallol)およびラノステロール、それらの異性体、誘導体(具体的には、アセテート)、溶媒和化合物または水和物である。ラノスタ−8,24−ジエン−3−オールは、例えば、Euphorbiaceae 植物から得ることができるし、または化学合成によって得ることができるが、その経路は本発明に不適当である。
【0016】
したがって、第一の側面において、本発明は、セリン−トレオニンプロテインキナーゼのまたはそれらによってモジュレーションされる転写因子の増加したまたは減少した活性化を阻害する医薬組成物の製造のための、ラノスタ−8,24−ジエン−3−オールの使用に関する。本発明の化合物は、このようなキナーゼ、具体的には、PKC(プロテインキナーゼC)の活性化を阻害するが、その活性は、癌細胞に関連していることが知られている。更に具体的には、それらキナーゼによってモジュレーションされる転写因子は、核内因子 Kappa B(NF−κB)および/またはアクチベータータンパク質1(AP−1)を含む。
【0017】
本発明のラノスタ−8,24−ジエン−3−オール並びにそれらを含む組成物は、処置を必要としている対象へ、経口、局所、経皮、皮下、腹腔内、静脈内、浸潤で、吸入で、経皮、経粘膜、筋肉内、肺内、膣、直腸、眼内および舌下を含めた経腸または非経口のいずれか適当な方法で投与することができる。本発明における具体的に適当な投与方法は、局所および全身(浸潤、経口、スプレーでの吸入、経皮)投与である。本発明のラノスタ−8,24−ジエン−3−オールは、徐放または制御放出組成物中に含まれうる。既知のアジュバントおよび賦形剤は、このような組成物中で利用することができる。本発明に関する組成物に有用な医薬投与形態についての論及は、Remington's Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing, 1965-1990 という公報に見出されうる。
【0018】
そのファミリーの他の化合物をいずれも除外することなく、適当なラノスタ−8,24−ジエン−3−オールは、一つまたはそれを超えるユーホル(RN514−47−6)、チルカロル(RN514−46−5)およびラノステロール(RN79−63−0)、より具体的には、ユーホルである。
【0019】
別の側面において、本発明は、腫瘍および/または炎症および/または疼痛(侵害受容応答)の処置用の医薬組成物の製造のための、ラノスタ−8,24−ジエン−3−オールまたはそれを含む組成物の使用に関する。
【0020】
本発明の組成物は、固形剤、液状剤または半液状剤、錠剤、カプセル剤、丸剤、散剤、顆粒剤、懸濁剤、乳剤、分散剤およびいずれか他の有用な既知の薬学的に許容しうる形として患者へ投与することができる。それら組成物は、所望の作用に依存して、追加の活性剤、例えば、抗生物質を含有すると考えられる。錠剤またはカプセル剤(軟および硬双方のカプセル剤)としての経口投与には、ラノスタ−8,24−ジエン−3−オールを、ラクトース、デンプン、スクロース、グルコース、メチルセルロース、ステアリン酸マグネシウム、リン酸二カルシウム、リン酸カルシウム、マンニトール、ソルビトールおよび同様のものなどの薬学的に許容しうる不活性ビヒクルと一緒にすることができる;液状形での経口投与には、ラノスタ−8,24−ジエン−3−オールを、エタノール、グリセロール、水および同様のものと一緒にすることができる。望まれるまたは必要な場合、凝集剤、滑沢剤、崩壊剤、着色剤および芳香剤を、その混合物に加えることができる。一般的な凝集剤は、グルコース、[β]−ラクトース、トウモロコシ甘味料、アラビアゴム、トラガカント、アルギン酸ナトリウムなどの天然または合成のガム、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコール、ロウおよび同様のものである。滑沢剤には、オレイン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、安息香酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウムが含まれる。崩壊剤には、デンプン、メチルセルロース、寒天、ベントナイト、キサンタンガムおよび同様のものが含まれる。
【0021】
本発明の組成物は、更に、リポソームとして、またはビヒクルのような可溶性ポリマーとカップリングした状態で投与することができる。
【0022】
経口投与用の液状剤形は、患者による受容を増加させるために着色剤および甘味剤を含んでよい。水剤形に許容しうるビヒクルは、水、適当な油、生理食塩水溶液、水性デキストロース、他の糖溶液、およびプロピレングリコールまたはポリエチレングリコールのようなグリコール、リン酸緩衝液である。
【0023】
また別の側面において、本発明は、セリン−トレオニンプロテインキナーゼ、より具体的には、PKCの混乱した活性化に関連した哺乳動物の身体状態が、炎症および/または癌および/または疼痛の出現または存在に影響する場合のそれら身体状態のための医学的処置方法であって、その哺乳動物への、その状態の処置用の薬理学的有効量の薬理学的に許容しうる担体または賦形剤中での投与を含む方法に関する。
【実施例】
【0024】
次の実施例は、本発明の具体的な態様であるが、それらは、いずれにせよ、更に与えられる請求の範囲に示されているもの以外のそれを制限するものではない。
【0025】
以下の全ての実施例において、20〜30gの雄マウスを、濾過空気通風ケージ中において、制御温度(22±2℃)および湿度(50〜60%)、12時間明/12時間暗サイクルで、水および食物に自由に接近可能にして保持した。それら被験動物は、8:00〜17:00時に行われる薬理試験前の少なくとも1時間は適応のために実験室中で保持した。
【0026】
以下の全ての実施例において、Graph Pad Prism(登録商標)5.0ソフトウェアでの統計的分析を行った。
【0027】
実施例1
特定の化合物の刺激作用の特性決定を、マウス耳に次で局所処置した結果を比較することによって行った。
【0028】
− 正対照、すなわち、3:1のアセトン:エタノールの混合物を含むビヒクル中に2,5μg/耳のTPA(テトラデカノイルホルボール−13−アセテート);
− 負対照、すなわち、3:1のアセトン:エタノールの混合物であるビヒクル;
− 3:1のアセトン:エタノールの混合物を含むビヒクル中に100μg/耳の本発明の化合物ユーホル;
− 3:1のアセトン:エタノールの混合物を含むビヒクル中に100μg/耳のユーホルおよび2,5μg/耳のTPAの混合物。
【0029】
5メンバーマウス群の耳の内側表面に、上の組成物を局所適用した。耳の厚みを、被験組成物への暴露前と後に、ディジタルマイクロメーターを用いて測定し、そして応答を、mμとして表した。図Iは、被験化合物の適用前と後との耳厚みの相違を時間に沿って示す。
【0030】
それら結果を、図1に示す。
【0031】
理解されうるように、ユーホルで得られた阻害作用は、処置後24時間までも有意であり、炎症への重要な薬物動態作用を示した。
【0032】
実施例2
これは、マウスの皮膚上におけるPKC活性への本発明の化合物の作用の評価であった。被験動物には、次の100μg/耳の組成物を与えた。
【0033】
− 正対照、すなわち、3:1のアセトン:エタノールの混合物を含むビヒクル中に2,5μg/耳のTPA(テトラデカノイルホルボール−13−アセテート);
− 負対照、すなわち、3:1のアセトン:エタノールの混合物であるビヒクル;
− 3:1のアセトン:エタノールの混合物を含むビヒクル中に100μg/耳のユーホルおよび2,5μg/耳のTPAの混合物。
【0034】
5メンバーマウス群の耳の内側表面に、上の組成物を局所適用した。PKC活性を、被験組成物への暴露前と後に、ELISA(固相酵素免疫検定法)を用いて測定した。図2は、上に挙げられた3種類の被験組成物の吸光度を示す。
【0035】
理解されうるように、TPAは、ビヒクルで処置された群に関してPKC活性の有意の増加を促進するが、ユーホルでの処置は、TPAによって誘発されるPKC活性の増加を有意に減少させる。
【0036】
実施例3、4および5−侵害受容
被験動物の侵害受容の機械的閾値を、Von Frey フィラメント(VHF,Stoelting, Chicago, USA)の10回適用後の足引っ込め応答頻度として評価した。被験動物を個々に、9x7x11cm透明アクリル室中の高架金網プラットフォーム上に入れて、足底面に接近可能にした。Von Frey フィラメントを、右後足に適用して、次の判定基準を注視した。(1)全圧を確実にするように、フィラメントを曲げる十分な圧力で底面に垂直に適用;(2)被験動物を、四本足全部が金網上に乗った時に評価した;(3)足引っ込めの応答は、被験動物が金網から足を完全に引っ込めた時とみなした;(4)各々の被験動物を、各1秒の刺激持続で10回連続して刺激した;(5)各々の足引っ込めを、10%の応答とみなし、10回の引っ込めが100%応答に相当した。
【0037】
実施例3−カラゲナン(carragenan)で誘発される炎症性侵害受容
炎症性疼痛の誘因について、各々の被験動物の右後足に、20μlの足底内カラゲナン注射(300μg/足)を行った。0.9%(20μl/足)PBS(リン酸緩衝化生理食塩水)溶液で処置された被験動物を、対照として用いた。カラゲナン投薬量は、注射された足に、浮腫、侵害受容および有意のサイズ増加を生じる。
【0038】
被験動物を、カラゲナン注射の1時間前に、ユーホル(30μg/kg)で経口処置した。カラゲナン注射の4時間前に0.5mg/kgのデキサメタゾンの皮下注射で処置された被験動物を、正対照として用いた。高侵害受容(hypernociception)は、0.6g Von Frey フィラメントで1時間毎に8時間、更には、カラゲナン注射後24時間と48時間後に評価した。
【0039】
それら結果を、図3Aおよび図3Bに示すが、3Aは、各々の被験化合物についての応答の時間対頻度のグラフであり、そして3Bは、それらの間の比較百分率を与える3Aの曲線下面積の表示である。
【0040】
それら図で理解されうるように、ユーホルでの急性処置は、カラゲナンで誘発される炎症性機械的高侵害受容を有意に減少させた。ユーホルは、デキサメタゾンで処置された対照群と同様の侵害受容応答の減少をもたらす。
【0041】
実施例4−CFA(完全フロイントアジュバント)で誘発される持続性炎症性侵害受容
被験動物の足底内に、注射された足の高侵害受容およびサイズの増加を生じる用量である25μlのCFAを注射した(Neuropharmacology, 41:1006-1012, 2001; Anesth Analg., 101:1763-1769, 2005)。
【0042】
被験動物を、CFA注射の1時間前に、30mg/kgのユーホルまたは70mg/kgのガバペンチン(gabapentin)(正対照)で経口処置した。機械的高侵害受容を、0,6g Von Frey フィラメントでの刺激によって、CFA注射後1時間、2時間、4時間、6時間、8時間、24時間および48時間の時間間隔で、そして侵害受容応答を再確定するまで測定した。その後、すなわち、第3日に、長期処置を開始して、ユーホルでの長時間処置を評価した。それについて、被験動物には、30mg/kgのユーホルを経口で5日間毎日与え、そして高侵害受容を、1日1回、最初の投与後4時間に評価した。機械的高侵害受容は、有痛応答が戻るまで評価した。その後、1日1回処置を5日間再開して、化合物への耐性の発生を評価し、そして高侵害受容を、侵害受容応答が戻るまで評価した。
【0043】
それら結果を、図4A、図4Bおよび図4Cに示すが、4Aは、各々の被験化合物の応答の時間対頻度のグラフであり、そして4Bおよび4Cは、それらの間の比較百分率を与える4Aの曲線下面積の表示である。
【0044】
図4Aおよび図4Bで理解されうるように、ユーホルでの急性処置は、CFAで誘発される機械的高侵害受容を、ガバペンチンで得られた作用の近くに有意に減少させた。
【0045】
ユーホルを1日1回5日間投与した場合、CFAで誘発される侵害受容応答の阻害が、処置の翌6日間認められる。機械的高侵害受容は、CFAの注射後第3日〜第24日の曲線によって理解されるように、長時間処置の開始で再度減少した。同様の阻害を、ガバペンチンでの長時間処置で認めた。
【0046】
実施例5−坐骨神経の部分狭窄で誘発される神経障害性疼痛
ここで用いられた手順は、ラットについて記載され(Pain, 43:205-218, 1990)、マウス用に修飾され(Pain, 76:215-222, 1998)、そして Bortolanza et al(Eur J Pharmacol., 453:203-208, 2002)によって標準化されたものと同様であった。マウスを、7%抱水クロラル(0,6%ml/kg足底内)で麻酔した。次に、坐骨神経を、坐骨神経三分枝付近の大腿上に露出させ、そして背側部分の3/1〜2/1を、縫合用フィラメント8番で縛った。偽手術群の場合、坐骨神経を縛ることなく露出させた。術後第4日に、一群の被験動物を、30mg/kgのユーホルで経口処置し、そして別の群を、正対照として70mg/kgのガバペンチンで経口処置した。処置後の所定の時間(1時間、2時間、4時間、6時間、8時間、24時間および48時間)に、機械的閾値を、0,6g Von Frey フィラメントでの刺激によって評価した。長時間処置の作用を評価するために、被験動物に、ユーホルを第6日から5日間毎日投与し、そして機械的高侵害受容を、1日1回、最初の投与後4時間に、対照群と同様の侵害受容応答が戻るまで評価した。その後、長時間処置プロトコールを繰り返して、化合物への耐性の可能な発生を評価した。
【0047】
それら結果は、図5A、図5Bおよび図5Cで理解されうるが、5Aは、各々の被験化合物の応答の時間対頻度のグラフであり、そして5Bおよび5Cは、それらの間の比較百分率を与える4Aの曲線下面積の表示である。
【0048】
図5Aおよび図5Bで理解されうるように、ユーホルまたはガバペンチンでの急性処置は、坐骨神経の部分狭窄で誘発される機械的侵害受容応答を有意に阻害した。
【0049】
同様に、ユーホルまたはガバペンチンでの1日1回の長時間処置は、坐骨神経の部分狭窄で誘発される機械的高侵害受容を、処置から第10日に侵害受容応答へ戻ることで有意に阻害した。
【0050】
本明細書中に示された内容および実施例の助けで、当業者は、同様の結果を得るための同じ関数を用いて、請求の範囲に定義の発明の範囲から逸脱することなく、本発明を均等に再現することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セリン−トレオニンプロテインキナーゼのまたはそれらによってモジュレーションされる転写因子の増加したまたは減少した活性化を阻害する医薬組成物の製造のための、ラノスタ−8,24−ジエン−3−オールの使用。
【請求項2】
前記プロテインキナーゼが、プロテインキナーゼCである、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記転写因子が、核内因子 Kappa B(NF−κB)および/またはアクチベータータンパク質1(AP−1)である、請求項1に記載の使用。
【請求項4】
前記ラノスタ−8,24−ジエン−3−オールが、一つまたはそれを超えるユーホル(euphol)、チルカロル(tirucallol)およびラノステロール、それらの異性体、誘導体、溶媒和化合物または水和物である、請求項1に記載の使用。
【請求項5】
前記ラノスタ−8,24−ジエン−3−オールの誘導体が、アセテートである、請求項4に記載の使用。
【請求項6】
ラノスタ−8,24−ジエン−3−オールが、ユーホルである、請求項1に記載の使用。
【請求項7】
腫瘍、炎症および/または疼痛の処置に用いるためのラノスタ−8,24−ジエン−3−オール。
【請求項8】
前記処置が、腫瘍に関する、請求項7に記載のラノスタ−8,24−ジエン−3−オール。
【請求項9】
前記処置が、炎症に関する、請求項7に記載のラノスタ−8,24−ジエン−3−オール。
【請求項10】
前記処置が、疼痛に関する、請求項7に記載のラノスタ−8,24−ジエン−3−オール。
【請求項11】
セリン−トレオニンプロテインキナーゼ、具体的には、PKCの混乱した活性化に関連した哺乳動物の身体状態のための医学的処置方法であって、該哺乳動物への、該状態の処置用の薬理学的有効量の薬理学的に許容しうる担体または賦形剤中での投与を含む方法。
【請求項12】
前記身体状態が、炎症および/または癌および/または疼痛の出現または存在に影響する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記医学的処置が、腫瘍に関する、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記医学的処置が、炎症に関する、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記医学的処置が、疼痛に関する、請求項11に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【公表番号】特表2011−529956(P2011−529956A)
【公表日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−521646(P2011−521646)
【出願日】平成20年8月5日(2008.8.5)
【国際出願番号】PCT/IB2008/002051
【国際公開番号】WO2010/015874
【国際公開日】平成22年2月11日(2010.2.11)
【出願人】(507397021)
【Fターム(参考)】