説明

ランタニド・キレートと、バイオアッセイにおけるその使用

本発明は、バイオ分子の定性及び定量測定のための蛍光分析法に用いられる、新規な化学化合物に関する。本発明の目的は、このような化合物を同定し、その適合性を実証することである。該目的は、式(1)で示される化合物[式中、Rはアンテナ官能基であり、Rは、共役ランタニド(III)イオンを含有するキレート形成剤であり、Xは、−OH又は、アミド結合によってキレート形成剤のカルボキシレート基に結合した、バイオ分子に対するアフィニティ基であり、Yは、−H又は、アンテナ官能基にカップリングした、バイオ分子に対するアフィニティ基である]によって達成される。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ランタニド・キレート類、それらの製造と特徴づけ、及びバイオアッセイにおける、好ましくは蛍光分光法におけるそれらの使用に関する。
【0002】
蛍光分光法におけるランタニド錯体の使用は、既に知られている。US4,374,120は、50〜1000マイクロ秒(μs)の比較的長い蛍光時間を有する蛍光マーカーとしてのEu−及びTb−キレートを述べている、配位子は、特に、アミノポリカルボン酸である。さらに、幾つかのランタニド蛍光キレート錯体が時間分解蛍光光度法に特に適しており、この場合、Tb(III)−BPTA−NHSとEu(III)エストロゲンが好ましく、前者はDNAハイブリッド形成アッセイに用いられることも、知られている(K. Matsumoto et al., RIKEN Review 35, May 2001)。ランタニド・キレートは、WO 00/01663によると、HTRF(均質時間分解蛍光)アッセイに用いられる。バイオ医療にシアニン及びインドシアニン染料を用いることは、知られている(US 6,217,848, US 6,190,641,追加の証拠を含む)。DE 42 22 255は、遺伝子プローブ診断に用いるためのランタニドイオン・キレート形成構造を有するマーキング試薬を述べている。ランタニドイオン・キレート形成構造としては、ピリジン誘導体が好ましく、スペーサーはポリアルキルアミン、ポリエチレングリコールであり、フロクマリン誘導体は感光性である。Journal of Alloys and Compounds 1995, 225, 511-14 における文献の112頁では、H. Takalo et al.がTb(III)及びEu(III)−キレートと、それらのルミネセンス収量を述べている。リン酸化活性を測定するために、DE 698 13 850では、クリプタートが用いられている、これは、例えばTb、Eu、Sm、Dy、Ndのような希土類分子、ビスピリジンのような錯化剤を含有し、蛍光ドナー結合として用いられる。I.HemmilaelaeとS.Webbは、DDT.1997,2,373-381において、薬物スクリーニングのためのランタニド・キレートによる時間分解蛍光定量法TRFの原理を述べている。DE 102 59 677には、好ましい実施態様において、発蛍光団(fluorophore)として希土類染料を用いる核酸検出センサーが述べられている。
【0003】
ドナーからアクセプターへのエネルギー転移の測定によるバイオ分析に用いるためには、このエネルギー転移を可能にする化合物を使用できることが必要である。1つの可能性は、エネルギー転移の特定の形としての蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)であり、これは、2つの空間的に分離した双極子の相互作用に基づくものであり、該双極子の1つ(ドナー)は、電子的に励起する。両方の双極子が相互に共鳴する場合には、該蛍光ドナーの励起エネルギーはアクセプターに非放射的に転移することができる。FRETの高い感度と、ドナーとアクセプター間の距離への強い依存性のために、FRETは、生物学関連基質(biologically relevant substrates)の同定及び特徴づけに広範囲な用途を見出している。現在の開発は、均質蛍光アッセイ(配列標識(sequence marking)、フォールド境界標識(タンパク質)、DNS)におけるFRET系の使用に関する。この方法では、反応させる抗原と抗体を発蛍光団基によって標識する、この場合、1つの発蛍光団官能基(fluorophore function)は、エネルギー・ドナーとして機能し、他方は、対応するエネルギー・アクセプターとして機能する。
【0004】
臨床実験診断並びにコンビナトリアル薬物合成において分子−分子相互作用を直接検出するためのFRET原理の包括的応用は、長波長スペクトル領域における効果的な分光学的吸光及び発光挙動によって同定されるようなドナー及びアクセプターが利用可能であることを必要とし、この場合に、生物学的基質の励起を避けるために、該ドナーの励起波長は>350nmでなければならない。生物学的試験方法に、それらが使用可能であるための他の重要な基準は、標識される分子の安定性及び生物学的活性が該方法において不利に影響されることのない、安定な共有結合型バイオポリマー発蛍光団化合物(stable,covalent biopolymer fluorophore compound)の形成である。
【0005】
この分野への認識の必要性を考慮すると、既知のドナー−アクセプター系は幾つかの欠点を有するので、正確さと短時間データ入手性を満たす、適当なドナー−アクセプター系が求められている。このように、ドナーからアクセプターへのエネルギー転移は、しばしば、満足できるものではなく、全体としての分析方法の感度も、この欠点を有する。さらに、ドナーの錯体安定性は、しばしば、充分でなく、その水溶性は不十分である。
【0006】
上記欠点の原因は、さしあたり、ドナー化合物の組成、即ち、構造にある。ドナー化合物の高い安定性を吸光及び発光の必要な分光学的性質と共に有する化合物を作製することは、今までに成功していない。さらに、今まで用いられてきたアクセプター染料は、それらの最大吸光をドナーの発光スペクトルに関して調整されないので、選択すべき化合物ではなく、アクセプター染料の充分な溶解性を保証することも、今までに成功していない。
【0007】
発蛍光団の目標とする用途のために、優先権発展クレイム(priority development claim)は、新規な化合物の合成においてドナーからアクセプターへのエネルギー転移の効率の上昇に、したがって、分析方法の感度上昇にある。このクレイムは、用途に関連した特定の発色団基を有するポリアミノポリカルボン酸がランタニド(III)イオンと結合してキレート形成している、エネルギー・ドナーとしてのランタニド錯体を用いることによって、考慮することができる。ポリアミノポリカルボン酸による、実際の発蛍光団、ランタニド(III)イオンの錯体形成は、用いるドナーに対する高レベルの錯体安定性と、水性媒質中の良好な溶解性を保証すべきである。最初に用いる、これらのランタニド(III)錯体の特殊性は、置換基(以下では、アンテナと呼ぶ)による配位子系の修飾にある、これらの置換基は意図された波長領域で吸収するので、励起波長に関して調整することができる。
【0008】
蛍光分析におけるエネルギー・ドナーとしてのランタニド(III)化合物の使用は、有機ドナーに比べて、感度及びシグナル/ノイズ比率に関して分光学的利益を提供する筈であり、したがって、特にコンビナトリアル薬物合成においても、多くの新しい用途態様を広げると考えられる。この理由は、例えば、大きなSTOKES変位(STOKES displacement)、高強度に関連した線状発光、並びに励起状態の長い寿命のような、ランタニド(III)錯体の特徴である分光学的性質である。さらに、時間分解スペクトログラムの他に、ランタニド(III)化合物の決定的な利点は、好都合なドナー−アクセプター距離にあり、これは、不完全に標識された基質に関して、良好なシグナル分離及びシグナル強化を可能にして、一般に大きな標識(label)を可能にする。
【0009】
本発明の目的は、ドナーとしてエネルギー転移することができるランタニド(III)キレート錯体であって、高い安定性並びに可視スペクトル領域における吸光と発光の有利な分光学的性質を特徴とするランタニド(III)キレート錯体を提供することである。
【0010】
ランタニド(III)錯体を、それらのドナー性質に関して、試験するために、他の目的は、該ドナーに対して、分光学的に適したアクセプター染料を選択し、合成的に修飾することと、その後に、均質な溶液中でドナー−アクセプター対を蛍光試験することにある。新規なアクセプター染料と、そのようなものとして知られている、例えばローダミン及びポリメチン染料のような、アクセプター染料との両方が、該ドナーの発光スペクトルに関する、それらの最大吸光の位置、それらの発光強度と水中の溶解性に関して調整されたアクセプター染料として用いられる。
【0011】
ドナー及びアクセプターを上首尾に標識するための前提条件は、基質分子への共役結合を可能にするための、それぞれの発蛍光団上の適当なアフィニティ基(groups with affinity)の存在である。それ故、さらに、ドナー及び/又はアクセプターを適当に官能基化(functionalization)することが必要である。
【0012】
結論として、実際の、研究に関連した、生化学的な問題提起に基づいた均質バイオアッセイ(homogenous bioassay)を、官能基化した(functionalized)ドナー−アクセプター対によって方向付けて(oriented with the functionalized donor-acceptor pair)、構成すべきであり、生物学的分子−分子相互作用を同定するための、このドナー−アクセプター対の根本的な適合性を実証するべきである。
【0013】
それ故、目的は、アンテナからランタニド(III)イオン・キレート形成剤へのエネルギー転移を可能にする系を作製することにある。該アンテナ又は該キレート形成剤のいずれかのアフィニティ基がバイオ分子への結合を生じ、このドナー−アクセプター系におけるエネルギー転移の測定を可能にするということで、実際の用途が与えられる。
【0014】
次に、これらのバイオ分子の性質及び挙動についての結論が可能になる。この種類の測定データを記録する可能性には、FRET系が特に包含される。
【0015】
この分野における集約的な世界的規模の研究及び個々の問題に関連した幾つかの有望なアプローチにもかかわらず、該アンテナから該エミッタ(emitter)へのエネルギー転移を説明して、実用的な仮説の提示を可能にする、完成した理論は存在しない。いずれのアンテナが特に適切であるかは、予測することができない。エネルギー的に特定の範囲内にあり、対応するアンテナ錯体を生じる、アンテナ発色団の三重項状態を参考にしようと考えるならば、該三重項レベルは希土類の錯体形成によって劇的に変化するので、落胆するであろう。我々が用いた発色団1,10−フェナントロリン−置換又は非置換−が、受容したエネルギーをSE(III)中心に転移させる状態にあるかどうかは、同じように予測不能である。
【0016】
この目的は、本発明によって、ユーロピウム(III)及びテルビウム(III)のアンテナ錯体を最初の工程で製造することで達成される。このために、アンテナ配位子が最初に製造される。
【0017】
目標とするアンテナ配位子の構成は、金属イオンに配位し、同時にドナーとしてのランタニド(III)化合物の適用のために必要な高い安定性を保証する、実際のキレート配位子から成る。次には、該キレート配位子は、可視スペクトル領域でのドナーの吸光を可能にする発色団基、アンテナを有するべきである。
【0018】
それらの安定性が、O−官能基化した(O-functionalized)配位子系によるそれらの錯体形成で実証されている蛍光ランタニド(III)化合物は、既に知られている。本発明によると、目標とする用途態様のために、ポリアミノポリカルボン酸、特にジエチレントリアミン五酢酸(LH)が選択される。ポリアミノポリカルボン酸のランタニド・キレートは、高度な錯体安定性の他に、水性媒質中での非常に良好な溶解性をも示す。発色団基の導入にもかかわらず、ユーロピウム(III)−又はテルビウム(III)−イオンの配位飽和(coordinative saturation)は、多座性質のために、達成することができる。さらに、生物学的分析物の固定を可能にするアフィニティ基として、追加の官能基を導入することができる。
【0019】
4−エチニル・アニリンと発色団基とから成るアンテナは、それらの光−物理的性質によって、励起波長と、非錯化形及び、LHによる錯化形の両方で、問題のスペクトル領域において非吸光性であるランタニド(III)イオンへのエネルギー転移効率とを決定する。生物学的系におけるルミネセンス・マーカーとしてランタニド(III)化合物の使用に関して、可視スペクトル領域においてそれらの励起が可能であり、それによって、それ自体である程度蛍光を発することができる生物学的基質の直接励起を排除することができることが、特に有利である。それ故、本発明によると、350nmを超えるスペクトル領域で吸収するような発色団を、例えばジエチレントリアミン五酢酸に導入する。
【0020】
アセチレン基で置換された共役1,10−フェナントロリンは、新規で、効果的であり、可視スペクトル領域で蛍光を発する発色団を表す。したがって、これらの化合物への関心は、今までは、分子エレクトロニクスの分野における蛍光センサー及びスイッチを製造するための調節可能な発蛍光団としてのそれらの用途にもっぱら基づいていた。これらの発色団の吸光及び発光の波長は、置換基の種類によって決定される。
【0021】
1,10−フェナントロリン誘導体は、それらの共役π系のために、強く吸収する発色団であり、それ故、原則として、本発明の特定の用途に適している、該誘導体では、最大吸光の位置とその強度に関する吸光特性は、フェナントロリン骨格上の置換と、対応する置換基の官能性(functionality)とに依存して影響されうる。所望の発色団をキレート配位子に導入するためには、置換基上の第1級アミノ官能基(primary amino function)が必要である。1,10−フェナントロリンの3,8−位置における対称的置換の他に、該発色団の分光学的性質のさらなる変化の可能性は、特に、非対称的置換によって得られる。
【0022】
本発明によると、2−クロロ−1,10−フェナントロリンを調製した。該アンテナ発色団PBの合成は、エチニルアニリン(B)との2−クロロ−1,10−フェナントロリンPのクロス−カップリングによって行なった。
【0023】
Bは、本明細書では、可視スペクトル領域まで強く吸収する化合物である。PBの吸収スペクトルを図1に示し、測定された吸光値を表1に要約する。最初に記載したアンテナ発色団PBと1,10−フェナントロリン(phen)との比較は、アルキンBによるフェナントロリン骨格の置換が、深色シフト(bathochrome displacement)と、長波長吸収の強化とを生じることを示す(n→π遷移)。
【0024】
【化1】

【0025】
BとカップリングしてPBになることは、吸収の赤色シフトを増強し、同時にこれを強化する。さらに、吸収帯相互の強度比率は変化する。
【0026】
アンテナPBは、強い吸光の他に、同時に、可視スペクトル領域の非常に強い発光を示す。しかし、PBの発光特性は、該アンテナの今後の用途への関連性に関して重要ではない。キレート配位子への該アンテナの導入は、ジエチレントリアミン五酢酸の二無水物LH−Aと1,10−フェナントロリン誘導体PBとの反応によって、アミド結合を形成して、行なわれる。第1級アミンに比べて、カルボン酸のかなり低い反応性は、カルボニル要素の活性化を必要とする。それ故、一般に、該カルボン酸の対応する酸塩化物、酸無水物又はエステルのアミノリシスが、行なわれる。用いたキレート配位子の場合には、ポリアミノポリカルボン酸を最初に、その二無水物LH−Aに転化させた。二無水物LH−Aは、遊離酸に比べて、より大きく反応性であるのみでなく、5個のカルボキシル基のうちの2個のみが芳香族アミンと反応することができるので、同時に、生成物選択性をも高める。他方では、対応する酸塩化物又はエステルの反応は非選択性であると考えられる。
【0027】
本発明によって提起する問題に対する、この合成法の他の利点は、二無水物の選択によって、該アンテナのみでなく、他のアミノ官能基化した基も、該キレート配位子にカップリングすることができるという事実から成る。
【0028】
LH−A:ジエチレントリアミン五酢酸二無水物の合成
【0029】
【化2】

【0030】
この反応は、保護ガス下で行なうべきである。
【0031】
無水酢酸12.9mlとピリジン12.3mlに、ジエチレントリアミン五酢酸13.4gを加える。この懸濁液を70℃において24時間撹拌する。このプロセス中に、該反応混合物は暗褐色に変色する。冷却後に濾過して、生成物沈殿を無水酢酸で洗浄し、次に、ヘキサンで数回洗浄して、真空中で乾燥させる。
収率:約90%
アンテナ配位子PBLHの合成
【0032】
【化3】

【0033】
二無水物LH−AとアンテナPBによる反応は、その都度1個のみのアンテナ発色団をキレート配位子に導入して、PBLHを形成するという目的で、1:1の比率で行なわれた。仕上げ処理は、水溶液中で行なわれ、この際に、第二の無水物官能基が開かれる。
【0034】
キレート配位子LH自体へのアンテナPBの導入は、その分光学的性質の本質的な変化を生じないが、本来のキレート配位子であるジエチレントリアミン五酢酸は、今や、アンテナ配位子の目標とする分光学的性質の全てを示す。図2は、PERKIN ELMER社の蛍光分光計(LS50B)に記録された励起スペクトルの例で得られた結果を例示する。
【0035】
Bの最大吸光は、ジエチレントリアミン五酢酸の結合によって、僅かに浅色シフトし、この際に、吸収帯の強度比率と、一部はそれらの吸収帯構造も変化する。しかし、いずれにせよ、ジエチレントリアミン五酢酸中へのPBの導入は、遊離アンテナに比べて、長波長吸収の強化を生じるのに対して、発光のスペクトル位置は影響されない。
【0036】
表2には、アンテナ配位子PBLHの分光学的性質をPBに比較して示す。特別な利点は、該配位子の励起がアンテナ基の最大吸光中で起こる必要がないことである、この理由は、該発光帯の位置が該励起波長に依存しないからである。このことは、同時に、ランタニド(III)錯体の、それらの吸収領域における、任意の長波長励起を可能にし、この場合に、吸収領域は他の発色団の使用によってさらに拡大しうる。
【0037】
【化4】

【0038】
本発明による解決策を拡張するために、アンテナ配位子PBLHがさらに用いられる。
【0039】
弱アルカリ性水溶液中での遊離酸としてのアンテナ配位子PBLHと、金属塩化物EuCl及びTbClの化学量論的反応は、金属錯体[EuPBL]及び[TbPBL]を生成する。これらの錯体は、反応溶液を濃縮した後に、適当な対イオン(例えば、テトラブチルアンモニウムイオンBu)の添加によって、沈殿させることができる。しかし、FRET実験のためには、金属塩溶液のみをそれぞれ、アンテナ配位子溶液に対して滴定し、UV/Vis−及び蛍光分光法によって、錯体形成を管理した。
【0040】
アフィニティ基を含むアンテナ配位子は、原則として、いわゆるワンポット合成においても、一無水物又は[PBLH]を単離せずに調製することができる。
【0041】
[EuPBL]及び[TbPBL]の合成
用いるアンテナ錯体の調製は、アンテナ配位子溶液に対する金属塩溶液の滴定(titration)によって行なう:
EuCl及び/又はTbClを、pH=6〜7の水溶液中又はpH=10のアルカリ性溶液(NH/HO)中のBLH(濃度>0.1mM)に1:1の比率で加える。
【0042】
アンテナ錯体[EuPBL]及び[TbPBL]の分光学的特徴づけ
水溶液中のアンテナ錯体[EuPBL]及び[TbPBL]の吸光及び発光スペクトルを記録した。2種類のドナーから得られた吸収スペクトルを図3に示す。
【0043】
今や、アンテナ発色団PBの吸収領域において、アンテナ錯体[EuPBL]及び[TbPBL]の光励起を任意に行なうことができる。この場合に、興味深いのは、可能なかぎり長波長の励起、即ち、PBのn→π遷移の最大吸光における又はこの吸光の長波長放出(long wave discharge)(λexc=360nmの場合に既述したように)における励起である。図4に示すように、アンテナ錯体[EuPBL]に関して、Eu(III)イオンに特徴的である赤色発光は、PBの長波長吸収への励起から生じる。
【0044】
[EuPBL]の発光スペクトルにおけるシャープな発光ラインは、4fレベル内の遷移に対応する。最強の遷移は595nmと617nmにおいて観察される。しかし、テルビウム(III)イオンの発光は、緑色スペクトル領域にあり、2つの最強発光ラインは492nmと547nmにある。[EuPBL]と同様に、図5に示す、アンテナ錯体[TbPBL]の発光スペクトルは、λexc=360nmにおけるPBの最長波長吸収への、該アンテナ配位子の励起の結果であると考えることができる。
【0045】
両方のランタニド(III)イオンは、アンテナ錯体[EuPBL]及び[TbPBL]において非常に強い発光を示す。この強い発光は、用いるアンテナ発色団PBの強い吸収の結果であると考えることができる。非置換ジエチレントリアミン五酢酸のそれぞれのランタニド(III)錯体の発光スペクトルに比較すると、アンテナ配位子PBLHによる錯体形成は、[TbPBL]に関しては金属イオン発光の5倍及び/又は[EuPBL]に関しては30倍の増強を生じ、そのために、励起状態のかなり長い寿命が保持される(表3)。
【0046】
【化5】

【0047】
上記アンテナ錯体[EuPBL]及び[TbPBL]の1つの利点は、それらの電子的励起状態の比較的長い寿命にある。表3が示すように、[EuPBL]では0.62msの発光寿命が観察され、[EuPBL]では1.61msの発光寿命が観察されたが、これに反して、有機発蛍光団の寿命はナノ秒の範囲内である。
【0048】
ドナーとしてのランタニド(III)化合物の使用によって、これは今や、時間遅延測定計画(time-delayed measuring regime)での蛍光スペクトルの記録を可能にする、即ち、該スペクトルの記録はドナーの励起直後には行なわれず、一定の遅延後に行なわれる。それによって、ドナー(本発明の場合には、アンテナ錯体[EuPBL]及び[TbPBL])に比べて短い寿命を有する分子から、発生し、妨害する他の全てのバックグランド蛍光を排除することができるので、これらが、実際の測定シグナルの強度歪曲に寄与することはない。
【0049】
該ドナー[EuPBL]及び[TbPBL]の全ての蛍光測定を、調整した時間遅延によって追跡した。標準的設定は下記のとおりであった:
【0050】
【化6】

【0051】
該ランタニド(III)錯体の蛍光減衰曲線測定のために、FRET実験おけると同じ標準設定を、蛍光分光計LS50Bに選択した。発光は、[EuPBL]ではλem=617.5nm及び[TbPBL]ではλem=547nmの波長において観察された。
【0052】
以下では、本発明によって課題を解決するための該ドナー錯体の適合性を実証する。この実施のためには、下記方法を用いる。
【0053】
FRET実験によって、ST936及び/又はローダミンBの種々なアクセプター濃度の存在下で、電子的励起アンテナ錯体[EuPBL]又は[TbPBL]の寿命及び発光強度の変化を調べた。アクセプターの存在下での該ドナーの蛍光のクエンチング度(the extent of the quenching)によって、エネルギー転移の効率が示される。
【0054】
該ドナー−アクセプター対は、対応するドナー溶液とアクセプター溶液とを混合することによって得られる。ユーロピウム(III)錯体[EuPBL]のFRET実験は、本発明によって、対応するアクセプターとして、WolfenのSENSIENT GmbHからのポリメチン染料ST936を用いて行なった。該アンテナ錯体[TbPBL]に対してはアクセプター染料として、ローダミンB染料を用いた。モデル系において、ドナー及びアクセプターの選択は、それらの分光学的性質に基づいて決定する。生物学的基質に共有結合するための、ドナー又はアクセプターの対応する官能基化(functionalization)は、この場合に重要ではない。
【0055】
アクセプターの吸光と、ドナーの発光とのオーバーラッピングは、FRET実験における選択されたドナーに対するアクセプターの分光学的必要条件として理解される。図6は、アンテナ錯体[EuPBL]の分光学的性質を、対応するアクセプターとして選択された、WolfenのSENSIENT GmbHからのポリメチン染料ST936の分光学的性質に関連して示す。[EuPBL]の発光スペクトルと、該アクセプターの吸光スペクトルとが重度にオーバーラップし、それによって、本発明の課題のための必要条件を満たすことは、明らかである。さらに、λem=660nmにおけるST936の最大発光は、該アンテナ錯体の最強発光ラインへ深色シフトを示す。
【0056】
ポリメチン染料ST936の存在下での[EuPBL]の励起は、該アンテナ錯体の発光強度をクエンチングさせ、666nmにおける該アクセプター発光を増強させる。これによって、用いたアンテナ錯体[EuPBL]から該蛍光染料ST936への非放射性エネルギー転移が実証される。FRET実験では、[EuPBL]の発光強度の低下が、一定のドナー濃度によって観察され、アクセプター濃度の上昇によって、ST936の発光の増強が観察された。発光スペクトルの必要な修正を施すことによって、あらゆるドナー−アクセプター関係に関してドナー発光と感作アクセプター発光を測定することが可能になる。
【0057】
アンテナ錯体[TbPBL]と、このドナーのために選択されたアクセプター染料ローダミンBとが1つの溶液状態である場合には、アンテナ発色団PBの長波長吸収の領域での[TbPBL]の励起後の、このドナー−アクセプター対の結果も、該アクセプターへの非放射性エネルギー転移とローダミンBの新たな発光とによる[TbPBL]の発光強度のクエンチングである。これによって、その適合性が実証される。
【0058】
製造して、ドナーに対する適合性試験を行なった後に、アクセプター染料を合成する。
【0059】
ユーロピウム(III)錯体を、対応FRET実験において、そのエネルギー−ドナー性質に関して試験するために、AcMaRi Chemie GmbHからのポリメチン染料ST936が、その分光学的性質に基づいて、ドナー錯体[EuPBL]に適したアクセプターとして判明した。このポリメチン染料は、該ドナーの発光領域における強い吸光と、[EuPBL]の発光へ深色シフトした、強い発光とを特徴とする。
【0060】
しかし、水溶液中でのポリメチン染料の不良な溶解性と、標識されるタンパク質分析物に共有結合するための官能性の欠如は、適用に不利である。それ故、例えばタンパク質への結合を可能にし、同時に、水中での溶解性をも改良するような種類の基によって、ポリメチン染料ST936を置換することが必要である。
【0061】
本発明の範囲内で、目的は、インドレニン基を誘導体化して、ST936のCY5親物質と、それに関連して、最大の位置に関するそれらの吸光及び発光特性とを保持しながら、標識に適した、新たなポリメチン染料を構成することにある。
【0062】
既知ポリメチン染料ST936の他に、インドレニン誘導体TIPBr、TIEOBr、TIPEBr、TIPNBr及びTIBEIから出発して、付加的な染料:Cy5BE、Cy5’BE及びCy5PEを製造する。Cy5EEは、インドレニン誘導体TIEOBrと、ジアニリドとの反応から対応するポリメチン染料として得られた。この際に、ヒドロキシ官能基は、反応溶液中に見出される無水酢酸によってエステル化される。
【0063】
アンテナ配位子が、測定される分析物(イムノアッセイ要素)の、その後のドナーへの共有結合を可能にする官能性を有さなければならないことが、認識された。この官能基を介した分析物の結合は、アンテナ配位子において、ランタニド(III)イオンを錯化して、それによって、形成されるアンテナ錯体の総電荷(total charge)を変化させる遊離カルボキシレート基の数を減ずる。FRETに基づくFIA系のためには、負に帯電した若しくは中性の錯体のみが有利である、この理由は、これらは、生物学的な、大部分は同様に負に帯電した基質との非特異的結合を形成することができないからである。最初に、分光学的特徴づけのために、ランタニド(III)アンテナ錯体[LnPBL]を製造した。
【0064】
さらに、アンテナ配位子PBLHを、本発明によって、リンカー基の導入によって官能基化する。このことは、ジエチレントリアミン五酢酸の二無水物LH−Aが、2位置で置換された1,10−フェナントロリン誘導体PBと片側でのみ反応し、さらに続いて、第2無水物官能基も、アミノ官能基化した基と反応しうることが判明したので、可能である。
【0065】
この場合には、2つの異なるリンカー基、異なる鎖長のジアミンが、アンテナ配位子PBLHに結合した。PBLH−EDA(EDA:エチレンジアミン)とPBLH−SP1(SP1:1,8−ジアミノ−3,6−ジオキサオクタン)が合成された。
【0066】
【化7】

【0067】
この反応は、保護ガスを用いて、実施すべきである。
【0068】
DMF 24mlとEtN 2.1ml中にLH−A 1.5mmolを溶解し、撹拌しながら、DMF 5ml中に溶解した2−(4−アミノフェニルエチニル)−1,10−フェナントロリン(PB) 1.5mmolを滴加する。室温において約2時間撹拌した後に、数滴の該反応溶液をDMF 3ml中のジアミン 2mmolに滴加する、これによって、黄色フレーク状沈殿が形成される。さらに1〜2時間撹拌し、真空中で幾らか蒸発させ、冷蔵庫中で一晩放置する、この際に、生成物は完全に沈殿する筈である。生成物沈殿をガラスフリットによって反応溶液から分離して、若干の乾燥メタノール及びエーテルで洗浄してから、真空中で乾燥させる。生成物が黄色固体として得られる。生成物を空気中で単離する場合には、黄色沈殿は粘稠性になり、橙赤色に変わる。該生成物を空気中で乾燥させ、乳鉢で粉砕することができる。
【0069】
収率:約60%
本発明の目的は、一方では、遊離カルボキシル基を有し、それによってタンパク質に直接結合することができるポリメチン染料を調製することであるので、該ポリメチン染料をさらに官能基化した、この場合に、該カルボン酸基は他の反応性を有する基(例えば、ジアミン)による誘導体化も可能にする。他方では、タンパク質分析物へのその化学カップリングが、アミド結合の形成を介しては行なわれないポリメチン染料を合成することが考えられた。
【0070】
この理由から、2つの対称的染料Cy5BEとCy5PE並びに非対称的染料Cy5’BEを、第1態様として、調製した。次に、望ましいカルボン酸官能基を該エステル染料の加水分解から直接得て、該染料を過塩素酸塩として単離することができた。
【0071】
バイオアッセイをモデル化する目的で、一定のドナー−アクセプター距離によるFRET実験を行なった。
【0072】
モデル系では、スペーサーがドナーとアクセプターに空間的間隔を置かせて、バイオ分子(例えば、抗原と抗体)、リンカー−リンカーの結合相互作用をシミュレートする。
【0073】
この場合に、ドナー−アクセプター間隔は、リンカーの鎖長によって、FRETがもはや観察されることができないような大きさであることができない、即ち、該間隔はいわゆるForster距離の範囲内でなければならない。
【0074】
このモデル系において、ドナーとアクセプターとは、アミド結合(ドナー−リンカー結合)及び/又はチオカルバメート結合の形で、種々な鎖長のリンカーを有する修飾染料のイソシアネート官能基を介して堅く連結される。修飾されたドナー及びアクセプターによる目標モデル系は、図11に示す。アンテナ錯体[EuPBL]を、ジアミンエチレンジアミン(EDA)及び/又は1,8−ジアミノ−3,6−ジオキサオクタン(SP1)によってアンテナ配位子を置換して、ドナーとして用いた。FRET実験における対応アクセプターは、ポリメチン染料Cy5ENCSであった。
【0075】
【化8】

【0076】
アンテナ配位子PBLH−EDA及び/又はPBLH−SP1の等モル水溶液へのEuCl水溶液(=1・10−3M)の滴定(titration)によって、該ドナーを調製した。アンテナ錯体[EuPBL−EDA]及び/又は[EuPBL−SP1]の形成を、蛍光分光法によって追跡した。λexc=360nmにおける該水溶液の励起後に、ユーロピウム(III)イオンの強度な赤色発光が観察されたことで、[EuPBL−EDA]及び/又は[EuPBL−SP1]の錯体形成が確認された。
【0077】
FRET実験において、末端アミノ官能基で置換されたアンテナ錯体[EuPBL−EDA]又は[EuPBL−SP1]の溶液に、一定濃度のアクセプター染料Cy5ENCSを、ポリメチン染料が過剰になるまで、徐々に添加した。この際に、ドナー[EuPBL−EDA]([EuPBL−SP1]にも同じことが該当する)の発光は、アクセプター濃度が上昇するにつれて、クエンチングされ、アクセプターの発光の増強が観察される。図7は、ドナー−アクセプター対{[EuPBL]−EDA−Cy5ENCS}に関して、修正を行なった後の、FRET実験から得られた発光スペクトルをグラフによって示す。該修正は、アクセプターの不存在下でのアンテナ錯体の最大エネルギー富化遷移の最大値(the maximum of the most energy-rich transition)への全ての発光スペクトルの標準化に相当する。
【0078】
同じ測定条件下で、修正アンテナ錯体のFRET実験を、{[EuPBLH]−SP1−Cy5ENCS}によってリンカーSP1の存在下で行なった。図13が示すように、ポリメチン染料の発光の同時感作を伴うドナー発光のクエンチングがこの場合にも観察される。
【0079】
それ故、対応するイムノアッセイのための新たなFRET系の原則的な適用可能性が、このモデル実験によって実証される。
【0080】
修正ドナー−アクセプター対によるFRETバイオアッセイ
上記ドナー−アクセプター対の1つを用いる測定系は、FRETバイオアッセイによって生物学的活性物質を検出及び/又は定量するために、できるかぎり普遍的に使用可能であるべきである。それ故、免疫グロブリンG(IgG)へのプロテインAの結合が、ドナーとしてのアンテナ配位子PBLH−SP1と、アクセプターとしての染料Cy5BAで両パートナーを標識した後に、FRET測定によって検出されるかどうかを調べた。
【0081】
用いた系プロテインA−IgGは、IgGへのプロテインAの結合がFcフラグメントで生じ、それによって、IgGと、Fabフラグメントに結合する対応抗原との相互作用が影響されないという利点を有する。
【0082】
ドナー及び/又はアクセプターによって、用いる2つのタンパク質を配位子化するために、該2種類の反応物質を弱酸性範囲において過剰なN−エチル−N’−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド(EDC)によって20℃において処理し、該タンパク質によるアンテナ配位子及び/又は染料の形成される酸アミドを、ゲル濾過によって、反応混合物の未転化配位子及び他の低分子要素から分離した。
【0083】
BLH−SP1のIgGへのカップリング
IgG 0.066μMolに、100mMイミダゾール/HCl緩衝液(pH5.0)中のアンテナ配位子PBLH−SP1 3.3μMolとEDC 330μMolを混合して、室温において一晩インキュベートした。1時間インキュベートした後に、1N NaOHによってpH値を再びpH4.5〜5.0にした。翌朝、本質的に変性タンパク質である沈殿物質を5000xgでの遠心分離によって取り出し、IgGアンテナ配位子コンジュゲートをNAP−5カラム(Amersham Biotech)によるゲル濾過によって、未転化アンテナ配位子及び他の低分子物質から分離した。
【0084】
収率は、用いたIgGに関して約60%であった。IgG分子は、約30の結合アンテナ配位子分子を含有する。この置換度は、タンパク質−アンテナ配位子のモル比率を変化させることによって、任意に調節することができる。
【0085】
プロテインAと染料Cy5BAからのアダクツの合成は、同様な方法で、行なったが、該染料は、その不良な水溶性のために、アルコール溶液として用いた。回収は、上述したように、遠心分離によって沈殿タンパク質を分離することで行ない、未転化染料の分離は、ゲルクロマトグラフィーによって行なった。
【0086】
収率は、約10%(プロテインAに関して)であり、置換度は、プロテインA 1Molにつき染料 約8Molであった。この不良な収率は、染料に対する溶媒として用いたアルコールによる、該タンパク質の強度の変性によって惹起されたものである。
【0087】
結合したドナーとアクセプターの、FRETに対する適合性を、PA:IgGの比率1:1での、標識した要素、プロテインA(PA)とイムノグロブリンG(IgG)の2種類の異なる濃度による寿命実験に基づいて試験した。この場合に該寿命測定から決定されたエネルギー転移効率Eは、該要素の濃度に無関係でなければならない。得られた標識済み物質から、8.510−7M及び2.510−7Mのイミダゾール/HCl緩衝液中の溶液を調製した。ドナー錯体は、配位子に、マーカー部分(marker portion)に対応する量のEuCl溶液を添加することによって調製した。
【0088】
図8と9は、対応する励起条件下での指定濃度で得られたスペクトルを示す。純粋なドナー溶液を常に、最初に試験して、τを測定し、τの測定のために、標識済みプロテインAの添加後に、試験を繰り返した。寿命を4回測定して、平均値を用いた。%での転移効率は、次式:
【0089】
【化9】

【0090】
から得られる。
【0091】
測定値を表4に要約する。したがって、転移効率は、方法に由来する測定誤差範囲内で独立的であり、本発明の系の有用性が実証される。比較的小さい値の効率は、アクセプターに比べて高い、ドナーの標識度(30:8)にその原因を有する。この場合に、1:1又は1:2(IgG:PA)がより有利であると考えられる。
【0092】
【化10】

【0093】
FRETイムノアッセイのためのユニット系構成の提案
生物学的及び/又は医学的な分析実施にFRETイムノアッセイを用いるために、分析系のできるだけ簡単な取り扱いと、用いる一次抗体及びそれと同時に検査すべき分析物の選択に関する高度なフレキシビリティとを使用者に与えるユニット系を開発するべきである。
【0094】
図7は、FRETイムノアッセイの測定原理を概略的に示す。第1反応では、分析物を含む試験物質を、ドナーにカップリングする抗体(一次抗体)と共にインキュベートする。第2反応工程では、一次抗体と、アクセプター染料で標識された二次抗体又は、イムノグロブリンに特異的に結合する他のタンパク質(例えば、プロテインA又はプロテインG)との結合を検出する。この場合に、このタンパク質−タンパク質相互作用によって誘発されるFRET反応が、該アッセイの測定可能な変数である。この種類のFRETイムノアッセイは、標準的なELISA反応のように、固相で行なわれなければならない、さもなければ、二次抗体が、未転化一次抗体とFRET反応を起こす危険性があるからである。
【0095】
【化11】

【0096】
FRETイムノアッセイのためのキットは、アンテナ配位子と、それが、使用者によって供給される一次抗体にカップリングするための試薬(EDC、緩衝液、ゲル濾過カラム)と、アクセプター染料で標識された二次抗体(又は、イムノグロブリンに特異的に結合する、他のタンパク質)から成る。アクセプター染料で標識され、そしてFRET反応の検出が異なる波長を用いて行なわれうるように、それらのスペクトル性質に関して異なる、幾つかの二次抗体が該キットに含まれるならば、異なる分析物の同時検出(多重化)が、このような測定系によって可能である。
【0097】
ドナーの場合には、アミノ官能基化したアンテナPB、酸無水物LH−A及びスペーサー、エチレンジアミンEDAから成る系が効果的であると実証されている。該3要素は、DMF/TEA中でアンテナ配位子に結合する。スペーサーの変更は、原則的に可能である。得られる生成物は、クロマトグラフィー精製後に使用可能になり、固体として使用者に入手可能になる。抗体とアンテナ配位子とは、通常の方法に従って、N−エチル−N’−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド(EDC)又はN,N’−カルボニルジイミド−アゾール(CDI)によってカルボニル要素を活性化して、アミド結合の形成によって、相互に結合する。用途の範囲を拡大するために、スペーサーを備えるアンテナ配位子による、末端アミド窒素におけるイソチオシアナト官能基への変換も可能である。
【0098】
実際のエネルギー・ドナー、ランタニド(III)錯体は、in situアッセイにおいて、対応する量の金属塩化物溶液の添加によって示される。ランタニド(III)イオンの選択は、その特異的な発光によって、アクセプター染料の選択を決定する。例として用いたユーロピウム(III)イオンに関しては、その吸光が、ドナー(ユーロピウム(III)錯体)の発光領域にあるポリメチン染料が選択された。ヒドロキシ−及び酸基による官能基化したCy5染料が、高い収率で、入手可能である。酸官能基は、ドナーの場合に既に挙げた方法に従って、アミド結合を介しての二次抗体への直接結合を可能にする。ヒドロキシ官能基化した染料はタンパク質のカルボキシル基と、エステル結合を介して結合することも可能である。ポリメチン染料のクラスからの化合物は、本発明によって製造され、用いられるポリメチン様染料と同様に、官能性例(functional example)として挙げられる。
【0099】
したがって、最も簡単な場合には、本発明によるユニット系は、少なくとも下記要素を含有する(表5):
・ 固体としての、スペーサーEDAを伴うアンテナ配位子(要素1)
・ 標識のための、CDI又はEDCと酢酸トリエチルアミン緩衝液
・ 水中10−3mol/L溶液としての塩化ユーロピウム(III)(要素2)
・ Cy5染料で標識された二次抗体(要素3)
【0100】
【化12】

【0101】
上記FRETイムノアッセイは、好ましくは、固体表面(例えば、組織化学的用途の場合には、マイクロタイタープレート又はガラススライド)で行なわれるので、その後のFRET反応において分析物に結合せず、偽陽性シグナルを与えると考えられる一次抗体をFRET反応の前の洗浄工程で除去することができる。
【0102】
用途によっては、均質FRETイムノアッセイも考えられる。この例は、抗体産生のためのハイブリドーマ細胞クローンのスクリーニングである。モノクローナル抗体(例えば、抗マウスIgG)を認識する一次抗体の他に、この種類の系は、抗原−抗体錯体を遊離免疫グロブリンと区別することを可能にするように、例えば補体因子C1qのような第2要素を含有する。
【0103】
均質用途(homogenous applications)に伴う主要な問題は、ドナーとアクセプターとの間の距離が、タンパク質−タンパク質相互作用が存在するにもかかわらず、FRETを観察することができないほど大きいので、不正な結果が得られる可能性である。この実験を標準的な競合アッセイの形式で行なうならば、誤った解釈というこの危険性を回避することができる。このためには、FRETが実証可能である、非常に弱い相互作用を有するAK/AG対で出発することが必要である。標識されない抗体を加えた後に、より大きく効果的な錯体の形成を、この抗体の濃度に依存する、アクセプターの発光強度の低下から検出することができる。
【0104】
合成物質のカタログ
3,8−ジブロモフェナントロリン(P)
【0105】
【化13】

【0106】
1−メチル−1,10−フェナントロリン−1−イウムヨージド(P(a))
【0107】
【化14】

【0108】
1−メチル−1,10−フェナントロル−2−オン(P(b))
【0109】
【化15】

【0110】
2−クロルフェナントロリン(P
【0111】
【化16】

【0112】
3−(2−ヒドロキシ−2−メチルブタ−3−イニル)アニリン(A(a2))
【0113】
【化17】

【0114】
3−エチニルアニリン(A)
【0115】
【化18】

【0116】
4−(2−ヒドロキシ−2−メチルブタ−3−イニル)アニリン(B(a2))
【0117】
【化19】

【0118】
4−ニトロフェニルアセチレン(B(b3))
【0119】
【化20】

【0120】
4−エチニルアニリン(A)
【0121】
【化21】

【0122】
3,8-ビス(3’−アミノフェニルエチニル)−1,10−フェナントロリン(PA
【0123】
【化22】

【0124】
3,8-ビス(4’−アミノフェニルエチニル)−1,10−フェナントロリン(PB
【0125】
【化23】

【0126】
2−(4’−アミノフェニルエチニル)−1,10−フェナントロリン(PB)
【0127】
【化24】

【0128】
ジエチレントリアミン五酢酸二無水物(LH−A)
【0129】
【化25】

【0130】
アンテナ配位子PALH
【0131】
【化26】

【0132】
アンテナ配位子(PB
【0133】
【化27】

【0134】
アンテナ配位子PBLH
【0135】
【化28】

【0136】
アンテナ配位子PBLH−EDA
【0137】
【化29】

【0138】
アンテナ配位子PBLH−SP1
【0139】
【化30】

【0140】
インドレニン誘導体TIPBr
【0141】
【化31】

【0142】
インドレニン誘導体TIEOBr
【0143】
【化32】

【0144】
インドレニン誘導体TIPEBr
【0145】
【化33】

【0146】
インドレニン誘導体TIBEI
【0147】
【化34】

【0148】
ポリメチン染料ST936
【0149】
【化35】

【0150】
ポリメチン染料Cy5EE
【0151】
【化36】

【0152】
ポリメチン染料Cy5BE
【0153】
【化37】

【0154】
ポリメチン染料Cy5’BE
【0155】
【化38】

【0156】
ポリメチン染料Cy5BA
【0157】
【化39】

【0158】
ポリメチン染料Cy5’BA
【0159】
【化40】

【0160】
ポリメチン染料Cy5E
【0161】
【化41】

【0162】
ポリメチン染料Cy5Rの合成
【0163】
【化42】

【0164】
無水酢酸50ml中のアルキル化インドレニン20mmolとジアニリド10mmolとの溶液を70℃にして、トリエタノールアミンを徐々に滴加する。過塩素酸によって染料を沈殿させ、吸引濾過する。再結晶させるために、これを少量のメタノール中に溶解して、該溶液を10倍量のジエチルエーテルに加えて、−40℃において結晶化させる(収率約80%)。
【0165】
インドレニン誘導体TIPBr
【0166】
【化43】

【0167】
図面
【0168】
【表1】

【0169】
図1:MeOH中の発色団PA(----)、PB(−)及びPB(・・・)の吸収スペクトル
【0170】
【表2】

【0171】
図2:NH/HO、pH=10中のアンテナ配位子PALH(----)、(PB(−)及びPBLH(・・・・)の励起スペクトル
【0172】
【表3】

【0173】
図3:HO中の[EuPBL](−)と[TbPBL](・・・)のUV/Visスペクトル
【0174】
【表4】

【0175】
図4:HO中の[EuPBL]の標準化発光スペクトル;(励起条件:λexc=360nm、ギャップ:10/2.5nm、dt=0.07ms、gt=4.5ms)
【0176】
【表5】

【0177】
図5:HO中の[TbPBL]の標準化発光スペクトル;(励起条件:λexc=360nm、ギャップ:10/5nm、dt=0.08ms、gt=4.6ms)
該ドナー[EuPBL]及び[TbPBL]の全ての蛍光測定を、調整した時間遅延によって追跡した。標準的設定は下記のとおりであった:
[EuPBL]に関して、励起波長:λexc=360nm、励起ギャップ:15nm、発光ギャップ:5nm、発光フィルター:515nm、時間枠(gt):4.50ms、遅延時間(dt):0.07ms
[TbPBL]に関して、励起波長:λexc=400nm、励起ギャップ:15nm、発光ギャップ:10nm、発光フィルター:430nm、時間枠(gt):4.60ms、遅延時間(dt):0.08ms
【0178】
【表6】

【0179】
図6:NH/HO、pH10中の[EuPBL]及びST936の分光学的性質、アクセプターの吸光(・・・)又はドナー発光(−)及びアクセプター発光(---)
【0180】
【表7】

【0181】
図7:HO中の[EuPBLH]−EDACy5ENCSのFRET実験;上昇するアクセプター濃度に依存する修正発光スペクトル(CDONOR=5・10−6M、CAKZEPTOR=1.6・10−7M〜5.6・10−6M)
【0182】
【表8】

【0183】
図8:C(IgG)=C(PA)=2.510−7Mによる蛍光スペクトル(点線=IgG、黒線=IgG+PA)
【0184】
【表9】

【0185】
図9:C(IgG)=C(PA)=8.210−7Mによる蛍光スペクトル(点線=IgG、黒線=IgG+PA)
略号表
【0186】
【化44】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
式:
【化1】

[式中、Rはアンテナ官能基であり、Rは、配位結合したランタニド(III)イオンを含有するキレート形成剤であり、Xは、−OH又は、バイオ分子へのアフィニティ基であり、アミド結合を介してキレート形成剤のカルボキシレート残基に結合する、Yは、−H又は、バイオ分子へのアフィニティ基であり、アンテナ官能基にカップリングする]
で示されるエチニルアニリン。
【請求項2】
(a)該アンテナ官能基が、下記:1,10−フェナントロリン(1)又はフルオレン(2)又はアセトフェノン(3)又はベンゾフェノン(4)又はフルオレノン(5)又はキサントン(6)又はアザキサントン(7)又はアントラキノン(8)又はアクリドン(9)又はキノリン(10)又はクマリン(11):
【化2】

のいずれかである、
(b)ランタニド(III)イオンを含有するキレート形成剤が、下記:
DTPA(n=1)、TTHA(n=2)
【化3】

又はTTHA異性体NTTHA
【化4】

のいずれかであり、該TTHA誘導体は、アンテナ官能基を有する第2エチニルアニリンを含有することができるので、錯体形成に常に3個のカルボキシレート残基が利用可能である、
(c)Xが、下記アフィニティ基:−NH(CHNH、−NH(CHPhNH、NH(CHPhNCS、-NH(CHNH(CCl)[この場合、n=2〜6]であり、
(d)Yが、下記アフィニティ基:
【化5】

であり;
(e)ランタニド(III)イオンが、下記:Eu3+、Tb3+、Dy3+、Sm3+である
請求項1記載のエチニルアニリン。
【請求項3】
2−(4’−アミノフェニルエチニル)−1,10−フェナントロリンP
【請求項4】
2−クロロ−1,10−フェナントロリンの、p−エチニルアニリンとの反応による、2−(4’−アミノフェニルエチニル)−1,10−フェンPBの製造方法。
【請求項5】
アンテナ発色団としてのPBの使用。
【請求項6】
キレート配位子PBLH、式中、LHは、ジエチレントリアミン五酢酸を表し、LH、LH、LH及びLは、ジエチレントリアミン五酢酸のさらなる解離段階を表す。
【請求項7】
アンテナ配位子としてのキレート配位子PBLHの使用。
【請求項8】
錯体[EuPBL]及び錯体n−BuN[EuPBL]
【請求項9】
錯体[TbPBL]及び錯体n−BuN[TbPBL]
【請求項10】
BLH−EDA及びPBLH−SP1
【請求項11】
アンテナ錯体EuPBL−EDA及びアンテナ錯体EuPBL−SP1
【請求項12】
アクセプター染料Cy5ENCS、Cy5BE、Cy5PE、Cy5’BE
【請求項13】
バイオ分子の定性的検出及び定量的測定のためのTRFとFRETに基づく蛍光定量的分析方法であって、請求項1記載の化合物がリンカー反応を介してバイオ分子に共有結合し、この場合、ペプチド、タンパク質、オリゴヌクレオチド、DNAとRNAのような核酸、オリゴ糖と多糖類、糖タンパク質、リン脂質、酵素の低分子基質及びタンパク質の低分子配位子から成る物質クラスからの化合物が、標識されるべきバイオ分子として用いられ、該分析物の検出が、下記方法:
a.TRF法によるランタニド(III)イオンの蛍光の直接測定、又は
b.前記で指定したようなバイオ分子に結合した、ポリメチン染料のクラスからの有機染料の添加後に、測定反応のために、ドナー分子から有機染料へ、即ち、アクセプター分子へ転移されたエネルギーを、アクセプター分子の蛍光発光の測定によって、算出する
のいずれかを用いて、行なわれることを特徴とする方法。
【請求項14】
・固体としての、リンカー・エチレンジアミンEDAを有するアンテナ配位子、
・標識のためのN,N’−カルボニルジイミダゾールCDI又はN−エチル−N’−(3−ジアミノプロピル)−カルボジイミドCDD及びトリエタノールアミン/HCl緩衝液、
・水中10−3mol/L溶液としてのEu(III)クロリド、
・場合によっては、二次抗体又はプロテインA又はプロテインGに結合した、固体としての酸官能基を有するCy5染料、
から構成されるFRETバイオアッセイにおける、請求項1〜14のいずれかに記載のエチニルアニリンの使用であって、
・PBLHがアンテナ配位子として用いられ、
・酸官能基を有するCy5染料が、Cy5P又はCy5A又はCy5E又はCy5eNCSであり、
・そして励起波長λexcが360nmであり、検出波長λemが665nmである
使用。

【公表番号】特表2007−536286(P2007−536286A)
【公表日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−511846(P2007−511846)
【出願日】平成17年4月30日(2005.4.30)
【国際出願番号】PCT/DE2005/000804
【国際公開番号】WO2005/108405
【国際公開日】平成17年11月17日(2005.11.17)
【出願人】(506372830)センサイエント・イメージング・テクノロジーズ・ゲーエムベーハー (1)
【Fターム(参考)】