説明

ラボオンアチップでの蛍光偏光測定方法及び装置

【課題】ラボオンアチップでの蛍光偏光測定方法及び装置を提供する。
【解決手段】ラボオンアチップで蛍光偏光測定を利用して生分子と蛍光プローブ分子間の相互作用を定量的に測定して、酵素の活性を迅速に分析するラボオンアチップでの蛍光偏光測定方法とその装置を提供する。本発明の測定方法とその装置は、既存の方法に比べて1/100程度の少量の試料を使用した分析が可能で、全自動化された装置によって高速分析が可能であるので、生分子物質間の相互作用の検索と酵素、特に基質として汎用タンパク質であるカゼインを使うプロテアーゼの分析に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラボオンアチップ(Lab−on−a−chip)での蛍光偏光測定システムに関するもので、より詳細には極微量の生分子物質間の相互作用を蛍光偏光で測定する検索用ラボオンアチップでの蛍光偏光測定方法とその装置、並びに検索方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
蛍光測定法は、バイオ関連分析技術の重要な方法であり、その技術としては、蛍光強度、蛍光量変動の統計的分析、蛍光イメージング、蛍光共鳴エネルギー転移(Fluorescence Resonance Energy Transfer, FRET)、蛍光偏光などがあり、 継続して放射性アイソトープを利用した分析法を代替してきている。
【0003】
その中で、蛍光偏光を利用する蛍光偏光(Florescence Polarization, FP)測定法は、ペリン(Perrin)によって考案された。該方法は、蛍光分子の平均回転運動(time-averaged rotation motion)を測定する方法である。前記蛍光分子が励起した状態で回転運動をしない場合には蛍光偏光が発生される反面、前記蛍光分子が前記励起した状態でブラウン運動によって自由に回転する場合にはすべての平面に蛍光を放射して蛍光偏光が消失する原理を利用する。
【0004】
このような前記蛍光偏光度測定法は、分子間相互作用の解析において強力で独特の方法として認められて来た。前記方法は、固体相分離が必要ない直接的な分析法で、分子の大きさによって蛍光偏光度が違う原理を利用して蛍光標識した生体物質の分子間相互作用を高感度で測定することができる。ゆえに生体物質間の結合によって分子量が増加すると蛍光偏光度も増加して、解離や分解によって分子量が減少すれば蛍光偏光度も減少するので、この原理を利用して生体物質間の相互作用を解析することができる。
【0005】
このような蛍光偏光度は、分子の回転時間に反比例し、分子の粘度、絶対温度、分子の大きさに影響を受け、温度と粘度を一定に維持させると蛍光偏光度は分子の大きさに比例した関係を示す。
【0006】
前記蛍光偏光度を測定する蛍光偏光度測定システムは、一般的に単色光が偏光フィルターを通過して試料チューブ中の蛍光性分子を励起すると、同じ偏光面に配向している分子だけが光を吸収して励起され、その後、光を放射するとこの放射光を励起光に対して垂直及び水平な両平面で測定する方式により構成される。
【0007】
前記蛍光偏光度は、この測定値を利用して、
FP = {IVV − IVHG}/{IVV + IVHG}
IVV : 垂直蛍光強度
IVH : 水平蛍光強度
G : G要素 (= IVV/IVH)
のように計算され、励起から放射までの間に分子が回転した程度を示す。
【0008】
前記蛍光偏光度測定法を大量分析に利用するためには、ウェルプレートで処理した試料の蛍光偏光を蛍光顕微鏡の原理を利用して走査(scanning)方式で測定する方法が広く使用されている。ここで、消耗する試料の量は、96ウェルプレートの場合は100μl、384ウェルプレートの場合は40μl程度である。
【0009】
従来の毛細管電気泳動で生体分子複合体を分離した後、蛍光偏光を測定するシステムは、分離した複合体を六面体模様のキュベットセルに捕集して垂直及び水平な両平面で蛍光強度を測定して蛍光偏光を求めるものである。前記システムは、電気泳動毛細管で生分子物質等を分離した後、測定する二工程で構成され比較的大きいキュベットセル(0.2mm×0.2mm)を利用するので、相当量の分離した複合体を捕集して使用しなければならない問題点がある(非特許文献1参照)。
【0010】
また他の従来の蛍光偏光測定システムとして、プラスチックチャンネルを使用する方法がある(非特許文献2参照)。
【0011】
前記プラスチックチャンネルを使用したシステムは、分析溶液を蛍光標識された抗体/酵素と混ぜて複合体を形成し、該複合体を直径300〜500μmのプラスチックチャンネル(PDMS Block, Poly Dimethyl Siloxane Block)に流入させた後、常用蛍光測定システムの偏光励起光を照射した後、蛍光偏光を光検出機に放出させて測定するものである(図1参照)。
【0012】
ここで、前記使い捨てプラスチックチャンネルは、貯蔵庫で物質をあらかじめ混ぜた後、直径300〜500μmの大きいサイズのチャンネルに流入させ、従来方式の蛍光偏光システムで測定するもので、測定は易しいがあらかじめ反応物質を混ぜなければならないので、体積約10μl、10〜40nmolの多くの量の試料が消耗されて持続的に流れる試料の反応様相を観察するのに問題がある。また、小型化されたマイクロチャンネルでは後面信号が大きくて蛍光信号測定が難しい問題点がある。
【0013】
一方、ラボオンアチップは、半導体製作工程で使われる写真蝕刻(photolithography)技術を利用して硝子、シリコン、またはプラスチックからなる数平方センチメートル(cm)サイズの基板上にさまざまな装置(試料前処理、反応、試料注入、分離、測定などのための各装置)を集積させたバイオチップの一種で、「一つのチップ上に実験室を乗せた」と言う意味の物理、化学、生物マイクロプロセッサーである。普通「チップの中の実験室」または「チップの上の実験室」と呼ばれる。プラスチック、硝子、珪素(シリコン)等の素材を使用してナノ(10億分の1)リットル以下の微細チャンネルを作って、それを通じて極微量のサンプルや試料だけで既存の実験室でできる実験や研究過程を迅速に代替できるように作成して、高速、高効率、低費用の自動化された実験が可能である。
【0014】
特に、次世代診断装置として注目されていて、このチップを利用すれば一滴の血でも各種癌診断や赤血球及び白血球の細胞数測定が可能である。また、畜産や環境など多様な分野にまで応用分野を拡張することができる高付加価値商品として、2000年以後バイオ技術が急速に発達すると共に注目され始めた。
【0015】
しかし、検索用ラボオンアチップで蛍光偏光度を測定する高出力分析システムは、まだ報告されたことがなく、このシステムを利用すれば高感度で極少量の試料を利用して相互分析が可能である。
【0016】
タンパク質分解酵素の活性を確認して測定するために多様な方法があるが、 沈澱分析(precipitation assay)を利用して上澄液に放出される蛍光または吸光を測定する方法と均一蛍光測定分析(homogeneous fluorometric assay)方法がある。後者の方法では、過剰量の蛍光物質が付着したタンパク質基質を利用してプロテアーゼが作用すれば蛍光強度が大きくなることを測定したり、蛍光物質が少量付着して蛍光強度の変化はないがプロテアーゼの作用によって基質タンパク質が分解されることによって現われる蛍光偏光の減少を測定したりする。この中でも蛍光強度の変化に無関係で安定的に測定可能な蛍光偏光方法を利用すると、多様なプロテアーゼの活性を敏感に特定することができる。現在までラボオンアチップでプロテアーゼの活性を分析する方法は、特定プロテアーゼに対する蛍光物質が付着したペプチド基質を利用するので各々のプロテアーゼに対して特異的な基質を供給しなければならない短所があった。したがって、本発明の実施例で示した、蛍光偏光及び汎用タンパク質基質を利用したラボオンアチップでのプロテアーゼ活性分析システムは、多様なプロテアーゼに対して汎用利用可能な分析システムと言える。
【0017】
以上のことを鑑みて、本発明者らは多様な検索に有利なように試薬消耗量が数pmol 〜数十fmol程度の蛍光偏光測定システムを開発するために努力を重ねた結果、検索用ラボオンアチップでの生分子と蛍光プローブ分子の蛍光偏光を測定する蛍光偏光測定方法及び蛍光偏光測定装置を開発して本発明を完成した。
【0018】
【非特許文献1】Anal. Chem.,2000年,第72巻,5583〜5589頁
【非特許文献2】Anal. Chim. Acta,2004年,第506巻,123〜128頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明の目的は、生分子と蛍光プローブ分子との間の相互作用を定量的に測定するラボオンアチップでの蛍光偏光測定方法を提供することである。
【0020】
また、本発明の目的は、前記蛍光偏光測定方法を利用して生分子の間の複合体形成を誘導または阻害する化合物を検索する方法、または酵素の活性または濃度を測定する方法を提供することである。
【0021】
また、本発明の目的は、マイクロチャンネルでの蛍光偏光測定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明は、生分子と蛍光プローブ分子との間の相互作用を定量的に測定するラボオンアチップでの蛍光偏光測定方法を提供する。
【0023】
また、本発明は、前記蛍光偏光測定方法を利用して生分子の間の複合体形成を誘導または阻害する化合物を検索する方法、または酵素の活性または濃度を測定する方法を提供する。
【0024】
また、本発明は、マイクロチャンネルのための蛍光偏光測定装置を提供する。
【0025】
以下、本発明を詳しく説明する。
本発明は、ラボオンアチップでの蛍光偏光測定方法を提供する。
【0026】
前記方法では、蛍光を印加する偏光された光源を測定しようとする試料が流れるマイクロチャンネルにあてると蛍光物質が励起されて蛍光が発生し、この蛍光を照射した光と同じ方向、照射した光と垂直の方向に分けて測定した後、蛍光偏光を計算、測定して物質間の結合様相を分析する。前記蛍光偏光測定方法は、生分子と蛍光プローブ分子間の、また、生分子間の相互作用を定量的に測定するのに使用できる。
【0027】
前記、ラボオンアチップでの蛍光偏光測定方法は、
1)蛍光プローブ分子及び生分子を準備する工程、
2)ラボオンアチップのマイクロチャンネルに蛍光プローブ分子及び生分子を注入して複合体を形成させる工程、
3)前記複合体に偏光を照射して蛍光偏光を測定する工程、及び
4)前記蛍光偏光を定量化して蛍光偏光度を決定する工程を含む。
【0028】
前記ラボオンアチップは、半導体製作工程で使われる写真蝕刻技術を硝子材質に適用して作ったチップで、その規格は横1〜10cm、縦1〜10cmでマイクロチャンネルの規格は深さ5〜150μm、幅10〜300μm、長さ10〜100mmである。本発明では、幅が10〜100μmの間であるマイクロチャンネルを使うことが好ましい。ここで、硝子材質のチップは吸着問題が相対的に少ないので連続注入分析が可能で高感度で蛍光偏光を測定するのに適合する。
【0029】
前記ラボオンアチップは、薄膜のマイクロチャンネルを含み前記マイクロチャンネルの両端と内部で反応物質の物理、化学、生物学的な実験が成立して、所望する結果が得られるように設計する(図3参照)。
【0030】
前記ラボオンアチップは、蛍光プローブ分子の供給貯蔵所1、蛍光プローブ分子と結合する生分子の供給貯蔵所2、試験物質を含むウェルプレート3、チップへの試料流入のための毛細管のような供給装置4、蛍光偏光感知点5、試料をチップの主チャンネルに流入させるための真空ポンプ6で構成される。ここで、二つの貯蔵所から出るチャンネルはチップの中央にある主チャンネルと出合って、主チャンネルの一方の端の部分では毛細管を通じて試験物質を注入することができ、他の端の部分には真空ポンプを利用した圧力差によって反応した物質等が集まる貯蔵所が存在する。
【0031】
本測定方法を詳細によく見ると、前記工程1)では蛍光が付着した標識分子である蛍光プローブ分子を蛍光プローブ分子供給貯蔵所1に保存して、前記蛍光プローブ分子と結合する生分子を生分子供給貯蔵所2に保存する(図3参照)。ここで、生分子は一般的に蛍光プローブ分子より分子量が大きくてタンパク質、核酸など多様な種類の生分子が使用でき、蛍光プローブ分子は蛍光プローブで標識された物質で前記生分子より分子量が小さく、蛍光プローブにはテトラメチルローダミン(tetramethylrodamine)等を使用できる。
【0032】
前記工程2)では、前記生分子及び前記蛍光プローブ分子を廃棄物貯蔵所上部の真空ポンプ6を使用して発生する圧力差によって微細流体制御を通じて主チャンネルで出合うようにする。ここで、流体移動速度は約1nl/secが好ましい。前記主チャンネル上には蛍光偏光感知点5が存在して蛍光偏光を感知する。ここで、生分子と蛍光プローブ分子の複合体は、蛍光偏光測定の前にその形成を完了する。前記生分子−蛍光プローブ分子複合体の形成は、複合体構成分子、緩衝溶液の種類とその濃度によって変わり、また、pH値によって安定的な複合体を形成したり排斥したりする。
【0033】
前記複合体に偏光を照射して蛍光偏光を測定する工程3)では、前記ラボオンアチップの前記マイクロチャンネルにある蛍光プローブ分子−生分子複合体に偏光を照射して励起された蛍光偏光を垂直、水平光倍率器を通過させて蛍光偏光測定値を得る。
【0034】
ここで、蛍光プローブ分子に利用される特定蛍光プローブに対する光源及び測定機の補正値であるG要素を求めるために、先に偏光器を外した状態で蛍光プローブの薄い溶液を前記ラボオンアチップの前記マイクロチャンネルに満たして光を照射して励起された蛍光を垂直、水平光倍率器を通過させた蛍光強度値からG要素を求めた後、偏光器を付着して前記マイクロチャンネルにある蛍光プローブ分子−生分子複合体に偏光を照射して励起された蛍光を垂直、水平光倍率器を通過させた垂直、水平成分の蛍光強度を測定する。
【0035】
また、ラボオンアチップのマイクロチャンネル上の微量の物質に対する蛍光偏光の測定を可能にするためには、偏光の照射のための光源を偏光器を通過させる前に特定周波数信号のみを分離して信号対雑音比を改善することが必要になり得る。このためにスロット回転ディスク(slotted rotating disc)からなる光学チョッパーを利用して特定周波数信号のみを分離する。
【0036】
前記蛍光偏光を定量化して蛍光偏光度を決める工程4)では、光倍率器(Photo Multiplier Tube, PMT)を通過して光信号が電流信号に変わった垂直、水平蛍光偏光測定値と前記G要素から決定された蛍光偏光度をオシロスコープで電流信号で検出して蛍光偏光度を決定する。
【0037】
また、本発明は、前記蛍光偏光測定方法を利用した生分子の間の複合体形成を誘導または阻害する物質の検索方法、または酵素の活性または濃度を測定する方法を提供する。
【0038】
本発明の検索方法は、生分子の間の複合体形成に対する競争反応による蛍光偏光度の減少程度を観察することで、生分子の間の複合体形成を阻害する物質を検索したり、生分子の間の複合体形成を誘導する物質の添加による蛍光偏光度の増加程度を観察することにより生分子間の複合体形成を誘導する物質を検索する方法を意味する。また、蛍光プローブ物質と結合した生分子である基質を試験物質である酵素と反応させた後、蛍光偏光度の変化を観察することにより酵素の活性または濃度を測定することができる。前記酵素は、好ましくはプロテアーゼ、より好ましくはプロテイナーゼK、トリプシン、パパインまたはエラスターゼであり、これを分析する時には生分子である基質として汎用タンパク質基質であるカゼインが好ましい。カゼインを基質に使用する場合、それぞれのプロテアーゼに対して基質を変える必要がないので迅速にプロテアーゼを分析することができる。
【0039】
本発明の検索方法は、
1)蛍光プローブ分子及び生分子を準備する工程、
2)ラボオンアチップのマイクロチャンネルに蛍光プローブ分子及び生分子を注入して複合体を形成させる工程、
3)前記複合体と試験物質を反応させる工程、
4)前記試験物質と応じた複合体に偏光を照射して蛍光偏光を測定する工程、及び
5)前記蛍光偏光を定量化して蛍光偏光度を決定する工程を含む。
【0040】
前記ラボオンアチップは、蛍光プローブ分子の供給貯蔵所1、蛍光プローブ分子と結合する生分子の供給貯蔵所2、試験物質を含むウェルプレート3、チップへの試料流入のための毛細管のような供給装置4、蛍光偏光感知点5、試料をチップの主チャンネルに流入させるための真空ポンプ6を含むことができる。ここで、二つの貯蔵所から出るチャンネルはチップの中央にある主チャンネルと出合って主チャンネルの一方端の部分では毛細管を通じて試験物質が注入され、他の端の部分では真空ポンプを利用した圧力差によって反応物質を集める廃棄物貯蔵所が存在する。
【0041】
前記工程1)、2)は、先に説明した蛍光偏光測定方法と同じで、前記工程3)では検索対象物質をウェルプレート3に入れて、ラボオンアチップに前記試験物質を流入するための毛細管のような供給装置4を利用して順次にまたは並列的に検索対象物質を前記複合体と反応させる。
【0042】
前記工程3)で試験物質は、検索対象物質または酵素を意味することができる。
【0043】
前記工程4)、5)では、試験物質に変化した前記複合体の蛍光偏光度を先で説明したように決定して試験物質の複合体に対する結合誘導程度または阻害程度を決定したり、酵素の活性または濃度を測定することができる。
【0044】
図4は、マイクロチャンネルの蛍光偏光感知点での測定信号予想図である。Aは蛍光プローブ分子だけが主チャンネルに流入して蛍光偏光度が小さく現われる場合で、Bは蛍光プローブ分子と生分子が主チャンネルに流入して複合体を形成して蛍光偏光度が大きく現われる場合であり、Cは競争反応によって蛍光プローブ分子を押し出して生分子と結合する阻害剤が作用し、再び蛍光偏光度が小くなることを示した場合である。
【0045】
また、本発明は、ラボオンアチップに蛍光体反応物を注入して偏光を印加して生分子と蛍光プローブ分子の間の相互作用及び生分子の間の相互作用を定量的に測定することができるマイクロチャンネルのための蛍光偏光測定装置を提供する。
【0046】
前記マイクロチャンネルのための蛍光偏光測定装置は、偏光発生部、蛍光偏光分離部及び蛍光偏光測定部からなる。
【0047】
前記ラボオンアチップでの蛍光偏光測定装置の詳細的な構成を下記に示す(図2参照)。
まず、偏光発生部は、レーザー光源、該レーザー光源から放出されるレーザー光をろ過する第一フィルター(フィルター 1)、前記第一フィルターを通過したレーザー光の方向を制御する第一ミラー(ミラー1)と第二ミラー(ミラー2)、前記第二ミラーで反射したレーザー光を偏光させる偏光器、該偏光器を通過した偏光されたレーザー光を分離する光線分離器、及び分離した偏光を平行光に変換して試料に引き入れるレンズを含む。
【0048】
蛍光偏光分離部は、前記偏光発生部の偏光の照射を受けて励起した蛍光プローブ分子により放出される蛍光を集めるレンズ、該レンズを通過した蛍光方向を制御する第三ミラー(ミラー3)、該第三ミラーで反射した前記蛍光をろ過させる第二フィルター(フィルター2)、及び該第二フィルターを通過した前記蛍光を分離する偏光光線分離器を含む。
【0049】
蛍光偏光測定部は、前記偏光光線分離器を通過した前記蛍光の整流のための第三フィルター(フィルター3)、該第三フィルターを通過した前記放出された光の垂直または水平な両平面で蛍光信号を測定する垂直方向光倍率器(Photo Multiplier Tube, PMT1)と偏光器を含んだ水平方向光倍率器(Photo Multiplier Tube, PMT2)、及び前記光倍率器を通過した蛍光の偏光度を測定するオシロスコープを含む。
【0050】
前記PMT1には垂直蛍光信号が入り、PMT2には水平蛍光信号が入る。理想的には前記の両PMTに100%の垂直及び水平蛍光信号が入る。しかし、PMT1には垂直蛍光信号が99%以上入るのに比べて、PMT2には垂直蛍光信号が10%混入するので、PMT2の前に偏光器を設置して信号に混じった垂直成分を最小化して水平な蛍光値を高めることができる。
【0051】
また、フィルター1とミラー1の間に光線を周期的にオン/オフすることができる光学チョッパー(slotted rotating disc)を設置して特定周波数信号のみを分離して、信号対雑音比を改善することによりサイズが小さなマイクロチャンネルで少ない量の試料を利用した蛍光信号検出が可能である。
【0052】
本発明(1)は、
1)蛍光プローブ分子及び生分子を準備する工程、
2)ラボオンアチップのマイクロチャンネルに蛍光プローブ分子及び生分子を注入して複合体を形成させる工程、
3)前記複合体に偏光を照射して蛍光偏光を測定する工程、及び
4)前記蛍光偏光を定量化して蛍光偏光度を決定する工程を含むことを特徴とする、ラボオンアチップでの蛍光偏光測定方法である。
本発明(2)は、前記ラボオンアチップが、幅が10〜100μmであるマイクロチャンネルを含み、硝子材質を使用して写真蝕刻方法で製造されることを特徴とする、本発明(1)のラボオンアチップでの蛍光偏光測定方法である。
本発明(3)は、前記工程2)で、前記生分子及び前記蛍光プローブ分子を反応物質の貯蔵所1、2に連結された真空ポンプ6を使用した圧力差によって微細流体制御を通じて主チャンネルで出合うようにすることを特徴とする、本発明(1)のラボオンアチップでの蛍光偏光測定方法である。
本発明(4)は、前記工程3)で、偏光器を外した状態で前記マイクロチャンネルの特定蛍光プローブに対する光源及び測定機の補正値であるG要素値を求めた後、偏光器を付着して前記ラボオンアチップのマイクロチャンネル内の蛍光プローブ分子−生分子複合体に偏光を照射して励起された蛍光を垂直、水平光倍率器を通過させて測定値を得て、前記工程4)で、前記G要素値と前記測定値から蛍光偏光度を決定することを特徴とする、本発明(1)のラボオンアチップでの蛍光偏光測定方法である。
本発明(5)は、信号対雑音比を改善するための光学チョッパーを使用することを特徴とする、本発明(1)のラボオンアチップでの蛍光偏光測定方法である。
本発明(6)は、前記ラボオンアチップでの蛍光偏光測定方法が、生分子の間の相互作用の定量的測定に利用されることを特徴とする、本発明(1)のラボオンアチップでの蛍光偏光測定方法である。
本発明(7)は、
1)蛍光プローブ分子及び生分子を準備する工程、
2)ラボオンアチップのマイクロチャンネルに蛍光プローブ分子及び生分子を注入して複合体を形成させる工程、
3)前記複合体と試験物質を反応させる工程、
4)前記試験物質と反応した複合体に偏光を照射して蛍光偏光を測定する工程、及び
5)前記蛍光偏光を定量化して蛍光偏光度を決定する工程を含むラボオンアチップでの蛍光偏光測定方法である。
本発明(8)は、前記ラボオンアチップが、幅が10〜100μmであるマイクロチャンネルを含み、蛍光プローブ分子の供給貯蔵所1、蛍光プローブ分子と結合する生分子の貯蔵所2、試験物質を含むウェルプレート3、チップへの試料流入のための毛細管のような供給装置4、蛍光偏光感知点5、試料を主チャンネルに流入させるための真空ポンプ6を含み、硝子材質を使用して写真蝕刻方法で製造されることを特徴とする、本発明(7)のラボオンアチップでの蛍光偏光測定方法である。
本発明(9)は、前記ラボオンアチップでの蛍光偏光測定方法において、試験物質に検索対象物質を使用し、生分子の間の複合体形成を誘導または阻害する物質の検索に使用することを特徴とする、本発明(7)のラボオンアチップでの蛍光偏光測定方法である。
本発明(10)は、前記ラボオンアチップでの蛍光偏光測定方法において、試験物質に酵素を使用し、生分子に酵素に対応する基質を使用して酵素の活性または濃度測定に使用することを特徴とする、本発明(7)のラボオンアチップでの蛍光偏光測定方法である。
本発明(11)は、前記酵素がプロテアーゼで、基質がカゼインであることを特徴とする、本発明(10)のラボオンアチップでの蛍光偏光測定方法である。
本発明(12)は、偏光発生部、蛍光偏光分離部及び蛍光偏光測定部を含むマイクロチャンネルのための蛍光偏光測定装置である。
本発明(13)は、前記偏光発生部が、レーザー光源、該レーザー光源から放出されるレーザー光をろ過する第一フィルター、該第一フィルターを通過したレーザー光の方向を制御する第一ミラーと第二ミラー、該第二ミラーで反射したレーザー光を偏光させる偏光器、該偏光器を通過した偏光されたレーザー光を分離する光線分離器、及び分離した偏光を平行光に変換してマイクロチャンネル内の試料に引き入れるレンズを含むことを特徴とする、本発明(12)のマイクロチャンネルのための蛍光偏光測定装置である。
本発明(14)は、前記レーザー光をオン/オフして信号対雑音比を改善するために前記第一フィルターと前記第一ミラーの間に光学チョッパーが介在することを特徴とする、本発明(13)のマイクロチャンネルのための蛍光偏光測定装置である。
本発明(15)は、前記蛍光偏光分離部が、前記偏光発生部の偏光の照射を受けて励起した蛍光プローブ分子により放出される蛍光を集めるレンズ、該レンズを通過した蛍光方向を制御する第三ミラー、該第三ミラーで反射した前記蛍光をろ過する第二フィルター、及び該第二フィルターを通過した前記蛍光の偏光を分離する偏光光線分離器を含むことを特徴とする、本発明(12)のマイクロチャンネルのための蛍光偏光測定装置である。
本発明(16)は、前記蛍光偏光測定部が、前記偏光光線分離器を通過した前記蛍光の整流のための第三フィルター、該第三フィルターを通過した前記放出された光の垂直または水平な両平面で蛍光信号を測定する垂直方向光倍率器(PMT1)と偏光器を含んだ水平方向光倍率器(PMT2)、及び前記光倍率器を通過した蛍光の偏光度を測定するオシロスコープを含むことを特徴とする、本発明(12)のマイクロチャンネルのための蛍光偏光測定装置である。
本発明(17)は、前記マイクロチャンネルが、幅が10〜100μmであることを特徴とする、本発明(12)のマイクロチャンネルのための蛍光偏光測定装置である。
本発明(18)は、前記マイクロチャンネルが、ラボオンアチップに含まれたマイクロチャンネルで、前記ラボオンアチップが、蛍光プローブ分子の供給貯蔵所1、蛍光プローブ分子と結合する生分子の貯蔵所2、試験物質を含むウェルプレート3、チップへの試料流入のための毛細管のような供給装置4、蛍光偏光感知点5、試料をチップの主チャンネルに流入させるための真空ポンプ6を含むことを特徴とする、本発明(17)のマイクロチャンネルのための蛍光偏光測定装置である。
本発明(19)は、本発明(12)または(18)いずれか1項記載の蛍光偏光測定装置を利用した生分子間の複合体形成を誘導または阻害する物質の検索方法である。
本発明(20)は、本発明(12)または(18)いずれか1項記載の蛍光偏光測定装置を利用した酵素の活性または濃度の測定方法である。
【発明の効果】
【0053】
本発明の蛍光偏光測定方法、これを利用した検索方法及び活性または濃度測定方法は、測定しようとする二つの物質をラボオンアチップの貯蔵所に入れて圧力差を利用してマイクロチャンネルに流入させることにより、即席で結合の可否を確認することができ、試験物質による結合誘導または阻害可否が同様に即席で確認可能なので、生分子間の複合体形成を誘導または阻害する物質を検索したり酵素の活性または濃度を測定したりするのに有用である。
【0054】
本発明のマイクロチャンネルのための蛍光偏光測定装置は、先に説明したラボオンアチップでの蛍光偏光測定方法と結合して生分子間の複合体形成を誘導または阻害する物質を検索したり酵素の活性または濃度を測定したりするのに有用である。
【0055】
本発明のマイクロチャンネルのための装置は、検索速度を一物質当たり20秒と仮定すると、消耗する蛍光プローブ分子と生分子の量はおおよそ数十fmol程度で、これは従来のプラスチックチップ用蛍光偏光測定方法の場合に比べて非常に試料消耗量が少ない。また、現在最も試料消耗量が少ない高速大容量分析方法である384ウェルプレートを利用する場合、試料当たり4pmol以上が消耗することを考慮すれば、相当な経費が軽減される。
【0056】
したがって、本発明の蛍光偏光測定方法及び蛍光偏光測定装置は、信号対雑音比を改善して、測定の敏感度と正確度を高めるように設計され、少ない量の試料を使用して低費用高効率で早い時間内に生分子間の相互作用を解析し、これを標的にする超高速検索に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0057】
以下、本発明を実施例によってさらに詳しく説明する。
但し、下記の実施例は本発明を例示するだけのものであり、本発明の内容が下記の実施例に限定されるものではない。
【0058】
<比較例>
常用蛍光分光分析機(Perkin Elmer)を使用して100μlキュベットにあるテトラメチルローダミン(TMR, tetramethylrodamine)−ビオチン(biotin)とストレプトアビジン(streptavidin)の複合体形成の蛍光偏光度を測定した。
【0059】
本測定では、リン酸緩衝生理食塩水(PBS, phosphate−buffered−saline)を緩衝溶液に使用して、1.25μMテトラメチルローダミン−ビオチンだけを入れた場合(A)、10μMテトラメチルローダミン−ビオチンと2.5μMストレプトアビジンを一緒に入れた場合(B)に分けて蛍光偏光を測定した。
【0060】
測定したAの蛍光偏光度は0.086で、Bの蛍光偏光度は0.209である。ここで、スリット幅(slit width)は2.5nmで積分時間(integration time)は1秒だった。図5に見られるように、前記物質等が結合して複合体形成の時に高い蛍光偏光度の増加が観察された(図5参照)。
【0061】
そして、テトラメチルローダミン−ビオチンがストレプトアビジンと結合すると蛍光強度がクエンチング(quenching)によって減少する傾向があるので、複合体が形成された試料で似た程度の蛍光強度を得るためにAの場合よりBの場合の濃度を8倍高いようにした。蛍光偏光測定の時、チップに使用する試料の濃度を考慮して同じ濃度の蛍光物質を利用するためにスリット幅を2.5nmに、積分時間を1秒に調節した。
【実施例】
【0062】
実施例1
本発明の光学チョッパーが付着しない図2の蛍光偏光測定装置を使用して、100μlキュベットでビオチンとストレプトアビジンの複合体形成の蛍光偏光を測定した。
【0063】
本実施例1では、生分子−蛍光プローブ分子複合体のために使用した各反応物質として 1.25μMテトラメチルローダミンを入れた場合(AとB)、1.25μMテトラメチルローダミン−ビオチンを入れた場合(CとD)、10μMテトラメチルローダミン−ビオチンと2.5μMストレプトアビジンを入れた場合(EとF)に分けて測定した。
【0064】
まず、蛍光プローブ分子に使用する蛍光プローブである100nMテトラメチルローダミンを前記100μlキュベットに満たして偏光器を外した状態で光を照射して励起された蛍光を垂直、水平光倍率器を通過させた蛍光強度値から蛍光プローブ分子に利用される特定蛍光プローブに対する光源及び測定機の補正値であるG要素値を求めた後、偏光器を付着して前記マイクロチャンネルにある蛍光プローブ分子−生分子複合体に偏光を照射して励起された蛍光を垂直、水平光倍率器を通過させた垂直、水平成分の蛍光強度を測定してこの測定値と先に求めたG要素値から蛍光偏光度を求めた。
【0065】
前記装置は、偏光発生部、蛍光偏光分離部及び蛍光偏光測定部で構成され、前記偏光発生部は、543.5nmレーザー光源(5mW maximum at 543.5nm, 商品名:Green Cylindrical Helium−Neon Laser, 製造会社:Coherent)、フィルター1(波長543.5nm、直径12.5mm、商品名:Mounted Interference Filter, 製造会社:Melles Griot)、ミラー1、2(直径1インチ、厚さ3/8インチ、商品名:Enhanced Aluminum Mirror, 製造会社:CVI)、偏光器(商品名:Broadband Polarizing Beamsplitter Cubes, 製造会社:CVI)、光線分離器(商品名:Spectrally Neutral Cube Beamsplitter, 製造会社:CVI)及びレンズ(図面2のレンズは、ミラー1、2と等しいミラー3とフォーカシングレンズ(商品名:Precision Optimized Achromats, 製造会社:Melles Griot)からなる)を含んでいる。光学チョッパー(rotating disc optical chopper, 商品名:300D4/7, 製造会社:SCITEC Instruments)は、外部7スロットと内部4スロットで構成されたものを使用した。
【0066】
また、前記蛍光偏光分離部は、テトラメチルローダミン蛍光体によって発生する蛍光の偏光を集めるフォーカシングレンズ(focusing lens, 直径10mm, 商品名:Precision Optimized Achromats, 製造会社:Melles Griot)、ミラー3(ミラー1、2と同一)、フィルター2(波長580nm、直径50mm、商品名:Mounted Interference Filter, 製造会社:Melles Griot)、偏光光線分離器(商品名:Broadband Polarizing Beamsplitter Cube, 製造会社:CVI)を含んでいる。
【0067】
そして、前記蛍光偏光測定部は、フィルター3(波長580nm、直径1インチ、商品名:BK7 A Coated Plano Convex Lens, 製造会社:Thorlab)、励起光に対して垂直及び水平な両平面で蛍光信号を測定する二つのPMT(Photo Multiplier Tube, 商品名:H5784−01, 製造会社:HAMAMATSU)、オシロスコープ(商品名:Agilent 54642A 2Channel 500MHz oscilloscope, 製造会社:Agilent)、水平PMTの前に設置した偏光器を含んでいる。
【0068】
ここで、光倍率器のゲイン(PMT gain)は、0.6Vだった。
【0069】
ここで、測定されたAの蛍光偏光度は0.007で、Bの蛍光偏光度は0.020で、Cの蛍光偏光度は0.043で、Dの蛍光偏光度は0.036で、Eの蛍光偏光度は0.197で、Fの蛍光偏光度は0.213で、テトラメチルローダミン−ビオチンとストレプトアビジンの複合体形成によって蛍光偏光度が増加した(図6参照)。
【0070】
実施例2
本発明の光学チョッパーが付着していない図2の蛍光偏光測定装置を使用して、ラボオンアチップのビオチンとストレプトアビジンの複合体形成の蛍光偏光を測定した。但し、本実施例2では深さ12μm、幅79μmのマイクロチャンネルで構成されたガラス材質のラボオンアチップを100μlキュベットの代わりに使用した。まず、前記ラボオンアチップのマイクロチャンネルに真空ポンプを使用して100nMテトラメチルローダミン溶液を満たして実施例1で説明した方法でG要素値を求めた後、ラボオンアチップ(図3)の貯蔵所1に1.25μMテトラメチルローダミンを入れた場合(A)、ラボオンアチップの貯蔵所1に1.25μMテトラメチルローダミン−ビオチンを入れた場合(B)、ラボオンアチップの貯蔵所1に10μMテトラメチルローダミン−ビオチンを入れてラボオンアチップの生分子供給貯蔵所2に2.5μMストレプトアビジンを入れた場合(C、DとE)に分けて、ラボオンアチップの真空ポンプ6で真空ポンプを稼動してマイクロチャンネルに試料を注入させた後、ラボオンアチップ(図3)の蛍光偏光感知点5で蛍光偏光を測定した。
【0071】
測定の結果、Aの蛍光偏光度は0.085で、Bの蛍光偏光度は0.097で、Cの蛍光偏光度は0.036で、Dの蛍光偏光度は0.040で、Eの蛍光偏光度は0.064で、複合体形成による蛍光偏光の増加が現われなかった(図7参照)。
【0072】
このような測定値から緩衝液だけが流れるマイクロチャンネル上で発生するオフセットを除去した蛍光値を利用して蛍光偏光度を計算すると、Aの蛍光偏光度は0.020で、Bの蛍光偏光度は0.087で、Cの蛍光偏光度は0.223で、Dの蛍光偏光度は0.212で、Eの蛍光偏光度は0.241で、キュベットで測定した蛍光偏光度に似た数値を示した(図8)。このような測定は、反復実験を通じて再現性があることを確認した。
【0073】
オフセットを除去した本実施例2の測定結果(図8参照)は、前記比較例及び前記実施例1と同じ類型を示すので、本実施例2のラボオンアチップを使用する蛍光偏光測定方法とその装置の適合性を示すものである。
【0074】
実施例3
本発明の光学チョッパーが付着した図2の蛍光偏光測定装置を使用して、ラボオンアチップにあるビオチンとストレプトアビジンの複合体形成の蛍光偏光を測定した。
【0075】
本実施例3の深さ12μm、幅79μmのマイクロチャンネルで構成されたガラス材質のラボオンアチップでの蛍光偏光測定方法(図3参照)の生分子−蛍光プローブ分子複合体を使用した各反応物質とその濃度を下記に示す。
【0076】
4μMテトラメチルローダミンを入れた場合(A)、4μMテトラメチルローダミン−ビオチンを入れた場合(B)及び、4μMテトラメチルローダミン−ビオチンと1μMストレプトアビジンを入れた場合(C)に分けて前記実施例2で説明した方法で測定した。
【0077】
前記反応物を深さ12μm、幅79μmのガラス材質のラボオンアチップのマイクロチャンネル上で生分子と蛍光プローブ分子の複合体について、光学チョッパーを付着させた図2の測定装置を利用して蛍光偏光を測定した。
【0078】
ここで、Aの蛍光偏光度は0.047で、Bの蛍光偏光度は0.062で、Cの蛍光偏光度は0.240で、複合体形成による蛍光偏光度の増加を観察することができた(図9参照)。
【0079】
すなわちオフセット信号を除去して信号対雑音比を改善する光学チョッパーを使用すれば複合体形成による蛍光偏光度の増加を観察することができた。
【0080】
また、前記のCの場合において、ラボオンアチップ(図3)のウェルプレート3に競争反応を起こす阻害剤のD−ビオチンを入れてラボオンアチップ(図3)の試料供給毛細管4を通じてマイクロチャンネルの複合体に入れると、D−ビオチンの濃度が大きいほど阻害反応が大きくなり蛍光偏光度が減少することが分かった(図10)。
【0081】
オフセットを除去しないように光学チョッパーを設置した本実施例3の測定結果(図9参照)は、前記比較例、前記実施例1及び前記実施例2のような類型を示すので、前記実施例3のラボオンアチップを使用する蛍光偏光測定方法とその装置の適合性を示すものである。そして、本実施例の測定結果(図10参照)は、阻害剤によって複合体の形成が妨害される場合に本発明の蛍光偏光測定方法とその装置によって蛍光偏光度の減少を感知して阻害物質を検索するのが可能であることを示している。
【0082】
実施例4
本発明の蛍光偏光測定方法及び装置を利用して、蛍光プローブとしてテトラメチルローダミンと生分子として汎用タンパク質基質であるα−カゼインの複合体(TMR−α−casein)を基質にしてさまざまなプロテアーゼとの反応をさせた後に蛍光偏光の変化を測定した。
【0083】
まず、プロテアーゼの基質であるTMR−α−カゼインは、既存に報告された方法 (Analytical Biochemistry ,1996年,第243巻,1−7頁)を応用して下記の方法で合成した。
【0084】
α−カゼイン(シグマ社)10mg/ml、5−カルボキシテトラメチルローダミンスクシンイミジルエステル(5−carboxytetramethylrhodamine succinimidyl ester)5mg/mlを0.1M炭酸水素ナトリウム(sodium bicarbonate)、pH9.0の緩衝液に混ぜて常温で2時間反応させた。合成したTMR−α−カゼインは、ハイトラップデソルティングカラム(HiTrap desalting column; Sephadex G−25, Amersham Bioscience)を利用して精製してタンパク質量と蛍光量を定量して使用した。
【0085】
プロテアーゼとしてプロテイナーゼK、トリプシン、パパイン及びエラスターゼを使用し、濃度を増加させながら反応させた。まず、比較例として合成されたTMR−α−カゼイン基質がプロテアーゼによって分解される様相を常用蛍光分光分析機を使用して分析した。プロテイナーゼKは、0.001、0.01、0.1unit/mlで、トリプシンは0.1、0.8、4.0unit/mlで、パパインは0.1、0.8、4.0unit/mlで、エラスターゼは0.8、4.0、8.0unit/mlで測定し、結果は図12〜15に示した。
【0086】
次に、本発明の光学チョッパーが付着した図2の蛍光偏光測定装置、及び図11と同様に深さ12μm、幅79μmのマイクロチャンネルが基質または酵素が流入するチャンネル1及びこれらの反応が起きるチャンネル2を構成するガラス材質のラボオンアチップを使用して分析した。
【0087】
ラボオンアチップでプロテアーゼ分析を遂行する前に反応がよく起きるようにするためには 基質と酵素を混合しなければならない。そこで、TMR−α−カゼインがチップの流体流れに直角の方向に拡散する時間を測定した結果、7.4秒以内に完全に混合することを確認した。また、ラボオンアチップでの分析のために利用した真空圧力は−20kPaで、このような条件で反応が起きるチャンネルの接合点(junction)から蛍光偏光感知点まで流体の到達する時間は、12.5秒と測定された。したがって、基質と酵素が混合した後、5.1秒の反応時間があることを確認した。
【0088】
次に、ラボオンアチップでプロテアーゼ分析を遂行するために、TMR−α−カゼイン2μM(反応が起きるチャンネルでの最終濃度は1μM)を基質貯蔵所に入れて、それぞれのプロテアーゼは比較例と同様に濃度を増加させながら酵素貯蔵所に入れた後、主チャンネルであるチャンネル2に二つの物質を流入させて起きる反応を感知点(detection point)で蛍光偏光を測定した。ここで、蛍光偏光の感知点は、基質と酵素が流入される部分(junction)から32mmに位置するようにした。結果は、図16〜19に示した。
【0089】
図12〜15に示したように、プロテイナーゼK、トリプシン、パパイン、エラスターゼのすべての場合で反応が進行するにつれて蛍光偏光が減少すると考えられ、酵素の濃度が増加するにつれて蛍光偏光が比例して減少して一定酵素濃度以上で一定する傾向を示した。これは、反応が進行するにつれてTMR−α−カゼインが分解されてサイズが小さくなり蛍光偏光が減少して、酵素の濃度が増加するにつれて一定時間の反応量が大きくなるので蛍光偏光が低く現われるものと判断された。
【0090】
また、図16〜19に示したように、図12〜15と同じく、プロテイナーゼK、トリプシン、パパイン、エラスターゼのすべての場合で、プロテアーゼの濃度が増加するにつれて蛍光偏光が比例して減少して一定酵素濃度以上で一定する傾向を示した。
【0091】
また、前記4種プロテアーゼの基質として汎用タンパク質基質であるカゼインを使用することで、それぞれのプロテアーゼに対して基質を変えないで迅速に分析することができた。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明の蛍光偏光測定装置及び方法は、信号対雑音比を改善して測定の感度及び正確度を高めてラボオンアチップを利用して自動化された分析を可能にすることにより、既存の方法に比べて少ない量の試料を使用して経済的で速かに生分子物質間の相互作用を分析し、それに対する競争反応を利用した誘導剤または阻害剤を検索したり酵素の活性または濃度を測定したりするのに有用である。また、プロテアーゼの分析において汎用タンパク質基質であるカゼインを使用することによりプロテアーゼの分析を迅速に進行させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】貯蔵庫で前もって混合した物質及び蛍光偏光を測定する、従来報告されているプラスチックチャンネルにおける蛍光偏光測定概念図である。
【図2】本発明の一実施例による硝子材質のラボオンアチップ上のマイクロチャンネルでの持続的に流れる物質等に対する蛍光偏光測定装置の構成図である。
【図3】本発明の一実施例によるラボオンアチップのマイクロチャンネルの構造図である。
【図4】マイクロチャンネルの蛍光偏光感知点での測定信号予想図である。
【図5】本発明の比較例によるテトラメチルローダミン−ビオチンとストレプトアビジンの結合に対して常用蛍光分光分析機を使用して蛍光偏光度を測定したグラフである。
【図6】本発明の実施例1によるキュベットで生分子と蛍光プローブ分子の結合について光学チョッパーが付着しない図2の装置を利用して蛍光偏光度を測定したグラフである。
【図7】本発明の実施例2によるガラス材質のラボオンアチップのマイクロチャンネル上で生分子と蛍光プローブ分子の結合について光学チョッパーが付着しない図2の測定装置を使用して蛍光偏光度を測定したグラフである。
【図8】図7の測定値からオフセット値を除去したグラフである。
【図9】本発明の実施例3によるガラス材質のラボオンアチップのマイクロチャンネル上で生分子と蛍光プローブ分子の結合について光学チョッパーを付着させた図2の測定装置を使用して蛍光偏光度を測定したグラフである。
【図10】図9のテトラメチルローダミン−ビオチンとストレプトアビジンの反応物にD−ビオチン濃度を増加させながら添加して蛍光偏光度の変化を測定したグラフである。
【図11】プロテアーゼの活性を分析するラボオンアチップのマイクロチャンネル構成と蛍光偏光感知部分でのプロテアーゼの濃度による基質タンパク質の蛍光偏光の予想図を表示した模式図である。
【図12】テトラメチルローダミンが付着したα−カゼイン(TMR−α−casein)を基質に利用して酵素であるプロテイナーゼKの濃度を増加させながら時間による基質の蛍光偏光度の変化を常用蛍光分光分析機を使用して測定したグラフである。
【図13】テトラメチルローダミンが付着したα−カゼインを基質に利用して酵素であるトリプシンの濃度を増加させながら時間による基質の蛍光偏光度の変化を常用蛍光分光分析機を使用して測定したグラフである。
【図14】テトラメチルローダミンが付着したα−カゼインを基質に利用して酵素であるパパインの濃度を増加させながら時間による基質の蛍光偏光度の変化を常用蛍光分光分析機を使用して測定したグラフである。
【図15】テトラメチルローダミンが付着したα−カゼインを基質に利用して酵素であるエラスターゼの濃度を増加させながら時間による基質の蛍光偏光度の変化を常用蛍光分光分析機を使用して測定したグラフである。
【図16】本発明の一実施例による図11のラボオンアチップのマイクロチャンネル上で、プロテイナーゼKの酵素作用によるTMR−α−カゼインの蛍光偏光度の変化を光学チョッパーを付着させた図2の測定装置で測定したグラフである。
【図17】本発明の一実施例による図11のラボオンアチップのマイクロチャンネル上で、トリプシンの酵素作用によるTMR−α−カゼインの蛍光偏光度の変化を光学チョッパーを付着させた図2の測定装置で測定したグラフである。
【図18】本発明の一実施例による図11のラボオンアチップのマイクロチャンネル上で、パパインの酵素作用によるTMR−α−カゼインの蛍光偏光度の変化を光学チョッパーを付着させた図2の測定装置で測定したグラフである。
【図19】本発明の一実施例による図11のラボオンアチップのマイクロチャンネル上で、エラスターゼの酵素作用によるTMR−α−カゼインの蛍光偏光度の変化を光学チョッパーを付着させた図2の測定装置で測定したグラフである。
【符号の説明】
【0094】
1 蛍光プローブ分子供給貯蔵所、2 生分子供給貯蔵所、3 ウェルプレート、4 試料供給毛細管、5 蛍光偏光感知点、6 真空ポンプ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1)蛍光プローブ分子及び生分子を準備する工程、
2)ラボオンアチップ(Lab−on−a−chip)のマイクロチャンネルに蛍光プローブ分子及び生分子を注入して複合体を形成させる工程、
3)前記複合体に偏光を照射して蛍光偏光を測定する工程、及び
4)前記蛍光偏光を定量化して蛍光偏光度を決定する工程を含むことを特徴とする、ラボオンアチップでの蛍光偏光測定方法。
【請求項2】
前記ラボオンアチップが、幅が10〜100μmであるマイクロチャンネルを含み、硝子材質を使用して写真蝕刻方法で製造されることを特徴とする、請求項1に記載のラボオンアチップでの蛍光偏光測定方法。
【請求項3】
前記工程2)で、前記生分子及び前記蛍光プローブ分子を反応物質の貯蔵所1、2に連結された真空ポンプ6を使用した圧力差によって微細流体制御を通じて主チャンネルで出合うようにすることを特徴とする、請求項1に記載のラボオンアチップでの蛍光偏光測定方法。
【請求項4】
前記工程3)で、偏光器を外した状態で前記マイクロチャンネルの特定蛍光プローブに対する光源及び測定機の補正値であるG要素値を求めた後、偏光器を付着して前記ラボオンアチップのマイクロチャンネル内の蛍光プローブ分子−生分子複合体に偏光を照射して励起された蛍光を垂直、水平光倍率器を通過させて測定値を得て、前記工程4)で、前記G要素値と前記測定値から蛍光偏光度を決定することを特徴とする、請求項1に記載のラボオンアチップでの蛍光偏光測定方法。
【請求項5】
信号対雑音比を改善するための光学チョッパーを使用することを特徴とする、請求項1に記載のラボオンアチップでの蛍光偏光測定方法。
【請求項6】
前記ラボオンアチップでの蛍光偏光測定方法が、生分子の間の相互作用の定量的測定に利用されることを特徴とする、請求項1に記載のラボオンアチップでの蛍光偏光測定方法。
【請求項7】
1)蛍光プローブ分子及び生分子を準備する工程、
2)ラボオンアチップのマイクロチャンネルに蛍光プローブ分子及び生分子を注入して複合体を形成させる工程、
3)前記複合体と試験物質を反応させる工程、
4)前記試験物質と反応した複合体に偏光を照射して蛍光偏光を測定する工程、及び
5)前記蛍光偏光を定量化して蛍光偏光度を決定する工程を含むラボオンアチップでの蛍光偏光測定方法。
【請求項8】
前記ラボオンアチップが、幅が10〜100μmであるマイクロチャンネルを含み、蛍光プローブ分子の供給貯蔵所1、蛍光プローブ分子と結合する生分子の貯蔵所2、試験物質を含むウェルプレート3、チップへの試料流入のための毛細管のような供給装置4、蛍光偏光感知点5、試料を主チャンネルに流入させるための真空ポンプ6を含み、硝子材質を使用して写真蝕刻方法で製造されることを特徴とする、請求項7に記載のラボオンアチップでの蛍光偏光測定方法。
【請求項9】
前記ラボオンアチップでの蛍光偏光測定方法において、試験物質に検索対象物質を使用し、生分子の間の複合体形成を誘導または阻害する物質の検索に使用することを特徴とする、請求項7に記載のラボオンアチップでの蛍光偏光測定方法。
【請求項10】
前記ラボオンアチップでの蛍光偏光測定方法において、試験物質に酵素を使用し、生分子に酵素に対応する基質を使用して酵素の活性または濃度測定に使用することを特徴とする、請求項7に記載のラボオンアチップでの蛍光偏光測定方法。
【請求項11】
前記酵素がプロテアーゼで、基質がカゼインであることを特徴とする、請求項10に記載のラボオンアチップでの蛍光偏光測定方法。
【請求項12】
偏光発生部、蛍光偏光分離部及び蛍光偏光測定部を含むマイクロチャンネルのための蛍光偏光測定装置。
【請求項13】
前記偏光発生部が、レーザー光源、該レーザー光源から放出されるレーザー光をろ過する第一フィルター、該第一フィルターを通過したレーザー光の方向を制御する第一ミラーと第二ミラー、該第二ミラーで反射したレーザー光を偏光させる偏光器、該偏光器を通過した偏光されたレーザー光を分離する光線分離器、及び分離した偏光を平行光に変換してマイクロチャンネル内の試料に引き入れるレンズを含むことを特徴とする、請求項12に記載のマイクロチャンネルのための蛍光偏光測定装置。
【請求項14】
前記レーザー光をオン/オフして信号対雑音比を改善するために前記第一フィルターと前記第一ミラーの間に光学チョッパーが介在することを特徴とする、請求項13に記載のマイクロチャンネルのための蛍光偏光測定装置。
【請求項15】
前記蛍光偏光分離部が、前記偏光発生部の偏光の照射を受けて励起した蛍光プローブ分子により放出される蛍光を集めるレンズ、該レンズを通過した蛍光方向を制御する第三ミラー、該第三ミラーで反射した前記蛍光をろ過する第二フィルター、及び該第二フィルターを通過した前記蛍光の偏光を分離する偏光光線分離器を含むことを特徴とする、請求項12に記載のマイクロチャンネルのための蛍光偏光測定装置。
【請求項16】
前記蛍光偏光測定部が、前記偏光光線分離器を通過した前記蛍光の整流のための第三フィルター、該第三フィルターを通過した前記放出された光の垂直または水平な両平面で蛍光信号を測定する垂直方向光倍率器(PMT1)と偏光器を含んだ水平方向光倍率器(PMT2)、及び前記光倍率器を通過した蛍光の偏光度を測定するオシロスコープを含むことを特徴とする、請求項12に記載のマイクロチャンネルのための蛍光偏光測定装置。
【請求項17】
前記マイクロチャンネルが、幅が10〜100μmであることを特徴とする、請求項12に記載のマイクロチャンネルのための蛍光偏光測定装置。
【請求項18】
前記マイクロチャンネルが、ラボオンアチップに含まれたマイクロチャンネルで、前記ラボオンアチップが、蛍光プローブ分子の供給貯蔵所1、蛍光プローブ分子と結合する生分子の貯蔵所2、試験物質を含むウェルプレート3、チップへの試料流入のための毛細管のような供給装置4、蛍光偏光感知点5、試料をチップの主チャンネルに流入させるための真空ポンプ6を含むことを特徴とする、請求項17に記載のマイクロチャンネルのための蛍光偏光測定装置。
【請求項19】
請求項12または18のいずれか1項記載の蛍光偏光測定装置を利用した生分子間の複合体形成を誘導または阻害する物質の検索方法。
【請求項20】
請求項12または18のいずれか1項記載の蛍光偏光測定装置を利用した酵素の活性または濃度の測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2007−139744(P2007−139744A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−134551(P2006−134551)
【出願日】平成18年5月12日(2006.5.12)
【出願人】(502336265)コリア インスティチュート オブ サイエンス アンド テクノロジー (7)
【Fターム(参考)】