説明

リアルタイムキネマティックGPSシステム

【課題】 リアルタイムキネマティックGPSシステムにおいて、基準局と移動局との通信が切断された際の測位誤差を減少させる。
【解決手段】 基準局201及び移動局211の各々が取得したリアルタイムキネマティック処理用GPSデータr1、r2に基づいて算出した移動局の第1の現在位置データrtk1と、移動局が単独で算出した第2の現在位置データgps1との差異を補正値Hとして取得する補正値取得手段217と、基準局と移動局との間の通信が可能な場合には、第1の現在位置データを移動局の現在位置データとし、基準局と移動局との間の通信が不可能な場合には、第2の現在位置データと、補正値取得手段が取得した補正値とに基づいて、移動局の現在位置データを算出するように切り替える補正切り替え手段218とを備えるGPSシステム。補正値取得手段等は、各々の移動局又は基準局に設けることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リアルタイムキネマティックGPSシステムに関し、特に、移動体のナビゲーション等を行うために使用され、基準局と移動局との間の通信ができない場合でも、測位精度の劣化を防止することのできるアルタイムキネマティックGPSシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
図1は、従来のリアルタイムキネマティックGPS(以後「RTK−GPS」と表記する)システムの一例を示し、このRTK−GPSシステムは、基準局101と、移動局105とで構成され、基準局101は、GPS受信装置102と、無線LAN装置103と、コンピュータ装置104とを備え、移動局105は、GPS受信装置106と、無線LAN装置107と、コンピュータ装置109と、リアルタイムキネマティック処理(以後「RTK処理」と表記する)装置108とを備える。
【0003】
このような構成を有する従来のRTK−GPSシステムは、次のように動作する。
【0004】
基準局101は、正確な緯度経度が既知な位置に設置され、GPS衛星120からのGPSデータを受信する。受信したGPSデータは、コンピュータ装置104にてデータ送信を行う準備を行い、無線LAN装置103にて移動局105へ送信する。
【0005】
移動局105では、GPS衛星120からのGPSデータを受信する一方、無線LAN装置107にて基準局101から送信された基準局101のGPSデータを受信する。移動局105のGPSデータと、基準局101のGPSデータは、コンピュータ装置109を経由してRTK処理装置108に送られる。RTK処理装置108では、移動局107のGPSデータと基準局101のGPSデータとの差異と、既知の基準局の位置から移動局105の位置を算出する。このようなRTK−GPSシステムでは、正常時には誤差1cm程度の極めて高い測位精度を有する。
【0006】
上記RTK−GPSシステムの欠点として、基準局101と移動局105との間の通信が切断されると、RTK処理が不可能となることが挙げられる。そこで、この欠点を改善する方法が、特許文献1及び2に記載されている。
【0007】
特許文献1には、基地局と移動局との間が通信断となった際に、各々の局でRTK処理前のGPSデータを保存し、通信復帰後に保存したデータを送信することで、RTK処理を後追いで実行可能にする技術が開示されている。
【0008】
また、特許文献2には、基地局と移動局との間が通信断となった際に、IMU(慣性航法装置)による測位を行い、通信復帰時のRTK処理のパラメータとして取り入れることでRTK処理の初期設定に要する時間を短縮する技術が記載されている。
【0009】
尚、移動局では、単独でGPS測位を行うことも可能であるが、その際の測位精度は15m程度となり、RTK処理時とは測位精度に大きな性能差が発生する。
【0010】
【特許文献1】特許第3514212号公報
【特許文献2】特開2001−99910号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、上記従来のRTK−GPSシステムでは、基準局101と移動局105との間のGPSデータの差異により移動局105の測位を行うため、両者間で通信ができないとRTK処理が不可能となる。一方、移動局単独で可能な測位方法として単独測位があるが、この際の測位精度は15m程度であり、RTK−GPSシステムの測位精度1cm程度に対して極端な性能差があり、移動局の測位精度が極端に劣化するという問題があった。
【0012】
また、上記特許文献1及び2に記載の技術は、基準局と移動局との間の通信ができなくなった際に通信復旧後のRTK処理に関して補助的に動作するものであって、通信断中の動作に言及したものではない。
【0013】
さらに、移動局にIMUを搭載し、基準局と移動局との間の通信ができなくなった際に、IMUにより測位精度を向上させる方法も存在するが、IMUが高価なため、コスト対価が悪いという問題があった。
【0014】
そこで、本発明は、上記従来のRTK−GPSシステムにおける問題点に鑑みてなされたものであって、基準局と移動局との間の通信ができない場合でも、測位精度の劣化を防止することが可能なRTK−GPSシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するため、本発明は、RTK−GPSシステムであって、基準局及び移動局の各々が取得したリアルタイムキネマティック処理用GPSデータに基づいて算出した該移動局の第1の現在位置データと、該移動局が単独で算出した第2の現在位置データとの差異を補正値として取得する補正値取得手段と、前記基準局と前記移動局との間の通信が可能な場合には、前記第1の現在位置データを該移動局の現在位置データとし、前記基準局と前記移動局との間の通信が不可能な場合には、前記第2の現在位置データと、前記補正値取得手段が取得した補正値とに基づいて、該移動局の現在位置データを算出するように切り替える補正切り替え手段とを備えることを特徴とする。
【0016】
そして、本発明によれば、基準局と移動局との間の通信が通信断等によって不可能となった場合には、補正切り替え手段が、移動局が単独で算出した現在位置データと、補正値取得手段が取得した補正値とで、移動局の現在位置データを算出するように切り替えるため、RTK−GPSシステムにおいて、リアルタイムに、ハードウエアの追加なしに測位精度を向上させることができる。また、高価なIMU等を用いる必要もないため、安価なシステムとすることができる。これにより、RTK−GPSシステムを使用した移動体の正確なナビゲーション等を安価なシステムを用いて行うことができる。
【0017】
前記RTK−GPSシステムにおいて、前記補正値取得手段及び前記補正切り替え手段を、各々の移動局に備えることができる。また、前記補正値取得手段及び前記補正切り替え手段を、基準局に備えることもでき、いわゆるリバースRTK−GPSシステムとすることができる。
【0018】
また、前記RTK−GPSシステムにおいて、前記補正切り替え手段は、前記基準局と前記移動局との間に設けた無線LANの通信状態により前記補正の切り替えを行うことができる。これによって、無線LANでの通信断が発生しやすい環境においても実用的なシステムを構築することができる。
【発明の効果】
【0019】
以上のように、本発明によれば、基準局と移動局との間が通信断の場合でも、測位精度の劣化を防止することが可能なRTK−GPSシステムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
図2は、本発明にかかるRTK−GPSシステムの第1の実施の形態を示し、このRTK−GPSシステムは、基準局201と移動局211とで構成されている。
【0021】
基準局201は、GPS受信装置202と、コンピュータ装置203と、無線LAN装置205とで構成される。
【0022】
GPS受信装置202は、GPS衛星からの信号を受信し、RTK処理用データを出力する。無線LAN装置205は、移動局211とのデータの送受信を行う。コンピュータ装置203は、データ処理手段204を有する。データ処理手段204は、GPS受信装置202からのRTK処理用データを受け取り、無線LAN装置205を介して移動局211へ送信する。
【0023】
移動局211は、GPS受信装置212と、コンピュータ装置214と、無線LAN装置213とで構成される。
【0024】
GPS受信装置212は、GPS衛星からの信号を受信し、RTK処理用データと単独測位データとを出力する。無線LAN装置213は、基準局201とのデータの送受信を行う。コンピュータ装置214は、データ処理手段215と、RTK処理手段216と、補正値取得手段217と、補正切り替え手段218を有する。
【0025】
データ処理手段215は、GPS受信装置212からのRTK処理用データと、無線LAN装置213を介して基準局201のRTK処理用データを受け取り、RTK処理手段216へ転送するとともに、基準局201と移動局211との間の通信の異常を検知し、補正切り替え手段218に通知する。
【0026】
RTK処理手段216は、移動局211と、基準局201の各々のRKT処理用データを受け取り、RTK処理を行い位置情報を出力する。
【0027】
補正値取得手段217は、RTK処理手段216が正常動作している時に出力した位置情報データと、GPS受信装置212からの単独測位データとを取得し、各々の緯度及び経度の差を補正値として保存する。基準局201と移動局211との間の通信断によりRTK処理手段216が動作しない時は、補正値は再計算されずに以前の値を保持する。
【0028】
補正切り替え手段218は、データ処理手段215からの通知により、測位結果の最終出力を、RTK処理による位置情報か、補正値取得機能により補正された位置情報に切り替える。
【0029】
次に、図3及び図4のフローチャートを参照しながら、上記構成を有するRTK−GPSシステムの全体の動作について詳細に説明する。
【0030】
図3は、図2の基準局201の動作を示したものである。まず、GPS受信装置202から送られてくるRTK処理用データをコンピュータ装置203が受信する(ステップ301)。次に、受信したRTK処理用データを無線LAN装置205で移動局211へ送信するため、ヘッダー付加等の加工を行う(ステップ302)。そして、加工したRTK処理用データを無線LAN装置205に転送し、移動局211に送信する(ステップ303)。以後、このステップ301〜303を繰り返す。繰り返す周期は、GPS受信装置202に依存するが、通常は1秒程度である。
【0031】
図4は、図2の移動局211の動作を示したものである。まず、GPS受信装置212から送られてくるRTK処理用データr1と、単独測位データgps1とをコンピュータ装置214が受信する(ステップ401)。次に、基準局201から無線LAN装置205を介して送られてくる基準局201のRTK処理用データr2を受信する(ステップ402〜404)。受信が可能であった場合には、移動局211と基準局201の各々のRTK処理用データr1、r2をRTK処理手段216に転送し、移動局211の現在位置rtk1を算出する(ステップ407)。また、gps1と、算出したrtk1との差を補正値Hとして保存する。この補正値Hの寿命は、次に有効なデータによりRTK処理が正しく完了できたときまでとする。
【0032】
一方、ステップS404で、無線LAN装置205からの基準局201のRTK処理用データr2が受信できず、タイムアウトと判断した場合には、ステップS405において、現在位置を、gps1と補正値Hの差から算出する(ステップ405)。得られた現在位置の値を地図への描画等に使用する(ステップ406)。
【0033】
以上のように、本実施の形態では、RTK−GPSシステムにおいて、基準局201と移動局211との間の通信断によりRTK処理が不可能になった際に、移動局211の単独測位による位置情報を補正することが可能であるため、基準局201と移動局211とが通信断の際の測位精度の急激な低下を防ぐことができる。
【0034】
次に、本発明にかかるRTK−GPSシステムの第2の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。尚、本発明の説明の前に、本発明を適用する従来のRTK−GPSシステムについて、図5を参照しながら説明する。このRTK−GPSシステムは、RTK処理機能を基準局501側に備える。
【0035】
このRTK−GPSシステムは、基準局501と、移動局506で構成され、基準局501は、GPS受信装置502と、無線LAN装置503と、コンピュータ装置505と、RTK処理装置504とを備える。移動局506は、GPS受信装置507と、無線LAN装置508と、コンピュータ装置509とを備える。
【0036】
基準局501は、正確な緯度経度が既知な位置に設置され、GPS衛星520からのGPSデータを受信する。受信したGPSデータは、コンピュータ装置505を経由してRTK処理装置504に送信される。無線LAN装置503は、移動局506から送信される移動局506のRTK処理用データを受信し、コンピュータ装置505を経由してRTK処理装置504に送られる。
【0037】
RTK処理装置504は、移動局506のGPSデータと、基準局501のGPSデータとの差異と、既知の基準局位置から移動局506の位置を算出する。算出した移動局506の位置情報は、コンピュータ装置505を経由して無線LAN装置503にて移動局506へ送信される。
【0038】
移動局506では、GPS衛星520からのGPSデータを受信し、コンピュータ装置509を経由し、無線LAN装置508にて基準局501へ送信する。基準局501にてRTK処理された位置情報が送信され、無線LAN装置508で受信することで移動局506へ正確な位置情報を送信する。
【0039】
以上のように、本実施の形態では、基準局501にRTK処理機能を備えることにより、1つの基準局に対して複数の移動局が存在するシステムの場合、移動局側の構成が簡単になり、システム全体のコストを低減できる可能性がある。この構成のRTK−GPSシステムをリーバスRTK−GPSと呼び、この構成に対しても、本発明を適用することで第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0040】
次に、本発明にかかるRTK−GPSシステムの第2の実施の形態について、図6を参照しながら説明する。
【0041】
このRTK−GPSシステムは、基準局601と移動局611とで構成され、基準局601は、GPS受信装置602と、コンピュータ装置603と、無線LAN装置606とで構成さる。
【0042】
GPS受信装置602は、GPS衛星からの信号を受信し、RTK処理用データを出力する。無線LAN装置606は、移動局611とのデータの送受信を行う。コンピュータ装置603は、データ処理手段604と、RTK処理手段605とを有する。データ処理手段604は、GPS受信装置602からのRTK処理用データと、無線LAN装置606を介して移動局611から送信された移動局611のRTK処理用データとを受け取り、RTK処理手段604に転送する。RTK処理手段604は、移動局611と基準局601の各々のRKT処理用データを受け取り、RTK処理を行い位置情報を出力する。
【0043】
移動局611は、GPS受信装置612と、コンピュータ装置614と、無線LAN装置613とで構成される。
【0044】
GPS受信装置612は、GPS衛星からの信号を受信し、RTK処理用データと単独測位データとを出力する。無線LAN装置613は、基準局601とのデータの送受信を行う。コンピュータ装置614は、データ処理手段615と、補正値取得手段616と、補正切り替え手段617を有する。データ処理手段615は、GPS受信装置612からのRTK処理用データを無線LAN装置613を介して基準局601へ送信する一方、基準局601から送信されるRTK処理された位置情報を受け取るとともに、基準局601と移動局611との間の通信が正常に行われているかを検知し、補正切り替え手段617に通知する。
【0045】
補正値取得手段616は、基準局601と移動局611との間の通信が正常に動作している時に、RTK処理された位置情報と、GPS受信装置612からの単独測位データとを取得し、各々の緯度及び経度の差を補正値として保存する。基準局601と移動局611との間の通信断によりRTK処理された位置情報が得られない時は、補正値は再計算されずに以前の値を保持する。
【0046】
補正切り替え手段617は、データ処理手段615からの通知により、測位結果の最終出力をRTK処理した位置情報と、補正値取得機能により補正された位置情報とに切り替える。
【0047】
上記構成を有するRTK−GPSシステムは、RTK処理を基準局601で行うこととなるが、全体的な動作は、第1の実施の形態と略々同様であって、リバースRTK−GPSシステムにおいて、基準局601と移動局611との間の通信断によりRTK処理が不可能になった際に、移動局611の単独測位による位置情報を補正することが可能であるため、基準局601と移動局611とが通信断の際の測位精度の急激な低下を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】従来のRTK−GPSシステムの一例の説明図である。
【図2】本発明にかかるRTK−GPSシステムの第1の実施の形態の構成を示すブロック図である。
【図3】図2のRTK−GPSシステムの基準局の動作を示す流れ図である。
【図4】図2のRTK−GPSシステムの移動局の動作を示す流れ図である。
【図5】従来のリバースRTK−GPSシステムの一例の説明図である。
【図6】本発明にかかるRTK−GPSシステムの第2の実施の形態の構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0049】
101 基準局
102 GPS受信装置
103 無線LAN装置
104 コンピュータ装置
105 移動局
106 GPS受信装置
107 無線LAN装置
108 RTK処理装置
109 コンピュータ装置
201 基準局
202 GPS受信装置
203 コンピュータ装置
204 データ処理手段
205 無線LAN装置
211 移動局
212 GPS受信装置
213 無線LAN装置
214 コンピュータ装置
215 データ処理手段
216 RTK処理手段
217 補正値取得手段
218 補正切り替え手段
501 基準局
502 GPS受信装置
503 無線LAN装置
504 RTK処理装置
505 コンピュータ装置
506 移動局
507 GPS受信装置
508 無線LAN装置
509 コンピュータ装置
520 GPS衛星
601 基準局
602 GPS受信装置
603 コンピュータ装置
604 データ処理手段
605 RTK処理手段
606 無線LAN装置
611 移動局
612 GPS受信装置
613 無線LAN装置
614 コンピュータ装置
615 データ処理手段
616 補正値取得手段
617 補正切り替え手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基準局及び移動局の各々が取得したリアルタイムキネマティック処理用GPSデータに基づいて算出した該移動局の第1の現在位置データと、該移動局が単独で算出した第2の現在位置データとの差異を補正値として取得する補正値取得手段と、
前記基準局と前記移動局との間の通信が可能な場合には、前記第1の現在位置データを該移動局の現在位置データとし、前記基準局と前記移動局との間の通信が不可能な場合には、前記第2の現在位置データと、前記補正値取得手段が取得した補正値とに基づいて、該移動局の現在位置データを算出するように切り替える補正切り替え手段とを備えることを特徴とするリアルタイムキネマティックGPSシステム。
【請求項2】
前記補正値取得手段及び前記補正切り替え手段を、各々の移動局に備えることを特徴とする請求項1に記載のリアルタイムキネマティックGPSシステム。
【請求項3】
前記補正値取得手段及び前記補正切り替え手段を、基準局に備えることを特徴とする請求項1に記載のリアルタイムキネマティックGPSシステム。
【請求項4】
前記補正切り替え手段は、前記基準局と前記移動局との間に設けた無線LANの通信状態により前記補正の切り替えを行うことを特徴とする請求項1、2又は3に記載のリアルタイムキネマティックGPSシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−24799(P2007−24799A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−210707(P2005−210707)
【出願日】平成17年7月21日(2005.7.21)
【出願人】(303013763)NECエンジニアリング株式会社 (651)
【Fターム(参考)】