説明

リアシートバックの支持構造

【課題】自動車のリアシートバックの固定精度を向上し、且つ、コスト及び車体重量の増加を抑制する。
【解決手段】アッパバックパネル12と、アッパバックパネル12の左右両側において車体前方に向けて設けられたフック部材14とを具備し、フック部材14に、リアシートバックの背面に設けられたワイヤ部材2が係止されることにより前記リアシートバックが固定されるリアシートバックの支持構造であって、前記リアシートバックの後方において、高さ方向に傾斜して延設されたブレース部材1と、ブレース部材1の上端部1aが取り付けられると共に、フック部材14が設けられた前面パネル部13とを有し、ブレース部材1の上端部1aと、該上端部1aが力点として作用することにより前面パネル部13上に生じる支点13aとを直線状に結ぶ線分が、フック部材14よりも下方となる位置にブレース部材1の上端部1aが取り付けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のリアシートバックの支持構造に関し、特にリアシートバック後方のラゲッジルームからの荷重を受けたとき、シートバックの固定が解除されることを防止することのできるリアシートバックの支持構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のリアシートバック(図示せず)は、通常、図4に示すように縦横に張り巡らされたワイヤ部材2を背面に有し、このワイヤ部材が車体側に係止することにより固定される(特許文献1参照)。
具体的な車体側構造としては、例えば、図示するように、リアシートバックと後部ラゲッジルーム30との間において、車体の幅方向に延びるアッパバックパネル12と、その左右両側にそれぞれ設けられたブラケットパッケージトレイ20と、このブラケットパッケージトレイ20の下方において高さ方向に延設されたストレーナパネル11とを有する。
アッパバックパネル12及び左右のブラケットパッケージトレイ20の前面部には、先端を上方に向けて湾曲したフック14がそれぞれ設けられ、図5に示すように、それらフック14にリアシートバックの背面に設けられたワイヤ部材2が係止される。
【特許文献1】実公昭56?31465号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、アッパバックパネル12の下方には客室とラゲッジルーム30とを連通する開口部40が形成されている。また、開口部40の下部には、図6に示すように、車両幅方向に延びる棒状のフレーム部材41が設けられている。
【0004】
前記開口部40は、キャビン側と荷室30側とを連通するものであるため、荷室30の積荷50がリアシートバックにぶつからないよう棒状のブレース部材21が設けられる。このブレース部材21は、例えば2本が左右対称に設けられる。各ブレース部材21は、図示するように下端が前記フレーム部材41の中央部付近に固定され、上端がそれぞれアッパバックパネル12の左右両側に固定される。
このブレース部材21が設けられることにより、車両停車時等に荷室30の積荷50がリアシートバック側に移動しても、図7に示すように積荷50がリアシートバックに接触することを防止することができる。
【0005】
しかしながら、積荷50がブレース部材21にぶつかると、図7に示すようにブレース部材21は、積荷50からの荷重N1を受け止めるものであるから、ブレース部材21の上端21aを力点として、ブラケットパッケージトレイ20に対し図8(a)に示すように荷重N2が与えられる。この荷重N2により、ブラケットパッケージトレイ20には、図7に示すように、前記上端21a(力点)の作用により支点となる角部20aと、前記上端21aとを結ぶ直線状の線上に皺状の隆起部20bが生じる。そのため、図8(b)に示すように、前記隆起部20bによって生じた傾斜面上に位置するフック14の先端が下方に傾き、ワイヤ部材2がフック14から外れるという課題があった。
また、このような課題を解決するために、フック14周辺の部材の剛性を向上させる方法があるが、その場合、部品点数の増加或いは材料変更に伴うコストが嵩む上、車両重量が増大するという課題があった。
【0006】
本発明は、前記したような事情の下になされたものであり、自動車のリアシートバックの支持構造において、リアシートバックの固定精度を向上し、且つ、コスト及び車体重量の増加を抑制することのできるリアシートバックの支持構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記した課題を解決するために、本発明に係るリアシートバックの支持構造は、自動車の車体幅方向に延びるアッパバックパネルと、前記アッパバックパネルの左右両側において車体前方に向けて設けられたフック部材とを具備し、前記フック部材に、リアシートバックの背面に設けられたワイヤ部材が係止されることにより前記リアシートバックが固定されるリアシートバックの支持構造であって、前記リアシートバックの後方において、高さ方向に傾斜して延設されたブレース部材と、前記ブレース部材の上端部が取り付けられると共に、前記フック部材が設けられた前面パネル部とを有し、前記ブレース部材の上端部と、該上端部が力点として作用することにより前記前面パネル部上に生じる支点とを直線状に結ぶ線分が、前記フック部材よりも下方となる位置に前記ブレース部材の上端部が取り付けられていることに特徴を有する。
尚、前記フック部材は、先端が上方に向けられた状態で前記前面パネル部に取り付けられていることが望ましい。
また、少なくとも2本の前記ブレース部材を有し、前記ブレース部材の下端部は、車体下部且つ車体幅方向の中央付近に取り付けられ、上端部は前記アッパバックパネルの左右両側に向けて、それぞれ延設されていることが望ましい。
【0008】
このような構造によれば、例えば、ラゲッジルームの積荷が、車両停車時等にリアシートバック側に移動してブレース部材にぶつかると、ブレース部材の上端部が力点となり前面パネル部に対し荷重が加わる。この荷重により、前面パネル部には、ブレース部材の上端(力点)と、それにより生じる支点とを結ぶ線上(作用点)が変形し、皺状の隆起部が生じる。
ここで、この隆起部の一番突出した部分は、フック部材よりも下方に位置するため、例え隆起部により生じた傾斜面上にフック部材が位置していても、先端が上方に向けられているフック部材は、さらに、その先端が上方に向けて回転移動した状態となる。
したがって、積荷がブレース部材に当たって前面パネル部に隆起部が生じたとしても、ワイヤ部材がフック部材から外れることがないため、リアシートバックの固定精度を向上することができる。
また、部材の剛性を向上させなくても、リアシートバックの固定精度を向上することができるため、車両の重量やコストの増加を抑制することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、自動車のリアシートバックの支持構造において、リアシートバックの固定精度を向上し、且つ、コスト及び車体重量の増加を抑制することのできるリアシートバックの支持構造を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明に係るリアシートバックの支持構造の実施の形態について図面に基づき説明する。図1は本発明のリアシートバックの支持構造の正面図であって、リアシートを外した状態を示す図(車両後方に向かって左側のみ図示)である。
図1に示すように、本発明に係る支持構造は、従来同様にリアシート側と後部ラゲッジルーム30との間において、車体の幅方向に延びるアッパバックパネル12と、その左右両側にそれぞれ設けられたブラケットパッケージトレイ13と、このブラケットパッケージトレイ13の下方において高さ方向に延設されたストレーナパネル11とを有する。尚、アッパバックパネル12及びブラケットパッケージトレイ13の前面部と、ストレーナパネル11とにより前面パネル部が形成される。
【0011】
アッパバックパネル12及び左右のブラケットパッケージトレイ13には、先端を上方に向けて丸く湾曲したフック14(一方のパッケージトレイ13に設けられたフック14のみ示す)がそれぞれ設けられている。これらフック14は、従来同様、リアシートバックの背面に設けられたワイヤ部材2を係止するために設けられている。
【0012】
また、アッパバックパネル12の下方には客室とラゲッジルーム30とを連通する開口部40が形成されている。また、開口部40の下部には、図6に示した従来構造と同様に、車両幅方向に延びる棒状のフレーム部材41が設けられている。
【0013】
前記開口部40には、ラゲッジルーム30の積荷50がリアシートバックにぶつからないよう棒状のブレース部材1が車両下部から上方に向けて高さ方向に傾斜して延設されている。このブレース部材1は、例えば2本が左右対称に設けられる。各ブレース部材1は、図示するように、その下端が前記フレーム部材41の中央部付近に固定され、上端1aがストレーナパネル11の上部付近に固定されている。
ここで、ブレース部材1の上端1aと、この上端1aが力点として作用することによりブラケットパッケージトレイ13に生じる支点、即ち角部13aとを結ぶ直線状の線分(図2に一点鎖線で示す)が、フック14の取り付け位置よりも下方に位置するようブレース部材1の上端1aが取り付けられている。
【0014】
このようにブレース部材1が取り付けられている構成において、例えば、ラゲッジルーム30の積荷50が、車両停車時等にリアシートバック側に移動してブレース部材1にぶつかると、ブレース部材1の上端1aが力点となりブラケットパッケージトレイ13に対し荷重N2が加わる。
この荷重N2により、ブラケットパッケージトレイ13には、その角部13a(支点)とブレース部材1の上端1a(力点)とを結ぶ線上(作用点)が変形し、皺状の隆起部13bが生じる(図3(a))。
【0015】
ここで、図3(b)に示すように、この隆起部13bの一番突出した部分は、フック14よりも下方に位置し、例え隆起部13bにより生じた傾斜面上にフック14が位置していても、フック14は、その先端が上方に向けて回転移動した状態となる。
【0016】
したがって、本実施の形態によれば、積荷50がブレース部材1に当たってブラケットパッケージトレイ13に隆起部13bが生じたとしても、ワイヤ部材2がフック14から外れることがないため、リアシートバックの固定精度を向上することができる。
また、前記したように部材の剛性を向上させなくても、リアシートバックの固定精度を向上することができるため、車両の重量やコストの増加を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は本発明のリアシートバックの支持構造の正面図である。
【図2】図2は、図1のリアシートバックの支持構造の一部拡大図である。
【図3】図3は、図1のリアシートバックの支持構造において、ブレース部材からの荷重によりブラケットパッケージトレイに隆起部が生じた状態を示す図である。
【図4】図4は、従来のリアシートバックの支持構造を示す正面図である。
【図5】図5は、フック部材にリアシートバックのワイヤ部材が係止する状態を示す図である。
【図6】図6は、従来のリアシートバックの支持構造を示す他の正面図である。
【図7】図7は、従来のリアシートバックの支持構造において、ラゲッジルームの積荷からの荷重を受けることによりブラケットパッケージトレイに隆起部が生じる状態を説明するための図である。
【図8】図8は、従来のリアシートバックの支持構造において、フック部材からリアシートバックのワイヤ部材が外れる状態を説明するための図である。
【符号の説明】
【0018】
1 ブレース部材
1a 上端(上端部)
2 ワイヤ部材
11 ストレーナパネル
12 アッパバックパネル
13 ブラケットパッケージトレイ(前面パネル部)
13a 角部(支点)
14 フック(フック部材)
30 ラゲッジルーム
40 開口部
50 荷室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車の車体幅方向に延びるアッパバックパネルと、前記アッパバックパネルの左右両側において車体前方に向けて設けられたフック部材とを具備し、前記フック部材に、リアシートバックの背面に設けられたワイヤ部材が係止されることにより前記リアシートバックが固定されるリアシートバックの支持構造であって、
前記リアシートバックの後方において、高さ方向に傾斜して延設されたブレース部材と、前記ブレース部材の上端部が取り付けられると共に、前記フック部材が設けられた前面パネル部とを有し、
前記ブレース部材の上端部と、該上端部が力点として作用することにより前記前面パネル部上に生じる支点とを直線状に結ぶ線分が、前記フック部材よりも下方となる位置に前記ブレース部材の上端部が取り付けられていることを特徴とするリアシートバックの支持構造。
【請求項2】
前記フック部材は、先端が上方に向けられた状態で前記前面パネル部に取り付けられていることを特徴とする請求項1に記載されたリアシートバックの支持構造。
【請求項3】
少なくとも2本の前記ブレース部材を有し、前記ブレース部材の下端部は、車体下部且つ車体幅方向の中央付近に取り付けられ、上端部は前記アッパバックパネルの左右両側に向けて、それぞれ延設されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載されたリアシートバックの支持構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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