説明

リグノセルロース系バイオマスの処理方法

【課題】リグノセルロース系バイオマスから有用なグルコース及び/又はバイオエタノールを効率よく製造するための、環境負荷が小さい、リグノセルロース系バイオマスの処理方法を提供する。
【解決手段】リグノセルロース系バイオマスを粉砕し、粉体を得る工程と、過酸化水素の水溶液中で前記粉体に電子線を照射する工程とを含む、リグノセルロース系バイオマスの処理方法。本発明のリグノセルロース系バイオマスの処理方法によって処理されたリグノセルロース系バイオマスからグルコースを分離する、グルコースの製造方法。本発明のリグノセルロース系バイオマスの処理方法によって処理されたリグノセルロース系バイオマスからグルコースを分離する工程と、グルコースを発酵し、エタノールを得る工程とを含む、バイオエタノールの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リグノセルロース系バイオマスの処理方法に関する。本発明はまた、リグノセルロース系バイオマスの処理方法によって処理したリグノセルロース系バイオマスから、グルコース又はバイオエタノールを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、二酸化炭素の増加による環境問題や化石燃料枯渇問題の対策に、バイオエタノールが注目されつつある。現在バイオエタノールの製造には主に、トウモロコシや麦などのデンプン質系原料、又は、サトウキビや甜菜などの糖質系原料が使用されている。ごく最近、リグノセルロース系バイオマスを原料とする製造法も研究されている。
【0003】
リグノセルロース系バイオマスはセルロース、ヘミセルロース、及びリグニンを含むその他の成分からなる。リグノセルロース系バイオマスからバイオエタノールを製造するために、リグノセルロース系バイオマス中のセルロース及びヘミセルロースを加水分解又は酵素処理することによって単糖(グルコース又はペントース)を得る糖化工程、さらに単糖を発酵させることによってバイオエタノールを得る発酵工程を行う必要がある。
【0004】
しかし、リグノセルロース系バイオマス中のセルロースの多くはそれら同士が水素結合により束になって結晶化しており、さらにその周りがリグニンに取り囲まれてリグノセルロースとして存在している。また、ヘミセルロースは、セルロースとリグニンとの間に不均一に存在している。そのため、糖化工程の前に、障害となっているリグニンからセルロースやヘミセルロースを露出させ、糖化効率をあげるための前処理が必要となる。
【0005】
糖化工程の前処理として、リグノセルロース系バイオマスを硫酸などの強酸とともに加熱・溶解する方法、水酸化ナトリウムなどのアルカリで溶解・抽出する方法、水溶液中に高温・高圧の超臨界水にして溶解する方法、及び、超臨界までは温度・圧力を上げずに加圧熱水で分解する方法などがあり、そのほかにマイクロ波照射、電子線照射、γ線照射、木材腐朽菌処理などの方法もある(特許文献1)。
【0006】
強酸を用いる方法は反応が速く多量のバイオマスを処理できるという利点はあるが、工程は煩雑で分離・抽出した後の硫酸を中和して廃棄する必要があり、環境負荷が大きいとの問題点がある。一方、超臨界水や加圧熱水法は、装置自体が機械的・熱的に頑強でなければならず、また電力も相当に必要となるためエネルギー効率が悪いとの問題点がある。
【0007】
マイクロ波照射に関しては、ポプラやブナの木材チップにマイクロ波(2.45GHz)を照射加熱することによる前処理方法が報告されており、この方法によれば、最大で約80%の還元糖変換効率が得られる(非特許文献1)。しかし、この方法では約160℃以上温度が上昇しなければ糖化は促進されず、また試料チップを水と一緒に耐圧ガラス管に封入した状態でマイクロ波照射を行わなければならず、実用化が困難であるとの問題点がある。また、ブナ材と違ってスギ材をマイクロ波加熱前処理した場合の最大酵素糖化率はわずか36%にとどまるとの報告もあり(特許文献2)、マイクロ波照射は原材料によっては効果が大きく異なるとの問題点もある。
【0008】
電子線照射に関しては、セルロース溶液やセルロース素材の繊維に電子線照射し、重合度を調整する技術が知られている(特許文献3)。しかし、電子線照射による実用的なリグノセルロース系バイオマスの処理法はこれまで知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−94887号公報
【特許文献2】特開2007−37469号公報
【特許文献3】特表平10−504858号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】東順一ら、リグノセルロースのマイクロ波照射:(第3報)マイクロ波加熱された生材および乾燥材チップの酵素反応性、木材研究・資料、第20号(1985)、第22〜30頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、リグノセルロース系バイオマスから有用なグルコース及び/又はバイオエタノールを効率よく製造するための、環境負荷が小さい、リグノセルロース系バイオマスの処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究の結果、意外なことにリグノセルロース系バイオマスの粉末を過酸化水素の水溶液中で電子線照射によって処理すると、処理しないものに比べてセルロースやヘミセルロースをリグニンから分離することができ、その後の糖化工程において糖化率が顕著に向上することを見出し、本発明の完成に至った。
【0013】
すなわち、本発明はリグノセルロース系バイオマスを粉砕し、粉体を得る工程と、過酸化水素の水溶液中で前記粉体に電子線を照射する工程とを含む、リグノセルロース系バイオマスの処理方法を提供する。
【0014】
上記リグノセルロース系バイオマスの処理方法において、リグノセルロース系バイオマス粉体の平均粒径が50μm以下であることが好ましい。
【0015】
上記リグノセルロース系バイオマスの処理方法において、過酸化水素の水溶液の濃度が15重量%〜30重量%であることが好ましい。
【0016】
本発明はまた、上記リグノセルロース系バイオマスの処理方法によって処理されたリグノセルロース系バイオマスからセルロースを分離し糖化することでグルコースを製造する、グルコースの製造方法を提供する。
【0017】
本発明はまた、上記リグノセルロース系バイオマスの処理方法によって処理されたリグノセルロース系バイオマスからセルロース及び/またはヘミセルロースを分離し、単糖に糖化する工程と、得られた単糖を発酵し、エタノールを得る工程とを含む、バイオエタノールの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明のリグノセルロース系バイオマスの処理方法によれば、加熱加圧する必要なく、また、環境負荷が小さい方法によって、リグノセルロース系バイオマス中のセルロース及びヘミセルロースをリグニンから効率よく分離することができる。さらに、本発明のリグノセルロース系バイオマスの処理方法によって処理したリグノセルロース系バイオマスを糖化や発酵することで、有用なグルコースやバイオエタノールを効率よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は竹粉末に対する電子線照射の結果を示す図である。
【図2】図2は杉粉末に対する電子線照射の結果を示す図である。
【図3】図3は異なる濃度の過酸化水素の存在下における竹粉末に対する電子線照射の結果を示す図である。
【図4】図4は過酸化水素の存在下において異なる温度での電子線照射の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0021】
原料のリグノセルロース系バイオマスは、主に木質系バイオマスと草本系バイオマスとを含み、限られた資源の有効利用の観点から、たとえば、木質系バイオマスとして木材チップや樹皮、林地残材、間伐材木、製材残材、竹材などの木材、又は、草本系バイオマスとしてコーン軸やわら、バガス、籾殻などの農業残渣が好ましく用いられる。また、材木の種類は特に限定されないが、日本で大量に入手できる杉材や竹材、桧材などが好ましく用いられる。
【0022】
リグノセルロース系バイオマスは主に、セルロース、ヘミセルロース、及び、リグニンを含むその他の成分からなる。これらの成分の存在割合は原材料によって異なるが、木質系バイオマスにおいては、セルロース、ヘミセルロース及びその他の成分はそれぞれ、45〜50%、25〜30%、及び20〜30%を占める。そのうち、セルロースは糖化されると六単糖(ヘキソース)であるグルコースに分解され、ヘミセルロースは糖化されると五単糖(ペントース)に分解され、いずれの単糖も発酵されるとエタノールに変換される。しかし、リグノセルロース系バイオマス中に、セルロースはリグニンに取り囲まれてリグノセルロースとして存在しており、ヘミセルロースはセルロースとリグニンとの間に不均一に存在しているため、リグノセルロース系バイオマスの利用効率をあげるために、リグニンからセルロースやヘミセルロースを露出させる前処理が必要である。
【0023】
本発明のリグノセルロース系バイオマスの処理方法は、セルロースやヘミセルロースをリグニンから効率よく分離するための方法であり、リグノセルロース系バイオマスを粉砕し、粉体を得る工程と、過酸化水素の水溶液中で上記粉体に電子線を照射する工程とを含む。まず、リグノセルロース系バイオマスを粉砕する。粉砕手段は、リグノセルロース系バイオマスを粉砕できるものであればよく、例えば、一般的な木材破砕機、木材粉砕機、木材ハンマーミル、木材チッピング機、木材シュレッダ、おが粉製造機などが用いられる。原料を木材チップ程度の大きさにしてから細かく粉砕してもよく、特開2005−153329号公報に記載されるような機械を用いて竹材を直接的に粉末化してもよい。セルロースやヘミセルロースを効率よく分離させるために、リグノセルロース系バイオマスを平均粒径が100μm以下となるように粉砕することが好ましく、平均粒径が50μm以下であればより好ましい。
【0024】
次に、粉砕工程で得られたリグノセルロース系バイオマス粉体を過酸化水素(H)の水溶液中に混合する。混合の順番は特に限定されず、予め用意した過酸化水素の水溶液へ粉体を混合してもよく、粉体を水に分散してから過酸化水素を添加してもよい。過酸化水素の水溶液の濃度はおよそ30重量%以下であればよく、電子線照射との相乗効果を考慮すれば好ましくは3〜30重量%、より好ましくは15〜30重量%である。リグノセルロース系バイオマス粉体の混合率はおよそ20重量%以下であればよく、好ましくは0.5〜10重量%、より好ましくは1〜5重量%である。
【0025】
次に、リグノセルロース系バイオマス粉体と過酸化水素水溶液との混合物に、電子線を照射する。電子線照射は、リグノセルロース系バイオマス粉体と過酸化水素水溶液とを混合した直後に行うことができる。電子線照射は、例えば、浜松ホトニクス社製低エネルギー電子線照射源 EBエンジンなどの市販の電子線源を使用できる。このような電子線源は、超臨界水や加圧・加熱に必要な大掛かりな機械と比べて、比較的小型で設置が簡単であり、コストも比較的低いとの利点がある。照射時間は10分程度であれば、リグノセルロース系バイオマスにおけるセルロースやヘミセルロースをリグニンから分離することができ、より確実に分離するために、20分程度に、さらに30分間〜1時間まで照射してもよい。また、電子線が貫通しないよう例えばアルミニウムなどの金属製容器中に混合物を入れて照射することが好ましい。
【0026】
電子線が過酸化水素水溶液へ一定の深さに進入すると、エネルギーが消失してしまうと考えられるため、より多量のリグノセルロース系バイオマス粉体を電子線照射により処理する場合、攪拌しながら照射することが好ましい。攪拌は例えば磁石攪拌子を入れて磁力による攪拌や、ミキサーなどの機械的攪拌など一般的な手法が用いられる。攪拌しない場合、リグノセルロース系バイオマス粉体と過酸化水素水溶液との混合物を入れる容器の深さは、1mm以下とすることが好ましく、攪拌する場合は、小さい回転子を使用するならば容器の深さを約5〜10mm程度まですることができる。
【0027】
また、大量処理の場合は連続的に処理するシステムを備えることが好ましい。このようなシステムとして、例えば、電子線源を固定して、リグノセルロース系バイオマス粉体と過酸化水素水溶液との混合物が入った複数の金属容器を例えばベルトコンベアなどの手段によって運搬し、電子線源の位置で停止させて一定時間照射できるようにするシステムが考えられる。このようなシステムを利用すればリグノセルロース系バイオマスを大量に処理できる実用的な方法を提供することができる。
【0028】
電子線照射した後のリグノセルロース系バイオマス粉体は、セルロースやヘミセルロースは絡みつくリグニンから分離された状態になる。この粉体を濾過などによって液体から分離し、必要があれば乾燥させて、保存しておくことができる。過酸化水素の少なくとも一部が水と酸素に分解され、残液に含まれる過酸化水素は少量のためそのままでも廃棄できるが、残液が弱酸性の場合少量のアルカリを用いて中和してから廃棄してもよい。したがって、本発明のリグノセルロース系バイオマス処理方法は、硫酸などの強酸処理に比べて、環境負荷が小さい。
【0029】
本発明のグルコースの製造方法は、上記リグノセルロース系バイオマスの処理方法によって処理されたリグノセルロース系バイオマスからセルロースを分離し糖化することでグルコースを製造することによって行われる。上記処理したリグノセルロース系バイオマス粉体を水洗、乾燥させることによって、セルロースとヘミセルロースとリグニンを含む他の成分とに分離する。分離したセルロースをグルコースへ糖化する。糖化は一般的に知られている方法であればよく、例えば、加水分解やセルラーゼ酵素糖化法が用いられる。糖化した後に必要があればグルコースを濃縮、結晶化によって精製してもよい。得られたグルコースはバイオエタノールのほか、食用にも利用され得る。本発明のリグノセルロース系バイオマスの処理方法によって処理したリグノセルロース系バイオマスにおいて殆どのセルロースやヘミセルロースが分離された状態となるため、これを原料とするグルコースの製造方法は、75%以上、好ましくは90%以上の高い糖化率を有する。
【0030】
本発明のバイオエタノールの製造方法は、上記リグノセルロース系バイオマスの処理方法によって処理されたリグノセルロース系バイオマスからセルロース及び/またはヘミセルロースを分離し、単糖に糖化する工程と、得られた単糖を発酵し、エタノールを得る工程とを含む。分離は上記の通りである。分離したセルロースは上述のようにグルコースに糖化することができ、また、ヘミセルロースもヘミセルラーゼや酸加水分解などの既知の手法によってペントースに糖化される。次に、得られたグルコースやペントースを酵母によるエタノール発酵などによってエタノールを得ることができる。本発明のリグノセルロース系バイオマスの処理方法によって処理したリグノセルロース系バイオマスにおいて殆どのセルロースやヘミセルロースが分離された状態となるため、これを原料とするバイオエタノールの製造方法は90%以上、好ましくは95%以上の高いエタノール変換率を有する。本発明のバイオエタノールの製造方法によって得られたバイオエタノールは、デンプン質系原料から得られるバイオエタノールと同質であるため、主に内燃機関の燃料に利用される。
【実施例】
【0031】
以下、実施例を挙げて本発明の実施形態をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、本明細書における「%」とは、別に規定しない限り「重量%」を意味し、「平均粒径」とは「メディアン径」である。
【0032】
実施例1 電子線照射試験
竹材(モウソウチク)及び杉材(天竜杉)をPANDA、PA−E(丸大鉄鋼株式会社製)を用いて、平均粒径が約50μmの微粉末にした。微粉末を乾燥させ、水に、1重量%となるように混合した。次に、中心に半径15mm、深さ0.5mmの円形くぼみが形成されたアルミブロック台のくぼみに、微粉末と過酸化水素の水溶液の混合物を流し入れ、円形のくぼみ全体が照射範囲に入るようアルミブロック台を浜松ホトニクス社製低エネルギー電子線照射源 EBエンジン(登録商標)の下に設置し、上方から電子線を10分間照射した。照射後、微粉末を水洗し、40℃にて加熱乾燥した。
【0033】
水の代わりに、30%の過酸化水素水溶液(30%H)、1%の硫酸水溶液(1%HSO)、1%HSO及び30%H、又は、1%の水酸化ナトリウム水溶液(1%NaOH)を用いて同様に実験した。また、電子線照射しないものについても実験した。各サンプルは、以下の通りである。
【0034】
1:竹+水、電子線照射なし
2:竹+水、電子線照射10分間
3:竹+水、電子線照射10分間(ただし、アルミブロック台のくぼみの深さは1mmである)
4:竹+1%NaOH、電子線照射なし
5:竹+1%NaOH、電子線照射10分間
6:竹+1%HSO、電子線照射なし
7:竹+1%HSO、電子線照射10分間
8:竹+30%H、電子線照射なし
9:竹+30%H、電子線照射10分間
10:竹+1%HSO+30%H、電子線照射なし
11:竹+1%HSO+30%H、電子線照射10分間
12:杉+水、電子線照射なし
13:杉+水、電子線照射10分間
14:杉+1%NaOH、電子線照射なし
15:杉+1%NaOH、電子線照射10分間
16:杉+1%HSO、電子線照射なし
17:杉+1%HSO、電子線照射10分間
18:杉+30%H、電子線照射なし
19:杉+30%H、電子線照射10分間
【0035】
次に、得られた乾燥粉末を酢酸緩衝液に懸濁し、Tricoderma由来のセルラーゼ(SIGMA製)を2.9U添加し、37℃、3時間反応させ、得られた還元糖をPark−Johnson法によって定量した。結果を図1(竹)及び図2(杉)に示した。なお、得られた還元糖が多ければ多いほど、リグノセルロース系バイオマスからより多くのセルロースやヘミセルロースを露出させたことを意味する。
【0036】
竹材の結果を示す図1から、水の場合、電子線照射しなかったものに比べて電子線照射したものは、セルラーゼ糖化率が3倍以上に向上したことを判明した(サンプル1及び2)。また、30%H添加した場合、電子線照射しなかったものは、水だけのものと同程度の還元糖量しか得られなかったが(サンプル1及び8)、電子線照射したものは、水だけに比べて還元糖量(糖化率)がさらに2倍近くまで上昇した(サンプル2及び9)。一方、30%Hの代わりに、1%NaOHや1%HSOを用いても、電子線照射したものも照射しなかったものも同程度の結果となり、いずれも水中における電子線照射の結果に劣るものであった(サンプル2及び4〜7)。1%HSO+30%Hを添加した場合、電子線照射しなかったものは、水だけのものと同程度の糖化率しかなかった(サンプル1及び10)。一方、電子線照射したものは、30%Hのみ添加したものほどではないが、水だけに比べて糖化率が上昇した(サンプル2、9及び11)。また、杉材についても同様な傾向があることを判明した(図2)。
【0037】
すなわち、電子線照射だけによっても糖化率を上昇させることができるが、Hを添加した場合は、さらに糖化率を上昇させることができる。この効果は、Hのみに認められるものであり、HSOやNaOHによっては得られなかった。また、電子線照射時間に関しては、10分間程度でセルロースに絡みつくヘミセルロースやリグニンが分離されると考えられる。
【0038】
一方、くぼみの深さが1.0mmの場合、0.5mmに比べて電子線照射の効果が減少したことが分かった(サンプル2及び3)。これは、恐らく照射された電子が溶液内へ一定の深さに突入するとエネルギーが消失してしまうからだと本発明者らが考える。したがって、大量のリグノセルロース系バイオマスを処理する場合、攪拌装置などによってバイオマス粉末の全体に電子線照射が届くようにする必要がある。
【0039】
実施例2 過酸化水素添加試験
竹粉末を、濃度がそれぞれ3、7.5、15、若しくは30%の過酸化水素水、水、100℃の湯、又は、1.8Mアスコルビン酸水溶液に、1重量%となるよう添加した以外、実施例1と同様に実験した。結果は図3に示した。
【0040】
21:竹+水、電子線照射なし
22:竹+水、電子線照射10分間
23:竹+3%H、電子線照射なし
24:竹+3%H、電子線照射10分間
25:竹+7.5%H、電子線照射なし
26:竹+7.5%H、電子線照射10分間
27:杉+15%H、電子線照射なし
28:杉+15%H、電子線照射10分間
29:竹+30%H、電子線照射なし
30:竹+30%H、電子線照射10分間
31:竹+30%H+1.8Mアスコルビン酸、電子線照射10分間
【0041】
図3からは、過酸化水素のみによる処理(室温、5分間放置)、又は、電子線照射のみによる処理のいずれも、水に比べて糖化効果が高まったことが分かる(サンプル21〜23)。電子線照射とHとの両方による処理では、いずれのH濃度においても電子線未照射に比べて、かなり高い糖化率を示した。この効果は電子線照射とHとの相乗効果であると考えられる。15%Hや30%Hの高濃度のものにおいて顕著な相乗効果が認められたが、3%、7.5%では水と同程度の糖化率を示しており、顕著な相乗効果は認められなかった。さらに、高濃度の抗酸化剤であるアスコルビン酸の存在下に同様に実験した結果、糖化率はある程度減少したものの、水だけに比べて依然と高いことが認められたため、H添加による相乗効果はHの酸化能のみによるものではないと推測される。
【0042】
比較例1 マイクロ波加熱試験
平均粒径が約50μmの竹微粉末を使用して、水、100℃の湯、又は30%Hを添加して、サンプルを調整した。マイクロ波加熱は、家庭用電子レンジ(2.45GHz)にて3分間処理によって行われた。処理後、水洗、乾燥した。また乾燥竹粉末のみに電子レンジ処理を3分間行ったサンプルも調整した。
【0043】
41:竹+水
42:竹+湯
43:竹、電子レンジ3分間
44:竹+水、電子レンジ3分間
45:竹+30%H
46:竹+30%H(100℃)
47:竹+30%H、電子レンジ3分間
【0044】
得られた乾燥粉末にセルラーゼ(同上)を添加し37℃、3時間反応させ、Park−Johnson法(比色法)にて、還元糖分析を行った。
【0045】
比色の結果、100℃に温めた過酸化水素液を添加したもの(サンプル46)、及び過酸化水素液を添加して電子レンジ処理したもの(サンプル47)のみに白色化が認められた。過酸化水素を添加し、加温することにより白色化することから、恐らくリグニン分解が起こったからと考えられ、糖化向上効果は得られていないと推測される。
【0046】
実施例3 サンプル加熱下電子ビーム照射試験
平均粒径が約50μmの竹微粉末を使用して、30%Hを添加して、サンプルを調整した。サンプルを実施例1で用いたアルミブロック台のくぼみに入れ、アルミブロック台を温調付きヒーターで加熱した状態で電子線照射を行った。サンプルの表面に熱電対を置き、電子線照射前、照射後で温度を測定した。実験条件は下記の通りであった。
【0047】
48:室温(19℃)→37℃ 竹粉末+30%H、電子線照射なし
49:室温(19℃)→37℃ 竹粉末+30%H、電子線照射10分間
50:40℃→81℃ 竹粉末+30%H、電子線照射10分間
51:50℃→95℃ 竹粉末+30%H、電子線照射10分間
52:75℃→106℃ 竹粉末+30%H、電子線照射10分間
ここで、温度は電子線照射前と照射後の測定値を表している。
【0048】
得られた乾燥粉末にセルラーゼ(同上)を添加し37℃、3時間反応させ、Park−Johnson法(比色法)にて、還元糖分析を行った。
【0049】
比色の結果、図4のように室温で電子線を照射したものが糖化率が大きく、次に50℃加熱のものが大きかった。実験条件の誤差を考慮すると室温から75℃まで有意な糖化率が得られた。この結果、大気圧条件下ではサンプルの温度は室温から30%Hの沸点に達するまで電子線照射が有効であることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リグノセルロース系バイオマスを粉砕し、粉体を得る工程と、
過酸化水素の水溶液中で前記粉体に電子線を照射する工程と
を含む、リグノセルロース系バイオマスの処理方法。
【請求項2】
前記リグノセルロース系バイオマス粉体の平均粒径が50μm以下である、請求項1記載のリグノセルロース系バイオマスの処理方法。
【請求項3】
前記過酸化水素の水溶液の濃度が15重量%〜30重量%である、請求項1又は2記載のリグノセルロース系バイオマスの処理方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項記載のリグノセルロース系バイオマスの処理方法によって処理されたリグノセルロース系バイオマスからセルロースを分離し糖化することでグルコースを製造する、グルコースの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか一項記載のリグノセルロース系バイオマスの処理方法によって処理されたリグノセルロース系バイオマスからセルロース及び/またはヘミセルロースを分離し、単糖に糖化する工程と、
前記得られた単糖を発酵し、エタノールを得る工程と
を含む、バイオエタノールの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−182646(P2011−182646A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−48054(P2010−48054)
【出願日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】