説明

リグノセルロース系バイオマスを分解するための組成物及び方法

本発明は、産業上関心のあるバイオエネルギー生成物及び代謝生成物をリグノセルロース系バイオマスから生成する組成物及び方法に関する。より詳細には、本発明は、リグノセルロース系バイオマスを発酵性糖に、そしてより注目すべきことにバイオエネルギー生成物及び代謝生成物に変換する注目すべき能力を有する新規バクテリアの同定、特徴付け及び単離を説明する。本発明はまた、バイオエネルギーを生成することを目的として、このようなバクテリアを単離する方法、このようなバクテリアを含む組成物、及びリグノセルロース系バイオマスの改変のためのそれらの使用を開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業上関心のあるバイオエネルギー生成物及び代謝生成物をリグノセルロース系バイオマスから生成する組成物及び方法に関する。より詳細には、本発明では、リグノセルロース系バイオマスを発酵性糖に、そしてより注目すべきことにバイオエネルギー生成物及び代謝生成物に変換する注目すべき能力を有する新規バクテリアの同定、特徴付け及び単離を説明する。本発明はまた、バイオエネルギーを生成することを目的として、このようなバクテリアを単離するための方法、このようなバクテリアを含む組成物、及びリグノセルロース系バイオマスの改変のためのそれらの使用を開示する。
【0002】
背景
リグノセルロース系バイオマスの転換は、1970年代以後、熱心な研究努力の対象であった(Blumer-Schuette et al., 2008, Extremely thermophilic microorganisms for biomass conversion: status and prospects, Curr Opinion Biotechnol 19, pp. 210-217; Perez et al., 2002, Int Microbiol 5, pp 53-63)。
【0003】
この点に関しては、微生物を使用して、変換されたバイオマス、本質的には前処理された農業原料の改変を行い、エタノールなどのバイオエネルギー生成物を生成することは公知である。しかしながら、Mosierら(Bioresource Technology 96 (2005) 673-686)に報告されているように、炭水化物ポリマーを発酵性糖に転換する酵素に対してセルロースをより利用しやくするようにセルロース系バイオマスの構造を変化させるために、リグノセルロース系バイオマスの前処理が必要である。
【0004】
しかしながら、将来のバイオ燃料又はバイオエネルギー生成物は、前処理した農業原料からの代わりに、未加工リグノセルロース系バイオマスから生じるべきであると考えられている。このような未加工バイオマスの使用は、リグノセルロース系バイオマスを発酵性糖に分解(例えば、加水分解)し、次にそれを発酵によってバイオエネルギー生成物(例えば産業上価値のあるアルコール類及び他の代謝生成物)に変換することができる、効果的な方法を必要とするであろう。したがって、未加工リグノセルロース系バイオマスからの発酵性糖(例えば単糖類)の生成は、大きな課題であり、この点に関して様々なアプローチ、例えば熱化学的方法、酸加水分解及び酵素加水分解などが、提案されている。
【0005】
しかしながら、検討されている多様なリグノセルロース系バイオマスは各々がセルロース、ヘミセルロース及びリグニンの特異的組成を有することに起因して、このような未加工バイオマスを加水分解するための酵素又は酵素組成物の開発は、費用対効果が高いようには思えない。加えて、リグノセルロース系バイオマスのこのような処理から残るリグニン副産物は一般的に、改変されないまま失われる。
【0006】
国際公開公報第2009/063079号は、バイオマスの発酵によるバイオエネルギー生成物及び代謝生成物の生成のために、デイノコッカス属のバクテリアの使用を記載している。
【0007】
Tarynら(ABB 45 (1994) 209)は、発酵性糖を分解するための、クロストリジウム属のバクテリアの能力を報告している。
【0008】
国際公開公報第97/10352号は、セルロースを分解するシュードモナス菌株に関する。同様に、Weonら(Int. J. Systematic and Evolutionary Microbiology (2007), 57, pp 1685-1688)は、セルロースを加水分解するUV耐性デイノコッカス菌株を報告している。
【0009】
W. Zimmermann(Journal of Biotechnology, 13 (1990) 119-130)は、リグニンのバクテリアによる分解の概説を提供している。
【0010】
工業プロセスに適する条件下、リグニン、キシラン及びセルロースを含むリグノセルロース系バイオマスの主構成要素を加水分解する能力を有するバクテリアは、これまで報告されていない。特に、工業条件下でリグニンを分解することができるバクテリアは、これまで単離されていない。
【0011】
したがって、リグノセルロース系バイオマスを例えば発酵性糖又はバイオエネルギー生成物及び代謝生成物などの有益な生成物に分解するための、費用対効果が高く大規模に実現可能なプロセスの必要性はまだ満たされていない。
【0012】
発明の概要
本発明は、リグノセルロース系バイオマス又はその誘導体から有益な生成物を生成するための組成物及び方法に関する。より詳細には、本発明は、リグノセルロース系バイオマス又はその誘導体を、発酵性糖及びバイオエネルギー生成物を含む有益な生成物に変換する能力を有する新規バクテリアに関する。本発明はまた、そのようなバクテリアを使用して、有益な生成物及び代謝生成物を生成する方法に関する。
【0013】
本発明はとりわけ、産業規模でかつ経済的及び確実性の両方で、バイオエネルギー、特にエタノールを生成するために使用することができる化合物を得ることを目的として、リグノセルロース系バイオマス又はその誘導体を変換する、予想外で注目すべき特性を有する微生物の同定から始まる。
【0014】
この点に関して、本発明は、任意のサンプルからバクテリアを選択するか又は同定する改善された方法の設計から生じる。より詳細には、本発明は、バクテリアを選択するか又は同定するか又は単離する方法を開示し、該方法は、以下:
a)バクテリアを含むサンプルを提供する工程と;
b)サンプルを細胞破壊性DNA損傷処理に付す工程と;
c)該処理されたサンプルから、炭素源としてリグニン、セルロース又はキシランの存在下で生存するか又は成長する、例えば炭素源としてリグニン、セルロース又はキシランを使用する、能力を有するバクテリアを選択するか又は単離する工程
とを、含む。
【0015】
本発明のさらなる目的は、このような方法によって得ることができるバクテリア、又は該バクテリアの抽出物である。
【0016】
上記方法にしたがって、本発明者は実際に、リグノセルロース系バイオマスの3つの主成分、すなわちセルロース、キシラン及びリグニンを加水分解する予想外の能力を有する新しい微生物を未加工材料から単離し同定した。
【0017】
微生物が、バイオエネルギー生成物の生成のためにリグニン含有未加工材料を変換することができるというこの新しい発見は、未加工バイオマス(リグノセルロース系バイオマス)からのバイオエネルギー生成物(例えばエタノール)の単一工程生成プロセスを可能にすることによる技術的躍進を意味しており、リグノセルロース系の未加工バイオマスの代わりに前処理した農業原料を使用する先の欠点を克服するものである。さらに、本発明の同じバクテリアを、生成プロセス全体を通じて、すなわちリグノセルロース系バイオマスを加水分解し、かつ、同時糖化発酵プロセス(SSF)による発酵によってバイオエネルギー生成物を生成するために、使用することができる。
【0018】
したがって、本発明の目的は、単離したバクテリアにあり、該バクテリアは、30℃以上の温度で、炭素源としてのリグニン又はセルロース又はキシランの存在下で成長し、かつ4mJ/cm2のUV処理に耐える能力を有する。
【0019】
本発明の特定の目的は、単離したバクテリアであり、該バクテリアは、30℃以上の温度で、唯一の炭素源としてのリグニンの存在下で成長し、かつ4mJ/cm2のUV処理に耐える能力を有する。
【0020】
本発明の別の特定の目的は、単離したバクテリアであり、該バクテリアは、30℃以上の温度で、炭素源としてセルロース及びキシランを利用し、かつ4mJ/cm2のUV処理に耐える能力を有する。
【0021】
好ましい実施態様において、本発明のバクテリアは、炭素源としてリグニン、セルロース及びキシランを使用する注目すべき能力を有する。本発明は実際に、リグノセルロース系バイオマスの全ての主要構成要素を分解する能力を有するバクテリアを、同定し培養することができるということを示す。このようなバクテリアは、先例のない効率でそのようなバイオマスを変換するために使用されてもよい。
【0022】
特定で好ましい実施態様において、本発明のバクテリアは、好気的条件及び嫌気的条件の両方において成長させるか又は培養することができる。本発明は実際に、本発明のバクテリアを、様々な基質から多量のバイオエネルギー生成物又は代謝生成物を生成するのに適する嫌気的条件などの条件下で、機能させることができることを予想外に示す。
【0023】
特定の実施態様では、本発明のバクテリアは、外因性核酸分子を含有する。
【0024】
本発明のバクテリアは、好ましい実施態様において、デイノコッカス属、バチルス属、ミクロバクテリウム属、セルロシミクロビウム属、メチロバクテリウム属、スフィンゴバクテリウム属、シュードモナス属、カルディモナス属、パエニバチルス属、ゴードニア属、ロドコッカス属、ステノトロホモナス属、ノボスフィンゴビウム属、スフィンゴモナス属、フラボバクテリウム属、スフィンゴビウム属、スフィンゴピキシス属、又はポルフィロバクター属から選択される属に属する。
【0025】
実施例で例示するように、同定され培養されうる上記属のバクテリアは、バイオマスを変換し、かつ4mJ/cm2の細胞破壊性UV処理に耐えることができる。これらのバクテリアは、リグノセルロース系バイオマスを含むバイオマスを非常に有益な生成物に転換するための有益な手段を意味する。
【0026】
本発明のさらなる目的は、本発明のバクテリア及び培地を含む組成物である。
【0027】
本発明のさらなる目的は、先に開示したようなバクテリアの抽出物である。
【0028】
本発明のさらなる目的は、リグノセルロース系バイオマスを加水分解するか、又はリグノセルロース系バイオマスを発酵性糖に転換もしくは変換するための、本発明のバクテリア又はその抽出物の使用にある。
【0029】
本発明のさらなる目的は、リグノセルロース系バイオマスを発酵性糖に分解又は転換する方法であり、該方法は、リグノセルロース系バイオマスを本発明のバクテリア又はその抽出物に曝露する工程を含む。
【0030】
本発明のさらなる目的は、リグノセルロース系バイオマスから発酵性糖を生成する方法であり、該方法は、リグノセルロース系バイオマスを本発明のバクテリア又はその抽出物に曝露する工程を含む。
【0031】
上記方法は、(例えば、少なくとも30℃以上の)昇温で、好気的及び/又は嫌気的条件下で実施して、リグノセルロース系バイオマスの構成要素の全ての主要種類の効果的な変換を可能にすることができる。さらに、特定の実施態様において、本発明の方法は、発酵性糖を収集するか、又は発酵性糖をバイオエネルギー生成物もしくは代謝生成物に変換するかのいずれかの、さらなる工程を含む。そのような変換(発酵)工程は、本発明のバクテリアもしくは異なるバクテリア、又はバクテリアの組み合わせ、あるいはその抽出物を使用して行われてもよい。
【0032】
好ましい実施態様において、加水分解及び発酵の双方は、本発明のバクテリア、最も好ましくは同じバクテリアを使用して実施される。実際、好ましい実施態様において、本発明は、リグノセルロース系バイオマスの加水分解及び糖の発酵の双方を可能にすることによって、リグノセルロース系バイオマスからバイオエネルギー生成物を直接生成することを可能にする。
【0033】
したがって、本発明のさらなる目的は、バイオエネルギー生成物又は代謝生成物を生成するための、本発明のバクテリアの使用にある。
【0034】
本発明の別の目的は、バイオエネルギー生成物又は代謝生成物を生成する方法であり、該方法は、リグノセルロース系バイオマスを本発明のバクテリア又はその抽出物に曝露すること、及び、得たバイオエネルギー生成物又は代謝生成物を回収することを含む。
【0035】
好ましい実施態様において、加水分解及び発酵の双方は、本発明のバクテリア、最も好ましくは同じバクテリアを使用して、実施される。代替実施態様において、2つ以上の異なるバクテリアを、順次又は組み合わせて使用して、リグノセルロース系バイオマスからバイオエネルギー生成物を生成してもよいことに留意すべきである。
【0036】
特定の態様において、本発明は、以下:
・本発明のバクテリア又はその抽出物を提供する(あるいは培養する及び/又は成長させる)工程、
・該バクテリア又はその抽出物を使用して、リグノセルロース系バイオマス又はその誘導体を、産業上関心のあるバイオエネルギー生成物又は代謝生成物(例えばエタノールなどのバイオエネルギー源、コハク酸などの化学的成分)に、改変する工程、及び
・該改変によって生じる少なくとも1つのバイオエネルギー生成物又は代謝生成物を収集する工程
を含む方法に関する。
【0037】
本発明はまた、先に定義したようなバクテリア、及びリグノセルロース系バイオマス又はその誘導体を含む組成物に関する。
【0038】
本発明はまた、先に記載したような方法を使用して生成されたバイオエネルギー生成物又は代謝生成物に関する。
【0039】
本発明のさらなる目的は、リグノセルロース系バイオマス及び本発明のバクテリアを含む反応器又は発酵槽である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】嫌気的条件下、MM+CMC1%でのUV耐性好熱性バクテリアの成長結果である。
【図2】嫌気的条件下、MM+キシラン1%でのUV耐性好熱性バクテリアの成長結果である。
【図3】好気的条件下30℃、MM+リグニン0.1%での5日後、UV耐性のピンク色の単離菌の成長結果である。輪郭線が描かれているのは、唯一の炭素源としてリグニンを使用することができる単離菌M10−1D及びM10−1E、ならびにリグニンを分解することができる単離菌M10−8Dである。
【図4】デイノコッカス菌株DRH46は、ペーパージャーナルを分解することができる。
【0041】
発明の詳細な説明
本発明は、リグノセルロース系バイオマスを発酵性糖に、そしてより注目すべきことにバイオエネルギー生成物及び代謝生成物に変換する注目すべき能力を有する新規バクテリアの同定、特徴付け及び単離を説明する。本発明はまた、バイオエネルギー生成物及び代謝生成物を生成することを目的として、このようなバクテリアを単離するための方法、このようなバクテリアを含む組成物、及びリグノセルロース系バイオマスの改変のためのそれらの使用を開示する。
【0042】
定義
本発明による用語リグノセルロース系バイオマスとは、リグニン、セルロース及び/又はキシランを含有する未加工バイオマスを示す。したがって、用語リグノセルロース系バイオマスは実質的に、生物学的起源、例えば、材木又は紙生産に適さない成木を含む林産物、例えば草、収穫物及び動物性肥料などの農産物、ならびに例えば藻及び海藻などの水産物などの未処理材料を示す。バイオマスの特定の供給源は、硬材又は軟材茎、トウモロコシの穂軸、麦わら、草、葉、種、紙等を非限定的に含む(例えば、Sun et al., Bioresource Technology 83 (2002) 1-11を参照されたい)。用語リグノセルロース系バイオマスは、加水分解され前処理されたバイオマス生成物を本質的に含有する、変換されたバイオマスすなわち二次バイオマスとは区別されるべきである。
【0043】
リグノセルロース系バイオマスの例は、ススキ、アサ、テンサイ、小麦、トウモロコシ、ポプラ、ヤナギ、モロコシ、サトウキビ、及び、ユーカリノキからアブラヤシまでの様々な樹種を含む、多数の種類の植物に由来する木質又は植物性材料を含む。
【0044】
本明細書で使用しているように、用語「バイオマス誘導体」は、リグニン、セルロース、ヘミセルロースなど、リグノセルロース系バイオマスに由来する分子を含む組成物を示す。
【0045】
本出願の状況において、用語バクテリアは、野生型又は自然変異菌株のバクテリア、例えばDNAシャフリング技術による加速進化によって得られた菌株、あるいは真核生物、原核生物及び/又は合成の核酸の挿入によって得られた組換え菌株を含む。
【0046】
「バクテリアの抽出物」は、本質的に生きているバクテリアがいない、例えば、細胞上清、細胞片、細胞壁、DNA抽出物、酵素もしくは酵素製剤、又は化学的、物理的及び/又は酵素処理によるバクテリアに由来する任意の調製物などの、バクテリアから得られた任意の画分を示す。バクテリア抽出物は好ましくは、バクテリアの酵素活性、最も好ましくはリグノセルロース系バイオマスを加水分解する能力を保持する。
【0047】
本発明の状況の中で、用語「バイオエネルギー」は、バイオマスに由来する再生可能エネルギーを示す。より詳細には、用語「バイオエネルギー生成物」は、「バイオ燃料」、ならびに、燃料として使用されうるバイオマス又はバイオマス誘導体の改変の全ての最終生成物、例えばエタノール、プロパノール、ブタノール グリセロール、ブタンジオール及びプロパンジオールなどを含む。
【0048】
用語「代謝生成物」は、産業上関心のある幾つかの化学製品、例えば酢酸、プロピオン酸、ピルビン酸、酪酸、乳酸及び/又はコハク酸などの有機酸及び成分などを非限定的に含む、バイオマス又はバイオマス誘導体をバイオエネルギー生成物に改変する間に発生される全ての可能な中間分子を示す。
【0049】
本発明は、リグノセルロース系バイオマス又はリグノセルロース系バイオマス誘導体からバイオエネルギーを生成する組成物及び方法に関する。より詳細には、本発明は、バイオエネルギー生成物及び代謝生成物を生成することを目的として、リグノセルロース系バイオマスを改変するための、バクテリアの使用に関する。
【0050】
ここで本発明は、リグノセルロース系バイオマスからバイオエネルギー生成物又は代謝生成物を生成することができるバクテリアを環境の供給源から単離することができるということを初めて示す。
【0051】
この点に関して、本発明の目的は、バクテリアを単離するか又は同定するための方法にあり、該方法は、以下:
a)バクテリアを含むサンプルを提供する工程;
b)該サンプルを細胞破壊性DNA損傷処理に付す工程;及び
c)該処理されたサンプルから、炭素源としてのリグニン、セルロース、ヘミセルロース又はキシランの存在下で生存するか又は成長する能力を有するバクテリアを単離する工程
を含む。
【0052】
本方法は、特徴付けられていないバクテリアを含む様々なサンプル、特に環境サンプルであるか又は環境サンプルに由来するサンプルで実践することができる。本発明の状況の中で、環境サンプルは、(複数の)特徴付けられていない(微)生物、特に培養されていない微生物(例えば、意図的に培養され単離形態に増殖されていない微生物)を含有する任意のサンプルを含む。サンプルは、自然環境から、又は人工的もしくは特に作り出された環境から得られるか、又はそれに由来してもよい。
【0053】
示したように、サンプルは、任意の環境サンプル、例えば土壌、水、植物性抽出物、生物物質、堆積物、泥炭地、工業廃水もしくは用地、鉱物抽出物、砂等から得られたか、又はそれらに由来するものなどでありうる。サンプルは、様々な地域又は状況、例えば限定するものではないが、熱帯地域、火山地帯、森林、農場、工業地帯等から収集してもよい。サンプルは通常、(特徴付けられていない、培養されていない)微生物の様々な種、例えば陸生微生物、海洋微生物、淡水微生物、共生微生物等を含有する。このような環境微生物の種は、バクテリア、藻、真菌、酵母、カビ、ウイルス等を含む。微生物は、例えば好熱菌などの極限環境微生物を含んでもよい。サンプルは典型的に、様々な種のこのような(培養されていない)微生物、ならびに様々な量のそれらを含む。さらに、サンプルはほかに、既知及び/又は培養可能な(例えば、原核又は真核の)微生物を含有してもよい。
【0054】
本発明は、いかなる特定種類のサンプル又は環境微生物にも限定されず、培養されていない微生物を含む任意のサンプルを使用して実践することができるということが理解されるべきである。
【0055】
好ましい実施態様において、サンプルは、土壌、水、温泉、海洋環境、泥、木、石、コケ、植物性抽出物、地衣、生物物質、堆積物、バイオフィルム、工業廃水、ガス、砂、油、汚水、又は動物もしくはヒト排泄物であるか、あるいはそれらに由来する。
【0056】
本発明で使用するために、サンプルは、湿っているか、可溶性であるか、乾燥しているか、懸濁液、ペースト等の形態であってもよい。さらに、本方法の工程b)の前に、サンプルは、プロセスを改善するように、例えば、濾過、洗浄、濃縮、希釈、撹拌、乾燥等などによって微生物を富化するように処理してもよい。
【0057】
特定の実施態様において、サンプルは、濾過した懸濁液の形態である。より詳細には、サンプルを、処理工程b)の前に、無菌濾過し、及び/又は、無菌水中に入れてもよい。
【0058】
本プロセスの工程b)は、サンプル(すなわち、サンプル中に含有されている微生物)を細胞破壊性DNA損傷処理に付すことを含む。
【0059】
細胞破壊性DNA損傷処理とは、DNA修飾を導入する単なる突然変異誘発性処理とは対照的に、サンプル中で相当な細胞死を引き起こす処理を示す。特に、細胞破壊性DNA損傷処理は、大腸菌の培養で、90%以上の細胞死を引き起こすのに十分な処理である。さらにより好ましくは、細胞破壊性DNA損傷処理は、大腸菌の培養においてバクテリア力価を少なくとも2ログ減少するのに十分な処理である。驚くべきことに、本発明は、通常大部分の細胞集団にとって致命的であろうこのような処理が、様々な種類のサンプルから新規微生物を効果的で迅速に単離することを可能にし、その微生物は予想外の特性を有することを示す。この結果は、微生物をそのような細胞破壊性DNA損傷処理に付すことにより、生存している微生物の単離が妨げられると予想されていたので、特に驚きである。
【0060】
このDNA損傷処理は、サンプルを照射及び/又は1もしくは幾つかの遺伝毒性物質に付すことを含んでもよい。この処理は、サンプル中に存在する微生物の相当な細胞死を誘発するのに十分な状況下及び/又は期間で行われる。
【0061】
特定の実施態様において、DNA損傷処理は、サンプルを1又は幾つかの照射に付すことを含む。好ましい処理は、サンプル(すなわち、サンプル中の微生物)を反復連続照射処理に付すことを含む。
【0062】
照射は、UV、γ及び/又はX線照射から単独又は組合せのいずれかで選択されてよく、最も好ましくはUV照射であってよい。照射処理は典型的には、微生物を、同じ又は異なる性質、好ましくは同じ性質であってよい、1又は幾つかの連続照射(例えば1〜5まで)に付すことを含む。
【0063】
特に好ましい処理は、サンプルを細胞破壊性UV照射に付すことを含む。本発明は実際に、このような処理が、実際より過少に示されている、注目すべき酵素活性を有するバクテリア種を、環境(例えば土壌又は水)サンプルから高効率で単離することを可能にするということを示す。細胞破壊性UV処理は典型的には、0.5〜400mJ/cm2の間、より好ましくは1〜200mJ/cm2の間、典型的には1〜100mJ/cm2の間である。好ましいUV処理は、4mJ/cm2である。反復照射処理は典型的には、1〜8時間の間、好ましくは3〜5時間、より好ましくは約4時間の間隔で行われる。
【0064】
特定の実施態様において、細胞破壊性DNA損傷処理は、サンプルを、1〜8時間、好ましくは3〜5時間の間、より好ましくは約4時間の間隔で行われる、各々0.5〜400mJ/cm2の間、好ましく各々約4mJ/cm2の、少なくとも2回、好ましくは少なくとも3回のUV処理に付すことを含む。
【0065】
代替方法において、細胞破壊性DNA損傷処理は、サンプルを、遺伝毒性物質、例えば溶媒、マイトマイシン又はHなどと接触させることを含む。遺伝毒性物質はまた、照射と組み合わせて使用されてもよいことが理解されるべきである。
【0066】
処理段階の間、サンプルは好ましくは、適切な培地、例えば限定するものではないが、PGY(10g/L バクトペプトン(Bacto-peptone)、5g/L 酵母抽出物、1g/L グルコース)、又は、LB(10g/L バクトトリプトン(Bacto-tryptone)、2.5g/L 酵母抽出物、10g/L 塩化ナトリウム)などに置かれる。他の適切な培地は、当業者には公知であり(Buchanan et al, 1974, Difco, 1995)、又は、そのような公知の培地から当業者によって調製されうることが理解されるべきである。
【0067】
処理工程b)は典型的に、ゲル(例えば寒天)の存在下など、固体又は半固体培地において、実施される。最も好ましい処理培地は、軟寒天培地などの寒天培地を含む。特定の実施態様において、PGY寒天培地が、バクテリアを成長させるために使用される。しかしながら、炭素源、窒素源及び無機塩類を含有する異なる固体培地も、同様に使用することができる。階段希釈技術もまた、Schoenborn et al . (2004)にしたがって使用することができる。
【0068】
工程c)において、生存しているか又は成長しているバクテリアが、処理されたサンプルから同定されるか又は単離される。生存しているか又は成長しているバクテリアは、当技術分野においてそれ自体が公知である異なる手段によって同定されてもよい。特定の実施態様において、培地中に形成するコロニーが同定される。生存しているか又は成長しているバクテリアは、単離され、さらなる培養又は増殖のために新鮮な培地に置かれることができる。
【0069】
好ましい実施態様において、工程b)におけるバクテリアは、唯一の炭素源として、リグニン(好ましくは0.05〜3重量%)、セルロース(好ましくは0.5〜3重量%)、及び/又はキシラン(好ましくは0.5〜3重量%)を含む最少培地で培養される。リグニン、セルロース、及びキシランは、商業的供給源から入手してもよい(リグニン:Sigma, France;CMC及びキシラン:Fluka, France)。最少培地の供給源は、実施例で提供されている。先に記載されているような、他の最少培地が使用されてもよい(Rainey, F.A., et al. 2005. Appl Environ Microbiol. 71 (9):5225-35; Ferreira, A.C., et al, 1997. Int J Syst Bacteriol. 47(4):939-47; Kongpol A et al, 2008. FEMS Microbiol Lett. 286(2):227-235)。
【0070】
本発明の方法は、特定の特性を有するバクテリアを選択する1つ又は幾つかの追加工程を含むことができる。より詳細には、好ましい実施態様において、本方法は、培地、温度、pH、塩分、栄養分、酸素添加又は炭素源などの選択された培養条件下で生存可能であるか又は成長するバクテリアを選択する1つ又は幾つかの工程をさらに含む。この目的のために、サンプル又はバクテリアは、工程b)もしくはc)のいずれか一方の間、又は、前の工程もしくは後続の工程の間、適切な選択条件下に置かれることができ、結果として生じる特性は、これらの工程のうちのいずれかの間に選択される。
【0071】
本発明の特定の態様において、バクテリアは、約4〜70℃まで温度範囲で生存可能であるか又は成長させることができるバクテリアを同定するか又は単離するために、特定の温度条件下で培養される。より詳細には、バクテリアは、所望の温度で生存可能であるか又は成長することができるバクテリアを同定するか又は単離するために、工程b)及び/又はc)の間、及び/又は追加工程の間、選択された温度で維持される。
【0072】
本発明の別の特定の態様において、バクテリアは、場合により約5%重量/容量に達するNaCl又は等価な塩類の濃度条件下で、生存可能であるか又は成長させることができるバクテリアを同定するか又は単離するために、特定の塩分条件下で培養される。より詳細には、バクテリアは、所望の塩分で生存可能であるか又は成長させることができるバクテリアを同定するか又は単離するために、工程b)及び/又はc)の間、及び/又は追加工程の間、選択された塩分で維持される。
【0073】
本発明のさらなる特定の好ましい実施態様において、バクテリアは、約3〜9.5の間、好ましくは4〜8の間のpH間隔で生存可能であるか又は成長させることができるバクテリアを同定するか又は単離するために、特定のpH条件下で培養される。より詳細には、バクテリアは、所望のpHで生存可能であるか又は成長させることができるバクテリアを同定するか又は単離するために、工程b)及び/又はc)の間;及び/又は追加工程の間、選択されたpHで維持される。
【0074】
本発明のさらなる特定実施態様において、バクテリアは、好気的及び/又は嫌気的条件で生存可能であるか又は成長させることができるバクテリアを同定するか又は単離するために、特定の酸素添加条件下で培養される。より詳細には、バクテリアは、所望の条件で生存可能であるか又は成長させることができるバクテリアを同定するか又は単離するために、工程b)及び/又はc)の間;及び/又は追加工程の間、選択された酸素添加条件下で維持される。
【0075】
本発明のさらなる特定実施態様において、バクテリアは、選択された炭素源の存在下で生存可能であるか又は成長させることができるバクテリアを同定するか又は単離するために、特定の培地で培養される。より詳細には、バクテリアは、所望の炭素源を使用して生存可能であるか又は成長させることができるバクテリアを同定するか又は単離するために、工程b)、c)及び/又はd)の間、及び/又は追加工程e)の間、その培地下で維持される。
【0076】
上記の特徴は、個別に又は任意の組合せで選択されうることが理解されるべきである。例えば、本方法は、所望の温度及び塩分で、又は所望の温度及びpHで、又は所望の温度、pH及び酸素添加条件で、生存可能であるか又は成長させることができるバクテリアを同定するために使用することができる。
【0077】
さらに、本発明の方法は、同定もしくは単離されたバクテリア、又はそれらのDNAを、例えば生物学的、遺伝学的及び/又は化学的のいずれかで、当技術分野においてそれ自体が公知である任意のプロセスによって、改変するさらなる工程を含んでもよく、該改変は、例えば該バクテリアの生存度、成長又は機能、例えば酵素活性を改善することを目的とする。このような改変工程は、細胞融合、加速進化、DNAシャフリング、突然変異生成、別の菌株からの真核生物、原核生物もしくは合成の核酸(例えばDNA)の挿入、又は任意の遺伝子工学技術を非限定的に含む。改変はまた、標識遺伝子(例えばカナマイシン耐性)をバクテリア内に導入する工程を含んでもよい。該改変工程は、単離されたバクテリアに、又は、例えば上記プロセスの任意のより早期の段階で、例えば工程a)のサンプルに、行うことができる。
【0078】
本発明のさらなる目的は、上記方法によって得られるバクテリアである。
【0079】
より詳細には、本発明の目的は、単離されたバクテリアにあり、ここで該バクテリアは、少なくとも30℃の温度で、唯一の炭素源としてのリグニン又はセルロース又はキシランの存在下で成長し、かつ、4mJ/cm2のUV処理に耐える能力を有する。これらの特色の組合せは、前例がなく、リグノセルロース系バイオマスの開発への新規の道を提供する。特に、上記のUV処理に耐え、かつ30℃以上で成長する能力は、バイオマスの性質に適合する特別な厳しい産業条件下におけるバクテリアの使用を可能にする。唯一の炭素源としてのリグニン、セルロース又はキシランの存在下で成長する(すなわち、炭素源としてリグニン、セルロース又はキシランを使用する)能力によって、バクテリアは、任意の種類のリグノセルロース系バイオマスを変換するのに適するものとなる。
【0080】
さらに好ましい実施態様において、バクテリアは、炭素源としてリグニン、セルロース及びキシランを使用する能力を有する。実際、本発明者は、リグノセルロース系バイオマスの全ての主要構成要素を分解することができるバクテリアを同定した。
【0081】
さらに、実験の項において例示するように、好気的条件又は嫌気的条件又はその双方のいずれかにおいて成長することができるバクテリアが、本発明者によって同定された。特定で有利な実施態様において、本発明は、好気的条件又は嫌気的条件の双方で成長させるか又は培養することができる、上記で定義したようなバクテリアに関する。本発明は実際に、バクテリアを、様々な基質から多量のバイオエネルギー生成物又は代謝生成物を生成するのに適する嫌気的条件などの条件下で機能させることができることを予想外に示す。したがって、本発明は、リグノセルロース系バイオマス及び/又はリグノセルロース系バイオマス成分、すなわち、セルロース、ヘミセルロース及びリグニンから、バイオエネルギー生成物又は代謝生成物を非常に効率的な方法で生成するための新規の手段及び組成物を提供する。
【0082】
本発明の好ましいバクテリアは、発酵性糖を生成するためにリグノセルロース系バイオマスを加水分解することができ、好気的条件又は嫌気的条件において培養されることができる。
【0083】
本発明のバクテリアは好ましくは、デイノコッカス属、バチルス属、ミクロバクテリウム属、セルロシミクロビウム属、メチロバクテリウム属、スフィンゴバクテリウム属、シュードモナス属、カルディモナス属、パエニバチルス属、ゴードニア属、ロドコッカス属、ステノトロホモナス属、ノボスフィンゴビウム属、スフィンゴモナス属、フラボバクテリウム属、スフィンゴビウム属、スフィンゴピキシス属、又はポルフィロバクター属から選択される属に属する。
【0084】
本発明の好ましいバクテリアは、以下の特徴を示す:
・高温(例えば約30〜70℃)で生存可能又は機能的で、
・嫌気的条件で生存可能又は機能的で、
・4mJ/cm2のUV処理に耐え;そして
・セルロース消化を促進してグルコースを産生することができる。
【0085】
本発明の他の好ましいバクテリアは、以下の特徴を示す:
・高温(例えば約30〜70℃)で生存可能又は機能的で、
・嫌気的条件で生存可能又は機能的で、
・4mJ/cm2のUV処理に耐え;そして
・炭素源としてリグニンを使用することができる。
【0086】
本発明の他の好ましいバクテリアは、以下の特徴を示す:
・高温(例えば約30〜70℃)で生存可能又は機能的で、
・嫌気的条件で生存可能又は機能的で、
・4mJ/cm2のUV処理に耐え;そして
・炭素源としてキシランを使用することができる。
【0087】
本発明の他の好ましいバクテリアは、以下の特徴を示す:
・高温(例えば約30〜70℃)で生存可能又は機能的で、
・嫌気的条件で生存可能又は機能的で、
・4mJ/cm2のUV処理に耐え;
・炭素源としてリグニンを使用することができ;そして、
・セルロース消化を促進しグルコースを産生することができる;及び/又は、
・キシラン消化を促進しキシロースを産生することができる;及び/又は、
・炭素源としてキシランを使用することができる。
【0088】
バクテリアは、適切な培地、例えば限定するものではないが、PGY(10g/L バクトペプトン、5g/L 酵母抽出物、1g/L グルコース)、又は、LB(10g/L バクトトリプトン、2.5g/L 酵母抽出物、10g/L 塩化ナトリウム)などに維持されるか、又は培養されてもよい。他の適切な培地は、当業者には公知であるか(Buchanan et al, 1974, Difco, 1995)、又は、そのような公知の培地から当業者によって調製されうることが理解されるべきである。
【0089】
本発明のバクテリアの特定の例示的な例は、それらの単離技術及び特性と共に、実験の項に提供されている。他のバクテリアは、本発明の教示にしたがって単離されるか又は特徴付けられてよいということが理解されるべきである。
【0090】
本発明のさらなる目的は、リグノセルロース系バイオマスから有益な生成物を生成するための、本発明者によって提供された通りのバクテリア又はその抽出物の使用にある。
【0091】
この点に関しては、本発明は、リグノセルロース系バイオマスを加水分解するための、このようなバクテリア又はその抽出物の使用に関する。
【0092】
本発明はまた、リグノセルロース系バイオマスをバイオエネルギー生成物又は代謝生成物に変換するための、このようなバクテリア又はその抽出物の使用に関する。
【0093】
本発明はまた、リグノセルロース系バイオマスを発酵性糖に分解する方法に関し、該方法は、該リグノセルロース系バイオマスを、本発明のバクテリア又はその抽出物に曝露することを含む。
【0094】
本方法は、グルコース、セロビオース、マンノース、キシロース、アラビノース又はガラクトースから選択される発酵性糖を生成することに特に適している。
【0095】
本発明のさらなる目的は、リグノセルロース系バイオマス、及び本発明のバクテリア又はその抽出物を含む反応器又は発酵槽である。
【0096】
本発明のさらなる目的は、バイオエネルギー生成物又は代謝生成物、特にエタノールを生成する方法であり、該方法は、リグノセルロース系バイオマスを本発明のバクテリア又はその抽出物に曝露することを含む。本方法は好ましくは、該バイオエネルギー生成物又は代謝生成物を収集する工程をさらに含む。
【0097】
本発明のさらなる目的は、上記方法によって得たバイオエネルギー生成物又は代謝生成物である。
【0098】
培養又は曝露は、リグノセルロース系バイオマスの改変がバイオエネルギー生成物又は代謝生成物を生成することを可能にする、任意の適切な条件又は環境において行われうる。この点に関しては、本方法は、必要に応じて、反応器内、発酵槽内、屋外、適切な栄養分又は添加物の存在下で、実施されうる。本方法は典型的には、pH条件下、40℃を超える温度、及び適切な基質の存在下で行われる。
【0099】
上記方法において、バクテリアを培養及び/又は成長させる工程、ならびにバイオマスをバイオエネルギー生成物又は代謝生成物に変換する工程は、同時又は順次のいずれかで行うことができ;バイオエネルギー生成物又は代謝生成物を収集する工程は、第1及び/又は第2工程と同時に、あるいは順次行うことができる。この点に関して、バイオマスをバクテリアと、そのバクテリアの増殖を可能にする適切な条件下で接触させ、それによって、プロセスの効率を増すことができる。代替的に、バクテリア菌株を、適切な培養条件下で別個に増殖させ、その後バイオマスに加えることができる。バイオマスを相当なバイオエネルギー生成物又は代謝生成物に効率的に変換するために最初に使用されるバクテリアの正確な量は、バクテリアの種類、バイオマスの種類、及び培養条件に応じて、当業者によって調整されうることが理解されるべきである。
【0100】
本方法の特定の実施態様において、バクテリアは、バイオマス転換とは別に成長させられる。
【0101】
特定の実施態様において、本発明の方法は、バイオマスの転換の反応器内で実施される。「反応器」によって、従来の発酵タンク、あるいは、本発明を実践するために特別に設計され、したがって特にバイオリアクター、バイオフィルター、回転生物接触器ならびにバイオマス処理のための他の気相及び/又は液相バイオリアクターからなる、バイオマス転換のための任意の装置又はシステムが意味される。本発明にしたがって使用されうる装置は、連続的に、又はバッチ負荷で使用されうる。
【0102】
反応器において、本発明の方法を実践するために、本発明の少なくとも1つのバクテリア又はバクテリア抽出物が使用され、同時に、該バクテリアが検討中の適用のために使用可能であるように、そして場合によってバクテリア成長がその中で可能で、好ましくは促進されるように物理化学的条件がその中で設定され維持されるように、該反応器は準備され供給される。
【0103】
本発明の方法の別の実施態様において、バクテリアは、バイオマスの転換の間、反応器内で成長させられ、その間、このバクテリア成長が可能で、好ましくは促進されるような適切な物理化学的条件が設定され維持されている。
【0104】
本発明の代替実施態様において、バイオマスの転換は、好気生活下、嫌気生活又は微好気生活下で行われる。
【0105】
本発明のさらなる態様及び利点は、実施例において開示されており、それらは例示的であり、保護の範囲を限定するものではない。
【0106】
実施例
材料及び方法
選択試験及び培地組成
【0107】
167サーマス培地
【表1】

【0108】
リン酸緩衝液
【表2】

【0109】
最少培地の組成
・MOPS緩衝液 1X(ph7):40mM 酸MOPS緩衝液、20mM NHCl、10mM KOH、10mM NaOH、0,5μM CaCl、0,276mM NaSO、0,528mM MgCl含有。
・微量栄養素の溶液(pH5):3nM (NH(MO24、400nM HBO、30nM CoCl、10, nM CuSO、250nM MnCl、10nM ZnSO
・ビタミンの溶液、pH4.0、(各々1μg/l):D−ビオチン、ナイアシン、ピリドキサール−HCl、チアミン−HCl、ビタミンB12
・リン酸塩源:5.7mM KHPO
・20μM FeCl(クエン酸ナトリウムの溶液に調製して濾過した)。
【0110】
バクテリアのセルラーゼ活性の検出:
原理:
試験は、セルロースの分解中の、NADのNADHへの転換の追跡調査に基づく。次に吸光度の増加を、供給業者の指示にしたがって340nmで監視する。
【0111】
エタノール生成の検出:
エタノールは、2つの方法を使用して定量化することができる。
【0112】
酵素法:
ADH
エタノール+NAD―――――――――>アセトアルデヒド+NADH
【0113】
この方法は、エタノール及びアルコールデヒドロゲナーゼの存在下での、NADのNADHへの転換の追跡調査に基づく。
【0114】
この反応は、340nmでの吸光度における増加で置き換えられる。この測定について、Sigma N7160キットを、製造業者の指示にしたがって使用することができる。
【0115】
逆相高速液体クロマトグラフィーによる測定
条件:
自動注入器を備えたHPLC Gilson、屈折率測定による検出、
カラム:Phenomenex Rezex ROA、300mm×7.8mm
カラム温度:65℃
移動相:0.005N 硫酸
流量:0.600ml/分
【0116】
最初に、既知濃度のエタノールを含有する培地をカラムに注入することによって、較正曲線を作成した。エタノールに対応して22.26分に溶離されたピーク面積を測定した。較正曲線をプロットした。
【0117】
次に、バクテリアによって生成されたエタノールの量を、培養上清をカラムに注入することによって測定した。22.26分に溶離された、エタノールに対応するピーク面積を測定した。上清中に存在するエタノールの濃度を、較正曲線と比較することによって推定した。
【0118】
恐らく多様な割合で生成される他の代謝生成物の検出及び定量化は、従来方法の分析及び評価にしたがってなされうる。
【0119】
実施例1−炭素源としてセルロースを使用し嫌気生活で成長する好熱性UV耐性バクテリアの選択(図1)
紫外線に対する耐性のために選択され、環境サンプルから単離された(4時間間隔で4mJ/cm2の処理3回)好熱性バクテリアを、関心対象の炭素源:カルボキシメチルセルロース(CMC;Fluka, France)又はカバ材からのキシラン(Fluka, France)を1%含有する、オートクレーブ処理(120℃で15分間)によって殺菌された固体最少培地に接種した。最少培地は、pH7の濾過されたMOPS緩衝溶液:40mM 酸MOPS緩衝液(Sigma, France)、20mM NHCl、10mM KOH、10mM NaOH、0.5μM CaCl、0,276mM NaSO、0.528mM MgCl)、pH5の微量栄養素の溶液(3nM (NH(MO24、400nM HBO、30nM CoCl、10nM CuSO、250nM MnCl、10nM ZnSO)、pH4のビタミンの溶液(1μg/LのD−ビオチン、ナイアシン、ピリドキサール−HCl、チアミン−HCl、及びビタミンB12)、5.7mMのKHPOの溶液、ならびにNaH(CO(COO))中20μMのFeClの溶液から構成した。
【0120】
嫌気生活の条件を、GENbag anaer(BioMerieux, France)を加えることによって確実にした。45℃で4〜5日間、嫌気生活でのインキュベーションの後、培地中に存在する炭素源を使用するコロニーが目で確認できた(図1を参照)。
【0121】
M11−2Fで示されるUV耐性バクテリアは、嫌気生活で、そして唯一の炭素源としてCMCを使用することによって45℃で成長することができた。
【0122】
このように、このバクテリアは、産業条件下でリグノセルロース系バイオマスを有益な生成物に変換することができた。
【0123】
実施例2−嫌気生活でキシランを使用する好熱性UV耐性バクテリアの選択(図2)。
紫外線に対する耐性のため環境サンプルから選択された(4時間間隔で4mJ/cm2の処理3回)好熱性バクテリアを、関心対象の炭素源:カルボキシメチルセルロース(CMC;Fluka, France)又はカバ材からのキシラン(Fluka, France)を1%含有する、オートクレーブ処理(120℃で15分間)によって殺菌された固体最少培地に接種した。最少培地は、pH7の濾過されたMOPS緩衝溶液:40mM 酸MOPS緩衝液(Sigma, France)、20mM NHCl、10mM KOH、10mM NaOH、0.5μM CaCl、0,276mM NaSO、0.528mM MgCl)、pH5の微量栄養素の溶液(3nM (NH(MO24、400nM HBO、30nM CoCl、10nM CuSO、250nM MnCl、10nM ZnSO)、pH4のビタミンの溶液(1μg/LのD−ビオチン、ナイアシン、ピリドキサール−HCl、チアミン−HCl及びビタミンB12)、5.7mMのKHPOの溶液、ならびにNaH(CO(COO))中20μMのFeClの溶液から構成した。
【0124】
嫌気生活の条件は、GENbag anaer(BioMerieux, France)を加えることによって確実にした。45℃で4〜5日間、嫌気生活でのインキュベーションの後、培地中に存在する炭素源を使用するコロニーが目で確認できた(図2を参照)。
【0125】
M11−3Cで示されるUV耐性バクテリアは、嫌気生活で、そして唯一の炭素源としてカバ材からのキシランを使用することによって45℃で成長することができた。
【0126】
M11−9Dで示されるUV耐性バクテリアは、嫌気生活で、そして炭素源としてCMC又はキシランのいずれかを含有する培地において45℃で成長することができた。
【0127】
このように、これらのバクテリアは、産業条件下で、リグノセルロース系バイオマスを有益な生成物に変換することができた。
【0128】
実施例3−炭素源としてリグニンを使用することができるUV耐性バクテリアの選択(図3)
紫外線に対する耐性のため環境サンプルから選択された(4時間間隔で4mJ/cm2の処理3回)バクテリアを、0,1%のリグニン(Sigma, France)を含有する、固体最少培地に接種した。最少培地の組成は、前の実施例に記載されている。30℃で4〜5日間のインキュベーションの後、炭素源として培地中に存在するリグニンを使用するコロニーが目で確認できた(リグニンを分解するバクテリアは培地を脱色した)。結果は、図3ならびに以下の表1及び表2において表した。
【0129】
【表3】

【0130】
【表4】

【0131】
このように、これらすべてのバクテリアは、産業条件下でリグノセルロース系バイオマスを有益な生成物に変換することができた。スフィンゴバクテリウム属、ミクロバクテリウム属、又はセルロシミクロビウム属に属するバクテリアによる炭素源としてのリグニンの使用は、これまで記載されていなかった。
【0132】
実施例4−リグノセルロース系バイオマス転換
富栄養培地で実施された液体培養からのバクテリアサンプルを、脱イオン水で洗浄した後、40mM 酸MOPS緩衝液(Sigma, France)、20mM NHCl、10mM KOH、10mM NaOH、0.5μM CaCl、0,276mM NaSO、0.528mM MgCl)、pH5の微量栄養素の溶液(3nM (NH(MO24、400nM HBO、30nM CoCl、10nM CuSO、250nM MnCl、10nM ZnSO)、pH4のビタミンの溶液(1μg/LのD−ビオチン、ナイアシン、ピリドキサール−HCl、チアミン−HCl及びビタミンB12)、5.7mMのKHPOの溶液、ならびにNaH(CO(COO))中20μMのFeClの溶液を含有する20ml最少培地に接種した(1/10)。
【0133】
ペーパージャーナル及び/又はワットマン紙を、リグノセルロース系バイオマス源及び炭素源として使用した。約140mgのペーパージャーナルを、先に記載した培地に加えた。ペーパージャーナル及び/又はワットマン紙の分解を数週間監視して、対照管(培地中にいかなるバクテリアも含まない)と比較した。
【0134】
結果は、図4に示した。デイノコッカス菌株DRH46は、ペーパージャーナル及び/又はワットマン紙を分解することができた。分解は、数週間の成長後に濁る、培地中の紙繊維の遊離によって視覚化した(対照管と比較されたい)。
【0135】
実施例5−検出可能レベルのエタノールを生成するUV耐性のセルロース分解性及びキシラン分解性デイノコッカスの選択
紫外線に対する耐性のため環境サンプルから選択された(4時間間隔で4mJ/cm2の処理3回)バクテリアを、リグノセルロース基質の唯一の炭素源としてワットマンI濾紙又はキシランを含有する最少液体培地上に45℃で接種した。最少培地の組成は、前の実施例に記載されている。ワットマン紙Iは、バクテリアとの45℃でのインキュベーションの数週間後に分解されたのに対し、先に記載したのと同じ方法で処理したがバクテリアを含有しないワットマンI濾紙(対照)では分解は見られなかった。加えて、唯一の炭素源としてのキシラン中で成長させられたバクテリアを含有する培地における不透明度の増加は、バクテリアを含有しない対照培地と比較して、45℃での数日のインキュベーション後に見られ、このような条件下でのバクテリア成長を示す。次に、菌株の代謝特性が決定され、エタノールを生成するそれらの能力を評価した。同定された様々な菌株の中で、以下は、セルロース分解性、キシラン分解性であり、エタノールを生成するものとして挙げることができる。
【0136】
【表5】

【0137】
この実施例はさらに、本発明の方法の有効性、及び主張されている方法を様々なサンプルに適用する場合に、選択された注目すべき特性を有するバクテリアを単離する能力を例示するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バクテリアを選択又は同定する方法であって、下記工程:
a)バクテリアを含むサンプルを提供すること;
b)前記サンプルを反復照射処理に付すこと;及び
c)前記処理されたサンプルから、炭素源としてのリグニン、セルロース及び/又はキシランの存在下で生存するか又は成長する能力を有するバクテリアを単離すること
を含む、方法。
【請求項2】
サンプルは、環境サンプルであるか、又はそれに由来し、好ましくは、土壌、水、温泉、海洋環境、泥、木、石、コケ、植物性抽出物、地衣、生物材料、堆積物、泥炭地、バイオフィルム、工業廃水、ガス、砂、油、汚水、動物もしくはヒト排泄物から得るか、あるいはそれらに由来する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
照射処理は、大腸菌の培養においてバクテリア力価を少なくとも2ログ減少させる処理である、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記処理は、UV、γ、及び/又はX線照射から単独又は組み合わせのいずれかで選択された幾つかの照射を含み、最も好ましくは、UV照射である、請求項1〜3のいずれか一項記載の方法。
【請求項5】
処理は、1〜8時間の間の間隔で行う、各々0.5〜400mJ/cm2の間、より好ましくは1〜200mJ/cm2の間、典型的には1〜100mJ/cm2の間のUV処理に少なくとも2回、好ましくは少なくとも3回、サンプルを付すことを含む、請求項4記載の方法。
【請求項6】
工程b)を、固体培地内で実施する、請求項1〜4のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
工程b)及びc)を、順次、任意の順番、又は同時に実施する、請求項1〜5のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
同定もしくは単離されたバクテリア、又はそれらのDNAを、生物学的、遺伝学的及び/又は化学的のいずれかで改変し、前記バクテリアの生存度、成長又は機能を改善する工程をさらに含む、請求項1〜7のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
工程c)は、唯一の炭素源としてのリグニンの存在下で成長するバクテリアの選択を含む、請求項1〜8のいずれか一項記載の方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項記載の方法によって得られ得るバクテリア又はその抽出物。
【請求項11】
少なくとも30℃の温度で、唯一の炭素源としてのリグニンの存在下で成長し、かつ、4mJ/cm2のUV処理に耐える能力を有する、単離したバクテリア又はその抽出物。
【請求項12】
少なくとも30℃の温度で、炭素源としてセルロース及びキシランを利用し、かつ、4mJ/cm2のUV処理に耐える能力を有する、単離したバクテリア又はその抽出物。
【請求項13】
炭素源としてリグニン、セルロース、及びキシランを使用する能力を有する、請求項11又は12記載のバクテリア。
【請求項14】
発酵性糖を生成するためにリグノセルロース系バイオマスを加水分解することができる、請求項11又は12記載のバクテリア。
【請求項15】
好気的及び嫌気的条件において培養することができる、請求項10〜14のいずれか一項記載のバクテリア。
【請求項16】
デイノコッカス属、バチルス属、ミクロバクテリウム属、セルロシミクロビウム属、メチロバクテリウム属、スフィンゴバクテリウム属、シュードモナス属、カルディモナス属、パエニバチルス属、ゴードニア属、ロドコッカス属、ステノトロホモナス属、ノボスフィンゴビウム属、スフィンゴモナス属、フラボバクテリウム属、スフィンゴビウム属、スフィンゴピキシス属、又はポルフィロバクター属から選択される属に属する、請求項10〜15のいずれか一項記載のバクテリア。
【請求項17】
リグノセルロース系バイオマスを加水分解するための、請求項10〜16のいずれか一項記載のバクテリア又はその抽出物の使用。
【請求項18】
リグノセルロース系バイオマスを発酵性糖に分解する方法であって、
前記リグノセルロース系バイオマスを、請求項10〜16のいずれか一項記載のバクテリア又はその抽出物に曝露することを含む、方法。
【請求項19】
発酵性糖は、グルコース、セロビオース、マンノース、キシロース、アラビノース又はガラクトースから選択される、請求項18記載の方法。
【請求項20】
リグノセルロース系バイオマス、及び請求項10〜16のいずれか一項記載のバクテリア又はその抽出物を含む、反応器又は発酵槽。
【請求項21】
バイオエネルギー生成物又は代謝生成物を生成するための、請求項10〜16のいずれか一項記載のバクテリア又はその抽出物の使用。
【請求項22】
バイオエネルギー生成物又は代謝生成物を生成する方法であって、
発酵性糖を生成するために、リグノセルロース系バイオマスを、請求項10〜16のいずれか一項記載のバクテリア又はその抽出物に曝露すること、及び
前記糖をバイオエネルギー生成物又は代謝生成物に発酵することを含む、方法。
【請求項23】
発酵は、請求項10〜16のいずれか一項記載のバクテリアを使用して実施する、請求項22記載の方法。
【請求項24】
前記バイオエネルギー生成物又は代謝生成物を収集することをさらに含む、請求項22又は23記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公表番号】特表2012−517817(P2012−517817A)
【公表日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−550539(P2011−550539)
【出願日】平成22年2月16日(2010.2.16)
【国際出願番号】PCT/EP2010/051885
【国際公開番号】WO2010/094665
【国際公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(511174454)
【氏名又は名称原語表記】DEINOVE
【出願人】(595040744)サントル・ナショナル・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・シャンティフィク (88)
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE
【Fターム(参考)】