説明

リステリア菌の増菌、分離、および検出のための方法および手段

本発明は、血清型にかかわりなくリステリア菌を認識し結合するが、細胞壁を加水分解する酵素活性を持たないエンドリシンPly511のポリペプチド断片に関する。本発明はさらに、リステリア菌の増菌、分離および検出のための方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血清型にかかわりなくリステリア菌を認識し結合するが、細胞壁を加水分解する酵素活性を持たないエンドリシンPly511のポリペプチド断片に関する。本発明は、さらにリステリア菌の増菌、分離、および検出のための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リステリア菌はヒトおよび動物の病原菌であり、食物、特に魚、肉、および乳製品の中にしばしば存在する。リステリア属は、16の異なる血清型を有する6つの異なる種を含む。詳細に述べると、血清型1/2a、1/2b、1/2c、3a、3b、3c、4a、4ab、4b、4c、4d、4e、7を有するL.モノサイトゲネス(L.monocytogenes);血清型3、6a、6b、4ab、U/Sを有するL.イノクア(L.innocua);血清型5を有するL.イバノビ(L.ivanovii);血清型1/2a、1/2b、1/2c、4b、4c、4d、6bを有するL.シーリゲリ(L.seeligeri);血清型1/2a、4c、6a、6b、U/Sを有するL.ベルシメリ(L.welshimeri)、および血清型Grayiを有するL.グレイ(L.grayi)である。2つの種、L.モノサイトゲネスおよびL.イバノビは、病原性と考えられている。3番目の種、L.シーリゲリは非病原性と見なされている;しかし、L.シーリゲリがヒトで髄膜炎を引き起こした一例が知られている。残りの種は、非病原性と考えられている。リステリア症の約90%は、L.モノサイトゲネスの血清型1/2a、1/2b、および4bに帰せられる(Wing EJ & Gregory SH, 2002:Listeria monocytogenes:Clinical and Experimental Update, J Infect Diseases 185(Suppl 1):S18-S24(非特許文献1))。
【0003】
食物関連の疾病のわずかな部分のみがリステリア菌によって引き起こされるが(米国で約1%)、食物病原菌によって引き起こされる、毎年の致死的な疾病の約30%は、この細菌が原因である。とりわけ免疫が抑制された人々、例えば高齢者、糖尿病患者、ならびに癌および/またはエイズの罹患者が影響を受ける。妊婦およびその胎児は、侵襲性のリステリア症に罹患した人々のすべての事例の約25%に相当する。リステリア菌は、血液脳関門または胎盤関門を乗り越える能力によって、髄膜炎、脳炎、流産、および死産を引き起こす場合がある(Wing EJ & Gregory SH, 2002, Listeria monocytogenes:Clinical and Experimental Update, J Infect Diseases 185(Suppl 1):S18-S24(非特許文献1);Doyle ME, 2001:Virulence Characteristics of Listeria monocytogenes, Food Research Institute, October 2001(非特許文献2))。
【0004】
リステリア菌は弱酸に極めて耐性であり、比較的高い塩濃度および1℃〜45℃の温度で繁殖することができる。主な感染源は食物であり、特に、多くの乳製品、薫製ニシン、食肉加工品などの消費前に熱処理されないものである。また、インスタント食品の場合も増加している。多くのヨーロッパ諸国またはカナダでも、インスタント食品中のL.モノサイトゲネスについては一切容認されないが、ある種の食物については100cfu(コロニー形成単位)/g食物までのリステリア菌による汚染は許容される。しかし、いずれにしても、リステリア菌汚染に関して食物を検査する必要がある。これらの食物、例えばシーフード、薫製ニシン、乳製品、または生野菜のインスタント製品までも、その多くは保存期間が限られている。これらの製品が出荷後に、リステリア菌汚染に関する検査で陽性であり、許容される閾値を超えた汚染がある場合、しばしば高負担の製品回収をすることになる。前述の理由で、汚染を検出するのに必要な、今までの比較的長い期間を大幅に短縮することは、大きな関心事である。
【0005】
L.イバノビおよびL.シーリゲリによって引き起こされたリステリア症の症例も知られているため、リステリア菌に関して食物を十分に管理するためには、L.モノサイトゲネスを検出するだけではあまり十分でない。さらに、すべてのリステリア菌種の検査を食物生産に関する公衆衛生モニタリングとして使用してもよい。リステリア菌の検出に関する問題は、検出に要する時間である。特に食品産業では、この検出時間は、一部の食物の保存期間が短いこと、およびサンプルが汚染されていないことが確認されるまで必要となる高負担の保管に鑑み、大きなファクターとなる。さらに、汚染された商品が品質管理結果の受取以前にスケジュールより早く出荷された場合、高負担の製品回収を常に見ることになる。標準検出時間は、ISO 11290-1:1996/FDAM 1:2004(E)によれば4〜7日より多く、FDAおよびUSDA/FSISによれば4〜7日である。多くの他の方法では、食物サンプルに妨害成分がなくても、検出用に十分な量のリステリア菌を得るために、増菌に最大48時間もかかる。
【0006】
この問題は、リステリア菌に対する多数の検出法によって検討された。検出法の多く、例えばPCR、ELISA等(米国特許第2004/0197833 A1号参照(特許文献1))は、市販もされている。そのような方法は純粋培養の場合には非常に有望である;しかし、混合培養または食物のような複雑な素材の場合には大きな問題がある。
【0007】
これに関連して、L.モノサイトゲネスの鞭毛タンパク質に対する抗体を使用する方法がある(Skjerve, 1990;Skjerve E., Rorvik LM, Olsvik O.:Detection of Listeria monocytogenes in foods by immuno-magnetic separation. Appl Environ Microbiol. 1990 (11):3478-3481(非特許文献3))。この抗体は磁気微粒子上に固定化される。チーズを用いた実験で同様な方法を用いて、グラムチーズ当たり0.5〜1.5cfuの細胞数が検出可能であった(Uyttendaele et al., 2000;Uyttendaele M, Van Hoorde I, Debevere J.:The use of immunomagnetic separation (IMS) as a tool in a sample preparation method for direct detection of L. monocytogenes in cheese. Int J Food Microbiol. 2000;54(3):205-212(非特許文献4))。しかし、この抗体は標的細胞にのみ結合するのではないことが判明した。そのような方法は、純粋培養の場合には確かに非常に有望である。しかし、混合培養または食物のような複雑な素材の場合には大きな問題がある。つまり、結合しない非リステリア菌の割合が非常に高率であった。さらに、食物ホモジェネートを希釈し、遠心分離し、酵素的に消化して、細胞が粒子に結合するのを可能にして初めて、前述の方法を用いて、十分なリステリア菌を得ることができた。その後の実験でJungらは、リステリア菌の7%〜23%のみが抗体でコートされた磁気ビーズを用いて緩衝液から単離し得ることを示した(Jung et al., 2003;Jung YS, Frank JF, Brackett ER:Evalution of antibodies for immunomagnetic separation combined with flow cytometry detection of Listeria monocytogenes. J Food Prot. 2003;66(7):1283-1287(非特許文献5))。
【0008】
鞭毛のないリステリア菌細胞全体に対するモノクローナル抗体およびリステリア菌鞭毛タンパク質に対するモノクローナル抗体でコートされた磁気微粒子を用いたFluitらによる実験でも、最初に使用されたリステリア菌の回収率として5%〜15%が得られた。(Fluit et al., 1993;Fluit AC, Torensma R, Visser MJ, Aarsman CJ, Poppelier MF, Keller BH, Klapwijk P, Verhoef J.:Detection of Listeria monocytogenes in cheese with the magnetic immuno-polymerase chain reaction assay. Appl Environ Microbiol. 1993;59(5):1289-1293(非特許文献6))。さらに、リステリア菌の10%は抗体によって認識されなかった。
【0009】
さらに進んだ方法では、2つのリステリア菌ファージ・エンドリシンの細胞結合ドメイン(CBD)を用いる(国際公開公報第00/11472号(特許文献2);米国特許第2004/0197833 A1号(特許文献1))。エンドリシンはファージのコードするタンパク質であり、ファージ成熟の後期に産生され、膜孔を形成するホリン(holin)とともに成熟ファージ粒子の放出のために宿主細胞を溶解させることができる。エンドリシンは、2つのドメイン、細胞溶解ドメインおよび細胞結合ドメイン(CBD)から成る。細胞溶解ドメインは、グラム陽性菌の細胞壁のペプチドグリカンを切断する。CBDは細胞壁に結合し、エンドリシンの特異性を決定する。
【0010】
この方法(国際公開公報第00/11472号(特許文献2);米国特許第2004/0197833 A1号(特許文献1))では、リステリア菌ファージA118およびA500由来のエンドリシンPly118およびPly500のCBD(CBD118およびCBD500)と緑色蛍光タンパク質(GFP)との融合タンパク質が使用された。これらのタンパク質を磁気微粒子上に固定化し、リステリア菌を増菌する能力について試験した。CBD118/CBD500システムは、IDF標準分析法(IDF, 143A:1995)と比較して、種々の食物サンプルについて試験した。コートされた粒子を用いることによって、食物中のリステリア菌を検出するための前増菌期間を大幅に短縮できることが示された。
【0011】
しかし、CBDの結合特性に関して、CBD118もCBD500も単独ではすべての血清型を認識するわけではないことが示された。したがって、サンプル中のリステリア菌の血清型を前もって知ることはないので、両方のCBDが微粒子に結合した混合物を増菌用に使用することが常に必要である。それにより、食物検査1回当たりに使用する粒子量は2倍となり、システムのコストの増大および微粒子に非リステリア菌が非特異的に付着するリスクの増加が起こる。
【0012】
【特許文献1】米国特許第2004/0197833 A1号
【特許文献2】国際公開公報第00/11472号
【非特許文献1】Wing EJ & Gregory SH, 2002:Listeria monocytogenes:Clinical and Experimental Update, J Infect Diseases 185(Suppl 1):S18-S24
【非特許文献2】Doyle ME, 2001:Virulence Characteristics of Listeria monocytogenes, Food Research Institute, October 2001
【非特許文献3】Skjerve E., Rorvik LM, Olsvik O.:Detection of Listeria monocytogenes in foods by immuno-magnetic separation. Appl Environ Microbiol. 1990 (11):3478-3481
【非特許文献4】Uyttendaele M, Van Hoorde I, Debevere J.:The use of immunomagnetic separation(IMS)as a tool in a sample preparation method for direct detection of L. monocytogenes in cheese. Int J Food Microbiol. 2000;54(3):205-212
【非特許文献5】Jung YS, Frank JF, Brackett ER:Evalution of antibodies for immunomagnetic separation combined with flow cytometry detection of Listeria monocytogenes. J Food Prot. 2003;66(7):1283-1287
【非特許文献6】Fluit AC, Torensma R, Visser MJ, Aarsman CJ, Poppelier MF, Keller BH, Klapwijk P, Verhoef J.:Detection of Listeria monocytogenes in cheese with the magnetic immuno-polymerase chain reaction assay. Appl Environ Microbiol. 1993;59(5):1289-1293
【発明の開示】
【0013】
したがって、本発明の根底にある課題は、すべての血清型のリステリア菌を容易に、かつ迅速に検出し、除去することができる方法および該方法を実施する手段を提供することである。
【0014】
本課題は特許請求の範囲で定義された主題によって解決される。
【0015】
本明細書において使用する「リステリア菌」という用語は、リステリア属に入るすべての細菌を意味する。具体的には、「リステリア菌」という用語は、血清型1/2a、1/2b、1/2c、3a、3b、3c、4a、4ab、4b、4c、4d、4e、7を有するL.モノサイトゲネス;血清型3、6a、6b、4ab、U/Sを有するL.イノクア;血清型5を有するL.イバノビ;血清型1/2a、1/2b、1/2c、4b、4c、4d、6bを有するL.シーリゲリ;血清型1/2a、4c、6a、6b、U/Sを有するL.ベルシメリ;血清型Grayiを有するL.グレイを包含する。
【0016】
本明細書において使用する「リステリア菌の枯渇(depletion of listeria)」または「リステリア菌の分離(listeria removal)」という用語は、サンプル材料からのリステリア菌の完全な、または部分的な分離を意味する。
【0017】
本明細書において使用する「前増菌」または「増菌」という用語は、例えば食物サンプル中でのそれぞれの培地でスパイクすることによるリステリア菌の増殖を意味し、そのサンプル中のリステリア菌の濃度/量を増加させ、その結果、それぞれの検出段階で明白な陽性、または明白な陰性と記述することを可能にすることを目的とする。
【0018】
本明細書において使用する「サンプル材料」または「サンプル」という用語は、リステリア菌を検出する、またはリステリア菌を分離するすべての溶液を含む。次のリストが例示的なサンプルである。すなわち、水溶液、水と有機溶媒との混合物、食物、培地、血液、血液製剤、血漿、血清、尿、タンパク質溶液、水-エタノール混合物である。さらに、検査する、または分離する非水性の固形物質、例えば、タンパク質、DNA、RNA、糖、塩類、食物、食物-培地ホモジェネート、薬物、ワクチン、有機および無機化学薬品(例えばNaCl、MgCl2、プリン、ピリミジンなど)が溶解している溶液も含む。
【0019】
本明細書において使用する「エンドリシン」という用語は、それぞれのファージ増殖サイクルの終点で新しいファージを放出する働きをする、天然のファージがコードする酵素に関する。これらのエンドリシンは、酵素活性ドメインとそれぞれの宿主細胞の細胞壁に結合するドメインとからなる。さらに、該用語は同様な構成を有する自己溶菌酵素も含むと理解される。これらは細菌にコードされており、やはり細胞壁加水分解の酵素活性細胞と標的細菌の細胞壁に結合するドメインとから成る。
【0020】
本明細書において使用する「CBD」という用語は、それぞれのアミノ酸配列がエンドリシン中の一部に相当するポリペプチド断片に関する。該一部がリステリア菌細胞壁へのエンドリシンの結合の原因となる。該ポリペプチド断片には酵素活性はない。CBDは、アフィニティータグ(His-Tag、Strep-Tag、Avi-Tag、ビオチン化ドメイン)を有する、および有しないスペーサー分子(GFP、MBP、ビオチン化ドメイン)との遺伝子融合体としても、またはアフィニティータグ(His-Tag、Strep-Tag、Avi-Tag、ビオチン化ドメイン)のみとの遺伝子融合体としても存在し得る。
【0021】
本明細書において使用する「非特異的固定化」または「非指向的固定化(undirected immobilisation)」という用語は、CBDのマトリックスへのカップリングがポリペプチド表面全体にわたって分散しているアミノ酸残基(例えば第一級アミン)を介して行われることを意味する。単一ポリペプチド分子のカップリングのために使用される残基は、無作為に選択される。この場合、CBDは、マトリックス上の活性化された基に直接結合(例えば、Dynabeads M-270 Epoxy、Dynaleへの結合)してもよく、またはある基がCBDに化学的に導入(例えば、EZ-link-スルフォ-NHS-LC-LC-ビオチン, Pierceによるビオチンの導入)され、該基を介してCBDが、導入された基に対するリガンド(例えば、ストレプトアビジン)でコートされるマトリックスに結合してもよい。
【0022】
本明細書において使用する「指向的固定化(directed immobilisation)」という用語は、タンパク質中の位置(例えば、N末端またはC末端)が知られているアミノ酸残基または他の残基(例えば、タンパク質のグリコシル化)を介してCBDのカップリングが起こることを意味する。カップリングのためのこれらの基の選択は、好ましくは前述の残基と反応する適切な反応パートナー/リンカーの選択によりなされる(例えばヨード酢酸残基へのスルフヒドリル残基のカップリング;ヨード酢酸は、アミノ残基よりもスルフヒドリル残基と千倍速く反応する)。この用語は、CBDのヌクレオチド配列がアフィニティータグ(例えば、Strep-TagまたはHis-Tag)のヌクレオチド配列と融合し、特定のマトリックス(例えば、ストレプトアビジンでコートされた磁気微粒子またはニッケル-キレートリガンド)に結合することをさらに意味する。この用語は、CBDのヌクレオチド配列が他のタンパク質によって認識されるポリペプチドのヌクレオチド配列に融合され、前述の他のタンパク質が明確な位置(例えば、Avi-Tagまたはクレブシエラ菌(Klebsiella)のオキサル酢酸デカルボキシラーゼのビオチン化ドメイン)に分子を導入することをさらに意味する。
【0023】
本明細書において使用する「表面」または「担体」という用語は、CBD分子のカップリングまたは付着が可能であるすべての材料、例えばガラス表面、アガロースまたはセファロースなどのクロマトグラフィー材料、ポリスチレンまたはポリプロピレンなどのプラスチック表面、セルロースなどのフィルター材料を含む。
【0024】
本明細書において使用する「1段階法」という用語は、サンプルの添加前に、CBDが適切な担体または表面に指向的にまたは非指向的にすでに固定化されている方法に関する。サンプルと固定化CBDをインキュベートした後、リステリア菌-CBD-担体複合体をサンプルから分離し、次いで任意で洗浄する。
【0025】
本明細書において使用する「2段階法」という用語は、適切な非固定化CBDをサンプルと接触させ、インキュベートする方法に関する。形成したリステリア菌-CBD複合体を続いて適切な担体または表面と接触させて、その結果リステリア菌-CBD複合体をCBDを介して担体または表面に結合させる。次いで、リステリア菌-CBD-担体複合体をサンプルから分離し、任意で洗浄する。適切なCBDは、担体または表面に特異的に結合するように、ポリペプチドまたは化学基で修飾されており、担体または表面は、ポリペプチドまたは化学基のそれぞれの結合パートナーでコートされている。
【0026】
本発明は、ファージA511のエンドリシンPly511に由来し、リステリア菌の細胞壁へのファージの結合の原因となるポリペプチド断片に関する。完全長のエンドリシンPly511のアミノ酸配列をSEQ ID NO: 2に示し、それをコードする核酸配列をSEQ ID NO: 1に示す。驚くべきことに、本発明によるエンドリシンPly511の単離ポリペプチド断片は、完全長のエンドリシンPly511の溶菌スペクトルとはずれた結合スペクトルを示す。エンドリシンPly511はすべての血清型のリステリア菌に加えて少なくとも一部のバチルス属も加水分解するが、本発明による単離ポリペプチド断片は、もっぱらリステリア菌のみを認識し結合する。
【0027】
本発明は、リステリア菌の細胞壁に結合する特性を有するエンドリシンPly511のポリペプチド断片に関する。該ポリペプチド断片は細胞壁加水分解の酵素活性領域をもはや持たない。さらに、本発明は、本発明によるポリペプチド断片をコードする核酸配列に関する。本発明によるポリペプチド断片は、以下では「細胞壁結合ドメイン」(CBD)とも称する。CBDは血清型にかかわらずリステリア菌をすべて認識し結合するが、加えて、他のいかなる種も認識せず結合しない。
【0028】
好ましくは、本発明によるポリペプチド断片は、少なくとも位置116〜341、多くとも180〜341のアミノ酸配列(SEQ ID NO: 2による全長配列を参照)を示す。したがって、本発明によるポリペプチド断片は、位置116〜位置180の範囲の任意の位置にN末端があり、位置341にC末端があることになる。位置116〜180の範囲は、この領域上に正確には固定されず、ポリペプチド断片が全く細胞壁加水分解活性を示さずに、細胞壁結合活性を保持する限り、N末端またはC末端の方向にアミノ酸位置を2〜3個シフトすることは可能である。好ましくは、本発明は、記載された好ましいポリペプチド断片をコードする核酸分子にさらに関する。
【0029】
本発明は、修飾ポリペプチド断片、および本発明による修飾ポリペプチド断片をコードする核酸配列にさらに関する。
【0030】
特に、CBDはビオチンなどの低分子物質に結合させてもよい。低分子物質は、化学的にCBDに導入されてもよく、ポリペプチドとCBDの融合によって導入されてもよい。ビオチンは別のタンパク質を用いて、インビボまたはインビトロで該ポリペプチド中に導入される。そのようなポリペプチドは、例えばビオチン化ドメイン、すなわちビオチン化される天然に存在するポリペプチド中の領域である。そのようビオチン化ドメインは、例えば、クレブシエラ菌のオキサル酢酸デカルボキシラーゼ(米国特許第5,252,466号および欧州特許第0511747号)、ネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)のオキサル酢酸デカルボキシラーゼ、プロピオニバクテリウム・シェルマニ(Propionibacterium shermanii)のトランスカルボキシラーゼサブユニット、大腸菌(Escherichia coli)のアセチルCoAカルボキシラーゼのビオチンカルボキシル担体タンパク質、出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)のピルビン酸カルボキシラーゼまたは出芽酵母のアセチルCoAカルボキシラーゼにより示される。しかし、そのようなポリペプチドは、Avi-Tagであってもよい(関連特許米国特許第5,932,433号、米国特許5,874,239号および米国特許5,723,584号)。さらに、ビオチンは、ある基を有するポリペプチドとの融合によって該基に特異的、化学的に結合させてもよい。該基はタンパク質中に存在しないか、存在してもまれであり、また存在してもほとんど接近できない(例えば、システイン)。さらに、ビオチンの代わりに、いわゆるStrep-Tag(Skerra, A. & Schmidt, T. G. M. Biomolecular Engineering 16 (1999), 79-86, 米国特許第5,506,121号)を使用してもよい。Strep-Tagは、短いアミノ酸配列で、ストレプトアビジンに結合する。さらに、His-Tagを使用してもよい。さらに、異なるタグを組み合わせることも可能であり、そのようにして異なるタグ(例えば、Strep-TagとHis-Tag、またはビオチン化ドメインとHis-Tag)の異なる結合親和性を利用することもできる。ビオチン化ドメインとAvi-Tag、Strep-TagとHis-Tagは、DNA組換え技術を使用して、CBDに結合するのが好ましい。好ましくは、融合タンパク質は、クレブシエラ菌由来のオキサル酢酸デカルボキシラーゼのビオチン化ドメインまたはAvi-Tag、Strep-TagまたはHis-Tagからなり、それらのC末端にCBDのN末端が結合する。しかし、そのような融合は、前述のタグの1つであって、そのC末端と一種の「スペーサー分子」として用いられる別のタンパク質、例えば、GFPまたはマルトース結合タンパク質のN末端が結合してもよい。この場合に、CBDはそのN末端を介して、前述の他のタンパク質のC末端に結合することができる。
【0031】
しかし、ビオチン化ドメインは、His-Tag、Strep-Tag、またはAvi-Tag等の前述の他のタグよりも大きいため、GFPまたはMBP等の「スペーサー分子」としての役割も果たすことができる。ビオチン化ドメインは、いわば二重機能を果たし得る。CBDは、より大きなタンパク質由来の断片であるので、通常は比較的小さい(約100〜300のアミノ酸)。したがって、CBDドメインと担体上への固定化を担う基との間に一種のスペーサーを導入することは、理にかなっておりまた必要である。一方では、これによって、CBDが、固定化により細菌表面への結合活性の減少を伴う変性を起こすことを防ぎ得る。他方では、CBDが表面から離れている場合、CBDへの細菌の接近が容易になるとともに、表面への非特異的結合が減少する。さらに、スペーサーは、表面への固定化を担う基が、CBDに直接融合していない場合、より接近しやすくなるという事実に寄与し得る。
【0032】
前述のカップリングは、N末端もしくはC末端などに指向的に行われてもよく、または非指向的に行われてもよい。指向的カップリングは、適切な、反応性のあるアミノ酸を用いて行われる。そのようなアミノ酸は、適切な位置に特異的に導入されたシステインなどの表面露出したアミノ酸としてCBD中に多くは存在しない。好ましくは、カップリングは他のアミノ酸を用いる直接的な方法で行われる。または、やはりシステインの場合のように、間接的な方法で「スペーサー」もしくは「架橋剤」(1官能基性または2官能基性)を用いてもよい。
【0033】
システインカップリングの場合には、NH反応基およびSH反応基を有するすべての2官能基性架橋剤が、中間のスペーサーと共に、またはスペーサーなしで、可能である。例えば、11-マレイミドウンデカン酸スルフォ-NHS、またはサクシンイミジル-4-[N-マレイミドメチル]-シクロヘキサン-1-カルボキシ-[6-アミド]カプロン酸塩がある。スペーサーが存在しない場合には、末端NH基を有する8〜12個の炭素原子スペーサーを導入してもよい。好ましくは、システインカップリングは、例えば、EZ-link-PEO-マレイミド活性化ビオチン(Pierce)を用いるシステインの特異的ビオチン化を用いて行われる。
【0034】
本発明によるポリペプチド断片は、以下に述べるリステリア菌の増菌、分離および検出のための方法に使用することができる。
【0035】
本発明は、サンプル由来のリステリア菌の増菌のための方法(いわゆる1段階法)であって、以下の段階を含む方法に関する。
a)固体担体に非特異的にまたは指向的に固定化されたCBDとサンプルをインキュベートする、または接触させる段階;
b)サンプルから担体-CBD-リステリア菌複合体を分離する段階;および
c)任意で担体-CBD-リステリア菌複合体に非特異的に付着するサンプル成分を洗い流す段階。
【0036】
本発明による増菌方法のために、本発明によるポリペプチドであるCBDを固体担体に結合させる。固体担体は、磁気微粒子でも、または磁気のない微粒子でもよい。また、クロマトグラフィーカラムの充填材料(例えばセファロース材料)、セルロース、濾過媒体、ガラス微粒子、遠心分離用材料または沈降材料(例えばアガロース粒子)であってもよい。
【0037】
本発明によるポリペプチド(下記ではCBDとも称される)のカップリングは、非特異的に行われてもよく、あるいは選択的ビオチン化またはスペーサーもしくはリンカーなどを介する指向性のある方法で選択的に行うこともできる。化学的に活性化された固体相、例えば、エポキシ基、トシル基、またはNHS基を有する固体相に、CBDのアミノ酸側鎖との反応を用いて、CBDを非特異的に結合することができる。リステリア菌へのCBDの接近の容易さは、例えば、特異的な活性化表面に対してCBDよりも高い親和性を有するポリペプチド鎖(例、活性化ポリスチレン上のGFP)とのタンパク質融合体中にCBDが存在することによって増大させ得る。具体的には、本発明によるポリペプチドは、前述の特性および修飾を提示することができる。
【0038】
リステリア菌の増菌は、磁気に基づいた方法を用いて、またはクロマトグラフ法を用いて、またはいわゆる「バッチ」法を用いて行うことができる。
【0039】
CBDを結合したそれぞれの担体材料とサンプルとのインキュベーション時間は、それぞれのサンプルに適合していなければならない。このインキュベーション時間は、1分〜24時間の間で変えてもよく、特に、約5〜60分、または約30〜180分、または必要ならば一晩でさえ可能である。
【0040】
CBDでコートされた担体材料が磁気微粒子からなる場合、サンプルはその担体材料とインキュベートされる。次いで、磁場をかけることによって、担体-CBD-リステリア菌複合体をサンプルから磁気的に分離する。バッチ法の場合、リステリア菌に汚染されたサンプルを、本発明によるCBDが共有結合的に結合した担体材料と混合し、一緒にインキュベートする。次いで、担体-CBD-リステリア菌複合体をサンプルから遠心分離もしくは沈降分離してもよく、またはカラム上に充填し溶出分離、または濾過分離してもよい。バッチ法、すなわちサンプルの前インキュベーションおよびそれぞれのCBD結合担体材料を用いる増菌は、極めて低いリステリア菌濃度の場合に、特に実用的であり得る。
【0041】
しかし、クロマトグラフィーカラムを用いるリステリア菌の増菌も、単なる流出法で実施可能である。この目的のために、最初に、CBDを担った担体材料を、クロマトグラフィーカラム上に載せる。リステリア菌に汚染されたサンプルを、該カラムに載せて、カラムを流す。これによって、リステリア菌はCBDに結合し、カラム上に留まる。サンプルそれ自体は、理想的にはクロマトグラフィー材料といかなる相互作用も示さず、フロースルー(flow throuh)中に見出される。流速はカラムの容積および形状に依存する。さらに、カラムとリステリア菌との間の接触時間を可能な限り長くすることによりリステリア菌濃度が低い場合でも効率的な分離を達成するために、流速はサンプル中のリステリア菌の容積および量に依存する。このような状況では、接触時間は、サンプルをカラム上に載せてから流出するまでにかかる時間である。カラムに結合したリステリア菌は、適切な緩衝液による洗浄によって再びカラムから取り出せるため、カラムは繰り返し再使用することができる。
【0042】
さらに本発明は、サンプル由来のリステリア菌の増菌のための方法(いわゆる2段階法)であって、以下の段階を含む方法に関する:
a)サンプルを、ポリペプチドと融合した、または化学基で修飾したCBDとインキュベートしまたは接触させて、ポリペプチドまたは化学基のそれぞれの結合パートナーでコートされた担体に特異的に結合させる段階;
b)ポリペプチドまたは化学基のそれぞれの結合パートナーでコートされた担体とリステリア菌-CBD複合体を接触させ、インキュベートする段階;
c)サンプルから担体-CBD-リステリア菌複合体を分離する段階;および
d)任意で担体-CBD-リステリア菌複合体に非特異的に付着するサンプル成分を洗い流す段階。
【0043】
具体的には、本発明によるポリペプチド(下記ではCBDとも称される)は、前述の特性および修飾を提示することができる。
【0044】
ビオチンが導入される別のタンパク質へのCBDのカップリングは、例えば、N末端もしくはC末端などに指向的に行なわれてもよく、または非指向的に行われてもよい。指向的カップリングは、適切な、反応性のあるアミノ酸を用いて行われる。そのようなアミノ酸は、適切な位置に特異的に導入されたシステインなどの表面露出したアミノ酸としてCBD中に多くは存在しない。好ましくは、カップリングは他のアミノ酸を用いる直接的な方法で行われる。または、やはりシステインの場合のように、間接的な方法で「スペーサー」もしくは「架橋剤」(1官能基性または2官能基性)を用いてもよい。
【0045】
システインカップリングの場合には、NH反応基およびSH反応基を有するすべての2官能基性架橋剤が、中間のスペーサーと共に、またはスペーサーなしで、可能である。例えば、11-マレイミドウンデカン酸スルフォ-NHS、またはスクシンイミジル-4-[N-マレイミドメチル]-シクロヘキサン-1-カルボキシ-[6-アミド]カプロン酸塩がある。スペーサーが存在しない場合には、末端NH基を有する8〜12個の炭素原子スペーサーを導入してもよい。好ましくは、システインカップリングは、例えば、EZ-link-PEO-マレイミド活性化ビオチン(Pierce)を用いるシステインの特異的ビオチン化により行われる。さらに、例えば、カルボキシル残基、アミノ残基、ヒドロキシル残基、またはスルフヒドリル残基などのタンパク質残基への公知のカップリング反応を用いてカップリングを行ってもよい。
【0046】
前述の1段階法に関しては、担体-CBD-リステリア菌複合体のインキュベーションおよび分離が行われる。
【0047】
本発明による方法は、増菌に適しているだけでなく、サンプルからのリステリア菌の分離にも適している。
【0048】
さらに、本発明は、サンプル中のリステリア菌の検出のための方法に関する。リステリア菌検出は、増菌用の前述の方法の段階に続く段階をさらに含み、以下の検出が1段階法および2段階法の両方に関して実施可能である。
【0049】
例えば、次の検出が使用されてもよい。例えば、選択培地プレート上でのプレーティングおよびインキュベーションの選択増殖条件を用いる担体-CBD-リステリア菌複合体中の、または担体材料から剥離した後のリステリア菌の検出;例えば、PCRまたはDNAハイブリダイゼーション法を用いる標的細胞DNAの検出;例えば、エンドリシンまたは抗体の細胞結合ドメインを用いる標的細胞の細胞壁またはその成分の検出;標的細胞成分、例えば、ELISAもしくは酵素活性を用いるタンパク質の検出、またはATPの検出;標的細胞特異的バクテリオファージ、例えばA511-luxAを用いる検出。好ましくは、標的細胞DNAの検出を、例えばPCRを用いて実施する、または標的細胞成分、例えばタンパク質の検出を、リステリア菌特異的エンドリシン、例えばPly511を用いてリステリア菌を破壊した後ELISAを用いて実施する。
【0050】
さらに、担体-CBD-リステリア菌複合体中の、または担体材料から剥離後のリステリア菌の検出を、酵素活性を有するポリペプチドに結合した追加のCBDを用いて、その結果、反応産物を酵素反応により検出することができるように実施してもよい。さらに、追加のCBDを、蛍光タンパク質およびタグ(例えばStrepTag-HisTag-GFP-CBD)と融合させてもよく、その後それには、タグ(例えばストレプトアビジン-アルカリフォスファターゼ複合体)に特異的に結合する酵素およびタンパク質の結合体が結合する。
【0051】
本発明による方法は次の利点により特徴づけられる:
・単一の結合分子、すなわち本発明によるCBDだけが、血清型に依存せずにすべてのリステリア菌を認識し、かつ結合するのに必要である。
・方法1回当たり必要なCBD量は著しく少量である。いずれの血清型グループのリステリア菌がサンプル中に存在しているかは検査サンプルでは未知である以上、従来技術の結合分子、例えばCBD118、またはCBD500を作用させる場合、すべての血清型グループに対して十分な感度を得るためには、量に関して著しく多くの量を用いる必要がある。対照的に、リステリア菌のすべての血清型に結合する本発明によるCBDは、より少ないポリペプチド量を適用しても同等の感度がある。
・したがって、担体材料、例えば磁気微粒子の必要量は、より少ない。担体はいつも、例えば、その後の検出法に対する可能な攪乱要因のソースである。このような状況では、それぞれの担体に非特異的に結合する細菌または他のサンプル成分が、間違った結果に導く場合がある。さらに、担体は費用を決める要因である。
・同じインキュベーション時間を示すとはいえ、本発明は標的細菌のより迅速な増菌を可能にし、その結果時間が節約される。
・いわゆる2段階法の場合、例えば、リステリア菌とサルモネラ菌に対するように、異なる細菌に対する結合分子を同時に適用することができ、同じ担体(例えば、ストレプトアビジンでコートされた磁気微粒子)を用いてサンプルから増菌することができる。続いて、個々の種および/または血清型を、その後の特異的な検出によって決定してもよい。
【0052】
さらに、本発明は、本発明によるポリペプチド断片を固定化した担体、ならびにリステリア菌の増菌および検出に必要とされる緩衝液、例えば、洗浄緩衝液、剥離緩衝液(stripping buffer)、および/または細胞破壊緩衝液(cell cracking buffer)を含むキットに関する。さらに、本発明は、本発明による修飾ポリペプチド断片、ポリペプチド断片の修飾物それぞれの結合パートナーを固定化した担体、ならびにリステリア菌の増菌および検出に必要とされる緩衝液、例えば、洗浄緩衝液、剥離緩衝液、および/または細胞破壊緩衝液を含むキットに関する。
【0053】
以下の実施例は本発明を説明するものであって、限定するものと考えるべきではない。他に指示がなければ、例えばSambrook et al.,(1989):Molecular cloning:A Laboratory Manual 2nd edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New Yorkに記載されているような分子生物学の標準的な方法を用いた。
【0054】
実験1:異なる長さのCBD511融合体のリステリア菌に対する結合の検出
異なるCBD511融合タンパク質StrepTag-HisTag-GFP-CBD511_f1、StrepTag-HisTag-GFP-CBD511_f2およびStrepTag-HisTag-GFP-CBD511_f3を、大腸菌HMS174(DE3)内で異種発現させ、カラムクロマトグラフイー材料の製造業者の説明書に従ってNi-アフィニティークロマトグラフィー(Qiagen)を用いて精製した。リステリア・モノサイトゲネスScottA(血清型4b)またはリステリア・モノサイトゲネスProCC679(血清型1/2a)の一晩培養物50μlを上記精製タンパク質約2μgと混合し、室温で2分間インキュベートした。PBST(10mMリン酸ナトリウムpH 8、150mM NaCl、0.05%Tween20)1mlを添加した後、細胞を遠心分離し、0.5mlで2回洗浄し、PBST 50ml中に再懸濁した。結合を蛍光顕微鏡下で照合した。HisTag-GFP-CBD変異体がリステリア菌の血清型4bおよび1/2aの双方に結合することが示された。
【0055】
実験2:StrepTag-GFP-CBD511の属特異的結合
リステリア菌を、リステリア菌増菌液体培地acc. FDA(Profos AG)2ml中にて30または37℃で一晩増殖させた。バチルス属(Bacillus)、クリセオバクテリウム属(Chryseobacterium)、シトロバクター属(Citrobacter)、エシェリキア属(Escherichia)、エンテロバクター属(Enterobacter)、クレブシエラ属(Klebsiella)、コクリア属(Cocuria)、シュードモナス属(Pseudomonas)、サルモネラ属(Salmonella)、ステノトロホモナス属(Stenotrophomonas)、およびエルシニア属(Yersinia)は、Lauria-Bertani液体培地(Profos AG)中にて30または37℃で増殖させた。カンピロバクター属(Campylobacter)は、準好気性の環境(CampyGen-Oxoid)下、カンピロバクター属増菌液体培地(Profos AG)中にて42℃で増殖させた。クロストリジウム属(Clostridium)は、嫌気性環境(Genbox anaer、Biomerieux)下、TYG培地中にて42℃で増殖させた。乳酸桿菌属(Lactobacillus)は、MRS液体培地(Profos AG)中にて37℃で培養した。ブドウ球菌属(Staphylococcus)はBHI液体培地(Profos AG)中にて培養した。細胞を遠心分離し、TBST(10mM TrisHCl、pH 8、150mM NaCl、0.05%Tween20)1mlで1回洗浄し、PBST 200μl中に再懸濁して、80℃で15分間熱不活化した。
【0056】
a)NC試験
固定化リステリア菌細胞への融合タンパク質の結合の検討:
これらの懸濁液約20〜30μlをニトロセルロースメンブラン(Sartorius AG)上にスポットし、80℃で30分間ベーキングした。TBSTで湿らした後、メンブランをBSA溶液(TBST中に1%w/v)中で30分間ブロッキングし、StrepTag-HisTag-GFP-CBD511_f2、StrepTag-HisTag-GFP-CBD500またはStrepTag-HisTag-GFP-CBD118(各々10μg/ml)とともに室温で30分間、穏やかに攪拌しながらインキュベートした。次いで、メンブランをTBST中で15分間2回洗浄し、streptaktin-AP-結合体(IBA)とTBST中で30分間インキュベートした。洗浄(4×15分間TBST)後、メンブランを染色液(100mM TrisHCl pH 9.5、100mM NaCl、5mM MgCl2、0.18mg/ml NBT (Applichem)および0.22mg/ml BCIP(Applichem))中で約15〜30分間インキュベートした。反応溶液を取り除き、メンブランを水中で洗浄し、乾燥した。
【0057】
表1に、非リステリア菌への細胞結合ドメインCBD511の結合の結果を示す。
【0058】
【表1】


【0059】
b)LB試験
融合タンパク質を介した磁気微粒子へのリステリア菌の結合の検討:
新鮮ON培養物0.5mlをリステリア菌増菌液体培地acc. FDA(Profos AG)2mlに加え、約1のOD600(0.5から1×109 cfu/mlに相当)まで37℃で培養した。培養物を約1×104 cfu/mlまでPBSTで希釈した。StrepTag-HisTag-GFP-CBD511_f3融合タンパク質1μgを、細胞希釈溶液の各1mlに加え、短時間混合した。MagPrep-ストレプトアビジン(Merck)50μgを添加後、その混合物をオーバーヘッドローレイター(overhead rolator)中にて室温で20分間インキュベートした。次いで、磁気微粒子、融合タンパク質およびリステリア菌の複合体を磁場で容器壁に集め、その上清(SN1)を無菌容器に移した。微粒子-タンパク質-リステリア菌複合体をオーバーヘッドローレイター中にてPBST 1mlで10分間洗浄し、磁場で容器壁に集め、その上清をSN1に加えた。複合体をPBST 1ml中に再懸濁した。次いで、一緒にした上清および再懸濁した複合体のPBSTによる系列希釈液を、Oxford寒天(Profos AG)上にプレーティングし、37℃で24時間インキュベートした。プレートをカウントし、磁気微粒子に付着したリステリア菌の割合を全回収リステリア菌のパーセントで計算した。
【0060】
表2は、リステリア属の菌株に対するリステリア菌エンドリシン由来の異なる細胞結合ドメインの結合特性の血清型依存性の結果を示す。CBD118は、エンドリシンPly118の細胞結合ドメインを表す;CBD500は、エンドリシンPly500の細胞結合ドメインを表す;CBD511_f2およびCBD511_f3は、エンドリシンPly511の細胞結合ドメインの変異体を表す;NC試験法は次のことを意味する。それぞれのStrepTag-HisTag-GFP-CBD融合体の結合は、ニトロセルロースメンブラン上に固定化された細胞への結合(実験2a)、およびstreptaktin-アルカリフォスファターゼ複合体上での検出を介して決定された;LB試験法は次のことを意味する。結合は、ストレプトアビジンでコートされた磁気微粒子、およびモノビオチン化された細胞結合ドメインBio-GFP-CBD511_f3(実験2b)を用いて、溶液からリステリア菌を分離することによって決定された。
【0061】
表2は、リステリア菌への細胞結合ドメインの結合を示す。
【0062】
【表2】

【0063】
実験3:StrepTag-HisTag-CBD511_f3とStrepTag-HisTag-CBD500の細胞結合特性の比較
新鮮ON培養物(L.モノサイトゲネスScottA、血清型4b;L.モノサイトゲネスEGDe、血清型1/2a)0.5mlをリステリア菌増菌液体培地acc. FDA(Profos AG)2mlに加え、約1のOD600(0.5〜1×109 cfu/mlに相当)まで37℃で培養した。培養物を約1×104 cfu/mlまでPBSTで希釈した。StrepTag-HisTag-GFP-CBD511_f3融合タンパク質およびStrepTag-HisTag-CBD500融合タンパク質の1μg、5μgおよび10μgをそれぞれ、細胞希釈溶液の各1mlに加え、短時間混合した。MagPrep-ストレプトアビジン(Merck)50μgを添加後、その混合物をオーバーヘッドローレイター中にて室温で20分間インキュベートした。次いで、磁気微粒子、融合タンパク質およびリステリア菌の複合体を磁場で容器壁に集め、その上清(SN1)を無菌容器に移した。微粒子-タンパク質-リステリア菌複合体をオーバーヘッドローレイター中にてPBST 1mlで10分間洗浄し、磁場で容器壁に集め、その上清をSN1に加えた。複合体をPBST 1ml中に再懸濁した。次いで、一緒にした上清および再懸濁した複合体のPBSTによる系列希釈液を、Oxford寒天(Profos AG)上にプレーティングし、37℃で24時間インキュベートした。プレートをカウントし、磁気微粒子に付着したリステリア菌の割合を全使用細胞のパーセントで計算した。
【0064】
CBD500とは対照的に、血清型1/2aのリステリア菌はCBD511を用いてタンパク質濃度依存的に増菌することができた。血清型4bは、CBD511とCBD500のいずれを用いてもタンパク質濃度依存的に増菌する。
【0065】
実験4:ビオチン化されたCBD511構築物、すなわちBio-OD-CBD511_f3およびBio-Av-GFP-CBD511_f3の濃度に対する2段階法での磁気微粒子へのリステリア菌の結合の依存性
ビオチン化ドメインとしてクレブシエラ肺炎桿菌のオキサル酢酸デカルボキシラーゼのαサブユニットのビオチン化ドメイン(GenBankアクセッション番号J03885、米国特許第5,252,466号、欧州特許第0511747号、Schwarz et al., Journal of Biological Chemistry 263 (1988), 9640-9645)、またはAvi-Tag(米国特許第5,723,584号;米国特許第5,874,239号)のいずれかを、分子生物学の標準技術を用いてCBD511_f3のN末端にクローン化した。Avi-Tagのサイズが小さいため、図1Aに記載のように「リンカードメイン」としてGFPをさらに導入した。構築物をそれぞれBio-OD-CBD511_f3およびBio-Av-GFP-CBD511_f3と名付けた。Bio-OD-CBD511_f3(図4A)およびBio-Av-GFP-CBD511_f3(図4B)についての結合試験を以下のように実施した。新鮮ON培養物(L.モノサイトゲネスScottA、血清型4b)の各々0.5mlを、リステリア菌増菌液体培地acc. FDA(Profos AG)2mlに加え、約1のOD600(0.5〜1×109 cfu/mlに相当)まで37℃で増殖させた。培養物を、PBST(10mMリン酸ナトリウムpH 8、150mM塩化ナトリウム、0.05%Tween20)で1×103〜1×104 cfu/mlに調整し、さらに、系列希釈液をOxford寒天(Profos AG)上にプレーティングして、実際の細胞数を決定した。Bio-OD-CBD511_f3を0、0.001、0.005、0.01、0.02、0.1、0.3、0.5、0.75、1、1.5、2、3、4、5、10、20、および40μg/mlの濃度で、Bio-Av-GFP-CBD511_f3を0.5、1、2および10μg/mlの濃度で、細胞希釈溶液1mlに加え、短時間振とうし、ストレプトアビジン-磁気微粒子(Roche)を50μg/mlまで添加後、その混合物をオーバーヘッドローレイター中にて室温で20分間インキュベートした。次いで、微粒子-リステリア菌複合体を磁場で容器壁に集め、その上清を取り出し、2mlの無菌エッペンドルフカップ(Eppendorf-cup)に移した。微粒子-リステリア菌複合体をオーバーヘッドローレイター中にてPBST 1mlで10分間洗浄し、磁場で容器壁に集めた;その上清を最初の上清に加えた。
【0066】
リステリア菌-微粒子複合体をPBST 1ml中に再懸濁した。次いで、一緒にした上清および再懸濁した複合体のPBSTによる系列希釈液を、Oxford寒天(Profos AG)上にプレーティングし、37℃で24時間インキュベートした。プレートをカウントし、磁気微粒子に付着したリステリア菌の割合を全使用細胞のパーセントで計算した。
【0067】
Bio-OD-CBD_f3(A)を用いた場合、2段階法で0.3μg/mlの濃度からリステリア菌の最大収率が得られ、この最大収率は40μg/mlまでの広い濃度範囲にわたって一定であることが示された。Bio-Av-GFP-CBD_f3(B)の場合には、結合リステリア菌の最大収率は、約2 μg/mlのタンパク質から達成される。
【0068】
実験5:2段階法の細胞結合のpH依存性
新鮮ON培養物(L.モノサイトゲネスScottA、血清型4b;L.モノサイトゲネスEGDe、血清型1/2a)0.5mlをリステリア菌増菌用液体培地acc. FDA(Profos AG)2mlに加え、約1のOD600(0.5〜1×109 cfu/mlに相当)まで37℃で増殖させた。培養物を、緩衝液X(10mMクエン酸ナトリウム、10mMリン酸ナトリウム)で希釈して、それぞれのpH値に、約1×104 cfu/mlに調整した。Bio-Av-GFP-CBD_f3融合タンパク質5μgを、細胞希釈溶液の各1mlに加え、短時間混合した。MagPrep-ストレプトアビジン(Merck)50μgを添加後、その混合物をオーバーヘッドローレイター中にて室温で20分間インキュベートした。次いで、磁気微粒子、融合タンパク質およびリステリア菌の複合体を磁場で容器壁に集め、その上清(SN1)を10×PBSTの1/10容量とともに無菌容器に移した。微粒子-タンパク質-リステリア菌複合体をオーバーヘッドローレイター中にて緩衝液X 1mlで10分間洗浄し、磁場で容器壁に集め、その上清をSN1に加えた。複合体をPBST 1ml中に再懸濁した。次いで、一緒にした上清および再懸濁した複合体のPBSTによる系列希釈液を、Oxford寒天(Profos AG)上にプレーティングし、37℃で24時間インキュベートした。プレートをカウントし、磁気微粒子に付着したリステリア菌の割合を全使用細胞のパーセントで計算した。
【0069】
血清型4bおよび血清型1/2aのリステリア菌の増菌のための2段階法は、pH5〜10の範囲にわたって一定の収率を与えた。
【0070】
実験6:2段階法の細胞結合の塩含量依存性
新鮮ON培養物(L.モノサイトゲネスScottA、血清型4b;L.モノサイトゲネスEGDe、血清型1/2a)0.5mlをリステリア菌増菌液体培地acc. FDA(Profos AG)2mlに加え、約1のOD600(0.5〜1×109 cfu/mlに相当)まで37℃で増殖させた。10mMリン酸ナトリウム、pH 8、0.05%Tween20、ならびに0、100、200、400、600、800および1000 mM NaClの塩含量の溶液で、培養物を約1×104 cfu/mlに希釈した。StrepTag-HisTag-GFP-CBD511_f3融合タンパク質5μgを、細胞希釈溶液の各1mlに加え、短時間混合した。MagPrep-ストレプトアビジン(Merck)50μgを添加後、その混合物をオーバーヘッドローレイター中にて室温で20分間インキュベートした。次いで、磁気微粒子、融合タンパク質およびリステリア菌の複合体を磁場で容器壁に集め、その上清(SN1)を無菌容器に移した。微粒子-タンパク質-リステリア菌複合体をオーバーヘッドローレイター中にてPBST 1mlで10分間洗浄し、磁場で容器壁に集め、その上清をSN1に加えた。複合体をPBST 1ml中に再懸濁した。次いで、一緒にした上清および再懸濁した複合体のPBSTによる系列希釈液を、Oxford寒天(Profos AG)上にプレーティングし、37℃で24時間インキュベートした。プレートをカウントし、磁気微粒子に付着したリステリア菌の割合を全使用細胞のパーセントで計算した。
【0071】
血清型1/2aの場合の増菌効率は、0〜1MのNaClの全濃度範囲にわたりほとんど一定のままであるが、血清型4bの場合には、増菌効率は塩濃度の増加とともに低下する。
【0072】
実験7:1段階法および2段階法を用いるインキュベーション時間に依存した細胞回収
磁気微粒子Dynabeads M-270 Epoxy(Dynal)へのBio-Av-GFP-CBD_f3の共有結合カップリング:
dynabeadsを製造業者の説明書に従ってジグリム(diglym)中に再懸濁し、カップリング前に説明書に従って洗浄し平衡化して、無菌リン酸ナトリウム(0.1M、pH 7.5)250μl中に入れた。次いで、0.1Mリン酸ナトリウムpH 7.4中の3M硫酸アンモニウム溶液1mlとタンパク質溶液(0.1Mリン酸ナトリウムpH 7.4中のStrepTag-HisTag-CBD511_f2)1mlを加え、混合して4℃で一晩、その後ローレイター中にて室温で8時間インキュベートした。磁気微粒子を磁場で集め、その上清を取り除いた。磁気微粒子を10mMリン酸ナトリウムpH 7.5、150mM塩化ナトリウム、0.1%ウシ血清アルブミン、および0.02%アジ化ナトリウム中にて2回、室温で20分間洗浄した後、この緩衝液中に4℃で保存した。新鮮ON培養物(L.モノサイトゲネスScottA、血清型4b;L.モノサイトゲネスEGDe、血清型1/2a)0.5mlをリステリア菌増菌液体培地acc. FDA(Profos AG)2mlに加え、約1のOD600(0.5〜1×109 cfu/mlに相当)まで37℃で増殖させた。培養物を約1×104 cfu/mlまでPBSTで希釈した。
【0073】
1段階法:
Bio-Av-GFP-CBD_f1でコートした磁気微粒子(Dynabeads Epoxy)300μg/mlを、細胞希釈溶液の各1mlに加え、その混合物をオーバーヘッドローレイター中にて室温で5、10、20、40、および60分間インキュベートした。
【0074】
2段階法:
Bio-Av-GFP-CBD_f3融合タンパク質5μgを、細胞希釈溶液の各1mlに加え、短時間混合した。次いで、MagPrep-ストレプトアビジン微粒子(Merck)を50μg/mlまで加え、その混合物をオーバーヘッドローレイター中にて室温で5、10、20、40、および60分間インキュベートした。
【0075】
次いで、微粒子-リステリア菌複合体を磁場で容器壁に集め、その上清(SN1)を無菌容器に移した。微粒子-リステリア菌複合体をオーバーヘッドローレイター中にてPBST 1mlで10分間洗浄し、磁場で容器壁に集め、その上清をSN1に加えた。複合体をPBST 1ml中に再懸濁した。次いで、一緒にした上清および再懸濁した複合体のPBSTによる系列希釈液を、Oxford寒天(Profos AG)上にプレーティングし、37℃で24時間インキュベートした。プレートをカウントし、磁気微粒子に付着したリステリア菌の割合を全使用細胞のパーセントで計算した。
【0076】
2段階法の場合には、最大の増菌効率は、5分のインキュベーション時間後にすでに得られる。1段階法の場合には、2段階法と同じ増菌効率は、60分後のみで得られる。
【0077】
実験8:1段階法および2段階法を用いるカマンベール中のリステリア菌の検出
スーパーマーケットから得たカマンベール300gを無菌的に25gずつの分割単位とし、-80℃のストマッカー用バッグ(Stomacher bag)に保存した。1分割単位について、標準ISO:11290-1:1996 FDAM 1に従ってリステリア菌の存在を検査した。リステリア菌の汚染がない場合に、5分割単位を室温で解凍し、種々の量のL.モノサイトゲネスScottAを感染させた。この目的のために、ON培養物を1/5に希釈し、37℃で約1のOD600までインキュベートした。次いで、無菌PBSTで系列希釈を行った。1のOD600で0.5〜1×109 cfu/mlであると仮定して、該分割単位を0、1〜10、11〜50、50〜100、および100〜500 cfu/25gカマンベールで汚染し、ON培地に4℃で保存した。細胞数の正確な決定のために、希釈液を2つ1組にしてOxford寒天(Profos AG)上にプレーティングし、37℃で24時間インキュベートして、カウントした。Fraser 1/2培地(Profos AG)225mlを無菌的に該分割単位に加え、ストマッカー中で1分間ホモジナイズして、30℃でインキュベートした。4時間、6時間、および24時間のインキュベーション後、混合物当たり1mlを取り出した。
【0078】
1段階法:
StrepTag-HisTag-CBD511_f2でコートされた磁気微粒子(Dynabeads Epoxy)300μg/mlをホモジェネート1mlに加え、その混合物をオーバーヘッドローレイター中にて室温で20分間インキュベートした。
【0079】
2段階法:
StrepTag-HisTag-GFP-CBD511_f3融合タンパク質5μgを、ホモジェネート1mlに加え、短時間混合した。次いで、MagPrep-ストレプトアビジン微粒子(Merck)を50μg/mlまで加え、その混合物をオーバーヘッドローレイター中にて室温で20分間インキュベートした。
【0080】
次いで、微粒子-リステリア菌複合体を磁場で容器壁に集め、その上清を除去した。微粒子-リステリア菌複合体をオーバーヘッドローレイター中にてPBST 1mlで10分間、3回洗浄し、磁場で容器壁に集め、その上清は毎回廃棄した。微粒子-リステリア菌複合体をPBST 100μl中に再懸濁し、Oxford寒天(Profos AG)上にプレーティングした。37℃で24時間および48時間の後に、プレートをカウントし、磁気微粒子に付着したリステリア菌の割合を全使用細胞のパーセントで計算した。並行して、汚染した混合物を、標準ISO:11290-1:1996 FDAM 1に従ってリステリア菌について検査した。この目的のために、100μlをFraser培地(Profos AG)10mlに指定時点で加え、ローラー(roler)中にて37℃で24時間インキュベートした後、Oxford寒天(Profos AG)上にプレーティングした。混合物はすべて4つ1組で実施した。
【0081】
1段階法および2段階法のいずれを用いても、カマンベール中のわずかなリステリア菌汚染を検出するのに必要な増菌時間は、ISO:11290-1:1996に従う方法を用いるよりも有意に短い。増菌時間の短縮に関しては、2段階法の結果の方が1段階法の結果よりも優れている。
【0082】
実験9:1mlおよび10mlを用いる2段階法による、生ハムおよびエビ中のリステリア菌の検出
スーパーマーケットから得た300gの生ハムおよび300gのエビを無菌的に25gずつの分割単位とし、-80℃のストマッカー用バッグに保存した。1分割単位各々について、標準ISO:11290-1:1996 FDAM 1に従ってリステリア菌の存在を検査した。リステリア菌の汚染がない場合に、5分割単位を室温で解凍し、種々の量のL.モノサイトゲネスScottAを感染させた。この目的のために、ON培養物を1/5に希釈し、37℃で約1のOD600までインキュベートした。次いで、無菌PBSTで系列希釈を行った。1のOD600で0.5〜1×109 cfu/mlであると仮定して、該分割単位を0、1〜10、11〜50、50〜100、および100〜500 cfu/25g食物で汚染し、4℃でON培地に保存した。細胞数の正確な決定のために、希釈液を2つ1組にしてOxford寒天(Profos AG)上にプレーティングし、37℃で24時間インキュベートして、カウントした。
【0083】
Fraser 1/2培地(Profos AG)225mlを無菌的に該分割単位に加え、ストマッカー中で1分間ホモジナイズして、30℃でインキュベートした。4時間および6時間のインキュベーション後、分割単位当たり1 mlを2回および10 mlを2回取り出した。StrepTag-HisTag-GFP-CBD511_f3融合タンパク質2.5μg/mlを、ホモジェネートに加え、短時間ボルテックスにかけた。次いで、MagPrep-ストレプトアビジン微粒子(Merck)を、1ml混合物では100μg/mlまで、10ml混合物では50μg/mlまで加え、その混合物をオーバーヘッドローレイター中にて室温で20分間インキュベートした。微粒子-リステリア菌複合体を磁場で容器壁に集め、その上清を除去した。微粒子-リステリア菌複合体を、PBST 1mlで2回、上下に数回ピペッティングして洗浄し、PBST 100μl中に再懸濁して、Oxford寒天(Profos AG)上にプレーティングした。37℃で24時間および48時間の後に、プレートをカウントし、磁気微粒子に付着したリステリア菌の割合を全使用細胞のパーセントで計算した。並行して、汚染した混合物を、標準ISO:11290-1:1996 FDAM 1に従ってリステリア菌について検査した。この目的のために、100μlをFraser培地(Profos AG)10mlに指定時点で加え、ローラー(roler)中にて37℃で24時間インキュベートした後、Oxford寒天(Profos AG)上にプレーティングした。混合物はすべて2つ1組で実施した。
【0084】
ハムおよびエビ中のリステリア菌は、ISO:11290-1:1996による方法を用いるよりも2段階法を用いる増菌によってより迅速に検出することができることが判明した。増菌時間の一層の短縮が10mlを用いる2段階法を使用して達成することができる。
【0085】
実験10:磁気微粒子からのリステリア菌の剥離
L.モノサイトゲネスScottAの新鮮ON培養物0.5mlをリステリア菌増菌液体培地acc. FDA(Profos AG)2mlに加え、約1のOD600(約0.5〜1×109 cfu/mlに相当)まで37℃で増殖させた。培養物を約1×104 cfu/mlまでPBSTで希釈した。
【0086】
StepTag-HisTag-GFP-CBD511_f3融合タンパク質1μg/mlを、細胞希釈溶液の各0.5mlに加え、短時間混合した。MagPrep-ストレプトアビジン(Merck)50μg/mlを添加後、その混合物をオーバーヘッドローレイター中にて室温で20分間インキュベートした。次いで、磁気微粒子、融合タンパク質およびリステリア菌の複合体を磁場で容器壁に集め、その上清(SN1)を無菌容器に移した。微粒子-タンパク質-リステリア菌複合体をオーバーヘッドローレイター中にてPBST 1mlで10分間洗浄し、磁場で容器壁に集め、その上清をSN1に加えた。
【0087】
混合物の半分をPBST 100μl中に再懸濁し、残りの半分を50mMリン酸ナトリウム(pH 11)100μl中に再懸濁した。室温で5分後、磁気微粒子を取り出し、上清をPBST 400μlに加えた。磁気微粒子を0.5mlに再懸濁した。
【0088】
上清および再懸濁した磁気微粒子のPBSTによる系列希釈液を、Oxford寒天(Profos AG)上にプレーティングし、37℃で24時間インキュベートした。プレートをカウントし、磁気微粒子に付着したリステリア菌の割合を全回収細胞のパーセントで計算した。
【0089】
細胞結合ドメインを介して磁気微粒子に結合したリステリア菌の90%は、pH 11の緩衝液で剥離された。
【0090】
実験11:リステリア菌の増菌およびPCRによる検出
L.モノサイトゲネスScottAの新鮮ON培養物0.5mlをリステリア菌増菌液体培地acc. FDA(Profos AG)2mlに加え、約1のOD600(約0.5〜1×109 cfu/mlに相当)まで37℃で増殖させた。培養物をリステリア菌増菌液体培地acc. FDA(Profos AG)で約1×106および1×105 cfu/mlまで希釈した。
【0091】
リステリア菌増菌液体培地acc. FDA(Profos AG)の各細胞希釈溶液について、1mlの14混合物を調製した。その中の4混合物を遠心分離(卓上遠心機で13,000rpm、5分間)し、その上清を廃棄した。細胞をPBSTで1回洗浄し、ペレットにした。細胞ペレットを次の操作まで氷上に保存した。
【0092】
2段階法を用いて、10混合物から細胞を単離した。StrepTag-HisTag-GFP-CBD511_f2融合タンパク質20μgを、細胞希釈溶液の各1mlに加え、短時間混合した。次いで、ストレプトアビジン-磁気微粒子(Roche)を100μg/mlまで加え、その混合物をオーバーヘッドローレイター中にて室温で20分間インキュベートした。次いで、微粒子-リステリア菌複合体を磁場で容器壁に集め、その上清を取り出し、廃棄した。微粒子-リステリア菌複合体をオーバーヘッドローレイター中にてPBST 1mlで10分間洗浄し、磁場で容器壁に集めた;その上清を廃棄した。
【0093】
2混合物の微粒子-リステリア菌複合体をPBST 1ml中に再懸濁した。その系列希釈液を、Oxford寒天(Profos AG)上にプレーティングし、37℃で24時間インキュベートした。さらに、106および105 cfu/mlと見積もられた出発細胞希釈溶液の系列希釈液を、Oxford寒天(Profos AG)上にプレーティングし、37℃で24時間インキュベートした。プレートをカウントし、実際の細胞数(1.4×105および1.4×106 cfu/ml)ならびに磁気微粒子に付着したリステリア菌の割合を全使用細胞のパーセントで計算した(85〜95%)。
【0094】
4混合物の微粒子-リステリア菌複合体を、150mMリン酸ナトリウム(pH 11)20μl中に再懸濁し、室温で15分間インキュベートした;次いで、磁気微粒子を磁場で容器壁に集め、その上清を150mMリン酸ナトリウム(pH 6)10μlに定量的に加えた(混合物A)。残りの4混合物の微粒子-リステリア菌複合体をPBST 20μl中に再懸濁した(混合物B)。4混合物の遠心分離された細胞の各々も、PBST 20μlに再懸濁した(混合物C)。
【0095】
PBST 10μlを、A、BおよびCの各々2混合物に加えた;残りの2混合物の各々に、Ply511(2μg/ml)を含むPBST 10μlを加え、40℃で5〜10分間インキュベートした。次いで、プロテイナーゼK(1mg/ml PBST)5μlを4混合物すべてに加え、56℃で5分間、さらに94℃で5分間インキュベートした。混合物Bの磁気微粒子を磁場で取り除き、すべての混合物A、B、およびCの5μlをAznarおよびAlarcon(Aznar R & Alarcon B(2002):On the specificity of PCR detection of Listeria monocytogenes in food, System. Appl. Microbiol. 25, 109-119)によるPCR反応に用いた。次いで、反応生成物を1%アガロースゲルで分離した。
【0096】
3つのケース(遠心分離、磁気微粒子での破壊を伴う2段階法、および磁気微粒子からの剥離を伴う2段階法)すべてで、破壊細胞へのエンドリシンPly511の添加が検出の感度を有意に改善することを示すことができた。磁気微粒子でのリステリア菌の溶解については、細胞を遠心分離した場合と同じ感度が得られるが、破壊以前にpH 11緩衝液により細胞が磁気微粒子から剥離されると、PCRでのシグナル強度は弱くなる。
【0097】
実験12:フランクフルトソーセージおよびモツァレラ中のリステリア菌の検出
FDA培地225mlをフランクフルトソーセージおよびモツァレラの各25gにそれぞれ加え、それらをストマッカー用バッグ中で無菌的にホモジナイズした。そのサンプルを30℃で一晩インキュベートした。リステリア菌検出の前に、サンプルを1/10容積のPBSTでそれぞれ緩衝化した。
【0098】
1段階法:
Bio-Av-GFP-CBD511_f3でコートされた磁気微粒子(Dynabeads M270 Epoxy)300μg/mlをホモジェネート1mlに加え、その混合物をオーバーヘッドローレイター中にて室温で20分間インキュベートした。
【0099】
2段階法:
0.5、2、5、または10μgのBio-Av-GFP-CBD511_f3融合タンパク質をそれぞれ、ホモジェネート1mlに加え、短時間混合した。次いで、MagPrep-ストレプトアビジン微粒子(Merck)を50μg/mlまで加え、その混合物をオーバーヘッドローレイター中にて室温で20分間インキュベートした。
【0100】
その後、微粒子-リステリア菌複合体を磁場で容器壁に集め、その上清を除去した。微粒子-リステリア菌複合体をオーバーヘッドローレイター中にてPBST 1mlで1回、10分間洗浄し、磁場で容器壁に集め、その上清はいずれの場合も廃棄した。微粒子-リステリア菌複合体をPBST 100μl中に再懸濁し、Oxford寒天(Profos AG)上にプレーティングした。37℃で24時間後に、プレートをカウントし、磁気微粒子に付着したリステリア菌の割合を全使用細胞のパーセントで計算した。すべての混合物について2回実施した。
【0101】
フランクフルトソーセージから、さらにモツァレラからも、Bio-Av-GFP-CBD511_f3融合タンパク質の利用によってリステリア菌を単離することができることが示された。モツァレラの場合には、ScottA株に関してよりもEGDe株に関して、有意に良好な結果が得られた。高い結合効率を得るために、わずかに高いタンパク質濃度を食物に関しては使用した。フランクフルトソーセージとEGDe株の場合に、1段階法が高い結合効率を示すが、それ以外の全ての条件下では、2段階法がより一層適している。
【図面の簡単な説明】
【0102】
以下の図は、本発明を説明する。
【図1】エンドリシンPly511の細胞結合ドメインの変異体との種々の組合せの融合タンパク質を模式的に示す。略語Aは親和性ドメイン、「L」はリンカードメイン、および「Z」は細胞結合ドメインを意味する。略語HisはHis-Tagを意味する;略語Bioはビオチン分子を保持するドメインを表す;StrepはStep-tagを表す;GFPはリンカードメインとして「緑色蛍光タンパク質」を表す;CBD511は、それぞれの変異体_f1、_f2および_f3についてのエンドリシンPly511の細胞結合ドメインを表す。
【図2】L.モノサイトゲネスScottA(血清型4b)およびL.モノサイトゲネスProCC 679(血清型1/2a)への種々のGFP-CBD融合体の結合の蛍光顕微鏡図を示す。実験操作については、実験1を参照。CBD511_f1はStrepTag-HisTag-GFP-CBD_flの融合体、CBD511_f2はStrepTag-HisTag-GFP-CBD_f2の融合体、およびCBD511_f3はStrepTag-HisTag-GFP-CBD511_f3の融合体を表す。
【図3】種々のタンパク質濃度での細胞結合ドメインCBD500およびCBD511の結合の血清型依存性を示す。磁気微粒子に結合した細胞の量を、全回収細胞の(数と比較して)パーセントで示す。実験操作は実験3に記載されている。CBD500は融合タンパク質StrepTag-HisTag-GFP-CBD500を表す;CBD511は融合タンパク質StrepTag-HisTag-GFP-CBD511_f2を表す;ScottA(4b)は血清型4bを有するL.モノサイトゲネスScottAを表す;EGDe(1/2a)は血清型1/2aを有するL.モノサイトゲネスEGDeを表す。値は8回の実験の平均値である。通常用いた細胞数は、75〜120 cfu/mlの間であった。
【図4】CBD511、すなわちBio-OD-CBD511_f3(図4A)およびBio-Av-GFP-CBD511_f3(図4B)のビオチン化構築物の濃度に対する磁気微粒子への細胞結合の依存性を示す。磁気微粒子に結合した細胞の量を、全回収細胞の(数と比較して)パーセントで示す。実験操作は実験4に記載されている。L.モノサイトゲネスScottA(血清型4b)の使用細胞数は、1×103〜1×104 cfu/mlであった。データ点は2〜8回の独立した実験から決定した。
【図5】2段階法を用いた、L.モノサイトゲネス(血清型1/2aおよび4b)の溶液から磁気微粒子へのCBD511を介した結合のpH依存性を示す。融合タンパク質Bio-Av-GFP-CBD_f3によって磁気微粒子に結合した細胞の量を、全回収細胞の(数と比較して)パーセントで示す。実験操作は実験5に記載されている。ScottA(4b)は血清型4bを有するL.モノサイトゲネスScottAを表す;EGDe(1/2a)は血清型1/2aを有するL.モノサイトゲネスEGDeを表す。値は4回の実験の平均値である。通常用いた細胞数は、103〜104cfu/mlの間であった。
【図6】2段階法を用いた、L.モノサイトゲネス(血清型1/2aおよび4b)の溶液から磁気微粒子へのCBD511を介した結合の塩濃度依存性を示す。磁気微粒子に結合した細胞の量を、全回収細胞の(数と比較して)パーセントで示す。実験操作は実験6に記載されている。ScottA(4b)は血清型4bを有するL.モノサイトゲネスScottAを表す;EGDe(1/2a)は血清型1/2aを有するL.モノサイトゲネスEGDeを表す。NaClは塩化ナトリウムを表す。値は4回の実験の平均値である。通常用いた細胞数は、約4〜8×103cfu/mlであった。
【図7】1段階法および2段階法の場合におけるインキュベーション時間に対する、磁気微粒子に結合したリステリア菌細胞数の依存性を示す。磁気微粒子に結合した細胞の量を、全回収細胞の(数と比較して)パーセントで示す。実験操作は実験7に記載されている。2段階は、Bio-Av-GFP-CBD_f3(1μg/ml)およびストレプトアビジンでコートされた磁気微粒子(50μg/ml)を用いた2段階法を表す。1段階は、Bio-Av-GFP-CBD_f3によって共有結合でコートされたDynabeads M-270 Epoxy 300μg/mlへの1段階法の細胞結合を表す。通常用いた細胞数は、約4〜8×103 cfu/mlであった。結果は、6回の実験(2段階法)および2回の実験(1段階法)の平均をそれぞれ表す。
【図8】ISO標準、1段階法、および2段階法を比較した、カマンベール中のL.モノサイトゲネス検出の時間依存性を示す。実験操作は実験7に記載されている。5切れのカマンベール(25g)を0、2、4、15および46 cfuで汚染し、Fraser 1/2培地225ml中でホモジナイズし、30℃でインキュベートした。サンプルを指定時点で採取し、ISO:11290-1:1996 FDAM 1、1段階法および2段階法に従って検査した。cfuはコロニー形成単位を表す;ISOは、ISO:11290-1:1996 FDAM 1に従った操作を表し、1段階は、Dynabeads M-270 Epoxyに共有結合で結合させたStrepTag-HisTag-GFP-CBD511_f2による1段階法を用いるリステリア菌の増菌を表す。2段階は、StrepTag-HisTag-GFP-CBD511_f3およびストレプトアビジンでコートされた磁気微粒子による2段階法を用いたリステリア菌の増菌を表す。値は、2回の実験の平均を表す。
【図9】ISO標準、1mlを用いるProfos 2段階法、および10mlを用いるProfos 2段階法による、生ハム(A)およびエビ(B)中のL.モノサイトゲネス検出の時間依存性を示す。実験操作は実験9に記載されている。25gの生ハムおよびエビ5分割をそれぞれ、0、5、13、52、および157 cfu、ならびに0、5、11、45、および135 cfuそれぞれで汚染し、Fraser 1/2培地225ml中でホモジナイズし、30℃でインキュベートした。サンプルを所与の時点で採取し、ISO:11290-1:1996 FDAM 1、ならびに1mlおよび10mlを用いた2段階法によって検査した。cfuは、コロニー形成単位を表し、ISOは、ISO:11290-1:1996 FDAM 1に従った操作を表す。1mlは、StrepTag-HisTag-GFP-CBD511_f3およびストレプトアビジンでコートされた磁気微粒子を用いる2段階法による1mlの食物ホモジェネートからのリステリア菌の増菌を表す。10mlは、StrepTag-HisTag-GFP-CBD511_f3およびストレプトアビジンでコートされた磁気微粒子を用いる2段階法による10mlの食物ホモジェネートからのリステリア菌の増菌を表す。値は、2回の実験の平均値を表す。
【図10】2段階法によって磁気微粒子に結合したリステリア菌のアルカリ性緩衝液による剥離を示す。磁気微粒子に結合した細胞の量を、全回収細胞の(数と比較して)パーセントで示す。実験操作は実験10に記載されている。リステリア菌を2段階法を用いて磁気微粒子に固定化した。これらのリステリア菌-微粒子複合体を、中性緩衝液(対照、K)、またはアルカリ性緩衝液(pH 11)中でインキュベートした。微粒子から上清を分離後、両方を系列希釈してOxford寒天上にプレーティングし、37℃でインキュベートした。「微粒子(P)」は磁気微粒子に残ったリステリア菌細胞を意味し、「溶出液(E)」はそれぞれの緩衝液によって剥離したリステリア菌を意味する。
【図11】2段階法による増菌後、L.モノサイトゲネスScottA由来のゲノムDNAを用いるPCR後のDNA断片の分離を示す。実験操作は実験11に記載されている。リステリア菌増菌培地acc. FDA(Profos AG)1mlから、2段階法および遠心分離をそれぞれ使用して、L.モノサイトゲネス細胞を濃縮した。一方では、磁気微粒子に結合した細胞を、磁気微粒子から剥離し、プロテイナーゼKおよび熱処理(94℃)を用いるPly511処理をする場合と、その処理をしない場合のそれぞれでその細胞を破壊した。他方では、細胞を磁気微粒子において、プロテイナーゼKおよび熱処理(94℃)を用いるPly511処理をする場合と、その処理をしない場合のそれぞれで細胞を破壊した。対照として、プロテイナーゼKおよび熱処理(94℃)を用いるPly511処理をする場合と、その処理をしない場合のそれぞれで遠心分離後に細胞を破壊した。細胞溶解物5μlをPCRに用い、得られたDNA断片をアガロースゲル電気泳動によって分離した。「2段階」は、リステリア菌増菌培地acc. FDA(Profos AG)1mlからの2段階法を用いた増菌を表す。カラム(A)は、リン酸ナトリウム pH11による磁気微粒子からの結合細胞の剥離後の崩壊とその後の細胞溶解、さらにL.モノサイトゲネスScottAのゲノムDNAの遊離を示す。カラム(B)は、細胞を磁気微粒子から剥離しない場合の細胞溶解、さらにL.モノサイトゲネスScottAのゲノムDNAの遊離を表す。カラムZ(遠心分離)は、遠心分離による細胞濃縮後の細胞溶解、さらにL.モノサイトゲネスScottAのゲノムDNAの遊離を表す。Ply511はエンドリシンPly511を用いた細胞の破壊を表す。106と105は、検査における1.4×106および1.4×105cfu/mlをそれぞれ表す。
【図12】1段階法および2段階法での融合タンパク質Bio-Av-GFP-CBD511_f3を用いた、フランクフルトソーセージ(図12A)およびモツァレラ(図12B)からのL.モノサイトゲネス(EGDe株とScottA株)検出の濃度依存性を示す。実験操作は実験12に記載されている。各々の場合で、それぞれの株の全使用リステリア菌細胞に対する、フランクフルトソーセージ(図12A)およびモツァレラ(図12B)の食物サンプル1mlからの回収パーセントを示す。値は各々2回の実験から決定した。
【図13】図13および13aは、ポリペプチド断片CBD511_f1、CBD511_f2およびCBD_f3とエンドリシンPly511との核酸配列の比較を示す。
【図14】ポリペプチド断片CBD511_f1、CBD511_f2およびCBD_f3とエンドリシンPly511とのアミノ酸配列の比較を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンドリシンPly511由来のポリペプチド断片であって、リステリア菌に結合するが、いかなる細胞壁加水分解酵素活性も示さないことを特徴とするポリペプチド断片。
【請求項2】
SEQ ID NO: 4、6、または8に記載のアミノ酸配列を有する、請求項1記載のポリペプチド断片。
【請求項3】
ポリペプチド断片が、アフィニティータグ、または任意でアフィニティータグもしくはビオチンを有するスペーサー分子をさらに示す、請求項1または2記載のポリペプチド断片。
【請求項4】
アフィニティータグがHis-Tag、Strep-Tag、Avi-Tag、またはビオチン化ドメインである、請求項3記載のポリペプチド断片。
【請求項5】
スペーサー分子がGFP、MBP、またはビオチン化ドメインである、請求項3記載のポリペプチド断片。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項記載のポリペプチド断片をコードする配列を有する核酸分子。
【請求項7】
SEQ ID NO: 3、5、または7に記載の配列を有する、請求項6記載の核酸分子。
【請求項8】
サンプル由来のリステリア菌の増菌および/または分離のための方法であって、以下の段階を含む方法:
a)固体担体に非特異的に、または指向的に固定化される、請求項1〜5のいずれか一項記載のポリペプチドとサンプルをインキュベートする、または接触させる段階;および
b)サンプルから担体-ポリペプチド-リステリア菌複合体を分離する段階。
【請求項9】
段階b)の後に以下の段階をさらに含む、請求項8記載の方法:
c)担体-ポリペプチド-リステリア菌複合体に非特異的に付着するサンプル成分を洗い流す段階。
【請求項10】
段階a)およびb)がクロマトグラフィーカラム・フロースルー法(chromatography column flow through method)で実施される、請求項8または9記載の方法。
【請求項11】
固体担体がセルロース、濾過媒体、ガラス微粒子、磁気微粒子、遠心分離用材料、沈降材料、またはクロマトグラフィーカラム用充填剤である、請求項8〜10のいずれか一項記載の方法。
【請求項12】
サンプル由来のリステリア菌の増菌および/または分離のための方法であって、以下の段階を含む方法:
a)請求項3〜5のいずれか一項記載のポリペプチドとサンプルをインキュベートする、または接触させる段階:
b)ポリペプチドまたは化学基のそれぞれの結合パートナーでコートされる担体とリステリア菌-ポリペプチド複合体を接触させ、およびインキュベートする段階:ならびに
c)サンプルから担体-ポリペプチド-リステリア菌複合体を分離する段階。
【請求項13】
段階c)の後に以下の段階をさらに含む、請求項12記載の方法:
d)担体-ポリペプチド-リステリア菌複合体に非特異的に付着するサンプル成分を洗い流す段階。
【請求項14】
サンプル中のリステリア菌検出のための方法であって、請求項8記載の段階b)の後に、または請求項12記載の段階c)の後にリステリア菌検出の段階をさらに含む方法。
【請求項15】
請求項1〜5のいずれか一項記載のポリペプチド断片を固定化した担体、ならびに洗浄緩衝液、剥離緩衝液(detaching buffer)、および/または細胞破壊緩衝液(cell cracking buffer)を含むキット。
【請求項16】
請求項3〜5のいずれか一項記載のポリペプチド断片と、アフィニティータグ、スペーサー分子またはビオチン化ドメインのそれぞれの結合パートナーでコートされた担体と、洗浄緩衝液、剥離緩衝液、および/または細胞破壊緩衝液とを含むキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図13A】
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【図14】
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【公表番号】特表2009−505993(P2009−505993A)
【公表日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−527304(P2008−527304)
【出願日】平成18年8月23日(2006.8.23)
【国際出願番号】PCT/DE2006/001480
【国際公開番号】WO2007/022768
【国際公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【出願人】(508056442)プロフォス アーゲー (1)
【Fターム(参考)】