リアルタイム視覚警告表示装置
患者の治療のための警告システムであって、患者データを取り込んで、重要臓器に関する容易に識別可能なアイコンで、医療履歴、現在の医療管理、及び現在の生理学的モニタからデータを抽出する使用可能なリアルタイムの更新で情報を表示し、警報及び警告を生成し、生理学的な系(正常機能範囲、正常機能範囲の境界、及び異常機能範囲での生理学的な系)がリスクにさらされていることを医師に気付かせる警告システムである。これらのデータが提供されるだけでなく、リアルタイム照会及び計算を使用して、医師が、患者治療を補助するタイプのデータを得ることができるようにする。このデータは、従来は患者治療を行いながら医療文献を参照し、かつ/又は、遡及的な個々の計算を行うことによってのみ利用することができたものである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2010年10月8日出願の米国特許出願第12/900533号、2009年10月8日出願の米国仮特許出願第61/249801号、及び2010年1月18日出願の米国仮特許出願第61/295829号に対する優先権を主張する。上記の各出願の開示全体を参照として本明細書に組み込む。
【0002】
本開示は、リスク警告システムに関するものである。より詳細には、医療履歴、現在の医療管理、及び/又は現在の生理学的モニタからデータを抽出して、それに関係するリアルタイム警告を提供することができるリアルタイム・リスク警告システムに関するものである。
【背景技術】
【0003】
この節では、本開示に関係する背景情報を提供する。それらは必ずしも従来技術とは限らない。また、この節では、本開示の一般的な要約を提供するが、完全な範囲又はその特徴すべての包括的な開示ではない。
【0004】
この新規の独自のタイプの医療警告システムに関する実現可能性は、電子医療記録の拡張によってもたらされている。従来、生理学的データはすべて電子式に表示されており、いくつかの場合には、データの少なくともいくらかを記憶することができる。より最近では、患者の医療履歴データが電子形式で収集されている。そのようなデータ収集システムのいくつかは、フィールドを照会できるようにする構造化された形式(リレーショナル・データベース)でそれらのデータを提供する。さらに、ここ十年にわたり、麻酔術中記録が電子形式で利用可能になっている。電子麻酔情報システム(AIMSとして知られている)を作製するための初期の開発努力は、1980年代に始まった。この技術は成熟していなかったため、比較的最近まで広くは採用されていなかった。
【0005】
現在、世界で少なくとも8種以上のシステムが市販されている。それらのいくつかは、生理学的監視システム及び医療データシステムの比較的大きな供給業者数社、例えばPHILLIPS、GENERAL ELECTRIC、EPIC、及びCERNERによって市販されている。
【0006】
術中及び急性治療ICU環境では、現在、これらのデータをリアルタイムで利用可能である。本発明の教示に関する動機は、これらのすべてのデータを取り込んで、医療履歴、現在の医療管理、及び現在の生理学的モニタからデータを抽出する容易に使用可能なリアルタイムの更新で情報を表示して、警報及び警告を生成し、生理学的な系(正常機能範囲、正常機能範囲の境界、及び異常機能範囲にある生理学的な系)がリスクにさらされていることを医師に気付かせることである。これらのデータが提供されるだけでなく、リアルタイム照会及び計算を使用して、患者治療を補助するタイプのデータを医師が得ることができるようにする。しかし、このデータは、従来は患者治療を行いながら医療文献を参照する、及び/又は遡及的な個々の計算を行うことによってのみ利用することができたのである。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による教示の原理によれば、いくつかの実施例では、表示システムは、複数の一般的なコンセプトを備えることができる。第1に、表示は、重要臓器、すなわち脳、肺、心臓、腎臓、及び身体それぞれに関する容易に識別可能なアイコンを表示できる。第2に、これらの容易に識別可能なアイコンは、リアルタイム生理学的データの入力により、リアルタイムで動くことができる。例えば、心臓は、生理学的モニタによって提供される患者の心拍と共にリアルタイムで拍動し、肺は、監視システム及び麻酔器から提供される生理学的データ(気道圧)と共にリアルタイムで膨張及び収縮(換気)する。第3に、アイコンは、パラメータが様々な範囲にあることを表すためにカラーコード化することができ、例えば、正常範囲を緑色で表し、境界範囲を黄色で表し、異常範囲を赤色で表す。
【0008】
いくつかの実施例では、臓器に関する特定のリスクと関連付けられる各患者の病歴があると仮定して、アイコンは、その臓器系がリスクにさらされている場合にはオレンジ色(又は任意の他の印)でカラーコード化することができる。例えば、患者が、術後の心筋梗塞(心臓発作)に関する重要なリスク因子を有する場合、心臓の周りの縁をオレンジ色にして、この患者がリスクにさらされていることを医師に警告する。
【0009】
最後に、いくつかの実施例では、本発明による教示の表示システムは、患者にリスク又は危害を及ぼすおそれがある重要な生理学的異常が生じ得る状況をもたらす事象の組合せが生じたときに、ポップアップ警告又は他の警告を提供することができる。
【0010】
カラーコード化リスク分析及びポップアップ警告は、「具体的な臓器系」の節で以下に述べる。しかし、本発明による教示の範囲から逸脱することなく、色、マーク、又は他の警告プロトコルに変形を施すことができることを理解すべきである。
【0011】
さらなる利用可能範囲は、本明細書で提供する説明から明らかになろう。この要約での記載及び具体的な実例は、単に例示の目的と意図されており、本開示の範囲を限定する意図はない。
【0012】
本明細書で説明する図面は、選択された実施例を例示するためのものにすぎず、すべての可能な実装形態ではなく、本開示の範囲を制限する意図のものではない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】体温、ヘマトクリット、及びグルコースと共に、脳、気管気管支樹、肺、心臓、主要な血管(大動脈、大静脈)、及び身体に関するアイコンを示すリアルタイム視覚警告ディスプレイの概略図及びスクリーン読取画像を示す図である。各側にある腎臓は中間グレー・カラーで示されており、これは、すべての主要な臓器系が正常範囲内にあることを表す(本発明の図面での緑色に相当する)。
【図2】図1と同様のスクリーン読取画像を示す図である。心臓アイコンの外形のダークグレー・カラー(赤色に相当する)と、起り得る心筋の心収縮に呼応するSTセグメント変化を警告表示システムが検出したことを示す心臓アイコンの右下隅とを示す。
【図3A】正常な心臓充填体積を示す図1と同様のスクリーン読取画像を示す図である。体温が正常範囲未満であることも示し、これは明るいグレー・カラーで表され(黄色に相当する)、深刻な低い範囲内(これは体温バーで赤色によって示される)にはまだなっていない。
【図3B】心臓アイコンでのダークグレー・カラー(赤)によって示される心臓充填体積の少ない場合を示す、図1と同様のスクリーン読取画像を示す図である。
【図3C】心臓アイコンでのダークグレー・カラー(赤)によって示される心臓充填体積の覆い場合を示す、図1と同様のスクリーン読取画像を示す図である。
【図4】可能性は低いがリコールの可能性を伴う軽いレベルの麻酔/鎮静を示唆する脳アイコンの明るいグレー・カラー(黄色)を示す、図1と同様のスクリーン読取画像を示す図である。
【図5】麻酔に関する最小肺胞内濃度(MAC)が記憶喪失を引き起こすことが予想される濃度未満であることを示唆する脳アイコンのダークグレー・カラー(赤)を示す図1と同様のスクリーン読取画像を示す図である。したがって、この低レベルの麻酔では、患者は覚醒する可能性があり得る。
【図6】3つの異常を示す図1と同様のスクリーン読取画像を示す図である。具体的には、心臓アイコンからのダークグレー(赤)に色付けされた「血管」が、血圧が高いことを示し、右肺でのダークグレーカラー(赤)のSpO2が、酸素レベルが低いことを示し、同時にダークグレー・カラー(赤)の脳アイコンが、麻酔濃度が低いことを示す。
【図7】気道圧が高くなっている異常を示す図1と同様のスクリーン読取画像を示す図である。気管気管支樹を明るいグレー・カラー(黄色)で示し、したがって肺を換気する圧力は正常よりも高いが危険範囲ではない。
【図8】いくつかの実施例による本発明による教示のリアルタイム視覚警告表示システムの概略図である。
【図9】いくつかの実施例による本発明による教示のリアルタイム視覚警告表示システムの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図面における複数の図を通じて、対応する参照番号は、対応する部分を示す。
【0015】
以下、添付図面を参照しながら例示的実施例をより完全に説明する。
【0016】
画面の一般的なレイアウト
図1〜図8に示される本発明による教示の原理によれば、リアルタイム視覚警告表示システム10が提供される。リアルタイム視覚警告表示システム10は、複数のセンサ、プローブ、又は他のデータ収集若しくは監視デバイス14に接続された警告表示デバイス12を備えることができる。複数のセンサ14を患者に接続させて、患者からのリアルタイム生理学的データを収集するように動作可能にすることができる。警告表示デバイス12は、複数のセンサ14からデータを収集するための制御システム又は制御装置を備えることができ、この制御システムは、警告表示デバイス12と別個であるか、又は警告表示デバイス12と一体化されており、解釈及び/又は警告表示デバイス12上への表示を行い、これは本明細書で説明する。警告表示デバイス12は1つ又は複数の表示レイアウトを備えることができるが、一般に、いくつかの実施例では、警告ディスプレイ10が、脳、肺、心臓、腎臓、及び皮膚など身体の重要臓器及び/又は主要部位を表す1つ又は複数のアイコン或いは表示マークを備えることに留意すべきである。しかし、さらなるパラメータや臓器などを表示することもできることを理解すべきである。
【0017】
いくつかの実施例では、これらのアイコンは、複数のセンサ14からのリアルタイム生理学的データの入力と共にリアルタイムで動くように動画化することができる。例えば、心臓は、生理学的モニタによって提供される患者の心拍と共にリアルタイムで拍動し、肺は、監視システム及び人工呼吸器から提供される生理学的データ(気道圧)と共にリアルタイムで膨張及び収縮(換気)する。いくつかの実施例では、アイコンは、パラメータが様々な範囲にあることを表すためにカラーコード化することができ、例えば、正常範囲を緑色で表し、境界範囲を黄色で表し、異常範囲を赤色で表す。さらに、いくつかの実施例では、さらなる色表現を使用して、警告範囲又はパラメータを示すことができる。例えば、いくつかの実施例では、オレンジ色などの警告色を使用して、臓器不全/損傷に関するリスク因子又は臓器不全/損傷の病歴がある臓器を強調することができる。例えば、患者が心臓病の病歴又は心臓病に関するリスク因子の履歴を有する場合に、心臓の輪郭がオレンジ色にされる。同様のことが他の臓器系にも当てはまり、すなわち、図9に示されるように、脳は、卒中の病歴又は卒中に関するリスク因子を有し、腎臓は、腎疾患の病歴又は腎疾患に関するリスク因子を有する。
【0018】
画面の一般的なレイアウトが図1に示され、これはディスプレイのスクリーンを読み取ったものであり、すべての系が正常範囲内にある。見ることができるように、画面は、2つ以上の区域16及び18を備えることができる。第1の区域16は、当該患者の病歴を含むことができ、例えば患者の名前20、登録番号22、並びに時間NPO24(すなわち患者が流体を投与されてからの時間)、推定の血液損失26、及び患者の体重28が続く位置を備えることができる。第1の区域16は、さらに、流体査定30(これは、以下の「心臓」の節における「心臓流体」の項で詳細に網羅する)と、警告区域32とを備えることができ、警告区域32は、この場合には、この患者に関するグルコース測定値がないこと、又はグルコースを再検査する必要があることを医療提供者に知らせる。最後に、第1の区域16は、警告リセット・ボタン34を備えることができる。
【0019】
いくつかの実施例では、第2の区域18は、本明細書で論じるような一連のアイコンを備えることができる。いくつかの実施例では、上部に脳アイコン40があり、そこから下に気管気管支樹アイコン42が延び、右肺アイコン44及び左肺アイコン46に接続されるように、アイコンを配置することができる。中央に心臓アイコン48が配置され、これは、左側から大静脈50によって血液供給され、右側にある出力側の大動脈弓52が身体54に向かって下に延びる。身体アイコン又はボックス54は、体温56、ヘモグロビン58、グルコース60、カリウム、及びINR(国際標準比)を示す目盛りを備えることができる。身体54の両側に2つの腎臓アイコン62を含めることができる。
【0020】
警告表示デバイス12のこれらのアイコン及び/又は全体のレイアウトは、素人及び/又は医療専門家が容易に認識できるように設計される。いくつかの実施例では、リアルタイムの生理学的な値を提供して、関連のアイコンを補完することができる。例えば、脳アイコン40は、右側に、麻酔に関する最小肺胞内濃度(「脳」の節で論じる)である参照番号66でのMACレベルを備えることができ、また左側に、麻酔の深さを測定するための参照番号68でのBIS(二波長指数)値を備えることができる。気管気管支樹アイコン42の下には、呼吸数と共にピーク気道圧を提供することができる。肺の輪郭は、終末呼気陽圧(PEEP)を示すことができる。さらに、右側の肺にSpO2(パルス・オキシメータ動脈酸素飽和度)と共に酸素化が示され、左側の肺に終末呼気CO2からの二酸化炭素が示される。心臓アイコン48では、正常動作を示すためにレベルを緑色にすることができる。心臓アイコン48のレベルは、心臓を充填する推定の血管内体積、すなわち流体蘇生ステータスと共に上下することがある。いくつかの実施例では、その流体ステータス・レベルを決定するために使用される情報の入力を参照番号70として表すことができる。これは、「心臓」の節で述べる。右肺44の下に、参照番号72で心収縮期及び心拡張期血圧を提供することができる。それらの値は、心臓アイコン48の右側の大動脈弓52の色に関係付けられる。右の腎臓の下に、参照番号74で尿量測定値を示すことができ、いくつかの実施例では、左の腎臓の下に、患者の血清クレアチニン76(図8)を示すことができる。身体54内の各値は、生理学的モニタからの体温、実験室からのヘモグロビン/ヘマトクリット、又は患者の最新のヘモグロビン値から導出される推定値、及び血液損失と輸血、並びに実験室値から導出されるグルコース、カリウム、及びINRである。
【0021】
さらに、いくつかの実施例では、各アイコンは、緑色、黄色、赤色、オレンジ色など1つ又は複数の警告色で示すことができる。いくつかの実施例では、アイコンを1つ又は複数の警告色で同時に示すことができ、例えば脳アイコンの背景ベース部分をオレンジ色の警告色にすることができることを理解すべきである(図9参照)。さらに、いくつかの実施例では、グラフィック又は目盛り、例えば目盛り56、58、60、68が、目盛りを取り囲むハイライト表示された領域を含むことができ、そのような目盛りに素人及び/又は医療提供者の注意が適切に向けられるようにする(図9参照)。しかし、これらのハイライト表示された警告の色、形状、及び/又はパターンに関して、本発明の教示から逸脱することなく変形形態が存在し得ることを理解すべきである。
【0022】
具体的な臓器系及び警告
脳
いくつかの実施例では、脳アイコン40は、麻酔/意識のレベルを査定するためにカラーコード化することができる。患者が麻酔薬を投与されているとき、麻酔薬のレベルは、吸入麻酔(蒸気麻酔;イソフルラン、セボフルラン、デスフルラン、亜酸化窒素)と静脈麻酔(プロポフォール、デキサメデトミジン、ミダゾラム)の呼気中濃度を測定することによって常に計算される。これらの麻酔濃度は、麻酔器の赤外線分析器から得られ、静脈麻酔データは、麻酔情報システムから提供される。さらに、これらの麻酔において、麻酔に関する最小肺胞内濃度(MAC)という専門用語が用いられる。患者の麻酔レベル又は深さの推定は、そのMACレベルに関連付けられる。脳アイコン40は、MACレベルが覚醒に達したとき(赤色)、覚醒と睡眠の境界に達したとき(黄色)、及び脳が麻酔下になったとき、すなわち>0.6MAC又はMAC等価値(MAC equivalent)に達したとき(緑色)に色が変わる(図2、図4、及び図5参照)。
【0023】
参照番号68で前に述べたように、いくつかの実施例では、二波長指数(BIS)と標示された欄(又は他の同様の脳機能モニタ、例えばエントロピー・モニタ)を脳アイコン40に隣接して配置することができる。これは追加の生理学的モニタであり、このモニタは、患者の前頭部に貼着され、麻酔レベルを推定するために加工EEGリードから情報を提供する。デバイスの製造業者及び文献において、60〜40の間のBISレベルが全身麻酔であり、60を超える値は軽い麻酔であることがあり、80〜100の間では、患者が覚醒している、又は軽い鎮静状態である可能性が高いことが示されている。BISレベルが40未満であるとき、麻酔レベルが「深すぎる」とみなされ、脳アイコンは青色に変わって、レベルが深すぎることを表す。BISデバイスは、脳アイコンに入力データを提供するこのタイプのEEGベースの脳活性モニタの一例にすぎない。
【0024】
同様に、いくつかの実施例では、参照番号66で表されるリアルタイムで計算されたMAC値を提供することができる。鎮静レベルを定量化するための方法も提供するこのMAC値は、麻酔のレベルを査定するためにBIS欄と結合させることができる。これらのレベルは一致することが多いが、麻酔レベルを調節するのにどの方法又は方法の組合せを使用するかは、臨床医に委ねられることが多い。麻酔中、MACレベルが、患者が覚醒している可能性がある範囲まで下がった場合、脳アイコン40の色が変わり、ポップアップ警告が「覚醒警告」を示す。
【0025】
また、術中期間に患者が卒中を起こすリスク因子もある。これらのリスク因子は、外科手術を受ける患者の大規模な研究から導出される。患者がこの種のリスク因子を有する場合、本明細書で述べるように、脳アイコンの上部の小さい部分がオレンジ色になり、この患者が術中に卒中を起こす危険があることを示すか、又は患者が過去に卒中を起こしたことがあるかどうかを示す。
【0026】
気道
麻酔下の患者が機械による換気を必要とするとき、声帯を通して気管内に気管内管が配置される。次いで、この管が、機械的な人工呼吸器に接続される。これは、ほとんどの一般的な麻酔に際して必要とされ、また患者がICU内で人工呼吸器のサポートを必要とするときには常に必要とされる。この管を気管内に配置することは、気管内挿管と呼ばれる。一般に、これは、患者がプロポフォールなどの鎮静催眠薬を投与され、最も多くの場合にはさらに神経筋遮断剤を投与されているときに行われる。神経筋肉ブロック剤は、筋肉を麻痺させ、麻酔技師若しくは麻酔医療提供者又は集中治療専門医が、喉頭鏡と呼ばれるデバイスで患者に挿管することができるようにする。患者の解剖学的構造により、このプロセスが難しいことが時としてある。難しい挿管、又はいわゆる気道確保困難の様々な予測因子があり、例えばおとがいの陥凹、顎の不動症、太い首、曲げ伸ばしできない首、口が開いているときの後部気道の見えにくさ(「扁桃肥大(mallanpati grade)」)などである。これらのリスク因子を知ることにより、麻酔医療提供者は、気管内管を配置する別の方法を考え、場合によっては光ファイバ挿管と呼ばれる意識下で行う技法を実施する。ある患者に挿管を行い、それが難しいことが分かったとき、後の麻酔医療提供者がこの問題を知っていることが非常に重要である。患者への挿管が難しいことが分かっていないと、麻酔医療提供者が次にその患者への挿管を計画するときに、命にかかわる事態が生じることさえあり得る。この理由から、気道確保困難の可能性にかかわるリスク因子が存在する場合には、気道内に配置される気管内管のアイコンはオレンジ色になり、患者が既知の気道確保困難の病歴を有する場合には赤色になる。
【0027】
気管気管支樹及び肺
脳の下で、気管が2つに分かれる。すなわち、左右の肺に入る左右の主要な幹気管支に分かれる。左右の主要な幹気管支は、機械的な換気中の気道圧が正常範囲内であるときには緑色であり、それらがわずかに上昇したときには黄色に変わり、異常に上昇したときには赤色に変わる(図7参照)。これらの範囲はすべて設定可能である。この情報は、人工呼吸器から連続的に提供される。気管支痙攣を引き起こすことがある反応性気道疾患(喘息又は慢性閉塞性肺疾患)の病歴を患者が有する場合、気管支の輪郭はオレンジ色になる(気管支痙攣の可能性を表す)。
【0028】
左右の肺が心臓の各側に示される。肺は、換気と共に膨張及び収縮する輪郭を有し、すなわち、圧力が上昇して肺を換気する吸気中には膨張し、圧力が減少するときには収縮する。これらのデータは、人工呼吸器データから連続的に提供され、患者の呼吸と共にリアルタイムで動く。各肺の輪郭は、PEEPのレベルと共に色を変える。PEEPの急激な増加は、人工呼吸器故障又は緊張性気胸を表すことがある。右肺には、パルス・オキシメータからの動脈ヘモグロビン飽和度を示す欄があり、これは動脈血液の酸素化である。左肺には、二酸化炭素を示す欄があり、これは、カプノメータから連続的に記録される(終末呼気CO2器。これは麻酔器の一部であるか、又は個別のモニタである)。これらの値が正常範囲内にあるとき、それらは共に緑色であり、境界範囲にあるときには黄色であり、異常範囲内にあるときには赤色である。これらのデータは、ディスプレイ上に連続的に更新される。パルス・オキシメータ欄の下には、右側に、数値での飽和値が提供され、左側に、呼気二酸化炭素の数値が提供される。肺が喚起されるとき、呼吸数及びピーク気道圧に関するデジタル値が、右上に提供される。気道圧が急激に上昇して臨界値を超えた場合、「気道障害の可能性、気管支痙攣」を示す警告がポップアップして、調査を要する高い気道圧があることを医療提供者に警告する。
【0029】
血圧の減少にも関連付けられる高い吸気ピーク圧力と高い呼気気道圧の組合せがある場合、患者が「緊張性気胸の可能性」又は「重度の気管支痙攣の可能性」を有することがあることを示すポップアップ警告が提供される。これは、命にかかわる状況であることがあり、血圧の減少に関連して吸気と呼気の人工呼吸器圧力がどちらも急激に上昇したときに生じる。これは、即座に調査を要する状況である。
【0030】
心臓
心臓アイコン48は、心拍数を示すことを含めたいくつかの機能を有する。心臓アイコン48は、患者の心拍と共に拍動(収縮)し、したがって心拍数のリアルタイム査定が存在する。
【0031】
心臓流体
心臓の充填体積、又は推定される患者の流体蘇生の妥当性を表す心臓アイコン48のレベルが存在する。心臓アイコン48の中央での充填レベルは、正常レベル(緑色)、低レベル(赤色)、及び高レベル(赤色)である(図3A、図3B、及び図3C参照)。すなわち、心臓が十分な流体を有さない(水分欠乏)範囲、及び心臓が過剰充填である(心不全)範囲が存在する。このレベルを計算するための情報は、利用可能なデータに応じて、いくつかの側面から提供される。心臓の侵襲性監視が行われていない患者に関しては、流体蘇生の推定は、文献から提供される標準的な流体置換規則を使用する(一般に知られているのは、絶対流体損失に関する4:2:1ルールである)。また、患者が流体を投与されていない時間(NPO時間)と、体重に基づく標準的な患者の絶対流体損失との積も使用する。これに加え、患者が投与された流体の量及び流体のタイプを提供する麻酔情報システムからのデータが検索される。すなわち、患者が、通常の食塩水や乳酸加リンゲル液などの晶質液、又はアルブミンなどのコロイド溶液、又は血液若しくは血液製剤を投与されているかどうかのデータが検索される。また、計算は、麻酔情報システムに入力された推定の血液損失も考慮に入れる。したがって、流体蘇生のレベルを決定するために、システムは、流体入力と出力の収支を自動的に計算して、処置中の流体蘇生の妥当性を推定する。
【0032】
流体の必要量を計算するこの臨床プロセスは、外科的外傷の度合い(時として第3空間損失とも呼ばれる)にもよるので、本発明による教示は、第1の区域16に、これら第3空間損失を選択するためのいくつかのオプションを提供する。麻酔医療提供者は、外科手術のタイプに応じて第3空間損失に関する3つの選択肢から選択することができる(外科的外傷がほとんどない簡単な処置は軽度、中度の処置は中度、大きな切開又はより多くの組織操作を伴う処置は重度)。これらはそれぞれ、異なる計算を自動的に計算して、外科手術中の流体の必要量を決定する(3つのタイプの外科的外傷に関するこれらの具体的な損失は設定可能である)。
【0033】
これらの入力はすべて推定量である。それらは、臨床医が患者に必要な流体を評価するために一般に受け入れられている方法である。臨床医は、それらの計算を考慮に入れなければならず、同時に、投与された流体に対する患者の血圧の応答、尿量、及び流体体積に対する患者の応答の履歴を考慮しなければならない。例えば、鬱血性心不全の病歴を有する患者は、必要な流体が他の人よりも少ないことがある。これは、麻酔医療提供者による臨床での決定事項である。正常化ボタン90により、医療提供者は、体積アイコンを「再正常化」できる。すなわち、医療提供者は、任意の時点で、患者の血管内体積が望ましい値であると思ったときに「体積正常化」アイコンを押すことができ、これにより、心臓の中央で、アイコンの流体レベルを緑色レベルまで動かし、次いでその時点から新たな計算を再始動する。この正常化ボタンが使用されている場合、その横に星印が配置されて、その患者の体積を再正常化したことを他の医療提供者に警告する、又は医療提供者の記憶に留める。
【0034】
より大がかりな処置を受けている、又は術中のリスクがより高い患者には、侵襲性監視カテーテルが配備されて、動脈血圧、中心静脈圧、又は肺動脈血圧を連続的に測定する。動脈血圧カテーテルが配備され、収縮期圧変動(SPV)として知られている変数(又は同様のパラメータ・パルス圧力指標PPI)を医療提供者が測定することができる場合、SPV値を使用して心臓充填レベルを決定し、収縮期圧変動に関する「SPV」を心臓アイコンの下に示し、最新のSPV値、及び最後に測定された時間(又はSPVと同様のパルス圧力変化)を表す。患者が中央静脈カテーテルを挿入され、中心静脈圧値が生理学的モニタから収集される場合、例えば中心静脈圧に関する「CVP」を心臓アイコンの下に示し、それらの値を使用して心臓の高い充填、低い充填、又は正常の充填を決定し、CVPリアルタイム値が提示される。最後に、患者が肺動脈カテーテルを挿入された場合、肺動脈心拡張期圧力からのデータが心臓の下に提示され、それらの値を使用して流体体積の妥当性が決定される。
【0035】
心臓虚血
手術室に入る患者の多くは年配であり、虚血心臓疾患の病歴又は虚血心臓疾患に関するリスク因子を有する。心臓リスク査定は、患者に処置を行うことができるかどうか、またどのタイプの監視を処置中及び処置後に行うべきかを決定するために術前に行われるおそらく最も重要な評価である。
【0036】
術中又は術後の心筋梗塞(心臓発作)を引き起こす具体的な術前リスク因子を特定するために大きなデータセットを考察した重要な文献があり、より最近では、それらのリスク因子を高める血圧や心拍数などの術中データが特定されている。患者が術中の心筋梗塞に関する術前リスク因子を有する場合、心臓の輪郭がオレンジ色になる。処置中に、リスクを増す術後の心筋梗塞と関連付けられる心拍数及び血圧の変化があった場合、アイコンの一部が赤色に変わり、「虚血の可能性」のポップアップ警告が表示される(図2)。さらに、外科手術中、又はICUにおいて、患者は、EKGを用いて連続的に監視される。EKGの生理学的モニタは、心臓の虚血に関連付けられるEKGの変化(STセグメント変化)を連続的に測定することができる。これらの虚血STセグメント変化が処置中に示された場合、アイコンはやはり赤色に変わり、「虚血の可能性」のポップアップが表示される(図2)。
【0037】
術後の心筋梗塞に関連付けられる術中の血行力学的変化、血圧、及び心拍数は、リアルタイムで行うのは不可能ではないにせよ実用的でない。というのも、それらは、中間値血圧がそれらの基準(ベースライン)血圧(術前範囲)から40%を超えて減少したときに計算されるからである。このタイプの計算は、医師がリアルタイムで行うことはできない。したがって、患者をリスクにさらす状況を警告するために、このコンピュータが、移動平均でリアルタイムでそのような複雑な計算を行えるようにする。
【0038】
血圧
心臓の右側で、大動脈弓が身体に対して上下する。この大動脈弓は、大動脈及びリアルタイムの血圧を表す。心収縮期血圧である血圧SBPの右に、現在の数値を示す。さらに心拡張期血圧を示す。大動脈は、血圧が異常なレベルに下降又は上昇するときに、緑色から黄色、さらに赤色に色が変わる(図6)。これらのレベルは、SBPの値、平均動脈圧力(MAP)、又は患者の術前の正常血圧値に対するパーセンテージに関して設定可能である。例えば、警告は、各患者のSBPがその患者の術前のSBPの60%未満に低下したときに表示される(大動脈の色の変化)。血圧を5分毎に測定して記録することが、麻酔中の治療の標準である。AIMSで5分間にわたって血圧が測定/記録されない場合、血圧数、及び最新の血圧から何分経ったかが赤く点灯表示され、測定が必要であることを麻酔医療提供者に警告する。
【0039】
低血圧の予測
本発明による教示の制御システムは、将来の低血圧を予測するアルゴリズムを含む。本発明によるデバイスは、ある時間にわたって血圧を測定し、すぐ将来(次の3〜5分)の低血圧の可能性を予測するために、吸気麻酔レベルと共に血圧を使用する。異常な血圧の可能性が予測されるとき、ポップアップ警告が医療提供者に表示される。より具体的には、システムはSBPの変化を監視する。次の時間間隔(例えば4〜5分)での予測SBPが50mmHg(設定可能)未満であると(線形予測を使用して)予測されるとき、システムは、吸気麻酔剤濃度が減少しているかどうか調べる(麻酔剤濃度のこの減少は、麻酔医療提供者がSBPの減少に留意しており、麻酔投与量を減少させる適切な処置を行っていることを示す)。吸気麻酔剤濃度が減少していない場合(適切な処置が行われていないことを意味する)、システムは、高血圧の可能性を警告する。
【0040】
身体
心臓の下の長方形が、提示される複数の変数を含む。左側に体温があり、これは生理学的モニタからのものであり、中央にはヘマトクリット/ヘモグロビンがあり、これは実験室からのもの(又は以下に述べる推定量)であり、右側にはグルコース値があり、これは実験室からのものである。グルコースの下に、数値及びこの尺度が最後に測定されてからの時間を示す。同様のことがヘマトクリットに関しても行われ、最後の測定からの時間、すなわち分単位、時間単位、及び日単位での時間が提示される(図7)。推定されるヘマトクリットに関する別の欄が提示され、これは、患者の初期ヘモグロビン測定値、麻酔情報システムから検索される血液損失、及びやはり麻酔情報システムから検索される患者に投与された流体を基に、血液中のヘモグロビンの現在のレベルを推定する。文献で報告されている血液希釈に関する技術を使用して、ヘマトクリットの推定レベルが与えられて、輸血が必要であるかどうか判断するためにヘマトクリットを測定することを医療提供者が望む時点で医療提供者に警告する。これは推定量であり、現在のヘマトクリットの測定が実験室からシステムに提供されるときには常に更新される。
【0041】
2つの追加の重要な実験室値が報告される。すなわち、カリウム(K+)と国際標準比(INR)である。INRは、凝血/出血ステータスの試験である。これは、特にワルファリン(Warfarin)又は他の薬物を投与されて出血を起こした患者に関して出血/凝固能力を試験するために使用される。患者が血液希釈剤を投与されている場合、手術前にINRを知ることが非常に重要である。システムは、ワルファリン又は他の血液希釈剤に関する患者の薬剤リストを参照する。存在する場合には、INR欄がオレンジ色に縁取られる。INR値が利用可能である場合、正常/異常範囲を含めてINR欄に示される。
【0042】
腎臓
身体の両側に、腎臓を表すアイコンがある。右腎臓の下に、利用可能であれば、mls、mls/分、及びmls/kg(体重)/分の単位で提供される尿量がある(図1)。尿素の流れのこれらの様々な測定値を医療提供者が使用できる。腎臓の下の左側に、クレアチニンの実験室値があり、これは腎機能の尺度である。グルコース及びヘモグロビンと共に、クレアチニンのこれらの値は、病院の実験室システムから自動的に検索される。患者が術後に腎不全を起こす危険性があることを患者の病歴が示唆する場合には、腎臓アイコンの外縁部がオレンジ色になる。
【0043】
基本的なタイプの規則
いくつかの実施例では、本発明による教示又は特に本発明によるソフトウェアは様々な規則を含むことができ、それらの規則は、患者の電子医療記録の様々な部分からの入力データ、すなわち病歴、並びに身体的データ、自家薬物データ、実際の生理学的データ、及び麻酔情報システムデータを必要とする。
【0044】
従来の基本的な規則
基本システムは、麻酔学における現在の訓練の一部である臨床管理規則に基づく情報を提供することができる。そのような規則の一例は、心臓の充填レベルを決定する規則である。赤色で低いレベル、緑色で正常レベル、赤色で高いレベルを示す心臓のこの流体レベルは、患者の流体入力及び出力の計算に基づく。入力は、血液を含めた様々なタイプの静脈流体である。出力は、代謝及び蒸気の換気、並びに血液損失、尿量、及び外科的外傷による必然的な流体損失である。これらの規則は、麻酔学の教科書からの公開文献に基づいている。麻酔学における一般的な訓練に基づく「正常範囲外」に関する警告としてのこのタイプの基本的な規則は、望みであれば医師が設定することができる。
【0045】
詳細な病歴及び身体的情報を必要とする最近の文献に基づく規則
この第2のより複雑な規則は、例えば術後の心筋梗塞(心臓発作)を含めた、外科手術に関する何らかの有害事象にかかわるリスク因子についての公開文献に基づく。患者は、手術室に入る時点で、糖尿病の病歴、過去の心臓発作の病歴、脳血管疾患、又は腎疾患など一連の同時罹患(他の医学的疾患)があり、これらは、術中期間に患者が心筋梗塞を起こす危険をより高める。患者がこれらのリスク因子のいくつかを有する場合、より高いリスクのグループに含まれ、公開文献に基づいて、表示システムでのこの規則が、臓器が危険な状態にあることを医師に警告する。データ源を提供する電子医療記録の拡張により、アウトカム研究から、より詳細なリスク分析が開発されているので、これらのタイプの文献はより一層普及している。これらのリスクのいくつかは文献に公開されているが、リアルタイムで計算することは実現可能でない。それらのリスク分析は、患者の病歴を含むだけでなく、現在の生理学的データ、例えば心拍数や血圧も含む。したがって、例えば、患者の正常な血圧値よりも10分を超えて40%よりも大きく血圧が減少したとき、患者はより高いリスクにさらされており、システムは、患者がより高いリスクにさらされていることを医師に警告する。患者のリスクのこのタイプのリアルタイム計算は、患者に対する治療中に臨床環境で行うことは不可能であった。上述したように、電子医療記録の出現により、これらのタイプのリスク分析はより頻繁に開発されて、文献で公開されるようになっている。
【0046】
複雑なリスク分析
患者が危険な状態であること識別するために大量のデータを有する大きなデータベース(>200000人の患者)を使用する最も複雑なリスク分析を開発することができる。これは、複雑な制御システム分析によって行われる。これらのタイプの分析は、製造業において、製造物の品質制御に関して行われていた。悪い結果の可能性を予測し、したがって医師に予め警告して、起こり得る有害事象をより早期に診断及び治療できるようにすることができる複雑なアルゴリズムを導出するために、このタイプの複雑な統計工学的分析が術中及び臨床治療データに適用される。
【0047】
代替用途
いくつかの実施例では、本発明による教示は、麻酔中の疾患である悪性高熱症及び神経遮断薬悪性症候群の検出に使用することができる。
【0048】
具体的には、背景として、悪性高熱症は、まれではあるが、命にかかわる疾患であり、これは、患者が筋弛緩剤サクシニルコリン、及び/又は強力なハロゲン化蒸気麻酔、例えばイソフルラン、セボフルラン、デスフルランを受けたときに、全身麻酔下で生じる。これは、筋肉のリアノジン受容体の異常にかかわる混合浸透度を有する常染色体優性の遺伝疾患である。これは、カルシウムの無制御の解放を引き起こし、重大な代謝危機をもたらす。神経遮断薬悪性症候群は、同じ臨床徴候、症状、及び治療を有する。これも麻酔下で生じる。
【0049】
本発明による教示は、麻酔器及び麻酔情報システム及びモニタからのデータの同時収集を使用し、悪性高熱症の発生を識別して、早期の検出及び治療を可能にする。ダントロレンという薬剤を用いて早期に治療した場合、この疾患は非常に良く回復する。本発明による教示は、いくつかの実施例では、麻酔器からの電子データを必要とし、より具体的には、終末呼気二酸化炭素測定値、吸気二酸化炭素測定値、分時換気量(換気体積×呼吸数)、及び患者の体重(あってもなくてもよい)を必要とする。
【0050】
いくつかの実施例では、以下の計算された事象が生じる場合に、悪性高熱症の警告が作動される。
【0051】
終末呼気二酸化炭素が、1.5mmHg/分(これは設定可能である)よりも高い割合で増加し、その一方で同時に、分時換気量(一回呼気体積×呼吸数)が、正常レベル(80cc/kg/分(設定可能))の80%以上のままであり、呼気二酸化炭素レベルが、2mmHg*未満のままであり増加していない。
【0052】
これら3つの事象すべてが、10分を超えて、又は他の所定の期間にわたって同時に生じているとき、悪性高熱症又は神経遮断薬悪性症候群が診断される。
【0053】
これらの数値しきい値及び/又は条件は設定可能でよく、及び/又はいくつかの実施例ではなくすことができることを理解すべきである。
【0054】
いくつかの実施例では、吸気CO2の上昇がなく、正常な分時換気量であるときに、終末呼気CO2が徐々に上昇している場合、悪性高熱症の症状を診断することができる。これら3つの事象すべてが麻酔中に生じた場合、これは悪性高熱症の症状である。
【0055】
いくつかの実施例では、本発明による教示は、緊張性気胸の検出に使用することができる。
【0056】
具体的には、背景として、緊張性気胸は急性の血行力学的緊急症状であり、空気が胸腔内に捕獲されて高い圧力を発生し、これは、血液が胸部及び右心臓に戻らないようにし、命にかかわる心臓血流及び血圧の減少をもたらす。これは、患者が、手術室内での麻酔中に陽圧換気を受ける、又は集中治療室又は他の人工呼吸器ユニット内で換気されるときにのみ生じる。このアラームを利用できるようにするために、血圧データ並びに吸気圧力及び終末呼気圧力人工呼吸器データの電子的な取込みが必要となる。これらのデータは、麻酔情報システム又は臨床治療情報システムが現場に存在するときに利用可能である。
【0057】
いくつかの実施例では、本発明による教示は、データの同時収集を使用して、緊張性気胸の症状となる以下の3つの事象の発生を検出する。
【0058】
人工呼吸器によるピーク気道圧の40mmHg(設定可能)を超える上昇。
【0059】
呼気人工呼吸器圧力の15mmHg(設定可能)を超える上昇。
【0060】
70mmHg未満の動脈血圧の減少。
【0061】
これらの数値しきい値及び/又は条件は設定可能でよく、及び/又はいくつかの実施例ではなくすことができることを理解すべきである。表示パラメータ、マーク、及びしきい値を様々に設定可能であることに留意すべきである。本発明による教示は、列挙した実施例以外にも使用することができる。
【0062】
前述の実施例それぞれにおいて、本発明による教示の簡略化された監視及び表示機能を用いなければ、介護者又は医療提供者がそのような情報を収集して、そのようなまれな疾患の診断を迅速に高信頼性で提供するのは難しいことがあることを理解すべきである。
【0063】
実施例の前述の説明は、例示及び説明の目的で提供した。本発明を包括する又は限定する意図はない。特定の実施例の個々の要素又は特徴は、一般に、特定の実施例に限定されないが、適用可能な場合には交換可能であり、具体的に図示又は説明していない場合でさえ、選択された実施例で使用することができる。同じものが、多くの形に変形されることもある。そのような変形形態は、本発明からの逸脱とみなすべきではなく、すべてのそのような修正形態が本発明の範囲内に含まれるものと意図される。
【技術分野】
【0001】
本出願は、2010年10月8日出願の米国特許出願第12/900533号、2009年10月8日出願の米国仮特許出願第61/249801号、及び2010年1月18日出願の米国仮特許出願第61/295829号に対する優先権を主張する。上記の各出願の開示全体を参照として本明細書に組み込む。
【0002】
本開示は、リスク警告システムに関するものである。より詳細には、医療履歴、現在の医療管理、及び/又は現在の生理学的モニタからデータを抽出して、それに関係するリアルタイム警告を提供することができるリアルタイム・リスク警告システムに関するものである。
【背景技術】
【0003】
この節では、本開示に関係する背景情報を提供する。それらは必ずしも従来技術とは限らない。また、この節では、本開示の一般的な要約を提供するが、完全な範囲又はその特徴すべての包括的な開示ではない。
【0004】
この新規の独自のタイプの医療警告システムに関する実現可能性は、電子医療記録の拡張によってもたらされている。従来、生理学的データはすべて電子式に表示されており、いくつかの場合には、データの少なくともいくらかを記憶することができる。より最近では、患者の医療履歴データが電子形式で収集されている。そのようなデータ収集システムのいくつかは、フィールドを照会できるようにする構造化された形式(リレーショナル・データベース)でそれらのデータを提供する。さらに、ここ十年にわたり、麻酔術中記録が電子形式で利用可能になっている。電子麻酔情報システム(AIMSとして知られている)を作製するための初期の開発努力は、1980年代に始まった。この技術は成熟していなかったため、比較的最近まで広くは採用されていなかった。
【0005】
現在、世界で少なくとも8種以上のシステムが市販されている。それらのいくつかは、生理学的監視システム及び医療データシステムの比較的大きな供給業者数社、例えばPHILLIPS、GENERAL ELECTRIC、EPIC、及びCERNERによって市販されている。
【0006】
術中及び急性治療ICU環境では、現在、これらのデータをリアルタイムで利用可能である。本発明の教示に関する動機は、これらのすべてのデータを取り込んで、医療履歴、現在の医療管理、及び現在の生理学的モニタからデータを抽出する容易に使用可能なリアルタイムの更新で情報を表示して、警報及び警告を生成し、生理学的な系(正常機能範囲、正常機能範囲の境界、及び異常機能範囲にある生理学的な系)がリスクにさらされていることを医師に気付かせることである。これらのデータが提供されるだけでなく、リアルタイム照会及び計算を使用して、患者治療を補助するタイプのデータを医師が得ることができるようにする。しかし、このデータは、従来は患者治療を行いながら医療文献を参照する、及び/又は遡及的な個々の計算を行うことによってのみ利用することができたのである。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による教示の原理によれば、いくつかの実施例では、表示システムは、複数の一般的なコンセプトを備えることができる。第1に、表示は、重要臓器、すなわち脳、肺、心臓、腎臓、及び身体それぞれに関する容易に識別可能なアイコンを表示できる。第2に、これらの容易に識別可能なアイコンは、リアルタイム生理学的データの入力により、リアルタイムで動くことができる。例えば、心臓は、生理学的モニタによって提供される患者の心拍と共にリアルタイムで拍動し、肺は、監視システム及び麻酔器から提供される生理学的データ(気道圧)と共にリアルタイムで膨張及び収縮(換気)する。第3に、アイコンは、パラメータが様々な範囲にあることを表すためにカラーコード化することができ、例えば、正常範囲を緑色で表し、境界範囲を黄色で表し、異常範囲を赤色で表す。
【0008】
いくつかの実施例では、臓器に関する特定のリスクと関連付けられる各患者の病歴があると仮定して、アイコンは、その臓器系がリスクにさらされている場合にはオレンジ色(又は任意の他の印)でカラーコード化することができる。例えば、患者が、術後の心筋梗塞(心臓発作)に関する重要なリスク因子を有する場合、心臓の周りの縁をオレンジ色にして、この患者がリスクにさらされていることを医師に警告する。
【0009】
最後に、いくつかの実施例では、本発明による教示の表示システムは、患者にリスク又は危害を及ぼすおそれがある重要な生理学的異常が生じ得る状況をもたらす事象の組合せが生じたときに、ポップアップ警告又は他の警告を提供することができる。
【0010】
カラーコード化リスク分析及びポップアップ警告は、「具体的な臓器系」の節で以下に述べる。しかし、本発明による教示の範囲から逸脱することなく、色、マーク、又は他の警告プロトコルに変形を施すことができることを理解すべきである。
【0011】
さらなる利用可能範囲は、本明細書で提供する説明から明らかになろう。この要約での記載及び具体的な実例は、単に例示の目的と意図されており、本開示の範囲を限定する意図はない。
【0012】
本明細書で説明する図面は、選択された実施例を例示するためのものにすぎず、すべての可能な実装形態ではなく、本開示の範囲を制限する意図のものではない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】体温、ヘマトクリット、及びグルコースと共に、脳、気管気管支樹、肺、心臓、主要な血管(大動脈、大静脈)、及び身体に関するアイコンを示すリアルタイム視覚警告ディスプレイの概略図及びスクリーン読取画像を示す図である。各側にある腎臓は中間グレー・カラーで示されており、これは、すべての主要な臓器系が正常範囲内にあることを表す(本発明の図面での緑色に相当する)。
【図2】図1と同様のスクリーン読取画像を示す図である。心臓アイコンの外形のダークグレー・カラー(赤色に相当する)と、起り得る心筋の心収縮に呼応するSTセグメント変化を警告表示システムが検出したことを示す心臓アイコンの右下隅とを示す。
【図3A】正常な心臓充填体積を示す図1と同様のスクリーン読取画像を示す図である。体温が正常範囲未満であることも示し、これは明るいグレー・カラーで表され(黄色に相当する)、深刻な低い範囲内(これは体温バーで赤色によって示される)にはまだなっていない。
【図3B】心臓アイコンでのダークグレー・カラー(赤)によって示される心臓充填体積の少ない場合を示す、図1と同様のスクリーン読取画像を示す図である。
【図3C】心臓アイコンでのダークグレー・カラー(赤)によって示される心臓充填体積の覆い場合を示す、図1と同様のスクリーン読取画像を示す図である。
【図4】可能性は低いがリコールの可能性を伴う軽いレベルの麻酔/鎮静を示唆する脳アイコンの明るいグレー・カラー(黄色)を示す、図1と同様のスクリーン読取画像を示す図である。
【図5】麻酔に関する最小肺胞内濃度(MAC)が記憶喪失を引き起こすことが予想される濃度未満であることを示唆する脳アイコンのダークグレー・カラー(赤)を示す図1と同様のスクリーン読取画像を示す図である。したがって、この低レベルの麻酔では、患者は覚醒する可能性があり得る。
【図6】3つの異常を示す図1と同様のスクリーン読取画像を示す図である。具体的には、心臓アイコンからのダークグレー(赤)に色付けされた「血管」が、血圧が高いことを示し、右肺でのダークグレーカラー(赤)のSpO2が、酸素レベルが低いことを示し、同時にダークグレー・カラー(赤)の脳アイコンが、麻酔濃度が低いことを示す。
【図7】気道圧が高くなっている異常を示す図1と同様のスクリーン読取画像を示す図である。気管気管支樹を明るいグレー・カラー(黄色)で示し、したがって肺を換気する圧力は正常よりも高いが危険範囲ではない。
【図8】いくつかの実施例による本発明による教示のリアルタイム視覚警告表示システムの概略図である。
【図9】いくつかの実施例による本発明による教示のリアルタイム視覚警告表示システムの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図面における複数の図を通じて、対応する参照番号は、対応する部分を示す。
【0015】
以下、添付図面を参照しながら例示的実施例をより完全に説明する。
【0016】
画面の一般的なレイアウト
図1〜図8に示される本発明による教示の原理によれば、リアルタイム視覚警告表示システム10が提供される。リアルタイム視覚警告表示システム10は、複数のセンサ、プローブ、又は他のデータ収集若しくは監視デバイス14に接続された警告表示デバイス12を備えることができる。複数のセンサ14を患者に接続させて、患者からのリアルタイム生理学的データを収集するように動作可能にすることができる。警告表示デバイス12は、複数のセンサ14からデータを収集するための制御システム又は制御装置を備えることができ、この制御システムは、警告表示デバイス12と別個であるか、又は警告表示デバイス12と一体化されており、解釈及び/又は警告表示デバイス12上への表示を行い、これは本明細書で説明する。警告表示デバイス12は1つ又は複数の表示レイアウトを備えることができるが、一般に、いくつかの実施例では、警告ディスプレイ10が、脳、肺、心臓、腎臓、及び皮膚など身体の重要臓器及び/又は主要部位を表す1つ又は複数のアイコン或いは表示マークを備えることに留意すべきである。しかし、さらなるパラメータや臓器などを表示することもできることを理解すべきである。
【0017】
いくつかの実施例では、これらのアイコンは、複数のセンサ14からのリアルタイム生理学的データの入力と共にリアルタイムで動くように動画化することができる。例えば、心臓は、生理学的モニタによって提供される患者の心拍と共にリアルタイムで拍動し、肺は、監視システム及び人工呼吸器から提供される生理学的データ(気道圧)と共にリアルタイムで膨張及び収縮(換気)する。いくつかの実施例では、アイコンは、パラメータが様々な範囲にあることを表すためにカラーコード化することができ、例えば、正常範囲を緑色で表し、境界範囲を黄色で表し、異常範囲を赤色で表す。さらに、いくつかの実施例では、さらなる色表現を使用して、警告範囲又はパラメータを示すことができる。例えば、いくつかの実施例では、オレンジ色などの警告色を使用して、臓器不全/損傷に関するリスク因子又は臓器不全/損傷の病歴がある臓器を強調することができる。例えば、患者が心臓病の病歴又は心臓病に関するリスク因子の履歴を有する場合に、心臓の輪郭がオレンジ色にされる。同様のことが他の臓器系にも当てはまり、すなわち、図9に示されるように、脳は、卒中の病歴又は卒中に関するリスク因子を有し、腎臓は、腎疾患の病歴又は腎疾患に関するリスク因子を有する。
【0018】
画面の一般的なレイアウトが図1に示され、これはディスプレイのスクリーンを読み取ったものであり、すべての系が正常範囲内にある。見ることができるように、画面は、2つ以上の区域16及び18を備えることができる。第1の区域16は、当該患者の病歴を含むことができ、例えば患者の名前20、登録番号22、並びに時間NPO24(すなわち患者が流体を投与されてからの時間)、推定の血液損失26、及び患者の体重28が続く位置を備えることができる。第1の区域16は、さらに、流体査定30(これは、以下の「心臓」の節における「心臓流体」の項で詳細に網羅する)と、警告区域32とを備えることができ、警告区域32は、この場合には、この患者に関するグルコース測定値がないこと、又はグルコースを再検査する必要があることを医療提供者に知らせる。最後に、第1の区域16は、警告リセット・ボタン34を備えることができる。
【0019】
いくつかの実施例では、第2の区域18は、本明細書で論じるような一連のアイコンを備えることができる。いくつかの実施例では、上部に脳アイコン40があり、そこから下に気管気管支樹アイコン42が延び、右肺アイコン44及び左肺アイコン46に接続されるように、アイコンを配置することができる。中央に心臓アイコン48が配置され、これは、左側から大静脈50によって血液供給され、右側にある出力側の大動脈弓52が身体54に向かって下に延びる。身体アイコン又はボックス54は、体温56、ヘモグロビン58、グルコース60、カリウム、及びINR(国際標準比)を示す目盛りを備えることができる。身体54の両側に2つの腎臓アイコン62を含めることができる。
【0020】
警告表示デバイス12のこれらのアイコン及び/又は全体のレイアウトは、素人及び/又は医療専門家が容易に認識できるように設計される。いくつかの実施例では、リアルタイムの生理学的な値を提供して、関連のアイコンを補完することができる。例えば、脳アイコン40は、右側に、麻酔に関する最小肺胞内濃度(「脳」の節で論じる)である参照番号66でのMACレベルを備えることができ、また左側に、麻酔の深さを測定するための参照番号68でのBIS(二波長指数)値を備えることができる。気管気管支樹アイコン42の下には、呼吸数と共にピーク気道圧を提供することができる。肺の輪郭は、終末呼気陽圧(PEEP)を示すことができる。さらに、右側の肺にSpO2(パルス・オキシメータ動脈酸素飽和度)と共に酸素化が示され、左側の肺に終末呼気CO2からの二酸化炭素が示される。心臓アイコン48では、正常動作を示すためにレベルを緑色にすることができる。心臓アイコン48のレベルは、心臓を充填する推定の血管内体積、すなわち流体蘇生ステータスと共に上下することがある。いくつかの実施例では、その流体ステータス・レベルを決定するために使用される情報の入力を参照番号70として表すことができる。これは、「心臓」の節で述べる。右肺44の下に、参照番号72で心収縮期及び心拡張期血圧を提供することができる。それらの値は、心臓アイコン48の右側の大動脈弓52の色に関係付けられる。右の腎臓の下に、参照番号74で尿量測定値を示すことができ、いくつかの実施例では、左の腎臓の下に、患者の血清クレアチニン76(図8)を示すことができる。身体54内の各値は、生理学的モニタからの体温、実験室からのヘモグロビン/ヘマトクリット、又は患者の最新のヘモグロビン値から導出される推定値、及び血液損失と輸血、並びに実験室値から導出されるグルコース、カリウム、及びINRである。
【0021】
さらに、いくつかの実施例では、各アイコンは、緑色、黄色、赤色、オレンジ色など1つ又は複数の警告色で示すことができる。いくつかの実施例では、アイコンを1つ又は複数の警告色で同時に示すことができ、例えば脳アイコンの背景ベース部分をオレンジ色の警告色にすることができることを理解すべきである(図9参照)。さらに、いくつかの実施例では、グラフィック又は目盛り、例えば目盛り56、58、60、68が、目盛りを取り囲むハイライト表示された領域を含むことができ、そのような目盛りに素人及び/又は医療提供者の注意が適切に向けられるようにする(図9参照)。しかし、これらのハイライト表示された警告の色、形状、及び/又はパターンに関して、本発明の教示から逸脱することなく変形形態が存在し得ることを理解すべきである。
【0022】
具体的な臓器系及び警告
脳
いくつかの実施例では、脳アイコン40は、麻酔/意識のレベルを査定するためにカラーコード化することができる。患者が麻酔薬を投与されているとき、麻酔薬のレベルは、吸入麻酔(蒸気麻酔;イソフルラン、セボフルラン、デスフルラン、亜酸化窒素)と静脈麻酔(プロポフォール、デキサメデトミジン、ミダゾラム)の呼気中濃度を測定することによって常に計算される。これらの麻酔濃度は、麻酔器の赤外線分析器から得られ、静脈麻酔データは、麻酔情報システムから提供される。さらに、これらの麻酔において、麻酔に関する最小肺胞内濃度(MAC)という専門用語が用いられる。患者の麻酔レベル又は深さの推定は、そのMACレベルに関連付けられる。脳アイコン40は、MACレベルが覚醒に達したとき(赤色)、覚醒と睡眠の境界に達したとき(黄色)、及び脳が麻酔下になったとき、すなわち>0.6MAC又はMAC等価値(MAC equivalent)に達したとき(緑色)に色が変わる(図2、図4、及び図5参照)。
【0023】
参照番号68で前に述べたように、いくつかの実施例では、二波長指数(BIS)と標示された欄(又は他の同様の脳機能モニタ、例えばエントロピー・モニタ)を脳アイコン40に隣接して配置することができる。これは追加の生理学的モニタであり、このモニタは、患者の前頭部に貼着され、麻酔レベルを推定するために加工EEGリードから情報を提供する。デバイスの製造業者及び文献において、60〜40の間のBISレベルが全身麻酔であり、60を超える値は軽い麻酔であることがあり、80〜100の間では、患者が覚醒している、又は軽い鎮静状態である可能性が高いことが示されている。BISレベルが40未満であるとき、麻酔レベルが「深すぎる」とみなされ、脳アイコンは青色に変わって、レベルが深すぎることを表す。BISデバイスは、脳アイコンに入力データを提供するこのタイプのEEGベースの脳活性モニタの一例にすぎない。
【0024】
同様に、いくつかの実施例では、参照番号66で表されるリアルタイムで計算されたMAC値を提供することができる。鎮静レベルを定量化するための方法も提供するこのMAC値は、麻酔のレベルを査定するためにBIS欄と結合させることができる。これらのレベルは一致することが多いが、麻酔レベルを調節するのにどの方法又は方法の組合せを使用するかは、臨床医に委ねられることが多い。麻酔中、MACレベルが、患者が覚醒している可能性がある範囲まで下がった場合、脳アイコン40の色が変わり、ポップアップ警告が「覚醒警告」を示す。
【0025】
また、術中期間に患者が卒中を起こすリスク因子もある。これらのリスク因子は、外科手術を受ける患者の大規模な研究から導出される。患者がこの種のリスク因子を有する場合、本明細書で述べるように、脳アイコンの上部の小さい部分がオレンジ色になり、この患者が術中に卒中を起こす危険があることを示すか、又は患者が過去に卒中を起こしたことがあるかどうかを示す。
【0026】
気道
麻酔下の患者が機械による換気を必要とするとき、声帯を通して気管内に気管内管が配置される。次いで、この管が、機械的な人工呼吸器に接続される。これは、ほとんどの一般的な麻酔に際して必要とされ、また患者がICU内で人工呼吸器のサポートを必要とするときには常に必要とされる。この管を気管内に配置することは、気管内挿管と呼ばれる。一般に、これは、患者がプロポフォールなどの鎮静催眠薬を投与され、最も多くの場合にはさらに神経筋遮断剤を投与されているときに行われる。神経筋肉ブロック剤は、筋肉を麻痺させ、麻酔技師若しくは麻酔医療提供者又は集中治療専門医が、喉頭鏡と呼ばれるデバイスで患者に挿管することができるようにする。患者の解剖学的構造により、このプロセスが難しいことが時としてある。難しい挿管、又はいわゆる気道確保困難の様々な予測因子があり、例えばおとがいの陥凹、顎の不動症、太い首、曲げ伸ばしできない首、口が開いているときの後部気道の見えにくさ(「扁桃肥大(mallanpati grade)」)などである。これらのリスク因子を知ることにより、麻酔医療提供者は、気管内管を配置する別の方法を考え、場合によっては光ファイバ挿管と呼ばれる意識下で行う技法を実施する。ある患者に挿管を行い、それが難しいことが分かったとき、後の麻酔医療提供者がこの問題を知っていることが非常に重要である。患者への挿管が難しいことが分かっていないと、麻酔医療提供者が次にその患者への挿管を計画するときに、命にかかわる事態が生じることさえあり得る。この理由から、気道確保困難の可能性にかかわるリスク因子が存在する場合には、気道内に配置される気管内管のアイコンはオレンジ色になり、患者が既知の気道確保困難の病歴を有する場合には赤色になる。
【0027】
気管気管支樹及び肺
脳の下で、気管が2つに分かれる。すなわち、左右の肺に入る左右の主要な幹気管支に分かれる。左右の主要な幹気管支は、機械的な換気中の気道圧が正常範囲内であるときには緑色であり、それらがわずかに上昇したときには黄色に変わり、異常に上昇したときには赤色に変わる(図7参照)。これらの範囲はすべて設定可能である。この情報は、人工呼吸器から連続的に提供される。気管支痙攣を引き起こすことがある反応性気道疾患(喘息又は慢性閉塞性肺疾患)の病歴を患者が有する場合、気管支の輪郭はオレンジ色になる(気管支痙攣の可能性を表す)。
【0028】
左右の肺が心臓の各側に示される。肺は、換気と共に膨張及び収縮する輪郭を有し、すなわち、圧力が上昇して肺を換気する吸気中には膨張し、圧力が減少するときには収縮する。これらのデータは、人工呼吸器データから連続的に提供され、患者の呼吸と共にリアルタイムで動く。各肺の輪郭は、PEEPのレベルと共に色を変える。PEEPの急激な増加は、人工呼吸器故障又は緊張性気胸を表すことがある。右肺には、パルス・オキシメータからの動脈ヘモグロビン飽和度を示す欄があり、これは動脈血液の酸素化である。左肺には、二酸化炭素を示す欄があり、これは、カプノメータから連続的に記録される(終末呼気CO2器。これは麻酔器の一部であるか、又は個別のモニタである)。これらの値が正常範囲内にあるとき、それらは共に緑色であり、境界範囲にあるときには黄色であり、異常範囲内にあるときには赤色である。これらのデータは、ディスプレイ上に連続的に更新される。パルス・オキシメータ欄の下には、右側に、数値での飽和値が提供され、左側に、呼気二酸化炭素の数値が提供される。肺が喚起されるとき、呼吸数及びピーク気道圧に関するデジタル値が、右上に提供される。気道圧が急激に上昇して臨界値を超えた場合、「気道障害の可能性、気管支痙攣」を示す警告がポップアップして、調査を要する高い気道圧があることを医療提供者に警告する。
【0029】
血圧の減少にも関連付けられる高い吸気ピーク圧力と高い呼気気道圧の組合せがある場合、患者が「緊張性気胸の可能性」又は「重度の気管支痙攣の可能性」を有することがあることを示すポップアップ警告が提供される。これは、命にかかわる状況であることがあり、血圧の減少に関連して吸気と呼気の人工呼吸器圧力がどちらも急激に上昇したときに生じる。これは、即座に調査を要する状況である。
【0030】
心臓
心臓アイコン48は、心拍数を示すことを含めたいくつかの機能を有する。心臓アイコン48は、患者の心拍と共に拍動(収縮)し、したがって心拍数のリアルタイム査定が存在する。
【0031】
心臓流体
心臓の充填体積、又は推定される患者の流体蘇生の妥当性を表す心臓アイコン48のレベルが存在する。心臓アイコン48の中央での充填レベルは、正常レベル(緑色)、低レベル(赤色)、及び高レベル(赤色)である(図3A、図3B、及び図3C参照)。すなわち、心臓が十分な流体を有さない(水分欠乏)範囲、及び心臓が過剰充填である(心不全)範囲が存在する。このレベルを計算するための情報は、利用可能なデータに応じて、いくつかの側面から提供される。心臓の侵襲性監視が行われていない患者に関しては、流体蘇生の推定は、文献から提供される標準的な流体置換規則を使用する(一般に知られているのは、絶対流体損失に関する4:2:1ルールである)。また、患者が流体を投与されていない時間(NPO時間)と、体重に基づく標準的な患者の絶対流体損失との積も使用する。これに加え、患者が投与された流体の量及び流体のタイプを提供する麻酔情報システムからのデータが検索される。すなわち、患者が、通常の食塩水や乳酸加リンゲル液などの晶質液、又はアルブミンなどのコロイド溶液、又は血液若しくは血液製剤を投与されているかどうかのデータが検索される。また、計算は、麻酔情報システムに入力された推定の血液損失も考慮に入れる。したがって、流体蘇生のレベルを決定するために、システムは、流体入力と出力の収支を自動的に計算して、処置中の流体蘇生の妥当性を推定する。
【0032】
流体の必要量を計算するこの臨床プロセスは、外科的外傷の度合い(時として第3空間損失とも呼ばれる)にもよるので、本発明による教示は、第1の区域16に、これら第3空間損失を選択するためのいくつかのオプションを提供する。麻酔医療提供者は、外科手術のタイプに応じて第3空間損失に関する3つの選択肢から選択することができる(外科的外傷がほとんどない簡単な処置は軽度、中度の処置は中度、大きな切開又はより多くの組織操作を伴う処置は重度)。これらはそれぞれ、異なる計算を自動的に計算して、外科手術中の流体の必要量を決定する(3つのタイプの外科的外傷に関するこれらの具体的な損失は設定可能である)。
【0033】
これらの入力はすべて推定量である。それらは、臨床医が患者に必要な流体を評価するために一般に受け入れられている方法である。臨床医は、それらの計算を考慮に入れなければならず、同時に、投与された流体に対する患者の血圧の応答、尿量、及び流体体積に対する患者の応答の履歴を考慮しなければならない。例えば、鬱血性心不全の病歴を有する患者は、必要な流体が他の人よりも少ないことがある。これは、麻酔医療提供者による臨床での決定事項である。正常化ボタン90により、医療提供者は、体積アイコンを「再正常化」できる。すなわち、医療提供者は、任意の時点で、患者の血管内体積が望ましい値であると思ったときに「体積正常化」アイコンを押すことができ、これにより、心臓の中央で、アイコンの流体レベルを緑色レベルまで動かし、次いでその時点から新たな計算を再始動する。この正常化ボタンが使用されている場合、その横に星印が配置されて、その患者の体積を再正常化したことを他の医療提供者に警告する、又は医療提供者の記憶に留める。
【0034】
より大がかりな処置を受けている、又は術中のリスクがより高い患者には、侵襲性監視カテーテルが配備されて、動脈血圧、中心静脈圧、又は肺動脈血圧を連続的に測定する。動脈血圧カテーテルが配備され、収縮期圧変動(SPV)として知られている変数(又は同様のパラメータ・パルス圧力指標PPI)を医療提供者が測定することができる場合、SPV値を使用して心臓充填レベルを決定し、収縮期圧変動に関する「SPV」を心臓アイコンの下に示し、最新のSPV値、及び最後に測定された時間(又はSPVと同様のパルス圧力変化)を表す。患者が中央静脈カテーテルを挿入され、中心静脈圧値が生理学的モニタから収集される場合、例えば中心静脈圧に関する「CVP」を心臓アイコンの下に示し、それらの値を使用して心臓の高い充填、低い充填、又は正常の充填を決定し、CVPリアルタイム値が提示される。最後に、患者が肺動脈カテーテルを挿入された場合、肺動脈心拡張期圧力からのデータが心臓の下に提示され、それらの値を使用して流体体積の妥当性が決定される。
【0035】
心臓虚血
手術室に入る患者の多くは年配であり、虚血心臓疾患の病歴又は虚血心臓疾患に関するリスク因子を有する。心臓リスク査定は、患者に処置を行うことができるかどうか、またどのタイプの監視を処置中及び処置後に行うべきかを決定するために術前に行われるおそらく最も重要な評価である。
【0036】
術中又は術後の心筋梗塞(心臓発作)を引き起こす具体的な術前リスク因子を特定するために大きなデータセットを考察した重要な文献があり、より最近では、それらのリスク因子を高める血圧や心拍数などの術中データが特定されている。患者が術中の心筋梗塞に関する術前リスク因子を有する場合、心臓の輪郭がオレンジ色になる。処置中に、リスクを増す術後の心筋梗塞と関連付けられる心拍数及び血圧の変化があった場合、アイコンの一部が赤色に変わり、「虚血の可能性」のポップアップ警告が表示される(図2)。さらに、外科手術中、又はICUにおいて、患者は、EKGを用いて連続的に監視される。EKGの生理学的モニタは、心臓の虚血に関連付けられるEKGの変化(STセグメント変化)を連続的に測定することができる。これらの虚血STセグメント変化が処置中に示された場合、アイコンはやはり赤色に変わり、「虚血の可能性」のポップアップが表示される(図2)。
【0037】
術後の心筋梗塞に関連付けられる術中の血行力学的変化、血圧、及び心拍数は、リアルタイムで行うのは不可能ではないにせよ実用的でない。というのも、それらは、中間値血圧がそれらの基準(ベースライン)血圧(術前範囲)から40%を超えて減少したときに計算されるからである。このタイプの計算は、医師がリアルタイムで行うことはできない。したがって、患者をリスクにさらす状況を警告するために、このコンピュータが、移動平均でリアルタイムでそのような複雑な計算を行えるようにする。
【0038】
血圧
心臓の右側で、大動脈弓が身体に対して上下する。この大動脈弓は、大動脈及びリアルタイムの血圧を表す。心収縮期血圧である血圧SBPの右に、現在の数値を示す。さらに心拡張期血圧を示す。大動脈は、血圧が異常なレベルに下降又は上昇するときに、緑色から黄色、さらに赤色に色が変わる(図6)。これらのレベルは、SBPの値、平均動脈圧力(MAP)、又は患者の術前の正常血圧値に対するパーセンテージに関して設定可能である。例えば、警告は、各患者のSBPがその患者の術前のSBPの60%未満に低下したときに表示される(大動脈の色の変化)。血圧を5分毎に測定して記録することが、麻酔中の治療の標準である。AIMSで5分間にわたって血圧が測定/記録されない場合、血圧数、及び最新の血圧から何分経ったかが赤く点灯表示され、測定が必要であることを麻酔医療提供者に警告する。
【0039】
低血圧の予測
本発明による教示の制御システムは、将来の低血圧を予測するアルゴリズムを含む。本発明によるデバイスは、ある時間にわたって血圧を測定し、すぐ将来(次の3〜5分)の低血圧の可能性を予測するために、吸気麻酔レベルと共に血圧を使用する。異常な血圧の可能性が予測されるとき、ポップアップ警告が医療提供者に表示される。より具体的には、システムはSBPの変化を監視する。次の時間間隔(例えば4〜5分)での予測SBPが50mmHg(設定可能)未満であると(線形予測を使用して)予測されるとき、システムは、吸気麻酔剤濃度が減少しているかどうか調べる(麻酔剤濃度のこの減少は、麻酔医療提供者がSBPの減少に留意しており、麻酔投与量を減少させる適切な処置を行っていることを示す)。吸気麻酔剤濃度が減少していない場合(適切な処置が行われていないことを意味する)、システムは、高血圧の可能性を警告する。
【0040】
身体
心臓の下の長方形が、提示される複数の変数を含む。左側に体温があり、これは生理学的モニタからのものであり、中央にはヘマトクリット/ヘモグロビンがあり、これは実験室からのもの(又は以下に述べる推定量)であり、右側にはグルコース値があり、これは実験室からのものである。グルコースの下に、数値及びこの尺度が最後に測定されてからの時間を示す。同様のことがヘマトクリットに関しても行われ、最後の測定からの時間、すなわち分単位、時間単位、及び日単位での時間が提示される(図7)。推定されるヘマトクリットに関する別の欄が提示され、これは、患者の初期ヘモグロビン測定値、麻酔情報システムから検索される血液損失、及びやはり麻酔情報システムから検索される患者に投与された流体を基に、血液中のヘモグロビンの現在のレベルを推定する。文献で報告されている血液希釈に関する技術を使用して、ヘマトクリットの推定レベルが与えられて、輸血が必要であるかどうか判断するためにヘマトクリットを測定することを医療提供者が望む時点で医療提供者に警告する。これは推定量であり、現在のヘマトクリットの測定が実験室からシステムに提供されるときには常に更新される。
【0041】
2つの追加の重要な実験室値が報告される。すなわち、カリウム(K+)と国際標準比(INR)である。INRは、凝血/出血ステータスの試験である。これは、特にワルファリン(Warfarin)又は他の薬物を投与されて出血を起こした患者に関して出血/凝固能力を試験するために使用される。患者が血液希釈剤を投与されている場合、手術前にINRを知ることが非常に重要である。システムは、ワルファリン又は他の血液希釈剤に関する患者の薬剤リストを参照する。存在する場合には、INR欄がオレンジ色に縁取られる。INR値が利用可能である場合、正常/異常範囲を含めてINR欄に示される。
【0042】
腎臓
身体の両側に、腎臓を表すアイコンがある。右腎臓の下に、利用可能であれば、mls、mls/分、及びmls/kg(体重)/分の単位で提供される尿量がある(図1)。尿素の流れのこれらの様々な測定値を医療提供者が使用できる。腎臓の下の左側に、クレアチニンの実験室値があり、これは腎機能の尺度である。グルコース及びヘモグロビンと共に、クレアチニンのこれらの値は、病院の実験室システムから自動的に検索される。患者が術後に腎不全を起こす危険性があることを患者の病歴が示唆する場合には、腎臓アイコンの外縁部がオレンジ色になる。
【0043】
基本的なタイプの規則
いくつかの実施例では、本発明による教示又は特に本発明によるソフトウェアは様々な規則を含むことができ、それらの規則は、患者の電子医療記録の様々な部分からの入力データ、すなわち病歴、並びに身体的データ、自家薬物データ、実際の生理学的データ、及び麻酔情報システムデータを必要とする。
【0044】
従来の基本的な規則
基本システムは、麻酔学における現在の訓練の一部である臨床管理規則に基づく情報を提供することができる。そのような規則の一例は、心臓の充填レベルを決定する規則である。赤色で低いレベル、緑色で正常レベル、赤色で高いレベルを示す心臓のこの流体レベルは、患者の流体入力及び出力の計算に基づく。入力は、血液を含めた様々なタイプの静脈流体である。出力は、代謝及び蒸気の換気、並びに血液損失、尿量、及び外科的外傷による必然的な流体損失である。これらの規則は、麻酔学の教科書からの公開文献に基づいている。麻酔学における一般的な訓練に基づく「正常範囲外」に関する警告としてのこのタイプの基本的な規則は、望みであれば医師が設定することができる。
【0045】
詳細な病歴及び身体的情報を必要とする最近の文献に基づく規則
この第2のより複雑な規則は、例えば術後の心筋梗塞(心臓発作)を含めた、外科手術に関する何らかの有害事象にかかわるリスク因子についての公開文献に基づく。患者は、手術室に入る時点で、糖尿病の病歴、過去の心臓発作の病歴、脳血管疾患、又は腎疾患など一連の同時罹患(他の医学的疾患)があり、これらは、術中期間に患者が心筋梗塞を起こす危険をより高める。患者がこれらのリスク因子のいくつかを有する場合、より高いリスクのグループに含まれ、公開文献に基づいて、表示システムでのこの規則が、臓器が危険な状態にあることを医師に警告する。データ源を提供する電子医療記録の拡張により、アウトカム研究から、より詳細なリスク分析が開発されているので、これらのタイプの文献はより一層普及している。これらのリスクのいくつかは文献に公開されているが、リアルタイムで計算することは実現可能でない。それらのリスク分析は、患者の病歴を含むだけでなく、現在の生理学的データ、例えば心拍数や血圧も含む。したがって、例えば、患者の正常な血圧値よりも10分を超えて40%よりも大きく血圧が減少したとき、患者はより高いリスクにさらされており、システムは、患者がより高いリスクにさらされていることを医師に警告する。患者のリスクのこのタイプのリアルタイム計算は、患者に対する治療中に臨床環境で行うことは不可能であった。上述したように、電子医療記録の出現により、これらのタイプのリスク分析はより頻繁に開発されて、文献で公開されるようになっている。
【0046】
複雑なリスク分析
患者が危険な状態であること識別するために大量のデータを有する大きなデータベース(>200000人の患者)を使用する最も複雑なリスク分析を開発することができる。これは、複雑な制御システム分析によって行われる。これらのタイプの分析は、製造業において、製造物の品質制御に関して行われていた。悪い結果の可能性を予測し、したがって医師に予め警告して、起こり得る有害事象をより早期に診断及び治療できるようにすることができる複雑なアルゴリズムを導出するために、このタイプの複雑な統計工学的分析が術中及び臨床治療データに適用される。
【0047】
代替用途
いくつかの実施例では、本発明による教示は、麻酔中の疾患である悪性高熱症及び神経遮断薬悪性症候群の検出に使用することができる。
【0048】
具体的には、背景として、悪性高熱症は、まれではあるが、命にかかわる疾患であり、これは、患者が筋弛緩剤サクシニルコリン、及び/又は強力なハロゲン化蒸気麻酔、例えばイソフルラン、セボフルラン、デスフルランを受けたときに、全身麻酔下で生じる。これは、筋肉のリアノジン受容体の異常にかかわる混合浸透度を有する常染色体優性の遺伝疾患である。これは、カルシウムの無制御の解放を引き起こし、重大な代謝危機をもたらす。神経遮断薬悪性症候群は、同じ臨床徴候、症状、及び治療を有する。これも麻酔下で生じる。
【0049】
本発明による教示は、麻酔器及び麻酔情報システム及びモニタからのデータの同時収集を使用し、悪性高熱症の発生を識別して、早期の検出及び治療を可能にする。ダントロレンという薬剤を用いて早期に治療した場合、この疾患は非常に良く回復する。本発明による教示は、いくつかの実施例では、麻酔器からの電子データを必要とし、より具体的には、終末呼気二酸化炭素測定値、吸気二酸化炭素測定値、分時換気量(換気体積×呼吸数)、及び患者の体重(あってもなくてもよい)を必要とする。
【0050】
いくつかの実施例では、以下の計算された事象が生じる場合に、悪性高熱症の警告が作動される。
【0051】
終末呼気二酸化炭素が、1.5mmHg/分(これは設定可能である)よりも高い割合で増加し、その一方で同時に、分時換気量(一回呼気体積×呼吸数)が、正常レベル(80cc/kg/分(設定可能))の80%以上のままであり、呼気二酸化炭素レベルが、2mmHg*未満のままであり増加していない。
【0052】
これら3つの事象すべてが、10分を超えて、又は他の所定の期間にわたって同時に生じているとき、悪性高熱症又は神経遮断薬悪性症候群が診断される。
【0053】
これらの数値しきい値及び/又は条件は設定可能でよく、及び/又はいくつかの実施例ではなくすことができることを理解すべきである。
【0054】
いくつかの実施例では、吸気CO2の上昇がなく、正常な分時換気量であるときに、終末呼気CO2が徐々に上昇している場合、悪性高熱症の症状を診断することができる。これら3つの事象すべてが麻酔中に生じた場合、これは悪性高熱症の症状である。
【0055】
いくつかの実施例では、本発明による教示は、緊張性気胸の検出に使用することができる。
【0056】
具体的には、背景として、緊張性気胸は急性の血行力学的緊急症状であり、空気が胸腔内に捕獲されて高い圧力を発生し、これは、血液が胸部及び右心臓に戻らないようにし、命にかかわる心臓血流及び血圧の減少をもたらす。これは、患者が、手術室内での麻酔中に陽圧換気を受ける、又は集中治療室又は他の人工呼吸器ユニット内で換気されるときにのみ生じる。このアラームを利用できるようにするために、血圧データ並びに吸気圧力及び終末呼気圧力人工呼吸器データの電子的な取込みが必要となる。これらのデータは、麻酔情報システム又は臨床治療情報システムが現場に存在するときに利用可能である。
【0057】
いくつかの実施例では、本発明による教示は、データの同時収集を使用して、緊張性気胸の症状となる以下の3つの事象の発生を検出する。
【0058】
人工呼吸器によるピーク気道圧の40mmHg(設定可能)を超える上昇。
【0059】
呼気人工呼吸器圧力の15mmHg(設定可能)を超える上昇。
【0060】
70mmHg未満の動脈血圧の減少。
【0061】
これらの数値しきい値及び/又は条件は設定可能でよく、及び/又はいくつかの実施例ではなくすことができることを理解すべきである。表示パラメータ、マーク、及びしきい値を様々に設定可能であることに留意すべきである。本発明による教示は、列挙した実施例以外にも使用することができる。
【0062】
前述の実施例それぞれにおいて、本発明による教示の簡略化された監視及び表示機能を用いなければ、介護者又は医療提供者がそのような情報を収集して、そのようなまれな疾患の診断を迅速に高信頼性で提供するのは難しいことがあることを理解すべきである。
【0063】
実施例の前述の説明は、例示及び説明の目的で提供した。本発明を包括する又は限定する意図はない。特定の実施例の個々の要素又は特徴は、一般に、特定の実施例に限定されないが、適用可能な場合には交換可能であり、具体的に図示又は説明していない場合でさえ、選択された実施例で使用することができる。同じものが、多くの形に変形されることもある。そのような変形形態は、本発明からの逸脱とみなすべきではなく、すべてのそのような修正形態が本発明の範囲内に含まれるものと意図される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の治療のための警告システムであって、
患者に接続された監視デバイスであって、前記患者の測定されたパラメータに応じて監視信号を出力する監視デバイスと、
前記監視信号を受信し、前記測定されたパラメータに基づいて前記患者の二次的な測定不能パラメータを連続的に計算する制御装置であって、表示信号を出力する制御装置と、
前記制御装置に接続され、前記表示信号を受信する表示デバイスであって、複数の表示マークを有する表示デバイスとを備え、
前記複数の表示マークの少なくとも1つが、実質的に、容易に識別可能な臓器の形状になっている警告システム。
【請求項2】
前記複数の表示マークがそれぞれ動画化されて、患者の臓器のリアルタイムの生理学的な動きを示すようになっている請求項1に記載の警告システム。
【請求項3】
前記複数の表示マークの少なくとも1つが、心臓、脳、肺、身体、及び腎臓の少なくとも1つを含む請求項1に記載の警告システム。
【請求項4】
患者の前記二次的な測定不能パラメータが心臓充填レベルである請求項1に記載の警告システム。
【請求項5】
患者の前記二次的な測定不能パラメータが患者の心臓の入力及び出力である請求項1に記載の警告システム。
【請求項6】
前記制御装置が、所定のリスク因子に応じて前記表示信号を決定し、前記所定のリスク因子が、患者の病歴、既知の文献に記載の効果、及びユーザ設定の少なくとも1つに基づいている請求項1に記載の警告システム。
【請求項7】
前記制御装置が、前記測定されたパラメータ及び前記二次的な測定不能パラメータの少なくとも1つに関する患者由来の基準値を決定し、前記制御装置が、その後の測定されたパラメータが前記患者由来の基準値に基づく所定の範囲を超えるとき、前記表示信号を介して警告を出力するようになっている請求項1に記載の警告システム。
【請求項8】
前記制御装置が、前記測定されたパラメータ及び前記二次的な測定不能パラメータの少なくとも1つに基づいて患者の麻酔のレベルを決定するようになっている請求項1に記載の警告システム。
【請求項9】
前記制御装置が、リスク因子の蓄積及び前記測定されたパラメータに基づいて、術後合併症の可能性を決定するようになっている請求項1に記載の警告システム。
【請求項10】
患者の治療のための警告システムであって、
患者に接続された監視デバイスであって、前記患者のリアルタイム生理学的データに応じて監視信号を出力する監視デバイスと、
前記監視信号を受信し、前記リアルタイム生理学的データに基づいて前記患者の測定不能パラメータを連続的に計算する制御装置であって、表示信号を出力する制御装置と、
前記制御装置に接続され、前記表示信号を受信する表示デバイスであって、複数の表示マークを有する表示デバイスとを備え、
前記複数の表示マークの少なくとも1つが、実質的に、容易に識別可能な臓器の形状になっている警告システム。
【請求項11】
前記複数の表示マークがそれぞれ動画化されて、患者の臓器のリアルタイムの生理学的な動きを示すようになっている請求項10に記載の警告システム。
【請求項12】
前記複数の表示マークの少なくとも1つが、心臓、脳、肺、身体、及び腎臓の少なくとも1つを含む請求項10に記載の警告システム。
【請求項13】
患者の前記測定不能パラメータが心臓充填レベルである請求項10に記載の警告システム。
【請求項14】
患者の前記測定不能パラメータが患者の心臓の入力及び出力である請求項10に記載の警告システム。
【請求項15】
前記制御装置が、所定のリスク因子に応じて前記表示信号を決定し、前記所定のリスク因子が、患者の病歴、既知の文献に記載の効果、及びユーザ設定の少なくとも1つに基づいている請求項10に記載の警告システム。
【請求項16】
前記制御装置が、前記リアルタイム生理学データ及び前記二次的な測定不能パラメータの少なくとも1つに関する患者由来の基準値を決定し、前記制御装置が、その後のリアルタイム生理学データが前記患者由来の基準値に基づく所定の範囲を超えるとき、前記表示信号を介して警告を出力するようになっている請求項10に記載の警告システム。
【請求項17】
前記制御装置が、前記リアルタイム生理学データ及び前記測定不能パラメータの少なくとも1つに基づいて患者の麻酔のレベルを決定するようになっている請求項10に記載の警告システム。
【請求項18】
前記制御装置が、リスク因子の蓄積及び前記リアルタイム生理学データに基づいて、術後合併症の可能性を決定するようになっている請求項10に記載の警告システム。
【請求項1】
患者の治療のための警告システムであって、
患者に接続された監視デバイスであって、前記患者の測定されたパラメータに応じて監視信号を出力する監視デバイスと、
前記監視信号を受信し、前記測定されたパラメータに基づいて前記患者の二次的な測定不能パラメータを連続的に計算する制御装置であって、表示信号を出力する制御装置と、
前記制御装置に接続され、前記表示信号を受信する表示デバイスであって、複数の表示マークを有する表示デバイスとを備え、
前記複数の表示マークの少なくとも1つが、実質的に、容易に識別可能な臓器の形状になっている警告システム。
【請求項2】
前記複数の表示マークがそれぞれ動画化されて、患者の臓器のリアルタイムの生理学的な動きを示すようになっている請求項1に記載の警告システム。
【請求項3】
前記複数の表示マークの少なくとも1つが、心臓、脳、肺、身体、及び腎臓の少なくとも1つを含む請求項1に記載の警告システム。
【請求項4】
患者の前記二次的な測定不能パラメータが心臓充填レベルである請求項1に記載の警告システム。
【請求項5】
患者の前記二次的な測定不能パラメータが患者の心臓の入力及び出力である請求項1に記載の警告システム。
【請求項6】
前記制御装置が、所定のリスク因子に応じて前記表示信号を決定し、前記所定のリスク因子が、患者の病歴、既知の文献に記載の効果、及びユーザ設定の少なくとも1つに基づいている請求項1に記載の警告システム。
【請求項7】
前記制御装置が、前記測定されたパラメータ及び前記二次的な測定不能パラメータの少なくとも1つに関する患者由来の基準値を決定し、前記制御装置が、その後の測定されたパラメータが前記患者由来の基準値に基づく所定の範囲を超えるとき、前記表示信号を介して警告を出力するようになっている請求項1に記載の警告システム。
【請求項8】
前記制御装置が、前記測定されたパラメータ及び前記二次的な測定不能パラメータの少なくとも1つに基づいて患者の麻酔のレベルを決定するようになっている請求項1に記載の警告システム。
【請求項9】
前記制御装置が、リスク因子の蓄積及び前記測定されたパラメータに基づいて、術後合併症の可能性を決定するようになっている請求項1に記載の警告システム。
【請求項10】
患者の治療のための警告システムであって、
患者に接続された監視デバイスであって、前記患者のリアルタイム生理学的データに応じて監視信号を出力する監視デバイスと、
前記監視信号を受信し、前記リアルタイム生理学的データに基づいて前記患者の測定不能パラメータを連続的に計算する制御装置であって、表示信号を出力する制御装置と、
前記制御装置に接続され、前記表示信号を受信する表示デバイスであって、複数の表示マークを有する表示デバイスとを備え、
前記複数の表示マークの少なくとも1つが、実質的に、容易に識別可能な臓器の形状になっている警告システム。
【請求項11】
前記複数の表示マークがそれぞれ動画化されて、患者の臓器のリアルタイムの生理学的な動きを示すようになっている請求項10に記載の警告システム。
【請求項12】
前記複数の表示マークの少なくとも1つが、心臓、脳、肺、身体、及び腎臓の少なくとも1つを含む請求項10に記載の警告システム。
【請求項13】
患者の前記測定不能パラメータが心臓充填レベルである請求項10に記載の警告システム。
【請求項14】
患者の前記測定不能パラメータが患者の心臓の入力及び出力である請求項10に記載の警告システム。
【請求項15】
前記制御装置が、所定のリスク因子に応じて前記表示信号を決定し、前記所定のリスク因子が、患者の病歴、既知の文献に記載の効果、及びユーザ設定の少なくとも1つに基づいている請求項10に記載の警告システム。
【請求項16】
前記制御装置が、前記リアルタイム生理学データ及び前記二次的な測定不能パラメータの少なくとも1つに関する患者由来の基準値を決定し、前記制御装置が、その後のリアルタイム生理学データが前記患者由来の基準値に基づく所定の範囲を超えるとき、前記表示信号を介して警告を出力するようになっている請求項10に記載の警告システム。
【請求項17】
前記制御装置が、前記リアルタイム生理学データ及び前記測定不能パラメータの少なくとも1つに基づいて患者の麻酔のレベルを決定するようになっている請求項10に記載の警告システム。
【請求項18】
前記制御装置が、リスク因子の蓄積及び前記リアルタイム生理学データに基づいて、術後合併症の可能性を決定するようになっている請求項10に記載の警告システム。
【図1】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【公表番号】特表2013−507193(P2013−507193A)
【公表日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−533331(P2012−533331)
【出願日】平成22年10月8日(2010.10.8)
【国際出願番号】PCT/US2010/051895
【国際公開番号】WO2011/044408
【国際公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【出願人】(511314599)ザ リージェンツ オブ ユニバーシティー オブ ミシガン (3)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月8日(2010.10.8)
【国際出願番号】PCT/US2010/051895
【国際公開番号】WO2011/044408
【国際公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【出願人】(511314599)ザ リージェンツ オブ ユニバーシティー オブ ミシガン (3)
【Fターム(参考)】
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