説明

ラメラ多孔体電解質

【課題】低湿度下(特に、水毛管凝縮が起こらない低湿度下)においても高いプロトン伝導度を示すラメラ多孔体電解質を提供すること。
【解決手段】所定の間隔を隔てて平行に配列しているシリカ層と、前記シリカ層の層間を繋ぐシリカピラーとを備えたラメラ多孔体と、前記シリカ層の内表面を修飾する有機スルホン酸基とを備えたラメラ多孔体電解質。前記有機スルホン酸基の分子長Lに対する前記シリカ層の層間距離Dの比(=D/L)は、1≦D/L≦3が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラメラ多孔体電解質に関し、さらに詳しくは、燃料電池、水電解装置、ハロゲン化水素酸電解装置、食塩電解装置、酸素及び/又は水素濃縮器、湿度センサ、ガスセンサ等の各種電気化学デバイスに用いられる電解質として使用することが可能なラメラ多孔体電解質に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池、電解装置などの電気化学デバイスには、イオン伝導性を示す各種の電解質が用いられている。これらの中でも、固体高分子電解質は、相対的に低温において高いイオン伝導性を示すので、燃料電池用の電解質膜や触媒層内電解質としてとして広く使用されている。しかしながら、固体高分子電解質は、耐熱性が低いために、効率の点で有利な高温での使用に限界がある。また、固体高分子電解質は、高いイオン伝導性を発現させるためには適度な含水状態にある必要があるため、低加湿条件下での使用に限界がある。さらに、固体高分子電解質は、イオン伝導性を高めるために酸基密度を増大させると、水に膨潤又は溶解しやすくなるという問題がある。
【0003】
一方、このような問題を解決する電解質として、例えば、シリカなどの無機材料からなるメソ多孔体のメソ細孔内に、パーフルオロアルキルスルホン酸基などの酸基を導入した有機/無機ハイブリッド型の固体電解質が提案されている。
無機/有機ハイブリッド型の固体電解質は、
(1)メソ細孔内に多量の酸基を導入することができるので、良好なプロトン伝導性を示す、
(2)毛管凝縮現象によりメソ細孔内に水分を保持することができるので、低加湿条件下においても高いプロトン伝導度を示す、
(3)無機材料を基体としているので、酸基の比率にかかわらず、形状を維持できる、
と言われている。
【0004】
このような無機/有機ハイブリッド型の固体電解質及びその製造方法については、従来から種々の提案がなされている。
例えば、特許文献1、3には、
(1)界面活性剤及びNaOHを含む水溶液に1,4−ビス(トリエトキシシリル)ベンゼンを加えて反応させることにより、界面活性剤を含む多孔質前駆体を合成し、
(2)多孔質前駆体粒子を塩酸−エタノール混合溶液に分散させて界面活性剤を抽出することにより、−C64−Si23−骨格を有する多孔質粒子とし、
(3)多孔質粒子に発煙硫酸を加えて反応させ、骨格に含まれるフェニレン基(−C64−)の一部をスルホン酸化させる
ことにより得られる固体電解質が開示されている。
同文献には、
(a)このような方法により、中心細孔直径が2.8nmであり、5.5×10-4eq/gの水素イオンが存在する固体電解質が得られる点、及び、
(b)得られた固体電解質は、水蒸気の相対圧力が1.0未満であっても、細孔内が水で十分に満たされる点、
が記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、
(1)塩酸及び界面活性剤(F127)を含む溶液中にテトラエトキシシランを加えてF127/シリカ複合粒子を生成させ、
(2)F127/シリカ複合粒子からF127を燃焼除去して多孔質シリカ(SBA−16粒子)とし、
(3)1,2,2−トリフルオロ−2−ヒドロキシ−1−トリフルオロメチルエタンスルホン酸スルトン(前駆体)を溶解させた溶液にSBA−16粒子を加え、細孔内壁のシラノール基と前駆体とを縮重合させる
ことにより得られる無機/有機ハイブリッド固体電解質が開示されている。
同文献には、このような無機/有機ハイブリッド固体電解質を加圧成形することにより得られる固体電解質膜は、高いプロトン伝導性を示す点が記載されている。
【0006】
また、非特許文献1には、メソポーラスシリカの表面シラノール基と、1,2,2−トリフルオロ−2−ヒドロキシ−1−トリフルオロメチルエタンスルホン酸スルトン(環状前駆体)とを反応させることにより得られるハイブリッド有機−無機メソポーラスシリカが開示されている。
同文献には、
(1)メソポーラスシリカの表面シラノール基と環状前駆体とを反応させると、環状前駆体のスルトン環が開環し、シリカ骨格と末端にスルホン酸基を有するパーフルオロアルキル鎖(−O−CF2−CF(CF3)−SO3H)との間に共有結合が形成される点、
(2)有機物の担持に伴い、メソポーラスシリカのBET比表面積が小さくなる点、及び
(3)環状前駆体とメソポーラスシリカの比率を変えることにより、S含有量が0.51mmol/gであるハイブリッド有機−無機メソポーラスシリカが得られる点、
が記載されている。
【0007】
また、非特許文献2には、テンプレート共存下でシラン1((EtO)3Si(CH2)3(CF2)2O(CF2)2SO2F)とシラン2((EtO)4Si)とをゾルゲル共縮重合させることにより得られるメソポーラスシリカ−パーフルオロスルホン酸ハイブリッドが開示されている。
同文献には、シラン1:シラン2のモル比を0.02:0.98とすると、双方のシランが完全に組み込まれ、かつ、スルホン酸基の担持量が0.2mmol/gである規則配列した細孔を有する材料が得られる点が記載されている。
【0008】
さらに、非特許文献3には、加水分解させたテトラエトキシシランと、(OH)3−Si(CH2)3(CF2)2O(CF2)2SO3-+とを共縮重合させることにより得られる、側鎖にスルホン酸基を有する高比表面積材料が開示されている。
同文献には、このような方法により得られる材料の酸当量数は、0.18mmol/gである点が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開WO2002/037506号公報
【特許文献2】特開2007−141625号公報
【特許文献3】特開2003−263999号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】M.Alvaro et al., Chem.Commun., 2004, 956
【非特許文献2】D.J.Macquarrie et al., Chem.Commun., 2005, 2363
【非特許文献3】M.A.Harmer et al., Chem.Commun., 1997, 1803
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
メソ多孔体の内表面にパーフルオロスルホン酸を導入する方法には、上述したように、
(1)予め合成されたメソポーラスシリカの細孔の表面にパーフルオロスルホン酸基をグラフトさせる第1の方法、及び、
(2)界面活性剤共存下でパーフルオロスルホン酸基を有する分子長の長いモノマーと、メソ細孔壁の骨格を形成するモノマー(例えば、テトラエトキシシラン)とを共縮重合させる第2の方法、
が知られている。
しかしながら、第1の方法は、パーフルオロスルホン酸基となる前駆体をメソ細孔内に均一に導入するのが難しい。そのため、第1の方法は、細孔内に導入可能な酸基量に限界があり、最大でも0.51mmol/gに留まっている。
また、第2の方法は、パーフルオロスルホン酸基を有するモノマーの比率が高くなりすぎると、細孔構造が壊れやすくなる。そのため、第2の方法も同様に、細孔内に導入可能な酸基量に限界があり、最大でも0.2mmol/gに留まっている。
さらに、ヘキサゴナル構造又は虫食い状構造を有するメソ細孔材料にスルホン酸基を高密度に導入しても、水毛管凝縮が起こらない低湿度下(相対湿度10%程度)において高いプロトン伝導度を得ることができない。
【0012】
本発明が解決しようとする課題は、低湿度下(特に、水毛管凝縮が起こらない低湿度下)においても高いプロトン伝導度を示すラメラ多孔体電解質を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために本発明に係るラメラ多孔体電解質は、
所定の間隔を隔てて平行に配列しているシリカ層と、前記シリカ層の層間を繋ぐシリカピラーとを備えたラメラ多孔体と、
前記シリカ層の内表面を修飾する有機スルホン酸基と
を備えている。
【発明の効果】
【0014】
有機スルホン酸基を導入するための無機多孔体としてラメラ多孔体を用いると、シリカ層の内表面に相対的に多量のスルホン酸基を導入することができる。また、ラメラ多孔体は、シリカ層の層間がシリカピラーで繋がれているので、スルホン酸基の高配列制御が可能となる。そのため、このような構造を備えたラメラ多孔体電解質は、低湿度下においても高いプロトン伝導度を示す。
特に、有機スルホン酸基の分子長Lに対するシリカ層の層間距離Dの比(=D/L)を最適化すると、水毛管凝縮が起こらない低湿度領域(すなわち、少量の水吸着量)において、0.01S/cm以上の高いプロトン伝導度を示す。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係るラメラ多孔体電解質の概略構成図である。
【図2】図2(a)は、プロトン伝導測定に用いた4端子電極基板の概略構成図である。図2(b)は、プロトン伝導測定に用いた装置の概略構成図である。
【図3】図3(a)は、ラメラ多孔体電解質(D=2.4nm)のX線回折パターンである。図3(b)は、ラメラ多孔体電解質(D=2.4nm)のKr吸着等温線及び細孔分布曲線(挿入図)である。
【図4】ラメラ多孔体電解質(D=2.4nm)の断面のTEM写真である。
【図5】D=2.2nm(図5(a))、1.8nm(図5(b))又は1.1nm(図5(c))であるラメラ多孔体電解質のX線回折パターンである。
【図6】層間距離Dの異なるラメラ多孔体電解質膜及びナフィオン(登録商標)膜の相対湿度と25℃におけるプロトン伝導度との関係を示す図である。
【図7】ラメラ多孔体電解質膜、及び、パーフルオロスルホン酸基又はフェニルスルホン酸基を有するメソ細孔膜(ヘキサゴナル構造又は虫食い状構造)膜のD/Lと、25℃におけるプロトン伝導度が0.01S/cmになる時の相対湿度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. ラメラ多孔体電解質]
図1に本発明に係るラメラ多孔体電解質の概略構成図を示す。図1において、ラメラ多孔体電解質は、ラメラ多孔体と、有機スルホン酸基とを備えている。
【0017】
[1.1. ラメラ多孔体]
本発明において、「ラメラ多孔体」とは、所定の間隔を隔てて平行に配列しているシリカ層と、シリカ層の層間を繋ぐシリカピラーとを備えた多孔体をいう。
シリカは、層及びピラー(柱)の製造が比較的容易であるので、ラメラ多孔体の骨格を構成する材料として好適である。ラメラ多孔体は、シリカのみからなるものが好ましいが、不可避的不純物が含まれていても良い。
【0018】
[1.1.1. シリカ層]
「シリカ層」とは、シリカを主成分とする層をいう。シリカ層は、シリカのみからなるものが好ましいが、不可避的不純物が含まれていても良い。
「シリカ層が平行に配列している」とは、ゼオライトに含まれる空間より大きなナノ空間(1.0〜50nm)が層間に形成されるように、シリカ層が所定の間隔を隔てて配列していることをいう。「平行に配列」とは、X線回折によりシリカ層の層間距離に対応する回折ピークが観測できる程度にシリカ層が配列していることを言う。
【0019】
後述するように、ラメラ多孔体の骨格となる第1の前駆体と、有機スルホン酸基となる第2の前駆体とを共縮重合させる場合において、界面活性剤を共存させると、界面活性剤が平板状のミセルを形成し、自己組織化する。その結果、平行に配列しているシリカ層と、シリカ層の層間に充填された界面活性剤とを備えた複合体が得られる。
ミセルの形状及び配列状態は、溶液組成(特に、界面活性剤の種類や濃度及びpH)により制御することができる。例えば、一般に、界面活性剤の濃度が低いときには球状のミセルが形成されやすく、界面活性剤の濃度が高いときにはパイプ状のミセルが形成されやすい。界面活性剤の濃度がさらに高くなると、平板状ミセルが形成される。この平板状ミセルに第1の前駆体及び第2の前駆体が吸着し、これが平行に積み重なることによって複合体が形成される。
【0020】
シリカ層の厚さは、界面活性剤の種類などにより制御することができる。シリカ層の厚さは、通常、1〜4nm程度となる。
また、シリカ層の層間距離Dは、使用する界面活性剤の分子長で制御することができる。シリカ層の層間距離は、使用する界面活性剤の分子長の約2倍程度であり、使用する界面活性剤の種類にもよるが、通常、1〜5nm程度となる。
【0021】
[1.1.2. シリカピラー]
「シリカピラー」とは、シリカを主成分とし、シリカ層の層間を繋ぐための柱(ピラー)をいう。シリカピラーによって、シリカ層の層間距離は、ほぼ一定に保たれる。シリカピラーは、シリカのみからなるものが好ましいが、不可避的不純物が含まれていても良い。
シリカピラーは、後述するように、シリカ層間に界面活性剤が充填された複合体を所定の温度で第1の前駆体の蒸気に曝し、次いで、所定の温度で触媒を含む蒸気に曝すことにより形成することができる。
シリカピラーの直径、シリカピラーの密度(単位面積当たりのシリカピラーの個数)等は、特に限定されるものではなく、シリカ層の層間距離を一定に保つことができる限りにおいて、任意に選択することができる。
【0022】
[1.2. 有機スルホン酸基]
本発明において、「有機スルホン酸基」とは、シリカ層の内表面を修飾する酸基であり、有機基と、有機基に結合しているスルホン酸基とを備えているものをいう。「有機基」とは、パーフルオロアルキレン基、アルキレン基、芳香環、複素環などの少なくとも1つの炭素原子を備えた基をいう。
有機スルホン酸基としては、例えば、パーフルオロスルホン酸基、アルキルスルホン酸基、フェニルスルホン酸基などがある。有機スルホン酸基は、特に(1)式で表される構造を備えたパーフルオロスルホン酸基が好ましい。
−[C(H、F)2]n−X−(CF2)m−SO3H ・・・(1)
但し、
Xは、O又は直接結合、
n、mは、それぞれ、1以上3以下の整数。
【0023】
(1)式中、「−[C(H、F)2]n−」は、アルキレン基を表す。アルキレン基は、C−H結合のみを含むものでも良く、あるいは、Hの全部又は一部がFに置換されていても良い。また、アルキレン基は、直鎖状又は分岐状のいずれであっても良い。
(1)式中、「−(CF2)m−」は、パーフルオロアルキレン基を表す。パーフルオロアルキレン基の末端にSO3H基を結合させると、電気陰性度の大きいF原子によって、末端のSO3H基の酸強度が増大する。
アルキレン基とパーフルオロアルキレン基は、直接結合していても良く、あるいは、O原子を介して結合していても良い。
アルキレン基及びパーフルオロアルキレン基のいずれも、炭素数が多くなりすぎると、ラメラ構造を形成するのが困難となる。従って、これらの炭素数は、それぞれ、3以下が好ましい。
【0024】
有機スルホン酸基は、シリカ層に含まれるSiと結合した状態にある。次の(a)式に、Siを含むシリカ層の表面に、−(CH2)3−O−(CF2)2−SO3H基が結合しているラメラ多孔体電解質の一例を示す。
【0025】
【化1】

【0026】
「有機スルホン酸基の分子長L」とは、有機スルホン酸基が結合しているSi原子からスルホン酸基の先端までの距離をいう。例えば、(a)式で表されるパーフルオロスルホン酸基の場合、その分子長Lは、1.1nmとなる。
【0027】
[1.3. 酸基密度]
本発明において、無機多孔体がラメラ多孔体からなり、かつ、シリカ層の内表面が有機スルホン酸基で修飾されているので、従来の方法に比べて、導入可能な酸基量の限界値が格段に大きい。後述する方法を用いると、酸基密度が0.52mmol/g以上であるラメラ多孔体電解質が得られる。
低湿度下において高いプロトン伝導度を得るためには、酸基密度は高いほど良い。酸基密度は、さらに好ましくは0.55mmol/g以上、さらに好ましくは0.90mmol/g以上、さらに好ましくは1.25mmol/g以上、さらに好ましくは1.45mmol/g以上である。
但し、酸基密度が高くなりすぎると、ラメラ構造を維持するのが困難となる場合がある。従って、酸基密度は、1.5mmol/g以下が好ましい。
【0028】
[1.4. D/L比]
有機スルホン酸基の分子長Lに対するシリカ層の層間距離Dの比(=D/L)は、ラメラ多孔体電解質の低湿度下におけるプロトン伝導度に影響を与える。一般に、D/Lが小さすぎる場合及び大きすぎる場合のいずれも、低湿度下におけるプロトン伝導度が低下する。
【0029】
例えば、有機スルホン酸基が(1)式で表され、その酸基密度が1.5mmol/gである場合において、1≦D/L≦3とすると、相対湿度50%以上において、プロトン伝導度は0.01S/cm以上となる。
同様に、1.6≦D/L≦2.4とすると、相対湿度40%以上において、プロトン伝導度は0.01S/cm以上となる。
同様に、1.7≦D/L≦2.3とすると、相対湿度30%以上において、プロトン伝導度は0.01S/cm以上となる。
同様に、1.8≦D/L≦2.2とすると、相対湿度25%以上において、プロトン伝導度は0.01S/cm以上となる。
同様に、1.9≦D/L≦2.1とすると、相対湿度20%以上において、プロトン伝導度は0.01S/cm以上となる。
同様に、1.95≦D/L≦2.05とすると、相対湿度15%以上において、プロトン伝導度は0.01S/cm以上となる。
【0030】
[1.5. 形状]
本発明に係るラメラ多孔体電解質は、製造方法に応じて、膜状又は粉末状の形態を取る。膜状のラメラ多孔体電解質は、そのまま各種電気化学デバイスの電解質膜として使用することができる。また、粉末状のラメラ多孔体電解質は、そのまま各種電気化学デバイスの触媒層内電解質として使用することができる。
一方、粉末状のラメラ多孔体電解質を各種電気化学デバイスの電解質膜として使用するためには、粉末状のラメラ多孔体電解質を膜化する必要がある。
粉末状のラメラ多孔体電解質を膜化する方法としては、
(1)ラメラ多孔体電解質の粉末のみをプレス成形する方法、
(2)ラメラ多孔体電解質の粉末と、高分子化合物(例えば、ポリテトラフルオロエチレンなど)とを混合し、膜化する方法、
(3)ラメラ多孔体電解質の粉末と、高分子電解質(例えば、ポリパーフルオロカーボンスルホン酸など)とを混合し、膜化する方法、
などがある。
【0031】
[2. ラメラ多孔体電解質の製造方法]
本発明に係るラメラ多孔体電解質の製造方法は、複合体製造工程と、ピラー形成工程と、界面活性剤除去工程と、プロトン化工程とを備えている。
【0032】
[2.1. 複合体製造工程]
複合体製造工程は、界面活性剤共存下において、ラメラ多孔体の骨格を形成するための第1前駆体と、シリカ層の内表面を有機スルホン酸基で修飾するための第2前駆体とを共縮重合させ、シリカ層の層間に界面活性剤が充填された複合体を得る工程である。
【0033】
[2.1.1. 第1前駆体]
「第1前駆体」とは、ラメラ多孔体の骨格を形成するための原料をいう。第1前駆体は、シリカを主成分とするラメラ多孔体の骨格を形成することができ、かつ、後述する第2前駆体と共重合可能なものであれば良い。
【0034】
第1前駆体としては、具体的には、以下のようなものがある。これらは、いずれか1種を用いても良く、あるいは、2種以上を組み合わせて用いても良い。
(1)テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、ジメトキシジエトキシシランなどのテトラアルコキシシラン。
(2)トリメトキシシラノール、トリエトキシシラノール、トリメトキシメチルシラン、トリメトキシビニルシラン、トリエトキシビニルシラン、トリエトキシ−3−グリシドキシプロピルシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、γ−(メタクリロキシプロピル)トリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどのトリアルコキシシラン。
(3)ジメトキシジメチルシラン、ジエトキシジメチルシラン、ジエトキシ−3−グリシドキシプロピルメチルシラン、ジメトキシジフェニルシラン、ジメトキシメチルフェニルシランなどのジアルコキシシラン。
(4)メタケイ酸ナトリウム(Na2SiO3)、オルトケイ酸ナトリウム(Na4SiO4)、二ケイ酸ナトリウム(Na2Si25)、四ケイ酸ナトリウム(Na2Si49)、水ガラス(Na2O・nSiO2、n=2〜4)などのケイ酸ナトリウム。
(5)カネマイト(NaHSi25・3H2O)、二ケイ酸ナトリウム結晶(α、β、γ、δ−Na2Si25)、マカタイト(Na2Si49)、アイアライト(Na2Si817・xH2O)、マガディアイト(Na2Si1417・xH2O)、ケニヤイト(Na2Si2041・xH2O)などの層状シリケート。
(6)Ultrasil(Ultrasil社)、Cab-O-Sil(Cabot社)、HiSil(Pittsburgh Plate Glass社)等の沈降性シリカ、コロイダルシリカ、Aerosil(Degussa-Huls社)等のフュームドシリカ。
(7)テトラキス(2−ヒドロキシエトキシ)シラン、テトラキス(3−ヒドロキシプロポキシ)シラン、テトラキス(2−ヒドロキシプロキシ)シラン、テトラキス(2,3−ジヒドロキシプロポキシ)シランなどのテトラキス(ヒドロキシアルコキシ)シラン。
(8)メチルトリス(2−ヒドロキシエトキシ)シラン、エチルトリス(2−ヒドロキシエトキシ)シラン、フェニルトリス(2−ヒドロキシエトキシ)シラン、3−メルカプトプロピルトリス(2−ヒドロキシエトキシ)シラン、3−アミノプロピルトリス(2−ヒドロキシエトキシ)シラン、3−クロロプロピルトリス(2−ヒドロキシエトキシ)シランなどのトリス(ヒドロキシアルコキシ)シラン。
これらの中でも、テトラメトキシシラン(Si(OCH3)4)、及び、テトラエトキシシラン(Si(OC25)4)は、結晶性の良好なメソ多孔体が得られるので、第1前駆体として特に好適である。
【0035】
なお、第1前駆体として、アルコキシシラン、ヒドロキシアルコキシシラン等のシラン化合物を用いる場合には、これをそのまま出発原料として用いる。
一方、第1前駆体としてシラン化合物以外の化合物を用いる場合には、予め、水(又は、必要に応じてアルコールが添加されたアルコール水溶液)に第1前駆体を加えて、水酸化ナトリウム等の塩基性物質を加える。塩基性物質の添加量は、第1前駆体中のケイ素原子と等モル程度の量とするのが好ましい。シラン化合物以外の第1前駆体を含む溶液に塩基性物質を加えると、第1前駆体中に既に形成されているSi−(O−Si)4結合の一部が切断され、均一な溶液が得られる。溶液中に含まれる塩基性物質の量は、複合体の収量や気孔率に影響を及ぼすので、均一な溶液が得られた後、溶液に希薄酸溶液を加え、溶液中に存在する過剰の塩基性物質を中和させる。希薄酸溶液の添加量は、第1前駆体中のケイ素原子に対して1/2〜3/4倍モルに相当する量が好ましい。
【0036】
[2.1.2. 第2前駆体]
「第2前駆体」とは、シリカ層の内表面を有機スルホン酸基で修飾するための原料をいう。第2前駆体には、有機基と、有機基に結合しているスルホニルフロリド基とを備えたモノマを用いる。「有機基」の詳細は、上述した通りである。
第2前駆体は、特に、次の(2)式で表されるものが好ましい。(2)式で表される第2前駆体は、第1前駆体との共縮重合が容易であり、しかも、シリカ層の層間に多量の酸基を導入するのが容易であるという利点がある。
3Si−[C(H、F)2]n−X−(CF2)m−SO2F ・・・(2)
但し、
Zは、−OCH3、−OC25、又は、ハロゲン、
Xは、O又は直接結合、
n、mは、それぞれ、1以上3以下の整数。
(2)式中、Zは、互いに同一であっても良く、あるいは、異なっていても良い。
【0037】
次の(2a)式に、第2前駆体の一種であるフルオロ(1,1,2,2−テトラフルオロ−2−(4,4,4−トリエトキシ−4−シラブトキシ)エチル)スルホン)(FTFTESBS)の構造式を示す。
【0038】
【化2】

【0039】
(2)式で表される第2前駆体は、市販されているか、あるいは、類似の分子構造を持つ化合物を出発原料に用いて、公知の方法により合成することができる。
例えば、FTFTESBSは、白金触媒を用いて、CH2=CHCH2O(CF2)2SO2FをHSi(OEt)3で、脱水トルエン下でハイドロシリル化することにより、室温下で合成することができる。
【0040】
[2.1.3. 界面活性剤]
界面活性剤は、ラメラ多孔体を形成するためのテンプレートとなる。界面活性剤には、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤のいずれも使用することができる。使用する界面活性剤の種類に応じて、ラメラ多孔体の層間距離D、シリカ層の厚みなどを変化させることができる。
【0041】
カチオン系界面活性剤としては、具体的には、次の(3)式で表されるアルキル4級アンモニウム塩などがある。
CH3−(CH2)n−N+(R1)(R2)(R3)X- ・・・(3)
(3)式中、R1、R2、R3は、それぞれ、炭素数が1〜3のアルキル基を表す。R1、R2、及び、R3は、互いに同一であっても良く、あるいは、異なっていても良い。アルキル4級アンモニウム塩同士の凝集(ミセルの形成)を容易化するためには、R1、R2、及び、R3は、すべて同一であることが好ましい。さらに、R1、R2、及び、R3の少なくとも1つは、メチル基が好ましく、すべてがメチル基であることが好ましい。
(3)式中、Xはハロゲン原子を表す。ハロゲン原子の種類は特に限定されないが、入手の容易さからXは、Cl又はBrが好ましい。
(3)式中、nは7〜21の整数を表す。
【0042】
アニオン系の界面活性剤としては、具体的には、脂肪酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルリン酸塩などがある。
ノニオン系界面活性剤としては、具体的には、ポリエチレンオキサイド系非イオン性界面活性剤、1級アルキルアミンなどがある。
【0043】
複合体を合成する場合において、1種類の界面活性剤を用いても良く、あるいは、2種以上を用いても良い。しかしながら、界面活性剤は、ラメラ多孔体を形成するためのテンプレートとなるので、その種類は、シリカ層の層間距離等に大きな影響を与える。より均一な層間距離を有する複合体を合成するためには、1種類の界面活性剤を用いるのが好ましい。
【0044】
[2.1.4. 溶媒]
原料を溶解させる溶媒は、第1前駆体及び第2前駆体の種類に応じて最適なものを選択する。溶媒には、通常、水、アルコール、水とアルコールの混合溶媒などを用いる。アルコールは、メタノール、エタノール、プロパノール等の1価のアルコール、エチレングリコール等の2価のアルコール、グリセリン等の3価のアルコールのいずれでも良い。
【0045】
[2.1.5. 触媒]
第1前駆体及び第2前駆体を縮重合させ、ラメラ多孔体を得るためには、一般に、第1前駆体及び第2前駆体を含む溶液に触媒を加える。触媒は、第1前駆体及び第2前駆体の種類に応じて、最適なものを選択する。
例えば、シリカを含む粒子状のラメラ多孔体を合成する場合、触媒には、水酸化ナトリウム、アンモニア水等のアルカリを用いるのが好ましい。
また、例えば、シリカを含む膜状のラメラ多孔体を合成する場合、触媒には、塩酸、硝酸、ホウ酸、臭素酸、フッ素酸、硫酸、リン酸などの酸を用いるのが好ましい。
【0046】
[2.1.6. 溶液組成]
溶媒の種類、第1前駆体及び第2前駆体の濃度及び比率、界面活性剤の種類及び濃度、触媒の種類及び濃度などの溶液組成は、出発原料の種類やラメラ多孔体電解質に要求される特性に応じて、最適なものを選択するのが好ましい。
【0047】
例えば、第1前駆体及び第2前駆体の比率は、ラメラ多孔体電解質の酸基密度に影響を与える。一般に、第1前駆体に対する第2前駆体の比率が高くなるほど、酸基密度の高いラメラ多孔体電解質が得られる。
一方、第2前駆体の比率が過剰になると、ラメラ構造を維持するのが困難になる場合がある。
【0048】
また、例えば、薄膜を合成する場合において、溶液中の前駆体の濃度が低すぎると、溶液の粘度が低下し、均一な膜が得られない。また、粒子を合成する場合において、溶液中の前駆体の濃度が低すぎると、粒子の収率が低下し、あるいは、粒子の粒径や粒度分布の制御が困難となる。
一方、薄膜を合成する場合において、溶液中の前駆体の濃度が高すぎると、前駆体を鎖状に縮重合させるのが困難となる。また、粒子を合成する場合にいて、溶液中の前駆体の濃度が高すぎると、粒径及び粒度分布の制御が困難となり、粒径の均一性が低下する。
例えば、薄膜を形成する場合、溶媒は、前駆体0.01molに対して0.2〜10molが好ましい。
【0049】
また、例えば、界面活性剤の量が少なすぎると、界面活性剤の量が不足し、ラメラ状物質が生成しない。
一方、界面活性剤の量が過剰になると、界面活性剤がミセルを形成せず、ラメラ構造を形成することができない。
例えば、薄膜を合成する場合、界面活性剤は、前駆体0.01molに対して、0.001〜0.003molが好ましい。
さらに、複合体を作製する場合において、界面活性剤の種類や添加量を制御すると、シリカ層の層間距離D、シリカ層の厚みなどを制御することができる。
【0050】
また、例えば、薄膜を合成する場合において、溶液中の触媒濃度が低すぎると、加水分解速度及び重縮合速度が遅くなり、薄膜の作製が困難となる。また、粒子を合成する場合において、溶液中の触媒濃度が低すぎると、粒子の収率が極端に低下する。
一方、薄膜を合成する場合において、溶液中の触媒濃度が高すぎると、加水分解速度及び重縮合速度が速くなり過ぎ、均質な重合体が得られない。また、薄膜の結晶性、表面の平滑性、及び、シリカ層の配向性が不十分となる。また、粒子を合成する場合において、溶液中の触媒濃度が高すぎると、ラメラ多孔体の合成が困難となる場合がある。
例えば、薄膜を合成する場合、触媒は、前駆体0.01molに対して、1.0〜8.0×10-5molが好ましく、さらに好ましくは、3.0〜6.0×10-5molである。
【0051】
[2.1.7. 複合体の作製]
粉末状の複合体は、
(1)第1前駆体及び第2前駆体を含む混合液に界面活性剤及び触媒(例えば、アルカリ水溶液)を加えてこれらを反応させ、
(2)生成した粒子を混合液から分離する、
ることにより得られる。
また、膜状の複合体は、
(1)第1前駆体及び第2前駆体を含む混合液に触媒(例えば、酸水溶液)を加えて、第1前駆体及び第2前駆体の加水分解及び部分重合を生じさせ、
(2)第1前駆体及び第2前駆体の部分重合体を含む溶液中に界面活性剤を加えてゾル溶液とし、
(3)ゾル溶液を基板表面に塗布し、溶媒を揮発させる、
ことにより得られる。
【0052】
第1前駆体及び第2前駆体を含む混合液に触媒として酸又はアルカリを添加すると、第1前駆体及び第2前駆体の加水分解及び部分重合が起こる。この溶液に界面活性剤を添加すると、界面活性剤は、溶液中でミセルを形成する。この時、界面活性剤の濃度を最適化すると平板状のミセルが形成される。この平板状ミセルが超分子鋳型となり、その周囲に加水分解又は部分重合した第1前駆体及び第2前駆体が吸着する。平板状ミセルの内部には部分重合体が入り込まないため、平板状ミセルの内部は、最終的にはシリカ層の層間部分となる。従って、界面活性剤の分子鎖長を制御することにより、シリカ層の層間距離を制御することができる。
【0053】
前駆体を吸着した平板状ミセルは、やがて互いに平行な方向に配列する。これを乾燥させ又は溶液中でさらに反応させると、配列した平板状ミセル間において前駆体が縮重合する。しかも、第2前駆体は、専ら有機スルホニルフロリド基をミセル側に向けた状態で平板状ミセルに吸着する。その結果、シリカ層の層間に界面活性剤が充填され、かつ、シリカ層の内壁が有機スルホニルフロリド基で修飾された複合体が得られる。
【0054】
[2.2. ピラー形成工程]
ピラー形成工程は、シリカ層の層間に界面活性剤が充填された複合体のシリカ層間にピラーを形成する工程である。
第1前駆体と第2前駆体を共縮重合させた直後の複合体は、シリカ層間が界面活性剤のみによって繋がっている。そのため、共縮重合直後の複合体から界面活性剤を除去すると、シリカ層間が剥離し、ラメラ多孔体は得られない。ラメラ多孔体を得るためには、シリカ層間にシリカピラーを形成し、シリカ層とシリカピラーの間にSi−O−Si結合を形成する必要がある。
【0055】
シリカ層間にシリカピラーを形成する方法には、種々の方法がある。
中でも、
(1)共縮重合直後の複合体を第1前駆体の蒸気に曝し、シリカ層間に第1前駆体を充填し、
(2)第1前駆体が充填された複合体を触媒を含む蒸気に曝し、シリカ層間に充填された第1前駆体をシリカピラーにすると同時に、シリカ層とシリカピラーの間にSi−O−Si結合を形成する、
方法が好適である。
【0056】
複合体と第1前駆体の蒸気との接触は、オートクレーブに複合体及び第1前駆体を入れ、所定の温度で所定時間保持することにより行うことができる。複合体と触媒を含む蒸気との接触も、これと同様の方法により行うことができる。
蒸気との接触温度及び接触時間は、複合体の構造、第1前駆体の種類、触媒の種類等に応じて最適な条件を選択する。
例えば、第1前駆体としてTMOS、TEOSなどのアルコキシドを用いる場合、80〜200℃で1〜10時間処理するのが好ましい。
また、例えば、触媒としてアンモニア水を用いる場合、50〜120℃で1〜20時間処理するのが好ましい。
【0057】
[2.3. 界面活性剤除去工程]
界面活性剤除去工程は、シリカピラーが形成された複合体から界面活性剤を除去する工程である。界面活性剤の除去方法は、特に限定されるものではなく、界面活性剤の種類や複合体の構造等に応じて最適な方法を選択するのが好ましい。
界面活性剤の除去方法としては、具体的には、複合体を界面活性剤の良溶媒(例えば、少量の塩酸を含むメタノール)中に浸漬し、所定の温度(例えば、50〜70℃)で加熱しながら攪拌し、複合体中の界面活性剤を抽出するイオン交換法がある。
本発明において、複合体は、シリカ層の内表面が有機スルホニルフロリド基で修飾されているので、界面活性剤の除去は、イオン交換法を用いるのが好ましい。
【0058】
[2.4. プロトン化工程]
プロトン化工程は、シリカ層の内表面を修飾する有機スルホニルフロリド基を有機スルホン酸基に変換する工程である。
有機スルホニルフロリド基をプロトン化する方法としては、具体的には、有機スルホニルフロリド基を備えたラメラ多孔体を酸で処理する方法がある。
【0059】
[3. ラメラ多孔体電解質の作用]
パーフルオロスルホン酸基を導入した従来のメソ細孔電解質は、ヘキサゴナル又は虫食い状構造を持つ。しかしながら、ヘキサゴナル又は虫食い構造を持つメソ細孔電解質に対して高密度にスルホン酸基を導入すると、メソ細孔構造が壊れる場合がある。また、高密度にスルホン酸基を導入しても、低湿度下において0.01S/cm以上のプロトン伝導度を得ることは困難であった。
【0060】
これに対し、有機スルホン酸基を導入するための無機多孔体としてラメラ多孔体を用いると、シリカ層の内表面に相対的に多量のスルホン酸基を導入することができる。特に、第1前駆体と第2前駆体を共縮重合させる方法を用いると、ラメラ構造を壊すことなく、有機スルホン酸基を多量かつ均一に層間に導入することができる。また、ラメラ多孔体は、シリカ層の層間がシリカピラーで繋がれているので、スルホン酸基の高配列制御が可能となる。そのため、このような構造を備えたラメラ多孔体電解質は、低湿度下においても高いプロトン伝導度を示す。
特に、有機スルホン酸基の分子長Lに対するシリカ層の層間距離Dの比(=D/L)を最適化すると、水毛管凝縮が起こらない低湿度領域(すなわち、少量の水吸着量)において、0.01S/cm以上の高いプロトン伝導度を示す。これは、D/L比を最適化することによって、スルホン酸基の位置がシリカ層間内で揃えられるためと考えられる。
【実施例】
【0061】
(実施例1〜4、比較例1〜3)
[1. 試料の合成(1):実施例1〜4]
[1.1. ゾル溶液調製]
原料であるテトラメトキシシラン(TMOS)(0.99g)と、FTFTESBS(1.6g)にエタノール(5.0mL)を添加した。これにH2O(993μL)と2N−HCl(7μL)を加え、室温下、1hr攪拌(200rpm)した。さらに、界面活性剤であるアルキルトリメチルアンモニウムクロリド(CnTMA+Cl-。以下、単に「Cn」とも言う。)(0.91g)、エタノール(10mL)、H2O(0.1mL)、2N−HCl(10μL)の混合物をTMOS/FTFTESBSゾル溶液に添加し、2hr攪拌(300rpm)した。界面活性剤には、n=18(実施例1)、n=14(実施例2)、n=12(実施例3)、又は、n=10(実施例4)であるものを用いた。
【0062】
[1.2. 薄膜作製]
[1.1]で作製したゾル溶液を、4端子電極基板にコートした(図2(a)参照)。薄膜をコートした電極基板をオートクレーブに入れ、TMOS(150μL)を添加し、120℃−2hr処理した。次いで、28%NH3水(100μL)を添加し、100℃−2hr処理した。処理後、薄膜を100℃−1h乾燥させた。さらに、薄膜に含まれる界面活性剤を室温下で抽出(1wt%塩酸溶液:エタノール希釈)した。
【0063】
[1.3. 薄膜洗浄]
上記方法で得られた薄膜に対して、0.1N−HCl水溶液(RT−2hr)、純水による洗浄(80℃−2hr)を施し、60℃−1hr乾燥させ、ラメラ多孔体電解質膜を得た。
【0064】
[2. 試料の合成(2):比較例1〜3]
[2.1. パーフルオロスルホン酸メソ細孔膜(比較例1)]
分子長が異なる種々の界面活性剤を用いて、細孔構造がヘキサゴナル又は虫食い状構造を有するパーフルオロスルホン酸メソ細孔膜を作製した。
合成条件は、ゾル溶液への界面活性剤の添加量をC14=1.1g、C12=1.3g、又は、C10=1.5gとした以外は、実施例1〜4と同様とした。
[2.2. フェニルスルホン酸メソ細孔膜(比較例2)]
分子長が異なる種々の界面活性剤を用いて、細孔構造がヘキサゴナル又は虫食い状構造を有するフェニルスルホン酸メソ細孔膜を作製した。
合成条件は、
(1)第2前駆体として(EtO)3Si(CH2)264SO2Clを用いた点、
(2)界面活性剤としてn=12〜18であるCnTMA+Cl-を用いた点、及び、
(3)ゾル溶液への界面活性剤の添加量を0.81gとした点、
以外は、実施例1〜4と同様とした。
[2.3. パーフルオロスルホン酸膜(比較例3)]
市販のナフィオン(登録商標)膜も試験に供した(比較例3)
【0065】
[3. 試験方法]
[3.1. X線回折]
電解質膜のX線回折パターンを測定した。
[3.2. TEM観察]
電解質膜のTEM観察を行った。
[3.3. 細孔構造]
電解質膜のBET比表面積、細孔容量、及び細孔サイズを測定した。
[3.4. プロトン伝導度]
電解質膜がコートされた4端子電極基板を、1%H2(窒素希釈)流通下で25℃、相対湿度10〜90%に調製された雰囲気内に挿入した(図2(b)参照)。電極基板の両端2本の電極にピコアンメータを取り付け、0.5V印加した際の電流値を測定した。また、中央2本の電極に電圧計を取り付け、電圧を測定した。測定された電流及び電圧から抵抗値を算出し、プロトン伝導度を求めた。
【0066】
[4. 結果]
[4.1. X線回折パターン及びTEM観察]
図3(a)に、実施例1で得られたラメラ多孔体電解質のX線回折パターンを示す。図3(a)中、4.89nmに相当する回折ピークは、シリカ層の層間距離に帰属されるピークである。
図3(a)より、
(1)実施例1で得られた電解質は、シリカ層が平行に配列しているラメラ多孔体電解質であること、及び、
(2)ラメラ多孔体電解質のシリカ層の層間距離Dは、2.4nmであること、
がわかる。
図4に、実施例1で得られたラメラ多孔体電解質の断面のTEM写真を示す。図4より、層間距離Dが2.4nmであるシリカ層の層間にシリカピラーが形成されていることがわかる。
【0067】
図5(a)〜図5(c)に、実施例2〜4で得られたラメラ多孔体電解質のX線回折パターンを示す。
図5(a)〜図5(c)より、
(1)実施例2〜4で得られた電解質は、いずれもシリカ層が平行に配列しているラメラ多孔体電解質であること、及び、
(2)実施例2〜4で得られた電解質のシリカ層の層間距離Dは、それぞれ、2.2nm、1.8nm、及び、1.1nmであること、
がわかる。
【0068】
[4.2. 細孔構造]
図3(b)に、実施例1で得られたラメラ多孔体電解質のクリプトン吸着等温線及び細孔分布曲線(挿入図)を示す。
BET比表面積及び細孔容量は、それぞれ、900m2/g及び0.27mL/gであった。また、BJH法による細孔サイズ(層間距離に相当する)は、2.4nmであり、X線回折の結果と一致した。
【0069】
[4.3. プロトン伝導度]
図6に、実施例1〜4で得られたラメラ多孔体電解質(酸基密度:1.5mmol/g)及びナフィオン(登録商標)膜の相対湿度と25℃におけるプロトン伝導度との関係を示す。
図6より、以下のことがわかる。
(1)相対湿度50%以上の場合、ラメラ多孔体電解質のプロトン伝導度は、層間距離Dによらずナフィオン(登録商標)膜より高くなる。
(2)相対湿度50%以下の場合、シリカ層の層間距離Dを最適化すると、ラメラ多孔体電解質のプロトン伝導度は、ナフィオン(登録商標)より高くなる。
(3)シリカ層の層間距離Dが=2.2nmである場合(すなわち、D/L=2の場合)、ラメラ多孔体電解質の25℃におけるプロトン伝導度は、相対湿度10%においても0.01S/cm以上になる。
【0070】
図7に、ラメラ多孔体電解質膜(酸基密度:1.5mmol/g)、パーフルオロスルホン酸メソ細孔膜(酸基密度:1.3mmol/g(D/L=2.2)又は1.5mmol/g(D/L=2.2以外))及びフェニルスルホン酸メソ細孔膜(酸基密度:1.5mmol/g)のD/L比と、25℃におけるプロトン伝導度が0.01S/cmになる時の相対湿度との関係を示す。なお、ヘキサゴナル又は虫食い状構造における「D」とは、細孔の直径をいう。
【0071】
図7より、以下のことがわかる。
(1)ラメラ多孔体電解質膜において、1≦D/L≦3であるときには、25℃、相対湿度50%以上の条件下において、0.01S/cm以上のプロトン伝導度が得られる。
(2)ラメラ多孔体電解質膜において、D/L比が2に近づくほど、0.01S/cm以上のプロトン伝導度が得られる相対湿度の下限値が低くなる。
(3)ヘキサゴナル構造又は虫食い構造を有するパーフルオロスルホン酸メソ細孔膜又はフェニルスルホン酸メソ細孔膜においても、D/L比が2に近づくほど、低湿度下におけるプロトン伝導度は向上するが、0.01S/cm以上のプロトン伝導度を得るためには、相対湿度を25%以上にする必要がある。
(4)ラメラ多孔体電解質において、1.8≦D/L≦2.2とすると、相対湿度10〜25%においても、プロトン伝導度は0.01S/cm以上となる。
【0072】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明に係るラメラ多孔体電解質は、燃料電池、水電解装置、ハロゲン化水素酸電解装置、食塩電解装置、酸素及び/又は水素濃縮器、湿度センサ、ガスセンサ等の各種電気化学デバイスに用いられる電解質として使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の間隔を隔てて平行に配列しているシリカ層と、前記シリカ層の層間を繋ぐシリカピラーとを備えたラメラ多孔体と、
前記シリカ層の内表面を修飾する有機スルホン酸基と
を備えたラメラ多孔体電解質。
【請求項2】
前記有機スルホン酸基の分子長Lに対する前記シリカ層の層間距離Dの比(=D/L)は、1≦D/L≦3である請求項1に記載のラメラ多孔体電解質。
【請求項3】
酸基密度が0.52mmol/g以上である請求項2に記載のラメラ多孔体電解質。
【請求項4】
前記有機スルホン酸基は、次の(1)式で表されるパーフルオロスルホン酸基である請求項3に記載のラメラ多孔体電解質。
−[C(H、F)2]n−X−(CF2)m−SO3H ・・・(1)
但し、
Xは、O又は直接結合、
n、mは、それぞれ、1以上3以下の整数。
【請求項5】
前記有機スルホン酸基の分子長Lに対する前記シリカ層の層間距離Dの比(=D/L)は、1.8≦D/L≦2.2である請求項1に記載のラメラ多孔体電解質。
【請求項6】
酸基密度が0.52mmol/g以上である請求項5に記載のラメラ多孔体電解質。
【請求項7】
前記有機スルホン酸基は、次の(1)式で表されるパーフルオロスルホン酸基である請求項6に記載のラメラ多孔体電解質。
−[C(H、F)2]n−X−(CF2)m−SO3H ・・・(1)
但し、
Xは、O又は直接結合、
n、mは、それぞれ、1以上3以下の整数。
【請求項8】
形状が膜状又は粒子状である請求項1から7までのいずれかに記載のラメラ多孔体電解質。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2011−129380(P2011−129380A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−286970(P2009−286970)
【出願日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】