説明

リシン化合物並びにペプチド及びタンパク質の部位選択的及び官能基選択的修飾におけるそれらの使用

本発明は、ペプチド及びタンパク質のための構築ブロックとして使用することができ、前記ペプチド及びタンパク質の部位選択的及び官能基選択的修飾のための連結ハンドルを形成する新規なチオリシン化合物及びセレノリシン化合物に関する。特に、本発明は、化合物5−チオリシン(δ−チオリシンとも呼ばれる);4−チオリシン(γ−チオリシンとも呼ばれる);5−セレノリシン(δ−セレノリシンとも呼ばれる)及び4−セレノリシン(γ−セレノリシンとも呼ばれる)(の使用)を提供する。それぞれの炭素原子におけるチオール基又はセレノール基の位置決めによって、非常に効率的な分子内転移反応を、選択されたリガンドとのコンジュゲーションの後に行うことが可能になり、チオール基又はセレノール基は、その後に、報告されている手順で除去することができ、それによって天然のリシン構造を復元し、又は追加のコンジュゲーションハンドルとして使用することができる。この方法は高速であり、明確に定義された材料をもたらす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペプチド及びタンパク質の部位選択的及び官能基選択的修飾の分野に関する。特に、本発明は、前記ペプチド及びタンパク質用の構築ブロックとして使用することができる新規なチオリシン化合物及びセレノリシン化合物を提供する。このように含められるリシン残基は、その後に機能性剤とのコンジュゲーション用の標的部位として作用することができ、その機能性剤は、典型的には次いでチオリシン残基又はセレノリシン残基のεアミン又はαアミンに転移される。本発明は、選択されたペプチド配列又はタンパク質配列のこれらの部位選択的及び官能基選択的修飾プロセス、並びにこのようなプロセスのそれぞれのステップにおいて得られる中間体及び最終生成物にも関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質の部位特異的共有結合的修飾は、生体系において極めて重要なプロセスである。酵素修飾(リン酸化、グリコシル化、硫酸化、アセチル化、メチル化、イソプレニル化、ユビキチン化、SUMO化、NEDD化など)は、タンパク質局在化及び輸送、シグナル伝達、転写制御、並びに標的タンパク質の破壊を含めて、細胞プロセスにおいて重要な役割を果たす。タンパク質表面の天然修飾を再現することは、それらの機能を研究するのに貴重である。
【0003】
フルオロフォア、アフィニティーラベル、スピンラベルプローブ、放射性ラベル及び他の(バイオ直交性)官能基などの「非天然」部分のタンパク質及びペプチドへの部位特異的共有結合的付加も、インビボ及びインビトロの両方において非常に多様な用途及びプロセスに有用であることがわかっている。
【0004】
生体適合性合成有機化学の進歩につれて、連結成分の性質及び連結反応の選択について高い多様性が可能になり、成功の機会に満ちた全く新しい分野が開けてきている。化学的連結は、第1の化学成分の第2の化学成分との官能基選択的共有結合に伴って生じる。タンパク質又はペプチド及び第2の連結成分上に存在する独自の相互反応性官能基を使用して、連結反応を官能基選択的なものにすることができる。しかし、タンパク質又はペプチドを選択的に修飾する強固な方法の開発は、典型的なタンパク質に存在する官能基の種類及び数のため、依然としてかなり難題である。一般に、タンパク質を部位特異的に修飾して、コンジュゲートされた官能基とタンパク質又はペプチドの固有特性を最適に組み合わせることが求められ、又は必要とされている。したがって、このような修飾タンパク質への制御された選択的アクセスには、独自のバイオ直交性化学的ハンドル又は付着部位が、所望の分子のそれへの連結又はコンジュゲーションにしばしば必要とされる。
【0005】
バイオコンジュゲートの生成方法の大半は、タンパク質表面のアミン(リシン側鎖及びN末端)又はチオール(システイン側鎖)の求核性を利用するものである。タンパク質の部位特異的修飾には、修飾部位を単一位置に限定するために、タンパク質のリシン残基全部が置換されている変異体又はシステイン残基の1つだけを除いて全部が置換されている変異体を設計することを含む方法が提案されてきた。
【0006】
N−ヒドロキシスクシンイミジル−エステルなどの活性化された酸を使用して、アミンを標的とすることができる。しかし、タンパク質は、典型的には複数のアミンを含有し、さらにはタンパク質のアミノ末端のpKがリシン側鎖に比べて低下しており、この標識は一般に非特異的である。この問題を克服するために、研究者らは、表面リシンをすべてなくすようにタンパク質標的を進化させるところまで行ってきた。研究者らは、腫瘍壊死因子α(TNF−α)についてファージディスプレイ法による選択を行って、リシン欠損タンパク質を進化させ、N末端において残存する単一アミンの部位特異的ペグ化を可能にした。N末端だけに修飾を行って進化させたTNF−αは、ランダムに標識した野生型TNF−αに比べて改善された安定性及び生物活性を有する。一般に、すべての部位の大部分において所与のタイプ(単数又は複数)のアミノ酸を置換する大規模なアミノ酸置換は、タンパク質活性の低下という欠点を伴うものであった。
【0007】
アミン標識より、システイン標識は、チオール基がより求核性なので典型的には特異的であり、単一のシステインを、部位特異的突然変異誘発によって、タンパク質の機能に影響を及ぼすことなく導入することができる。突然変異誘発によって導入されたシステインは、チオールと優先的に反応する低分子結合マレイミド、α−ハロケトン、又は他の求電子性基で標識される。しかし、システインをベースとした方法単独では、2つのシステインの反応性が全く異なる場合を除いて、タンパク質に対する複数の修飾(蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)分析のために2つのフルオロフォアを導入するなど)を容易に行うことはできず、すべてのタンパク質標的が、機能を損なうことなくシステインの導入を可能にするとは限らない。
【0008】
天然アミノ酸中に存在する追加の官能基を標的とする別の方法は、タンパク質修飾を行う化学者の道具箱に加えられた貴重なツールと考えられる。
【0009】
Francis及び同僚(J.Am.Chem.Soc.、2004年、126巻、10256頁)は、トリプトファン残基とチロシン残基の両方を特異的に標的とすることができる反応を特定した。ロジウムカルベノイドを使用して、トリプトファンのインドール官能基の(N−1又はC−2における)選択的修飾を実現することができる。ミオグロビン又はスブチリシング・カールスバーグ(subtilising Carlsberg)に(それぞれ、2つ及び1つの表面トリプトファンについて)適用すると、修飾はトリプトファン残基のみに収率約50〜60%で起こる。系では、有機試薬を可溶性にするための共溶媒が必要とされるが、この共溶媒(エチレングリコール)はタンパク質標的を変性させないことが期待される。化学のさらに重大な限界は、極度に低いpH(1.5〜3.5)の要件であり、大部分のタンパク質の変性及びミオグロビンのヘム基の喪失を引き起こすものである。ミオグロビンを再構成する方法を用いれば、そのタンパク質の構造を回復することができるが、これらの極端な条件は多くの標的と適合しないであろう。しかし、結果が示唆することは、遷移金属錯体を、タンパク質における芳香族残基の特定のバイオコンジュゲーションに使用できる点である。
【0010】
Francis及び同僚(J.Am.Chem.Soc.、2004年、126巻、15942頁)は、アルデヒド及びアニリンをpH 6.5で使用して、チロシンを選択的に標的とするマンニッヒ型反応についても記載している。フルオロフォアをアニリンに付着させることによって、タンパク質の活性を変更することなく、ローダミンのキモトリプシノゲンAへのコンジュゲーションが実現される。様々なチロシンの相対的表面アクセシビリティーについては、特定のチロシン残基に対する選択性が考慮される。キモトリプシノゲンAでは、3つの表面チロシンのうちの1つが優先的に標的とされる。
【0011】
戦略の中には、非天然官能基を利用するものもある。このようなアミノ酸は、全合成、合成断片と生物学的に発現させた断片の連結である半合成、転移反応などを含めて様々な方法で導入することができる。これらの非天然バイオ直交性官能基の存在によって、天然アミノ酸側鎖基との偶発的な架橋反応又は他の反応が起こることなく、個々のターゲティングが可能になる。
【0012】
例としては、バイオ直交性連結ハンドルとしてタンパク質におけるアジドの制御された導入が挙げられる。この点で有用であることがわかっている反応は、Sharplessによって改良されたアルキンとアジドのHuisgen環化である。触媒量のCu(I)の存在下で、この環化は官能基選択的に行われて、1,4−二置換トリアゾール環が生成する。一般的な生物学的官能基との交差反応性はアルキンにもアジドにも見られず、これらの基は両方とも、生物学的条件下で安定である。この反応は、細胞表面上のウイルス粒子及びタンパク質の修飾から低分子活性プローブでタグを付けた糖結合タンパク質及び細胞性タンパク質の同定まで様々な用途で使用されてきた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記のことから明らかなように、選択的に修飾されたタンパク質が並外れて興味深いものであるにもかかわらず、現在利用可能な技法にはそれぞれ、特定の欠点がある。それに加えて、一般に使用可能で柔軟な方法が全く欠如している。したがって、選択的(バイオ直交性)連結ハンドルを形成するさらなる化学的戦略が、生物学に由来する方法を補完及び詳述するのに依然として必要とされている。本発明の目的は、このような戦略を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、新規で一般に適用可能であり、特に高速で柔軟で経済的である、ペプチド及びタンパク質の部位選択的及び官能基選択的修飾手法を提供する。本発明によれば、タンパク質又はペプチド合成において、ある種の新規なリシン化合物を構築ブロックとして使用し、部位選択的及び官能基選択的に修飾するための特定連結ハンドル(単数又は複数)を形成する。
【0015】
特に、本発明は、ペプチド又はタンパク質の部位選択的及び官能基選択的修飾を行うための特定のチオリシン化合物及びセレノリシン化合物、特に化合物5−チオリシン(δ−チオリシンとも呼ばれる)及び4−チオリシン(γ−チオリシンとも呼ばれる)、並びに5−セレノリシン(δ−セレノリシンとも呼ばれる)及び4−セレノリシン(γ−セレノリシンとも呼ばれる)の使用を伴う。本発明のリシン化合物は、本明細書で説明するように、市販の構築ブロックから比較的少ない数の合成ステップで高収率で容易に合成される。
【0016】
本リシン化合物の設計には、重要な2つの特徴がある。第1に、それぞれの炭素におけるチオール基又はセレノール基の位置決めによって、非常に効率的な分子内転移反応が起り得る。第2に、チオール基又はセレノール基は、報告された手順でその後に除去し、それによって本来のリシン構造を回復することができ、又は追加のコンジュゲーションハンドルとして使用することができる。この方法は高速であり、明確に定義された材料をもたらす。
【0017】
リシンのε−アミン、又は適用できる場合にはα−アミンの近くにチオール残基又はセレノール残基が存在すると、非常に好ましいSからN又はSeからNへのエステル交換反応が可能になり、それによって、選択された機能性剤が、チオエステル化又はセレノエステル化を介してペプチド又はタンパク質に導入され、前記ε−アミン又はα−アミンに転移される。
【0018】
実施例で極めて詳細に説明するように、本発明者らは、選択されたペプチド標的のユビキチン化における本発明のリシン構築ブロックの適用を実証した。全長ユビキチンチオエステル及び新たに開発されたアミノ酸5−チオリシンのE1媒介合成を使用することによって、本発明者らは、H2B、PCNA、PTEN及びp53に基づいて、選択された標的ペプチドにおけるリシン残基の部位特異的ユビキチン化を実証した。この方法は、他の機能性剤又はリガンドにも容易に適応可能である。連結後、穏やかな脱硫条件の使用は、ペプチド若しくはタンパク質中に存在する他の構築ブロック又は選択された機能性剤の機能的完全性に影響を及ぼさない。
【0019】
要約すれば、本発明は、ある種のリシン化合物、それらを合成する方法、並びにタンパク質又はペプチド合成における構築ブロック、典型的にはポリペプチド配列又はタンパク質配列の部位選択的及び官能基選択的修飾のためのバイオ直交性標的としてのそれらの使用に関する。本発明は、本リシン化合物を使用した、選択されたタンパク質配列又はペプチド配列を合成及び修飾する方法にも関する。さらに、本発明は、このような方法で得られた中間体及び最終生成物に関する。添付の特許請求の範囲で定義されている本発明の上記及び他の態様を、以下の説明及び実施例でさらに詳細に説明及び例示する。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の第1の態様は、式(Ia)若しくは(Ib)で表されるリシン化合物:
【化1】


[式中、−X−は(i)硫黄又は(ii)セレンを表し、−P及び−Pは、独立して、(i)水素又は(ii)アミン保護基を表し、−Pは、(i)水素;(ii)式−X−Rで表されるアルキルチオ、アルケニルチオ、アルキルセレノ又はアルケニルセレノ基(式中、−Rは、場合によっては置換されている分枝状又は直鎖状脂肪族又は環式のアルキル、ヘテロアルキル、アルケニル又はヘテロアルケニル部分を表す);(iii)チオール又はセレノール保護基;或いは(iv)−R部分又は(v)式−C(=O)−R5’で表される部分を表し、−R及び−C(=O)−R5’は、好ましくはペプチド、脂質、炭水化物、ポリマー、有機剤及び無機剤からなる群から選択される、共有結合したリガンドの残基を表し、−Rは、(i)水素或いは(ii)場合によっては置換されている分枝状又は直鎖状脂肪族又は環式のアルキル、ヘテロアルキル、アルケニル又はヘテロアルケニル部分を表す]、又は前記リシン化合物のエステル、塩、溶媒和物、若しくは水和物に関する。
【0021】
上記の式において、−X−は硫黄又はセレンを表すことができる。チオリシン化合物及びセレノリシン化合物も同様の方式で得られ、使用することができる。それにもかかわらず、本発明の利点は、チオリシン化合物で最も顕著であることが明らかになった。したがって、本発明の特に好ましい実施形態は、−X−が−S−を表す、以上に定義したリシン化合物に関する。
【0022】
上記の式において、−P及び−Pは、独立して、水素又はアミン保護基を表すことができる。当業者に理解されるように、本発明は、リシン化合物を非保護、部分保護又は完全保護された形で提供する。ペプチド合成における化合物の使用では、典型的にはすべての官能基の保護が必要とされるようになるので、本発明の特に好ましい実施形態は、式(Ia)又は(Ib)の保護されたリシン化合物(式中、−P1及び−P2は、独立して、選択されたアミン保護基を表す)に関する。
【0023】
「アミン保護基」という用語は、アミン窒素原子に容易に付着し、アミン窒素に結合しているときに、得られる保護されたアミン基を化合物の他の部分に実施される反応条件に対して不活性にし、適切なときに、除去して、アミン基を再生することができる任意の有機部分を指す。このようなアミン保護基の例は当業者に公知であり、その例としては、ホルミル、トリフルオロアセチル、フタリル、及びp−トルエンスルホニルなどのアシルタイプ;ベンジルオキシカルボニル(Cbz)及び置換ベンジルオキシ−カルボニル、1−(p−ビフェニル)−1−メチルエトキシ−カルボニル、及び9−フルオレニルメチルオキシカルボニル(Fmoc)などの芳香族カルバメートタイプ;tert−ブチルオキシカルボニル(Boc)、エトキシカルボニル、ジイソプロピルメトキシカルボニル、及びアリルオキシカルボニルなどの脂肪族カルバメートタイプ;シクロペンチルオキシカルボニルやアダマンチルオキシカルボニルなどの環式アルキルカルバメートタイプ;トリチルやベンジルなどのアルキルタイプ;トリメチルシランなどのトリアルキルシラン;並びにフェニルチオカルボニルやジチアスクシノイルなどのチオール含有タイプが挙げられるが、これらに限定されるものではない。好ましくは、本発明によるアミン保護基は、Cbz;p−メトキシベンジルカルボニル;Boc;Fmoc;ベンジル;p−メトキシベンジル;3,4−ジメトキシベンジル;p−メトキシフェニル;トシル;スルホンアミド;アリルオキシカルボニル;トリチル及びメトキシトリチルからなる群から選択されるが、それらはすべて、アミン保護基として市販されており、当技術分野において周知である。広範囲に及ぶ用途のため、ペプチド合成におけるこれらの基の使用に関与する正確な化学作用は詳細に記述されており、当業者の共通一般知識の一部分である。アミン保護基及び保護されたアミン基については、例えばC.B.Reese及びE.Haslam、「Protective Groups in Organic Chemistry」、J.G.W.McOmie編、Plenum Press、New York、N.Y.、1973年、3章及び4章にそれぞれ記載されており、またT.W.Greene及びP.G.M.Wuts、「Protective Groups in Organic Synthesis」、第2版、John Wiley and Sons、New York、N.Y.、1991年、2章及び3章に記載されている。
【0024】
上記の式において、−Pは、式−X−Rで表されるアルキルチオ、アルケニルチオ、アルキルセレノ又はアルケニルセレノ基を表すことができ、−Rは、場合によっては置換されている分枝状又は直鎖状脂肪族又は環式のアルキル、ヘテロアルキル、アルケニル又はヘテロアルケニル部分を表す。本明細書では、「場合によっては置換されている」という用語は、1種又は複数の置換基を含んでもよい、どんな種類のアルキル、ヘテロアルキル、アルケニル又はヘテロアルケニルでも包含することになっている。前記置換基は、窒素、酸素、硫黄、リン、ホウ素、塩素、臭素、又はヨウ素など、1種又は複数のヘテロ原子を典型的には組み込むことができる。−Pが式−X−Rの部分を表すとき、当業者に理解されるように、典型的にはジスルフィド又はジセレニド化合物が与えられ、その形の場合、γ位又はδ位の官能基を効果的にブロック又は保護することができる。したがって、−X−R部分が存在する場合その最小限の機能は、チオール又はセレノール部分を、例えばタンパク質又はペプチド合成時にブロックすることのみになるので、−Rの正確な構造はそれほど重要なものではない。好ましい実施形態において、−Rは、場合によっては置換されている低級アルキル又はアルケニル部分、より好ましくは場合によっては置換されているC〜Cアルキル又は場合によっては置換されているC〜Cアルケニル、最も好ましくはメチルスルフィドを表す。
【0025】
さらに、上記の式において、−Pは、チオール保護基又はセレノール保護基を表すことができる。「チオール保護基」及び「セレノール保護基」という用語は、チオール硫黄原子又はセレン原子に容易に付着し、前記原子に結合しているときに、得られる保護された基を化合物の他の部分に実施される反応条件に対して不活性にし、適切なときに、除去して、チオール基又はセレノール基を再生することができる任意の有機部分を指す。このような保護基の好適な例は当業者に公知である。好ましくは、本発明による保護基は、ベンジル;4−メトキシベンジル;トリチル;メトキシトリチル;t−ブチル;t−ブチルチオール;メチルチオール;アセチル;3−ニトロ−2−ピリジンスルフェニル;アセトアミドメチル;Cbz及び2−ニトロベンジルからなる群から選択される。チオール保護基の使用は、当技術分野において周知である。例えば、T.H.Greene及びP.G.M.Wuts、Protective Groups in Organic Synthesis、第3版、John Wiley & Sons、New York(1999年)を参照のこと。
【0026】
上記の式において、−R及び−C(=O)−R5’は、共有結合したリガンドの残基を表す。前記リガンドは、好ましくはペプチド、脂質、炭水化物、ポリマー、有機剤及び無機剤からなる群から選択される。好ましい実施形態において、前記リガンドはカルボキシル基を含み、それを介して、硫黄原子又はセレン原子に付着しており、その場合、−Pはアシルを表す。−Rは、リガンドと本リシン構築ブロックとの結合の性質に関してなんら制限のないリガンドを表すために本明細書で使用されることを理解されたい。したがって、式−C(=O)−R5’はカルボキシル基を含有するリガンドのチオエステル又はセレノエステルを特に意味するために使用されるものであるが、−Rに包含される。以下でさらに詳細に説明されるように、アシル、すなわち式−C(=O)−R5’で表される部分を、リシン構築ブロックのε−アミン(又は、α−アミンの場合もある)に転移させることができる。リガンドの−R残基がアシルでない場合、このような分子内転移は典型的には起こり得ない。というのは、その結合の反応性が低くなるからである。前記結合の反応性が低くなることの別の結果として、−Rがアシルを表さない場合にすでに存在している、本発明のリシン構築ブロックを使用して、ペプチドを好都合に合成することができる。ペプチドにおいて、リガンドがチオエステル又はセレノエステルとして組み込まれることができる場合、すなわちリガンドの前記残基がアシルである場合、ペプチドの合成後に連結を行うことがより好都合である。
【0027】
したがって、本発明の好ましい実施形態において、式(Ia)又は(Ib)における−Rはアシル部分を表さない。すなわち、−C(=O)−R5’を除く部分を表し、好ましくは場合によっては置換されている第一級、第二級又は第三級の脂肪族又は環式のアルキル、ヘテロアルキル、アルケニル又はヘテロアルケニルなどの第一級、第二級又は第三級の炭素構造を表し、チオエーテル又はセレノエーテル化合物が得られる。特に好ましい実施形態において、式(Ia)又は(Ib)における−Rは、ガラクトースなどの炭水化物を表す。
【0028】
本発明の文脈の範囲内で、「リガンド」という用語の意味はそういうものとして当業者に明白であろう。特に、本発明では、タンパク質又はペプチドの新規な部位選択的及び官能基選択的修飾方法を提供することが目的とされているので、前記用語は、例えばある目的で当技術分野において選択されたペプチド又はタンパク質へのコンジュゲーションが記載又は示唆されている任意の作用物質を包含することになっていることが明白であろう。リガンドの導入によって、典型的には前記ペプチド又はタンパク質の特定の機能性が導入又は影響される(したがって、「機能性剤」などと呼ばれることもある)。このようなリガンド又は機能性剤の特に好ましい例としては、染料、プローブ、ラベル、タグ、溶解性改変剤、酵素標的、受容体リガンド、免疫調節剤、補助因子、及び架橋剤が挙げられる。一実施形態において、リガンドは治療剤である。以下の実施例において、ある種のペプチドとユビキチン及びユビキチン様タンパク質との連結が開示される。上記の式において、−Rは、場合によっては置換されている分枝状又は直鎖状脂肪族又は環式のアルキル、ヘテロアルキル、アルケニル又はヘテロアルケニル部分を表すことができる。−C(=O)−R5’部分の分子内転移の後に、このような基が存在すると、プロテアーゼでは加水分解することができない第三級ε−アミドが得られるようになる。これは、例えばリシン構築ブロックがペプチド又はタンパク質のユビキチン化のために組み込まれるとき、特定の利点をもたらす。本発明の特に好ましい実施形態において、上記の式(Ia)及び(Ib)において、−Rは、(i)水素、或いは(ii)メチル又はエチルなどの低級アルキルなど、場合によっては置換されている分枝状又は直鎖状アルキルを表す。
【0029】
当業者にはすぐに認知されるように、本発明のリシン化合物には、キラル中心が2個あり、したがって4個の潜在的立体異性体が考えられる。本発明は、異性体として純粋な任意の化合物、及び任意のラセミ混合物又は非ラセミ混合物(の使用)を包含する。本リシン化合物の対象とする用途を考慮すると、天然のL−アミノ酸立体配置が特に好ましい。したがって、本発明の実施形態は、本明細書の以上に定義するリシン化合物(ここで、α−炭素原子はL−立体配置をとる)に関する。
【0030】
これらのチオリシン化合物のエステル、塩、水和物、溶媒和物及び他の誘導体も、本発明の範囲内である。したがって、このような誘導体はいずれも、本発明の範囲から逸脱することなく提供することができる。但し、タンパク質又はペプチド合成における構築ブロックとして使用して、前記使用に先立って主要な化学修飾を必要とすることなく、バイオ直交性連結ハンドルを形成するのにやはり適していることを条件とする。
【0031】
本発明の特に好ましい実施形態において、式(Ia)によるリシン化合物[式中、−X−は硫黄を表し、−Pは、Fmoc、Boc、トリチル又はメトキシトリチルから選択されるアミン保護基を表し、−Pは、Fmoc、Boc、トリチル又はメトキシトリチルから選択されるアミン保護基を表し、−Pは、−S−CH、トリチル又はメトキシトリチルを表し、Rは水素又はメチルを表す]、又はその塩、エステル、水和物、若しくは溶媒和物が得られる。
【0032】
本発明の特に好ましい別の実施形態において、式(Ib)によるリシン化合物[式中、−X−は硫黄を表し、−Pは、Fmoc、Boc、トリチル又はメトキシトリチルから選択されるアミン保護基を表し、−Pは、Fmoc、Boc、トリチル又はメトキシトリチルから選択されるアミン保護基を表し、−Pは、−S−CH、トリチル又はメトキシトリチルを表し、Rは水素又はメチルを表す]、又はその塩、エステル、水和物、若しくは溶媒和物が得られる。
【0033】
本発明の第2の態様は、本明細書で先に定義したリシン化合物の合成に関し、前記方法は、(i)式(IIIa)又は(IIIb)で表される4−ヒドロキシリシン又は5−ヒドロキシリシンを有機ボラン化合物で処理して、アミノ酸保護化合物を生成し、それをその後にアミン保護基と反応させ、式(IVa)又は(IVb)で表される保護された4−ヒドロキシリシン又は5−ヒドロキシリシンを生成するステップと、(ii)ステップ(i)で得られた化合物をメシル化し、それをその後に好適なチオカルボン酸又はセレノカルボン酸又はその塩若しくはエステルと反応させて、式(Va又はVb)で表されるような対応するチオエステル又はセレノエステルを得るステップと、(iii)ステップ(ii)で得られたチオエステル又はセレノエステルをアルカリ金属水酸化物の水溶液で加水分解し、チオール又はセレノール化合物を生成し、それをその後に本明細書で先に定義した−P基を前記チオール基又はセレノール基に転移させることができる作用物質と反応させ、式(VIa)又は(VIb)で表される化合物を生成するステップと、(iv)アミノ酸を保護している有機ボラン基を除去し、その後に化合物とアミン保護剤を場合によっては反応させて、本明細書で以上に定義した式(Ia)又は(Ib)による化合物を得るステップとを含む。式(IIIa−VIa)及び(IIIb−VIb)において、−X−及び−Pは、式(Ia)及び(Ib)に関して本明細書で以上に定義した意味と同じ意味を有する。前記式において、−Pは、以上に定義したアミン保護基を表す。
【化2】

【0034】
化合物(IIIb)の4−ヒドロキシリシンは合成により得ることができる(J.Marin、C.Didierjean、A.Aubry、J.R.Casimir、J.P.Briand、G.Guichard、J.Org.Chem.、2004年、69巻、130頁)。化合物(IIIa)の5−ヒドロキシリシンは、例えばBachem又はSigma Aldrichから市販されている。5−ヒドロキシリシンは、エナンチオマーとして純粋な形(すなわち、天然の2S/5Rの形)、及び考えられる4個の異性体の混合物(5S/R及びD/L)として利用可能である。すべての形を対応する保護されたリシン構築ブロックの合成において使用することができる。
【0035】
上述の通り、合成は、好ましくは有機ボラン化合物を用いた処理によるα−アミノ酸基の同時保護で開始する。このような有機ボラン化合物の特に好ましい例は9−ボラビシクロボラン(9−BBN)であり、機能性アミノ酸を保護するためのその使用が当技術分野で記述されている。典型的には、このような反応は、固体結晶質のヒドロキシリシンを9−BBN又は他の有機ボランの好適な溶媒、例えば熱メタノール溶液に添加し、その後に不活性雰囲気下で還流することによって行われる。反応が終了した後、溶媒を典型的には蒸発させ、残渣を好適な溶媒に溶解し、アミン保護剤、例えば二炭酸ジ−tert−ブチルと反応させる。その後に、式(IVa)又は(IVb)による化合物を、当業者には公知の適切な任意の方法、例えば抽出及びシリカゲル精製で単離及び精製することができる。
【0036】
その後に、式(IVa)又は(IVb)の化合物は、メシル化及びその後の好適なチオカルボン酸又はセレノカルボン酸又はその塩又はエステルとの反応により、対応する式(Va)又は(Vb)のチオエステル又はセレノエステルに変換される。典型的には、式(IVa)又は(IVb)の化合物を、好適な溶媒中でMsClなどのメシレートと反応させることによって、まずメシル化する。メシル化された化合物を、当業者には公知の一般的な技法で単離及び精製することができる。次いで、メシル化された化合物を、好適な溶媒中で前記チオ酢酸若しくはセレノ酢酸又はその塩と反応させて、対応するチオエステル又はセレノエステルを得る。本発明の好ましい実施形態において、チオ酢酸若しくはセレノ酢酸又はその塩が使用される。反応が実質的に終了した後、一般的な単離及び/又は精製技法を用いて、反応生成物を高純度固体として得る。
【0037】
次に、NaOHなどのアルカリ金属水酸化物の水溶液を用いて、チオエステル又はセレノエステルを加水分解すると、チオール又はセレノールが得られ、それを好適な溶媒中で、−P基を前記チオール又はセレノールに転移させることができる作用物質と組み合わせて、式(VIa)又は(VIb)の化合物を生成することによって、式(VIa)又は(VIb)の任意の他の化合物に変換することができる。例えば、式(Va)で表されるチオエステルを、1N NaOHを用いて対応するチオールに変換することができ、その後に、溶液としてのそのチオールを滴下して、メタンチオスルホン酸S−メチル溶液と組み合わせて、式(VIa)の化合物(式中、−X−Pは−S−S−CHを表す)を生成する。
【0038】
最後に、式(VIa)又は(VIb)の化合物を、典型的には好適な溶媒中、例えばエチレンジアミンのTHF溶液中、70℃に加熱し、その後、化合物を好適なアミン保護基で処理することによって、式(VIa)又は(VIb)の化合物のアミノ酸を保護している有機ボラン部分を除去すると、式(Ia)又は(Ib)の保護された化合物が生成する。当業者に理解されるように、対応する非保護化合物は、アミン保護基と反応させる最後のステップを省略し、望むなら任意の他の保護基を除去することによって得ることができる。
【0039】
本発明の代替実施形態において、上記の方法を、ヒドロキシリシンの代わりに対応するクロロリシン又はブロモリシンで始めることができ、中間体のメシル化の追加ステップを省略することができるという特定の利点がある。本方法のこの実施形態によれば、ステップ(i)は、4−クロロリシン、5−クロロリシン、4−ブロモリシン又は5−ブロモリシン化合物を有機ボラン化合物で処理して、アミノ酸保護化合物を生成し、それをその後にアミン保護基と反応させて、保護された4−クロロリシン、5−クロロリシン、4−ブロモリシン又は5−ブロモリシンを得るステップを含み、ステップ(ii)は、ステップ(i)で得られた化合物と好適なチオカルボン酸若しくはセレノカルボン酸又はその塩を反応させて、対応するチオエステル又はセレノエステルを得るステップを含み、ステップ(iii)及び(iv)は本明細書で以上に記載された通りである。
【0040】
上記の反応はすべて、異なる化合物の合成に関するものではあるが、それ自体当技術分野において公知なので、所望の化合物を可能な限り高収率で得るために上記ステップのそれぞれについて適切で且つ最適の反応条件を決定し、上記ステップ間に追加の単離又は精製技法を適用することは完全に、訓練を受けた専門家の技能の範囲内である。以下の実施例で、本発明のいくつかの化合物の合成について段階的に徹底した説明を記載する。
【0041】
本発明は、本リシン化合物の合成において得られたいかなる中間生成物、特に上記の式(IIIa−VIa)及び(IIIb−VIb)で表される中間生成物にも関する。
【0042】
本発明の第3の態様は、式(IIa)、(IIb)又は(IIc)で表されるペプチド:
【化3】


[式中、
−Rは、(i)水素;(ii)式(Ia)及び(Ib)に関して本明細書で以上に定義した−P;又は(iii)式−C(=O)−R5’で表される部分を表し、−R1’は、式−C(=O)−R5’で表される部分を表し、−Rは、(i)水素;(ii)式(Ia)及び(Ib)に関して本明細書で以上に定義した−P;(iii)C→Nポリペプチド鎖又は(iv)式−C(=O)−R5’で表される部分を表し、−Rは、(i)水素;(ii)式(Ia)及び(Ib)に関して本明細書で以上に定義した−P;(iii)−R部分;又は(iv)式−C(=O)−R5’で表される部分を表し、−Rは、(i)−OH又は(ii)N→Cポリペプチド鎖を表し、−X−は(i)硫黄又は(ii)セレンを表し、−R及び−C(=O)−R5’は、式(Ia)及び(Ib)に関して本明細書で以上に定義した意味と同じ意味を有し、−Rは、(i)水素又は(ii)場合によっては置換されている分枝状又は直鎖状脂肪族又は環式のアルキル、ヘテロアルキル、アルケニル又はヘテロアルケニル部分を表す、但し、それぞれの式において、−R及び−Rの少なくとも一方は、ポリペプチド鎖を表すことを条件とする。
【0043】
本発明のペプチドは、実際に本発明のプロセスで得られたかどうかにかかわらず、好ましくは非天然ペプチドであり、非天然という用語は、自然に生じるペプチドは本発明の範囲内に含まれていないということを示すために用いられる。天然ペプチドとは本発明のリシン構築ブロックの存在及び/又は−R基若しくは−C(=O)−R5’基の存在が異なるペプチドは、本明細書では非天然ペプチドを構成すると解釈され、したがって特許請求の範囲に包含されるものである。
【0044】
当業者には明白であるように、式(IIa)、(IIb)、及び(IIc)による上記のペプチドは、−R、−R、−R、及び−Rの特定の意味にもよるが、本発明のプロセス、すなわち上記のチオリシン又はセレノリシン構築ブロックの1種又は複数が組み込まれるペプチド又はタンパク質合成、及びその後のリガンドの共有結合による部位選択的及び官能基選択的修飾の中間体及び最終生成物を構成する。関連する反応経路の詳細については、本明細書で以下に記載する。
【0045】
当業者に明らかであるように、本発明のペプチドのN→C骨格は、R→R鎖で表される。本発明の連結ハンドルを用いてペプチドに共有結合したリガンド又は機能性剤も、ペプチドとすることができ、したがって、いくつかの実施形態において、第2のペプチド鎖は、R→R鎖で表される主鎖に直角に付着して存在することができる。以下でさらに詳細に説明されるように、式(Ib)による本発明のリシン構築ブロックがR→R鎖のN末端のアミノ酸として組み込まれる場合、すなわち式(IIb)におけるRがペプチド鎖ではなく水素を表すとき、連結ハンドルによって、ε−アミン基ではなくα−アミン基における修飾リガンドの付着が促進され得る。その場合にリガンドもペプチドである場合、得られる「修飾された」ペプチドは、任意の別の修飾ステップにもよるが、単一ペプチド鎖を含む。このような連結生成物も本発明の範囲内である。但し、先に説明したように、それらが天然ペプチド又はタンパク質と同一でないことを条件とする。
【0046】
本発明は、先に指摘したように、興味の対象となるペプチド又はタンパク質配列中に、部位選択的及び官能基選択的修飾のための連結ハンドルを含む可能性を提供する。本発明の一実施形態によれば、連結ハンドルは、前記配列のC末端又はN末端にではなく興味の対象となるペプチド又はタンパク質配列内に位置することが特に好ましい。したがって、本発明の好ましい実施形態は、本明細書で先に定義した非天然ペプチドを提供する。式中、RとRは共に、ポリペプチド鎖を表す。しかし、好ましい別の実施形態によれば、本チオリシン又はセレノリシン連結ハンドルは、以下でさらに詳細に説明される理由でペプチドのN末端に位置することが好ましい。したがって、本発明の好ましい別の実施形態は、本明細書で先に定義した、好ましくは式(IIb)による非天然ペプチドを提供する。式中、−Rはポリペプチド鎖を表し、−Rは−P又は水素を表す。
【0047】
当業者に理解されるように、前記連結ハンドルは、本発明のリシン構築ブロックを前記配列に加えることによって、又は前記配列に由来するアミノ酸残基を本発明のリシン構築ブロックの残基で置換すること、特に「天然」リシン残基を置換することによって、興味の対象となるペプチド又はタンパク質に組み込むことができる。
【0048】
したがって、好ましい一実施形態において、本明細書で先に定義した非天然ペプチドが得られる。式中、−R及び−Rは、天然ポリペプチド若しくはタンパク質又はその機能性変種若しくは断片の全アミノ酸配列の相補部分を含むように選択されている。本発明の文脈において、「相補部分」(又は「相補断片」)という用語は、それぞれの部分(又は断片)が所与の方向で、連続した順序で組み合わせて、それぞれのアミノ酸配列を、典型的には前記部分又は断片間にギャップ又は重複領域なしに形成する又は含むことができることを示すのに使用される。
【0049】
同様に好ましい別の実施形態において、本明細書で先に定義した非天然ペプチドが得られる。式中、−R及び−Rは、天然ポリペプチド若しくはタンパク質又はその機能性変種若しくは断片のアミノ酸配列中の選択された単一アミノ酸残基、好ましくはリシン残基に隣接するC→N及びN→Cポリペプチド部分を表すように選択されている。
【0050】
前記天然ポリペプチド又はタンパク質の特定の選択は、当業者に認知されているように、本発明ではクリティカルではない。例えば、インビボ又はインビトロで自然の作用過程を研究及び/又は改変するための修飾が、当業者にとって興味の対象となり得るポリペプチド又はタンパク質であれば、本発明の範囲から逸脱することなく、いずれでも使用することができる。以下の実施例において、本発明によるp53、PTEN、ヒストンH2B、及びPCNAの修飾を開示する。
【0051】
天然ポリペプチド又はタンパク質の機能性変種は、置換、挿入、欠失、N末端若しくはC末端の付加的アミノ酸、及び/又は付加的化学部分などのマイナーな修飾が前記天然ポリペプチド又はタンパク質と異なることがあるが、天然型の基本ポリペプチド及び側鎖構造、並びにある生物学的機能又は活性をインビトロ及び/又はインビボで誘発する能力を維持する。典型的には、デフォルトパラメータを使用して、GAP又はBESTFITのプログラムなどにより最適にアライメントすると、天然ポリペプチド及びその同族体は、少なくともある一定の百分率の配列同一性を共有する。GAPは、Needleman及びWunschグローバルアライメントアルゴリズムを使用して、一致数を最大にして、2つの配列をそれらの全長にわたってアライメントし、ギャップ数を最小にする。一般に、GAPデフォルトパラメータは、ギャップクリエーションペナルティー=8及びギャップエクステンションペナルティー=2で使用する。タンパク質について、デフォルトのスコアリング行列はBlosum62(Henikoff & Henikoff、PNAS、1992年、89巻、915頁)である。配列アラインメント及び配列同一性(%)スコアは、Accelrys Inc.(9685 Scranton Road、San Diego、CA、92121−3752、USA)から入手可能なGCG Wisconsin Package、バージョン10.3などのコンピュータプログラムを使用して決定することができる。或いは、類似性(%)又は同一性は、FASTA、BLASTなどのデータベースに対して検索することによって決定することができる。本明細書では「その機能性変種」は、興味の対象となる選択された上記天然ポリペプチドとのアミノ酸配列同一性が少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、さらにより好ましくは少なくとも95%、さらにより好ましくは少なくとも98%、最も好ましくは少なくとも99%であり、適切な条件下で、依然としてその正常な機能を著しい程度に誘発することができるポリペプチド又はタンパク質を含むものであると理解される。
【0052】
当業者に理解されるように、本発明に従って特に使用することができる修飾は、本発明によるものなどさらなる連結ハンドルを含めることを含む。特に好ましい実施形態において、−R及び−Rのペプチド鎖の一方又は両方は、本発明の1種又は複数の追加のリシン構築ブロックを含む。さらにより好ましくは、反応性に差異がある連結ハンドルを形成する本発明の2個以上のリシン構築ブロックを含む、先に定義したペプチドが得られる。例えば、本発明の第1のリシン構築ブロック(式中、−X−は硫黄を表す)及び本発明の第2のリシン構築ブロック(式中、−X−はセレンを表す)を含むペプチドを生成することができる。別の実施形態において、本発明の第1のリシン構築ブロック及び第2のリシン構築ブロック(式中、−X−は同じでも異なってもよく、両方の構築ブロックにおける−P基は異なる)を含むペプチドを生成することができる。2個を超える構築ブロックが含まれ、それぞれ、−X−及び−Pを好適に選択することにより反応性に差がある別の実施形態を記載する。当業者に理解されるように、このような実施形態に従って、2個以上の同一の構築ブロックを含めることも想定することができる。
【0053】
「その機能性断片」という用語は、天然全長ポリペプチド若しくはタンパク質又はその機能性変種の一部分であるペプチド断片を指す。但し、その一部分は、対応する全長配列の特徴である生物学的機能又は活性を誘発する能力を有することを条件とする。
【0054】
上記の式(IIa〜IIc)において、−R及び−C(=O)−R5’は、式(Ia)及び(Ib)に関して本明細書で以上に定義し説明したように、共有結合したリガンドの残基を表す。
【0055】
本発明の実施形態において、好ましいリガンドはユビキチン又はユビキチン様タンパク質である。ユビキチンコンジュゲーション又はユビキチン化は、すべての真核生物において自然に発生するプロセスであり、タンパク質安定性、細胞周期進行、転写調節、受容体輸送、及び免疫応答を含めて、多種多様でクリティカルな細胞プロセスに関係している。ユビキチン及びユビキチン様タンパク質は、約100aaポリペプチドである。現在までに、NEDD8、ISG15、FUB1、FAT10、UBL5、SUMO−1、SUMO−2、SUMO−3、UFM1、MLP3A−LC3、ATG12、及びURM1を含めて、異なる約12種のユビキチン様タンパク質が同定されている。前記リガンドがユビキチンである上述したペプチド、又は前記ユビキチン様タンパク質の1つが特に好ましい。以下の実施例において、ある種のペプチドとユビキチン及びユビキチン様タンパク質との連結が開示される。ユビキチン及びユビキチン様タンパク質の機能及び構造に関するさらに詳細な情報については、Jeram及び同僚(Proteomics、2009年、922〜934頁)を参照することができ、その内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0056】
本発明の特に好ましい実施形態において、式(IIa)によるペプチドが得られる。式中、−R及び−Rは両方とも、ポリペプチド鎖を表し、−R及び−Rの少なくとも一方は、以上に定義した共有結合したリガンドの残基を表し、−Rは水素又はメチルを表し、−X−は硫黄を表す。
【0057】
本発明の特に好ましい別の実施形態において、式(IIb)によるペプチドが得られる。式中、−R及び−Rは両方とも、ポリペプチド鎖を表し、−R及び−Rの少なくとも一方は、以上に定義した共有結合したリガンドの残基を表し、−Rは水素又はメチルを表し、−X−は硫黄を表す。
【0058】
本発明の特に好ましい別の実施形態において、式(IIc)によるペプチドが得られる。式中、−R及び−Rは両方とも、好ましくは天然ポリペプチド若しくはタンパク質又はその機能性変種若しくは断片の全アミノ酸配列の相補部分を含むように選択されているポリペプチド鎖を表し、−Rは、水素又は低級アルキル、好ましくはメチルを表し、−R1’は、共有結合したユビキチン又はユビキチン様タンパク質の残基を表す。
【0059】
本発明の第4の態様は、選択されたポリペプチド又はタンパク質配列の部位選択的及び官能基選択的修飾方法であって、i)前記選択されたポリペプチド又はタンパク質配列に、式(Ia)又は(Ib)による少なくとも1種のリシン化合物(式中、−Pは、水素、又は好ましくは本明細書で先に定義した保護基を表す)が付加又は置換により組み込まれる、前記選択された配列を化学的、生化学的又は生物学的に合成又は生成するステップと、ii)前記リシン化合物の残基中の−Pで表される基を除去し、式−R又は−C(=O)−R5’で表される基(式中、−R及び−C(=O)−R5’は、式(IIa−IIc)に関して定義したのと同じ意味を有する)と前記リシン化合物の残基を硫黄原子又はセレン原子においてコンジュゲートするステップとを含む方法に関する。
【0060】
以上に説明したように、本発明の構築ブロックの特定の利点は、アシル部分−C(=O)−R5’をチオール又はセレノール連結ハンドルからε−アミン、又は何らかの場合にはα−アミンに転移させる可能性にある。したがって、本発明の好ましい実施形態において、−C(=O)−R5’部分が、リシン化合物の残基にコンジュゲートし、−P基を置換して、対応するチオエステル又はセレノエステルを生成する、本明細書で先に定義した部位選択的及び官能基選択的修飾方法が提供され、方法は、その後に式−C(=O)−R5’で表される前記基のα−アミン又はε−アミン基への分子内転移ステップiii)を含む。
【0061】
化学的ペプチド合成方法は、当業者に周知である。本発明によれば、ペプチドは、典型的には化学的に、好ましくは固相合成法で合成される。本発明によれば、配列全体が逐次延長によってのみ合成されているかどうかということ、又はプロセスが別々に得られた2種以上の断片の連結を伴うかどうかということはクリティカルではない。典型的には、配列長が100アミノ酸を超える場合、別個の断片を生成し、断片縮合及び/又は化学的連結と呼ばれるプロセスによりそれらを連結するのが好ましいことがある。以下でさらに詳細に説明されるように、本発明は、ペプチド合成の目的で特に有利な化学的連結プロセスも提供する。或いは、本明細書に記載されているチオリシン化合物及びセレノリシン化合物は、直交性tRNA/アミノアシル−tRNAシンテターゼ対を使用してタンパク質に組み込むことができ、非天然チオリシン構築ブロックが、興味の対象となるタンパク質の遺伝子中のナンセンスコドン又は4塩基コドンに応答して組み込まれる。現在までに、この技術によって、約50個の非天然アミノ酸の組込みが可能になった(J.M.Xie、P.G.Schultz、Nat.Rev.Mol.Cell Biol.、2006年、7巻、775頁、並びに/又はP.R.Chen、D.Groff、J.Guo、W.Ou、S.Cellitti、B.H.Geierstanger、及びP.G.Schultz、Angew.Chem.Int.Ed.、2009年、48巻、4052頁を参照のこと)。このために、本発明のリシン構築ブロックが、α−アミン及びカルボン酸において非コンジュゲート形で、好ましくは非保護形で用いられていることは好ましい。
【0062】
−R基が、上記の場合によっては置換されている第一級、第二級又は第三級の脂肪族又は環式のアルキル、ヘテロアルキル、アルケニル又はヘテロアルケニルを表す場合、コンジュゲーションは典型的には、非保護チオールを対応する化合物L−R(ここで、Lは、ハロゲン原子又は良好な別の脱離基を表す)と反応させる、Williamsonエーテル合成と呼ばれる反応を含む。
【0063】
式−C(=O)−R5’で表される基は典型的には、対応する酸又はエステル、典型的には式H−O−C(=O)−R5’で表されるカルボン酸;式H−S−C(=O)−R5’で表されるチオカルボン酸;又は式H−Se−C(=O)−R5’で表されるセレノカルボン酸;或いは前記酸のエステル又は塩と反応させることによって非保護チオール基又はセレノール基にコンジュゲートさせる。
【0064】
或いは、本発明に従って−R5部分又は−C(=O)−R5’部分を生成することができる選択されたリガンドの正確な性質に応じて、本方法は、化学的コンジュゲーションの代わりに酵素的コンジュゲーションを伴うことがある。場合によっては、これは、例えば特異性の増大及び/又は穏やかな反応条件のため好ましいことがある。所与の酵素的コンジュゲーションプロセスに好適な材料及び条件は、正確なリガンドによって決まり、一般に当技術分野において本質的に公知である。
【0065】
式−C(=O)−R5’で表される基のε−アミン基への分子内転移は、以上に説明したように、当技術分野において本質的に公知である反応により前記アミン基の脱保護を必要とする。リガンドのSからNへの分子内転移は、標準化学も必要とする。典型的には、SからNへの分子内転移はアミンの脱保護を行った後に化学的に好ましく、したがって好ましくは中性又は(わずかに)アルカリ性の環境において自然発生する。式(Ib)によるリシン構築ブロックをN末端のアミノ酸残基として使用した場合、転移反応は、特定のアミンの特定の保護/脱保護ステップを経て、α−アミン基又はε−アミン基に対して行うことができる。このために適した保護基及び反応条件を選択することは、当業者の能力の範囲内である。
【0066】
式−C(=O)−R5’で表される基をリシン構築ブロックのアミンに転移させた後、非ブロック化したチオール基又はセレノール基は、本発明のリシン化合物の残基において再び利用可能である。この基を再び連結ハンドルとして使用して、−R又は−C(=O)−R5’で表される、最初の基と同じでも異なってもよい別の基を付着させて、対応するコンジュゲートを得ることができる。式(Ib)によるリシン構築ブロックをN末端のアミノ酸残基として使用し、第2のリガンドも−C(=O)−R5’で表されるアシルである場合、第2の分子内転移、並びに望むならその後に−R又は−C(=O)−R5’で表される第3の部分(その他の部分と同じでも異なってもよい)とのコンジュゲート形成も利用することができる。或いは、チオール基又はセレノール基を、当業者には公知の反応物質及び条件によってリシン構築ブロックから除去することができる。
【0067】
先に指摘したように、ペプチドの合成は、好ましくは固相基質上で行われ、前記基質に共有結合したペプチドが得られる。本方法のその後のステップのうち1つ又は複数は、前記固相基質からペプチドを遊離させる前又は後に行うことができる。本発明の実施形態において、リガンドのリシン構築ブロックへのコンジュゲーションも同様に、固相上で行われる。より好ましくは、チオール基又はセレノール基(単数又は複数)のコンジュゲーション、分子内転移又は除去とすることができる本発明の最終修飾ステップを行った後に、ペプチドを固相基質から遊離させる。この戦略によって、修飾されたタンパク質を高純度で直接得ることができ、潜在的にその後の一部又は全部の精製ステップを余分なものとする。或いは、本発明の方法は、例えばタンパク質をマイクロアレイ表面に直接合成することができるタンパク質(マイクロ)アレイの場合に発明のその後のステップの前又は後に固相基質から遊離させない固相合成に関することがある。
【0068】
選択されたポリペプチド又はタンパク質配列の正確な性質は、本発明では全くクリティカルでないが、本発明の好ましい実施形態は、前記選択されたポリペプチド又はタンパク質配列が本明細書で以上に定義した天然ポリペプチド若しくはタンパク質又はその機能性変種若しくは断片である、以上に定義した方法に関する。
【0069】
さらに、好ましい実施形態において、前記部位選択的及び官能基選択的修飾方法はユビキチン化であり、又はユビキチン化を含む。したがって、本発明の好ましい実施形態において、−C(=O)−R5’部分をリシン化合物の残基にコンジュゲートし、−P基を置換し、前記−C(=O)−R5’部分がユビキチン又はユビキチン様タンパク質である、以上に定義した方法が提供される。
【0070】
本発明の第5の態様は、前記選択されたペプチド又はタンパク質の合成における構築ブロックとして、選択されたポリペプチド又はタンパク質配列の部位選択的及び官能基選択的修飾のための連結ハンドルを形成するための本明細書で先に定義したリシン化合物の使用に関する。先に記載したように、本発明の実施形態は、ペプチドとすることができる機能性リガンドの機能性ペプチド又はタンパク質、典型的には本明細書で以上に定義した天然ポリペプチド若しくはタンパク質又はその機能性変種若しくは断片への共有結合、典型的には直交性共有結合に関する。
【0071】
しかし、本発明の別の態様は、すでに先に記載したように、一方の断片のC末端のカルボン酸基が他方の断片であるN末端のチオリシン又はセレノリシン構築ブロックのα−アミン基に付着している、あるペプチド断片の別のペプチド断片への線状結合のための、式(Ib)の本リシン構築ブロックの使用に関する。これは、ビルドポリペプチド鎖を別々に付着させて、(バイオ直交性)機能性リガンドを含んでも含まなくてもよい機能性ペプチド又はタンパク質を最終的に得ることが望ましい場合が多い、ある一定の長さを超えるペプチドの合成において特に有用な道具であることがわかった。
【0072】
したがって、本発明の別の態様は、選択されたポリペプチド又はタンパク質配列を合成する方法であって、i)N末端のアミノ酸残基として、式(Ib)によるリシン化合物(式中、−Pは本明細書で先に定義したアミン保護基を表す)が付加又は置換により組み込まれる、前記選択されたポリペプチド又はタンパク質配列の断片を合成するステップと、ii)前記断片において、−Pで表される基を、C−末端カルボキシル基を介して結合している、前記選択されたポリペプチド又はタンパク質配列の相補的ペプチド断片で置換するステップと、iii)前記相補的ペプチド断片をN末端のα−アミンに分子内転移させるステップとを含む方法に関する。
【0073】
先に記載したように、このような方法によれば、分子内転移を行った後、チオール基又はセレノール基は、チオリシン又はセレノリシン残基において、上記の方法及び使用による機能性剤の部位選択的及び官能基選択的(直交性)連結のための連結ハンドルとして再び利用可能である。当業者に理解されるように、このような手法は、単一リシンブロックがペプチド及びタンパク質の合成及びその後の修飾において非常に効率的に使用されることを可能にし、したがって特に好ましい実施形態になる。或いは、望むなら、ペプチド断片の線状連結後に、チオール基又はセレノール基を除去することができる。
【0074】
本発明の別の態様は、先に記載したことに従って、選択されたペプチド又はタンパク質の合成における構築ブロックとして、個々のペプチド断片を線状共有結合させるための連結ハンドルを形成するための本明細書で先に定義したリシン化合物の使用に関する。
【0075】
さらに、本発明の別の態様は、本明細書で先に定義した式(IIa−IIc)のペプチド又はタンパク質の治療剤又は診断剤としての使用に関する。先に記載したように、官能基選択的及び部位選択的に修飾されたペプチドは、診断及び治療方法に適用され得る。例えば、ある種のタグ、プローブ又はマーカーで標識された内在性タンパク質及び/又はペプチドは、診断剤として有用な道具となり得る。さらに、(潜在的)治療剤又は診断剤と現在呼ばれるタンパク質を、例えば溶解性変更リガンドを含めることによってそれらの臨床成績が改善されるなどのように、本発明に従って修飾することができる。ペプチド性及び非ペプチド性の治療剤又は診断剤を特定の作用部位に仕向ける本発明の技法を使用して、前記剤を特定のタンパク質にリガンドとして連結させることができる。
【0076】
本文書及びその特許請求の範囲において、「含む(to comprise)」という動詞及びその活用形は、その単語に続くアイテムが包含され、具体的に記載されていないアイテムも排除されないことを意味するように、その非限定的意味において使用される。さらに、不定冠詞の「a」又は「an」による要素への言及は、唯一の要素しかないことが文脈に明白に定められていない限り、1つを超える要素が存在する可能性を排除するものではない。したがって、不定冠詞の「a」又は「an」は、通常「少なくとも1つ」を意味する。
【0077】
本明細書で先に記載した本発明の様々な態様は、以下の例1〜3、及びその中で参照されている図1〜12で説明される。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】BenchMark(商標)Pre−Stained Protein Ladder(Invitrogen)を示す図である。
【図2】反応進行のSDS−Page(12%)による分析を示す図である。試薬及び条件:50mM Tris−HCl緩衝液、pH 7.5+4mM MgCl+2mM ATP+50mM MESNa+約178nM E1+25μM Ub+2mM TKAVTKYTSSK、37℃でインキュベーション。
【図3】ペプチド最小必要濃度(単位μM)のSDS−Page(12%)による分析を示す図である。試薬及び条件:50mM Tris−HCl緩衝液、pH 7.5+4mM MgCl+2mM ATP+50mM MESNa+約71nM E1+25μM Ub、37℃で終夜インキュベーション。
【図4】E1最小必要濃度(単位nM)のSDS−Page(12%)による分析を示す図である。試薬及び条件:50mM Tris−HCl緩衝液、pH 7.5+4mM MgCl+2mM ATP+50mM MESNa+250μM TKAVTKYTSSK+25μM Ub、37℃で終夜インキュベーション。
【図5】ジスルフィド中間体をTCEPで処理した後の連結生成物形成のESスペクトルを示す図である。
【図6】ペプチド1〜3のユビキチン連結のSDS−Page(12%)による分析を示す図である。試薬及び条件:50mM Tris−HCl緩衝液、pH 7.5+4mM MgCl+2mM ATP+50mM MESNa;37℃で終夜インキュベーション。1=5μM Ub+250μM ペプチド1(DMF、5%)+150nM E1;2=5μM Ub+500μM ペプチド1(DMSO、10%)+300nM E1;3=5μM Ub+500μM ペプチド1(DMF、10%)+300nM E1;4=33μM Ub+45μM ペプチド1(DMSO、1%)+300nM E1;5=33μM Ub+45μM ペプチド1(DMF、1%)+300nM E1;6=5μM Ub+250μM ペプチド2+150nM E1;7=5μM Ub+500μM ペプチド3+300nM E1;8=5μM Ub+250μM ペプチド3+150nM E1;9=5μM Ub+500μM ペプチド3+300nM E1。→=連結生成物;→=E1、→=ペプチド(残基)。
【図7】ペプチド4、5及びTKAVTKYTSSKのユビキチン連結(SDS−PAGE)を示す図である。試薬及び条件:50mM Tris−HCl緩衝液、pH 7.5+4mM MgCl+2mM ATP+50mM MESNa;37℃で終夜インキュベーション。10=5μM Ub+250μM ペプチド4+150nM E1;11=5μM Ub+500μM ペプチド4+300nM E1;12=5μM Ub+250μM ペプチド5+150nM E1;13=5μM Ub+500μM ペプチド5+300nM E1;14=25μM Ub+250μM TKAVTKYTSSK+150nM E1;15=25μM Ub+250μM TKAVTKYTSSK(DMSO、1.25%)+150nM E1;16=25μM Ub+250μM TKAVTKYTSSK(DMSO、10%)+150nM E1。→=連結生成物;→=ペプチド(残基)。
【図8】ペプチド1〜10のユビキチン連結(SDS−PAGE)−パートIIを示す図である。試薬及び条件:50mM Tris−HCl緩衝液、pH 7.5+4mM MgCl+2mM ATP+50mM MESNa+250nM E1;37℃で終夜インキュベーション。17=50μM Ub+50μM ペプチド1;21=50μM Ub+50μM ペプチド3;18=100μM Ub+50μM ペプチド1;22=100μM Ub+50μM ペプチド3;19=50μM Ub+50μM ペプチド2;20=100μM Ub+50μM ペプチド2。→=連結生成物。
【図9】ペプチド1〜10のユビキチン連結(SDS−PAGE)−パートIIを示す図である。試薬及び条件:50mM Tris−HCl緩衝液、pH 7.5+4mM MgCl+2mM ATP+50mM MESNa+250nM E1;37℃で終夜インキュベーション。23=50μM Ub+50μM ペプチド4 27=50μM Ub+50μM ペプチド6;24=100μM Ub+50μM ペプチド4、28=100μM Ub+50μM ペプチド6;25=50μM Ub+50μM ペプチド5;26=100μM Ub+50μM ペプチド5。→=連結生成物。
【図10】ペプチド1〜10のユビキチン連結(SDS−PAGE)−パートIIを示す図である。試薬及び条件:50mM Tris−HCl緩衝液、pH 7.5+4mM MgCl+2mM ATP+50mM MESNa+250nM E1;37℃で終夜インキュベーション。29=50μM Ub+50μM ペプチド7、33=50μM Ub+50μM ペプチド9;30=100μM Ub+50μM ペプチド7、34=100μM Ub+50μM ペプチド9;31=50μM Ub+50μM ペプチド8、35=100μM Ub+50μM ペプチド10;32=50μM Ub+50μM ペプチド8、36=100μM Ub+50μM ペプチド10。→=連結生成物。
【図11】ペプチド1〜10(50μM、1当量)のSUMO−1連結(SDS−PAGE)を示す図である。試薬及び条件:50mM Tris−HCl緩衝液、pH 7.5+4mM MgCl+2mM ATP+50mM MESNa+100μM SUMO−1(ペプチドに基づいて2当量)+250nM SUMO E1;37℃で終夜インキュベーション。→=連結生成物。1)p53:HLKSKKGQSTSRHKKLMFKTEG(2.64kDa);2)p53:HLKSKKGQSTSRHKKLMFKTEG(2.64kDa);3)p53:HLKSKKGQSTSRHKKLMFKTEG(2.64kDa);4)p53:HLKSKKGQSTSRHKKLMFKTEG(2.64kDa);5)p53:HLKSKKGQSTSRHKKLMFKTEG(2.64kDa);6)p53:HLKSKKGQSTSRHKKLMFKTEG(2.64kDa);7)PCNA:GDAVVISCAKDGVKFSASGELGNGNIKLSQ184(3.18kDa);8)PCNA:SCAKDGVK168(1.02kDa);9)PTEN:MTAIIKEIVSRNKRRYQED(2.43kDa);10)PTEN:TSEKVENGSLCDQEIDSICSIERA(2.98kDa)。
【図12】ペプチド1〜10(50μM、1当量)のSUMO−2連結(SDS−PAGE)を示す図である。試薬及び条件:50mM Tris−HCl緩衝液、pH 7.5+4mM MgCl+2mM ATP+50mM MESNa+100μM SUMO−2(ペプチドに基づいて2当量)+250nM SUMO E1;37℃で終夜インキュベーション。→=連結生成物。1)p53:HLKSKKGQSTSRHKKLMFKTEG(2.64kDa);2)p53:HLKSKKGQSTSRHKKLMFKTEG(2.64kDa);3)p53:HLKSKKGQSTSRHKKLMFKTEG(2.64kDa);4)p53:HLKSKKGQSTSRHKKLMFKTEG(2.64kDa);5)p53:HLKSKKGQSTSRHKKLMFKTEG(2.64kDa);6)p53:HLKSKKGQSTSRHKKLMFKTEG(2.64kDa);7)PCNA:GDAVVISCAKDGVKFSASGELGNGNIKLSQ184(3.18kDa);8)PCNA:SCAKDGVK168(1.02kDa);9)PTEN:MTAIIKEIVSRNKRRYQED(2.43kDa);10)PTEN:TSEKVENGSLCDQEIDSICSIERA(2.98kDa)。
【図13】CF41 Cryo−Compact Circulator(70℃)(1)及び光化学反応器用中圧Hgランプ(450W)(2)を含む、L(+)−リシンの光化学的塩素化に使用された実験装置を示す図である。
【実施例】
【0079】
一般材料及び方法
一般試薬は、Sigma Aldrich、Fluka及びAcrosから入手し、精製をさらに行うことなく使用した。H−DL−δ−ヒドロキシ−DL−Lys−OH・HClはBachemから、(5R)−5−ヒドロキシ−L−リシン二塩酸塩一水和物はSigma Aldrichから購入した。ユビキチンはBIOMOLから購入した。SUMOタンパク質1及び2、ユビキチン用のE1(UBA)、並びにSUMO(AOS1−SAE2ダイマー)は、Prof.Titia Sixmaのグループ(NKI−AVL)からの寄贈であった。V50(2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩)はSigma Aldrichから購入し、VA−044(2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二塩酸塩)は、和光純薬工業(Wako Pure Chemical Industries)(日本)から購入した。溶媒は、BIOSOLVE及びAldrichから購入し、必要な場合はモレキュラーシーブ(DCM、DMFについては4Å、MeOHについては3Å)で終夜乾燥した。分析用薄層クロマトグラフィーは、シリカゲル60F254でプレコーティングしたアルミニウムシートで行い、エタノール中20%ニンヒドリンを使用し、ヒートガンで加熱した。カラムクロマトグラフィーは、シリカゲル(0.035〜0.070mm、90Å、Acros)で実施した。核磁気共鳴スペクトル(H−NMR、13C−NMR、COSY及びHSQC)は、別段の示唆のない限り、Bruker ARX 400分光計(H:400MHz、13C:100MHz)又はBruker Avance−III 300分光計(H:300MHz、13C:75MHz)を使用して、重水素化メタノール(MeOD−dH基準δ 4.87ppm;13C基準δ 49.15ppm)、重水素化クロロホルム(CDClH基準δ 7.26ppm;13C基準δ 77.00ppm)又は重水素化ジメチルスルホキシド(DMSO−dH基準δ 2.50ppm;13C基準δ 39.52ppm)中、298Kで決定した。NMRスペクトルのピーク形状は、「d」(二重線)、「dd」(二重二重線)、「s」(一重線)、「br s」(ブロード一重線)、「t」(三重線)及び「m」(多重線)という記号で示される。化学シフト(δ)はppmの単位で示され、結合定数JはHzの単位で示される。LC−MS測定は、Waters 2795分離モジュール(Alliance HT)、Waters 2996フォトダイオードアレイ検出器(190−750nm)、Waters Alltima C18カラム(2.1x100mm)及びLCT(商標)垂直加速飛行時間型質量分析計を装備したシステムで行われた。2つの移動相:A=0.1%ギ酸水溶液及びB=0.1%ギ酸水溶液中CHCNを使用して、試料を流速0.40ml/分で流した。
【0080】
LC−MSプログラム1(C18カラム):
Waters Atlantis T3 C18、2.1×100mm、3μM);流速=0.4mL/分、ランタイム=10分、カラムT=20℃、ストローク容積=25μL;グラジエント:0.0→2.0分:5% B;2.0→5.0分:5% B→95% B;5.0→7.0分:95% B;7.0→7.2分:95% B→5% B;7.2→9.9分:5% B。
【0081】
LC−MSプログラム2(C4カラム):
Waters Symmetry 300、2.1×100mm、3.5μM;流速=0.4mL/分、ランタイム=24分、カラムT=20℃、ストローク容積=25μL;グラジエント:0.0〜2.0分:5% B;2.0〜20.0分:5% B→90% B;20.0〜21.0分:90% B→95% B;21.0〜24.0分:95% B→5% B。
【0082】
HPLC(C4、ユビキチン由来化合物):
C4 Vydacカラムを使用したShimadzu LC−20AD/T(Grace Davison Discovery Sciences(商標)、カタログ番号214TP1022)。移動相:A=0.05%TFA水溶液、及びB=0.05%TFA水溶液中CHCN。カラムT=20℃。流速=10.0mL/分。LC−MSプログラム2と同様のグラジエント。
【0083】
(例1):δ−チオリシン構築ブロックDL−3.4及びL−3.4の合成
【化4】

【0084】
ε−tert−ブトキシカルボニル−5−ヒドロキシ−DL−リシナト−ビシクロノニルボロン(DL−3.1)
アンモニア水溶液(50mL)を、(5RS)−5−ヒドロキシ−DL−リシン塩酸塩(5g、25.2mmol)に0℃で添加した。30分間撹拌した後、溶液を濃縮し、結晶質固体を、さらに使用する前に高真空中で乾燥した。固体を、撹拌している9−BBN(7.00g、28.8mmol)の熱メタノール(100mL)溶液に1回で添加した。反応混合物を、清澄な溶液が得られるまで窒素下で(約3時間)還流した。溶媒を蒸発させた後、残渣を1,4−ジオキサン/水(1/1 v/v、50mL)に溶解し、氷浴中で冷却し、NaHCO(2.5g、29.8mmol)及びBocO(5.5g、25.2mmol)で処理した。終夜撹拌した後、反応混合物を濃縮し、塩水で希釈し、EtOAcで抽出した。有機層を乾燥し、濃縮した後、粗生成物をシリカゲル(n−ヘキサン/EtOAc;1/0→1/1→1/9)で精製した。表題化合物(R=0.4、EtOAc)が白色の発泡体として得られた。
【化5】

【0085】
ε−tert−ブトキシカルボニル−5R−ヒドロキシ−L−リシナト−ビシクロノニルボロン(L−3.1)
アンモニア水溶液(10mL)を、(5R)−5−ヒドロキシ−L−リシン二塩酸塩一水和物(1.04g、4.11mmol)に0℃で添加した。30分間撹拌した後、溶液を濃縮し、結晶質固体を、さらに使用する前に高真空中で乾燥した。固体を、撹拌している9−BBN(1.2g、4.7mmol)の熱メタノール(20mL)溶液に1回で添加した。反応混合物を、清澄な溶液が得られるまで窒素下で(約3時間)還流した。溶媒を蒸発させた後、残渣を1,4−ジオキサン/水(2/3 v/v、30mL)に溶解し、氷浴中で冷却し、NaHCO(0.5g)及びBocO(1.1g)で処理した。終夜撹拌した後、反応混合物を濃縮し、塩水で希釈し、EtOAcで抽出した。有機層を乾燥し、濃縮した後、粗生成物をシリカゲル(n−ヘキサン/EtOAc;1/0→0/1)で精製した。表題化合物(R=0.4、EtOAc)が白色の発泡体として得られた。収率:1.39g、3.63mmol、2ステップ全体で89%。45.7mmolのスケールで、生成物を全収率82%で得た(シリカゲルクロマトグラフィー、DCM→10% MeOH/DCM)。
【化6】

【0086】
ε−tert−ブトキシカルボニル−5SR−(S−アセチル)−DL−リシナト−ビシクロノニルボロン(DL−3.2)
ステップ1:0℃のDL−3.1(0.95g、2.48mmol)及びEtN(730μL、5.24mmol)のジクロロメタン(15mL)溶液に、MsCl(326μL、4.19mmol)を添加した。反応混合物を終夜撹拌したが、TLC分析によって、反応が完結していないことが明らかになった。さらに0.52mLのEtN及び0.23mLのMsClを添加した後、1時間以内で反応が完結したことがTLC分析によってわかった。粗生成物をシリカゲル(n−ヘキサン/EtOAc 1/1→1/4)で精製し、高真空下で乾燥した後、メシレート(R=0.8、EtOAc)が発泡体として得られた。
【化7】


反応を20mmolスケールでも行い、メシレートを>99%で5RS−δ−ヒドロキシ−DL−リシンから単離した。
【0087】
ステップ2:チオ酢酸のDBU塩を使用する方法:冷却したDBU(5当量)の乾燥DMF溶液(3.5M)にチオ酢酸(5当量)を添加することによって生成されるチオ酢酸DBU塩溶液を予め生成し、メシレート(1.0当量、0.45g、1.02mmol)の乾燥DMF(2mL)溶液に添加した。反応を室温で終夜撹拌し、TLC分析によって、出発材料が完全に消費され、n−ヘキサン/EtOAc 1/6でR 0.6で生成物スポットが生成したことがわかった。DMFを蒸発させ、濃縮物を酢酸エチルに溶解し、塩水で洗浄し、乾燥し(MgSO)、濃縮した。粗生成物をシリカゲル(n−ヘキサン→EtOAc 1/3)で精製して、DL−3.2が発泡体として得られた。
【化8】

【0088】
ステップ2:チオ酢酸カリウムを使用する方法:チオ酢酸カリウム(1.75当量)を、メシレート(1.0当量、0.5g、1.1mmol)の乾燥DMF(7mL)溶液に添加した。反応を65℃で2 1/2時間撹拌し、TLC分析によって、出発材料が完全に消費され、生成物スポットが生成したことがわかった。DMFを蒸発させ、濃縮物を酢酸エチルに溶解し、水及び塩水で洗浄し、乾燥し、濃縮した。
【化9】

【0089】
ε−tert−ブトキシカルボニル−5S−(S−アセチル)−L−リシナト−ビシクロノニルボロン(L−3.2)
ステップ1:0℃のL−3.1(1.35g、2.48mmol)及びEtN(730μL、5.24mmol)のジクロロメタン(15mL)溶液に、MsCl(326μL、4.19mmol)を添加した。混合物を1時間撹拌し、TLC分析によって、反応が完結したことがわかった。粗生成物をシリカゲル(n−ヘキサン/EtOAc 1/1→1/3)で精製して、L−3.1(R=0.8、EtOAc)が発泡体として得られた。
【化10】

【0090】
ステップ2:チオ酢酸のDBU塩を使用する方法:冷却したDBU(5当量)の乾燥DMF溶液(3.5M)にチオ酢酸(5当量)を添加することによって生成されるチオ酢酸DBU塩溶液を予め生成し、メシレート(1.0当量)の乾燥DMF(2mL)溶液に添加した。反応を室温で終夜撹拌し、TLC分析によって、出発材料の消費が不完全であることがわかった。さらに2.5当量の新鮮なDBUHSAcを添加した。反応を終夜撹拌したままにした。DMFを蒸発させ、濃縮物を酢酸エチルに溶解し、水及び塩水で洗浄し、乾燥し、濃縮した。粗生成物をシリカゲル(n−ヘキサン→EtOAc 1/3)で精製して、L−3.2が発泡体として得られた。
【化11】

【0091】
ステップ2:チオ酢酸カリウムを使用する方法:KSAc(1.75当量、10.9mmol、1.25g)を、メシレート(1.0当量、2.87g、6.23mmol)の乾燥DMF(58mL)溶液に添加した。反応を65℃で3時間撹拌し、TLC及びLC−MS分析によって、反応が完結したことがわかった。DMFを蒸発させ、濃縮物をEtOAcに溶解し、水及び塩水で洗浄し、乾燥し、濃縮した。
【化12】

【0092】
ε−tert−ブトキシカルボニル−5−(メチルジスルファニル)−リシナト−ビシクロノニルボロン(DL−3.3)
チオアセテートDL−3.2(1.00g、2.27mmol)をメタノール(15mL)に溶解し、1N NaOH溶液(3mL)で15分間、0℃で処理した。反応混合物を、等モル量のHOAcを添加することによって慎重に中和し、濃縮した。濃縮物を酢酸エチルに溶解し、水及び塩水で洗浄し、乾燥し(MgSO)、濃縮して、粗チオールが油として得られた。次に、粗チオールのDCM(7mL)溶液を、メタンチオールスルホン酸S−メチル(3当量、6.9mmol、0.66mL)及びEtN(9当量、2.76mL、20.4mmol)のDCM(7mL)溶液に滴下した。反応混合物を1時間撹拌し、その後、TLC分析(n−ヘキサン/EtOAc 1/3)によって、出発材料が完全に消費されたことがわかった。DCMを蒸発させた後、粗生成物をシリカゲル(n−ヘキサン→EtOAc 2/3)で精製して、ジスルフィドDL−3.3(R=0.8、EtOAc)が黄色の油として得られた。
【化13】

【0093】
ε−tert−ブトキシカルボニル−5S−(メチルジスルファニル)−L−リシナト−ビシクロノニルボロン(L−3.3)
チオアセテートL−3.2(1.13g、2.5mmol)をメタノール(15mL)に溶解し、1N NaOH溶液(3mL)で15分間、0℃で処理した。反応混合物を、等モル量のHOAcを添加することによって慎重に中和し、濃縮した。濃縮物を酢酸エチルに溶解し、水及び塩水で洗浄し、乾燥し(MgSO)、濃縮して、粗チオールが油として得られた。
【化14】


次に、粗チオールのDCM(7mL)溶液を、メタンチオールスルホン酸S−メチル(3当量、6.9mmol、0.66mL)及びEtN(9当量、2.76mL、20.4mmol)のDCM(7mL)溶液に滴下した。反応混合物を1時間撹拌し、その後、TLC分析(n−ヘキサン/EtOAc 1/3)によって、出発材料が完全に消費されたことがわかった。DCMを蒸発させた後、粗生成物をシリカゲル(n−ヘキサン→EtOAc 2/3)で精製して、ジスルフィドL−3.3(R=0.8、EtOAc)が油として得られた。
【化15】

【0094】
ε−(フルオレン−9−イルメトキシカルボニル)−Nε−tert−ブトキシカルボニル−5−(メチルジスルファニル)−DL−リシン(DL−3.4)
化合物DL−3.3(2.6g、5.9mmol)をTHF(40mL)に溶解し、エチレンジアミン(3.0mL)を添加した。溶液を約70℃に5分間加熱すると、白色の固体が沈殿した。反応混合物をHyflo(登録商標)に通して濾過し、濾液をフラッシュカラムクロマトグラフィー(DCM→DCM中40%MeOH、R=0.4)で精製した。遊離アミノ酸が油として得られた。
【化16】


次に、Fmoc−OSu(2.5g、7.4mmol)のアセトン(25mL)溶液を、この粗アミノ酸及びNaHCO(0.59g、1.1当量)のアセトン/HO(50mL/50mL)溶液に添加した。反応混合物を室温で終夜撹拌し、濃縮し、1N HCl水溶液で酸性にし、DCMで抽出した。水層をクロロホルム及びEtOAcで再び抽出した。有機層を合わせて、乾燥し(MgSO)、減圧濃縮した。残渣をフラッシュカラムクロマトグラフィー(DCM中10%MeOH)で精製した。
【化17】

【0095】
ε−(フルオレン−9−イルメトキシカルボニル)−Nε−tert−ブトキシカルボニル−5S−(メチルジスルファニル)−L−リシン(L−3.4)
化合物L−3.3(1.15g、2.5mmol)をTHF(40mL)に溶解し、エチレンジアミン(1.3mL)を添加した。溶液を約70℃に5分間加熱すると、白色の固体が沈殿した。沈殿物は、Falcon管で遠心分離する(4000rpmで10分)又はHyflo(登録商標)に通して濾過することによって除去した。濾液を濃縮し、フラッシュカラムクロマトグラフィー(DCM→DCM中40% MeOH、R=0.4)で精製した。
【化18】


次に、Fmoc−OSu(1.25当量、0.66g、2.0mmol)のアセトン(10mL)溶液を、このアミノ酸(0.51g、1.57mmol)及びNaHCO(145mg、1.73mmol、1.1当量)のアセトン/HO(10mL/10mL)溶液に添加した。反応混合物を室温で終夜撹拌し、濃縮し、1N HCl水溶液で酸性にし、EtOAcで抽出した。有機層を乾燥し(MgSO)、減圧濃縮した。残渣をフラッシュカラムクロマトグラフィー(DCM中10% MeOH)で精製した。
【化19】

【0096】
(例2):DL−3.4及び(o−ニトロベンジル)−システインで修飾されたペプチドの固相合成
Syro II MultiSyntech自動ペプチド合成装置で、標準的9−フルオレニルメトキシカルボニル(Fmoc−)をベースとした固相ペプチド化学により、25又は50μmolの単位で、ペプチドを合成した。前処置したFmocアミノ酸Wang樹脂(0.2mmol/g)で始めて、連続するアミノ酸をそれぞれ、4モル過剰で、pyBOP及びDiPEAと45分間カップリングさせた。Fmoc−基の脱保護は、NMP中20%ピペリジンで実現した(3×1.2mL、2×2及び1×5分)。ペプチドは、TFA/iPrSiH/HO(95/2.5/2.5)で切断され、冷n−ヘキサン/ジエチルエーテル中で沈殿した。精製は、Waters 1525EF Binary HPLCでAtlantis(Waters、19×250mm、10μM)分取カラムを使用して行った。
【化20】


【化21】


【表1】

【0097】
(例3):トレースレスリシン構築ブロックであるδ−チオリシンを使用したペプチドの部位選択的及び官能基選択的ユビキチン化
一般プロトコル 5−チオリシン修飾ペプチドのユビキチン連結
ストック溶液試薬:
200mM MgCl
0.5M ATP
2.0M MESNa
50mM Tris−HCl(pH 7.5)中10mgmLユビキチン
71μM E1及びミリQ中7.1μM(第1ストックを10倍希釈)
【0098】
ストック溶液ペプチド:
【化22】

【0099】
50mM Tris−HCl(pH 7.5)中の標準反応混合物:
4mM MgCl
50mM MESNa
ユビキチン
ペプチド
2mM ATP
E1
【0100】
反応を37℃で>6時間インキュベートし、試料をNuPAGE(登録商標)LDS試料緩衝液(3倍、Invitrogen)で希釈し、71℃で10分間加熱し、MES SDSランニングバッファー(V=200V)を使用して、12%NuPAGE(登録商標)Novex(登録商標)Bis−Tris Mini Gels(Invitrogen)にロードする。マーカーとして、BenchMark(商標)Pre−Stained Protein Ladder(図1、Invitrogen)を使用した。
【0101】
無金属脱硫のための一般プロトコル
0.5mMペプチドのミリQ(400μL)溶液を、下記を使用して37℃で終夜インキュベートした。
100μLの40mMグルタチオン溶液
80μLの0.2M VA−044又はV−50溶液(以下の構造を参照のこと)
0.5M TCEPを含有する、400μLの0.2Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH=6.5)。
【化23】

【0102】
チオリシン構築ブロックDL−3.4で修飾されたH2B(115−125)ペプチドTKAVTKYTSSKについてのUb連結
本明細書に記載されたチオリシン構築ブロックのペプチドのユビキチン化における効率を評価するために、Muir及び同僚によって使用されたペプチド(Angew.Chem.Int.Ed.、2007年、46巻、2814頁)であるTKAVTKYTSSKにおいて、DL−3.4を組み込むことを選択する。この配列は、ヒストン核タンパク質H2Bの残基115−125に対応し、イタリック体のKはチオリシン残基の位置を示す。さらに、天然アラニン残基を位置117において使用することに決定した。対照的に、Muir及び同僚(Nature、2008年、453巻、812頁)は、この代わりにシステインをチオールコンジュゲーションのための潜在的部位として使用した。Balakirev及び同僚によるプロトコル(ChemBiochem、2006年、7巻、1667頁)に基づいて、本発明者らは1組の実験を行い、その間に、ユビキチンのペプチドへの完全な連結が何時間後に観察されたか(図2)、ペプチドの最少量(図3)及びE1濃度(図4)を決定した。連結反応混合物を37℃でインキュベートし、以下の材料からなるものであった。
【化24】


反応をSDS−PAGE及びLC−MSで分析した。
【0103】
図2〜4の結果から、Ub連結は高速であり(<4時間で完全変換)、(この時間枠内での)ユビキチンの完全変換には低nM濃度のE1(≧15nM)及び≧10当量のペプチドを必要とすることがわかる。MESNaをTCEPの代わりに使用すると、連結は観察されなかったが、これは、MESNaチオエステルが反応性種であるというBalakirev及び同僚による以前の観察を支持するものである。予想されるように、5−チオリシン構築ブロックを(したがって、ペプチドTKAVTKYTSSKを使用する)天然リシンに代えると、連結が起きなかった。全体的に見て、チオリシンをベースとするペプチドの使用によって、非常に効率的で経済的なユビキチン連結が行われるということが確立した。LC−MS及びMALDIの分析により、連結生成物が形成されたことがわかり、その質量は9.93kDaであり、これは、予想される連結生成物の非対称的ジスルフィド(質量9.79kDa)とメルカプトエタンスルホン酸(0.14kDa)に対応する。LC−MS試料をリン酸ナトリウム緩衝液(pH 6.5)中0.5M TCEPで調製すると、低減された連結生成物が認められた(図5)。(HPLC)精製した連結生成物試料を、熱に侵されやすいフリーラジカル開始剤VA−044及びV−50の使用に基づく選択的チオール脱硫プロトコルにかけた。したがって、TKAVTK(Ub)YTSSKの水溶液を、グルタチオン(水素源)、VA−044又はV−50及びTCEPと共にリン酸ナトリウム緩衝液(pH 6.5)中、37℃で終夜インキュベートすると、LC−MS及びMALDI分析により脱硫生成物が生成された。
【0104】
PCNA、PTEN及びp53に由来するδ−チオリシンペプチドについてのUb連結
その後に、構築ブロックDL−3.4を、3種の生物学的に関連性のあるモノユビキチン化タンパク質に由来する1組のペプチド(表1)に組み込んだ。ペプチド1及び2はそれぞれ、DNAポリメラーゼのプロセッシビティー因子であるPCNA(増殖細胞核抗原)の残基155〜184及び161〜168に対応する。構築ブロックDL−3.4(K)を、位置164において組み込んだ。それは、保存(酵母及び哺乳類)モノユビキチン化リシン残基である。ペプチド3及び4はそれぞれ、腫瘍抑制物質PTEN(染色体TENに位置するホスファターゼ及びテンシン相同体)の残基1〜19及び286〜309に対応する。DL−3.4を、PTENの2つの主要なモノユビキチン化部位であることがわかっている位置13及び289に組み込み、その核内移行を制御した。4種のペプチド配列がすべて、システイン残基を含むとき、それがS−(o−ニトロベンジル)システイン(C、表1)として組み込まれるように選択した。というのは、ニトロベンジル基は、連結条件と適合性があるはずであり、光分解により容易に除去されるからである。最後に、DL−3.4は、p53配列において、そのC末端の調節部分の残基365−389に対応して組み込まれた。C末端のp53ペプチドが、ヒト変異p53癌細胞において放射線誘導アポトーシスを増強させることがわかったことを指摘するのは興味深い。この配列中の6種のリシン残基はすべて、ユビキチン化部位であることが公知なので、6種のペプチド1組を合成した。
【0105】
ペプチド2〜10は、連結反応時に使用されるTris−HCl(pH 7.5)緩衝液に可溶であることがわかった。しかし、ペプチド1は、DMFやDMSOなどの極性有機溶媒にのみ可溶であることがわかった。これは、このペプチドは、ほぼ50%が疎水性アミノ酸で構成されており、3本のβストランドを天然PCNAタンパク質中に含むので驚くべきことではない(支援情報を参照のこと)。過剰のペプチドとのユビキチン連結を行うこと(rxn1〜3及び6〜16、図6及び7)に加えて、(およそ)等モル量のユビキチン及びペプチドの使用(rxn4、5、図6及び図8〜10)によって、連結が可能になることも観察された。ペプチドを固体支持体に固定して固相ペプチドを合成するための本明細書で記載された連結方法を開発することができるためには、すべてのペプチドを完全に消費することが重要である。極性有機溶媒が反応条件と適合性があることを確認するために、H2BペプチドTKAVTKYTSSKのユビキチン連結を、ペプチドのDMSOストックを使用して最終濃度10%DMSOになるまで繰り返した(rxn14〜16、図7)。rxn1〜5(図6)についてわかるように、DMSOは、ユビキチン連結反応に対して負の効果を示さなかった。
【0106】
ユビキチン様タンパク質(Ubl)をコンジュゲートする本手法の普遍性を実証するために、250nM SUMO E1(Aos1−SAE2ダイマー)を使用して、ペプチド1〜10(表1)とSUMO−1(図11)及びSUMO−2(図12)を連結することも行った。
【0107】
(例4):γ−チオリシン構築ブロック4の合成
【化25】

【0108】
γ−クロロ−L−リシン二塩酸塩(4.1)
4.1の合成は、図13に示すような実験装置を使用して、Kollonitschら(J.Am.Chem.Soc.、1964年、86巻、1857頁)に記載された文献の手順に従って行った。
【0109】
L(+)−リシン一塩酸塩(150g、821mmol)のHCl(36%)溶液に、塩素を70℃でバブリングした。混合物を撹拌しながら、中圧水銀ランプで照射した。2時間後、反応混合物を7℃まで冷却し、種結晶を添加して、結晶化を誘導した。1時間後、得られた結晶を濾取し、粗生成物をMeOHで2回粉末にした。結晶を回収して、4.1が白色の固体として得られた。
【化26】

【0110】
ε−tert−ブトキシカルボニル−L−リシナト−ビシクロノニルボロン(4.2)
4.1(1.27g、5.0mmol)の乾燥MeOH(25mL)溶液に、撹拌しながらDiPEA(1.75mL、10.0mmol)を添加した。反応混合物は混濁し、5分後に、9−BBN(1.40g、5.75mmol)を添加した。懸濁液を、窒素下で清澄な溶液が得られるまで、70℃で加熱した(約2時間)。LC−MS分析によって、ボロネート化生成物への完全変換が確認された:R=6.73分(LC−MSプログラム3)、MS ES+(原子質量単位):300.98[M+H])。溶媒を真空中で除去し、残渣をDCMで2回共蒸発させた。残渣を乾燥THF(25mL)に溶解し、DiPEA(1.75mL、10.0mmol)及びBocO(1.091g、5.0mmol)を添加した。反応混合物を3時間撹拌した後、1N KHSO(25mL)を添加した。THFを真空中で除去し、残留している水相をEtOAcで抽出した。その後、有機層を1N KHSO及び塩水で洗浄し、乾燥し(NaSO)、濃縮した。生成物をフラッシュカラムクロマトグラフィー(EtOAc/n−ヘキサン 3/7→1/1 v/v)で白色の発泡体として単離した。
【化27】

【0111】
ε−tert−ブトキシカルボニル−4−(S−アセチル)−L−リシナト−ビシクロノニルボロン(4.3)
KSAc(122mg、1.07mmol)を、4.2(244mg、0.61mmol)のDMF(10mL)溶液に添加した。反応混合物を65℃で3時間撹拌した後、溶媒を真空中で除去した。残渣をEtOAcに再溶解し、塩水で洗浄し、乾燥し(NaSO)、濃縮した。生成物をフラッシュカラムクロマトグラフィー(EtOAc/n−ヘキサン 3/7→1/1 v/v)で白色の発泡体として単離した。
【化28】

【0112】
ε−tert−ブトキシカルボニル−4−(tert−ブチルジスルファニル)−L−リシナト−ビシクロノニルボロン(4.4)
チオアセテート4.3(597mg、1.36mmol)をメタノール(14mL)に溶解し、1N NaOH(1.36mL)で30分間、0℃で処理した。反応混合物を、等モル量のHOAcを添加することによって慎重に中和し、濃縮した。濃縮物を酢酸エチルに再溶解し、1N KHSO及び塩水で洗浄し、乾燥し(NaSO)、濃縮して、粗チオールが油として得られた。別のフラスコにおいて、DCM(25mL)中MsCl(0.53mL、6.80mmol)、2−メチル−2−プロパンチオール(0.767mL、2.72mmol)及びEtN(1.90mL、13.6mmol)の混合物を30分間撹拌した後、粗チオール及びEtN(0.190mL、1.36mmol)のDCM(25mL)溶液を添加した。反応混合物をさらに2時間撹拌した。次に、1N KHSO(50mL)を添加し、DCMを真空中で除去した。水性残渣をEtOAcで抽出し、有機層を1N KHSO及び塩水で洗浄し、乾燥し(NaSO)、濃縮した。生成物をフラッシュカラムクロマトグラフィー(DCM→EtOAc/DCM 1/1 v/v)で白色の発泡体として単離した。
【化29】

【0113】
ε−(フルオレン−9−イルメトキシカルボニル)−Nε−tert−ブトキシカルボニル−4−(tert−ブチルジスルファニル)−L−リシナト−ビシクロノニルボロン(4.5)
2N LiOH(7.5mL)を4.4(243mg、0.5mmol)のTHF(7.5mL)溶液に添加し、2時間激しく撹拌した後、THFを真空中で除去した。水性残渣を1N HClでpH=4まで酸性にし、DCMで洗浄した。水層を25mLまで濃縮し、EtNでpH 8.5にした。Fmoc−OSu(252mg、0.75mmol)のMeCN(25mL)溶液を添加した。反応混合物を室温で撹拌する一方、pHを8から8.5の間に保った。30分後、反応混合物を1N HClでpH=3に酸性にし、MeCNを真空中で除去した。1N KHSO(25mL)を添加し、混合物をEtOAcで抽出した。有機層を1N KHSO及び塩水で洗浄し、乾燥し(NaSO)、濃縮した。生成物をフラッシュカラムクロマトグラフィー(DCM中5%MeOH→DCM中10%MeOH v/v%)で白色の発泡体として単離した。
【化30】

【0114】
(例5):ガラクトシルブロミド修飾チオリシン構築ブロックの合成
【化31】


ε−tert−ブトキシカルボニル−5−チオ−リシナト−ビシクロノニルボロン(100mg、251μmol)及びテトラ−O−アセチル−ガラクトシルブロミド(180mg、440μmol、1.75当量)のDMF(10mL)溶液に、5%NaCO(10mL)を添加した。混合物を終夜撹拌した後、LC−MS分析によって、チオールは存在せず、チオグリコシドが生成されていることがわかった。反応をEtOAcで希釈し、塩水及び飽和NaHCOで洗浄し、有機層をMgSOで脱水し、真空中で濃縮して、残渣を得、フラッシュカラムクロマトグラフィー(n−ヘキサン→EtOAc)で精製した。
【化32】


(参考文献:X.Zhu、K.Pachamuthu、R.R.Schmidt、J.Org.Chem.2003年、68巻、5641頁)
【0115】
(例6):Fmoc−チオリシン構築ブロックを介した蛍光偏光アッセイ試薬の合成
【化33】

【0116】
TAMRA−チオリシン−Gly−OH
Fmoc−Gly−PEG−PS樹脂(1.0g、0.18mmol/g)に、ピペリジン:NMP(20:80 v/v、5mL)を添加した。45分間振盪した後、樹脂をCHClで洗浄した。この手順を繰り返し、続いてCHCl/NMP(1/1、v/v)及びNMPで洗浄した。樹脂に、Nε−(フルオレン−9−イルメトキシカルボニル)−Nε−tert−ブトキシカルボニル−5S−(メチルジスルファニル)−L−リシン(196.8mg、0.36mmol)、PyBOP(206mg、0.40mmol)、DiPEA(138μL、0.79mmol)、及びNMP(5mL)を添加した。樹脂を室温で終夜振盪し、CHCl/NMP(1/1、v/v)で十分に洗浄し、最後にEtOで洗浄した後、高真空下で乾燥した。Fmoc含有量の分光光度分析によって、チオリシン修飾樹脂では、含有量が18mmol/g(収率>99%)であることがわかった。
【0117】
次に、樹脂(255mg、45.9μmol、0.18mmol/g)を、NMP(5mL)中20%ピペリジンで3回、5分間処理し、CHCl/NMP(1/1、v/v)で徹底的に洗浄した。脱保護した樹脂に、5(6)−カルボキシテトラメチルローダミン(TAMRA、23.7mg、55.1μmol)、PyBOP(28.9mg、55.1μmol)、DiPEA(18μL、103μmol)及びNMP(5mL)を添加した。終夜振盪した後、樹脂をCHCl/NMP(1/1、v/v)で素通り画分が無色になるまで洗浄した。次いで、樹脂をTFA/HO/PrSiH(90/5/5、v/v/v、4mL)で1時間処理した。溶液を溶離し、樹脂をTFA/CHCl(1/1、v/v)と、その後に続いてCHClで洗浄した。素通り画分を濃縮し、高真空下で乾燥して、TAMRA−チオリシン−Gly−OH(29.3mg、92%、3ステップ)が紫色の油として得られた。
【化34】

【0118】
スルホローダミンB−チオリシン−Gly−OH
H−Gly−PEG−PS樹脂(1.0g、0.18mmol/g)に、スルホローダミンB酸クロリド(31.9mg、55.3μmol)、DiPEA(18μL、103μmol)及びCHCl(5mL)を添加した。15分間振盪した後、樹脂をCHCl/NMP(1/1、v/v)で洗浄し、スルホローダミンB酸クロリド(13.3mg、23.05μmol)及びDiPEA(8μL、46.1μmol)で再び処理した。室温で終夜振盪した後、樹脂をCHCl/NMP(1/1、v/v)で素通り画分が無色になるまで洗浄した。TFAを用いた脱保護を、TAMRAコンジュゲートで記載されているように行うと、所望のスルホローダミンB−チオリシン−Glyが紫色の油(33.0mg、87%)として得られた。
【化35】

【0119】
Ubの5(6)−TAMRA−及びスルホローダミンB−チオリシン−Glyへのコンジュゲーション
表2の反応混合物:100mM Tris−HCl(pH 8.0)、4mM MgCl(4mM)、50mM MESNa、25μM Ub、25〜500μM 5(6)TAMRA−又はスルホローダミンB−チオリシン−Gly−OH、4mM ATP、及び100nM E1を37℃で3時間インキュベートし、さらに4μLのATPを加え、37℃で終夜インキュベートした。LC−MS分析によって、すべての例において完全な連結が見られた。SDS−PAGE分析と、その後に続くゲルの蛍光イメージング(ProXpress 2D、Perkin Elmer)によって、染料のUbへのコンジュゲーションが確認された。
【表2】

【0120】
5(6)−TAMRA−及びスルホローダミンB−チオリシン(Ub)−Gly−OHの脱硫
粗反応混合物(1.88mL、最終濃度12.2μM)に、0.5M TCEP(1.88mL、最終濃度0.24M)及び100μLの0.2M VA−044溶液(最終濃度5.2mM)を添加した。反応を37℃で終夜インキュベートし、その後、LC−MS分析によって、出発材料の完全な脱硫が見られた。反応混合物を100mM Tris−HCl(pH 8.0)で全量15mLまで希釈し、Amicon Ultra−15 Centrifugal Filter装置(3kDaカットオフ、4000rpmで30分)で濾過した。これを6回繰り返した後、無色の素通り画分を得、TAMRA−チオリシン−Gly−OHが存在していないことを示唆した。これは、LC−MS分析で確認された。脱硫生成物は全量で4.0mL回収し、最終濃度3.13μMに相当するものであった。
【化36】

【0121】
この手順は、スルホローダミンBコンジュゲートの場合と同一であり、同一の結果が得られた。
【化37】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(Ia)又は(Ib)で表されるリシン化合物:
【化1】


[式中、
−X−は(i)硫黄又は(ii)セレンを表し、
−P及び−Pは、独立して、(i)水素又は(ii)アミン保護基、好ましくはカルボベンジルオキシ;p−メトキシベンジルカルボニル;tert−ブチルオキシカルボニル(Boc);9−フルオレニルメチルオキシカルボニル(Fmoc);ベンジル;p−メトキシベンジル;3,4−ジメトキシベンジル;p−メトキシフェニル;トシル;スルホンアミド;アリルオキシカルボニルトリチル及びメトキシトリチルからなる群から独立して選択されるアミン保護基を表し、
−Pは、(i)水素、(ii)式−X−Rで表される基(式中、−Rは、場合によっては置換されている分枝状又は直鎖状脂肪族又は環式のアルキル、ヘテロアルキル、アルケニル又はヘテロアルケニル部分を表す);(iii)チオール又はセレノール保護基、好ましくはベンジル;4−メトキシベンジル;トリチル;メトキシトリチル;t−ブチル;t−ブチルチオール;アセチル;3−ニトロ−2−ピリジンスルフェニル;アセトアミドメチル;メタンチオール及び2−ニトロベンジルからなる群から選択されるチオール又はセレノール保護基;(iv)−R部分又は(v)式−C(=O)−R5’で表される部分を表し、
−R及び−C(=O)−R5’は、好ましくはペプチド、脂質、炭水化物、ポリマー、有機剤及び無機剤からなる群から選択される、共有結合リガンドの残基を表し、
−Rは、(i)水素又は(ii)場合によっては置換されている分枝状又は直鎖状脂肪族又は環式のアルキル、ヘテロアルキル、アルケニル又はヘテロアルケニル部分を表す]
又は前記リシン化合物のエステル、塩、溶媒和物、若しくは水和物。
【請求項2】
Xが硫黄を表す、請求項1に記載のリシン化合物、又はそのエステル、塩、溶媒和物、若しくは水和物。
【請求項3】
式(IIa)又は(IIb)で表される非天然ペプチド:
【化2】


[式中、
−Rは、(i)水素、(ii)請求項1に記載の−P、又は(iii)式−C(=O)−R5’で表される部分を表し、
−Rは、(i)水素、(ii)請求項1に記載の−P、(iii)C→Nポリペプチド鎖又は(iv)式−C(=O)−R5’で表される部分を表し、
−Rは、(i)水素、(ii)請求項1に記載の−P;(iii)−R部分;又は(iv)式−C(=O)−R5’で表される部分を表し、
−Rは、(i)−OH又は(ii)N→Cポリペプチド鎖を表し、
−X−は(i)硫黄又は(ii)セレンを表し、
−R及び−C(=O)−R5’は、好ましくはペプチド、脂質、炭水化物、ポリマー、有機剤及び無機剤からなる群から選択される共有結合リガンドの残基を表し、
−Rは、(i)水素又は(ii)場合によっては置換されている分枝状又は直鎖状脂肪族又は環式のアルキル、ヘテロアルキル、アルケニル又はヘテロアルケニル部分を表す、
但し、それぞれの式において、−R及び−Rの少なくとも一方は、ポリペプチド鎖を表すことを条件とする]。
【請求項4】
前記リガンドが、染料、プローブ、ラベル、タグ、溶解性改変剤、酵素標的、受容体リガンド、免疫調節剤、補助因子、及び架橋剤からなる群から選択される機能性剤である、請求項3に記載の非天然ペプチド。
【請求項5】
及びRが、天然ポリペプチド若しくはタンパク質又はその機能性変種若しくは断片の全アミノ酸配列の相補部分を含むように選択されている、請求項3又は4に記載の非天然ペプチド。
【請求項6】
及びRが、天然ポリペプチド若しくはタンパク質又はその機能性変種若しくは断片のアミノ酸配列中の選択された単一アミノ酸残基、好ましくはリシン残基に隣接するC→N及びN→Cポリペプチド部分を表すように選択されている、請求項3又は4に記載の非天然ペプチド。
【請求項7】
−Rがポリペプチド鎖を表し、−Rが−P又は水素を表す、請求項3又は4に記載の式(IIb)による非天然ペプチド。
【請求項8】
治療剤又は診断剤として使用するための、請求項3から6までのいずれか一項に記載の非天然ペプチド。
【請求項9】
選択されたポリペプチド又はタンパク質配列の部位選択的及び官能基選択的修飾方法であって、
i)前記選択された配列に、式(Ia)又は(Ib)による少なくとも1種のリシン化合物(式中、−Pは水素又は請求項1に記載の保護基を表す)が付加又は置換により組み込まれる、前記選択されたポリペプチド又はタンパク質配列を合成又は生成するステップと;
ii)前記リシン化合物の残基中の−Pで表される基を除去し、式−R又は−C(=O)−R5’で表される基(式中、−R及び−C(=O)−R5’は、式(IIa−IIc)に関して定義したのと同じ意味を有する)と、前記リシン化合物の残基を硫黄原子又はセレン原子においてコンジュゲートするステップと
を含む上記方法。
【請求項10】
−C(=O)−R5’部分が、リシン化合物の残基にコンジュゲートし、−P基を置換して、対応するチオエステル又はセレノエステルを生成し、前記方法は、その後に式−C(=O)−R5’で表される前記基の−εアミン基への分子内転移ステップiii)を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記選択されたポリペプチド又はタンパク質配列の生成が、直交性tRNA/アミノアシル−tRNAシンテターゼ対を使用してリシン化合物を組み込むことを含み、前記リシン化合物が、選択された配列をコードする遺伝子に含まれているナンセンスコドン又は4塩基コドンに応答して組み込まれる、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
前記選択されたポリペプチド又はタンパク質配列が、天然ポリペプチド若しくはタンパク質又はその機能性変種若しくは断片である、請求項9から11までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記選択的修飾が、ユビキチン化を含み、又は構成する、請求項9から12までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
請求項1に記載のリシン化合物の合成方法であって、
(ia)4−ヒドロキシリシン又は5−ヒドロキシリシン化合物を有機ボラン化合物で処理して、アミノ酸保護化合物を得、それをその後にアミン保護基と反応させて、保護された4−ヒドロキシルシン又は5−ヒドロキシリシンを得るステップ;或いは
(ib)4−クロロリシン、5−クロロリシン、4−ブロモリシン、又は5−ブロモリシン化合物を有機ボラン化合物で処理して、アミノ酸保護化合物を得、それをその後にアミン保護基と反応させて、保護された4−クロロリシン、5−クロロリシン、4−ブロモリシン、又は5−ブロモリシンを得るステップ;
(iia)ステップ(ia)で得られた化合物をメシル化し、それをその後に好適なチオカルボン酸若しくはセレノカルボン酸又はその塩と反応させて、対応するチオエステル又はセレノエステルを得るステップ;或いは
(iib)ステップ(ib)で得られた化合物と好適なチオカルボン酸若しくはセレノカルボン酸又はその塩を反応させて、対応するチオエステル又はセレノエステルを得るステップ;
(iii)ステップ(iia)又は(iib)で得られたチオエステル又はセレノエステルを、アルカリ金属水酸化物の水溶液で加水分解して、チオール又はセレノール化合物を得、それをその後に、請求項1に記載の−P基を、チオール基又はセレノール基に転移させることができる作用物質と反応させるステップ;及び
(iv)アミノ酸を保護している有機ボラン基を除去し、場合によっては、その後に前記化合物とアミン保護剤を反応させて、本明細書で以上に定義した式(Ia)又は(Ib)による化合物を得るステップ
を含む上記方法。
【請求項15】
選択されたペプチド又はタンパク質の合成における構築ブロックとして、前記選択されたポリペプチド又はタンパク質配列の部位選択的及び官能基選択的修飾のための連結ハンドルを形成するための、請求項1又は2に記載のリシン化合物の使用。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図1】
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【公表番号】特表2012−526805(P2012−526805A)
【公表日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−510767(P2012−510767)
【出願日】平成22年5月12日(2010.5.12)
【国際出願番号】PCT/NL2010/050277
【国際公開番号】WO2010/131962
【国際公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【出願人】(511275773)シュティクティング ヘト ネーデルランズ カンケル インスティチュート (1)
【Fターム(参考)】