説明

ラマンイメージング装置

【課題】測定時間を高速化すること。
【解決手段】被検査部から散乱されたラマン光が入射される入射部(15a)側において光ファイバの一端が二次元平面上に配置されると共に、前記光ファイバの内部を透過した光が射出される射出部(15b)において前記光ファイバの他端が一次元直線上に沿って配置された次元変換部(15)と、各光ファイバの他端側から射出された光を、前記一次元直線に対して直交する方向に沿って、光に含まれる各波長のスペクトル成分に分光する分光部(16)と、前記一次元直線方向を第1軸方向とし且つ前記一次元直線方向に直交する方向を第2軸方向とした場合に、前記第1軸方向及び第2軸方向に沿って平面状に配列された複数の受光素子を有し、各受光素子が前記分光部で分光された各波長の光を受光する受光部(22)と、を備えた文化財検査装置(1)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラマン励起レーザー光等の検査光を被検査部に照射し、その反射、または散乱する光を分光分析することで被検査部の検査を行うラマンイメージング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
壁画や絵画、あるいは、寺社や古墳等のような文化財において、歴史的な文化財は経時的な汚損や破損等により、必要に応じて修復が行われている。修復を行う際には、修復対象の文化財の歴史的な経緯等から、文化財の作成当時と同一の材料や塗料を使用しての修復が望まれる。したがって、文化財の修復を行う場合、使用されている材料や塗料等の検査、分析、同定が必要とされている。また、文化財の保存方法の研究や、文化財が作成された時代、材料の由来(産地)、流通経路等の文化史の研究を行う場合にも、材料等の検査、分析は必要とされている。
このような文化財の分析を行う際に、分析用の試料を採取するために、貴重な文化財の一部を破損することは厳しく制限されていることが多く、非接触、非破壊で、しかも、文化財が設置されている場所で、すなわち、文化財を移動させずに検査を行うことが望ましい。
【0003】
従来、文化財の非破壊検査は、文化財にX線を照射したときに発生する蛍光X線を利用して元素分析を行う蛍光X線分析法を使用して行われている。このような技術として、例えば、特許文献1(特開2004−340750号公報)記載の技術が知られている。
特許文献1(特開2004−340750号公報)には、文化財を構成する被測定物において、人工的に変質させた被測定物にラマン分光分析を行って得られたラマンスペクトルと、変質させていない被測定物にラマン分光分析を行って得られたラマンスペクトルとを比較して、変質に関して評価する技術が記載されている。なお、特許文献1記載の技術では、文化財自体の変質評価の対象物の材料を確認する際には、蛍光X線法やX線回折法により同定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−340750号公報(「0023」〜「0025」、「0035」)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記従来技術のような蛍光X線分析法では、文化財を構成する物質の元素分析を行うことができるが、何の元素(炭素や酸素、窒素等)が含まれているのかが分析できるだけで、その元素がどのような構造、組成、化合物となっているかに関する構造情報に乏しい問題がある。すなわち、文化財構成物質である顔料等については同定が困難であり、したがって、修復等する場合に必要となる材料の由来に関して充分な情報を収集することは非常に困難であるという問題がある。
【0006】
ラマンイメージング測定には、大きく2つの方法が知られている。第1は、二次元の測定対象部位に対して、特定の波長のラマンイメージデータを測定した後、フィルタ等を制御して波長を変化させ、同じ部位について同様に測定する。したがって、測定する波長領域が広くなると、測定に長時間がかかる問題があった。
第2は、マッピング法と呼ばれる測定法で、検査対象部位を短冊状(スリット状、一次元状の線状)に区切り、その部位のラマンスペクトルを同時に測定し、次に測定部位を移動して同様に測定する。この方法では、測定部位を移動して順次測定するため、検査対象部位の全域を測定するには、やはり測定に長時間がかかる問題があった。
【0007】
本発明は、前述の事情に鑑み、測定速度を高速化することを第1の技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記技術的課題を解決するために、請求項1記載の発明のラマンイメージング装置は、
被検査部に照射されるレーザー光を発生するレーザー光源と、
内部を光が透過可能な複数の光ファイバを有する次元変換部であって、前記被検査部から散乱されたラマン光が入射される入射部側において前記光ファイバの一端が二次元平面上に配置されると共に、前記光ファイバの内部を透過した光が射出される射出部において前記光ファイバの他端が一次元の線上に沿って配置された前記次元変換部と、
前記各光ファイバの他端側から射出された光を、前記一次元の線上に対して交差する方向に沿って、光に含まれる各波長のスペクトル成分に分光する分光部と、
前記一次元の線の方向を第1軸方向とし且つ前記一次元の線に交差する方向を第2軸方向とした場合に、前記第1軸方向及び第2軸方向に沿って平面状に配列された複数の受光素子を有し、各受光素子が前記分光部で分光された各波長の光を受光する受光部と、
前記受光素子の前記第1軸方向の位置として特定される前記次元変換部の一次元の線上の位置と、前記受光素子の前記第2軸方向の位置として特定されるラマン光の波長成分と、前記一次元の線上の位置およびラマン光の波長成分とで特定される二次元上の位置の前記受光素子で受光したスペクトル強度と、を対応づけて記憶するスペクトル記憶手段と、
を備えたことを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のラマンイメージング装置において、
前記二次元平面内において前記光ファイバの一端どうしが隣り合った状態で配置され、且つ、前記一次元の線上において前記光ファイバの他端どうしが隣り合った状態で配置された前記次元変換部、
を備えたことを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載のラマンイメージング装置において、
m、nを3より大きい正数とした場合に、m行n列の格子状の二次元平面上に前記光ファイバの一端が配置されると共に、1行1列、2行1列、…、m行1列、m行2列、(m−1)行2列、…、1行2列、1行3列、2行3列、…の順に、前記光ファイバの他端が一次元の線上に沿って配置された前記次元変換部、
を備えたことを特徴とする。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項1ないし3のいずれかに記載のラマンイメージング装置において、
前記分光部に対して入射される光の仰角に基づいて、弧状の一次元の線上に前記光ファイバの他端が配置された前記次元変換部、
を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1記載の発明によれば、次元変換部で二次元から一次元に次元変換された光が複数の波長のスペクトル成分に分光され、被検査部の位置を第1軸方向とし且つスペクトル成分を第2軸方向として受光部で一度に測定を行うことができるため、波長を走査する必要がある従来の構成や測定部位を移動させる必要がある従来の構成に比べて、測定速度を高速化することができる。また、被検査部に照射されたレーザー光に基づいて、ラマンイメージ画像が得られるため、被検査部に非接触、非破壊で、かつ検査対象物を移動させることなく、被検査部の材料の化学的性質や構造情報を検査、分析することができる。
【0013】
請求項2記載の発明によれば、光ファイバの他端どうしが隣り合わない状態で配置された場合に比べて、前記分光部に用いられている光学系による歪曲収差の悪影響を低減することができ、検査、分析の精度を高めることができる。
請求項3記載の発明によれば、二次元平面内においてジグザグ状に一筆書きの軌跡に沿った配列がされない場合に比べて、歪曲収差の悪影響を低減することができる。
請求項4記載の発明によれば、仰角に基づかずに光ファイバの他端を配置する場合に比べて、前記分光部に用いられている回折格子による像の曲がりの影響を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は本発明の実施例1の文化財検査装置の全体説明図である。
【図2】図2は本発明の実施例1の文化財検査装置の分光分析装置の概略説明図であり、図2Aは上方から見た概略説明図、図2Bは側方から見た概略説明図である。
【図3】図3は文化財の一例としての壁画と被検査部の説明図である。
【図4】図4は実施例1の次元変換部、分光部および受光部の要部説明図である。
【図5】図5は本発明の実施例1の文化財検査装置1の制御部のブロック線図である。
【図6】図6は実施例1のメイン画像の説明図であり、図6Aは位置調節作業およびラマンイメージ撮影前のメイン画像の説明図、図6Bはラマンイメージ撮影後の結果画像の説明図である。
【図7】図7は実施例1のラマンイメージ画像の一例の説明図である。
【図8】図8は実施例2の次元変換部の要部説明図であり、図8Aは全体図、図8Bは図8Aの矢印VIIIB方向から見た図、図8Cは図8Bの入射部の説明図、図8Dは図8Aの矢印VIIID方向から見た図、図8Eは図8Dの射出部の説明図である。
【図9】図9は実施例2の作用を対比して説明するための説明図であり、図9Aは実施例1の次元変換部の入射部の説明図、図9Bは実施例1の次元変換部の射出部の説明図、図9Cは実施例1の次元変換部から射出された光が分光された像の説明図、図9Dは図9Cの像に歪曲収差がある場合の説明図、図9Eは図9Dの要部拡大図、図9Fは図9Eにおけるズレの文化財の被検査部に対応する位置を説明する説明図である。
【図10】図10は実施例2の作用を対比して説明するための説明図であり、図10Aは実施例2の次元変換部の入射部の説明図、図10Bは実施例2の次元変換部の射出部の説明図、図10Cは実施例2の次元変換部から射出された光が分光された像の説明図、図10Dは図10Cの像に歪曲収差がある場合の説明図、図10Eは図10Dの要部拡大図、図10Fは図10Eにおけるズレの文化財の被検査部に対応する位置を説明する説明図である。
【図11】図11は実施例2の変更例の説明図であり、図11Aは図10Aに対応する図、図11Bは図10Bに対応する図である。
【図12】図12は実施例3の次元変換部の要部説明図であり、図12Aは全体図、図12Bは図12Aの矢印XIIB方向から見た図、図12Cは図12Bの入射部の説明図、図12Dは図12Aの矢印XIID方向から見た図、図12Eは図12Dの射出部の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に図面を参照しながら、本発明の実施の形態を説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。
なお、以下の図面を使用した説明において、理解の容易のために説明に必要な部材以外の図示は適宜省略されている。
【実施例1】
【0016】
図1は本発明の実施例1の文化財検査装置の全体説明図である。
なお、以下の説明において、理解を容易とするため、検査対象物の一例としての文化財の表面に沿った水平方向をX方向(左右方向)、文化財の表面に沿った鉛直方向をY方向(上下方向)、文化財に接近、離隔する方向をZ方向(前後方向)として説明する。
図1において、本発明のラマンイメージング装置の一例としての実施例1の文化財検査装置1は、移動式架台2を有する。前記移動式架台2は、複数の脚部2aを有し、脚部2aの下端には、ストッパ付の移動用のキャスター2bが支持されている。前記脚部2aの上端部には、ハンドル部2cが上下移動可能に支持されており、移動式架台2は、図示しない油圧式の昇降装置により、ハンドル部2cを上下方向(高さ方向)に位置調整可能に構成されている。ハンドル部2cの上部には図示しない回転機構と傾き機構が支持されている。なお、前記移動式架台2として、従来公知の移動式架台を使用可能であり、例えば、テレビ撮影用のカメラを移動させるための移動式架台を使用可能である。
したがって、前記移動式架台2は、キャスター2bで移動させることにより、文化財検査装置1を、固定の文化財に対して水平方向に移動させて、位置を粗調整することができる。また、上下方向の高さ調節により文化財に対する高さの粗調整や、回転機構と傾き機構により回転位置と傾きの調節もできる。
【0017】
図2は本発明の実施例1の文化財検査装置の分光分析装置の概略説明図であり、図2Aは上方から見た概略説明図、図2Bは側方から見た概略説明図である。
図1において、前記移動式架台2の回転機構と傾き機構の上部には、位置調節装置3が支持されている。前記位置調節装置3は、図示しないモータにより、それぞれX軸方向およびZ軸方向に位置調節可能なXZステージ3aと、前記XZステージ3a上に支持され、Y軸方向(高さ方向)に位置調節可能なYステージ3bとを有する。なお、実施例1の前記位置調節装置3は、X方向に200mm、Y方向に100mm、Z方向に100mmの可動範囲が設定されているが、可動範囲はこの範囲に限定されず、設計や仕様等に応じて任意に変更可能である。
前記Yステージ3bには、分光分析装置4が支持されている。図1、図2において、前記分光分析装置4は、ケース4aを有する。前記ケース4aの上端部には、励起レーザー入力ポート4bが形成されており、ケース4aの文化財B側には、レンズ用開口4cが形成されている。前記励起レーザー入力ポート4bには、図示しない光ファイバが接続されて光ファイバを介して外部の図示しないレーザー光源から、ラマン分光用の励起レーザーが入力される。なお、実施例1では、励起レーザー光として、波長785nmのレーザー光を使用しているが、波長が可視〜近赤外の励起レーザー光を使用可能であり、設計や仕様等に応じて、任意に変更可能である。
【0018】
図2において、前記励起レーザー入力ポート4bの下方には、励起レーザー光を平行光にする励起レーザー用コリメータ6が配置されている。前記励起レーザー用コリメータ6の下方には、コリメートされた励起レーザーを反射する反射光学系7が配置されている。前記反射光学系7の後斜め上方には、エッジフィルタ8が配置されている。前記エッジフィルタ8は、反射光学系7で反射された励起レーザー光の波長の光は反射すると共に、ラマン効果等により励起レーザー光の波長から長波長側に波長がずれた光は透過する性質を有する従来公知のフィルタである。エッジフィルタの代わりに、励起レーザー光の波長から長波長側と短波長側のいずれかの方向に波長がずれた光は透過する性質を有するノッチフィルタを使用することも可能である。
【0019】
図3は文化財の一例としての壁画と被検査部の説明図である。
図2、図3において、前記エッジフィルタ8の前方には、エッジフィルタ8で反射された励起レーザー光を文化財Bの被検査部B1に集光、照射すると共に、被検査部B1からのラマン光が通過するマクロ測定用対物レンズ9が配置されている。図2Aにおいて、前記対物レンズ9の側方には、マクロ測定用対物レンズ9よりも検査可能な領域が狭いミクロ測定用対物レンズ11が配置されており、手動または自動によりマクロ測定用対物レンズ9の位置にミクロ測定用対物レンズ11を移動させる(左右方向にスライドさせる)ことで、検査対象領域を変化させることができる。
【0020】
前記反射光学系7やエッジフィルタ8の側方には、可視像撮像装置の一例としての測定領域モニター用カラーCCDカメラ12が配置されている。前記測定領域モニター用CCDカメラ12と、エッジフィルタ8等との間には、ハーフミラー13aとハーフミラー13bを有する測定領域モニター用光学系13が配置されており、測定領域モニター用光学系13には、白色LEDにより構成された照明14からの照明光が照射される。前記測定領域モニター用光学系13を、手動または自動で移動させて、エッジフィルタ8とマクロ測定用対物レンズ9との間に割り込ませることで、照明14の光をハーフミラー13aおよびハーフミラー13bで反射して被検査部B1を照射し、反射光をハーフミラー13bで反射し、ハーフミラー13aを透過させ、測定領域モニター用カラーCCDカメラ12で撮像することで、被検査部B1の可視像およびレーザー光のラマン励起領域をカラーで撮像することができる。なお、実施例1では、被検査部B1として3.33mm四方の領域が設定されており、測定領域モニター用カラーCCDカメラ12は、前記被検査部B1を中心として7.11mm×5.35mmの領域の可視像を撮像可能に設定されている。
【0021】
図4は実施例1の次元変換部、分光部および受光部の要部説明図である。
図2において、前記エッジフィルタ8の後方には、内部を光が透過可能な複数の光ファイバを有する次元変換部15が配置されている。図2、図4において、実施例1の次元変換部15は、光ファイバを束ねた構成となっており、エッジフィルタ8を通過したラマン光が入射される入射部15a側では、光ファイバの一端が格子状、すなわち、二次元平面上に配置されている。また、光ファイバを通過した光が射出される次元変換部15の射出部15b側では、光ファイバの他端が上下方向に延びる直線状、すなわち、一次元直線上に沿って配置されている。実施例1の次元変換部15では、図4に示すように、入射部15aでは、仮想的にP1〜P16の位置特定用の番号が割り振られた4×4の平面状に配置され、射出部15bではP1〜P16の番号に対応する各光ファイバが上下方向に延びる直線上に並んで配置された構成となっている。
したがって、次元変換部15に入力されたラマン光は、位置番号P1〜P16に対応する各光ファイバの入射部15aに入射され、各光ファイバの射出部15bからラマン光L1〜L16として出力される。
なお、本発明の理解の容易のために、次元変換部15として、P1〜P16の番号を割り振った光ファイバを例示したが、光ファイバの数は例示した数に限定されず、任意の個数、すなわち15以下や16以上の数とすることが可能である。
【0022】
前記次元変換部15の後方には、次元変換部15を通過した光が入射される分光器16が配置されている。前記分光器16は、次元変換部15の射出部15bに対応して、上下方向に沿って形成されたスリット16aを有する。図2において、分光器16の内部には、光学系17が収容されている。前記光学系17は、スリット16aを通過した光L1〜L16を反射する第1反射鏡17aと、反射鏡17aで反射された光を平行光(コリメート光)にするコリメータ17bと、コリメータ17bからのコリメート光を分光するグレーティング(または回折格子)17cと、グレーティング17cで分光された光を反射する集光鏡17dおよび第2反射鏡17eを有する。したがって、前記分光器16の光学系17に入力された位置番号P1〜P16の光ファイバからの各ラマン光L1〜L16は、それぞれグレーディング17cで波長λ、λ、…、λ(nは1より大きな整数:例えばn=100)の光L1(λ)、L1(λ)、…、L1(λ)、L2(λ)、…、L2(λ)、…、L16(λ)、…、L16(λ)に分光され、出力される。
なお、図2、図4において、実際の光学系では、コリメータ17bおよび集光鏡17dは球面鏡または放物面鏡で構成されており、入射スリット16aからの各ラマン光L1〜L16は、途中で交差して受光部(22)で上下が反転するが、説明および理解を容易にするため、球面鏡等ではなく円筒面鏡またはシリンドリカル鏡で図示し、ラマン光も上下で反転せずに図示をした。
【0023】
前記分光器16の後方には、ケース4aの後面に、受光部の一例であってラマンイメージ撮像装置の一例としてのラマン測定用高感度CCDカメラ22が支持されており、分光器16から出力された光L1(λ)〜L16(λ)が受光され、撮像される。実施例1のラマン測定用高感度CCDカメラ22は、上下方向に沿った第1軸方向には位置番号P1〜P16に対応して16画素の受光素子を有し、左右方向に沿った第2軸方向には分光された波長λ〜λの数nに応じてn画素の受光素子を有する。したがって、実施例1のラマン測定用高感度CCDカメラ22は、縦16画素×横n画素の平面状に配列された受光素子を有するCCDカメラにより構成されており、分光器16から出力された光L1(λ)〜L16(λ)が各受光素子で受光される。
なお、実施例1では、ラマン測定用高感度CCDカメラ22には、マクロ測定用対物レンズ9やその他の光学系17の焦点距離の関係で、ラマンイメージ画像が撮影可能な被検査部B1の領域として3.33mm四方の領域が設定されている。なお、前記被検査部B1の領域の広さは、例示した広さに限定されず、設計や仕様等に応じて、適宜変更可能である。
【0024】
図1、図2Aにおいて、前記ケース4aの側面には、可視像撮像装置の一例としての高解像度カラーCCDカメラ26が固定支持されている。前記高解像度カラーCCDカメラ26には、可視像を拡大する高解像度ズームレンズ27と、前記ズームレンズ27の先端部に設けられた白色LEDにより構成された照明28とを有する。前記高解像度カラーCCDカメラ26により、照明28の光で照射された被検査部B1を含む領域の可視像を撮像することができる。なお、図3において、実施例1の高解像度カラーCCDカメラ26では、10.5mm×7.9mmの可視像撮影領域B2の可視像を撮像可能に設定されている。なお、前記可視像撮影領域B2の広さは、例示した広さに限定されず、設計や仕様等に応じて、適宜変更可能である。
【0025】
図2Aにおいて、前記高解像度カラーCCDカメラ26の可視像撮影領域B1bの中心と、マクロ測定用対物レンズ9の撮影可能な領域B1aの中心との間は、水平方向(X方向)に中心間距離L1だけ離れている。したがって、高解像度カラーCCDカメラ26で可視像を撮影した後、中心間距離L1だけ移動させることで、高解像度カラーCCDカメラ26で撮影した領域と、マクロ測定用対物レンズ9で撮影される領域とを合わせることができる。また、ラマンイメージ画像の3.33mm四方の撮影領域分だけX、−XまたはY、−Y方向にさらにXYステージを移動することで、さらに広い領域に対して高解像度カラーCCDカメラ26で撮影した領域と、マクロ測定用対物レンズ9で撮影される領域を対応させることが可能である。
【0026】
図1において、分光分析装置4や位置調節装置3は、コントローラにより制御され、前記コントローラおよび前記高解像度カラーCCDカメラ26から延びるケーブル29は、情報処理装置の一例としてのノートパソコンPCに接続されている。ノートパソコンPCは、本体H1と、ディスプレイ(情報表示部)H2と、入力装置の一例としてのキーボードH3およびマウスH4を有する。
前記移動式架台2や位置調節装置3、分光分析装置4、高解像度カラーCCDカメラ26、ノートパソコンPC等により、実施例1の文化財検査装置1が構成されている。
【0027】
(制御部の説明)
図5は本発明の実施例1の文化財検査装置1の制御部のブロック線図である。
図5において、前記コントローラやノートパソコンPC、外部との信号の入出力および入出力信号レベルの調節等を行う入出力インタフェース、必要な処理を行うためのプログラムおよびデータ等が記憶されたROM(リードオンリーメモリ)、必要なデータを一時的に記憶するためのRAM(ランダムアクセスメモリ)、前記ROMに記憶されたプログラムに応じた処理を行う中央演算処理装置(CPU)、ならびにクロック発振器等を有するコンピュータにより構成されており、前記ROMに記憶されたプログラムを実行することにより種々の機能を実現することができる。
【0028】
(前記ノートパソコンPCに接続された制御要素)
前記ノートパソコンPCの本体H1は、キーボードH3やマウスH4等の入力装置、その他の信号入力要素からの信号が入力されている。
キーボードH3やマウスH4等の入力装置は、ユーザの入力に応じた信号を本体H1に出力している。
【0029】
(コントローラCに接続された制御要素)
前記コントローラCは、位置調節装置3のXZステージ3aやYステージ3b、ラマン測定用高感度CCDカメラ22、測定領域モニター用カラーCCDカメラ12、その他の制御要素に接続されており、それらの作動制御信号を出力している。
前記XZステージ3aは、分光分析装置4や高解像度カラーCCDカメラ26の水平方向の位置(X方向およびZ方向の位置)を微調整する。
Yステージ3bは、分光分析装置4や高解像度カラーCCDカメラ26の高さ方向(Y方向)の位置を微調整する。
ラマン測定用高感度CCDカメラ22は、分光器16から出力された光を測定する。
測定領域モニター用カラーCCDカメラ12は、入力に応じて被検査部B1の可視像を撮像する。
【0030】
(ノートパソコンPCの本体H1に接続された制御要素)
前記本体H1には、前記コントローラCや高解像度カラーCCDカメラ26、ディスプレイH2、その他の制御要素に接続されており、それらの作動制御信号を出力している。
コントローラCは、ノートパソコンPCからの制御信号に応じて、位置調節装置3のXZステージ3aやYステージ3b、ラマン測定用高感度CCDカメラ22、測定領域モニター用カラーCCDカメラ12を制御する。
高解像度カラーCCDカメラ26は、被検査部B1の可視像を撮像する。
ディスプレイH2は、ノートパソコンPCからの画像情報を表示する。
【0031】
(コントローラCの機能)
前記コントローラCは、ノートパソコンPCからの入力信号に応じた処理を実行して、前記各制御要素に制御信号を出力する機能を有している。
すなわち、コントローラCは次の機能を有している。
C1:位置調節装置制御手段
位置調節装置制御手段C1は、XZステージ3aの位置を制御するXZステージ制御手段C1aと、Yステージ3bの位置を制御するYステージ制御手段C1bとを有し、位置調節装置3を制御して、分光分析装置4や高解像度カラーCCDカメラ26のXYZ方向の位置を調節する。
【0032】
C2:ラマン測定用カメラ制御手段
ラマン測定用カメラ制御手段C2は、ラマン測定用高感度CCDカメラ22を制御して、ラマンイメージの撮像を行う。
C3:測定領域モニター用カメラ制御手段
測定領域モニター用カメラ制御手段C3は、測定領域モニター用カラーCCDカメラ12を使用して被検査部B1の測定領域を測定する入力がされた場合に、測定領域モニター用カラーCCDカメラ12を制御して、測定領域の可視像を撮像する。
【0033】
(ノートパソコンPCの機能)
前記ノートパソコンPCの本体H1に組み込まれた文化財検査プログラムAP1は、入力装置H3,H4からの入力信号に応じた処理を実行して、各制御要素C、26に制御信号を出力する機能を有している。
前記文化財検査プログラムAP1は次の機能手段(プログラムモジュール)を有している。
【0034】
図6は実施例1のメイン画像の説明図であり、図6Aは位置調節作業およびラマンイメージ撮影前のメイン画像の説明図、図6Bはラマンイメージ撮影開始後の結果画像の説明図である。
C11:メイン画像表示手段
メイン画像表示手段C11は、表示部としてのディスプレイH2にメイン画像G1(図6参照)を表示する。図6Aにおいて、メイン画像G1は、高解像度カラーCCDカメラ26で撮影した画像を表示する可視像表示部G1aと、位置調節装置3のXZステージ3aをX方向(横方向)に移動させるためのX方向位置調節ボタンG1bと、Yステージ3bをY方向(高さ方向)に移動させるためのY方向位置調節ボタンG1cと、XZステージ3aをZ方向(前後方向、被検査部B1に接近、離隔する方向)に移動させるためのZ方向位置調節ボタンG1dと、ラマンイメージの撮影を開始するための撮影開始ボタンG1eと、文化財検査プログラムAP1を終了するための終了ボタンG1fが表示される。
図6Aにおいて、前記可視像表示部G1aには、高解像度カラーCCDカメラ26により撮影された可視像撮影領域B2の画像が表示されており、中央部にラマンイメージが撮影される被検査部B1の領域を示すラマンイメージ撮影領域表示画像G1gが表示されている。前記可視像表示部G1aの表示画像は、位置の移動に伴って随時画像(静止画像)が更新される。
【0035】
C12:撮影位置調整手段
撮影位置調整手段C12は、メイン画像G1の各位置調節ボタンG1b〜G1dへの入力に応じて、コントローラCを介して位置調節装置3を駆動させて、分光分析装置4や高解像度カラーCCDカメラ26のXYZ方向の位置を調節する。
C13:カメラ画像撮影手段
カメラ画像撮影手段C13は、前記位置決定ボタンG1eの入力に応じて、コントローラCを介して高解像度カラーCCDカメラ26の高解像度CCDカメラ制御手段C21を介して、被検査部B1を含む可視像撮影領域B2の制止画像を撮影する。
【0036】
図7は実施例1のラマンイメージの一例の説明図である。
C14:ラマンイメージ撮影手段
ラマンイメージ撮影手段C14は、コントローラCを介して、ラマン測定用高感度CCDカメラ22を制御して、被検査部B1のラマン分光法による画像であるラマンイメージ画像R1(図7参照)を撮影する。したがって、実施例1では、縦方向(第1軸方向)を位置P1〜P16、横方向(第2軸方向)を波長λ〜λとする平面上で、各画素で受光したラマン光L1(λ)〜L16(λ)の強度(スペクトル強度)の値からなるラマンイメージ画像R1を撮像する。
【0037】
C15:撮影画像記憶手段
撮影画像記憶手段C15は、カメラ画像撮影手段C13で撮影された可視静止画像(G1)を記憶する可視静止画像記憶手段C15aと、ラマンイメージ撮影手段C14で撮影されたラマンイメージ画像R1を記憶するラマンイメージ画像記憶手段(スペクトル記憶手段)C15bとを有する。
前記ラマンイメージ画像記憶手段C15bは、ラマン測定用高感度CCDカメラ22の各受光素子の前記第1軸方向の位置として特定される次元変換部15の一次元直線上の位置P1〜P16と、各受光素子の前記第2軸方向の位置として特定されるラマン光の波長成分λ〜λと、一次元直線上の位置P1〜P16およびラマン光の波長成分λ〜λとで特定される二次元上の位置の受光素子で受光したスペクトル強度と、を対応づけて記憶している。すなわち、縦方向(第1軸方向)を位置P1〜P16、横方向(第2軸方向)を波長λ〜λ、高さ方向(第3軸方向)を各画素(受光素子)で受光したラマン光L1(λ)〜L16(λ)のスペクトル強度、とする3次元のラマンイメージ画像R1を記憶する。
そして、実施例1の撮影画像記憶手段C15は、ラマンイメージ撮影領域表示画像G1gの情報を含む可視像撮影領域B2の可視静止画像G1と、ラマンイメージ撮影領域表示画像G1gのラマンイメージ画像R1とを対応させて(関連づけて)記憶する。
【0038】
C16:結果画像表示手段
結果画像表示手段C16は、画素再配列手段C16aを有し、ラマンイメージ撮影手段C14で撮影され、撮影画像記憶手段C15に記憶されたラマンイメージ画像R1および可視静止画像G1とに基づいて、撮影結果(検査結果)の結果画像G2をディスプレイH2に表示する。図6Bにおいて、実施例1の結果画像G2は、可視静止画像R2が表示される可視像表示部G2aと、撮影画像記憶手段C15に記憶されたラマンイメージ画像R1から特定の波長λ(1≦i≦n)における被検査部B1の領域のラマン光の強度分布を抽出・演算した強度分布画像が表示される強度分布表示部G2bと、強度分布の波長λを変更する入力を行うための波長変更入力ボタンG2cと、撮影画像記憶手段C15に記憶されたラマンイメージ画像R1から特定の位置Pj(1≦j≦16)における波長λ〜λのスペクトル波形R2(図7参照)を抽出・演算した波形画像が表示される波形表示部G2dと、スペクトル波形R2を表示する位置Pjを変更する入力を行うための位置変更入力ボタンG2eと、撮影位置を再設定するためにメイン画像G1を表示するための撮影位置再設定ボタンG2fと、を有する。また、実施例1の可視像表示部G2aには、中央部に、可視静止画像G1に対応する被検査部B1の領域を示すラマンイメージ撮影領域表示画像G2gが表示される。さらに、ラマンイメージ撮影領域表示画像G2gにおける特定の位置Pjに対応する画像の枠線が強調表示(太線表示)で表示されており、位置変更入力ボタンG2eへの入力に応じて強調表示の枠線の位置が更新される。また、実施例1では、前記強度分布表示部G2bに表示される強度分布画像は、ラマン光の強度が強い領域を赤で、強度が弱い領域を青色で表示し、その間の強度は強度に応じて中間調で表示するような色の分布で表示する画像が採用されている。なお、強度表示は、例示した色分けに限定されず、その他の色を使用したり、モノクロの濃淡で表示したり等、任意の表示方法が可能である。
【0039】
C16a:画素再配列手段
画素再配列手段C16aは、強度分布画像G2bを表示するために、前記ラマンイメージ画像R1に基づいて、一次元状に配列された状態で記憶されているラマンイメージ画像R1の位置P1〜P16のデータを、二次元平面の被検査部B1の位置、すなわち、入射部15aの位置に対応させて、二次元的に再配列する。すなわち、次元変換部15で二次元から一次元に変換したものを、逆変換して、再び二次元の配列に戻す。
【0040】
(実施例1の作用)
前記構成を備えた実施例1の文化財検査装置1では、移動式架台2により文化財検査装置1を文化財Bの設置されている場所に移動させることができる。そして、移動式架台2で、文化財Bの検査したい被検査部B1に対して分光分析装置4の位置を粗調整することができる。
分光分析装置4の位置が粗調整された状態で、文化財検査プログラムAP1を起動し、可視像表示部G1aを見ながら位置調節装置3を制御して、被検査部B1に対する分光分析装置4の位置を微調節できる。このとき、メイン画像G1の可視像表示部G1aには、ラマンイメージ撮影領域表示画像G1gが四角の枠で表示されており、微調整された位置と、ユーザがラマンイメージを撮影したい位置とが一致するか否かを、ユーザが容易に判断することができる。
【0041】
また、ラマンイメージ画像R1の撮影が開始されて、被検査部B1に励起レーザー光が照射されると、被検査部B1の材料や塗料、付着物等の分子の振動に基づくラマン散乱光が発生する。被検査部B1からの光は、エッジフィルタ8を通過する際に、励起レーザー光の反射光は遮断され、ラマン光だけが通過し、次元変換部15に入射される。次元変換部15の入力部15a側では、平面状の被検査部B1を仮想的に分割した画素に対応して光ファイバの一端が平面状に配列されており、次元変換部15の出力部15b側では光ファイバの他端側は一次元直線上に配列されている。したがって、次元変換部15で、入力部15a側の二次元から出力部15b側の一次元に変換される。
【0042】
一次元直線上に配列された光ファイバからの位置番号P1〜P16の各光L1〜L16は、分光器17に入射され、それぞれ、グレーティング17cで波長λ〜λの光L1(λ)〜L16(λ)に分光される。そして、分光された光L1(λ)〜L16(λ)は、ラマン測定用高感度CCDカメラ22で受光され、ラマンイメージ画像R1が撮像される。そして、撮影されたラマンイメージ画像R1が可視静止画像G1に対応して保存される。
したがって、位置番号P1〜P16の各位置におけるλ〜λの波長のラマンスペクトルをラマン測定用高感度CCDカメラ22で一度に測定することができる。この結果、フィルタ等を使用して、波長λについて位置番号P1〜P16の位置のスペクトル強度を測定した後、フィルタを換えて別の波長λについて位置番号P1〜P16の位置のスペクトル強度を測定する工程を繰り返して、波長λ〜λの全てのスペクトル強度を測定していく従来の構成に比べて、波長λ〜λについて位置番号P1〜P16の位置のスペクトル強度を一度に測定できる実施例1の構成により、短時間で測定することができ、測定速度を高速化することができる。
【0043】
また、撮影されたラマンイメージ画像R1をデータ処理して、表示したい特定の波長λ(iは1〜nのいずれか)における被検査部B1のスペクトル強度の分布画像G2bや、位置番号P1〜P16の中で文化財Bの特定の位置Pj(jは1〜16のいずれか)のラマンスペクトル波形R2の画像G2dを得て、ディスプレイH2に表示したりすることもでき、このとき、対応づけられている可視静止画像G1を参照することで、文化財Bのどの位置であるのかも容易に判断、認識することができる。この結果、X線を使用して元素分析を行う場合に比べて、ラマンスペクトルR2を使用することで文化財Bの化学的性質を判別でき、例えば、文化財Bの被検査部B1の表面の材料に含まれる水分量や不純物等も特定できる。
これにより、例えば、材料の種類や産地毎に予めラマンスペクトルのデータを採取し、データベース化して保存しておき、得られたラマンスペクトルR2と比較することで、文化財Bの一例としての壁画が描かれた材料の種類や産地等を特定することができ、文化財Bの由来等の文化史の研究や、修復、保存を行う際に、同じ色の塗料であってもどの材料の塗料を使用することが望ましいのかを判断することができる。同様に、壁画以外の文化財Bについても、例えば、神社、仏閣等の柱のラマンスペクトルR2を得て、比較することで、材料や時代を特定することができる。
【実施例2】
【0044】
図8は実施例2の次元変換部の要部説明図であり、図8Aは全体図、図8Bは図8Aの矢印VIIIB方向から見た図、図8Cは図8Bの入射部の説明図、図8Dは図8Aの矢印VIIID方向から見た図、図8Eは図8Dの射出部の説明図である。
なお、この実施例2の説明において、前記実施例1の構成要素に対応する構成要素には同一の符号を付して、その詳細な説明を省略する。
この実施例2は、下記の点で前記実施例1と相違しているが、他の点では前記実施例1と同様に構成されている。
【0045】
図8において、実施例2の次元変換部31の入射部31aは、図8Cに示すように、光ファイバの一端32が16行16列の二次元平面の格子上に配列されている。すなわち、実施例2の次元変換部31は、16×16の256本の光ファイバを有する。そして、図8Cに示すように、次元変換部31の射出部31bでは、各光ファイバの他端33は、1行×256列の1次元の直線上に沿って配置されている。図8C、図8Eにおいて、二次元平面における各光ファイバの一端32の配置位置をm行n列とした場合に、他端33では、図8Eに示すように、1行1列、2行1列、3行1列、…、16行1列、16行2列、15行2列、…、1行2列、1行3列、…、1行16列の順に配列されている。
したがって、他端33側の配列に対応する一端32側では、二次元平面において、1列目が、1行1列から16行1列まで順に配列された後、2列目が1行2列からではなく16行2列から1行2列まで順に配列される。そして、3列目以降は、奇数列目が1列目と同様に配列され、偶数列目が2列目と同様に配列される。すなわち、実施例2では、実施例1と異なり、二次元平面において、ジグザグに一筆書きされた軌跡に沿って配列される。このため、実施例1のように、例えば、1行1列、…、16行1列、1行2列、…のように2次元平面において、光ファイバの一端32側が隣り合わない配列ではなく、…、16行1列、16行2列、…のように2次元平面でも隣り合い、且つ、光ファイバの他端33側でも隣り合うように配列されている。
【0046】
(実施例2の作用)
図9は実施例2の作用を対比して説明するための説明図であり、図9Aは実施例1の次元変換部の入射部の説明図、図9Bは実施例1の次元変換部の射出部の説明図、図9Cは実施例1の次元変換部から射出された光が分光された像の説明図、図9Dは図9Cの像に歪曲収差がある場合の説明図、図9Eは図9Dの要部拡大図、図9Fは図9Eにおけるズレの文化財の被検査部に対応する位置を説明する説明図である。
図10は実施例2の作用を対比して説明するための説明図であり、図10Aは実施例2の次元変換部の入射部の説明図、図10Bは実施例2の次元変換部の射出部の説明図、図10Cは実施例2の次元変換部から射出された光が分光された像の説明図、図10Dは図10Cの像に歪曲収差がある場合の説明図、図10Eは図10Dの要部拡大図、図10Fは図10Eにおけるズレの文化財の被検査部に対応する位置を説明する説明図である。
なお、図9、図10において、図面の記載を簡略化するために、光ファイバの端を円形ではなく格子状に記載している。
【0047】
前記構成を備えた実施例2の文化財検査装置1では、文化財Bの被検査部B1からの光が次元変換部31に入射され、次元変換部31の射出部31bから射出された光は、光学系17を通過する。
図9において、実施例1のように、射出部15bが図9Bに示すように、1行1列、2行1列、3行1列、…、16行1列、1行2列、2行2列、…、16行2列、1行3列、…の順に配列された構成では、分光後の像が図9Cに示すような格子状の配列のラマンイメージ画像R1となる。このとき、光学系17を通過する際に、光学系17の性能、特性により、像に図9Dに示すような糸巻き型または図示しない樽型の歪曲収差が発生することがある。歪曲収差が発生した場合、図9D、図9Eの実線で示す一例の歪曲収差が発生したラマンイメージ画像R1′が、図9D、図9Eの破線で示すようにラマン測定用高感度CCDカメラ22の各受光素子の位置に対してずれることがある。そして、図9Eに示すように、例えば、本来16行1列の波長λ1の光が受光されるべき受光素子において、1行2列の波長λ2の光が観測されることがある。この場合、図9Fに示すように、本来の文化財Bの被検査部B1において、1行2列の位置の測定データが、大きく位置がずれた16行1列の測定データとして測定されてしまう。
【0048】
これに対して、実施例2では、図10に示すように、光ファイバの一端側32および他端側33の両方で隣り合うように配列された構成では、図10Eに示すように、歪曲収差が発生した場合には、例えば、本来16行1列の波長λ1の光が観測されるべき受光素子において、16行2列の波長λ2の光が観測される。従って、図10Fに示すように、本来の文化財Bの被検査部B1において、16行2列の測定データが、隣接する16行1列の測定データとして測定される。
したがって、歪曲収差が発生しても、ラマン測定用高感度CCDカメラ22の各受光素子で観測される測定データは、文化財Bの被検査部B1において、近傍の位置の測定データが観測される。よって、実施例1の構成において歪曲収差が発生して、大きく異なる位置のデータが測定される場合に比べて、実施例2の構成では、歪曲収差が発生しても、近傍の位置の測定データが観測されるため、あまりにもかけ離れたデータが観測されることが低減される。
【0049】
例えば、文化財Bの1行2列に対応する位置が青色で、16行1列や16行2列に対応する位置が連続する赤色の場合、実施例1の構成では、青色の観測データが、赤色の位置のデータとして測定されるが、実施例2の構成では、近傍の赤色のデータが測定され、各受光素子の観測データが、実際の被検査部B1の観測データからかけ離れてしまうことを低減できる。
よって、実施例2の次元変換部31では、特に、射出部31bの直線方向に沿った方向、すなわち、図10D、図10Eにおける像の縦方向のズレについて、観測データと実際の被検査部B1の位置とのズレを低減することができる。
【0050】
特に、ラマン分光用の励起レーザーの波長が、可視光領域(およそ400nm〜800nm)では、歪曲収差がほとんど見られない高精度の光学系17が比較的低価格で販売されており、可視光領域の励起レーザー光を使用する場合には、実施例1の構成でも歪曲収差の悪影響をあまり受けることなく観測が可能となっている。一方で、励起レーザー光の波長が近赤外領域(およそ800nm〜)になると、市販されている近赤外光に対応する光学系は、可視光領域に対応する光学系に比べて歪曲収差が目立つ。したがって、歪曲収差が小さな光学系を使用しようとすると、特注品となり、高価になるという問題がある。これに対して、実施例2では、市販で低価格の光学系を使用しても、次元変換部31の構成により、歪曲収差の悪影響を低減することが可能となっている。
【0051】
(実施例2の変更例)
図11は実施例2の変更例の説明図であり、図11Aは図10Aに対応する図、図11Bは図10Bに対応する図である。
図11において、実施例2の変更例では、次元変換部31′は、他端33′では、1行1列、2行1列、3行1列、…、16行1列、16行2列、16行3列、…、16行16列、15行16列、…、1行16列、…の順に配列されており、二次元平面において、一端32′は外周から中央に向かう渦巻き状に一筆書きされた軌跡に沿って配列される。
このため、実施例2の変更例でも、実施例2においても、一端32′側および他端33′側の両方で光ファイバの端が隣り合うように配列されている。
したがって、実施例2の変更例でも、実施例2と同様の作用、効果を有する。
【実施例3】
【0052】
図12は実施例3の次元変換部の要部説明図であり、図12Aは全体図、図12Bは図12Aの矢印XIIB方向から見た図、図12Cは図12Bの入射部の説明図、図12Dは図12Aの矢印XIID方向から見た図、図12Eは図12Dの射出部の説明図である。
なお、この実施例3の説明において、前記実施例1、2の構成要素に対応する構成要素には同一の符号を付して、その詳細な説明を省略する。
この実施例3は、下記の点で前記実施例1、2と相違しているが、他の点では前記実施例1、2と同様に構成されている。
【0053】
図12において、実施例3の次元変換部41の入射部41aは、図12Bおよび図12Cに示すように、実施例2と同様に、光ファイバの一端42が16行16列の二次元平面の格子上に配列されている。そして、図12Dおよび図12Eに示すように、次元変換部41の射出部41bでは、各光ファイバの他端43は、1行×255列の1次元の直線S1上に沿って配置された実施例2と異なり、1×255行の1次元の弧状の曲線S2上に沿って配置されている。なお、各光ファイバの一端42と他端43との対応は、実施例2と同様に、図12Cに示すように、1行1列、2行1列、3行1列、…、16行1列、16行2列、15行2列、…、1行2列、1行3列、…、1行16列の順に配列されている。
【0054】
図12Bにおいて、他端43が配列される弧状の曲線S2の曲率半径Rは、光学系17のグレーティング17cへ入射される光の仰角(俯角)に基づいて設定されている。すなわち、一般のグレーティング(回折格子)において、グレーティングへの光の入射角をα、回折角をβ、格子定数をσ、波長をλ、次数をmとした場合に、以下のグレーティングの式(1)が成立する。
sinα+sinβ=m×λ/σ …式(1)
ここで、入射される光が、グレーティングの面に対して仰角(または俯角)を持って入射される構成では、仰角(俯角)をγとした場合、以下の式(2)となる。
cosγ×(sinα+sinβ)=m×λ/σ …式(2)
【0055】
したがって、式(1)、(2)から、仰角γの値が0[°]よりも大きくなるに連れて、同じ回折角βに回折する光の波長λの値が小さくなることがわかる。よって、図10D、図10Eにおける波長λの値のズレ、すなわち、図10D、図10Eにおける横方向のズレが発生しやすくなる。これに応じて、実施例3では、波長方向のズレを抑制するために、グレーティング17cを含む光学系17の特性に基づく仰角γに応じて曲率半径Rを有する弧状の曲線に沿って配置されている。なお、曲率半径Rは、実験等により観測、導出され、予め設定される。
【0056】
(実施例3の作用)
前記構成を備えた実施例3の文化財検査装置1では、次元変換部41の射出部41bにおいて、光ファイバの他端43が、仰角γに対応する弧状の曲線S2に沿って配置されている。したがって、光ファイバの他端43を直線S1上に沿って配置する場合に比べて、歪曲収差におけるグレーティング17cによる波長方向のズレが低減され、ラマン測定用高感度CCDカメラ22で観測されるデータの波長方向のズレが低減される。
よって、低価格な光学系を使用してもグレーティングによるスリット像の曲がりの悪影響が少ない観測を行うことができる。
【0057】
(変更例)
以上、本発明の実施例を詳述したが、本発明は、前記実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内で、種々の変更を行うことが可能である。本発明の変更例(H01)〜(H015)を下記に例示する。
(H01)前記実施例において、測定領域モニター用カラーCCDカメラ12と高解像度カラーCCDカメラ26とを共通化して、いずれか一方を省略することも可能である。
(H02)前記実施例において、分光器の一例として2つの反射鏡17a,17eやコリメータ17b、グレーティング17c、集光鏡17dを有する構成としたが、これの構成に限定されず、設計や仕様に応じて、反射鏡の数を増減したり、絞りやフィルタを追加する等、従来公知の任意の構成を採用可能である。他にも、コリメータ17bや集光鏡17dとして、反射鏡ではなく、光を透過させるレンズを使用することも可能である。
【0058】
(H03)前記実施例において、グレーティング17cを固定とする構成を例示したが、グレーティング17cを上下方向に延びる回転軸を中心に回転可能な構成として、回転角度を制御することで測定する波長を変化させることも可能である。したがって、例えば、まず、波長λ〜λの領域のラマンイメージ画像を撮像した後に、グレーティング17cを回転させて波長λn+1〜λ2nの領域のラマンイメージ画像を撮像し、さらにグレーティング17cを回転させて波長λ2n+1〜λ3nの領域のラマンイメージ画像を撮像することが可能となり、3回の撮像でλ〜λ3nの領域のラマンイメージ画像を撮像することができ、3n回の撮像が必要となる従来の構成に比べて、大幅に高速化することが可能となる。
【0059】
(H04)前記実施例において、移動式架台2や位置調節装置3は実施例に例示した構成に限定されず、従来公知の任意の構成を採用可能である。
(H05)前記実施例において、ラマンイメージ画像を撮像する領域の広さは、設計や仕様等に応じて変更可能であり、点に近い領域とすることも可能である。
(H06)前記実施例において、ラマンイメージ画像を撮像する際に、入力されるレーザー光の波長は、特定の波長のものを使用したが、これに限定されず、例えば、励起波長が異なる光源ユニットを並べて使用することも可能である。
【0060】
(H07)前記実施例において、可視画像を撮影するために高解像度カラーCCDカメラを使用したが、これに限定されず、例えば、ラマン測定用高感度CCDと共通化し且つ、光軸上に、次元変換部15および分光器17と、RGBのカラーフィルタとを進入・退避可能としておき、ラマンイメージ画像を撮像する際には次元変換部15等を光軸上に進入させ、可視画像を撮像する際にはカラーフィルタを進入させるように構成することも可能である。
(H08)前記実施例において、可視画像を撮像する高感度カラーCCDカメラを使用することが望ましいが、ラマンスペクトル、ラマンイメージ画像のみで十分な場合、省略することも可能である。
【0061】
(H09)前記実施例において、分光分析装置4を箱形のケース4aで構成し、レンズ用開口4cを形成して、光を照射および反射光の入射をする構成としたが、この構成に限定されず、例えば、光ファイバの束で構成された次元変換部15の一端側を延長して、フレキシブルなワイヤ状のプローブとし、プローブの先端を被検査部に対向させることで測定を行うように構成することも可能である。
(H010)前記実施例において、ラマン測定用高感度CCDカメラ22の受光素子は、位置番号と波長の数と同数に設定したが、この構成に限定されず、位置番号や波長の数と画素数とを一致させない構成とすることも可能であり、例えば、16本の光ファイバに対して、縦方向に倍の32画素分の受光素子を配置し、2つの受光素子で1本の光ファイバからの光を測定するように構成することも可能である。
【0062】
(H011)前記実施例において、検査対象物として、文化財を例示したが、文化財に限定されず、任意の物質について検査することが可能である。例えば、高分子材料(高分子の結晶性の違いや結晶の分布状態を検査)、薬剤(構成されている成分や不純物の検査)、鉱物(組成や含有する不純物の検査)、生体(正常な細胞と、ガン細胞のような異常な細胞の検査)等に使用することも可能である。
(H012)前記実施例において、分光部として、回折格子(グレーティング)を例示したが、グレーティングに限定されず、プリズム等、従来公知の任意の分光部材を使用可能である。
【0063】
(H013)前記実施例において、実施例3の構成を実施例1に適用することも可能である。
(H014)前記実施例において、反射型のグレーティングやコリメータ、反射鏡を使用する光学系を例示したが、この構成に限定されず、透過型のグレーティングや透過型のレンズ等を使用する光学系を採用することも可能である。なお、透過型のグレーティングを使用した場合でも、回折格子の式(2)は満たされ、同一の条件で次元変換部41を構成することが可能である。
(H015)前記実施例において、実施例2,3の光ファイバの一端32,42と他端33,43の配列は、実施例に例示した配列に限定されず、任意の配列とすることが可能であるが、実施例2や実施例2の変更例に例示したように、一筆書きの軌跡に沿った配列とすることで、両端32,33,42,43で互いに隣接するように配置することが望ましい。
【符号の説明】
【0064】
1…文化財検査装置、
15,31,41…次元変換部、
15a,31a,41a…入射部、
15b,31b,41b…射出部、
17…分光部、
22…受光部、
B…文化財、
B1…被検査部、
C15b…スペクトル記憶手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検査部に照射されるレーザー光を発生するレーザー光源と、
内部を光が透過可能な複数の光ファイバを有する次元変換部であって、前記被検査部から散乱されたラマン光が入射される入射部側において前記光ファイバの一端が二次元平面上に配置されると共に、前記光ファイバの内部を透過した光が射出される射出部において前記光ファイバの他端が一次元の線上に沿って配置された前記次元変換部と、
前記各光ファイバの他端側から射出された光を、前記一次元の線上に対して交差する方向に沿って、光に含まれる各波長のスペクトル成分に分光する分光部と、
前記一次元の線の方向を第1軸方向とし且つ前記一次元の線に交差する方向を第2軸方向とした場合に、前記第1軸方向及び第2軸方向に沿って平面状に配列された複数の受光素子を有し、各受光素子が前記分光部で分光された各波長の光を受光する受光部と、
前記受光素子の前記第1軸方向の位置として特定される前記次元変換部の一次元の線上の位置と、前記受光素子の前記第2軸方向の位置として特定されるラマン光の波長成分と、前記一次元の線上の位置およびラマン光の波長成分とで特定される二次元上の位置の前記受光素子で受光したスペクトル強度と、を対応づけて記憶するスペクトル記憶手段と、
を備えたことを特徴とするラマンイメージング装置。
【請求項2】
前記二次元平面内において前記光ファイバの一端どうしが隣り合った状態で配置され、且つ、前記一次元の線上において前記光ファイバの他端どうしが隣り合った状態で配置された前記次元変換部、
を備えたことを特徴とする請求項1に記載のラマンイメージング装置。
【請求項3】
m、nを3より大きい正数とした場合に、m行n列の格子状の二次元平面上に前記光ファイバの一端が配置されると共に、1行1列、2行1列、…、m行1列、m行2列、(m−1)行2列、…、1行2列、1行3列、2行3列、…の順に、前記光ファイバの他端が一次元の線上に沿って配置された前記次元変換部、
を備えたことを特徴とする請求項2に記載のラマンイメージング装置。
【請求項4】
前記分光部に対して入射される光の仰角に基づいて、弧状の一次元の線上に前記光ファイバの他端が配置された前記次元変換部、
を備えたことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のラマンイメージング装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2010−151801(P2010−151801A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−257918(P2009−257918)
【出願日】平成21年11月11日(2009.11.11)
【出願人】(593230855)株式会社エス・テイ・ジャパン (13)
【出願人】(504190548)国立大学法人埼玉大学 (292)
【Fターム(参考)】