リステリア菌の検出・同定方法
【課題】特に高い病原性を有するListeria monocytogenesの菌株を迅速に検出、同定する方法を提供する。
【解決手段】Listeria monocytogenesが有するhlyA遺伝子、clpC遺伝子、inlA遺伝子、plcA遺伝子の一塩基多型によって分類し、各遺伝子内の一塩基多型に特異的な一塩基置換若しくは分類可能に特定された組み合わせからなる複数の一塩基多型を検出ことにより、臨床株で見出された菌株と同じグループに属する病原性の高い菌株を検出する。このための増幅用プローブ及び一塩基置換を検出するためのサイクリングプローブとして、特定の塩基配列を有するプライマーセット及びサイクリングプローブを備えた検出用キットを用いる。
【解決手段】Listeria monocytogenesが有するhlyA遺伝子、clpC遺伝子、inlA遺伝子、plcA遺伝子の一塩基多型によって分類し、各遺伝子内の一塩基多型に特異的な一塩基置換若しくは分類可能に特定された組み合わせからなる複数の一塩基多型を検出ことにより、臨床株で見出された菌株と同じグループに属する病原性の高い菌株を検出する。このための増幅用プローブ及び一塩基置換を検出するためのサイクリングプローブとして、特定の塩基配列を有するプライマーセット及びサイクリングプローブを備えた検出用キットを用いる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リステリア モノサイトゲネス菌(Listeria monocytogenes)の検出・同定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リステリア菌は、動物や土壌などの環境中に広く常在しており、食肉や乳製品を中心とする様々な食品から高頻度に検出される。ところが、リステリア菌は低温増殖能や高食塩濃度耐性をもつため(五十君ら、2003)、食品の一次汚染はもちろん製造工程での二次汚染を防ぐことも困難である。食品が高濃度で本菌に汚染されていると、食品の低温保存中に増殖し、食中毒を引き起こす恐れがある。
【0003】
分類学的にリステリア属には6菌種が知られているが、リステリア症の原因菌とされているのはL. monocytogenesの1菌種だけであり、敗血症、髄膜炎、伝染性単核症など人畜共通の重篤な症状を引き起こす(五十君ら、2003、2004)。その病原因子の1つとして、L. monocytogenesの産生する溶血毒listeriolysin Oがある。L. monocytogenesは、細胞内寄生性細菌であり、マクロファージに貧食されても食胞から細胞質へエスケープし、殺菌機構を逃れ増殖する。Listeriolysin Oは食胞からの脱出に関与しているが、構造遺伝子であるhlyAを欠失させると、マクロファージに貧食されても食胞膜を障害することができずに食胞内にとどまり、殺菌されてしまうことから、本菌の病原因子として最も重要であるとみなされている(櫻井ら、2002)。本菌に感染した場合、成人は抵抗力が強いため、無症状感染や保菌状態となるが、新生児、高齢者及び免疫不全者などのハイリスク群では多くのリステリア症の発症がみられ、重症化した場合の致命率は30%と極めて高く、子宮内で胎児が感染すると死産や早産の原因となることが知られている(五十君ら、2003、2004)。
【0004】
これまで、日本では、リステリア症の発生状況が十分に把握されていなかったため、その感染源や感染経路については不明である。ある調査結果の報告では年間83件のリステリア症の発症が確認されているものの、欧米で問題視されているような食品を介した集団食中毒事例は確認されていなかった。しかし、2001年北海道で発生したナチュラルチーズによる食中毒が本菌によるものであったと同定され、さらに、食品が世界的に流通していることから、今後日本でも欧米のような深刻な集団食中毒が発生する可能性が懸念されている。
【0005】
現在、血清型によって菌株を分類することが疫学的解析の基盤となっているが、全てのL. monocytogenesの病原性が高いわけでもなく、ヒトの感染症例から検出されるのは血清型として1/2a型、1/2b型及び4b型がほとんどである(非特許文献1)。従って、血清型による分類によって病原性の有無を推定することもできる。
【0006】
しかしながら、血清型が同じであるからと言って、必ずしもすべての菌が高い病原性を有しているとは限らない。このため、本菌による食中毒が発生した際、その原因食品を同定し、感染経路を解明するには、血清型による分類のみでは不十分であり、それ以上に菌株を詳細に分類する必要がある。
【0007】
リステリア菌に感染した場合、発症までに長時間を要し、個人差があるため(五十君、2004)、頻発して起こるリステリア症が同一の食品を介して発生した集団食中毒であるかを判断することは困難である。また、菌株によっては血清型による分類ができない場合があり、血清型による分類のみでは病原性の有無の判定や追跡調査が十分にできない。このような観点からも詳細な分類が必要である。
【0008】
このような状況下、例えばRFLPによる分類(非特許文献2参照)やPFGEによる分類(非特許文献3参照)が提案されているが、実験操作に熟練を必要とし、操作が煩雑で長時間を要する。また、簡易迅速検出法として、hlyA遺伝子をPCRにより増幅するためのプライマーセットも報告されているが(非特許文献4)、hlyA遺伝子を有しない菌株には無効であり、100%のL. monocytogenesを検出できるわけでは無い。これらの方法以外にも、PCRによりL. monocytogenesを検出したり、血清型を判定したりする試みが数々行われているが(特許文献1,2、非特許文献5,6、7など)、病原性の高い菌株との関連性については把握されていない。
【0009】
このように、現在のところ、ヒトへの感染が心配される特に病原性の強い菌株の検出・同定のための方法も無いのが実情である。
【特許文献1】特開平6−233699号公報
【特許文献2】特開2004−154141号公報
【非特許文献1】Nelson, KE. Et al., Whole genome comparisons of serotype 4b and 1/2a strains of the food-borne pathogen Listeria monocytogenes reveal new insights into the core genome components of this species, Nucleic Acids Res., 32(2004), 2386-95
【非特許文献2】Fukiko Ueda et al., Comparison of Genomic Structures in the Serovar 1/2a Listeria monocytogenes Isolated from Meats and Listeriosis Patients in Japan, Jpn. J. Infect. Dis., 58(2005), 289-293
【非特許文献3】Marc Yde, and Annie Genicot,Use of PFGE to characterize clonal relationships among Belgian clinical isolates of Listeria monocytogenes, J Med Microbiol, 53 (2004), 399-402
【非特許文献4】Lehner, et al., A rapid differentiation of Listeria monocytogenes by use of PCR-SSCP in the listeriolysin O (hlyA) locus, J. Microbiol. Med 34(1999), 165-171
【非特許文献5】Rodriguez-Lazaro, D. et al., Simultaneous quantitive detection of Listeria spp. and Listeria monocytogenes using a duplex real-time PCR-based assay, FEMS. Microbiol. Lett., 233(2004), 257-267
【非特許文献6】Thomas, E. J. G et al., Sensitive and Specific Detection of Listeria monocytogenes in Milk and Ground Beef with the Polymerase Chain Reaction, Appl. Environ. Microbiol., 57(1991), 2576-2580
【非特許文献7】Monica K. Borucki and Douglas R. Call, Listeria monocytogenes Serotype Identification by PCR, Journal of Clinical Microbiology, Vol. 41, No. 12(2003), 5537-5540
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記の背景技術に鑑みてなされたものであって、その目的は、リステリア菌、その中でも特に高い病原性を有するL. monocytogenesの菌株を迅速に検出、分類同定することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記目的を達成するため、種々の食品及び環境から分離されたL. monocytogenes及び臨床由来のL. monocytogenes菌株において、病原性に関係すると考えられている複数の遺伝子の塩基配列を決定し、これらの配列を比較することにより、臨床由来株に特異的な一塩基置換(塩基配列)を見いだした。そして、この一塩基置換を特異的に検出できるサイクリンブプローブ法(TaqMan(商標名)プローブ法)などの分子生物学的検出方法のためのプライマーセット及びプローブDNAを用いてPCR(PCR−RT)を行うことにより、上記課題を解決するに至った。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、遺伝子の一塩基多型を用いた分類によって、病原性が高いと推定されるリステリア菌の検出・同定が迅速にできる。また、特に病原性が強いと推定される血清型1/2a型及び血清型4b型の遺伝型グループを特異的に検出、同定できるサイクリングプローブ法用のプライマーセット及びキメラプローブが提供される。このプライマーセット及びキメラプローブを用いたSNP検出法によるリアルタイムPCRを行うことにより、検体、例えば各種の食品、生乳や生鮮魚介類、生肉その他のReady-To-Eat食品、飲料水や排水などの環境水から検出されるL.monocytogenes、その中でも病原性が高いと推定される臨床株と同じ遺伝型であるL.monocytogenes菌株を特異的に検出し、L.monocytogenes菌による汚染を簡便かつ迅速に判定できる。また、上記分類に従えば、感染源の特定、感染ルートの解明をより正確かつ迅速に行える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、病原性が高いと考えられるListeria monocytogenesを検出、同定するための方法に関し、その菌が有する特徴的な一塩基多型をPCRによって検出するための核酸増幅用のプライマー及び検出用のプローブを提供する。
【0014】
Listeria monocytogenes(以下「リステリア菌」と称する。)の病原因子としては溶血毒listeriolysin Oの構造遺伝子であるhlyA以外に、hlyAと同じ病原遺伝子座prfAにコードされている病原遺伝子の転写促進に関係するprfA、細胞内の殺菌機構から逃れるために重要な酵素であるホスファチジルイノシトール特異的ホスフォリパーゼCをコードするplcC、ホスフォリパーゼCの活性化に必要な金属プロテアーゼをコードするmpl、細胞からの脱出に必要なアクチンとの会合に必要なタンパク質をコードするaszctA、ホスファチジルコリン特異的ホスフォリパーゼCをコードするplcB、さらに、細胞内への侵入に必要なinternalinA分子をコードするinlA、ペプチドグリカンの分解酵素をコードするiap、ストレス耐性に重要な役割を示すClaC ATPaseをコードしているclpCなどがある。
【0015】
リステリア菌は、血清型分類によれば1/2a型、1/2b型、1/2c型、3a型、3b型、3c型、4b型、4e型などの菌株が存在するが、上記したようにヒトの感染症例から検出されるのは1/2a型、1/2b型及び4b型がほとんどである。ところで、本発明者らは、臨床由来株及び食品環境由来株について、上記病原因子の塩基配列を詳細に調べたところ、hlyA遺伝子、clpC遺伝子、inlA遺伝子、plcA遺伝子において詳細な分類を可能とする特徴的な一塩基置換(一塩基多型:SNP)を見いだした。病原性の有無は血清型による分類のみでは判別できず、この特徴的な一塩基置換を分類することによってはじめてリステリア菌の病原性を推測することが可能となった。
【0016】
すなわち、本発明は、hlyA遺伝子、clpC遺伝子、inlA遺伝子、plcA遺伝子において、臨床株に特徴的な一塩基置換を検出することにより、検出対象であるリステリア菌が臨床株と同様の高い病原性を有することの判定を可能としている。また、病原性が高いと推定される臨床株において、たとえ同じ血清型に属していたとしても、これらの遺伝子の塩基配列が部分的に異なる多型が存在する。このため、正確な感染ルートを定めるためにはこれらの多型をも分析する必要があり、本発明はこれらの多型を考慮した判定を可能にしている。そして、本発明は、この判定に用いられる核酸増幅用のプライマーセット及び検出用のプローブを提供する。
【0017】
一塩基置換部位は各遺伝子において異なり、一塩基置換部位によってグループ化される。図5〜18に、各遺伝子において見出された一塩基置換部位を含む遺伝子領域をグループ毎に示した。例えば、hlyA遺伝子においては、hlyA遺伝子の開始コドンから1126−1527塩基の間に一塩基置換がみられ、この間の一塩基置換は図1及び図5に示すようにグループ1〜9の9グループ(9グループの一塩基多型:多型グループという)にグループ化される。clpC遺伝子においては、clpC遺伝子の489−1124塩基の間に一塩基置換が見られ、この間の一塩基置換は図2及び図6〜8に示すようにグループ1〜14の14グループ(14グループの多型グループ)にグループ化される。inlA遺伝子においては、inlA遺伝子の1192−1799塩基の間に一塩基置換がみられ、この間の一塩基置換は図3及び図9〜11に示すようにグループ1〜17の17グループ(17グループの多型グループ)にグループ化される。plcA遺伝子においては、plcA遺伝子の開始コドンから153−865塩基の間に一塩基置換がみられ、この間の一塩基置換は図4及び図12〜14に示すようにグループ1〜21の21グループ(21グループの多型グループ)にグループ化される。これらの塩基配列をそれぞれ配列番号20〜80に示す。配列番号20〜28はhlyA遺伝子の1126−1527塩基部分を、配列番号29〜42はclpC遺伝子の489−1124塩基部分を、配列番号43〜59はinlA遺伝子の1192−1799塩基部分を、配列番号60〜80はplcA遺伝子の153−865塩基部分を示している。なお、各遺伝子とも、多型グループ順に示されている。
【0018】
病原性が高いと推定される臨床株は、遺伝子ごとにいずれかのグループに分類される。本発明者らの研究によれば、4つの遺伝子内の一塩基多型による分類では、表1に示すように、臨床株はA〜Lまでの12グループに分類される。この表から理解されるように同じ血清型であっても、属するグループが異なり、血清型の判別だけでは不十分なことが理解される。一方、4つの遺伝子において同じ一塩基多型に分類される菌株も存在し、グループDやグループIに見られるようにこれらのグループに属する菌株と同一の遺伝子配列を有するものは臨床例が多く、病原性が高いものとして着目すべきである。また、hlyAとplcAの2つの遺伝子に着目すれば、これらの遺伝子内の多型分類と血清型分類はほぼ一致していることも理解される。例えば、hlyA内の多型グループ5やplcA内の多型グループ16は血清型1/2a型であり、hlyA内の多型グループ3はほぼ血清型で4bであると言える。この表から、血清型が1/2a型であってhlyA遺伝子が多型グループ5又はplcA遺伝子が多型グループ16に分類される菌株や、血清型が4b型であってhlyA遺伝子が多型グループ3に分類される菌株は、他の多型群に比べるとより病原性が高いとも言える。このように、血清型と特定の遺伝子における多型との組み合わせからも、病原性を推定できる。
【0019】
【表1】
【0020】
一方、hlyA遺伝子とclpC遺伝子に着目すれば、血清型が異なっているとは言え、2つの遺伝子において同一の多型グループに属するグループA〜E群も、検出された症例数が多く、病原性が高いとも推定される。また、これらの多型分類に血清型を加えて考慮すれば、hlyA遺伝子及びclpC遺伝子における一塩基多型並びに血清型で一致するD及びE群は、さらに病原性が高いとも言える。次に、hlyA遺伝子及びplcA遺伝子に着目すれば、グループI〜J群は同じ多型グループに属し、検出された症例数も多いのでこれらも病原性が高いと推定できる。もっとも、グループI〜J群はいずれも血清型1/2a型ではあるが、hlyA遺伝子の多型グループが5でありplcA遺伝子の多型グループが16であると判断されれば血清型を考慮するまでもなく、病原性が高いと推定される。
【0021】
このように、検査対象となる菌株について、それが属する多型グループを知ることにより、当該菌株の病原性を推定できる。つまり、食品中から検出された菌株が、例えばhlyA遺伝子における多型グループが3であり、clpCにおける多型グループが13であるならば、これまで臨床的に検出されていなくても、ある程度病原性が高いものと判断しうる。特に、血清型をも考慮して判定した場合には、より病原性の推定が高まり、1の一塩基多型(あるいは2以上の一塩基多型)との組み合わせによって簡便に病原性の推定ができるようになる。また、表1に示すグループDやIに属する菌株を特異的に検出できるプローブを用いれば、特に病原性が高いと着目すべき菌株のみを選択的に検出することも可能となる。こうして、病原性が高い菌株が検出されると、リステリア菌による食中毒が発生する可能性が判断される。その一方、血清型1/2a型や4b型であることが検出されたとしても、これらの遺伝子型でなければ、食中毒の原因菌でない可能性も考えられる。そして、多型グループやそれに血清型を加えた分類を用いれば、より詳細な菌の同定が行える結果、正確な感染源や感染ルートの追跡が行える。
【0022】
ところで、各遺伝子内の一塩基置換が、分類された各グループにおいて唯一のものであるならば、当該一塩基置換を検出することにより上記目的が達成される。すなわち、特定の一塩基置換のみを検出して各グループに分類できれば、当該一塩基置換を検出するだけで、病原性が高いと簡単に判断できる。図15〜19に、各遺伝子の塩基配列から一塩基置換部位のみを取り出してまとめた。図15はhlyA遺伝子について、図16はclpC遺伝子について、図17はinlA遺伝子について、図18、19はplc遺伝子について示している。なお、各図の行は多型グループを示し、各図の列は図5〜14に示した塩基配列における冒頭からの塩基番号を示している(なお、以下において示した「塩基番号」は、ここにいう塩基番号を意味する。)。
【0023】
ここで、上記において病原性が高いと推定された臨床株グループI〜L群(血清型1/2a型)を判定する場合を例にとって説明する。このグループは、hlyA遺伝子による多型グループ5及びplcA遺伝子による多型グループ16に属するが、他の臨床株には当該グループに属する多型グループは存在しない。従って、hlyA遺伝子においてグループ5又はplcA遺伝子においてグループ16に属することが検出できれば、当該菌株は病原性が高いと推定できる。そこで、図15に示す一塩基置換部位を見ると、塩基番号258番目の塩基(G)は他の多型グループの塩基と異なり、このグループに特異的である。従って、この塩基が一塩基置換部位として検出されると、臨床株グループI〜L群に属すると判断される。すなわち、この258番目の塩基(G)は、hlyA遺伝子の一塩基多型グループ5に特異的な一塩基置換であると言える。また、当該塩基以外にも、塩基番号153番目の塩基(C)や同じく318番目の塩基(G)も多型グループ5に特異的な一塩基置換であって、これらの一塩基置換を検出することにより、臨床株グループI〜L群(血清型1/2a型)の検出が可能となる。このようにして、いずれかのグループのみを検出可能にする一塩基置換部分が選択される。
【0024】
多型グループを判定するには、同じ遺伝子上にある複数箇所の一塩基置換の組み合わせによってもよい。例えば、plcA遺伝子の塩基番号37番目の塩基(T)と同塩基番号100番目の(A)、226番目の(C)の3つの塩基を検出すれば、plcA遺伝子の多型グループ10であることが判別できる。このように同一遺伝子上にある2以上の一塩基置換部位を組み合わせて、目的とする多型グループを検出することもできる。
【0025】
次に、病原性が高いと推定された臨床株グループD群を判定する場合について考える。このグループは、hlyA遺伝子における多型グループ3、clpC遺伝子における多型グループ13及びinlA遺伝子における多型グループ14並びにplcA遺伝子における多型グループ8に属する。ところが、図16に示すclpC遺伝子の一塩基置換部位を見ると、多型グループ13に特異的な一塩基置換を見出すことができない。そこで、出来る限り、clpC遺伝子における多型グループ13のみを検出できる組み合わせを考えると、図16に示す一塩基置換部位から、clpC遺伝子の塩基番号106番目の塩基(T)を検出するとともに塩基番号166番目の塩基(A)を検出すれば、多型グループ10,11、13のみを検出することができる。次に、図18,19に示す一塩基置換部位を見ると、例えば、plcA遺伝子の塩基番号226番目の塩基(C)を検出すれば、グループ8を検出できることが理解される。従って、これら3つの一塩基置換すべてを検出すれば、臨床株グループDに属することを検出できる。
【0026】
また、表1から理解されるように、plcA遺伝子において多型グループ8を検知するとともに、inlAにおいて多型グループ14を検知するようにしてもよい。このためには、inlA遺伝子塩基番号226番目の塩基(C)を検出するとともに、inlA遺伝子の塩基番号159番目の塩基(T)を検出するようにすればよい。このように、複数の遺伝子内にある特定の一塩基置換部分を組み合わせて検出するようにしてもよい。
【0027】
あるいは、次のようにして検出すべき塩基を見つけ出すことも考えられる。表1に基づくと、臨床株グループDの血清型は4b型である。一方、clpC遺伝子における多型グループ13の中には、血清型が1/2b型である菌株が多数含まれることが分かっている(下記の表3参照)。従って、clpC遺伝子における多型グループ13を含むグループを上記方法にて検出し、clpC遺伝子を除く他の遺伝子において、血清型が1/2b型を含まないような多型グループを検出可能な一塩基置換を検出するようにしてもよい。
【0028】
表2〜5は、本発明者らが分類した全てのリステリア菌の多型グループと血清型による分類表である。これらの表から、1/2b型は、hlyA遺伝子内の多型グループ1,4に、inlA遺伝子の多型グループ10,12に、plcA遺伝子の多型グループ8,9に多く見られる。これらのうちで、臨床株をできるだけ含まないようにするには、表4からinlA遺伝子における多型グループ10,12を検出せず、inlA遺伝子における多型グループ14を検出できるような一塩基置換部位を検出すればよい。このためには、inlA遺伝子の塩基番号配列168番目の塩基(T)又は159番目の塩基(T)を検出すればよいことが分かる。このように、血清型による分類と多型グループによる分類との組み合わせから、目的とする臨床株と同一である多型グループを検出可能な一塩基置換部位を決定するとともに、その結果検出されることとなる菌株から他の血清型である菌株を最大限除外できる一塩基多型部位を決定するようにしてもよい。
【0029】
【表2】
【0030】
【表3】
【0031】
【表4】
【0032】
【表5】
【0033】
上記説明では、特定の一塩基置換部位について陽性として検出する場合について示したが、陰性となるような検出方法を組み合わせてもよい。すなわち、目的とする多型グループを含む複数の多型グループを検出する一塩基置換部位に着目する一方で、目的とする多型グループを除く他の多型グループでのみ検出可能な一塩基置換部位をターゲットにしてもよい。例えば、inlA遺伝子の塩基番号123番目の塩基(G)を検出する一方で、同遺伝子の塩基番号31番目の(T)を検出する。これによると、123番目の塩基(G)の検出により多型グループ10〜17のいずれかであることが判別されるが、多型グループ17は31番目の塩基(T)は陰性に判断される。従って、この方法で多型グループ17に属することが判別される。このように、本発明においては、陽性となる検出方法と陰性となる検出方法の組み合わせにより、属する多型グループを特定する一塩基多型部位を決定しても差し支えない。
【0034】
次に検出対象が特定された一塩基置換部位は、公知のSNP分析により検出される。すなわち、当該検出すべき一塩基部位を含むDNA断片(オリゴヌクレオチド)を増幅し、増幅されたDNA部分をサイクリングプローブ法(例えば、TaqMan(商標名)プローブ法)などによって検出すればよい。
【0035】
検出すべき一塩基置換部位を挟むDNA断片を増幅するためのプローブとしては、この目的が達成できる限りにおいて、特に制限されるものではない。PCR増幅の効率の点からは通常10bp程度から150bp以下の長さとなるように設計される。なお、このとき、マルチプレックスPCR(異なるプライマーとプローブを用いるPCR反応を同じ温度と時間条件で行うPCR)化が必要な場合には、アニーリング温度が同じになるようなGC含量の塩基配列部分を利用して設計するのが好ましい。本発明においては、例えば、hlyA遺伝子の258番目の塩基(G)を目的とする場合には、配列番号1で示される塩基配列を有するオリゴヌクレオチド(Forwardプライマー)及び配列番号2で示される塩基配列を有するオリゴヌクレオチド(Reverseプライマー)が例示される。これらのプライマーは、hlyA遺伝子における多型グループ5のうち、塩基配列の258番目の塩基(G)の置換部分を挟む領域を増幅するものであって、塩基配列の199−217塩基部分及び279−297塩基部分からなる。もちろん、このためのプライマーは、このグループ5に特異的な258番目の塩基(G)の置換部分を挟む領域を増幅できれば、他の配列でもよい。
【0036】
増幅されたDNA断片を検出するためのサイクリングプローブとしては、検出すべき一塩基置換部位を挟む領域とハイブリダイズする塩基配列を有するものであれば、特に制限されるものではない。このとき、当該一塩基置換部位のデオキシリボヌクレオチドはリボヌクレオチドに置換される。また、リボヌクレオチドに置換される位置は、検出すべき一塩基置換部位でなくてもよく、その隣接する位置やその位置を含む数塩基をリボヌクレオチドに置換してもよい。このとき、一塩基置換部位が(T)や(C)である場合には、隣接するアデニンデオキシリボヌクレオチド(A)又はグアニンデオキシリボヌクレオチド(G)を、アデニンリボヌクレオチド又はグアニンリボヌクレオチドに置換するのがよい。一塩基置換部位が(A)や(G)のプリン塩基である場合の方がRNaseで確実に切断される傾向にあり、またRNA自体が安定になるからである。また、サイクリングプローブの5´末端はFAMなどの公知の蛍光物質で標識され、3´はクエンチング物質で標識されている。これらの標識により、ハイブリダイズされたRNA部分がRNaseHにより切断され、強い蛍光を発するようになる。そして、この蛍光強度を測定することで、目的とする一塩基置換部位を有することが検出される。なお、サイクリングプローブは、検出すべき一塩基置換部位を含む領域とハイブリダイズできればよく、順鎖又はその逆鎖のいずれであっても差し支えない。また、一塩基置換部位が(T)や(C)の場合、逆鎖の配列では一塩基置換部位は(A)又は(G)となるので、逆鎖の配列でサイクリングプローブを作成するのが好ましい。
【0037】
これらのサイクリングプローブとして、塩基番号258番目の塩基(G)の置換部分を挟む領域を増幅した場合には、配列番号3に示す塩基配列を有するキメラプローブが例示される。このキメラプローブは、当該塩基(G)の置換部分を挟む領域、250−273番目の塩基部分で設計し、この塩基(G)のグアニンデオキシヌクレオチドをグアニンリボヌクレオチドに置換して作製される。
【0038】
また、臨床株グループD群を検知する場合には、clpC遺伝子の塩基番号106番目の塩基(T)を挟む領域及び166番目の塩基(A)の双方を挟む領域を増幅することにしてもよく、この場合には、配列番号4に示す塩基配列を有するプローブ(Forwardプライマー)及び配列番号5に示す塩基配列を有するプローブ(Reverseプライマー)が例示される。このForwardプライマーはclpC遺伝子の塩基番号の65−83塩基部分から、また、Reverseプライマーは同塩基番号179−159塩基部分から設計される。そしてこの塩基(T)を検出するためのサイクリングプローブとして、配列番号6に示す塩基配列を有するキメラプローブが例示される。このキメラプローブは、当該塩基(T)の置換部分を挟む領域、塩基番号105−116番目の塩基部分で設計し、この塩基(T)に隣接するアデニンデオキシリボヌクレオチドをアデニンリボヌクレオチドに置換して作製される。そして、inlA遺伝子の166番目の塩基(A)を検出するためのサイクリングプローブとして、配列番号7に示す塩基配列を有するキメラプローブが例示される。このキメラプローブは、当該塩基(A)の置換部分を挟む領域、164−174番目の塩基部分で設計し、この塩基(A)のアデニンデオキシヌクレオチドをアデニンリボヌクレオチドに置換して作製される。
【0039】
次に、inlA遺伝子内の塩基番号168番目の塩基(T)を挟む領域を増幅するためのプローブとして、例えば配列番号8に示す塩基配列を有するプローブ(Forwardプライマー)及び配列番号9に示す塩基配列を有するプローブ(Reverseプライマー)が例示される。このForwardプライマーは、inlA遺伝子内の塩基番号100−118塩基部分から、また、Reverseプライマーは塩基番号197−206塩基部分から設計される。そして塩基配列168番目の塩基(T)を検出するためのサイクリングプローブとして、配列番号10に示す塩基配列を有するキメラプローブが例示される。このキメラプローブは、当該塩基(T)の置換部分を挟む領域、inlA遺伝子160−170番目の塩基部分の逆鎖配列で設計し、この塩基(T)の逆鎖となるアデニンデオキシヌクレオチド(A)をアデニンリボヌクレオチド(A)に置換して作製される。
【0040】
また、上記したように168番目の塩基(T)の代わりに、159番目の塩基(T)を検出するようにしても、同様に臨床株グループD群の菌株を検出できる。このためには、上記の配列番号8に示す塩基配列を有するプローブ及び配列番号9に示す塩基配列を有するプローブを用いて増幅し、その後、配列番号11に示す塩基配列(5’- cc(A)ccatcgcct -3’:(A)はリボヌクレオチド)を有するキメラプローブによって一塩基置換部位を検出すればよい。このキメラプローブは、inlA遺伝子151−161番目の塩基部分の逆鎖配列で設計し、この塩基(T)の逆鎖となるアデニンデオキシヌクレオチド(A)をアデニンリボヌクレオチドに置換して作製される。
【0041】
もっとも、本発明においては、これらのプライマーやプローブに限定されるものではなく、検出したい一塩基置換部分を挟む領域を増幅可能なプライマー及び当該一塩基置換部位を挟む領域とハイブリダイズ可能な塩基配列を有するキメラプローブであればよく、また、上記例示した塩基配列を有するオリゴヌクレオチドに置換、挿入、欠失がある塩基配列も含まれる。
【0042】
このようにして、hlyA遺伝子、clpC遺伝子、inlA遺伝子及びplcA遺伝子内の一塩基多型を検出するための核酸増幅用のプローブ及び検出用のサイクリングプローブが設計、作製される。こうして得られたプローブ及びサイクリングプローブを用いてPCR(RT−PCR)法を試料に適用することによって、菌の分類、病原性の有無が判別される。
【0043】
本発明のリステリア菌の検出キットは、このような一塩基多型を検出可能な核酸増殖用プローブ及び一塩基置換を検出するためのサイクリングプローブを含むものであり、必要に応じて、核酸増殖用のための各種酵素(例えば、DNAポリメラーゼなど)やハイブリダイズしたRNA部分を消化するRNase、緩衝液などが付加されることもある。
【0044】
また、検出キットは、上記したごとく特定の多型グループを検出するために、1種の増殖用プライマー(通常は、ForwardプライマーとReverseプライマーとのプライマーセットとして用いられる)と一塩基置換検出用のサイクリングプローブがセットとして提供される場合や、2種以上の増殖用プローブとサイクリングプローブがセットとして、あるいは1の増殖用プローブに対して2以上のサイクリングプローブがセットして提供される場合がある。例えば、血清型1/2a型中の高病原性菌(臨床株グループI〜L群)の検出には、配列番号1及び配列番号2の増殖用プライマーセットと配列番号3のサイクリングプローブが組み合わされる。また、血清型4b型中の高病原性菌(臨床株グループD群)の検出には、配列番号4,5,8,9の増殖用プライマーセットと配列番号6,7,10のサイクリングプローブが組み合わされる。
【0045】
もちろん、本発明は上記の検出用キットに限られるものではない。これ以外にも、臨床株として分離された菌株と同じグループに属すると判断されたならば、病原性があるものと推定される。例えば、表1に示すC群と同じ菌株(菌No.122)を検出することが考えられる。このためには、血清型が1/2b型で、plcA遺伝子は多型グループ11に属することが検出できればよい。従って、血清型での分類を行った上で、plcA遺伝子の塩基204番目の(A)を挟む領域を増幅できる核酸増幅用のプローブ及び当該塩基(A)を検出するためのサイクリングプローブを用いて、plcA遺伝子が多型グループ11であることを検出すればよい。なお、本発明においては、病原性が疑われる菌種(臨床株)だけでなく、今まで環境や食品中でしか検出されなかった菌株と同一の遺伝子多型を有する菌株についても、同様な手法にて同定・検出ができる。
【0046】
さらに配列番号20〜80に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドのみならずこれらの塩基配列から翻訳されるオリゴペプチドも本発明に含まれる。これらのアミノ酸配列を、マルチプルアライメント解析(例えば、Clustal Wプログラムの使用)すれば、塩基配列の場合と同様にしてリステリア菌の同定、分類を行うことが可能である。この結果、一塩基置換によってアミノ酸配列が変化し、病原性が高いと推定される臨床株においては、各遺伝子部分から翻訳されたタンパク質の活性が大きく異なることが推定される。その活性の有無を調べることにより分類同定が可能となる。また、これらの翻訳されたタンパク質を抗原として、それに対する抗体を作製することによって、病原性の高い菌株の検出や同定を行うこともできる。翻訳されるタンパク質の作製、抗体の作製、抗原・抗体の検出方法には、種々の公知方法が用いられる。さらに、配列番号20〜80に示される塩基配列から、停止コドンとなっているコドンを探し出すことにより、低病原性である菌株の検出、同定も可能になる。
【0047】
このように、本発明によれば、リステリア菌の同定や検出、特に病原性が高いと推定されるリステリア菌(Listeria monocytogenes)の検出や感染源、感染ルートの特定を迅速かつ簡単に行える。この一塩基置換部位を検出する方法では血清型よりも詳細な菌情報が把握できるので、より精度の高い特定が行える。
【0048】
本発明の検出方法は、例えば生乳及びその加工品(飲用乳、チーズ、ヨーグルトなどの乳製品)、複合調理食品(弁当類、調理パン)、魚介類及びその加工品、野菜サラダ、肉及びその加工品(ハム、ソーセージ、サラミなど)、その他のReady-To-Eat食品など種々の食品、水や清涼飲料水などの飲料水、排水や糞尿などリステリア菌の存在が疑われるあらゆる試料に適用される。
次に、実施例に基づき、本発明についてさらに詳細に説明する。
【実施例1】
【0049】
〔サイクリングプローブ法PCR用プライマーセット及びプローブの設計〕
(1)hlyA、clpC、inlA及びplcA遺伝子の塩基配列の決定
まず、食品及び環境並びに臨床から分離されたL. monocytogenesについて、各遺伝子の塩基配列を決定した。決定には、食品・環境中からの分離株111株及び臨床からの分離株15株が用いられた。これらの血清型別分類を表6に示した。
【0050】
【表6】
【0051】
(i)プライマーの設計と塩基配列
hlyA、clpC、inlA及びplcA遺伝子の内部塩基配列用のプライマーセットを、塩基配列既知のL. monocytogenesであるEDG−e株(血清型1/2a)及びF2365株(血清型4b)で共通の配列部分をもとに設計した。
(a)hlyAプライマーセット(hlyA遺伝子の1070−1558bp部分を増幅する)
Forward・・・AAATCATCGACGGCAACCT(配列番号12)
Reverse・・・ATTTCGGATAAAGCGTGGTG(配列番号13)
(b)clpCプライマーセット(clpC遺伝子の378−1210bp部分を増幅する)
Forward ・・・TCTTGGTATTAGTTTGAATAAAGCTC(配列番号14)
Reverse ・・・TCAAACGTACTTTAGAACCAGATT(配列番号15)
(c)inlAプライマーセット(inlA遺伝子の1099−1918bp部分を増幅する)
Forward・・・TTTTTCTATAATAACAAGGTAAGTGAC(配列番号16)
Reverse・・・CTGTATAGCTATTGGCGCTAT(配列番号17)
(d)plcAプライマーセット(plcA遺伝子の101−920bp部分を増幅する)
Forward・・・ACTGGAATAAGCCAATAAAGAACTC(配列番号18)
Reverse・・・ATTGTTTGTTTTTCGGGGAAGT(配列番号19)
【0052】
(ii)ゲノムDNAの調製
各菌株の純粋培養液から、DNA Tissue Kit(QIAGEN社製)を用いて調製した。
【0053】
(iii)PCR
以下の反応液組成でPCR反応を行った。
10×buffer for Taq DNA polymerase(TaKaRa社製) 3μl
1mM dNTPs(TaKaRa社製) 0.6μl
20pmol/μlプライマー(Forward) 0.6μl
20pmol/μlプライマー(Reverse) 0.6μl
鋳型DNA 2μl
5U/μlTaKaRa ExTaq(TaKaRa社) 0.15μl
上記反応液を0.2mlマイクロチューブ中で調製し,全量が30μlになるように滅菌水を加え、TaKaRa PCR Thermal Cycler若しくはThermo HyBaid PCR Expressを用いて以下の条件でPCRを行った。
<反応条件>
DNAの変性: 94℃、30sec
アニーリング: 60℃、30sec
伸長反応: 72℃、1min
94℃で3分間加熱後、上記反応を30サイクル行った。
得られたPCR産物の確認はアガロースゲル電気泳動により行った。
【0054】
(iv)PCR産物の精製
上記PCRにより得られたPCR産物をQIAquick PCR Purification Kit(QIAGEN社製)を用い、付属のプロトコールに従って精製した。
【0055】
(v)PCR産物の塩基配列決定
精製後のPCR産物の塩基配列解析は、サンガー法により行った。
【0056】
(vi)塩基配列分析
各遺伝子毎に決定した菌株の塩基配列のマルチプルアライメントをClustalWプログラムにより作成し、系統樹を近隣結合法により作成した。
各遺伝子の系統樹は図1〜4に示したとおりであり、塩基配列のマルチプルアライメントは図5〜図14に示したとおりである。また、各菌株における系統樹と血清型との関係は表2〜5に示したとおりである。
【0057】
hlyA遺伝子の約1100−1500塩基部分の配列比較より、本菌は9群に分類された。臨床1/2a型5株は約1/3の同血清型食品株と同一群に、また臨床4b型6株と臨床1/2b型2株は全ての食品4b型株と同一群に分類された。
【0058】
clpC遺伝子の約500−1100塩基部分の分析結果では、本菌は14群に分類された。臨床1/2a型3株は食品株とは異なる3群に分類され、臨床4b型のうち1株は、ほとんどの食品1/2b型株と同一群に、5株は約25%の食品1/2b及び約25%の食品4b型株と同一群に分類された。
【0059】
inlA遺伝子の約1100−1800塩基部分の配列比較により、本菌は17群に分類された。臨床4b型4株はほとんどの食品4b型株と同一群に分類されたが、他の臨床4b型3株は、食品4b型株とは異なるそれぞれ独立した単一の群に分かれた。
【0060】
plcA遺伝子の約100−800塩基部分の配列比較から供試菌株は21群に分類された。臨床1/2a型5株は約25%の食品1/2a型株と同一群に分類された。臨床4b型株のうち3株は約30%の食品4b型と、2株は約70%の食品4b型株とそれぞれ同一群に分かれた。
【0061】
これらの結果、hlyA遺伝子では、臨床株、環境株すべてを含めて計22の群に、clpC遺伝子では計29の群に、inlA遺伝子では計27の群に、plcA遺伝子では計30の群に分類された。
【0062】
また、今回供試された全てのリステリア菌(L. monocytogenes)はhlyA、clpC、inlA及びplcA遺伝子を有していると考えられたが、菌株によってその内部塩基配列が異なるため、同一血清型でも異なる遺伝子型に分類される場合があった。これは特に食品・環境由来の1/2a型株において顕著で、4〜8群の遺伝子型に分かれた。また、食品・環境由来の1/2b型及び4b型株はそれぞれ大きく2群の遺伝子型に分類された。
【0063】
(2)Single nucleotide polymorphic 分析による高病原性株の特異的検出法
配列解析の結果、同一グループには食品環境由来株では、1/3の血清型1/2a型株と1株の3a型、1株の3c型、2株の血清型別不能株が含まれたが、臨床由来の血清型1/2a型5株は全てhlyA内多型グループ5に分類された。このグループを特異的に検出するために、決定した配列中の特定の一塩基置換部分を含む配列をPCRにより増幅し、蛍光標識キメラプローブを用いて検出する方法を開発した。
【0064】
(a)サイクリングプローブ法PCR用プライマーセット及びキメラプローブの設計
(i)臨床由来高病原性株(血清型1/2a型:臨床株J〜Lグループ)の検出用キット
このグループに特異的な塩基置換、すなわち、hlyA遺伝子グループ5の決定された塩基配列(図5参照)の258番目の塩基(G)の置換部分を挟む領域を選択し、この配列に基づきプライマーを設計した。具体的には、塩基番号の199−217塩基部分でForwardプライマーを、279−297塩基部分でReverseプライマーを設計、作製した。
【0065】
検出用のサイクリングプローブ(キメラプローブ)には、この258番目の塩基(G)の置換部分を挟む領域として250−273番目の塩基部分を選択し、この塩基配列に基づき、258番目の塩基G(グアニンデオキシヌクレオチド)をグアニンリボヌクレオチドに置き換えて、配列番号3の塩基配列を有するプローブを作製した。そして、プローブの5´末端はFAMで蛍光標識し、3´末端はクエンチングのためにEclipseで標識した。
【0066】
臨床株J〜Lグループを検出するためのhlyA遺伝子内塩基置換検出用プライマーとプローブを表7に示す。表中()内の塩基は、リボヌクレオチドであることを示している。
【表7】
【0067】
(ii)臨床由来高病原性株(臨床株Dグループ)の検出用キット
プライマーには、このグループに特異的な塩基置換、すなわちclpC遺伝子の多型グループ13の106番目の塩基(T)部分を挟む領域及び同多型グループ13の166番目の塩基(A)部分を挟む領域を選択し、この配列に基づきプローブを設計し、まずclpC遺伝子多型グループ10,11,13を検出することとした。
【0068】
多型グループ13には環境食品由来の血清型1/2b株もその25%程度が含まれるので、これらと区別するために、inlA遺伝子多型グループ14に特異的な塩基置換、すなわちinlA遺伝子の多型グループ14の168番目の塩基(T)部分を挟む領域を選択し、この配列に基づきプローブを設計した。
【0069】
具体的には、clpC遺伝子の塩基番号65−83塩基部分でclpC Forwardプライマー(配列番号4)を、179−159塩基部分でclpC Reverseプライマー(配列番号5)を作製した。clpC遺伝子内の塩基置換検出用サイクリングプローブ(キメラプローブ)としては、clpC遺伝子の106番目の塩基(T)置換部分を検出するclpCプローブ1として、塩基番号105−116番目の塩基部分から設計し、塩基置換部分106番目の塩基T(チミンデオキシヌクレオチド)をチミンリボヌクレオチドに置き換えるかわりに107番目のA(アデニンデオキシヌクレオチド)をアデニンリボヌクレオチドに置き換えたプローブ(配列番号6)を作製した。また、clpC遺伝子の166番目の塩基(T)置換部分を検出するclpCプローブ2として、塩基番号164−174番目の塩基部分から設計し、塩基置換部分166番目の塩基A(アデニンデオキシヌクレオチド)をアデニンリボヌクレオチドに置き換えたプローブ(配列番号7)を作製した。そして、プローブの5´末端はFAMで蛍光標識し、3´末端はクエンチングのためにEclipseで標識した。
【0070】
次に、inlA遺伝子の一塩基置換を検出するために、その塩基番号100−118塩基部分でinlA Forwardプライマー(配列番号8)を、197−206塩基部分でinlA Reverseプライマーを作製した。また、inlA遺伝子内の塩基置換検出用サイクリングプローブ(キメラプローブ)は、160−170番目の塩基部分の逆鎖配列で設計し、当該配列の一塩基置換部分168番目の塩基Tの逆鎖である塩基A(アデニンデオキシヌクレオチド)をアデニンリボヌクレオチドに置き換えたプローブ(配列番号10)を作製した。プローブの5´末端はFAMで蛍光標識し、3´末端はクエンチングのためにEclipseで標識した。
【0071】
臨床株Dグループを検出するために特異的なclpC及びinlA遺伝子内塩基置換検出用プライマーとプローブを表8及び表9に示す。表中()内の塩基は、リボヌクレオチドであることを示している。
【表8】
【表9】
【実施例2】
【0072】
〔リステリア菌の検出〕
次に、実施例1で作成したPCR用プライマーセット及びサイクリングプローブを用いて、菌株の同定、検出を行った。
【0073】
(1)臨床株グループJ〜Lの検出
hlyA遺伝子型9グループの各グループの菌株から調製したDNAを鋳型として、上記で作製したプライマーセット及びサイクリングプローブを用いて菌株の同定を行った。その結果を図20に示す。なお、同定条件は次のとおりである。
(i)ゲノムDNAの調整
各菌株の純粋培養液から、DNA Tissue Kit (QIAGEN社)を用いて調製した。
(ii)リアルタイムPCRによる検出
Cycleave PCR core kitを用いて、以下の反応液組成でPCR反応を行った。
(反応液組成)
10×Cycleave PCR buffer(TaKaRa社) 1μl
2.5mM dNTP Mixture(TaKaRa社) 1.2μl
25mM Mg溶液 2.0μl
20μM Forward primer 0.1μl
20μM Reverse primer 0.1μl
サイクリンブプローブ(5μM) 0.4μl
TaKaRa ExTaq HS(5U/μl) 0.1μl
Tli RNase HII (200U/μl) 0.2μl
鋳型DNA 0.4μl
水 4.5μl
合 計 10μl
上記反応液を0.2mlマイクロチューブ中に調製し、Stratagene社製リアルタイムPCR装置MP3000を用いて以下の条件でリアルタイムPCRにより検出を行った。
<反応条件>
DNAの変性: 95℃、 5sec
アニーリング: 50℃、15sec
伸長反応: 72℃、20sec
95℃で30sec加熱後、上記反応を40サイクル行った。
【0074】
この結果、グループ5の菌株のみを本方法で検出できた。本方法で陽性となったのは、表2から理解されるように、食品由来の血清型1/2a型(8/24株)、食品由来の血清型3a型(1/2株)、食品由来の血清型3c型(1/1株)、食品由来の血清型別不能株(2/6株)、臨床由来の血清型1/2a型株(5/5株)であった。臨床由来の1/2a型株と同じ遺伝型に分類されるL. monocytogenes菌株は、環境及び食品から分離されたものであっても、同血清型の他の菌株と比べて病原性が高いことが推定される。
【0075】
(2)臨床株グループDの検出
clpC遺伝子型14グループの各グループの菌株から調製したDNAを鋳型として、上記で作製したclpC遺伝子内塩基置換検出用サイクリングプローブ法による検出結果を図21(プローブ1による)及び図22(プローブ2による)に示す。また、inlA遺伝子型17グループの各グループの菌株から調製したDNAを鋳型として、上記で作製したinlA遺伝子内塩基置換検出用サイクリングプローブ法による検出結果を図23に示す。検出条件は上記と同様である。
【0076】
inlA遺伝子型グループ15及び17のリステリア菌では、鋳型として使用した精製したゲノムDNA濃度が低かったため、蛍光強度の上がるサイクル数がグループ8、4に比べて遅かったが、29サイクル目から蛍光強度が増加し、塩基置換のないこれら4つのグループ以外のL.monocytogenesとは明らかに異なる結果が得られ、最終判断として他のグループと区別できた。
【0077】
clpC及びinlA遺伝子領域で、3箇所全ての特異的な塩基置換を持ち、サイクリングプローブ法による検出で全て陽性となったのは、食品由来の血清型4b型(7/22株、菌株番号3,6,7,14,15,16,28)、食品由来の血清型4e型(1/22株、菌株番号24)、臨床由来の血清型1/2b型(1/33株、菌株番号122)、臨床由来の血清型4b型(3/7株、菌株番号125,129,131)であった。これにより検出されたこれらの菌株は、臨床由来の血清型4b型とほぼ同じ病原遺伝子を有し、病原性が高いと推定された。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明によれば、病原性が低い菌株には存在せず、高病原性の菌株に特異的である一塩基置換を検出し、これによりあるいは血清型との組み合わせにより高病原性の菌株を検出することができる。また、菌株の分類、同定を精度よく検出できるので、食中毒発生時における感染ルートの特定や汚染源の特定を迅速に行うことができる。そして、食品分離株の迅速な病原性評価、疫学的調査への利用並びに環境中における高病原株の分布調査とその排除(主に二次汚染防止)にも利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】hlyA遺伝子内の塩基配列に基づくListeria monocytogenesの分類系統樹を示す図である。
【図2】clpC遺伝子内の塩基配列に基づくListeria monocytogenesの分類系統樹を示す図である。
【図3】inlA遺伝子内の塩基配列に基づくListeria monocytogenesの分類系統樹を示す図である。
【図4】plcA遺伝子内の塩基配列に基づくListeria monocytogenesの分類系統樹を示す図である。
【図5】hlyA遺伝子の1126−1527(402bp)塩基部分のCLUSTAL W multiple sequence alignmentを示す図である。
【図6】clpC遺伝子の489−1124(636bp)塩基部分のCLUSTAL W multiple sequence alignmentの一部を示す図である。
【図7】図6の続図である。
【図8】図7の続図である。
【図9】inlA遺伝子の1192−1799(608bp)塩基部分のCLUSTAL W multiple sequence alignmentの一部を示す図である。
【図10】図9の続図である。
【図11】図10の続図である。
【図12】plcA遺伝子の153−865(713bp)塩基部分のCLUSTAL W multiple sequence alignmentの一部を示す図である。
【図13】図12の続図である。
【図14】図13の続図である。
【図15】hlyA遺伝子内の一塩基置換部位を取り出した図である。
【図16】clpC遺伝子内の一塩基置換部位を取り出した図である。
【図17】inlA遺伝子内の一塩基置換部位を取り出した図である。
【図18】plcA遺伝子内の一塩基置換部位を取り出した図である。
【図19】図18の続図である。
【図20】hlyA遺伝子内の一塩基置換を、配列番号3に示すプローブで検出した検出結果を示す図である。
【図21】clpC遺伝子内の一塩基置換を、配列番号6に示すプローブで検出した検出結果を示す図である。
【図22】clpC遺伝子内の一塩基置換を、配列番号7に示すプローブで検出した検出結果を示す図である。
【図23】inlA遺伝子内の一塩基置換を、配列番号10に示すプローブで検出した検出結果を示す図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、リステリア モノサイトゲネス菌(Listeria monocytogenes)の検出・同定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リステリア菌は、動物や土壌などの環境中に広く常在しており、食肉や乳製品を中心とする様々な食品から高頻度に検出される。ところが、リステリア菌は低温増殖能や高食塩濃度耐性をもつため(五十君ら、2003)、食品の一次汚染はもちろん製造工程での二次汚染を防ぐことも困難である。食品が高濃度で本菌に汚染されていると、食品の低温保存中に増殖し、食中毒を引き起こす恐れがある。
【0003】
分類学的にリステリア属には6菌種が知られているが、リステリア症の原因菌とされているのはL. monocytogenesの1菌種だけであり、敗血症、髄膜炎、伝染性単核症など人畜共通の重篤な症状を引き起こす(五十君ら、2003、2004)。その病原因子の1つとして、L. monocytogenesの産生する溶血毒listeriolysin Oがある。L. monocytogenesは、細胞内寄生性細菌であり、マクロファージに貧食されても食胞から細胞質へエスケープし、殺菌機構を逃れ増殖する。Listeriolysin Oは食胞からの脱出に関与しているが、構造遺伝子であるhlyAを欠失させると、マクロファージに貧食されても食胞膜を障害することができずに食胞内にとどまり、殺菌されてしまうことから、本菌の病原因子として最も重要であるとみなされている(櫻井ら、2002)。本菌に感染した場合、成人は抵抗力が強いため、無症状感染や保菌状態となるが、新生児、高齢者及び免疫不全者などのハイリスク群では多くのリステリア症の発症がみられ、重症化した場合の致命率は30%と極めて高く、子宮内で胎児が感染すると死産や早産の原因となることが知られている(五十君ら、2003、2004)。
【0004】
これまで、日本では、リステリア症の発生状況が十分に把握されていなかったため、その感染源や感染経路については不明である。ある調査結果の報告では年間83件のリステリア症の発症が確認されているものの、欧米で問題視されているような食品を介した集団食中毒事例は確認されていなかった。しかし、2001年北海道で発生したナチュラルチーズによる食中毒が本菌によるものであったと同定され、さらに、食品が世界的に流通していることから、今後日本でも欧米のような深刻な集団食中毒が発生する可能性が懸念されている。
【0005】
現在、血清型によって菌株を分類することが疫学的解析の基盤となっているが、全てのL. monocytogenesの病原性が高いわけでもなく、ヒトの感染症例から検出されるのは血清型として1/2a型、1/2b型及び4b型がほとんどである(非特許文献1)。従って、血清型による分類によって病原性の有無を推定することもできる。
【0006】
しかしながら、血清型が同じであるからと言って、必ずしもすべての菌が高い病原性を有しているとは限らない。このため、本菌による食中毒が発生した際、その原因食品を同定し、感染経路を解明するには、血清型による分類のみでは不十分であり、それ以上に菌株を詳細に分類する必要がある。
【0007】
リステリア菌に感染した場合、発症までに長時間を要し、個人差があるため(五十君、2004)、頻発して起こるリステリア症が同一の食品を介して発生した集団食中毒であるかを判断することは困難である。また、菌株によっては血清型による分類ができない場合があり、血清型による分類のみでは病原性の有無の判定や追跡調査が十分にできない。このような観点からも詳細な分類が必要である。
【0008】
このような状況下、例えばRFLPによる分類(非特許文献2参照)やPFGEによる分類(非特許文献3参照)が提案されているが、実験操作に熟練を必要とし、操作が煩雑で長時間を要する。また、簡易迅速検出法として、hlyA遺伝子をPCRにより増幅するためのプライマーセットも報告されているが(非特許文献4)、hlyA遺伝子を有しない菌株には無効であり、100%のL. monocytogenesを検出できるわけでは無い。これらの方法以外にも、PCRによりL. monocytogenesを検出したり、血清型を判定したりする試みが数々行われているが(特許文献1,2、非特許文献5,6、7など)、病原性の高い菌株との関連性については把握されていない。
【0009】
このように、現在のところ、ヒトへの感染が心配される特に病原性の強い菌株の検出・同定のための方法も無いのが実情である。
【特許文献1】特開平6−233699号公報
【特許文献2】特開2004−154141号公報
【非特許文献1】Nelson, KE. Et al., Whole genome comparisons of serotype 4b and 1/2a strains of the food-borne pathogen Listeria monocytogenes reveal new insights into the core genome components of this species, Nucleic Acids Res., 32(2004), 2386-95
【非特許文献2】Fukiko Ueda et al., Comparison of Genomic Structures in the Serovar 1/2a Listeria monocytogenes Isolated from Meats and Listeriosis Patients in Japan, Jpn. J. Infect. Dis., 58(2005), 289-293
【非特許文献3】Marc Yde, and Annie Genicot,Use of PFGE to characterize clonal relationships among Belgian clinical isolates of Listeria monocytogenes, J Med Microbiol, 53 (2004), 399-402
【非特許文献4】Lehner, et al., A rapid differentiation of Listeria monocytogenes by use of PCR-SSCP in the listeriolysin O (hlyA) locus, J. Microbiol. Med 34(1999), 165-171
【非特許文献5】Rodriguez-Lazaro, D. et al., Simultaneous quantitive detection of Listeria spp. and Listeria monocytogenes using a duplex real-time PCR-based assay, FEMS. Microbiol. Lett., 233(2004), 257-267
【非特許文献6】Thomas, E. J. G et al., Sensitive and Specific Detection of Listeria monocytogenes in Milk and Ground Beef with the Polymerase Chain Reaction, Appl. Environ. Microbiol., 57(1991), 2576-2580
【非特許文献7】Monica K. Borucki and Douglas R. Call, Listeria monocytogenes Serotype Identification by PCR, Journal of Clinical Microbiology, Vol. 41, No. 12(2003), 5537-5540
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記の背景技術に鑑みてなされたものであって、その目的は、リステリア菌、その中でも特に高い病原性を有するL. monocytogenesの菌株を迅速に検出、分類同定することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記目的を達成するため、種々の食品及び環境から分離されたL. monocytogenes及び臨床由来のL. monocytogenes菌株において、病原性に関係すると考えられている複数の遺伝子の塩基配列を決定し、これらの配列を比較することにより、臨床由来株に特異的な一塩基置換(塩基配列)を見いだした。そして、この一塩基置換を特異的に検出できるサイクリンブプローブ法(TaqMan(商標名)プローブ法)などの分子生物学的検出方法のためのプライマーセット及びプローブDNAを用いてPCR(PCR−RT)を行うことにより、上記課題を解決するに至った。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、遺伝子の一塩基多型を用いた分類によって、病原性が高いと推定されるリステリア菌の検出・同定が迅速にできる。また、特に病原性が強いと推定される血清型1/2a型及び血清型4b型の遺伝型グループを特異的に検出、同定できるサイクリングプローブ法用のプライマーセット及びキメラプローブが提供される。このプライマーセット及びキメラプローブを用いたSNP検出法によるリアルタイムPCRを行うことにより、検体、例えば各種の食品、生乳や生鮮魚介類、生肉その他のReady-To-Eat食品、飲料水や排水などの環境水から検出されるL.monocytogenes、その中でも病原性が高いと推定される臨床株と同じ遺伝型であるL.monocytogenes菌株を特異的に検出し、L.monocytogenes菌による汚染を簡便かつ迅速に判定できる。また、上記分類に従えば、感染源の特定、感染ルートの解明をより正確かつ迅速に行える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、病原性が高いと考えられるListeria monocytogenesを検出、同定するための方法に関し、その菌が有する特徴的な一塩基多型をPCRによって検出するための核酸増幅用のプライマー及び検出用のプローブを提供する。
【0014】
Listeria monocytogenes(以下「リステリア菌」と称する。)の病原因子としては溶血毒listeriolysin Oの構造遺伝子であるhlyA以外に、hlyAと同じ病原遺伝子座prfAにコードされている病原遺伝子の転写促進に関係するprfA、細胞内の殺菌機構から逃れるために重要な酵素であるホスファチジルイノシトール特異的ホスフォリパーゼCをコードするplcC、ホスフォリパーゼCの活性化に必要な金属プロテアーゼをコードするmpl、細胞からの脱出に必要なアクチンとの会合に必要なタンパク質をコードするaszctA、ホスファチジルコリン特異的ホスフォリパーゼCをコードするplcB、さらに、細胞内への侵入に必要なinternalinA分子をコードするinlA、ペプチドグリカンの分解酵素をコードするiap、ストレス耐性に重要な役割を示すClaC ATPaseをコードしているclpCなどがある。
【0015】
リステリア菌は、血清型分類によれば1/2a型、1/2b型、1/2c型、3a型、3b型、3c型、4b型、4e型などの菌株が存在するが、上記したようにヒトの感染症例から検出されるのは1/2a型、1/2b型及び4b型がほとんどである。ところで、本発明者らは、臨床由来株及び食品環境由来株について、上記病原因子の塩基配列を詳細に調べたところ、hlyA遺伝子、clpC遺伝子、inlA遺伝子、plcA遺伝子において詳細な分類を可能とする特徴的な一塩基置換(一塩基多型:SNP)を見いだした。病原性の有無は血清型による分類のみでは判別できず、この特徴的な一塩基置換を分類することによってはじめてリステリア菌の病原性を推測することが可能となった。
【0016】
すなわち、本発明は、hlyA遺伝子、clpC遺伝子、inlA遺伝子、plcA遺伝子において、臨床株に特徴的な一塩基置換を検出することにより、検出対象であるリステリア菌が臨床株と同様の高い病原性を有することの判定を可能としている。また、病原性が高いと推定される臨床株において、たとえ同じ血清型に属していたとしても、これらの遺伝子の塩基配列が部分的に異なる多型が存在する。このため、正確な感染ルートを定めるためにはこれらの多型をも分析する必要があり、本発明はこれらの多型を考慮した判定を可能にしている。そして、本発明は、この判定に用いられる核酸増幅用のプライマーセット及び検出用のプローブを提供する。
【0017】
一塩基置換部位は各遺伝子において異なり、一塩基置換部位によってグループ化される。図5〜18に、各遺伝子において見出された一塩基置換部位を含む遺伝子領域をグループ毎に示した。例えば、hlyA遺伝子においては、hlyA遺伝子の開始コドンから1126−1527塩基の間に一塩基置換がみられ、この間の一塩基置換は図1及び図5に示すようにグループ1〜9の9グループ(9グループの一塩基多型:多型グループという)にグループ化される。clpC遺伝子においては、clpC遺伝子の489−1124塩基の間に一塩基置換が見られ、この間の一塩基置換は図2及び図6〜8に示すようにグループ1〜14の14グループ(14グループの多型グループ)にグループ化される。inlA遺伝子においては、inlA遺伝子の1192−1799塩基の間に一塩基置換がみられ、この間の一塩基置換は図3及び図9〜11に示すようにグループ1〜17の17グループ(17グループの多型グループ)にグループ化される。plcA遺伝子においては、plcA遺伝子の開始コドンから153−865塩基の間に一塩基置換がみられ、この間の一塩基置換は図4及び図12〜14に示すようにグループ1〜21の21グループ(21グループの多型グループ)にグループ化される。これらの塩基配列をそれぞれ配列番号20〜80に示す。配列番号20〜28はhlyA遺伝子の1126−1527塩基部分を、配列番号29〜42はclpC遺伝子の489−1124塩基部分を、配列番号43〜59はinlA遺伝子の1192−1799塩基部分を、配列番号60〜80はplcA遺伝子の153−865塩基部分を示している。なお、各遺伝子とも、多型グループ順に示されている。
【0018】
病原性が高いと推定される臨床株は、遺伝子ごとにいずれかのグループに分類される。本発明者らの研究によれば、4つの遺伝子内の一塩基多型による分類では、表1に示すように、臨床株はA〜Lまでの12グループに分類される。この表から理解されるように同じ血清型であっても、属するグループが異なり、血清型の判別だけでは不十分なことが理解される。一方、4つの遺伝子において同じ一塩基多型に分類される菌株も存在し、グループDやグループIに見られるようにこれらのグループに属する菌株と同一の遺伝子配列を有するものは臨床例が多く、病原性が高いものとして着目すべきである。また、hlyAとplcAの2つの遺伝子に着目すれば、これらの遺伝子内の多型分類と血清型分類はほぼ一致していることも理解される。例えば、hlyA内の多型グループ5やplcA内の多型グループ16は血清型1/2a型であり、hlyA内の多型グループ3はほぼ血清型で4bであると言える。この表から、血清型が1/2a型であってhlyA遺伝子が多型グループ5又はplcA遺伝子が多型グループ16に分類される菌株や、血清型が4b型であってhlyA遺伝子が多型グループ3に分類される菌株は、他の多型群に比べるとより病原性が高いとも言える。このように、血清型と特定の遺伝子における多型との組み合わせからも、病原性を推定できる。
【0019】
【表1】
【0020】
一方、hlyA遺伝子とclpC遺伝子に着目すれば、血清型が異なっているとは言え、2つの遺伝子において同一の多型グループに属するグループA〜E群も、検出された症例数が多く、病原性が高いとも推定される。また、これらの多型分類に血清型を加えて考慮すれば、hlyA遺伝子及びclpC遺伝子における一塩基多型並びに血清型で一致するD及びE群は、さらに病原性が高いとも言える。次に、hlyA遺伝子及びplcA遺伝子に着目すれば、グループI〜J群は同じ多型グループに属し、検出された症例数も多いのでこれらも病原性が高いと推定できる。もっとも、グループI〜J群はいずれも血清型1/2a型ではあるが、hlyA遺伝子の多型グループが5でありplcA遺伝子の多型グループが16であると判断されれば血清型を考慮するまでもなく、病原性が高いと推定される。
【0021】
このように、検査対象となる菌株について、それが属する多型グループを知ることにより、当該菌株の病原性を推定できる。つまり、食品中から検出された菌株が、例えばhlyA遺伝子における多型グループが3であり、clpCにおける多型グループが13であるならば、これまで臨床的に検出されていなくても、ある程度病原性が高いものと判断しうる。特に、血清型をも考慮して判定した場合には、より病原性の推定が高まり、1の一塩基多型(あるいは2以上の一塩基多型)との組み合わせによって簡便に病原性の推定ができるようになる。また、表1に示すグループDやIに属する菌株を特異的に検出できるプローブを用いれば、特に病原性が高いと着目すべき菌株のみを選択的に検出することも可能となる。こうして、病原性が高い菌株が検出されると、リステリア菌による食中毒が発生する可能性が判断される。その一方、血清型1/2a型や4b型であることが検出されたとしても、これらの遺伝子型でなければ、食中毒の原因菌でない可能性も考えられる。そして、多型グループやそれに血清型を加えた分類を用いれば、より詳細な菌の同定が行える結果、正確な感染源や感染ルートの追跡が行える。
【0022】
ところで、各遺伝子内の一塩基置換が、分類された各グループにおいて唯一のものであるならば、当該一塩基置換を検出することにより上記目的が達成される。すなわち、特定の一塩基置換のみを検出して各グループに分類できれば、当該一塩基置換を検出するだけで、病原性が高いと簡単に判断できる。図15〜19に、各遺伝子の塩基配列から一塩基置換部位のみを取り出してまとめた。図15はhlyA遺伝子について、図16はclpC遺伝子について、図17はinlA遺伝子について、図18、19はplc遺伝子について示している。なお、各図の行は多型グループを示し、各図の列は図5〜14に示した塩基配列における冒頭からの塩基番号を示している(なお、以下において示した「塩基番号」は、ここにいう塩基番号を意味する。)。
【0023】
ここで、上記において病原性が高いと推定された臨床株グループI〜L群(血清型1/2a型)を判定する場合を例にとって説明する。このグループは、hlyA遺伝子による多型グループ5及びplcA遺伝子による多型グループ16に属するが、他の臨床株には当該グループに属する多型グループは存在しない。従って、hlyA遺伝子においてグループ5又はplcA遺伝子においてグループ16に属することが検出できれば、当該菌株は病原性が高いと推定できる。そこで、図15に示す一塩基置換部位を見ると、塩基番号258番目の塩基(G)は他の多型グループの塩基と異なり、このグループに特異的である。従って、この塩基が一塩基置換部位として検出されると、臨床株グループI〜L群に属すると判断される。すなわち、この258番目の塩基(G)は、hlyA遺伝子の一塩基多型グループ5に特異的な一塩基置換であると言える。また、当該塩基以外にも、塩基番号153番目の塩基(C)や同じく318番目の塩基(G)も多型グループ5に特異的な一塩基置換であって、これらの一塩基置換を検出することにより、臨床株グループI〜L群(血清型1/2a型)の検出が可能となる。このようにして、いずれかのグループのみを検出可能にする一塩基置換部分が選択される。
【0024】
多型グループを判定するには、同じ遺伝子上にある複数箇所の一塩基置換の組み合わせによってもよい。例えば、plcA遺伝子の塩基番号37番目の塩基(T)と同塩基番号100番目の(A)、226番目の(C)の3つの塩基を検出すれば、plcA遺伝子の多型グループ10であることが判別できる。このように同一遺伝子上にある2以上の一塩基置換部位を組み合わせて、目的とする多型グループを検出することもできる。
【0025】
次に、病原性が高いと推定された臨床株グループD群を判定する場合について考える。このグループは、hlyA遺伝子における多型グループ3、clpC遺伝子における多型グループ13及びinlA遺伝子における多型グループ14並びにplcA遺伝子における多型グループ8に属する。ところが、図16に示すclpC遺伝子の一塩基置換部位を見ると、多型グループ13に特異的な一塩基置換を見出すことができない。そこで、出来る限り、clpC遺伝子における多型グループ13のみを検出できる組み合わせを考えると、図16に示す一塩基置換部位から、clpC遺伝子の塩基番号106番目の塩基(T)を検出するとともに塩基番号166番目の塩基(A)を検出すれば、多型グループ10,11、13のみを検出することができる。次に、図18,19に示す一塩基置換部位を見ると、例えば、plcA遺伝子の塩基番号226番目の塩基(C)を検出すれば、グループ8を検出できることが理解される。従って、これら3つの一塩基置換すべてを検出すれば、臨床株グループDに属することを検出できる。
【0026】
また、表1から理解されるように、plcA遺伝子において多型グループ8を検知するとともに、inlAにおいて多型グループ14を検知するようにしてもよい。このためには、inlA遺伝子塩基番号226番目の塩基(C)を検出するとともに、inlA遺伝子の塩基番号159番目の塩基(T)を検出するようにすればよい。このように、複数の遺伝子内にある特定の一塩基置換部分を組み合わせて検出するようにしてもよい。
【0027】
あるいは、次のようにして検出すべき塩基を見つけ出すことも考えられる。表1に基づくと、臨床株グループDの血清型は4b型である。一方、clpC遺伝子における多型グループ13の中には、血清型が1/2b型である菌株が多数含まれることが分かっている(下記の表3参照)。従って、clpC遺伝子における多型グループ13を含むグループを上記方法にて検出し、clpC遺伝子を除く他の遺伝子において、血清型が1/2b型を含まないような多型グループを検出可能な一塩基置換を検出するようにしてもよい。
【0028】
表2〜5は、本発明者らが分類した全てのリステリア菌の多型グループと血清型による分類表である。これらの表から、1/2b型は、hlyA遺伝子内の多型グループ1,4に、inlA遺伝子の多型グループ10,12に、plcA遺伝子の多型グループ8,9に多く見られる。これらのうちで、臨床株をできるだけ含まないようにするには、表4からinlA遺伝子における多型グループ10,12を検出せず、inlA遺伝子における多型グループ14を検出できるような一塩基置換部位を検出すればよい。このためには、inlA遺伝子の塩基番号配列168番目の塩基(T)又は159番目の塩基(T)を検出すればよいことが分かる。このように、血清型による分類と多型グループによる分類との組み合わせから、目的とする臨床株と同一である多型グループを検出可能な一塩基置換部位を決定するとともに、その結果検出されることとなる菌株から他の血清型である菌株を最大限除外できる一塩基多型部位を決定するようにしてもよい。
【0029】
【表2】
【0030】
【表3】
【0031】
【表4】
【0032】
【表5】
【0033】
上記説明では、特定の一塩基置換部位について陽性として検出する場合について示したが、陰性となるような検出方法を組み合わせてもよい。すなわち、目的とする多型グループを含む複数の多型グループを検出する一塩基置換部位に着目する一方で、目的とする多型グループを除く他の多型グループでのみ検出可能な一塩基置換部位をターゲットにしてもよい。例えば、inlA遺伝子の塩基番号123番目の塩基(G)を検出する一方で、同遺伝子の塩基番号31番目の(T)を検出する。これによると、123番目の塩基(G)の検出により多型グループ10〜17のいずれかであることが判別されるが、多型グループ17は31番目の塩基(T)は陰性に判断される。従って、この方法で多型グループ17に属することが判別される。このように、本発明においては、陽性となる検出方法と陰性となる検出方法の組み合わせにより、属する多型グループを特定する一塩基多型部位を決定しても差し支えない。
【0034】
次に検出対象が特定された一塩基置換部位は、公知のSNP分析により検出される。すなわち、当該検出すべき一塩基部位を含むDNA断片(オリゴヌクレオチド)を増幅し、増幅されたDNA部分をサイクリングプローブ法(例えば、TaqMan(商標名)プローブ法)などによって検出すればよい。
【0035】
検出すべき一塩基置換部位を挟むDNA断片を増幅するためのプローブとしては、この目的が達成できる限りにおいて、特に制限されるものではない。PCR増幅の効率の点からは通常10bp程度から150bp以下の長さとなるように設計される。なお、このとき、マルチプレックスPCR(異なるプライマーとプローブを用いるPCR反応を同じ温度と時間条件で行うPCR)化が必要な場合には、アニーリング温度が同じになるようなGC含量の塩基配列部分を利用して設計するのが好ましい。本発明においては、例えば、hlyA遺伝子の258番目の塩基(G)を目的とする場合には、配列番号1で示される塩基配列を有するオリゴヌクレオチド(Forwardプライマー)及び配列番号2で示される塩基配列を有するオリゴヌクレオチド(Reverseプライマー)が例示される。これらのプライマーは、hlyA遺伝子における多型グループ5のうち、塩基配列の258番目の塩基(G)の置換部分を挟む領域を増幅するものであって、塩基配列の199−217塩基部分及び279−297塩基部分からなる。もちろん、このためのプライマーは、このグループ5に特異的な258番目の塩基(G)の置換部分を挟む領域を増幅できれば、他の配列でもよい。
【0036】
増幅されたDNA断片を検出するためのサイクリングプローブとしては、検出すべき一塩基置換部位を挟む領域とハイブリダイズする塩基配列を有するものであれば、特に制限されるものではない。このとき、当該一塩基置換部位のデオキシリボヌクレオチドはリボヌクレオチドに置換される。また、リボヌクレオチドに置換される位置は、検出すべき一塩基置換部位でなくてもよく、その隣接する位置やその位置を含む数塩基をリボヌクレオチドに置換してもよい。このとき、一塩基置換部位が(T)や(C)である場合には、隣接するアデニンデオキシリボヌクレオチド(A)又はグアニンデオキシリボヌクレオチド(G)を、アデニンリボヌクレオチド又はグアニンリボヌクレオチドに置換するのがよい。一塩基置換部位が(A)や(G)のプリン塩基である場合の方がRNaseで確実に切断される傾向にあり、またRNA自体が安定になるからである。また、サイクリングプローブの5´末端はFAMなどの公知の蛍光物質で標識され、3´はクエンチング物質で標識されている。これらの標識により、ハイブリダイズされたRNA部分がRNaseHにより切断され、強い蛍光を発するようになる。そして、この蛍光強度を測定することで、目的とする一塩基置換部位を有することが検出される。なお、サイクリングプローブは、検出すべき一塩基置換部位を含む領域とハイブリダイズできればよく、順鎖又はその逆鎖のいずれであっても差し支えない。また、一塩基置換部位が(T)や(C)の場合、逆鎖の配列では一塩基置換部位は(A)又は(G)となるので、逆鎖の配列でサイクリングプローブを作成するのが好ましい。
【0037】
これらのサイクリングプローブとして、塩基番号258番目の塩基(G)の置換部分を挟む領域を増幅した場合には、配列番号3に示す塩基配列を有するキメラプローブが例示される。このキメラプローブは、当該塩基(G)の置換部分を挟む領域、250−273番目の塩基部分で設計し、この塩基(G)のグアニンデオキシヌクレオチドをグアニンリボヌクレオチドに置換して作製される。
【0038】
また、臨床株グループD群を検知する場合には、clpC遺伝子の塩基番号106番目の塩基(T)を挟む領域及び166番目の塩基(A)の双方を挟む領域を増幅することにしてもよく、この場合には、配列番号4に示す塩基配列を有するプローブ(Forwardプライマー)及び配列番号5に示す塩基配列を有するプローブ(Reverseプライマー)が例示される。このForwardプライマーはclpC遺伝子の塩基番号の65−83塩基部分から、また、Reverseプライマーは同塩基番号179−159塩基部分から設計される。そしてこの塩基(T)を検出するためのサイクリングプローブとして、配列番号6に示す塩基配列を有するキメラプローブが例示される。このキメラプローブは、当該塩基(T)の置換部分を挟む領域、塩基番号105−116番目の塩基部分で設計し、この塩基(T)に隣接するアデニンデオキシリボヌクレオチドをアデニンリボヌクレオチドに置換して作製される。そして、inlA遺伝子の166番目の塩基(A)を検出するためのサイクリングプローブとして、配列番号7に示す塩基配列を有するキメラプローブが例示される。このキメラプローブは、当該塩基(A)の置換部分を挟む領域、164−174番目の塩基部分で設計し、この塩基(A)のアデニンデオキシヌクレオチドをアデニンリボヌクレオチドに置換して作製される。
【0039】
次に、inlA遺伝子内の塩基番号168番目の塩基(T)を挟む領域を増幅するためのプローブとして、例えば配列番号8に示す塩基配列を有するプローブ(Forwardプライマー)及び配列番号9に示す塩基配列を有するプローブ(Reverseプライマー)が例示される。このForwardプライマーは、inlA遺伝子内の塩基番号100−118塩基部分から、また、Reverseプライマーは塩基番号197−206塩基部分から設計される。そして塩基配列168番目の塩基(T)を検出するためのサイクリングプローブとして、配列番号10に示す塩基配列を有するキメラプローブが例示される。このキメラプローブは、当該塩基(T)の置換部分を挟む領域、inlA遺伝子160−170番目の塩基部分の逆鎖配列で設計し、この塩基(T)の逆鎖となるアデニンデオキシヌクレオチド(A)をアデニンリボヌクレオチド(A)に置換して作製される。
【0040】
また、上記したように168番目の塩基(T)の代わりに、159番目の塩基(T)を検出するようにしても、同様に臨床株グループD群の菌株を検出できる。このためには、上記の配列番号8に示す塩基配列を有するプローブ及び配列番号9に示す塩基配列を有するプローブを用いて増幅し、その後、配列番号11に示す塩基配列(5’- cc(A)ccatcgcct -3’:(A)はリボヌクレオチド)を有するキメラプローブによって一塩基置換部位を検出すればよい。このキメラプローブは、inlA遺伝子151−161番目の塩基部分の逆鎖配列で設計し、この塩基(T)の逆鎖となるアデニンデオキシヌクレオチド(A)をアデニンリボヌクレオチドに置換して作製される。
【0041】
もっとも、本発明においては、これらのプライマーやプローブに限定されるものではなく、検出したい一塩基置換部分を挟む領域を増幅可能なプライマー及び当該一塩基置換部位を挟む領域とハイブリダイズ可能な塩基配列を有するキメラプローブであればよく、また、上記例示した塩基配列を有するオリゴヌクレオチドに置換、挿入、欠失がある塩基配列も含まれる。
【0042】
このようにして、hlyA遺伝子、clpC遺伝子、inlA遺伝子及びplcA遺伝子内の一塩基多型を検出するための核酸増幅用のプローブ及び検出用のサイクリングプローブが設計、作製される。こうして得られたプローブ及びサイクリングプローブを用いてPCR(RT−PCR)法を試料に適用することによって、菌の分類、病原性の有無が判別される。
【0043】
本発明のリステリア菌の検出キットは、このような一塩基多型を検出可能な核酸増殖用プローブ及び一塩基置換を検出するためのサイクリングプローブを含むものであり、必要に応じて、核酸増殖用のための各種酵素(例えば、DNAポリメラーゼなど)やハイブリダイズしたRNA部分を消化するRNase、緩衝液などが付加されることもある。
【0044】
また、検出キットは、上記したごとく特定の多型グループを検出するために、1種の増殖用プライマー(通常は、ForwardプライマーとReverseプライマーとのプライマーセットとして用いられる)と一塩基置換検出用のサイクリングプローブがセットとして提供される場合や、2種以上の増殖用プローブとサイクリングプローブがセットとして、あるいは1の増殖用プローブに対して2以上のサイクリングプローブがセットして提供される場合がある。例えば、血清型1/2a型中の高病原性菌(臨床株グループI〜L群)の検出には、配列番号1及び配列番号2の増殖用プライマーセットと配列番号3のサイクリングプローブが組み合わされる。また、血清型4b型中の高病原性菌(臨床株グループD群)の検出には、配列番号4,5,8,9の増殖用プライマーセットと配列番号6,7,10のサイクリングプローブが組み合わされる。
【0045】
もちろん、本発明は上記の検出用キットに限られるものではない。これ以外にも、臨床株として分離された菌株と同じグループに属すると判断されたならば、病原性があるものと推定される。例えば、表1に示すC群と同じ菌株(菌No.122)を検出することが考えられる。このためには、血清型が1/2b型で、plcA遺伝子は多型グループ11に属することが検出できればよい。従って、血清型での分類を行った上で、plcA遺伝子の塩基204番目の(A)を挟む領域を増幅できる核酸増幅用のプローブ及び当該塩基(A)を検出するためのサイクリングプローブを用いて、plcA遺伝子が多型グループ11であることを検出すればよい。なお、本発明においては、病原性が疑われる菌種(臨床株)だけでなく、今まで環境や食品中でしか検出されなかった菌株と同一の遺伝子多型を有する菌株についても、同様な手法にて同定・検出ができる。
【0046】
さらに配列番号20〜80に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドのみならずこれらの塩基配列から翻訳されるオリゴペプチドも本発明に含まれる。これらのアミノ酸配列を、マルチプルアライメント解析(例えば、Clustal Wプログラムの使用)すれば、塩基配列の場合と同様にしてリステリア菌の同定、分類を行うことが可能である。この結果、一塩基置換によってアミノ酸配列が変化し、病原性が高いと推定される臨床株においては、各遺伝子部分から翻訳されたタンパク質の活性が大きく異なることが推定される。その活性の有無を調べることにより分類同定が可能となる。また、これらの翻訳されたタンパク質を抗原として、それに対する抗体を作製することによって、病原性の高い菌株の検出や同定を行うこともできる。翻訳されるタンパク質の作製、抗体の作製、抗原・抗体の検出方法には、種々の公知方法が用いられる。さらに、配列番号20〜80に示される塩基配列から、停止コドンとなっているコドンを探し出すことにより、低病原性である菌株の検出、同定も可能になる。
【0047】
このように、本発明によれば、リステリア菌の同定や検出、特に病原性が高いと推定されるリステリア菌(Listeria monocytogenes)の検出や感染源、感染ルートの特定を迅速かつ簡単に行える。この一塩基置換部位を検出する方法では血清型よりも詳細な菌情報が把握できるので、より精度の高い特定が行える。
【0048】
本発明の検出方法は、例えば生乳及びその加工品(飲用乳、チーズ、ヨーグルトなどの乳製品)、複合調理食品(弁当類、調理パン)、魚介類及びその加工品、野菜サラダ、肉及びその加工品(ハム、ソーセージ、サラミなど)、その他のReady-To-Eat食品など種々の食品、水や清涼飲料水などの飲料水、排水や糞尿などリステリア菌の存在が疑われるあらゆる試料に適用される。
次に、実施例に基づき、本発明についてさらに詳細に説明する。
【実施例1】
【0049】
〔サイクリングプローブ法PCR用プライマーセット及びプローブの設計〕
(1)hlyA、clpC、inlA及びplcA遺伝子の塩基配列の決定
まず、食品及び環境並びに臨床から分離されたL. monocytogenesについて、各遺伝子の塩基配列を決定した。決定には、食品・環境中からの分離株111株及び臨床からの分離株15株が用いられた。これらの血清型別分類を表6に示した。
【0050】
【表6】
【0051】
(i)プライマーの設計と塩基配列
hlyA、clpC、inlA及びplcA遺伝子の内部塩基配列用のプライマーセットを、塩基配列既知のL. monocytogenesであるEDG−e株(血清型1/2a)及びF2365株(血清型4b)で共通の配列部分をもとに設計した。
(a)hlyAプライマーセット(hlyA遺伝子の1070−1558bp部分を増幅する)
Forward・・・AAATCATCGACGGCAACCT(配列番号12)
Reverse・・・ATTTCGGATAAAGCGTGGTG(配列番号13)
(b)clpCプライマーセット(clpC遺伝子の378−1210bp部分を増幅する)
Forward ・・・TCTTGGTATTAGTTTGAATAAAGCTC(配列番号14)
Reverse ・・・TCAAACGTACTTTAGAACCAGATT(配列番号15)
(c)inlAプライマーセット(inlA遺伝子の1099−1918bp部分を増幅する)
Forward・・・TTTTTCTATAATAACAAGGTAAGTGAC(配列番号16)
Reverse・・・CTGTATAGCTATTGGCGCTAT(配列番号17)
(d)plcAプライマーセット(plcA遺伝子の101−920bp部分を増幅する)
Forward・・・ACTGGAATAAGCCAATAAAGAACTC(配列番号18)
Reverse・・・ATTGTTTGTTTTTCGGGGAAGT(配列番号19)
【0052】
(ii)ゲノムDNAの調製
各菌株の純粋培養液から、DNA Tissue Kit(QIAGEN社製)を用いて調製した。
【0053】
(iii)PCR
以下の反応液組成でPCR反応を行った。
10×buffer for Taq DNA polymerase(TaKaRa社製) 3μl
1mM dNTPs(TaKaRa社製) 0.6μl
20pmol/μlプライマー(Forward) 0.6μl
20pmol/μlプライマー(Reverse) 0.6μl
鋳型DNA 2μl
5U/μlTaKaRa ExTaq(TaKaRa社) 0.15μl
上記反応液を0.2mlマイクロチューブ中で調製し,全量が30μlになるように滅菌水を加え、TaKaRa PCR Thermal Cycler若しくはThermo HyBaid PCR Expressを用いて以下の条件でPCRを行った。
<反応条件>
DNAの変性: 94℃、30sec
アニーリング: 60℃、30sec
伸長反応: 72℃、1min
94℃で3分間加熱後、上記反応を30サイクル行った。
得られたPCR産物の確認はアガロースゲル電気泳動により行った。
【0054】
(iv)PCR産物の精製
上記PCRにより得られたPCR産物をQIAquick PCR Purification Kit(QIAGEN社製)を用い、付属のプロトコールに従って精製した。
【0055】
(v)PCR産物の塩基配列決定
精製後のPCR産物の塩基配列解析は、サンガー法により行った。
【0056】
(vi)塩基配列分析
各遺伝子毎に決定した菌株の塩基配列のマルチプルアライメントをClustalWプログラムにより作成し、系統樹を近隣結合法により作成した。
各遺伝子の系統樹は図1〜4に示したとおりであり、塩基配列のマルチプルアライメントは図5〜図14に示したとおりである。また、各菌株における系統樹と血清型との関係は表2〜5に示したとおりである。
【0057】
hlyA遺伝子の約1100−1500塩基部分の配列比較より、本菌は9群に分類された。臨床1/2a型5株は約1/3の同血清型食品株と同一群に、また臨床4b型6株と臨床1/2b型2株は全ての食品4b型株と同一群に分類された。
【0058】
clpC遺伝子の約500−1100塩基部分の分析結果では、本菌は14群に分類された。臨床1/2a型3株は食品株とは異なる3群に分類され、臨床4b型のうち1株は、ほとんどの食品1/2b型株と同一群に、5株は約25%の食品1/2b及び約25%の食品4b型株と同一群に分類された。
【0059】
inlA遺伝子の約1100−1800塩基部分の配列比較により、本菌は17群に分類された。臨床4b型4株はほとんどの食品4b型株と同一群に分類されたが、他の臨床4b型3株は、食品4b型株とは異なるそれぞれ独立した単一の群に分かれた。
【0060】
plcA遺伝子の約100−800塩基部分の配列比較から供試菌株は21群に分類された。臨床1/2a型5株は約25%の食品1/2a型株と同一群に分類された。臨床4b型株のうち3株は約30%の食品4b型と、2株は約70%の食品4b型株とそれぞれ同一群に分かれた。
【0061】
これらの結果、hlyA遺伝子では、臨床株、環境株すべてを含めて計22の群に、clpC遺伝子では計29の群に、inlA遺伝子では計27の群に、plcA遺伝子では計30の群に分類された。
【0062】
また、今回供試された全てのリステリア菌(L. monocytogenes)はhlyA、clpC、inlA及びplcA遺伝子を有していると考えられたが、菌株によってその内部塩基配列が異なるため、同一血清型でも異なる遺伝子型に分類される場合があった。これは特に食品・環境由来の1/2a型株において顕著で、4〜8群の遺伝子型に分かれた。また、食品・環境由来の1/2b型及び4b型株はそれぞれ大きく2群の遺伝子型に分類された。
【0063】
(2)Single nucleotide polymorphic 分析による高病原性株の特異的検出法
配列解析の結果、同一グループには食品環境由来株では、1/3の血清型1/2a型株と1株の3a型、1株の3c型、2株の血清型別不能株が含まれたが、臨床由来の血清型1/2a型5株は全てhlyA内多型グループ5に分類された。このグループを特異的に検出するために、決定した配列中の特定の一塩基置換部分を含む配列をPCRにより増幅し、蛍光標識キメラプローブを用いて検出する方法を開発した。
【0064】
(a)サイクリングプローブ法PCR用プライマーセット及びキメラプローブの設計
(i)臨床由来高病原性株(血清型1/2a型:臨床株J〜Lグループ)の検出用キット
このグループに特異的な塩基置換、すなわち、hlyA遺伝子グループ5の決定された塩基配列(図5参照)の258番目の塩基(G)の置換部分を挟む領域を選択し、この配列に基づきプライマーを設計した。具体的には、塩基番号の199−217塩基部分でForwardプライマーを、279−297塩基部分でReverseプライマーを設計、作製した。
【0065】
検出用のサイクリングプローブ(キメラプローブ)には、この258番目の塩基(G)の置換部分を挟む領域として250−273番目の塩基部分を選択し、この塩基配列に基づき、258番目の塩基G(グアニンデオキシヌクレオチド)をグアニンリボヌクレオチドに置き換えて、配列番号3の塩基配列を有するプローブを作製した。そして、プローブの5´末端はFAMで蛍光標識し、3´末端はクエンチングのためにEclipseで標識した。
【0066】
臨床株J〜Lグループを検出するためのhlyA遺伝子内塩基置換検出用プライマーとプローブを表7に示す。表中()内の塩基は、リボヌクレオチドであることを示している。
【表7】
【0067】
(ii)臨床由来高病原性株(臨床株Dグループ)の検出用キット
プライマーには、このグループに特異的な塩基置換、すなわちclpC遺伝子の多型グループ13の106番目の塩基(T)部分を挟む領域及び同多型グループ13の166番目の塩基(A)部分を挟む領域を選択し、この配列に基づきプローブを設計し、まずclpC遺伝子多型グループ10,11,13を検出することとした。
【0068】
多型グループ13には環境食品由来の血清型1/2b株もその25%程度が含まれるので、これらと区別するために、inlA遺伝子多型グループ14に特異的な塩基置換、すなわちinlA遺伝子の多型グループ14の168番目の塩基(T)部分を挟む領域を選択し、この配列に基づきプローブを設計した。
【0069】
具体的には、clpC遺伝子の塩基番号65−83塩基部分でclpC Forwardプライマー(配列番号4)を、179−159塩基部分でclpC Reverseプライマー(配列番号5)を作製した。clpC遺伝子内の塩基置換検出用サイクリングプローブ(キメラプローブ)としては、clpC遺伝子の106番目の塩基(T)置換部分を検出するclpCプローブ1として、塩基番号105−116番目の塩基部分から設計し、塩基置換部分106番目の塩基T(チミンデオキシヌクレオチド)をチミンリボヌクレオチドに置き換えるかわりに107番目のA(アデニンデオキシヌクレオチド)をアデニンリボヌクレオチドに置き換えたプローブ(配列番号6)を作製した。また、clpC遺伝子の166番目の塩基(T)置換部分を検出するclpCプローブ2として、塩基番号164−174番目の塩基部分から設計し、塩基置換部分166番目の塩基A(アデニンデオキシヌクレオチド)をアデニンリボヌクレオチドに置き換えたプローブ(配列番号7)を作製した。そして、プローブの5´末端はFAMで蛍光標識し、3´末端はクエンチングのためにEclipseで標識した。
【0070】
次に、inlA遺伝子の一塩基置換を検出するために、その塩基番号100−118塩基部分でinlA Forwardプライマー(配列番号8)を、197−206塩基部分でinlA Reverseプライマーを作製した。また、inlA遺伝子内の塩基置換検出用サイクリングプローブ(キメラプローブ)は、160−170番目の塩基部分の逆鎖配列で設計し、当該配列の一塩基置換部分168番目の塩基Tの逆鎖である塩基A(アデニンデオキシヌクレオチド)をアデニンリボヌクレオチドに置き換えたプローブ(配列番号10)を作製した。プローブの5´末端はFAMで蛍光標識し、3´末端はクエンチングのためにEclipseで標識した。
【0071】
臨床株Dグループを検出するために特異的なclpC及びinlA遺伝子内塩基置換検出用プライマーとプローブを表8及び表9に示す。表中()内の塩基は、リボヌクレオチドであることを示している。
【表8】
【表9】
【実施例2】
【0072】
〔リステリア菌の検出〕
次に、実施例1で作成したPCR用プライマーセット及びサイクリングプローブを用いて、菌株の同定、検出を行った。
【0073】
(1)臨床株グループJ〜Lの検出
hlyA遺伝子型9グループの各グループの菌株から調製したDNAを鋳型として、上記で作製したプライマーセット及びサイクリングプローブを用いて菌株の同定を行った。その結果を図20に示す。なお、同定条件は次のとおりである。
(i)ゲノムDNAの調整
各菌株の純粋培養液から、DNA Tissue Kit (QIAGEN社)を用いて調製した。
(ii)リアルタイムPCRによる検出
Cycleave PCR core kitを用いて、以下の反応液組成でPCR反応を行った。
(反応液組成)
10×Cycleave PCR buffer(TaKaRa社) 1μl
2.5mM dNTP Mixture(TaKaRa社) 1.2μl
25mM Mg溶液 2.0μl
20μM Forward primer 0.1μl
20μM Reverse primer 0.1μl
サイクリンブプローブ(5μM) 0.4μl
TaKaRa ExTaq HS(5U/μl) 0.1μl
Tli RNase HII (200U/μl) 0.2μl
鋳型DNA 0.4μl
水 4.5μl
合 計 10μl
上記反応液を0.2mlマイクロチューブ中に調製し、Stratagene社製リアルタイムPCR装置MP3000を用いて以下の条件でリアルタイムPCRにより検出を行った。
<反応条件>
DNAの変性: 95℃、 5sec
アニーリング: 50℃、15sec
伸長反応: 72℃、20sec
95℃で30sec加熱後、上記反応を40サイクル行った。
【0074】
この結果、グループ5の菌株のみを本方法で検出できた。本方法で陽性となったのは、表2から理解されるように、食品由来の血清型1/2a型(8/24株)、食品由来の血清型3a型(1/2株)、食品由来の血清型3c型(1/1株)、食品由来の血清型別不能株(2/6株)、臨床由来の血清型1/2a型株(5/5株)であった。臨床由来の1/2a型株と同じ遺伝型に分類されるL. monocytogenes菌株は、環境及び食品から分離されたものであっても、同血清型の他の菌株と比べて病原性が高いことが推定される。
【0075】
(2)臨床株グループDの検出
clpC遺伝子型14グループの各グループの菌株から調製したDNAを鋳型として、上記で作製したclpC遺伝子内塩基置換検出用サイクリングプローブ法による検出結果を図21(プローブ1による)及び図22(プローブ2による)に示す。また、inlA遺伝子型17グループの各グループの菌株から調製したDNAを鋳型として、上記で作製したinlA遺伝子内塩基置換検出用サイクリングプローブ法による検出結果を図23に示す。検出条件は上記と同様である。
【0076】
inlA遺伝子型グループ15及び17のリステリア菌では、鋳型として使用した精製したゲノムDNA濃度が低かったため、蛍光強度の上がるサイクル数がグループ8、4に比べて遅かったが、29サイクル目から蛍光強度が増加し、塩基置換のないこれら4つのグループ以外のL.monocytogenesとは明らかに異なる結果が得られ、最終判断として他のグループと区別できた。
【0077】
clpC及びinlA遺伝子領域で、3箇所全ての特異的な塩基置換を持ち、サイクリングプローブ法による検出で全て陽性となったのは、食品由来の血清型4b型(7/22株、菌株番号3,6,7,14,15,16,28)、食品由来の血清型4e型(1/22株、菌株番号24)、臨床由来の血清型1/2b型(1/33株、菌株番号122)、臨床由来の血清型4b型(3/7株、菌株番号125,129,131)であった。これにより検出されたこれらの菌株は、臨床由来の血清型4b型とほぼ同じ病原遺伝子を有し、病原性が高いと推定された。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明によれば、病原性が低い菌株には存在せず、高病原性の菌株に特異的である一塩基置換を検出し、これによりあるいは血清型との組み合わせにより高病原性の菌株を検出することができる。また、菌株の分類、同定を精度よく検出できるので、食中毒発生時における感染ルートの特定や汚染源の特定を迅速に行うことができる。そして、食品分離株の迅速な病原性評価、疫学的調査への利用並びに環境中における高病原株の分布調査とその排除(主に二次汚染防止)にも利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】hlyA遺伝子内の塩基配列に基づくListeria monocytogenesの分類系統樹を示す図である。
【図2】clpC遺伝子内の塩基配列に基づくListeria monocytogenesの分類系統樹を示す図である。
【図3】inlA遺伝子内の塩基配列に基づくListeria monocytogenesの分類系統樹を示す図である。
【図4】plcA遺伝子内の塩基配列に基づくListeria monocytogenesの分類系統樹を示す図である。
【図5】hlyA遺伝子の1126−1527(402bp)塩基部分のCLUSTAL W multiple sequence alignmentを示す図である。
【図6】clpC遺伝子の489−1124(636bp)塩基部分のCLUSTAL W multiple sequence alignmentの一部を示す図である。
【図7】図6の続図である。
【図8】図7の続図である。
【図9】inlA遺伝子の1192−1799(608bp)塩基部分のCLUSTAL W multiple sequence alignmentの一部を示す図である。
【図10】図9の続図である。
【図11】図10の続図である。
【図12】plcA遺伝子の153−865(713bp)塩基部分のCLUSTAL W multiple sequence alignmentの一部を示す図である。
【図13】図12の続図である。
【図14】図13の続図である。
【図15】hlyA遺伝子内の一塩基置換部位を取り出した図である。
【図16】clpC遺伝子内の一塩基置換部位を取り出した図である。
【図17】inlA遺伝子内の一塩基置換部位を取り出した図である。
【図18】plcA遺伝子内の一塩基置換部位を取り出した図である。
【図19】図18の続図である。
【図20】hlyA遺伝子内の一塩基置換を、配列番号3に示すプローブで検出した検出結果を示す図である。
【図21】clpC遺伝子内の一塩基置換を、配列番号6に示すプローブで検出した検出結果を示す図である。
【図22】clpC遺伝子内の一塩基置換を、配列番号7に示すプローブで検出した検出結果を示す図である。
【図23】inlA遺伝子内の一塩基置換を、配列番号10に示すプローブで検出した検出結果を示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リステリア菌の分類、同定を行うための方法であって、
hlyA遺伝子、clpC遺伝子、inlA遺伝子、plcA遺伝子のいずれか1の遺伝子内の一塩基多型と血清型に基づいて、菌の分類、同定を行うことを特徴とするリステリア菌の分類・同定方法。
【請求項2】
リステリア菌の分類、同定をするための方法であって、
hlyA遺伝子、clpC遺伝子、inlA遺伝子、plcA遺伝子の各遺伝子内にある一塩基多型の組み合わせにより、菌の分類、同定を行うことを特徴とするリステリア菌の分類・同定方法。
【請求項3】
さらに血清型を組み合わせたことを特徴とする請求項2に記載のリステリア菌の分類・同定方法。
【請求項4】
hlyA遺伝子、clpC遺伝子、inlA遺伝子、plcA遺伝子内の特定の一塩基置換を挟む配列領域を増幅する核酸増幅用プライマーと、当該一塩基置換を検出するためのサイクリングプローブを有することを特徴とするリステリア菌の検出用キット。
【請求項5】
hlyA遺伝子、clpC遺伝子、inlA遺伝子、plcA遺伝子内の特定の一塩基多型を検出するために組み合わせられた複数組の核酸増幅用プライマーとサイクリングプローブを有することを特徴とするリステリア菌の検出用キット。
【請求項6】
前記組み合わせは、hlyA遺伝子、clpC遺伝子、inlA遺伝子、plcA遺伝子のうち、同一遺伝子上にある少なくとも2以上の箇所の一塩基多型を検出するための核酸増幅用プライマーとサイクリングプローブの組み合わせであることを特徴とする請求項5に記載のリステリア菌の検出用キット。
【請求項7】
hlyA遺伝子、clpC遺伝子、inlA遺伝子、plcA遺伝子内の一塩基多型により分類されるグループのうち、いずれかのグループのみを検出可能にする一塩基置換部分を挟む核酸領域を増幅可能なプライマー及び当該特異的な一塩基置換を検出可能なサイクリングプローブを有することを特徴とするリステリア菌の検出用キット。
【請求項8】
hlyA遺伝子、clpC遺伝子、inlA遺伝子、plcA遺伝子内の一塩基多型により分類されるグループのうち、いずれかのグループのみを検出可能に組み合わせられた一塩基置換部分を挟む核酸領域を増幅可能なプライマー及び当該特異的な一塩基置換を検出可能なサイクリングプローブを有することを特徴とするリステリア菌の検出用キット。
【請求項9】
配列番号1で示された塩基配列を有する核酸増幅用プライマー及び配列番号2で示された塩基配列を有する核酸増幅用プライマー並びに配列番号3で示された塩基配列を有するサイクリングプローブを有することを特徴とするリステリア菌の検出用キット。
【請求項10】
配列番号4で示された塩基配列を有する核酸増幅用プライマー及び配列番号5で示された塩基配列を有する核酸増幅用プライマー並びに配列番号8で示された塩基配列を有する核酸増幅用プライマー及び配列番号9で示された塩基配列を有する核酸増幅用プライマー並びに配列番号6で示された塩基配列を有するサイクリングプローブと配列番号7で示された塩基配列を有するサイクリングプローブと配列番号10で示された塩基配列若しくは若しくは配列番号11で示された塩基配列を有するサイクリングプローブのいずれかのサイクリングプローブを有することを特徴とするリステリア菌の検出用キット。
【請求項11】
配列番号20〜80で示された塩基配列のいずれかを有するDNA内の特定の一塩基置換部分を挟むDNA領域を増幅する工程と、当該増幅されたDNA領域の一塩基置換部分を検出する工程を有することを特徴とするリステリア菌の検出方法。
【請求項12】
配列番号1で示された塩基配列を有する核酸増幅用プライマー及び配列番号2で示された塩基配列を有する核酸増幅用プライマー並びに配列番号3で示された塩基配列を有するサイクリングプローブを用いることを特徴とする請求項11に記載のリステリア菌の検出方法。
【請求項13】
配列番号20〜28で示された塩基配列のいずれかを有するDNA内の特定された一塩基置換部分を挟むDNA領域、配列番号29〜42で示された塩基配列のいずれかを有するDNA内の特定された一塩基置換部分を挟むDNA領域、配列番号43〜59で示された塩基配列のいずれかを有するDNA内の特定された一塩基置換部分を挟むDNA領域、配列番号60〜80で示された塩基配列のいずれかを有するDNA内の特定された一塩基多型部分を挟むDNA領域のうち、いずれか2以上のDNA領域を増幅する工程と、当該増幅されたDNA領域の一塩基多型部分を検出する工程を有することを特徴とするリステリア菌の検出方法。
【請求項14】
配列番号4で示された塩基配列を有する核酸増幅用プライマー及び配列番号5で示された塩基配列を有する核酸増幅用プライマー並びに配列番号8で示された塩基配列を有する核酸増幅用プライマー及び配列番号9で示された塩基配列を有する核酸増幅用プライマー並びに配列番号6で示された塩基配列を有するサイクリングプローブと配列番号7で示された塩基配列を有するサイクリングプローブと配列番号10で示された塩基配列若しくは若しくは配列番号11で示された塩基配列を有するサイクリングプローブのいずれかのサイクリングプローブを用いることを特徴とするリステリア菌の検出方法。
【請求項15】
配列番号20〜28で示された塩基配列のいずれかを有するオリゴヌクレオチド又は配列番号29〜42で示された塩基配列のいずれかを有するオリゴヌクレオチド又は配列番号43〜59で示された塩基配列のいずれかを有するオリゴヌクレオチド又は配列番号60〜80で示された塩基配列のいずれかを有するオリゴヌクレオチド又はこれらのオリゴヌクレオチドと相補的なオリゴヌクレオチド。
【請求項16】
配列番号20〜28で示された塩基配列のいずれかを有するリステリア菌のhlyA遺伝子又は配列番号29〜42で示された塩基配列のいずれかを有するリステリア菌のclpC遺伝子又は配列番号43〜59で示された塩基配列のいずれかを有するリステリア菌のinlA遺伝子又は配列番号60〜80で示された塩基配列のいずれかを有するリステリア菌のplcA遺伝子から翻訳されたタンパク質。
【請求項1】
リステリア菌の分類、同定を行うための方法であって、
hlyA遺伝子、clpC遺伝子、inlA遺伝子、plcA遺伝子のいずれか1の遺伝子内の一塩基多型と血清型に基づいて、菌の分類、同定を行うことを特徴とするリステリア菌の分類・同定方法。
【請求項2】
リステリア菌の分類、同定をするための方法であって、
hlyA遺伝子、clpC遺伝子、inlA遺伝子、plcA遺伝子の各遺伝子内にある一塩基多型の組み合わせにより、菌の分類、同定を行うことを特徴とするリステリア菌の分類・同定方法。
【請求項3】
さらに血清型を組み合わせたことを特徴とする請求項2に記載のリステリア菌の分類・同定方法。
【請求項4】
hlyA遺伝子、clpC遺伝子、inlA遺伝子、plcA遺伝子内の特定の一塩基置換を挟む配列領域を増幅する核酸増幅用プライマーと、当該一塩基置換を検出するためのサイクリングプローブを有することを特徴とするリステリア菌の検出用キット。
【請求項5】
hlyA遺伝子、clpC遺伝子、inlA遺伝子、plcA遺伝子内の特定の一塩基多型を検出するために組み合わせられた複数組の核酸増幅用プライマーとサイクリングプローブを有することを特徴とするリステリア菌の検出用キット。
【請求項6】
前記組み合わせは、hlyA遺伝子、clpC遺伝子、inlA遺伝子、plcA遺伝子のうち、同一遺伝子上にある少なくとも2以上の箇所の一塩基多型を検出するための核酸増幅用プライマーとサイクリングプローブの組み合わせであることを特徴とする請求項5に記載のリステリア菌の検出用キット。
【請求項7】
hlyA遺伝子、clpC遺伝子、inlA遺伝子、plcA遺伝子内の一塩基多型により分類されるグループのうち、いずれかのグループのみを検出可能にする一塩基置換部分を挟む核酸領域を増幅可能なプライマー及び当該特異的な一塩基置換を検出可能なサイクリングプローブを有することを特徴とするリステリア菌の検出用キット。
【請求項8】
hlyA遺伝子、clpC遺伝子、inlA遺伝子、plcA遺伝子内の一塩基多型により分類されるグループのうち、いずれかのグループのみを検出可能に組み合わせられた一塩基置換部分を挟む核酸領域を増幅可能なプライマー及び当該特異的な一塩基置換を検出可能なサイクリングプローブを有することを特徴とするリステリア菌の検出用キット。
【請求項9】
配列番号1で示された塩基配列を有する核酸増幅用プライマー及び配列番号2で示された塩基配列を有する核酸増幅用プライマー並びに配列番号3で示された塩基配列を有するサイクリングプローブを有することを特徴とするリステリア菌の検出用キット。
【請求項10】
配列番号4で示された塩基配列を有する核酸増幅用プライマー及び配列番号5で示された塩基配列を有する核酸増幅用プライマー並びに配列番号8で示された塩基配列を有する核酸増幅用プライマー及び配列番号9で示された塩基配列を有する核酸増幅用プライマー並びに配列番号6で示された塩基配列を有するサイクリングプローブと配列番号7で示された塩基配列を有するサイクリングプローブと配列番号10で示された塩基配列若しくは若しくは配列番号11で示された塩基配列を有するサイクリングプローブのいずれかのサイクリングプローブを有することを特徴とするリステリア菌の検出用キット。
【請求項11】
配列番号20〜80で示された塩基配列のいずれかを有するDNA内の特定の一塩基置換部分を挟むDNA領域を増幅する工程と、当該増幅されたDNA領域の一塩基置換部分を検出する工程を有することを特徴とするリステリア菌の検出方法。
【請求項12】
配列番号1で示された塩基配列を有する核酸増幅用プライマー及び配列番号2で示された塩基配列を有する核酸増幅用プライマー並びに配列番号3で示された塩基配列を有するサイクリングプローブを用いることを特徴とする請求項11に記載のリステリア菌の検出方法。
【請求項13】
配列番号20〜28で示された塩基配列のいずれかを有するDNA内の特定された一塩基置換部分を挟むDNA領域、配列番号29〜42で示された塩基配列のいずれかを有するDNA内の特定された一塩基置換部分を挟むDNA領域、配列番号43〜59で示された塩基配列のいずれかを有するDNA内の特定された一塩基置換部分を挟むDNA領域、配列番号60〜80で示された塩基配列のいずれかを有するDNA内の特定された一塩基多型部分を挟むDNA領域のうち、いずれか2以上のDNA領域を増幅する工程と、当該増幅されたDNA領域の一塩基多型部分を検出する工程を有することを特徴とするリステリア菌の検出方法。
【請求項14】
配列番号4で示された塩基配列を有する核酸増幅用プライマー及び配列番号5で示された塩基配列を有する核酸増幅用プライマー並びに配列番号8で示された塩基配列を有する核酸増幅用プライマー及び配列番号9で示された塩基配列を有する核酸増幅用プライマー並びに配列番号6で示された塩基配列を有するサイクリングプローブと配列番号7で示された塩基配列を有するサイクリングプローブと配列番号10で示された塩基配列若しくは若しくは配列番号11で示された塩基配列を有するサイクリングプローブのいずれかのサイクリングプローブを用いることを特徴とするリステリア菌の検出方法。
【請求項15】
配列番号20〜28で示された塩基配列のいずれかを有するオリゴヌクレオチド又は配列番号29〜42で示された塩基配列のいずれかを有するオリゴヌクレオチド又は配列番号43〜59で示された塩基配列のいずれかを有するオリゴヌクレオチド又は配列番号60〜80で示された塩基配列のいずれかを有するオリゴヌクレオチド又はこれらのオリゴヌクレオチドと相補的なオリゴヌクレオチド。
【請求項16】
配列番号20〜28で示された塩基配列のいずれかを有するリステリア菌のhlyA遺伝子又は配列番号29〜42で示された塩基配列のいずれかを有するリステリア菌のclpC遺伝子又は配列番号43〜59で示された塩基配列のいずれかを有するリステリア菌のinlA遺伝子又は配列番号60〜80で示された塩基配列のいずれかを有するリステリア菌のplcA遺伝子から翻訳されたタンパク質。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
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【図4】
【図5】
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【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
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【図21】
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【図23】
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【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2007−312660(P2007−312660A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−144723(P2006−144723)
【出願日】平成18年5月24日(2006.5.24)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【出願人】(000006138)明治乳業株式会社 (265)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年5月24日(2006.5.24)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【出願人】(000006138)明治乳業株式会社 (265)
【Fターム(参考)】
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